説明

アゾレーキ顔料の分析方法

【課題】アゾレーキ顔料について、特定の前処理を施すことにより液体クロマトグラフィーによる分析を可能にした分析方法を提供する。
【解決手段】アゾレーキ顔料をアンモニウム塩として有機溶媒に溶解させたアゾレーキ顔料のアンモニウム塩溶液、またはアゾレーキ顔料を酸性DMSO溶液に溶解させたアゾレーキ顔料のDMSO溶液を液体クロマトグラフィーにより分離し検出するアゾレーキ顔料の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾレーキ顔料を液体クロマトグラフィーで分離分析するアゾレーキ顔料の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アゾレーキ顔料は水および有機溶媒のいずれにも不溶であると考えられていたため、有機化合物の分析に汎用されている液体クロマトグラフィーによる分析は検討されていなかった。
【0003】
この点、特許文献1でも、Pigment Red 57-1(2−(3−カルボキシ−2−ヒドロキシナフチルアゾ)−5−メチルベンゼンスルフォン酸カルシウム)という特定のアゾレーキ顔料の製造工程で起こる排水の着色の原因を究明し、その原因物質がPigment Red 57-1のカルボキシル基がナフチル基の6位に結合した構造異性体である水溶性アゾ染料の2−(6−カルボキシ−2−ヒドロキシナフチルアゾ)−5−メチルベンゼンスルフォン酸にあることを見出し、この水溶性アゾ染料をアゾレーキ顔料から除去することにより、排水への着色を抑制する方法が提案されており、水溶性アゾ染料の除去の確認を液体クロマトグラフィーで行っている。
【0004】
しかし特許文献1における液体クロマトグラフィー分析は、水溶性の6位の異性体(アゾ染料)の分析に止まり、Pigment Red 57-1(アゾレーキ顔料)そのものの液体クロマトグラフィーでの挙動、たとえばPigment Red 57-1のクロマトグラムの保持時間(Rt)やピークの形状などには一切触れられていない。
【0005】
ところで、より精密かつ多色の印刷が求められてくるにつれ、インキ組成物に配合されるアゾレーキ顔料に含まれる不純物の定性分析や定量分析、色相の変化の究明、さらには異種顔料の混入などが適切に把握できる分析方法が強く求められてきている。
【0006】
そのためには、アゾレーキ顔料そのものを直接分離分析できることが必要であり、そうした分離分析が容易な液体クロマトグラフィーによる分析方法への適用が切望されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−89607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アゾレーキ顔料について、特定の前処理を施すことにより液体クロマトグラフィーによる分析を可能にした2つの分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の第1の分析方法は、
(A1)式(1):
【化1】

【0010】
または式(2):
【化2】

【0011】
(式中、Arはベンゼン環またはナフタレン環;R1およびR2は同じかまたは異なり、いずれもCH3、ClまたはH;MeはBa、Ca、SrまたはMn)で示されるアゾレーキ顔料を含む顔料を水に分散させると共にアンモニウム塩を加える可溶化処理工程;
(A2)可溶化処理されたアゾレーキ顔料を有機溶媒に溶解させる溶液調製工程;および
(A3)該溶解したアゾレーキ顔料のアンモニウム塩を液体クロマトグラフィーにより分離し検出する分離分析工程
を含むアゾレーキ顔料の分析方法(A)に関する。
【0012】
分離分析工程(A3)における液体クロマトグラフィーとしては、逆相イオンペアクロマトグラフィーでも、逆相分配クロマトグラフィーでもよい。
【0013】
分離分析工程(A3)で逆相イオンペアクロマトグラフィーを用いる場合、移動相に用いる対イオンとしては可溶化処理工程(A1)で使用するアンモニウム塩と同じアンモニウム塩が好ましい。
【0014】
分離分析工程(A3)で逆相分配クロマトグラフィーを用いる場合、移動相が緩衝剤を含むことが好ましく、またグラジエント溶出法により行うときには、個々のアゾレーキ顔料の分離がより一層容易になる。
【0015】
また本発明の第2の分析方法は、
(B1)前記式(1)または式(2)で示されるアゾレーキ顔料を含む顔料から水溶性成分を除去する予備処理工程;
