説明

アディポネクチン産生促進剤

【課題】アディポネクチンの産生促進効果に優れ、かつ安全性が高い、医薬や飲食品に応用可能な新規なアディポネクチン産生促進剤の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、セリシンを有効成分として含んでなるアディポネクチン産生促進剤、およびそれを含む医薬および飲食品に関する。これらは、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病などのような、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する各種疾病の予防または改善に有効である。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、アディポネクチン(adiponectin)の産生を促進しうる、セリシンを有効成分として含んでなる、アディポネクチン産生促進剤に関する。本発明はまた、該アディポネクチン産生促進剤を含んでなる、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する各種疾病の予防または改善に効果を発揮し得る医薬および飲食品に関する。
【0002】
背景技術
現代社会において、肥満を始め、動脈硬化や脂肪肝、糖尿病など様々な疾病が大きな問題となっている。これらの疾病の治療には、従来から薬物治療が行われており、様々な治療薬が知られている。しかしながら、薬剤の服用により高血圧、肝障害、下痢、便秘、頭痛などの副作用を伴うことがあり、患者への負担が大きい。近年では、日常の食生活を通じて、肥満、動脈硬化、脂肪肝、糖尿病などの疾病を予防もしくは改善しようとする様々な方法が検討されている。例えば、脂肪分解促進剤や食物繊維の摂取などが挙げられるが、依然として、より有効な方法が求められている。
【0003】
アディポネクチンは、脂肪細胞から特異的に分泌されるタンパク質であり、肥満、動脈硬化、脂肪肝、糖尿病などの疾病に密接に関与していることが明らかとなってきている。実際に、肥満や、糖尿病などの患者では、血中のアディポネクチン濃度が低下していることが報告されている(Ouchi, N. et al, Circulation, vol.100, p.2473-2476, 1999(非特許文献1)、および、Arita, Y. et al, Biochemical and Biophysical Research Communications, vol.257, p.79-83, 1999(非特許文献2))。
【0004】
また、血中のアディポネクチン濃度を増加させることによって、糖尿病等の生活習慣病を改善できることが、医学的に示されている(前田法一他、モレキュラー・メディシン、Vol.42, No.1, 11-21, 2005(非特許文献3))。
【0005】
したがって、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病などの疾病を予防もしくは改善することを目的として、アディポネクチンの産生を促進し、血中のアディポネクチン濃度を増加させることができる機能性成分であって、副作用の少ないものが求められている。
【0006】
このような機能性成分としては、例えば、大豆蛋白(Nagasawa et al., Horm. Merab.Res., 34, 635-639, 2002(非特許文献4))が知られている。しかしながら、これは十分な効果が期待できないものであった。また、冬虫夏草の熱水抽出物(特開2007−31302号公報(特許文献1))や、アムラーの抽出物(特開2006−56836号公報(特許文献2))なども、このような機能性成分として知られている。しかしながら、これらは、肝臓中の脂質量に対する効果が検討されておらず、脂肪肝などの実際の疾病に対する予防もしくは改善効果についての知見は充分でない。さらに、これらの原料および有効成分の入手は必ずしも容易でない。
【0007】
絹タンパク質であるセリシンについては、これまでに、抗酸化作用(特開平10−140154号公報(特許文献3))、大腸ガン予防効果(特開2000−256210号公報(特許文献4))、ダイエット効果、便秘解消効果、および、ミネラル吸収促進効果(特開2000−312568号公報(特許文献5))などの種々の作用効果を有することが報告されている。
しかしながら、セリシンが、アディポネクチン産生促進効果を有することについては、本発明者らの知る限りこれまで報告されていない。
【0008】
【特許文献1】特開2007−31302号公報
【特許文献2】特開2006−56836号公報
【特許文献3】特開平10−140154号公報
【特許文献4】特開2000−256210号公報
【特許文献5】特開2000−312568号公報
【非特許文献1】Ouchi, N. et al, Circulation, vol.100, p.2473-2476, 1999
【非特許文献2】Arita, Y. et al, Biochemical and Biophysical Research Communications, vol.257, p.79-83, 1999
【非特許文献3】前田法一他、モレキュラー・メディシン、Vol.42, No.1, 11-21, 2005
【非特許文献4】Nagasawa et al., Horm. Merab.Res., 34, 635-639, 2002
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは今般、繭または生糸に存在する天然タンパク質セリシンが、優れたアディポネクチン産生促進効果を有することを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、アディポネクチンの産生促進効果に優れ、かつ安全性が高い、医薬や飲食品に応用可能な新規なアディポネクチン産生促進剤の提供をその目的とする。本発明はまた、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する各種疾病もしくは状態の予防または改善に有効な医薬および飲食品の提供もその目的とする。
