アスベスト含有建材剥離装置
【課題】軟らかい断熱材や吸音材から比較的硬い湿式耐火被覆までを短時間で効率的に剥離することができるアスベスト含有建材剥離装置を提供することを課題とする。
【解決手段】アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃11を備えた粗剥離回転体10と、アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20と、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動可能に構成した支持体30と、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10の回転軸12または仕上げ剥離回転体20の回転軸22に着脱可能に接続される回転駆動軸40と、を備えた。
【解決手段】アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃11を備えた粗剥離回転体10と、アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20と、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動可能に構成した支持体30と、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10の回転軸12または仕上げ剥離回転体20の回転軸22に着脱可能に接続される回転駆動軸40と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井、壁、柱や梁などに吹き付けられたアスベスト含有建材の剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、その不燃性、耐火性、断熱性や吸音性に優れていることから、過去において、建築物の天井、壁、柱や梁などに、接着剤と混合されて断熱材や吸音材として吹き付けられたり、乾式又は湿式耐火被覆の構成要素として混合されて吹き付けられたりしていた。しかし、近年では、アスベストは、有害で人体の健康に悪影響を与える要因となることが指摘されており、アスベストを主体とする断熱材や吸音材やアスベストを含む耐火被覆(以下、「アスベスト含有建材」と称する)の除去が急務となっている。
【0003】
アスベスト含有建材の除去作業は、防塵マスクや保護衣を着用した完全防備の専門の作業員が、密閉された室内に隔離されて、ケレン棒やワイヤーブラシなどを使ってアスベスト含有建材を剥離・除去するのが現状である。しかし、この方法では、有害なアスベスト含有建材を取り除くとことはできるものの、作業者が手作業で除去しているため、多大な時間と手間を要し、施工コストの高騰を招いていた。
【0004】
そこで、近年では、遠隔操作が可能なロボットアームによってアスベストを含む乾式耐火被覆や断熱材等の軟質の建材を除去するロボットが開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1,2に記載されたロボットは、ロボットアームの先端に取り付けたノズルから高圧水と研削材等を同時噴射して軟らかい乾式耐火被覆や断熱材等を剥離するようになっている。一方、湿式耐火被覆等の比較的硬い建材も除去できる工具を備えた装置としては、特許文献3に示すように、ロボットアームの先端にノミや回転ブラシを取り付けて回転させることで、アスベストを含む建材を剥離させるものがあった。
【0005】
【特許文献1】特開2008−194566号公報
【特許文献2】特開2008−194564号公報
【特許文献3】特開2008−190279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に示すロボットは、乾式耐火被覆を効率的に剥離することができるものの、湿式耐火被覆は除去することができなかった。
【0007】
一方、特許文献3に示す耐火被覆剥離工具は、概念的レベルに留まっており、種々の問題が残っているのが現状である。すなわち、ロボットアームにノミを用いて耐火被覆を剥離しても、多大な時間と手間を要する。また、鋼棒が所定間隔で取り付けられた回転ブラシを用いた場合には、比較的短時間で耐火被覆を剥離できるが、薄く取り残しができてしまう問題がある。さらに、前記耐火被覆剥離工具では、工具の取替えに多くの時間と手間を要する問題もある。
【0008】
本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、軟らかい断熱材や吸音材から比較的硬い湿式耐火被覆までを短時間で効率的に剥離することができるアスベスト含有建材剥離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃を備えた粗剥離回転体と、アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシを備えた仕上げ剥離回転体と、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とが剥離位置と待機位置とで選択的に移動可能に構成されている支持体と、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体の回転軸または前記仕上げ剥離回転体の回転軸に着脱可能に接続される回転駆動軸と、を備えたことを特徴とするアスベスト含有建材剥離装置である。
【0010】
このような構成によれば、剥離位置に移動させた粗剥離回転体を回転駆動軸に接続して回転させてアスベスト含有建材の粗剥離を行った後に、仕上げ剥離回転体を剥離位置に移動させ回転駆動軸に接続して回転させてアスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うことで、湿式系の硬い耐火被覆であっても短時間で効率的に剥離することができる。すなわち、粗剥離を行うことで、湿式系の硬い耐火被覆であってもその剥離を高速で行えるとともに、その後に仕上げ剥離を行うことで、下地表面の湿式耐火被覆取り残しをなくすことができる。また、支持体によって、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体とを剥離位置と待機位置とで選択的に移動させることができるので、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の切替時間が短くて済む。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記支持体が、ステーと、その中央部分を回動可能に支持するステー回転軸と、を備えており、前記ステーは、その両端部で前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とをそれぞれ軸支していることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0012】
