説明

アデノウイルスの同定に用いる組成物

本発明は、分子量および塩基組成分析によるアデノウイルスの迅速な同定および定量化のための組成物、キット、ならびに方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、分子量および塩基組成分析によりアデノウイルスの迅速な同定および定量化のための組成物、キット、ならびに方法を提供する。
【0002】
政府支援の言明
本発明は、DARPA/SPO契約4400044016および4400076514における米国政府支援でなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
扁桃摘出術中に除去された小児のアデノイド組織由来、および熱性疾患を有する軍隊入隊者由来の細胞系を確立しようと試みた研究者により1953年に最初に単離され、アデノウイルスは急性上気道感染症のよくある原因である。アデノウイルスは天然において広範囲に存在し、トリ、多くの哺乳動物、およびヒトに感染する。2属、アビアデノウイルス(トリ)およびマストアデノウイルス(哺乳動物)がある。以下を含む哺乳動物のアデノウイルスのいくつかの亜群がある:亜群A(血清型12、18、および31)、亜群B(血清型3、7、11、14、21、34、および35)、亜群C(血清型1、2、5、および6)、亜群D(血清型8〜10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、および36〜39)、亜群E(血清型4)、ならびに亜群F〜G(血清型40および41)。
【0004】
すべてのアデノウイルス粒子は類似している:非エンベロープ、直径60〜90nmで、252個のキャプソメアを含む正二十面体対称:正二十面体(2-3-5対称)の頂点における240個の「ヘキソン」+12個の「ペントン」を有する。個々のプロモーターは、精製されたウイルス粒子の連続的な化学破壊により単離されうる。ヘキソンは、中心の細孔を有するポリペプチドIIの三量体からなる;VI、VIII、およびIXもまた、ヘキソンと会合した少数のポリペプチドであり、粒子の安定化および/または組み立てに関与していると考えられている。ペントンは、毒素様活性を有するが、より複雑である;ベースはペプチドIIIの五量体からなり、IIIaの5個の分子もまたペントンベースと会合している。
【0005】
アデノウイルスゲノムは、線状の、非セグメント化二本鎖DNAで、理論上30〜40個の遺伝子をコードする容量を有する30〜38kbp(亜群間で異なるサイズを有する)からなる。ゲノム構造(クロスハイブリダイゼーションおよび制限酵素マッピングにより測定されるような)はアデノウイルスを亜群に割り当てるために用いられる。
【0006】
アデノウイルスの特定の型は一般的に、以下を含む特定の臨床的症候群と関連づけられる:急性呼吸器疾患、咽頭炎、胃腸炎、結膜炎、肺炎、角結膜炎、急性出血性膀胱炎、および肝炎。たいていのアデノウイルス感染症は、呼吸管もしくは胃腸管、または眼のいずれかを含む。アデノウイルス感染症は非常によく起こり、たいていが無症候性である。ウイルスは、外科的に除去された扁桃/咽頭扁桃の大多数から単離されることができ、潜伏感染を示す。ウイルスがどれくらい長く身体に存続しうるか、またはそれが、疾患を引き起こす、長期間後の再活性化の能力があるかどうかは知られていない。アデノウイルスは単離するのが困難であり、集団は、感染した個体の細胞間で不均一である傾向がある。ウイルスは免疫抑制の事象中に再活性化することが知られている。
【0007】
本発明は、とりわけ、アデノウイルス(Adenoviridae)科のウイルスを同定する方法を提供する。ウイルスの生物因子(bioagent)同定単位複製配列を定義し、増幅によって、分子量が亜種レベルにおいてアデノウイルス科のウイルスを同定するための手段を提供する、対応する増幅産物を産生するオリゴヌクレオチドプライマー、オリゴヌクレオチドプライマーを含む組成物およびキットもまた提供される。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
発明は、分子量および塩基組成分析によりアデノウイルスの迅速な同定および定量化のための組成物、キット、ならびに方法を提供する。
【0009】
一つの態様は、SEQ ID NO:26と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0010】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:121と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0011】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:26と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:121と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0012】
一つの態様は、SEQ ID NO:61と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0013】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:122と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0014】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:61と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:121と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0015】
一つの態様は、SEQ ID NO:38と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0016】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:82と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0017】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:38と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:82と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0018】
一つの態様は、SEQ ID NO:63と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0019】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:95と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0020】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:63と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:95と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0021】
一つの態様は、SEQ ID NO:19と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0022】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:93と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0023】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:19と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:93と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0024】
一つの態様は、SEQ ID NO:54と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0025】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:113と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0026】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:54と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:113と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0027】
一つの態様は、SEQ ID NO:36と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0028】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:98と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0029】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:36と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:98と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0030】
一つの態様は、SEQ ID NO:16と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0031】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:106と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーである。
【0032】
もう一つの態様は、SEQ ID NO:16と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー、およびSEQ ID NO:106と少なくとも70%配列同一性を有する14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマー対の組成物である。
【0033】
いくつかの態様において、プライマー対のプライマーの一方または両方は、例えば、5-プロピニルウラシルまたは5-プロピニルシトシンのような少なくとも1つの修飾核酸塩基を含む。
【0034】
いくつかの態様において、プライマー対のプライマーの一方または両方は、例えば、イノシンのような少なくとも1つのユニバーサル核酸塩基を含む。
【0035】
いくつかの態様において、プライマー対のプライマーの一方または両方は、5'末端に少なくとも1つの非鋳型性T残基を含む。
【0036】
いくつかの態様において、プライマー対のプライマーの一方または両方は、少なくとも1つの非鋳型タグを含む。
【0037】
いくつかの態様において、プライマー対のプライマーの一方または両方は、少なくとも1つの分子量改変タグを含む。
【0038】
いくつかの態様は、プライマー対組成物の1つまたは複数を含むキットである。いくつかの態様において、キットの1つまたは複数のプライマー対の各要素は、14〜35核酸塩基長であり、SEQ ID NO: 61:122、26:121、38:82、63:95、19:93、54:113、36:98、および16:106により表されたプライマー対の群由来の対応する要素と70%〜100%配列同一性を有する。他のキット態様は、表2に列挙されたプライマー対のいずれかの1つまたは複数を含みうる。
【0039】
いくつかの態様は、プライマーの各対の各要素が、SEQ ID NO: 61:122、26:121により表されたプライマー対の群由来の対応する要素と70%〜100%配列同一性を有する、プライマー対組成物により示された2つの一般的な調査アデノウイルスプライマー対の1組を含むキットである。
【0040】
キットのいくつかの態様は、所与の試料中のアデノウイルスの定量化に用いる、およびまた、増幅の陽性対照として用いる少なくとも1つの較正ポリヌクレオチドを含む。
【0041】
キットのいくつかの態様は、磁気ビーズへ連結された少なくとも1つの陰イオン交換官能基を含む。
【0042】
いくつかの態様において、本発明はアデノウイルスの同定に用いるプライマーおよびプライマーの対を含む組成物、およびそれらを含むキット、および方法を提供する。プライマーは、異なる亜群およびアデノウイルスの血清型に渡っての保存領域ならびに可変領域を有する遺伝子をコードするDNAの増幅産物を産生するように設計される。
【0043】
いくつかの態様において、本発明はまた、アデノウイルスの同定のための方法を提供する。ウイルス由来の核酸は、上記のプライマーを用いて増幅され、増幅産物を得る。増幅産物の分子量が測定される。任意で増幅産物の塩基組成が分子量から決定される。分子量または塩基組成は、既知の類似のアデノウイルス同定単位複製配列の分子量または塩基組成の複数と比較され、分子量または塩基組成と、複数の分子量または塩基組成の要素との一致によりアデノウイルスが同定される。いくつかの態様において、分子量は、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)飛行時間(TOF)質量分析、またはESIフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析のような様式における質量分析により測定される。他の質量分析技術もまた、アデノウイルス同定単位複製配列の分子量を測定するために用いられうる。
【0044】
いくつかの態様において、本発明はまた、試料中のアデノウイルスの存在または非存在を決定するための方法を対象とする。試料由来の核酸は、上記の組成物を用いて増幅され、増幅産物を得る。増幅産物の分子量が測定される。任意で増幅産物の塩基組成が分子量から決定される。増幅産物の分子量または塩基組成は、1つもしくは複数の既知の類似のアデノウイルス同定単位複製配列の既知の分子量または塩基組成と比較され、増幅産物の分子量または塩基組成と、1つもしくは複数の既知のアデノウイルス同定単位複製配列の分子量または塩基組成との一致により、試料中のアデノウイルスの存在が示される。いくつかの態様において、分子量は質量分析により測定される。
【0045】
いくつかの態様において、本発明はまた、試料中の未知のアデノウイルスの量の測定のための方法を提供する。試料は、上記の組成物、および較正配列を含む較正ポリヌクレオチドの既知量と接触させられる。試料中の未知のアデノウイルス由来の核酸は、上記の組成物で同時に増幅され、試料中の較正ポリヌクレオチド由来の核酸は、上記の組成物で同時に増幅され、アデノウイルス同定単位複製配列を含む第一増幅産物、および較正単位複製配列を含む第二増幅産物を得る。アデノウイルス同定単位複製配列および較正単位複製配列についての分子量ならびに存在量が測定される。アデノウイルス同定単位複製配列は分子量に基づいて較正単位複製配列と区別され、アデノウイルス同定単位複製配列存在量と較正単位複製配列存在量との比較により、試料中のアデノウイルスの量が示される。いくつかの態様において、アデノウイルス同定単位複製配列の塩基組成が決定される。
【0046】
いくつかの態様において、本発明は、核酸増幅工程を質量測定工程と組み合わせることにより、アデノウイルスを検出または定量化するための方法を提供する。いくつかの態様において、そのような方法は、増幅産物からの質量情報を較正または対照産物と比較することによりアデノウイルスを同定または分析する。そのような方法は、単一の質量測定プラットフォーム上で24時間あたり300個もの試料の分析を可能にする高度多重化および/または並列様式で行われうる。本発明のいくつかの態様における質量測定方法の正確さは、亜群A、B、C、D、E、およびF、加えて血清型3、4、7、および21のような異なるアデノウイルス間を識別する能力を可能にする。
【0047】
前述の本発明の概要、および以下の本発明の詳細な説明は、例として、かつ限定としてではなく含まれる添付の図面と共に読む場合、より良く理解される。
【0048】
定義
本明細書に用いられる場合、「存在量」という用語は量を指す。量は、当業者に周知である「コピー数」、「pfuまたはプレート形成単位」のような分子生物学において一般的である濃度に関して記載されうる。濃度は、既知の標準に対してでありうる、または絶対でありうる。
【0049】
本明細書に用いられる場合、「アデノウイルス」という用語は、アデノウイルス科のウイルスのメンバーを指す。アデノウイルスは、ボルティモア分類体系下で群Iと分類される。アデノウイルスは、中位のサイズ(60〜90nm)で、二本鎖DNAを含む非エンベロープの正二十面体のウイルスである。ヒト感染症を引き起こしうる51個の免疫学的に別個の型(6つの亜属:AからFまで)がある。アデノウイルスは、通常、化学的または物理的因子、および有害なpH条件に対して安定であり、体および水の外側での長時間生存を可能にする。アデノウイルスは呼吸の飛沫を介して広がる。
【0050】
本明細書に用いられる場合、「増幅可能な核酸」という用語は、任意の増幅方法により増幅されうる核酸に関して用いられる。「増幅可能な核酸」はまた「試料鋳型」を含むことが企図される。
【0051】