(B2)水溶性成分が除去されたアゾレーキ顔料をpH2〜3に調整されたジメチルスルホキシド溶液に可溶化させる可溶化処理工程;および
(B3)該アゾレーキ顔料のジメチルスルホキシド溶液を液体クロマトグラフィーにより分離し検出する分離分析工程
を含むアゾレーキ顔料の分析方法(B)に関する。
【0016】
この第2の分析方法(B)においても、逆相イオンペアクロマトグラフィーでも、逆相分配クロマトグラフィーでもよい。さらに分離分析工程(B3)として逆相分配クロマトグラフィーを用いる場合、移動相が緩衝剤を含むことが好ましく、またグラジエント溶出法で行うことにより、個々のアゾレーキ顔料の分離がより一層容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の分析方法によれば、液体クロマトグラフィーという汎用の分析方法を利用することができ、簡易にアゾレーキ顔料を含む顔料に含まれる種々の不純物(未反応物や副生成物、異種の混入顔料など)の同定はもとより、定性分析、さらには定量分析が可能になる。その結果、アゾレーキ顔料の製造における未反応物や副生成物の解析が可能になり、顔料製造上の問題の解決に役立つ。さらに色相の変化や異種顔料の混入の有無なども検知でき、アゾレーキ顔料を使用する印刷インキや塗料、着色樹脂成形品などの品質管理が容易かつ的確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1の分析方法(A)は、式(1)または式(2)で示されるアゾレーキ顔料を含む顔料の水分散液にアンモニウム塩を加えてアゾレーキ顔料の可溶化を行う可溶化処理工程(A1)と、可溶化したアゾレーキ顔料の有機溶媒溶液を調製する工程(A2)と、溶解したアゾレーキ顔料のアンモニウム塩の分離分析工程(A3)とを含む。
【0019】
本発明が対象とする「アゾレーキ顔料」は、式(1)または式(2)で示される金属塩である。これらは水には不溶であり、有機溶媒にも不溶か極めて難溶であり、本発明前には液体クロマトグラフィーの分析に供することができなかった化合物である。
【0020】
また、「アゾレーキ顔料を含む顔料」とは、式(1)または式(2)で示されるアゾレーキ顔料以外の顔料または染料、さらには不純物を含んでいてもよいアゾレーキ顔料をいい、以下、「アゾレーキ顔料含有物」という。
【0021】
まず、可溶化処理工程(A1)から説明する。
【0022】
アゾレーキ顔料は、より具体的にはつぎの化合物が例示できる。
【0023】
Pigment Red 48−2
【化3】

【0024】
Pigment Red 57−1
【化4】

【0025】
Pigment Red 52−2
【化5】

【0026】
Pigment Red 53−1
【化6】

【0027】
これらのアゾレーキ顔料はアゾレーキ顔料含有物として、たとえば特許文献1に記載されているように不純物として水溶性のアゾ染料を含んでいることがある。水溶性のアゾ染料についての分析は通常の液体クロマトグラフィーの測定法により可能であり、特許文献1でも行われていた。
【0028】
可溶化処理工程(A1)では、アゾレーキ顔料含有物を水に分散させると共にアンモニウム塩を加えて、アゾレーキ顔料の対イオンをアンモニウム塩に交換し、有機溶媒に可溶化させる。
【0029】
具体的には、アゾレーキ顔料含有物を水に加え、ついでアンモニウム塩を所定量加えた後、超音波洗浄器などを用いて均一に分散させる。アンモニウム塩を水溶液として、これとアゾレーキ顔料含有物を混合してもよい。
【0030】
使用するアンモニウム塩としては、生成したアゾレーキ顔料のアンモニウム塩が有機溶媒に溶解するものであれば特に限定されない。
【0031】
具体例としては、たとえばテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムホスフェイト、テトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの4級アンモニウム塩などが例示できる。
【0032】
ただ、次の分離分析工程の液体クロマトグラフィーとして逆相分配クロマトグラフィーを用いる場合は、アゾレーキ顔料を可溶化できるアンモニウム塩であればよいが、逆相イオンペアクロマトグラフィーを用いる場合は、逆相イオンペアクロマトグラフィーでの分離分析に用いられる移動相(有機溶媒)および固定相との適合性に優れたものが好ましい。かかる観点から、4級アンモニウム塩が好ましく、中でも、アゾレーキ顔料のアンモニウム塩の溶解性とピークの分離性が良好な点から、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)が好ましい。
