説明

アセト乳酸合成酵素の活性測定方法及び、形質転換体の製造方法

【課題】 培養細胞内におけるアセト乳酸合成酵素の活性を定量的に測定できる系を構築する。
【解決手段】 アセト乳酸合成酵素遺伝子を有する培養細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、当該培養細胞中のケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制するか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、培養細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、アセトインを検出することで、培養細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内におけるアセト乳酸合成酵素の活性測定方法、レポーター遺伝子を用いた形質転換体の製造方法、レポーター遺伝子の活性に基づいて所望の活性を有する化合物を選別するスクリーニング方法、及び当該スクリーニング方法に使用可能なベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
植物の遺伝子を改変する方法は、目的遺伝子をベクターに乗せて、その遺伝子を植物ゲノム中に導入する方法及び所望の塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを物理的に細胞内へ導入して植物が元来持つ遺伝子の修復機構を利用して狙った遺伝子を変化させる方法の2つに大別される。前者の方法において、目的遺伝子を植物へ導入する技術としては、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール(PEG)法、パーティクルガン法(遺伝子銃法)等の物理的導入方法及びアグロバクテリウム形質転換法と呼ばれる生物学的な方法を挙げることができる。アグロバクテリウム形質転換法は、植物病原細菌の一種であるアグロバクテリム菌が植物に感染すると、自らが持つTiプラスミドやRiプラスミド上に存在するT-DNA領域を、植物のゲノム中へ組み込む性質を利用している。
【0003】
イネやトウモロコシ等の単子葉植物では、エレクトロポレーション法とパーティクルガン法が比較的効率良く目的遺伝子をゲノム中へ導入できる方法として使用されていた。一方、アグロバクテリウム形質転換法は、双子葉植物で多くの形質転換植物が作出されたにも関わらず、単子葉植物に適用することは難しいと言われていた。その理由は、アグロバクテリム菌が元来双子葉植物に感染する植物病原細菌であり、単子葉植物への感染率が低いことに起因した。しかし、その後、アグロバクテリウムを使用した単子葉植物の形質転換方法が精力的に研究され、その結果、本法で単子葉植物を形質転換することが可能となってきた。アグロバクテリウム形質転換法は三系交雑法を利用する中間ベクター法とTiプラスミドを2つのプラスミドに分割して利用するバイナリーベクター法の2種に分けられる。この内バイナリーベクター法と呼ばれる方法による単子葉植物の形質転換方法は、T-DNAからホルモン合成遺伝子が除去されたディスアーム型Tiプラスミドを有する強病原性アグロバクテリウム菌(EHA101、105等)とpBI121等のバイナリーベクターの組み合わせを利用する方法及びディスアーム型Tiプラスミドを有する中程度病原性アグロバクテリウム菌(LBA4404、GV311等)とpTOK233等のスーパーバイナリーベクターの組み合わせを利用する方法の2つ分けられる。前者の方法はバイナリーベクターを持たせる宿主の方に工夫が施されている。即ち、宿主範囲が広く、他のアグロバクテリム菌よりも形質転換効率が高い強病原性のアグロバクテリウムA281が持つTiプラスミドから作出されたディスアーム型Tiプラスミドを持つEHA系列の宿主菌(EHA101、EHA105)を利用することにより、バイナリーベクター側に手を加えなくても、イネに代表される単子葉植物の形質転換効率が高まった。後者ではバイナリーベクター側に工夫が施されている。バイナリーベクターにvirBやvirG等の病原性に関与する遺伝子を持たせることで、宿主菌が強病原性菌でなくとも単子葉植物の高効率での形質転換が可能となった。
【0004】
以上のような植物の形質転換において、目的遺伝子が導入された形質転換体の選抜は選抜マーカーを指標として行われる。また、選抜マーカーによって選抜された形質転換体には目的遺伝子が導入されている確率が極めて高いので、選抜の後、目的遺伝子の導入の確認や目的遺伝子が植物体で機能しているかどうかを調べる。ここで、選抜マーカー遺伝子としては、抗生物質のカナマイシンやハイグロマシン或いは除草剤のグルホシネートを不活性化する酵素タンパク質をコードする遺伝子が使用されている。これらはすべてバクテリア由来の遺伝子である。抗生物質耐性遺伝子については、遺伝子の水平伝播による抗生物質耐性微生物の出現が懸念されることから近い将来使用が制限される方向にある。また特に食品となる植物ではバクテリア由来の遺伝子を使用することに対して日本やヨーロッパでは消費者の厳しい目が注がれている。このようなことから、食用となる植物の遺伝子組換えを行う場合には、植物由来の遺伝子を利用するのが好ましいと考えられる。
【0005】
一方、除草剤に抵抗性を付与する植物由来の遺伝子は除草剤抵抗性作物を分子育種するための遺伝子素材として使用できるだけでなく、除草剤と組み合わせて使用することで植物遺伝子組換え操作の選抜マーカー遺伝子として利用できる。単離或いは合成した除草剤に抵抗性を付与するイネ由来の変異型アセト乳酸シンターゼ(ALS)遺伝子から発現するALSタンパク質は、試験管の中で強い除草剤抵抗性を示すので、薬剤と組み合わせることで選抜マーカーとして利用できる(特許文献1;国際公開特許WO02/44385及び特許文献2;国際公開特許WO03/083118参照)。
【0006】
特許文献1には、2点変異型ALS遺伝子を選抜マーカーとして使用し、ビスピリバックナトリウム塩による形質転換体の選抜が可能であることが示された。また、この2点変異型ALS遺伝子に関しては、別途floral dipと呼ばれる方法でシロイヌナズナが形質転換され、直接ビスピリバックナトリウム塩で選抜されたところ、約1%という比較的高い効率で選抜できることがわかり、イネ由来の本遺伝子がシロイヌナズナという異種の双子葉植物でも選抜マーカー遺伝子として利用できることが明らかとなっている(非特許文献1;第21回日本植物細胞分子生物学会講演要旨集p.78,2003年)。さらに、2点変異型ALS遺伝子に関しては、イネについては遺伝子が導入された培養細胞から植物体が再分化され、再分化した植物体から採られた薬剤抵抗性形質に関してホモ接合体の株(孫の世代)の薬剤感受性及び形並びに種子数が原品種のイネと比較された結果、ホモ接合体の株は明瞭な薬剤抵抗性を示し、原品種と同様に生育して種子を稔らせ、導入遺伝子が高発現した場合でもイネが正常に育つことが明らかとなっている(非特許文献2;植物の代謝系遺伝子を活用した新雑草防除技術の開発(雑草防除)プロジェクト成果報告書CD-ROM版,2004年2月27日)。
【0007】
一方、植物体では働かずに培養細胞だけで働くイネ由来のプロモーターで制御した2点変異型ALS遺伝子でイネを形質転換した場合にも本遺伝子が有効な選抜マーカーとなることが明らかにされた(非特許文献3;大島正弘. 2003. 抗生物質耐性遺伝子を使わない新しい遺伝子組換えイネ選抜技術の開発. ブレインテクノニュース. 97:15-19)。
【0008】
このように、遺伝子組換え技術の進歩によって多くの植物で組換え遺伝子の導入が可能となり、選抜、交雑等の従来育種法に比較して短期間で形質の改良が行えるようになってきた。しかしながら、宿主染色体に目的遺伝子を安定的に組み込むに当たっては、染色体上の導入遺伝子の組み込まれる場所がその目的遺伝子の発現に大きな影響を与えることが知られており、通常の形質転換方法では、目的遺伝子は宿主染色体にランダムに導入されるため、発現効率の高い場所に組み込まれた株を獲得するために多大な労力と時間を必要とする。また、多くの植物では直接遺伝子導入することが困難なため培養細胞を用いて遺伝子導入を行い、薬剤選抜により遺伝子導入された細胞を再分化した後、適当なアッセイ系により目的タンパク質の発現を測定しなければならない。
