説明

アポトーシス誘発抗腫瘍性銀(I)配位錯体

本発明は、化学療法用組成物、該組成物を製造する方法、および腫瘍細胞のアポトーシスを誘発および/または腫瘍を阻止するための方法を記載する。該組成物は、薬学的担体中の銀(I)などの細胞毒性金属と酒石酸などの掌性α−有機酸の金属配位錯体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年1月11日出願の先の米国仮特許出願番号60/642,805および2005年9月13日出願の米国出願番号11/225,565の優先権を主張し、これらは本明細書中に参考として全体が導入される。
【背景技術】
【0002】
本発明は受給者(recipient)にとって、好ましくは致命的、腐食性、および/または刺激性でなく、そして好ましくはアポトーシスを生じることができる化学療法用薬剤に関する。本発明は固形および播種性腫瘍の両方における化学療法用薬剤として使用され得る。
【0003】
少量の金属の極微作用または抗菌作用は古くから公知であり、多くの金属配位錯体治療薬の開発の基礎である。実際に、水銀(II)、カドミウム(II)、亜鉛(II)、ゲルマニウム(II)、銅(II)、および銀(I)イオンなどの金属イオンが多くの感染症疾患の治療において使用されている(Merluzzi, V.J.ら、Research Communications in Chemical Path. Pharmacol., 66, 425(1989); Slawson, R.M.ら、Plasmid, 27, 72(1992); Khurshid, H.Pak., J. Pharmacol. 13, 41(1996); Klasen, H.J. Burns, 26, 131(2000); Dibrov, P.ら、A.A.C., 46, 2668(2002); Richard(III), J.W.ら、J. Burns and Surg. Wound Care, 1, 11(2002))(非特許文献1〜6)。
【0004】
重金属の抗菌性薬剤としての使用のほかに、これらは化学療法用化合物の設計にも使用されている。癌などの細胞増殖性疾患に対する現在の治療は、DNA複製および細胞分割を阻止する金属配位錯体を使用する。臨床的に有利であると証明されている細胞毒性薬剤のもっとも優れ、かつ、将来有望なファミリーとしては重金属である白金を使用するものがある(Pil,P., & Lippard, S.in Encyclopedia of Cancer, ed. Bertino, J. R. (Academic Press San Diego), pp.392-410(1997); Jakupec, M.ら、Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146, 1(2003))(非特許文献7〜8)。このファミリーに属する最も活性で、かつ広域スペクトルの化学療法用薬剤の1つとしてはシスプラチン、シス−ヂアミンジクロロプラチナム(II)があり、これは精巣癌および卵巣癌などの上皮悪性腫瘍を治療するために使用されている(Pil.P., & Lippard. S. in Encyclopedia of Cancer ed. Bertino, J.R.(Academic Press, San Diego), pp.392-410 (1997); Jakupec, M., ら、Rec. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146, 1(2003))(非特許文献9〜10)。抗腫瘍剤のような思いもよらない発見に続いて、カルボプラチンなどの白金を使用する他の有用な化学療法用薬剤もまた開発されている(Pil,P., & Lippard, S.in Encyclopedia of Cancer, ed. Bertino, J. R. (Academic Press San Diego), pp.392-410(1997))(非特許文献11)。これらの興味が大きくなるにつれて、他の金属配位錯体も検討されている。このような金属の例としては、金、チタン、銅、イリジウム、およびロジウムがある(Haiduc. I., & Silvestru, C. In Vivo, 3, 285(1989); Caruso, F.ら、J. Med. Chem., 43, 3665-(2000); Caruso, F.ら、J. med. Chem., 46, 1737(2003))(非特許文献12〜14)。
【0005】
