説明

アクリロニトリルの精製方法

【課題】アクリロニトリルの精製方法の提供。
【解決手段】プロパン、アンモニア及び酸素を触媒の存在下にアンモ酸化反応させ、生成したアクリロニトリルの精製方法であり、(a)アクリロニトリルを含むガスを急冷塔1に導入し冷却する工程、(b)冷却したガスを吸収塔3に導入し、吸収水と向流接触させる工程、(c)吸収水と向流接触させて得られた塔底液を回収塔4に導入し、抽出水を加えて蒸留する工程、(d)留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンター6に収容して有機層と水層を形成させ、有機層を脱青酸脱水塔5に導入し、蒸留する工程、(e)脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンター7に収容して有機層と水層を形成させ、有機層を側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程、を含み、脱青酸脱水塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、アクリロニトリルの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロパンのアンモ酸化反応により得られる生成ガスからアクリロニトリルを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルは、ABS樹脂等の合成樹脂、アクリル繊維、合成ゴム、アクリルアミド等の中間原料等に用いられるモノマーである。アクリロニトリルは、1960年にプロピレンとアンモニアから流動層反応器を用いたアンモ酸化反応によって一挙に製造する方法が開発された。その後、流動層触媒やプロセスの改良が積み重ねられ、原料単位重量当たりのアクリロニトリル収量の増加や装置の小型化がなされてきた。現在、アクリロニトリルの商業的製造は、プロピレンのアンモ酸化反応工程と、当該反応で生成したガスからアクリロニトリルを回収及び精製する工程からなる方法が主流である。
プロピレンのアンモ酸化による反応生成物には、目的生成物であるアクリロニトリルだけでなく、副生物としてアセトニトリル、シアン化水素、アクリル酸、アクロレイン、酢酸、オキサゾール、メタクリロニトリル、プロピオニトリル等が生じ、これらを分離することにより、アクリロニトリルが精製される。
特許文献1には、プロピレン又はイソブチレンのアンモ酸化によりそれぞれ得られるアクリロニトリル又はメタクリロ二トリルの製造プロセスにおいて、反応器流出物を急冷後、吸収カラムで粗製のアクリロニトリル又はメタクリロ二トリルを水に吸収させ、該水溶液を蒸留した後、蒸留塔の留出物を第1デカンターに移して水層及び有機層を形成させる工程、及び前記有機層をさらに蒸留する際、蒸留塔の側流を第2デカンターに移して水層及び有機層を形成させ、有機層を蒸留することによりアクリロニトリルを精製する工程、を含む方法が記載されている。この方法においては、第1デカンター及び第2デカンターの内部温度は約32°F〜約75°F(約0℃〜約24℃)に維持されている。
一方、近年は、プロピレンより入手しやすく安価なプロパンを原料としてアクリロニトリルを製造する方法の研究が盛んになされ、プロパンアンモ酸化に用いるアンモ酸化触媒の開発が進んでいる。特許文献2には、プロパンアンモ酸化のプロセスの観点から、取得するアクリロニトリル中の不純物であるメタクリロニトリルの生成抑制方法に着目し、プロパン中のi−ブタン濃度が3mol%以下のプロパンをアンモ酸化反応に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−7639号公報
【特許文献2】特開2003−327571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、公知のプロパンアンモ酸化用触媒及びプロセスによりプロパンをアンモ酸化させ、生成ガスからアクリロニトリルを回収し精製したが、この時、プロピレンアンモ酸化生成物の回収及び精製のために開示されてきた従来の方法を適用すると問題が生じた。すなわち、プロパンアンモ酸化用触媒を用いて、流動層反応器でプロパンのアンモ酸化反応を行って生成した反応ガスからアクリロニトリルを取得する際に、従来のプロピレンアンモ酸化用のアクリロニトリルの回収及び精製方法を単に適用しても、目的物の精度を十分に高められないことが分かった。プロパンを原料にする場合でも、製品のアクリロニトリルの品質としては、プロピレン由来の場合と同程度の高い品質が要求されるので、プロパンアンモ酸化を実用化するには、プロパンのアンモ酸化に適した精製方法により、製品の精度を格段に向上させることが急務である。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、プロパンのアンモ酸化反応により得られる生成ガスからアクリロニトリルを回収するに際し、不純物濃度の低いアクリロニトリルを、高い収量で得ることのできるアクリロニトリルの精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プロパンのアンモ酸化により得られる生成ガスからアクリロニトリルを回収及び精製する方法を鋭意検討した結果、プロピレンのアンモ酸化の場合と、プロパンのアンモ酸化の場合とで微量な副生物に相違があり、これがアクリロニトリルの純度に影響を与えることを発見した。そして、アクリロニトリルを含むガスを急冷塔、吸収塔、回収塔及び脱青酸脱水塔を用いて精製を行う際に、脱青酸脱水塔の側流が導入される脱青酸脱水塔デカンター内の液温度を特定範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
プロパン、アンモニア及び酸素を触媒の存在下にアンモ酸化反応させ、生成したアクリロニトリルを含むガスからアクリロニトリルを精製する方法であって、
(a)前記アクリロニトリルを含むガスを急冷塔に導入し冷却する工程、
(b)前記(a)工程において冷却したガスを吸収塔に導入し、吸収水と向流接触させる工程、
(c)前記(b)工程において前記吸収水と向流接触させて得られた塔底液を回収塔に導入し、抽出水を加えて蒸留する工程、
