説明

アスベスト封じ込め工法

【課題】アスベスト封じ込め工事において、作業者の安全と、アスベスト封じ込め工事の作業効率の向上を図ること。
【解決手段】構造物60の壁面61に付着するアスベスト層22を包むように樹脂シート23で養生する。それから樹脂シート23に開口部29を開ける。その後にスプレーヤー30を開口部29から養生される室26に挿入する。そして、固化剤をアスベスト層22に散布する。散布が終了したら、前記スプレーヤーを開口部29より引き抜き、その開口部29をシールする、アスベスト封じ込め工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建築物等の構造物に在るアスベスト層の固化剤の散布の封じ込め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物からのアスベスト処理方法は、これを剥離撤去して処理する方法と、アスベストを構造物から剥離せず固化剤をアスベストに付与することにより封じ込め処理を行う方法が知られている。前者は、構造物からアスベスト自体を除去してしまうため、一見最も安全な方法であると思われるが、撤去作業に伴う作業者の安全性、撤去作業時の周囲環境への影響、撤去したアスベストの廃棄処理と環境汚染などの問題を残す。
【0003】
後者は構造物に吹き付けられたアスベストを剥離せずに、安全な状態に処理してしまうもので、撤去したアスベストの廃棄処理作業とこれに伴う環境汚染の問題が少ない。しかし、封じ込め作業でも、非特許文献1に示すように、処理作業のために壁面養生、それからセキュリティ−ゾーンの組立、設置、負圧除じん装置の設置が必要となっている。この従来例を説明するため、図9に示している。
【非特許文献1】「建設業目で見る石綿作業の安全」建設業労働災害防止協会発行、平成18年3月31日、P14からP19まで
【0004】
従来例を示す図9には、構造物である壁面1にアスベスト層2が添着され、このアスベスト層2を固化するために、ビニール等の樹脂フィルム3にて養生が行われる。即ち、作業区である養生空間4が作られる。そして、その養生空間4に入るためにこの養生空間4に連設してセキュリティ−ゾーン5が作られている。
【0005】
このセキュリティゾーンは、3つの室である前室7、洗浄室(エアシャワー室)8、更衣室9に区画され、各室7,8,9は独立し、各室間にはカーテンなどの仕切りで区切られている。そして作業のための入室時に、更衣室9では防護服に着替え、マスク等の保護具を装着する。そして洗浄室8を通り、前室7に至り、道具や薬剤等必要なものを持ち、養生空間4内に入室する。
【0006】
それから、養生空間4内で作業者がアスベスト層に向かって、スプレーヤー11を用いて固化剤を散布する。この作業が終了したら、退室時に前室7に入り、真空掃除機で防護服と保護具に付着した粉じんを吸い取る。それから防護服を脱ぎアスベスト廃棄用袋に入れる。これが完了したら、洗浄室8に入り、エアシャワーを浴び、体に付着した粉じんを吹き飛ばすが、その際マスクは着けたままである。それから、更衣室8に入り、マスクを外して、着替えて、外部に退出する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、アスベスト層の封じ込め作業が行われるが、その入室及び退出時に厳重な管理が行われるのは、アスベストの飛散を防止するために必要不可欠であるが、このために作業効率がすこぶる悪いと共に、作業者が養生空間内に入って作業を行うことから、アスベストを吸い込む危険性のみならず、外部への持ち出しの危険も残している。
【0008】
そこで、この発明は、作業者の安全を考えると共に、アスベスト層の封じ込め作業の効率向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るアスベスト封じ込め工法は、構造物に付着のアスベスト層を包むように所定隙間を開けて樹脂シートで養生し、その後に前記養生のための樹脂シートに設けた所定の開口部からスプレーヤーを挿入し、アスベスト層に固化剤を散布し、その散布が終了したら、前記スプレーヤーを前記開口部より引き抜き、前記開口部をシールすることにある(請求項1)。
【0010】
このことから、アスベスト層を固化させる封じ込め作業を、作業者が養生空間に入らず、外部から開口部を介してスプレーヤーを挿入して行うことができ、作業者に危険の負担をかけずに安全に作業ができるし、またアスベストの外部への持ち出しの危険も無い。
【0011】
さらに、樹脂シートの外部からアスベスト層を固化させて封じ込め作業が行われるため、作業環境も安全な外部にあり、暑さの対策も容易となり、もって作業効率が向上し、防護服などの資材の削減ができ、それにより作業後の廃棄物の量も削減できるし、さらに、養生空間に入らないことから、セキュリティ−ゾーンが不要となる。
【0012】
また、処理面積が大きい場合には、全体に固化剤を散布するため、多数形成の開口部へのスプレーヤーの順次挿入と、前記開口部の順次シールとを繰り返すことにあり(請求項2)、スプレーヤーの散布が散布範囲に限られるが、多数の開口部を設けることで、散布がアスベスト層に満遍なく行われる。
【0013】
前記スプレーヤーは、開口部から全て挿入するようにしても良く、その場合には、手も開口部から養生空間内に挿入されることとなるため、手に手袋を装着して安全性を担保する。また、前記スプレーヤーの先端のノズルのみを開口部から挿入しても良い(請求項3)。そのどちらを選択しても良く、作業者に任されている。
