説明

アシラートの用途

【課題】ビタミンAアシラートの製造。
【解決手段】有機溶媒中、アシル化剤の存在下で、式II:


で示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、懸濁液中に存在する酵素分類群EC3.1.1.3のリパーゼによって選択的にモノアシル化することを含む方法により得られる式I:


〔式中、Rは、(C〜C23)アルキル基、または1〜3個の二重結合を有する(C〜C23)アルケニル基を表す〕で示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラートの、ビタミンAアシラートを製造するための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I:
【0002】
【化1】

【0003】
〔式中、Rは、(より詳しく以下に定義されるとおりの)(C〜C23)アルキル基または(C〜C23)アルケニル基を表す〕で示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラート〔(2Z,4Z,7E)−カルボン酸3,7−ジメチル−6−ヒドロキシ−9−〔2’,2’,6’−トリメチルシクロヘキサ−6’−エン−1’−イル〕ノナ−2,4,7−トリエニルエステル〕の新規な製造方法であって、式II:
【0004】
【化2】

【0005】
の(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール〔(2Z,4Z,7E)−3,7−ジメチル−9−〔2’,2’,6’−トリメチルシクロヘキサ−6’−エン−1’−イル〕ノナ−2,4,7−トリエン−1,6−ジオール〕を、酵素で触媒される選択的なモノアシル化に付すことによって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0006】
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラートは、対応するビタミンAアシラートの製造、すなわち、それ自体公知である方式で実施され得る、水の開裂と、同時になされるシス−トランス異性化とによる製造の出発材料である。常用の標準的エステル化法、例えば(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールのアセチル化によると、所望の、かつ特に重要な(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタートが得られるだけでなく、副生物である式III:
【0007】
【化3】