(d)前記(c)工程において得られた留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を脱青酸脱水塔に導入し、蒸留する工程、
(e)前記脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を前記側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、前記脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程、
を含み、
前記脱青酸脱水塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、アクリロニトリルの精製方法。
[2]
前記回収塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、上記[1]記載のアクリロニトリルの精製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の精製方法により、プロパンのアンモ酸化反応により得られる生成ガスからアクリロニトリルを精製するに際し、不純物濃度の低いアクリロニトリルを、高い収量で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法に用いる精製装置の一例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法は、
プロパン、アンモニア及び酸素を触媒の存在下にアンモ酸化反応させ、生成したアクリロニトリルを含むガスからアクリロニトリルを精製する方法であって、
(a)前記アクリロニトリルを含むガスを急冷塔に導入し冷却する工程、
(b)前記(a)工程において冷却したガスを吸収塔に導入し、吸収水と向流接触させる工程、
(c)前記(b)工程において前記吸収水と向流接触させて得られた塔底液を回収塔に導入し、抽出水を加えて蒸留する工程、
(d)前記(c)工程において得られた留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を脱青酸脱水塔に導入し、蒸留する工程、
(e)前記脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を前記側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、前記脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程、
を含み、
前記脱青酸脱水塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、アクリロニトリルの精製方法である。
【0012】
図1は、本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法に用いる精製装置の一例を概略的に示す。プロパン、アンモニア及び酸素(空気)は、図示していない流動層反応器に供給される。流動層反応器は、下部に原料ガス分散管及び/又は分散板を有し、反応熱の除去のための除熱管が内装され、上部に反応器から流出する反応ガス中の触媒を捕集するサイクロンを有する。
【0013】
流動層反応器に充填される触媒は、プロパンをアンモ酸化させるにあたり、有効な触媒であれば特に限定されない。プロパンからアクリロニトリルを製造する際に用いられる触媒としては、例えば、Sb−V系触媒(GB1,366,135)、Sb−U−W系触媒(USP3,670,006)、Fe−U−Sb系触媒(USP3,686,295)、V−P系触媒(特公昭58−5188号)、Bi−V系触媒(特開昭63−295545号)、V−Sb系触媒とFe−Sb系触媒の混合物(特開昭63−295546号)、V−Sb系触媒とBi−Mo系触媒の混合物(特開昭64−38051号)、Mo−V−Te−Nb系触媒(特開平2−257号)、Ag−Bi−V−Mo系触媒(特開平3−58961号)、Mo−V−Sb系触媒(特開平9−157241号)、V−Sb−Sn系触媒(特開平8−996号)、V−Sb−Ti系触媒(特開平8−238428号)、V−Sb−Li系触媒(特開平8−290058号)、Nb−Sb−Cr(特開平10−1465号)が挙げられる。
【0014】
アクリロニトリル収率の観点からは、少なくともモリブデン、バナジウム、ニオブ、テルル又はアンチモンを必須金属として含む金属酸化物触媒が好ましい。触媒の耐久性等の観点からは、金属酸化物触媒は、上記必須金属に加えてタングステン、チタン、クロム、マンガン、鉄、スズ、希土類からなる群から選ばれる1種類以上の元素を含むのが好ましい。流動層反応で使用するために必要とされる流動性及び強度の観点からは、シリカ担持触媒であるのが好ましく、90質量%以上の触媒粒子の粒子径が10〜197μm、圧壊強度が10MPa以上であるものが好ましい。
【0015】
流動層反応器に供給されるプロパン:アンモニア:空気のモル比は、1:0.6〜1.4:12〜18が好ましい。反応温度は、300〜500℃が好ましく、380〜480℃がより好ましい。反応圧力は、0.1〜2.0kg/cm2Gが好ましく、0.3〜1.5kg/cm2Gがより好ましい。下記式(1)で計算される接触時間は0.5〜10(sec・kg/L)が好ましく、1〜6(sec・kg/L)がより好ましい。
接触時間(sec・kg/L)=(W/F)×273/(273+T)・・・(1)
(式(1)中、W=充填触媒量(kg)、F=標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(NL/sec)、T=反応温度(℃)である。)
【0016】
[工程(a)]
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法における工程(a)は、アクリロニトリルを含むガスを急冷塔に導入し冷却する工程である。
流動層反応器から流出する反応生成ガスはアクリロニトリルを含むガスであり、ライン8から急冷塔1に導入される。急冷塔1はスプレー塔であり、塔内に設けられたスプレーにライン9より硫酸水溶液が供給される。ライン9の途中に、硫酸を添加するライン(図示していない)が設けられているのが好ましい。急冷塔1内部にトレイ及び/又は充填物が内装されていると気液の接触効率が向上するため好ましい。ここで、充填物としては、後述する充填塔に用いられる充填物と同様のものを用いることができる。急冷塔1に導入された反応生成ガスは水冷却され、反応生成ガスに含まれる未反応のアンモニアが硫酸によって中和され、硫安として分離される。未反応アンモニア等が分離されたガスが塔頂のライン11から流出する一方、分離された硫安、高沸点有機物及び水はライン10より工程外に抜き出され、図示していない硫安回収工程に送られるか焼却処理される。
