説明

アダマンチルリチウム組成物

【課題】安定なアダマンチルリチウム組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(II)
【化1】


(式中、Rは水素または1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアルキル基もしくは、アルキルシリル基を表す。aは9以下の整数を表し、bは1又は2を表す。Li原子はアダマンタン環の3級炭素原子へ結合している。)で表されるアダマンチルリチウム類および沸点40℃以上かつ炭素数6以上の有機溶媒(具体的例示:ヘキサン、ヘプタン、またはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等)から成る、アダマンチルリチウム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬、電子材料等の原料として有用なアダマンチルリチウム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでアダマンチルリチウム類の製造方法としては、例えば、ペンタン溶媒中にて金属リチウムとアダマンチルハライド類とを反応させることが、テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters) No.34,pp3177−3180,(1978)により知られている。しかしながら、該方法を用いると原料の転化率が低く、反応完結まで長時間必要であるという問題点があった。また得られたアダマンチルリチウム類は不安定な場合が多く、安定な形で取り出すことは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術の問題を解決すること、すなわち、安定なアダマンチルリチウム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち本発明は下記一般式(II)
【0006】
【化1】

(式中、Rは水素または1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアルキル基もしくは、アルキルシリル基を表す。aは9以下の整数を表し、bは1又は2を表す。Li原子はアダマンタン環の3級炭素原子へ結合している。)で表されるアダマンチルリチウム類および沸点40℃以上かつ炭素数6以上の有機溶媒から成ることを特徴とする、アダマンチルリチウム組成物である。以下に、本発明について詳細に説明する。
【0007】
一般式(II)で示されるアダマンチルリチウム類は、一般式(I)
【0008】
【化2】

(式中、R、a、bは前記に同じ。Xは塩素、臭素、沃素原子を表し、アダマンタン環の3級炭素原子へ結合している。)で示されるアダマンチルハライドと金属リチウムとの反応から製造される。具体的な反応式は次の通りである。
【0009】
【化3】

