説明

アスベスト吸着材、およびその利用

【課題】アスベストの除去効果や、健康被害の防止効果を高めることが可能なアスベスト吸着材、およびその利用を提供する。
【解決手段】担体と、担体上に担持されたアスベスト結合性タンパク質と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト結合性タンパク質を用いたアスベスト吸着材、およびその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、耐熱性、耐摩耗性および電気絶縁性に優れた安定な物質であって、例えば建築物の材料として広く用いられてきた。しかしながら、近年、アスベストを体内に吸い込み続けると、中皮腫またはアスベスト肺と呼ばれる健康被害をもたらすことが明らかになった。そのため、アスベストが用いられている建築物などでは、現在、アスベストの飛散を防止する処置や、アスベストを除去する処置が行われている。なお、アスベストが用いられた建築物は現在までに多数建造されており、上記処置を完了するためには長い年月が必要であると考えられている。
【0003】
アスベストは、柔軟性を有する繊維状の含水ケイ酸塩鉱物であって、大気中に飛散し易い。したがって、アスベストが用いられている建築物では、大気中に飛散したアスベストを体内に吸い込む危険性がある。また、これらの建築物からアスベストを除去しようとした場合には、その作業過程で、アスベストが大気中に飛散する危険性が更に高まる。そのため、アスベストを取り扱う作業者などは、アスベストを吸引する危険性が非常に高いといえる。そこで、アスベストによって生じる健康被害を防止する方法として、従来から様々な方法が用いられてきた。
【0004】
例えば、従来から、アスベストを取り扱う作業者は、厳密にシールドされた部屋の中で、一定の基準を満たした防護服で身を固めた状態で作業を行うとともに、剥離して床に堆積したアスベストを吸引装置にて吸引することによって、アスベストによって生じる健康被害を防止している。なお、このとき、被処理体(例えば、アスベストを含有する建材)に水分を含ませるとともに、界面活性剤および有機質の糊剤を利用することによってアスベストの飛散を防止する方法も併用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来から、作業環境内に飛散したアスベストを、HEPAフィルターを有する集塵・排気装置によって積極的に回収除去することによって、作業環境外、つまり大気中へのアスベストの飛散を防止する方法も用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
なお、近年、アスベストに結合する能力を有するタンパク質が発見されているが、現状では、これらタンパク質をアスベスト除去に実際に用いるには至っていない(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−049391号公報(公開日:平成6年2月22日公開)
【特許文献2】WO2007/055243A1(国際公開日:平成19年5月18日)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】建築物の解体等工事における「石綿粉じんへのばく露防止マニュアル」、建設業労働災害防止協会企画開発課、平成17年8月9日初版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の方法では、アスベストの除去効果や、健康被害の防止効果が低いという問題点を有している。
【0010】
例えば、上述したような従来の防護服(例えば、マスクなど)、吸引装置(当該装置内のフィルター)、およびフィルターは、非特異的な物理的吸着力によってアスベストを吸着し、それによって、アスベストから人体を防御したり、アスベストを除去したりしている。
【0011】
しかしながら、非特異的な物理的吸着力による上記従来の方法は、フィルターの細孔を小さくすることによってアスベストの除去効果を上げていたが、当該方法では、フィルターの通気性が悪くなるとともに、細孔が詰まり易くなるという問題点を有している。
【0012】
また、上述したように物理的吸着力は弱いので、たとえフィルターによってアスベストを捕捉できたとしても、捕捉されたアスベストは、振動などによって容易にフィルターから飛散する。したがって、やはり上記従来の方法は、健康被害の防止効果を低下させるとともに、アスベストの除去効果を低下させるという問題点を有している。
【0013】
なお、上記特許文献2に記載の技術は、アスベストを除去するための技術ではないので、アスベストの除去効果や、健康被害の防止効果は期待できない。
【0014】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、アスベストの除去効果や、健康被害の防止効果を高めることが可能なアスベスト吸着材、およびその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、微生物などが産生するタンパク質の中に、アスベストに対して特異的に結合するタンパク質が存在することを見出した(例えば、Akio Kuroda et al., Biotechnology and Bioengineering, 2008, 99(2), 285-289参照)。そして、更に検討を重ねた結果、上記タンパク質を担体上に設けることによって、アスベストを効果的に吸着することができるアスベスト吸着材を作製できることを見出して本願発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明のアスベスト吸着材は、上記課題を解決するために、担体と、前記担体上に担持されたアスベスト結合性タンパク質と、を備えることを特徴としている。
【0017】
本発明のアスベスト吸着材では、前記アスベスト結合性タンパク質は、OmpC、OmpA、DksA、HlpA、YgiW、H−NS、CspA−2、Cgl0974、TTC0984、GatZ、L1、L5、S1、S4およびS7からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質であることが好ましい。
【0018】
本発明のアスベスト吸着材では、前記アスベスト結合性タンパク質は、以下の(I)〜(III)の何れかに記載のタンパク質であることが好ましい。つまり、
(I)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(II)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質;
(III)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列と55%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質。
【0019】
本発明のアスベスト吸着材では、前記担体の形状は、綿状、濾紙状、シート状、ハニカム状、粒状、粉末状、網目状、多孔質状、またはゲル状であることが好ましい。
【0020】
本発明のアスベスト吸着材では、前記担体の表面には、前記担体の表面の湿度を調節するための層が設けられていることが好ましい。
【0021】
本発明のアスベスト吸着材では、前記層は、前記担体の表面に設けられた吸水性および吸湿性のポリマー、または前記担体の表面に導入された第1の官能基によって形成されていることが好ましい。
【0022】