【0009】
【特許文献1】国際公開特許WO02/44385
【特許文献2】国際公開特許WO03/083118
【非特許文献1】第21回日本植物細胞分子生物学会講演要旨集p.78,2003年
【非特許文献2】植物の代謝系遺伝子を活用した新雑草防除技術の開発(雑草防除)プロジェクト成果報告書CD-ROM版,2004年2月27日
【非特許文献3】大島正弘. 2003. 抗生物質耐性遺伝子を使わない新しい遺伝子組換えイネ選抜技術の開発. ブレインテクノニュース. 97:15-19
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、培養細胞内におけるアセト乳酸合成酵素の活性を定量的に測定できる系を構築することによって、形質転換体においてアセト乳酸合成酵素遺伝子をレポーター遺伝子として利用した形質転換体の製造方法及びアセト乳酸合成酵素遺伝子をレポーター遺伝子として利用したスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成した本発明は以下を包含する。
【0012】
(1)アセト乳酸合成酵素遺伝子を有する培養細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、当該培養細胞中のケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制するか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、培養細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、アセトインを検出することで、培養細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程とを含む、培養細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性測定方法。
【0013】
上記アセト乳酸合成酵素の活性測定方法において、上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることが好ましい。またこの場合、上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で培養細胞を培養することがより好ましい。
【0014】
上記アセト乳酸合成酵素の活性測定方法において、上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることが好ましい。
【0015】
上記アセト乳酸合成酵素の活性測定方法において、上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することができる。
【0016】
(2) アセト乳酸合成酵素遺伝子及び導入対象の目的遺伝子を含むDNA構築物を、宿主細胞に導入する工程と、上記宿主細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、ケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現が抑制されているか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、上記宿主細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、アセトインを検出することで、宿主細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程と、上記活性に基づいて、上記アセト乳酸合成酵素の活性が高い形質転換体を選別する工程とを含む、形質転換体の製造方法。
【0017】
上記形質転換体の製造方法において、上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることが好ましい。また、この場合、上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で宿主細胞を培養することが好ましい。
【0018】
上記形質転換体の製造方法において、上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることが好ましい。
【0019】
上記形質転換体の製造方法において、上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することができる。
【0020】
(3) 特異的発現誘導タンパク質のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現誘導するアセト乳酸合成酵素遺伝子とを有するベクターを有する細胞に、供試化合物を接触させる工程と、上記細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、当該培養細胞中のケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制するか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、上記細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、アセトインを検出することで、細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程とを含み、上記活性に基づいて供試化合物の中から、上記ベクターに含まれる特異的発現誘導タンパク質のプロモーターを活性化する化合物又は不活性化する化合物を選択することを特徴とするスクリーニング方法。
【0021】
上記スクリーニング方法において、上記ベクターに含まれるアセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることが好ましい。この場合、上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で細胞を培養することが好ましい。
【0022】
上記スクリーニング方法において、上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることが好ましい。
【0023】
上記スクリーニング方法において、上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することができる。
【0024】
(4) 特異的発現誘導タンパク質のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現誘導するアセト乳酸合成酵素遺伝子とを有するベクター。
【0025】
上記ベクターにおいて、上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることが好ましい。また、上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることが好ましい。さらに、上記特異的発現誘導タンパク質は、感染特異的タンパク質であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、培養細胞内におけるアセト乳酸合成酵素の酵素活性を測定する方法を確立することができ、当該方法を適用することによって、アセト乳酸合成酵素遺伝子をレポーター遺伝子として新規に利用することが可能となった。本発明に係る形質転換体の製造方法においては、アセト乳酸合成酵素遺伝子をレポーター遺伝子として使用することによって、アセト乳酸合成酵素の活性に基づいた導入目的遺伝子の発現量を評価できる。本発明に係るスクリーニング方法においては、アセト乳酸合成酵素遺伝子をレポーター遺伝子として利用して、アセト乳酸合成酵素遺伝子の上流に位置するプロモーターの活性を調節する化合物をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明に係るアセト乳酸合成酵素の活性測定方法は、培養細胞内におけるアセト乳酸合成酵素の活性を測定する新規な方法である。本方法において、アセト乳酸合成酵素としては、2分子のピルビン酸からアセト乳酸を合成する活性を有する酵素であれば、特に限定されずに活性測定対象とすることができる。以下の説明において、アセト乳酸合成酵素を「ALS」と略称し、アセト乳酸合成酵素をコードする遺伝子を「ALS遺伝子」と略称する場合もある。
