説明

アフィニティートラップリアクター、及びそれを用いたアンジオスタチン様断片のヒト血漿からの一段階精製プロセス

本発明は、用いる酵素と基質の種類によってもその用途が制限されずに、担体に結合した酵素と基質との反応が効率よく進行するアフィニティートラップリアクターを提供する。本発明は、酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体からなる、アフィニティートラップリアクター、並びに生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得る方法であって、プラスミノーゲンを含む生体試料をバシロライシンMA及びリシンを結合させた担体からなるアフィニティートラップリアクターに付して、0〜50℃の温度で、イソプロピルアルコールの存在下、カルシウムイオンの存在しない条件で反応させて、BL−アンジオスタチンを得る方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プロテアーゼなどの酵素を固定化したアフィニティートラップリアクターに関する。
【背景技術】
血管の新生を阻害する物質は、癌の増殖、浸潤、転移を抑制することから、抗腫瘍剤としての用途が期待されており、このような物質の一つとしてアンジオスタチンが知られている。アンジオスタチンは、血液中に存在する、線溶因子であるプラスミノーゲンを分解することにより得られる分子量約40,000のタンパク質であり、動物実験では、癌に対して劇的な効果を示すことが報告されている(非特許文献1参照)。アンジオスタチンの生産には、(1)プラスミノーゲンをエラスターゼというプロテアーゼで加水分解する(非特許文献2参照)、(2)遺伝子組換え技術を用いて大腸菌に直接生産させる(非特許文献3参照)、という2種類の方法が用いられている。この(1)の方法では、エラスターゼの基質特異性の低さのため、副生成物が多く生じ、プラスミノーゲンからアンジオスタチンを選択的に生成させることが困難である。また得られるアンジオスタチンの活性が低いなどの欠点がある。(2)の方法では、大腸菌によって生産されるアンジオスタチンの精製が困難であり、コストもかかる。また、溶解性の低さにも問題がある。このため、アンジオスタチンを簡便な方法で高純度で得る手段の開発が求められていた。
最近、Bacillus megaterium A9542株が産生するプロテアーゼであるバシロライシンMAが、プラスミノーゲンを特異的に切断して新生血管抑制作用を有するアンジオスタチン様断片(主にGlu−Ser441,以降、BL−アンジオスタチンと記載する)と、血栓溶解活性を有するミニプラスミノーゲン様断片(主にVal442−Asn791)を生成することが認められた(特許文献1参照)。また、この酵素バシロライシンMAは、非常に安定であるため、担体に固定して各種用途に用いることが可能である。そこでこのようなバシロライシンMAの特性を利用して、バシロライシンMAと基質プラスミノーゲンとの反応と、その結果得られる生成物BL−アンジオスタチンの精製までの工程を一段階で行なって高純度でBL−アンジオスタチンを得る方法、及びそれを行なうための装置の開発が求められていた。
一方、各種用途に用いるプロテアーゼなどの各種酵素を反応に用いるために担体に固定した酵素固定化リアクターが、従来提案されている。しかし、プロテアーゼについては、固定したプロテアーゼが自己消化による分解で失活しやすい。またプロテアーゼなどの酵素の基質が高分子である場合、空間的な制限により担体に結合した酵素と基質との反応が効率よく速やかに進行しにくい。これらの理由から、酵素固定化リアクターについては、用いる酵素と基質の種類によってはその用途が制限されており、各種酵素及び基質について広く利用できる酵素固定化リアクターの開発が期待されていた。
【特許文献1】 特開2002−272453号公報
【非特許文献1】 エム・エス・オリリー(M.S.O’Reilly)ほか、「セル」(Cell)、(米国)、1994年10月21日、第79巻、第2号、p315−328
【非特許文献2】 エム・エス・オリリー(M.S.O’Reilly)ほか、「ネイチャー・メディシン」(Nature Medicine)、(米国)、1996年、第2巻、p689−692
【非特許文献3】 ビー・ケー・シム(B.K.Sim)ほか、「キャンサー・リサーチ」(Cancer Research)、(米国)、1997年、第57巻、p1329−1334
