説明

アゾ金属キレート色素及び光記録媒体

【課題】高速記録特性と再生耐久性との両方に優れる光記録媒体に使用できる色素を提供する。
【解決手段】下記式で示されるアゾ化合物を金属イオンに配位してなる色素である。


(環Aは、炭素原子及び窒素原子を有して形成される含窒素複素芳香環を表す。
Xは、C−R、酸素原子、硫黄原子又はN−Rを表す。なお、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、直鎖又は分岐のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、アリール基、又は−CORで表されるアシル基を表す。また、Rは炭化水素基又は複素環基を表す。なお、これらは置換されていてもよい。ベンゼン環Bは、置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。なお、ベンゼン環Bの置換基は、隣接する置換基同士で互いに結合して環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素、この色素を含有する記録層を有する光記録媒体、及び、この光記録媒体への情報の記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高密度の記録が可能となる青色レーザーの開発は急速に進んでおり、それに対応した追記型の光記録媒体の開発が行なわれている。中でも、比較的安価のコストで効率的な生産が可能となる色素塗布型の追記型媒体の開発が強く望まれている。
【0003】
本発明者等は、安定に成形できる比較的浅い溝深さの基板を用いて、良好な記録再生特性を有する極めて高密度の色素塗布型の追記型光記録媒体を提案している(特許文献1参照)。即ち、案内溝が形成された基板と、基板上に少なくとも光反射機能を有する層と、未記録状態において記録再生光波長に対して光吸収機能を有する色素を主成分として含有する記録層と、前記記録層に対して記録再生光が入射するカバー層とをこの順に備え、前記記録再生光を集束して得られる記録再生光ビームが前記カバー層に入射する面から遠い側の案内溝部を記録溝部とするとき、前記記録溝部に形成された記録ピット部の反射光強度が、主として位相変化により当該記録溝部における未記録時の反射光強度より増加するように構成された光記録媒体である。
【0004】
このような光記録媒体用の色素としては、たとえばβ−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物がある(特許文献2参照)。この種の化合物は青色レーザーの発光波長である405nm付近に大きな吸収をもち、また比較的優れた耐光性を有する。このため、この種の化合物を用いた光記録媒体は青色レーザーを用いて高密度の光情報の記録及び再生が可能である。
また、光記録媒体用の色素としては、特許文献3に記載のような色素も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−026541号公報
【特許文献2】特開2007−45147号公報
【特許文献3】特開2007−313882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2、特許文献3などに記載の化合物を色素として用いた場合、低い線速度での記録では良好な特性を与えるものの、線速度が高くなると記録特性が不十分となることが多かった。また、高速で良い記録特性を示す場合であっても、再生耐久性が不十分であるという、高速記録特性と再生耐久性とのトレード・オフ現象も多く見られた。
【0007】
光記録媒体では一般に、記録層に有機色素を用いた場合には、レーザー照射による記録マーク形成の際に「熱干渉」と呼ばれる現象が起こり、良好な記録状態の形成を阻害する傾向がある。この現象は特に記録時の線速度が高くなると顕著であり、それが記録層に有機色素を使った光記録媒体の課題でもあった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みて創案されたもので、高速記録特性と再生耐久性との両方に優れる光記録媒体と、それに使用できる色素と、その光記録媒体への情報の光記録方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、所定のアゾ成分及び所定のカップラー成分を組み合わせたアゾ化合物が金属イオンに配位してなるアゾ金属キレート化合物を光記録媒体の記録層に用いることにより、高い線速度においても良好な記録特性を発揮し、且つ、十分な再生安定性を有する光記録媒体を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、下記式[I]で示されるアゾ化合物が金属イオンに配位してなることを特徴とする色素に存する。
【0011】
【化1】

(式[I]中、環Aは、炭素原子及び窒素原子を有して形成される含窒素複素芳香環を表す。Xは、C−R、酸素原子、硫黄原子、及びN−Rからなる群より選ばれるいずれかを表す。なお、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルキル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。また、Rは置換されていてもよい炭化水素基又は複素環基を表す。ベンゼン環Bは、置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。なお、ベンゼン環Bの置換基は、隣接する置換基同士で互いに結合して環を形成してもよい。)
【0012】
このとき、前記式[I]において、XがC−R、酸素原子、及び、N−Rからなる群より選ばれるいずれかを表し、R、R及びRがそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数2以上12以下の直鎖又は分岐のアルケニル基、炭素数6以上18以下のアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基(ただし、Rが炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、及び炭素数6以上18以下のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを表す)からなる群より選ばれるいずれかを表すことが好ましい。
また、前記式[I]において、XがN−Rを表し、Rが、炭素数1以上8以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上12以下のアラルキル基、並びに、炭素数2以上8以下の直鎖又は分岐のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表すことがより好ましい。
【0013】
また、前記式[I]において、環Aがイソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイソキサゾール環、ベンズオキサゾール環及びベンズイミダゾール環からなる群より選ばれるいずれかを表すことが好ましい。
さらに、前記式[I]において、環Aがイソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環及びベンズイソキサゾール環からなる群より選ばれるいずれかを表すことがより好ましい。
【0014】
また、前記金属イオンが、周期表の第3族〜第12族元素から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることが好ましい。
さらに、前記金属イオンが、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることがより好ましい。
また、環Aがトリアゾール環を示し、金属イオンがニッケルまたはコバルトであることが特に好ましい。
【0015】
本発明の別の要旨は、基板と、該基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、該記録層が本発明の色素を含有することを特徴とする光記録媒体に存する。
このとき、前記光が、波長が380nm以上430nm以下のレーザー光であることが好ましい。
本発明の更に別の要旨は、本発明の光記録媒体に、波長380nm以上430nm以下のレーザー光で情報を記録することを特徴とする光記録方法に存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の色素によれば、この色素を光記録媒体に適用することにより、高速記録特性と再生耐久性との両方に優れる光記録媒体を実現できる。
また、本発明の光記録媒体は、高速記録特性と再生安定性との両方に優れる。
さらに、本発明の光記録方法によれば、本発明の光記録媒体に高密度に情報を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態としての膜面入射構成の追記型光記録媒体を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態としての多層記録媒体を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0019】
[I.色素]
本発明の色素は、少なくとも、下記式[I]で示されるアゾ化合物(以下、適宜「本発明に係るアゾ化合物」ということがある。)が金属イオンに配位してなるアゾ金属キレート化合物である。即ち、少なくとも本発明に係るアゾ化合物に対応した配位子と金属イオンとを有するアゾ金属キレート化合物である。また、本発明の色素は、波長380nm以上430nm以下の青色光領域に適度の吸収を有し、青色レーザー光による記録に適する色素化合物である。
【0020】
【化2】

【0021】
式[I]中、環Aは、炭素原子及び窒素原子を有して形成される含窒素複素芳香環を表す。Xは、C−R、酸素原子、硫黄原子、及びN−Rからなる群より選ばれるいずれかを表す。なお、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルキル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。また、Rは置換されていてもよい炭化水素基又は複素環基を表す。ベンゼン環Bは、置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。なお、ベンゼン環Bの置換基は、隣接する置換基同士で互いに結合して環を形成してもよい。
【0022】
[I−1.アゾ化合物]
本発明の色素において配位子となるアゾ化合物は、前記式[I]で示されるものである。本発明に係るアゾ化合物では、式[I]において、アゾ基(−N=N−)の左側の複素芳香環はジアゾ成分と呼ばれ、右側の構造はカップラー成分と呼ばれる。これらの構造はケト−エノールの互変異性構造をとり、式[I]の構造では下記式のような構造をとりうる。ただし、本発明に係るアゾ化合物は金属イオンと錯体を形成する際には、エノールの水素原子が外れて−O-の形で配位する。即ち、式[II]で表される配位子となって配位することになる。そこで、本明細書においてはエノール型で統一して表記する。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

(式[II]において、環A、X及びベンゼン環Bは式[I]と同様のものを表す。)
【0025】
〔X〕
前記式[I]において、Xは2価の基を表し、具体的には、C−R、酸素原子、硫黄原子、及びN−Rからなる群より選ばれるいずれかを表す。なお、C−R及びN−Rは結合手を描画して示すと以下の構造となっている。
【0026】
【化5】