このような構成によれば、アスベスト含有建材剥離装置の構造を簡素化できるとともに、ステーを回転するだけで、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体とが、剥離位置と待機位置間で移動するので、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の切替時間が非常に短くて済む。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記支持体の前記剥離位置側には、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体または前記仕上げ剥離回転体の位置決めを行うためのガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0014】
このような構成によれば、粗剥離回転体および仕上げ剥離回転体とアスベスト含有建材との距離を一定に保つことができるので、アスベスト含有建材の剥離量が一定に保持され、効率的な剥離を行うことができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記ガイド部材が、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪と、この車輪を前記表面に押圧する付勢手段と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0016】
このような構成によれば、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に凹凸がある場合でも、その凹凸を付勢手段で吸収することができる。したがって、アスベスト含有建材剥離装置の動作を直線的にすることができるとともに、剥離されたアスベスト含有建材の表面を平坦にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軟らかい断熱材や吸音材から比較的硬い湿式耐火被覆までを短時間で効率的に剥離することができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態に係るアスベスト含有建材剥離装置は、湿式系の硬いアスベストを除去するための湿式耐火被覆剥離装置1であるが、当然のことながら、軟質の断熱材や吸音材等の効率的に除去できる。
【0019】
湿式耐火被覆剥離装置1は、図1に示すように、遠隔操作可能なロボットアーム2(先端のみ図示)の先端に着脱可能に設けられて、剥離すべき湿式耐火被覆(アスベスト含有建材)に当接させて作動するものである。
【0020】
湿式耐火被覆剥離装置1は、湿式耐火被覆の粗剥離を行う刃11を備えた粗剥離回転体10と、湿式耐火被覆の仕上げ剥離を行うブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20とを備えている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20は、支持体30によって、それぞれ回転可能に軸支されている。支持体30は、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を、剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動させるように構成されている。また、剥離位置P1の側部には、粗剥離回転体10の回転軸12または仕上げ剥離回転体20の回転軸22に着脱可能に接続される回転駆動軸40が設けられている。さらに、支持体30の剥離位置P1側には、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の位置決めを行うためのガイド部材50が設けられている。
【0021】
粗剥離回転体10は、図1および図2に示すように、スチール製の回転筒13と、その周囲に取り付けられた複数の刃11とを備えている。なお、粗剥離は、複数設けられた刃11によって、湿式耐火被覆を大きな塊で粗く削って剥離する工程である。回転筒13は、例えば200mm程度の外径を有している。刃11は、スチールにて形成されており、42.5mm程度の長さと9mm程度の厚さを有している。複数の刃11は、回転筒13の周方向および軸方向に沿って所定のピッチで取り付けられている。刃11は、先端面に1.8mmの平坦部を残して45度での切欠き部が形成されており、先細り形状に形成されている。刃11は、回転筒13の周方向に間隔をあけて配置されており、22.5度ピッチで取り付けられている(図2参照)。なお、刃11および回転筒13の材質はスチールに限定されるものではなく、湿式耐火被覆を剥離可能な強度を備えていれば、他の材質であってもよい。
【0022】
回転筒13の軸方向両端には、回転軸12が同軸状に設けられている。回転筒13は、回転軸12を介して、支持体30に回転可能に軸支されている。図1および図4の(a)に示すように、回転軸12の一端部には、複数の歯14a(図4の(a)参照)を有するカム14が軸方向に移動可能に設けられている。このカム14が回転駆動軸40のギヤ部41(図1参照)に噛み合うことで、回転軸12と回転駆動軸40が連結されるようになっている。カム14には、図4の(a)参照に示すように、120度ピッチで3つの歯14aが放射状に設けられている。歯14aは、先端部が幅広に形成され、ギヤ部41との噛合性が高められている。なお、回転軸12には、カム14を回転駆動軸40との連結位置で固定するロックピン15が設けられている。
【0023】
仕上げ剥離回転体20は、図1および図2に示すように、スチール製の回転筒23と、その周囲に取り付けられたブラシ21とを備えている。なお、仕上げ剥離は、ブラシ21で、粗剥離で残された湿式耐火被覆の取り残しを剥離する工程である。ブラシ21は、ポリプロピレンやポリアミド等の合成樹脂にて構成されたブラシ繊維を複数束ねて、帯状の束形状に形成されている。ブラシ繊維の断面は、例えば、楕円形(ポリプロピレン製)、三角形(ポリプロピレン製)や円形(ポリアミド製)等の種々の形状のものがある。本実施形態のブラシ21は、一種の断面形状のブラシ繊維で統一されて形成されている。なお、複数の種類のブラシ繊維を混ぜ合わせたり、設置場所ごとにブラシ繊維の種類を変えたりしてもよい。ブラシ21は、複数設けられ、回転筒23の周方向に間隔をあけて配置されており、45度ピッチで取り付けられている(図2参照)。各ブラシ21は、回転筒23の軸方向に沿って延在されている。
【0024】
回転筒23の軸方向両端には、回転軸22が同軸状に設けられている。回転筒23は、回転軸22を介して、支持体30に回転可能に軸支されている。図1および図4の(a)に示すように、回転軸22の一端部には、複数の歯を有するカム24が軸方向に移動可能に設けられている。このカム24が回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合うことで、回転軸22と回転駆動軸40が連結されるようになっている。回転軸22には、カム24を回転駆動軸40との連結位置で固定するロックピン25が設けられている。回転軸22、カム24、歯24aおよびロックピン25は、それぞれ粗剥離回転体10の回転軸12、カム14、歯14aおよびロックピン15と同等の形状に構成されている。
【0025】
