説明

アクリロニトリルの製造方法

【課題】原料ガスのフィード状況を適切に制御することにより、原料フィードガスに含まれるプロピレン又はプロパン、及びアンモニアの凝縮を防ぎ、延いては流量計の誤指示によって生じるアクリロニトリルの収率低下を防止することのできる製造方法、及び製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】流動層反応器を用いて気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法であって、原料ガスのフィード温度を0℃以上30℃以下とし、且つ、原料ガスのフィード圧力を前記フィード温度における蒸気圧未満とする、アクリロニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層反応器を用いて気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン又はプロピレンをアンモニアの存在下、分子状酸素によって気相接触アンモ酸化してアクリロニトリルを製造する方法は、「アンモ酸化プロセス」として広く知られている。
これまで、このアンモ酸化反応によって得られるアクリロニトリルを好適な収率で製造するために、流動層反応器運転条件の最適化やアンモ酸化用触媒の改良など多数提案されており、多くの公知技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、流動層反応器内における固形物密度(すなわち、触媒層密度)やガス流速を特定の範囲にすることで、接触効率を良好にして、ニトリルの収率を高められることが記載されている。
また、特許文献2には、アンモ酸化用触媒の組成を改良することで、ニトリル化合物が高収率で得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−152463号公報
【特許文献2】特開2002−136872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1又は2に記載されているように、確かに、流動層反応器内の触媒の流動状態や触媒の組成を最適化することで、ニトリルの収率を向上させる効果は得られる。しかしながら、本発明者の検討によると、流動層反応器内の状態のみならず、原料ガスのフィードの状態も反応に影響することが分かった。
例えば、原料であるアンモニアのフィード温度が高すぎる場合、反応器内におけるスパージャー吹き出し温度が高くなりすぎ、アンモニア分解(一般的には150℃で分解が開始すると言われている。)によるスパージャーの窒化現象が促進され易く、スパージャーの寿命を短くしかねない。
また、原料であるプロピレン又はプロパン、及びアンモニアのフィード温度が低すぎる場合、一旦は蒸発したプロピレン又はプロパン、及びアンモニアが配管内で凝縮してミストが発生する。発生したミスト状のプロピレン又はプロパン及びアンモニアがそのままフィードされると、フィード配管に設置してある流量計が誤指示し、更には反応器内で急激に蒸発することで原料ガスの分布にムラが生じる。
例えば、プロピレンミストが発生した結果、原料であるプロピレンが過剰な箇所では未反応プロピレンが増え、プロピレンが不足した箇所では他の原料が余剰になり、結果的にアクリロニトリル収率の低下を招いてしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、原料ガスのフィード状況を適切に制御することにより、原料フィードガスに含まれるプロピレン又はプロパン、及びアンモニアの凝縮を防ぎ、延いては流量計の誤指示によって生じるアクリロニトリルの収率低下を防止することのできる製造方法、及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、流動層反応器にフィードする原料ガスのフィード温度及びフィード圧力を適切な範囲で制御することにより、原料フィードガスに含まれるプロピレン又はプロパン及びアンモニアの凝縮を防ぎ、流量計の誤指示を有効に防止できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのアクリロニトリルの製造方法である。
[1]
流動層反応器を用いて気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法であって、