【0008】
の(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−アセトキシレチニルアセタート〔(2Z,4Z,7E)−酢酸6−アセトキシ−3,7−ジメチル−9−〔2’,2’,6’−トリメチルシクロヘキサ−6’−エン−1’−イル〕ノナ−2,4,7−トリエニルエステル〕も様々な量で生じる。
【0009】
式IIIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−アセトキシレチニルアセタートは、接触脱水反応の条件下では不活性であり、そのため、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタート(Rがメチルを表す式Iの化合物)の形成だけでなく、ビタミンAアセタートの形成も困難になる。したがって、式IIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの選択的モノアセチル化だけでなく、一般的には選択的モノアシル化の方法も、工業的観点からは多大な関心が持たれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来より公知の方法の短所(例えば、望ましくない式IIIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−アセトキシレチニルアセタートの形成)をもたらさない、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールのエステル化による、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラートの製造法を提供することである。このためには、酵素で触媒される反応が、極めて選択的にかつ高収率で進行することと、酵素が、小量であっても触媒活性を示し、容易に分離でき、そして再び何回か使用できることが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の範囲内で、この目的は、リパーゼ(酵素分類群EC3.1.1.3)の存在下、極めて特異的な反応前および反応時の条件下で、式IIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールのアシル化を実施することによって達成される。
【0012】
したがって、本発明は、上記式Iで示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラート〔ここで、式IのRは、(C〜C23)アルキル基、または1〜3個の二重結合を有する(C〜C23)アルケニル基を表す〕の製造法であって、有機溶媒中、アシル化剤の存在下で、式IIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、上記したように懸濁液中に存在するリパーゼによって選択的にモノアシル化する段階を含む方法に関する。
【0013】
リパーゼの存在下での第一級ヒドロキシル基の選択的アシル化は、第二級のそれに加えて文献から公知である。すなわち、例えばJ. Org. Chem. 55: 2,366-2,369 (1990)によれば、Pseudomonas cyclopium から単離されたリパーゼを用いて、トリフルオロエチルアシラートまたは環状無水物でエステル化することによる、アンフェニコール類、すなわちフェニル置換短鎖脂肪族ジオールのアシル化が実施され、それぞれ83%および64%の収率が得られているが、純度は示されていない。
【0014】
固定化されたリパーゼPSの存在下、酢酸ビニルでエステル化することによる2−メチル−5−(4−メトキシフェニル)ペンタン−1,3−ジオールのラセミ体分割は、Tetrahedron: Asymmetry 4, 757-760 (1993)に記載され、モノアシル化生成物の収率が66%であって、光学純度は42%e.e.であった。
【0015】
Appl. Biochem. Biotechnol. 11, 401-407 (1985) では、ブタ膵臓からのリパーゼによって、一連の1,2−および1,3−ジオール類(エチルアシラート類に溶解)が97%以下の収率でアシル化されている。
【0016】
J. Chem.Soc., Chem. Commun., 1989:1535-1536 によれば、ブタ膵臓からのリパーゼによって、2−エチルヘキサン−1,3−ジオールが60%の収率でアシル化されている。
【0017】
Tetrahedron Lett. 31, 3405-3408 (1990)は、ブタ膵臓からのリパーゼの存在下での、無水物による脂肪族1,n−ジオール類の選択的アシル化を記載しており、選択率が98%以下、収率は95%以下であった。
【0018】
Chromobacterium viscosumからのリパーゼを用いる、1,5−ヘキサンジオールのn−デカン酸による選択的アシル化(98%の選択率)は、Ind. J. Chem.32, 30-34 (1993)に記載されている。
【0019】
従来より公知のこれらの方法はすべて、一定の短所を有する。すなわち、これらの方法はすべて、望みの生成物を生じるが、選択率、ならびにその純度および/または収率には、解決すべきことが多々残っている。その上、これらの参考文献は、用いたリパーゼの反復的使用、すなわち、基質の同時精製はもちろんのこと、リパーゼの安定性に言及するものが皆無である。
【0020】
式IIの(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールのアシル化は、前述のとおり、有機溶媒(好ましくはほぼ無水である)中、アシル化剤の存在下で、懸濁液中に存在するリパーゼによって実施する。
【0021】
本発明の目的に適したリパーゼは、優れた活性および選択率を示す酵素分類群EC3.1.1.3のものであって、特に、Alcaligenes 属からのリパーゼPL、その固定化形態であるリパーゼPLCおよびリパーゼPLG、ならびにCandida cylindracea (改名されたCandida rugosa)からのリパーゼMY−30(名糖産業、東京)、Mucor miehei(改名されたRhizomucor miehei)からのLipozyme(登録商標名)IM−20(Novo Nordisk、デンマーク国Bagsvaerd)、Humicola lanuginosa からのリパーゼCE−5、そしてPenicillium cyclopium からのリパーゼG(両者とも天野製薬株式会社、名古屋)、更にはCandida antarcticaからのChirazyme (登録商標名)L−2(Boehringer Mannheim GmbH、ドイツ国;以前はNovo NordiskからのNovozym (登録商標名)SP435)である。リパーゼPL、リパーゼPLC、リパーゼPLG、 Lipozyme IM−20およびChirazyme L−2が特に好ましく、リパーゼPL、リパーゼPLC、リパーゼPLGおよびChirazyme L−2がとりわけ好ましい。