イオン性銀物質は、銀が低濃度では毒性、突然変異性または発癌性を有していず、他の金属に比べて優れた臨床寛容性を示す事実により、人気が再びよみがえっている(Furst, A, & Schlauder M. J. Environ. Pathol. Toxicol., 1, 51(1987); Pedahzure, R., ら、Wat. Sci. Tech., 31, 123(1995); Demerec, M.ら、Am. Nat., 85, 119(1951); Rossman, T. G., & Molina, M. Environ. Muagen., 8, 263(1986); Nishioka, H. Mutal. Res., 31, 185(1987))(非特許文献15〜19)。さらに、全ての生物中に存在する偏在性メタロチオネインは、金属チオレート・クラスタ構造の銀および他の金属と結合する性質を示し、体内に入る必須および非必須微量金属を輸送、貯蔵および解毒する(Stillman, M.J.ら、Metal-Based Drugs, 1, 375(1994))(非特許文献20)。
【0006】
投与された銀の量およびその化学形態が種々の体内組織への銀の分布を決定する。一度、吸収されると、銀は肝臓を通って初回通過効果を生じ、胆汁中へ分泌され、組織への全身的分布を減少させる(ATSDR.(1990)、銀における毒物学的性質)。これはオンライン:wwwdotastsdrdotcdcdotgov/toxprofiles/tp146-pdotpdfから入手可能である。ヒトの長時間、高濃度銀への慢性的露呈から生じる唯一公知である状態とは、銀中毒、持続的青灰色変色となる皮膚の良性状態である。銀中毒で観察される唯一の臨床効果は、審美的効果であり、銀沈着から生じる病理学的変化または炎症性反応は存在しない(IRIS(1987)、Silver)。これはオンライン:wwwdotepadotgov/iris/subst/0099dothtmから入手可能である。銀アルスフェナミンの静脈注射を受けた患者によると、銀中毒におけるLOAEL(最低観察副作用濃度)は、0.014mg/kg/日であると測定された(IRIS.(1987)、Silver)。オンライン:wwwdotepadotgov/iris/subst/0099dothtm.(上記インターネットアドレスは「.」を「dot」に置き換えているから、書かれたアドレスはハイパーリンクとして実行可能でない。)
【0007】
2004年6月14日出願の米国特許出願番号10/867,214(本明細書中に参考として全体を導入する)は、化学療法薬剤および抗菌剤として、有機金属錯体の使用を記載する。ここに記載される技術は、一般的に2つの成分の組合せに関する。第1成分は米国特許第6,242,009号(特許文献1)および第6,630,172号(特許文献2)(本明細書中に参考として全体を導入する)に記載されるように、有機(R)金属(M)錯体(R−M)である。このR−M錯体は、補助因子を減少させる媒体を経由して、1つまたは複数の活性酸素種(ROS)を発生するための系と結合され得る。好ましくは、細菌および/または癌性または前癌性細胞の破壊に非常に効果的である相乗効果を生じる組合せとする。この組成物は、室温で水溶液中に金属塩化合物と無機酸を混合して、溶液のpHを調整し、混合物を均質化しながら所定の金属の原子価に対して特定量のアミノ酸または酒石酸カリウムナトリウムを添加し、そしてROS発生系を添加する。その使用に応じて、次いで、得られた溶液を直接に使用するか、あるいは蒸留水および/または脱イオン水などの水溶液で希釈して、必要な細胞毒性および殺菌活性を提供する。米国出願番号10/867,214の発明は、ROSと組み合わせてR−M錯体を製造する方法で調製され得る。より具体的には、引用された発明はまず、米国特許第6,242,009号および第6,630,172号(本明細書中に参考として全体を導入する)に記載される方法でR−M錯体を調製して製造し得る。錯体のR部分はイソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、またはこれらの混合物などのアミノ酸または酒石酸カリウムナトリウムを示す。Mである錯体の他の部分に関して、Mは少なくとも1つの1価または多価金属イオンまたはカチオンを示し、これは抗癌性および/または少なくとも1つの微生物に対して殺菌性である。好ましくは、金属イオンは抗癌性および/または多数の微生物に対して殺菌性である。金属イオンの例としては、コロイド状銀を含む銀のカチオン、銅、亜鉛、水銀、マンガン、クロム、ニッケル、カドミウム、ヒ素、コバルト、アルミニウム、鉛、鉄、ロジウム、イリジウム、セレン、白金、金、チタン、スズ、バリウム、ビスマス、バナジウム、鉄、ストロンチウム、アンチモン、およびこれらの塩など、およびこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0008】
