説明

アニオン交換性ブロック共重合体、及びアニオン交換膜

【課題】高いアニオン交換能を有すると共に、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れ、かつ良好な成形性を有する新規なアニオン交換性ブロック共重合体、及び該アニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜を提供する。
【解決手段】アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)とからなることを特徴とするブロック共重合体、及び該ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なアニオン交換性ブロック共重合体、及びアニオン交換膜に関する。さらに詳しくは、芳香族ビニル化合物単位からなるアニオン交換性ブロック共重合体であって、アニオン交換性の重合体ブロックと非イオン交換性の重合体ブロックからなり、高いアニオン交換能を有するとともに、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れ、かつ良好な成形性を有する新規なアニオン交換性ブロック共重合体、及び該アニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アニオン交換樹脂とは、一般にアニオン交換能を有する樹脂のことを意味し、水溶液中のアニオン成分を除去する用途、例えば、濃縮果汁から有機酸成分を除去して果汁飲料の味を調節したり、粗精製されたショ糖や水飴などから有機酸成分を除去して色を改善したりする用途で広く用いられている。またアニオン交換樹脂を膜状に成形したアニオン交換膜も広く知られている。
アニオン交換樹脂は水溶液中で用いるため、耐水性が求められ、一部の用途では80℃以上の水中での耐水性が求められる。
アニオン交換樹脂としては、従来、ポリスチレンなどの芳香族ビニル化合物重合体にランダムにアニオン交換基を導入したアニオン交換樹脂が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、かかる芳香族ビニル化合物重合体にランダムにアニオン交換基を導入したアニオン交換樹脂は耐水性が十分ではない場合があり、長期使用などの目的でより高い耐水性が求められている。
また、アニオン交換樹脂は、より高いアニオン交換能を発現するために、より多くのアニオン交換基が導入されていることが望ましいが、通常、アニオン交換基の導入量を増やすと、アニオン交換樹脂の耐水性が低下するという問題がある。
【0003】
そこで、従来のアニオン交換樹脂においては架橋処理を施して、耐水性を改善している。しかしながら、架橋処理されたアニオン交換樹脂は成形性に劣るため、該架橋されたアニオン交換樹脂からアニオン交換膜(成形品)を製造することが困難となる。一方、アニオン交換樹脂をまず成形した後に架橋処理を行う場合もあるが、架橋密度が高いほど成形品の収縮変形などが起こりやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】北条舒正 編「キレート樹脂・イオン交換樹脂」、講談社サイエンティフィク、1976年5月1日、128−145ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下になされたものであり、高いアニオン交換能を有すると共に、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れ、かつ良好な成形性を有する新規なアニオン交換性ブロック共重合体、及び該アニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)とからなることを特徴とするアニオン交換性ブロック共重合体、
[2]アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)とが、B−A−B型に結合してなるトリブロック共重合体である[1]のアニオン交換性ブロック共重合体、
[3]イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)を構成する芳香族ビニル化合物単位が、4−tert−ブチルスチレン単位である[1]又は[2]のアニオン交換性ブロック共重合体、
[4]アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)におけるアニオン交換基が、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、及びホスホニウム基の中から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれかのアニオン交換性ブロック共重合体、
[5]アニオン交換容量が1.5〜3.5meq/gの範囲である[1]〜[4]のいずれかのアニオン交換性ブロック共重合体、及び
[6]上記[1]〜[5]のいずれかのアニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロックと、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロックからなり、高いアニオン交換能を有すると共に、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れ、かつ良好な成形性を有する新規なアニオン交換性ブロック共重合体、及び該アニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明のアニオン交換性ブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(P)」と称する)について説明する。