【0022】
(R)の定義において、用語「(C〜C23)アルキル基」または「1〜3個の二重結合を有する(C〜C23)アルケニル基」は、炭素原子数に応じて直鎖だけでなく分枝鎖のアルキルまたはアルケニル基であると理解されるものとする。(C〜C23)アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、ペンチル、ヘプチル、ウンデシル、ペンタデシルおよびヘプタデシルであり、(C〜C23)アルケニル基の例は、8−ヘプタデセニルおよびヘプタデカ−8,11−ジエニルである。対応するアルカノイルおよびアルケノイル基(RCO)は、それぞれ、アセチル、プロピオニル、ブチリル、ラウリル、カプロイル、カプリル、パルミトイルおよびステアロイル、ならびにオレオイルおよびリノリルである。Rについての特に好適な意味はメチルであり、本発明による方法は、この場合、酵素で触媒される選択的モノアセチル化である。
【0023】
回分法では、商業的に入手できる形態のリパーゼは、粉末、顆粒または小ビーズ粒として存在し、20重量%〔(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを基準とする重量比で〕まで用いられるが、好ましくは、リパーゼの量は約0.1〜約10重量%、とりわけ約1〜5重量%である。
【0024】
本発明の目的に適した有機溶媒としては、5〜8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、例えばn−ヘキサンおよびヘプタン;6〜10個の炭素原子を有する脂環族炭化水素、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカリン;塩素化脂肪族炭化水素、例えば塩化メチレン、クロロホルムおよび四塩化炭素;ニトロ置換脂肪族炭化水素、例えばニトロメタン;芳香族炭化水素、例えばトルエンおよびキシレン;脂肪族エーテル、例えば1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびtert−ブチルメチルエーテル;環状エーテル、例えばテトラヒドロフラン、メチルフランおよび1,4−ジオキサン;脂肪族エステル、例えばオルトギ酸トリメチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよび酢酸イソプロペニル;脂肪族ケトン、例えばアセトン;脂肪族ニトリル、例えばアセトニトリル;脂肪族アミン、例えばトリエチルアミン;脂肪族アセタール、例えばホルムアルデヒドジメチルアセタール;ならびにそのような溶媒の混合物を挙げることができる。好ましいのは、ヘキサン、シクロヘキサン、塩化メチレン、四塩化炭素、トルエン、ジイソプロピルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、テトラヒドロフラン、メチルフランおよびホルムアルデヒドジメチルアセタール、特に、塩化メチレン、ジイソプロピルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、テトラヒドロフラン、ホルムアルデヒドジメチルアセタール、およびこれらの溶媒の混合物である。
【0025】
慣用の様々なアルキルアシラートやアルケニルアシラート、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、酢酸アリル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸エチル、酪酸エチルおよびプロピオン酸ビニルならびに長鎖脂肪酸のエステル、例えばラウリン酸ビニルも、アシル化剤として使用できる。好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチルまたは酢酸ビニル、とりわけ酢酸ビニルをアセチル化に用いる。プロピオン酸ビニルは、プロピオン酸エステル(R=エチル)の製造に好適であり、長鎖アシラートの製造には対応する脂肪酸のビニルエステルも好適である。用いるアシル化剤の量は、1モル当量ないしそれより数倍多い量とすることができるが、アシル化剤を同時に溶媒として役立てるときは特に過剰に用い、これは、アルキルおよびアルケニルアシラートの場合について該当し得る。
【0026】
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの濃度は、好都合には10〜50%、好ましくは20〜45%〔重量/体積(w/v)で示す〕である。遊離体の溶解度は、溶媒もしくは溶媒混合物および/または温度の選択によって制御される。したがって、反応温度は、好都合には、10℃ないし反応混合物の還流温度、好ましくは室温〜約90℃、特に好ましくは室温〜約60℃である。回分法では、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールは、反応の開始時には溶液である必要はなく、反応の開始時にはむしろ懸濁液で存在してよい。
【0027】
リパーゼに対する接触手段、およびその再利用性を改善するために、それを様々な担体材料に固定化することができる。この固定化は、大きな表面積を有する適切な担体材料上への単なる吸着によって、共有結合的または非共有結合的に、好ましくは非共有結合的に実施することができる。リパーゼや担体材料は有機溶媒に不溶性であるから、反応の際には測定可能ないかなる脱離も生じない。適切な担体材料は、常用の安価な濾過助剤、吸着剤、イオン交換剤およびクロマトグラフィー材の多く、例えばFlorisil(登録商標名)、ケイ藻土、ベントナイト、セルロース、分子ふるい、Amberlite (登録商標名)、Amberlyst (登録商標名)、シリカゲルまたは酸化アルミニウムなど、ならびに大きな表面積を有するその他の安価な材料、例えば砂、焼結ガラスまたは中空繊維などである。ケイ藻土および海砂の使用が好適である。これに代えて、商業的に入手できる、既に固定化されたリパーゼ製剤、例えば、名糖産業やBoehringer Mannheim GmbHからの下記のリパーゼ製剤も使用できる:
【0028】
・リパーゼPLC:ケイ藻土に固定化したリパーゼPL;
・リパーゼPLG:顆粒化ケイ藻土に固定化したリパーゼPL;