本発明のアスベスト吸着材では、前記ポリマーは、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアルコール系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー、ポリカルボン酸系ポリマー、ポリエチレンイミン系ポリマー、ポリビニルピリジン系ポリマー、マレイン酸系ポリマー、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルスルホン酸、多糖類、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0023】
本発明のアスベスト吸着材では、前記第1の官能基は、カルボキシル基、カルボキシル基の誘導体、アミド基、アミノ基、およびヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0024】
本発明のアスベスト吸着材では、前記アスベスト結合性タンパク質は、第2の官能基、金属イオン、またはリンカーを介して前記担体に固定化されていることが好ましい。
【0025】
本発明のアスベスト吸着材では、前記第2の官能基は、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、エポキシ基、チオール基、無水環、およびマレイミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基であることが好ましい。
【0026】
本発明のアスベスト吸着材では、前記リンカーは、マレイミド、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、イミドエステル、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート、ニトリロ三酢酸、グルタチオン、およびマルトースからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0027】
本発明のアスベスト吸着材は、気相中のアスベストを吸着するためのものであることが好ましい。
【0028】
本発明のアスベスト除去方法は、上記課題を解決するために、上記アスベスト吸着材を用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明のアスベスト吸着材は、以上のように、担体と、上記担体上に担持されたアスベスト結合性タンパク質と、を備えるものである。
【0030】
また、本発明のアスベスト除去方法は、本発明のアスベスト吸着材を用いる方法である。
【0031】
それ故に、効率よくアスベストを吸着することができるとともに、一度吸着したアスベストが再度飛散することを防止することができるという効果を奏する。
【0032】
また、本発明であれば、フィルターの孔を大きく設計したとしても、十分にアスベストを捕捉できるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明であれば、アスベストを取り扱う作業者の健康被害の発生を、より確実に防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】DksA細胞破砕液中に含まれるDksAタンパク質、および上記DksA細胞破砕液から精製されたDksAタンパク質を示す電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
本実施の形態のアスベスト吸着材は、担体を備えるとともに、当該担体上にはアスベスト結合性タンパク質が担持されている。
【0037】
上記担体の具体的な構成は特に限定されない。例えば、上記担体は、水、各種有機溶媒、および油脂類に不溶性であるものであることが好ましい。つまり、上記担体は、物理的・化学的に安定なものであることが好ましい。また、上記担体としては、アスベスト結合性タンパク質に対するアスベストの結合に影響を与えないものであることが好ましい。
【0038】
上記担体の形状も特に限定されず、適宜所望の形状をとることが可能である。例えば、上記形状としては、綿状(例えば、不織布など)、濾紙状、シート状、ハニカム状、粒状、粉末状、網目状(例えば、織布など)、多孔質状、またはゲル状であることが好ましい。更に具体的には、上記担体は、例えば、織布、不織布、HEPAフィルター、濾紙、デプスフィルター、メンブレンフィルター、またはカラム担体であることが好ましい。上記構成によれば、担体表面上に多量のアスベスト結合性タンパク質を担持させることができるので、より効果的にアスベストを吸着することができる。
【0039】
また、上記織布、不織布、デプスフィルターなどの材料としては特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、レーヨン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリオレフィン、モダアクリル、ナイロン、キュプラ、ビニロン、アクリル、アラミド、ガラス、セルロース、綿、羊毛、絹、麻、またはパルプ等などであることが好ましい。また、これら材料の複数からなる担体を用いることが更に好ましい。
【0040】
また、上記濾紙の材料としては特に限定されないが、例えば、セルロース、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはシリカなどであることが好ましい。
【0041】
また、上記メンブレンフィルターの材料としては特に限定されないが、例えば、ナイロン、テフロン(登録商標)(例えば、PTFE、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)など)、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン(PES)、セルロース混合エステル、またはセルロースアセテートなどであることが好ましい。
【0042】
また、上記カラム担体およびその他の担体の材料としては特に限定されないが、例えばセライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機物、セルロースパウダー、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール(特に、架橋されたポリビニルアルコール)、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子などであることが好ましい。このうち、イオン交換樹脂としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系のイオン交換樹脂であることが好ましい。上記イオン交換樹脂の具体例としては、Duolite(Rohm and Haas社製)、Amberlite(Rohm and Haas社製)、Diaion(三菱化学社製)、Chitopearl(富士紡ホールディングス株式会社)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
後述するようにアスベスト結合性タンパク質に対してタグ配列を付加した場合には、各タグ配列に応じて、上記担体を選択することが好ましい。つまり、タグ配列に結合することが知られている公知の物質が固定化された担体を用いることが好ましい。例えば、タグ配列としてHis−tagを用いる場合には、上記担体上には金属イオンが固定化されていることが好ましく、具体的には、上記担体はNi Sepharose(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)などであることが好ましい。また、タグ配列としてFLAG、HAまたはc−mycを用いる場合には、上記担体には、各タグ配列を認識し得る抗体が固定化されていることが好ましい。また、タグ配列としてグルタチオン−S−トランスフェラーゼを用いる場合には、上記担体にはグルタチオンが固定化されていることが好ましい。また、タグ配列としてマルトース結合タンパク質を用いる場合には、上記担体にはマルトースが固定化されていることが好ましい。上記構成によれば、担体上に確実かつ強固にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0044】
