説明

アスペルギルス(Aspergillus)属由来の可動性トランスポゾンの同定およびクローニング

【課題】アスペルギルス(Aspergillus)属から単離された新規な転位因子を提供する。
【解決手段】複数の特定の配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして糸状菌DNAにハイブリダイズさせ、さらに前記プローブにハイブリダイズしたDNAを単離する方法、及び前記配列を有するDNAを糸状菌のPCR増幅においてプライマーとして用い、増幅DNA配列を作成し、さらに必要に応じて前記増幅DNAを特徴付けする方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)由来の可動性(mobile)トランスポゾンまたは転位因子(transposable element)の同定、クローニングおよび配列決定に関する。Vaderと呼ばれるこの転位因子は、約44塩基対からなる逆方向反復配列が結合した約440塩基対(bp)の配列である。この転位因子の標的は、挿入しようとする標的DNA内の「TA」配列である。さらに本発明は、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)から単離した44bpの逆方向反復配列を含むDNAをプローブとして用い、他の糸状菌からのひとつもしくはそれ以上の転位因子の同定、クローニングおよび配列決定に関する。さらに、本発明の転位因子を用い、標的遺伝子内に該転位因子を挿入することにより遺伝子を不活化することによって突然変異体を作成する方法、また、別の方法としては、本明細書に記載しているように転位因子を用いて遺伝子を活性化または作動させる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
トランスポゾンと呼ばれるDNA断片が、宿主微生物のゲノムの多くの部位に挿入可能なことはよく知られている。トランスポゾンは、バクテリアなどの原核生物ならびに真核生物の両方に存在することが知られているが、糸状菌からはトランスポゾンはほとんど単離されていない。
【0003】
いくつかの研究グループが糸状菌内のトランスポゾンを探究している。ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のさまざまな株のさまざまな部位に複数のコピーとして存在しているpogo配列は、シェクトマン(Schectman)(1)により明らかにされ、トランスポゾンであると考えられている。糸状菌のトランスポゾンのうちで今日までにその性質が最も明らかになっているものは、Tadである。Tadは、象牙海岸由来のニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のアディオポドウム(Adiopodoume)株内のam(グルタメートデヒドロゲナーゼ)遺伝子の自然突然変異体として単離された。転位因子の挿入により生じた突然変異体を検出するにあたって、キンゼイ(Kinsey)とヘルバー(Helber)(2)は、33個のam突然変異株からゲノムDNAを単離し、制限酵素断片の大きさの変化を調べるためのサザン分析を行ってスクリーニングしている。突然変異株のうちの2個については、7kBの配列(Tad)がam遺伝子内に挿入したことにより突然変異を生じたことが示された。後に、キンゼイ(Kinsey)は(3)、Tadがヘテロカリオンの核の間を転位することができることを示し、Tadがレトロトランスポゾンであること、逆転位反応に関連する細胞質が存在することを確認した。さらに最近、キャンバレリ(Cambareri)ら(4)は、Tadが+鎖上に2個の大きなオープンリーディングフレーム(ORFs)を有するLINE様のDNAであることを示している。LINE様の配列の特徴として、Tadは末端反復配列を有していない。ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)の実験室株から可動性トランスポゾンを単離しようとする試みは失敗に終わっている。
【0004】
2個目のレトロトランスポゾンは、マクハーレ(McHale)らによりクローニングされたものであり、クラドスポリウム・フルバム(Cladosporium fulvum)由来のLTR−レトロトランスポゾンCfT−1として単離したと報告されている。このトランスポゾンは長さが6968bpであり、427bpの特徴的な長い末端反復配列、5bpの標的部位重複配列が結合している。ウイルス様の粒子が検出され、これは、共沈降して、この菌類のホモジネート内で逆転写酵素活性を示す。
【0005】
トランスポゾントラップとしてniaD(硝酸還元酵素)を用いることに最初に成功したのはダボウシ(Daboussi)らである(6)。niaD突然変異体は、塩素酸塩抵抗性について選択をすることにより単離することができる(7)。フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)のさまざまな種に属する6個の単離株の中からniaD突然変異体を単離する方法が採られた。各単離株から100個以上のniaD突然変異体を単離し、不安定性を調べている。F24という株からは、収量にして10%もの不安定なniaD突然変異体が得られている。niaD突然変異体の遺伝的不安定性は、転位因子によるものとすれば、この単離株は可動性トランスポゾンを有しているものと思われる。F24の安定なniaD突然変異体は、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)由来のクローニングされたniaD遺伝子と形質転換しているが、これは、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)のniaD遺伝子がまだクローニングされていなかったからである。アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のniaD遺伝子を含む形質転換体から不安定なniaD突然変異体が単離されている。2個の不安定なniaD突然変異体において、サザンブロット分析により、大きさが1.9kbの挿入配列を有していることが示されている。この配列Fot1は長さが1928bpであることがわかり、44bpの逆方向末端反復配列、大きなオープンリーディングフレームを有し、2bpの(TA)標的部位重複配列によって挟まれている。ごく最近、ダボウシ(Daboussi)ら(8)は、不安定なniaD突然変異体から新規な転位因子をクローニングしたと報告している。この配列FML(フサリウム・マナー(Fusarium manner)様)は長さが1280bpであり、27bpの逆方向反復配列を有している。FML配列はTA部位に挿入し、任意に切り出される。
【0006】