ROSの生成速度は、単独で進行させてもよく、または酵素/補酵素または触媒/補助因子などの化合物のような速度増加剤の使用により増大させてもよい。一般的に、補酵素は金属触媒と接触し、還元させることができる。還元された金属触媒は、次いで、通常、電子の寄与によりROS発生種からROSの製造を促進するように機能する。多くの還元型補助因子/補酵素が使用される。より具体的には、補酵素(還元体)、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチオド(NADH)、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチオホスフェート(NADPH)および/またはフラビン・アデニン・ジヌクレオチド(FADH)が特に電子担体として効果的である。同様に、ROSを発生することが可能である酸化型金属触媒/補助因子も使用され得る。より具体的には、Cu2+、Fe2+、Fe3+、K、Mg2+、Mn2+、Mo、Ni2+、Se、および/またはZn2+が特に効果的な触媒である。これらの触媒は純粋な形態で使用してもよく、または塩と併用してもよく、次いで、溶媒中へ導入する。ROSを製造する1つの方法は、ヒドロキシル・ラジカルを生成するH(過酸化水素)の分解により行う。
【0009】
現在の癌治療は、細胞分割およびDNA複製を阻止する細胞毒性重金属を使用する。たとえ、種々の頑強な方法および技術が癌と戦うために使用されていても、癌治療に関連する氾濫する警告や種々の困難が存在する。今日、癌治療は化学療法、放射線、ホルモン治療、免疫治療、および抗血管形成薬との組合せの複数の方法によるアプローチに関与する。他方、手術は疾患組織の大部分を切除することに関連する。手術は例えば、乳房、大腸、および皮膚のある部位に位置する固形腫瘍を切除するのに時には有効であるが、背骨などの他の領域に位置する腫瘍の治療または白血病などの播種性新生物の状態の治療には使用できない。もしも、原発腫瘍の部分が切除され得ないか、または転移したと考えられるなら、活性な分裂細胞を標的として、残りの癌性細胞を殺傷するために全身薬剤治療を行う。
【0010】
効果的な治療はこれらの薬剤を癌性腫瘍の部位へ輸送する特異性の欠如および困難性によって妨害されるという、金属系癌性化合物に関連する困難性が存在する。腫瘍細胞における細胞毒性剤の特異性欠如および正常組織へ帰着した毒性は、そのアポトーシス効果のさらなる活用を妨害する。これは固形新生物の血液療法薬剤および細胞毒性薬剤を使用する場合、特に真実である。なぜなら、新生物細胞の領域間内では、毛細血管のネットワークがこのような薬剤にとって非常に小さすぎて送達されない(Jain, R.K. Cancer Metastasis Rev., 9, 253(1990); Forbes, N.S.ら、Cancer REs., 63 5188(2003); Znati, C.A.ら、Clin. Cancer Res., 9, 5508(2003); Jain R.K. Nat. Med., 9, 685(2003); Jain, R., & Booth, M.F. J.Clin. Invest., 112, 1134(2003); Jain, R.K. in Clinical Oncology, eds. Abeloff, M., Armitage, J., Niederhuber, J., Kastan, M., McKnna, W., 3rd ed., (Elsevier, Philadelphia), pp. 153-172(2004))(非特許文献21〜26)。これらの領域は一般的に乳房、頭および首、膵臓、胃、卵巣、頚部、肺および前立腺の腫瘍に関与するものなど、ほとんどの重要なタイプの固形腫瘍に存在する。
【0011】
これに加えて、このような薬剤の連続的、長期使用に抵抗を示す患者の問題がある。尿細管の壊死、血小板減少症、貧血、吐き気、耳鳴り、視野の減少、末梢性および自律性神経障害、蕁麻疹、紅斑、顔面浮腫、血球減少、悪液質、脱毛症、および血管性浮腫、および肺、生殖、および内分泌に関連する他の多くのもの、および特に高濃度での心停止を含む多くの副作用(そのうちのいくつかは不可逆的である)がシスプラチンには存在する(Slapak, C.A., & Kufe, D.W. in Harrison's Principles of Internal Medicine, ed. Isselbacker K.J. 14th ed. (McGraw-Hill, New York), pp.523-537 (1998); Sweetman, S.C. Martindale: the Complete Drug Reference, 3rd ed., (Pharmaceutical Press, London-Chicago), pp.525-527(2002))(非特許文献27〜28)。これらの誘発された副作用は有意に患者の生活の質に影響し、しばしば、患者の治療法へのコンプライアンスに飛躍的に影響を与える。これらの合併症は主要な用量規制毒性であり、患者の入院および痛み軽減のための鎮痛の原因となる。
