説明

アポクリン細胞株

アポクリン細胞を初代組織から単離し、単離された細胞を第1培地内で培養し、第1培地から未付着細胞を取り出し、有効濃度のホルボールエステルを含む第2培地に該未付着細胞を移し、それにより、長期増殖能を示し多数回の培養の後に無限増殖を示すアポクリン細胞株を樹立する工程によりアポクリン細胞株を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポクリン細胞株、特に、長期増殖を示すアポクリン細胞株に関する。
【背景技術】
【0002】
エクリン腺に加えて、アポクリン腺は、ヒトの皮膚上で皮膚細菌集団にさらされると悪臭性化合物に変換される種々の脂質性およびアミノ酸溶質(ステロイドおよび短鎖脂肪酸を含む)を含有する水性流体を分泌する。換言すれば、アポクリン腺はヒトの発汗に関与している。皮膚上の悪臭性化合物の生成を抑制するための手段を見出すために、相当な研究が行われ続けているが、これは、インサイチュ(in situ)、すなわちヒトの皮膚におけるアポクリン腺の機能を厳密に模擬するアポクリン細胞株が存在しないことにより妨げられている。後者の開発は非常に重要であろう。なぜなら、それは、本明細書に記載されている利益の1以上を提供するからである。それは、インビボと比べて非常に多くのインビトロの研究の実施を可能にするであろう。これは、(i)発汗を招くアポクリン腺内の輸送メカニズムを特定するのを補助し、(ii)悪臭性化合物の形成を減少させる物質のスクリーニングおよび特定を促進し、(iii)それらの有効濃度(すなわち、身体に局所的に適用された場合に防臭剤として作用するのに要求される濃度)を決定するのを助けるであろう。適当な細胞株の存在は、発汗自体以外の新規腺機能を特定する機会をも提供するであろう。
【0003】
長期培養内で他の分泌細胞を維持するための試みと同様に、アポクリン培養から得られた初代細胞株は、アポクリン腺に特徴的な形態学的、表現型的および/または機能的特徴を失う前に数回しか継代されていない。
【0004】
R Wicherらによる論文(Andrologia 35,pp342−350,題名“Establishing of two in vitro models of epithelial cells from the apocrine secreting rat coagulating gland”)はラット由来のアポクリン細胞に関するものであり、長期増殖を示すヒト由来のアポクリン細胞株を開示していない。さらに、機能性を示すためにそこにおいて使用されている細胞マーカーは必ずしもヒトアポクリンモデルに関連したものではない。さらに、該著者は、一見したところ、凍結および解凍後にそれらの細胞を継代することを狙っていたのではなく、したがって、それらの長期増殖能を実証しなかった。
【0005】
Z.Marasらの論文(In Vitro Cell.Dev.Biol.Animal Vol 35,Nov−Dec(1999),pp606−611,題名“Cultivation of Epithelia from the Secretory Coil of the Ovine Apocrine Gland;Evidence of Secretory Cell Function and Ductal Morphogenesis in Vitro”において公開)はヒツジ由来のアポクリン細胞に関するものであり、同様に、長期増殖を示すヒト由来のアポクリン細胞株を開示していない。
【0006】
Dieter C.Gruenertらの論文(In Vitro Cell.Dev.Biol.Vol 26,April(1990),pp411−416,題名“Long Term Culture of Normal and Cystic Fibrosois Epithelial Cells grown under Serum−free Conditions”において公開)はアポクリン細胞ではなくエクリン細胞に関するものであり、したがって、長期増殖を示すヒト由来のアポクリン細胞株を開示していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Andrologia 35,pp342−350
【非特許文献2】In Vitro Cell.Dev.Biol.Animal Vol 35,Nov−Dec(1999),pp606−611
【非特許文献3】In Vitro Cell.Dev.Biol.Vol 26,April(1990),pp411−416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の目的
本発明の目的は、長期増殖を示し継代培養により培養内で維持されうる、アポクリン腺の発汗機能を模擬するアポクリン細胞株を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本発明は、長期増殖を示す培養アポクリン細胞株を提供する。
【0010】
この場合の増殖は、該細胞が、適当な培地内で培養された場合に分裂する能力を保有することを示すものであるが、該細胞株が不死化されていることを示唆するものではない。
【0011】
本発明の場合の長期は、該細胞が、少なくとも30回の継代培養(継代)後に増殖するそれらの能力を保有することを示す。実際には、そのような長期増殖が細胞株により達成された場合、それは、一般に、少なくとも100または1000回の継代にわたる増殖を示しうる。そのような多数回の継代にわたる増殖は、少なくとも本発明の培養アポクリン細胞株の実用的な目的には、無限増殖を示す。
【0012】
特に、European Collection of Cell Cultures(ECACC),Porton Down,Salisbury,SP4 0JG,Englandに寄託番号07021301で寄託されたヒトアポクリン細胞株ASG5を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】外植の9日後にアポクリンコイルから成長している細胞の位相差顕微鏡写真である。
【図1B】増殖中のアポクリン細胞の位相差顕微鏡写真である。
【図2】アミロリドの存在下の初代アポクリン、エクリンおよび増殖性アポクリン培養におけるピーク増加を示している。
【図3】初代アポクリン、エクリンおよび増殖性アポクリン培養におけるISCのピーク増加を示している。
