説明

アスベストの飛散防止処理法

【課題】アスベストを無害化する処理に際して、予め、アスベストを非飛散状態としておくことを目的としたものであり、無害化作業中、或いは、無害化処理までの間にアスベストを安全な状態としておくことを目的とするものである。
【解決手段】アスベスト(アスベスト含有副資材を含む)を水ガラス液に混合する第1工程、アルコールを前記水ガラス液に加える第2工程、水ガラスとアルコールが前記アスベストを内包しつつ反応・固形化するまで攪拌する第3工程、得られた固形物を加圧して水分を除去する第4工程、とからなるアスベストの飛散防止処理法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として断熱材として天井や壁・柱等の基材に吹き付けられたアスベストの処理工法に関するもので、アスベストの飛散防止を目的としてこれを封じ込める工法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、断熱材などに使用されたアスベストの老化・劣化・剥離飛散が大きな問題となり、いわゆるアスベスト公害として重大な問題となっている。即ち、軽量・微細なアスベストは、大気中に飛散されやすく、その形状が魚の小骨のように尖鋭で、粘膜等に突き刺さると人間の自浄作用では排出が難しい物質である。
【0003】
このため、様々な健康障害・疾病を引き起こすことが言われており、アスベストの吸引によって胸膜尖(胸膜肥厚)が起きたり、石綿肺(アスベスト症)、肺気腫、更には悪性中皮腫や肺ガンを引き起こすことが指摘されている。しかもこれらの障害は疾病や吸引後10〜20年経過してから発症すると言われるだけに、現在できるだけ速やかに対策を講じる必要がある。
【0004】
従って、天井等に吹き付けられたアスベストは、解体作業者が完全防護服を着て、特に周辺に飛散することがないように樹脂製のシートにて作業現場を囲む等の対策を講じてから剥離し、その後廃棄処分とする手段が取られていた。しかしながら、作業者に対しての安全管理は極めて厳重にされなくてはならず、しかも大気に飛散しやすいために周辺にこれが飛び散らないようにする対策も極めて大掛かりなものとなっている。しかも、剥離されたアスベストはそのまま廃棄処分とするわけにはゆかず、しかも腐食しにくいことからその処分時にも作業者の健康、周辺への飛散防止が求められ、永久的な処理対策が立てられなくてはならなかった。
【0005】
現在、アスベスト及びアスベスト含有物質は特別管理産業廃棄物として最終処分場に埋め立てられているがこれにも限度がある。そのため、従来より種々のアスベストの無害化処理技術が提案されている。その代表的なものとしては、例えば、特許文献1に提案される密閉型電気炉溶解法がある。
【0006】
又、アスベスト無害化処理工法として特許文献2がある。これによれば、アスベストとフロン分解物を混合し、この混合物を加熱処理することにとってアスベストを無害化することができるという技術である。
【0007】
しかしながら、前記したようにアスベスト層を剥離する際に多量の粉塵が発生することは避けられず、かつ、処理のためのアスベストの移送中にも粉塵の発生があり、作業者や近隣の人にまで影響があることは否めず、実用化には大きな課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3085959号公報
【特許文献2】特開2005ー168632号公報
【特許文献3】特開2007ー308871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、アスベストを無害化する処理に際して、予め、アスベストを非飛散状態としておくことを目的としたものであり、無害化作業中、或いは、無害化処理までの間にアスベストを安全な状態としておくことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、アスベスト(アスベスト含有副資材を含む)を水ガラス溶液と混合する第1工程、アルコールを前記水ガラス液に加える第2工程、水ガラスとアルコールが前記アスベストを内包しつつ反応・固形化するまで攪拌する第3工程、得られた固形物を加圧して水分を除去する第4工程、とからなるアスベストの飛散防止処理法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上のように建築物等の基材の表面に吹き付けられたアスベストの処理法を提供するものであり、前記したような永久的な無害化処理を行うまで、充分安定な形状を保ち、そして非飛散性の状態を保持できることとなったものである。のみならず、無害化処理を遂行するに際して、これを安全に運搬でき、その作業性も安全が確保されることとなったものである。
【0012】
即ち、飛散性のあるアスベストを所望の形状に固化・成形することにより、かかるアスベストの保管を容易とし、運搬時のアスベスト飛散防止、更には、運搬時の約80%の減容による輸送効率向上やコストの削減、アスベスト無害化処理の際の加熱無害化装置への供給と無害化処理の安定化、CO2の大幅な削減、等が図れることとなったものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアスベスト処理工法は、段落0010項に記載する第1工程〜第4工程からなり、アスベストを水ガラスとアルコールとを反応させて得られるシリコン樹脂中に封じ込める技術である。反応構造的にいえば、水ガラスにアルコールを加えると重合が進行し、Si−O−Si結合がさらに形成されてゴム状のポリシロキサン([Si−O−]n)のゲル状を呈し、このゲルの網目中にアスベスト成分が取り込まれて非飛散固化が達成されるものである。尚、処理できるアスベストとしては特に限定されるものではなく、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アンソフイライト、トレモライト、アクチノライト等の全てのアスベストであり、通常これらは、針状・粉状・綿状にて水ガラスに投入される。
【0014】
「第1工程」