原料ガスのフィード温度を0℃以上30℃以下とし、且つ、原料ガスのフィード圧力を前記フィード温度における蒸気圧未満とする、アクリロニトリルの製造方法。
[2]
前記原料ガスは、プロピレン又はプロパンと、アンモニアを含む、上記[1]記載のアクリロニトリルの製造方法。
[3]
前記原料ガスを前記流動層反応器にフィードする配管で、前記原料ガスを加温及び/又は保温する、上記[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]
前記原料ガスを前記流動層反応器にフィードする配管で、前記原料ガス中のミスト及び/又はドレンを除去する、上記[1]〜[3]のいずれか記載の製造方法。
[5]
前記原料を加温及び/又は保温する熱源として、アクリロニトリルの製造工程で得られる再生水を利用する、上記[3]又は[4]記載の製造方法。
[6]
流動層反応器を有するアクリロニトリルの製造装置であって、
前記流動層反応器に原料ガスのフィード配管が接続され、前記フィード配管に加温手段及び/又は保温手段が設けられており、
前記加温手段及び/又は保温手段により、前記原料ガスのフィード温度が0℃以上30℃以下、且つ、前記原料ガスのフィード圧力が前記フィード温度における蒸気圧未満に調整されて、前記原料ガスが前記流動層反応器に導入される、アクリロニトリルの製造装置。
[7]
前記フィード配管にミストセパレータが設けられており、前記原料ガスに含まれるミストが前記ミストセパレータから排出される、上記[6]記載のアクリロニトリルの製造装置。
[8]
前記加温手段及び/又は前記保温手段に、アクリロニトリルの製造工程で得られる再生水が熱源として供給される、上記[6]又は[7]記載のアクリロニトリルの製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、プロピレン又はプロパン、及びアンモニアの凝縮を防ぎ、延いては流量計の誤指示によって生じるアクリロニトリルの収率低下を有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の製造装置の一例を概略的に示すフロー図である。
【図2】本実施形態の蒸発器周りの装置の一例を概略的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態におけるアクリロニトリルの製造方法は、流動層反応器を用いて気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法であって、原料ガスのフィード温度を0℃以上30℃以下とし、且つ、原料ガスのフィード圧力を前記フィード温度における蒸気圧未満とする。
また、本実施形態におけるアクリロニトリルの製造装置は、流動層反応器を有するアクリロニトリルの製造装置であって、前記流動層反応器に原料ガスのフィード配管が接続され、前記フィード配管に加温手段及び/又は保温手段が設けられており、前記加温手段及び/又は保温手段により、前記原料ガスのフィード温度が0℃以上30℃以下、且つ、前記原料ガスのフィード圧力が前記フィード温度における蒸気圧未満に調整されて、前記原料ガスが前記流動層反応器に導入される製造装置である。
【0013】
本実施形態において「原料ガス」とは、プロピレン又はプロパンと、アンモニアを含む。アンモ酸化反応によるアクリロニトリルの製造においては、他にも空気(酸素)を原料とするが、空気のフィード圧力及びフィード温度を上述の範囲に調整することは本実施形態において必須とする要件ではない。
プロピレン又はプロパンは原料であるため、純度の高いものが特に好ましいが、その他の成分を好ましくは10質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下含有してもよい。同じく、アンモニアも純度の高いものが特に好ましいが、その他の成分を好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下含有してもよい。
【0014】
図1は、本実施形態のアクリロニトリルの製造装置の一例を概略的に示したフロー図である。
図1に示す装置は、原料の蒸発器5,6と、蒸発器5,6で蒸発した原料ガスがフィードされる反応器1と、反応器1で生成したアクリロニトリルを含有する反応ガスを洗浄及び冷却する急冷塔2と、これらを接続する配管(ライン)を備える。反応器は、一般的に固定層反応器と流動層反応器に大別されるが、本実施形態のアンモ酸化反応に用いられる反応器としては、流動層反応器を用いる。