【0017】
急冷塔1塔頂のライン11から流出するガスの温度は、通常、70〜95℃であり、急冷塔1出口の熱交換器2で冷媒である水又は冷凍水により20〜45℃に冷却され、ライン15から吸収塔3に供給される。熱交換器2に通じる冷媒は、ライン12から供給され、ライン13から抜き出される。熱交換器2において、ガス中の一部の有機物や水が凝縮し、その凝縮液はライン14により抜き出され、回収塔4に送られる。急冷塔は一段のスプレー塔のほか、多段のスプレー塔であってもよい。
【0018】
[(b)工程]
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法における(b)工程は、前記(a)工程において冷却したガスを吸収塔に導入し、吸収水と向流接触させる工程である。
ここで、吸収塔3は、棚段塔及び/又は充填塔である。棚段塔の場合、棚の種類としては特に限定されず、シーブトレイ、デュアルフロートレイ等を採用できる。充填塔の場合、充填物としては、不規則充填物及び/又は規則充填物を用いることできる。不規則充填物の種類としては特に限定されず、CMR、ポールリング、ラシヒリング等を用いることができる。規則充填物の種類としては特に限定されず、網目構造の充填物等を用いることができる。これらの不規則又は規則充填物の材質としては、磁製、金属製、プラスチック製又はカーボン製のもの等を使用することができる。また、充填塔の適当な高さの所に液再分布板を設けると、気液の接触効率を高めることができるため好ましい。
【0019】
本工程においては、反応生成ガスに含まれるアクリロニトリルを水中に回収するため、ライン15から吸収塔3に導入するガスを、ライン18から供給する質量比で1.80〜2.25倍の吸収水と向流接触させる。吸収水の水量(以下、「吸収水量」とも言う。)は、アクリロニトリルに対する質量比で23〜45倍、好ましくは25〜40倍、さらに好ましくは28〜35倍の範囲にある。ここでアクリロニトリルの質量は、反応器から流出する反応生成ガス中のアクリロニトリル質量をさす。吸収水量が上記範囲であると、アクリロニトリルの収量が増加すると共に、フラッディング現象が抑制される傾向にある。
【0020】
反応生成ガス中のアクリロニトリル質量は、反応器への原料ガスの供給流量及び反応ガスの成分分析から以下のように算出できる。
反応ガスを急冷塔1の入口ライン8でサンプリングし、反応ガスに含まれる成分をガスクロマトグラフィー等で分析する。分析成分項目としては、アクリロニトリル、アセトニトリル、シアン化水素、酢酸、アクリル酸、アクロレイン、CO、CO2、O2、プロピレン、プロパン等が挙げられる。こうして求めたガス組成及び原料ガス流量から、反応ガス流量を計算できる。
通常、反応ガス流量は流量計で測定しないので、原料ガス供給流量から反応ガス流量を推算できると便利である。本発明者らの経験によれば、アンモ酸化反応が通常通り行われていれば、下記式(2)の関係がほぼ成り立つことを見出した。
(反応ガス流量、Nm3/h)=(プロパン流量Nm3/h+アンモニア流量Nm3/h
+空気流量Nm3/h)×1.06 ・・・(2)
式(2)において「1.06」は、右辺の供給ガス流量の合計量から反応ガス流量を推算するための経験的に求めた定数である。こうして求めた反応ガス流量及び反応ガス中のアクリロニトリル濃度から、反応生成ガス中のアクリロニトリル質量を算出できる。
【0021】
吸収水は、ライン18から供給され、反応生成ガスと向流接触しながら吸収塔3内を降下して、塔下部から取り出される。吸収水が降下している間に吸収水の温度は上昇し、ガスの吸収効率が低下するので、降下の途中で抜き出して、冷却後、吸収塔3に戻すのが好ましい。吸収水の温度は、1〜50℃が好ましく、4〜40℃がより好ましい。温度の下限は、凍結が生じない観点から設定しており、上限は吸収効率を良好に保つ観点から設定している。
【0022】
吸収塔3塔頂のライン17からは、窒素、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、未反応のプロパン、炭化水素類等の非凝縮性ガス、未回収の微量のアクリロニトリル、アセトニトリル、青酸等の有機物及び水が抜き出され、図示していない廃ガス焼却炉に送られ、焼却処理される。吸収塔3の塔底からは、塔底液としてアクリロニトリル水溶液が抜き出される。当該水溶液には、青酸、アセトニトリル等も溶解している。
【0023】
[(c)工程]
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法における(c)工程は、前記(b)工程において吸収水と向流接触させて得られた塔底液を回収塔に導入し、抽出水を加えて蒸留する工程である。
【0024】
吸収塔3の塔底液は、ライン14の凝縮液と合流し、途中、自身より高温の流体と熱交換をして予熱した後、ライン16より回収塔4に供給するのが好ましい。自身より高温の流体としては、ライン18及び/又はライン19を流れる流体や別途調達の蒸気等を用い、熱交換器で間接的に加熱することができる。予熱後のライン16の温度、即ち回収塔4へのフィード温度は、60〜90℃が好ましく、70〜88℃がより好ましい。
【0025】
回収塔4は、棚段式蒸留塔であり、段数は80〜140段であるのが好ましい。棚の種類としては、特に限定されず、シーブトレイ、デュアルフロートレイ等が採用できる。また、回収塔4は2塔に分割されていてもよい。
【0026】
回収塔4の上部、好ましくは最上段に、ライン19から質量比でアクリロニトリルの8〜16倍、好ましくは9〜15倍、さらに好ましくは10〜13倍の抽出水を供給する。ここでアクリロニトリルの質量は、反応器から流出する反応生成ガス中のアクリロニトリル質量をさす。抽出水の回収塔フィード温度は、40〜50℃が好ましく、43〜48℃がより好ましい。
【0027】