【0029】
ALSは、高等植物全体に亘って広く存在していることが知られており、種々の微生物、例えば酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)等においても見いだされている。
【0030】
大腸菌及びネズミチフス菌には、ALSのイソ酵素が3種存在していることが知られている。これら各々のイソ酵素は、酵素の触媒活性を司る分子量の大きい触媒サブユニットと分岐鎖アミノ酸が結合することによりフィードバック阻害剤として機能する分子量の小さい制御サブユニットとからなるヘテロオリゴマーである(Chipman et al., Biochim. Biophys. Acta. 1385, 401-419, 1998)。触媒サブユニットは、それぞれIlv IH、Ilv GM、Ilv BNオペロンに位置している。一方、酵母菌の場合、ALSは、単一な酵素であるが、細菌と同様に触媒サブユニットと制御サブユニットとからなり(Panget al.,Biochemistry, 38, 5222-5231, 1999)、触媒蛋白質サブユニットはILV2座位に位置している。
【0031】
一方、植物におけるALSの場合も、上述した微生物と同じように触媒サブユニットと制御サブユニットとからなることが知られている(Hershey et al., Plant Molecular Biology. 40, 795-806,1999.)。例えば、双子葉植物のタバコの場合、ALSの触媒サブユニットは、SuRA及びSuRBの2つの遺伝子座位によってコードされ(Lee et al., EMBO J. 7, 1241-1248, 1988)、トウモロコシの場合、ALSの触媒サブユニットは、als 1及びals 2の2つの遺伝子座位にコードされている(Burr et al., Trendsin Genetics 7,55-61, 1991;Lawrence et al., Plant Mol. Biol. 18,1185-1187, 1992)。触媒サブユニットをコードする遺伝子に関しては、双子葉植物の場合、タバコだけでなくアラビドプシス(Arabidopsis)、ナタネ、ワタ、オナモミ(Xanthium)、アマランサス(Amaranthus)及びホウキギ(Kochia)について完全に塩基配列が決定されている(Chipman et al., Biochim. Biophys. Acta. 1385, 401-419, 1998及び再公表特許 WO97/08327参照)。触媒サブユニットをコードする遺伝子に関しては、単子葉植物の場合、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、イタリアンライグラスに由来するALS遺伝子の塩基配列が決定されている。
【0032】
本発明に係る活性測定方法においては、これら従来公知のALSについて適用することができる。また、本発明においては、従来公知のALSのアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなり、アセト乳酸合成活性を有するタンパク質(以下、変異型ALSと称する場合もある)もALSに含まれる。ここで、「複数個のアミノ酸」とは、1〜30個のアミノ酸であることが好ましく、1個〜20個のアミノ酸であることがより好ましく、1〜10個のアミノ酸であることが更に好ましい。
【0033】
変異型ALSとしては、従来公知のALSにおけるアミノ酸配列に特定の変異を導入し、所定の除草剤に対して抵抗性を有する変異型ALSであることが好ましい。所定の除草剤に対して抵抗性を有する変異型ALSとしては、例えば、国際公開特許WO02/44385及び国際公開特許WO03/083118に開示された変異型ALSを使用することが最も好ましい。
【0034】
一方、本発明に係る活性測定方法において、培養細胞としては、特に限定されないが、植物細胞であることが好ましい。なお、本発明において、培養細胞とは、植物細胞塊(カルス)も含む意味である。植物細胞の由来としては、特に限定されず、例えば、イネ、トウモロコシ、タバコ、アラビドプシス(Arabidopsis)、ナタネ、ワタ、オナモミ(Xanthium)、アマランサス(Amaranthus)及びホウキギ(Kochia)等を使用することができる。その他にも、コムギ、オオムギ、ダイズ、サツマイモ、レタス、トマト、キク、シバ類等を使用することができる。
【0035】
本発明に係る活性測定方法は、上述したALS遺伝子を形質転換法によって導入した培養細胞におけるALSの酵素活性を測定する場合にも適用できるが、上述した培養細胞が本来的に有しているALS遺伝子によってコードされるALSの酵素活性を測定する場合にも適用できる。本発明に係る活性測定方法では、先ず培養細胞内にアセト乳酸を蓄積し、次に培養細胞内に蓄積したアセト乳酸を抽出し、次に抽出したアセト乳酸をアセトインに変換してアセトイン量を測定する。すなわち、本活性測定方法では、ALSの作用によって蓄積したアセト乳酸をアセトイン量として測定することによって、当該ALSの酵素活性を測定する。
【0036】
一般に、分岐鎖アミノ酸合成経路においてALSにより合成されたアセト乳酸は、ケトール酸リダクトイソメラーゼ(以下、KARIと略称する)によってさらに代謝される。このKARIの活性を阻害すれば、アセト乳酸は代謝されず、ALS活性に依存して組織内に蓄積することとなる。したがって、本発明に係る活性測定方法において、アセト乳酸を蓄積する際には、ケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制して培養細胞を培養するか、又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養細胞を培養する。
【0037】
ケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤としては、1,1-シクロプロパンジカルボン酸(1,1-cyclopropanedicarboxylic acid(以下、CPCAと略称する))およびその塩類、2-dimethyl-phosphinoyl-2-hydroxyacetic acid(HOE 704)等を使用することができる。ケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤は、培養細胞の培地に例えば、100〜10000μM、好ましくは500〜1000μMの濃度で転換することによって培養細胞中のKARIの活性を抑制することができる。
【0038】
また、アセト乳酸を蓄積する際には、培地成分として炭素源が含まれる。炭素源としては、例えばスクロース、グルコース、フルクトース、マルトース、サッカロース、トレハロース、ラクトース等を使用することができるが、中でもスクロースを使用することが好ましい。スクロース等の炭素源を含む培地を使用することによって、培養細胞内において2分子のピルビン酸からアセト乳酸を合成することができる。
【0039】
本発明に係る活性測定方法において、アセト乳酸を抽出する際には、アセト乳酸を蓄積している培養細胞を水中に放置する方法、或いは、水中で当該培養細胞に対して超音波を照射する方法を使用することができる。後者の方法において、超音波は、培養細胞を粉砕することを目的とする周波数及び/又は照射時間とするものでなく、培養細胞からアセト乳酸の培養細胞からの抽出を促進することを目的とする周波数及び/又は照射時間とする。例えば、培養細胞として植物細胞塊(カルス)からアセト乳酸を抽出する場合には、10〜100kHz、好ましくは20〜40kHzの周波数で、10〜60分、好ましくは15〜20分の照射時間として超音波を照射する。
【0040】