・Chirazyme L−2(以前のNovozyme SP435):マクロ多孔質ポリアクリル上に固定化した、Candida antarcticaからのリパーゼ。
【0029】
所望であれば、リパーゼの固定化は、「コラン酸の塩」の存在下で実施することもでき(同時固定化)、それによって活性が部分的に制御できる(活性剤)。適切なコラン酸の塩は、例えばコラン酸ナトリウムやデオキシコラン酸ナトリウムである。
【0030】
化学的な副反応の危険を実際上初めから排除するために、リパーゼとの反応は、好都合には、不活性ガス雰囲気、例えば窒素もしくはアルゴン下で、かつ光を排除し、および/またはラジカル捕捉剤、例えばヒドロキノンもしくは2,6−ジ(tert−ブチル)−p−クレゾールの存在下で実施する。
【0031】
回分法では、触媒は、1回分の実施後に濾取し、再利用することができる。反応液の、したがってリパーゼの含水量は、リパーゼの安定性および活性に関して格別の役割を果たす。小量の水(反応液の0.2%未満)の添加は、リパーゼ活性に対してプラスの影響を有し、弱塩基性溶液、例えば重炭酸アンモニウムもしくは水酸化アンモニウム溶液、または有機塩基、例えばトリエチルアミンもしくはエチルジイソプロピルアミンは、一層優れた効果を有する。水の添加は、定期的にか、または平衡化工程の意味でも実施できる。少量(0.2%未満)の水または弱塩基性溶液を、反応液に加えるのが好ましい。
【0032】
本方法の経済性に極めて重要である、リパーゼの効率的な再利用にとって、遊離体の純度も重大であり、とりわけ有毒な重金属を初期段階から既に含有する遊離体の適切な精製によって、リパーゼ製剤の長期安定性を著しく改善することができる。様々な助剤、例えばケイ藻土、シリカゲル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩、および酸化アルミニウム上での濾過、および約8のpH値を有するEDTA水溶液での洗浄が、簡単で効果的な精製手順であって、それを用いて、とりわけ、遊離体の重金属含量を低下させることができ、リパーゼ製剤の効果を改善できることが判明している。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、上記の濾過助剤上での濾過により、あるいはpH約8のEDTA水溶液で洗浄することにより、有害な不純物が除かれる。
【0033】
本発明による方法は、反復回分法として、または連続法として、すなわち、例えば固定床反応器、円筒反応器、繊維反応器、回転反応器、流動床反応器(上げ底を有する)、またはスラリー反応器のような慣用の形式の反応器を用いて実施することができる。
【0034】
本発明に従って得られる、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラート、好ましくはアセタートの、それぞれ対応するビタミンAアシラートまたはビタミンAアセタートを製造するための前述の用途は、本発明のもう一つの態様を表す。
【実施例】
【0035】
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの、酵素で触媒される選択的モノアシル化による、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルの様々なアシラート製造のための下記の実施例は、本発明による方法の有利な実施態様を例示しているが、いかなる意味においてもそれを限定するものではない。温度はすべて、摂氏度で示されている。
【0036】
実施例1
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール10.0g(32.8ミリモル)および2,6−ジ(tert−ブチル)−p−クレゾール(BHT)10mgを、トルエン30mlと酢酸ビニル5ml(54.1ミリモル)との混合物に溶解した。リパーゼPLC(名糖産業)500mgの添加によって反応を開始し、懸濁液を室温で17時間、ローラー上で静かに攪拌した。その後、リパーゼを濾取し、トルエンで洗浄し、濾液を蒸発させた。高真空下で1日乾燥した後、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタート11.4g(33ミリモル)を、100.6%の収率および99%を超える純度〔超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)での面積%による〕で得た。
【0037】
実施例2
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール10.0g(32.8ミリモル)を、トルエン6.8mlと酢酸ビニル3.2ml(34.6ミリモル)との混合物に取り込んだ。リパーゼPLC(名糖産業)500mgの添加によって反応を開始し、反応混合物を室温で16時間静かに攪拌した。その後、リパーゼを濾取し、トルエンで洗浄し、濾液を蒸発によって濃縮した。高真空下で、1日攪拌しつつ乾燥した後、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタート11.23g(32.4ミリモル)を、98.8%の収率および97.2%の純度(SFC面積%)で得た。
【0038】
実施例3
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール20.0g(65.7ミリモル)およびBHT20mgを、トルエン56ml、tert−ブチルメチルエーテル(TBME)56mlおよび酢酸ビニル7.5ml(81.2ミリモル)の混合物に溶解した。リパーゼPLC(名糖産業)1.0gの添加によって反応を開始し、懸濁液を40℃で16時間静かに攪拌した。その後、リパーゼを濾取し、トルエンで洗浄し、濾液を蒸発させた。高真空下で1日乾燥した後、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタート23.1g(66.7ミリモル)を、101.5%の収率および99%を超える純度(SFC面積%)で得た。
【0039】
実施例4
(A)様々な担体材料上での固定化:リパーゼPL溶液2.0ml(二回蒸留した水に25mg/ml)を担体材料2.5mlに加え、得られた懸濁液を室温で注意深く攪拌した。均等に湿った担体を、次第に、かつ注意深く真空度を増大させる(泡状物の形成)ことによって乾燥した。最後に、担体を高真空中で2日間乾燥し、下記のとおりに用いた。
【0040】
(B)多孔質ガラスビーズへの固定化:リパーゼPL溶液2.0ml(二回蒸留した水に20mg/ml)をSiran Carrier Sikug 041/02/120/A〔Schott Glaswerke(ドイツ国マインツ)の多孔質焼結ガラス〕2.0gに加え、懸濁液を(A)に記載したとおりに乾燥した。
