説明

アシロキシ酢酸重合体およびその製造方法

より簡易に、より穏和な条件下において、アシロキシ酢酸やグリコール酸およびそのエステル類およびグリコリドを経済的に合成でき、かつ、生分解性ポリマーとしても使用可能なアシロキシ酢酸重合体を提供する。
以下の一般式(1)で表されるアシロキシ酢酸重合体。本発明の好ましい態様においては、上記のアシロキシ酢酸重合体は、酸触媒の存在下、ホルムアルデヒド化合物と一酸化炭素と有機カルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られる。


(一般式(1)中、各R及びRは、それぞれ独立に、水素原子または分岐していてもよい低級アルキル基、nは5以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアシロキシ酢酸重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アシロキシ酢酸の中でも利用価値の高い、アセトキシ酢酸は、農薬や表面処理剤など様々な化学製品を製造する際に合成原料として使用されており、化学工業において重要な化合物である。また、グリコール酸は、化学洗浄剤などの直接的用途の他に、工業用中間体として、また、ポリマー原料および添加剤として重要な化合物である。これらの化合物の合成法としては次の方法が知られている。
【0003】
アセトキシ酢酸については、ベンゼン中でグリコール酸エチルと酢酸とを少量の硫酸と共に加熱し、生じた水と酢酸エチルを除去して合成する方法(例えば非特許文献1参照)、アルカリ金属ヨウ化物、金属酸化物(又は金属酢酸塩)、ヨウ素の三成分共存下、酢酸と酸素ガスとを高温高圧下で反応させる方法(例えば特許文献1参照)等がある。
【0004】
前者の方法は、原料のグリコール酸エチルは刺激性で引火性のある物質であり、取り扱いが容易でなく、また、高価である。後者の方法では、三成分を共存させないと触媒能を発揮しないことから、触媒と生成物との分離操作が繁雑となることやコストが高いこと、生成物であるアセトキシ酢酸の収率が低いこと(実施例におけるアセトキシ酢酸の収率:1重量%)等の問題がある。
【0005】
脂肪族アルデヒドと一酸化炭素とを触媒としてSiO/Alモル比が少なくとも100以上のモルデナイトを使用し、反応媒体中で反応させて、ヒドロキシカルボン酸誘導体を得る方法が提案されており(例えば特許文献2参照)、併せて、ヒドロキシカルボン酸としてアセトキシ酢酸が合成できることが報告されている。ところが、この方法でアセトキシ酢酸の高い収率を得るには170〜200℃という高い温度が必要である。一酸化炭素の様な毒性の高い気体を使用する場合、反応条件は穏和であることが好ましい。更に、SiO/Alのモル比の高いハイシリカタイプのモルデナイトは、通常のモルデナイトと比べて非常に高価である。
【0006】
また、反応媒体中において、硫酸根担持金属酸化物(硫酸根担持ジルコニア、硫酸根担持チタニア及び硫酸根担持酸化スズ)の存在下、ホルムアルデヒドに一酸化炭素と酢酸および/または無水酢酸を反応させ、アセトキシ酢酸を合成する方法が提案されているが、目的物を具体的に単離したことについは報告されていない(例えば特許文献3参照)。
【0007】
グリコール酸およびそのエステル体については、触媒として、硫酸、燐酸、塩酸などの鉱酸を使用し、高圧下、ホルムアルデヒド、水および一酸化炭素を反応させて一段でグリコール酸を製造する方法(例えば特許文献4参照)、ふっ化水素中、常圧下、ホルムアルデヒド、水および一酸化炭素を反応させて一段でグリコール酸を製造する方法(例えば特許文献5参照)等がある。これらの方法では反応液からグリコール酸を分離するために繁雑な操作を必要とすること等の問題点があり、工業的に優れた方法であるとは言えなかった。
【0008】
また、酸触媒存在下、蟻酸エステルとホルムアルデヒドと一酸化炭素との反応により、反応系内に縮合2量体が僅かに生成することが報告されている(例えば特許文献6)。この報告では、生成した2量体はそのまま加水分解または加アルコール分解されており、2量体での単離はなされていない。
【0009】
【非特許文献1】Beilstein、3、233
【特許文献1】特開昭56−63941号公報
【特許文献2】特開平11−147042号公報
【特許文献3】特開2001−335538号公報
【特許文献4】特公昭53−44454号公報
【特許文献5】特開昭51−13719号公報