実質的に大部分のアセトニトリル及びプロピオニトリルは、回収塔4のライン20から気体状態で抜き出される。ライン20の位置は、回収塔内蒸気のアセトニトリル濃度が最大となる位置に設定するのが効率的であり、回収塔の塔底から1/4〜2/5の位置に設定するのが好ましい。ライン20の抜き出し量は、抜き出し蒸気中のアクリロニトリルが、好ましくは300〜3000質量ppm、より好ましくは500〜2500質量ppmになるように調整する。また、質量比でライン16流量の、好ましくは0.50〜8.0%、より好ましくは1.0〜5.0%となるように調整する。ライン20の抜き出し量は、ライン20に取り付けられた流量計で測定される。
【0028】
吸収水(ライン18)及び抽出水(ライン19)は、回収塔内液のアクリロニトリル濃度及びアセトニトリル濃度が実質的に0又は低い位置から抜き出すのが好ましく、回収塔の塔底〜回収塔の下部より1/10の範囲から抜き出すのがよい。
【0029】
吸収水や抽出水は、回収塔4の別の位置からそれぞれ抜き出してもよい。この場合は、吸収水(ライン18)は、回収塔内液のアクリロニトリル濃度が実質的に0又は低い位置から抜き出すのが好ましく、回収塔の塔底〜回収塔の下部より1/5の範囲から抜き出すのがよい。抽出水(ライン19)は、回収塔内液のアセトニトリル濃度が低い位置から抜き出すのが好ましく、回収塔の塔底〜回収塔の下部より1/10の範囲から抜き出すのがよい。また、ライン19の取り出し位置は、ライン18より下部であるのが好ましい。
【0030】
ライン21からは、高沸点物質や水等が系外に抜き出され、図示していない廃水処理設備に供給される。
【0031】
回収塔4に与える熱量は、塔底液を、図示していないリボイラーで間接的に加熱することでまかなわれる。
【0032】
[(d)工程及び(e)工程]
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法における(d)工程は、前記(c)工程において得られた留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を脱青酸脱水塔に導入し、蒸留する工程である。
本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法における(e)工程は、前記脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を前記側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、前記脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程である。
【0033】
本発明者らは、(d)及び(e)工程における回収塔デカンター及び脱青酸脱水塔デカンター内の液温度について鋭意検討した結果、以下のことを見出した。
従来の、プロピレンのアンモ酸化によるアクリロニトリル製造プロセスにおいては、最終生成物であるアクリロニトリルの重合を抑制する原因物質となるパーオキサイド(過酸化物)が生成物中に含まれる量を最少にする目的で、デカンター内の液温度は0℃〜24℃に維持されている。これに対し、プロパンのアンモ酸化によるアクリロニトリル生成反応においては、パーオキサイドの生成がない又は問題にならないほど少ないことを新たに見出した。そのため、デカンターの温度制御によって、パーオキサイドを最少にする必要はないことに着目した。さらに、プロパンのアンモ酸化プロセスにおいては、上述のようにパーオキサイドの生成が少ない一方で、アセトニトリル及びプロピオニトリルの副生率が高く、これらの分離が高品質のアクリロニトリルを得るための障害となる可能性がある。これらの発明者の検討から、デカンター内の液温度を従来の温度よりも高い温度(25℃以上)に設定すると、有機層中のアセトニトリル及びプロピオニトリルの濃度を低減することができ、最終的に得られるアクリロニトリルの純度を向上できることを見出した。
【0034】
さらに、従来、プロピレンのアンモ酸化プロセスで採用されてきたように、デカンター内の液温度を0℃〜24℃に冷却するには、冷却装置に供する冷媒に冷凍水の使用がほぼ必須であるため、冷凍機の動力としてのエネルギー消費が大きい。また、脱青酸脱水塔に低温の液体をフィードすることになるため、脱青酸脱水塔が要する熱量が大きく、それに伴い大型のリボイラーが必要となる。一方、液温度が45℃よりも高い場合は、アクリロニトリル中に溶解する水分量が指数関数的に増加してしまうことから、脱青酸脱水塔にフィードする液量が増加してしまい、装置の大型化を余儀なくされる。デカンターの温度を25℃〜45℃に維持する場合には、冷凍機は不要であるし、各装置の大型化を要しないというメリットがある。
【0035】
回収塔デカンター及び脱青酸脱水塔デカンターは、いずれもアクリロニトリル製品中の副生物量を低減する機能を有するが、最終製品に近く、また通常、デカンターに入出する流体の量が多い点から、脱青酸脱水塔デカンターの温度制御がより重要であり、該デカンター内の液温度を25〜45℃に制御することよって目的生成物の純度向上の効果が顕著となる。もちろん、目的生成物の純度を一層高く維持するためには、両方のデカンター内の液温度を25℃〜45℃に維持するのが好ましい。
【0036】
以下(d)工程について説明する。
(d)工程は、前記(c)工程において得られた留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を脱青酸脱水塔に導入し、蒸留する工程である。
(c)工程において得られた回収塔4の留出蒸気は、ライン22より抜き出され、アクリロニトリルが青酸及び水とともに回収される。留出蒸気は冷却装置A30で凝縮後、回収塔デカンター6に送られ、有機層と水層を形成させる。有機層は水層より比重が小さく、回収塔デカンター6内部の堰をオーバーフローする。有機層はライン24により、脱青酸脱水塔5に導入される。一方、水層はライン23から抜き出され、ライン16又はライン19に合流させてリサイクルされる。
【0037】