【0041】
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール1.0gを含有する、ヘキサン、tert−ブチルメチルエーテル(TBME)および酢酸ビニルの2:2:1混合物のアリコート8.0mlを、上記のとおりにして得られた各乾燥リパーゼ製剤に加え、反応液を室温で、ローラー上で静かに攪拌した。HPLC分析のため、6時間および27時間後に試料25μlを取り出した。結果を下記の表1に示すが、ここで、Aは(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、Bは(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタートを意味する。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例5
ヘキサン、TBMEおよび酢酸ビニルの2:2:1混合物中の(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール1.0gの溶液8.0mlを、リパーゼPLC30mgまたはリパーゼPLG30mgで処理し、懸濁液を、アルゴン下、暗所で室温にてローラー上で静かに攪拌した。24時間後、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの残留含量は、1%未満であった(HPLC)。リパーゼPLC51mgまたはリパーゼPLG51mgを用いたとき、24時間後には(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールは、もはや検出されなかった。
【0044】
実施例6
リパーゼPL25mg、およびコラン酸の塩(コラン酸ナトリウム、デオキシコラン酸ナトリウム)0.5mgを、二回蒸留した水2.0mlに溶解し、二回蒸留した水6mlに懸濁させたDICALITE(登録商標名)Speedex または海砂2.5gに加えた。懸濁液を、実施例4で行ったとおりに注意深く乾燥し、必要であれば、乾燥した材料を微粉末化した。
【0045】
生成したリパーゼ製剤を、実施例5に記載のとおり、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール溶液8mlで試験した。それぞれの場合に、24時間後にHPLC分析を実施した。結果を下記の表2に示したが、ここで、Aは(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを意味する。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例7
(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール50.0g(164.2ミリモル)を、ヘキサン140ml、TBME140ml、酢酸ビニル70mlおよびBHT50mgの混合物に溶解した。リパーゼPLC2.5gを加え、懸濁液を、アルゴン下、暗所で室温にて24時間、ローラー上で静かに攪拌した。次いで、リパーゼ触媒を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄し、再利用のために乾燥した。次いで、濾液を洗液とともに蒸発によって濃縮し、その後、初めはヘキサンの300ml部とともに2回、次いでペンタン300mlとともに1回、この順序で蒸発によって濃縮して、形成された痕跡量の酢酸を共沸的に除去した。高真空中、35℃で約16時間乾燥した後、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタート56.73g(163.7ミリモル、99%)を淡黄色の油状物として得た。
【0048】
分析:純度、>99%(SFC面積%);250MHz−H−NMR(CDCl)、EI−MS(m/e346)、IR(液膜)および下記の微量分析によって確認:計算値:C=76.26%;H=9.89%;
実測値:C=76.07%;H=9.73%。
【0049】
実施例8
ヘキサン、TBMEおよび酢酸ビニルの2:2:1混合物中の(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール1.0gおよびBHT1mgの溶液の8.0mlのアリコートをそれぞれ、以前に既に同じ条件下で4回(単一回分として)用い、個々の回分の間にヘキサンとTBMEとの1:1混合物で洗浄しただけのリパーゼPLC50mgに加えた。次いで、種々の水溶液を個々の試料に加え、反応懸濁液をローラー上で17時間静かに攪拌し、次いでHPLCによって分析した。結果を下記の表3に示したが、ここで、Bは(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタートを意味する。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例9
A. (11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール1kgを酢酸エチル8リットルに溶解し、8.0のpH値を有する50ミリモルのEDTA溶液3リットル部で2回、室温で洗浄した。その後、有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、蒸発によって濃縮し、残渣を高真空中で乾燥した。
【0052】
B. (11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの50mlのアリコートを酢酸エチル400mlに溶解し、それぞれの場合に、塩基性酸化アルミニウム、DICALITE Speedexまたはシリカゲル5g上で濾過した。濾液を蒸発によって濃縮し、高真空中で乾燥した。
【0053】
C. AまたはBに従って精製した(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールの試料3.5gを、トルエン、TBMEおよび酢酸ビニルの2:2:1混合物25mlに溶解した。各溶液から8.0mlの試料3個を取り出し(三重実験)、それぞれ、リパーゼPLC2.5mgで処理した。反応懸濁液を室温で24時間、ローラー上で静かに攪拌し、次いでSFCによって分析した。結果を下記の表4に示したが、ここで、AおよびBは、それぞれ、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールおよび(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタートを意味する。
【0054】
【表4】