本明細書に用いられる場合、「増幅」という用語は、鋳型特異性を含む核酸複製の特別な場合を指す。それは、非特異的鋳型複製(すなわち、鋳型依存性であるが、特定の鋳型に依存しない複製)と対比されうる。鋳型特異性は、本明細書では、複製の忠実度(すなわち、正確なポリヌクレオチド配列の合成)およびヌクレオチド(リボ-またはデオキシリボ)特異性と区別される。鋳型特異性は、しばしば、「標的」特異性に関して記載される。標的配列は、それらが他の核酸と選別されることを求められる意味で「標的」である。増幅技術は、主としてこの選別のために設計されている。鋳型特異性は、酵素の選択によりたいていの増幅技術において達成される。増幅酵素は、それらが用いられる条件下で、核酸の不均一な混合物において核酸の特定の配列のみを処理する酵素である。例えば、Qβレプリカーゼの場合、MDV-1 RNAはレプリカーゼの特異的鋳型である(D.L. Kacian et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69:3038 [1972])。他の核酸は、この増幅酵素により複製されない。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、この増幅酵素は、それ自身のプロモーターについてストリンジェントな特異性を有する(Chamberlin et al., Nature 228:227 [1970])。T4 DNAリガーゼの場合、ライゲーション接合部において、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質と鋳型の間にミスマッチがある場合には、酵素は2つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをライゲーションしない(D.Y. Wu and R.B. Wallace, Genomics 4:560 [1989])。最後に、TaqおよびPfuポリメラーゼは、高温で機能するそれらの能力によって、結合した配列に対して高特異性を示すことが見出されており、それに従って、プライマーにより限定される;高温は、結果として標的配列とのプライマーハイブリダイゼーションに有利で、非標的配列とのハイブリダイゼーションに不利な熱力学的な条件を生じる(H.A. Erlich (ed.), PCR Technology, Stockton Press [1989])。
【0052】
本明細書に用いられる場合、「増幅試薬」という用語は、プライマー、核酸鋳型、および増幅酵素を除く、増幅に必要とされる試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、緩衝剤など)を指す。典型的には、他の反応成分と共に増幅試薬が反応容器(試験管、マイクロウェルなど)内に入れられ、含まれる。
【0053】
本明細書に用いられる場合、生物因子同定単位複製配列の比較との関連において用いられる時の「類似の」という用語は、比較される生物因子同定単位複製配列が同じプライマー対で産生されることを示す。例えば、同じプライマー対で産生された生物因子同定単位複製配列「A」および生物因子同定単位複製配列「B」は、お互いに対して類似している。異なるプライマー対で産生された生物因子同定単位複製配列「C」は、生物因子同定単位複製配列「A」または生物因子同定単位複製配列「B」のいずれとも類似していない。
【0054】
本明細書に用いられる場合、「陰イオン交換官能基」という用語は、静電相互作用を通して陰イオンを結合する能力がある正荷電官能基を指す。最もよく知られた陰イオン交換官能基は、一級、二級、三級、および四級アミンを含むアミンである。
【0055】
「細菌(bacteria)」または「細菌(bacterium)」という用語は、真正細菌および古細菌の群の任意のメンバーを指す。
【0056】
本明細書に用いられる場合、「塩基組成」は、核酸のセグメントにおける各核酸塩基(例えば、A、T、C、およびG)の正確な数である。例えば、プライマー対739番でのアデノウイルス21型の核酸の増幅は、A36 G31 C44 T28(慣例により−増幅産物のセンス鎖に関して)の塩基組成を有するヘキソンの核酸由来の139核酸塩基長の増幅産物を産生する。4つの天然ヌクレオチドおよびそれらの化学修飾型のそれぞれの分子量は既知であるため、測定された分子量は、可能性のある塩基組成のリストへデコンボリューションされうる。塩基組成に関して対応するアンチセンス鎖と相補的なセンス鎖の塩基組成の同定により、未知の増幅産物の真の塩基組成の確証が与えられる。例えば、上記の139核酸塩基の増幅産物のアンチセンス鎖の塩基組成はA28 G44 C31 T36である。
【0057】
本明細書に用いられる場合、「塩基組成確率雲(base composition probability cloud)」は、所与の種の異なる単離物間に存在する配列における差異に起因する塩基組成における多様性の表現である。「塩基組成確率雲」は、各種についての塩基組成制約を表し、典型的には、擬似四次元プロットを用いて可視化される。
【0058】
本発明との関連において、「生物因子」は、任意の、生きているもしくは死んだ、生物体、細胞、またはウイルス、またはそのような生物体、細胞、もしくはウイルス由来の核酸である。生物因子の例は、以下に限定されないが、細胞(ヒト臨床試料、細菌細胞、および他の病原体を含むがこれらに限定されない)、ウイルス、真菌、原生生物、寄生生物、および病原性マーカー(病原性島(pathogenicity island)、抗生物質耐性遺伝子、毒性因子、毒素遺伝子、および他の生体制御性化合物を含むがこれらに限定されない)を含む。試料は生きている、または死んでいる、または休止期(休止期の細菌または胞子)であってもよく、カプセル化または生物工学的処理されていてもよい。本発明との関連において、「病原体」は、疾患または障害を引き起こす生物因子である。
【0059】
本明細書に用いられる場合、「生物因子部門」は、種レベルより上の生物因子の群として定義され、限定されるわけではないが、目、科、綱、クレード、属、または種レベルより上の生物因子の他のそのような分類を含む。
【0060】
本明細書に用いられる場合、「生物因子同定単位複製配列」は、増幅反応において生物因子から増幅されるポリヌクレオチドを指し、1)核酸から生物因子同定単位複製配列が産生される生物因子間を区別するのに十分な可変性を提供する、および2)その分子量が、例えば、質量分析のような迅速かつ便利な分子量測定様式を受け入れられる。
【0061】
本明細書に用いられる場合、「生物学的産物」という用語は、生物体から生じる任意の産物を指す。生物学的産物は、しばしば、バイオテクノロジーの過程の産物である。生物学的産物の例は、限定されるわけではないが、以下を含む:培養細胞系、細胞成分、抗体、タンパク質および他の細胞由来生体分子、増殖培地、増殖回収液、天然産物および生物薬剤学的産物。
【0062】
「生物戦争物質」および「生物兵器」という用語は、同義語であり、個体へ身体的危害を引き起こすための兵器として配備されうる細菌、ウイルス、真菌、または原生動物を指す。軍隊またはテロリストグループは、生物戦争物質の配備に関わる可能性がある。
【0063】
本発明との関連において、「広範囲調査(broad range survey)プライマー対」は、生物因子の異なる幅広い分類に渡って生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対を指す。例えば、リボソームRNA標的プライマー対は、本質的にはすべての既知の細菌について細菌の生物因子同定単位複製配列を産生する能力を有する広範囲調査プライマー対である。ウイルスの同定のために用いられる広範囲プライマー対に関して、例えば、プライマー対615番(SEQ ID NO: 45:101)のようなアデノウイルスについての広範囲調査プライマー対は、アデノウイルス科の本質的にすべての既知のメンバーについてアデノウイルス同定単位複製配列を産生する。
【0064】
「較正単位複製配列」という用語は、生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対での較正配列の増幅により得られる増幅産物を示す核酸セグメントを指す。
【0065】
「較正配列」という用語は、試料中の生物因子の量を測定するのに用いる内部(すなわち、反応に含まれる)較正標準増幅産物を産生することを目的として所定のプライマー対がハイブリダイズするポリヌクレオチド配列を指す。較正配列は特別に増幅反応へ添加されうる、またはすでに分析前の試料に存在しうる。
【0066】
「クレードプライマー対」という用語は、クレード群に属する種についての生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対を指す。クレードプライマー対はまた、近縁の種間を区別するのに有用である「種分化」プライマー対としてみなされうる。
【0067】
「コドン」という用語は、アミノ酸または終結シグナルをコードする3つの隣接するヌクレオチドの1組(トリプレット)を指す。
【0068】
本発明との関連において、「コドン塩基組成分析」という用語は、コドンを含む生物因子同定単位複製配列を得ることにより個々のコドンの塩基組成の決定を指す。生物因子同定単位複製配列は、プライマーが生物因子同定単位複製配列の生成のためにハイブリダイズする標的核酸配列の領域、および2つのプライマーハイブリダイゼーション領域の間に位置した、分析されるコドンを少なくとも含む。
【0069】
本明細書に用いられる場合、「相補的な」または「相補性」という用語は、塩基対形成ルールにより関連づけられたポリヌクレオチド(すなわち、オリゴヌクレオチドまたは標的核酸のようなヌクレオチドの配列)に関して用いられる。例えば、配列「5'-A-G-T-3'」については、配列「3'-T-C-A-5'」と相補的である。相補性は、核酸の塩基の一部のみが塩基対形成ルールに従ってマッチしている「部分的」であってもよい。または、核酸間に「完全な」または「全体の」相補性がありうる。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率および強度へ有意な効果を生じる。これは、増幅反応、および核酸間の結合に依存する検出反応において特に重要である。いずれの用語もまた、個々のヌクレオチドに関して、特にポリヌクレオチドの文脈の中で用いられうる。例えば、オリゴヌクレオチド内の特定のヌクレオチドは、もう一つの核酸鎖内のヌクレオチドへのその相補性またはそれの欠如について、オリゴヌクレオチドの残部と核酸鎖の間の相補性と対比または比較して、言及されうる。
【0070】
本明細書に用いられる場合の「核酸配列の相補体」という用語は、一方の配列の5'末端が他方の3'末端と対形成されるように核酸配列と整列した場合、「逆平行の関連」にあるオリゴヌクレオチドを指す。天然の核酸に一般的には見出されない特定の塩基は、本発明の核酸に含まれてもよく、例えば、イノシンおよび7-デアザグアニンを含む。相補性は完全である必要はない;安定した二重鎖はミスマッチした塩基対またはマッチしていない塩基を含みうる。核酸技術の当業者は、例えば、オリゴヌクレオチドの長さ、オリゴヌクレオチドの塩基組成および配列、ミスマッチした塩基対のイオン強度および発生率を含むいくつかの変数を経験的に考慮して二重鎖安定性を決定できる。第一オリゴヌクレオチドは標的核酸の領域と相補的であり、かつ第二オリゴヌクレオチドが同じ領域(またはこの領域の一部)への相補性を有する場合、「重複の領域」が標的核酸に沿って存在する。重複の程度は、相補性の程度に依存して変わる。
【0071】
本発明との関連において、「部門に渡る(division-wide)プライマー対」という用語は、より広範囲の生物因子のセクション内に生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対を指す。例えば、プライマー対1113番(SEQ ID NO: 63:95)、部門に渡るプライマー対、はアデノウイルス亜群Aのメンバーについてアデノウイルス同定単位複製配列を産生するように設計される。他の部門に渡るプライマー対は、亜群B、C、D、E、およびFを含むアデノウイルス亜群の他のメンバーについてアデノウイルス同定単位複製配列を産生するために用いられうる。
【0072】
本明細書に用いられる場合、複数の増幅反応に関して用いられる「同時に増幅すること」という用語は、単一反応混合物において複数の核酸を同時に増幅することの行為を指す。
【0073】
本明細書に用いられる場合、「掘り下げ(drill-down)プライマー対」という用語は、亜種特徴の同定または種割当の確認のために生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対を指す。例えば、プライマー対200番(SEQ ID NO: 1:64)である、掘り下げアデノウイルスプライマー対は、アデノウイルス血清型4についてのアデノウイルス同定単位複製配列を産生するように設計される。他の掘り下げプライマー対は、例えば血清型3、7、16、および21のような他のアデノウイルス血清型についてのアデノウイルス同定単位複製配列を産生するために用いられうる。
【0074】
「二重鎖」という用語は、1つの鎖上のヌクレオチドの塩基部分が第二鎖上で整列したそれらの相補性塩基を水素結合を通して結合している核酸の状態を指す。二重鎖型になっている状態は、核酸の塩基の状態へ反映する。塩基対形成によって、核酸の鎖はまた、一般的に、主溝および副溝を有する二重らせんの三次構造を仮定する。らせん型の仮定は、二重鎖になるという行為に潜在している。
【0075】
本明細書に用いられる場合、「病因」という用語は、疾患もしくは異常な生理学的状態の原因または起源を指す。
【0076】
「遺伝子」という用語は、非コード機能を有するRNA(例えば、リボソームまたは転移RNA)、ポリペプチド、または前駆体の産生に必要な調節配列およびコード配列を含むDNA配列を指す。RNAまたはポリペプチドは、完全長コード配列により、または所望の活性もしくは機能が保持される限りコード配列の任意の部分により、コードされうる。
【0077】
「相同性」、「相同的な」、および「配列同一性」という用語は、同一性の程度を指す。部分的相同性または完全な相同性がありうる。部分的に相同的な配列は、もう一つの配列と100%未満同一であるものである。配列同一性の決定は、以下の例に記載されている:2個の非同一残基を有すること以外、もう一つの20核酸塩基プライマーと他の点では同一である20核酸塩基長のプライマーは、20個のうちの18個の同一残基を有する(18/20=0.9または90%配列同一性)。もう一つの例において、20核酸塩基長のプライマーの15核酸塩基のセグメントと同一のすべての残基を有する15核酸塩基長のプライマーは、20核酸塩基のプライマーと15/20=0.75または75%配列同一性を有する。本発明との関連において、配列同一性は、検索配列および対象配列が両方とも5'から3'の方向で記載され、かつ整列している場合、正しく決定されることを意図されている。BLASTのような配列アラインメントアルゴリズムは、2つの異なるアラインメント配向で結果を返す。プラス/プラス配向において、検索配列および対象配列の両方は、5'から3'の方向に整列している。他方、プラス/マイナス配向において、検索配列は5'から3'の方向であるが、対象配列は3'から5'の方向である。本発明のプライマーに関して、配列同一性は、アラインメントがプラス/プラスとして指定されている場合、正しく決定される。配列同一性はまた、増幅反応におけるハイブリダイゼーションおよびプライマー伸長に関して、通例の核酸塩基、アデニン、チミン、グアニン、およびシトシンと機能的に類似した様式で実行する代替または修飾された核酸塩基を含みうる。非限定的例において、配列および長さにおいてもう一つのプライマーと他の点では同一である一つのプライマーにおいて5-プロピニルピリミジンプロピンCおよび/またはプロピンTが1つもしくは複数のCまたはTに取って代わっている場合には、2つのプライマーはお互いと100%配列同一性を有する。もう一つの非限定的例において、イノシン(I)は、GまたはTの代わりとして用いることができ、効果的にC、A、またはU(ウラシル)にハイブリダイズする。従って、配列および長さにおいてもう一つのプライマーと他の点では同一である一つのプライマーにおいて、イノシンが1つもしくは複数のC、A、またはU残基に取って代わっている場合には、2つのプライマーはお互いと100%配列同一性を有する。ハイブリダイゼーションおよび増幅反応についての機能的に類似した様式で実行する、他のそのような修飾またはユニバーサル塩基が存在してもよく、配列同一性のこの定義の範囲内であると理解されよう。
【0078】
本明細書に用いられる場合、「ハウスキーピング遺伝子」は、生物因子の生存および生殖に必要とされる基本的な機能に関与するタンパク質またはRNAをコードする遺伝子を指す。ハウスキーピング遺伝子は、限定されるわけではないが、翻訳、複製、組換えおよび修復、転写、ヌクレオチド代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝、エネルギー発生、取り込み、分泌などに関与するRNAまたはタンパク質をコードする遺伝子を含む。
【0079】
本明細書に用いられる場合、「ハイブリダイゼーション」という用語は、相補的な核酸への対形成に関して用いられる。ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(すなわち、核酸間の会合の強度)は、核酸間の相補性の程度、含まれる条件のストリンジェンシー、および形成されたハイブリッドのTmなどの因子により影響される。「ハイブリダイゼーション」方法は、一つの核酸のもう一つの相補的な核酸、すなわち、相補的なヌクレオチド配列を有する核酸へのアニーリングを含む。相補的なヌクレオチド配列を含む核酸の2つのポリマーの、互いを見つけ出して塩基対形成相互作用によりアニールする能力は、十分に認められた現象である。Marmur and Lane, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 46:453 (1960)およびDoty et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 46:461 (1960)による「ハイブリダイゼーション」過程の最初の観察に続いて、この過程は、現代生物学の必須ツールへと改良された。
【0080】
「インシリコ」という用語は、コンピューター計算によって起こる過程を指す。例えば、電子PCR(ePCR)は、それがコンピューターフォーマット化媒体上に記憶された核酸配列およびプライマー対配列を用いて実行されることを除いて、通常のPCRと類似した過程である。
【0081】
本明細書に用いられる場合、「インテリジェントプライマー」は、介在可変領域に隣接する、生物因子同定単位複製配列の高度に保存された配列領域に結合し、増幅により、理想的には、個々の生物因子を区別するのに十分な可変性を提供しかつ分子量分析を受け入れられる増幅産物を生じるように設計されるプライマーである。「高度に保存された」という用語は、種もしくは株の全部、または少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の中で、配列領域が約80〜100%、または約90〜100%、または約95〜100%同一性を示すことを意味する。
【0082】
「リガーゼ連鎖反応」(LCR;Barany, Proc. Natl. Acad. Sci., 88:189 (1991); Barany, PCR Methods and Applic., 1:5 (1991);およびWu and Wallace, Genomics 4:560 (1989)により記載され、しばしば「リガーゼ増幅反応」(LAR)と呼ばれる)は、核酸を増幅するためのよく認識された代替方法へと発展された。LCRにおいて、4つのオリゴヌクレオチド、標的DNAの1つの鎖に固有的にハイブリダイズする2つの隣接したオリゴヌクレオチド、および逆鎖にハイブリダイズする隣接したオリゴヌクレオチドの相補的セットが混合され、DNAリガーゼが混合物に添加される。接合部に完全な相補性があるという条件で、リガーゼは、ハイブリダイズした分子の各セットを共有結合させる。重要なことには、LCRにおいて、2つのプローブは、それらがギャップまたはミスマッチなしに標的試料中の配列と塩基対形成する場合のみ、共ににライゲーションされる。変性のサイクルが繰り返されて、ハイブリダイゼーションおよびライゲーションはDNAの短いセグメントを増幅する。LCRはまた、一塩基変化の検出の増強を達成するためにPCRと組み合わせて用いられている。しかしながら、このアッセイに用いられる4つのオリゴヌクレオチドは、2つの短いライゲーション可能な断片を形成するように対形成することができるため、標的非依存性のバックグラウンド信号の発生についての可能性がある。突然変異体スクリーニングのためのLCRの使用は、特定の核酸位置の検査に限定される。