【0015】
蒸発器5,6には、原料が液体の状態で供給されて、蒸発器5,6内で蒸発する。熱源としては、特に限定されないが、アクリロニトリル製造プロセスにおいて発生する再生水を用いるのが好ましい。プロピレン/プロパン蒸発器5にはプロピレン/プロパンタンク3からプロピレン又はプロパンが供給され、蒸発器5で蒸発した後、プロピレンガス又はプロパンガスは、蒸発器5の下流に設けられたミストセパレータ10bに導入される。ミストセパレータ10bを通過することでガス中に同伴されているプロピレン又はプロパンが凝縮したミストが除去され、プロピレン/プロパン予熱器8に導入される。アンモニア蒸発器6にはアンモニアタンク4から液体のアンモニアが供給され、蒸発したアンモニアガスはミストセパレータ10aを経由してアンモニア予熱器9に導入される。
【0016】
プロピレンガス又はプロパンガスは、プロピレン/プロパン予熱器8で過加熱される。予熱器8の熱源としては、特に限定されないが、アクリロニトリル製造プロセスにおいて発生する再生水を用いるのが好ましい。
予熱器8は、原料ガスを加熱又は保温可能な機器であれば、特に限定されず、例えば、二重管やスチームトレースでもよい。二重管やスチームトレースの加熱源としては、スチームを使用するのが好ましく、図1に示されたように熱源の流量を調節弁により調整することで温度を制御できるものであればより好ましい。
【0017】
予熱器8の下流には温度検出器13bが設けられており、過加熱されたプロピレンガス又はプロパンガスの温度が測定される。温度検出器13bが設けられる位置は、予熱器8から反応器1までの間であればよいが、反応器1に導入されるガスの温度を精密に制御する観点で、反応器1入口近傍であるのが好ましい。本明細書中「入口近傍」とは、機器又は配管等による場所の制約を除き、プロピレン又はプロパンとアンモニアの合流点から上流に10m以内の位置を意味する。温度検出器13bで検出されるプロピレン又はプロパンガスの温度は0℃以上30℃以下であると好ましく、より好ましくは10℃以上25℃以下である。外気温が−5〜35℃程度であれば、合流点から上流に10m以内の温度を0℃以上30℃以下に維持することで、配管から反応器入口に渡って、原料ガスの温度をこの範囲に維持できることを本発明者は経験的に見出したので、必ずしも入口直前の温度を測定する必要はない。ただし、温度検出器13bを通過後、外気温等に鑑みて反応器1に導入されるまでの間に温度低下が見込まれる場合は、前記温度範囲を5℃程度高く設定してもよい。
【0018】
本実施形態の製造方法においては、原料ガスのフィード温度を0℃以上30℃以下とする。ここで、「原料ガスのフィード温度」は、反応器1の入口におけるプロピレンガス又はプロパンガスの温度と、後述するアンモニアガスの温度とを平均した温度になる。上述のように、温度検出器13bにおける温度を好ましくは0℃以上30℃以下、反応器1に導入されるまでの間に温度低下が見込まれる場合には好ましくは5℃以上35℃以下に保っておくことで、配管と、反応器のいずれにおいても原料ガスの温度をこの範囲に制御し、原料ガスの凝集を防止できる。配管における凝集を防止することで、原料ガスの流量を正確に測定でき、反応器の入口における凝集を防止することで反応器内において原料ガスの分布にムラが生じるのを防止できる。
【0019】
プロピレンガス又はプロパンガスの温度は、プロピレン/プロパン予熱器8の熱源である再生水の流量を制御弁11bで調整することによって、制御することができる。アンモニアに関しても上述と同様であり、ミストセパレータ10aを通過したアンモニアガスは、アンモニア予熱器9で過加熱される。過加熱されたアンモニアガスの温度は、反応器1入口近傍の温度検出器13aにより検出される温度が、好ましくは0℃以上30℃以下、より好ましくは10℃以上25℃以下になるように、アンモニア予熱器9の熱源である再生水の流量が制御弁11aによって調整される。
【0020】