ここで、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、直鎖又は分岐のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、アリール基、並びに−CORで表されるアシル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。
【0027】
、R又はRが直鎖又は分岐のアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は、通常1以上であり、通常12以下、好ましくは8以下である。アルキル基の炭素数が大きすぎると単位重量あたりの吸光度が小さくなり、記録特性が悪化する場合がある。なお、溶媒への溶解度を向上させたい場合には大きくすればよい。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
【0028】
、R又はRがアラルキル基である場合、当該アラルキル基の炭素数は、通常7以上であり、通常18以下、好ましくは12以下である。アラルキル基の炭素数が大きすぎると単位重量あたりの吸光度が小さくなり、記録特性が悪化する場合がある。
アラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基などが挙げられる。
【0029】
、R又はRがシクロアルキル基である場合、当該シクロアルキル基の炭素数は、通常3以上、好ましくは5以上であり、通常8以下、好ましくは6以下である。シクロアルキル基の炭素数が大きすぎると単位重量あたりの吸光度が小さくなり、記録特性が悪化する場合がある。
シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0030】
、R又はRが直鎖又は分岐のアルケニル基である場合、当該アルケニル基の炭素数は、通常2以上であり、通常12以下、好ましくは8以下である。アルケニル基の炭素数が大きすぎると単位重量あたりの吸光度が小さくなり、記録特性が悪化する場合がある。
アルケニル基の例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−ブテニル基などが挙げられる。
【0031】
、R又はRがアリール基である場合、当該アリール基の炭素数は、通常6以上であり、通常18以下、好ましくは12以下である。アリール基の炭素数が大きすぎると単位重量あたりの吸光度が小さくなり、記録特性が悪化する場合がある。
アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0032】
、R又はRが−CORで表されるアシル基である場合、Rは、炭化水素基又は複素環基を表す。
が炭化水素基である場合、その例としては、
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは8以下の、直鎖又は分岐のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の、炭素数が通常3以上、好ましくは5以上、また、通常8以下、好ましくは6以下の環状アルキル基;
ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の、炭素数が通常2以上、また、通常12以下、好ましくは8以下の、直鎖又は分岐のアルケニル基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の、炭素数が通常3以上、また、通常18以下の環状アルケニル基;
ベンジル基、フェネチル基等の、炭素数が通常7以上、また、通常18以下、好ましくは12以下のアラルキル基;
フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の、炭素数が通常6以上、また、通常18以下、好ましくは12以下のアリール基;
などが挙げられる。
【0033】
一方、Rが複素環基である場合、その複素環基が有するヘテロ原子の数は1個でもよく、2個以上でもよい。
複素環として好ましい構造を挙げると、5〜6員環の飽和複素環;5〜6員環の単環及びその2縮合環の芳香族複素環である。
複素環基の例を挙げると、4−ピペリジル基、モルホリノ基、2−モルホリニル基、ピペラジル基等の飽和複素環基;2−フリル基、2−ピリジル基、2−チアゾリル基、2−キノリル基等の芳香族複素環基などが挙げられる。
【0034】
−CORで表されるアシル基の好適な例を挙げると、以下のものが挙げられる。
【0035】
【化6】

【0036】
また、R、R、R、及びRは置換基を有していてもよい。即ち、R、R及びRを構成する、直鎖又は分岐のアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、アリール基、並びに、Rを構成する炭化水素基及び複素環基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、置換されていてもよい。特に、R、R、R、及びRが示すアルキル基のアルキル鎖部分は通常は置換基を有していてもよい。この際、置換基は1個であってもよく、2個以上であってもよい。また2個以上の置換基を有する場合、置換基の種類は1種であってもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。さらに、置換基の置換位置も任意である。
【0037】
前記置換基の例を挙げると、
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1以上10以下のアルコキシ基;
メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2以上12以下のアルコキシアルコキシ基;
メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3以上15以下のアルコキシアルコキシアルコキシ基;
フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6以上12以下のアリールオキシ基;
アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2以上12以下のアルケニルオキシ基;
2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;
シアノ基;
ニトロ基;
ヒドロキシル基;
メルカプト基;
メチルメルカプト基、エチルメルカプト基等のアルキルチオ基;
アミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1以上10以下のアルキルアミノ基;
メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1以上6以下のアルキルスルホニルアミノ基;
フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子(即ち、ハロゲン基);
メチルカロボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基等のアルキルカルボニル基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の炭素数2以上7以下のアルコキシカルボニル基;
メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2以上7以下のアルキルカルボニルオキシ基;
メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2以上7以下のアルコキシカルボニルオキシ基;
トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等のトリアルキルシリル基;
などが挙げられる。
【0038】
なお、R、R、R、及びRが有する置換基は、更に置換基を有していてもよい。この際、更に有する置換基は1個であってもよく、2個以上であってもよい。また2個以上の置換基を更に有する場合、更に有する置換基の種類は1種であってもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。さらに、更に有する置換基の置換位置も任意である。その例としては、上述したR、R、R及びRが有する置換基と同様のものが挙げられる。
【0039】
、R及びRのうち好適な例としては、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数2以上12以下の直鎖又は分岐のアルケニル基、炭素数6以上18以下のアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基(ただし、Rが炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、及び炭素数6以上18以下のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを表す)からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。これらの置換基の化合物は、出発原料の入手が容易で、結晶性の良い中間体経由で合成でき、これらの置換基の化合物自体の結晶性も良いことから、合成が容易だからである。
さらにその中でも、R、R及びRは、炭素数1以上8以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上12以下のアラルキル基、並びに、炭素数2以上8以下の直鎖又は分岐のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかであることがより好ましい。単位重量あたりの吸光度の増大させられるためである。
【0040】
上述したものの中でも、Xとしては、C−R、酸素原子、及び、N−Rからなる群より選ばれるいずれかが好ましい。さらにその中でも、N−Rがより好ましい。合成上色々な種類のRの導入が容易で、Rの種類を選択して溶解性など性能を調整することができるためである。
【0041】
〔環A〕
前記式[I]において、環Aは、炭素原子及び窒素原子を有して形成される含窒素複素芳香環を表す。
環Aの構造は、配位可能な位置に窒素原子を有していれば単環でもよく、縮合環でも良い。縮合環である場合における縮合する環の数に制限はないが、通常2以上であり、また、通常3以下である。ただし、単環が特に好ましい。
【0042】
環Aの例を挙げると、以下のようなものが挙げられる。
【0043】
【化7】

【0044】
前記の例示において、D〜Dはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数3以上8以下の環状アルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、炭素数2以上6以下の直鎖又は分岐のアルケニル基、並びに、−CORで表されるアシル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。
【0045】
中でも、環Aとしては、吸収波長及び溶解性の点から5〜6員環の単環または2縮合環の含窒素複素芳香環であることが好ましい。このような環Aの例を挙げると、イソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイソキサゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズイミダゾール環などが挙げられる。
中でも、試薬の入手しやすさや反応性を考慮すると、イソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環、ベンズイソキサゾール環が好ましく、トリアゾール環が特に好ましい。
【0046】
また、環Aは本発明の効果を著しく損なわない限り任意の置換基を有していてもよい。この際、置換基は1個であってもよく、2個以上であってもよい。また2個以上の置換基を有する場合、置換基の種類は1種であってもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。さらに、置換基の置換位置も任意である。
【0047】
これらの置換基の例としては、
メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の、置換されてもよい、炭素数が通常1以上、また、通常12以下、好ましくは8以下の、直鎖又は分岐のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常3以上、好ましくは5以上、また、通常8以下、好ましくは6以下の環状アルキル基;
ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常2以上、また、通常12以下、好ましくは8以下の、直鎖又は分岐のアルケニル基;
シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常3以上、また、通常18以下の環状アルケニル基;
ベンジル基、フェネチル基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常7以上、また、通常18以下、好ましくは12以下のアラルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常1以上、また、通常18以下、好ましくは12以下、より好ましくは6以下の、直鎖又は分岐のアルコキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常1以上、また、通常18以下、好ましくは12以下、より好ましくは6以下の、直鎖又は分岐のアルキルチオ基;
プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常3以上、また、通常18以下の、直鎖又は分岐のアルケニルオキシ基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基等の、置換されていてもよい、炭素数が通常6以上、また、通常18以下、好ましくは12以下のアリール基;
2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の、置換されていてもよい、飽和または不飽和の複素環基;
フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;
ニトロ基;
シアノ基;
メルカプト基;
ヒドロキシ基;
ホルミル基;
−CORで表されるアシル基;
−NRで表されるアミノ基;
−NHCORで表されるアシルアミノ基;
−NHCOORで表されるカーバメート基;
−COORで表されるカルボン酸エステル基;
−OCOR10で表されるアシルオキシ基;
−CONR1112で表されるカルバモイル基;
−SO13で表されるスルホニル基;
−SOR14で表されるスルフィニル基;
−SONR1516で表されるスルファモイル基;
−SO17で表されるスルホン酸エステル基;
−NHSO18で表されるスルホンアミド基;
などが挙げられる。
【0048】
ここでR、R、R、R10、R13、R14、R17、及びR18は、それぞれ独立に、Rと同様に、炭化水素基又は複素環基を表す。 なお、ここで炭化水素基及び複素環基は、Rと同様のものが挙げられる。
また、R、R、R11、R12、R15、及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基及び複素環基のいずれかを表す。なお、ここで炭化水素基及び複素環基はRと同様のものを表す。
さらに、R、R、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、及びR18は、上述したR、R、R及びRと同様に置換基を有していてもよい。
【0049】
具体例を挙げると、−NRで表されるアミノ基としては、以下のものが挙げられる。
【0050】
【化8】