不安定なniaD突然変異体による同定法を用い、レブルン(Lebrun)ら(9)は、マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)からトランスポゾンを単離している。しかし、この場合には、トランスポゾントラップとして、形質転換法によってマグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)内に形質転換されたアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のniaD遺伝子が用いられている。niaD遺伝子内に挿入された配列は、マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)属のLTR−レトロトランスポゾンに属することが示され、これらは、Fos1(シュル(Shull)とハマー(Hamer)、未発表)およびMag1(ファーマン(Farman)とレオング(Leong)、未発表)である。クローニングされた逆配列は5.6kbであり、標的部位(ATATT)は重複していることが示された。この突然変異体からの復帰突然変異体を調べたところ、すべてにおいて、挿入部位にLTR左側部分の1個のコピーを有していた。マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)由来の2個目のトランスポゾンPot2は、カクロー(Kachroo)ら(10)によって最近クローニングされている。Pot2をクローニングする際に用いられた方法は、マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)のゲノムからクローニングされた反復DNAのフィンガープリントパターンを分析する方法である。マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)のイネ病原菌および非イネ病原菌の両方に多のコピー数で存在している反復配列がクローニングされている。この配列は長さが1857bpであり、43bpの完全末端逆方向反復配列(TIR)およびTIR内に16bpの直接反復配列を有している。オープンリーディングフレームは、フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)のFot1と広範囲に一致することが示されている。Fot1と同様に、Pot2配列は、標的挿入部位においてジヌクレオチドTAの複製を行う。Pot2のコピー数は、ハプロイドゲノムあたり約100個であることが示されている。
【0007】
いくつかの研究グループが、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の実験室株からのトランスポゾンの発見に失敗していることが報告されている(キングホム(Kinghom)からの私信、5)。実験室株内にトランスポゾンが存在しないことについての説明のひとつとしては、遺伝子解析に必要な株の安定性という特徴によって、可動性トランスポゾンを含む株が排除されていることが考えられる。トランスポゾントラップとしてniaD遺伝子を用いることにより、発明者らは、工業的に重要な菌であるアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)から転位因子を同定、単離した。この配列Vaderは、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)およびアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)内ではおよそ15個のコピーが存在する。この配列を用いて行ったアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)のサザン分析によれば、この転位因子はひとつの実験室株には存在せず、別の実験室株にはわずかに1個のコピーしか存在していないことが示されている。これらの結果は、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の実験室株はほとんどトランスポゾンを含んでいないという説を支持している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明に従えば、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)から新規な真核性転位因子が提供される。この新規な転位因子はおよそ440bpの配列であり、該転位因子の両端に44bpの逆方向反復配列を有する。この新規な転位因子の挿入標的は、挿入しようとする標的DNAの「TA」配列である。転位因子が標的DNAへ挿入されると、トランスポゾンの末端のいずれかにおいて「TA」配列が反復される。
【0009】
本発明の別の実施態様は、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)由来の転位因子の両端に存在する44bpの逆方向反復配列を有する転位因子の断片を得ること、ならびに、該44bpの断片を他の糸状菌からの転位因子の単離および/またはクローニングに有用なDNAプローブとして使用することである。Vaderの逆方向反復配列を用いて、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)由来のトランスポゾン(Tan)をクローニングした。
【0010】
本発明に従えば、方法に関する実施態様として、遺伝子を選別する方法が提供され、その方法とは、本発明の転位因子を用いて、与えられた遺伝子への該配列の挿入を介して遺伝子を不活化し、遺伝子の発現を阻害または不活化することを含む。別の方法としては、遺伝子の阻害ではなく、活性化するための選別(遺伝子の活性化または稼働化)に転位因子を使用することもできる。例えば、プロモーターをコードしているDNAを転位因子内に挿入し、次に、そのような転位因子を所望する遺伝子の5’位に挿入すると、プロモーターが作動して所望する遺伝子産物の発現が活性化される。
【0011】
本発明の他の実施態様
1.アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)から単離されることを特徴とする転位因子。
2.配列番号3で示されるDNA配列を含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の転位因子。
3.44bpの逆方向反復配列を含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の転位因子の断片。
4.配列番号4または配列番号5で示されるDNA配列を含むことを特徴とする請求の範囲第3項記載の断片。
5.糸状菌から転位因子を単離する方法であって、請求の範囲第4項記載の断片のうちの1個をプローブとして使用することを特徴とする方法。
6.請求の範囲第5項記載の方法に従って単離されることを特徴とする転位因子。
7.配列番号6で示されるDNA配列を含むことを特徴とする請求の範囲第1項記載の転位因子。
8.請求の範囲第7項記載の転位因子によってコードされていることを特徴とする推定トランスポゼース。
9.配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求の範囲第8項記載のトランスポゼース。