ブロック共重合体(P)は、アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)(以下、単に「重合体ブロック(A)」と称する)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)(以下、単に「重合体ブロック(B)」と称する)とからなることを特徴とする。
【0009】
ブロック共重合体(P)は、アニオン交換基を有さない非イオン交換性ブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(P0)」と称する)を製造した後、アニオン交換基を導入する方法で製造できる。詳細は後述する。
【0010】
(重合体ブロック(A))
重合体ブロック(A)は、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物を単量体として重合して得られるイオン交換基を有さない重合体ブロック(A0)(以下、単に「重合体ブロック(A0)」と称する)にアニオン交換基を導入することで製造できる。
重合体ブロック(A0)を構成する芳香族ビニル化合物単位としては、下記一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Arは置換基を1〜3個有していてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、R1は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を1〜3個有していてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す)で表される単位が好ましい。この繰り返し単位は一般式(1)で表される単位から選ばれる1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。
【0013】
Arが表す炭素数6〜14のアリール基としてはフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、インデニル基、ビフェニル基などが挙げられる。該アリール基が置換基を1〜3個有する場合の置換基としては、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など)、炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロプロピル基など)が挙げられる。R1が表す炭素数1〜4のアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。R1が表す炭素数6〜14のアリール基としてはArが表すアリール基と同様のアリール基が挙げられる。
【0014】
1が炭素数1〜4のアルキル基である場合、Arは置換基を有さないことが好ましい。R1が炭素数6〜14のアリール基である場合、R1及びArの少なくとも一方が置換基を有さないことが好ましい。
【0015】
重合体ブロック(A0)を構成する単量体となる芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルフェナントレン、ビニルビフェニル、α−メチルスチレン、1−メチル−1−ナフチルエチレン、1−メチル−1−ビフェニリルエチレンなどが挙げられ、特にスチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。上記芳香族ビニル化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(A0)は、芳香族ビニル化合物単位以外の他の単量体単位を、本発明の目的を妨げない範囲内で含んでいてもよい。かかる他の単量体の使用量は、芳香族ビニル化合物と他の単量体との合計に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることがさらに好ましい。
【0016】
重合体ブロック(A0)の分子量は、大きすぎると成形しにくくなる傾向にあり、小さすぎるとアニオン伝導性を十分発揮できない傾向にあることから、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によるポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、500〜200,000の範囲であることが好ましく、1,000〜100,000の範囲であることがより好ましい。
【0017】
<アニオン交換基>
重合体ブロック(A0)に導入されるアニオン交換基としては、アニオン交換能を有するものであればよいが、導入の容易さやアニオン交換容量などの観点から、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基及びホスホニウム基の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。対アニオンとしては、水酸化物イオン、無機酸からプロトンが解離してなるアニオン(ハロゲンイオン(塩化物イオンなど)、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオンなど)、有機酸からプロトンが解離してなるアニオン(p−トルエンスルホン酸アニオンなど)が挙げられる。かかるアニオン交換基としては、例えば下記一般式(2)〜(14)の各種官能基が挙げられる。
【0018】
【化2】

【0019】
上記一般式(2)〜(14)において、R2 〜R4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R5 〜R10及びR12はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を表し、R11はメチル基又はエチル基を表し、X-は対アニオンを表し、mは2〜6の整数を表し、nは2又は3を表す。