【0051】
−NHCORで表されるアシルアミノ基としては、以下のものが挙げられる。
【0052】
【化9】

【0053】
−NHCOORで表されるカーバメート基としては、以下のものが挙げられる。
【0054】
【化10】

【0055】
−COORで表されるカルボン酸エステル基としては、以下のものが挙げられる。
【0056】
【化11】

【0057】
−OCOR10で表されるアシルオキシ基としては、以下のものが挙げられる。
【0058】
【化12】

【0059】
−CONR1112で表されるカルバモイル基としては、以下のものが挙げられる。
【0060】
【化13】

【0061】
−SO13で表されるスルホニル基としては、以下のものが挙げられる。
【0062】
【化14】

【0063】
−SOR14で表されるスルフィニル基としては、以下のものが挙げられる。
【0064】
【化15】

【0065】
−SONR1516で表されるスルファモイル基としては、以下のものが挙げられる。
【0066】
【化16】

【0067】
−SO17で表されるスルホン酸エステル基としては、以下のものが挙げられる。
【0068】
【化17】

【0069】
−NHSO18で表されるスルホンアミド基としては、以下のものが挙げられる。
【0070】
【化18】

【0071】
環Aが有する置換基の中でも好ましいものを挙げると、合成の容易さ及び塗布溶媒への溶解性などの点から、直鎖又は分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、アラルキル基、直鎖又は分岐のアルコキシ基、直鎖又は分岐のアルキルチオ基、アリール基、飽和又は不飽和の5〜6員環の複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、ホルミル基、−CORで表されるアシル基、−NRで表されるアミノ基、−NHCORで表されるアシルアミノ基、−NHCOORで表されるカーバメート基、−COORで表されるカルボン酸エステル基、−OCOR10で表されるアシルオキシ基、−CONR1112で表されるカルバモイル基、−SO13で表されるスルホニル基、−SOR14で表されるスルフィニル基、−SONR1516で表されるスルファモイル基、−SO17で表されるスルホン酸エステル基、−NHSO18で表されるスルホンアミド基などが挙げられる。
【0072】
これらの中でも特に好ましいものとしては、直鎖又は分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、アラルキル基、直鎖又は分岐のアルコキシ基、直鎖又は分岐のアルキルチオ基、アリール基、飽和又は不飽和の5〜6員環の複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、ホルミル基、−CORで表されるアシル基、−NRで表されるアミノ基、−NHCORで表されるアシルアミノ基、−COORで表されるカルボン酸エステル基、−OCOR10で表されるアシルオキシ基、−CONR1112で表されるカルバモイル基、−SO13で表されるスルホニル基、−SOR14で表されるスルフィニル基、−SONR1516で表されるスルファモイル基、−NHSO18で表されるスルホンアミド基が挙げられる。
【0073】
なお、環Aが有する置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り、更に置換基を有していてもよい。特に、置換基としての直鎖又は分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、直鎖又は分岐のアルコキシ基、直鎖又は分岐のアルキルチオ基、及び、R〜R18が示すアルキル基のアルキル鎖部分は、通常は更に置換基を有していてもよい。この際、更に有する置換基は1個であってもよく、2個以上であってもよい。また2個以上の置換基を更に有する場合、更に有する置換基の種類は1種であってもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。また、更に有する置換基の置換位置も任意である。その例としては、上述したR、R、R及びRが有する置換基と同様のものが挙げられる。
【0074】
〔ベンゼン環B〕
前記式[I]において、ベンゼン環Bは置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。この際、置換基は1個であってもよく、2個以上であってもよい。また2個以上の置換基を有する場合、置換基の種類は1種であってもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で置換していてもよい。さらに、置換基の置換位置も任意である。このような置換基としては、上述した環Aが有する置換基と同様のものが挙げられる。
さらに、ベンゼン環Bが有する置換基は、環Aが有する置換基と同様に、本発明の効果を著しく損なわない限り、更に置換基を有していてもよい。
【0075】
また、ベンゼン環Bが有する置換基は、隣接する置換基同士が互いに縮合して縮合環を形成していてもよい。形成される縮合環は炭素原子からなる環であってもよいが、炭素原子以外に例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む環であってもよい。また、この縮合環は飽和結合のみからなるものであってもよく、飽和結合だけでなく不飽和結合も含んで形成される環であってもよい。
また、前記式[I]のXがCR若しくはNRである場合は、R、R若しくはRとベンゼン環Bとは縮合した構造を形成してもよい。
さらに、縮合環の構造としては、5〜7員環構造が合成のしやすさや安定性から好ましく、特に好ましいのは飽和の5〜6員環である。
【0076】
ベンゼン環Bの好ましい例を、Xを含む環の構造と共に以下に示す。
【0077】
【化19】

【0078】
〔アゾ化合物に関するその他の事項〕
本発明に係るアゾ化合物の分子量は、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下である。分子量が大きすぎるとグラム吸光係数が減少するため、色素の量に対して吸収が小さくなる傾向があるからである。
【0079】
本発明に係るアゾ化合物の例を挙げると、以下のものが挙げられる。なお、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、t−Buはt−ブチル基を表し、i−Buはイソブチル基を表し、i−Prはイソプロピル基を表す。
【0080】
【化20】

【0081】
【化21】

【0082】
【化22】

【0083】
[I−2.金属イオン]
本発明の色素を構成する金属イオン(以下、適宜「本発明に係る金属イオン」という)は、本発明に係るアゾ化合物と結合してアゾ金属キレート化合物を形成する金属のイオンである。本発明に係る金属イオンの種類は、配位形成能力を有していれば特に制限はなく、遷移元素でもよく、典型元素でもよく、またその酸化数も問わない。
【0084】
中でも、本発明に係る金属イオンは、周期表の第3族〜第12族元素から選ばれる金属のイオンであることが好ましい。遷移金属との錯体は典型元素との塩と比較してモル吸光係数が高い場合が多く、また、安定な錯体を得られる場合が多いためである。
【0085】
また、本発明の色素では、本発明に係るアゾ化合物と金属イオンとが形成する錯体構造において本発明に係るアゾ化合物は−1価の電荷をもつ配位子となりやすい。このため、本発明に係る金属イオンは、2価の遷移金属のイオンであることが好ましい。2価の遷移金属イオン1に対しアゾ化合物2の割合で配位でき、錯体を形成しやすくなるからである。
この観点から、本発明に係る金属イオンの好適な例を挙げると、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、マンガンなどの2価の遷移金属のイオンが挙げられる。中でも、ニッケル及びコバルトが好ましい。特に、本発明に係るアゾ化合物において環Aがトリアゾール環である場合に、金属イオンがニッケルまたはコバルトであることが特に好ましい。
【0086】
[I−3.錯体構造]
本発明の色素は、少なくとも上述した本発明に係るアゾ化合物が金属イオンに配位してなる錯体である。この際、通常は、本発明に係るアゾ化合物のカップラー成分に存在する水酸基の水素原子が外れて、前記式[II]で表される配位子となり、この配位子が金属イオンに配位することになる。
【0087】
本発明の色素において、本発明に係る金属イオンとアゾ化合物との比に特に制限はない。したがって、本発明の色素は、金属イオン及びアゾ化合物の組み合わせに応じて、1個又は2個以上の金属イオンに対して1個又は2個以上のアゾ化合物が配位した任意の錯体構造をとることができる。ただし、錯体の形成のしやすさから金属イオンとアゾ化合物との比は1:2となることが好ましく、例えば、2価の遷移金属イオン1に対してアゾ化合物2の割合で配位した錯体構造が好ましい。
【0088】
また、本発明の色素において本発明に係るアゾ色素が2個以上配位する場合、アゾ色素の種類は1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。一方、本発明の色素が本発明に係る金属イオンを2個以上含む場合、金属イオンの種類は1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0089】
本発明の色素は、本発明に係るアゾ化合物及び金属イオン以外の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の色素は、本発明に係るアゾ化合物及び金属イオン以外に電荷を有する対イオンを含んでいてもよい。
【0090】
本発明の色素の例を挙げると、以下のものが挙げられる。
【0091】
【化23】

