説明

アゼルニジピンの結晶

【課題】アゼルニジピンについて、新規な結晶多形による3種の結晶の提供。
【解決手段】粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有し示差走査熱量測定(DSC)において、120℃付近での吸収パターンを示すものであるC型結晶、ブラッグ角(2θ)においてそれぞれ特徴的回折ピークを有しDSCにおいて、108℃付近並びに81℃付近での吸収パターンを示すものであるE型結晶及びF型結晶であり、臨床的に使用されているアゼルニジピンは、C型、E型並びにF型結晶から結晶形変換されたA型結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゼルニジピンの結晶多形に基づく新規結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
化学名、2−アミノ−1,4−ジヒドロ−6−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンカルボン酸 3−(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル 5−イソプロピルエステル(IUPAC)であるアゼルニジピン(Azelnidipine:JAN)は、L型Caチャンネル拮抗作用に基づく血管拡張による降圧作用を発現する持続性Ca拮抗剤として、高血圧症患者に臨床的に使用されている化合物「商品名:カルブロック(登録商標)」である。
【0003】
臨床的に使用されているアゼルニジピンは、淡黄色〜黄色の結晶性の粉末として提供されており、「本薬の結晶形のうち、安定な結晶として得られるものには、α体とβ体の2種類があり(溶媒付加体は除く)、これらは融点や結晶形により識別し得る」とされ、アゼルニジピンには結晶多形が存在することは報告されているが、そのα体とβ体がいかなるものであるかは一切記載されていない。
なお、本化合物を開示する特許公報においては、かかる化合物についての結晶多形に関する記載は一切存在しない(特許文献1)。
【0004】
本発明者等は本化合物について、その工業的製造方法を検討してきているなかで、かかる化合物に結晶多形、すなわちA型結晶〜F型結晶の多くの結晶多形が存在することを新規に見出した。また、その結晶多型について検討した結果、臨床的に使用されているアゼルニジピンはA型の結晶形であり、またD型結晶は特許文献1で開示する製法により得られるアゼルニジピンのメタノール付加体の結晶であることが判明した。
【0005】
ところで、アゼルニジピンは、例えば、特開昭63−253082号公報(特許文献2)の実施例1に記載された方法に準じて合成されているが、この化合物の特性として、極めて精製し難い化合物であることが判明している。
すなわち、特許文献2における方法では、2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸イソプロピルエステルと、アミジノ酢酸(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル・酢酸塩とを反応させた後、得られた生成物(すなわち、アゼルニジピンの粗生成物)を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離し、さらにベンゼン−n−ヘキサンから再結晶して精製しているが、カラムクロマトグラフィー自体は工業的な製造方法とはいえない。
【0006】
したがって、特許文献1においては、このような精製方法を回避した製造法を提供しており、その方法は、具体的には、上記した反応の後、得られた生成物(アゼルニジピンの粗結晶)をメタノール中で再結晶し、アゼルニジピン・メタノール付加体として得た後、このメタノール付加体からメタノールをシクロヘキサンとの共沸により除去し、精製アゼルニジピンを得る方法である。
なお、かくして製造されたアゼルニジピンについて、特許文献1中には、結晶多型が存在するとの記載は一切なされていない。
【0007】
しかしながら、特許文献1におけるアゼルニジピンの製造方法においては、ICH(日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議:International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)のクラス2にランクされる有害な溶媒(メタノール及びヘキサン)を使用する点で、工業的な製造方法としては好ましいものとはいえない。
また、特許文献2におけるアゼルニジピンの精製にあっては更に有害性の強いクラス1にランクされる溶媒(ベンゼン)を使用するものであり、残留溶媒との絡みからみて、かかる方法は極力回避しなければならない。
【0008】
上記したように、臨床的に使用されているアゼルニジピンはA型結晶であることが判明した。したがって、工業的な製造法としては、如何にこのA型結晶を、有害性の低い溶媒(例えば、エタノール或いはイソプロパノールなど)を使用して効率的に得るかがポイントとなる。
本発明者等は、今回確認したアゼルニジピンのA〜F型結晶において、特許文献2に記載の方法に準じて得たアゼルニジピンの粗結晶はE型結晶であり、このE型結晶を有害性の低いエタノールで処理することによりアゼルニジピンのC型結晶、或いはF型結晶に変換され、また得られたE型結晶、C型結晶、或いはF型結晶は、比較的有害性の低いシクロヘキサンと処理することにより臨床的に使用されているアゼルニジピンのA型結晶に変換されることが判明した。