上記において、炭素数1〜8のアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。対アニオンとしては、水酸化物イオン、無機酸からプロトンが解離してなるアニオン(ハロゲンイオン(塩化物イオンなど)、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオンなど)、有機酸からプロトンが解離してなるアニオン(p−トルエンスルホン酸アニオンなど)などが挙げられる。
また上記一般式(2)〜(6)、(8)〜(10)、(12)〜(14)において、R2〜R10及びR12がメチル基又はエチル基であり、X- が水酸化物イオンである場合には、高いアニオン交換能を発現できるので好ましく、R2 〜R12がメチル基であるのがより好ましい。
【0020】
アニオン交換基が例えば上記一般式(2)〜(9)のような1価のアニオン交換基である場合には、かかるアニオン交換基は重合体ブロック(A0)に結合しているが、例えば上記一般式(10)〜(14)のような多価のアニオン交換基である場合には、該アニオン交換基は重合体ブロック(A0)内の複数の箇所に導入される。該アニオン交換基が導入される複数の箇所は同じ重合体ブロック(A0)内であっても、異なる重合体ブロック(A0)であってもよく、異なるブロック共重合体(P0)の重合体ブロック(A0)であってもよい。
アニオン交換基は、重合体ブロック(A)を構成する芳香族ビニル化合物単位の芳香環に導入されていることが好ましい。
【0021】
アニオン交換基の導入量は、得られるブロック共重合体(P)の要求性能などによって適宜選択されるが、アニオン交換膜として使用するのに十分なアニオン交換能を発現するためには、通常、ブロック共重合体(P)のアニオン交換容量が0.5meq/g以上となるような量であることが好ましく、1.0meq/g以上となるような量であることがより好ましく、1.5meq/g以上とすることがさらに好ましい。ブロック共重合体(P)のアニオン交換容量の上限については、アニオン交換容量が大きくなりすぎると親水性が高まり耐水性が不十分となるおそれがあるので、4.5meq/g以下とすることが好ましく、4.0meq/g以下とすることがより好ましく、3.5meq/g以下とすることがさらに好ましい。なお、アニオン交換容量は1H−NMRの測定結果から算出することができる。
【0022】
(重合体ブロック(B))
重合体ブロック(B)は、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物重合体ブロックである。この芳香族ビニル化合物重合体ブロックを構成する芳香族ビニル化合物単位は、下記一般式(15)
【0023】
【化3】

【0024】
(式中、R13〜R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表すが、少なくとも1つは炭素数1〜8のアルキル基であり、R16は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される芳香族ビニル化合物単位から選ばれる少なくとも1種の繰り返し単位であることが好ましい。
【0025】
一般式(15)中、R13〜R15が表す炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基などの炭素数3〜8の分岐状アルキル基が挙げられ、炭素数3〜8の分岐状アルキル基が好ましい。R16が表す炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの分岐状アルキル基が挙げられる。
一般式(15)で表される芳香族ビニル化合物単位の好適な具体例としては、4−イソプロピルスチレン単位、4−tert−ブチルスチレン単位、4−イソプロピル−α−メチルスチレン単位、4−tert−ブチル−α−メチルスチレン単位などが挙げられ、4−tert−ブチルスチレン単位、4−tert−ブチル−α−メチルスチレン単位がより好ましく、4−tert−ブチルスチレン単位がさらに好ましい。これらの芳香族ビニル化合物単位を与える芳香族ビニル化合物は単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
重合体ブロック(B)は、芳香族ビニル化合物単位以外の他の単量体単位を、本発明の目的を妨げない範囲内で含んでいてもよい。かかる他の単量体の使用量は、芳香族ビニル化合物と他の単量体との合計に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることがさらに好ましい。
【0026】
重合体ブロック(B)の分子量は、得られるアニオン交換性ブロック共重合体(P)の要求性能などによって適宜選択されるが、GPC法で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量として、通常500〜200,000の範囲で選択されることが好ましく、1,000〜100,000の範囲で選択されることがより好ましい。
【0027】
(ブロック共重合体(P)の形態)
重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)とからなるブロック共重合体(P)の構造は、例えば、ジブロック共重合体(A−B型)、トリブロック共重合体(B−A−B型、A−B−A型)、テトラブロック共重合体(B−A−B−A型、A−B−A−B型)、ペンタブロック共重合体(B−A−B−A−B型、A−B−A−B−A型)が挙げられる。これらの中で、B−A−B型トリブロック共重合体が、製造の簡便さ、高いイオン交換能、優れた耐水性、成形性を合わせて実現できるという観点から好適である。
【0028】
ブロック共重合体(P)において、2個以上の重合体ブロック(A)を有する場合、それらは構造や分子量などが互いに同じであっても又は異なっていてもよい。また、ブロック共重合体(P)が2個以上の重合体ブロック(B)を有する場合、それらは構造や分子量などが互いに同じであっても又は異なっていてもよい。
【0029】