ここでRとしては、水素または1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアルキル基もしくはアルキルシリル基であり、アルキル基としては、炭素数1〜10が好ましく、更に好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。このようなアルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル基などをあげることができる。
【0010】
アルキルシリル基としては、炭素数1〜10が好ましく、更に好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。このようなアルキルシリル基としては、具体的には、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などをあげることができる。
【0011】
シクロアルキル基としては、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等を例示することができる。
【0012】
一般式(I)で示されるアダマンチルハライド類の具体例としては、例えば、1−クロロアダマンタン、1−ブロモアダマンタン、3−ブロモ−1−メチル−アダマンタン、1−クロロ−3,5−ジメチルーアダマンタン、3−ブロモ−1−メチル−アダマンタン、1,3−ジブロモアダマンタン、1−ヨードアダマンタン等が挙げられる。
【0013】
一般式(II)で示されるアダマンチルリチウム類は、例えば一般式(I)で示されるアダマンチルハライド類と、金属リチウムとを、沸点40℃以上の有機溶媒存在下加熱する事で得ることができる。
【0014】
このとき用いられる金属リチウムの使用量は、一般式(I)で示されるアダマンチルハライドに対し、2〜20倍モル等量、より好ましくは3〜10倍等量である。金属リチウム量が2倍モル等量未満の場合、未反応の原料が残る場合があり、また20倍モル等量を超える場合、製造効率が下がることがある。
【0015】
反応は、沸点が40℃以上、好ましくは沸点が60〜260℃の溶媒中にて実施される。沸点が40℃未満の溶媒の場合、反応の完結に長時間必要であり製造上好ましくない。沸点が40℃以上の溶媒としては、炭化水素溶媒や、1分子中に、窒素原子もしくは酸素原子を少なくとも2つ有する有機化合物からなる群より選ばれる有機溶媒を例示することができる。
【0016】
炭化水素溶媒としては、炭素数6以上の直鎖、分岐または環状のものを挙げる事ができる。具体例としては、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、3−エチルヘキサン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3,3−テトラメチルブタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、ジメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p−メンタン、ビシクロヘキシル、デカリン等が挙げられる。
【0017】
また、1分子中に、窒素原子もしくは酸素原子を少なくとも2つ有する有機化合物の具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、4−メチルモルホリン、4−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレジアミン等が挙げられる。
【0018】
上記したこれらの溶媒は、その1種を使用しても、また、2種以上を混合した混合物として使用しても有効である。混合溶媒を用いる場合、沸点が40℃未満の溶媒と沸点が40℃以上の溶媒とを併用して、混合溶媒としての沸点が40℃以上となるように調製した溶媒も、本発明の有機溶媒として使用することが可能である。
【0019】
上記溶媒の内、好ましい例としてはヘキサン、ヘプタン、エチレングリコールジメチルエーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを挙げる事ができる。
【0020】
溶媒の使用量は特に限定するものではないが、反応混合物の粘度を適正に保ち、反応を充分に進行させることために、反応混合物中において通常40〜95wt.%とすることが好ましい。溶媒量が40wt.%未満の場合、反応混合物の粘度が上昇する場合があり、また、95wt.%を超える場合、反応速度が遅くなってしまう場合がある。
【0021】
反応温度は40〜200℃、より好ましくは50〜120℃の間で加熱攪拌する事で目的とする一般式(II)で示されるアダマンチルリチウム類を得ることができる。
【0022】
反応時間は、溶媒の種類、温度に依存するが、通常2〜24時間で原料のアダマンチルハライドは消失する。反応終了後常法により、たとえば反応混合物中より副生するハロゲン化リチウムを濾過により取り除く事により一般式(II)で示されるアダマンチルリチウム類を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、医農薬、電子材料として有用なアダマンチルリチウム類の安定な組成物を提供することができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみに限定されるものではない。
【0025】
実施例1(1−アダマンチルリチウムの合成)
アルゴン気流下500mlフラスコに、金属リチウム5.3g(0.76mol)、ヘプタン140mlを仕込み、加熱還流下で1−クロロアダマンタン26.4g(0.15mol)をヘプタン140mlに溶かした溶液を2時間かけて滴下した。さらに同温度で2時間熟成することでアダマンチルリチウムを含む反応液を得る事ができた。
【0026】
反応混合物を脱イオン水にて加水分解し有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、原料1−クロロアダマンタンは完全に消失している事を確認した。また1−アダマンチルリチウムの加水分解に起因するアダマンタンは82%の収率であった。
【0027】
実施例2(1−アダマンチルリチウムの合成)
反応溶媒をヘプタンに代えてヘキサンを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。熟成時間9時間にて反応混合物を脱イオン水にて加水分解処理し、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ原料1−クロロアダマンタンは完全に消失している事を確認した。また1−アダマンチルリチウムの加水分解に起因するアダマンタンは84.6%の収率であった。
【0028】
実施例3(1−アダマンチルリチウムの合成)
反応溶媒をヘプタンに代えてエチレングリコールジメチルエーテルを用い、金属リチウムを10.6g(1.53mol)用い室温にて1−クロロアダマンタン溶液を滴下した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0029】
1−クロロアダマンタン溶液滴下直後、反応混合物を脱イオン水にて加水分解処理し、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ原料1−クロロアダマンタンは完全に消失している事を確認した。また、1−アダマンチルリチウムの加水分解に起因するアダマンタンは99.2%の収率であった。
【0030】
実施例4(1−アダマンチルリチウムの合成)
反応溶媒をヘプタンに代えてペンタンを用い金属リチウムを2.2g(0.32mol)用い室温にて1−クロロアダマンタン溶液を滴下した以外は実施例1と同様の操作を行った。1−クロロアダマンタン滴下後加熱還流下6時間熟成を行った。反応混合物を脱イオン水にて加水分解処理し、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ原料1−クロロアダマンタンは使用量に対し97.6%残存していた。
【0031】
続いて、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン23mlを反応液に加えて2時間加熱還流を実施した。反応混合物を脱イオン水にて加水分解処理し、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ原料1−クロロアダマンタンは完全に消失している事を確認した。また1−アダマンチルリチウムの加水分解に起因するアダマンタンは84.2%の収率であった。
【0032】
比較例1(1−アダマンチルリチウムの合成)
反応溶媒をヘプタンに代えてペンタン(沸点:36℃)を用い、金属リチウムを10.6g(1.53mol)使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。熟成時間7時間にて反応混合物を脱イオン水にて加水分解処理し、有機層をガスクロマトグラフィーにて分析したところ原料1−クロロアダマンタンは34.4%残存していた。
【0033】
また1−アダマンチルリチウムの加水分解に起因するアダマンタンは34.8%の収率であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II)
【化1】

(式中、Rは水素または1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、シクロアルキル基もしくは、アルキルシリル基を表す。aは9以下の整数を表し、bは1又は2を表す。Li原子はアダマンタン環の3級炭素原子へ結合している。)で表されるアダマンチルリチウム類および沸点40℃以上かつ炭素数6以上の有機溶媒から成ることを特徴とする、アダマンチルリチウム組成物。
【請求項2】
有機溶媒が炭素数6〜14の炭化水素であることを特徴とする、請求項1に記載のアダマンチルリチウム組成物。
【請求項3】
有機溶媒がヘキサン及び/又はヘプタンであることを特徴とする、請求項1または2に記載のアダマンチルリチウム組成物。
【請求項4】
一分子中に窒素原子を少なくとも2つ有する有機溶媒を用いることを特徴とする、請求項1に記載のアダマンチルリチウム組成物。
【請求項5】
有機溶媒がN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンであることを特徴とする、請求項1または4に記載のアダマンチルリチウム組成物。
【請求項6】
有機溶媒がN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンおよび炭化水素溶媒の混合物であることを特徴とする、請求項1、4または5に記載のアダマンチルリチウム組成物。

【公開番号】特開2008−7521(P2008−7521A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231553(P2007−231553)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【分割の表示】特願2002−248950(P2002−248950)の分割
【原出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】