【0092】
[I−4.製造方法]
本発明の色素の製造方法は特に限定されるものではないが、通常は、下記反応式に示すようにして製造できる。即ち、まずジアゾ成分に対応する芳香族複素環アミンを、酸性溶液中で、亜硝酸ナトリウム、ニトロシル硫酸等によりジアゾ化し、これを0℃付近でカップラー溶液に滴下してアゾ化合物を合成する。その後、アゾ化合物を適切な溶媒に溶かし、そのアゾ化合物溶液に金属塩の溶液を滴下して錯体を精製させる。なお、下記反応式では2価の金属イオンMとアゾ化合物とが存在比2:1の錯体を合成した場合の構造を示している。
【0093】
【化24】

【0094】
[II.光記録媒体]
本発明の光記録媒体は、基板と、この基板上に設けられ光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、記録層が本発明の色素を含有して構成されるものである。この際、記録層に含有される本発明の色素は、1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0095】
以下、本発明の光記録媒体について実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態としての膜面入射構成の追記型光記録媒体を模式的に示す断面図である。本実施形態の光記録媒体20は、溝を形成した基板21上に、少なくとも光反射機能を有する層(反射層23)と、未記録(記録前)状態において記録再生光に対して吸収を有する色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層22と、前記記録層22に接する界面層30とカバー層24とが順次積層された構造を有して構成される。そして、この光記録媒体20には、カバー層24側から対物レンズ28を介して集光された記録再生光ビーム27を入射して、情報の記録及び再生を行うようになっている。即ち、本実施形態の光記録媒体20は「膜面入射構成」(Reverse stackともいう)をとる。
なお、以下の説明においては、光反射機能を有する層23を単に「反射層23」と記し、色素を主成分とする光吸収機能を有する記録層22を単に「記録層22」と記す。
【0096】
膜面入射構成のカバー層24側に記録再生光ビーム27を入射するに当たり、高密度記録のために、通常、NA(開口数)=0.6〜0.9程度の高NA(開口数)の対物レンズ28が用いられる。
また、記録再生光ビーム27の波長(記録再生光波長)λは、赤色から青紫色波長(350nm〜600nm程度)がよく用いられる。さらに、高密度記録のためには、波長は350nm以上が好ましく、380nm以上がより好ましく、また、450nm以下が好ましいが、必ずしもこれに限定されない。
【0097】
本実施形態においては、図1において、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面)29から見て遠い側の案内溝部(記録再生光ビームが入射する面から遠い側の案内溝部)を記録溝部とし、記録溝部に形成した記録ピット部の反射光強度が記録溝部の未記録時の反射光強度より高くなるような記録(以下、LtoH記録と記載)を行うようになっている。その主たるメカニズムは、反射光強度の増加が主として前記記録ピット部での反射光の位相変化によることを用いる。即ち、主として記録溝部における反射光の往復光路長の記録前後で変化を利用する。
【0098】
また、膜面入射型の光記録媒体20では、記録再生光ビーム27のカバー層24への入射面(記録再生光ビームが入射する面)29から遠い案内溝部(基板の溝部と一致)をカバー層溝間部25(in−groove)と呼び、記録再生光ビーム27が入射する面から近い案内溝間部(基板の溝間部と一致)をカバー層溝部26(on−groove)と呼ぶことにする。
このような構成では、溝形状や各層の屈折率等の光学特性を制御することにより、カバー層溝間部25(in−groove)を記録トラックとする記録(以下、これを「in−groove記録」という)をLtoH記録で実現することが可能となる。
【0099】
以下、図1に示す層構成における各層の具体的材料及び態様のうち好ましいものを、青色波長レーザーの開発が進んでいる状況を考慮し、特に記録再生光ビーム27の波長λが405nm近傍の場合を想定して説明する。
【0100】
〔基板21〕
基板21は、膜面入射構成では、例えば、適度な加工性と剛性を有するプラスチック、金属、ガラス等の材料で形成することができる。膜面入射構成の光記録媒体20の基板21の材料には、基板入射構成と異なり、透明性や複屈折に対する制限はない。なお、基板21を形成する材料は、1種であってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0101】
基板21の表面に案内溝を形成するのであるが、通常、金属及びガラス等で形成される基板21では、表面に光硬化性又は熱硬化性の薄い樹脂層を設け、そこに、溝を形成することになる。この点、プラスチック材料を用い、射出成型によって、基板21形状(特に円盤状)と表面の案内溝とを一挙に形成するほうが製造上は好ましい。
【0102】
射出成型できるプラスチック材料としては、例えば、従来CDやDVDで用いられたポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。
基板21の厚みとしては0.5mm〜1.2mm程度とするのが好ましい。なかでも基板厚とカバー層厚を合わせて、従来のCDやDVDと同じ1.2mmとすることが好ましい。従来のCDやDVDで使われるケ−ス等をそのまま用いることができるからである。なお、基板厚を1.1mm、カバー層厚みを0.1mmとすることが、ブルーレイ・ディスクでは規定されている。
【0103】
基板21にはトラッキング用の案内溝が形成される。本実施形態では、カバー層溝間部25が記録溝部となるトラックピッチは、CD−R、DVD−Rより高密度化を達成するためには0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、また、0.6μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましい。溝深さは、概ね30nm〜70nmの範囲にあることが好ましい。溝深さは、前記範囲内で、未記録状態の記録溝部反射率、記録信号の信号特性、プッシュプル信号特性、記録層22の光学特性等を考慮して適宜最適化される。
【0104】
本実施形態では、主として記録溝部と記録溝間部(即ち、隣り合った記録溝部の間の部分)とにおけるそれぞれの反射光の位相差による干渉を利用しているから、両方が集束光スポット内に存在することが好ましい。このため、記録溝幅(カバー層溝間部25の幅)は、記録再生光ビーム27の記録層22の面におけるスポット径(溝横断方向の直径)より小さくすることが好ましい。例えば、記録再生光波長λ=405nm、NA(開口数)=0.85の光学系で、トラックピッチを0.32μmとする場合、記録溝幅は0.1μm以上0.2μm以下の範囲とすることが好ましい。これらの範囲外では、溝または溝間部の形成が困難となる場合が多い。
【0105】
案内溝の形状は、通常、矩形となる。特に、後述の塗布による記録層22の形成時に、色素を含む溶液(色素溶液)の溶剤がほとんど蒸発するまでの数十秒間に、基板21の溝部に、色素が選択的に溜まることが望ましい。このため、案内溝を矩形に形成する場合でも、溝と溝の間の肩を丸くして、色素溶液が溝部に落下して溜まりやすくすることも好ましい。このような丸い肩を有する溝形状は、プラスチック基板若しくはスタンパの表面を、プラズマやUVオゾン等に数秒から数分さらしてエッチングすることで形成できる。特にプラズマによるエッチングでは、基板の溝部の肩(溝間部のエッジ)のような尖った部分が選択的に削られる性質があるので、丸まった溝部の肩の形状を得るのに適している。
【0106】
案内溝は、通常は、アドレスや同期信号等の付加情報を付与するために、溝蛇行、溝深さ変調等の溝形状の変調、記録溝部あるいは記録溝間部の断続による凹凸ピット等による付加信号を有する。例えば、ブルーレイ・ディスクでは、MSK(minimum−shift−keying)とSTW(saw−tooth−wobbles)という2変調方式を用いたウォブル・アドレス方式が用いられている。
【0107】
〔光反射機能を有する層(反射層23)〕
光反射機能を有する層(反射層23)は、記録再生光波長に対する反射率が高く、記録再生光波長に対して70%以上の反射率を有する材料で形成することが好ましい。記録再生用波長として用いられる可視光、特に、青色波長域で高反射率を示す材料の例を挙げると、Au、Ag、Al及びこれらを主成分とする合金などが挙げられる。より好ましくは、波長λ=405nmでの反射率が高く、吸収が小さいAgを主成分とする合金である。例えば、Agを主成分として、Au、Cu、希土類元素(特に、Nd)、Nb、Ta、V、Mo、Mn、Mg、Cr、Bi、Al、Si、Ge等の添加元素を0.01原子%〜10原子%含有させることで、水分、酸素及び硫黄等に対する耐食性が高めることができ、好ましい。この他に、誘電体層を複数積層した誘電体ミラーを反射層23として用いることも可能である。なお、反射層23を形成する材料は、1種であってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0108】
反射層23の膜厚は、基板21表面の溝段差を保持するために、70nm以下が好ましく、より好ましくは65nm以下とする。後述の、多層記録媒体(図2を参照)を形成する場合を除いて、反射層23の膜厚は、30nm以上が好ましく、より好ましくは40nm以上とする。
反射層23の表面粗さRaは、5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。Agは添加物を含有させることによって平坦性が増す性質があり、この意味でも、上記の添加元素を0.1原子%以上含有させることが好ましく、0.5原子%以上含有させることがより好ましい。
反射層23は、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法などで形成することができる。