本発明に係る活性測定方法において、抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する際には、アセト乳酸を含む溶液に酸を加える。例えば、培養細胞から抽出したアセト乳酸を含む溶液に対して、所定量の5%(v/v)の硫酸を加え、60℃で30分間静置することによってアセト乳酸をアセトインに変換することができる。その他にも、アセト乳酸脱炭酸酵素により非加熱でアセトインに変換するといった方法により、アセト乳酸をアセトインに変換することができる。
【0041】
本発明に係る活性測定方法において、アセトインを検出する際には、アセトインが比色分析で赤色に発色するため、ALS活性の強さは、赤色の発色程度に基づいてアセトインを検出することができる。例えば、既知量のアセトインを含む複数のサンプルを比色分析することで検量線を予め作成し、当該検量線に基づいてアセトインを定量することができる。なお、アセトインの比色分析は、アセトインを含む溶液にクレアチンと1-ナフトールとを加え、30〜40分放置することで最大の発色を呈した時に530nmの吸光度の測定によって可能である。
【0042】
例えば、除草剤に対する抵抗性を有する変異型ALSを測定対象のALSとする場合、当該除草剤を更に添加した培地で培養細胞を培養し、アセト乳酸を蓄積する。このように培養することによって、変異型ALSを有しない培養細胞に由来するALSの活性を排除することができ、変異型ALSのみの活性を測定することができる。
【0043】
次に、本発明に係る形質転換体の製造方法について説明する。本発明に係る形質転換体の製造方法は、ALS遺伝子をレポーター遺伝子として使用して目的遺伝子とともに宿主細胞に導入し、上述したALSの活性測定方法を適用して当該ALS遺伝子によりコードされるALSの活性を測定する。上述したALSの活性測定方法によれば、ALS活性に基づいてレポーター遺伝子であるALS遺伝子の発現量を形質転換体毎に判断することができ、この判断に基づいて目的遺伝子を高発現する形質転換体を選抜することが可能となる。
【0044】
特に、レポーター遺伝子であるALS遺伝子として、上述した除草剤に対する抵抗性を有する変異型ALS遺伝子を使用した場合には、当該変異型ALS遺伝子を選択マーカー遺伝子としても使用することが可能となる。すなわち、変異型ALS遺伝子を目的遺伝子とともに宿主細胞に導入することによって、変異型ALSを目的遺伝子の発現量の指標となるレポーター及び目的遺伝子の導入の有無を示す選択マーカーとして使用することができる。
【0045】
本発明に係る形質転換体の製造方法では、先ず、目的遺伝子及びALS遺伝子を基本ベクターに組み込んでなるベクターを構築する。基本ベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド、シャトルベクター、ヘルパープラスミドなどが挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。本発明に係る形質転換体の製造方法においては、目的遺伝子及びALS遺伝子をバイナリーベクターと呼ばれるpBI101(Clonetech社)などのベクターに挿入することもできる。
【0046】
形質転換体は、上述したベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、目的遺伝子及びALS遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではないが、植物が好ましい。植物としては、トウモロコシ(Zea mays) 、イネ(Oryza sativa)に代表される単子葉植物が好ましい。その他にも形質転換に用いられる植物としては、アブラナ科、ナス科、マメ科等に属する植物(下記参照)が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
【0047】
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)
マメ科:ダイズ(Glycine max)
【0048】
上記ベクターは、通常の形質転換方法、例えば電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法等によって植物細胞中に導入することができる。
【0049】
例えばエレクトロポレーション法を用いる場合は、パルスコントローラーを備えたエレクトロポレーション装置により、電圧500〜1600V、25〜1000μF、20〜30msecの条件で処理し、発現ベクターを宿主に導入する。
【0050】
また、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばBio-Rad社のPDS-1000/He等)を用いて処理することができる。処理条件は植物又は試料により異なるが、通常は1000〜1800psi程度の圧力、5〜6cm程度の距離で行う。
【0051】
また、植物ウイルスを基本ベクターとして利用することによって、上述した目的遺伝子及びALS遺伝子を植物体に導入することができる。利用可能な植物ウイルスとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスが挙げられる。すなわち、まず、ウイルスゲノムを大腸菌由来のベクターなどに挿入して組換え体を調製した後、植物ウイルスのゲノム中に上述した目的遺伝子及びALS遺伝子を有するDNA構築物を挿入する。このようにして修飾されたウイルスゲノムを制限酵素によって組換え体から切り出し、植物宿主に接種することによって、上述した上述した目的遺伝子及びALS遺伝子を植物宿主に導入することができる。
【0052】
アグロバクテリウムのTiプラスミドを利用する方法においては、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属に属する細菌が植物に感染すると、それが有するプラスミドDNAの一部を植物ゲノム中に移行させるという性質を利用して、上述した目的遺伝子及びALS遺伝子を有するを植物宿主に導入する。アグロバクテリウム属に属する細菌のうちアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)は、植物に感染してクラウンゴールと呼ばれる腫瘍を形成し、また、アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacteriumu rhizogenes)は、植物に感染して毛状根を発生させる。これらは、感染の際にTiプラスミド又はRiプラスミドと呼ばれる各々の細菌中に存在するプラスミド上のT-DNA領域(Transferred DNA)と呼ばれる領域が植物中に移行し、植物のゲノム中に組み込まれることに起因するものである。
【0053】
Ti又はRiプラスミド上のT-DNA領域中に、植物ゲノム中に組み込みたい目的遺伝子及びALS遺伝子を挿入しておけば、アグロバクテリウム属の細菌が植物宿主に感染する際に目的遺伝子及びALS遺伝子を植物ゲノム中に組込むことができる。
【0054】
特に本発明に係る形質転換方法においては、ALS遺伝子をレポーター遺伝子として使用するため、上述したALSの活性測定方法を適用して、ALSの活性が高い形質転換体を容易に選抜することができる。これに対して、従来においては、特に宿主細胞として植物細胞を使用する場合、形質転換の結果として得られた形質転換植物を植物体に成長させ、植物体における目的遺伝子の発現量をGUS遺伝子或いはGFP遺伝子等のレポーター遺伝子の発現量から推定し、目的遺伝子を高発現する形質転換体を選抜していた。この従前の方法では、目的遺伝子を高発現する形質転換体を選抜するまでに長期間を要していた。これに対して、本発明に係る形質転換体の製造方法によれば、目的遺伝子及びALS遺伝子を宿主に導入した後に短期間で目的遺伝子を高発現する形質転換体を選抜することができる。
【0055】
また、レポーター遺伝子であるALS遺伝子として、上述した除草剤に対して抵抗性を有する変異型ALS遺伝子を用いる場合には、目的遺伝子が導入された宿主細胞のみを、除草剤の存在下で培養することで選択することができる。ここで、除草剤とは、植物内におけるALSの活性を阻害することによって植物の成長を抑制するものを意味する。除草剤としては、スルホニルウレア系除草剤、イミダゾリノン系除草剤、トリアゾロピリミジン系除草剤並びにピリミジニルカルボキシ系除草剤(以下、「PC系除草剤」という。)等を挙げられるがこれらに限定されない。変異型ALSの種類と、抵抗性を示す除草剤との種類については、国際公開特許WO02/44385に詳述されている。
