説明

アスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物、及びこれを用いたアスベストの剥離方法

【課題】 所定期間経過後でも、剥離時のアスベストの飛散が防止され、かつ、表面のアスベストを剥離しても、内部のアスベストの飛散を防止できることを課題とする。
【解決手段】 ガラス転移温度が0℃以下の樹脂粒子と、アニオン性及び/又はカチオン性乳化剤とを含有させる。また、これに粘着付与剤を含有させてもよい。好ましい混合比は、樹脂粒子100重量部に対し、乳化剤0.5〜10重量部、粘着付与剤3〜40重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスベスト飛散防止処理用に用いられるエマルジョン組成物、及びこれを用いたアスベストの剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を解体する際、アスベストが吹き付けられていると、解体前にこのアスベストを剥がす必要がある。この際、アスベストが飛散すると、周辺環境や作業者や周辺の人たちの健康に影響を与える恐れがある。
【0003】
アスベストの飛散防止方法としては、剥離時に散水する方法や、ガラス転移温度が−20℃以上の接着性エマルジョンを用いて、アスベストを固着させる方法(特許文献1)等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特許第2815469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水を散水する場合、アスベストは水をはじくため、浸透しない。このため、散水後、ある程度の時間が経過すると、アスベストが乾燥し、再び、飛散が生じるおそれがある。また、上記特許文献1の塗料組成物を用いた場合、シェル層のガラス転移温度が高いため、生成する皮膜も硬くなり、アスベスト繊維を相互に粘着させることが困難となる。このため、アスベストを剥離させる際、表面を剥がすと、内部のアスベストの飛散が生じやすく、十分な飛散防止効果を得難い。
【0006】
そこでこの発明は、剥離時のアスベストの飛散が防止され、かつ、アスベストを剥離した後も、アスベストの飛散を防止できることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、ガラス転移温度が0℃以下の樹脂粒子と、アニオン性及び/又はカチオン性乳化剤とを含有する水性エマルジョンからなるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物を用いることにより、上記課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0008】
ガラス転移温度が0℃以下の樹脂粒子を含有するエマルジョン組成物を用いると共に、所定の乳化剤を用いるので、このエマルジョン組成物をアスベストに噴霧したとき、アスベストの表面に付着すると共に、内部まで容易に浸透し、アスベスト全体に付着させることができ、剥離の際の飛散を効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物は、所定の樹脂粒子と、所定の乳化剤とを含有する水性エマルジョンからなる。
【0010】
上記の樹脂粒子は、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下の樹脂からなる粒子をいう。樹脂のガラス転移温度が0℃以下とするので、柔軟かつ貼着性を維持し、剥離時のアスベスト飛散を防ぐことができる。ガラス転移温度(Tg)の下限は特に限定されないが、−80℃未満の樹脂は得難く、また、その過度の粘着性のため、エマルジョンの安定性が悪化しやすいので、−40℃程度で十分である。
【0011】
このような樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、ビニル系樹脂等があげられる。上記(メタ)アクリル系樹脂を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸等があげられる。また、上記ビニル系樹脂を構成するモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類等があげられる。
【0012】
上記(メタ)アクリル酸エステル類の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸α−クロロエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等があげられる。
【0013】
上記樹脂からなる粒子は、乳化重合又は懸濁重合によって重合反応を行うことにより、得ることができる。この粒子の粒子径は、100〜1000nmが好ましく、150〜500nmがより好ましい。なお、エマルジョン粒子の粒子径は、レーザー回折式粒子径測定機を用いて測定する。
【0014】
上記樹脂のTgは、下記の式(1)(Foxの式)により推定できるので、Tgを0℃以下とするためには、下記式(1)によりその条件を満たすようなモノマーの組合せを選択すればよい。なお、もちろん、示差走査熱量計(DSC)を用いてTgを測定しつつ、試行錯誤的に条件を満たす樹脂組成を選ぶことも可能である。
1/Tg=Wa/Tga+Wb/Tgb+… (1)