支持体30は、図1に示すように、ロボットアーム2の先端に取り付けられる固定フレーム部31と、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を支持するステー32と、固定フレーム部31に固定されステー32の中央部分を回動可能に支持するステー回転軸33と、を備えている。ステー32には、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20をそれぞれ覆うカバー部材36,36が設けられている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20が配置されるスペースのうち、ロボットアーム2側である基端側が待機位置P2となり、その反対の先端側が剥離位置P1となる。
【0026】
固定フレーム部31は、ベース部31aと、その両端から剥離位置P1側に直角に屈曲して延出する一対のアーム部31b,31bとで構成されている。つまり、固定フレーム部31は、平面視コ字状を呈している。ベース部31aとアーム部31b,31bは、それぞれスチール製の角パイプにて構成されている。一対のアーム部31b,31b間に、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが配置されている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20は、それぞれがベース部31aと平行となるように配置されている。
【0027】
アーム部31bの先端は、剥離位置P1よりも基端側に下がった部分に位置し、剥離位置P1にある粗剥離回転体10の刃11または仕上げ剥離回転体20のブラシ21が、アーム部31bの先端よりも、剥離すべき湿式耐火被覆側に突出するようになっている。
【0028】
ステー32は、図1および図3に示すように、横長長方形の平板状に形成されており、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とを軸方向両側からそれぞれ挟持するように一対設けられている。ステー32は、その両端部に軸受35,35が設けられており、この軸受35を介して粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とをそれぞれ回転可能に軸支している。
【0029】
カバー部材36は、図1乃至図4に示すように、剥離した湿式耐火被覆の周囲への飛散を抑制するために設けられている。カバー部材36は、ステー32に固定されており、粗剥離回転体10および仕上げ剥離回転体20と一定的に回転する。カバー部材36は、剥離位置P1に位置したときに、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の前方が開放される形状を呈している。
【0030】
ステー回転軸33は、ステー32の長手方向中間部に接続されており、アーム部31bの先端に、ブラケット31cを介して軸支されている。これによって、ステー32がステー回転軸33を中心に回転可能となっている。そして、ステー32を回転させることによって、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが、剥離位置P1と待機位置P2とで、選択的に移動することとなる。つまり、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の一方を剥離位置P1に位置させると他方が待機位置P2に位置することとなる。剥離位置P1に移動された粗剥離回転体10(または仕上げ剥離回転体20)は、カム14(またはカム24)を回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合わせて、回転軸12(または回転軸22)と回転駆動軸40とを連結することで、剥離位置P1に固定される。
【0031】
なお、本実施形態では、ステー32とステー回転軸33は、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を挟持すべく、各回転体10,20の軸方向両端に設けられているが、これに限定されるものではない。粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の軸方向一端にステーとステー回転軸を設け、片持ち支持としてもよい。
【0032】
回転駆動軸40は、図1に示すように、固定フレーム部31の一方のアーム部31bの先端のブラケット31cに、回転駆動軸40が軸受43を介して取り付けられている。回転駆動軸40は、ステー回転軸33と平行となる位置に、剥離位置P1の側部に隣り合うように設けられている。回転駆動軸40は、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20と同軸状に配置されている。回転駆動軸40の剥離位置P1側となる先端部には、カム14,24に噛合するギヤ部41が形成されている。回転駆動軸40の基端部には、駆動力伝達ベルト44が巻き掛けられるプーリ部45が形成されている。
【0033】
固定フレーム部31のベース部31aには、回転駆動軸40を回転させるための駆動モータ46が固定されている。駆動モータ46は、高圧タイプの油圧モータにて構成されており、ボルト48aおよびナット48bにてベース部31aに固定されている。駆動モータ46の駆動軸46aにはプーリ47が装着されており、このプーリ47と、回転駆動軸40のプーリ部45とに、駆動力伝達ベルト44が巻き掛けられている。
【0034】
固定フレーム部31の両方のアーム部31bの先端(支持体30の剥離位置P1側)には、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の、剥離すべき湿式耐火被覆面に対する位置決めを行うためのガイド部材50が設けられている。
【0035】
ガイド部材50は、剥離すべき湿式耐火被覆または湿式耐火被覆が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪51と、この車輪51を表面に押圧する付勢手段52と、を備えて構成されている。車輪51は、アーム部31bに設けられたロッド部材53の先端に回転可能に軸支されている。ロッド部材53は、アーム部31bの先端にその軸方向に移動自在に挿入されている。付勢手段52は、アーム部31bとロッド部材53との間に介設されたスプリングにて構成されている。車輪51が湿式耐火被覆または湿式耐火被覆が吹き付けられている下地の表面に押さえつけられたときに、ロッド部材53がアーム部31bの奥に押し込まれて、付勢手段52が圧縮される。そして、付勢手段52が適度な反発力で車輪51を表面に押し返して付勢することで、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20と剥離すべき湿式耐火被覆面との距離を所定の長さに保持する。また、付勢手段52は、湿式耐火被覆表面の凹凸を吸収する役目も果たす。
【0036】
以上のような構成の湿式耐火被覆剥離装置1を用いて湿式耐火被覆を剥離するに際しては、まず、ステー32を手動で回転させて粗剥離回転体10を剥離位置P1に移動させる。そして、カム14を、回転駆動軸40側へ手動で移動させて、カム14の歯14aをギヤ部41に噛み合せる。その後、ロボットアーム2を作動させて、湿式耐火被覆剥離装置1を剥離すべき湿式耐火被覆の位置に移動させる。そして、駆動モータ46を作動させて、駆動力伝達ベルト44を介して回転駆動軸40を回転させる。これによって、カム14を介して、粗剥離回転体10の回転軸12へと回転力が伝達され、粗剥離回転体10が回転する。そして、回転する刃11によって、湿式耐火被覆が掻き取られながら高速で剥離される。このとき、スチール製の刃11は所定の強度を有し、多くの湿式耐火被覆を大きい寸法の塊ごとにまとめて剥離できるので、湿式系の硬い湿式耐火被覆であっても短時間で効率的に剥離することができる。また、刃11は、回転筒13の周方向および軸方向に沿って多数設けられているので、高速で剥離を行うことができる。