【0033】
アンモニウム塩の使用量は、アゾレーキ顔料1質量部当り2質量部以上、さらには4質量部以上であることが、得られる可溶化されたアゾレーキ顔料のアンモニウム塩の有機溶媒への溶解性が良好な点から好ましく、また12質量部以下、さらには8質量部以下であることが、分離分析工程(A3)での液体クロマトグラフィーにおける分離性が良好な点から好ましい。
【0034】
ついで溶液調製工程(A2)において、この均一分散液に有機溶媒を加え、激しく攪拌振とうする。その結果、可溶化されたアゾレーキ顔料のアンモニウム塩が有機溶媒層に溶解し、アゾレーキ顔料のアンモニウム塩の有機溶媒溶液が得られる。
【0035】
なお、振とう後、振とう液に希塩酸などの無機酸を少量添加することで、層分離が向上する。
【0036】
使用する有機溶媒としては、水に相溶性のない有機溶媒で可溶化されたアゾレーキ顔料のアンモニウム塩を溶解するものであれば特に限定されない。しかし、次工程の液体クロマトグラフィーでの分離分析に用いられる固定相(分離カラム)との適合性に優れたものが好ましい。かかる観点から、溶液の調製に使用する有機溶媒としては、たとえばクロロホルム、トルエン、エチルエーテルなどが例示でき、これらの中でも特に可溶化されたアゾレーキ顔料のアンモニウム塩の溶解性に優れるクロロホルムが好適である。
【0037】
つぎに、液体クロマトグラフィーでの分離分析工程(A3)について説明する。
【0038】
本発明で用いる液体クロマトグラフィーとしては、逆相イオンペアクロマトグラフィーまたは逆相分配クロマトグラフィーが好ましい。
【0039】
逆相イオンペアクロマトグラフィーとは、高速液体クロマトグラフィーにおいて、イオン性物質が移動相中のイオンペア試薬と反応して電気的に中性の物質になり、その結果、疎水性が増大して逆相イオンペアクロマトグラフィーの固定相に分配されることにより、分離分析する方法である。
【0040】
したがって、分離分析の対象となる物質は移動相中でイオンペア試薬と反応し得る形態、すなわち溶液の形態でなければ分析できない。
【0041】
本発明によれば、アゾレーキ顔料は工程(A1)と(A2)を経て有機溶媒に可溶化されるので、逆相イオンペアクロマトグラフィーでの分離分析が可能になる。
【0042】
逆相イオンペアクロマトグラフィーで使用する移動相(有機溶媒)としては、アセトニトリル、メチルアルコール、テトラヒドロフランなどがあげられ、特にアゾレーキ顔料の分離性が良好な点から、アセトニトリルが好ましい。
【0043】
イオンペア試薬としては、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムホスフェイトなどがあげられ、特にアゾレーキ顔料の検出ピークの形状がシャープな点、また可溶化処理工程(A1)と同一の試薬を用いることができる点から、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドが好ましい。
【0044】
固定相としては、逆相クロマトグラフィーに用いられるシリカゲルにアルキル基を化学結合したオクチルタイプ(C8)やオクタデシルタイプ(C18:ODS)などがあげられ、特に汎用性に優れる点から、オクタデシルタイプ(ODS)が好ましい。
【0045】
より具体的な分離カラムとしては、(株)島津製作所製のShim-Pack VP-ODS(250×4.6 mm i.d.)、ジーエルサイエンス(株)製のInertsil ODS-3(100×3.0 mm i.d.)などが例示できる。
【0046】
逆相イオンペアクロマトグラフィーの操作条件は、たとえばつぎの条件が採用できるが、試料導入量やグラジエント溶出条件、およびイオンペア試薬の添加量などによって、適宜変更される。
溶出法:グラジェント溶出法
カラム温度:30〜60℃
試料導入量:5〜50μl
グラジエント溶出条件:B液濃度0〜100%
イオンペア試薬の添加量:0.01〜0.10質量%
流速:0.2〜1.0ml/min
測定波長:190nm〜800nm
【0047】
他方の逆相分配クロマトグラフィーは逆相イオンペアクロマトグラフィーとは異なり、イオンペア試薬を使用しない通常の逆相分配クロマトグラフィーとして位置付けられる方法であり、本発明においては緩衝剤として酢酸アンモニウムを用いて、水または有機溶媒に溶解し、緩衝液の移動相として分離分析することが好ましい。