本実施の形態のアスベスト吸着材では、上記担体の表面には、担体の表面の湿度を調節するための層が設けられていることが好ましい。上記構成によれば、上記担体の表面の湿度を上昇させることができるので、その結果、本実施の形態のアスベスト吸着材を乾燥した条件下(例えば、気相中、大気中など)にて使用した場合でも、担体上に担持されたアスベスト結合性タンパク質が活性を示すことができる。換言すれば、本実施の形態のアスベスト吸着材が有するアスベスト吸着効果を、長期に渡って持続させることができる。
【0045】
上記層の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、上記担体の表面に設けられた吸水性および吸湿性のポリマー、または上記担体に導入された第1の官能基によって形成されていることが好ましい。
【0046】
上記ポリマーは、水分を保持する効果が高いものであればよく特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアルコール系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー、ポリカルボン酸系ポリマー、ポリエチレンイミン系ポリマー、ポリビニルピリジン系ポリマー、マレイン酸系ポリマー、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルスルホン酸、多糖類、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0047】
なお、上記ポリマーを担体の表面に設ける方法は特に限定されない。例えば、上記ポリマーをバッファー中に溶解させ、当該溶液中に担体を浸せばよい。また、溶液に浸した後の担体を、適度に乾燥させることも可能である。
【0048】
上記第1の官能基は、水分を保持する効果が高いものであればよく特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、カルボキシル基の誘導体、アミド基、アミノ基、およびヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0049】
なお、上記第1の官能基を担体に導入する方法は特に限定されず、担体の材質に合わせて、適宜公知の方法を用いて導入することが可能である。例えば、上記担体を酸あるいはアルカリで処理することによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能であるし、上記官能基を有する物質と上記担体とを直接反応させることによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能であるし、上記官能基を有する物質を公知の架橋剤によって担体の表面に固定化することによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能である。なお、上記官能基を有する物質としては特に限定されないが、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸、またはエチレンジアミンを用いることが好ましい。
【0050】
上記アスベスト結合性タンパク質は、アスベストに対して結合性、換言すれば吸着性を有するタンパク質であればよく、その具体的な構成は、特に限定されない。なお、本明細書においては、「アスベスト結合性タンパク質」は、「アスベスト吸着性タンパク質」と記す場合もある。本明細書においては、「アスベスト結合性」は、例えば、位相差顕微鏡、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡を用いた分析において、アスベストの繊維本数が減少していること、または「アスベスター」(有限会社シリコンバイオ社製)を用いた分析において、アスベスト含有溶液の濃度が低下していること、に基づいて判定することができる。
【0051】
上述したように、上記アスベスト結合性タンパク質の具体的な構成は特に限定されず、微生物、植物または動物などのあらゆる生物に由来するタンパク質であり得る。なお、上記生物の中では、アスベスト結合性タンパク質は、微生物由来であることが好ましい。
【0052】
更に具体的には、上記アスベスト結合性タンパク質は、OmpC、OmpA、DksA、HlpA、YgiW、H−NS、CspA−2、Cgl0974、TTC0984、GatZ、L1、L5、S1、S4およびS7からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質であることが好ましい。更に好ましくは、上記アスベスト結合性タンパク質は、OmpC、OmpA、DksA、HlpA、YgiW、H−NS、CspA−2、Cgl0974およびTTC0984からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質であり、最も好ましくは、DksAである。
【0053】
また、上記アスベスト結合性タンパク質は、以下の(I)〜(III)の何れかに記載のタンパク質であってもよい。つまり、
(I)配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(II)配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質;
(III)配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列と55%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質。
【0054】
OmpAは、大腸菌K12由来の分子量約37kDのタンパク質である。更に具体的には、OmpAは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_415477)、配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子(ompA)によってコードされるタンパク質である。
【0055】
OmpCは、大腸菌K12由来の分子量約40kDのタンパク質である。更に具体的には、OmpCは、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_416719)、配列番号4に示される塩基配列からなる遺伝子(ompC)によってコードされるタンパク質である。
【0056】
HlpAは、大腸菌K12由来の分子量約17kDのタンパク質である。更に具体的には、HlpAは、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_414720)、配列番号6に示される塩基配列からなる遺伝子(hlpA)によってコードされるタンパク質である。
【0057】
YgiWは、大腸菌K12由来の分子量約14kDのタンパク質である。更に具体的には、YgiWは、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_417496)、配列番号8に示される塩基配列からなる遺伝子(ygiW)によってコードされるタンパク質である。
【0058】