【0011】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、セリシンを有効成分として含んでなることを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、該セリシンの平均分子量は、5,000〜100,000である。また別の好ましい態様によれば、セリシンは加水分解物である。さらに別の好ましい態様によれば、セリシンは、アミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものである。
【0013】
本発明による医薬組成物は、本発明によるアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする。
【0014】
また本発明による医薬組成物は、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられるものであって、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを含んでなることを特徴とする。ここで好ましくは、該疾病もしくは状態は、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病、またはこれに関連する状態である。
【0015】
本発明による飲食品は、本発明によるアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本発明による飲食品は、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを有効量含んでなり、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられるものである。あるいは、本発明による飲食品は、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを有効量含んでなり、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態を予防または改善する機能を有し、その機能表示が付されたものである。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、本発明による飲食品は、有効成分であるセリシンを、セリシン量換算で成人一人1日当たり10〜2000mg/kg体重の範囲で提供される量含んでなる。さらに別の好ましい態様によれば、該飲食品は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品として提供される。
【0018】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、アディポネクチンの産生促進効果に優れていると同時に、既に安全性が確認されている天然物由来の物質を使用するため、副作用の心配が殆どない。このため、日常の食生活に適宜取り入れて無理なく摂取することができる。また、本発明によれば、アディポネクチン産生促進剤を含んでなる医薬(すなわち、医薬組成物)および飲食品(すなわち、食品組成物)も提供される。本発明によるアディポネクチン産生促進剤、医薬および飲食品は、安全性に優れ、血中のアディポネクチン濃度を顕著に上昇させうるものである。このため、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病などの各種疾病の予防または改善に極めて有用である。
【発明の具体的説明】
【0019】
有効成分
本発明において、有効成分として用いられるセリシンは、繭や生糸に存在する天然タンパク質セリシンを、抽出して得られるものである。具体的には、例えば、繭、生糸などの原料を、熱水で煮沸処理することにより水中に溶出させることができる。このとき、必要に応じて酸、アルカリまたは酵素を併用してセリシンを加水分解してもよい。したがって、本発明においてセリシンという場合、加水分解されていないセリシンそのものの他に、加水分解されたセリシンをも包含するものとする。次いで、抽出液を分離精製することによって、高純度のセリシン水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてセリシンを得てもよい。
【0020】
このようにして得られるセリシンの分子量は、通常、500〜500,000の範囲に分布しており、本発明においては、そのいずれのものも使用可能である。本発明の好ましい態様によれば、セリシンの平均分子量は、5,000〜100,000であり、より好ましくは、10,000〜50,000であり、さらに好ましくは、20,000〜40,000である。セリシンの平均分子量が5,000未満であると、アディポネクチン産生促進効果が低下することがあり、平均分子量が100,000を超えると、それ自身の水溶性が低下して取扱い性が低下することがあると共に、水溶性低下に起因して、得られる効果も低下することがある。
【0021】
天然の非加水分解セリシン自体は、分子量が異なるいくつかの成分があることが知られている。例えば、特開2002−128691号公報によれば、分子量が約40万、25万、20万、3万5千のセリシンが確認されている。天然タンパク質セリシンの抽出液はこれらを混合した状態で含んでいる。また、セリシン分子が互いに水素結合し、見かけの分子量を増している場合もある。そして、酸、アルカリまたは酵素を作用させてセリシンを加水分解した抽出液は、さらに多様な分子種を含む混合物である。本発明では、用いる剤や濃度、温度、時間などの条件を制御することにより、平均分子量が5,000〜100,000の範囲にあるセリシン、好ましくは加水分解セリシンを、必要により選択的に調製することができる。具体的には、例えば、後述する実施例の方法に従い、かかる加水分解セリシンを得ることができる。