【0083】
「ロックド核酸(locked nucleic acid)」または「LNA」という用語は、RNA模倣糖立体構造において1つまたは複数の2'-O,4'-C-メチレン-β-D-リボフラノシルヌクレオチドモノマーを含む核酸類似体を指す。LNAオリゴヌクレオチドは、相補的な一本鎖RNAおよび相補的な一本鎖または二本鎖DNAに対して前例のないハイブリダイゼーション親和性を示す。LNAオリゴヌクレオチドは、A型(RNA様)二重鎖立体構造を誘導する。
【0084】
本明細書に用いられる場合、「質量改変タグ」という用語は、類似の質量改変されていないヌクレオチドに対して質量の増加を結果として生じる所与のヌクレオチドへの任意の改変を指す。質量改変タグは、例えば、炭素13のようなヌクレオチドに含まれる1つまたは複数の元素の重い同位元素を含むことができる。他の可能な改変は、例えば、核酸塩基の5位におけるヨウ素または臭素のような置換分の付加を含む。
【0085】
「質量分析」という用語は、原子または分子の質量の測定を指す。分子はまずイオンへ変換され、電荷に対するそれらの質量の比に従って電場または磁場を用いて分離される。測定された質量は分子を同定するために用いられる。
【0086】
本明細書に用いられる場合の「微生物」という用語は、肉眼で観察されるには小さすぎる生物体を意味し、限定されるわけではないが、細菌、ウイルス、原生動物、真菌、および繊毛虫を含む。
【0087】
「多剤耐性(multi-drug resistant)」または「多数薬剤耐性(multiple-drug resistant)」という用語は、微生物の処置に用いられる抗生物質または抗菌剤の複数に対して耐性である微生物を指す。
【0088】
「多重PCR」という用語は、2つまたはそれ以上の異なるDNA標的が単一の反応チューブにおいてPCRにより増幅されるのを可能にする反応プールに複数のプライマーセットが含まれているPCR反応を指す。
【0089】
「非鋳型タグ」という用語は、鋳型に相補的ではない生物因子同定単位複製配列を産生するために用いられるプライマーの少なくとも3つのグアニンまたはシトシン核酸塩基のひと続きを指す。非鋳型タグは、A-T対に対して1つ追加の水素結合をそれぞれが有する余分のG-C対の取り込みにより増幅の後半のサイクルのプライマー二重鎖安定性を増加させることを目的として、プライマーへ組み入れられる。
【0090】
本明細書に用いられる場合の「核酸配列」という用語は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、またはポリヌクレオチド、およびそれらの断片もしくは部分内の、核酸残基A、T、C、もしくはG、またはそれらの任意の修飾型の線状構成物、ならびに一本鎖または二本鎖でありうるゲノムもしくは合成起源のDNAまたはRNAを指し、センス鎖またはアンチセンス鎖を表す。
【0091】
本明細書に用いられる場合、「核酸塩基」という用語は、「ヌクレオチド」、「デオキシヌクレオチド」、「ヌクレオチド残基」、「デオキシヌクレオチド残基」、「ヌクレオチド三リン酸(NTP)」、またはデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む当技術分野で用いられる他の用語と同義である。
【0092】
本明細書に用いられる場合の「ヌクレオチド類似体」という用語は、5-プロピニルピリミジン(すなわち、5-プロピニル-dTTPおよび5-プロピニル-dTCP)、7-デアザプリン(すなわち、7-デアザ-dATPおよび7-デアザ-dGTP)のような修飾された、または非天然のヌクレオチドを指す。ヌクレオチド類似体は、塩基類似体を含み、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドの修飾型を含む。
【0093】
本明細書に用いられる場合の「オリゴヌクレオチド」という用語は、2つもしくはそれ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、好ましくは少なくとも5つのヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約13〜35ヌクレオチドを含む分子と定義される。正確なサイズは多くの因子に依存し、立ち代わって、それらの因子はオリゴヌクレオチドの最終的な機能または使用に依存する。オリゴヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、逆転写、PCR、またはそれらの組み合わせを含む任意の様式で作製されうる。モノヌクレオチドが、1つのモノヌクレオチドペントース環の5'リン酸がホスホジエステル結合を介して1つの方向にその隣りの3'酸素に付着しているような様式でオリゴヌクレオチドを生成するように反応させられるため、オリゴヌクレオチドの末端は、その5'リン酸がモノヌクレオチドペントース環の3'酸素へ連結されていない場合には「5'末端」と呼ばれ、その3'酸素が次のモノヌクレオチドペントース環の5'リン酸へ連結されていない場合には「3'末端」と呼ばれる。本明細書に用いられる場合、核酸配列はたとえ、より大きなオリゴヌクレオチドの内部であるとしても、5'末端および3'末端を有すると言うことができる。核酸の鎖に沿って5'から3'の方向に移動した時、第一領域の3'末端が第二領域の5'末端の前にある場合に、核酸鎖に沿った第一領域はもう一つの領域の上流であると言われる。本明細書に開示されたすべてのオリゴヌクレオチドプライマーを左から右へ読む時、5'から3'の方向に示されていることは理解されている。2つの異なる重複していないオリゴヌクレオチドが、同じ線状の相補的な核酸配列の異なる領域にアニールし、かつ一方のオリゴヌクレオチドの3'末端が他方の5'末端の方向に向いている場合、前者は「上流」オリゴヌクレオチドと呼ばれ、後者は「下流」オリゴヌクレオチドと呼ばれうる。同様に、2つの重複するオリゴヌクレオチドが同じ線状の相補的な核酸配列にハイブリダイズし、第一オリゴヌクレオチドが、その5'末端が第二オリゴヌクレオチドの5'末端の上流であり、かつ第一オリゴヌクレオチドの3'末端が第二オリゴヌクレオチドの3'末端の上流である場合、第一オリゴヌクレオチドは、「上流」オリゴヌクレオチドと呼ばれ、第二オリゴヌクレオチドは「下流」オリゴヌクレオチドと呼ばれうる。
【0094】
本発明との関連において、「病原体」は、疾患または障害を引き起こす生物因子である。
【0095】
本明細書に用いられる場合、「PCR産物」、「PCR断片」、および「増幅産物」という用語は、変性、アニーリング、および伸長のPCR段階の2つまたはそれ以上のサイクルが完了した後の結果として生じる化合物の混合物を指す。これらの用語は、1つもしくは複数の標的配列の1つまたは複数のセグメントの増幅があった場合を含む。
【0096】
本明細書に用いられる場合、「ペプチド核酸」(「PNA」)という用語は、天然の核酸に見出されるような塩基または塩基類似体を含むが、核酸に特有な糖-リン酸バックボーンではなくペプチドバックボーンに付着している分子を指す。塩基のペプチドへの付着は、例えばオリゴヌクレオチドのそれと類似した様式で塩基が核酸の相補的な塩基と塩基対形成することを可能にする。これらの小分子は、抗遺伝子剤(anti gene agent)とも名付けられているが、核酸のそれらの相補鎖に結合することにより転写伸長を停止させる(Nielsen, et al., Anticancer Drug Des. 8:53 63)。
【0097】
「ポリメラーゼ」という用語は、開始鋳型核酸鎖および遊離dNTPから核酸の相補鎖を合成する能力を有する酵素を指す。
【0098】
本明細書に用いられる場合、「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)という用語は、クローニングまたは精製なしにゲノムDNAの混合物において標的配列のセグメントの濃度を増加させるための方法を記載しており、参照により本明細書に組み入れられている、K.B. Mullis 米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、および第4,965,188号の方法を指す。標的配列を増幅するためのこの過程は、所望の標的配列を含むDNA混合物へ大過剰の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを導入する段階、それに続く、DNAポリメラーゼ存在下での温度サイクルの正確な連続からなる。2つのプライマーは、二本鎖標的配列のそれらのそれぞれの鎖と相補的である。増幅を実施するために、混合物を変性し、その後プライマーを標的分子内のそれらの相補的な配列とアニールさせる。アニリーング後、相補鎖の新しい対を形成するために、プライマーをポリメラーゼで伸長させる。変性、プライマーアニーリング、およびポリメラーゼ伸長の段階は、所望の標的配列の増幅されたセグメントの高濃度を得るために多数回繰り返されうる(すなわち、変性、アニーリング、および伸長が1「サイクル」を構成する;多数の「サイクル」がありうる)。所望の標的配列の増幅されるセグメントの長さは、お互いに対してのプライマーの相対的位置により決定され、それゆえに、この長さは調節可能なパラメーターである。過程の繰り返す局面によって、方法は「ポリメラーゼ連鎖反応」(以下「PCR」)と呼ばれる。標的配列の所望の増幅されたセグメントは混合物において優勢な配列(濃度に関して)になるため、それらは「PCR増幅」されていると言われる。PCRを用いて、ゲノムDNAにおける特定の標的配列の単一コピーをいくつかの異なる方法(例えば、標識プローブとのハイブリダイゼーション;ビオチン化プライマーの取り込み、続いてアビジン-酵素結合体検出;dCTPまたはdATPのような32P標識デオキシヌクレオチド三リン酸の増幅されるセグメントへの取り込み)により検出可能なレベルまで増幅することは可能である。ゲノムDNAに加えて、任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド配列は、プライマー分子の適切なセットで増幅されうる。特に、PCR過程自身により作製された増幅セグメントは、それら自身、次のPCR増幅についての効率的な鋳型である。
【0099】
「重合手段」または「重合剤」という用語は、ヌクレオシド三リン酸のオリゴヌクレオチドへの付加を促進する能力がある任意の因子を指す。好ましい重合手段は、DNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼを含む。
【0100】
本明細書に用いられる場合、「プライマーの対」または「プライマー対」という用語は同義語である。プライマー対は核酸配列の増幅のために用いられる。プライマーの対はフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含む。フォワードプライマーは、増幅されるべき標的遺伝子配列のセンス鎖にハイブリダイズし、鋳型として標的配列を用いてアンチセンス鎖(センス鎖に相補的な)の合成をプライミングする。リバースプライマーは、増幅されるべき標的遺伝子配列のアンチセンス鎖にハイブリダイズし、鋳型として標的配列を用いてセンス鎖(アンチセンス鎖に相補的な)の合成をプライミングする。
【0101】
プライマーは、介在可変領域に隣接する、生物因子同定単位複製配列の高度に保存された配列領域に結合し、理想的には、各個々の生物因子を区別するのに十分な可変性を提供しかつ分子量分析を受け入れられる増幅産物を生じるように設計される。いくつかの態様において、高度に保存された配列領域は、約80〜100%、または約90〜100%、または約95〜100%同一性、または約99〜100%同一性を示す。所与の増幅産物の分子量は、可変領域の可変性によって、それが得られた生物因子を同定する手段を提供する。従って、プライマーの設計は、所与の生物因子のアイデンティティを決定するための適切な可変性を有する可変領域の選択を必要とする。生物因子同定単位複製配列は、理想的には、生物因子のアイデンティティに特異的である。
【0102】
プライマーの性質は限定されるわけではないが、以下を含む、構造に関連した性質のいくつでも含んでもよい:連続(一緒に連結された)または非連続(例えば、リンカーまたはループ部分により結合されている、2つまたはそれ以上の連続したセグメント)でありうる核酸塩基長、修飾型またはユニバーサルの核酸塩基(例えば、ハイブリダイゼーション親和性を増加させる、非鋳型性アデニル化を防ぐ、および分子量を改変するためのような特定の目的のために用いられる)、所与の標的配列に対するパーセント相補性。
【0103】
プライマーの性質はまた、限定されるわけではないが、核酸鋳型に対するハイブリダイゼーションの配向(フォワードまたはリバース)を含む機能的特徴を含む。コード鎖またはセンス鎖は、フォワードにプライミングするプライマーがハイブリダイズする鎖であり(フォワードプライミング配向)、リバースにプライミングするプライマーは非コード鎖またはアンチセンス鎖にハイブリダイズする(リバースプライミング配向)。所定のプライマー対の機能的性質はまた、プライマー対がハイブリダイズする一般的な鋳型核酸を含む。例えば、生物因子の同定は、各個々の同定レベルの分解能に適したプライマーを用いて異なるレベルで達成されうる。広範囲調査プライマーは、特定の部門の要素(例えば、目、科、属、または生物因子の種レベルより上の生物因子の他のそのような分類)と生物因子を同定することを目的として設計される。いくつかの態様において、広範囲調査インテリジェントプライマーは、種または亜種レベルにおける生物因子の同定能力を有する。他のプライマーは、所定の分類の属、クレード、種、亜種、または遺伝子型(毒性遺伝子または抗生物質耐性遺伝子または突然変異の存在を含みうる遺伝的変異体を含む)の要素についての生物因子同定単位複製配列を産生する機能性を有しうる。プライマー対の追加の機能的性質は、単独(増幅反応容器あたり単一のプライマー対)かまたは多重形式(単一の反応容器内に複数のプライマー対および複数の増幅反応物)かのいずれかで、増幅を行う機能性を含む。
【0104】
本明細書に用いられる場合、「精製された」または「実質的に精製された」という用語は、天然の環境から取り出される、単離される、または分離され、かつ天然で付随している他の成分を少なくとも60%含まない、好ましくは75%含まない、および最も好ましくは90%含まない分子、核酸またはアミノ酸配列のいずれか、を指す。「単離されたポリヌクレオチド」または「単離されたオリゴヌクレオチド」は、それゆえに、実質的に精製されたポリヌクレオチドである。
【0105】
「逆転写酵素」という用語は、RNA鋳型からDNAを転写する能力を有する酵素を指す。この酵素活性は逆転写酵素活性として知られている。逆転写酵素活性は、その後本発明の方法により増幅および分析されうる、RNAウイルスからDNAを得るために望ましい。
【0106】
「リボソームRNA」または「rRNA」という用語は、リボソームの主要なリボ核酸成分を指す。リボソームは細胞のタンパク質製造オルガネラであり、細胞質に存在する。リボソームRNAは、それらをコードするDNA遺伝子から転写される。
【0107】
本明細書および特許請求の範囲における「試料」という用語は、その最も広い意味で用いられる。一方においては、それは検体または培養物(例えば、微生物培養物)を含むことが意図される。他方、それは生物学的および環境的試料の両方を含むことが意図される。試料は合成起源の検体を含みうる。生物学的試料は、ヒトを含む動物、体液、固体(例えば、便)または組織、加えて乳製品、野菜、肉および屠殺獣の肉以外の有用物、および廃棄物のような液体および固体の食物ならびに飼料生産物でありうる。生物学的試料は、様々な科の全ての家畜、加えて、限定されるわけではないが、有蹄動物、クマ、魚、ウサギ目の動物、齧歯類などのような動物を含む、野生化したまたは野生の動物から得ることができる。環境的試料は、表面物質、土壌、水、空気、および産業用試料のような環境的材料、加えて、食品および乳製品加工機器、装置、設備、用具、使い捨ておよび非使い捨て商品から得られる試料を含む。これらの例は、本発明に適用できる試料の種類を限定することとして解釈されるべきではない。「標的核酸の供給源」という用語は、核酸(RNAまたはDNA)を含む任意の試料を指す。標的核酸の特に好ましい供給源は、限定されるわけではないが、血液、唾液、脳脊髄液、胸膜液、乳、リンパ液、痰、および精液を含む生体試料である。
【0108】
本明細書に用いられる場合、「試料鋳型」という用語は、「標的」(下に定義されている)の存在について分析される試料が起源である核酸を指す。対照的に「バックグラウンド鋳型」は、試料に存在する場合もあるし、存在しない場合もある試料鋳型以外の核酸に関して用いられる。バックグラウンド鋳型はしばしば、汚染物質である。それは持ち越し汚染の結果である可能性がある、または試料から精製して除去することを求められる核酸夾雑物の存在による可能性がある。例えば、検出されるべきもの以外の生物体由来の核酸が、検査試料においてバックグラウンドとして存在する可能性がある。
【0109】
「セグメント」は、標的配列内の核酸の領域として本明細書に定義される。
【0110】
「自律的配列複製反応」(3SR)(Proc. Natl. Acad. Sci., 87:7797 [1990]における正誤表を含む、Guatelli et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 87:1874-1878 [1990])は、一定の温度でRNA配列を指数関数的に増幅できる転写に基づいたインビトロ増幅系(Kwok et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 86:1173-1177 [1989])である。増幅されたRNAは、その後、突然変異検出のために利用されうる(Fahy et al., PCR Meth. Appl., 1:25-33 [1991])。この方法において、オリゴヌクレオチドプライマーは、ファージRNAポリメラーゼプロモーターを対象となる配列の5'末端に付加するために用いられる。第二プライマー、逆転写酵素、RNアーゼH、RNAポリメラーゼ、およびリボヌクレオシド三リン酸およびデオキシリボヌクレオシド三リン酸を含む酵素ならびに基質のカクテルにおいて、標的配列は、対象となる領域を増幅するために転写、cDNA合成、および第二鎖合成のラウンドの繰り返しを受ける。突然変異を検出するための3SRの使用は、動態学的に、DNAの小さなセグメント(例えば、200〜300塩基対)をスクリーニングすることに制限される。