冷却装置A30は、熱交換器システムであり、凝縮器と、必要に応じて冷却器とから構成される。熱交換器システムの冷媒としては、温度が通常20℃〜45℃の冷却水及び/又は温度が通常0℃〜15℃の冷凍水を用いる。これらを併用する場合は、まず冷却水で冷却後、冷凍水でさらに冷却して温度を下げる。回収塔デカンター6の液温度が、所定の温度になるよう熱交換器システムに通じる冷媒量を調整する。回収塔デカンター6の液温度を測定する温度計は、熱伝対や側温抵抗体等通常の化学プラントで用いられる形式のものでよく、水層及び/又は有機層の液温度を測定できる位置に設置される。本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法においては、回収塔デカンター6の液温度を、25℃〜45℃に調整するのが好ましく、より好ましくは26℃〜40℃に調整する。回収塔デカンター6内で形成される有機層と水層のそれぞれの温度は基本的に同一温度になるが、温度差がある場合、各層の温度をそれぞれ25℃〜45℃に調整するのが好ましい。
【0038】
以下(e)工程について説明する。
(e)工程は、前記脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を前記側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、前記脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程である。
前記(d)工程において脱青酸脱水塔5に導入された有機層を蒸留し、脱水塔5塔頂のライン25から青酸を分離し、脱水塔5塔中部のライン26から抜き出した側流を冷却装置B31で冷却後、脱青酸脱水塔デカンター7に送り、有機層と水層を形成させる。有機層は水層より比重が小さく、脱青酸脱水塔デカンター7内部の堰をオーバーフローする。有機層はライン28により、ライン26より下部の位置に戻される。ライン28には加熱用の熱交換器を設け、液を加熱してから脱青酸脱水塔5に戻してもよい。一方、水層はライン27から抜き出し、ライン23等に合流させる。
【0039】
冷却装置B31は、熱交換器システムであり、1つ以上の冷却器から構成される。熱交換器システムの冷媒には、温度が通常20℃〜45℃の冷却水及び/又は温度が通常0℃〜15℃の冷凍水を用いる。脱青酸脱水塔デカンター7の液温度が、所定の温度になるよう熱交換器システムに通じる冷媒量を調整する。脱青酸脱水塔デカンター7の液温度を測定する温度計は、通常の化学プラントで用いられる形式のものでよく、水層及び/又は有機層の温度を測定できる位置に設置される。本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法においては、脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度を25℃〜45℃に調整し、好ましくは26℃〜40℃に調整する。脱青酸脱水塔デカンター7内で形成される有機層と水層は基本的に同一温度であるが、温度差がある場合でも、それぞれの温度を25℃〜45℃に維持する限り、本発明の範疇である。
【0040】
回収塔デカンター6及び脱青酸脱水塔デカンター7内液のアセトニトリル及びプロピオニトリルの分析は、内液をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで行う。
ガスクロマトグラフィーの装置及び条件としては、以下の通りとすることができる。
ガスクロマトグラフィーの装置としては島津GC−17Aを用い、カラムはTC−FFAP 60m×0.32膜厚0.25μmを用い、検出器はFID、キャリヤーガスにはヘリウムを用いることができる。
【0041】
ライン29から抜き出した塔底液を図示していない蒸留塔で蒸留し、アクリロニトリル製品を得る。製品アクリロニトリル中の不純物濃度は、ガスクロマトグラフィーで測定される。ガスクロマトグラフィーの装置及び条件としては上記と同様である。シアン化水素は、ASTM E1178記載の硝酸銀による滴定法、過酸化物は、ASTM E1784記載の分光光度計によりH22として測定される。
【実施例】
【0042】
本実施の形態を実施例及び比較例によりさらに説明する。ただし、本実施の形態は下記の実施例に限定されない。計器、付属設備は通常使用されるものであり、通常の誤差範囲内のものである。また、精製装置としては、図1に示したものと同様の装置を用いた。
【0043】
反応生成物収率及びプロパン転化率は、反応ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィーで測定した分析データから下式により算出した。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数) /(供給したプロパンのモル数)×100
アセトニトリル収率(%)=(生成したアセトニトリルのモル数)×2/3/(供給したプロパンのモル数)×100
【0044】
流体中の各濃度分析は、サンプリングした流体を以下のように分析した。
アセトニトリル:ガスクロマトグラフィー:島津GC−17A、カラム:TC−FFAP 60m×0.32膜厚0.25μm、検出器:FID、キャリヤーガス:ヘリウム
プロピオニトリル:アセトニトリルと同様
オキサゾール:アセトニトリルと同様
過酸化物:ASTM E1784に準じた方法
【0045】
[実施例1]
(1) 触媒の調製
(1−i) ニオブ混合液の調製
以下の方法でニオブ混合液を調製した。
水2552gにNb25として80質量%を含有するニオブ酸352gとシュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕1344gを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.03、仕込みのニオブ濃度は0.50(mol−Nb/kg−液)であった。
この液を95℃で1時間加熱撹拌することによって、ニオブが溶解した混合液を得、混合液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ混合液を得た。この操作を数回繰り返し、液を集めて混合した。得られたニオブ混合液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.52であった。
【0046】
るつぼにこのニオブ混合液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb250.8228gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.618(mol−Nb/kg−液)であった。