【0022】
本発明のより好ましい態様によれば、セリシンは、アミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものである。セリン含有量が20モル%未満であると、アディポネクチン産生促進効果が低下することがある。
【0023】
本発明において用いられるセリシン(好ましくは加水分解セリシン)は、易水溶性であり、水溶液として安定な性状を維持することができる。このため、医薬および飲食品に通常添加されうる成分との混和性に優れている。また、セリシンは、無毒、無味、無臭であって、安全性にも優れている。このため、においや味といった官能特性への影響や、副作用の心配がなく、日常の食生活に適宜取り入れて無理なく摂取することができる。セリシンは天然タンパク質としての特性を持ち、たとえ大量に摂取したとしても無害であり、体内では栄養源として利用されうる。
【0024】
本発明による有効成分であるセリシンは、アディポネクチンの産生を促進し、血中におけるアディポネクチン濃度を顕著に上昇させる効果を有する。具体的には、本発明による有効成分は、実際に、血中のアディポネクチン濃度の顕著な上昇が見られ、血清中のトリグリセリド、コレステロールおよびリン脂質の濃度の低下が確認された(後述する実施例の評価試験の評価B)。また、肝臓におけるトリグリセリド濃度の低下も確認され、脂肪肝の予防に有用であることも実際に確認された(同評価試験の評価C)。さらに、本発明による有効成分を摂取しても、体重や脂肪組織量の増減には殆ど影響がみられず、副作用の問題もないことが実際に確認された(同評価試験の評価A)。
【0025】
したがって、本発明による有効成分は、血中のアディポネクチン濃度を顕著に上昇させうるものであることから、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に極めて有用であることは明らかである。なおここで、「疾病もしくは状態の予防または改善」とは、疾病、状態もしくはそれに伴う症状について、発症もしくは発現を予防し、調節し、その進行を抑制もしくは遅延し、緩和し、その再発を予防もしくは抑制することを包含する意味で使用される。
【0026】
ここで、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態は、典型例を挙げると、生活習慣病、メタボリック・シンドローム(代謝異常症候群)、またはこれに関連する疾病もしくは状態であり、好ましくは、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病、またはこれに関連する状態である。
【0027】
本発明の別の態様によれば、セリシンの有効量を、哺乳動物に投与するかまたは摂取させることを含んでなる、血中のアディポネクチン産生を促進する方法が提供される。また本発明のさらに別の態様によれば、セリシンの有効量を、哺乳動物に投与するかまたは摂取させることを含んでなる、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善方法が提供される。なおここで、「有効量」とは、アディポネクチン産生促進や、予防または改善効果のような所望の効果を発揮する上で少なくとも必要とされる有効成分の量をいう。
【0028】
アディポネクチン産生促進剤
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、セリシンを有効成分として含んでなる。ここで「有効成分として含んでなる」とは、本発明による促進剤が、所望のアディポネクチン産生促進効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)のセリシンを含有することをいう。
【0029】
したがって、セリシン自体を、そのままアディポネクチン産生促進剤として用いてもよいが、このような有効量で有効成分を含み、かつアディポネクチン産生促進効果を損なわない限りにおいて、本発明による促進剤は、所望する製品形態に応じた生理学的に許容されうる担体や、他の添加剤を含んでなることができる。このような担体、および添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、崩壊剤、滑沢剤、防腐剤等が挙げられる。本発明による促進剤は、経口または非経口的に投与または摂取することができる。経口用の形態としては、例えば、
食品、食品添加剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態が挙げられる。非経口用の形態としては、例えば、注射剤、点滴剤、外用剤や座剤の形態が挙げられる。これらは、当該技術分野で通常行われている手法により、必要に応じて担体や添加剤と共に、製剤化もしくは製品化することができる。
【0030】
本発明において、所望のアディポネクチン産生促進効果を得るためには、本発明による有効成分を、有効成分であるセリシン量換算で、成人一人の体重1kg当たり、1日に10〜2000mg投与もしくは摂取することが望ましく、好ましくは、投与量もしくは摂取量は10〜500mgであり、より好ましくは20〜200mgである。1日の投与量もしくは摂取量が10mg未満であると、充分な効果が得られない虞がある。また2000mgを超えて投与もしくは摂取しても、それ以上の効果の増加はあまり望めない。本発明においては、この量の有効成分を1日1回ないし数回に分けて、促進剤そのままの形態で、または、医薬、飲食品等の所望の形態とした上で、投与もしくは摂取すればよい。
【0031】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、それ単独でも使用することができるが、医薬、飲食品などの種々の組成物に添加剤として含有させることができ、アディポネクチン産生促進効果を有する組成物を得ることができる。