【0009】
したがって、本発明が提供するアゼルニジピンの結晶多型を有効に活用することにより、有害性の低い溶媒により臨床的に使用し得るアゼルニジピンのA型結晶を製造することができることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3491506号掲載公報
【特許文献2】特開昭63−253082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の課題は、これまで多くの結晶多形が存在しないものであるとされていたアゼルニジピンについて、複数の結晶多形による新規な3種の結晶を提供するものであり、より詳細には、本発明はアゼルニジピンのC型結晶、アゼルニジピンのE型結晶、並びにアゼルニジピンのF型結晶を提供することを課題とする。
更に本発明の別の課題は、かかるアゼルニジピンのC型結晶、E型結晶及びF型結晶の製造方法、並びにアゼルニジピンのE型結晶からC型結晶並びにF型結晶への変換、また、アゼルニジピンのE型結晶、C型結晶及びF型結晶から臨床的に使用されているアゼルニジピンのA型結晶への変換方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかして、本発明の一つの基本的態様である請求項1に記載の発明は、アゼルニジピンのC型結晶であり、具体的には、粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有することを特徴とするアゼルニジピンのC型結晶である。
【0013】
かかるアゼルニジピンのC型結晶についての具体的な請求項2に記載の発明は、粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、120℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのC型結晶である。
【0014】
本発明の別の基本的態様である請求項3に記載の発明は、アゼルニジピンのE型結晶であり、具体的には、粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有することを特徴とするアゼルニジピンのE型結晶である。
【0015】
かかるアゼルニジピンのE型結晶についての具体的な請求項4に記載の発明は、粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)7.06±0.1°、9.22±0.1°、9.72±0.1°、16.96±0.1°及び18.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、108℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのE型結晶である。
【0016】
また本発明の更に別の基本的態様である請求項5に記載の発明は、アゼルニジピンのF型結晶であり、粉末X線回折スペクトルが図3に示すパターンを有することを特徴とするアゼルニジピンのF型結晶である。
【0017】
かかるアゼルニジピンのF型結晶についての具体的な請求項6に記載の発明は、粉末X線回折スペクトルが図3に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)5.28±0.1°、10.02±0.1°、10.62±0.1°、11.10±0.1°及び12.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、81℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのF型結晶である。
【0018】
さらに本発明は、別の態様として、アゼルニジピンのE型結晶、C型結晶、並びにF型結晶の製造方法であり、請求項7に記載の発明は、工業的に適した製造方法として、イソプロパノール中に、2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸イソプロピルエステルと、3,3−ジアミノアクリル酸(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル酢酸塩を加え、室温下で攪拌し、次いで混合物中にナトリウムメトキシドを添加した後反応混合物を昇温し、イソプロパノール還流下に反応させ、反応終了後、反応溶液を冷却し、水を滴下し、内温10〜15℃にて攪拌を行い、析出した結晶を取得することからなる、請求項3及び4に記載のアゼルニジピンのE型結晶の製造方法である。
【0019】
また、請求項8及び9に記載の発明は、上記で得られたアゼルニジピンのE型結晶をエタノール溶媒中に溶解させ、更に冷却することにより析出した結晶を取得することからなるアゼルニジピンのC型結晶及びF型結晶の製造方法である。
【0020】
さらにまた、本発明は、臨床的に使用されるアゼルニジピンのA型結晶の製造方法であり、具体的には、各のアゼルニジピンのE型結晶、C型結晶またはF型結晶を、シクロヘキサン中で攪拌処理し、結晶形変換することからなることを特徴とするアゼルニジピンのA型結晶の製造方法である。
【0021】
また本発明は、上記に記載した各製造方法で得られたアゼルニジピンのA型結晶を含有する医薬であり、より具体的には、持続性Ca拮抗剤としての医薬である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、これまで多くの結晶多形が存在しないものとされていたアゼルニジピンについて、新たな複数の結晶多形が提供される。