300mLのガラスビーカーにこのニオブ混合液3gを精秤し、約80℃の熱水200mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。得られた混合液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnO4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.558(mol−シュウ酸/kg)であった。
2KMnO4+3H2SO4+5H224→K2SO4+2MnSO4+10CO2+8H2
得られたニオブ混合液は、下記の触媒調製のニオブ混合液(B0)として用いた。
【0047】
(1−ii) 触媒の調製
仕込み組成式がMo10.21Nb0.09Sb0.25Ce0.005n/45.0wt%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして製造した。
水3800gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4)6Mo724・4H2O〕を921.4g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を127.4g、三酸化二アンチモン〔Sb23〕を189.8g、及び硝酸セリウム6水和物[Ce(NO33・6H2O]を11.48g加え、攪拌しながら90℃で2時間30分に加熱して混合液Aを得た。
【0048】
ニオブ混合液(B0)754.7gに、H22として30wt%を含有する過酸化水素水を105.8g添加し、室温で10分間攪拌混合して、混合液Bを調製した。得られた混合液Aを70℃に冷却した後にSiO2として29.3wt%を含有するシリカゾル1843gを添加し、更に、H22として30wt%含有する過酸化水素水220.4gを添加し、50℃で1時間撹拌を続けた。次に混合液Bを添加した。更に平均一次粒子径が12nmのフュームドシリカ360gを5040gの水に分散させた液を添加して、原料調合液を得た。得られた原料調合液を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。上記操作を繰り返して、乾燥粉体を集め、約20kg得た。次いで、直径127mm、長さ1150mmの連続式キルンを用い、焼成を行った。得られた乾燥粉体を220g/Hrで供給し、向流で3.6NL/minの窒素流通下、360℃で2時間、前段焼成し、前段焼成品を得た。次いで前段焼成品を130g/Hrで供給し、向流で2.3NL/minの窒素流通下、660℃で2時間焼成して触媒を得た。
【0049】
(2) アクリロニトリルの製造
内径8m、長さ20mの流動層反応器に、上述のようにして得られた粒径10〜100μm、平均粒径55μmのMo−V−Sb−Nb−Ce系担持触媒を静止層高2.2mとなるよう充填した。
プロパン4300Nm3/h、アンモニア4300Nm3/h及び空気64500Nm3/hを流動層反応器に供給し、プロパンのアンモ酸化反応を行った。反応温度は440℃、圧力は0.75kg/cm2Gであった。
生成ガスの分析から、アクリロニトリル収率は52.1%、アセトニトリル収率は3.4%、プロパン転化率は89.4%であった。これより、反応生成ガス中のアクリロニトリル質量は、5307kg/hであった。
反応器から流出する反応生成ガスを図1に示す急冷塔1に導入した。生成ガス中のアンモニアを硫酸で中和し、硫安として塔底から分離した。急冷塔1の塔頂から流出するガスの温度は、80℃であった。引き続いて急冷塔1出口の熱交換器2で、冷却水によりガスを冷却した。このときのガスの温度は、33℃であった。熱交換器2で生成した凝縮液は、ライン14より抜き出し、吸収塔3の塔底液ライン16に合流させた。
熱交換器2から流出したガス81.44t/hをライン15より吸収塔3に導入した。吸収塔3は、ステンレス製のCMRを充填した塔で、充填層の合計高さは25mであった。吸収塔3に導入したガスを、ライン18より供給した吸収水164.5t/hと向流接触させた。吸収水温度は、5.5℃であった。このとき、ライン18から供給される吸収水中のアクリロニトリル及びアセトニトリル濃度は、それぞれ1及び3質量ppmであった。
ライン16の液のアクリロニトリル濃度分析及び液の流量から計算したアクリロニトリル質量は、5270kg/hであった。
ライン16の液をライン18の液及びライン19の液と間接熱交換により75℃まで予熱し、95段のシーブトレイからなる回収塔4の塔底から数えて64段目に供給した。回収塔4の塔底液にリボイラーで熱を与え、蒸留を行った。リボイラーに使用した熱源は4kg/cm2Gの飽和水蒸気で、流量は30.3t/hであった。ライン19から抽出水63.7t/hを回収塔4の塔頂(95段目)に供給した。回収塔4の塔底から数えて35段目に設置されているライン20から、4.6t/hの蒸気流を抜き出した。回収塔4の塔底液レベルを保つようライン21から水を抜き出した。
吸収水及び抽出水は、回収塔4の塔底から数えて1段目から抜き出し、それぞれライン18、19により、送液した。
回収塔4の留出蒸気を、ライン22より抜き出し、冷却装置A30において、冷却水により凝縮及び冷却し、回収塔デカンター6に導入して有機層と水層を形成させた。回収塔デカンター6内の液温度は、35℃であった。
回収塔デカンター6の水層は、ライン23より1350kg/hで抜き出し、ライン16に合流させた。
回収塔デカンター6の有機層は、ライン24より6050kg/hで抜き出し、脱青酸脱水塔5に導入した。
脱青酸脱水塔5は、62段からなる棚段塔で、塔下部から数えて26段目がチムニートレイ、その他がシーブトレイであった。回収塔デカンター6から導入された有機層を蒸留することにより、塔頂のライン25から青酸を分離し、26段目に取り付けられたライン26から抜き出した側流を冷却装置B31で冷却水により冷却後、脱青酸脱水塔デカンター7において有機層と水層を形成させた。脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度は、37℃であった。
脱青酸脱水塔デカンター7の水層は、ライン27より545kg/hで抜き出し、ライン23に合流させた。