【0012】
さらに、化学療法用薬剤の設計上の2つの主要な問題、すなわち、正常細胞と腫瘍細胞を区別する化学療法用薬剤の選択性の不足、および薬剤耐性腫瘍の一般的な発生を克服するために新規な方法が必要である。細胞毒性薬剤は襲撃に抵抗できるこれらの細胞のみを選択するが、一方、抵抗細胞は影響されないまま残存する。結果として、これは指定された薬剤の完全な臨床上の有効性を取り除くであろう。現状を考えると、これらの障害を回避できる細胞毒性薬剤を開発する早急の必要性が存在している。したがって、このような分子の設計において中心的教義(central tenets)は、毒性の制御と特定癌性細胞に対する金属の標的化である。
したがって、上記不利な点を克服することができる新しい世代の化学療法用薬剤を開発および設計する早急の必要性が存在する。
【特許文献1】米国特許第6,242,009号
【特許文献2】米国特許第6,630,172号
【非特許文献1】Merluzzi, V.J.ら、Research Communications in Chemical Path. Pharmacol., 66, 425(1989)
【非特許文献2】Slawson, R.M.ら、Plasmid, 27, 72(1992)
【非特許文献3】Khurshid, H.Pak., J. Pharmacol. 13, 41(1996)
【非特許文献4】Klasen, H.J. Burns, 26, 131(2000)
【非特許文献5】Dibrov, P.ら、A.A.C., 46, 2668(2002)
【非特許文献6】Richard(III), J.W.ら、J. Burns and Surg. Wound Care, 1, 11(2002)
【非特許文献7】Pil,P., & Lippard, S.in Encyclopedia of Cancer, ed. Bertino, J. R. (Academic Press San Diego), pp.392-410(1997)
【非特許文献8】Jakupec, M.ら、Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146, 1(2003)
【非特許文献9】Pil.P., & Lippard. S. in Encyclopedia of Cancer ed. Bertino, J.R.(Academic Press, San Diego), pp.392-410 (1997)
【非特許文献10】Jakupec, M., ら、Rec. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146, 1(2003)
【非特許文献11】Pil,P., & Lippard, S.in Encyclopedia of Cancer, ed. Bertino, J. R. (Academic Press San Diego), pp.392-410(1997)
【非特許文献12】Haiduc. I., & Silvestru, C. In Vivo, 3, 285(1989)
【非特許文献13】Caruso, F.ら、J. Med. Chem., 43, 3665-(2000)
【非特許文献14】Caruso, F.ら、J. med. Chem., 46, 1737(2003)
【非特許文献15】Furst, A, & Schlauder M. J. Environ. Pathol. Toxicol., 1, 51(1987)
【非特許文献16】Pedahzure, R., ら、Wat. Sci. Tech., 31, 123(1995)
【非特許文献17】Demerec, M.ら、Am. Nat., 85, 119(1951)
【非特許文献18】Rossman, T. G., & Molina, M. Environ. Muagen., 8, 263(1986)
【非特許文献19】Nishioka, H. Mutal. Res., 31, 185(1987)
【非特許文献20】Stillman, M.J.ら、Metal-Based Drugs, 1, 375(1994)
【非特許文献21】Jain, R.K. Cancer Metastasis Rev., 9, 253(1990)
【非特許文献22】Forbes, N.S.ら、Cancer REs., 63 5188(2003)
【非特許文献23】Znati, C.A.ら、Clin. Cancer Res., 9, 5508(2003)
【非特許文献24】Jain R.K. Nat. Med., 9, 685(2003)