本発明者は、上記のような欠点のない酵素固定化リアクターを開発するとともに、上記のバシロライシンMAの特性を利用したBL−アンジオスタチンの生産方法を開発するために鋭意研究を行なった結果、バシロライシンMAなどの酵素、及び酵素の基質と特異的に結合する分子を共に担体に結合させてアフィニティートラップリアクターとすることにより、上記のような欠点のないリアクターが得られるとともに、酵素としてバシロライシンMAを固定し、酵素の基質と特異的に結合する分子としてLysを固定したアフィニティートラップリアクターを用いることにより、血液などの生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを高効率かつ速やかに分解精製する方法が得られることを発見して、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
本発明は、酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体からなる、アフィニティートラップリアクターに関する。更に本発明は、生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得る方法であって、プラスミノーゲンを含む生体試料をバシロライシンMA及びリシンを結合させた担体からなるアフィニティートラップリアクターに付して、約0〜50℃、好ましくは約4〜25℃の温度で、イソプロピルアルコールの存在下、カルシウムイオンの存在しない条件で反応させて、BL−アンジオスタチンを高純度で得る方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
第1図はプラスミノーゲンをバシロライシンにより分解させることにより得られたBL−アンジオスタチンの電気泳動図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のアフィニティートラップリアクター
本発明のアフィニティートラップリアクターは、酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合、固定させた担体からなる。酵素と、酵素の基質と特異的に結合する分子の両方を担体に結合させることにより、酵素の基質が該分子を介して担体にトラップされて結合する結果、立体的な障害をうけることが少なく、かつ、基質と酵素が局所的に濃縮される環境が形成されるため、安定に高効率で速やかに酵素と基質との反応が進行する。
本発明のアフィニティートラップリアクターに固定される酵素としては、担体に共有結合により固定することができる酵素であれば、必要に応じて各種の酵素を用いることができる。プロテアーゼ、糖質分解酵素、及び脂質分解酵素などを含む加水分解酵素、酸化還元酵素、転移酵素、除去付加酵素、異性化酵素、合成酵素など、各種の酵素を用いることができる。
また担体に結合させる、酵素の基質と特異的に結合する分子とは、低分子リガンドや抗原抗体反応などにより、酵素基質と特異的かつ可逆的に結合する分子であって、担体と結合しうる分子であれば、必要に応じて任意のものを用いることができる。例えば、酵素の基質、及び目的とする反応生成物には特異的に結合するが、副生成物には結合しない分子を選択して結合させることにより、酵素反応後、副生成物はアフィニティートラップリアクターから容易に除去され、目的生成物のみを高純度で回収することができる。以下に、酵素、基質、それと特異的に結合する分子の例を以下に示す。

上記に示したように、担体に結合させる酵素がBacillus megaterium A9542株が産生する酵素であるバシロライシンMAである場合、このような分子としてはリシン(Lys)を好ましく用いることができる。この場合、リシンは、基質であるプラスミノーゲン、及び目的とする分解生成物であるBL−アンジオスタチンとは特異的に結合するが、副生成物であるミニプラスミノーゲンとは結合しない。このため、酵素反応後、副生成物は担体に結合されずにアフィニティートラップリアクターから除去されるため、目的生成物のみを選択的に回収することができる。
本発明のアフィニティートラップリアクターに使用しうる担体としては、アフィニティークロマトグラフィーにおいて通常使用されている担体であれば、固定化する酵素や、基質と特異的に結合する分子の種類、性質に応じて、当業者であれば適宜選択、使用することができる。このような担体としては、例えば、多孔性シリカビーズ担体;セレックス、セレックスAE、セレックスCM、セレックスPABなどのセルロース系担体(いずれもセルバ社);セファロース2B、セファロース4B、セファロース6Bなどのアガロース系担体(いずれもファルマシア社);セファデックス、CM−セファデックスなどの架橋デキストラン系担体(いずれもファルマシア社);クロマゲルP、エンザフィックスP−HZ、エンザフィックスP−SH、エンザフィクスP−ABなどの架橋ポリアクリルアミド系担体(いずれも和光純薬工業)などを用いることができる。なかでも、安定性、機械的性質に優れ、リガンドの固定可能化量が高く、非特定的吸着性が低いなどの理由から、ビーズ状の担体であるセファロース2B、セファロース4B、セファロース6Bなどのアガロース系担体を好ましく使用することができる。アガロースゲルを用いる場合は、ハロゲン化シアン(臭化シアン、ヨウ化シアン、塩化シアンなど)によってあらかじめ活性化しておくのが好ましい。