本発明等の検討によれば、アゼルニジピンの結晶多型についてはA型結晶〜F型結晶の多形があり、そのなかでも本発明により提供されるアゼルニジピンの結晶多形は、3種のE型結晶、C型結晶及びF型結晶である。
【0023】
臨床的に使用されているアゼルニジピンは、本発明者らの検討によれば、A型結晶であると思われ、本発明が提供するE型結晶、C型結晶またはF型結晶から、毒性の低い溶媒による結晶形変換で容易に得ることができる。
また、E型結晶は、本発明者等が提案する工業的な製造方法により得られたアゼルニジピンの粗結晶として存在し、このものは、毒性に低い溶媒中において、C型結晶或いはF型結晶へ結晶形変換され、極めて簡単に精製することができる。
【0024】
したがって、かかるアゼルニジピンの複数の結晶多形を活用することにより、臨床的により純度の高いアゼルニジピンを簡便に提供することが可能となった。
また、これらの結晶多形の製造においては、有害性の高い溶媒の使用を極力回避したものであることから、地球に優しいアゼルニジピンの製造方法が提供され、特別な施設を必要としない工業的製造方法として優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アゼルニジピンのC型結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図2】アゼルニジピンのE型結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図3】アゼルニジピンのF型結晶の粉末X線回折パターンを示す図である。
【図4】アゼルニジピンのC型結晶のDSCを示す図である。
【図5】アゼルニジピンのE型結晶のDSCを示す図である。
【図6】アゼルニジピンのF型結晶のDSCを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、上記したように、その基本は、これまで複数にわたる結晶多形が存在しないものとされていたアゼルニジピンについて、新たな結晶多形であるA〜F型結晶の提供であり、なかでも特に、C型結晶、E型結晶及びF型結晶の提供である。
本発明が提供するC型結晶、E型結晶及びF型結晶は、下記化学式:
【0027】
【化1】

【0028】
で示される2−アミノ−1,4−ジヒドロ−6−メチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンカルボン酸 3−(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル 5−イソプロピルエステルであるアゼルニジピンの結晶多形であり、これら3者は異なる物理化学的特徴を有する。
なお、結晶多形とは、同一化合物の複数の異なる結晶形態をいい、そのうちの一つの結晶形態を意味する。
【0029】
本発明におけるアゼルニジピンのC型結晶は、X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有する。
さらに詳細には、本発明におけるアゼルニジピンのC型結晶は、図1に示すように、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、図4に示す120℃付近での吸収パターンを示すものである。
【0030】
また、本発明におけるアゼルニジピンのE型結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)7.06±0.1°、9.22±0.1°、9.72±0.1°、16.96±0.1°及び18.24±0.1°に特徴的回折ピークを有する。
さらに詳細には、本発明におけるアゼルニジピンのE型結晶は、図2に示すように、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)7.06±0.1°、9.22±0.1°、9.72±0.1°、16.96±0.1°及び18.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、図5に示す108℃付近での吸収パターンを示すものである。
【0031】
さらに、本発明におけるアゼルニジピンのF型結晶は、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)5.28±0.1°、10.02±0.1°、10.62±0.1°、11.10±0.1°及び12.24±0.1°に特徴的回折ピークを有する。
さらに詳細には、本発明におけるアゼルニジピンのF型結晶は、図3に示すように、粉末X線回折パターンにおいて、ブラッグ角(2θ)5.28±0.1°、10.02±0.1°、10.62±0.1°、11.10±0.1°及び12.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、図6に示す81℃付近での吸収パターンを示すものである。
【0032】
本発明にいう粉末X線回折スペクトルとは、RAD−1C型粉末X線回折装置(理学電機社)を用いて以下の条件で測定されるスペクトルをいう。
X線光源:Cu K−ALPHA1/40kV/30mA
モノクロメータ使用
発散スリット:1/2deg
散乱スリット:1/2deg
受光スリット:0.15mm
走査範囲:3又は4〜40°
走査軸:2θ
スキャンスピード:2°/min.