【0056】
形質転換の結果、目的遺伝子が導入され、目的遺伝子を高発現する形質転換体は、腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。
【0057】
なお、上述したベクターは、上記植物宿主に導入するのみならず、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf9等の昆虫細胞などに導入して形質転換体を得ることもできる。大腸菌、酵母等の細菌を宿主とする場合は、本発明のベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、上述したプロモーター、リボソーム結合配列、目的遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、発現ベクターには、上述プロモーターを制御の制御下にある遺伝子が含まれていてもよい。
【0058】
細菌への発現ベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0059】
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。酵母への発現ベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
【0060】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞などが用いられる。動物細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0061】
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への発現ベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0062】
遺伝子が宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用してもよい。
【0063】
次に、本発明に係るスクリーニング方法について説明する。本発明に係るスクリーニング方法は、ALS遺伝子をレポーター遺伝子として使用して、供試化合物のなかから特異的発現誘導タンパク質のプロモーターを活性化する化合物を選択する。本発明に係るスクリーニング方法では、先ず、特異的発現誘導タンパク質のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現誘導するALS遺伝子とを有するベクターを構築し、当該ベクターで形質転換した細胞を調製する。すなわち、得られる細胞においては、ALS遺伝子の発現を、その上流に位置するプロモーターで制御することとなる。当該プロモーターが活性化すると、下流のALS遺伝子が発現することとなり、上述したALSの活性測定方法を適用してALSの発現及び発現強度を検出することができる。従って、供試化合物を上記細胞に接触させてALSの活性を測定することによって、ALSの上流に位置するプロモーターを活性化する化合物又は当該プロモーターを不活性化する化合物をスクリーニングすることができる。
【0064】
ここで、特異的発現誘導タンパク質とは、病害感染、温度、塩濃度、pHといった各種の環境ストレス等に依存して誘導されるタンパク質を意味する。特異的発現誘導タンパク質の発現は、その上流に位置するプロモーターが所定の条件下で活性化することで亢進される。
【0065】
例えば、病害感染時には、植物自身が持つ防御システムである全身獲得抵抗性(SAR)が現れる。すなわち、植物は、SARの出現によって病害から自身を防御する。近年、このシステムを活性化して病害に対する抵抗性を誘導する有機合成化合物や生物由来の物質はplant activatorとして注目を集めている。Plant activatorはそれ自体が抗菌活性を持たず、抗菌活性をもつ感染特異的タンパク質(以下、PRタンパク質)群を誘導して植物の自己防衛能力を高める。ある化合物がこれらのPRタンパク質を誘導すれば、当該化合物がplant activatorだと判断できる。なお、本例においては、PRタンパク質が特異的発現誘導タンパク質である。
【0066】
plant activatorとしては、サリチル酸またはジャスモン酸を介した情報伝達経路を活性化し、シグナルによって活性化された転写調節因子(情報伝達物質)がさらにその下流に位置する転写調節因子およびPR遺伝子のプロモーター領域を活性化するものが知られている。
【0067】
本発明に係るスクリーニング方法では、例えばPR遺伝子のプロモーターの制御下にALS遺伝子を有する細胞に供試化合物を接触させ、上述したALSの活性測定方法によりALSの活性を測定する。ALS活性測定の結果から、ALS活性を向上させる供試化合物を特定することができる。特定した供試化合物は、PRタンパク質のプロモーターを活性化する化合物であると判断できる。すなわち、本発明に係るスクリーニング方法において、特異的発現誘導性タンパク質のプロモーターとしてPRタンパク質のプロモーターを使用することによって、新規なplant activatorをスクリーニングすることができる。
【0068】
他の例としては、本発明に係るスクリーニング方法において、特異的発現誘導性タンパク質のプロモーターとして低温誘導性タンパク質のプロモーターを使用する方法を挙げることができる。この場合、低温誘導性タンパク質のプロモーターの制御下にALS遺伝子を有する細胞を低温条件下に曝すとともに供試化合物を接触させ、上述したALSの活性測定方法によりALSの活性を測定する。なお、この例において供試化合物を接触させない場合、当該細胞においては、低温処理によって低温誘導性タンパク質のプロモーターが活性化し、上述したALSの活性測定方法によりALS活性を確認することができる。本例においては、ALS活性を低下させる供試化合物を特定することができる。特定した供試化合物は、低温誘導性タンパク質のプロモーターを不活性化する化合物で有ると判断できる。
【0069】
このように、本発明に係るスクリーニング方法によれば、特異的発現誘導性タンパク質のプロモーターを活性化する又は不活性化する新規な化合物を容易にスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
〔実施例1〕pPALSバイナリーベクターへのGFP遺伝子発現カセットの導入
pUC18ベクターに導入された、CaMV35SプロモーターおよびNOSターミネーターで遺伝子の発現を制御されたGFP遺伝子のカセット(静岡県立大学から入手)をHind IIIにて消化後、平滑末端化処理を行い、さらにEcoR Iにより消化し、pUC18ベクターから切り出した。切り出したGEPの発現カセットをクミアイ化学工業株式会社にて販売(http://www.kumiai-chem.co.jp/palselect/index.html)しているイネ由来ALSプロモーターおよびターミネーターで627番目のセリンがイソロイシンに変異した1点変異型除草剤抵抗性イネALS遺伝子の発現を制御するカセットをT-DNA領域に持つバイナリーベクターpPALS (PSR-02) に導入した。切り出したGFPのカセットはpPALSベクターのマルチクローニングサイトをBamH Iにて消化後平滑末端化処理を行い、さらにEcoR Iにより消化した後ライゲーション反応により導入した。構築されたバイナリーベクターをpPALS-GFPと名づけた(図1参照)。このバイナリーベクターでアグロバクテリウム(EHA105)をエレクトロポレーションにより形質転換をした。
【0072】
実施例1で使用したバイナリーベクターpPALS(PSR-02)に含まれるイネ由来ALSプロモーターを配列番号1に示し、1点変異型除草剤抵抗性イネALS遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び3に示し、イネ由来ALSターミネーターを配列番号4に示す。