【特許文献6】特開昭56−122321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、より簡易に、より穏和な条件下において、アシロキシ酢酸やグリコール酸およびそのエステル類およびグリコリドを経済的に合成でき、かつ、生分解性ポリマーとしても使用可能なアシロキシ酢酸重合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、加水分解することによりアシロキシ酢酸やグリコール酸を、加アルコール分解によりアシロキシ酢酸エステルやグリコール酸エステルを、また、加熱分解によりグリコリドを合成することが出来る新規なアシロキシ酢酸重合体およびその製造方法を見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の要旨は、以下の一般式(1)で表されることを特徴とするアシロキシ酢酸重合体に存する。
【0013】

(一般式(1)中、各R及びRは、それぞれ独立に、水素原子または分岐していてもよい低級アルキル基、nは5以上の整数を表す。)
【0014】
そして、本発明の第2の要旨は、酸触媒の存在下、ホルムアルデヒド化合物と一酸化炭素と有機カルボン酸またはその誘導体とを反応させてアシロキシ酢酸誘導体を得、次いで、得られたアシロキシ酢酸誘導体を縮合することを特徴とする、前記の一般式(1)で表されるアシロキシ酢酸重合体の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアシロキシ酢酸重合体は、加水分解によりアシロキシ酢酸やグリコール酸を、加アルコール分解によりアシロキシ酢酸エステルやグリコール酸エステルを、また、加熱分解によりグリコリドを生成することが出来、また、生分解性ポリマーとして使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のアシロキシ酢酸重合体は前記一般式(1)によって表される。前記一般式(1)中、各R及びRは、好ましくは水素原子またはC1〜C6までの低級アルキル基、更に好ましくは、水素原子またはC1〜C4までのアルキル基であり、特に好ましくは水素原子(この場合の化合物はアセトキシ酢酸重合体)である。また、重合度nは、好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは25以上である。nが5以上であれば反応系からの単離がし易いという利点があり、10以上であれば、更に、固化単離し易いため、ハンドリングが容易となる。重合度nの上限は通常10,000である。
【0017】
本発明のアシロキシ酢酸重合体、例えばアセトキシ酢酸重合体は、アルカリで加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにて定量した値として、グリコール酸含量が通常110〜130重量%、アセトキシ含量が通常0.1〜15重量%である。また、その融点は通常120℃以上である。重量平均分子量は通常500〜580,000である。この重合体中には、不純物としてジグリコール酸を含有しているが、その量は、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以下である。
【0018】
本発明のアシロキシ酢酸重合体は、アシロキシ酢酸誘導体を縮合して得られることが好ましい。ここで言うアシロキシ酢酸誘導体としては、アシロキシ酢酸、グリコール酸、アシロキシ酢酸オリゴマー、グリコール酸オリゴマー、それらのエステル等が挙げられる。
【0019】
また、本発明のアシロキシ酢酸重合体は、酸触媒の存在下、ホルムアルデヒド化合物と一酸化炭素と有機カルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られた、上記の様なアシロキシ酢酸誘導体を縮合して得られることが好ましい。特に、酸触媒存在下、有機カルボン酸とアルデヒド化合物と一酸化炭素とを反応させ得られたアシロキシ酢酸誘導体を単離することなく、そのまま縮合させ本発明のアシロキシ酢酸重合体として単離することが好ましい。以下の化学式は上記の一連の反応の一例である。
【0020】

【0021】
上記の酸触媒としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、フッ化水素酸、過塩素酸、硝酸、硫酸、ヘキサフルオロ燐酸、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸などの鉱酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸などのヘテロポリ酸、三フッ化硼素、五フッ化燐、五フッ化アンチモン等のルイス酸、強酸性陽イオン交換樹脂、粘土鉱物、ゼオライト、固形化酸、無機酸化物、無機塩、複合酸化物などの固体酸が挙げられる。