【0111】
本明細書に用いられる場合、「配列アラインメント」という用語は、複数のDNAまたはアミノ酸配列のリストを指し、それらの類似性を浮かび上がらせるようにそれらを整列させる。リストはバイオインフォマティックスコンピュータープログラムを用いて作成することができる。
【0112】
本発明との関連において、「種分化プライマー対」という用語は、生物因子の属または特定の属の群の種メンバーを同定する診断能力を有する生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対を指す。例えば、プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)は、アデノウイルス科の亜群および血清型メンバーを同定するために用いられる種分化プライマー対である。
【0113】
本明細書に用いられる場合、「亜種特徴」は、同じ生物因子種の2つのメンバーを区別するための手段を提供する遺伝的特徴である。例えば、1つのウイルス株は、RNA依存性RNAポリメラーゼのようなウイルス遺伝子のうちの1つにおいて遺伝的変化(例えば、例として、ヌクレオチド欠失、付加、または置換)を有することにより同じ種のもう一つのウイルス株と区別されうる。アデノウイルスの異なる血清型間の表現型の違いは、亜種特徴の原因である。
【0114】
本明細書に用いられる場合、「標的」という用語は、検出もしくは特徴付けられるべき核酸配列または構造を指す。従って、「標的」は、他の核酸配列から選別されることを求められ、オリゴヌクレオチドプライマーとの少なくとも部分的な相補性を有する配列を含む。標的核酸は、一本鎖もしくは二本鎖DNAまたはRNAを含みうる。「セグメント」は、標的配列内の核酸の領域として定義される。
【0115】
「鋳型」という用語は、相補的なコピーが、鋳型依存性核酸ポリメラーゼの活性を通してヌクレオシド三リン酸から構築される核酸の鎖を指す。二重鎖内のうち、鋳型鎖が慣例により「ボトム」鎖として描かれ、記載される。同様に、非鋳型鎖はしばしば「トップ」鎖として描かれ、記載される。
【0116】
本明細書に用いられる場合、「Tm」という用語は「融解温度」に関して用いられる。融解温度は、二本鎖核酸分子集団の半分が一本鎖へ解離する温度である。核酸のTmを計算するためのいくつかの方程式は当技術分野において周知である。標準的な参考文献により示されているように、Tm値の単純な推定は、核酸が1M NaClの水溶液中にある場合、方程式:Tm=81.5+0.41(%G+C)により計算されうる(例えば、Anderson and Young, Quantitative Filter Hybridization, in Nucleic Acid Hybridization (1985)を参照)。他の参考文献(例えば、Allawi, H. T. & SantaLucia, J., Jr. Thermodynamics and NMR of internal G.T mismatches in DNA. Biochemistry 36, 10581-94 (1997))は、Tmの計算のために構造的および環境的、加えて配列特徴を考慮に入れる、より精巧な計算法を含む。
【0117】
「三角測量遺伝子型決定分析(triangulation genotyping analysis)」という用語は、複数の遺伝子の領域の増幅により得られる、生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物の分子量または塩基組成の測定により生物因子を遺伝子型決定する方法を指す。この意味において、「三角測量」という用語は、同じ所見に関係する独立した観点のうちの3つまたはそれ以上の型を比較することにより情報の正確さを確立する方法を指す。複数の三角測量遺伝子型決定分析プライマーで行われた三角測量遺伝子型決定分析は、複数の塩基組成を生じ、それらの塩基組成がその後、種型が割り当てられうるパターンまたは「バーコード」を提供する。種型は、既知の亜種もしくは株を表してもよく、または未知の遺伝子型の存在を示す、特異的かつこれまで観察されていない塩基組成バーコードを有する、未知の株であってもよい。
【0118】
本明細書に用いられる場合、「三角測量遺伝子型決定分析プライマー対」という用語は、三角測量遺伝子型決定分析において種型を決定するための生物因子同定単位複製配列を産生するように設計されたプライマー対である。
【0119】
生物因子の同定のための複数の生物因子同定単位複製配列の使用は、本明細書では「三角測量同定」と呼ばれる。三角測量同定は、異なるプライマー対で産生された複数の生物因子同定単位複製配列を分析することにより遂行される。この工程は、偽陰性および偽陽性信号を低減させるために用いられ、雑種または操作された生物因子の起源を再構築することを可能にする。例えば、炭疽菌(B. anthracis)ゲノムからの予想されるシグネチャーの非存在下における炭疽菌に特有の3部分からなる毒素遺伝子(Bowen et al., J. Appl. Microbiol., 1999, 87, 270-278)の同定は、遺伝子改変事象を示唆するであろう。
【0120】
本発明との関連において、「未知の生物因子」という用語は、以下のいずれかを意味しうる:(i)存在が公知だが(例えば、周知の細菌種黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような)、分析されるべき試料にあることは知られていない生物因子、または(ii)存在が未知の生物因子(例えば、SARSコロナウイルスは2003年4月より前には知られていなかった)。例えば、同一出願による米国特許出願第10/829,826号(全体として参照により本明細書に組み入れられている)に開示されたコロナウイルスの同定方法が、2003年4月以前に臨床試料中のSARSコロナウイルスを同定するために用いられた場合、SARSコロナウイルスは2003年4月より前の科学には知られていなかったため、ならびに何の生物因子(この場合、コロナウイルス)が試料に存在するか知られていなかったため、「未知の」生物因子の両方の意味が適用できる。他方、米国特許出願第10/829,826号の方法が、臨床試料においてSARSコロナウイルスを同定するために2003年4月の後に用いられるつもりだった場合には、SARSコロナウイルスが2003年4月より後の科学に知られるようになったため、および何の生物因子が試料に存在するか知られていなかったため、「未知の」生物因子の第一の意味(i)のみが適用される。
【0121】
本明細書に用いられる場合、「可変配列」という用語は、2つの核酸間の核酸配列における違いを指す。例えば、2つの異なる細菌種の遺伝子は、一塩基置換、および/または1つもしくは複数のヌクレオチドの欠失もしくは挿入の存在により配列が異なってもよい。これらの構造遺伝子の2つの型は、お互いと配列が異なると言われる。本発明との関連において、「ウイルス核酸」は、限定されるわけではないが、DNA、RNA、または例えば、逆転写反応を行うことによるように、ウイルスRNAから得られているDNAを含む。ウイルスRNAは、一本鎖(正または負方向性の)または二本鎖のいずれかでありうる。
【0122】
「ウイルス」という用語は、自律複製の能力がない(すなわち、複製は宿主細胞の機構の使用を必要とする)、超顕微鏡的絶対寄生生物を指す。ウイルスは宿主細胞の外側で生存できるが、複製することができない。
【0123】
「野生型」という用語は、天然源から単離された場合のその遺伝子または遺伝子産物の特徴を有する遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、集団において最も頻繁に観察されるものであり、それに従って、遺伝子の「正常の」または「野生型の」型と任意で名付けられる。対照的に、「改変された」、「突然変異体」、または「多型」という用語は、野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合、配列および/または機能的性質において改変(すなわち、変化した特徴)を示す遺伝子または遺伝子産物を指す。天然の突然変異体は単離されうることに留意されたい;これらは、それらが野生型遺伝子または遺伝子産物と比較した場合、変化した特徴を有するという事実により同定される。
【0124】
本明細書に用いられる場合、「ウォッブル塩基」は、DNAトリプレットの第三のヌクレオチド位置に見出されるコドンにおける変異である。配列の保存領域における変異は、アミノ酸コードにおける重複性によって、しばしば、第三のヌクレオチド位置に見出される。
【0125】
態様の詳細な説明
A. 生物因子同定単位複製配列
本発明は、生物因子同定単位複製配列を用いて未知の生物因子の検出および同定のための方法を提供する。プライマーは、生物因子由来の核酸の保存配列領域にハイブリダイズするように選択され、可変配列領域をくるめて、生物因子同定単位複製配列を生じ、その生物因子同定単位複製配列は増幅されることができ、かつ分子量測定を受け入れられる。分子量は、その後、生物因子の予想されるアイデンティティの予備的知識の必要性なしに生物因子を一意的に同定するための手段を提供する。増幅産物の分子量または対応する塩基組成シグネチャーは、その後、分子量または塩基組成シグネチャーのデータベースに対して一致させられる。分析された増幅産物の実験的に決定された分子量または塩基組成が、既知の生物因子同定単位複製配列の既知の分子量または塩基組成と比較されて、実験的に決定された分子量または塩基組成が、既知の生物因子同定単位複製配列のうちの1つの分子量または塩基組成と同じである場合、一致が得られる。または、実験的に決定された分子量または塩基組成は、既知の生物因子同定単位複製配列の分子量または塩基組成の実験誤差内にあり、なお一致として分類される場合もある。場合によっては、同一出願による、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願第11/073,362号に記載されたモデルのように一致モデルの確率を用いて一致がまた分類されうる。さらになお、方法は、迅速な並列多重分析に適用されることができ、その結果は三角測量同定ストラテジーに用いられうる。本方法は、高速処理能力を提供し、生物因子の検出および同定のために増幅された標的配列の核酸シーケンシングを必要としない。
【0126】
膨大な生物学的多様性にも関わらず、地球上のあらゆる型の生命は、それらのゲノムに必須の共通した特徴のセットを共有する。遺伝的データは本発明の方法による生物因子の同定のための根底にある基礎を提供するため、理想的には、各個々の生物因子を区別するのに十分な可変性を提供し、かつその分子量が分子量測定を受け入れられる核酸のセグメントを選択することが必要である。
【0127】
すべての生物体に渡って多数の遺伝子の保存(すなわち、ハウスキーピング遺伝子)を示す細菌ゲノムと違って、ウイルスは、すべてのウイルス科の間で必須でありかつ保存されている遺伝子を共有しない。それゆえに、ウイルス同定は、特定のウイルス科または属のメンバーのような、関連したウイルスのより小さな群内で達成される。例えば、RNA依存性RNAポリメラーゼは、すべての一本鎖RNAウイルスに存在し、幅広いプライミングおよびウイルス科内での分解能のために用いられうる。
【0128】
本発明のいくつかの態様において、少なくとも1つのウイルス核酸セグメントは、生物因子を同定する過程において増幅される。従って、本明細書に開示されたプライマーにより増幅されうる、および各個々の生物因子を区別するのに十分な可変性を提供する、およびその分子量が分子量測定を受け入れられる核酸セグメントが、生物因子同定単位複製配列として本明細書に記載されている。
【0129】
本発明のいくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列は約45核酸塩基から約150核酸塩基までを含むが(すなわち、約45個から約200個までの連結したヌクレオシド)、より長い領域もより短い領域も用いられうる。当業者は、本発明が、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、および150核酸塩基長、またはその内の任意の範囲の化合物に具体化することは理解していると思われる。
【0130】
生物因子同定単位複製配列を構成するのは、プライマーがハイブリダイズする生物因子核酸セグメントの部分(ハイブリダイゼーション部位)、およびプライマーハイブリダイゼーション部位の間の可変領域の組み合わせである。
【0131】
いくつかの態様において、本明細書に記載されたプライマーにより産生される、分子量測定を受け入れられる生物因子同定単位複製配列は、分子量測定の特定の様式に適合する、もしくは分子量測定の特定の様式と適合する長さの予測可能な断片を得るために予測可能な断片化パターンを提供する手段と適合する長さ、サイズ、または質量のいずれかである。増幅産物の予測可能な断片化パターンを提供するそのような手段は、限定されるわけではないが、例えば、化学試薬、制限酵素、または切断プライマーでの切断を含む。従って、いくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列は、150核酸塩基より大きく、制限消化後に分子量測定を受け入れられる。制限酵素および切断プライマーを用いる方法は当業者にとって周知である。
【0132】
いくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物は、分子生物学分野の業者にとってルーチン的方法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて得られる。リガーゼ連鎖反応(LCR)、低ストリンジェンシー単一プライマーPCR、および多重鎖置換増幅(MDA)のような他の増幅方法が用いられうる。これらの方法もまた、当業者に公知である。
【0133】
B. プライマーおよびプライマー対
いくつかの態様において、プライマーは、介在可変領域に隣接する、生物因子同定単位複製配列の保存配列領域に結合し、各個々の生物因子を区別するのに十分な可変性を提供しかつ分子量分析を受け入れられる増幅産物を生じるように設計される。いくつかの態様において、高度に保存された配列領域は、約80〜100%、または約90〜100%、または約95〜100%同一性、または約99〜100%同一性を示す。所与の増幅産物の分子量は、可変領域の可変性によって、それが得られた生物因子を同定する手段を提供する。従って、プライマーの設計は、所与の生物因子のアイデンティティを決定するための十分な可変性を有する可変領域の選択を含む。いくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列は、生物因子のアイデンティティに特異的である。
【0134】
いくつかの態様において、生物因子の同定は、各個々の同定レベルの分解能に適したプライマーを用いて異なるレベルで達成される。広範囲調査プライマーは、特定の部門の要素(例えば、目、科、属、または生物因子の種レベルより上の生物因子の他のそのような分類)と生物因子を同定することを目的として設計される。いくつかの態様において、広範囲調査インテリジェントプライマーは、種または亜種レベルにおける生物因子の同定の能力がある。
【0135】
いくつかの態様において、掘り下げプライマーは、例えば、一塩基多型(SNPs)、変数タンデム型反復(VNTR)、欠失、薬剤耐性突然変異、または異なる亜種特徴を有する種の他のメンバーと比較しての生物因子の核酸配列の任意の他の改変を含みうる亜種特徴に基づいた亜種レベル(株、亜類型、変異体、および分離株を含む)で生物因子を同定することを目的として設計される。掘り下げインテリジェントプライマーは、広範囲調査インテリジェントプライマーが、場合によっては、この同定目的を達成することに十分な同定分解能を提供しうるため、必ずしも亜種レベルでの同定を必要とされるとは限らない。
【0136】
プライマー選択および確証工程に用いられる代表的なプロセスフロー図は図1に概要を示されている。生物体の各群について、候補標的配列が同定され(200)、そこからヌクレオチドアラインメントが作成され(210)、そして分析される(220)。プライマーは、その後、適切なプライミング領域を選択することにより設計され(230)、候補プライマー対の選択を促進する(240)。プライマー対は、その後、電子PCR(ePCR)によるインシリコ分析に供され(300)、生物因子同定単位複製配列が、GenBankまたは他の配列コレクションのような配列データベースから得られ(310)、インシリコで特異性をチェックされる(320)。GenBank配列から得られた生物因子同定単位複製配列(310)はまた、未知の生物因子を同定する所与の単位複製配列の能力を予測する確率モデルにより分析されることができ、好ましい確率スコアを有する単位複製配列の塩基組成がその後、塩基組成データベースに記憶される(325)。または、プライマーおよびGenBank配列から得られた生物因子同定単位複製配列の塩基組成は、塩基組成データベースへ直接的に入力されうる(330)。候補プライマー対(240)は、生物体のコレクション(410)由来の核酸のPCR分析(400)のような方法によるインビトロ増幅による標的核酸にハイブリダイズするそれらの能力を試験することにより確証される。このように得られた増幅産物は、増幅産物を得るために用いられるプライマーの感度、特異性、および再現性を確認するためにゲル電気泳動により、または質量分析により分析される(420)。
【0137】
生物戦争物質として最大の関心事である生物体を含む重要な病原体の多くは、完全にシーケンシングされている。この努力は、未知の生物因子の検出のためのプライマーの設計を大いに促進している。部門に渡る広範囲プライミングおよび掘り下げプライミングの組み合わせは、生物戦争用脅威剤についての環境調査および医学的に重要な病原体についての臨床試料分析を含む技術のいくつかの適用において用いることに非常に成功している。
【0138】
プライマーの合成は当技術分野において周知かつルーチンである。プライマーは、便利にかつルーチン的に、固相合成の周知技術によって作製されうる。そのような合成の設備は、例えば、Applied Biosystems(Foster City, CA)を含むいくつかのベンダーにより販売されている。当技術分野において公知のそのような合成のための任意の他の手段は追加として、または代替として、用いられうる。
【0139】