10.遺伝子を不活化する方法であって、該遺伝子を含む宿主細胞内に、不活化すべき遺伝子内のTA配列を標的とする転位因子を形質転換し、該転位因子が該遺伝子に挿入されて不活化され、および該遺伝子による遺伝子発現を阻止するようにすることを含むことを特徴とする方法。
11.遺伝子を活性化する方法であって、該遺伝子を含む宿主細胞内に、宿主細胞のゲノム内のTA配列において転位因子の標的となる所望のDNA配列が挿入された転位因子を形質転換し、該転位因子が該遺伝子に挿入されて、活性化された遺伝子産物の発現を制御するようにすることを特徴とする方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な説明
以上の説明から、請求の範囲に記載している本発明の構成は明かであるが、以下の好ましい実施態様に関する詳細な記載により、本発明のより十分な理解が得られるであろう。
【0013】
本明細書で使用している一般的な生化学的名称は、ヌクレオチド塩基に関しては、アデニン(A);チミン(T);グアニン(G);およびシトシン(C)出ある。Nはこれらのヌクレオチドの内の任意のものを表す。DNA核酸配列の構造表記において従来から便宜的に用いられているように、1本鎖のみを示し、一方の鎖がAであることは相補鎖がTであることを、また、一方の鎖がGであることは相補鎖がCであることを意味している。
【実施例】
【0014】
本発明者らは、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)内に転位因子が存在することを明らかにした。実験を行った2つの アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)株には、クローン配列であるVaderのコピーがおよそ15個存在している。対照的に、実験を行った2つのアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)株には、Vader配列のコピーは1個しか存在しない。これらの結果から、いくつかのグループがアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の実験室株からの活性トランスポゾンの単離に失敗した理由の説明がつく。おそらく、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の「培養された」株は、株の増殖を繰り返すことによりトランスポゾンを消失し、また、遺伝的な不安定性を示す異常型アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)株の排除が起こっている可能性があるということであろう。実験を行ったその他のアスペルギルス(Aspergillus)属になぜVader配列がほとんど存在しないかは説明が困難である。
【0015】
Vader配列は、植物の病原菌からクローニングされた転位因子、Pot1(マグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)由来)(12)およびFot1(フサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)由来)(8)と類似している。重複のための標的部位は、3つの菌共に2bpのTA配列である。Fot1の場合は、このトランスポゾンは切り出しを行わない。実験した2個のniaD復帰突然変異体においては、野生株の遺伝子(TAATTAに対するTA)に関連する4bpの挿入配列を保持していた。実験を行った挿入配列はイントロン内に組み込まれたため、Fot1による切り出しは、niaD遺伝子の産物の機能には影響しなかった。Pot2が機能性配列であるという事実については公表されていない。
【0016】
既に報告されているフサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)およびマグナポルテ・グリシー(Magnaporthe grisea)のものと類似しているトランスポゾンが存在するか否かを調べるため、Fot1(7)およびPot2(10)の両方の逆方向反復配列に対応する合成オリゴマーを作成した。Vaderの44bpの逆方向反復配列(配列番号5)を対照として、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のサザン分析を行ったが、Fot1またはPot2のいずれのオリゴマープローブを用いた場合にも決定的なハイブリダイゼーションは検出できなかった。これらの結果から、Vader配列は、これまでに見つかっているFot1およびPot2トランスポゾンのいずれとも類似していないことが示唆される(図7参照)。
【0017】
Vader配列の構造に関しては、DNAコピー内を直接転位する配列は、逆方向末端反復配列を有することが特徴である。長い末端反復配列を持たずに配列のRNAコピー(レトロ配列)の逆転写産物の再挿入を通じて転位する配列には、Drosphilia I配列などがある((16)を参照)。その他の特徴としては、レトロトランスポゾンは、Drosphilia copia配列のような長い末端反復配列を有する。Vaderは44bpの逆方向反復配列を有しており、このことは、VaderがおそらくDNAコピーを通じてのトランスポゾンであることを示している。図9の配列番号4および5にそれぞれ示しているVaderの逆方向反復配列は、1ヶ所だけ不一致の箇所がある。DNAコピーを通して転位する配列は、一般的には、トランスポゼース活性をコードしているオープンリーディングフレームを有している。Fot1配列は長さ1.9kbであり、Pot1配列は長さ1.8kbである。Fot1配列およびPot1配列は両方とも、トランスポゼースに類似していると推定されるようなタンパク質をコードしているORFを有している。Vader配列は可動性ではあるが、トランスポゼースタンパク質をコードするには短すぎる(約440bp)。トランスポゼース活性を欠く不完全な配列は、ゲノム内のどこか他の場所において完全な配列によってコードされているトランスポゼースが存在する場合には、転位することが可能である。
【0018】
例えば、トウモロコシのAcトランスポゾンは、完全に機能するトランスポゼースをコードしている。しかし、トウモロコシのDs配列は、切除能を有してはいるものの、機能性のAc配列が存在しなければ切除を行うことができない(17)。これらの結果から、Vader配列を転位性にするためには、より大きなトランスポゾンのゲノム内にトランスポゼース活性が存在していることが必要であることが示唆される。Vaderの44bpの逆方向反復配列(配列番号5)を用い、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のゲノムDNAを使用してPCRを行った最近の研究において、2個の増幅DNA配列が得られ、1個の配列は長さ1.8kb、もう1個は長さ約2.2kbであるという結果が得られている。この2番目の配列はTan(配列番号6)と呼ばれ、Vaderに存在するものと類似した4個の逆方向反復配列を含む。Tanは長さが2322bpであり、大きなオープンリーディングフレーム(1668bp)を有し、555個のアミノ酸から構成される推定トランスポゼース(配列番号7に示す)をコードしている。