【図4A】ASG5細胞におけるカルバコールに対する応答に対するイオンチャネルインヒビターの効果に関する代表的なISC記録(トレース)である(アミロリド(10μM)での先端前処理)。
【図4B】ASG5細胞におけるカルバコールに対する応答に対するイオンチャネルインヒビターの効果に関する代表的なISC記録(トレース)である(1mM フロセミドでの先端前処理)。
【図5】産生された全PCR産物の1.2% アガロースゲルを示している。
【図6】無限増殖性アポクリン腺細胞株において発現されることが示されている遺伝子が与えられた場合に明らかにされうるステロイド合成経路の概要図である。
【図7】産生された全PCR産物の1.2% アガロースゲルを示している。
【図8】該3M2Hグルタミンコンジュゲートの相対レベルを示している。
【図9】7日間および14日間の培養の後に集めたアポクリン細胞におけるコレステロールの相対レベルを示している。
【図10】7日間および14日間の培養の後に集めたアポクリン細胞におけるスクアレンの相対レベルを示している。
【図11】短鎖脂肪酸の相対レベルを示している。
【図12】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(3日齢培養細胞)図である。
【図13】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(3日齢培養細胞)図である。
【図14】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(3日齢培養細胞)図である。
【図15】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(3日齢培養細胞)図である。
【図16】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(14日齢培養細胞)図である。
【図17】細胞培養染色切片の透過型電子顕微鏡(14日齢培養細胞)図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態および形態学的特徴の詳細な説明
本明細書は、長期増殖性アポクリン細胞株の作製、そしてついで、電気生理学的、分子的および生化学的技術によるその特徴づけ及び初代培養アポクリン細胞との比較を説明する。少なくとも長期増殖を示したアポクリン細胞株ASG5に対する明確な関連性を有する臭気前駆体化合物の分析およびステロイド合成に特別の関心が払われる。
【0015】
アポクリン腺の単離および初代培養
長期増殖能を示したアポクリン細胞株は以下の方法により得られた。関連倫理委員会からの許可および被験者のインフォームドコンセントを予め得て30から70歳の女性の腋窩皮膚を切除することにより、全アポクリン腺を単離した。該切除法により幾つかのアポクリン汗腺を断片化し、それらの断片から細胞を培養することができた。顕微鏡的観察およびニュートラルレッド(Nerutral Red)取り込み実験は、切除により単離されたアポクリン腺が、純粋に、管から分離されたコイルよりなることを示した。約50mm×5mmの腋窩皮膚のサンプルから、平均して10から100個のアポクリンコイルが単離された。
【0016】
ついで、LeeらによりJ.Cell Sci.83:103−118,1986において提示されている変法を用いて、コラーゲンII型(2mg ml−1)を含有するウィリアムス・イー(Williams E)培地(本明細書においてはWEMと略称される)内で5% CO/相対湿度95%の空気中、該アポクリンコイルを30分間温置した。ついで、10ng ml−1 上皮増殖因子(EGF)、10μg ml−1 インスリン、10ng ml−1 ヒドロコルチゾン、10μg ml−1 ホロトランスフェリン、1mM L−グルタミン、100U ml−1 ペニシリンおよび100μg ml−1 ストレプトマイシンで補足された酵素非含有WEM中で該コイルを洗浄した。
【0017】
10ng ml−1 EGF、10μg ml−1 インスリン、0.5μg ml−1 ヒドロコルチゾン、30μg ml−1 ウシ下垂体抽出物、50μg ml−1 ゲンタマイシンおよび50ng ml−1 アンホテリシンで補足された1mlの乳房上皮増殖培地内で25cm フラスコ当たり約15個のアポクリン腺をプレーティングした。95% 空気/5% CO 加湿インキュベータ中で37℃で24時間の温置の後、さらに3mlのMEGMを各フラスコに加え、ついで該培地を3日ごとに交換した。
【0018】
無限増殖細胞株を示す長期増殖性アポクリン細胞株(ASG5)の作製および維持
初代汗腺の単離および培養
前記のとおり、全無傷ヒトアポクリン汗腺を切除により単離した。アポクリン腺の組織学的検査は、切除が、短い吸収管を完全に取り出して分泌性コイル部分のみを無傷のまま残したことを示した。単離された腺を補足MEGM内でプレーティングした。プレーティングされた腺の約50%が枝を生成し、これは2から3日後に常套的に観察された。枝は、20日間まで増殖し続け、典型的な「丸石状(cobblestone)」上皮細胞形態学を示した((A)外植の9日後にアポクリンコイルから成長している細胞、および(B)増殖中のアポクリン細胞の位相差顕微鏡写真を示す図1に示すとおり)。培養の初期段階において、枝が観察される前に、伸長した繊維芽細胞状の形態学を示す少数の細胞が外植腺の周囲にしばしば観察された。しかし、これらの細胞はMEGM内では増殖しなかった。
【0019】
アポクリン分泌コイルの初代培養から増殖性アポクリン細胞株を誘導した。MEGM内で7日間の培養の後、強力なホルボールエステルであるTPA(ホルボール−12−ミリスタート−13 アセタート;旧Calbiochem,Nottingham,UK)を250nMの濃度で該培地に加えた。ホルボール(ホルボールは1,1a,1b,4,4a,7a,7b,8,9,9a−デカヒドロ−4a,7b,9,9a−テトラヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−1,1,6,8−テトラメチル−5H−シクロプロパ[3,4]ベンゾ[1,2−e]アズレン−5−オンとも称される)のエステルの有効濃度を該培地が含有することは、長期増殖能を示す細胞株を入手する方法の重要な特徴である。一般に、該エステルは、少なくとも脂肪族置換基、例えば長鎖アルキル(CからC24)および場合によっては更に短鎖アルキル(CからC)を、特に好適には12および/または13位に含む。したがって、本発明における方法は、無限増殖を示すアポクリン細胞株の調製を可能にする。