【0048】
使用する移動相の調製は、20〜40mM、好ましくは25〜35mMの酢酸アンモニウムを水または有機溶媒に溶解して行うことができる。有機溶媒としては、たとえばメチルアルコール、アセトニトリルなどが一般的であり、溶出力および分離性に優れているアセトニトリルが好ましい。
【0049】
ただし、酢酸アンモニウムは水に対しては易溶であるがアセトニトリルに対しては比較的溶解度が小さい。アセトニトリルを移動相とする場合は、60〜80質量%濃度、好ましくは65〜70質量%のアセトニトリル−水を用いることが特に好ましい。
【0050】
移動相の溶出条件としては、グラジエント溶出条件を採用することが、複数のアゾレーキ顔料の混合物を個々のアゾレーキ顔料に分離する場合に特に好ましい。また、使用するカラムとしては、逆相イオンペアクロマトグラフィーで例示したODS系のカラムが使用できる。
【0051】
逆相分配クロマトグラフィーの操作条件は、たとえばつぎの条件が採用できるが、試料導入量、グラジエント溶出条件、緩衝液(酢酸アンモニウム溶液)の濃度などを考慮して適宜変更される。
溶出法:グラジェント溶出法
カラム温度:30〜60℃
試料導入量:5〜50μl
グラジエント溶出条件:B液濃度0〜100%
緩衝液濃度:20〜40mM
流速:0.2〜1.0ml/min
測定波長:190nm〜800nm
【0052】
本発明の分析方法(A)によれば、アゾレーキ顔料は明確に分離されたシャープなピークとして検出でき、常法により検量線を予め作成しておくことにより、定量分析も可能である。
【0053】
つぎに本発明の第2の分析方法(B)について説明する。
【0054】
分析方法(B)は、
(B1)前記式(1)または式(2)で示されるアゾレーキ顔料含有物から水溶性成分を除去する予備処理工程;
(B2)水溶性成分が除去されたアゾレーキ顔料をpH2〜3に調整されたジメチルスルホキシド溶液に可溶化させる可溶化処理工程;および
(B3)該アゾレーキ顔料のジメチルスルホキシド溶液を液体クロマトグラフィーにより分離し検出する分離分析工程
を含む分析方法である。
【0055】
予備処理工程(B1)における出発材料であるアゾレーキ顔料含有物は、分析方法(A)と同じであるが、分析方法(B)では、アゾ染料などの水溶性成分を除去する。除去方法は水洗などの通常の方法で充分である。したがって、予備処理工程(B1)で得られる予備処理されたアゾレーキ顔料含有物は水不溶性のアゾレーキ顔料のみを含む顔料であり、特許文献1の目的物質の一部に相当する。換言すれば、本発明の第2の分析方法(B)は、特許文献1で精製されたアゾレーキ顔料(たとえばPigment Red 57-1)の分析方法と位置付けることもできる。
【0056】
つぎの可溶化処理工程(B2)において、水溶性成分が除去されたアゾレーキ顔料をpH2〜3に調整されたジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に可溶化させる。pH2〜3のDMSO溶液の調整は、たとえば0.1N−HClを加えることにより行うことができる。
【0057】
可溶化処理工程(B2)では、アゾレーキ顔料1質量部あたりpH2〜3のDMSO溶液を2〜5質量部、好ましくは2.5〜4質量部加えてアゾレーキ顔料を溶解する。溶解方法は、具体的には、たとえば超音波洗浄器を用いて5分間以上、好ましくは10分間以上攪拌するとアゾレーキ顔料は完全に溶解し、赤色透明な溶液が得られる。
【0058】
分離分析工程(B3)では、アゾレーキ顔料のDMSO溶液を液体クロマトグラフィーに供する。
【0059】
分析方法(B)における液体クロマトグラフィーとしては逆相イオンペアクロマトグラフィーでも逆相分配クロマトグラフィーでもよく、いずれのクロマトグラフィーにおいても被検出溶液がアゾレーキ顔料のDMSO溶液である以外は、分析方法(A)と処理および分析条件は同様でよい。
【0060】
本発明の分析方法(B)によれば、アゾレーキ顔料は明確に分離されたシャープなピークとして検出でき、常法により検量線を予め作成しておくことにより、定量分析も可能である。
【実施例】
【0061】
つぎに本発明の分析方法を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
実施例1
(A1)可溶化処理工程
50ml容のスクリュー管に濃度0.1質量%のTBAB水溶液を30ml入れ、これにアゾレーキ顔料Pigment Red 48-2(大日精化工業(株)製)の粉末を5mg投入し、超音波洗浄器を用いて10分間分散させた。