【0022】
強酸性陽イオン交換樹脂としては、官能基がスルホン基である、アンバーリスト15(ロームアンドハース社製)、ダイヤイオンPK228(三菱化学社製)等のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ナフィオン(デュポン社製)等のテトラフルオロエチレン系重合体などが挙げられる。また、粘土鉱物およびゼオライトとしては、モンモリロナイト、カオリナイト、ベントナイト、ハロイサイト、スメクタイト、イライト、パーミキュライト、クロライト、セビオライト、アタパルジャイト、ポリゴスカイト、モルデナイト等が挙げられるが、特に、フッ化水素などの酸により処理したもの又はH型ゼオライトの様に交換可能な金属イオンを水素イオンと交換したものが好ましい。固形化酸としては、ヘテロポリ酸などの酸を活性炭、シリカ等の担体に担持させたものが挙げられる。最終生成物の単離工程を考慮すれば、反応系で溶解しない、固体酸が好ましく、特に強酸性陽イオン交換樹脂(スルホン酸型陽イオン交換樹脂)が好ましい。
【0023】
本発明においては、上記のスルホン酸型陽イオン交換樹脂は、予め酸洗浄して使用するのが好ましい。酸洗浄によりスルホン酸型陽イオン交換樹脂中に不純物として含有される硫酸根を容易に除去することが出来、硫酸根の混入量を低減したアシロキシ酢酸重合体を得ることが出来る。
【0024】
上記の酸洗浄は、例えば、原料として後述する有機カルボン酸を使用して行われる。酸の使用量は、スルホン酸型陽イオン交換樹脂に対する重量比として、通常1〜10倍、好ましくは2〜5倍である。また、酸洗浄の温度は通常10〜150℃、時間は0.5〜10時間である。酸洗浄は、通常、適当な容器中、攪拌下に行われる。斯かる酸洗浄により、スルホン酸型陽イオン交換樹脂中に存在するフリーの硫酸根を除去することが出来、硫酸根の混入量が低減されたアシロキシ酢酸重合体を製造することが出来る。
【0025】
原料のアルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)、ガス状ホルムアルデヒドの他、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、メチラール等の、反応条件下においてホルムアルデヒドを生成する化合物であれば特に限定されない。これらの化合物は2種以上を併用してもよい。また、有機カルボン酸としては、酢酸、プロパン酸、ブタン酸などの他、プロピオール酸などの不飽和結合を有するカルボン酸でもよい。また、有機カルボン酸の誘導体としては、エステル体でも、無水物でもよい。また、前述のアシロキシ酢酸誘導体やその縮合物である本発明のアシロキシ酢酸重合体を製造した後においては、これらを有機カルボン酸の誘導体として使用することも可能である。上記の有機カルボン酸は、反応に関与する他、反応溶媒としての効果もある。その使用量は、原料のホルムアルデヒドのモル数(反応条件下においてホルムアルデヒドを生成する化合物の場合にはホルムアルデヒドに換算したモル数)に対し、通常等モルから100倍モル、好ましくは1〜5倍モルである。有機カルボン酸の誘導体の使用量も同様である。
【0026】
上記の有機カルボン酸以外に反応溶媒を添加してもよい。この際に使用する溶媒種としては、極性、非極性に拘わらず使用できるが、一定の極性を持つ溶媒を使用することにより、アシロキシ酢酸化合物が高収率で得られる。反応媒体として、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0027】
一酸化炭素は、高純度一酸化炭素のみならず、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素および/または二酸化炭素などが混入した一酸化炭素であっても使用することが可能である。
【0028】
反応圧力は、通常10〜200kg/cmであり、好ましくは50〜100kg/cmである。反応温度は、通常80〜200℃、好ましくは100〜150℃である。
【0029】
反応終了後、ろ過などにより反応系から除去された固体酸触媒は、次バッチの触媒としてリサイクル使用することが出来る。これにより、触媒コストを低減することが可能である。
【0030】
また、アシロキシ酢酸誘導体の縮合は加熱縮合であることが、高度な縮合を達成できるので好ましい。反応温度は、通常100〜250℃、好ましくは140〜200℃である。反応圧力は、常圧でもよいが、通常650〜10torr、好ましくは200〜10torrである。縮合反応は副生する酢酸と水を減圧下に除去しながら行う。