【0073】
〔実施例2〕pPALS-GFPによるイネ形質転換
イネ種子の前培養
籾殻を除去したイネ(日本晴)種子を50ml容のファルコンチューブに入れ、以下の操作は全てクリーンベンチ内で行った。70%エタノールで軽く洗浄した後滅菌水ですすいで洗浄液を除去した。1/2希釈次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、15分間振とうした。次亜塩素酸ナトリウム溶液を捨て、泡立ちがなくなるまで滅菌水で洗浄した。滅菌した濾紙上に種子をあけ、水分を除去した。滅菌した種子をカルス誘導培地(N6D培地)に胚を上向きに置床し(12-16粒/シャーレ)、33℃、明所で5日間培養した。
【0074】
アグロバクテリウムの前培養
感染3日前に、pPALS-GFPを持つアグロバクテリウム(EHA105)をリファンピシン(25mg/L)、ゲンタマイシン(25mg/L)、テトラサイクリン(50mg/L)を含むAB固形培地に塗布し、24℃、暗所で3日間培養した。
【0075】
アグロバクテリウムの感染と共存培養
50ml容のファルコンチューブにAAM溶液を40ml入れ、アセトシリンゴンを30mg/Lとなるように加えた。共存培養培地(2N6-AS培地)に滅菌した濾紙(TOYOのNo.2等、直径7cm)をのせ、その上にAAM溶液0.5mlを拡げた。前培養したアグロバクテリウムを滅菌したミクロスパーテルで1/4匙程度かきとり、アセトシリンゴンを加えたAAM溶液に懸濁した。この際、アグロバクテリウムの塊が残らないように駒込ピペットでよくピペッティングした。5日間培養した種子の中から胚盤由来カルスの良く発達したものを選び、シュートと胚乳部分を除去し、新しい50ml容ファルコンチューブに入れた。胚盤由来カルスの入ったファルコンチューブにアグロバクテリウム懸濁液を加え、1.5分間ゆっくりと転倒混和した後、共存培養培地(2N6-AS培地)にカルス同士が接触しないように置床し、24℃、暗所で3日間共存培養した。
【0076】
アグロバクテリウムの除去と選抜
共存培養したカルスを50ml容ファルコンチューブへ移し、滅菌水で7-8回洗浄した。さらにカルスをカルベニシリン500mg/Lを含む滅菌水で洗浄した。洗液を駒込ピペット等でできるだけ取り除いた後、カルスを滅菌した濾紙上に移して余分な水分を除去した。カルスをカルベニシリン400mg/Lと0.25μMピリチオバックナトリウム塩(以下PSと記す)を含む選抜培地(N6D培地)に置床し(14カルス/シャーレ)、33℃、明所で1ヶ月間培養した。この間2週間ごとに新しい選抜培地に移植した。この時点で活発に増殖しているカルスを選びさらに選抜培地に2週間置床して増殖させた後、一部を用いてALS活性を測定した(実施例3参照)。
【0077】
〔実施例3〕形質転換カルスにおけるALS活性の検定
形質転換カルスの一部(50mg程度)を500μM CPCA及び0.25μM PSを含むN6D培地に置床し、30℃、暗条件で24時間静置した。反応後、処理カルスを1.5mlマイクロチューブに入れ、0.025%Triton X-100を含む蒸留水220μlを加えた。60℃で5分間静置した後、超音波(周波数40kHz)で15分抽出した。200μlの上清を別のチューブに移し、20μlの5%(v/v)の硫酸を加え、60℃で30分間静置した。その後、100μlの0.5%(w/v)クレアチン溶液および2.5N NaOH溶液に溶かした100μlの5%(w/v)1―ナフトール溶液(用時調製)を加え37℃で30分間静置した。30分経過後530nmの吸光度を測定し、1g新鮮重量あたりのアセトインの蓄積量を算出した。
【0078】
なお、500μM CPCA及び0.25μM PSを含むN6D培地は以下の操作に従って作製した。すなわち、先ず、CHUの粉(1袋)、ミオイノシトール100mg、ニコチン酸0.5mg、ピリドキシン塩酸塩0.5mg、チアミン塩酸塩1mg、2,4-D 2mg、カザミノ酸300mg、グリシン2mg、L-プロリン2.8g、スクロース30g、ゲルライト4gを1Lの蒸留水に溶かしpH5.8に調整した。オートクレーブ滅菌をした後、55℃まで培地を冷まし500μM CPCA(最終濃度)及び0.25μM PS(最終濃度)を加えた。シャーレに培地を30mlずつ分注し500μM CPCA及び0.25μM PSを含むN6D培地を作製した。
【0079】
実施例3の結果、13系統の形質転換カルスでALS活性を測定した結果を図2に示した。ALS活性は棒グラフで1g新鮮重量あたりのアセトインの蓄積量で表わした。
【0080】
なお、実施例1〜3において使用した各種培地の組成をまとめて表1に示す。表1において数値は*の成分を除いて1Lあたりの成分量(mg)を示している。
【0081】
【表1】

【0082】
〔実施例4〕目的遺伝子であるGFPの発現量の検定
ALS活性が確認された13系統の形質転換カルスで目的の遺伝子であるGFPの発現量をアクアコスモス(浜松ホトニクス社製)を用いてGFP蛍光の輝度値として測定した結果を折れ線グラフで図2に示した。このグラフからアセトインの蓄積が多い形質転換体ではGFPの蛍光も強いことがわかる。すなわち、ALSの発現量とGFPの蛍光強度の間には高い相関が認められた。したがって、変異型ALS遺伝子と一緒に植物に導入する目的遺伝子の発現強度を薬剤選抜時に間接的に把握することができ、目的遺伝子を高発現している形質転換体を迅速に選抜することが可能となり、ALS遺伝子をレポーター遺伝子として使用できることが実証された。
【0083】
〔実施例5〕スクリーニング系の構築
シロイヌナズナPR-1プロモーターのクローニング
PR-1遺伝子の開始コドン(ATG)より上流3kbの塩基配列情報を基にセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを設計し、TOYOBOのKOD-Plusを使用し、最終的にPR-1遺伝子の開始コドン直前より上流1290bpのシングルバンドを得た。PCRは、下記表2に示す組成の溶液を調製し、当該溶液を94℃で2分処理し、続いて94℃で30秒、55℃で30秒及び74℃で1分を1サイクルとして30サイクル処理し、最後に74℃で7分処理した。
【0084】
【表2】

【0085】
なお、使用したセンスプライマー(配列番号5)及びアンチセンスプライマー(配列番号6)は以下の塩基配列とした。
センスプライマー;5’-GCACAAGCTTGTTTTAAC-3’(下線部はHindIII認識部位)
アンチセンスプライマー;5’-GAGATCTAGATTTTCTAAGTTGATAATGGT-3’
(GAGA=制限酵素切断のための余剰塩基;下線部はXbaI認識部位、下線部より3’側の配列は開始コドン直前より20bpに相補)
【0086】
得られたPCR産物をクローニングに用いたプライマーでダイレクトシーケンス反応を行った。シーケンスの結果、決定した塩基配列を配列番号7に示す。その結果、プライマー部位よりそれぞれ約500bpがPR-1プロモーターと一致した。そこで、このPCRクローニング産物を制限酵素(HindIII、XbaI)で消化し、同様に消化したpBluescript SK+にサブクローニングし、大腸菌(JM109)に形質転換した。
【0087】
PR-1プロモーターとシロイヌナズナ2点変異ALS遺伝子を融合したキメラ遺伝子を持つバイナリーベクターpBI101の構築
PR-1プロモーターを含むpBluescript SK+を大腸菌内で増幅、プラスミド抽出した後、HindIII、XbaIサイトで切り出し電気泳動を行いゲルより精製した。同様にバイナリーベクターpBI101をHindIII、XbaIで消化して精製した後、PR-1プロモーターとライゲーションした。その後、このバイナリーベクターを大腸菌(JM109)に形質転換した。さらにこのベクターのGUS部分を切り出し、シロイヌナズナ2点変異ALS遺伝子と置換した。なお、シロイヌナズナ2点変異ALS遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8及び9に示す。
【0088】
