説明

アップライトピアノ型アクション

【課題】グランドピアノ並みの質量感に富むタッチ感を実現するアップライトピアノ型アクションを提供する。
【解決手段】押鍵に連動して上下動するウイペン30に回動自在に支持されたジャック40と、該ジャックに押し上げられて回動するバット5と、バット5から延びる揺動シャンク(ハンマシャンク71)の先端部に支持されバット5の回動に基づいてヒッティング動作をする揺動部材(ハンマ70)と、バット5から延びるキャッチャシャンク53の先端部に支持されヒッティング後の後退時にバックチェック60に受け止められるキャッチャ52とを備えたアップライトピアノ型アクションにおいて、
バット、揺動シャンク、揺動部材、キャッチャ、及びキャッチャシャンクのいずれかの動作部材に錘110,120,130,140が装着され、該錘は、ヒッティングのための動作部材の回動方向とは反対方向へ非押鍵時に荷重を作用させるように配置されているアップライトピアノ型アクション。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップライトピアノアクション及びこれと同タイプのアクションを含むアップライトピアノ型アクションに関する。
【背景技術】
【0002】
電子鍵盤楽器は、ピアノ(アコースティックピアノ)に近い音を発するものが多数市販されており、ピアノの代用品として使用される場合も多い。その音質は改良を重ねることにより、極めてピアノに近いものとなりつつある。その結果、音質のみならずアクションもピアノに近いものが求められるに至っている。
【0003】
ピアノのアクションは、グランドピアノとアップライトピアノとで機能やタッチ感に相違がある。一般に、ハンマ等の回動部材の質量は、押鍵力が弱いときには、主として静的荷重として作用し、押鍵力が強いときには、回動部材の加速度が大きくなる結果、動的負荷としての作用が大きくなる。
【0004】
これに関し、グランドピアノのアクションの場合は、押鍵時にジャックに作用するのは、ハンマシャンク、ハンマ及びハンマローラの荷重であり、全体が軽量であると共に、ハンマは回動支点に対して水平に近い位置から上昇して打弦する構造となっているので、静的荷重と動的負荷とのバランスが良く、弱い押鍵に対する抵抗感がしっかりしており、且つ押鍵が強くなるにつれて動的抵抗が好適に増大する。したがって、質量感に富むタッチ感となっている。
【0005】
これに対し、アップライトピアノのアクションは、例えば特許文献1に示されているように、押鍵時にジャックに作用するのは、ウイペン、バット、ハンマシャンク、ハンマ、キャッチャシャンク及びキャッチャ等の荷重である。したがって、これらの総重量が大きくなりすぎないように、個々の回動部材の質量を小さくせざるを得ない。また、ハンマが起立状態に近い範囲で回動して打弦する構造となっている。その結果、静的荷重の割りに、強い押鍵時の動的負荷の増大が生じ難い。したがって、アップライトピアノのアクションは、動的な押鍵抵抗が軽めで、質量感の乏しいタッチ感となっている。
【0006】
このようなことから、電子鍵盤楽器にピアノのアクションを採用する場合、タッチ感の観点からはグランドピアノ型のアクションが望ましい。しかしながら、グランドピアノ型のアクションは前後方向のサイズが大きいため、電子鍵盤楽器にコンパクト性を持たせる場合には不向きである。したがって、そのような電子鍵盤楽器には、アップライトピアノ型のアクションが採用される。
【0007】
また一方では、アップライトピアノのアクションそのものをグランドピアノ並みの、質量感に富むタッチ感を有するものにできれば、アップライトピアノの品質は大きく向上するのであり、そのようなタッチ感はアップライトピアノに対して望まれ続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実公昭62−43349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、電子鍵盤楽器においてもアップライトピアノにおいても、タッチ感の改良が望まれている。