脱青酸脱水塔デカンター7の有機層は、ライン28より15070kg/hで抜き出し、脱青酸脱水塔5の25段目に戻した。
脱青酸脱水塔5の塔底のライン29から抜き出した液を図示していない蒸留塔で蒸留し、該蒸留塔の塔底から高沸点物質を分離し、塔の上部からアクリロニトリル製品5200kg/h(8000時間の総生産量を総時間で除した値)を得た。
得られたアクリロニトリルは、ABS樹脂等の合成樹脂、アクリル繊維、合成ゴム、アクリルアミド等の中間原料等に用いることができた。アクリロニトリル製品に含まれている不純物例として、アセトニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール及び過酸化物の濃度を表1に示す。
【0050】
[実施例2〜6]
回収塔デカンター6及び脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度を変えたこと以外は、実施例1と同一の反応条件でプロパンのアンモ酸化反応を行い、同一の設備でアクリロニトリルの回収及び精製を行った。
実施例2〜6のいずれの条件においても設備上の不具合は発生せず、生産計画値5200kg/hを達成した。また、得られたアクリロニトリルは、ABS樹脂等の合成樹脂、アクリル繊維、合成ゴム、アクリルアミド等の中間原料等に用いることができた。アクリロニトリル製品に含まれている不純物例として、アセトニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール及び過酸化物の濃度を表1に示す。
【0051】
[実施例7]
(1) 触媒の調製
組成式がMo10.33Te0.22Nb0.12n/30.0wt%−SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
水720gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕164.31g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕36.05g及びテルル酸〔H6TeO6〕47.01gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させて水性混合物を得た。
一方、水170gに、Nb25含量が76.6質量%のニオブ酸19.53g、シュウ酸二水和物〔H224・2H2O〕38.0gを加え、攪拌下、60℃に加熱して溶解させた後、30℃まで冷却してニオブ−シュウ酸水溶液を得た。ニオブ−シュウ酸水溶液に5質量%過酸化水素水167.2gを添加して、ニオブ−過酸化水素水溶液を得た。
水性混合物を攪拌しながら、シリカ含有量30質量%のシリカゾルを286g添加し、30℃まで冷却した後、ニオブ−過酸化水素水溶液を添加して水性原料混合物を得た。水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器を用い、入口温度240℃と出口温度145℃の条件で乾燥して微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥粉体を大気雰囲気下240℃で2時間前焼成して触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を石英容器に充填し、炉に入れ、容器を回転させながら600mL/minの窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して酸化物触媒を得た。用いた窒素ガスの酸素濃度は微量酸素分析計(306WA型、米国Teledyne Analytical Instruments社製)を用いて測定した結果、1ppmであった。
【0052】
(2) アクリロニトリルの製造
内径8m、長さ20mの流動層反応器に、上述のようにして得られた粒径10〜100μm、平均粒径55μmのMo−V−Te−Nb系担持触媒を静止層高2.3mとなるよう充填した。
プロパン4300Nm3/h、アンモニア4300Nm3/h及び空気64500Nm3/hを流動層反応器に供給し、プロパンのアンモ酸化反応を行った。反応温度は440℃、圧力は0.75kg/cm2Gであった。
生成ガスの分析から、アクリロニトリル収率は51.3%、アセトニトリル収率は3.8%、プロパン転化率は89.0%であった。これより、反応生成ガス中のアクリロニトリル質量は、5225kg/hであった。
反応器から流出する反応生成ガスを図1に示す急冷塔1に導入した。生成ガス中のアンモニアを硫酸で中和し、硫安として塔底から分離した。急冷塔1の塔頂から流出するガスの温度は、80℃であった。引き続いて急冷塔1出口の熱交換器2で、冷却水によりガスを冷却した。このときのガスの温度は、33℃であった。熱交換器2で生成した凝縮液は、ライン14より抜き出し、吸収塔3の塔底液のライン16に合流させた。
熱交換器2から流出したガス81.25t/hをライン15より吸収塔3に導入した。吸収塔3は、ステンレス製のCMRを充填した充填塔であり、充填層の合計高さは25mであった。吸収塔3に導入したガスを、ライン18より供給した吸収水164.1t/hと向流接触させた。吸収水の温度は、5.5℃であった。このとき、ライン18から供給される吸収水中のアクリロニトリル及びアセトニトリル濃度は、それぞれ1及び3質量ppmであった。
ライン16の液のアクリロニトリル濃度分析及び液の流量から計算したアクリロニトリル質量は、5185kg/hであった。
ライン16の液をライン18の液及びライン19の液と間接熱交換することにより75℃まで予熱し、95段のシーブトレイからなる回収塔4の塔底から数えて64段目に供給した。回収塔4の塔底液にリボイラーで熱を与え、蒸留を行った。リボイラーに使用した熱源は4kg/cm2Gの飽和水蒸気で、流量は30.2t/hであった。ライン19から抽出水62.1t/hを回収塔4の塔頂(95段目)に供給した。回収塔4の塔底から数えて35段目に設置されたライン20から、4.7t/hの蒸気流を抜き出した。回収塔4の塔底液レベルを保つようライン21から水を抜き出した。
吸収水及び抽出水は、回収塔4の塔底から数えて1段目から抜き出し、それぞれライン18及び19により、送液した。