【0014】
前記開口部は、カッターなどの切断工具で樹脂シートを切断して行われることが好ましい(請求項4)。そして、その開口部を閉塞のために使用されてシールは、テープやクリップなどの閉止具を用いて接着することが好ましい(請求項5)。
【0015】
前記開口部は、前述した例以外に樹脂シートに予め設けられ、その開閉手段を持つようにしても良い(請求項6)。このため、カッターなどの切断工具にて切断せず常に設けられた開口部を確実に開け又は閉じることができる。
【0016】
前記樹脂シートで養生される養生空間は無風状態が一般的で、アスベストの流出の危険がない時が多いが、必要により負圧除じん機を設けることが好ましい(請求項7)。前記養生空間を負圧状態として、アスベストの外への流出を抑えることができる。そして負圧除じん機の採用時には、前記樹脂シートに給気用開口が形成されるが(請求項8)、具体的には樹脂シートを切断して形成することが最も容易である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、この発明によれば、作業者が養生空間に入らずに、スプレーヤーにて固化剤を外部よりアスベストに散布するため、作業者への危険負担を少なくすることができる。またアスベストの外部への持ち出しの危険もなくなる、更に樹脂シートの外部から作業が行われるため、作業者の安全のみならず暑さの対策も容易で、作業効率を向上することができる。それから、更に防護服などの資材の削減ができ、廃棄物の量を減らすことができる。また、セキュリティ−ゾーンを不要とすることができる(請求項1)。
【0018】
アスベスト層が広く大きい場合には、樹脂シートに開口部を順次用いて、その開口部より散布が順次行われて、満遍なく散布が行われる(請求項2)。前記スプレーヤーは、前記開口部にその全てを挿入するか、又はスプレーヤーの先端のノズルのみを挿入することができるので、散布作業の自由度を向上させることができる(請求項3)。
【0019】
前記開口部の形成は、切断工具により容易に切断して行われると共に、その開口部の閉止はテープにより容易に接着することで行われる(請求項4,5)。前記開口部を予め樹脂シートに設けておけば、切断作業、テープ接着を必要としない利点を持っている(請求項6)。
【0020】
前記樹脂シートで養生される養生空間は必要によっては負圧除じん機が用いられるから負圧状態となっていて、アスベストが外部へ流れ出すのを抑えている。そして負圧除じん機の採用時には、樹脂シートに給気用開口が設けられ、この給気用開口は樹脂シートを切断して形成するだけで良い(請求項7,8)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施例を図面にもとづいて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1において、この発明のアスベスト封じ込め工法が示され、図2から図5には、その工法の流れに沿う各部分の作業図が示されている。アスベスト層は天井や壁面に付着されている例が多いが、図1には構造物20の例えば壁面21にアスベスト層22が付着されていて、このアスベスト層22の封じ込め工法が示されている。
【0023】
まず、壁面21から0.5〜2m程離れて樹脂シート23を用いて作業区となる養生される養生空間26が作られる。この樹脂シート23はビニールなどの透明のものが用いられ、構造物20との間に張設され、その接合部、既存壁面への貼着部へは粘着テープで貼着する。それから、養生空間26には、前記樹脂シート23の下方に負圧除じん機27が取付けられ、その養生空間26を常時負圧に保っている。それから、負圧除じん機27の採用から、前記樹脂シート23に給気用開口部28がカッター等で切断して形成されている。しかし、予め給気用開口部28を開けるようにしても良い。なお、養生空間が完全密閉で、無風の状態であれば、負圧除じん機27を用いなくても良いし、当然ながら給気用開口部28も必要はない。
【0024】
アスベスト層22への固化剤の散布は、まず樹脂シート23に開口部29を形成し、その開口部29よりスプレーヤー30の先端のノズル31を挿入し、しかる後にノズル31からアスベスト層22に向けて散布が行われる。なお、前記固化剤は、例えばコンクリート強化剤をアスベスト飛散防止用に改良した溶剤で、深く浸透して固化させる。
【0025】
図2において、前記開口部29の具体的な形成例で、カッター32を用いて前記樹脂シート23を切断して形成する。その長さ寸法は前記スプレーヤー30のノズル31が挿入に適する5〜10cm程となっている。
【0026】
図3において、スプレーヤー30を開口部29から挿入した例で、ノズル31のみが作業区となる養生空間36内に侵入している。
【0027】
図4において、同じくスプレーヤー30をもって固化剤を散布するが、このスプレーヤー30を上下又は左右に動かし満遍なく散布する。
【0028】
図5において、一ヶ所での散布できる範囲は点線で示すように限られているため、所定の場所での散布が終了したら、スプレーヤー30を開口部29から抜き出し、その開口部29に補修用のテープ34が貼られる。そして、次の未散布場所に散布するため、前述したように、カッター32により開口部24を切断して作られる。それから、スプレーヤー30を挿入する。この作業を繰り返して、アスベスト層の全ての面に固化剤を散布する。その後で、固化剤の浸透状態を検査し、アスベストの飛散がないかを確認した後に、養生用の樹脂シート23を撤去して完了する。