そこで、本発明は、グランドピアノ並みの質量感に富むタッチ感を実現するアップライトピアノ型アクションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するため、押鍵に連動して上下動するウイペンに回動自在に支持されたジャックと、該ジャックに押し上げられて回動するバットと、前記バットから延びる揺動シャンクの先端部に支持されバットの回動に基づいてヒッティング動作をする揺動部材と、前記バットから延びるキャッチャシャンクの先端部に支持されヒッティング後の後退時にバックチェックに受け止められるキャッチャとを備えたアップライトピアノ型アクションにおいて、前記バット、揺動シャンク、揺動部材、キャッチャ、及びキャッチャシャンクのいずれかの動作部材に錘が装着され、該錘は、ヒッティングのための動作部材の回動方向とは反対方向へ非押鍵時に荷重を作用させるように配置されていることを特徴とするアップライトピアノ型アクションを提供するものである。
【0011】
本発明においては、上記のアップライトピアノ型アクションにおいて、ヒッティングのための回動方向とは反対方向へ非押鍵時に荷重を作用させる錘が、バット、揺動シャンク、揺動部材、キャッチャ、及びキャッチャシャンクのいずれかの動作部材に装着されている。このように錘が装着されることにより、動作部材が押鍵に伴って回動する際に、錘が慣性抵抗を生じ、これがタッチ感に動的な重さを与える。
【0012】
また、これらの動作部材は、所定長さの揺動シャンクまたはキャッチャシャンクにより、バットの回動軸から遠い位置に達するように設けられている結果、押鍵時の回動範囲が広い。したがって、そのような回動範囲の広い部材に錘を装着することにより、小さい質量で大きな慣性力を得ることができる。これにより、錘による静的荷重を大きく増大させることなく、大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。特に、アップライトピアノ型アクションは、狭い領域に多数の部品が集中して装備されているので、小さい質量で効率的に慣性力が得られる利点は大きい。
【0013】
このアップライトピアノ型アクションは、バット及びバットに連動する回動部材のいずれかに、ヒッティング時の回動方向に作用する付勢力を付与する部材が結合されたものとすることができる。前記錘は、押鍵時の動的負荷として作用すると共に、静的荷重を増大させる。これに対し、バット及びバットに連動する回動部材のいずれかに、ヒッティング時の回動方向に作用する付勢力を付与する部材が結合されれば、動的負荷の作用を損ねることなく、静的荷重の増大を軽減することができ、より良いタッチ感が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、グランドピアノ並みの質量感に富むタッチ感を実現するアップライトピアノ型アクションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを鍵盤と共に示す縦断側面図である。
【図2】図1に示したアップライトピアノ型アクションの縦断側面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを示す縦断側面図である。
【図4】図3に示したアップライトピアノ型アクションにおける錘を示す図を種々の方向から見た状態で示す図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを示す縦断側面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを示す縦断側面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを示す縦断側面図である。
【図8】図7のアクションについて付勢部材及びその装着構造を中心に示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。以下では、ピアノ及びアクションにおける演奏者側を前方、演奏者から遠い側を後方と称することする。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るアップライトピアノ型アクションを鍵盤と共に示す側面図であり、図2はそのアクションの側面図である。図は、アクションにおける高音寄りの1鍵分を取り出して示している。また、非押鍵状態を実線で示し、押鍵の途中または打弦時の状態を破線で示す。
【0018】