【0037】
さらに、ガイド部材50の車輪51が、湿式耐火被覆の表面に沿って回動するので、粗剥離回転体10が湿式耐火被覆との間で適度な距離を保つことができる。これによって、剥離量が一定に保たれるので、湿式耐火被覆の剥離を効率的に行うことができる。また、湿式耐火被覆表面の凹凸はスプリングからなる付勢手段52が伸縮して、ロッド部材53がアーム部31b内に押し込まれることによって、吸収することができる。したがって、ロボットアーム2を直線的に移動させることができるのでその制御が容易になる。
【0038】
湿式耐火被覆の粗剥離が終了したならば、ロックピン15を押して、カム14の固定を解除し、カム14を、回転駆動軸40のギヤ部41から離間させる。そして、ステー32を手動で180度回転させて、仕上げ剥離回転体20を剥離位置P1に移動させる。そして、カム24を、回転駆動軸40側へ手動で移動させて、ギヤ部41に噛み合せる。その後、ロボットアーム2を作動させて、湿式耐火被覆剥離装置1を剥離すべき湿式耐火被覆の位置に移動させる。そして、駆動モータ46を作動させて、回転駆動軸40を回転させる。これによって、カム24を介して、仕上げ剥離回転体20の回転軸22へと回転力が伝達され、仕上げ剥離回転体20が回転する。そして、回転するブラシ21によって、下地近傍の湿式耐火被覆が剥離されて、下地表面が露出する。このとき、ブラシ21は合成樹脂にて構成されているので、下地に凹凸が有る場合や、壁面と天井面との入隅部であっても、下地表面に沿わすことができる。したがって、湿式耐火被覆が薄く取り残されることなく、全ての湿式耐火被覆を確実に剥離することができる。
【0039】
また、ガイド部材50の車輪51が、湿式耐火被覆の表面に沿って回動するので、仕上げ剥離回転体20が湿式耐火被覆との間で適度な距離を保つことができ、効率的に湿式耐火被覆の剥離を行うことができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る湿式耐火被覆剥離装置1によれば、硬質の刃11を備えた粗剥離回転体10で粗剥離を行うことで、湿式系の硬い湿式耐火被覆であってもその剥離を高速で行えるとともに、その後にブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20で仕上げ剥離を行うことで、下地表面の湿式耐火被覆の薄い取り残しをなくすことができる。
【0041】
また、支持体30によって、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動するので、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20の切替時間が短くて済む。特に、本実施形態では、支持体30が、ステー32と、ステー回転軸33と、を備えており、ステー32は、その両端部で粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とをそれぞれ軸支しているので、湿式耐火被覆剥離装置1の構造を簡素化できる。これと合わせて、ステー32を回転させるだけで、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を、剥離位置P1と待機位置P2とで移動させることができるので、移動手間が非常に少なくて済むといった作用効果も得られる。また、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を移動させた後は、カム14,24を回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合せるだけで容易に固定することができるとともに、回転力を伝達することができる。
【0042】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を一体的に支持するステー32を手動で回転させて、カム14,24を手動でギヤ部41に噛み合せるようにしているが、これらの動作を自動で行う駆動手段を設けるようにしてもよい。
【0043】
また、前記実施形態では、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20の二つの回転体を、剥離位置P1と待機位置P2間で移動させるようにしているが、これに限定されるものではなく、さらに他の回転体を設けて、三つ以上の回転体を、一つの剥離位置と複数の待機位置間で移動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)を実施するための最良の形態を示した一部断面平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)を実施するための最良の形態を示した要部平面図である。
【図4】(a)は図1のB−B線矢視図、(b)は図1のC−C線矢視図である。
【図5】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)のガイド部材を示した側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 湿式耐火被覆剥離装置(アスベスト含有建材剥離装置)
10 粗剥離回転体
11 刃
12 回転軸
20 仕上げ剥離回転体
21 ブラシ
22 回転軸
30 支持体
32 ステー
33 ステー回転軸
40 回転駆動軸
50 ガイド部材
51 車輪
52 付勢手段
P1 剥離位置
P2 待機位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井、壁、柱や梁などに吹き付けられたアスベスト含有建材の剥離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、その不燃性、耐火性、断熱性や吸音性に優れていることから、過去において、建築物の天井、壁、柱や梁などに、接着剤と混合されて断熱材や吸音材として吹き付けられたり、乾式又は湿式耐火被覆の構成要素として混合されて吹き付けられたりしていた。しかし、近年では、アスベストは、有害で人体の健康に悪影響を与える要因となることが指摘されており、アスベストを主体とする断熱材や吸音材やアスベストを含む耐火被覆(以下、「アスベスト含有建材」と称する)の除去が急務となっている。
【0003】
アスベスト含有建材の除去作業は、防塵マスクや保護衣を着用した完全防備の専門の作業員が、密閉された室内に隔離されて、ケレン棒やワイヤーブラシなどを使ってアスベスト含有建材を剥離・除去するのが現状である。しかし、この方法では、有害なアスベスト含有建材を取り除くとことはできるものの、作業者が手作業で除去しているため、多大な時間と手間を要し、施工コストの高騰を招いていた。
【0004】