【0019】
材料および方法
菌株:自発性塩素酸塩抵抗性突然変異株は、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)UVK143(北部地域研究所(Northern Regional Research Laboratories)所有、NRRL# 3112)由来である。以下のアスペルギルス(Aspergillus)株はATCCから入手した。アスペルギルス・シンナモメウス(Aspergillus cinnamomeus)(ATCC# 1027)、アスペルギルス・ウェンティ(Aspergillus wentii)(ATCC# 10593)およびアスペルギルス・フェニシス(Aspergillus phoenicis)(ATCC# 11362)。硝酸還元酵素の構造遺伝子突然変異体(niaD15)であるアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)(FGSC# A237)およびトリプトファン要求性突然変異株(trpC801)であるアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)(FGSC# A691)は、菌類遺伝子貯蔵所(Fungal Genetisc Stock Center, FGSC)から入手した。アスペルギルス・ヴェルシカラー(Aspergillus vercsicolor)、アスペルギルス・フェティデュス(Aspergillus foetidus)および私有のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ株は、ジェネンコール・インターナショナル社(Genencor International Inc. )の培養コレクションから入手した。大腸菌(Escherichia Coli)株JM101(15)およびMM294(16)は、(12)の記載に従ってプラスミドの増幅に使用した。
【0020】
突然変異株の選択:600mMのKClO3および10mMのグルタミン酸を含むCMアガー(11)のプレート上にUVK143の胞子の懸濁液(1×108個)をまいた。硝酸の毒性アナログである塩素酸塩(KClO3)を用いることにより、塩素酸塩抵抗性に基づいて硝酸同化経路における突然変異体の選択をすることができる。培地に添加した少量のグルタミン酸により、硝酸同化経路を誘導し、さらに野生株の胞子による毒性物質(塩素酸塩)の取り込みが誘導されるため、突然変異体の胞子と野生株の胞子との間の競合の度合いが減少する。各自発性突然変異体のコロニーが区別できるようになるまで、プレートを37℃でインキュベートした。KClO3に対する1種類の突然変異体のみをCMプレート上で胞子形成させ、次に、これらのプレートから得られた胞子をさまざまな窒素源(10mM)、すなわち、NaNO3(硝酸塩、ニトレート)、NaNO2(亜硝酸塩、ニトリート)、ヒポキサンチン、尿酸またはNH4Cl(塩化アンモニウム)のうちの一種のみを含む最少培地(11)上に画線した。これらの化合物は、それぞれ硝酸同化経路の中間生成物である。niaD突然変異体はKClO3に対する抵抗株として同定され、NaNO3を除くすべての経路中間生成物の存在下において増殖可能であった。
【0021】
PCR増幅:アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のniaD突然変異体およびUVK143のゲノムDNAを鋳型として用いた(サザン分析参照)。niaD遺伝子の増幅に用いたプライマー(50pmol)は、niaD1(niaDの開始部位に対して142番〜165番の位置):5’−CCAACCGAGTCCTCAGTATAGAC−3’(配列番号8)およびniaD2(2738番〜2715番):5’−CAACGCTTCATAGGCGTCCAGATC−3’(配列番号9)である。緩衝液およびメーカーから供与されたdNTPsと共に、Deep Vent(exo-)DNAポリメラーゼ(ニュー・イングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)社製)を使用した。niaD遺伝子の増幅を最大限にするために、反応混合物に4mMのMgSO4を添加した。94℃で2分間、鋳型DNAの変性を行い、続いて30サイクルの変性(94℃、30秒間)、プライマーのアニーリング(55℃、45秒間)および伸長(72℃、4分間)を行った。PCR断片は、Qiaex DNAゲル抽出キット(キアゲン(Qiagen)社製)を用いて精製し、切断し、一般的な方法(12)による制限酵素分析に使用した。
【0022】
Vaderの逆方向反復配列を認識するその他の配列が存在するか否かを確認するために、単一のプライマー(IR1)を合成して、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のゲノムDNAに用いた。IR1の配列は、5’−ATA−TGA−ATT−CAC−GTA−ATC−AAC−GGT−CGG−ACG−GGC−CAC−ACG−GTC−AGG−CGG−GCC−ATC−3’(配列番号 10)である。反応混合物内には次のものを含んでいる:Vader突然変異体およびUVK143の菌のゲノムDNA、Vent(exo-)DNAポリメラーゼ緩衝液、100pmolのIR1プライマー、dATP、dCTP、dTTPおよびdGTPを各250mM、DMSOならびに4ユニットのTaq DNAポリメラーゼ。増幅は以下のように行った:94℃で10分間×1サイクル、94℃で1分間×30サイクル、55℃で1分間、72℃で1分間、および72℃で15分間×1サイクル。反応生成物を集め、niaD反応の時と同様に抽出した。
【0023】
KClO3の存在下で増殖した精製コロニーから得られたniaD436由来の鋳型DNAをPCR反応に使用し、挿入を含む大きなniaD配列およびVader配列が削除された短いniaD配列の両方の増幅を行った。プライマーとしてMA003(359番〜378番):5’−ATATGAATTCCTTCTTGACTTCCCCGGAAC−3’(配列番号11)およびniaD5(1125番〜1144番):5’−ATATAAGCTTGTCACTGGACGACATTTCAG−3’(配列番号12)を使用した以外は、上述の方法に従ってPCR反応を行った。切り出し後にゲルを用いて精製した断片(およそ800bp)を配列決定に用いた。
【0024】
niaD突然変異体の復帰の頻度の確認:niaDの突然変異体であるniaD392、niaD410、niaD436およびniaD587の胞子を、NaNO3を単一の窒素源として含む最少培地上にまいた。niaD突然変異体のうち、窒素を利用しないコロニー(これはクモ状を呈し、胞子形成をしない)を600mMの塩素酸カリウム(KClO3)を含むCM培地にまき、37℃でインキュベートして繁殖させた。niaD392、niaD410、niaD436およびniaD587の胞子の10培希釈した懸濁液(0.8%のNaClと0.25%のツイーン(Tween)80を含む)およびUVK143の野生型の胞子を、窒素を含む(10mM)最少培地にまいて復帰の頻度を確認し、CM培地上で生存率を確認した。