スキャンステップ:0.02°
【0033】
また、IRスペクトルとは、FT/IR−430(日本分光社)を用いて以下の条件で測定されるデータをいう。
測定方法:KBr錠剤法
測定範囲:4000〜400cm−1
分解能:4.0cm−1
スキャン回数:16
【0034】
さらに、DSCにおける吸収ピークは、DSC8230(理学電機社)を用いて以下の条件で測定される吸収ピークをいう。
昇温速度:20℃/min.
雰囲気:窒素
測定温度範囲:50〜230℃
【0035】
なお、これらの装置を用いて結晶を解析した場合において、それぞれのデータ及びスペクトルパターンが類似するものは、本発明の結晶に含まれるものであり、通常の測定方法では検出できない程度の量の他の結晶多形が含まれるものであっても、本発明の目的とする結晶多形に包含されるべきものである。
【0036】
さらに、粉末X線回折スペクトルデータは、その性質上、結晶の同一性の認定においてはブラッグ角(2θ)や、全体的なパターンが重要であり、相対的強度は結晶成長の方向、結晶粒子の大きさ、測定条件によって多少変化し得るものである。また、DSC、IRスペクトルにおいても、結晶の同一性の認定においては、その全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変化し得るものである。
したがって、本願発明のアゼルニジピンのE型結晶、C型結晶及びF型結晶のそれぞれは、本明細書に記載の物理化学的性質によって特定されるべきものであるが、各スペクトルデータは、その性質上多少変化しうるものであり、厳密に解されるべきではなく、多少の変化はその許容の範囲内のものであると解釈され、本発明の権利範囲に包含されるべきものである。
【0037】
本発明におけるこれらのアゼルニジピンの結晶多形は、以下のようにして得ることができる。
すなわち、E型結晶については、例えば、特許文献2の実施例に記載の方法に準じ、工業的製造方法として適用し得るイソプロパノール中に、2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸イソプロピルエステルと、3,3−ジアミノアクリル酸(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル酢酸塩を加え、室温下で攪拌し、次いで混合物中にナトリウムメトキシドを添加した後反応混合物を昇温し、さらにイソプロパノール還流下に反応させ、反応終了後、反応溶液を例えば室温程度にまで冷却し、水を滴下し、内温10〜15℃にて攪拌を行い、析出した結晶を取得することにより製造することができる。
【0038】
本発明者等の検討によれば、アゼルニジピンのE型結晶は、上記反応により得られたアゼルニジピンの粗結晶おけるイソプロパノールを溶媒和物として含有する結晶多形であった。
【0039】
また、C型結晶については、上記で得られたE型結晶をエタノール溶媒中に溶解させ、更に冷却し、その状態で穏やかに攪拌し、析出した結晶を取得する、結晶形変換することにより得ることができる。
また、F型結晶は、上記で得られたE型結晶をエタノール溶媒中に溶解させ、更に冷却し、その状態で激しく攪拌し、析出した結晶を取得する、結晶形変換することにより得ることができる。
この攪拌条件によりE型結晶からC型結晶並びにF型結晶の2種類の結晶多形に結晶形変換し得る点は、極めて特異的なものである。
この段階において、粗製のアゼルニジピンは高度に精製されることが判明した。したがって、精製が困難であったアゼルニジピンを、有害性が低い溶媒により簡便な手段で精製することができる点で、本発明が提供する結晶多形は特異的なものといえる。
【0040】
なお、上記した製造方法において、その反応条件の如何、精製条件の如何によっては、本発明で命名するE型結晶、C型結晶、或いはF型結晶以外の結晶多形が得られる可能性もある。しかしながら、かかる点は本発明において重要なものではない。本発明は、これまでアゼルニジピンには複数の結晶多形が存在しないとされていた技術的背景下で、アゼルニジピンに結晶多形が複数存在することを初めて見出したものであり、その新規な知見に基づいてアゼルニジピンのE型結晶、C型結晶及びF型結晶を提供する点が本発明の本質である。
【0041】