予熱器8,9の下流には圧力検出器14b,aが設けられており、過加熱されたプロピレンガス又はプロパンガスと、アンモニアガスの圧力が測定される。圧力検出器14b,aが設けられる位置は、予熱器8,9から反応器1までの間であればよいが、反応器1に導入されるガスの圧力を精密に制御する観点で、反応器1入口近傍であるのが好ましい。過加熱されたプロピレンガス又はプロパンガスの圧力は、制御弁12bの開閉操作(開度調節)により、フィード温度における蒸気圧未満になるように調節される。アンモニアに関しても同様であり、過加熱されたアンモニアガスの圧力は、制御弁12aの開閉操作(開度調節)により、フィード温度における蒸気圧未満になるように調節される。各ガスのフィード圧力をフィード温度における蒸気圧未満に維持することで、ガスの凝縮によるミスト発生が有効に防止される。
【0021】
本実施形態の製造方法においては、原料ガスのフィード圧力をフィード温度における蒸気圧未満とする。ここで、「原料ガスのフィード温度」と同様に、「原料ガスのフィード圧力」も反応器1の入口におけるプロピレンガス又はプロパンガスの圧力と、アンモニアガスの圧力とを平均した圧力になる。各ガスは圧力検出器14a、bを通過した後で合流して反応器に流入するが、合流後も圧力を維持するように配管径等を設計するのが好ましい。この場合、合流前に設置された圧力検出器14a、bにおける各ガスの圧力を蒸気圧未満にすることで、圧力を維持したままで各ガスは合流し、原料ガスは反応器にフィードされる。
【0022】
「原料ガスのフィード温度」や「原料ガスのフィード圧力」を測定するには、プロピレンガス又はプロパンガスと、アンモニアガスとが合流した後で温度や圧力を測定する方が直接的ではあるが、合流の手前で各ガスの温度及び圧力を測定してそれらを平均してもよい。合流した後で温度及び圧力を測定する場合、各ガスの流量を把握することはできない。合流の手前でプロピレンガス又はプロパンガス、アンモニアガスの温度や圧力をそれぞれ測定、制御すれば、各ガスの温度や圧力を把握し、かつ配管におけるミスト化を防止しつつ、それらが合流した原料ガスについても間接的に温度及び圧力を制御して配管及びフィード時のミスト化を防止できる点で好ましい。ただし、この場合は、測定後からフィードまでの間に温度及び圧力が変化し難いように、この間の配管に断熱材を施したり、測定箇所を反応器側に近いところにしたりする等、装置の設計を工夫するのが好ましい。
【0023】
プロピレン又はプロパンガスと、アンモニアガスは、流量検出器15a,bを通過後に合流し反応器1にフィードされる。流量検出時に原料ガスの一部がミスト化している場合、各々の流量検出器15a,bがミスト分を正常に検出できずガス分しか検出しないため、結果として流量検出器15a,bが誤指示することになり、アクリロニトリルの収率低下を招く。
【0024】
反応器1には触媒が収容されており、フィードされた原料ガスに接触することでアンモ酸化反応が進行し、アクリロニトリルを生成する。アクリロニトリルを含む反応ガスは、反応器1の上部の出口から留出し急冷塔2に導入される。
【0025】
反応器1出口から急冷塔2入口の間には、サンプリングラインが分岐しており、その末端には反応ガスサンプリングバルブ7が接続されている。サンプリングラインは、反応ガスが反応器1から流出した後、性状の変化がない状態で採取できる位置に設けられればよく、反応器1と急冷塔2の間であれば実質的に変化は無いので取り付ける位置は特に限定されない。反応ガスサンプリングバルブ7は、手動で反応ガス採取容器を接続するためのバルブであり、定期的にサンプリングが行われるのが好ましい。採取した反応ガスは、ガスクロマトグラフィー等で分析すると、その測定値から反応ガス中に含まれるアクリロニトリルの炭素数を算出することができるので、この炭素数を同時に算出した反応ガスの総計炭素数で割り、百分率の値にすることで、目的とするアクリロニトリルの収率を算出することができる。
【0026】
反応器1から流出したアクリロニトリルを含む反応ガスは、急冷塔2へフィードされた後、洗浄及び冷却され、回収工程、更には精製工程を経て最終的に製品のアクリロニトリルとなる。
【0027】
図2は、本実施形態の蒸発器5,6周りの装置の一例を概略的に示すフロー図である。