【0055】
実施例10
ガラスフリットを有する2リットル容クロマトグラフィーカラムに、リパーゼPLC5.0gを充填した。次いで、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール100.0g、ヘキサン280ml、TBME280ml、場合により0.1モル重炭酸アンモニウム溶液500μlまたは1%水酸化アンモニウム溶液500μl を含有する酢酸ビニル140ml、およびBHT100mgをこの順に加え、カラムを、フリットが溶液に接触しないように出口を上に傾けつつ、回転によって静かに攪拌した(電動式攪拌器)。室温で17時間インキュベートした後、反応液を流出させ、SFCによって分析した。残留リパーゼ製剤を、初めヘキサンとTBMEの1:1混合物各回100mlで3回(洗浄1回につき約15分間)、その後ヘキサン50mlで洗浄し、次いでこれを、新たな循環(Cycle)に再利用した。結果を下記の表5に示したが、ここで、AおよびBは、それぞれ、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールおよび(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアセタートを意味する。
【0056】
【表5】

【0057】
実施例11
実施例9Aに記載のとおりにして(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを精製し、その後、実施例10に記載のとおりに反復回分法に用いたが、リパーゼPLCは3.0g、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールは90.0g、トルエン250ml、TBME250ml、および1%水酸化アンモニウム溶液450μl を含む酢酸ビニル125mlを用いた。反応時間は23時間であった。各循環の間に、リパーゼ製剤を、1%(v/v)の1%水酸化アンモニウム溶液を含有する、トルエンとTBMEとの1:1混合物100mlで2回洗浄し、4循環終わるごとに、トルエン中に室温で3日間放置した。結果を図1のグラフに示した。
【0058】
実施例12
手順は、実施例11に記載のとおりであったが、(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、DICALITE Speedexを用いて、実施例9Bに記載のとおりに精製した。結果を図2のグラフに示した。
【0059】
実施例13
反応に対する温度の影響を、連続法を用いて調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール18.0g(59.1ミリモル、14.4%w/v)を、300ppm の水を含有するトルエン100mlと酢酸ビニル25mlとの混合物に溶解した。均質な混合物をメンブランフィルター〔RC60、1μm、Schleicher & Schuell AG (S&S)、ドイツ国Dassel〕上で濾過し、その後、DICALITE Speedex7gおよびリパーゼPLC(名糖産業)600mgを逐次充填した直径10mmのカラムを通して、0.5ml/分の処理速度で圧送した。温度は20〜50℃間で変化させた。反応試料を取り出し、SFCおよびHPLCによって分析した。結果を図3のグラフに示した。
【0060】
実施例14
反応に対する温度の影響を、回分法を用いても調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール48.0g(157.6ミリモル)を、20%(w/v)の酢酸ビニルを含有する充分量のトルエンに、得られる混合物が容量240mlとなるように溶解した。次いで、均質な混合物をメンブランフィルター(RC60、1μm、S&S)上で濾過し、攪拌しつつ(100〜110rpm)50℃に保った。リパーゼPLC(名糖産業)3.0gの添加によって反応を開始し、次いでHPLCに付した。結果を下記の表6、および図4のグラフに示した。
【0061】
【表6】