【0109】
〔色素を主成分とする光吸収機能を有する層(記録層22)〕
本実施形態では、記録層22は反射層23を介して基板21上に設けられた層であって、この記録層22に記録再生光ビーム27が照射されることにより情報の記録又は再生がなされるようになっている。
記録層22は色素を含有して構成されるが、本実施形態においては、記録層22は色素として上述した本発明の色素を含有している。
【0110】
本実施形態において使用する色素は、300nm〜800nmの可視光(及びその近傍)波長領域に、その構造に起因した顕著な吸収帯を有する有機化合物をいう。このような色素を記録層22として形成した場合に未記録(記録前)の状態において記録再生光ビーム27の波長λに吸収を有し、記録により変質して記録層22に再生光の反射光強度の変化として検出されうる光学的変化を起こす色素を、「主成分色素」と呼ぶ。
主成分色素は単独の色素が記録再生光ビーム27の波長λに対して吸収があり、記録によって変質して上記光学的変化を生じることが好ましい。ただし、主成分色素は、複数の色素の混合物として、上記の機能を発揮するものであってもよい。例えば、複数種の色素を用いた場合、一方の色素が記録再生光ビーム27の波長λに対する吸収を有し、発熱することで、間接的に他方の色素を変質させ光学的変化を起こさせるように機能分担されていてもよい。
通常、本発明の色素は前記の主成分色素として記録層22に含有される。この際、記録層22には1種の本発明の色素を含有させるようにしてもよく、2種以上の本発明の色素を任意の組み合わせ及び比率で併用するようにしてもよい。
【0111】
記録層22における主成分色素の含有量は、記録層材料全量に対して50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0112】
また、記録層22には、本発明の効果を著しく阻害しない限り、本発明の色素に加えてその他の色素を含有させるようにしてもよい。この場合、前記の主成分色素として本発明の色素以外の色素を併用してもよいが、主成分色素以外の色素を併用してもよい。例えば、光吸収機能を有する色素の経時安定性(温度、湿度、光に対する安定性)を改善するため、いわゆるクエンチャーとしての色素を併用してもよい。なお、併用する色素は1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0113】
また、記録層22には色素以外の成分が含有されていてもよい。そのような成分の例を挙げると、低分子材料又は高分子材料からなる結合剤(バインダー)、褪色防止剤、誘電体等が挙げられる。なお、これらの成分は、1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
結合剤としては、例えば、セルロース誘導体、天然高分子物質、炭化水素系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル樹脂、ポリビニールアルコール、エポキシ樹脂等の有機高分子等を使うことができる。
褪色防止剤は記録層22の耐光性を向上させるものである。褪色防止剤としては、通常は一重項酸素クエンチャーが用いられる。一重項酸素クエンチャー等の褪色防止剤の使用量は、前記記録層材料(記録層22に含まれる褐色防止剤以外の成分)に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。
【0114】
記録層22の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下である。記録層22が薄すぎると記録感度が低下する傾向があり、厚すぎると良好な記録状態が得られない傾向がある。
【0115】
記録層22の形成方法に制限はないが、例えば、塗布法、真空蒸着法等で形成することができる。中でも、塗布法で形成することが好ましい。
塗布法で記録層22を形成する場合、色素を主成分として結合剤、クエンチャー等とともに適切な溶剤に溶解して色素溶液(塗布液)を調製し、前述の反射層23上に塗布し、乾燥させればよい。
【0116】
色素溶液中の主成分色素の濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。これにより、通常は1nm〜100nm程度の厚みに記録層22が形成される。また、記録層22の厚みを50nm未満としたい場合には、色素溶液中の主成分色素の濃度を1重量%未満とすることが好ましく、0.8重量%未満とすることがより好ましい。また、塗布をスピンコート法で行う場合は回転数を調整することも好ましい。
【0117】
色素溶液を調製するための溶剤としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;テトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)等のフッ素化炭化水素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;ジクロルメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;などを挙げることができる。具体的な溶剤の種類は溶解すべき主成分色素材料等の溶解性を考慮して適宜選択すればよい。また、溶剤は、1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0118】
塗布方法としては、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロ−ルコート法等が挙げられる。中でも、ディスク状の光記録媒体においては、スピンコート法が好ましい。スピンコート法が好ましいのは、膜厚の均一性を確保しかつ、欠陥密度を低減できるためである。
【0119】
〔界面層30〕
本実施形態においては、特に、記録層22とカバー層24の間に適当な界面層30を設けることで、光学的に好ましい特性を得ることが出来る。
界面層30は、例えば、金属、半導体等の酸化物、窒化物、炭化物、硫化物;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のフッ化物等の誘電体化合物;並びにそれらの混合物などの材料で形成することが好ましい。界面層30を形成する材料は、1種であってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0120】
界面層30の高い硬度及び厚みを調整することにより、記録層22の変形(特に、カバー層24側へのふくらみ変形)を促進したり、抑制したりすることができる。ふくらみ変形を有効に活用するためには、比較的、硬度の低い誘電体材料により界面層30を形成することが好ましい。具体例を挙げると、ZnO、In、Ga、ZnS、希土類金属の硫化物等に、他の金属又は半導体の酸化物、窒化物又は炭化物等を混合した材料が好ましい。
また、界面層30は、プラスチックのスパッタ膜、炭化水素分子のプラズマ重合膜などにより形成することもできる。
【0121】
界面層30の屈折率は、記録層22及びカバー層24の屈折率との差が1以下のものが好ましい。界面層30の屈折率の値としては、1以上2.5以下の範囲にあることが望ましい。
また、界面層30の膜厚は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。
【0122】
〔カバー層24〕
カバー層24は、通常、記録再生光ビーム27に対して透明で複屈折の少ない材料で形成される。具体的には、記録再生光ビーム27の波長λに対するカバー層24の透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0123】
カバー層24は、例えば、プラスチック板(以下、適宜「シート」という)を接着剤で貼り合せて形成できる。
シートとして用いられるプラスチックは、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アクリル、三酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。シートの接着には、例えば、光硬化樹脂、放射線硬化樹脂、熱硬化樹脂等の硬化性樹脂;感圧性の接着剤などが用いられる。感圧性接着剤としては、例えば、アクリル系、メタクリレート系、ゴム系、シリコン系、ウレタン系の各ポリマーからなる接着剤を使用できる。
【0124】
カバー層24を形成する具体的な手順の例を挙げると、以下のものが挙げられる。
例えば、接着層(カバー層を記録層22又は界面層30に接着する接着剤の層)を構成する光硬化性樹脂を適切な溶剤に溶解して塗布液を調製した後、この塗布液を記録層22又は界面層30上に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜上にポリカーボネート等のシートを重ね合わせる。その後、必要に応じて光記録媒体を回転させるなどして塗布液をさらに延伸展開した後、UVランプで紫外線を照射して光硬化性樹脂を硬化させる。これにより、シートが記録層22又は界面層30に接着されてカバー層24が形成される。
あるいは、例えば、感圧性接着剤をあらかじめシートに塗布しておき、シートを記録層22又は界面層30上に重ね合わせた後、適度な圧力で押さえつけて圧着してカバー層24を形成する方法も挙げられる。
【0125】
前記接着剤としては、透明性、耐久性の観点から、アクリル系、メタクリレート系のポリマー接着剤が好ましい。具体例を挙げると、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−オクチルアクリレートなどを主成分モノマーとし、これらの主成分モノマーを、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド誘導体、マレイン酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、グリシジルアクリレート等の極性モノマーを共重合させたポリマー接着剤が挙げられる。これらは、主成分モノマーの分子量の調整、その短鎖成分の混合、アクリル酸による架橋点密度の調整などにより、ガラス転移温度Tg、タック性能(低い圧力で接触させたときに直ちに形成される接着力)、剥離強度、せん断保持力等の物性を制御することができる。