プロピレン/プロパン蒸発器5には、ドレン蒸発器16を介して燃料タンク20が接続されている。プロピレン/プロパン中に高沸物が含まれる場合、蒸発器5には蒸発しない高沸物が液体のままドレンとして溜まる。ドレンがプロピレン/プロパン蒸発器5内で濃縮されると、沸点上昇を起こし運転継続不可能になるので、ドレンを除去するクリーニングが必要になる。そのような状態を防ぐために、前記ドレンを配管18を通じてプロピレン/プロパン蒸発器16へ常時排出するのが好ましい。プロピレン/プロパン蒸発器16では、ドレン中のプロピレンを再度蒸発し、蒸発器5で蒸発させたプロピレンガスと合流し、反応器1にフィードされる。残ったドレンは配管18を通じて燃料タンク20へ最終的に抜き出される。
【0028】
一方、アンモニア蒸発器6には、アンモニア中に不純物として含有している水分が、蒸発せず液体のままドレンとして溜まる場合があるので、ドレンがアンモニア蒸発器6で濃縮することを防ぐために、ドレンは配管19を通じてアンモニアドレン蒸発器17へ常時排出される。アンモニアドレン蒸発器17では、ドレン中のアンモニアを再度蒸発し、蒸発器6で蒸発させたアンモニアガスと合流し、反応器1にフィードされる。残ったドレンは配管19を通じて廃水タンク21へ最終的に抜き出される。
【0029】
ドレンの抜出先としては、特に限定されず、状況に応じて、任意に決めることが可能である。例えば、本実施形態のように燃料タンクや廃水タンクでもよいし、廃水ピットに一旦受け入れたり、廃水焼却炉に直接フィードして処理してもよい。
【0030】
本実施形態の製造方法によれば、プロピレン又はプロパン、及びアンモニアの凝縮を防ぎ、延いては流量計の誤指示によって生じるアクリロニトリルの収率低下を有効に防止できる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例において、アクリロニトリル収率は以下のとおりに測定した。まず、反応ガスをガスの状態と液の状態で各々採取した。ガスの状態での採取方法は、反応ガスサンプリングバルブ7と、容量500mLの反応ガス採取ボンベ(図示せず)をホースで接続し、反応ガスで置換した後に約10秒間反応ガスを採取した。一方、液の状態での採取方法は、反応ガスサンプリングバルブ7と、氷水に浸けた状態で内部に400mLの硝酸が入った容量500mLの吸収瓶(図示せず)をホースと接続し、約10分間反応ガスを吸収させた。
続いて、採取ボンベにて採取した反応ガスは、ガスクロマトグラフィー(型式:島津GC−2014、検出器:TCD)にて分析した。一方、吸収瓶にて採取した反応ガスの吸収液は、ガスクロマトグラフィー(型式:島津GC−14B、検出器:FID)にて分析した。
これらの測定値から、反応ガス中に含まれるアクリロニトリルの炭素数を算出し、この炭素数を同時に算出した反応ガスの総計炭素数で割り百分率の値にすることで、アクリロニトリルの収率を算出した。
なお、以下の実施例及び比較例においては、各ガスの温度及び圧力をそれぞれ測定し、その平均を原料ガスのフィード温度及びフィード圧力とした。また、温度及び圧力検出器から反応器入口までの配管は断熱材で保温し、且つ配管の距離を短くしたため(10m)、検出器の温度及び圧力を、それぞれ反応器入口の温度及び圧力とみなした。
【0032】
[実施例1]
図1及び図2に示す装置と同様の構成を有するアクリロニトリルの製造装置を用いた。原料としてはプロピレン及びアンモニアを用い、それらの純度はそれぞれ95質量%以上及び99質量%以上であった。
プロピレンは、プロピレン/プロパンタンク3から液の状態でプロピレン/プロパン蒸発器5にフィードして蒸発させた後、温度検出器13bで検出される温度が25℃になるようにプロピレン/プロパン予熱器8で過加熱した。予熱器8の熱源としては、アクリロニトリル製造工程で生成した再生水を用いた。過加熱されたプロピレンは、圧力検出器14bにより検出される圧力が25℃のプレピレンの蒸気圧(10.7K/G)以下である3.0K/Gになるように制御弁10bの開度調節を行った。
アンモニアも同様であり、アンモニアタンク4から液の状態でアンモニア蒸発器6にフィードして蒸発させた後、温度検出器13aにより検出される温度が25℃になるように熱源として再生水を用いたアンモニア予熱器9で過加熱した。過加熱されたアンモニアは、圧力検出器14aにより検出される圧力が、25℃のアンモニアの蒸気圧(9.3K/G)以下である3K/Gになるように制御弁10aの開度調節を行った。
これらの原料ガスは、流量検出器15a,bを通過後に合流し、反応器1へフィードされて、一般的な条件の下、アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造した。
【0033】