図示のアクションは、アコースティックピアノであるアップライトピアノ用のものであり、ハンマが弦Sを打つようになっており、弦の振動が響板に伝えられて楽音が発せられる。アクションがアップライト型の電子ピアノ用のものである場合は、弦Sは金属板等のストッパ部材に置き換えられ、ハンマはストッパ部材をヒットする揺動部材に置き換えられ、発音はヒット直前の揺動部材の回動速度等を検知して、その速度に応じた大きさで行なわれる。
【0019】
以下では、図示のアップライトピアノ用アクションの例に基づいて、本発明を説明する。このアクションは、以下に述べる通常の基本形態を有している。すなわち、アクション全体の間口方向に延びるセンタレール20が両端部を図外のブラケット10に支持されており、センタレール20の下部には、各鍵毎に、ウイペンフレンジ31が取り付けられ、その軸31aを介して、ウイペン30が回動自在に支持されている。ウイペン30は、後端近くをウイペンフレンジ31により支持され、ほぼ水平に延びている。ウイペン30の前方寄りの下面からはウイペンヒール32が垂下しており、鍵の端部付近に設けられたキャプスタンボタンCが押鍵時に上昇してウイペンヒール32を押し上げ、ウイペン30を上方へ回動させる。
【0020】
ウイペン30の中央部よりやや前方には、ジャックフレンジ41を介してジャック40が回動自在に結合されている。ジャック40は、長片42と短片43とで構成され側面視L字状をなしている。長片42は、やや後方に傾斜して上方に延び、バット5に接触している。短片43は長片42の下端部から前方へ延びており、短片43とウイペン30との間に挿入された圧縮コイルばね33は、短片43を上方へ押し上げ、ジャック40を回動するように付勢している。
【0021】
センタレール20の上部には、鍵毎に、バット5が取り付けられている。バット5は、バットフレンジ51と、バットフレンジ51に軸51aを介して回動自在に支持されたバット本体50を備えている。バット本体50の上部からは、ハンマシャンク71が延び、その先端にハンマ70が結合されている。また、バット本体50の前部には、打弦後の戻りを規制されるキャッチャ52がキャッチャシャンク53を介して結合されている。
【0022】
ウイペン30の前端部近くには、上方へ延びるバックチェックワイヤ61によりバックチェック60が取り付けられている。バックチェック60は打弦をしたハンマ70が反発力で戻るのを規制する機能をなす。
【0023】
センタレール20の上端部には、鍵毎に、後方へ延びるダンパレバーフレンジ81を介してダンパレバー80が回動自在に支持されている。ダンパレバー80には、上方へ延びるダンパワイヤ82等を経てダンパフェルト83が結合されている。ダンパフェルト83は、ダンパレバー80の回動に従って、押鍵時に弦から離れ、離鍵時に弦に接してその振動を抑止する。
【0024】
センタレール20の高さ方向中央部から前方へ離間して、アクション全体の間口方向にレギュレーティングレール91が延びており、同じ間口方向に相互に間隔をおいて配置されたレギュレーティングブラケット92によりセンタレール20に結合されている。レギュレーティングレール91には、鍵毎に、レギュレーティングスクリュー93が上下方向に螺合され、その下部にレギュレーティングボタン90が固定されている。レギュレーティングボタン90は、押鍵時にジャック40が上昇する途中でジャックの短片43に当接し、ジャック40を前方へ回動させる機能を奏する。
【0025】
このアクションは、押鍵時に次のように作動する。非押鍵状態では、ウイペン30は最下位置にあり、ジャック40はバット本体50の直下に位置し、ハンマ70は前方へ傾斜してハンマレール100に支持されている。押鍵に伴って、ウイペン30が上昇し、ジャック40がバット50及びハンマ70を回動させる。ジャック40は、短片43がレギュレーティングボタン100に接触する位置まで押し上げられることにより、前方へ回動し、バット本体50から離脱し、その直後に押鍵はフルストロークの状態となる。この離脱によりハンマ70は、慣性により進行するエスケープメントの状態となり、打弦を行なう。打弦後は、ハンマ70が弦の反発力で急速に戻され、キャッチャ52がバックチェック80に受け止められて、ハンマ70の戻りが停止する。
【0026】
アクションの基本構成の概略は以上の通りであり、本発明の機能に直接関係しない構成については説明を省略する。
【0027】
次に本発明の特徴をなす構成について説明する。図1及び図2は、アクションにおける以下の動作部材に錘を装着する例を示している。錘は、ハンマアッセンブリ(バット、ハンマ、ハンマシャンク、キャッチャ、キャッチャシャンクからなるアッセンブリ)における動作部材のいずれか一つまたは複数に対して装着することができる。