具体的には、pBluescript SK+に挿入されたALS遺伝子をXbaI及びSacIを用いて切り出し、電気泳動を行いゲルより精製した。同様にPR1プロモーターを導入したバイナリーベクターpBI101をXbaI及びSacIで消化し、GUS遺伝子を切り出し、電気泳動を行いゲルより精製した後、ALS遺伝子とライゲーションした(図3参照)。図3中、“Pnos”はノパリン合成酵素遺伝子プロモーターであり、“NTPII”はネオマイシントランスフェラーゼであり、“Tnos”はノパリン合成酵素遺伝子ターミネーターである。
【0089】
このバイナリーベクターを大腸菌(JM109)に形質転換した。得られたコロニーを用いてPCRを行いPR-1::ALSの結合部位、およびPR-1::ALSとベクターとの結合部位を確認した。また、PCR産物を用いてダイレクトシーケンス反応を行い、塩基配列が正しいことを確認した。PCRは、下記表3に示す組成の溶液を調製し、当該溶液を95℃で5分処理し、続いて95℃で30秒、55℃で1分及び72℃で1分を1サイクルとして30サイクル処理し、最後に72℃で7分処理した。
【0090】
【表3】

【0091】
PR-1::ALSの結合部位の確認のために使用したセンスプライマー(配列番号10)及びアンチセンスプライマー(配列番号11)は以下の塩基配列とした。
センスプライマー;5’-TCAGCCATAGGCAAGAGTGA-3’
アンチセンスプライマー;5’-GTTGGGGTTTAGGGAGAATGG-3’
PR-1::ALSとベクターとの結合部位の確認のために使用したセンスプライマー(配列番号12)及びアンチセンスプライマー(配列番号13)は以下の塩基配列とした。
センスプライマー;5’-TGTGCAAGAGCTAGCCACTATTCG -3’
アンチセンスプライマー;5’-GACCGGCAACAGGATTCAATCT-3’
【0092】
シロイヌナズナの形質転換
PR-1::ALSを持つバイナリーベクターpBI101を大腸菌内で増幅、プラスミド抽出した後、Freeze and Thaw Method (Holsters et al., Mol. Gen. Genet. 163; 181-187. 1978.)によってアグロバクテリウムGV3101に導入した。このGV3101を用いてFloral dip法によるシロイヌナズナの形質転換を行った。
【0093】
シロイヌナズナの栽培
乾燥種子を70%エタノール中に2分、次亜塩素酸−0.02%Tween20で15分それぞれ撹拌した後、滅菌水で5回洗浄した。滅菌後種子を素焼きの鉢に1粒ずつまいた。
以下の栽培条件でシロイヌナズナを栽培した。
栽培ラック:TOMY製植物育成ラックCR-620
温湿条件:22℃±2℃ 40-60%
日長条件:16時間明期、8時間暗期
培養容器:園芸用ポット(直径7cm)
栽培土壌:挿し木、挿し芽用培養土No.2(カキウチマテリアル)
給水:週2回
施肥:ハイポネックス(100倍希釈液)
植物の抽台が始まり、茎の高さが数センチになったところで摘心を行った。
摘心後、植物を約10日間置いた(側枝が2−10cmで、数個のつぼみがある状態)。
【0094】
アグロバクテリウム(GV3101株)の前培養
LB/Km−Gen−Ref培地(LB培地1LにKm(カナマイシン)50mg、Gen(ゲンタマイシン)50mg、Ref(リファンピシリン)100mgを含む)にPR-1::ALSを導入したpBI101を持つアグロバクテリウム(GV3101)をグリセロールスットクから起床し、27℃で2日間培養した。
【0095】
アグロバクテリウム(GV3101株)の本培養
LB/Km−Gen−Ref液体培地250mlに前培養した菌を接種した。28℃で約1日培養した(OD600が1.2−1.5程度)。培養液を遠心してアグロバクテリウムの菌体を回収した。この間にFloral dip 用懸濁培地を調製した。懸濁培地はB5培地(MS塩+B5ビタミン)1/2、スクロース50g、ハイポネックス1ml、1mg/mlになるようにDMSOに溶かしたベンジルアミノプリン10μl、SilwetL-77 300μlを全量1Lになるように蒸留水に溶かし、pH 5.7に調整した。このfloral dip 用懸濁培地で沈殿しているアグロバクテリウム菌体をOD600=1.0程度(アグロバクテリウム培養液と等量程度)になるように再懸濁した。
【0096】
アグロバクテリウムの感染
適当なトレイに約250mlのアグロバクテリウム懸濁液を分取した。つぼみのある側枝先端部を傷つけないように注意しながら鉢をさかさまにして植物を懸濁液に浸けた。約3-5秒間程度浸けて軽くゆすり植物体を引き上げた。ペーパータオルの上で植物を軽くゆすり、植物の余分な懸濁液を落とした。さらに懸濁液を株元にピペットを用いて接種した。植物体が収まる水槽に植物体を置き、上から透明な覆い(サランラップ)をかぶせ、暗所22℃で約1日放置した。一日後、覆いをはずし約一ヶ月栽培後、完熟種子を採種した。収穫した種子は茶こしを用いてごみを除き乾いた場所に保存した。
【0097】
形質転換体の選抜
約3000粒(60mg)の乾燥種子を70%エタノール中に2分、次亜塩素酸−0.02% Triton X-100で15分それぞれ攪拌し、滅菌水で5回洗浄した。種子を0.1%寒天溶液(無菌)に懸濁し、選抜培地表面に種子の懸濁液を一様に広げ、クリーンベンチ内で30分程度乾かした後サージカルテープでシールして、4℃で2日放置した。22℃に移して発芽させ、カナマイシン耐性植物の選抜を行った。約2週間の選抜で耐性植物を同定した。このようにして得られたシロイヌナズナ形質転換体の確認は、PCRにより、導入したPR-1プロモーターとALS遺伝子のキメラ遺伝子断片を実施例6に示したプライマーセットで増幅することにより行った。導入したキメラ遺伝子の存在が確認されたシロイヌナズナ形質転換体は、ポットに移して育成し、自家受粉により種子を得た。
【0098】
選抜培地の作製は以下操作に従った。MS用混合塩類1袋、1000X B5ビタミン1ml、スクロース10g、ハイポネックス1ml、寒天8gを1Lの蒸留水に溶かしpH5.7に調整した。オートクレーブ後、選抜用薬剤としてカナマイシン50ppm(最終濃度)およびカルベニシリン100mg(残存するアグロバクテリウムの増殖を防ぐ)を加えた。シャーレに培地を30mlずつ分注し選抜培地を作製した。
【0099】
プロモーター活性の検定
シロイヌナズナ形質転換体の種子を上述した方法に従ってカナマイシンで選抜した。カナマイシン耐性の見られた植物体をポットに植え換えて同様な栽培条件にしたがって育成した。植え換え後3週間後に、病害抵抗性誘導物質によるPR1遺伝子のプロモーターの活性化をALS活性を指標として検定した。1%のアセトンを含む0.5mM ベンゾチアジアゾール(BTH)、1%のアセトンを含む5mMサリチル酸、コントロールとして1%アセトンを含む5mMアゾキシストロビンまたは1%アセトンを含む水を各3個体のシロイヌナズナ形質転換体に散布処理した。散布48時間後にロゼット葉100mgを採取しシャーレに入れた。ここに処理溶液(25%MS培地用混合塩類、500μM(最終濃度) 1,1-cyclopropanedicarboxilic acid(CPCA)、500μM(最終濃度)ビスピリバックナトリウム塩(以下BSと表記)を加え22℃、明条件で24時間静置した。反応後、処理葉を余分な水分をふき取って1.5mlマイクロチューブに入れ、0.025%Triton X-100を含む蒸留水220μlを加えた。60℃で5分間静置した後、超音波(周波数40kHz)で15分抽出した。200μlの上清を別のチューブに移し、20μlの5%(v/v)の硫酸を加え、60℃で30分間静置した。その後、100μlの0.5%(w/v)クレアチン溶液および2.5NNaOH溶液に溶かした100μlの5%(w/v)1-ナフトール溶液(用時調製)を加え37℃で30分間静置した。30分経過後530nmの吸光度を測定し、1g新鮮重量あたりのアセトインの蓄積量を算出した。
【0100】
結果を図4に示す。図4(a)において、BTHおよびサリチル酸処理したシロイヌナズナ形質転換体はBS抵抗性ALS遺伝子が発現したことによりアセトインが蓄積した結果赤色発色が認められた。一方、病害抵抗性を誘導しない1%アセトンおよびアゾキシストロビンおよび水処理区ではアセトインの蓄積が認められず、非形質転換体と同様に赤色発色が認められていないことから、病害抵抗性誘導物質であるかどうかは視覚的に容易に判断することができた。図4(b)は吸光度から算出したアセトインの蓄積量を示している。BTHおよびサリチル酸処理によるアセトインの蓄積量がほぼ同等であることから処理後2日目での抵抗性誘導活性はほとんど変わらないと考えられた。