また、上記の酵素は、担体と直接結合していてもよいが、必要に応じて、スペーサー基を介して結合していてもよい。例えば、担体と酵素とを直接の化学結合でカップリングさせることができない場合、酵素が比較的小さい分子であって酵素と基質との結合を完全に行なわせるのが困難である場合などに、スペーサー基を用いることができる。このようなスペーサー基は、当業者が、結合させる酵素の種類に応じて適宜選択することができる。一方、バシロライシンMAを担体に結合させる場合には、スペーサーは特に使用しなくても、これを担体に容易に結合させることができる。
以下に、本発明のアフィニティートラップリアクターに好適に使用しうる担体、酵素、その基質、基質と特異的に結合しうる分子、及び用いうるスペーサー基の例を挙げるが、本発明のアフィニティートラップリアクターは、これらに限定されるものではない。

本発明のアフィニティートラップリアクターの作成
本発明のアフィニティートラップリアクターは、担体に酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させたものであるので、生化学の分野で使用されるアフィニティークロマトグラフィーを製造する方法を応用することにより、当業者であれば容易に作成をすることができる。
作成に際しては、まず使用する担体に酵素を結合させる。結合に際しては、必要に応じて、担体の官能基を活性化することにより、担体と酵素との結合を容易にする。例えば担体としてアガロースゲルを用いる場合には、あらかじめハロゲン化シアン(臭化シアン、ヨウ化シアン、塩化シアンなど)で処理することによりアガロースゲルを活性化する。活性化されたアガロースゲルも市販されているので、これを用いることもできる。
必要に応じて活性化した担体を緩衝液で洗浄し、次に同じ緩衝液に溶解した酵素溶液で担体を処理して、担体に酵素を結合させる。緩衝液に含まれる酵素の濃度は、固定する酵素の種類に応じて適宜決定することができる。またここで使用する緩衝液の組成、pH、反応時間なども、固定する酵素の種類に応じて適宜決定することができる。例えばバシロライシンMAを担体に固定する場合、バシロライシンMA約0.5〜10mg/ml、好ましくは約2.84mg/mlを含む、pH8〜9の緩衝液(組成:0.1M炭酸水素ナトリウム、pH8.3、更に約0.5M NaCl、約5%イソプロピルアルコールを含む)を用い、約2時間反応させる。
次に酵素溶液を吸引などの手段により除去し、酵素の基質と特異的に結合する分子を含む水溶液で処理することにより、酵素の基質と特異的に結合する分子を担体に結合させる。この水溶液に含まれる、酵素の基質と特異的に結合する分子の濃度や反応時間は、分子の種類によって適宜決定することができる。このような分子としてリシンを用いる場合、リシン塩酸塩約0.1〜1M、好ましくは約0.2Mを含む約5%イソプロピルアルコール水溶液を使用して、約2時間反応させる。上記の反応はいずれも室温で行なうことができる。
次に、酵素の基質と特異的に結合する分子の水溶液を吸引などの手段により除去し、酵素及び酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体を緩衝液で洗浄することによって、本発明のアフィニティートラップリアクターが得られる。緩衝液の種類は、固定する酵素及び基質と特異的に結合する分子の種類に応じて適宜選択することができるが、バシロライシンMA及びリシンを結合させたリアクターの場合、20mM MES(2−〔モルホリノ〕エタンスルホン酸)−NaOH緩衝液(pH6.5)(緩衝液B)などの緩衝液で洗浄することができる。
上記のバシロライシンMA及びリシンを結合させたリアクターを作成する各工程で用いる緩衝液又は水溶液に含まれるイソプロピルアルコール濃度は、約1〜10%、好ましくは約5%である。イソプロピルアルコールの存在下で上記の各工程を行なうことにより、担体に固定した酵素の失活を防ぎ、酵素を安定に長期間保持することができる。
なお、上述した、担体に酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させる順序については、いずれを先に結合させることも可能である。
このようにして得た本発明のアフィニティートラップリアクターは、約0.01〜0.1%、好ましくは約0.02%のアジ化ナトリウムを含む緩衝液中、約0〜5℃程度の低温、好ましくは約4℃で保存する。緩衝液の種類は、適宜選択することができる。バシロライシンMA及びリシンを結合させたリアクターの場合、約0.02%アジ化ナトリウムを含有する、20mM MES(2−〔モルホリノ〕エタンスルホン酸)−NaOH緩衝液(pH6.5)などの緩衝液中で保存することができる。このようにアジ化ナトリウム溶液中、低温で保存することにより、本発明のアフィニティートラップリアクターは、酵素を失活させることなく、長期にわたって安定に保存することができる。