本発明が提供するアゼルニジピンのE型結晶、C型結晶、及びF型結晶は、さらに結晶形変換させることにより臨床的に使用されているA型結晶に結晶形変換される。
この結晶形変換は、具体的には、これらの結晶多形をシクロヘキサン中で攪拌処理することにより結晶形変換させ、アゼルニジピンのA型結晶へ誘導することができる。
【0042】
これらの製造法において使用する溶媒としては、有害性の低い溶媒であり、その点で、本発明の有用性が良く理解できるものである。
なお、かかる溶媒の使用量、溶解温度等は特に限定されないが、目的とする処理を行えるに十分な量、温度等であればよい。
【0043】
本発明は、かくして製造されたアゼルニジピンのA型結晶を含有する医薬組成物をも提供する。
すなわち、本発明が提供する医薬組成物においては、上記したアゼルニジピンのE型結晶、C型結晶、或いはF型結晶から結晶形変換されたA型結晶を含有する医薬組成物が好ましい。
これまで臨床的に使用されているアゼルニジピンについては、多くの結晶多形は存在しないとされていたが、本発明者等の検討では、複数の結晶多形が存在し、その上、臨床的に使用されているアゼルニジピンは本発明にいうA型結晶であることが判明した。
本発明の医薬組成物におけるアゼルニジピンの含有量は、持続性Ca拮抗剤としての有効量であればよく、具体的には、高血圧症への有効投与量、例えば、8mg、並びに16mg含有錠剤として剤形化することができる。
【0044】
かかる製剤の調製にあっては、汎用されている製剤添加物、製剤化技術を用いて行うことができ、臨床的に提供されているアゼルニジピンを含有する製剤、例えば錠剤の配合処方を参考にして、目的とする、アゼルニジピンのA型結晶の8mg、並びに16mg含有錠剤を調製することができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例により、より詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0046】
実施例1:アゼルニジピンのE型結晶の製造
イソプロパノール380mLに、2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸 イソプロピルエステル10gと、3,3−ジアミノアクリル酸 (1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル・酢酸塩13.83gとを加え、室温下で攪拌を開始し、その後、ナトリウムメトキシド1.95gをさらに加えた後、昇温し、イソプロパノール還流下、1.5時間攪拌して反応させた。
反応終了後、得られた反応溶液を内温25〜35℃まで冷却し、水380mLを約20分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに内温10〜15℃まで冷却し、同温度にて約18時間攪拌した。その後、析出した結晶を濾取することにより、アゼルニジピンのE型結晶を得た。
【0047】
このアゼルニジピンのE型結晶の粉末X線回析スペクトルを、図2に示した。
アゼルニジピンのE型結晶は、図2に示すパターンを有するものであり、ブラッグ角(2θ)7.06±0.1°、9.22±0.1°、9.72±0.1°、16.96±0.1°及び18.24±0.1°に特徴的回折ピークを有するものであった。
また、示差走査熱量測定(DSC)において、図5に示すように、108℃付近での吸収パターンを示すものであった。
【0048】
実施例2:アゼルニジピンのC型結晶の調製
上記実施例1で得たアゼルニジピンのE型結晶4gを、エタノール12mLに35℃にて溶解させ、その後、0〜5℃まで冷却し、同温度にて10分間、刺激を与えないように穏やかに攪拌した。析出した結晶を濾取し、エタノール4mLで洗浄することにより、アゼルニジピンのC型結晶を得た。
【0049】
このアゼルニジピンのC型結晶の粉末X線回析スペクトルを、図1に示した。
アゼルニジピンのC型結晶は、図1に示すパターンを有するものであり、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有するものであった。