【0126】
また、接着剤は、必要に応じて溶剤と混合して使用する。溶剤の種類に制限はないが、例えばアクリル系ポリマーの溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等が用いられる。
さらに、接着剤は、その他の成分を含有していてもよい。そのような成分の例を挙げると、ポリイソシアネート系架橋剤などが挙げられる。
【0127】
感圧性接着剤は、通常、シートの記録層22側に接する表面に所定量を均一に塗布され、溶剤を乾燥させた後、記録層22側表面(界面層30を有する場合は界面層30の表面)に貼り合わせ、ローラー等により圧力をかけて硬化させる。この場合、シートを光記録媒体の表面に接着する際には、空気を巻き込んで泡を形成しないように、真空中で貼り合せることが好ましい。
また、離型フィルム上に上記接着剤を塗布して溶剤を乾燥した後、シートを貼り合わせ、さらに離型フィルムを剥離してシートと接着層とを一体化した後、シートを光記録媒体と貼りあわせるようにしても良い。
【0128】
また、カバー層24は、例えば、材料を塗布後、光、放射線、熱等で硬化して形成することもできる。このように塗布法によってカバー層24を形成する場合には、塗布法としては例えばスピンコート法、ディップ法等が用いられる。中でも、ディスク状の光記録媒体を形成する場合には、スピンコート法を用いることが好ましい。
塗布法によりカバー層24を形成する場合、カバー層24の材料としては、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系の樹脂等を用いることができる。通常は、これらの材料を塗布後、紫外線、電子線、放射線を照射し、ラジカル重合もしくは、カチオン重合を促進して硬化させて、カバー層24を形成する。
【0129】
カバー層24は、さらにその入射光側表面(記録再生光ビーム27が入射する面)29に、耐擦傷性及び耐指紋付着性などの機能を付与するために、厚さ0.1μm〜50μm程度の層(ハードコート層等)を別途設けることもある。
【0130】
カバー層24の厚みは、記録再生光ビーム27の波長λや対物レンズ28のNA(開口数)にもよるが、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上であり、好ましくは0.3mm以下、より好ましくは0.15mm以下の範囲である。なかでも、接着層(図示せず)及びハードコート層(図示せず)等の厚みを含む全体の厚みが、光学的に許容される厚み範囲となるようにすることが好ましい。例えば、いわゆるブルーレイ・ディスクでは、100μm±3μm程度以下に制御することが好ましい。
【0131】
〔その他の構成〕
本実施形態において、光記録媒体20は上述した以外の構成を備えていてもよい。例えば、前述の記録層22とカバー層24と間に形成された界面層30の他に、基板21、反射層23及び記録層22のそれぞれの界面に、相互の層の接触、構成材料の拡散防止、並びに、位相差及び反射率の調整のために界面層を形成することもできる。
【0132】
〔利点〕
本実施形態の光記録媒体20は、記録層22の形成材料として本発明の色素を用いているため、高速記録特性と再生耐久性との両方を向上させることができる。これは本発明の色素が、再生時の光照射強度下では強い耐光性をもつ一方、しきい値以上の光エネルギーを投入すると速やかに分解する、という優れた性質を利用したものである。
【0133】
〔他の実施形態〕
本発明の光記録媒体は、上述したもの以外の実施形態において実施してもよい。例えば、上述した光記録媒体において、反射層の膜厚を薄くし、記録再生光ビームの略50%以上が反射層を透過するような薄さにすると、いわゆる多層記録媒体が可能になる。この多層記録媒体は、基板上に、複数の記録層及び反射層(以下、記録層と反射層とを併せて情報層と呼ぶことがある)を設けた光記録媒体である。
【0134】
図2は、本発明の一実施形態としての多層記録媒体を模式的に示す断面図である。なお、図2においては溝形状の図示は省略している。
この光記録媒体100は基板101、反射層103、記録層102、中間層114、反射層113、記録層112及びカバー層111がこの順に積層されて構成され、記録層102及び反射層103から情報層(L0層)が構成され、記録層112及び反射層113から情報層(L1層)が構成されている。即ち、記録再生光ビーム107が入射する側の情報層がL1層であり、記録再生光ビーム107が入射する側から見て奥側にある情報層がL0層である。そして、対物レンズ108を介して記録層102,112に記録再生光ビーム107を照射して、情報の記録及び再生が行われる。
【0135】
L1層は、透過率が35%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。したがって、この透過率を実現するため、L1層の反射層113が例えばAg合金で形成されている場合には、反射層113の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。このような透過性の高い反射層113は半透明反射層と呼ばれる。
【0136】
L0層とL1層との間には、それぞれの信号の混信を防止するために、通常は透明な中間層114が設けられる。
この中間層114の厚みは光学系の構成に応じて設定される。例えば、記録再生光ビーム107の波長λ=405nm、NA(開口数)=0.85の光学系では、中間層114の厚みは通常は約25μmである。なお、この場合、カバー層111の厚みは通常は約75μm程度である。さらに、中間層114の厚み分布は、±2μm程度以下とすることが好ましい。
【0137】
これら以外の構成については、記録層102及び記録層112の少なくとも一方、好ましくは全てに、本発明の色素が含まれていれば、本実施形態の光記録媒体100の構成は任意である。記録層102及び記録層112の少なくとも一方に本発明の色素が含有されることにより、本実施形態の光記録媒体100においても、高速記録特性と再生耐久性との両方を向上させることができる。
【0138】
なお、通常は、基板101、記録層102,記録層112、反射層103、カバー層111などは、図1で説明した光記録媒体20と同様の構成にすることができる。また、L0層とL1層とは、同一の層構成であってもよく、異なる層構成であってもよい。したがって、記録層102と記録層112とは、その色素の種類及び含有量などが同じであってもよく、異なっていてもよい。
さらに、図示していないが、記録層112とカバー層111との間には、図1で説明した光記録媒体20と同様、界面層を設けることもできる。また、記録層102と中間層114との間も同様に界面層を設けても良い。
【0139】
本実施形態の光記録媒体100は、主として位相変化を利用しているので、記録前後でL1層を透過する光量がほとんど変化しないことが期待される。これは、L1層が記録・未記録であるにかかわらず、L0層への透過光量、L0層からの反射光量がほとんど変化しないことを意味し、L1層の状態に関わらず、安定的にL0層での記録再生ができるので、好ましい。
【0140】
[III.光記録方法]
上述した光記録媒体20,及び光記録媒体100は、上記のように構成されているため、その情報の記録時には、カバー層24,及びカバー層111側の面から記録層22,記録層102,及び記録層112に記録再生光ビーム27,及び記録再生光ビーム107を照射して、情報の記録を行う。この際、記録再生光ビーム27,及び記録再生光ビーム107としては、波長380nm以上430nm以下のレーザー光を用いることが好ましい。このような波長が短いレーザー光を使用することで、高密度に情報を記録することが可能となる。
【0141】
このような光記録を行うための光記録装置の基本構造は、従来の光記録装置と同じものを用いることができる。例えば、フォーカスサーボ方式及びトラッキングサーボ方式は、従来公知の方式を適用できる。
光記録装置では、集束ビームの焦点位置のスポットが、カバー層溝間部に照射され、トラッキングサーボによって、該カバー層溝間部を追従するようになっていればよい。通常は、プッシュプル(Push−pull)信号が利用されている。
【0142】
カバー層溝間部に記録を行う場合、集束された記録再生光ビームは、記録層の主成分色素を昇温・発熱せしめて、変質(膨張、分解、昇華、溶融等)を起こさせる。マーク長変調記録を行う場合、記録再生光ビームのパワー(記録パワー)をマーク長に従って、強弱変調させる。なお、マーク長変調方式は、特に制限は無く、通常用いられるRun−Length−Limited符号である、EFM変調(CD)、EFM+変調(DVD)、1−7PP変調(ブルーレイ)等を適用できる。
【0143】
ただし、HtoL極性信号を前提とした記録再生系においては、LtoH記録に当たって、マークとスペースでの記録信号極性が逆になるように記録データ信号の極性を予め反転させておくことがある。これにより、記録後の信号は、見かけ上、HtoL極性の信号と同等にできる。
【0144】
通常は、マーク部で記録パワーを高レベルPwとし、マーク間(スペース)で低レベルPsとする。Ps/Pwは、通常0.5以下とする。Psは一回だけの照射では、記録層に上記変質を生じさせないようなパワーであり、Pwに先行して記録層を予熱したりするために利用される。公知の記録パルスストラテジーは、本発明においても適宜使用できる。例えば、記録マーク部に対応する記録パワーPw照射時間はさらに、短い時間で断続的に照射されたり、複数のパワーレベルに変調したり、高レベルPwでの照射後、低レベルPsでの照射に移行するまでの一定時間、低レベルPsよりもさらに低いパワーレベルPbを照射したりする等の記録ストラテジーが使用できる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0146】
[実施例1]
(a)合成例
○カップラー合成
【0147】
【化25】