【0101】
以上の結果より、ALS遺伝子をレポーター遺伝子として利用した新規なスクリーニング方法を確立できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】バイナリーベクターpPALS-GFPを示す。
【図2】13系統の形質転換カルスでALS活性およびGFPの発光強度を測定した結果を示す。ALS活性は棒グラフで1g新鮮重量あたりのアセトインの蓄積量で表わしている。GFPの発光強度は輝度値として折れ線グラフで示している。
【図3】PR-1プロモーターとシロイヌナズナ2点変異ALS遺伝子を融合したキメラ遺伝子を持つバイナリーベクターpBI101のT-DNA領域を示す。
【図4】(a)は形質転換シロイヌナズナに各薬剤を散布した48時間後にALSの発現を発色反応で確認した様子を示し、(b)は形質転換シロイヌナズナに各薬剤を散布した48時間後にALSの発現を定量した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセト乳酸合成酵素遺伝子を有する培養細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、当該培養細胞中のケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制するか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、
培養細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、
アセトインを検出することで、培養細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程とを含む、培養細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性測定方法。
【請求項2】
上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の活性測定方法。
【請求項3】
上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で培養細胞を培養することを特徴とする請求項2記載の活性測定方法。
【請求項4】
上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることを特徴とする請求項2又は3記載の活性測定方法。
【請求項5】
上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することを特徴とする請求項1記載の活性測定方法。
【請求項6】
アセト乳酸合成酵素遺伝子及び導入対象の目的遺伝子を含むDNA構築物を、宿主細胞に導入する工程と、
上記宿主細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、ケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現が抑制されているか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と
上記宿主細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、
アセトインを検出することで、宿主細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程と、
上記活性に基づいて、上記アセト乳酸合成酵素の活性が高い形質転換体を選別する工程とを含む、形質転換体の製造方法。
【請求項7】
上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることを特徴とする請求項6記載の形質転換体の製造方法。
【請求項8】
上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で宿主細胞を培養することを特徴とする請求項7記載の形質転換体の製造方法。
【請求項9】
上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることを特徴とする請求項7又は8記載の形質転換体の製造方法。
【請求項10】
上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することを特徴とする請求項6記載の形質転換体の製造方法。
【請求項11】
特異的発現誘導タンパク質のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現誘導するアセト乳酸合成酵素遺伝子とを有するベクターを有する細胞に、供試化合物を接触させる工程と、
上記細胞を、炭素源を含む培地中で培養するとともに、当該培養細胞中のケトール酸リダクトイソメラーゼ遺伝子の発現を抑制するか又はケトール酸リダクトイソメラーゼ阻害剤の存在下で培養する工程と、
上記細胞から抽出したアセト乳酸をアセトインに変換する工程と、
アセトインを検出することで、細胞中のアセト乳酸合成酵素の活性を測定する工程とを含み、
上記活性に基づいて供試化合物の中から、上記ベクターに含まれる特異的発現誘導タンパク質のプロモーターを活性化する化合物又は不活性化する化合物を選択することを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項12】
上記ベクターに含まれるアセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることを特徴とする請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
上記培養する工程では、アセト乳酸合成酵素阻害剤の存在下で細胞を培養することを特徴とする請求項12記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることを特徴とする請求項12又は13記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
上記活性は、アセト乳酸をアセトインに変換した後に当該アセトインを比色分析することによって測定することを特徴とする請求項11記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
特異的発現誘導タンパク質のプロモーターと、当該プロモーターの制御下に発現誘導するアセト乳酸合成酵素遺伝子とを有するベクター。
【請求項17】
上記アセト乳酸合成酵素遺伝子は、アセト乳酸合成酵素阻害剤に対する抵抗性を有する変異型遺伝子であることを特徴とする請求項16記載のベクター。
【請求項18】
上記アセト乳酸合成酵素阻害剤はピリミジニルカルボキシ系除草剤であり、上記変異型遺伝子はピリミジニルカルボキシ系除草剤に対する抵抗性を示す遺伝子であることを特徴とする請求項17記載のベクター。
【請求項19】
上記特異的発現誘導タンパク質は、感染特異的タンパク質であることを特徴とする請求項16記載のベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−204122(P2006−204122A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17220(P2005−17220)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:第22回 日本植物細胞分子生物学会 秋田大会・シンポジウム講演要旨集 講演場所:秋田県立大学秋田キャンパス 講演番号:1Aa−06 発行日:2004年8月8日 発行者:第22回日本植物細胞分子生物学会 大会準備委員会
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】