【0025】
サザン分析:PCRおよびサザン分析用のゲノムDNAはCSL(13)上で培養した菌糸体から単離した(13)が、この培地には、培養期間中にniaDが野生型に戻る頻度を減少するために600mMのKClO3を含んでいる。DNA(10μg)は、BglII(niaD遺伝子内の挿入部位をそのまま切り離す)またはEcoRV(挿入配列(Vader)を1回のみ切断する)で切断し、ゲノム内でのコピー数を確認した。
【0026】
アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・シンナモメウス(Aspergillus cinnamomeus)、アスペルギルス・ヴェルシカラー(Aspergillus vercsicolor)、アスペルギルス・ウェンティ(Aspergillus wentii)、アスペルギルス・フェニシス(Aspergillus phoenicis)、アスペルギルス・フェティデュス(Aspergillus foetidus)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の工業的に産生された株のゲノムDNA(約10μg)をEcoRVで切断し、これらの菌のゲノム内に存在するVaderのコピー数を求めた。切断し、ゲル分離したDNAを正電荷を有するナイロン膜(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)社製)上に毛管現象によって移した。
【0027】
niaD遺伝子用のDNAプローブはPCR産物(UVK143のDNAを鋳型とし、niaD1(配列番号8)およびniaD2(配列番号9)をプライマーとして使用して増幅したもの)由来であり、これをSalIを用いて切断して528bpのプローブ断片を得た。挿入配列用のプローブであるVaderは、niaD436のDNAを鋳型として使用したPCR反応由来である。このPCR産物を精製し、SalIおよびSphIで切断し、ベクターpUC19にサブクローニングした。このサブクローンをScaIおよびXbaIで切断して236bpの断片を得、これを用いてさまざまな菌のゲノム内のVader配列のコピー数を推定した。
【0028】
DNAラベルおよび検出キット(ジェニウス1(Genius1)、ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)社製)を使用して、ジゴキシゲニンを用いたプローブDNAのランダムプライマーラベルおよびアルカリフォスファターゼでラベルしたジゴキシゲニンに対する抗体の検出を行った。
【0029】
相同プローブについてのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、メーカーの指示に従い、ホルムアミド不含のハイブリダイゼーション緩衝液を用いて68℃で行った(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)社による)。異型サザン分析のハイブリダイゼーション(すなわち、他のアスペルギルス(Aspergillus)属からのDNA分析)は、25%のホルムアミドを含むハイブリダイゼーション緩衝液を用いて37℃で行った。洗浄は、厳密な洗浄プロトコールに従って実施した。
【0030】
硝酸還元酵素分析:硝酸還元酵素の分析は、ダン−コールマン(Dunn-Coleman)らの記載(18)に従って行った。
【0031】
DNA分析および配列決定:373A型シークエンサー(ABI社製)を使用し、ダイデオキシターミネーターおよびTaqサイクルシークエンシングによって配列を決定した。市販の一般的なプライマーおよび逆方向プライマー(ニュー・イングランド・バイオラブズ(New England Biolabs)社製)を用いた。配列の一致度およびアミノ酸配列の推定はDNASTAR(ディーエヌエースター(DNASTAR)社製)を用いて行った。ヌクレオチドおよび推定アミノ酸配列を分析し、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(Genetics Computer Group)社(アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソン)のソフトウェアパッケージを用いて、GenBank、EMBLおよびProt-Swissの配列と比較した。
【0032】
実施例1
アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)の高頻度復帰型niaD自発性突然変異体の単離
転位因子の挿入により生じたniaD突然変異体は不安定だと考えられるため、塩素酸塩に対する自発性抵抗性に基づいて、単離した152個のniaD突然変異体の特性分析を行った。niaD突然変異体が不安定か否かを調べるため、43個のniaD突然変異体の胞子を、硝酸塩を単一の窒素源として含む培地上にまいた。14個の突然変異体において、1×105以上の頻度で野生型表現型に復帰していた。niaD突然変異体の復帰に関する実験を表1にまとめる。
【0033】
表1
まいた分生子数 野生型 復帰頻度
突然変異体 ×103 コロニー数 ×10-4
niaD392 2.9 27 93
niaD410 7.7 5 6.5
niaD436 3.7 164 443
niaD587 18.9 12 6.3

これらの結果から、高頻度で復帰しているniaD突然変異体を2組に分けることができそうである。niaD突然変異体のniaD436とniaD392は高頻度で復帰したが、一方、niaD410およびniaD587では復帰コロニーの数は少なかった。
【0034】
2個のniaD突然変異体から単離した復帰コロニーを用いて、硝酸還元酵素活性のレベルを測定した。6個のniaD410突然変異体のすべてにおいて硝酸還元酵素活性を検出することができた。niaD436復帰体の場合には、分析した6個の復帰体のうち3個において硝酸還元酵素活性が検出された。
【0035】
実施例2
Vader配列のクローニング
挿入配列がniaD遺伝子内に存在するか否かを確認するために、2個のプライマーを合成した。第1のプライマー、niaD1(配列番号8)は、niaD遺伝子の142番〜165番に対応しており、niaD2(配列番号9)は、niaD遺伝子の2738番〜2715番に対応しているものとした。14個の不安定なniaD突然変異体からゲノムDNAを単離した。このゲノムDNAをPCRプライマーの鋳型として使用した。4個のniaD突然変異体(410、436、587および392)を用いたPCR反応の産物から、niaD遺伝子内には約440bpの挿入(Vader)が存在することが明らかになった。
【0036】