ブロック共重合体(P)における、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との質量比は、当該ブロック共重合体(P)のアニオン交換容量、アニオン交換膜にする場合の成形性及び該アニオン交換膜の強度などの観点から選択する。
重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)との質量比は、10:90〜70:30の範囲であることが好ましく、15:85〜60:40の範囲であることがより好ましく、20:80〜50:50の範囲であることがさらに好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(P0)の数平均分子量は、GPC法で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量として、5,000〜500,000の範囲であることが好ましく、10,000〜300,000の範囲であることがより好ましく、15,000〜200,000の範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
[ブロック共重合体(P)の製造]
以下、ブロック共重合体(P)の製造方法について説明する。
【0032】
(ブロック共重合体(P0)の製造)
ブロック共重合体(P)の前駆体となるブロック共重合体(P0)は次のようにして製造できる。重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A0)及び重合体ブロック(B)から構成されるブロック共重合体(P0)において、各重合体ブロックの製造方法は、各重合体ブロックを構成する単量体の種類、分子量などによってラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法などから適宜選択されるが、工業的な容易さから、ラジカル重合法、アニオン重合またはカチオン重合法が好ましく選択される。また、分子量、分子量分布、重合体の構造、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A0)及び重合体ブロック(B)の結合の容易さなどからリビング重合法が好ましく、具体的にはリビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法、またはリビングカチオン重合法が好ましい。
【0033】
ブロック共重合体(P0)の製造方法の具体例として、スチレンからなる重合体ブロック(A0)及び4−tert−ブチルスチレンを繰り返し単位とする重合体ブロック(B)からなるブロック共重合体(P0−1)の製造方法について述べる。この場合、製造の容易さからリビング重合法が好ましく、リビングアニオン重合法で製造するのがより好ましい。
【0034】
かかるブロック共重合体(P0−1)をリビングアニオン重合によって製造するにあたっては、
(1)シクロヘキサン溶媒中でアニオン重合開始剤を用いて、10〜100℃の範囲の重合温度で4−tert−ブチルスチレンを重合させ、次いでスチレンを添加して重合させ、さらに4−tert−ブチルスチレンを添加して重合させることでB−A−B型トリブロック共重合体を得る方法、
(2)シクロヘキサン溶媒中でアニオン重合開始剤を用いて、10〜100℃の範囲の重合温度で、4−tert−ブチルスチレンを重合させ、次いでスチレンを添加して重合させ、さらに4−tert−ブチルスチレンを添加して重合させた後、安息香酸フェニルなどのカップリング剤を添加して2つの重合末端をカップリングさせることでB−A−B−A−B型ペンタブロック共重合体を得る方法、
などを採用できる。
【0035】
(アニオン交換基の導入)
次に、前記のようにして得られたブロック共重合体(P0)にアニオン交換基を導入する方法について述べる。
アニオン交換基の導入は公知の方法で行うことができる。例えば、得られたブロック共重合体(P0)の重合体ブロック(A0)をクロロメチル化し、次いで前述したアニオン交換基となるアミン化合物またはホスフィン化合物と反応させる方法が挙げられる。
【0036】
上記のクロロメチル化の方法は、特に制限されず、例えば、ブロック共重合体(P0)の有機溶媒溶液や懸濁液にクロロメチルエチルエーテルや塩酸−パラホルムアルデヒドなどのクロロメチル化剤及び塩化スズや塩化亜鉛などの触媒を添加してクロロメチル化させる方法が挙げられる。なお、有機溶媒としてはクロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられる。
クロロメチル化剤、及び触媒の使用割合は特に制限はなく、所望するクロロメチル化率に応じて任意に定めればよい。例えば、ブロック共重合体(P0)中のスチレン単位1モル当たりクロロメチル化剤を0.1〜100モル倍、またルイス酸を0.001〜1モル倍使用することでクロロメチル化率を任意に調整することができる。ブロック共重合体(P0)を溶解させる有機溶媒又は懸濁させる分散媒の使用量は、原料であるブロック共重合体(P0)の濃度が40質量%以下となる量が好ましい。反応条件は、例えば0〜90℃の温度範囲にて、常圧下、0.5〜10時間反応させる条件が挙げられる。
【0037】
クロロメチル化した重合体ブロック(A0)に前述のアミン化合物またはホスフィン化合物を反応させる方法としては、例えば、得られたクロロメチル化したブロック共重合体(P0)の有機溶媒溶液、懸濁液、又はかかる溶液や懸濁液から公知の方法により成形した膜に、前述のアミン化合物もしくはホスフィン化合物をそのままもしくは必要に応じ有機溶媒溶液として添加して反応を行う方法が挙げられる。有機溶媒溶液や懸濁液を調製する有機溶媒としては、メタノールやアセトンが挙げられる。