反応器1のトップから流出した反応ガスを急冷塔2の手前でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析は、1週間に2回の頻度で1ヶ月間行った。その結果、アクリロニトリルの平均収率は約81.2%であった。
【0034】
なお、流量検出器15a,bは誤指示しなかったことから、原料ガスのミスト及びドレンの飛散はなかったと考えられる。
【0035】
[実施例2]
プロピレンの温度検出器13bにより検出される温度が10℃、アンモニアの温度検出器13aにより検出される温度が10℃になるよう原料ガスの条件を調節したこと以外は実施例1と同様にして、反応器1へ原料ガスをフィードしアンモ酸化反応を行った。
尚、10℃におけるプロピレン及びアンモニアの蒸気圧は、それぞれ6.9K/G、5.3K/Gであった。
【0036】
反応器1のトップから流出した反応ガスを急冷塔2の手前でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析は、1週間に2回の頻度で1ヶ月間行った。その結果、アクリロニトリルの平均収率は約81.4%であった。
【0037】
なお、流量検出器15a,bは誤指示しなかったことから、原料ガスのミスト及びドレンの飛散はなかったと考えられる。
【0038】
[実施例3]
プロピレンの温度検出器13bにより検出される温度が0℃、アンモニアの温度検出器13aにより検出される温度が0℃になるよう原料ガスの条件を調節したこと以外は実施例1と同様にして、反応器1へ原料ガスをフィードしアンモ酸化反応を行った。
尚、0℃におけるプロピレン及びアンモニアの蒸気圧は、それぞれ4.9K/G、3.4K/Gであった。
【0039】
反応器1のトップから流出した反応ガスを急冷塔2の手前でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析は、1週間に2回の頻度で1ヶ月間行った。その結果、アクリロニトリルの平均収率は約81.0%であった。
【0040】
なお、流量検出器15a,bは誤指示しなかったことから、原料ガスのミスト及びドレンの飛散はなかったと考えられる。
【0041】
[比較例1]
プロピレンの温度検出器13bにより検出される温度が50℃、アンモニアの温度検出器13aにより検出される温度が50℃になるよう原料ガスの条件を調節したこと以外は実施例1と同様にして、反応器1へフィードしアンモ酸化反応を行った。
尚、50℃におけるプロピレン及びアンモニアの蒸気圧は、それぞれ19.8K/G、19.7K/Gであった。
【0042】
反応器1のトップから流出した反応ガスを急冷塔2の手前でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析は、1週間に2回の頻度で1年間行った。その結果、アクリロニトリルの平均収率は約79.9%であった。
【0043】
なお、流量検出器15a,bは誤指示しなかったことから、原料ガスのミスト及びドレンの飛散はなかったと考えられる。
【0044】
[比較例2]
プロピレンの温度検出器13bにより検出される温度が−1℃、アンモニアの温度検出器13aにより検出される温度が−1℃になるよう原料ガスの条件を調節したこと以外は実施例1と同様にして、反応器1へフィードしアンモ酸化反応を行った。
尚、−1℃におけるプロピレン及びアンモニアの蒸気圧は、それぞれ4.7K/G、3.2K/Gであった。
【0045】
反応器1のトップから流出した反応ガスを急冷塔2の手前でサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行った。分析は、1週間に2回の頻度で1ヶ月間行った。その結果、アクリロニトリルの平均収率は約80.2%であった。
【0046】
なお、流量検出器15a,bは実際の使用量よりも少ない流量を示したことから、原料ガスの一部凝縮してミストが発生し、ガスに同伴されてフィードされたためと考えられる。
【0047】
[比較例3]
プロピレンは、プロピレン/プロパンタンク3から液の状態でプロピレン/プロパン蒸発器5にフィードして蒸発させた後、温度検出器13bにより検出される温度が5℃になるようにプロピレン/プロパン予熱器8で過加熱した。過加熱されたプロピレンは、圧力検出器14bにより検出される圧力が5℃のプロピレンの蒸気圧(5.8K/G)以下である3.0K/Gになるように制御弁10bの開度調節を行った。