いくつかの態様において、プライマーは、以下のようにウイルス生物因子の同定のための方法に用いる組成物として使用される:プライマー対組成物を、未知のウイルス生物因子の核酸(例えば、DNAウイルス由来のDNA、またはRNAウイルスのRNAから逆転写されたDNAのような)と接触させる。核酸は、その後、生物因子同定単位複製配列を表す増幅産物を得るために、例えば、PCRのような核酸増幅技術により増幅される。二本鎖増幅産物の各鎖の分子量は、例えば、質量分析のような分子量測定技術により決定され、二本鎖増幅産物の2つの鎖はイオン化過程中に分離される。いくつかの態様において、質量分析は、エレクトロスプレーフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(ESI-FTICR-MS)またはエレクトロスプレー飛行時間質量分析(ESI-TOF-MS)である。予想される塩基組成のリストは、各鎖について得られた分子量値について作成されることができ、リストからの正しい塩基組成の選択は、一方の鎖の塩基組成を他方の鎖の相補的な塩基組成とマッチさせることにより容易になる。このように決定された分子量または塩基組成は、その後、既知のウイルス生物因子についての類似した生物因子同定単位複製配列の分子量または塩基組成のデータベースと比較される。増幅産物の分子量または塩基組成と、既知のウイルス生物因子についての類似した生物因子同定単位複製配列の分子量または塩基組成の間の一致は、未知の生物因子のアイデンティティを示す。いくつかの態様において、用いられるプライマー対は表2のプライマー対の1つである。いくつかの態様において、方法は、同定工程における可能性のあるあいまいさを除くために、または同定割当についての信頼水準を向上させるために、1つまたは複数の異なるプライマー対を用いて繰り返される。
【0140】
いくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列は、例えば、低ストリンジェンシー単一プライマーPCR(LSSP-PCR)のような適切な増幅方法が選択されるとの条件で、単一のプライマーだけ(任意の所与のプライマー対のフォワードプライマーかまたはリバースプライマーのいずれか)を用いて産生されうる。生物因子同定単位複製配列を産生するためのこの増幅反応の適応は、過度の実験なしに当業者により達成されうる。
【0141】
いくつかの態様において、オリゴヌクレオチドプライマーは、すべて(または80%と100%の間、85%と100%の間、90%と100%の間、もしくは95%と100%の間)の既知のアデノウイルスのヘキソン遺伝子をコードする核酸の保存領域にハイブリダイズし、アデノウイルス同定単位複製配列を産生する広範囲調査プライマーである。
【0142】
場合によっては、広範囲調査プライマー対により定義されるウイルス生物因子同定単位複製配列の分子量または塩基組成は、ウイルス生物因子を種レベルでまたは種レベルより下で、あいまいでなく同定するのに十分な分解能を提供しない。これらの場合は、少なくとも1つの追加の広範囲調査プライマー対から、または少なくとも1つの追加の部門に渡るプライマー対から作製される1つまたは複数のウイルス生物因子同定単位複製配列から恩恵を受ける。生物因子の同定のための複数の生物因子同定単位複製配列の使用は、本明細書では三角測量同定と呼ばれている。
【0143】
他の態様において、オリゴヌクレオチドプライマーは、ウイルスの属内の種の遺伝子をコードする核酸にハイブリダイズする部門に渡るプライマーである。他の態様において、オリゴヌクレオチドプライマーは、亜種特徴の同定を可能にする掘り下げプライマーである。掘り下げプライマーは、増幅条件下で核酸と接触した場合、株タイピングのような掘り下げ分析のための生物因子同定単位複製配列を産生する機能性を提供する。そのような亜種特徴の同定は、しばしば、ウイルス感染の正しい臨床的処置を決定するにとって重要である。いくつかの態様において、亜種特徴は、広範囲調査プライマーのみを用いて同定され、掘り下げプライマーは用いられない。
【0144】
いくつかの態様において、増幅に用いられるプライマーは、ゲノムDNA、細菌プラスミドのDNA、DNAウイルスのDNA、またはRNAウイルスのRNAから逆転写されたDNAにハイブリダイズし、増幅する。
【0145】
いくつかの態様において、増幅に用いられるプライマーは、ウイルスRNAへ直接的にハイブリダイズし、ウイルスRNAの直接的増幅からDNAを得るための逆転写プライマーとして働く。RNAを増幅し、逆転写酵素を用いてcDNAを生成する方法は、当業者にとって周知であり、過度の実験なしにルーチン的に確立されうる。
【0146】
いくつかの態様において、Primer Premier 5(Premier Biosoft, Palo Alto, CA)またはOLIGO Primer Analysis Software(Molecular Biology Insights, Cascade, CO)のような様々なコンピューターソフトウェアプログラムが、増幅反応のためのプライマーの設計を助けるために用いられうる。これらのプログラムは、例えば、プライマー-鋳型二重鎖の融解温度のような所望のハイブリダイゼーション条件をユーザーが入力することを可能にする。いくつかの態様において、(ePCR)のようなインシリコでのPCR検索アルゴリズムは、例えば、GenBankのような公開配列データベースから容易に得られうる複数の鋳型配列に渡るプライマー特異性を分析するために用いられる。既存のRNA構造検索アルゴリズム(全体として参照により本明細書に組み入れられている、Macke et al., Nucl. Acids Res., 2001, 29, 4724-4735)は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学計算のようなPCRパラメーターを含むように改変されている(全体として参照により本明細書に組み入れられている、SantaLucia, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1998, 95, 1460-1465)。これはまた、選択されたプライマー対のプライマー特異性に関する情報を提供する。いくつかの態様において、アルゴリズムに適用されるハイブリダイゼーション条件は、アルゴリズムから得られるプライマー特異性の結果を制限しうる。いくつかの態様において、プライマー鋳型二重鎖についての融解温度閾値は、35℃またはより高い温度であるように設定される。いくつかの態様において、許容できるミスマッチの数は、7つのミスマッチまたはそれ未満であるように設定される。いくつかの態様において、緩衝液成分および濃度ならびにプライマー濃度は設定されて、アルゴリズムへ組み入れられうるが、例えば、適切なプライマー濃度は約250nMであり、適切な緩衝液成分は、50mMナトリウムまたはカリウム、および1.5mM Mg2+である。
【0147】
増幅プライマーの設計の分野の業者は、与えられるプライマーが、増幅反応において相補的核酸鎖の合成を効果的にプライミングするために100%相補性でハイブリダイズする必要はないことを認識していると思われる。さらに、プライマーは、介在または隣接セグメントがハイブリダイゼーション事象に関与しないように1つまたは複数のセグメントに渡ってハイブリダイズしうる(例えば、例として、ループ構造またはヘアピン構造)。本発明のプライマーは、表2に列挙されたプライマーのいずれかと少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%配列同一性を含みうる。従って、本発明のいくつかの態様において、配列同一性の70%〜100%、またはその内の任意の範囲の変動の程度は、本明細書に開示された特異的なプライマー配列に対して可能である。配列同一性の決定は、以下の例に記載されている:2個の非同一残基を有するもう一つの20核酸塩基プライマーと同一である20核酸塩基長のプライマーは、20個のうちの18個の同一残基を有する(18/20=0.9または90%配列同一性)。もう一つの例において、20核酸塩基長のプライマーの15核酸塩基のセグメントと同一のすべての残基を有する15核酸塩基長のプライマーは、20核酸塩基のプライマーと15/20=0.75または75%配列同一性を有する。
【0148】
パーセント相同性、配列同一性または相補性は、例えば、Smith and Watermanのアルゴリズム(Adv. Appl. Math., 1981, 2, 482-489)を用いる、デフォルト設定を使用しての、Gapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for UNIX, Genetics Computer Group, University Research Park, Madison WI)により、決定されうる。いくつかの態様において、ウイルス核酸の保存されたプライミング領域に対するプライマーの相補性は、約70%と約75%80%の間である。他の態様において、相同性、配列同一性または相補性は、約75%と約80%の間である。さらに他の態様において、相同性、配列同一性または相補性は、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%である、または100%である。
【0149】
いくつかの態様において、本明細書に記載されたプライマーは、本明細書に具体的に開示されたプライマー配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%、または100%(またはその内の任意の範囲)配列同一性を含む。
【0150】
当業者は、パーセント配列同一性またはパーセント配列相同性を計算することができ、対応する生物因子同定単位複製配列の増幅産物の産生のための核酸の相補鎖の合成をプライミングすることにおけるその役割においてのプライマーの機能へのプライマー配列同一性の変動の効果を過度の実験なしに測定できる。
【0151】
一つの態様において、プライマーは少なくとも13核酸塩基長である。もう一つの態様において、プライマーは36核酸塩基長未満である。
【0152】
本発明のいくつかの態様において、オリゴヌクレオチドプライマーは13〜35核酸塩基長(13〜35個の連結したヌクレオチド残基)である。これらの態様は、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、もしくは35核酸塩基長、またはその内の任意の範囲のオリゴヌクレオチドプライマーを含む。本発明は、より長いプライマーおよびより短いプライマーの両方を用いることを企図する。さらになお、プライマーはまた、親和性基、リガンド、増幅されるべき核酸と相補的ではない核酸の領域、標識などを含む、1つまたは複数の他の望ましい部分に連結されうる。プライマーはまた、ヘアピン構造を形成しうる。例えば、ヘアピンプライマーは、短い標的核酸分子を増幅するために用いられうる。ヘアピンの存在は、増幅複合体を安定化しうる(例えば、TAQMAN MicroRNA Assays, Applied Biosystems, Foster City, Californiaを参照)。
【0153】
いくつかの態様において、任意のオリゴヌクレオチドプライマー対は、プライマー対が生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物を産生する能力を有する場合には、表2のプライマー対のいずれかの対応する要素と70%未満の配列相同性を有する1つのまたは両方のプライマーを有しうる。他の態様において、任意のオリゴヌクレオチドプライマー対は、プライマー対が生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物を産生する能力を有する場合には、35核酸塩基より大きい長さを有する1つまたは複数のプライマーを有しうる。
【0154】
いくつかの態様において、所定のプライマーの機能は、ポリメラーゼが増幅反応において2つまたはそれ以上のプライマーを伸長することを可能にする、お互いに隣接してハイブリダイズする、または核酸ループ構造もしくはリンカーにより連結されている、2つまたはそれ以上のプライマーセグメントの組み合わせによって置換されうる。
【0155】
いくつかの態様において、生物因子同定単位複製配列を得るために用いられるプライマー対は、表2のプライマー対である。他の態様において、プライマー対の他の組み合わせは、フォワードプライマーの特定の要素をリバースプライマーの特定の要素と組み合わせることにより可能である。例は、ファワードプライマーHEX_HAD_-6_18_F(SEQ ID NO:47)のリバースプライマーHEX_HAD_86_105_2_R(SEQ ID NO:123)またはHEX_HAD_61_84_R(SEQ ID NO:81)との2つのプライマー対組み合わせについて表2に見られうる。プライマー対におけるプライマーの好ましい代替の組み合わせに達することは、プライマー対の性質、最も顕著には、プライマー対により産生される生物因子同定単位複製配列のサイズで、約45〜約150核酸塩基長であるべきサイズ、に依存する。または、150核酸塩基長より長い生物因子同定単位複製配列は、例えば、化学試薬または制限酵素のような切断試薬によりより小さなセグメントへ切断されうる。
【0156】
いくつかの態様において、プライマーは、質量分析により測定され、かつ分子量候補塩基組成が容易に計算されうる増幅産物を産生するために生物因子の核酸を増幅するように設定される。
【0157】
いくつかの態様において、任意の所定のプライマーは、プライマーの5'末端への非鋳型性T残基の付加を含む改変を含む(すなわち、付加されたT残基は必ずしも、増幅されることになっている核酸にハイブリダイズするとは限らない)。非鋳型性T残基の付加は、Taqポリメラーゼの非特異的酵素活性の結果としての非鋳型性アデノシン残基の付加(Magnuson et al., Biotechniques, 1996, 21, 700-709)、分子量分析から起こるあいまいな結果へと導く可能性がある発生、を最小限にする効果を生じる。
【0158】
本発明のいくつかの態様において、プライマーは1つまたは複数のユニバーサル塩基を含みうる。種間で保存された領域における任意の変異(第三位置におけるコドンウォッブルによる)は、DNA(またはRNA)トリプレットの第三位置に生じる可能性が高いため、オリゴヌクレオチドプライマーは、この位置に対応するヌクレオチドは、「ユニバーサル核酸塩基」と本明細書では呼ばれる、複数のヌクレオチドに結合できる塩基であるように設計されうる。例えば、この「ウォッブル」対形成下において、イノシン(I)はU、C、またはAに結合する;グアニン(G)はUまたはCに結合する、およびウリジン(U)はUまたはCに結合する。ユニバーサル核酸塩基の他の例は、5-ニトロインドールまたは3-ニトロピロールのようなニトロインドール(Loakes et al, Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1001-1003)、変性ヌクレオチドdPまたはdK(Hill et al.)、5-ニトロインダゾールを含む非環式ヌクレオシド類似体(Van Aerschot et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 1053-1056)、またはプリン類似体1-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-イミダゾール-4-カルボキサミド(Sala et al., Nucl. Acids Res., 1996, 24, 3302-3306)を含む。
【0159】
いくつかの態様において、ウォッブル塩基によるやや弱い結合を代償するために、オリゴヌクレオチドプライマーは、各トリプレットの第一および第二位置が、非修飾ヌクレオチドより大きな親和性で結合するヌクレオチド類似体によって占有されるように設計される。これらの類似体の例は、限定されるわけではないが、チミンに結合する2,6-ジアミノプリン、アデニンに結合する5-プロピニルウラシル(プロピニル化チミンとしても知られている)、ならびにGに結合する、G-クランプを含む5-プロピニルシトシンおよびフェノキサジンを含む。プロピニル化ピリミジンは、米国特許第5,645,985号、第5,830,653号、および第5,484,908号に記載されており、それらのそれぞれは同一出願人によるものであり、全体として参照により本明細書に組み入れられている。プロピニル化プライマーは、米国登録前の公開第2003-0170682号に記載されており、それもまた同一出願によるものであり、全体として参照により本明細書に組み入れられている。フェノキサジンは、米国特許第5,502,177号、第5,763,588号、および第6,005,096号に記載されており、それらのそれぞれは、全体として参照により本明細書に組み入れられている。G-クランプは米国特許第6,007,992号および第6,028,183号に記載されており、それらのそれぞれは全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【0160】
いくつかの態様において、急速に進化するRNAウイルスの幅広いプライミングのために、プライマーハイブリダイゼーションは、5-プロピニルデオキシ-シチジンおよびデオキシ-チミジンヌクレオチドを含むプライマーを用いて増強される。これらの修飾プライマーはしばしば、親和性および塩基対形成選択性を増加させた。
【0161】
いくつかの態様において、非鋳型プライマータグは、増幅効率を向上させるためにプライマー-鋳型二重鎖の融解温度(Tm)を増加させるために用いられる。非鋳型タグは、鋳型と相補的ではない、プライマー上の少なくとも3つの連続したAまたはTヌクレオチド残基である。任意の所与の非鋳型タグにおいて、AはCまたはGによって置換されることができ、TもまたCまたはGによって置換されうる。ワトソン-クリックハイブリダイゼーションは、鋳型に対して非鋳型タグについて起こるとは予想されないが、A-T対と比較してG-C対における余分な水素結合は、プライマー-鋳型二重鎖の安定性の増加を与え、プライマーが前のサイクルで合成された鎖にハイブリダイズする時の次の増幅のサイクルについての増幅効率を向上させる。
【0162】
他の態様において、プロピニル化タグは非鋳型タグのそれと類似した様式で用いることができ、2つまたはそれ以上の5-プロピニルシチジンまたは5-プロピニルウリジン残基がプライマー上の鋳型マッチング残基に取って代わる。他の態様において、プライマーは、例えば、ホスホロチオネート結合のような改変されたヌクレオシド間結合を含む。
【0163】
いくつかの態様において、プライマーは、質量改変タグを含む。特定の分子量の核酸の可能な塩基組成の総数を低下させることは、増幅産物の塩基組成の決定におけるあいまいさの根強い源を回避する手段を提供する。所定のプライマーの特定の核酸塩基への質量改変タグの付加は、結果として、その分子量からの所定の生物因子同定単位複製配列の塩基組成の新たな決定の単純化を生じる。
【0164】