【非特許文献25】Jain, R., & Booth, M.F. J.Clin. Invest., 112, 1134(2003)
【非特許文献26】Jain, R.K. in Clinical Oncology, eds. Abeloff, M., Armitage, J., Niederhuber, J., Kastan, M., McKnna, W., 3rd ed., (Elsevier, Philadelphia), pp. 153-172(2004)
【非特許文献27】Slapak, C.A., & Kufe, D.W. in Harrison's Principles of Internal Medicine, ed. Isselbacker K.J. 14th ed. (McGraw-Hill, New York), pp.523-537 (1998)
【非特許文献28】Sweetman, S.C. Martindale: the Complete Drug Reference, 3rd ed., (Pharmaceutical Press, London-Chicago), pp.525-527(2002)
【発明の開示】
【0013】
本発明によれば、腫瘍細胞にアポトーシスを誘発し、かつ、腫瘍ができた動物を治療するための新規な組成物および方法が提供される。1つの広い態様では、本発明は薬学的担体中に少なくとも1つの細胞毒性金属と少なくとも1つの掌性α−有機酸の金属配位錯体を含む組成物に関する。本発明のこの態様は、さらに、下記特定の非制限態様を含んでいてもよい;細胞毒性金属は銀、白金、ゲルマニウム、ガリウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムまたはこれらの混合物である。掌性α−有機酸は酒石酸、リンゴ酸または乳酸であり、特に酒石酸、より具体的には、L−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸である。
【0014】
他の広い態様では、本発明は薬学的担体中に銀(I)−掌性α−有機酸配位錯体を含む組成物に関する。本発明のこの態様は、さらに下記特定の非制限態様を含んでいてもよい:金属配位錯体は、水溶性溶媒中で少なくとも1つの無機酸、少なくとも1つの界面活性剤、少なくとも1つの掌性α−有機酸、および少なくとも1つの金属塩を混合して、pH2.0またはそれ以下のpH条件で形成される。水溶性溶媒中に存在する界面活性剤の量は、細胞毒性金属の量に対して、等モル量より大きくない。水溶性溶媒中に存在する掌性α−有機酸の量は、細胞毒性金属の量に対して等モル量の4倍より大きくない。界面活性剤はイオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤であり、例えば、トリポリリン酸ナトリウムである。無機酸は、例えばリン酸である。金属配位錯体は、まず、水溶性溶媒に無機酸を添加し、次いで、界面活性剤を添加し、次いで、掌性α−有機酸を添加し、そして、次いで、金属塩を添加することによって形成される。銀(I)−掌性α−有機酸配位錯体の銀(I)は、非コロイド形態またはコロイド形態であってよい。掌性α−有機酸は、酒石酸、リンゴ酸または乳酸であり、特に、酒石酸であり、より具体的には、L−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸である。さらに、組成物は少なくとも1つのアミノ酸を含む。より具体的には、組成物はさらに、例えば、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、またはこれらの混合物から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む。より具体的には、組成物はさらに、グルタミン酸を含む。組成物はまた、少なくとも1つのDNA挿入剤および/または少なくとも1つの脈管形成阻止剤を含む。
【0015】
他の広い態様では、本発明は腫瘍細胞中にアポトーシスを誘発する方法および/または哺乳動物の腫瘍細胞の成長を阻止する方法に関し、該方法は細胞毒性金属と少なくとも1つの掌性α−有機酸の少なくとも1つの金属配位錯体を含む組成物を腫瘍細胞に投与または接触させることを含む。本発明のこの態様は、さらに下記特定の非制限態様を包含する:掌性α−有機酸は、例えば、酒石酸、リンゴ酸、乳酸またはこれらの混合物、および特に、酒石酸であり、より具体的には、L−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)酒石酸である。細胞毒性金属は、銀、白金、ゲルマニウム、ガリウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムまたはこれらの混合物であり、そして、特に、銀(I)である。該方法に使用される組成物は、さらに銀配位を向上させる少なくとも1つのアミノ酸など、例えば、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、およびこれらの混合物などの他の添加物を含み、例えば、該組成物はさらにグルタミン酸を含む。