【0063】
分散初期にはアゾレーキ顔料の粉末が液表面に浮遊しているが、時間の経過と共に水に赤色に分散した。ただし、溶解はしていなかった。
【0064】
(A2)溶液調製工程
ついでこの分散液にクロロホルムを5ml加えてスクリュー管の蓋をし、スクリュー管を激しく振とうした。充分に振とうした後、1%HCl水溶液を数滴加えてさらに激しく振とうした後30分間以上静置すると水層とクロロホルム層が明確に分離した。水層は無色透明であり、クロロホルム層は赤色透明であり、アゾレーキ顔料がTBAB塩となってクロロホルム層に溶解していた。
【0065】
(A3)分離分析工程
上記(A2)で得られたアゾレーキ顔料のTBAB塩のクロロホルム溶液を用いて、つぎの測定条件で逆相イオンペアクロマトグラフィーを実施した。
【0066】
測定条件
カラム:(株)島津製作所製のShim-Pack VP-ODS (250×4.6mm i.d.)
移動相:A液 0.03%TBAB/水
B液 0.03%TBAB/アセトニトリル
グラジェント溶出法
B液濃度:30%(0分)→60%(30分)→30%(40分)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
測定波長:254nm
試料導入量:10μl
【0067】
得られたクロマトグラムを図1に示す。図1から明らかなように、23分後にPigment Red 48-2の溶出が確認できた。
【0068】
実施例2〜4
アゾレーキ顔料として、Pigment Red 48-2に代えてPigment Red 57-1(住化カラー(株)製。実施例2)、Pigment Red 53-1(大日本インキ化学工業(株)製。実施例3)およびPigment Red 52-2(BASFジャパン(株)製。実施例4)を用いたほかは実施例1と同様にして可溶化処理工程および溶液調製工程を施し、逆相イオンペアクロマトグラフィーでの分離分析工程を実施した。実施例2〜4での測定結果としてのクロマトグラムをそれぞれ図2〜4に示す。
【0069】
実施例5
アゾレーキ顔料として、Pigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物を用いたほかは実施例1と同様にして可溶化処理工程および溶液調製工程を施し、逆相イオンペアクロマトグラフィーでの分離分析工程を実施した(測定波長500nm)。測定結果としてのクロマトグラムを図5に示す。
【0070】
図1〜3のクロマトグラムから、図5におけるピーク1はPigment Red 57-1に、ピーク2はPigment Red 48-2に、ピーク3はPigment Red 53-1に帰属できた。
【0071】
実施例6
アゾレーキ顔料として、Pigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1をそれぞれ使用して調合した印刷インキ組成物を等量(200mg)づつ混合して混合印刷インキ組成物試料を調製した。
【0072】
混合印刷インキ組成物試料を常法によりテトラヒドロフラン(THF)で希釈した後、遠心分離に供してTHFに不溶な残渣(固形分)を得た。乾燥後の残渣は当初の混合印刷インキ組成物試料の約20質量%であった。
【0073】
この残渣に対して実施例1と同様にして可溶化処理工程および溶液調製工程を施し、逆相イオンペアクロマトグラフィーでの分離分析工程を実施した(測定波長500nm)。測定結果としてのクロマトグラムを図6に示す。
【0074】
図6におけるピーク1はPigment Red 57-1に、ピーク2はPigment Red 48-2に、ピーク3はPigment Red 53-1に帰属できた。帰属は、それぞれ単独に調合した印刷インキ組成物を試料として同様に測定して得た逆相イオンペアクロマトグラムの保持時間(Rt)から同定した。
【0075】
実施例7
アゾレーキ顔料として、Pigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物を用い、実施例1と同様にして可溶化処理工程および溶液調製工程を施し、アゾレーキ顔料アンモニウム塩の混合物のTBAB溶液を調製した。このアゾレーキ顔料のアンモニウム塩の混合物のTBAB溶液を用いて、つぎの測定条件で逆相分配クロマトグラフィーを実施した。
【0076】
測定条件
カラム:(株)島津製作所製のShim-Pack VP-ODS (250×4.6mm i.d.)