DksAは、大腸菌K12由来の分子量約20kDのタンパク質である。更に具体的には、DksAは、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_414687)、配列番号10に示される塩基配列からなる遺伝子(dksA)によってコードされるタンパク質である。
【0059】
H−NSは、大腸菌K12由来の分子量約15kDのタンパク質である。更に具体的には、H−NSは、配列番号11に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_415753)、配列番号12に示される塩基配列からなる遺伝子(hns)によってコードされるタンパク質である。
【0060】
CspA−2は、Pseudomonas putida KT2440由来の分子量約5kDのタンパク質である。更に具体的には、CspA−2は、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_744611)、配列番号14に示される塩基配列からなる遺伝子(cspA−2)によってコードされるタンパク質である。
【0061】
Cgl0974は、Corynebacterium glutamicum ATCC13032由来の分子量約50kDのタンパク質である。更に具体的には、Cgl0974は、配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:NP_600201)、配列番号16に示される塩基配列からなる遺伝子(cgl0974)によってコードされるタンパク質である。
【0062】
TTC0984は、高度好熱性細菌HB27由来の分子量約10kDのタンパク質である。更に具体的には、TTC0984は、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:YP_004953)、配列番号18に示される塩基配列からなる遺伝子(ttc0984)によってコードされるタンパク質である。
【0063】
GatZは、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のタガトース−6−フォスフェートキナーゼ(tagatose 6-phosphate kinase)として知られているタンパク質である。GatZは、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION:U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC75156.1)、配列番号20に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、GatZは、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライト、並びに、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの全てに結合し得る。
【0064】
L1は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られているタンパク質である。L1は、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC76958.1)、配列番号22に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、L1は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0065】
L5は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られているタンパク質である。L5は、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC76333.1)、配列番号24に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、L5は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0066】
S1は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られているタンパク質である。S1は、配列番号25に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome)、Protein ID: AAC73997.1)、配列番号26に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、S1は、クリソタイル、アモサイト、およびクロシドライトの全てに結合し得る。
【0067】
S4は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られているタンパク質である。S4は、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome), Protein ID: AAC76321.1)、配列番号28に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、S4は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0068】
S7は、大腸菌(Escherichia coli K12、ATCC 700926)由来のリボソームタンパク質として知られているタンパク質である。S7は、配列番号29に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり(ACCESSION NUMBER: U00096 (Escherichia coli str. K-12 substr. MG1655, complete genome), Protein ID: AAC76366.1)、配列番号30に示される塩基配列からなる遺伝子によってコードされるタンパク質である。なお、S7は、アモサイト、およびクロシドライトに特に高い結合活性を有している。
【0069】
上述したように、上記アスベスト結合性タンパク質は、配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質であってもよい。このとき、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加される部位は、置換、欠失、挿入および/または付加後のタンパク質がアスベスト結合性を有していれば、該アミノ酸配列中のどの部位であってもよい。ここで「1または数個のアミノ酸残基」とは、具体的には10個以内の範囲のアミノ酸残基数であり、好ましくは6個以内の範囲のアミノ酸残基である。
【0070】
上記「アスベスト結合性を有する」とは、0.1M(好ましくは1M)の濃度の塩化ナトリウムを含む溶液中で、タンパク質とアスベストとの結合が解離しないことが意図される。更に具体的には、0.1M(好ましくは1M)塩化ナトリウム、および0.5%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20(登録商標))を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5またはpH8.0)中で、タンパク質とアスベストとの結合が解離しないことが意図される。
【0071】