【0032】
医薬
本発明による医薬組成物は、前記したように、本発明によるアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする。ここで、該医薬組成物において、アディポネクチン産生促進剤の有効成分を有効量含んでなるように、医薬組成物は、該促進剤を適切な量で含んでなることが望ましい。
【0033】
別の態様によれば、本発明による医薬組成物は、前記したように、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられるものであって、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを含んでなることを特徴とする。この場合も、医薬組成物は、アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを有効量含んでなることが望ましく、また医薬組成物は、有効成分を有効量含むように、アディポネクチン産生促進剤を適量で含んでなることができる。
【0034】
したがって、本発明による医薬組成物は、所望の効果を発揮するのに充分な量(すなわち、有効量)のセリシンを含有するものであって、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。このような製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、結合剤、増粘剤、分散剤、懸濁化剤、崩壊剤などを挙げることができる。本発明において、医薬組成物が経口製剤の場合には、食品、食品添加剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤などの固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液などの液状製剤の形態をとることができる。また、非経口製剤の場合には、注射剤、点滴剤、外用剤や座剤の形態をとることができる。簡易性の点からは、経口製剤であることが好ましい。
【0035】
本発明による医薬組成物は、必要に応じて、他の補助成分をさらに含んでいても良い。このような併用可能な他の補助成分としては、例えば、ビタミン成分(例えば、ビタミンC、ビタミンE)、抗生物質、アミノ酸類、ペプチド類、ミネラル類(例えば、亜鉛、鉄、銅、マンガンなど)、核酸、多糖類、脂肪酸類、生薬などが挙げられる。
【0036】
さらに製剤化にあたって、本発明による有効成分以外の1種以上の医療上有効な有効成分(活性成分)をさらに添加し配合してもよい。また本発明による有効成分の投与にあたっては、本発明による有効成分以外の1種以上の医療上有効な有効成分を組み合わせて投与してもよい。このような他の有効成分(活性成分)としては、例えば、インスリン、スルホニル尿素系薬剤、チアゾリン系薬剤、α−グルコシダーゼ阻害剤等が挙げられる。
【0037】
飲食品
本発明による飲食品は、前記したように、本発明によるアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする。ここで、該飲食品において、アディポネクチン産生促進剤の有効成分を有効量含んでなるように、飲食品は、該促進剤を適切な量で含んでなることが望ましい。
【0038】
別の態様によれば、前記したように、本発明による飲食品は、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを有効量含んでなることを特徴とし、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられるものである。
【0039】
ここで「有効成分を有効量含んでなる」とは、個々の飲食品を通常喫食される量摂取した結果、有効成分としての効果を発揮しうるような量で有効成分を含有することをいう。本発明による飲食品には、本発明による有効成分をそのまままたは上記のような促進剤の形態で、飲食品に配合してもよい。また、本発明による飲食品は、本発明による有効成分に安定剤等の慣用の添加成分を加えて飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を、それらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ有効成分を添加したものであってもよい。
【0040】
本発明において、「飲食品」は、医薬以外のものであって、哺乳動物が経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0041】
飲食品としては、具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などを挙げることができる。
【0042】
本発明による飲食品は、血中のアディポネクチン濃度が低下したか、もしくは低下していることが疑われる者、または低下する可能性の高い者に対して好適に使用することができる。また本発明による飲食品は、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病を罹患しているか、またはそのようになる可能性の高い者に好適に使用することができる。ここで、血中のアディポネクチン濃度の低下する可能性の高い者、および、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病を罹患する可能性の高い者には、例えば、食生活をはじめとする日常生活を考慮して、または、健康診断等の診断・診察から、そのようになる可能性が高いと判断された者、あるいはそのような可能性が高いと本人または周囲の者から認識されるに至った者が含まれる。
【0043】