【0020】
TPAは、添加の3から4日後に、未熟多層化を誘導した。しかし、上部の分化した層は反復洗浄により除去され、フラスコに尚も付着している細胞の増殖性単層が残った。該増殖性層の細胞を96ウェルプレート内に継代して、クローン細胞株を作製した。細胞を維持し、継代し、TPAを含有するMEGM内で約2ヶ月間、成長させ続けた。この期間の後、細胞をMEGM単体において培養し、増殖の継続に関してモニターした。最初は多数のサブクローンが成長し続けたが、次の10回の継代の終わりまでに、大多数が老化し始めていた。1つの培養、特にASG5は成長し続け、現在も培養内で維持されており、成長速度の減少の徴候を伴うことなく40継代以上増殖している。これは、無限の増殖能を示していることの指標となる。この培養はTPAの非存在下で増殖し続け、低温保存においても生存可能であり、安定であるとみなされている。比較すると、初代アポクリン汗腺は最大で1ヶ月および4継代にわたって成長し、低温保存においては生存しない。長期増殖を示す本発明において継代された細胞培養は、例えばピークアゴニスト応答において、初代アポクリン培養に形態学的に類似している。したがって、そのような細胞培養は、インビトロで或る物質が防臭特性を示すかどうか及び/又はその度合を実証するために使用可能であり、すなわち、個人用防臭剤として作用しうる。
【0021】
電気生理学のためのASG5アポクリン細胞の調製
13から18日後、コンフルエントなASG5培養をTranswellコラーゲンコート化透過性支持体(面積0.33cm,Costar,カタログ番号3495,High Wycombe,Bucks,UK)上に継代した。これは2% EDTA中で20分間、およびそれに続くトリプシン(0.5%)−EDTA(0.2%)中で約5分間の温置を含むものであった。3×10個の細胞を、WEMで補足された各Transwell上に移した。該Transwell支持体を24ウェルプレート内の0.6mlの同じ培地中に懸濁させた。初代培養には、初回継代細胞のみを実験に使用した。Transwell上の培養物を浸す培地は2日ごとに交換した。
【0022】
電気生理学
オーム計に接続された「箸(chopstick)」電極(WPI,Alresford,Hants,UK)を使用して、Transwell上の上皮を隔てる経上皮抵抗性(TER)をモニターした。湿らせたフィルターブランクに関する測定値を引き算することにより、TERを評価した。ピークTERにおいて、Transwell支持体をウッシング室(Ussing Chamber)内にマウントした。上皮を、修飾されたクレブスバッファー中に浸し、酸素化し、95%O/5%CO、37℃、pH7.4に維持した。該バッファーは、NaCl,117;KCl,4.7;CaCl,1.5;MgSO,1.2;NaHCO,25;およびグルコース,11.1(mM)よりなるものであった。電圧/電流クランプに接続された電圧および電流電極(それぞれ、カロメルおよび銀/塩化銀,ABB Kent Taylor,Stonehouse,Glos,UK)を、3M 塩化カリウムに溶解した寒天を含有する橋を介して該浴内に伸長させた。
【0023】
電圧電極をTranswellの非存在下で平衡化し、任意DC電流の注入により電圧電極間の流体抵抗を補償した。Transwellをマウントした後、該上皮を短絡させ、該電流を典型的には15分間安定化させた。アポクリン物質が稀少であることを考慮して、典型的には、Braydenら(1988)J.Physiol,405:657−675、Pedersenら(1992)Exp.Physiol,77;863−871およびShenら(1994)Am.J.Physiol,266:L493−501に開示されているとおりに、薬物を連続的に加え、短絡電流(ISC)の変化を記録した。実験の継続時間は典型的には15から60分間であった。オームの法則を用いて、通常は、電圧を±10mVに固定し、これを達成するのに要した電流を測定することにより、TERを評価した。特に示さない限り、先端側に加えられたアミロリドを除き、説明に挙げられている全ての薬物は基底側部に加えられた。アミロリドは上皮Naチャネル(ENaC)およびNa/H交換体のインヒビターである。
【0024】
クレブスバッファーの修飾
グルコン酸ナトリウムがNaClで、グルコン酸カリウムがKClで、そしてCaSOがCaClで置換されたクレブスバッファー中で塩化物イオン(クロリド)置換実験を行った。浸透圧を維持するための代用物として11.1mM マンニトールを使用して、グルコース非含有実験を行った。MgClがMgSOに取って代わるよう、カリウムチャネルのインヒビターとしてバリウムを使用した実験を硫酸イオンの非存在下で行った。
【0025】
基底経上皮特性
増殖性アポクリン培養物を透過性支持体上に継代し、ピークTERにおいてウッシング室(Ussing Chamber)に移した。そのような増殖性培養に関する平均TERは395±40Ωcmであった(P<0.001)。増殖性アポクリン培養物に関する静止短絡電流(ISC)は4.5±0.8μA cm−2であった(P<0.001)。静止経上皮電位差(TEPD)は、先端陰性(apically negative)の増殖性アポクリン培養に関しては1.0mVであった。
【0026】
以下の表1に要約されている静止ISCに対するイオン輸送インヒビターの効果
増殖性培養における静止ISCは10μM アミロリドに対して感受性であった。このことは、ナトリウム再吸収が、培養された汗腺上皮におけるイオン輸送の重要な構成要素であることを証明している。先端に適用されたアミロリド(10μM)は増殖性アポクリン培養において静止ISCを4.5±1.0μA cm−2減少させた(n=20,P<0.001)。用量反応曲線は、アミロリドのIC50が2から4μMであり、10μM アミロリドが最大上用量であったことを示している。
【0027】
上皮Na−K−Cl共輸送体であるNKCCl(ひいては経上皮塩化物イオン輸送)のインヒビターであるフロセミドの効果もアポクリン培養において調べた。1mM フロセミドの基底側部添加は形質転換培養において静止ISCを0.8±0.30.2μA減少させた(n=20,P<0.001)。
【0028】