そこで、近年では、遠隔操作が可能なロボットアームによってアスベストを含む乾式耐火被覆や断熱材等の軟質の建材を除去するロボットが開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1,2に記載されたロボットは、ロボットアームの先端に取り付けたノズルから高圧水と研削材等を同時噴射して軟らかい乾式耐火被覆や断熱材等を剥離するようになっている。一方、湿式耐火被覆等の比較的硬い建材も除去できる工具を備えた装置としては、特許文献3に示すように、ロボットアームの先端にノミや回転ブラシを取り付けて回転させることで、アスベストを含む建材を剥離させるものがあった。
【0005】
【特許文献1】特開2008−194566号公報
【特許文献2】特開2008−194564号公報
【特許文献3】特開2008−190279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に示すロボットは、乾式耐火被覆を効率的に剥離することができるものの、湿式耐火被覆は除去することができなかった。
【0007】
一方、特許文献3に示す耐火被覆剥離工具は、概念的レベルに留まっており、種々の問題が残っているのが現状である。すなわち、ロボットアームにノミを用いて耐火被覆を剥離しても、多大な時間と手間を要する。また、鋼棒が所定間隔で取り付けられた回転ブラシを用いた場合には、比較的短時間で耐火被覆を剥離できるが、薄く取り残しができてしまう問題がある。さらに、前記耐火被覆剥離工具では、工具の取替えに多くの時間と手間を要する問題もある。
【0008】
本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、軟らかい断熱材や吸音材から比較的硬い湿式耐火被覆までを短時間で効率的に剥離することができるアスベスト含有建材剥離装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃を備えた粗剥離回転体と、アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシを備えた仕上げ剥離回転体と、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とが剥離位置と待機位置とで選択的に移動可能に構成されている支持体と、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体の回転軸または前記仕上げ剥離回転体の回転軸に着脱可能に接続される回転駆動軸と、を備えたことを特徴とするアスベスト含有建材剥離装置である。
【0010】
このような構成によれば、剥離位置に移動させた粗剥離回転体を回転駆動軸に接続して回転させてアスベスト含有建材の粗剥離を行った後に、仕上げ剥離回転体を剥離位置に移動させ回転駆動軸に接続して回転させてアスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うことで、湿式系の硬い耐火被覆であっても短時間で効率的に剥離することができる。すなわち、粗剥離を行うことで、湿式系の硬い耐火被覆であってもその剥離を高速で行えるとともに、その後に仕上げ剥離を行うことで、下地表面の湿式耐火被覆取り残しをなくすことができる。また、支持体によって、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体とを剥離位置と待機位置とで選択的に移動させることができるので、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の切替時間が短くて済む。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記支持体が、ステーと、その中央部分を回動可能に支持するステー回転軸と、を備えており、前記ステーは、その両端部で前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とをそれぞれ軸支していることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0012】
このような構成によれば、アスベスト含有建材剥離装置の構造を簡素化できるとともに、ステーを回転するだけで、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体とが、剥離位置と待機位置間で移動するので、粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の切替時間が非常に短くて済む。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記支持体の前記剥離位置側には、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体または前記仕上げ剥離回転体の位置決めを行うためのガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0014】
このような構成によれば、粗剥離回転体および仕上げ剥離回転体とアスベスト含有建材との距離を一定に保つことができるので、アスベスト含有建材の剥離量が一定に保持され、効率的な剥離を行うことができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記ガイド部材が、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪と、この車輪を前記表面に押圧する付勢手段と、を備えていることを特徴とする請求項3に記載のアスベスト含有建材剥離装置である。
【0016】
このような構成によれば、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に凹凸がある場合でも、その凹凸を付勢手段で吸収することができる。したがって、アスベスト含有建材剥離装置の動作を直線的にすることができるとともに、剥離されたアスベスト含有建材の表面を平坦にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軟らかい断熱材や吸音材から比較的硬い湿式耐火被覆までを短時間で効率的に剥離することができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態に係るアスベスト含有建材剥離装置は、湿式系の硬いアスベストを除去するための湿式耐火被覆剥離装置1であるが、当然のことながら、軟質の断熱材や吸音材等の効率的に除去できる。
【0019】
湿式耐火被覆剥離装置1は、図1に示すように、遠隔操作可能なロボットアーム2(先端のみ図示)の先端に着脱可能に設けられて、剥離すべき湿式耐火被覆(アスベスト含有建材)に当接させて作動するものである。
【0020】