移動相:A液 30mM−酢酸アンモニウム/水
B液 30mM−酢酸アンモニウム/70%アセトニトリル−水
グラジェント溶出法
B液濃度:50%(0分)→90%(30分)→50%(40分)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
測定波長:500nm
試料導入量:30μl
【0077】
測定結果としてのクロマトグラムを図7に示す。
【0078】
図7におけるピーク1はPigment Red 57-1に、ピーク2はPigment Red 48-2に、ピーク3はPigment Red 53-1に帰属できた。帰属は、それぞれ単独のアゾレーキ顔料を試料として同様に測定して得た逆相分配クロマトグラムの保持時間(Rt)から同定した。
【0079】
実施例8
(B1)予備処理工程
Pigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1を100ml容の三角フラスコに等量(50mg)づつ秤り入れ、蒸留水を100ml入れて超音波洗浄器により30分間攪拌した後、不溶分(固形分)を濾取し、乾燥した。
【0080】
(B2)可溶化処理工程
得られた乾燥アゾレーキ顔料混合物のうちの30mgを50ml容のスクリュー管に入れ、この中に0.1N−HClを2ml加えて調整したDMSO溶液50mlを入れて超音波洗浄器により約10分間攪拌し、赤色透明なアゾレーキ顔料混合物のDMSO溶液を得た。
【0081】
(B3)分離分析工程
上記(B2)で得られたアゾレーキ顔料混合物のDMSO溶液を用いて、つぎの測定条件で逆相分配クロマトグラフィーを実施した。
【0082】
測定条件
カラム:(株)島津製作所製のShim-Pack VP-ODS (250×4.6mm i.d.)
移動相:A液 30mM−酢酸アンモニウム/水
B液 30mM−酢酸アンモニウム/70%アセトニトリル−水
グラジェント溶出法
B液濃度:50%(0分)→90%(30分)→50%(40分)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
測定波長:500nm
試料導入量:30μl
【0083】
測定結果としてのクロマトグラムを図8に示す。
【0084】
図8におけるピーク1はPigment Red 57-1に、ピーク2はPigment Red 48-2に、ピーク3はPigment Red 53-1に帰属できた。帰属は、それぞれ単独のアゾレーキ顔料を試料として同様に測定して得た逆相分配クロマトグラムの保持時間(Rt)から同定した。
【0085】
実施例9
実施例8と同様にして予備処理工程(B1)および可溶化処理工程(B2)を行い、赤色透明なアゾレーキ顔料混合物のDMSO溶液を得た。
【0086】
得られたアゾレーキ顔料混合物のDMSO溶液を用いて、つぎの測定条件で逆相イオンペアクロマトグラフィーを実施した。
【0087】
測定条件
カラム:(株)島津製作所製のShim-Pack VP-ODS (250×4.6mm i.d.)