かかる反応において、アミン化合物、又はホスフィン化合物の使用割合は、所望するアニオン交換基の変性率に応じて任意に定めればよい。例えば、ブロック共重合体(A0)中のクロロメチルスチレン単位1モル当たりアミン化合物またはホスフィン化合物を0.1〜10モル倍使用することで、アニオン交換基の変性率を任意に調整することができる。クロロメチル化したブロック共重合体(P0)を溶解させる有機溶媒又は懸濁させる分散媒は、原料であるブロック共重合体(A0)1g当たり1〜20質量倍使用するのが好ましい。反応条件は、例えば0〜90℃の温度範囲にて、常圧下、1〜40時間反応させる条件が挙げられる。
【0038】
上記で導入されたアニオン交換基は塩化物イオンを有しているので、必要に応じ、これを水酸化物イオン、無機酸からプロトンが解離してなるアニオン(硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオンなど)、有機酸からプロトンが解離してなるアニオン(p−トルエンスルホン酸アニオンなど)などの他のアニオンに変換する。かかる他のアニオンとしては、水酸化物イオンが好ましい。
かかる他のアニオンに変換する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、水酸化物イオンに変換する場合には、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液に、アニオン交換基が導入されたブロック共重合体(P)を浸漬する方法を例示することができる。
【0039】
このようにして得られたブロック共重合体(P)は、高いアニオン交換能を有し、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れる、かつ良好な成形性を有する新規なアニオン交換性ブロック共重合体である。該アニオン交換性ブロック共重合体はさらに耐水性を高めるために架橋処理を施してもよいが、架橋密度は低く抑えても高い耐水性が得られるので、成形後に架橋処理を施しても成形品の収縮変形を抑制できる。
ブロック共重合体(P)を用いた成形品としては、膜状に成形したアニオン交換膜が挙げられる。
【0040】
次に、本発明のアニオン交換膜について説明する。
[アニオン交換膜]
本発明のアニオン交換膜は、前述したブロック共重合体(P)を含有する。
かかるアニオン交換膜の製造方法の具体例を以下に説明する。
本発明のブロック共重合体(P)を適当な溶媒中に溶解させた溶液を調製し、離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの工程フィルム上に、キャスト法やコーティング法などにより、前記溶液の塗膜層を設け、乾燥処理したのち、形成された膜を該工程フィルムから剥がすことにより、アニオン交換膜を製造することができる。前記溶媒としては、例えばトルエン/イソブタノールなどの混合溶媒を用いることができ、ブロック共重合体(P)の濃度が20質量%以下となるように溶液を調製することが好ましい。
塗膜層の乾燥処理の条件は、ブロック共重合体(P)のアニオン交換基が脱落する温度以下で、溶媒を完全に除去できる条件であれば特に制限はなく、例えば室温〜90℃の温度範囲にて、1〜101kPa(1気圧)で、0.1〜40時間処理する条件が挙げられる。
この場合、アニオン交換膜の厚さは、アニオン交換容量によっても異なるが、通常5〜500μmの範囲であり、好ましくは10〜300μmの範囲であり、より好ましくは15〜200μmの範囲である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
【0042】
(ブロック共重合体(P0)の数平均分子量の測定方法)
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定した。
装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
溶離液:THF
カラム:東ソー(株)製、商品名:TSK−GEL(TSKgel G3000HxL(内径7.6mm×有効長30cm)を1本、TSKgel Super Multipore HZ−M(内径4.6mm×有効長15cm)を2本の計3本を直列で接続)
カラム温度:40℃
検出器:RI
送液量:0.35ml/分
数平均分子量計算:標準ポリスチレン換算
【0043】
[参考例1]
(ポリ4−tert−ブチルスチレンとポリスチレンとからなるブロック共重合体の製造)
1400mLオートクレーブに、脱水シクロヘキサン450ml及びsec−ブチルリチウム(1.10mol/Lシクロヘキサン溶液)1.70mlを仕込んだ後、4−tert−ブチルスチレン60.0ml、スチレン49.5ml、4−tert−ブチルスチレン60.0mlを逐次添加し、50℃で逐次重合させることにより、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、b−TSTと略記する)を合成した。得られたb−TSTの数平均分子量は80,000であり、1H−NMR測定から求めたスチレン単位の含有量は30.0質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は70.0質量%であった。
【0044】
[参考例2]
(4−tert−ブチルスチレンとスチレンとからなるランダム共重合体の製造)
1400mLオートクレーブに、脱水シクロヘキサン450ml及びsec−ブチルリチウム(1.10mol/Lシクロヘキサン溶液)1.70mlを仕込んだ後、4−tert−ブチルスチレン120.0ml、スチレン49.5mlからなる混合物を添加し、50℃で重合させることにより、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−r−ポリスチレン(以下、r−TSと略記する)を合成した。得られたr−TSの数平均分子量(GPC測定)はポリスチレン換算で80,000であり、1H−NMR測定から求めたスチレン単位の含有量は30.0質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は70.0質量%であった。