【0028】
ハンマ70は、ハンマウッド72の先端にハンマフェルト73が接着されている。このハンマウッド72に錘110を装着することができる。錘110は、図示のように平板状の金属片とし、ハンマウッド72の上面(ハンマシャンク71から遠い側の面)に設けることができる。或いは、同様の錘をハンマウッド72の側面に設けてもよい。また、錘110aとして示すように、ハンマウッド72の前端面(ハンマフェルト73とは反対側の端面)に設けてもよい。これらの錘とハンマウッドとの結合手段には、接着、ねじ止め等の種々の手段を用いることができる。さらには、ハンマウッド72を金属製または比重の大きい樹脂製とし、それ自体で錘の機能を奏するようにしてもよい。1つのハンマ70には、これらの錘の複数の形態を備えることもできる。
【0029】
バット本体50からは、前方(打弦側とは反対の方向)へキャッチャシャンク53が延び、その先端にキャッチャ52が取り付けられている。このキャッチャシャンク53に錘120を装着することができる。錘120は、例えば、断面逆U字状をなし、キャッチャシャンク53に上方から被せるように装着され、下部をピン121を通して端部を加締めることにより固定される。
【0030】
ウイペン30は、センタレール20に対しウイペンフレンジ31の軸31aにより回動自在に取り付けられている。そのウイペン30の弦側部分の下面に錘130を装着することができる。ウイペン30には、上下方向に延びる貫通孔が形成され、そこに通されたねじ131により、錘130がウイペン30に固定される。
【0031】
上記バット本体50及びウイペン30についても、ハンマ70同様、錘の装着形態及び結合手段として種々のものを採用することができる。また、バット本体50またはウイペン30を金属製または比重の大きい樹脂製とし、それ自体で錘の機能を奏するようにしてもよい。
【0032】
以上のように錘が装着されることにより、動作部材が押鍵に伴って回動する際に、該錘が慣性抵抗を生じ、これがタッチ感に動的な重さを与える。これらの動作部材は、ハンマ70、キャッチャシャンク53またはバット本体50から前後方向に延びる支持部材141であり、その結果、錘はバットの回動軸51aから遠い位置に設けられ、押鍵時の回動範囲が広い。このような回動範囲の広い部材に錘を装着することにより、小さい質量で大きな慣性力を得ることができる。これにより、錘による静的荷重を大きく増大させることなく、大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。
【0033】
図3〜図8は、アクションにおける以下の動作部材に、ヒッティング時の回動方向へ付勢力を付与する部材(回動付勢部材)が結合される例を示している。付勢部材は、以下のいずれか一つまたは複数を装着することができる。
【0034】
図3は、回動付勢部材として、バット本体50に錘140を装着した例を示しており、図4は錘140を取り出して示している。図4の(a) は側面図であり、(b) はこれを矢印bの方向から見た図、(c) は矢印cの方向から見た図である。錘140は、前後方向に延びる支持部材141と、該支持部材141に支持された錘本体142とを備えている。支持部材141は、平板状部材を曲折した形状を有し、バット本体50にあてがわれる平板部141aと、該平板部の後方(弦のある側)に位置する錘支持部141bと、平板部141aの前方(演奏者側)に位置する位置保持部141cとを備えている。
【0035】
平板部141aは、2箇所に貫通孔143が形成され、そこに取付けねじを通して螺入することにより、バット本体50に固定されている。錘支持部141bは矩形をなし4箇所にねじ孔144が設けられ、これにほぼ同形の板状の錘本体142がねじ止めされている。錘支持部141bは、錘本体142の厚さのほぼ半分の距離だけ平板部141aから段差をもって延びている。位置保持部141cは、平板部141aの前方への延長部分からアクション幅方向へ曲折した後、下方(ウイペン側)へ曲折して、断面逆U字状をなしている。支持部材141は、位置保持部141cがキャッチャシャンク53に上方から被さった状態で、平板部141aがバット本体50に接するようにして、バット5に装着される。
【0036】