【0031】
目的とするアシロキシ酢酸重合体は、縮合反応後、揮発分を除去することにより、固体として単離することが出来、また、縮合反応液に水などの重合体が溶け難い溶媒を添加後、冷却することにより析出させ、通常の方法、例えば、遠心分離などで単離することが出来る。
【0032】
特に固体酸触媒を使用した前記の一連反応は、例えば、ホルマリン濃縮器、固体酸触媒が収容された反応器、酢酸濃縮器、縮合反応器を含む製造設備を使用し、次の様に半連続的に行うことが出来る。
【0033】
先ず、ホルマリン濃縮器にて濃縮されたホルムアルデヒド化合物を有機カルボン酸に溶解して連続的に反応器に供給し、ここに一酸化炭素を連続的供給して反応を行う。そして、アシロキシ酢酸誘導体を含む反応液のみを取り出して酢酸濃縮器に供給し、ここで解圧して発生する一酸化炭素と濃縮によって回収される有機カルボン酸とをそれぞれ反応器に循環する。酢酸濃縮器から取り出したアシロキシ酢酸誘導体の濃縮液を縮合反応器供給し、減圧下に加熱縮合を行ってアシロキシ酢酸重合体を得る。次いで、縮合反応液を取り出し、減圧脱水して、アシロキシ酢酸重合体を回収する。
【0034】
上記の製造方法において、反応器内の水分濃度は、ホルマリン濃縮器における濃縮程度、回収される有機カルボン酸中の水分濃度、その循環使用量などによって異なるが、これらの条件を制御して一定の範囲に維持するのが好ましい。反応器内の水分濃度としては、通常0〜20重量%、好ましくは1〜5重量%である。なお、反応器内の水分濃度の制御を容易にするため、有機カルボン酸として無水酢酸などの酸無水物を使用することも出来る。
【0035】
本発明の好ましい態様におけるアシロキシ酢酸重合体の硫酸根含量は、通常3000ppm以下、好ましくは500ppm以下である。アシロキシ酢酸重合体の硫酸根含量が多い場合は、加水分解、加アルコール分解、加熱分解などにより得られる、アシロキシ酢酸、グリコール酸、グリコリド等の有用化合物中に不純物として硫酸根が含有されることになり、その用途が制限されるという欠点がある。
【0036】
本発明のアシロキシ酢酸重合体は、加水分解によりアシロキシ酢酸やグリコール酸を、加アルコール分解によりアシロキシ酢酸エステルやグリコール酸エステルを、また、加熱分解によりグリコリドを合成することが出来る。例えば、グリコール酸エステルの場合、上記の様な酸触媒の存在下、アセトキシ酢酸重合体に例えば10倍量のメタノールを加えて反応させることにより容易にグリコール酸メチルエステルが得られる。
【0037】
本発明で得られたアシロキシ酢酸重合体の分析方法は次の通りである。
【0038】
融点は、セイコーインスツルメント社製「DSC6200型」の示差走査熱量計を使用し、アルミパンに約3gの試料を詰め、窒素50ml/min雰囲気下、30〜260℃まで10℃/minの速度で昇温し、吸熱ピークの温度を融点として求める。
【0039】
重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とした、GPC分析装置により測定する。測定条件は、カラム温度40℃、流速1ml/minとし、検量線の作成には標準PMMA(ポリメチルメタクリレート)を使用する。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例にて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]:
オートクレーブに、酢酸90.9g、80重量%パラホルムアルデヒド22.5g、触媒として陽イオン交換樹脂15g(ロームアンドハース社製「アンバーリスト15dry」)15gを入れ、一酸化炭素でパージした後、120℃まで昇温し、80kg/cmまで一酸化炭素を導入し、1200rpmでの攪拌下、3時間反応させた。
【0042】
反応終了後、一酸化炭素を解圧し、窒素置換後、反応溶液と触媒とを濾別し、濾過した触媒を酢酸で洗浄した。この反応濾液と触媒洗浄液をそれぞれサンプリングし、アルカリで加水分解し、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製「LC−10A」)を使用して分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースのグリコール酸収率は95モル%であった。また、この濾液をそのまま高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースとして、グリコール酸は8モル%、アセトキシ酢酸は61モル%、アセトキシ酢酸オリゴマーは26モル%であった。