【表1】

【0029】
アゴニスト応答におけるナトリウム再吸収の役割
アゴニスト応答におけるナトリウム再吸収の役割を決定するために、初代アポクリンおよび増殖性アポクリン培養を10μM アミロリドで前処理した。添付されている図2は、アミロリドの存在下の初代アポクリン、エクリンおよび増殖性アポクリン培養におけるピーク増加を示す。Transwell上の培養の基底側部に該アゴニストを加えた。各該図における棒グラフはn=10の最小値を表している。先端アミロリド(10μM)の存在下の短絡電流におけるピーク増加が示されている。以下のアゴニストを基底側部に加えた:カルバコール(CCh;20μM)、イソプレナリン(Iso;10μM)、L−ブラジキニン(LBK;170nM)、ヒスタミン(His;200μM)およびアデノシン三リン酸(ATP;100μM)。不対スチューデントt検定およびウィルコキソン(Wilcoxon)検定を用いて、有意性を試験した。
【0030】
図2は、アミロリド前処理が長期増殖性アポクリン細胞株ASG5においてCCh、HisおよびATPに対する応答を有意に減少させたことを示しており、このことは、ナトリウム再吸収がこれらの応答の構成要素であることを示唆している。
【0031】
図3は、初代アポクリン、エクリンおよび増殖性アポクリン培養におけるISCのピーク増加を示している。Transwell上の培養の基底側部にアゴニストを加えた。短絡電流におけるピーク増加が示されている。以下のアゴニストを基底側部に加えた:CCh(20μM)、Iso(10μM)、LBK(170nM)、His(200μM)およびATP(100μM)。
【0032】
図4Aおよび4Bは、ASG5細胞におけるカルバコールに対する応答に対するイオンチャネルインヒビターの効果に関する代表的なISC記録(トレース)である。図4Aは、アミロリド(10μM)での先端前処理、ならびにCCh(20μM)の応答に対する1mM フロセミド(Fru)および50μM 塩化バリウム(Ba;マキシ−Kチャネルブロッカー)の添加の効果を示す。図4Bは、1mM フロセミドでの先端前処理、ならびにCCh応答に対するアミロリドおよび塩化バリウムの効果を示す。
【0033】
図4Aにおける増殖性アポクリン培養の代表的トレースは、図3におけるアゴニスト刺激に関する観察値と比較して、アミロリド前処理後にカルバコール刺激が減少することをも示している。
【0034】
4つの場合において、アポクリン培養の初代培養および継代がそれらの電気生理学的特性に影響を及ぼしたかどうかを判定するために、全アポクリン分泌コイルを透過性支持体上に直接的に外植した。調べた培養においては、アミロリドの存在下であるか非存在下であるかには無関係に、基底およびアゴニスト刺激電気生理学的特性は初代培養と有意には異ならなかった(データ非表示)。
【0035】
一過性アゴニスト応答における経上皮塩化物イオン輸送の役割
初代および増殖性アポクリン培養におけるアゴニスト誘導性応答のイオン的基礎を更に特徴づけるために、経上皮塩化物イオン輸送の役割を調べた。塩化物イオン(クロリド)非含有条件下、初代および増殖性アポクリン培養に関する静止ISCは、それぞれ、6.0±0.8μA cm−2および3.1±0.6μA cm−2であった。静止TEPDは初代培養に関しては−0.9mV、そして増殖性培養に関しては−1.8mVであった。10μM アミロリドの添加は基底ISCを初代培養においては3.6μA cm−2、そして増殖性培養においては2.5μA cm−2減少させた。
【0036】
カルバコール、ヒスタミンおよびATPに対する応答は、塩化物イオンの存在下の同一実験と比較して、初代アポクリン培養および増殖性アポクリン培養の両方において有意に減少し(表2)、このことは、塩化物イオン輸送がアゴニスト応答の媒介において重要な役割を果たしていることを示唆している。さらに、図4Bは増殖性培養からの代表的トレースを示し、これは、フロセミドでの前処理が、図3における値と比較して、カルバコールに対する応答の大きさを減少させることを示している。アゴニスト刺激後のフロセミドの添加は、初代アポクリン培養および形質転換アポクリン培養の両方において、応答における迅速な減少を誘導し、このことは塩化物イオンの取り込みの調節におけるNKCClの役割を示している(表3)。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
アゴニスト応答は、塩化物イオン含有バッファー中のアミロリド前処理と比較して、アミロリド前処理で有意に減少したが、特に増殖性培養においてはそれらは完全に阻止されたわけではなく、このことは、他のイオン輸送経路がこれらの応答において何らかの役割を果たしている可能性があることを示唆している(表4)。
【0040】
【表4】

【0041】
総合すると、これらの結果は、該増殖性細胞株が初代培養と同じ特性を示し続けたことを示している。
【0042】
長期増殖性アポクリン腺細胞株におけるステロイド産生
ヒト皮膚およびその付属器は、ホルモンの代謝および合成に関与するものを含む種々の代謝機能の能力を有する。アンドロゲン(性ステロイドホルモン)は、多数の酵素変換を要する生合成経路において親前駆体コレステロールから合成される。思春期の間にアポクリン腺が機能的になる際に、アンドロゲンが腺活性のモジュレーションにおいて何らかの役割を果たしているらしい。これは、腋窩皮膚に存在するアポクリン腺の分泌細胞においてアンドロゲン受容体が検出されていることにより更に裏づけられている(Beierら,(2005)Histochem.Cell Biol.,123:61−65)。ステロイドの局所的またはイントラクリン形成は細胞機能の媒介において重要な役割を果たす可能性があるため(Labrie,F.ら(1991),Mol.Cell Endocrinol.,78:113−118)、原因となる転写産物の発現を、本発明における無限増殖性アポクリン細胞株における活性アンドロゲンおよびエストロゲンならびにそれらの関連受容体の形成に関して調べた。
【0043】
該研究の材料および方法
化学物質
Taq DNAポリメラーゼおよび分子マーカーIIIをRoche,Mannheim Germanyから購入した。Taq DNAポリメラーゼを供給業者の推奨に従い使用した。すべての他の試薬はSigma−Aldrich,Gillingham,UKから入手した。
【0044】
株、プラスミド、培地および培養条件