なお、上記式(1)中、Tgは共重合体のガラス転移点(K)、Tgaはモノマーaのホモポリマーのガラス転移点(K)、Tgbはモノマーbのホモポリマーのガラス転移点(K)、Waはモノマーaの重量分率、Wbはモノマーbの重量分率を示す。
【0015】
上記の乳化剤としては、アニオン性又はカチオン性の乳化剤、又はこれらの乳化剤の混合物が用いられる。このような乳化剤を用いることにより、エマルジョンを安定化できると共に、アスベスト層への浸透性を向上させることができる。
【0016】
上記アニオン性乳化剤の例としては、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、p−スチレンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤や、反応型アニオン性界面活性剤があげられる。この反応型アニオン性界面活性剤としては、例えば、三洋化成(株)製:エレミノール(商標)JS−2、JS−20、花王(株)製:ラテムル(商標)S−180A、S−180、PD−104、第一工業製薬(株)製:アクアロン(商標)HS−10、HS−5、BC−10、BC−5、KH−10、旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(商標)SE−10N、SR−10、メタアクリル酸スルホアルキルエステルの塩、p−スチレンスルホン酸の塩、旭電化工業(株)製アデカリアソープSDX−730、SDX−731、SDX−334(商品名)等のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のリン酸エステル基を有する界面活性剤等があげられる。
【0017】
上記カチオン性乳化剤の例としては、ラウリルアミン塩酸塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルアンモニウムハイドロオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等があげられる。
【0018】
なお、乳化剤として、アニオン性及び/又はカチオン性の乳化剤に加えて、本発明の目的や効果を阻害しない範囲で、補助的にノニオン性乳化剤を併用してもよい。
【0019】
上記ノニオン性乳化剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン性界面活性剤や、反応型ノニオン性界面活性剤等があげられる。この反応型ノニオン性界面活性剤としては、例えば、第一工業製薬(株)製:アクアクロン(商標)RN−20、RN−30、RN−50、旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(商標)ER−10、ER−20、ER−30、ER−40等があげられる。
【0020】
上記樹脂粒子に対する上記乳化剤の混合割合は、固形分量で、上記樹脂粒子100重量部に対し、上記乳化剤が0.5〜10重量部がよく、1〜6重量部が好ましい。乳化剤の使用量が上記範囲より少ないと、得られるエマルジョンの安定性が不足することがある。一方、上記範囲より多いと、生成する皮膜の耐水性が低下して、剥離後のアスベストが水に濡れた際に再飛散するおそれがある。
【0021】
この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物には、上記の樹脂粒子及び乳化剤の他に、粘着付与剤を含有させてもよい。粘着付与剤を用いることにより、可塑剤や有機溶剤を用いなくても、アスベストとの密着性を改良することができる。
【0022】
上記粘着付与剤の例としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂等があげられる。これらは、乳化剤により水を分散させることができる。中でも、ロジン系樹脂、特に不均化ロジン、重合ロジン、又は不均化若しくは重合ロジンと、多価アルコール(グリセリン、ペンタエリスリトール等)とを反応して得られるロジン系誘導体樹脂乳化物が好ましい。
【0023】
これらの粘着付与剤の具体例としては、荒川化学(株)製の商品名「スーパーエステルE−720、E−740」(軟化点100℃)、商品名「スーパーエステルE−730−55」(軟化点125℃)、商品名「スーパーエステルE−650、E865」(軟化点160℃)、ハリマ化成(株)製の商品名「SK−130D」(軟化点138℃)、東邦化学工業(株)製の商品名「QME100」(軟化点100℃)等があげられる。
【0024】
上記樹脂粒子に対する上記粘着付与剤の混合割合は、固形分量で、上記樹脂粒子100重量部に対し、上記粘着付与剤が3〜40重量部がよく、5〜30重量部が好ましい。粘着付与剤の使用量が上記範囲より少ないと、粘着付与剤を添加した効果が十分には得られないことがある。一方、上記範囲より多いと、粘着性が高くなりすぎ、また、エマルジョンが不安定となる傾向がある。
【0025】
この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物は、これをアスベスト含有施工層に噴霧し、その後にこの施工層の剥離を行うことができる。この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物をアスベスト含有施工層に噴霧すると、施工層の積層されているアスベストの内部にまで、この組成物が浸透する。このため、噴霧後の剥離が可能となる。