アスベスト(要すれば、アスベスト含有副資材等を含む)を水ガラス溶液と混合する工程である。投入されるアスベストは通常は綿状としたものである。用いられる水ガラスは、単一化合物ではなくNa2O・nSiO2なる化学式で表される液体である。この水ガラスの例としては、JIS-K-1408の表1及び表2にて示されるケイ酸ナトリウム或いはケイ酸ソーダである。尚、かかるアスベストの量は、混合時アスベストの形態にもよるが、水ガラス1重量部に対し、最大7重量部程度までは可能である。
【0015】
「第2工程」
この工程は、水ガラスと反応させるアルコールを加える工程である。アルコールとしては、エチルアルコール(CH3CH2OH)が最も好ましい。
【0016】
「第3工程」
この工程は、アスベストを内包しつつ水ガラスとアルコールとを反応させて固形物を得る工程である。固形物はこの状態ではゼリー状を呈する。このため、具体的には、両者を充分反応させるために、攪拌手段を付加するのが良い。
【0017】
「第4工程」
この工程は、得られたゼリー状の反応・固形物を形状を崩さない程度に加圧し、反応によって得られた水分を浸み出させて成形する工程である。余り大きな力を加えると、固形物が崩れてしまうので注意を要する。
【0018】
このように、本発明にあっては、アスベストの非飛散性、減容積化、安定形状が保たれることとなる。即ち、飛散性が強く言われているアスベスト分が高分子化合物(ポリシロキサン)の中に埋め込まれる状態となり、最終処分されるまでの間安定した状態で保管可能となったものである。
【0019】
本発明の特徴について更に言えば、上記の無害化処理の場所は特に限定されることはなく、場合によっては、アスベストを剥離・粉砕する作業現場でこの工程までを行って安全性を確保し、その後の運搬をしやすくし、これを別の場所へ移動して最終処分工程に移すことも可能となったものである。
【0020】
ここで副資材について言及すれば、例えば、アスベストを剥離する作業現場を完全に覆う養生シ−トであり、或いはアスベストを入れる袋であり、更には、作業者がまとう作業着も同様である。
【実施例】
【0021】
本発明の一例を工程順に従って説明すると、建材などに用いられたアスベスト含有片(アスベスト含有5%の綿状)100gを水ガラス(Na2O・SiO2)液30gと混合した。次いで、エチルアルコールを5ml加えて反応・固化するまで攪拌した。得られたゼリー状の固形物を周囲より加圧し、水分を浸み出させて硬質の固形物を得た。
【0022】
この硬質の固形物は、硬化が進んでおり、手で押したくらいではつぶれることはなく、しかもその内部にアスベスト成分が完全に取り込まれており、この固形物からのアスベストの飛散は全くなかった。
【0023】
(エアーエロージョン試験)
板状に成形した固形物を乾湿繰り返した後、ドライヤーにて風を送って状況を観察した。板状固形物の膨れ、割れ、剥がれなどは全く発生しなかった。
【0024】
(衝撃試験)
アスベスト粉塵飛散防止専門委員会規定の飛散防止処理剤標準試験方法に準拠して試験を行った。板状固形物を乾湿繰り返した後、鋼球を1m上から落下させる方法である。板状固形物にくぼみ、脱落、割れ、剥がれなどは全くなかった。
【0025】
(水溶試験)
常温にて水中に浸漬したが、全く溶けなかった。
【0026】
(最終処分の一例)
本発明者らは、既に特許文献3にて効率の良いアスベストの最終処分法を提供しており、この最終処分法に本発明の成形物がそのまま適用可能である。即ち、本発明にて得られた固形物を炉中に導き、加熱することによって処理するものである。具体的には、アスベスト固形物を電気炉内にて約700℃にて加熱・溶融するものである。これによって、アスベストの繊維形態の消滅、結晶構造の崩壊等を引き起こして無害化できたものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明はアスベストの事前処理法を提供するものであり、前記したような永久的な無害化処理を行うまで、充分安定な形状を保ち、そして非飛散性の状態を保持することができるようになったものである。更に、アスベストの処理に当たって、基本的に加熱手段が必要ではなく、しかも使用する薬剤が比較的安価であり、その作業性もよく、極めて実用性の高い技術である。このように、本発明にあっては、アスベストの最終処分が行われる間の安全性、最終処分場への運搬時の安全性が確保されることとなったものである。
【0028】
尚、安定な形状を保つ(安定化)点についてその特徴を更に言えば、最終処分に当たって、アスベストの定量供給、定量処理を可能としたものであり、かかる転でも、その利用可能性はきわめて高い。
【0029】
更に、実施例でも分かるように、本発明はその処理工程で基本的に熱を使わず、化学反応のみで処理を完成したものである。この種の処理作業にあっては、作業現場は密閉空間であるため高温になり、更に防護服を着て作業するため、アスベスト処理のための熱源を持ち込むのは現実的ではない。本発明はかかる点でもきわめて優れた発明であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストの飛散防止処理法であって、アスベストを水ガラス溶液に混合する第1工程、アルコールをアスベストを混合した前記水ガラス液に加える第2工程、水ガラスとアルコールがアスベストを内包しつつ反応・固形化するまで攪拌する第3工程、得られた固形物を加圧して水分を除去する第4工程、とからなることを特徴とするアスベストの飛散防止処理法。
【請求項2】
水ガラスが、Na2O・nSiO2で表される第1項記載のアスベストの飛散防止処理法。
【請求項3】
水ガラスがケイ酸ナトリウム(Na2SiO2)である請求項1又は請求項2記載のアスベストの飛散防止処理法。
【請求項4】
アルコールがエチルアルコールである請求項1乃至請求項3いずれか1記載のアスベストの飛散防止処理法。

【公開番号】特開2011−179262(P2011−179262A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45835(P2010−45835)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(592068783)株式会社ストリートデザイン (4)
【Fターム(参考)】