大腸菌(E.coli)株TOP10(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を全てのクローニング法における宿主株として使用した。ポリT突出部を含有する予め消化されたベクターpCR(登録商標)4−TOPO(登録商標)をInvitrogenから入手し、供給業者の説明に従い使用した。適当な選択圧(カナマイシン50μg/ml)で補足されたLB培地(10g/l トリプトン、5g/l 酵母エキス、5g/l NaCl)内で回転振とう機上、37℃で細菌を培養した。
【0045】
細胞材料
無限増殖を示す長期増殖アポクリン腺細胞を前記のとおりに成長させた。クローニングのために、37℃で10日間の成長の後、細胞を集めた。
【0046】
オリゴヌクレオチド合成および配列決定
使用した全てのオリゴヌクレオチドはSigma−Genosys Ltd,Pampisford,UKにより合成された。汎用M13フォワードおよびリバースプライマーを使用して、ABI Prism 3100 Genetic Analyserを使用して配列決定を行った。
【0047】
プラスミドDNAの単離
クローニングおよび配列決定用のプラスミドDNAを得るために、Qiagen(Crawley,UK)ミニプレップキットを使用した。
【0048】
クローニング
ステロイドアンドロゲン代謝に関与する転写産物の断片を、無限増殖性アポクリン腺細胞に由来するcDNAからクローニングした。Ambion,Huntingdon,UKのRNAqueous(商標)−4PCRキットを使用して、該細胞からRNAを単離した。オリゴ(dt)を使用して、Ambion RETROscript(商標)を使用して1鎖cDNA合成を行った。増幅のために用いたPCR反応プログラムは以下のとおりであった:1サイクル(95℃で120秒間)、30サイクル(95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で45秒間または60秒間)、1サイクル(72℃で7分間)(Taq DNAポリメラーゼを使用した)。各転写産物からの断片をクローニングするために使用したプライマーの概要を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5に示したプライマーペアが設計された遺伝子断片の全てが検出可能であった。添付されている図5は、産生された全PCR産物の1.2% アガロースゲルを示す。
【0051】
図5は以下の遺伝子断片の発現を示す:1.ステロイドスルファターゼ;2.3βヒドロキシ−Δ−5−ステロイドデヒドロゲナーゼ1;3.ヒドロキシステロイド17β−デヒドロゲナーゼ3;4.ヒドロキシステロイド17β−デヒドロゲナーゼ5;5.ヒドロキシステロイド17β−デヒドロゲナーゼ7;6.5αレダクターゼI;7.CYP19A1アロマターゼ;8.アンドロゲン受容体;9.エストロゲン受容体β;M.DNAマーカーIII。
【0052】
ついでこれらのPCR産物を、配列決定のためにTOPOベクター内にクローニングした。各クローン化断片の実体を確認するために、各PCR産物上で配列決定を行った。該遺伝子配列決定の結果を以下に示す。
【0053】
【化1】





【0054】
これらの結果は、無限増殖性アポクリン腺細胞株が、アンドロゲンおよびエストロゲン合成に必要な多数の遺伝子を発現していることを明らかに示している。添付された図6は、無限増殖性アポクリン腺細胞株において発現されることが示されている遺伝子が与えられた場合に明らかにされうるステロイド合成経路の概要を示す。また、該細胞は、これらのアンドロゲンおよびエストロゲンの産生に対する細胞内応答を媒介するのに必要な受容体、すなわち、アンドロゲンおよびエストロゲンβ受容体をも発現する。興味深いことに、エストロゲンα受容体の発現に関する転写産物は検出できなかった(データ非表示)。腋窩皮膚断片内のアポクリン腺分泌細胞において、両受容体型に対する免疫組織化学的染色を用いて、エストロゲンβ受容体は検出できるが、エストロゲンα受容体は検出できないことを示したこれまでの研究(Beier,K.ら(2005)Histochem.Cell Biol.,123:61−65)に、これは合致している。同じ研究はまた、アポクリン腺分泌細胞におけるアンドロゲン受容体の存在を示した。
【0055】
添付されている図6におけるデータは、無限増殖性アポクリン細胞株が、初代培養およびインビボで観察された分泌性アポクリン腺細胞のステロイド産生特性の多数を保有することを示している。この細胞株は、アポクリン腺におけるステロイド代謝および腺活性の調節におけるステロイドの役割を研究するための優れた手段を提供する。また、該細胞株は、これらの細胞におけるステロイド産生経路の介入を介した腺活性の調節における化合物の効力を評価するための非常に重要な手段として用いられるであろう。
【0056】
無限増殖性アポクリン腺細胞株におけるアポクリン分泌活性の細胞マーカー
アポクリン汗腺の主要機能は、情動的刺激に直接的に応答して毛包の管を介して皮膚表面に運搬される、脂質に富む分泌物を産生することである。該分泌物は無臭であるが、細菌による分解を受け、これにより腋窩悪臭が生じる。アポクリン腺の分泌機能は、これらの鍵過程に関与する多数のタンパク質に関連している。ABCC11タンパク質は、cAMPおよびcGMPのようなプリンおよびピリミジンヌクレオチド類似体の流出に関与するATP結合カセット輸送体のファミリーに属する(Guoら,(2003)J.Biol.Chem.,278:29509−29514)。このタンパク質はヒトの耳垢アポクリン腺における耳垢の分泌に関連づけられている(Yoshiuraら,(2006)Nat.Gen.,38:324−330)。ヒトの耳垢は、通常、乾燥型および湿潤型よりなる。乾燥耳垢は東アジアでよく見られ、湿潤耳垢は他の集団でよく見られる。ABCC11遺伝子におけるSNP(538G→A)は耳垢型の決定をもたらすとみなされる。A対立遺伝子を有する細胞は、G対立遺伝子を有する細胞より低い、cGMPに関する排出活性を示す。A対立遺伝子頻度は、世界的な北−南および東−西の下方性地理的勾配を示す。世界的には、それは中国人および韓国人において最高であり、これらにおいては、これらの地域における種々の民族集団内で乾燥耳垢型が保有されている。腋窩臭のレベルの増加は湿潤型耳垢に関連づけられ、これは腋窩アポクリン腺機能の直接的な結果であると考えられる。