錘140の付勢力は、ヒッティングのための回動方向とは反対方向へ荷重を作用させるハンマアッセンブリの重量及び前述の錘の重量を軽減する方向に作用する。但し、錘140の重量は、非押鍵状態のハンマ位置が保持され且つ所定の押鍵抵抗が生じる程度の大きさとされる。このように、錘140は、反ヒッティング方向へ作用するハンマアッセンブリ等に対し、押鍵時の静的荷重を小さくするように作用する。これと共に、錘の慣性力は、回動する錘の加速度に比例して大きくなるので、錘による大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。
【0037】
図5は、回動付勢部材として、ハンマシャンク71にばね210が結合された例を示している。この結合のため、ハンマシャンク71のバット寄り端部に支持部材211、バットフレンジ51に支持部材212が装着されている。第1支持部材211は、ハンマシャンク71を囲んで後方へ突出する板状部材により形成され、その突出端に第1係合ピン211aが設けられている。また、第2支持部材212は、バットフレンジ51における回動軸近傍から後方(ヒッティング側)に延び、先端部に第2係合ピン212aが設けられている。ばね210は、引張りコイルばねであり、一方のフック210aが第1係合ピン211a係止され、他方のフック210bが第2係合ピン212aに係止されている。これにより、ハンマシャンク71は、ヒッティング側への回動方向に付勢されている。ばね210の付勢力は、ハンマアッセンブリの重量及び前述の錘の重量により、非押鍵状態のハンマ位置が保持され且つ所定の押鍵抵抗が生じる程度の大きさとされる。
【0038】
ハンマアッセンブリには、前述の通り、ヒッティングのための動作部材の回動方向とは反対方向へ非押鍵時に荷重を作用させるように錘が装着されている。一方、押鍵時に作用する錘の慣性力は、回動する錘の加速度に比例して大きくなるので、ばね210による影響は小さく、ばねの作用によって慣性力はさほど低下しない。その結果、錘による静的荷重をばねによって低減させ、且つ錘による大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。
【0039】
特に、押鍵時には、ハンマシャンク71がヒッティング側へ回動することにより、第1係合ピン211aと第2係合ピン212aとが相互に接近する結果、ばね210の長さが短くなり、引張り力(付勢力)が低下する。したがって、ばね210は、押鍵の初期に錘の静的荷重を打ち消す方向に最大の付勢力を作用させ、押鍵が進むにつれて付勢力を低下させて行く。押鍵時の錘による静的荷重は、ハンマアッセンブリが前方(演奏者側)に最も傾斜している押鍵初期に最大で、回動が進むにつれて減少する傾向を有するので、ばね210の付勢力は錘の付加による静的荷重の増大をより効果的に抑制する。
【0040】
図6は、回動付勢部材として、ウイペン30にばね220が結合された例を示している。この結合のため、複数のブラケット10の下部間に差し渡されてアクション幅方向に延びる支持板221が取り付けられている。そして、この支持板221に対し、鍵毎に支持部材222がビス223により取り付けられている。支持部材222は、上端部がほぼ水平に曲折されて支持部222aとされ、その支持部222aに設けられた雌ねじ孔にビス224が下方から螺入され上方へ延びている。一方、ウイペン30の下面には、ビス224を緩く受け入れる凹所35が形成され、該凹所35を覆うようにワッシャ36が結合されている。ビス224の上端部は凹所35内に挿入され、ビス224における支持部222aとワッシャ36との間の部分に、ばね220が被着されている。ばね220は、圧縮コイルばねであり、一端が支持部材222及び支持板221を介してブラケット10に支持され、他端がワッシャ36を介してウイペン30を押し上げている。これにより、ウイペン30は、ヒッティング側への回動方向に付勢される。ばね220の付勢力は、ウイペン、ジャック、ハンマアッセンブリ等の重量及び前述の錘の重量により、非押鍵状態のハンマ位置が保持され且つ所定の押鍵抵抗が生じる程度の大きさとされる。
【0041】