本発明のいくつかの態様において、質量改変核酸塩基は、以下の1つまたは複数を含む:例えば、7-デアザ-2'-デオキシアデノシン-5-三リン酸、5-ヨード-2'-デオキシウリジン-5'-三リン酸、5-ブロモ-2'-デオキシウリジン-5'-三リン酸、5-ブロモ-2'-デオキシシチジン-5'-三リン酸、5-ヨード-2'-デオキシシチジン-5'-三リン酸、5-ヒドロキシ-2'-デオキシウリジン-5'-三リン酸、4-チオチミジン-5'-三リン酸、5-アザ-2'-デオキシウリジン-5'-三リン酸、5-フルオロ-2'-デオキシウリジン-5'-三リン酸、O6-メチル-2'-デオキシグアノシン-5'-三リン酸、N2-メチル-2'-デオキシグアノシン-5'-三リン酸、8-オキソ-2'-デオキシグアノシン-5'-三リン酸、またはチオチミジン-5'-三リン酸。いくつかの態様において、質量改変核酸塩基は、15N、または13C、または15Nおよび13Cの両方を含む。
【0165】
いくつかの態様において、複数の生物因子同定単位複製配列が複数のプライマー対で増幅される多重増幅が行われる。多重化の利点は、各分子量測定に、より少ない反応容器(例えば、96ウェルまたは384ウェルプレートのウェル)が必要とされ、追加の生物因子同定データが単一の分析内で得られうるため、時間、資源、および費用の節約を提供することである。多重増幅方法は、当業者にとって周知であり、過度の実験なしに展開しうる。しかしながら、いくつかの態様において、多重増幅のための複数の候補生物因子同定単位複製配列を選択するにおける一つの有用かつ非自明の段階は、各増幅産物の各鎖が、質量スペクトル信号が重複せず、かつあいまいな分析結果へと導かないであろうように十分に分子量において異なることを保証することである。いくつかの態様において、1つまたは複数の増幅産物の2つの鎖の質量における10Daの差は、質量スペクトルピークの重複を避けるのに十分である。
【0166】
いくつかの態様において、多重増幅の代替として、単一増幅反応物が、質量分析による分析の前にプールされうる。これらの態様において、多重増幅態様についてのように、各増幅産物の各鎖が、質量スペクトル信号が重複せず、かつあいまいな分析結果へと導かないであろうように十分に分子量において異なることを保証することが、複数の候補生物因子同定単位複製配列を選択するために有用である。
【0167】
C. 生物因子同定単位複製配列の分子量の測定
いくつかの態様において、所与の生物因子同定単位複製配列の分子量は、質量分析により測定される。質量分析は、いくつかの利点をもち、それらのうちで重要なことは、電荷に対する質量比(m/z)の幅広い範囲に渡って多くの分子ピークを分離する(および単離する)能力により特徴付けられる高いバンド幅である。従って、質量分析は、あらゆる増幅産物がその分子量により同定されるため、放射性または蛍光標識の必要性なしに、本質的に並列検出スキームである。質量分析における技術の現状は、材料のフェムトモル未満の量が容易に分析されて、試料の分子含有量についての情報を提供することができるほどである。材料の分子量の正確な評価は、試料の分子量が数百であろうが、10万原子質量単位(amu)またはダルトンを超えようがに関わらず、迅速に得られうる。
【0168】
いくつかの態様において、無傷分子イオンは、試料を気相へ変換する様々なイオン化技術の1つを用いて増幅産物から生成される。これらのイオン化方法は、限定されるわけではないが、エレクトロスプレーイオン化(ES)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、および高速原子衝撃(FAB)を含む。イオン化により、異なる電荷を有するイオンの形成により1つの試料から数個のピークが観察される。単一の質量スペクトルから得られた分子量の複数の読みを平均することは、生物因子同定単位複製配列の分子量の推定値を与える。エレクトロスプレー質量分析(ESI-MS)は、それが、有意な量の断片化を引き起こすことなく、試料の多価分子の分布を生じるため、10kDaより大きな分子量を有するタンパク質および核酸のような非常に高分子量ポリマーについて特に有用である。
【0169】
本発明の方法に用いられる質量検出器は、限定されるわけではないが、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、飛行時間(TOF)、イオントラップ、四重極、磁場、Q-TOF、および三連四重極を含む。
【0170】
D. 生物因子同定単位複製配列の塩基組成
インテリジェントプライマーを用いて得られた増幅産物の分子量は生物因子の同定のための手段を提供し、分子量データの塩基組成シグネチャーへの変換は特定の分析に有用である。本明細書に用いられる場合、「塩基組成」は生物因子同定単位複製配列の分子量から決定される各核酸塩基(A、T、C、およびG)の正確な数である。いくつかの態様において、塩基組成は、特定の生物体のインデックスを提供する。塩基組成は、既知の生物因子同定単位複製配列の既知の配列から計算することができる、および所与の生物因子同定単位複製配列の分子量を測定し、続いて許容できる実験誤差内で測定された分子量と一致するすべての可能な塩基組成を決定することにより実験的に決定することができる。以下の例は、炭疽菌(Bacillus anthracis)の16S rRNAの1337位に始まる46-mer増幅産物の実験的に得られた分子量からの塩基組成の決定を例証する。増幅産物のフォワード鎖およびリバース鎖は、それぞれ、14208Daおよび14079Daの分子量と測定されている。炭疽菌産物についてのフォワード鎖およびリバース鎖の分子量から導かれる予想される塩基組成は表1に列挙されている。
【0171】
(表1)炭疽菌46mer増幅産物についての予想される塩基組成

【0172】
計算されたフォワード鎖についての16個の予想される塩基組成およびリバース鎖についての18個の予想される塩基組成の中で、1個の対のみ(太字で示された)が相補的な塩基組成であり、増幅産物の真の塩基組成を示す。この論理は、対応する増幅産物が得られた生物因子のクラスに関わらず、任意の因子同定単位複製配列の塩基組成の決定に適用できることは認識されているはずである。
【0173】
いくつかの態様において、以前には観察されていない塩基組成(「真の未知の塩基組成」としても知られている)の所定の系統発生への割当は、パターン分類器モデルアルゴリズムの使用によって達成されうる。配列のような塩基組成は、例えば、種内の株によってわずかに異なる。いくつかの態様において、パターン分類器モデルは、突然変異の確率モデルである。他の態様において、パターン分類器は、ポリトープモデルである。突然変異の確率モデルおよびポリトープモデルは両方とも、同一出願人によるものであり、全体として参照により本明細書に組み入れられている米国特許出願第11/073,362号に記載されている。
【0174】
一つの態様において、各種についての組成制約の周りに「塩基組成確率雲」を構築することによりこの多様性を管理することは可能である。これは、配列分析に類似した様式で生物体の同定を可能にする。「偽の4次元プロット」は、塩基組成確率雲の概念を可視化するために用いられうる。最適なプライマー設計は、生物因子同定単位複製配列の最適な選択を必要とし、個々の生物因子の塩基組成シグネチャー間の分離を最大限にする。雲が重複する区域は、結果として、誤分類、塩基組成確率雲の重複により影響を及ぼされない生物因子同定単位複製配列を用いる三角測量同定方法により克服される問題、を生じうる領域を示す。
【0175】
いくつかの態様において、塩基組成確率雲は、塩基組成の可能性のある誤分類を避けるために可能性のあるプライマー対をスクリーニングするための手段を提供する。他の態様において、塩基組成確率雲は、割り当てられた塩基組成が、その核酸配列における進化的遷移によって、以前には観察されていなかった、および/または生物因子同定単位複製配列塩基組成データベースにおいてインデックスを付けられてなかった生物因子の同定を予測するための手段を提供する。従って、プローブに基づいた技術と対照的に、塩基組成の質量分析測定は、測定するために配列の組成の予備的知識を必要としない。
【0176】
本発明は、所与の生物因子を同定するのに十分なレベルのDNAシーケンシングおよび系統学的分析に類似した生物因子分類情報を提供する。さらになお、所与の生物因子についての以前に知られていない塩基組成(例えば、配列情報が入手できない場合)の決定の工程は、どれが塩基組成データベースに存在しているかに関する追加の生物因子インデックス情報を提供することにより、下流での有用性を有する。将来の生物因子同定の工程は、従って、より多くのBCSインデックスが塩基組成データベースで利用可能になるため、大いに向上する。
【0177】
E. 三角測量同定
場合によっては、単一の生物因子同定単位複製配列の分子量のみは、所与の生物因子をあいまいでなく同定するのに十分な分解能を提供しない。生物因子の同定のための複数の生物因子同定単位複製配列の使用は、本明細書では「三角測量同定」と呼ばれる。三角測量同定は、複数のハウスキーピング遺伝子内で選択された複数の生物因子同定単位複製配列の分子量を測定することにより遂行される。この工程は、偽陰性および偽陽性信号を低減させるために用いられ、雑種または操作された生物因子の起源の再構築を可能にする。例えば、炭疽菌ゲノムからの予想されるシグネチャーの非存在下における炭疽菌に特有の3部分からなる毒素遺伝子(Bowen et al., J. Appl. Microbiol., 1999, 87, 270-278)の同定は、遺伝子改変事象を示唆するものと思われる。
【0178】
いくつかの態様において、三角測量同定工程は、複数のプライマーが同じ増幅反応混合物に用いられる多重PCR、または異なってかつ固有のプライマー対が他の点では同一の反応混合物を含む複数ウェルに用いられる複数ウェルプレート型式におけるPCRのようなポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて超並列様式で生物因子同定単位複製配列の特徴付けにより遂行されうる。そのような多重および複数ウェルPCR方法は、核酸の高速処理能力増幅の分野における業者にとって周知である。他の関連した態様において、ウェルまたは容器あたり1つのPCR反応を行い、異なるウェルの増幅産物を、その後分子量分析に供する単一のウェルまたは容器に混合する単位複製配列プール段階が続く。プールされた単位複製配列の組み合わせは、個々の単位複製配列の分子量の予想される範囲が重複せず、それに従って、信号の同定を複雑にしないように選択されうる。
【0179】
F. コドン塩基組成分析
本発明のいくつかの態様において、感染性生物体の遺伝子のコドン内の1つまたは複数のヌクレオチド置換は、コドン塩基組成分析により決定されうる生物体に薬剤耐性を与える。生物体は細菌、ウイルス、真菌、または原生動物でありうる。
【0180】
いくつかの態様において、分析されることになっているコドンを含む増幅産物は、約35〜約200核酸塩基の長さである。増幅産物を得るのに用いられるプライマーは、コドンに直接隣接した上流および下流配列にハイブリダイズすることができる、またはコドンから1つもしくは複数の配列位置だけ離れた上流および下流配列にハイブリダイズすることができる。プライマーは、分析されることになっているコドンを含む遺伝子の配列と約70%〜100%配列相補性を有しうる。
【0181】
いくつかの態様において、コドン塩基組成分析が企てられる。
【0182】
いくつかの態様において、コドン分析は、個体において遺伝的疾患を調べることを目的として企てられる。他の態様において、コドン分析は、細菌、ウイルス、真菌、または原生動物のような感染性生物体において薬剤耐性突然変異または任意の他の有害な突然変異を調べることを目的として企てられる。いくつかの態様において、ウイルスは、生物学的産物において同定されるアデノウイルスである。
【0183】
いくつかの態様において、分析されることになっているコドンを含む増幅産物の分子量は質量分析により測定される。質量分析は、エレクトロスプレー(ESI)質量分析またはマトリックス支援脱離イオン化(MALDI)質量分析のいずれかでありうる。飛行時間(TOF)は、本発明の分析に適合する質量分析の1つの様式の例である。
【0184】
本発明の方法は、分析されることになっている生物体の薬剤耐性株の相対存在量を測定するために用いられうる。相対存在量は、内部較正物質に対する質量スペクトル信号の振幅から計算されうる。いくつかの態様において、内部増幅較正物質の既知量が増幅反応に含まれ、分析物増幅産物の存在量は較正物質の既知量に対して推定されうる。
【0185】
いくつかの態様において、個体に感染する感染性生物体の1つまたは複数の薬剤耐性株の同定により、1つまたは複数の代わりの処置が個体を処置するために工夫されうる。
【0186】
G. 生物因子の量の測定
いくつかの態様において、未知の生物因子のアイデンティティおよび量は、図2に示された過程を用いて測定されうる。プライマー(500)および較正ポリヌクレオチド(505)の既知量を、未知の生物因子の核酸を含む試料に添加する。試料中の全核酸を、その後、増幅反応に供し(510)、増幅産物を得る。増幅産物の分子量を測定し(515)、そこから、分子量および存在量データを得る。生物因子同定単位複製配列の分子量(520)は、その同定のための手段を提供し(525)、較正ポリヌクレオチドから得られた較正単位複製配列の分子量(530)はその同定の手段を提供する(535)。生物因子同定単位複製配列の存在量データを記録し(540)、較正データについての存在量データを記録し(545)、それらの両方を、試料中の未知の生物因子の量を決定する計算に用いる(550)。
【0187】
未知の生物因子を含む試料を、生物因子由来の核酸の増幅のための手段を提供するプライマー対、および較正配列を含むポリヌクレオチドの既知量と接触させる。生物因子の核酸および較正配列の核酸を増幅し、増幅の率は、合理的には、生物因子の核酸および較正配列の核酸について類似していると仮定される。増幅反応はその後、2つの増幅産物:生物因子同定単位複製配列および較正単位複製配列を生じる。生物因子同定単位複製配列および較正単位複製配列は、本質的に同じ率で増幅されているが、分子量により区別可能であるはずである。示差的な分子量をもたらすことは、較正配列として代表的な生物因子同定単位複製配列(特定の種の生物因子由来)を選択し、例えば、2つのプライミング部位の間の可変領域内に2〜8核酸塩基の欠失または挿入を行うことにより達成されうる。生物因子同定単位複製配列および較正単位複製配列を含む増幅産物を、その後、例えば、質量分析による分子量分析に供する。生物因子の核酸および較正配列の核酸の結果として生じる分子量分析は、生物因子の核酸および較正配列の核酸についての分子量データおよび存在量データを提供する。生物因子の核酸について得られた分子量データは、未知の生物因子の同定を可能にし、存在量データは、試料と接触した較正ポリヌクレオチドの量の知識に基づいて、生物因子の量の計算を可能にする。
【0188】
いくつかの態様において、試料へスパイクされた較正ポリヌクレオチドの量が様々である標準曲線の作成は、試料中の生物因子の量の測定についてさらなる分解能および向上した信頼度を提供する。分子量の分析測定のための標準曲線の使用は、当業者にとって周知であり、過度の実験なしに行われうる。
【0189】
いくつかの態様において、複数の生物因子同定単位複製配列が、対応する標準構成配列もまた増幅する複数のプライマー対で増幅される、多重増幅が行われる。これを始めとする態様において、標準較正配列は、任意で、較正ポリヌクレオチドとして機能する単一のベクター内に含まれる。多重増幅反応は、当業者にとって周知であり、過度の実験なしに行われうる。
【0190】
いくつかの態様において、較正ポリヌクレオチドは、増幅条件およびその後の分析段階が、測定可能な単位複製配列を生じることに成功していることを確認するために内部陽性対照として用いられる。生物因子のゲノムのコピーの非存在下においてさえも、較正ポリヌクレオチドは、較正単位複製配列を生じるべきである。測定可能な較正単位複製配列を生じることの失敗は、増幅の失敗、または単位複製配列精製もしくは分子量測定のようなその後の分析段階の失敗を示す。そのような失敗が起きたという結論に達することは、それ自体、有用な事象である。
【0191】
いくつかの態様において、較正配列は、DNAで構成される。いくつかの態様において、較正配列はRNAで構成される。
【0192】
いくつかの態様において、較正配列は、較正ポリヌクレオチドとしてそれ自身機能するベクターへ挿入される。いくつかの態様において、複数の較正配列が、較正ポリヌクレオチドとして機能するベクターへ挿入される。そのような較正ポリヌクレオチドは、本明細書で「組み合わせ較正ポリヌクレオチド」と呼ばれる。ベクターへポリヌクレオチドを挿入する工程は、当業者にとってルーチンであり、過度の実験なしに達成されうる。従って、較正方法が本明細書に記載された態様に限定されるべきではないことは認識されているはずである。較正方法は、適切な標準較正物質ポリヌクレオチド配列が設計されて用いられる場合、任意の生物因子同定単位複製配列の量の測定に適用されうる。較正物質の挿入のための適切なベクターを選択する工程もまた、過度の実験なしに当業者により達成されうるルーチン的操作である。
【0193】
H. アデノウイルスの同定
本発明の他の態様において、プライマー対は、アデノウイルスの安定でかつ高度に保存された領域内の生物因子同定単位複製配列を産生する。高度に保存された領域の中に含まれるプライミング領域により限定される単位複製配列の特徴付けの利点は、領域がプライマー認識の点を通り越して進化するだろうことが、その場合、増幅段階のプライマーハイブリダイゼーションが失敗するだろうが、低い確率であることである。そのようなプライマーセットは、従って、広範囲調査型プライマーとして有用である。本発明のもう一つの態様において、インテリジェントプライマーは、上記の安定した領域より急速に進化する領域において生物因子同定単位複製配列を産生する。進化するゲノム領域に対応する生物因子同定単位複製配列を特徴付けることの利点は、それが、出現する株変異体を区別するために有用であることである。
【0194】
本発明はまた、例えば、アデノウイルス科のメンバーのような出現ウイルスにより引き起こされる疾患の同定のためのプラットフォームとして重要な利点を有する。本発明は、ハイブリダイゼーションプローブを作製するための生物因子配列の予備的知識の必要性を排除する。従って、もう一つの態様において、本発明は、ウイルスの同定の工程が臨床的設定において行われる場合、およびウイルスが、以前決して観察されなかった新しい種である場合でさえも、ウイルス感染の病因を決定する手段を提供する。方法が、生物因子同定単位複製配列の産生のための鋳型として働く配列に起きる天然の進化的変異(急速に進化するウイルスの特徴付けについての大きな懸案事項)により困惑させられないため、これは可能である。分子量の測定および塩基組成の決定は、配列偏見なしに不偏様式で達成される。
【0195】
本発明のもう一つの態様はまた、疫学的状況において異なる場所から得られた複数の試料が上記の方法により分析される場合、アデノウイルスの伝播を追跡する手段を提供する。一つの態様において、複数の異なる場所からの複数の試料は、生物因子同定単位複製配列を産生するプライマー対を用いて分析され、生物因子同定単位複製配列のサブセットが特定のアデノウイルスを含む。アデノウイルス含有サブセットの要素の対応する場所が、特定のウイルスの対応する場所への伝播を示す。