【0057】
アポクリン腺分泌において重要な役割を果たすことが示されているもう1つのタンパク質は、Spielman,A.I.(1995)Experientia,50:40−47によるアポリポタンパク質Dである。このタンパク質は、豊富に存在する臭気分子E−3−メチル−2−ヘキサン酸(3M2H)の担体ビヒクルとして作用することが示されている。アポクリン分泌において、3M2Hは、アポクリン分泌臭気結合タンパク質1および2(ASOB1およびASOB2)の2つのタンパク質が結合した皮膚表面に運搬されることを、研究は示している。後にASOB2タンパク質は、リポカリンとしても公知の担体タンパク質のα2μ−ミクログロブリンスーパーファミリーの公知メンバーであるアポリポタンパク質D(apoD)と同定された(Zengら,(1996),93:6626−6630)。apoDに対する免疫反応性は腋窩組織断片におけるアポクリン腺に局在化されており(Spielmanら,(1998)134,813−818)、このことは、3M2Hの糖タンパク質担体の少なくとも1つがアポクリン腺に存在することを示している。
【0058】
グロス(Gross)嚢胞症流体は、GCDFP−15を含む幾つかの糖タンパク質から構成される、乳房からの病的分泌物である。GCDFP−15は、アポクリン異形成上皮裏層乳腺嚢胞に及び腋窩、外陰部、眼瞼および耳管のアポクリン腺に局在化されている(Mazoujianら,1983 Am.J.Pathol.,110:105−112)。GCDFP−15は、精嚢、唾液腺および汗腺において特定されているGp17/分泌アクチン結合タンパク質(SABP/外耳下糖タンパク質(EP−GP))と同一であり(Autieroら,(1991);Exp.Cell Res.,197:268−271)、このタンパク質はプロラクチン誘導性タンパク質(PIP)とも同一である(Murphyら,(1987);J.Biol.Chem.,262:15236−15241)。したがって、GCDFP−15はアポクリン上皮の特異的組織マーカーである。
【0059】
亜鉛−α−糖タンパク質(ZAG)は、最初はヒト血漿から単離され(Burgiら,(1961);J.Biol Chem;236,1066−1074)ついで肝臓、乳房、胃腸管および汗腺の分泌上皮細胞において見出された(Tadaら,(1991)J.Histochem Cytochem,39,1221−1226)43kDaの可溶性糖タンパク質である。ZAGは或る悪性腫瘍において過剰発現され、したがって、それは癌マーカーとして用いられうる(Diez−Itzaら,(1993),Eur.J.Cancer A 29,1256−1260;Haleら,(2001),Cancer Res.,7,846−853)。ZAGの生物学的機能はほとんど知られていないが、それは脂質動因因子(Todorovら,(1998),Cancer Res.,58,2353−2358)、および脂肪組織機能の局所調節に関連づけられうる新規アディポカイン(Baoら,(2005)FEBS Letters,579,41−47)として作用することが示されている。
【0060】
ABCC11、ApoD、GCDFP−15および亜鉛−α−糖タンパク質はアポクリン腺の分泌および輸送過程において重要な役割を果たしているため、本発明者らは、該無限増殖性アポクリン細胞株においてこれらのタンパク質の翻訳を引き起こす転写産物の発現を調べた。
【0061】
該遺伝子転写産物断片をクローニングするために使用したプライマーを表6に示す。
【0062】
【表6】

【0063】
表6に示すプライマーペアが設計された遺伝子断片の全ては検出可能であった。添付されている図7は、産生された全PCR産物の1.2% アガロースゲルを示す。
【0064】
添付されている図7.アポクリンマーカーを示すアガロースゲルが開示されている。以下の産物がそれぞれレーン1から4に示されている。
1.ABCC11輸送体、
2.アポリポタンパク質D、
3.亜鉛−α−糖タンパク質、
4.GCDFP−15。
【0065】
ついでこれらのPCR産物を、配列決定のためにTOPOベクター内にクローニングした。各クローン化断片の実体を確認するために、各PCR産物上で配列決定を行った。該遺伝子配列決定の結果を以下に示す。
【0066】
【化2】


【0067】
該無限増殖性アポクリン細胞株は、細胞分泌過程に関連したABCC11遺伝子を発現する。該配列決定データはABCC11輸送体遺伝子の同一性を証明した。この細胞株における該遺伝子の遺伝子型はG(538G→A太字および下線)であり、湿潤耳垢型および腋窩臭気のレベル増加に関連している。アポリポタンパク質D担体遺伝子も発現され、このことは、臭気物質の輸送に必要な装置も該細胞株内で作られていることを示している。該データは、この細胞株のアポクリン表現型の更なる証拠、およびアポクリン腺生物学の研究のための強力な手段の提供におけるその有用性の更なる証拠を提供する。
【0068】
細胞化学組成−材料および方法
無限増殖性アポクリン細胞(継代44)をそれぞれ第7日および第14日に集めた。該細胞を1000rpmで5分間遠心分離し、PBS中で1回洗浄し、再遠心分離し、分析のために−80℃で保存した。
【0069】
3M2Hグルタミンコンジュゲートの分析
10μlの(N−メチル−N−tert−ブチルジメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MTBSTFA)、1% tert−ブチルジメチルシラン(TBDMS)および10μlのピリジンおよび1μlのトリエチルアミンを使用して、該凍結細胞ペレットから3−メチル−2−ヘキサン酸グルタミンコンジュゲートを抽出した。該サンプル上の試薬において誘導体化を行った。該混合物を70℃で1時間維持した。選択されたイオンモニターを伴うAgilent Technologies 6890/5973ガスクロマトグラフィー/質量選択データ系およびAgilent HP5−MSカラム(30m×0.25mm id×0.25μmフィルム)(idは内径を示す)を使用するガスクロマトグラフィーにより、3M2Hグルタミン誘導体を分析した。用いた温度プログラムは10℃/分で70℃から270℃であった。組込まれたソフトウェアを使用して、ピーク面積を自動的に計算した。質量分析および既知標準に対する保持時間により構造を特定した。
【0070】