湿式耐火被覆剥離装置1は、湿式耐火被覆の粗剥離を行う刃11を備えた粗剥離回転体10と、湿式耐火被覆の仕上げ剥離を行うブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20とを備えている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20は、支持体30によって、それぞれ回転可能に軸支されている。支持体30は、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を、剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動させるように構成されている。また、剥離位置P1の側部には、粗剥離回転体10の回転軸12または仕上げ剥離回転体20の回転軸22に着脱可能に接続される回転駆動軸40が設けられている。さらに、支持体30の剥離位置P1側には、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の位置決めを行うためのガイド部材50が設けられている。
【0021】
粗剥離回転体10は、図1および図2に示すように、スチール製の回転筒13と、その周囲に取り付けられた複数の刃11とを備えている。なお、粗剥離は、複数設けられた刃11によって、湿式耐火被覆を大きな塊で粗く削って剥離する工程である。回転筒13は、例えば200mm程度の外径を有している。刃11は、スチールにて形成されており、42.5mm程度の長さと9mm程度の厚さを有している。複数の刃11は、回転筒13の周方向および軸方向に沿って所定のピッチで取り付けられている。刃11は、先端面に1.8mmの平坦部を残して45度での切欠き部が形成されており、先細り形状に形成されている。刃11は、回転筒13の周方向に間隔をあけて配置されており、22.5度ピッチで取り付けられている(図2参照)。なお、刃11および回転筒13の材質はスチールに限定されるものではなく、湿式耐火被覆を剥離可能な強度を備えていれば、他の材質であってもよい。
【0022】
回転筒13の軸方向両端には、回転軸12が同軸状に設けられている。回転筒13は、回転軸12を介して、支持体30に回転可能に軸支されている。図1および図4の(a)に示すように、回転軸12の一端部には、複数の歯14a(図4の(a)参照)を有するカム14が軸方向に移動可能に設けられている。このカム14が回転駆動軸40のギヤ部41(図1参照)に噛み合うことで、回転軸12と回転駆動軸40が連結されるようになっている。カム14には、図4の(a)参照に示すように、120度ピッチで3つの歯14aが放射状に設けられている。歯14aは、先端部が幅広に形成され、ギヤ部41との噛合性が高められている。なお、回転軸12には、カム14を回転駆動軸40との連結位置で固定するロックピン15が設けられている。
【0023】
仕上げ剥離回転体20は、図1および図2に示すように、スチール製の回転筒23と、その周囲に取り付けられたブラシ21とを備えている。なお、仕上げ剥離は、ブラシ21で、粗剥離で残された湿式耐火被覆の取り残しを剥離する工程である。ブラシ21は、ポリプロピレンやポリアミド等の合成樹脂にて構成されたブラシ繊維を複数束ねて、帯状の束形状に形成されている。ブラシ繊維の断面は、例えば、楕円形(ポリプロピレン製)、三角形(ポリプロピレン製)や円形(ポリアミド製)等の種々の形状のものがある。本実施形態のブラシ21は、一種の断面形状のブラシ繊維で統一されて形成されている。なお、複数の種類のブラシ繊維を混ぜ合わせたり、設置場所ごとにブラシ繊維の種類を変えたりしてもよい。ブラシ21は、複数設けられ、回転筒23の周方向に間隔をあけて配置されており、45度ピッチで取り付けられている(図2参照)。各ブラシ21は、回転筒23の軸方向に沿って延在されている。
【0024】
回転筒23の軸方向両端には、回転軸22が同軸状に設けられている。回転筒23は、回転軸22を介して、支持体30に回転可能に軸支されている。図1および図4の(a)に示すように、回転軸22の一端部には、複数の歯を有するカム24が軸方向に移動可能に設けられている。このカム24が回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合うことで、回転軸22と回転駆動軸40が連結されるようになっている。回転軸22には、カム24を回転駆動軸40との連結位置で固定するロックピン25が設けられている。回転軸22、カム24、歯24aおよびロックピン25は、それぞれ粗剥離回転体10の回転軸12、カム14、歯14aおよびロックピン15と同等の形状に構成されている。
【0025】
支持体30は、図1に示すように、ロボットアーム2の先端に取り付けられる固定フレーム部31と、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を支持するステー32と、固定フレーム部31に固定されステー32の中央部分を回動可能に支持するステー回転軸33と、を備えている。ステー32には、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20をそれぞれ覆うカバー部材36,36が設けられている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20が配置されるスペースのうち、ロボットアーム2側である基端側が待機位置P2となり、その反対の先端側が剥離位置P1となる。
【0026】
固定フレーム部31は、ベース部31aと、その両端から剥離位置P1側に直角に屈曲して延出する一対のアーム部31b,31bとで構成されている。つまり、固定フレーム部31は、平面視コ字状を呈している。ベース部31aとアーム部31b,31bは、それぞれスチール製の角パイプにて構成されている。一対のアーム部31b,31b間に、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが配置されている。粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20は、それぞれがベース部31aと平行となるように配置されている。
【0027】
アーム部31bの先端は、剥離位置P1よりも基端側に下がった部分に位置し、剥離位置P1にある粗剥離回転体10の刃11または仕上げ剥離回転体20のブラシ21が、アーム部31bの先端よりも、剥離すべき湿式耐火被覆側に突出するようになっている。
【0028】
ステー32は、図1および図3に示すように、横長長方形の平板状に形成されており、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とを軸方向両側からそれぞれ挟持するように一対設けられている。ステー32は、その両端部に軸受35,35が設けられており、この軸受35を介して粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とをそれぞれ回転可能に軸支している。
【0029】
カバー部材36は、図1乃至図4に示すように、剥離した湿式耐火被覆の周囲への飛散を抑制するために設けられている。カバー部材36は、ステー32に固定されており、粗剥離回転体10および仕上げ剥離回転体20と一定的に回転する。カバー部材36は、剥離位置P1に位置したときに、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の前方が開放される形状を呈している。
【0030】