【0196】
I. キット
本発明はまた、本明細書に記載された方法を行うためのキットを提供する。いくつかの態様において、キットは、生物因子由来の標的ポリヌクレオチドに増幅反応を行って生物因子同定単位複製配列を形成するための1つまたは複数のプライマー対の十分な量を含みうる。いくつかの態様において、キットは、1個から50個までのプライマー対、1個から20個までのプライマー対、1個から10個までのプライマー対、または2個から5個までのプライマー対を含みうる。いくつかの態様において、キットは、表2に列挙された1つまたは複数のプライマー対を含みうる。
【0197】
いくつかの態様において、キットは、1つもしくは複数の広範囲調査プライマー、部門に渡るプライマー、または掘り下げプライマー、またはそれらの任意の組み合わせを含む。所与の問題が特定の因子の同定を含む場合には、問題の解決は、問題の解決を与えうるプライマーの特定の組み合わせの選択を必要としうる。キットは、特定の因子の同定のための特定のプライマー対を含むように設計されうる。掘り下げキットは、例えば、アデノウイルスの異なる亜種型または遺伝子改変のアデノウイルスを区別するために用いられうる。いくつかの態様において、これらのキットのいずれかのプライマー対成分は、アデノウイルスを同定することができるために、広範囲調査プライマーおよび部門に渡るプライマーの追加の組み合わせを含むように追加的に組み合わせられうる。
【0198】
いくつかの態様において、キットは、内部増幅較正物質として用いる標準化較正ポリヌクレオチドを含む。内部較正物質は、全体として参照により本明細書に組み入れられている、同一出願による米国特許出願第60/545,425号に記載されている。
【0199】
いくつかの態様において、キットは、上記の増幅工程のための、逆転写酵素(例えば、RNAウイルスが同定されることになっている場合)、DNAポリメラーゼ、適したヌクレオシド三リン酸(イノシンのような代替dNTP、5-プロピニルピリミジンのような修飾dNTP、または上で記載されたもののような分子量改変タグを含む任意のdNTPを含む)、DNAリガーゼ、および/もしくは反応緩衝液、またはそれらの任意の組み合わせの十分な量を含む。キットはさらに、キットの特定の態様に関連した使用説明書を含む場合があり、そのような使用説明書は、本方法の実施のためのプライマー対および増幅条件を記載する。キットはまた、微小遠心管などのような増幅反応容器を含む場合がある。キットはまた、例えば、界面活性剤、溶媒、または磁気ビーズに連結されうるイオン交換樹脂を含む、増幅から生物因子核酸または生物因子同定単位複製配列を単離するための試薬または他の材料を含む場合がある。キットはまた、キットのプライマー対を用いて測定または計算された生物因子の分子量および/または塩基組成の表を含む場合もある。
【0200】
いくつかの態様において、キットは、本発明のプライマー対の使用から得られたデータを分析するようにプロセッサを命令する指示を含むコンピューターフォーマット済み媒体(例えば、コンパクトディスクまたは携帯型USBディスクドライブのような)に記憶されたコンピュータープログラムを含む。ソフトウェアの指示は、増幅産物に関連したデータを、生物因子の同定および/または分類に用いられる有用で具体的かつ明確な結果である分子量または塩基組成へ変換する。いくつかの態様において、本発明のキットは、本明細書に記載された方法の1つまたは複数を行うのに十分な試薬の全部を含む。
【0201】
本発明は、その態様の若干数による特異性をもって記載されているが、以下の実施例は、本発明を例証することのみの働きをし、本発明を限定することを意図されない。本明細書に開示された本発明がより効率的に理解されうるように、実施例が下に提供される。これらの実施例は例証を目的とするのみであり、いかなる方法によっても本発明を限定するとして解釈されるべきではないことは理解されているはずである。
【0202】
実施例
実施例1:アデノウイルスについての生物因子同定単位複製配列を限定するプライマーの設計および確証
A. プライマー設計の一般的な工程
アデノウイルス同定単位複製配列を限定するプライマーの設計について、一連のアデノウイルスゲノムセグメント配列を取得し、整列させ、PCRプライマー対が約45〜約150ヌクレオチド長の産物を増幅し、かつそれらの分子量または塩基組成により亜群および/または個々の血清型をお互いに区別する領域についてスキャンした。図1に示された典型的な工程は、この型の分析に用いられる。
【0203】
各プライマー領域について予想される塩基組成のデータベースを、(ePCR)のようなインシリコでのPCR検索アルゴリズムを用いて作成した。既存のRNA構造検索アルゴリズム(全体として参照により本明細書に組み入れられている、Macke et al., Nucl. Acids Res., 2001, 29, 4724-4735)は、ハイブリダイゼーション条件、ミスマッチ、および熱力学計算のようなPCRパラメーターを含むように改変されている(全体として参照により本明細書に組み入れられている、SantaLucia, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1998, 95, 1460-1465)。これはまた、選択されたプライマー対のプライマー特異性に関する情報を提供する。
【0204】
実施例2:アデノウイルスの同定のための生物因子同定単位複製配列を限定するプライマーの選択
最初のプライマー設計は、アデノウイルスヘキソン遺伝子のセグメントを代表する生物因子同定単位複製配列を産生しうるプライマー対の設計から始めた。これらのプライマー対は、すべてのアデノウイルス株の一般的な検出から特定の血清型の同定に及ぶ様々な仕事を実行するように設計された。いくつかの態様において、塩基組成は最終的な分析産物であるため、増幅された領域が十分な変異(1つの塩基変化またはそれ以上)を有するとの条件で、1つのプライマー対が多くの血清型を同定するために用いられうる。試験段階の終わりに、2つのプライマー対試験セットを選択した。これらの2つのプライマー対(プライマー対番号:943(SEQ ID NO: 61:122)769(SEQ ID NO: 26:121))は、塩基組成がアデノウイルスの存在を明確に示し、かつ、たいていの場合、同時に、存在するアデノウイルス種の血清型についての診断となる単位複製配列を産生する。2つのプライマー対が存在するアデノウイルスの血清型を明確に同定できない場合、プライマー対番号1113(SEQ ID NO: 38:82)、1117(SEQ ID NO: 63:95)、1119(SEQ ID NO: 19:93)、1121(SEQ ID NO: 54:113)、1124(SEQ ID NO: 36:98)、および1126(SEQ ID NO: 16:106)のいずれかまたは全部のような他のプライマーが、情報を決定するために用いられうる。
【0205】
表2は、本明細書に記載された方法を用いてアデノウイルスを同定するように設計されたプライマーのコレクション(プライマー対番号順に分類された)を表す。Tp=5-プロピニルウラシル;Cp=5-プロピニルシトシン。プライマー対番号は社内データベースインデックス番号である。プライマー部位は、例えば、ヘキソン遺伝子のような必須のアデノウイルス遺伝子上で同定された。表2に示されたフォワードまたはリバースプライマー名は、プライマーが参照配列に対してハイブリダイズするウイルスゲノムの遺伝子領域を示す。表2において、例えば、フォワードプライマー名HEX_HAD4_1442_1466_Fは、フォワードプライマー(_F)が、GenBankアクセッション番号X84646により表されるアデノウイルス参照配列の残基1442位〜1466位にハイブリダイズすることを示す。アデノウイルスの様々な血清型の参照配列についてのGenBankアクセッション番号は、プライマー対番号に従って分類されている表3(下記)に示されている。場合によっては、参照配列は、アデノウイルスゲノム配列からの抽出である。当業者は、GenBankに存在するゲノム配列から個々の遺伝子配列またはそれらの部分を得る方法を知っている。
【0206】
(表2)アデノウイルスの同定のためのプライマー対




【0207】
(表3)プライマー対名コーディネートのための参照配列詳細



【0208】
実施例3:試料採取手順
試料を、Naval Health Research Center Respiratory Disease Laboratory, San Diegoにより行われたIRB認可研究中の軍隊兵舎から採集した。環境的試料は、8つの場所から採取され、表面スワブならびにドライフィルターユニット空気回収および電子空気収集機により収集された空気試料を含んだ。臨床的調査は、当業者に周知である標準臨床プロトコールを用いて喉、血清、および手スワブから1,700個の臨床試料を得ることにより行われた。
【0209】
実施例4:試料調製およびPCR
試料を、Qiagen QIAmp Virus BioRobot MDx Kitを用いてウイルスゲノム材料を得るように処理した。結果として生じたゲノム材料をEppendorfサーマルサイクラーを用いて増幅し、単位複製配列を、Bruker Daltonics MicroTOF装置上で特徴付けした。結果として生じたデータを、GenXソフトウェア(SAIC, San Diego, CAおよびIbis, Carlsbad, CA)を用いて分析した。
【0210】
すべてのPCR反応物を、Packard MPII液体ハンドリングロボットプラットフォームおよびM.J. Dyadサーモサイクラー(MJ research, Waltham, MA)を用いて96ウェルマイクロタイタープレート型式における50μL反応容量に集めた。PCR反応混合物は、4ユニットのAmplitaq Gold、1x buffer II(Applied Biosystems, Foster City, CA)、1.5mM MgCl2、0.4Mベタイン、800μM dNTP混合物、および250nMの各プライマーからなる。以下の典型的なPCR条件を用いた:95℃で10分間、続いて、95℃で30秒間、48℃で30秒間、および72℃で30秒間の8サイクルで、48℃のアニーリング温度は8サイクルのサイクルごとに0.9℃増加させる。PCRをその後95℃で15秒間、56℃で20秒間、および72℃で20秒間の追加の37サイクル続けた。
【0211】
実施例5:イオン交換樹脂-磁気ビーズでの試料分析のためのPCR産物の溶液捕獲精製
磁気ビーズに連結されたイオン交換樹脂での核酸の溶液捕獲について、BioCloneアミン末端化超常磁性ビーズの2.5mg/mL懸濁液の25μlを、約10pMの典型的なPCR増幅産物を含む25〜50μlのPCR(またはRT-PCR)反応物へ添加した。上記懸濁液を、約5分間、ボルテックスまたはピペッティングをすることにより混合し、その後、磁気選別機を用いた後に液体を除去した。結合したPCR増幅産物を含むビーズを、その後、50mM重炭酸アンモニウム/50%MeOHまたは100mM重炭酸アンモニウム/50%MeOHで3回、洗浄し、続いて、50%MeOHでもう3回洗浄した。結合したPCR単位複製配列を、ペプチド較正標準を含む、25mMピペリジン、25mMイミダゾール、35%MeOHの溶液で溶出した。
【0212】
実施例6:質量分析および塩基組成分析
EST-FTICR質量分析計は、能動的に遮蔽された7テスラ超電導磁石を用いるBruker Daltonics (Billerica, MA) Apex II 70eエレクトロスプレーイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計に基づいている。能動遮蔽は、超電導磁石からのフリンジ磁界の大部分を比較的小さな体積に拘束する。従って、CRTモニター、ロボット部品、および他の電子機器のような漂遊磁界により悪影響を受ける可能性がある構成要素が、FTICR分光計と極めて接近して作動できる。パルスシーケンス制御およびデータ収集の全局面は、Windows NT 4.0オペレーティングシステム下でBrukerのXmassソフトウェアを実行する600 MHz Pentium IIデータステーションにおいて行われた。試料アリコート、典型的には15μlを、FTICRデータステーションにより作動されるCTC HTS PAL自動試料採取装置(LEAP Technologies, Carrboro, NC)を用いて96ウェルマイクロタイタープレートから直接的に抽出した。試料を、ESI源へ100μl/時間の流速を供給する流体工学ハンドリングシステムと一体化した10μl試料ループへ直接的に注入した。ガラス脱溶媒キャピラリーの金属化末端から約1.5cmに位置した軸外の接地エレクトロスプレープローブを用いる改変Analytica(Branford, CT)源におけるエレクトロスプレーイオン化によってイオンが形成された。ガラスキャピラリーの大気圧末端に、データ収集中にESI針に対して6000Vでバイアスをかけた。脱溶媒過程を促進するために乾性N2の逆流を用いた。イオンを、それらが質量分析されるトラップイオンセルへの注入の前に、rf-オンリー(rf-only)六重極、スキマーコーン、およびゲート電極で構成される外部イオン貯蔵室に蓄積した。99%より大きいイオン化デューティサイクルは、イオン検出中に同時に外部イオン貯蔵室にイオンを蓄積することにより達成された。各検出事象は、2.3秒間に渡ってデジタル化された1Mのデータ点からなった。信号対雑音比(S/N)を向上させるために、32個のスキャンを、74秒間の総データ収集時間の間、同時付加した。
【0213】
ESI-TOF質量分析計は、Bruker Daltonics MicroTOF(商標)に基づいている。ESI源からのイオンは、直交イオン抽出を受け、検出の前にリフレクトロンに集束される。TOFおよびFTICRは、上記の同じ自動化試料ハンドリングおよび流体工学を備えている。FTICR EST源と同じ軸外のスプレーヤーおよびガラスキャピラリーを備えている標準MicroTOF(商標)ESI源でイオンが形成される。その結果として、源条件は、上で記載されたものと同じであった。外部イオン蓄積もまた、データ収集中のイオン化デューティサイクルを向上させるために用いられた。TOF上の各検出事象は、75μ秒間に渡ってデジタル化された75,000個のデータ点で構成された。
【0214】
試料送達スキームは、試料アリコートが高流速でエレクトロスプレー源へ迅速に注入され、その後、ESI感度の向上のためにずっと低い流速でエレクトロスプレーされるのを可能にする。試料を注入する前に、試料の汚染/持ち越し汚染を避けるために移送ラインおよびスプレー針をすすぐために、緩衝液のボーラスを高流速で注入した。すすぎ段階後、自動試料採取装置が次の試料を注入し、流速は低流速へ切り換えられた。短時間の平衡遅延後、データ収集が開始した。スペクトルを同時付加しながら、自動試料採取装置は、注射器をすすぎ、インジェクターおよび試料移送ラインをすすぐために緩衝液をピックアップすることを継続した。一般的に、2つの注射器のすすぎおよび1つのインジェクターのすすぎが、試料の持ち越し汚染を最小限にするために必要とされた。ルーチン的スクリーニングプロトコール中、新しい試料混合物は、106秒間ごとに注入された。最近になって、注射針についての速い洗浄工程が実施されており、より短い収集時間と組み合わされる場合、1スペクトル/分のすぐ下の速度で質量スペクトルの収集を促進する。
【0215】
生質量スペクトルは、内部質量標準で後較正され、モノアイソトピック分子量へデコンボリューションされた。あいまいでない塩基組成は、相補的な一本鎖オリゴヌクレオチドの正確な質量測定値から導かれた。定量的結果は、ウェルあたり500個の分子であらゆるPCRにおいて存在する内部PCR較正標準とピークの高さを比較することにより得られる。較正方法は、同一出願人によるものであり、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国仮特許出願第60/545,425号に開示されている。
【0216】
実施例7:分子量改変デオキシヌクレオチド三リン酸を用いる増幅産物の塩基組成の新規の測定
4つの天然核酸塩基の分子量(A=313.058、G=329.052、C=289.046、T=304.046−表4参照)は比較的狭い分子量範囲を有するため、塩基組成の割当におけるしつこいあいまい性の源泉は、以下のように生じうる:異なる塩基組成を有する2つの核酸鎖は、2つの鎖間の塩基組成の違いがC⇔T(+15.000)と組み合わせられたG⇔A(-15.994)である場合、約1Daの差を有しうる。例えば、A27G30C21T21の塩基組成を有する1つの99-mer核酸鎖は、30779.058の理論的分子量を有し、一方、A26G31C22T20の塩基組成を有するもう一つの99-mer核酸鎖は30780.052の理論的分子量を有する。分子量における1Da差は、分子量測定の実験誤差の範囲内である可能性があり、従って、4つの天然核酸塩基の比較的狭い分子量範囲は、不確実性因子を負わせる。
【0217】
本発明は、1つの質量タグ付き核酸塩基および3つの天然核酸塩基を有する核酸の増幅を通してこの理論的1Da不確実性因子を除去するための手段を提供する。本明細書に用いられる場合の「核酸塩基」という用語は、「ヌクレオチド」、「デオキシヌクレオチド」、「ヌクレオチド残基」、「デオキシヌクレオチド残基」、「ヌクレオチド三リン酸(NTP)」、またはデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む当技術分野において用いる他の用語と同義である。
【0218】
増幅反応物またはプライマー自身における、4つの核酸塩基(dNTP)の1つへの有意な質量の付加は、C⇔TとG⇔Aとが組み合わされた事象から起こるあいまい性から生じる、生成増幅産物の質量の有意差(1Daより有意に大きい)をもたらす(表4)。従って、5-ヨード-C⇔T(-110.900)事象と組み合わされた同じG⇔A(-15.994)事象は、結果として126.894の分子量差を生じる。塩基組成A27G305-ヨードC21T21の分子量(33422.958)がA26G315-ヨード-C22T20(33549.852)と比較される場合には、理論的分子量差は+126.894である。分子量測定の実験誤差は、この分子量差に関して有意ではない。さらになお、99-mer核酸の測定された分子量と一致した唯一の塩基組成が、A27G305-ヨード-C21T21である。対照的に、質量タグなしの類似した増幅は18個の予想される塩基組成を有する。
【0219】
(表4)天然核酸塩基および質量改変核酸塩基5-ヨード-Cの分子量ならびに移行から結果として生じる分子量差

【0220】
生物因子同定単位複製配列の質量スペクトルは、レーダー信号処理に広く用いられているような最尤プロセッサーを用いて個々に分析された。このプロセッサーは、GenXと呼ばれるのだが、まず、入力データ上の各塩基組成集合体について照合フィルターを実行することにより各プライマーについての質量分析計への入力の最尤推定値を作成する。これは、各プライマーについて較正物質へのGenX応答を含む。