本発明のアフィニティートラップリアクターは、上記のような構成とすることにより、固定する酵素と、酵素の基質と特異的に結合する分子の種類に制限されることなく、酵素と基質との反応を高効率で、かつ特異的に進行させることができる。
本発明のアフィニティートラップリアクターの使用
本発明のアフィニティートラップリアクターを用いて、所望の酵素と基質の反応を進行させるには、上記のように調製した本発明のアフィニティートラップリアクターをあらかじめ緩衝液で平衡化しておく。緩衝液の種類は、固定した酵素及び基質と特異的に結合する分子の種類に応じて適宜選択することができる。例えば酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させた本発明のアフィニティートラップリアクターの場合、約1〜10%、好ましくは約5%のイソプロピルアルコールを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)(緩衝液C)を用いることができる。
次にアフィニティートラップリアクターに固定されている酵素の基質を含む、生体試料などの試料(血液など)を遠心分離することにより上清を得る。酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させた本発明のアフィニティートラップリアクターの場合には、遠心分離する前に、血漿などの生体試料にあらかじめイソプロピルアルコールを、氷上で添加しておく。添加後のイソプロピルアルコールの濃度は、約1〜10%、好ましくは約5%である。遠心分離の条件は、試料の種類に応じて適宜決定することができる。得られた上清を、平衡化しておいた本発明のアフィニティートラップリアクターに添加することによって生体試料中の基質と酵素との反応を進行させ、その後アフィニティートラップリアクターを緩衝液で洗浄し、次いで溶出液を添加することにより酵素反応によって生じた生成物を溶出する。洗浄に用いる緩衝液としては、平衡化に用いた緩衝液を用いることができる。例えば、酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させた本発明のアフィニティートラップリアクターの場合、約0.5MのNaClを含む上記の緩衝液Cで洗浄する。溶出液も、酵素、基質の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、約200mMの6−アミノヘキサン酸を含む、約1〜10%、好ましくは約5%のイソプロピルアルコール水溶液を溶出液として用いる。
酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させたアフィニティートラップリアクターの場合、上記の一連の反応はすべて、約0〜50℃程度の温度、好ましくは約4〜25℃の温度で行なう。このような温度で反応を進行させることによって、アフィニティートラップリアクターに固定されたバシロライシンMAは自己消化せずに安定に保持される一方、プラスミノーゲンに対するバシロライシンMAの作用は、必要最低限確保されるため、酵素反応は円滑かつ特異的に進行する。またこの一連の反応で使用する各種緩衝液には、カルシウムイオンを含有させず、カルシウムイオンの存在しない条件で各反応を進行させる。
使用後の本発明のアフィニティートラップリアクターは、緩衝液で洗浄し、アジ化ナトリウムを含む緩衝液中で保存する。緩衝液の種類は適宜選択することができるが、アフィニティートラップリアクターを平衡化するのに用いた緩衝液を用いることができる。例えば、酵素としてバシロライシンMAを、基質と特異的に結合する分子としてリシンを結合させた本発明のアフィニティートラップリアクターの場合、約1MのNaCl、約200mMの6−アミノヘキサン酸を含有する緩衝液Cで洗浄し、約0.02%のアジ化ナトリウムを含有する緩衝液C中で保存する。このような条件で洗浄、保存することにより、本発明のアフィニティートラップリアクターは、数ヶ月に渡り、繰り返し使用することができる。