ステー回転軸33は、ステー32の長手方向中間部に接続されており、アーム部31bの先端に、ブラケット31cを介して軸支されている。これによって、ステー32がステー回転軸33を中心に回転可能となっている。そして、ステー32を回転させることによって、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが、剥離位置P1と待機位置P2とで、選択的に移動することとなる。つまり、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の一方を剥離位置P1に位置させると他方が待機位置P2に位置することとなる。剥離位置P1に移動された粗剥離回転体10(または仕上げ剥離回転体20)は、カム14(またはカム24)を回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合わせて、回転軸12(または回転軸22)と回転駆動軸40とを連結することで、剥離位置P1に固定される。
【0031】
なお、本実施形態では、ステー32とステー回転軸33は、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を挟持すべく、各回転体10,20の軸方向両端に設けられているが、これに限定されるものではない。粗剥離回転体と仕上げ剥離回転体の軸方向一端にステーとステー回転軸を設け、片持ち支持としてもよい。
【0032】
回転駆動軸40は、図1に示すように、固定フレーム部31の一方のアーム部31bの先端のブラケット31cに、回転駆動軸40が軸受43を介して取り付けられている。回転駆動軸40は、ステー回転軸33と平行となる位置に、剥離位置P1の側部に隣り合うように設けられている。回転駆動軸40は、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20と同軸状に配置されている。回転駆動軸40の剥離位置P1側となる先端部には、カム14,24に噛合するギヤ部41が形成されている。回転駆動軸40の基端部には、駆動力伝達ベルト44が巻き掛けられるプーリ部45が形成されている。
【0033】
固定フレーム部31のベース部31aには、回転駆動軸40を回転させるための駆動モータ46が固定されている。駆動モータ46は、高圧タイプの油圧モータにて構成されており、ボルト48aおよびナット48bにてベース部31aに固定されている。駆動モータ46の駆動軸46aにはプーリ47が装着されており、このプーリ47と、回転駆動軸40のプーリ部45とに、駆動力伝達ベルト44が巻き掛けられている。
【0034】
固定フレーム部31の両方のアーム部31bの先端(支持体30の剥離位置P1側)には、剥離位置P1に位置する粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20の、剥離すべき湿式耐火被覆面に対する位置決めを行うためのガイド部材50が設けられている。
【0035】
ガイド部材50は、剥離すべき湿式耐火被覆または湿式耐火被覆が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪51と、この車輪51を表面に押圧する付勢手段52と、を備えて構成されている。車輪51は、アーム部31bに設けられたロッド部材53の先端に回転可能に軸支されている。ロッド部材53は、アーム部31bの先端にその軸方向に移動自在に挿入されている。付勢手段52は、アーム部31bとロッド部材53との間に介設されたスプリングにて構成されている。車輪51が湿式耐火被覆または湿式耐火被覆が吹き付けられている下地の表面に押さえつけられたときに、ロッド部材53がアーム部31bの奥に押し込まれて、付勢手段52が圧縮される。そして、付勢手段52が適度な反発力で車輪51を表面に押し返して付勢することで、粗剥離回転体10または仕上げ剥離回転体20と剥離すべき湿式耐火被覆面との距離を所定の長さに保持する。また、付勢手段52は、湿式耐火被覆表面の凹凸を吸収する役目も果たす。
【0036】
以上のような構成の湿式耐火被覆剥離装置1を用いて湿式耐火被覆を剥離するに際しては、まず、ステー32を手動で回転させて粗剥離回転体10を剥離位置P1に移動させる。そして、カム14を、回転駆動軸40側へ手動で移動させて、カム14の歯14aをギヤ部41に噛み合せる。その後、ロボットアーム2を作動させて、湿式耐火被覆剥離装置1を剥離すべき湿式耐火被覆の位置に移動させる。そして、駆動モータ46を作動させて、駆動力伝達ベルト44を介して回転駆動軸40を回転させる。これによって、カム14を介して、粗剥離回転体10の回転軸12へと回転力が伝達され、粗剥離回転体10が回転する。そして、回転する刃11によって、湿式耐火被覆が掻き取られながら高速で剥離される。このとき、スチール製の刃11は所定の強度を有し、多くの湿式耐火被覆を大きい寸法の塊ごとにまとめて剥離できるので、湿式系の硬い湿式耐火被覆であっても短時間で効率的に剥離することができる。また、刃11は、回転筒13の周方向および軸方向に沿って多数設けられているので、高速で剥離を行うことができる。
【0037】
さらに、ガイド部材50の車輪51が、湿式耐火被覆の表面に沿って回動するので、粗剥離回転体10が湿式耐火被覆との間で適度な距離を保つことができる。これによって、剥離量が一定に保たれるので、湿式耐火被覆の剥離を効率的に行うことができる。また、湿式耐火被覆表面の凹凸はスプリングからなる付勢手段52が伸縮して、ロッド部材53がアーム部31b内に押し込まれることによって、吸収することができる。したがって、ロボットアーム2を直線的に移動させることができるのでその制御が容易になる。
【0038】
湿式耐火被覆の粗剥離が終了したならば、ロックピン15を押して、カム14の固定を解除し、カム14を、回転駆動軸40のギヤ部41から離間させる。そして、ステー32を手動で180度回転させて、仕上げ剥離回転体20を剥離位置P1に移動させる。そして、カム24を、回転駆動軸40側へ手動で移動させて、ギヤ部41に噛み合せる。その後、ロボットアーム2を作動させて、湿式耐火被覆剥離装置1を剥離すべき湿式耐火被覆の位置に移動させる。そして、駆動モータ46を作動させて、回転駆動軸40を回転させる。これによって、カム24を介して、仕上げ剥離回転体20の回転軸22へと回転力が伝達され、仕上げ剥離回転体20が回転する。そして、回転するブラシ21によって、下地近傍の湿式耐火被覆が剥離されて、下地表面が露出する。このとき、ブラシ21は合成樹脂にて構成されているので、下地に凹凸が有る場合や、壁面と天井面との入隅部であっても、下地表面に沿わすことができる。したがって、湿式耐火被覆が薄く取り残されることなく、全ての湿式耐火被覆を確実に剥離することができる。
【0039】
また、ガイド部材50の車輪51が、湿式耐火被覆の表面に沿って回動するので、仕上げ剥離回転体20が湿式耐火被覆との間で適度な距離を保つことができ、効率的に湿式耐火被覆の剥離を行うことができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る湿式耐火被覆剥離装置1によれば、硬質の刃11を備えた粗剥離回転体10で粗剥離を行うことで、湿式系の硬い湿式耐火被覆であってもその剥離を高速で行えるとともに、その後にブラシ21を備えた仕上げ剥離回転体20で仕上げ剥離を行うことで、下地表面の湿式耐火被覆の薄い取り残しをなくすことができる。
【0041】