【0016】
他の広い態様では、本発明は腫瘍細胞中にアポトーシスを誘発する方法および/または哺乳動物で腫瘍細胞の成長を阻止する方法に関し、該方法はイオン性銀と少なくとも1つの掌性α−有機酸を含む少なくとも1つの銀(I)配位錯体を含む有効量の組成物を哺乳動物に投与することを含む。本発明のこの態様は、さらに下記特定の非制限態様を含む:掌性α−有機酸は酒石酸、リンゴ酸、乳酸またはこれらの混合物であり、そして、特に、酒石酸であり、より具体的には、L−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸である。該方法に使用される組成物は、さらに銀配位を向上させる少なくとも1つのアミノ酸など、例えば、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システリン、グルタミン酸、グリタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、およびこれらの混合物などの他の添加物を含み、例えば、該組成物はさらにグルタミン酸を含む。特定の非制限例としては、もしもグルタミン酸を錯体の調製に使用する場合、組成物を哺乳動物に投与して、腫瘍細胞を銀(I)配位錯体中の濃度が約0.488μg/mlより小さく、または約15.625μg/mlより大きい銀に露呈する。特定の非制限例としては、もしもグルタミン酸を錯体の調製に使用しない場合、組成物は哺乳動物に投与して、銀(I)配位錯体中の濃度が約3.906μg/mlより大きい銀に露呈する。
【0017】
他の広い態様では、本発明は、(a)水溶性溶媒に少なくとも1つの無機酸を添加して、pH2.0またはそれ以下の溶液を用意し、次いで、(b)工程(a)後の溶液に界面活性剤を添加し、次いで、(c)工程(b)後の溶液に少なくとも1つの掌性α−有機酸を添加し、次いで、(d)工程(c)後の溶液に銀(I)塩を添加し、その際、掌性α−有機酸と銀(I)塩の銀(I)を相互作用させて、銀(I)掌性α−有機酸錯体を形成する工程を含む銀(I)掌性α−有機酸配位錯体の製造方法に関する。本発明のこの態様は、さらに、下記特定の非制限態様を包含する:水溶性溶媒中に存在する界面活性剤の量は、好ましくは、存在する銀の量に対して等モル量よりも大きくない。水溶性溶媒中に存在する掌性α−有機酸の量は、好ましくは、存在する銀の量に対して等モル量の4倍より大きくない。界面活性剤はイオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤であり、特に、トリポリリン酸ナトリウムである。無機酸は、例えばリン酸である。掌性α−有機酸は酒石酸、リンゴ酸、乳酸またはこれらの混合物であり、そして、特に酒石酸であり、より具体的には、L−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸である。銀(I)塩は硝酸銀である。
【0018】
他の広い態様では、銀は肝臓中の初回通過効果を生じて、胆汁中へ分泌されるから(ATSDR.(1990)、Silverにおける毒物学的性質)、(これはオンラインwww.atsdr.cdc.gov/toxprofiles/tp146-p.pdf.から入手可能である。)本発明は全タイプの肝炎治療に使用され得る。
【0019】
本発明の別な態様と利点は、以下の説明で部分的に開示され、そして、その説明から部分的に明らかになるか、または本発明の実施によって学習されるであろう。本発明の目的と他の利点は、その説明および添付される特許請求の範囲に、特に指摘される要件およびその組合せによって実現および達成されるであろう。
【0020】
先の一般的な議論および以下の議論は、本質的に説明および例として考えられ、特許請求されるように、本発明の更なる利点をもたらすことが単に意図されると解釈されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、一般的には、有機酸またはその塩が中心性銀(I)原子へ配位結合を形成することができる無機銀(I)配位錯体の形成に関する。これらの錯体は、固形および播種性腫瘍に起因する癌性または前癌性細胞の破壊に大いに効果がある化学療法用薬剤として非常に効果的である。細胞毒性の機構は、好ましくはアポトーシスを経由している。アポトーシスは細胞サイクル機構の遺伝的チェックポイントが損なわれたときに生じて、細胞の収縮、膜小疱形成、染色質の分解およびその溶解(核溶解)、核凝縮、ヌクレオソーム間DNA断片化、チトクロームcの放出を伴うミトコンドリア分解となる。これはカスペース・カスケード、または小さな膜包囲断片への細胞骨格の細胞破壊および切断の活性化の中心である(Darzynkiewicz, Z.ら、Hum. Cell, 1, 3 (1998); Ferreira, C.ら、Clin. Cancer Res., 8, 2024 (2002))。