OmpC、OmpA、DksA、HlpA、YgiW、H−NS、CspA−2、Cgl0974、TTC0984、GatZ、L1、L5、S1、S4およびS7のアミノ酸配列に対して配列同一性が高いタンパク質も、アスベスト結合性タンパク質として用いることが可能である。なお、この場合の配列同一性としては、55%以上の配列同一性であることが好ましく、70%以上の配列同一性であることが更に好ましく、80%以上の配列同一性であることが更に好ましく、85%以上の配列同一性であることが更に好ましく、90%以上の配列同一性であることが更に好ましく、95%以上の配列同一性であることが最も好ましい。なお、上記アスベスト結合性タンパク質の具体的なアミノ酸配列および塩基配列に関する情報は、NCBI等のデータベースを介して入手することが可能である。
【0072】
本発明において「相同性」とは、2つの塩基配列または2つのアミノ酸配列間の相同性が意図される。相同性は、比較対象の配列の全領域にわたって最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。このような配列相同性は、例えば、FASTA(Pearson & Lipman、1988、PNAS、4、2444-2448)、BLAST(Altschul et al、1990、Journal of Molecular Biol.、215、403-410)、CLUSTAL W(Thompson et al、1994、Nucleic Acid Research、22、4673-4680)等のプログラムを用いて算出することができる。
【0073】
上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan(国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan; CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンクのWEBページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-e.html)等において、一般的に利用可能である。また、配列の相同性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には、配列の相同性は、DNASYS Pro ver.2.06(Hitachi Software Engineering)のSmith−Watermanプログラムにより相同性解析を行ってアラインメントすることにより算出することができる。
【0074】
上記アスベスト結合性タンパク質としては、タグ配列が付加されたものを用いることが好ましい。なお、本明細書において「タグ配列」とは、アスベスト結合性タンパク質に対して人工的に付加されたアミノ酸配列が意図される。
【0075】
上記タグ配列の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、His−tag、FLAG、HA、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、c−myc、またはマルトース結合タンパク質(MBP)などを用いることが好ましい。上記構成によれば、タグ配列に対して特異的に結合することが可能な担体を用いることによって、より容易にアスベスト吸着材を作製することが可能になる。なお、上記タグ配列が付加されるアスベスト結合性タンパク質中の位置は特に限定されない。例えば、アスベスト結合性タンパク質のN末端にタグ配列を付加することも可能であるし、アスベスト結合性タンパク質のC末端にタグ配列を付加することも可能である。
【0076】
本実施の形態のアスベスト吸着材では、上記アスベスト結合性タンパク質は、上記担体上に担持されている。このとき、担持させるための具体的な方法は特に限定されない。例えば、アスベスト結合性タンパク質をバッファー中に溶解した後、当該溶液中に担体を浸すことによって担持させることが可能である。
【0077】
また、本実施の形態のアスベスト吸着材では、アスベスト結合性のタンパク質が、第2の官能基を介して担体上に固定化されていることが好ましい。なお、上記第2の官能基が設けられている構成は特に限定しないが、例えば、上記第2の官能基は、上記担体の表面上に設けられていることが好ましい。上記構成によれば、上記第2の官能基と上記担体との間には、例えば共有結合、疎水結合、イオン結合、または水素結合などの各種結合が形成され、これによって、アスベスト結合性タンパク質は、より強固に担体上に担持され得る。
【0078】
上記結合の中では、共有結合が更に好ましい。上記構成であれば、より強固に担体とアスベスト結合性タンパク質とが結合されるので、担体上からアスベスト結合性タンパク質が脱落することをより確実に防止することができる。その結果、上記構成であれば、アスベストの除去効果を高めることができる。また、上記構成であれば、様々な環境下(例えば、高塩濃度の水溶液中、酸性溶液中、アルカリ性溶液中など)で本実施の形態のアスベスト吸着材を用いることができる。また、上記構成であれば、本実施の形態のアスベスト吸着材が汚れたり吸着効果が低下した場合には、各種溶液を用いて容易にアスベスト吸着材を洗浄することができる。更に、上記構成であれば、洗浄時に界面活性剤、酸性溶液またはアルカリ溶液などの強力な洗浄液を用いたとしても、担体上からアスベスト結合性タンパク質が脱落することを防止することができるとともに、容易にアスベスト吸着効果を回復することができる。
【0079】
上記第2の官能基としては特に限定されないが、例えば、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、エポキシ基、チオール基、無水環、およびマレイミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基であることが好ましい。
【0080】
また、上記第2の官能基と上述した第1の官能基とは同じ官能基であること、あるいは上記第2の官能基を有する上述の吸水性・吸湿性ポリマーで担体をコーティングすることが好ましい。上記構成によれば、アスベスト吸着材の作製工程を簡略化することができる。
【0081】
なお、上記第2の官能基を担体に導入する方法は特に限定されず、担体の材質に合わせて、適宜公知の方法を用いて導入することが可能である。例えば、上記担体を酸あるいはアルカリで処理することによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能であるし、上記官能基を有する物質と上記担体とを直接反応させることによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能であるし、上記官能基を有する物質を公知の架橋剤によって担体の表面に固定化することによって、上記官能基を担体の表面に導入することも可能である。なお、上記官能基を有する物質としては特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン、グルタルアルデヒド、またはヒドロキシメチルマレイミドを用いることが好ましい。
【0082】
また、上記アスベスト結合性タンパク質は、リンカーを介して担体上に固定化されていることが好ましい。上記構成によれば、担体上でのアスベスト結合性タンパク質の配置の自由度が高くなる。そして、アスベストがアスベスト結合性タンパク質へ接近することが容易となり、その結果、アスベストを除去する効果を高めることができる。
【0083】