また、支持体30によって、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とが剥離位置P1と待機位置P2とで選択的に移動するので、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20の切替時間が短くて済む。特に、本実施形態では、支持体30が、ステー32と、ステー回転軸33と、を備えており、ステー32は、その両端部で粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20とをそれぞれ軸支しているので、湿式耐火被覆剥離装置1の構造を簡素化できる。これと合わせて、ステー32を回転させるだけで、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を、剥離位置P1と待機位置P2とで移動させることができるので、移動手間が非常に少なくて済むといった作用効果も得られる。また、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を移動させた後は、カム14,24を回転駆動軸40のギヤ部41に噛み合せるだけで容易に固定することができるとともに、回転力を伝達することができる。
【0042】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20を一体的に支持するステー32を手動で回転させて、カム14,24を手動でギヤ部41に噛み合せるようにしているが、これらの動作を自動で行う駆動手段を設けるようにしてもよい。
【0043】
また、前記実施形態では、粗剥離回転体10と仕上げ剥離回転体20の二つの回転体を、剥離位置P1と待機位置P2間で移動させるようにしているが、これに限定されるものではなく、さらに他の回転体を設けて、三つ以上の回転体を、一つの剥離位置と複数の待機位置間で移動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)を実施するための最良の形態を示した一部断面平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)を実施するための最良の形態を示した要部平面図である。
【図4】(a)は図1のB−B線矢視図、(b)は図1のC−C線矢視図である。
【図5】本発明に係るアスベスト含有建材剥離装置(湿式耐火被覆剥離装置)のガイド部材を示した側面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 湿式耐火被覆剥離装置(アスベスト含有建材剥離装置)
10 粗剥離回転体
11 刃
12 回転軸
20 仕上げ剥離回転体
21 ブラシ
22 回転軸
30 支持体
32 ステー
33 ステー回転軸
40 回転駆動軸
50 ガイド部材
51 車輪
52 付勢手段
P1 剥離位置
P2 待機位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃を備えた粗剥離回転体と、
アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシを備えた仕上げ剥離回転体と、
前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とが剥離位置と待機位置とで選択的に移動可能に構成されている支持体と、
前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体の回転軸または前記仕上げ剥離回転体の回転軸に着脱可能に接続される回転駆動軸と、を備えた
ことを特徴とするアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項2】
前記支持体は、ステーと、その中央部分を回動可能に支持するステー回転軸と、を備えており、
前記ステーは、その両端部で前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とをそれぞれ軸支している
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項3】
前記支持体の前記剥離位置側には、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体または前記仕上げ剥離回転体の位置決めを行うためのガイド部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪と、この車輪を前記表面に押圧する付勢手段と、を備えている
ことを特徴とする請求項3に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項1】
アスベスト含有建材の粗剥離を行う刃を備えた粗剥離回転体と、
アスベスト含有建材の仕上げ剥離を行うブラシを備えた仕上げ剥離回転体と、
前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体を回転可能にそれぞれ軸支するとともに、前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とが剥離位置と待機位置とで選択的に移動可能に構成されている支持体と、
前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体の回転軸または前記仕上げ剥離回転体の回転軸に着脱可能に接続される回転駆動軸と、を備えた
ことを特徴とするアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項2】
前記支持体は、ステーと、その中央部分を回動可能に支持するステー回転軸と、を備えており、
前記ステーは、その両端部で前記粗剥離回転体と前記仕上げ剥離回転体とをそれぞれ軸支している
ことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項3】
前記支持体の前記剥離位置側には、前記剥離位置に位置する前記粗剥離回転体または前記仕上げ剥離回転体の位置決めを行うためのガイド部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【請求項4】
前記ガイド部材は、アスベスト含有建材またはアスベスト含有建材が吹き付けられている下地の表面に沿って回動する車輪と、この車輪を前記表面に押圧する付勢手段と、を備えている
ことを特徴とする請求項3に記載のアスベスト含有建材剥離装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−90544(P2010−90544A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258911(P2008−258911)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「アスベスト含有建材等安全回収・処理等技術開発(遠隔操作による革新的アスベスト除去ロボットの開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「アスベスト含有建材等安全回収・処理等技術開発(遠隔操作による革新的アスベスト除去ロボットの開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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