【0022】
一般的には、本発明は、ヒドロキシル基(−OH)がカルボキシル基(−COOH)に直接に隣接する炭素原子上に存在する、一般構造式:R−CHOH−COO(Ag)(式中、Rはアルキル基を示す)を有する非対称または掌性α−有機酸を使用する無機銀(I)配位錯体の形成に依存する。定義によれば、非対称または掌性分子とは、4つの異なる基に結合した1つのsp3混成炭素原子を含む分子である。無機銀(I)配位錯体は、蒸留脱イオン水などの水溶性環境、リン酸などの無機酸、トリポリリン酸ナトリウムなどの界面活性剤、酒石酸などの掌性α−有機酸および硝酸銀などの銀(I)塩から形成する。この混合物は水溶液に添加して、好適な化学療法用薬剤を形成する。
【0023】
溶液の調製に使用される界面活性剤および掌性α−有機酸の量は、使用される界面活性剤および掌性α−有機酸によって異なり得る。好ましくは、銀(I)に対して、界面活性剤および掌性α−有機酸の等モル量の等(1.0)倍および4(1.0)倍より大きくなく、それぞれ使用されるべきであり、そして、銀(I)の化学量論的量の少なくとも10分の1(0.1)および1倍半(1.5)を使用すべきである。
【0024】
本発明の無機銀(I)配位錯体は、好ましくは低pH条件(例えば、酸性条件)、好ましくはpH2.0またはそれ以下のpH条件のもとに錯体を形成することによって達成される。
【0025】
化学療法用処方を含む無機銀(I)配位錯体は、水溶性媒体中の少なくとも1つの無機酸を用意し、次いで、その指定された量の界面活性剤と掌性α−有機酸を添加し、そして、最後に銀(I)塩を溶解させて調製し得る。ここで提供された組成物は、より複雑な1つの錯体および/または複数の錯体をともに生成する種々の錯体から調製してもよい。無機銀(I)配位錯体の調製に使用される界面活性剤および掌性α−有機酸の量は、異なっていてもよい。好ましくは、銀(I)に対して、等倍(1.0)および4倍(4.0)より大きくない界面活性剤および掌性α−有機酸がそれぞれ使用される。塩の形態など、銀(I)のいかなる原料も本発明で使用され得る。コロイド状銀も使用され得る。
【0026】
好ましくは、銀が本発明の調製において使用される。けれども、白金、ゲルマニウム、ガリウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウムおよびこれらの混合物などの細胞毒性活性を示すことが公知である他の金属も使用され得る。
【0027】
本発明の無機銀(I)配位錯体は、好ましくは、少なくとも1つの無機酸、界面活性剤、掌性α−有機酸および1つの銀塩化合物から調製され得る。本発明の無機銀(I)配位錯体を製造する好ましい方法では、好ましくは、蒸留脱イオン水などの水溶性溶媒の存在下に無機酸を添加し、この溶液に室温(例えば、20〜30℃)で界面活性剤、掌性α−有機酸、銀塩を添加し、好ましくは、その間、混合物を均一化させる。この調製は、好ましくは、約2.0またはそれ以下などの低pH条件下に行う。得られた溶液は次いで、さらに水溶液で希釈するか、あるいは他の添加剤を添加して、本発明の化学療法用組成物を生成することができる。このような水溶液の例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、または製薬業界で一般に使用される他の生理学的緩衝液がある。これらは、好ましくは、本発明の化学療法用組成物を生成するような用途に認められている。水溶性媒体の化学組成物の添加を繰り返すことは、好ましくは、上記した方法で行われる。すなわち、無機酸、次いで界面活性剤、掌性α−有機酸、そして最後に銀塩を添加し、溶液から銀が沈殿し、その化学療法効果をなくする危険を減少させるために、混合を緩やかに行う。他の添加順序も使用され得る。
【0028】
無機酸については、いかなる無機酸も使用され得る。好ましくは、無機酸はリン酸などである。1つ以上の無機酸が使用され得る。界面活性剤については、いかなるイオン性および非イオン性界面活性も使用され得る。製薬業界で使用されるものなど、無害であると考えられる界面活性剤、例えば、トリポリリン酸ナトリウムなどを使用してもよいと考えられる。
【0029】
いかなる1つまたは複数の掌性α−有機酸も使用され得る。使用され得る掌性α−有機酸の例としては、好ましくは酒石酸、リンゴ酸、乳酸、およびこれらの誘導体およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