サザンブロット分析のために、野生型および4個のniaD突然変異体(410、436、587および392)から単離したゲノムDNAをBglIIで切断した。使用したプローブは、niaD1(配列番号8)およびniaD2(配列番号9)のオリゴマープローブを用いて行った500bpのPCR産物をSalIで切断した断片である(図1参照)。プローブは野生型DNAとハイブリダイズして2.5kbの断片となった(レーン5)。niaD突然変異体410(レーン1)、436(レーン3)および392(レーン4)の場合は、プローブがハイブリダイズして2.9kbの断片となった。これらの結果から、これら3個のniaD突然変異体は、約440bpの挿入配列を含んでいることが示される。興味のあることに、突然変異体niaD587の場合には、プローブが2.5kbおよび2.9kbの両方の断片とハイブリダイズした。しかしながら、niaD突然変異体が好んで増殖し、復帰体は増殖しない、KClO3の存在下における実験では菌糸体が成長し、2個のハイブリダイズ可能な配列が検出されたことから、いくつかの細胞内においては、niaD遺伝子からVaderが切り出されていることが示唆された。
【0037】
4個の不安定なniaD突然変異体の各々におけるおよその挿入位置は、制限酵素地図分析によって確認した。4個のniaD突然変異体の各々における挿入位置について調べた結果を図2に示す。4個の突然変異体のすべてにおいて、niaD遺伝子内の異なる部位に約440bpの挿入配列を有していた。
【0038】
実施例3
Vaderのコピー数の確認
Vaderのコピー数を確認するために、Vader-2(突然変異体niaD436からクローンしたもの)のScaI-XbaIの間の236bpの断片を、EcoRVで開裂したゲノムDNAにハイブリダイズした。Vaderトランスポゾン内には、EcoRV部位は1ヶ所しか存在しない(図2参照)。サザンブロット分析により、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のゲノム内には、Vader配列の約15個のコピーが存在することが示された(図4)。Vader配列は、3個のniaD突然変異体、410、436および587のゲノムの特徴的な位置に組み込まれていた。しかし、突然変異体niaD392の場合には、他の3個のniaD突然変異体と比較すると、5ヶ所の異なる位置にVader配列が存在していた。これら4個のniaD突然変異体がすべて同じ株から単離されたものであることを考慮すると、この結果は驚くべきことであるが、この株内におけるVader配列の可動性の高さを示すよい証拠である。アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ産生株(ETC#2663)を調べたところ、約15のハイブリダイゼーション信号が検出された。アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)とアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)の間では、いくつかのハイブリダイゼーションパターンは共通していたものの、明かな違いが認められた。
【0039】
実施例4
他の菌種からのVaderの単離
他の糸状菌にもこの転位因子が見出せるか否かを確認する目的で、実施例3で用いたVader配列の236bpの断片(ScaI-XbaIの間)をプローブとして使用して、ゲノムのサザンブロット分析を行った(図5)。アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の2つの株、すなわち、硝酸還元酵素の構造遺伝子の突然変異体であるFGSC#A691(niaD15)およびトリプトファン要求株であるFGSC#A237(trpC801)を菌類遺伝子貯蔵所(Fungal Genetisc Stock Center, FGSC)から入手した。A691株においては、ハイブリダイゼーション信号を目視することはできなかったが、A691株では、1個の強いハイブリダイゼーション信号を検出することができた。これらの結果から、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)の実験室株において転位因子のクローニングができないのは、コピー数が少ないまたは存在しないためであることが示唆される。同様に、アスペルギルス・フェティデュス(Aspergillus foetidus)およびアスペルギルス・フェニシス(Aspergillus phoenicis)では2個のハイブリダイゼーション信号が、また、アスペルギルス・シンナモメウス(Aspergillus cinnamomeus)では1個のハイブリダイゼーション信号が検出されただけであった。アスペルギルス・ウェンティ(Aspergillus wentii)およびアスペルギルス・ヴェルシカラー(Aspergillus vercsicolor)においては、ハイブリダイゼーションは認められなかった。さらに、ヒュミコーラ・グリシー・バール・サーモイディ(Humicola grisea var. thermoidea)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)およびトリコデルマ・レーセイ(Trichoderma reesei)においてもハイブリダイゼーション信号は検出されなかった(結果は示していない)。これらの結果から、Vader配列は、アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)とアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)に多く
存在することが示唆される。
【0040】
実施例5
Vader配列の切り出し
Vader配列を含むniaD436由来のniaD遺伝子の一部をPCRを用いて増幅した。PCR増幅の結果、niaD配列によって挟まれたVader配列の1200bpの断片および切り出しによって生じた800bpの短い断片が得られた。短い方の断片を配列決定したところ、Vader配列は正確に切り出されていることがわかった。しかし、niaD436およびniaD410のいくつかの復帰体について硝酸還元酵素活性を調べたところ(18)、一連の活性が検出された(結果は示していない)。
【0041】
実施例6
挿入による不活化/遺伝子タグ付け
硝酸還元酵素をコードしている標的遺伝子niaDを挿入不活化することによってVaderをクローニングした。Vaderを組み込む標的配列はTAであり、この配列は菌類のゲノムにはよくみられる。硝酸還元酵素に関する突然変異体は硝酸存在下では増殖できないが、硝酸の毒性アナログであるKClO3には抵抗性である。
【0042】
同じプロモーターを使用しても、菌類による異型タンパク質の産生が相同タンパク質の産生に比べて低い理由のひとつとして、異型タンパク質が細胞によって分解されることが考えられる。もし、外来タンパク質を分解/隔離する作用を有するような物質を産生する遺伝子が存在するならば、それらの遺伝子を不活化することが好ましいであろう。このため、遺伝子破壊により、Tan遺伝子を欠く株を構築することにした。そのような株を使用して、ほ乳類のキモシンタンパク質などの異型タンパク質を形質転換し、発現させる。そのような遺伝子の活性を視覚化し、またはペトリ皿上で選択できれば有利である。例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)によって産生されたキモシンは、スキムミルク上で増殖したコロニーを破壊してハローを形成する(米国特許第5,364,770号参照。この開示を参考としてここに引用しておく)。