本発明において「飲食品」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「飲食品」という用語は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味でここで用いてもよい。ここでいう特定保健用食品とは、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善等を目的として食品の製造または販売等を行う場合に、保健上の観点から、各国(例えば我が国)において法上の何らかの制限を受けることがある食品をいう。このような食品は、食品が疾病リスクを低減する可能性があること表示した食品、すなわち、疾病リスク低減表示を付した食品であることもできる。ここで、疾病リスク低減表示とは、疾病リスクを低減する可能性のある食品の表示であって、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の定める規格に基づいて、またはその規格を参考にして、定められた表示または認められた表示であることができる。
【0044】
本発明の飲食品においては、前記有効成分に加えて、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0045】
本発明の別の態様によれば、該アディポネクチン産生促進剤の有効成分のセリシンを有効量含んでなることを特徴とする飲食品であって、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態を予防または改善する機能を有し、その機能表示が付された飲食品が提供される。ここで飲食品に付される機能表示は、例えば、製品の本体、容器、包装、説明書、添付文書、または宣伝物のいずれかにすることができる。
【0046】
本発明による飲食品の製造に当たっては、通常の飲食品の処方設計に用いられている糖類、香料、果汁、食品添加剤、安定剤などを適宜添加することができる。飲食品の製造は、当該技術分野に公知の製造技術を参照して実施することができる。本発明による飲食品は様々な形態を取ることができ、公知の医薬品の製造技術に準じて本発明による飲食品を製造してもよい。その場合には、本発明による促進剤や医薬組成物の製造の項目において述べたような担体や添加剤を用いて製造することができる。また、製造段階において、本発明における機能以外の機能を発揮する他の成分あるいは他の機能性食品と組み合わせることによって、多機能性の飲食品としてもよい。
【0047】
本発明による医薬組成物および飲食品を投与または摂取する場合、本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。本発明においては、少なくともアディポネクチン産生促進効果を得るために必要な1日あたりの有効成分の量を投与もしくは摂取できるように、1日あたりの組成物または飲食品の投与量または摂取量を考慮し、組成物または飲食品中の含有量を適宜設定することが望ましい。
【0048】
したがって、本発明による医薬組成物または飲食品は、好ましくは、有効成分であるセリシンを、セリシン量換算で成人一人に1日当たり10〜2000mg/kg体重の範囲で提供される量含んでなる。
【0049】
本発明においては、医薬組成物または飲食品における有効成分の量を、それらの含有量として定義することもできる。この場合、成人の体重を60kgと仮定して、体重60kgの成人1人1日あたりの有効成分の投与量もしくは摂取量を算出し、さらに、実際に投与もしくは摂取可能な医薬組成物または飲食品の量から、医薬組成物または飲食品における有効成分の含有量を算出することができる。
【0050】
したがって、医薬組成物または飲食品における有効成分の含有量として表した場合の具体例としては、本発明による医薬組成物は、有効成分を、組成物全量に対して、例えば、0.1〜70重量%含んでなり、好ましくは0.5〜50重量%含んでなる。また、本発明による飲食品は、有効成分を、飲食品全量に対して、例えば、0.1〜70重量%含んでなり、好ましくは0.5〜50重量%含んでなる。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の試験によって得られたデータは、Student’s t-Testにより有意差検定を行った。また下記において特に断りのない限り、「%」は重量基準による%である。
【0052】
加水分解セリシンの調製:
本発明のアディポネクチン産生促進剤の有効成分である加水分解セリシンを調製した。
すなわち、生糸からなる絹織物を、0.2%炭酸ナトリウム(pH11〜12)により95℃にて2時間処理し、加水分解セリシンを抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過して、凝集物を除去した後、濾液を逆浸透膜により脱塩し、濃度0.2%の無色透明の精製液を得た。この精製液をエバポレーターを用いて濃度約2%まで濃縮した後、凍結乾燥し、加水分解セリシンの粉末を得た。この加水分解セリシンの分子量分布は5,000〜70,000で、平均分子量は30,000であり、アミノ酸組成としてセリンを35モル%含有していた。
【0053】
評価試験:
モデル動物として、4週齢のSD系雄ラットを用いた。群間の平均体重がほぼ同等になるように対照群(12匹)とアディポネクチン産生促進剤群(12匹)に分け、毎日、一定の食べきる量の実験食(表1)を35日間摂取させた。
具体的には、アディポネクチン産生促進剤群には、20%牛脂食に加水分解セリシンを4%添加した食餌(カゼイン20%)を摂取させ、対照群には、加水分解セリシン無添加の24%カゼイン食を摂取させた。
【0054】
【表1】

【0055】
評価A: 加水分解セリシンが体重および臓器重量に及ぼす影響
前記評価試験の項に従い、ラットを35日間飼育後、エーテル麻酔下で屠殺し、肝臓および脂肪組織を摘出した。同時に、血液から血清を採取し、以下の分析に供した。
飼育後のラットの体重および各臓器の重量は、表2に示されるとおりであった。
35日間の飼育において、体重増加量および脂肪組織重量に、群間で差は認められず、セリシン摂取は生育には問題が無いことが明らかとなった。
【0056】
【表2】

【0057】