以上、本発明のアフィニティートラップリアクターの作成法及び使用法について記載したが、本発明は、このアフィニティートラップリアクターを用いた、生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得る方法にも関する。本方法は、プラスミノーゲンを含む生体試料をバシロライシンMA及びリシンを結合させた担体からなるアフィニティートラップリアクターに付して、約0〜50℃、好ましくは約4〜25℃の温度で、イソプロピルアルコールの存在下、カルシウムイオンの存在しない条件で反応させて、BL−アンジオスタチンを得ることによる。リシンは、基質であるプラスミノーゲンと、目的とする分解生成物であるBL−アンジオスタチンの両者とは特異的に結合するが、副生成物であるミニプラスミノーゲンとは結合しない。このため、酵素反応後、副生成物はリシンを介して担体に結合されずにアフィニティートラップリアクターから除去されるため、目的生成物のみを選択的に回収することができる。このような特定の条件で本発明のアフィニティートラップリアクターを用いて酵素反応を進行させることにより、プラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で高純度で得ることができる。
本発明の方法は、先に詳細に記載した本発明のアフィニティートラップリアクターを用い、先に記載した本発明のアフィニティートラップリアクターの使用法により実施することができる。プラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得るための具体的かつ詳細な条件は、以下の実施例に記載したとおりであるので、実施例の記載に基づいて実施することができる。
【実施例】
以下に、本発明について具体的に説明するが、本発明は実施例に記載されたものに限定されるものではない。
例1.バシロライシンMAの生産及び精製
バシロライシンMAは、Bacillus megaterium A9542株(寄託番号FERMP−18268で経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所特許生物寄託センターに寄託されている)から、以下の方法により分離精製した。
グルコース1%、コーンスターチ3%、大豆ミール1%、ペプトン0.5%、イースト抽出物0.5%、CaCO0.2%、CB442 0.01%の成分を含む液体培地(pH7.0)100mlを含む500ml容三角フラスコで、Bacillus megaterium A9542株を28℃で6日間振とう培養後、培養液3リットルをセライトを用いてろ過し、そのろ液1リットルをHOで5リットルに希釈し、イソプロピルアルコールを最終濃度5%(v/v)となるように添加した。その後、20mM MES(2−〔N−モルホリノ〕エタンスルホン酸)−NaOH緩衝液(pH6.5)/5%イソプロピルアルコールで平衡化した400mlのカルボキシメチルセルロース(CM−Cellulose、生化学工業株式会社)カラムに流速15ml/分で注入した。同じ緩衝液600mlで洗浄した後、20mM MES/NaOH(pH6.5)/5%イソプロピルアルコール/0.2M NaClで溶出した。その溶出画分を60mlずつ分画し、活性の認められた画分を集めた。その純度をSDS−PAGEで確認し、精製物90mgを得た。
例2.バシロライシンMA及びリシンを固定した本発明のアフィニティートラップリアクターの作成(リアクター10mlを作成)
臭化シアンであらかじめ活性化しておいたアガロースゲル(セファロース4B、ファルマシア社)2.86gを1mM HCl溶液100mlに懸濁し、室温で15分間撹拌した。これをカラムに移し、吸引してHCl溶液を除去し、1mM HCl溶液100mlで3回、次に0.5M NaCl、5%イソプロピルアルコールを含む緩衝液A(0.1M 炭酸水素ナトリウム、pH8.3)75mlで1回ゲルを洗浄した。2.84mg/mlのバシロライシンMA溶液を同じ緩衝液Aで作成し、その17.6mlをカラムに添加し、室温で2時間撹拌することによって、固定化反応を行なった。反応終了後、吸引により溶液を除去し、0.2M L−リシン塩酸塩を含む5%イソプロピルアルコール水溶液(pH8.0)20mlを加えて、室温で2時間撹拌することによりリシンの固定化反応を行なった。反応終了後、溶液を吸引により除去し、5%イソプロピルアルコールを含む、緩衝液B(20mM MES(2−〔モルホリノ〕エタンスルホン酸)−NaOH)500mlでゲルを洗浄し、最後に0.02%アジ化ナトリウムを含む、上記組成の緩衝液B中、4℃で保存した。
例3.バシロライシンMA/リシンリアクターを用いた、ヒト血漿からのBL−アンジオスタチンの一段階精製プロセス
クエン酸処理したヒト血漿95mlにイソプロピルアルコール5mlを氷上で添加し、30分間放置した後、遠心分離(22,000xg、4℃、1時間)により上清を得、ろ過した。以降の操作はすべて4℃で行なった。例2で作成した本発明のバシロライシンMA/リシンリアクター10mlを、5%イソプロピルアルコールを含む緩衝液C(50mM リン酸ナトリウム、pH7.4)で平衡化した。平衡化したリアクターに、上記の上清を流速1.5ml/分で添加した。その後、0.5M NaClを含む上記組成の緩衝液C200mlでリアクターを洗浄した(3ml/分)。生成したBL−アンジオスタチンの溶出は、200mMの6−アミノヘキサン酸を含む5%イソプロピルアルコール溶液50mlで行なった。その結果、ほとんどのBL−アンジオスタチンは、10〜30mlの溶出液で溶出された。BL−アンジオスタチンの収量は、4.2mgであり、純度は95%であった。