【0043】
所望する異型タンパク質またはポリペプチドを含む構造体で形質転換された株を得たならば、複製ベクターpHELP(20)上に存在するトランスポゾンTanで再度この株を形質転換する(以下のスキーム1)。該株に2度目の形質転換を行ってから、形質転換体から胞子懸濁液を生成する。ジェネンコール・インターナショナル社(Genencor International Inc. )は、胞子内にはpHELPプラスミドは存在しないことを明らかにしている(すなわち、胞子形成すると、pHELPプラスミドは胞子から排除される)(未発表)。胞子懸濁液を生成して、トランスポゾンをゲノム内に「固定」する。すなわち、切り出しに必要なトランスポゼースが既に細胞から消失しているので、胞子単離相に再び移動することができないようにする。
【0044】
次に、形質転換体を培地上にまくが、このとき、キモシンの場合のスキムミルクプレートのように異型タンパク質の産生が視覚化できるような培地を用いる。 さらに、形成したハローの大きさによってプレートをスクリーニングするが、このハローは、外来タンパク質の産生を制限する物質を産生する遺伝子の不活化によってできたものである。
【0045】
トランスポゾンの配列をクローニング手法のマーカーとして使用することによって不活化遺伝子をクローニングすることができる((19)参照)。
【0046】
スキーム1
遺伝子のタグ付けに有用なベクター
-----pHELP-------Vader-------Tan-------形質転換用の選択マーカー
(直線型)
-----pHELP-------Tan-------形質転換用の選択マーカー
(直線型)
スキーム1:これら2つのベクター内のVader部分は、逆方向反復配列の間に挿入された特徴的なDNA配列を有しており、既にVaderのコピーが内部に存在している株からのクローニングを可能にする。
【0047】
実施例7
トランスポゾンを用いた遺伝子発現の増加
菌内における異型タンパク質の産生が予想よりも低い理由は、外来(異型)遺伝子産生に必要な遺伝子が菌内で十分に発現されていないためであると考えられる。
【0048】
この問題を克服するために、本発明の転位因子を用い、生来のTan遺伝子が遺伝子破壊によって不活化されているような株を構築する。
【0049】
この株を用いて異型タンパク質を発現させ、この発現が以下のようなベクターを使用してキモシン(米国特許第5,364,770号)のように容易に視覚化できるようにする:
-----pHELP-------Vader**-------Tan-------形質転換用の選択マーカー
(直線型)
**Vaderの詳細
-----IVR-----グルコアミラーゼなどの制御可能なプロモーター-----IVR-----
多くの組み込み方があるが、そのうちのひとつとして、Vader配列の5’位を遺伝子に組み込む方法があり、これによって、非常に強いプロモーター(グルコアミラーゼなど)を用いて活性が増強された場合には、異型タンパク質(例えばキモシン)の分泌が増加する。例えば、以下のスキーム2を参照。
【0050】
スキーム2
5’-----Veder**-----分泌に必要な遺伝子-----3’
-----→遺伝子の3’からVaderの転写の増加
胞子懸濁液は形質転換体から単離する。上述したように、胞子単離過程により、株からpHELP(20)ベクターが排除され、ゲノム内に組み込まれたトランスポゾンが「固定」される。次に胞子を取り出し、より多くのキモシンを産生する形質転換体を選択する。さらに、従来からのクローニング法を用いてVaderに対して3’の方にクローニングを行う((19)参照、ここで参考として引用しておく)。
【参考文献】
【0051】








【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、不安定なniaD突然変異体のサザンブロット分析を示す。4個のniaD突然変異体由来の菌のゲノムDNAおよびUVK143をBglIIで切断(酵素分解)した(部位はすべての挿入体について3’)。niaD1およびniaD2のPCR産物をSalIで切断した500bpの断片を用いてブロットをプローブした。プレハイブリダイゼーション溶液内のDIGラベルしたプローブの濃度は20mg/mlである。野生株のバンドは2.5kbの位置でハイブリダイズしているが、一方、挿入配列を有する遺伝子では2.9kbの位置でハイブリダイズしている。レーン:1=niaD392;2=niaD587;3=niaD436;4=niaD410;5=UVK143;6=分子量マーカーIII(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)社製)
【図2】図2は、niaD遺伝子内のVaderの挿入マッピングを表す。構造遺伝子コード領域の6個のイントロンに対するVaderの挿入体1〜4の相対位置を示す。Vaderー4の正確な挿入部位はまだ明らかになっていないため、挿入のおよその領域を示している。関連する制限酵素部位は次の文字で表している:E=EcoRI;S=SalI;Sp=SphI;K=KpnI;およびB=BglII
【図3】図3は、niaD遺伝子内のVader2の配置を表す。ここに示す配列は、niaDの上流0.730kbから始まっている。2bpのTAの重複は文字で示され、44bpの逆方向反復配列は囲みで示されている。niaD遺伝子のDNA配列由来の接触(フランキング)領域は、挿入Vaderの両側に示されている。niaD遺伝子由来の接触DNA配列を含む配列番号1は、挿入Vaderの左側(5’側)に示され、標的配列「TA」で終わっている。niaD遺伝子由来の接触DNA配列を含む配列番号2は、挿入Vaderの右側(3’側)に示され、挿入Vaderに見られる標的配列である「TA」重複配列で始まっている。
【図4】図4はサザンブロット分析を示し、Vaderのゲノムのコピー数を表している。4個のアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のniaD突然変異体およびUVK143をEcoRVで完全に切断した。EcoRVはVader配列を1ヶ所でしか切断しない。ハイブリダイゼーションにより、ゲノム内のVaderのコピー数が14以上であることが示唆される。niaD392のハイブリダイズしているバンドが他の突然変異体およびUVK143とは異なることから、この配列が可動性であることが示唆される。レーン:1=分子量マーカーIII;2=UVK143;3=niaD410;4=niaD436;5=niaD587;6=niaD392