回収塔4の留出蒸気を、ライン22より抜き出し、冷却装置A30において、冷却水により凝縮及び冷却し、回収塔デカンター6に導入して有機層と水層を形成させた。回収塔デカンター6内の液温度は、35℃であった。
回収塔デカンター6の水層は、ライン23より1380kg/hで抜き出し、ライン16に合流させた。
回収塔デカンター6の有機層は、ライン24より6025kg/hで抜き出し、脱青酸脱水塔5に導入した。
脱青酸脱水塔5は、62段からなる棚段塔で、塔下部から数えて26段目がチムニートレイ、その他がシーブトレイであった。回収塔デカンター6から導入された有機層を蒸留することにより、塔頂のライン25から青酸を分離し、26段目に取り付けられたライン26から抜き出した側流を冷却装置B31で冷却水により冷却後、脱青酸脱水塔デカンター7において有機層と水層を形成させた。脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度は、37℃であった。
脱青酸脱水塔デカンター7の水層は、ライン27より557kg/hで抜き出し、ライン23に合流させた。
脱青酸脱水塔デカンター7の有機層は、ライン28より15045kg/hで抜き出し、脱青酸脱水塔5の25段目に戻した。
脱青酸脱水塔5の塔底のライン29から抜き出した液を図示していない蒸留塔で蒸留し、該蒸留塔の塔底から高沸点物質を分離し、塔の上部からアクリロニトリル製品5115kg/h(8000時間の総生産量を総時間で除した値)を得た。
得られたアクリロニトリルは、ABS樹脂等の合成樹脂、アクリル繊維、合成ゴム、アクリルアミド等の中間原料等に用いることができた。アクリロニトリル製品に含まれている不純物例として、アセトニトリル、プロピオニトリル、オキサゾール及び過酸化物の濃度を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
回収塔デカンター6及び脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度が20℃となるように冷却装置1及び2に冷凍水を供給して、それぞれのデカンター温度を制御したこと以外は実施例1と同様の装置及び方法で、プロパンのアンモ酸化を行い、アクリロニトリルの回収及び精製を行った。
回収塔デカンター6の水層抜き出し量は、1392kg/h、有機層抜き出し量は、6008kg/hであった。
脱青酸脱水塔デカンター7の水層抜き出し量は、576kg/h、有機層抜き出し量は、15037kg/hであった。
脱青酸脱水塔5に付属のリボイラーに蒸気換算で0.46T/h(年間約160T)の熱量を追加する必要が生じた。また、冷却装置A及びBの電力使用量は、約33%増加した。
また、脱青酸脱水塔5への熱負荷を上げたため、フラッディング兆候が出現した。脱水塔の運転状態が不安定と判断し、生産レートを減じ、安定化を図った。得られたアクリロニトリル収量及び不純物濃度を表1に示す。
得られたアクリロニトリルは、5035kg/h(8000時間の総生産量を総時間で除した値)であった。また、実施例の場合と比べて不純物濃度が増加していた。
【0054】
[比較例2〜4]
回収塔デカンター6及び脱青酸脱水塔デカンター7内の液温度を変えたこと以外は、実施例1と同一の反応条件でプロパンのアンモ酸化反応を行い、同一の設備でアクリロニトリルの回収及び精製を行った。
低温の液を脱青酸脱水塔5に供給したため、いずれのケースにおいても、実施例1に比べて脱青酸脱水塔リボイラー熱負荷を増加させる必要が生じた。
また、脱青酸脱水塔5への熱負荷を上げたため、フラッディング兆候が出現した。脱水塔の運転状態が不安定と判断し、生産レートを減じ、安定化を図った。得られたアクリロニトリル収量及び不純物濃度を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の結果から明らかなように、本実施の形態のアクリロニトリルの精製方法を用いた実施例1〜7においては、不純物濃度の低いアクリロニトリル製品を、高い収量で得ることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の精製方法は、プロパンのアンモ酸化反応により得られる生成ガスからアクリロニトリル精製する方法における産業上利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0058】
1 急冷塔
2 熱交換器
3 吸収塔
4 回収塔
5 脱青酸脱水塔
6 回収塔デカンター
7 脱青酸脱水塔デカンター
8〜29 ライン
30 冷却装置A
31 冷却装置B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン、アンモニア及び酸素を触媒の存在下にアンモ酸化反応させ、生成したアクリロニトリルを含むガスからアクリロニトリルを精製する方法であって、
(a)前記アクリロニトリルを含むガスを急冷塔に導入し冷却する工程、
(b)前記(a)工程において冷却したガスを吸収塔に導入し、吸収水と向流接触させる工程、
(c)前記(b)工程において前記吸収水と向流接触させて得られた塔底液を回収塔に導入し、抽出水を加えて蒸留する工程、
(d)前記(c)工程において得られた留出蒸気を凝縮及び冷却した後、回収塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を脱青酸脱水塔に導入し、蒸留する工程、
(e)前記脱青酸脱水塔から側流を抜き出して冷却した後、脱青酸脱水塔デカンターに収容して有機層と水層を形成させ、前記有機層を前記側流の抜き出し位置より下部に戻すと共に、前記脱青酸脱水塔の塔底液を抜き出す工程、
を含み、
前記脱青酸脱水塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、アクリロニトリルの精製方法。
【請求項2】
前記回収塔デカンター内の液温度を25〜45℃に調整する、請求項1記載のアクリロニトリルの精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222309(P2010−222309A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72653(P2009−72653)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】