また、示差走査熱量測定(DSC)において、図4に示すように、120℃付近での吸収パターンを示すものであった。
【0050】
実施例3:アゼルニジピンのF型結晶の調製
上記実施例1で得たアゼルニジピンE型結晶4gを、エタノール12mLに35℃にて溶解させ、その後、0〜5℃まで冷却し、同温度にて10分間、激しく攪拌した。析出した結晶を濾取し、エタノール4mLで洗浄することにより、アゼルニジピンのF型結晶を得た。
このアゼルニジピンのF型結晶の粉末X線回析スペクトルは図3に示すパターンを有するものであり、ブラッグ角(2θ)5.28±0.1°、10.02±0.1°、10.62±0.1°、11.10±0.1°及び12.24±0.1°に特徴的回折ピークを有するものであった。
また、示差走査熱量測定(DSC)において、図6に示すように、81℃付近での吸収パターンを示すものであった。
【0051】
実施例4:アゼルニジピンのA型結晶の調製(その1)
アゼルニジピンのA型結晶は、臨床的に使用されているアゼルニジピンである。このアゼルニジピンのA型結晶は、上記実施例1で製造されたアゼルニジピンのE型結晶より結晶形変換により製造される。
すなわち、上記実施例1で得たアゼルニジピンのE型結晶の0.5gを、シクロヘキサン10mL中に懸濁させ、内温10〜15℃にて、攪拌子を用いて攪拌し、結晶形変換を行った。その後、結晶を濾取して、乾燥することにより、アゼルニジピンのA型結晶を得た。
【0052】
このアゼルニジピンのA型結晶の粉末X線回析スペクトルは、ブラッグ角(2θ)4.64±0.1°、7.06±0.1°、10.82±0.1°、13.46±0.1°及び16.62±0.1°に特徴的回析ピークを有するものであった。
また、示差走査熱量測定(DSC)において、134℃付近での吸収パターンを示すものであった。
さらに、IRスペクトル(KBr錠剤法)において、臨床的に使用されているアゼルニジピンのそれと同一の吸収パターンを示した。
【0053】
実施例5:アゼルニジピンのA型結晶の調製(その2)
上記したように、アゼルニジピンのA型結晶は、臨床的に使用されているアゼルニジピンである。このアゼルニジピンのA型結晶は、また、上記実施例2で製造されたアゼルニジピンのC型結晶より結晶形変換により製造される。
すなわち、上記実施例2で得たアゼルニジピンのC型結晶の2.8gを、シクロヘキサン28mL中に懸濁させ、内温10〜15℃にて攪拌処理することにより結晶形変換を行った。その後、結晶を濾取して、乾燥することにより、目的とするアゼルニジピンのA型結晶を得た。
【0054】
本実施例で得られたアゼルニジピンのA型結晶は、上記実施例4で得られたアゼルニジピンのA型結晶と粉末X線回析スペクトル、示差走査熱量測定(DSC)及びIRスペクトル(KBr錠剤法)において、全く同一のパターンを示した。
実施例6:アゼルニジピンのA型結晶の調製(その3)
上記したように、アゼルニジピンのA型結晶は、また、上記実施例3で製造されたアゼルニジピンのF型結晶より結晶形変換により製造される。
すなわち、上記実施例3で得たアゼルニジピンのF型結晶の2.5gを、シクロヘキサン25mL中に懸濁させ、内温10〜15℃にて攪拌処理することにより結晶形変換を行った。その後、結晶を濾取して、乾燥することにより、目的とするアゼルニジピンのA型結晶を得た。
【0055】
本実施例で得られたアゼルニジピンのA型結晶は、上記実施例4で得られたアゼルニジピンのA型結晶と粉末X線回析スペクトル、示差走査熱量測定(DSC)及びIRスペクトル(KBr錠剤法)において、全く同一のパターンを示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、アゼルニジピンについて結晶多形であるE型結晶、C型結晶並びにF型結晶が提供される。これまで臨床的に使用されてきたアゼルニジピンについて多くの結晶多形は存在しないものとされていたが、本発明によりA型〜F型の複数の結晶多形が存在することを明らかにしたものであり、臨床的に使用されているアゼルニジピンは、A型結晶であることが判明した。
このA型結晶は、本発明の結晶多形であるE型結晶、C型結晶並びにF型結晶より、結晶形変換により容易に製造することができる。