【0062】
実施例15
反応に対する溶媒の影響を、回分法を用いて調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール48.0g(157.6ミリモル)を、20%(w/v)の酢酸ビニルを含有する充分量の溶媒に、得られる混合物が容量240mlとなるように溶解した。次いで、均質な混合物をメンブランフィルター(RC60、1μm、S&S)上で濾過し、攪拌しつつ(100〜110rpm)50℃に保った。リパーゼPLC(名糖産業)3.0gの添加によって反応を開始し、次いでHPLCに付した。結果を下記の表7に示した。
【0063】
【表7】

【0064】
実施例16
反応に対する各アセチル化剤の影響を、回分法を用いて調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール48.0g(157.6ミリモル)を、20%(w/v)の酢酸エステルを含有する充分量の溶媒に、得られる混合物が容量240mlとなるように溶解した。次いで、均質な混合物をメンブランフィルター(RC60、1μm、S&S)上で濾過し、攪拌しつつ(100〜110rpm)50℃に保った。リパーゼPLC(名糖産業)3.0gの添加によって反応を開始し、次いでHPLCに付した。結果を下記の表8、および図5のグラフに示した。
【0065】
【表8】

【0066】
実施例17
反応に対する各アシル化剤の影響を、回分法を用いて調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール0.5g(1.64ミリモル)をビニルエステル5mlに溶解するか、または懸濁させた。リパーゼPLC(名糖産業)12.5mgの添加によって、反応を開始させ、混合物を室温で17時間攪拌し(ローラー攪拌機)、次いで反応物をHPLCに付した。結果を下記の表9に示した。
【0067】
【表9】

【0068】
実施例18
反応に対する各アシル化剤の影響を、回分法を用いて調べた。(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール0.5g(1.64ミリモル)をビニルエステル5mlに溶解するか、または懸濁させた。Chirazyme L2(Boehringer Mannheim GmbH、以前はNovo NordiskからのNovozym 435)12.5mgの添加によって、反応を開始し、混合物を室温で17時間攪拌し(ローラー攪拌機)、次いで反応物をHPLCに付した。結果を下記の表10に示した。
【0069】
【表10】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例9Aの方法で精製した化合物A((11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノール)を、反復回分法に付した場合の結果を示す図である。
【図2】実施例9Bの方法で精製した化合物Aを反復回分法に付した場合の結果を示す図である。
【図3】反応に対する温度の影響を連続法において検討した結果を示す図である。
【図4】反応に対する温度の影響を回分法において検討した結果を示す図である。
【図5】反応に対する各アセチル化剤の影響を検討した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中、アシル化剤の存在下で、式II:
【化1】


で示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチノールを、懸濁液中に存在する酵素分類群EC3.1.1.3のリパーゼによって選択的にモノアシル化することを含む方法により得られる式I:
【化2】


〔式中、Rは、(C〜C23)アルキル基、または1〜3個の二重結合を有する(C〜C23)アルケニル基を表す〕で示される(11Z,13Z)−7,10−ジヒドロ−10−ヒドロキシレチニルアシラートの、ビタミンAアシラートを製造するための使用。
【請求項2】
リパーゼが、Alcaligenes属の種からのリパーゼPL、リパーゼPLC、リパーゼPLG、Candida cylindracea (Candida rugosa)からのリパーゼMY−30、Mucor miehei(Rhizomucor miehei)からのLipozyme(登録商標名)IM−20、Humicola lanuginosaからのリパーゼCE−5、またはPenicillium cyclopium からのリパーゼGである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
リパーゼが、Candida antarcticaからのChirazyme(登録商標名)L−2である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
Rがメチルを表す、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−143561(P2007−143561A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54727(P2007−54727)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【分割の表示】特願平9−92070の分割
【原出願日】平成9年4月10日(1997.4.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】