上記リンカーの具体的な構成は特に限定しないが、例えば、マレイミド、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS、N−hydroxysuccinimidylester)、イミドエステル、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC、1−Ethyl−3−[3−dimethylaminopropyl]carbodiimido)、およびN−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI、N−[p−maleimidophenyl]isocyanate)、ニトリロ三酢酸(NTA、nitrilotriacetic acid)、グルタチオン、およびマルトースからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0084】
また、上記アスベスト結合性タンパク質は、金属イオンを介して担体上に固定化されていることが好ましい。このとき、上記金属イオンの種類としては特に限定しないが、例えば、Ni2+、Ca2+、Mg2+、またはZn2+などを用いることが好ましい。また、上述したようにHis−tagを用いる場合には、これら金属イオンの中でもNi2+を用いることが更に好ましい。上記構成によれば、アスベスト結合性タンパク質を担体上に容易に固定化することができる。
【0085】
以下に、アスベスト結合性タンパク質を担体上に担持させる具体的な方法の具体例を説明するが、本願発明はこれに限定されない。
【0086】
例えば、上記担体をγ−アミノプロピルトリエトキシシランなどによってシラン化した後、グルタルアルデヒドなどで上記担体の表面にアルデヒド基を導入する。そして、当該アルデヒド基とアスベスト結合性タンパク質とを結合させることによって担体上にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0087】
また、上記担体をエチレンジアミン溶液に浸漬することによって上記担体の表面にアミノ基を導入し、そして、当該アミノ基とアスベスト結合性タンパク質とを結合させることによって担体上にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0088】
また、未処理の上記担体(人工的に官能基を導入していない担体)を、アスベスト結合性タンパク質を含む溶液に浸漬することによって担体上にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0089】
また、特定の官能基を有するポリマーを用いて担体をコーティングし、当該官能基とアスベスト結合性タンパク質とを結合させることによって担体上にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0090】
また、アスベスト結合性タンパク質を、担体を作製するための材料中に粉体または液体として混入し、その後、当該材料を用いて常法にしたがって担体を製造することによって、担体上にアスベスト結合性タンパク質を担持させることができる。
【0091】
本実施の形態のアスベスト吸着材が吸着し得るアスベストとしては、例えば、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトを挙げることができる。また、本実施の形態のアスベスト吸着材は、クリソタイル、クロシドライト、およびアモサイトに対する結合特異性が高いので、クリソタイル吸着材、クロシドライト吸着材、またはアモサイト吸着材として用いることが好ましい。また、以下の実施例に示すDksAを担持したアスベスト吸着材は、クリソタイルに対する結合特異性が最も高いので、クリソタイル吸着材として用いることが最も好ましい。
【0092】
また、本実施の形態のアスベスト吸着材は、担体を2つ以上組み合わせて作製することも可能である。例えば、アスベスト結合性タンパク質を担持したカラム担体などを不織布などに固定化することも可能である。
【0093】
また、本実施の形態のアスベスト吸着材を用いれば、効果的なアスベスト除去方法を提供することができる。
【0094】
例えば、上記アスベスト除去方法は、作業前のアスベスト除去作業箇所に本願発明のアスベスト吸着材を吹き付ける吐出工程、および作業前後の作業空間内に本願発明のアスベスト吸着材を噴霧する噴霧工程の少なくとも一方を含む方法であることが好ましい。上記構成によれば、作業空間内外のアスベストの飛散、再飛散を効果的に防止することができる。
【0095】
上記吐出工程においてアスベスト吸着材を吹き付ける対象(アスベスト除去作業箇所)としては特に限定しないが、例えば、アスベストが含まれる材料(例えば、建材など)、作業部屋の壁、床または天井などであることが好ましい。
【0096】
また、上記吐出工程に用いるアスベスト吸着材は、適宜公知のバッファーなどに溶解されていることが好ましい。上記構成によれば、アスベスト吸着材の吐出を容易にすることができる。また、上記バッファーには、界面活性剤が含まれていることが好ましい。上記構成によれば、より確実に、アスベストの飛散を防止することができる。
【0097】
また、上記吐出工程においてアスベスト吸着材を吐出するための具体的な手段も特に限定されず、適宜公知の吐出手段を用いることが可能である。
【0098】
上記噴霧工程においてアスベスト吸着材を噴霧する対象は特に限定されないが、例えば、アスベスト除去作業を行っている作業空間の大気中であることが好ましい。上記構成によれば、噴霧されたアスベスト吸着材は大気中に飛散したアスベストに吸着することができる。そして、アスベストに吸着したアスベスト吸着材は、アスベストを吸着した状態のまま、作業空間の床上などに沈降する。その結果、大気中に飛散したアスベストを除去することができる。
【0099】
上記噴霧工程に用いるアスベスト吸着材は、適宜公知のバッファーなどに溶解されていることが好ましい。上記構成によれば、アスベスト吸着材の噴霧を容易にすることができる。また、上記バッファーには、界面活性剤が含まれていることが好ましい。上記構成によれば、アスベストの飛散を防止することができる。
【0100】
また、上記噴霧工程においてアスベスト吸着材を噴霧するための具体的な手段も特に限定されず、適宜公知の噴霧手段を用いることが可能である。
【実施例】
【0101】
以下に、本願発明の実施例について説明するが、本願発明はこれに限定されるものではない。なお、アスベストに結合性のタンパク質の一例として、DksAを挙げて以下に説明する。
【0102】
〔実施例1〕
アスベスト結合性タンパク質(DksA)を以下の手順にて調製した。すなわち、発現ベクターpET21−b(Novagen社製)にDksA遺伝子(配列番号10)を挿入し、当該発現ベクターを用いて大腸菌MV1184株を形質転換した。なお、pET21−bを用いることによって、DksAに対してHisタグを連結することができる。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入された発現ベクターを抽出し、pET DksAと名づけた。
【0103】
pET DksAを用いて形質転換した大腸菌Rosetta BL21(DE3) pLyS(Novagen社製)を、2×YT培地中で37℃にて一晩培養した。一晩の培養後、新しい2×YT培地に対して培養液を1%植菌し、37℃にて更なる培養を行った。
【0104】
OD600が0.4になるまで培養した後、最終濃度が0.5mMになるように、イソプロピル‐β‐D‐チトガラクトピラノサイドを培養液に対して添加し、更に7時間の培養を行った。
【0105】
培養後の培養液を遠心分離し、大腸菌をペレットとして回収した。上記ペレットに緩衝液(25mM Tris−HCl、pH7.5、0.1% Tween20(登録商標))を加えて縣濁し、超音波によって大腸菌を破砕した。破砕後、破砕液に対して20,000×gにて15分間の遠心分離処理を行った。遠心分離処理の後、DksAを含む上清を回収した。なお、当該上清を、以下「DksA細胞破砕液」と記す。
【0106】