【0221】
アルゴリズムは、天然の生物体および環境汚染物の複雑なバックグラウンドを含む状態について検出の確率対誤警報の確率プロットに至る性能予測に重点を置く。照合フィルターは、生物因子のそれぞれに用いられるプライマーのセットを仮定した信号値の先験的期待値からなる。ゲノム配列データベースが、質量塩基カウント照合フィルターを定義するために用いられる。データベースは既知の細菌生物因子の配列を含み、脅威生物体および良性バックグラウンド生物体を含む。後者は、バックグラウンド生物体により生じるスペクトルシグネチャーを推定し、かつ減算するために用いられる。既知のバックグラウンド生物体の最尤検出は、照合フィルターおよび雑音共分散の移動和推定を用いて実行される。バックグラウンド信号強度が推定され、その後減算されるシグネチャーを形成するように照合フィルターと共に用いられる。最尤過程は、生物体および雑音が除去されたデータのための雑音共分散の移動和推定について照合フィルターを用いる類似した様式でこの「雑音を除去された」データに適用される。
【0222】
各プライマーについての生物因子同定単位複製配列のすべての塩基組成の振幅は較正され、生物体あたりの最終的な最尤振幅推定値は、複数の単一プライマー推定値に基づいて作成される。すべてのシステム雑音のモデルは、この2段階最尤計算へ因子として入れられる。プロセッサーは、スペクトルに含まれる各塩基組成の分子の数を報告する。適切なプライマーセットに対応する増幅産物の量、および増幅反応の完了時に残存するプライマーの量も報告される。
【0223】
塩基カウントぶれは以下のように実行されうる。「電子PCR」は、所望の生物因子のヌクレオチド配列上で行われ、各プライマー対について得られうる、異なる予想塩基カウントを得る。例えば、ncbi.nlm.nih.gov/sutiles/e-pcr/; Schuler, Genome Res. 7:541-50, 1997を参照。一つの例証的態様において、Microsoft Excelワークブックのような1つまたは複数のスプレッドシートは複数のワークシートを含む。第一に、この例において、ワークブック名に類似した名前を有するワークシートがある;このワークシートは生の電子PCRデータを含む。第二に、生物因子名および塩基カウントを含む「フィルター処理生物因子塩基カウント」と名付けられたワークシートがある;属および種で同定されない配列を除去し、かつ10個未満の株を有する生物因子についてのすべての配列を除去した後の各株についての別々の記録がある。第三に、このプライマー対についての置換、挿入、または欠失の頻度を含むワークシート、「シート1」がある。このデータは、まず、「フィルター処理生物因子塩基カウント」におけるデータからピボット表を作成し、その後、Excel VBAマクロを実行することにより、作成される。マクロは、同じ種であるが、異なる株の生物因子についての塩基カウントにおける違いの表を作成する。当業者は、過度の実験なしに類似した表の違いを得るための追加の経路を理解しうる。
【0224】
例示的なスクリプトのアプリケーションは、各生物因子についての塩基カウントの参照セットにより表される株の断片を特定する閾値をユーザーが定義することを含む。各生物因子についての塩基カウントの参照セットは、閾値を満たすまたは超えるために必要とされるだけの数の異なる塩基カウントを含みうる。参照塩基カウントのセットは、最も豊富な株の塩基型組成を選び、それを参照セットに加えることにより定義され、その後、次の最も豊富な株の塩基型組成が、閾値を満たすまたは超えるまで、加えられる。現在のデータのセットは、経験的に得られた55%の閾値を用いて得られた。
【0225】
その生物因子についての参照塩基カウントセットに含まれない各塩基カウントについて、スクリプトは、その後、続けて、現在の塩基カウントが参照セットにおける塩基カウントのそれぞれと異なるという様式を決定する。この違いは、置換、Si=Xi、および挿入、Ii=Yi、または欠失、Di=Zi、の組み合わせとして表されうる。複数の参照塩基カウントがある場合には、報告された違いは、変化の数を最小限にする、および同じ数の変化の場合、挿入または欠失の数を最小限にすることを照準とするルールを用いて選択される。それゆえに、最初のルールは、最小和(Xi+Yi)または(Xi+Zi)、例えば、2つの置換よりむしろ1つの挿入、を有する違いを同定することである。最小和を有する2つまたはそれ以上の違いがある場合には、報告されるだろうものは、最も多い置換を含むものである。
【0226】
塩基カウントと参照組成の間の違いは、1つ、2つ、またはそれ以上の置換、1つ、2つ、またはそれ以上の挿入、1つ、2つ、またはそれ以上の欠失、ならびに置換、および挿入または欠失の組み合わせと分類される。核酸塩基変化の異なるクラス、およびそれらの出現の確率は、全体として参照により本明細書に組み入れられている、米国特許出願公開第2004209260(米国特許出願第10/418,514号)に描かれている。
【0227】
実施例8:アデノウイルスの同定
この一連の実験の目的は、アデノウイルスの環境的存在と軍人における結果として生じる疾患の間の時間的関係、および無症候性運搬の評価を確立することにより軍事施設内のアデノウイルスの伝播を調査することであった。軍事施設において、アデノウイルスは、冬の間、呼吸器疾患の72%の原因であることが測定されている。アデノウイルスは、軍事施設において新兵の間で急速に広がることが知られており、発生は、50〜80%発病率を生じる。
【0228】
プライマー対615番(SEQ ID NO: 45:102)および616番(46:100)を、代表的なヒトアデノウイルス種に対して4連で試験した。両方のプライマー対は、アデノウイルス4型、7型、8型、および40型について増幅産物を生じ、それらから高品質質量スペクトル信号が得られた。アデノウイルス12型もまた観察されたが、質量スペクトル信号がそれほど強くなかった。アデノウイルス1型は、弱い質量スペクトル信号が観察された。塩基組成は、増幅産物の分子量から決定され、プライマー対により限定されたアデノウイルス4型、7型、8型、および40型の生物因子同定単位複製配列について計算された塩基組成と一致することが見出された。
【0229】
プライマー対739番(SEQ ID NO: 30:101)、一般的な調査プライマー、はアガロースゲル電気泳動により示されたプライマー二量体を生じることが見出された。このプライマー対を再設計し、試験した。最善の再設計されたプライマー対は、プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)である。
【0230】
実施例3に概要を示された手順、続いて、実施例4による精製、ならびに実施例5および6による塩基組成の分析に従って、プライマー対943番(SEQ ID NO: 61:122)での試料の増幅により得られたアデノウイルス生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物の質量スペクトルが図4に示されている。たった1つのプライマー対が、分子量がアデノウイルス21型、12型、8型、7型、および4型についての別個の塩基組成へデコンボリューションされうるアデノウイルス生物因子同定単位複製配列を産生したことが見られる。従って、これらのアデノウイルス型のそれぞれは、お互いと効率的に識別されうる。
【0231】
プライマー対943番により産生された生物因子同定単位複製配列に基づいた較正配列およびアデノウイルス血清型4の参照配列(GenBankアクセッション番号:X84646)を、アデノウイルス血清型4の既知量を定量化する能力について試験した。アデノウイルス血清型4は、プライマー対943番(SEQ ID NO: 61:122)を用いて試料あたり低くも15〜30個のゲノムのレベルで検出されることができた。プライマー対943番(SEQ ID NO: 61:122)で得られたアデノウイルス同定単位複製配列および較正単位複製配列に対応する増幅産物の代表的な質量スペクトルは図5に示されている。
【0232】
プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)および943番(SEQ ID NO: 61:122)を含む2つのプライマーセットについての喉スワブにおけるアデノウイルスの検出の限界は、試料あたり15〜30個のゲノムコピーであることが見出された。空気中バックグラウンドにおける、およびバックグラウンドなしにおける(クリーンな試料)検出の限界は、試料あたり30個のゲノムコピーであることが見出された。
【0233】
もう一つの実験において、プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)および943番(SEQ ID NO: 61:122)での多様なアデノウイルス型を同定する能力が、異なるアデノウイルス亜群を示す異なるアデノウイルス型を試料へスパイクし、プライマーでのアデノウイルス核酸の生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物を得ることにより試料を分析し、質量分析により増幅産物を分析することにより、評価された。増幅産物の塩基組成は、分子量から計算され、アデノウイルス型割当を行うために用いられた。結果は表5に示されている。
【0234】
(表5)プライマー対769番および943番で得られた増幅産物からのアデノウイルスの同定

【0235】
もう一つの実験において、アデノウイルスのスパイクを含む空気試料の試験が行われた。合計35個のスパイクされたドライフィルターユニット空気試料は、軍事施設によって提供された。アデノウイルス4型スパイク濃度レベル(プレート形成単位-PFUにおいて)は、フィルター表面上のTriton-X100界面活性剤の存在下および非存在下において5.62x105〜5.62PFU、様々であった。ドライフィルターユニットからの試料収集物は、12時間に渡って採取され、プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)および943番(SEQ ID NO: 61:122)での増幅産物を得て、産物を質量分析により分析することにより分析された。アデノウイルスは、低くも5.62 PFUの濃度で同定され、界面活性剤の存在に対する感受性はなく、12時間に渡ってアデノウイルスの同定における違いもなかった。
【0236】
もう一つの実験において、環境および臨床の調査が軍事施設内で企てられた。表面スワブおよびドライフィルターユニット空気試料を含む合計1,600個の環境試料を、兵舎内の様々な場所から採取した。喉、血清、および手スワブを含む合計1,700個の臨床試料を、兵舎に居住する症候性および無症候性軍隊入隊者から標準プロトコールを用いて得た。すべての試料を、本発明の方法によりアデノウイルスの存在について試験した。培養物は、臨床試料の785個について増殖された。この785個の試料亜群におけるアデノウイルスの陽性および陰性同定の結果は、表6に示されている。これらの結果は、本発明の方法が、標準培養方法よりアデノウイルスの存在の同定についてより感受性が高いことを示している。すべての場合において、アデノウイルス4型が同定された。これは、アデノウイルス4型が、試料が得られた軍隊兵舎に常在しているという現れを提供しており、また本発明の方法が、個体における、および環境における病原体の伝播の疫学的調査にとって特に有用であることを示している。
【0237】
(表6)アデノウイルスの同定についての本発明の標準培養方法との比較

【0238】
本発明は、属開示の範囲内に入る様々な種および亜属分類の任意の組み合わせを含む。本発明は、それゆえに、削除される材料が具体的に本明細書に列挙されていようがいまいがに関わらず、属由来の任意の対象物を排除する条件または消極的限定を有する本発明の包括的記載を含む。
【0239】
特許法に従って、様々な態様および実施例の説明が提供されているが、本発明の範囲はそれらにまたはそれらによって限定されるべきではない。本発明の改変および変化は、本発明の範囲および真意から逸脱することなく、当業者にとって明らかであると思われる。
【0240】
それゆえに、本発明の範囲は、例として提示されている特定の実施例によるよりむしろ、添付された特許請求の範囲により定義されるべきであることは認識されていると思われる。
【0241】
本出願に引用された各参考文献(限定されるわけではないが、学術論文、米国および非米国特許、特許出願公開、国際特許出願公開、遺伝子バンクアクセッション番号、インターネットウェブサイトなどを含む)は全体として参照により本明細書に組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】代表的なプライマー対選択工程を示す工程図。
【図2】較正方法の態様を示す工程図。
【図3】プライマー対739番でのアデノウイルス血清型21、12、8、7、および4の増幅により得られた生物因子同定単位複製配列の一連の質量スペクトル。
【図4】試料あたりゲノムコピーの異なる量についての、プライマー対769番(SEQ ID NO: 26:121)で産生された較正単位複製配列および血清型4アデノウイルス生物因子同定単位複製配列に対応する増幅産物の一連の質量スペクトル。
【図5】プライマー対943番(SEQ ID NO: 61:122)で得られたアデノウイルス同定単位複製配列および較正単位複製配列に対応する増幅産物の代表的な質量スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:26と少なくとも70%配列同一性を含む14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項2】
SEQ ID NO:121と少なくとも70%配列同一性を含む14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項3】
請求項1記載のプライマーを含む組成物。
【請求項4】
SEQ ID NO:121と少なくとも70%配列同一性を含む14〜35核酸塩基長のオリゴヌクレオチドプライマーをさらに含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
プライマーの一方または両方が少なくとも1つの修飾核酸塩基を含む、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
修飾核酸塩基が5-プロピニルウラシルまたは5-プロピニルシトシンである、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
プライマーの一方または両方が少なくとも1つのユニバーサル核酸塩基を含む、請求項4記載の組成物。
【請求項8】
ユニバーサル核酸塩基がイノシンである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
プライマーの一方または両方が5'末端上に非鋳型性T残基をさらに含む、請求項4記載の組成物。
【請求項10】
プライマーの一方または両方が少なくとも1つの非鋳型タグを含む、請求項4記載の組成物。
【請求項11】
プライマーの一方または両方が少なくとも1つの分子量改変タグを含む、請求項4記載の組成物。
【請求項12】
請求項4記載の組成物を含むキット。
【請求項13】
1つまたは複数のプライマー対が14〜35核酸塩基の長さであり、かつSEQ ID NO: 61:122、38:82、36:95、19:93、54:113、36:98、および16:106により表されるプライマー対の群由来の対応する要素と70%〜100%配列同一性を有する、1つまたは複数のプライマー対をさらに含む、請求項12記載のキット。
【請求項14】
少なくとも1つの較正ポリヌクレオチドをさらに含む、請求項12記載のキット。
【請求項15】
磁気ビーズに連結された少なくとも1つの陰イオン交換官能基をさらに含む、請求項12記載のキット。
【請求項16】
以下の段階を含む、試料中のアデノウイルスの同定のための方法:
増幅産物を得るために請求項4記載の組成物を用いて該アデノウイルス由来の核酸を増幅する段階;
該増幅産物の分子量を測定する段階;
任意で、該分子量から該増幅産物の塩基組成を決定する段階;および
該分子量または塩基組成を、既知のアデノウイルス同定単位複製配列の分子量または塩基組成の複数と比較する段階であって、該分子量または塩基組成と該複数の分子量または塩基組成の要素との一致により、該アデノウイルスが同定される段階。
【請求項17】
試料が生物学的産物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、試料中のアデノウイルスの存在または非存在を決定する方法:
増幅産物を得るために請求項4記載の組成物を用いて該試料由来の核酸を増幅する段階;
該増幅産物の分子量を測定する段階;
任意で、該分子量から該増幅産物の塩基組成を決定する段階;および
該増幅産物の該分子量または塩基組成を、1つまたは複数の既知のアデノウイルス同定単位複製配列の既知の分子量または塩基組成と比較する段階であって、該増幅産物の該分子量または塩基組成と1つまたは複数の既知のアデノウイルス同定単位複製配列の分子量または塩基組成との一致により、該試料中の該アデノウイルスの存在が示される段階。
【請求項19】
試料が生物学的産物を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、試料中の未知のアデノウイルスの量の測定のための方法:
該試料を請求項4記載の組成物および較正配列を含む較正ポリヌクレオチドの既知量と接触させる段階;
アデノウイルス同定単位複製配列を含む第一増幅産物、および較正単位複製配列を含む第二増幅産物を得るために、該試料中の該未知アデノウイルス由来の核酸および該較正ポリヌクレオチド由来の核酸を請求項4記載の組成物で同時に増幅させる段階;
該アデノウイルス同定単位複製配列および該較正単位複製配列について分子量および存在量を測定する段階;ならびに
分子量に基づいて該アデノウイルス同定単位複製配列と該較正単位複製配列を区別する段階であって、アデノウイルス同定単位複製配列存在量と較正単位複製配列存在量との比較により、該試料中のアデノウイルスの量が示される段階。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−538694(P2008−538694A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506772(P2008−506772)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/014178
【国際公開番号】WO2007/086904
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
2.WINDOWS
3.PENTIUM
【出願人】(505422028)アイシス ファーマシューティカルズ インコーポレイティッド (16)
【Fターム(参考)】