【0148】
上記構造式(1)で表される2H−1,4−benzothiazin−3(4H)−one(和光純薬工業社製)12.39gをアセトン124mlに溶解させ、ここに水酸化カリウム6.31g、及びヨウ化メチル15.97gを加えて、50℃〜60℃で3時間撹拌した。反応溶液は冷却後、水300mlに注ぎ、濃塩酸(12N塩酸水溶液)で中和をし、ここに酢酸エチル350mlを加えて抽出した。
【0149】
抽出層(酢酸エチル層)は水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムにより、1晩かけて乾燥させた。抽出層はろ過後、エバポレーターで溶媒を留去した。留去後、オレンジ色の液体の、下記構造式(2)で表される化合物(2)15.56gが得られた。
【0150】
【化26】

【0151】
得られた化合物(2)はクロロホルム202mlに溶解させ、0℃〜5℃に冷却し、m−クロロ過安息香酸42.02gを10℃以下に保つように少量ずつ添加し30分攪拌し、その後室温で1時間撹拌し、一晩放置した。放置後、反応液はろ過し、濾液に炭酸水素ナトリウム7.5g/90ml水溶液を加えて水層とクロロホルム層を分離した。クロロホルム層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、ろ過をし、エバポレーターで溶媒を留去させて、下記構造式(3)で表される化合物(3)を白色固体として15.36g得た。
【0152】
【化27】

【0153】
○ジアゾ成分合成
【0154】
【化28】

【0155】
上記構造式(4)で表される3−アミノ−1,2,4−トリアゾール10gをエタノール150ml中に懸濁させ0℃以下に冷却した。この溶液に塩化チオニル18.6gを冷却しながら滴下し、その後オイルバスで2時間還流させた。反応液は冷却後、水100mlに注ぎ、アンモニア水(8Nアンモニア水溶液)でpHをアルカリ性にして固体を析出させた。その後、エバポレーターでエタノールを留去し、残りの水溶液中の固体をろ過して、下記構造式(5)で表される化合物(5)を白色固体として9.75g得た。
【0156】
【化29】

【0157】
○ジアゾカップリング
上記化合物(5)3.9gを水47ml及び濃塩酸(12N塩酸水溶液)10.4gに撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに亜硝酸ナトリウム2.07g/10ml水溶液を、反応容器内の温度を5℃以下に保つように滴下してジアゾ化し、ジアゾ液を調製した。
【0158】
一方、別の容器に化合物(3)2.64g、酢酸ナトリウム7.5g、及び尿素1gをメタノール100ml及び水33ml中に撹拌溶解させ、濃塩酸(12N塩酸水溶液)でpHを6に調整して0℃〜5℃に冷却した。この溶液に上記のジアゾ液を反応容器内の温度を5℃以下に保ちながら滴下した。滴下終了後、室温で撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は無機塩を除くために水100mlに懸濁させ、10分程度撹拌し、ろ過した。得られたろ過物を真空中で加熱(50℃)乾燥させ、下記構造式(6)で表される化合物(6)2.67gを得た。この化合物(6)のクロロホルム中での最大吸光波長(λmax)は345nm、モル吸光係数は1.9×10L/molcmであった。なお、最大吸光波長及びモル吸光係数は島津製作所社製U−3300により測定した。
【0159】
【化30】

【0160】
○錯体合成
前記の方法で合成された化合物(6)0.34gをテトラヒドロフラン10mlに撹拌溶解し、不溶物を濾別後、濾液に酢酸ニッケル0.13gをメタノール2mlに溶解した溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌後、水75mlに注ぎ、固体を析出させた。その後ろ過し、ろ過物を真空中で加熱(50℃)乾燥させ、下記構造式(7)で表される化合物(7)0.23gを得た。
【0161】
【化31】

【0162】
化合物(7)のクロロホルム中の最大吸光波長(λmax)は406.5nm、モル吸光係数は4.1×10L/molcmであった。
【0163】
(b)耐光性の評価
上記化合物(7)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、1重量%溶液を調製した。該溶液を濾過した溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板(ディスク)上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後、100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は408nmであった。
【0164】
この色素を塗布したディスクの切片に、耐光性試験機(東洋精機製作所社製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプをブラックスタンダード温度63℃、550W/mで40時間照射した。その後、Xeランプの照射前の最大吸光波長(λmax)での吸光度と、Xeランプの照射後の最大吸光波長(λmax)での吸光度とをUV測定器でそれぞれ測定し、Xeランプの照射前の最大吸光波長(λmax)での吸光度に対するXeランプの照射後の最大吸光波長(λmax)での吸光度の割合(色素保持率、単位%)を求めて耐光性を評価した(数値が大きいほど耐光性が良好である)。得られた吸光度の割合(色素保持率)は、49.1%であった。
【0165】
(c)記録特性用ディスクの作製と評価導入
トラックピッチ0.32μm、溝幅約0.20μm、溝深さ約40nmの案内溝を形成したポリカーボネート樹脂製の基板上に、Ag98.1Nd1.0Cu0.9合金ターゲット(組成はいずれも原子%)をスパッタして厚さ約70nmの反射層を形成した。この反射層上に化合物(7)を、テトラフルオロプロパノール(TFP)で溶解し、0.7重量%にした色素溶液をスピンコートで基板上に成膜した。
【0166】
スピンコート法の条件は、以下のとおりである。すなわち、前記色素溶液0.6gをディスク中央付近に環状に塗布し、ディスクを1160rpmで1.5秒間回転させ色素溶液を延伸し、その後、3000rpm〜6000rpmで6秒回転させ、色素溶液を振り切ることにより塗布を行った。なお、塗布後にはディスクを、大気中、80℃の環境下に20分間保持することで溶媒であるTFPを蒸発除去した。その後、ITO(indium tin oxide)ターゲットをスパッタして約20nmの厚みの界面層を形成した。その上に、厚さ80μmのポリカーボネート樹脂のシートと厚み20μmの感圧接着剤層とからなる合計100μmの透明なカバー層を貼り合わせた。
【0167】
光記録媒体の記録再生評価は、記録再生光波長λ=406nm、NA(開口数)=0.85、集束ビームスポット径約0.42μm(1/e強度となる領域)の光学系を有するパルステック工業社製ODU1000テスターを用いて行った。ディスクは、4.92m/s(1x記録)、9.83m/s(2x記録)、19.67m/s(4x記録)のいずれかの線速度で回転させ、適宜記録パワーおよびライトストラテジーを変化させて記録を行った。再生は線速度を4.917m/sとし、再生パワーは0.30mWとした。記録には、マーク変調信号(1−7PP)を用いた。基準クロック周期Tは15.15ns(チャンネルクロック周波数66MHz)とした。ジッター測定は、記録信号をリミット・イコライザーにより波形等化した後、2値化を行い、2値化した信号の立ち上がりエッジ及び立下りエッジと、チャンネルクロック信号に立ち上がりエッジとの時間差の分布σをタイムインターバルアナライザにより測定し、チャンネルクロック周期をTとして、σ/Tにより測定した(データ・トゥー・クロック・ジッター Data to Clock Jitter)。これらの測定条件は概ねブルーレイ・ディスクにおける測定条件に準拠している。
【0168】
上記方法にて、各線速度でジッターが最小となる記録パワー(最適記録パワー:Pwo)とそのときのジッター値(ボトムジッター)を求めたところ、1x記録では6.4%(Pwo=4.4mW)、2x記録では6.4%(Pwo=6.2mW)、4x記録では6.8%(Pwo=9.7mW)となり、いずれの線速度でもブルーレイ・ディスクの規格基準(ボトムジッター7.0%以下)を満たす良好な記録状態が得られた。
この結果から、本実施例の化合物が青色レーザー記録に対して極めて有用であり、かつ耐光性にも優れていることがわかる。また、耐光性が良好であることから、再生耐久性に優れることも分かる。
【0169】
[実施例2]
(a)合成例
前述の化合物(6)0.34gをテトラヒドロフラン10mlに撹拌溶解し、不溶物を濾別後、濾液に酢酸コバルト0.13gをメタノール2mlに溶解させた溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌後、水75mlに注ぎ、固体を析出させ、ろ過を行った。ろ過物を真空中で加熱(50℃)乾燥させ、下記構造式(8)で示される化合物(8)0.19gを得た。
【0170】
【化32】

【0171】
化合物のクロロホルム中の最大吸光波長(λmax)は407.5nm、モル吸光係数は4.0×10L/molcmであった。
【0172】
(b)耐光性の評価
上記化合物(7)の代わりに化合物(8)を用いる以外は実施例1と同様に塗布膜を作製した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は412nmであった。
また、実施例1と同様に耐光性試験を実施したところ、色素保持率は87.3%であった。
【0173】
(c)記録特性用ディスクの作製と評価導入
化合物(7)の代わりに化合物(8)を用いる以外は実施例1と同様に光記録媒体を作製し、記録評価を行った。ジッター値(ボトムジッター)を求めたところ、1x記録では6.1%(Pwo=4.4mW)、2x記録では6.0%(Pwo=6.0mW)、4x記録では6.6%(Pwo=9.4mW)となり、いずれの線速度でもブルーレイ・ディスクの規格基準(ボトムジッター7.0%以下)を満たす良好な記録状態が得られた。
【0174】
[比較例1]
比較のため、特許文献3に記載の合成方法を参考に、化合物I−8bを合成し、光記録媒体としての評価を行った。
【0175】
(a)合成例
【0176】
【化33】