上記DksA細胞破砕液から、DksAを更に精製した。以下に、その方法について説明する。
【0107】
上記DksA細胞破砕液からのDksAの精製は、5mLのHisTrap FF(GEヘルスケア株式会社製)を用いて行った。すなわち、緩衝液(20mM Tris−HCl、pH7.5、50mM NaCl、0.1% Tween20(登録商標)、10%グリセロール)を用いてカラム(HisTrap FF)を平衡化し、当該カラムにDksA細胞破砕液を添加した。次いで、5mMのイミダゾールを含む上記緩衝液を用いてカラムを洗浄した後、500mMイミダゾールを含む上記緩衝液を用いて上記カラムからDksAを溶出した。
【0108】
次いで、DksAの精製度を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって確認した。その結果を、図1に示す。上記精製工程の結果、溶出液中の95%以上のタンパク質がDksAであった。つまり、上記精製工程によって、純度高くDksAを入手することに成功した。
【0109】
〔実施例2〕
以下に、アスベスト結合性タンパク質を担体上に担持させる方法の一例について説明する。
【0110】
上記担体として、不織布(ポリエステル100%、目付135g/m)を用いた。上記不織布を緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.5、10mM NaCl)に一晩浸漬した後、20μg/mlにてアスベスト結合性タンパク質(DksA)を含む溶液中に、上記不織布を1時間浸漬した。次いで、前記緩衝液にて不織布を洗浄した。以上のようにして、アスベスト結合性タンパク質を担体上に担持させることによって、アスベスト吸着材を作製した。
【0111】
〔実施例3〕
実施例2にて作製したアスベスト吸着材のアスベスト吸着能力を測定した。以下に、その方法を説明する。
【0112】
まず、実施例2にて作製したアスベスト吸着材を、100μg/mlにてアスベストを含むアスベスト溶液に浸漬させた。次いで、1時間後に、上記アスベスト溶液中のアスベストの濃度を測定した。
【0113】
上記アスベスト溶液中のアスベストの濃度は、以下の手順にしたがって測定した。すなわち、上記アスベスト溶液に対して13,000gにて10分間の遠心分離処理を行い、当該アスベスト溶液中の液中のクリソタイルを沈殿させ、上清は除去した。そして、沈殿物に対して、アスベスト検出キット「アスベスター」(有限会社シリコンバイオ社製)の酵素液を添加した。酵素と各試料とを反応させた後で洗浄処理を行い、余分な酵素を除去した。なお、これらの具体的な操作は、上記キットに添付されているプロトコールに従った。洗浄処理に続いて遠心分離処理を行って上清を除去した後、ペレットに対して緩衝液(25mM Tris−HCl、pH7.5、300mM NaCl、0.5% Tween20(登録商標))を100μl加えた。これによって、再度、ペレット(クリソタイル)を分散させた。
【0114】
10μLの上記分散液を96穴プレートに取り、当該分散液に対して、発光基質CDP−Star Detection Reagent(GEヘルスケア株式会社製)100μLを添加した。10分間の反応後、多標識測定器(wallac ARVO SX)を用いて発光値を測定した。
【0115】
以上のようにしてアスベスト溶液中に残存するアスベストの量を測定することによって、アスベスト吸着材に吸着したアスベストの量を算出した。
【0116】
なお、比較例としては、実施例2において「20μg/mlにてアスベスト結合性タンパク質(DksA)を含む溶液」の代わりに「超純水」を用いて作製したアスベスト吸着材を用いた。なお、比較例のアスベスト吸着材に対しても、上述した実施例3の方法にしたがって、アスベスト吸着材のアスベスト吸着能力を測定した。
【0117】
表1に、本実施例のアスベスト吸着材のアスベスト吸着能力と、比較例のアスベスト吸着材のアスベスト吸着能力とを測定した結果を示す。
【0118】
【表1】

【0119】
表1に示すように、アスベスト結合性タンパク質を担持した不織布は、担持していない不織布と比較して、アスベスト吸着能力が高いことが明らかになった。
【0120】
〔実施例4〕
上記担体としてNi Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を用いて、アスベスト吸着材を作製した。
【0121】
具体的には、0.2mlのNi Sepharose 6 Fast Flowに対して、40μgのアスベスト結合性タンパク質(実施例1で調製したもの)を固定化した。なお、具体的な固定化の方法は、上記担体に添付されているプロトコールに従った。
【0122】
以上のようにして作製したアスベスト吸着材を、20μg/mlにてアスベストを含むアスベスト溶液中に浸漬させた。次いで、1時間後に、上記アスベスト溶液中のアスベストの濃度を測定した。なお、アスベスト溶液中のアスベスト濃度の測定は、実施例3と同じ方法で行った。また、比較例としては、DksAを担持していないNi Sepharose 6 Fast Flowを用いた。
【0123】
表2に、本実施例のアスベスト吸着材のアスベスト吸着能力と、比較例のアスベスト吸着材のアスベスト吸着能力とを測定した結果を示す。なお、表2中の「DksA+」はDksAを担持したNi Sepharose 6 Fast Flowを示し、「DksA−」は未担持のものを示す。
【0124】
【表2】

【0125】
表2に示すように、アスベスト結合性タンパク質を担持したNi Sepharose 6 Fast Flowは、担持していないNi Sepharose 6 Fast Flowと比較して、アスベスト吸着能力が高いことが明らかになった。
【0126】
〔実施例5〕
不織布(ポリエステル100%、目付135g/m)を用いて、アスベスト吸着フィルターを作製した。以下に、その方法を記す。
【0127】
上記不織布をコーティング溶液(5%ポリアクリル酸、0.5%ポリエチレングリコール400ジグリシジルエーテル)に浸漬し、水洗した後85℃で乾燥した。その後、当該不織布を60℃の0.2%水酸化ナトリウム水溶液に2時間浸漬し、水洗後85℃で乾燥することにより、ポリアクリル酸によってコーティングされた不織布を得た。
【0128】
次に、上記コーティング処理された不織布を0.2M 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩と0.05M N−ヒドロキシスクシンイミドとを含有するPBS溶液に1時間浸漬した。その後、不織布を3mM N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル) イミノジ酢酸溶液(AB−NTA溶液)に2時間浸漬し、水洗した後、1M 2−アミノエタノール溶液(pH8.5)に浸漬した。次に、不織布を2.5mM 塩化ニッケル溶液(NiCl溶液)に10分間浸漬し、水洗後風乾することにより、ポリアクリル酸のカルボキシル基にNi−NTAが導入された不織布を得た。
【0129】
最後に、上記Ni−NTA導入不織布を、30μg/mlの上記アスベスト結合性タンパク質(DksA)を含む溶液に1時間浸漬することによって、ニッケル(Ni)に対するHisタグの結合性を利用して、Ni−NTA導入不織布上にDksAを固定化した。次いで、当該不織布を水洗後遠心分離(3000rpm 10分)によって脱水することにより、アスベスト吸着フィルターを得た。
【0130】
〔実施例6〕
実施例5で作製したフィルターの気相中でのアスベスト吸着能力を測定した。以下に、その方法を記す。
【0131】