コレステロールおよびスクアレンの分析
20μlのクロロホルムを使用して、該凍結細胞ペレットからコレステロールおよびスクアレンを抽出した。ついでこの抽出物をGC(前記に詳細に説明されているとおり)内に直接的に注入し、Agilent HP5−MSカラム(30m×0.25mm id×0.25μmフィルム)を使用して完全走査下で分析した。加熱プログラム:10℃/分で70℃から270℃。質量分析および既知標準に対する保持時間により構造を特定した。
【0071】
短鎖脂肪酸
20μlのクロロホルムを使用して、該凍結細胞ペレットから短鎖脂肪酸を抽出した。ついでこの抽出物をGC(前記に詳細に説明されているとおり)内に直接的に注入し、選択的イオンモニターを行いながら、HP−Innowaxカラム(30m×0.25mm id×0.25μmフィルム)を使用して分析した。加熱プログラム:5℃/分で70℃から240℃。質量分析および既知標準に対する保持時間により構造を特定した。
【0072】
該3M2Hグルタミンコンジュゲートの相対レベルを、添付されている図8に示す。
【0073】
7日間および14日間の培養の後に集めたアポクリン細胞におけるコレステロールの相対レベルを、添付されている図9に示す。
【0074】
7日間および14日間の培養の後に集めたアポクリン細胞におけるスクアレンの相対レベルを、添付されている図10に示す。
【0075】
短鎖脂肪酸の相対レベルを、添付されている図11に示す。
【0076】
C16/18脂肪酸もその14日のサンプルにおいて検出された。種々の揮発性脂肪酸の存在を示す、本明細書中に要約されているデータは、該無限増殖性細胞株がアポクリン腺の機能を成功裏に模擬したことを更に示している。
【0077】
インヒビター研究
悪臭前駆体化合物の産生および細胞増殖は、アンドロゲン代謝酵素を阻害することが知られている化合物の作用によりモジュレーションされると予想されるであろう。細胞の増殖および悪臭前駆体化合物の産生は、アンドロゲン代謝酵素を又は直接的にアンドロゲン受容体を阻害することが知られているアンタゴニストの培地の添加により抑制されるであろう。そのような化合物は、腋窩皮膚に存在するアポクリン腺および培養の両方における臭気前駆体分子の合成または分泌を軽減すると予想されるであろう。そのような化合物には以下のものが含まれる(それらに限定されるものではない)。
17α−置換ベンジルエストラジオール、
三環式クマリンスルファマート、
エストロン−3−O−スルファマート、
三環式オキセピンスルファマート、
2−メトキシエストロン−3−O−スルファマート、
置換クロメノンスルファマート、
17α−ベンジル(または4’−tert−ブチルベンジル)エストラ−1,3,5(10)−トリエン、
17β−(N−アルキルカルバモイル)−エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3−O−スルファマート、
トリロスタン、
シアノケトン、
シプロテロンアセタート、
ノルゲストレル、
ノルエチンドロン、
チアゾリジンジオン、
16−(ブロモアルキル)−エストラジオール、
フラボノイド、
イソフラボノイド、
リグナン、
トリフルオロメチルアセチレン性セコエストラジオール、
エストラジオールの6β−(チアヘプタンアミド)誘導体、
17位にスピロ−ガンマ−ラクトンを含有するエストロン、
7α−チオアルキルおよび7α−チオアリール、
スピロノラクトンの誘導体、
N−ブチル−N−メチル−11−(3’−ヒドロキシ−21’,17’−カルボラクトン−19’−ノル−17’α−プレグナ−1’,3’,5’(10’)−トリエン−7’α−イル)−ウンデカンアミド、
1,4−アンドロスタジエン−1,6,17−トリオン、
アンドロステロン3−置換誘導体、
4−アザステロイド(MK386)、
6−アザステロイド性17β−カルボキサミドトリアリール、
8−クロロ−4−メチル−1,2,3,4,4a,5,6,10b−オクタヒドロ−ベンゾ[f]キノリン−3(2H)−オン(LY 191704)、
6−[4−(N,N−ジイソプロピルカルバモイル)フェニル]−N−メチル−キノリン−2−オン5)、
ベンゾ[c]キノリジン−3−オン、
エピカテキン−3−ガラート、
エピガロカテキン−3−カラート、
スラミン、
亜鉛、
アセライン酸、
6−[4−(N,N−ジイソプロピルカルバモイル)フェニル]−1H−キノリン−2−オン 4
4−[3−[5−ベンジル−8−(2−メチル)プロピル−10,11−ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピン−2−カルボキサミド]フェノキシ]酪酸、
ツロステリド、
MK−434、
ジヒドロフィナステリド、
クロルマジノンアセタート、
TZP−4238、
エプリステリド(SK&F 105657、ONO−9302)、
17α−エストラジオール、
17−(5’−イソオキサゾリル)アンドロスタ−4,16−ジエン−3−オン、
N−(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロフェニル−プロピル)−3−オキソ−4−アザ−5α−アンドロスタ−1−エン−17β−カルボキサミド(PNU 157706)、
デュタステリド(Dutasteride)、
オキセンドロン(TSAA−291:16β−エチル−17β−ヒドロキシ−4−エストレン−3−オン)、
19−ノル−10−アザステロイド、
ステロイドD環に結合したオキシム基を含有する、プロゲステロンに基づくステロイド、
ベンゾキノリノン、
セレノア・レペンス(Serenoa repens)抽出物ペルミキソン、
アルトカルプス・インシウス(Artocarpus incisus)、
アリザリン、
クルクミン、
フェナジン誘導体、
ミリストオレイン酸、
γ−リノレン酸、
4−[3−[3−[ビス(4−イソブチルフェニル)−メチルアミノ]ベンゾイル]−1H−インドール−1−イル]酪酸(FK 143)、
フルタミド、
スピロノラクトン。
【0078】
多数の化合物が皮膚における細胞(皮脂腺のような皮膚付属器に由来する細胞を含む)の増殖を軽減することが示されている。そのような化合物は、アポクリン細胞と接触すると、腋窩皮膚に存在するアポクリン腺および培養の両方における臭気前駆体分子の合成および分泌を軽減すると予想されるであろう。そのような化合物には、13−シス−レチノイン酸、レチノイン酸が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