評価B: 加水分解セリシンが血清中の各種パラメーターに及ぼす影響
上記で採取された血清中の脂質濃度を、市販のキットを用いて、酵素法により測定した。
具体的には、トリグリセリド濃度はトリグリセリドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を、コレステロール濃度はコレステロールE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を、および、リン脂質濃度はリン脂質C−テストワコー(和光純薬工業株式会社)をそれぞれ用いて測定した。また、脂質過酸化物濃度は、チオバルビツール酸反応物質(TBARS)量として、八木法(K. Yagi, Biochem. Med., 15, 212-216, 1976)に従い常法により測定した。
【0058】
血清中のアディポネクチン、レジスチン、およびレプチンの各濃度については、市販のキットを用い、酵素免疫法により測定した。
具体的には、アディポネクチン濃度は、マウス/ラットアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社)、レジスチン濃度はRat Resistin ELISA Kit(B-Bridge International, Inc.)、および、レプチン濃度はMouse/Rat Leptin ELISA Kit(B-Bridge International, Inc.)をそれぞれ用いて測定した。
【0059】
結果は表3に示されるとおりであった。
【0060】
肥満に伴う各種疾病の指標とされる血清中のトリグリセリド、コレステロール、およびリン脂質の各濃度は、アディポネクチン産生促進剤群において明らかに低下した。
血清中のレジスチン濃度およびレプチン濃度については、対照群とアディポネクチン産生促進剤群との間に大きな違いはなかったが、アディポネクチン濃度は、アディポネクチン産生促進剤群で著しく増加した。
このことから、本発明のアディポネクチン産生促進剤群は、血清中のアディポネクチン濃度を上昇させることにより、肥満に伴う動脈硬化等の疾病の予防または改善に寄与することが明らかとなった。
【0061】
【表3】

【0062】
評価C: 加水分解セリシンが肝臓中の脂質濃度に及ぼす影響
肝臓脂質の抽出を、Folchらの方法(Folch J., Lees M., Sloane-Stanley G.H. A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J Biol. Chem., 226, 497-509, 1957)に従い常法により行った。
肝臓脂質を抽出後、前述の評価Bで示した方法に従って脂質濃度を測定した。
【0063】
結果は表4に示されるとおりであった。
アディポネクチン産生促進剤群では、トリグリセリド濃度が明らかに低下した。トリグリセリドの肝臓への蓄積は、脂肪肝などの疾病の指標とされている。このため、本発明によるアディポネクチン産生促進剤の摂取による肝臓中のトリグリセリドの低下は、脂肪肝の予防に極めて有用であることがわかった。
【0064】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリシンを有効成分として含んでなることを特徴とする、アディポネクチン産生促進剤。
【請求項2】
セリシンの平均分子量が、5,000〜100,000である、請求項1に記載のアディポネクチン産生促進剤。
【請求項3】
セリシンが加水分解物である、請求項1または2に記載のアディポネクチン産生促進剤。
【請求項4】
セリシンが、アミノ酸組成としてセリンを20〜40モル%含有してなるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアディポネクチン産生促進剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有効成分のセリシンを含んでなる、血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられる、医薬組成物。
【請求項7】
疾病もしくは状態が、肥満に伴う動脈硬化、脂肪肝、糖尿病、またはこれに関連する状態である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアディポネクチン産生促進剤を含んでなることを特徴とする、飲食品。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有効成分のセリシンを有効量含んでなる、飲食品であって、
血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態の予防または改善に用いられる、飲食品。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有効成分のセリシンを有効量含んでなる、飲食品であって、
血中のアディポネクチン濃度の低下に起因する疾病もしくは状態を予防または改善する機能を有し、その機能表示が付された、飲食品。
【請求項11】
有効成分であるセリシンを、セリシン量換算で成人一人1日当たり10〜2000mg/kg体重の範囲で提供される量含んでなる、請求項8〜10のいずれか一項に記載の飲食品。
【請求項12】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の飲食品。

【公開番号】特開2010−18522(P2010−18522A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77131(P2007−77131)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(306018365)クラシエホームプロダクツ株式会社 (188)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】