この例においても、ハンマアッセンブリに作用する錘の静的荷重を低減させ、且つ錘による大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。また、押鍵時には、ウイペン30がヒッティング側へ回動することにより、ワッシャ36と支持部222aとの距離が増大する結果、ばね220の長さが長くなり、圧縮力(付勢力)が低下する。したがって、ばね220は、押鍵の初期に錘の静的荷重を打ち消す方向に最大の付勢力を作用させ、押鍵が進むにつれて付勢力を低下させて行く作用が得られ、押鍵時の錘による静的荷重は、ハンマアッセンブリが前方(演奏者側)に最も傾斜している押鍵初期に最大で、回動が進むにつれて減少する傾向を有するので、ばね210の付勢力は錘の付加による静的荷重の増大をより効果的に抑制する。
【0042】
ばね220は、ウイペン30の回動軸31aからの距離Uができるだけ小さくなるように位置決めするのが望ましい。こうすることにより、ばね220の作用が、押鍵初期から回動進行に伴って小さくなるという傾向が増大し、錘による静的荷重が押鍵に伴って軽減する傾向と一致し、錘による動的負荷の作用をよりよく生かすことができる。このためには、上記距離Uを 〜 mmとするのが望ましい。距離Uが、上記上限を越えると、ばね作用が押鍵進行に伴って減少するという作用が十分に得られない。また、距離Uが上記下限値未満では、極めて大きなばね常数のばねを必要とし、微調節が困難となる。なお、支持部材222は、複数の鍵に跨る幅を有したものとし、ばね220を鍵毎に設けることもできる。
【0043】
図7は、回動付勢部材として、バット本体50にばね230が結合されたアクションの例を示し、図8は、図7のアクションについて、はばね230及びその結合構造を中心に示している。この結合のため、センタレール20に鍵毎に支持レバー231(支持部材)が設けられている。支持レバー231は、センタレール20におけるバットフレンジ51とは反対側に位置して上下方向に延びる棒状部材であり、弾性変形可能であるが高い剛性を有し、下端部(ウイペン側の端部)がビス232によりセンタレール20の下部に取り付けられている。センタレール20の上部には貫通孔23が形成され、支持レバー231の上端(自由端)は貫通孔23に臨む位置まで延び、通し孔に小ねじ233が螺着されている。一方、バット本体50の下端部は回動軸51より下方へ突出した下突部57とされ、下突部57は、支持レバー231の上端部とは反対側において、貫通孔23に臨んで位置している。そして、支持レバー231上端部の小ねじ233と下突部57との間にばね230が挟持されている。ばね230は、圧縮コイルばねであり、一端が小ねじ233に係合され、他端が、下突部57に設けられた突起57aに係合し、下突部57をセンタレール20から遠ざかる方向に押圧している。これにより、バット本体50は、ヒッティング側への回動方向に付勢される。
【0044】
この実施形態ではさらに、付勢力調節機構240が備えられている。付勢力調節機構240は、センタレール20に設けた貫通孔24と、支持レバー231に設けた雌ねじ孔231aとに長尺の調節ねじ241を通したものである。調節ねじ241は、センタレール20に固定した保持片242により、軸線方向の位置を変えずに回転自在に支持され、先端側の雄ねじ部241aを、支持レバー231の雌ねじ孔231aに螺合させている。したがって、調節ねじ241を回転すれば、支持レバー231をねじ作用により弾性変形させ、センタレール20に対して接近離反させることができる。これにより、支持レバー231の小ねじ233とバット本体50の下突部57との距離を変え、これに伴ってばね230が下突部57に及ぼす付勢力を調節することができる。この調節は、図8に矢印Aで示すように、アクションの前方(演奏者側)から行なうことができるので、作業性が良好である。この調節を可能とするために、支持レバー231は、ばね230よりも弾性係数を高く(剛性を高く)される。
【0045】
この例においても、ハンマアッセンブリに作用する錘の静的荷重によって低減させ、且つ錘による大きな動的負荷を生じさせることができ、質量感に富んだタッチ感を得ることができる。また、押鍵時には、バット本体50がヒッティング側へ回動することにより、小ねじ233と下突部57との距離が増大する結果、ばね230の長さが長くなり、圧縮力(付勢力)が低下する。したがって、ばね230は、押鍵の初期に錘の静的荷重を打ち消す方向に最大の付勢力を作用させ、押鍵が進むにつれて付勢力を低下させて行く作用が得られ、錘による静的荷重の増大がより効果的に抑制される。なお、支持レバー231は、複数の鍵に跨る幅を有したものとし、ばね230を鍵毎に設けることもできる。