【0177】
上記構造式(9)で表される4−アミノアンチピリン2.03gを水16ml、及び濃塩酸(12N塩酸水溶液)3.1gに撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに亜硝酸ナトリウム0.76g/4ml水溶液を、反応容器内温度を5℃以下に保つように滴下してジアゾ化し、ジアゾ溶液を調製した。
【0178】
一方、別の容器に前記化合物(3)2.01gをピリジン36ml中に撹拌溶解させ0℃〜5℃に冷却した。この溶液に上記ジアゾ液を反応容器内温度を5℃以下に保ちながら滴下した。滴下終了後、室温で撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は水100mlに懸濁させて10分程度撹拌した後ろ過をした。続いて、前記と同様の作業(攪拌、及び濾過)をメタノール60mlで行い、ろ過物の洗浄を行った。該ろ過物を真空中で加熱(50℃)乾燥させ、下記構造式(10)で表される化合物(10)2.84gを得た。化合物(10)のクロロホルム中での最大吸光波長(λmax)は407.5nm、モル吸光係数は2.1×10L/molcmであった。
【0179】
【化34】

【0180】
○錯体合成
前記の方法で合成された上記化合物(10)0.51g、及び酢酸ナトリウム0.1gをエタノール25mlに懸濁させ、撹拌しながら加熱(還流)した。ここに酢酸ニッケル0.16g/水3mlの溶液を滴下した。反応液は1時間還流しながら撹拌し、冷却後にろ過を行った。ろ過物を真空中で加熱(50℃)乾燥させ、下記構造式(11)で表される化合物(11)0.53gを得た。
【0181】
【化35】

【0182】
化合物(11)のクロロホルム中の最大吸光波長(λmax)は414.5nm、モル吸光係数は7.0×10L/molcmであった。
【0183】
(b)耐光性の評価
上記化合物(11)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、1重量%溶液を調製しようとしたが、溶解性が低く溶け残りがあった。該溶け残りを濾過し、得られた溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後、100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は434.5nmであった。
また、実施例1と同様の方法で耐光性試験を実施したところ、色素保持率は5.3%で極めて低いものであった。
【0184】
(c)記録特性用ディスクの作製と評価導入
化合物(7)の代わりに化合物(11)を用いる以外は実施例1と同様に光記録媒体を作製し、また同様の方法にて各線速度で記録再生の評価を実施した。その結果、ジッター値(ボトムジッター)を求めたところ、1x記録では7.8%(Pwo=4.5mW)、2x記録では7.2%(Pwo=6.2mW)と、7%台のボトムジッターが得られたが、4x記録では8.5%(Pwo=9.9mW)となり、良好な記録特性は得られなかった。
比較例1の結果から、本発明のアゾ化合物とカップラー部位が同様の構造でもジアゾ成分部位が異なると、得られる光記録媒体の耐光性も悪く、記録特性も良くないことがわかる。
【0185】
[比較例2]
(a)合成例
金属塩として酢酸ニッケルの代わりに酢酸コバルト4水和物を用いた以外は比較例1と同様にして、下記構造式(12)で表される化合物(12)を合成した。
【0186】
【化36】

化合物(12)のクロロホルム中での最大吸光波長(λmax)は416nm、モル吸光係数は6.0×10L/molcmであった。
【0187】
(b)耐光性の評価
上記化合物(12)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、1重量%溶液を調製しようとしたが、溶解性が低く溶け残りがあった。該溶け残りを濾過し、得られた溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後、100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は428.5nmであった。
また、実施例1と同様の方法で耐光性試験を実施したところ、色素保持率は20.1%であった。
【0188】
(c)記録特性用ディスクの作製と評価導入
化合物(7)の代わりに化合物(12)を用いる以外は実施例1と同様に光記録媒体を作製し、また同様の方法にて各線速度で記録再生の評価を実施した。その結果、ジッター値(ボトムジッター)を求めたところ、1x記録では11.0%(Pwo=5.0mW)、2x記録では9.3%(Pwo=6.8mW)、4x記録では9.4%(Pwo=10.8mW)となり、いずれの記録速度においても良好な記録特性は得られなかった。
【0189】
[比較例3]
比較のため、特許文献2に記載の合成方法を参考に、化合物(7)のカップラー部分のスルホニル基の箇所をケトン基の構造に置き換えた4−ヒドロキシ−1−メチル−2−キノロン(東京化成工業社製)をカップラーとして用い、下記化合物(13)を合成した。
【0190】
【化37】

【0191】
化合物(13)のクロロホルム中の最大吸収波長(λmax)は433.5nm、モル吸光係数は4.0×10L/molcmであった。
【0192】
(b)耐光性の評価
上記化合物(13)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、1重量%溶液を調製した。該溶液を濾過し、得られた溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後、100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は438.5nmであった。
また、実施例1と同様の方法で耐光性試験を実施したところ、色素保持率は87.3%であった。
【0193】
(c)記録特性用ディスクの作製と評価導入
化合物(7)の代わりに化合物(13)を用いる以外は実施例1と同様に光記録媒体を作製し、また同様の方法にて各線速度で記録再生の評価を実施した。その結果、ジッター値(ボトムジッター)を求めたところ、1x記録では8.0%(Pwo=4.4mW)、2x記録では7.9%(Pwo=6.6mW)と、8%以下のボトムジッターが得られたが、4x記録では9.5%(Pwo=10.7mW)となり、ジッターおよび感度とも実施例1,及び実施例2に記載の化合物に比べて大きく劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の色素であるアゾ金属キレート化合物は、光記録媒体の記録層に用いることにより、高い線速度においても良好な記録特性を発揮し、且つ、十分な再生安定性を有し、光記録媒体として産業上有用である。
【符号の説明】
【0195】
20,100 光記録媒体
21,101 基板
22,102,112 記録層
23,103 反射層
24,111 カバー層
25 カバー層溝間部
26 カバー層溝部
27,107 記録再生光ビーム
28,108 対物レンズ
29 記録再生光ビームが入射する面
30 界面層
113 半透明反射層
114 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I]で示されるアゾ化合物が金属イオンに配位してなる
ことを特徴とする色素。
【化1】

(式[I]中、
環Aは、炭素原子及び窒素原子を有して形成される含窒素複素芳香環を表す。
Xは、C−R、酸素原子、硫黄原子、及びN−Rからなる群より選ばれるいずれかを表す。なお、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルキル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。また、Rは置換されていてもよい炭化水素基又は複素環基を表す。
ベンゼン環Bは、置換基を有していてもよいベンゼン環を表す。なお、ベンゼン環Bの置換基は、隣接する置換基同士で互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記式[I]において、
XがC−R、酸素原子、及び、N−Rからなる群より選ばれるいずれかを表し、
、R及びRがそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、炭素数3以上8以下のシクロアルキル基、炭素数2以上12以下の直鎖又は分岐のアルケニル基、炭素数6以上18以下のアリール基、並びに、−CORで表されるアシル基(ただし、Rが炭素数1以上12以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上18以下のアラルキル基、及び炭素数6以上18以下のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを表す)からなる群より選ばれるいずれかを表す
ことを特徴とする請求項1に記載の色素。
【請求項3】
前記式[I]において、XがN−Rを表し、
が、炭素数1以上8以下の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素数7以上12以下のアラルキル基、並びに、炭素数2以上8以下の直鎖又は分岐のアルケニル基からなる群より選ばれるいずれかを表す
ことを特徴とする請求項2に記載の色素。
【請求項4】
前記式[I]において、環Aがイソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、イソチアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイソキサゾール環、ベンズオキサゾール環及びベンズイミダゾール環からなる群より選ばれるいずれかを表す
ことを特徴とする請求項1に記載の色素。
【請求項5】
前記式[I]において、環Aがイソキサゾール環、トリアゾール環、ピラゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、チアゾール環及びベンズイソキサゾール環からなる群より選ばれるいずれかを表すことを特徴とする請求項4に記載の色素。
【請求項6】
前記金属イオンが、周期表の第3族〜第12族元素から選ばれる少なくとも1種の金属のイオンである
ことを特徴とする請求項1に記載の色素。
【請求項7】
前記金属イオンが、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛及びマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属のイオンである
ことを特徴とする請求項6に記載の色素。
【請求項8】
前記式[I]において、環Aがトリアゾール環を示し、金属イオンがニッケルまたはコバルトである
ことを特徴とする請求項7に記載の色素。
【請求項9】
基板と、該基板上に設けられ、光が照射されることにより情報の記録又は再生が可能な記録層とを有し、
該記録層が請求項1〜8のいずれか一項に記載の色素を含有する
ことを特徴とする光記録媒体。
【請求項10】
前記光が、波長が380nm以上430nm以下のレーザー光である
ことを特徴とする請求項9に記載の光記録媒体。
【請求項11】
請求項9に記載の光記録媒体に、波長380nm以上430nm以下のレーザー光で情報を記録する
ことを特徴とする光記録方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−7066(P2010−7066A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129487(P2009−129487)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】