透過型電子顕微鏡法(TEM)によるヒトアポクリン細胞株ASG5の超微細構造分析
サンプル調製
既に記載されているとおりに、95%空気/5%CO2 加湿インキュベーター中、MEGM内で37℃でASG5細胞継代番号47を培養した。それぞれ3日間および14日間の温置の後、細胞を集めた。固定前に、細胞をリン酸緩衝食塩水(pH7.5)中で2回洗浄した。
【0080】
透過型電子顕微鏡法
洗浄された細胞培養を0.1M カコジル酸バッファー(pH7.4)中の3% グルタルアルデヒド中で室温で1時間固定した。該試料を0.1M カコジル酸バッファー(pH7.4)中、5分間の3回の期間にわたって洗浄した。初回固定後、試料を0.1M カコジル酸バッファー(pH7.4)中の1% 四酸化オスミウム中で室温で1時間固定した。該試料を0.1M カコジル酸バッファー(pH7.4)中、5分間の3回の期間にわたって再び洗浄した。ついで試料を一連の勾配のエタノールにより脱水した。該細胞をルフト(Luft)のエポン(Epon)樹脂中に包埋し、60℃で48時間重合させた。該塊を、厚さ約120nmの切片を与えるように設定されたReichert“Ultracut S”Ultramicrotome上で切片化した。該切片を200メッシュの六角形細棒銅格子上に拾い上げた。該切片を酢酸ウラニル、ついでクエン酸鉛(Leica EM染料上)中で染色した。染色された切片を、120kVで作動させたPhilips CM120透過型電子顕微鏡で検査した。イメージを.tifファイルとしてデジタル的に記録し、本明細書においては、3日齢培養細胞に関しては図12から15、そして14日齢培養細胞に関しては図16および17として示す。
【0081】
結果
図12、13および16に示す細胞は、培養内の上皮細胞に典型的な丸い又は「丸石状」外観を示した。該細胞の分泌特性は、細胞質全体にわたる「S」として示される多数の分泌顆粒(図12から17)の存在と共に、「M」として特定される多数の微小絨毛(図12、13、14、16および17)、および内腔膜における「A」として示される先端(apical)ブレブ(図12、15および16)の存在により実証された。先端細胞質(すなわち、微小絨毛「M」および先端ブレブ「A」)の小さな部分の切断はアポクリン分泌過程を構成する(Montagnaら(1953)Histology and cytochemistry of human skin.V.Axillary apocrine sweat glands.Am.J.Anat.,92:451−470)。Bell(1974)The ultrastructure of human axillary apocrine glands after epinephrine injection.J.Invest.Dermatol.,63:147−159に従いI型顆粒とII型顆粒とを識別することは不可能であったが、すべての細胞は、「S」として示される多数の分泌顆粒を含有していた(図12から17)。該顆粒は、おそらくは小さな脂質滴を含有する著しく電子不透過性である粒子を含有していた。ほとんどの細胞において、「V」として示される多数の「空」小胞が観察された(図12、13、14、16および17)。これは、おそらく、小胞の内容物が失われた固定過程の結果であろう。そのような小胞は分泌の過程への関与に利用されうる。図13および16における細胞は外観においてやや平らであり、「N1」で示される核小体を明らかに示した。
【0082】
3日齢および14日齢のASG5培養からの全ての細胞において、先端ブレブ「A」、内腔微小絨毛「M」および多数の分泌顆粒「S」が観察され、このことは、これらの細胞が典型的な活性アポクリン分泌形態学を示すことを証明している。これらの知見はASG5細胞株のアポクリン特性を更に立証し、ヒト腋窩アポクリン汗腺の機能的に典型的な細胞モデルとしてのこの細胞株の有用性の追加的な証拠を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長期増殖を示すアポクリン細胞株。
【請求項2】
ヒトアポクリン腺に由来する、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
アポクリン腺の特徴的特性を示す、請求項1に記載の細胞株。
【請求項4】
無限に増殖しうる、請求項1から3のいずれかに記載の細胞株。
【請求項5】
寄託番号ECACC 07021301を有する細胞株。
【請求項6】
アポクリン細胞を初代組織から単離し、単離された細胞を第1培地内で培養し、第1培地から未付着細胞を除去し、および有効濃度のホルボールエステルを含む第2培地に該未付着細胞を移し、ならびにそれにより、長期増殖能を示すアポクリン細胞株を樹立する工程を含んでなる、長期増殖を示す培養細胞株を入手する方法。
【請求項7】
診断用、治療用または美容用製剤のための、請求項1から5のいずれかに記載の又は請求項6に従い産生されたアポクリン細胞株の使用。
【請求項8】
物質が、皮膚に局所適用された場合に防臭物質であるかどうかをインビトロで評価するための、請求項1から5のいずれかに記載の又は請求項6に従い産生されたアポクリン細胞株の使用。
【請求項9】
ヒトアポクリン腺の生理学または病態生理学の検査のための、請求項1から5のいずれかに記載の又は請求項6に従い産生されたアポクリン細胞株の使用。
【請求項10】
疾患に対する化合物または物質の試験のための、請求項1から5のいずれかに記載の又は請求項6に従い産生されたアポクリン細胞株の使用。
【請求項11】
請求項1から5のいずれかに記載の又は請求項6に従い産生されたアポクリン細胞株の、前記細胞に由来する産物の製造のための使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−522545(P2010−522545A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500171(P2010−500171)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052173
【国際公開番号】WO2008/116713
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】