【0045】
[実施例1]
(1)水酸化四級アンモニウム基で変性したb−TSTの製造
参考例1で得られたブロック共重合体(b−TST)5gを、攪拌機付きのガラス製反応容器中にて1時間真空乾燥し、次いで窒素置換した後、塩化メチレン60mlを加え、室温にて攪拌して溶解させた。溶解後、クロロメチルエチルエーテル39mlを滴下し、続いて四塩化スズ1.5gを滴下した。室温にて4時間撹拌した後、停止剤のメタノールを5ml添加し、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液500mlをゆっくり注ぎ、重合体を凝固析出させた。反応液をろ過し、ろ過により得られた固形分を蒸留水500ml及びメタノール500mlにて洗浄を行った後、ろ過により固形分を回収した。回収した重合体を真空乾燥してクロロメチル化b−TSTを得た。得られたクロロメチル化b−TSTのスチレン単位のベンゼン環のクロロメチル化率は、1H−NMR分析から100mol%であった。
続いて上記で得られたクロロメチル化b−TSTにアセトン50mlを加え、これに30質量%トリメチルアミン水溶液50gを滴下した。室温にて18時間撹拌した後、反応液をろ過し、ろ過により得られた固形分をアセトン200ml及び水300mlで洗浄した。洗浄後の固形分に0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液100mlを加えて室温で18時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ過により得られた固形分を水300mlで洗浄した。この固形分を真空乾燥し、本発明のアニオン交換性ブロック共重合体として、水酸化四級アンモニウム基で変性したb−TSTを得た。該アニオン交換性ブロック共重合体のアニオン交換容量は1H−NMRによる分析の結果、2.5meq/gであった。
(2)アニオン交換膜の製造
上記(1)で得られたアニオン交換性ブロック共重合体の5質量%トルエン/イソブタノール(質量比3/7)溶液を調製し、離型処理済みPETフィルム[(株)三菱樹脂製「MRV100」]上にコートし、室温で一晩乾燥することで、厚さ50μmのアニオン交換膜を得た。
(線膨張率測定)
1cm×4cmの試料を4時間、蒸留水(25℃及び90℃)に浸漬した後に、長手方向の長さ(xcm)を計測し、以下の式により算出した。
線膨張率(%)=[(x−4)/4]×100
25℃水中線膨張率:0.3%
90℃水中線膨張率:0.6%
室温水中線膨張率及び90℃水中線膨張率は、いずれも1%未満と低く、本発明のアニオン交換膜は高い耐水性を示した。
【0046】
[比較例1]
(1)水酸化四級アンモニウム基で変性したr−TSの製造
参考例2で得られたランダム共重合体(r−TS)5gを、実施例1(1)と同様にクロロメチル化し、クロロメチル化r−TSを得た。得られたクロロメチル化r−TSのスチレン単位のベンゼン環のクロロメチル化率は、1H−NMR分析から100mol%であった。
続いて上記で得られたクロロメチル化r−TSを、実施例1(1)と同様にアセトン50mlを加え、これに30質量%トリメチルアミン水溶液50gを滴下した。室温にて18時間撹拌したところ生成物のポリマーは全て溶解し、再沈殿操作においても回収することが困難であった。また内容物を蒸発乾固させた後、析出したポリマーを洗浄すべく水10mlを加えると全量が溶解し、ポリマーを回収することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のブロック共重合体は、高いアニオン交換能を有し、耐水性、特に80℃以上の水中での耐水性に優れ、かつ良好な成形性を有する、新規なアニオン交換性ブロック共重合体である。
当該ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜は、各種の水溶液の精製処理に広く利用されているアニオン交換膜などとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)とからなることを特徴とするアニオン交換性ブロック共重合体。
【請求項2】
アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)と、イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)とが、B−A−B型に結合してなるトリブロック共重合体である請求項1に記載のアニオン交換性ブロック共重合体。
【請求項3】
イオン交換基を有さない芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(B)を構成する芳香族ビニル化合物単位が、4−tert−ブチルスチレン単位である請求項1又は2に記載のアニオン交換性ブロック共重合体。
【請求項4】
アニオン交換基を有する芳香族ビニル化合物単位からなる重合体ブロック(A)におけるアニオン交換基が、アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、及びホスホニウム基の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のアニオン交換性ブロック共重合体。
【請求項5】
アニオン交換容量が1.5〜3.5meq/gの範囲である請求項1〜4のいずれかに記載のアニオン交換性ブロック共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアニオン交換性ブロック共重合体を含有するアニオン交換膜。

【公開番号】特開2012−102197(P2012−102197A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250188(P2010−250188)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】