【0026】
また、この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物を噴霧しながら、アスベスト含有施工層の剥離を行ってもよい。このようにすると、より完全にアスベストの飛散を抑制することができる。
【0027】
さらに、この発明にかかるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物は、水分が揮散した後も、その粘着力が維持されるので、アスベスト含有施工層への噴霧後、時間が経過しても、再度噴霧することなく、剥離作業を行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明するが、この発明は以下の実施例によって限定されるものではない。まず、使用する原材料について説明する。
【0029】
<樹脂粒子・乳化剤>
・エマルジョンA…アクリル系樹脂エマルジョン(乳化剤:ネオペレックス G65(商品名、アニオン性乳化剤、樹脂粒子100重量部に対する含有量:2重量部)、Tg:−40℃、固形分:33重量%、樹脂粒子の粒子径:300nm)
・エマルジョンB…シリコンアクリル系樹脂エマルジョン(乳化剤:アクアロン BC10(商品名、アニオン性乳化剤、樹脂粒子100重量部に対する含有量:4重量部)、Tg:25℃、固形分:45重量%、樹脂粒子の粒子径:100nm)
・エマルジョンC…スチレン−アクリル系樹脂エマルジョン(乳化剤:コータミン24P(商品名、カチオン性乳化剤、樹脂粒子100重量部に対する含有量:3重量部)、Tg:0℃、固形分:45重量%、樹脂粒子の粒子径:180nm)
【0030】
<造膜助剤>
・テキサノールCS−12(商品名)…チッソ(株)製
【0031】
<アスベスト含有基材>
・アンソフィライト、クリソタイル(白石綿)、及びトレモナイトの混合物(アスペクト比:3以上)を有する石綿金網
【0032】
<その他>
・コロイダルシリカ…スノーテックスCM(商品名)、日産化学工業(株)製
・水ガラス…LSS−35(商品名)、日産化学工業(株)製
・粘着付与剤…QME100(商品名)、東邦化学工業(株)製
【0033】
(試験方法)
<エマルジョン組成物安定性>
実施例又は比較例で製造されたエマルジョン組成物を50℃の条件で1ヶ月間、密栓して静置保存した後、液の状態を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:変化なし
△:分離又は凝集物が生成した
×:ゲル化した
【0034】
<常態密着性>
実施例又は比較例で製造されたエマルジョン組成物をアスベストに吹き付け、23℃、50%RH条件下で7日間養生後、セロテープにて剥離試験を行い、皮膜の剥離の有無を、外観で下記の基準にて評価した。
○…異常なし
△…一部剥離が見られる
×…剥離した
【0035】
<耐水密着性>
実施例又は比較例で製造されたエマルジョン組成物をアスベストに吹き付け、23℃、50%RH条件下で7日間養生後、23℃の水に24時間浸漬した。その後、水から引き上げ、その直後にセロテープにて剥離試験を行い、皮膜の剥離の有無を、外観で下記の基準にて評価した。
○…異常なし
△…一部剥離が見られる
×…剥離した
【0036】
<初期柔軟性>
実施例又は比較例で製造されたエマルジョン組成物を石綿金網(アスベスト含有基材)に吹き付け、23℃、50%RH条件下で7日間養生後、この石綿金網を90℃に折り曲げ、皮膜の割れの有無を、外観で下記の基準にて評価した。
○…異常なし
△…一部割れが発生する
×…割れた
【0037】
<飛散防止性>
分散染色分析法(JIS K 3850−4)による定性分析により、アスベストの再飛散性を、下記の基準にて評価した。
○…飛散しない
×…飛散した
【0038】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
表1に示すエマルジョン、造膜助剤等を表1に示す量ずつフラスコに加え、撹拌して、エマルジョン組成物を製造した。得られたエマルジョン組成物を用いて、上記の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が0℃以下の樹脂粒子と、アニオン性及び/又はカチオン性乳化剤とを含有する水性エマルジョンからなるアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物。
【請求項2】
さらに粘着付与剤を含有する請求項1に記載のアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物。
【請求項3】
上記樹脂粒子100重量部に対し、上記アニオン性及び/又はカチオン性乳化剤を0.5〜10重量部、上記粘着付与剤を3〜40重量部含有する請求項2に記載のアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のアスベスト飛散防止処理用エマルジョン組成物を噴霧して、又は噴霧しながら、アスベスト含有施工層の剥離を行う、アスベストの剥離方法。

【公開番号】特開2007−177138(P2007−177138A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378941(P2005−378941)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】