クリソタイル標準試料(JAWE111、社団法人日本作業環境測定協会)を帯電防止袋に約0.4g投入した。次に、2段捕集ホルダー(EMO−47、EMO−47用2段アダプター、共にGLサイエンス製)の上段に実施例5で作製したアスベスト吸着フィルターを、下段にメンブランフィルター(孔径0.8μm、直径47mm、アドバンテック社製)を装着し、帯電防止袋内に2段捕集ホルダーを入れた。その後、クリソタイルを帯電防止袋内で発塵させ、2分間静置した後、当該帯電防止袋内の大気5Lを1.9L/分の流速にて上記2段補集ホルダー内に流通させ、当該2段補集ホルダーによって大気中のクリソタイルを捕集した。捕集後、下段に配置されたメンブランフィルター上のクリソタイルをアセトン−トリアセチン法にて位相差顕微鏡を用いて観察し、300μm径の枠内の繊維数を10視野計数した。つまり、上段に配置されたアスベスト吸着フィルターに吸着されること無く当該アスベスト吸着フィルターを通過し、その後、下段に配置されたメンブランフィルターによって捕捉された繊維の数を10視野計数した。なお、このときの比較例としては、DksAを担持していないNi−NTA不織布を用いた。
【0132】
表3に、本実施例のアスベスト吸着フィルターおよび比較例のNi−NTA不織布のアスベスト吸着能力を測定した結果を示す。なお、表3中の大気対象繊維とは大気分析の基準に従い、繊維の幅3μm未満、長さ5μm以上でアスペクト比が1:3以上の繊維を示し、対象外繊維とは上記大気分析基準に該当しない繊維を示す。
【0133】
【表3】

【0134】
表3に示すように、実施例の大気対象繊維の本数は、比較例に比べて少なかった。また、本実施例ではクリソタイル標準試料のみを帯電防止袋に入れていることから、対象外繊維も殆どアスベストであると考えられる。これらのことから、実施例のフィルターは比較例のフィルターよりも多くのアスベスト繊維を吸着していた。つまり、アスベスト結合性タンパク質を担持したアスベスト吸着フィルターは、担持していないフィルターと比較して、気相中でもアスベスト吸着能力が高いことが明らかになった。
【0135】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、アスベストを強力に吸着するとともに、一度吸着したアスベストが再度飛散することを防止することができるので、アスベスト除去シート、アスベスト除去フィルター、アスベスト防御服、呼吸用保護具(例えば、マスクなど)として利用することができる。なお、これらは、それぞれ液相用として利用することも可能であるし、気相用として利用することも可能である。勿論、液相用および気相用の両用として利用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、
前記担体上に担持されたアスベスト結合性タンパク質と、を備えることを特徴とするアスベスト吸着材。
【請求項2】
前記アスベスト結合性タンパク質は、OmpC、OmpA、DksA、HlpA、YgiW、H−NS、CspA−2、Cgl0974、TTC0984、GatZ、L1、L5、S1、S4およびS7からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト吸着材。
【請求項3】
前記アスベスト結合性タンパク質は、以下の(I)〜(III)の何れかに記載のタンパク質であることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト吸着材。
(I)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
(II)配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質。
(III)配列番号配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に記載されるアミノ酸配列と55%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つアスベスト結合性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記担体の形状は、綿状、濾紙状、シート状、ハニカム状、粒状、粉末状、網目状、多孔質状、またはゲル状であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のアスベスト吸着材。
【請求項5】
前記担体の表面には、前記担体の表面の湿度を調節するための層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4に記載のアスベスト吸着材。
【請求項6】
前記層は、前記担体の表面に設けられた吸水性および吸湿性のポリマー、または前記担体の表面に導入された第1の官能基によって形成されていることを特徴とする請求項5に記載のアスベスト吸着材。
【請求項7】
前記ポリマーは、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリアルコール系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー、ポリカルボン酸系ポリマー、ポリエチレンイミン系ポリマー、ポリビニルピリジン系ポリマー、マレイン酸系ポリマー、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルスルホン酸、多糖類、およびポリアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載のアスベスト吸着材。
【請求項8】
前記第1の官能基は、カルボキシル基、カルボキシル基の誘導体、アミド基、アミノ基、およびヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載のアスベスト吸着材。
【請求項9】
前記アスベスト結合性タンパク質は、第2の官能基、金属イオン、またはリンカーを介して前記担体に固定化されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のアスベスト吸着材。
【請求項10】
前記第2の官能基は、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、エポキシ基、チオール基、無水環、およびマレイミド基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基であることを特徴とする請求項9に記載のアスベスト吸着材。
【請求項11】
前記リンカーは、マレイミド、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、イミドエステル、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N−(p−マレイミドフェニル)イソシアネート、ニトリロ三酢酸、グルタチオン、およびマルトースからなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項9に記載のアスベスト吸着材。
【請求項12】
気相中のアスベストを吸着するための請求項1〜11の何れか1項に記載のアスベスト吸着材。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1項に記載のアスベスト吸着材を用いることを特徴とするアスベスト除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−131587(P2010−131587A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221082(P2009−221082)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】