【0043】
攪拌機付三口フラスコに上記の濾液を入れ、100torrの減圧下、140℃までオイルバスで加熱し、副生する酢酸と水を留去しながら、縮合反応を行った。内温140℃で4時間反応後、徐冷し、内温が90℃になった時点で、純水50gを添加し、更に、室温まで冷却した。生成したアセトキシ酢酸重合体を濾過後、60℃で24時間熱風乾燥し、34.2gのアセトキシ酢酸重合体を得た。得られたアセトキシ酢酸重合体は、グリコール酸含量111重量%、アセトキシ含量9.8重量%(アルカリで加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにて定量)であり、不純物であるジグリコール酸の含量は0.1重量%以下であった。仕込みホルムアルデヒドベースの収率は83.2モル%であった。
【0044】
上記のアセトキシ酢酸重合体の融点は、DSCで測定した結果、125℃であり、重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用したGPC測定の結果、4,000(PMMA換算)であり、この値から計算される重合度nは68であった。また、アセトキシ酢酸重合体を濾過した後の濾液について、同様にして分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースとして、10.5モル%のグリコール酸が含まれており、その他にジグリコール酸などの不純物のピークが認められた。
【0045】
[実施例2]:
実施例1において、触媒として、実施例1で使用した後に濾別したイオン交換樹脂をそのままwetの状態で使用し、酢酸は、実施例1で縮合反応時に留去し回収した酢酸溶液を、蒸留精製したものを使用した他は、実施例1と同様に反応を行った。蒸留精製品の水分は0.1重量%(カールフィシャー法)であり、ガスクロマトグラフィーによる分析では、酢酸以外の不純物のピークは特に認められなかった。反応終了後、触媒を濾過し、実施例1と同様に分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースのグリコール酸収率は92モル%であり、触媒の複数回使用が可能であることを確認した。
【0046】
[実施例3]:
実施例1において、イオン交換樹脂としてデュポン社製の「Nafion」を使用し、反応圧力(一酸化炭素分圧)を100kg/cm、反応温度を130℃に変更した他は、実施例1と同様に反応を行った。反応終了後、反応混合物と触媒とを濾別した後、実施例1と同様の分析を行った結果、仕込みホルムアルデヒドベースのグリコール酸収率は95モル%であった。
【0047】
攪拌機付三口フラスコに上記の濾液を入れ、50torrの減圧下、200℃までオイルバスで加熱し、4時間縮合反応を行った。反応後、反応液を冷却すると、そのまま固化した。この固体を粉砕器で粉砕してアセトキシ酢酸重合体の粉体化製品を得た。この製品を分析した結果、グリコール酸含量129重量%、アセトキシ含量1.0重量%(アルカリで加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにて定量)であり、不純物であるジグリコール酸の含量は0.6重量%であり、仕込みホルムアルデヒドベースの収率は89モル%であった。また、融点はDSCで測定した結果205℃であり、重量平均分子量はヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用したGPC測定の結果、11,000(PMMA換算)であり、この値から計算される重合度nは189であった。
【0048】
参考例1:
上記で得られたアセトキシ酢酸重合体を使用して、メチルエステル化反応を行った。すなわち、ハステロイ製オートクレーブ(容量80ml)に、実施例3で得たアセトキシ酢酸重合体1g、メタノール10g、触媒として96重量%硫酸0.26gを仕込み、マグネットスターラーバーを入れ、窒素で置換した。このオートクレーブを封缶し、100℃で3時間反応した後、冷却後、反応液を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、使用したアセトキシ酢酸重合体中のグリコール酸基準として92モル%の収率でグリコール酸メチルエステルが生成していた。
【0049】
[実施例4]:
ガラス製容器に、陽イオン交換樹脂(ロームアンドハース社製「アンバーリスト36wet」)150gを入れ、更に、洗浄溶媒として酢酸750gを入れ、窒素置換した後、100℃で5時間攪拌した。室温まで冷却後、陽イオン交換樹脂と洗浄溶媒とを濾別し、再度、酢酸750gを使用し、上記と同一条件で陽イオン交換樹脂の洗浄を行った。加熱洗浄に使用した酢酸溶媒をサンプリングし、マイクロウエーブで分解した後、イオンクロマトグラフィー用キャリアと蒸発乾固し、希釈後にイオンクロマトグラフィーで溶媒中の硫酸根濃度を測定した。1回目の洗浄溶媒中の硫酸根濃度は170ppm、2回目の洗浄溶媒中の硫酸根濃度は55ppmであった。
【0050】
次いで、触媒として上記の酸洗浄後の陽イオン交換樹脂を使用し、実施例1に準じて反応を行った。すなわち、実施例1において、ホルムアルデヒドとして92重量%パラホルムアルデヒド19.6g、陽イオン交換樹脂触媒30.8g(乾燥基準で約15g)を使用し、反応圧力(一酸化炭素分圧)を70Kg/cmに変更した他は、実施例1と同様に反応を行った。反応終了後、触媒を濾過し、実施例1と同様に分析を行った結果、仕込みホルムアルデヒドベースのグリコール酸収率は92モル%であった。触媒を濾別した反応液(濾液)について、前記と同様に硫酸根濃度を測定した結果、140ppmであった。また、この濾液をそのまま高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースとして、グリコール酸は6モル%、アセトキシ酢酸は60モル%、アセトキシ酢酸オリゴマーは26モル%であった。
【0051】
攪拌機付三口フラスコに上記の濾液を入れ、100torrの減圧下、160℃までオイルバスで加熱し、副生する酢酸と水を留去しながら、縮合反応を行った。内温160℃で4時間反応後、徐冷し、内温が90℃になった時点で、純水50gを添加し、更に、室温まで冷却した。生成したアセトキシ酢酸重合体を濾過後、60℃で24時間熱風乾燥し、33.0gのアセトキシ酢酸重合体を得た。得られたアセトキシ酢酸重合体は、グリコール酸含量118重量%、アセトキシ含量9.8重量%(アルカリで加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにて定量)であり、不純物であるジグリコール酸の含量は0.1重量%以下であった。仕込みホルムアルデヒドベースの収率は85.4モル%であった。また、アセトキシ酢酸重合体の硫酸根含量は470ppmであった。
【0052】
上記のアセトキシ酢酸重合体の融点は、DSCで測定した結果、170℃であり、重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用したGPC測定の結果、6,500(PMMA換算)であり、この値から計算される重合度nは111であった。また、アセトキシ酢酸重合体を濾過した後の濾液について、同様にして分析した結果、仕込みホルムアルデヒドベースとして、6.5モル%のグリコール酸が含まれており、その他にジグリコール酸などの不純物のピークが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表されることを特徴とするアシロキシ酢酸重合体。

(一般式(1)中、各R及びRは、それぞれ独立に、水素原子または分岐していてもよい低級アルキル基、nは5以上の整数を表す。)
【請求項2】
アシロキシ酢酸誘導体を縮合して得られる請求項1に記載のアシロキシ酢酸重合体。
【請求項3】
縮合が加熱縮合である請求項2に記載のアシロキシ酢酸重合体。
【請求項4】
アシロキシ酢酸誘導体が、酸触媒の存在下、ホルムアルデヒド化合物と一酸化炭素と有機カルボン酸またはその誘導体とを反応させて得られるものである、請求項2〜3の何れかに記載のアシロキシ酢酸重合体。
【請求項5】
酸触媒の存在下、ホルムアルデヒド化合物と一酸化炭素と有機カルボン酸またはその誘導体とを反応させてアシロキシ酢酸誘導体を得、次いで、得られたアシロキシ酢酸誘導体を縮合することを特徴とする、前記の一般式(1)で表されるアシロキシ酢酸重合体の製造方法。
【請求項6】
酸酸触媒として予め酸洗浄したスルホン酸型陽イオン交換樹脂を使用する請求項5に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/040246
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515004(P2005−515004)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015852
【国際出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】