移動相:A液 0.03%TBAB/水
B液 0.03%TBAB/アセトニトリル
グラジェント溶出法
B液濃度:30%(0分)→60%(30分)→30%(40分)
カラム温度:40℃
流速:1.0ml/min
測定波長:500nm
試料導入量:10μl
【0088】
測定結果としてのクロマトグラムを図9に示す。
【0089】
図9におけるピーク1はPigment Red 57-1に、ピーク2はPigment Red 48-2に、ピーク3はPigment Red 53-1に帰属できた。帰属は、それぞれ単独のアゾレーキ顔料を試料として同様に測定して得た逆相イオンペアクロマトグラムの保持時間(Rt)から同定した。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1で分析方法(A)により分析したPigment Red 48-2の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図2】実施例2で分析方法(A)により分析したPigment Red 57-1の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図3】実施例3で分析方法(A)により分析したPigment Red 53-1の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図4】実施例4で分析方法(A)により分析したPigment Red 52-2の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図5】実施例5で分析方法(A)により分析したPigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図6】実施例6で分析方法(A)により分析した印刷インキ組成物中から取り出したPigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の混合物の逆相イオンペアクロマトグラムである。
【図7】実施例7で分析方法(A)により分析したPigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物の逆相分配クロマトグラムである。
【図8】実施例8で分析方法(B)により分析したPigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物の逆相分配クロマトグラムである。
【図9】実施例9で分析方法(B)により分析したPigment Red 48-2とPigment Red 57-1とPigment Red 53-1の等重量の混合物の逆相イオンペアクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)式(1):
【化1】

または式(2):
【化2】

(式中、Arはベンゼン環またはナフタレン環;R1およびR2は同じかまたは異なり、いずれもCH3、ClまたはH;MeはBa、Ca、SrまたはMn)で示されるアゾレーキ顔料を含む顔料を水に分散させると共にアンモニウム塩を加える可溶化処理工程;
(A2)可溶化処理されたアゾレーキ顔料を有機溶媒に溶解させる溶液調製工程;および
(A3)該溶解したアゾレーキ顔料のアンモニウム塩を液体クロマトグラフィーにより分離し検出する分離分析工程
を含むアゾレーキ顔料の分析方法。
【請求項2】
前記分離分析工程(A3)における液体クロマトグラフィーが、逆相イオンペアクロマトグラフィーである請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記分離分析工程(A3)における液体クロマトグラフィーが、逆相分配クロマトグラフィーである請求項1記載の分析方法。
【請求項4】
前記可溶化処理工程(A1)で作用させるアンモニウム塩が4級アンモニウム塩である請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記4級アンモニウム塩がテトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイドである請求項4記載の分析方法。
【請求項6】
前記溶液調製工程(A2)で用いる有機溶媒がクロロホルムである請求項1〜5のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
前記分離分析工程(A3)における逆相イオンペアクロマトグラフィーにおいて移動相に用いる対イオンが、可溶化処理工程(A1)で使用するアンモニウム塩と同じアンモニウム塩である請求項2、4〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記分離分析工程(A3)における逆相分配クロマトグラフィーの移動相が緩衝剤を含む請求項3〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
前記分離分析工程(A3)における逆相分配クロマトグラフィーをグラジエント溶出法により行い、個々のアゾレーキ顔料に分離することを特徴とする請求項3または8記載の分析方法。
【請求項10】
(B1)式(1):
【化3】

または式(2):
【化4】

(式中、Arはベンゼン環またはナフタレン環;R1およびR2は同じかまたは異なり、いずれもCH3、ClまたはH;MeはBa、Ca、SrまたはMn)で示されるアゾレーキ顔料を含む顔料から水溶性成分を除去する予備処理工程;
(B2)水溶性成分が除去されたアゾレーキ顔料をpH2〜3に調整されたジメチルスルホキシド溶液に可溶化させる可溶化処理工程;および
(B3)該アゾレーキ顔料のジメチルスルホキシド溶液を液体クロマトグラフィーにより分離し検出する分離分析工程
を含むアゾレーキ顔料の分析方法。
【請求項11】
前記分離分析工程(B3)における液体クロマトグラフィーが、逆相イオンペアクロマトグラフィーである請求項10記載の分析方法。
【請求項12】
前記分離分析工程(B3)における液体クロマトグラフィーが、逆相分配クロマトグラフィーである請求項10記載の分析方法。
【請求項13】
前記分離分析工程(B3)における逆相分配クロマトグラフィーの移動相が緩衝剤を含む請求項12記載の分析方法。
【請求項14】
前記分離分析工程(B3)における逆相分配クロマトグラフィーをグラジエント溶出法により行い、個々のアゾレーキ顔料に分離することを特徴とする請求項12または13記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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