【0046】
以上、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、アップライト型の電子ピアノのアクションの場合は、図5に示したアクションにおけるばね210の支持部材212は、発音制御のためのフォトカプラをオンオフするシャッタとして機能させることもできる。
【0047】
図7及び図8に示したアクションにおける付勢力調節機構240は、調節ねじ241が、支持レバー231に対して軸線方向の位置を変えずに回転自在に支持され、センタレール20に対して軸方向位置を変えるようにすることもできる。このためには、支持レバー231の通し孔に調節ねじ241の軸方向位置を保持する係合部を設け、センタレール20に雌ねじ孔、調節ねじ241にはこれに螺合する雄ねじ部を設ければよい。
【符号の説明】
【0048】
5:バット, 20:センタレール, 30:ウイペン, 40:ジャック, 50:バット本体, 52:キャッチャ, 53:キャッチャシャンク, 70:ハンマ, 70:ハンマ(揺動部材), 71:ハンマシャンク(揺動シャンク), 80:バックチェック, 81:ダンパレバーフレンジ, 110,120,130,140:錘 210,220,230:ばね(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押鍵に連動して上下動するウイペンに回動自在に支持されたジャックと、該ジャックに押し上げられて回動するバットと、前記バットから延びる揺動シャンクの先端部に支持されバットの回動に基づいてヒッティング動作をする揺動部材と、前記バットから延びるキャッチャシャンクの先端部に支持されヒッティング後の後退時にバックチェックに受け止められるキャッチャとを備えたアップライトピアノ型アクションにおいて、
前記バット、揺動シャンク、揺動部材、キャッチャ、及びキャッチャシャンクのいずれかの動作部材に錘が装着され、該錘は、ヒッティングのための動作部材の回動方向とは反対方向へ非押鍵時に荷重を作用させるように配置されていることを特徴とするアップライトピアノ型アクション。
【請求項2】
前記バット及びバットに連動する回動部材のいずれかに、ヒッティング時の回動方向に作用する付勢力を付与する部材が結合されていることを特徴とする請求項1に記載のアップライトピアノ型アクション。
【請求項3】
前記付勢力を付与する部材が、荷重による力を付与する錘であることを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノ型アクション。
【請求項4】
前記付勢力を付与する部材がばねであり、該ばねの一端が前記バットまたは前記回動部材に結合され、該ばねの他端がアクションにおける静止部材に結合されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアップライトピアノ型アクション。
【請求項5】
前記ばねは、前記付勢力の調節が可能とされていることを特徴とする請求項4に記載のアップライトピアノ型アクション。
【請求項6】
前記バットを回動自在に支持するセンタレールにばね支持部材が取り付けられており、該ばね支持部材は、前記センタレールに対して前記バットとは反対側に位置し、前記ばねは、一端が前記バットにおけるウイペン側の端部に結合され、前記センタレールの切り欠き部を通って、他端が前記ばね支持部材に結合されていることを特徴とする請求項4または5に記載のアップライトピアノ型アクション。
【請求項7】
前記ばね支持部材は、前記センタレールから延び自由端が前記バットの回動支点近傍に位置する支持レバーを備え、該自由端に前記ばねの前記他端が結合されており、前記支持レバーは、前記センタレールを貫通して延びる調節ねじに結合され、該調節ねじにより前記自由端とセンタレールとの距離を変えて前記バットに作用するばね力を調節し得ることを特徴とする請求項6に記載のアップライトピアノ型アクション。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−203477(P2011−203477A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70531(P2010−70531)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)