そのうえ、これらの結晶多形の調製、並びに結晶形変換において使用する溶媒は有害性の低いものであり、安全な方法で、より純品のアゼルニジピンが提供される点で、産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有することを特徴とする、アゼルニジピンのC型結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルが図1に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)9.68±0.1°、10.02±0.1°、17.52±0.1°、18.84±0.1°及び20.72±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、120℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのC型結晶。
【請求項3】
粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有することを特徴とする、アゼルニジピンのE型結晶。
【請求項4】
粉末X線回折スペクトルが図2に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)7.06±0.1°、9.22±0.1°、9.72±0.1°、16.96±0.1°及び18.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、108℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのE型結晶。
【請求項5】
粉末X線回折スペクトルが図3に示すパターンを有することを特徴とする、アゼルニジピンのF型結晶。
【請求項6】
粉末X線回折スペクトルが図3に示すパターンを有し、ブラッグ角(2θ)5.28±0.1°、10.02±0.1°、10.62±0.1°、11.10±0.1°及び12.24±0.1°に特徴的回折ピークを有し、示差走査熱量測定(DSC)において、81℃付近での吸収パターンを示すものであるアゼルニジピンのF型結晶。
【請求項7】
イソプロパノール中に、2−(3−ニトロベンジリデン)アセト酢酸イソプロピルエステルと、3,3−ジアミノアクリル酸(1−ジフェニルメチルアゼチジン−3−イル)エステル酢酸塩を加え、室温下で攪拌し、次いで混合物中にナトリウムメトキシドを添加した後反応混合物を昇温し、イソプロパノール還流下に反応させ、反応終了後、反応溶液を冷却し、水を滴下し、内温10〜15℃にて攪拌を行い、析出した結晶を取得することからなる、請求項3及び4に記載のアゼルニジピンのE型結晶の製造方法。
【請求項8】
アゼルニジピンのE型結晶をエタノール溶媒中に溶解させ、0〜5℃に冷却し、その状態で穏やかに攪拌し、析出した結晶を取得することからなる請求項1及び2に記載のアゼルニジピンのC型結晶の製造方法。
【請求項9】
アゼルニジピンのE型結晶をエタノール溶媒中に溶解させ、0〜5℃に冷却し、その状態で激しく攪拌し、析出した結晶を取得することからなる請求項5及び6に記載のアゼルニジピンのF型結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項3または4に記載のアゼルニジピンのE型結晶、請求項1または2に記載のアゼルニジピンのC型結晶、または請求項5または6に記載のアゼルニジピンのF型結晶をシクロヘキサン中で攪拌処理し、結晶形変換することからなることを特徴とするアゼルニジピンのA型結晶の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のアゼルニジピンのA型結晶を含有する医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105649(P2011−105649A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262723(P2009−262723)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000207252)ダイト株式会社 (8)
【Fターム(参考)】