【図5】図5は、他の菌にもVader配列が存在することを示すサザンブロットである。その他の糸状菌、工業的に産出された株およびniaD突然変異体392をEcoRVで完全に切断した。ストリンジェンシーの低いハイブリダイゼーションを行った結果、Vaderと相同性の配列が、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)(FGSC A691)、アスペルギルス・シンナモメウス(Aspergillus cinnamomeus)、アスペルギルス・フェニシス(Aspergillus phoenicis)、アスペルギルス・フェティデュス(Aspergillus foetidus)、工業的に作出されたアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)株に存在することが示されている。レーン:1=分子量マーカーIII;2=アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)(FGSC A691);3=アスペルギルス・シンナモメウス(Aspergillus cinnamomeus)(ATCC# 1027);4=アスペルギルス・ヴェルシカラー(Aspergillus vercsicolor);5=アスペルギルス・ウェンティ(Aspergillus wentii)(ATCC# 10593);6=アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)(FGSC A237);7=アスペルギルス・フェニシス(Aspergillus phoenicis)(ATCC# 11362);8=アスペルギルス・フェティデュス(Aspergillus foetidus);9=工業的に作出されたアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)のグルコアミラーゼ産生株(ETC# 2663);10=アスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のniaD突然変異体
【図6】図6は、Tan(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のトランスポゾン)のゲノムのコピー数を示すサザンブロットである。4個のアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のniaD突然変異体およびUVK143をEcoRIで完全に切断した。EcoRIはTan配列を1ヶ所でしか切断しない。ハイブリダイゼーションにより、ゲノム内にはTanのコピーは1個しか存在しないことが示されている。レーン:1=分子量マーカーIII;2=UVK143;3=niaD410;4=niaD436;5=niaD587;6=niaD392
【図7】図7は、転位因子Fot1およびPot2がアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)の配列とハイブリダイズするか否かを示すサザンブロットである。4個のアスペルギルス・ニガー・バール・アワモリ(Aspergillus niger var. awamori)のniaD突然変異体をEcoRIで完全に切断した。EcoRIはTan配列を1ヶ所でしか切断しない。Tan(配列番号5)、Fot1、Pot2の逆方向反復プローブをジゴキシゲニン(Digoxigenin)(ベーリンガー・マンハイム(Boehringer Mannheim)社製,1992年)を用いてオリゴ末端化した。レーン:1=分子量マーカーIII;2=niaD436;3=niaD587。ブロットA、BおよびCは、それぞれラベルしたTan、Fot1およびPot2の逆方向反復プローブを用いてプロービングした。
【図8】図8は、Tanの構成を図示したものであり、この配列は2.4kbであり、4個の逆方向反復配列と共に約440bpのVaderの挿入配列を有している。ステムループ構造は推定であるため、大きなフラグメントとVaderとの間の斜線を施した部分のTanの正確な配列は不明である(図および対応する配列において「N]で表している)。
【図9】図9は、挿入Vaderの配列を示す(配列番号3)。Vaderの長さは437bpであることが見出された。挿入Vaderの44bpの逆方向反復配列はそれぞれ、配列番号4および配列番号5に対応し、Vaderの5’末端から3’末端方向にアンダーラインを施しており、逆方向反復配列内の1ヶ所の不一致(ミスマッチ)は太字で、また、TAの2bpの重複は太字で表している。配列に接触しているniaD配列は小文字で表している。
【図10A】図10Aは、Tan配列(配列番号6)の全DNA配列を示し、また、Tanによってコードされているトランスポゼースの推定アミノ酸配列(配列番号7)を示す。Tanは長さが2320bpであり、1668bpの大きなオープンリーディングフレームを有し、これが55個のアミノ酸(配列番号7)をコードしている。Tanは、Vaderに見出されているものと同様の4個の逆方向反復配列を含んでいる。
【図10B】図10Bは図10Aの続きである。
【図10C】図10Cは図10Bの続きである。
【図10D】図10Dは図10Cの続きである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4または5で示される反復配列を含む転位因子。
【請求項2】
糸状菌から転位因子を単離する方法において、配列番号4または5に示される配列を含むプローブを糸状菌DNAにハイブリダイズさせ;さらに前記プローブにハイブリダイズしたDNAを単離する;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
糸状菌から転位因子を単離する方法において、配列番号4または5に示される配列を有するDNAを糸状菌DNAのPCR増幅においてプライマーとして用いて、増幅DNA配列を作成し;さらに必要に応じて前記増幅DNAを特徴付けする;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
図10における下線の配列のいずれか1つで示される反復配列を含む転位因子。
【請求項5】
2.2kbまたは2.4kb長であることを特徴とする請求項4記載の転位因子。
【請求項6】
配列番号6で示されるDNA配列を有することを特徴とする請求項5記載の転位因子。
【請求項7】
請求項6記載の転位因子によってコードされているトランスポゼース。
【請求項8】
配列番号7で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項7記載のトランスポゼース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【公開番号】特開2007−215545(P2007−215545A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70418(P2007−70418)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【分割の表示】特願平8−528565の分割
【原出願日】平成8年3月19日(1996.3.19)
【出願人】(398056506)ジェネンコア インターナショナル インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】