なお、使用後のリアクターは、1MのNaClと200mMの6−アミノヘキサン酸を含む上記組成の緩衝液C50mlを用いて4℃で洗浄した。その後、0.02%アジ化ナトリウムを含む緩衝液C中、4℃で保存した。この状態で洗浄、保存したリアクターは、2ヶ月以上繰り返して使用可能であった。
得られたBL−アンジオスタチンのうち3μgを精製水に溶解して10μlとし、これにサンプル緩衝液10μl(4%SDS、10% 2−メルカプトエタノール、20%ショ糖、0.004%ブロモフェノールブルーを含む、125mMトリス塩酸緩衝液、pH6.8)を加え、そのうち15μlを7.5%ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動で分画した後、クーマシーブリリアントブルーR250で染色した。その結果を、図1のレーン2に示す。
図に示されるとおり、本発明のアフィニティートラップリアクターを用いてヒト血漿中プラスミノーゲンから得られたBL−アンジオスタチンには、プラスミノーゲンや副生成物及びその他の血漿タンパク質はほとんど含まれておらず、高純度のアンジオスタチンが得られた。
比較例1.バシロライシンMAによるプラスミノーゲンの分解反応
バシロライシンMA(5nM)とプラスミノーゲン(3μM)、100mM NaCl、0.01%Tween 80、1mM CaClを含む50mMトリス塩酸溶液(pH7.4)を、37℃で60分間インキュベートした。その後、その10μlを、サンプル緩衝液(4%SDS、10% 2−メルカプトエタノール、20%ショ糖、0.004%ブロモフェノールブルーを含む、125mMトリス塩酸緩衝液、pH6.8)10μlに加え、その15μlを、7.5%ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動で分画した後、クーマシーブリリアントブルーR250で染色した。その結果を、図1のレーン1に示す。
図に示されるとおり、プラスミノーゲンをバシロライシンにより直接分解させた方法では、分解生成物に、BL−アンジオスタチン以外に、未反応のプラスミノーゲンや副生成物であるミニプラスミノーゲンが含まれており、アンジオスタチンを高純度で得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明のアフィニティートラップリアクターを用いると、用いる酵素と基質の種類によってもその用途が制限されずに、担体に結合した酵素と基質との反応が効率よく進行する。更にこのリアクターを、バシロライシンMAとリシンを固定したリアクターとすることにより、バシロライシンMAと基質プラスミノーゲンとの反応と、その結果得られる生成物BL−アンジオスタチンの精製までの工程を一段階で行なうことができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素、及び該酵素の基質と特異的に結合する分子を結合させた担体からなる、アフィニティートラップリアクター。
【請求項2】
酵素が、プロテアーゼである、請求の範囲第1項記載のアフィニティートラップリアクター。
【請求項3】
酵素が、バシロライシンMAであり、酵素の基質と特異的に結合する分子がリシンである、請求の範囲第2項記載のアフィニティートラップリアクター。
【請求項4】
生体試料に含まれるプラスミノーゲンからBL−アンジオスタチンを一段階で得る方法であって、プラスミノーゲンを含む生体試料をバシロライシンMA及びリシンを結合させた担体からなるアフィニティートラップリアクターに付して、0〜50℃の温度で、イソプロピルアルコールの存在下、カルシウムイオンの存在しない条件で反応させて、BL−アンジオスタチンを得る方法。

【国際公開番号】WO2004/065595
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567101(P2004−567101)
【国際出願番号】PCT/JP2003/000338
【国際出願日】平成15年1月17日(2003.1.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物:2002年8月25日、生化学、第74巻、第8号 2.学会発表:2002年10月17日、日本生化学会、第75回大会、京都府京都市左京区宝ヶ池 国立京都国際会館 3.刊行物:2002年12月1日、三島海雲記念財団 研究報告書 平成13年度(第39号)
【出願人】(501184249)株式会社ティーティーシー (10)
【Fターム(参考)】