【0029】
図6において、前記した開口部29を前記例と異なり、予め製造しておくことも可能で、その場合には、樹脂シート23に一方に凹部を他方に凸の接続手段36を縦方向に連結して設けておき、散布時に所定の場所のみ開いて、開口部29を形成し、そこから、スプレーヤーのノズルを挿入することができる。そして散布が完了すれば再び接続しておけば良い。なお、図示しないが、開口部を独立して個々に形成することも可能で、その場合にも開閉手段を備えている。
【0030】
前記した封じ込め工法では、前記スプレーヤー30の先端のノズル31のみを開口部29に挿入したが、これに限らず、図7に示すように、手に手袋をしてスプレーヤー30のみならず手まで開口部29に挿入しても良い。この場合には、手袋にてアスベストが付着することを防いでいる。
【実施例2】
【0031】
以上のように、構造物の壁面のアスベスト層の封じ込めについて説明してきたが、天井も同様にアスベスト層の封じ込めに適用できることは勿論である。大型機械内部のアスベストの処理は、従来は大型機械と共に作業者が入れる養生空間を作り、作業者が防護服を着て養生空間内で処理していたが、図8に示すように、この発明では、機械38の周囲を所定の隙間を開けて樹脂シート23で養生し、養生空間26に必要により負圧除じん機27と給気用開口部28aをそれぞれ設けた上で、前述のようなアスベスト封じ込め工法が行われる。即ち、樹脂シート23に設けられた開口部29からスプレーヤー30又はそのノズル31 を挿入し、固化剤を散布することで行われる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明に係るアスベスト封じ込め工法例を示す概略の説明図である。
【図2】同上の工法の流れに沿う各部分の作業図で、開口部の作成時の説明図である。
【図3】同上の工法の流れに沿う各部分の作業図で、スプレーヤーのノズルを開口部に挿入時の説明図である。
【図4】同上の工法の流れに沿う各部分の作業図で、固化剤の散布を表す説明図である。
【図5】同上の工法の流れに沿う各部分の作業図で、スプレーヤーのノズルを開口部より引き抜いてテープにてこの開口部を閉塞する状態を表す説明図である。
【図6】養生のために使用する樹脂シートに接続手段を縦方向に形成し、その接続手段を用いて開口部を作り出す状態を表す説明図である。
【図7】スプレーヤーの全体を開口部から挿入した状態を示した説明図である。
【図8】この発明の第2の実施例で、機械に付着のアスベストの封じ込め工法で、概略の説明図である。
【図9】従来例のアスベスト封じ込め工法の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
20 構造物
21 壁面
22 アスベスト層
23 樹脂シート
26 養生空間
27 負圧除じん機
29 開口部
30 スプレーヤー
32 カッター
34 テープ
36 接続手段
38 機械


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に付着のアスベスト層を包むように所定隙間を開けて樹脂シートで養生し、その後に前記養生のための樹脂シートに設けた所定の開口部からスプレーヤーを挿入し、そしてアスベスト層に固化剤を散布し、その散布が終了したら、前記スプレーヤーを前記開口部から引き抜き、前記開口部をシールすることを特徴とするアスベスト封じ込め工法。
【請求項2】
処理面積の全体に固化剤を散布するため、前記多数形成の開口部へのスプレーヤーの順次挿入と、前記開口部の順次シールとを繰り返すことを特徴とする請求項1記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項3】
前記スプレーヤーは、前記開口部にその全てを挿入するか、又はノズルのみを挿入することを特徴とする請求項1又は2記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項4】
前記開口部は、切断工具で前記樹脂シートを切断して行われることを特徴とする請求項1,2又は3記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項5】
前記開口部のシールは、閉止具により行われることを特徴とする請求項1,2又は3記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項6】
前記開口部は予め樹脂シートに設けられ、その開閉手段を持っていることを特徴とする請求項1,2又は3記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項7】
前記樹脂シートで養生される空間内には、負圧除じん機が接続されることを特徴とする請求項1記載のアスベスト封じ込め工法。
【請求項8】
前記負圧除じん機の採用時には、前記樹脂シートに給気用開口部を有していることを特徴とする請求項7記載のアスベスト封じ込め工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−150129(P2009−150129A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329192(P2007−329192)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(506368110)
【出願人】(507417075)
【Fターム(参考)】