アンモニアに関しては、アンモニアタンク4から液の状態でアンモニア蒸発器6にフィードして蒸発させた後、温度検出器13aにより検出される温度が5℃になるようにアンモニア予熱器9で過加熱した。過加熱されたアンモニアは、圧力検出器14aにより検出される圧力が5℃のアンモニアの蒸気圧と同じ圧力である4.3K/Gになるように制御弁10aの開度調節を行った。これらの原料ガスは、流量検出器15a,bを通過後に合流し、反応器1へフィードされて、一般的な条件の下アンモ酸化反応によりアクリロニトリルを製造した。
【0048】
アンモニアガスのフィード圧力が蒸気圧と同じであったため、ミスト発生が多く、流量検出器15aと実際の使用量との乖離が大きく、安定的な運転を継続することは不可能であった。
【0049】
実施例及び比較例における結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【符号の説明】
【0051】
1…反応器、2…急冷塔、3…プロピレン/プロパンタンク、4…アンモニアタンク、5…プロピレン/プロパン蒸発器、6…アンモニア蒸発器、7…反応ガスサンプリングバルブ、8…プロパン/プロピレン予熱器、9…アンモニア予熱器、10a,10b…ミストセパレータ、11a,11b、12a,12b…制御弁、13a,13b…温度検出器、14a,14b…圧力検出器、15a,15b…流量検出器、16…プロピレン/プロパンドレン蒸発器、17…アンモニアドレン蒸発器、18…プロピレン/プロパンドレン配管、19…アンモニアドレン配管、20…燃料タンク、21…廃水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層反応器を用いて気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法であって、
原料ガスのフィード温度を0℃以上30℃以下とし、且つ、原料ガスのフィード圧力を前記フィード温度における蒸気圧未満とする、アクリロニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記原料ガスは、プロピレン又はプロパンと、アンモニアを含む、請求項1記載のアクリロニトリルの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスを前記流動層反応器にフィードする配管で、前記原料ガスを加温及び/又は保温する、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスを前記流動層反応器にフィードする配管で、前記原料ガス中のミスト及び/又はドレンを除去する、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料を加温及び/又は保温する熱源として、アクリロニトリルの製造工程で得られる再生水を利用する、請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
流動層反応器を有するアクリロニトリルの製造装置であって、
前記流動層反応器に原料ガスのフィード配管が接続され、前記フィード配管に加温手段及び/又は保温手段が設けられており、
前記加温手段及び/又は保温手段により、前記原料ガスのフィード温度が0℃以上30℃以下、且つ、前記原料ガスのフィード圧力が前記フィード温度における蒸気圧未満に調整されて、前記原料ガスが前記流動層反応器に導入される、アクリロニトリルの製造装置。
【請求項7】
前記フィード配管にミストセパレータが設けられており、前記原料ガスに含まれるミストが前記ミストセパレータから排出される、請求項6記載のアクリロニトリルの製造装置。
【請求項8】
前記加温手段及び/又は前記保温手段に、アクリロニトリルの製造工程で得られる再生水が熱源として供給される、請求項6又は7記載のアクリロニトリルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188381(P2012−188381A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53101(P2011−53101)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】