さらに、銀配位を高めるためにアミノ酸を添加することができる。アミノ酸の例としては、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシンおよびこれらの誘導体およびこれらの混合物などのα−アミノ酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
数種のDNA挿入剤、酵素トポイソメラーゼIおよびトポイソメラーゼIIを害する能力を付随しているものなども使用され得る。これらはDNA転写および複製、およびDNA高次コイル化制御中に位相的状態の相互変換の原因となる。トポイソメラーゼI毒素の例としては、プロトベルベリン・アルカロイドおよびその合成類似体、コラリン、ベンゾフェナンスリジンアルカロイド、ニチジン(LaVoie, E.J.,ら、The Second Monroe Wall Symposium on Biodiversity, Natural Product Discovery and Biotechnology, Simon Bolivar University, Caracas, Venezuela, January 7-9(1998); Makheyら、Bioorg. & Med. Chem., 4, 781(1996); Makheyら、Med. Chem. Res., 5, 1(1995);およびJaninら、J. Med. Chem., 18, 708(1975))、ならびに真菌代謝産物、ブルガレイン(Fujiiら、J. Biol. Chem., 268, 13160(1993))、カンプトテシンおよびその誘導体、トポテカンおよびイリノテカンなど、ビ−およびターベンズイミダゾール(Bailly, C., CMC, 7, No.1, 39(2000); Kimら、J. Med. Chem., 1996, 39, 992(1996); Sunら、J. Med. Chem., 1995, 38, 3638(1995);およびChenら、Cancer Res., 53, 1332(1993))、インドロカルバゾール誘導体(Bailly, C., CMC, 7, No.1, 39(2000);およびYamashitaら、Biochemistry, 31. 12069(1992)、およびセイントピン(Yamashitaら、Biochemistry, 30, 5838(1991))が挙げられる。他のトポイソメラーゼI毒素としては、β−ラパコン、ジオスピリン、トポスタチン、トポスチン、ファボノイド、ヘキスト33258など、およびこれらの混合物がある。トポイソメラーゼII毒素としては、テニポシドまたはエピポドフィルロ毒素、VP−16およびVM−26、およびポドフィロ毒素−アクリジン共役体−pACR6およびpACR8(Rothenborg-Jensenら、Anti-Cancer Drug Design, 16, 305(2001))など、およびこれらの混合物がある。
【0032】
本発明のある態様としては、例えば、通常の量のアンジオスタチン(O'Reillly M.,ら、Cell, 79, 315(1994)))およびエンドスタチン(O'Reilly, M.,ら、Cell, 88, 1(1997))、またはこれらの混合物などの血管形成阻止薬が挙げられる.
【0033】
組成物は種々のタイプの調剤機器を経て、ビン詰めまたは包装されて、さらにその有用性を増すことができる。当業者にとって包装の他の形態は自明である。包装材料に関して、その材料は好ましくは透明なガラス容器で作られるべきである。
【0034】
本明細書中に記載される錯体は、制御された放出メータリング機器を経て投与することができる。この方法と装置としては、生分解性ポリマー、リポソーム、糖、抗体、シリンッジ、輸液装置などが挙げられる。
【0035】
本発明のさらに別の好ましい態様では、組成物は固形および播種性腫瘍に対して細胞毒性を有する一方で、非毒性、非刺激性、および/または非腐食性である。
【0036】
得られた溶液は、次いで、水溶液、好ましくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)または製薬業界で一般的に使用される他の生理学的緩衝液でさらに希釈することができ、これは本発明のような化学療法用組成物を生成する用途に承認される。本発明の組成物は、便宜上、液体担体中に用意される。いかなる液体担体もそのような担体が不活性、すなわち、組成物の化学構成成分と化学的に干渉すべきでないように挙動すべきであるという条件でもって使用される。他の輸送ルートも当業者には容易に明白であろう。
【0037】
本発明の組成物は、内皮、筋肉内、静脈内(i.v.)、または経腸内(i.p.)注射、または腫瘍部位への他の有効な径路を経て被検者に安全に投与される。好ましくは、投与径路は治療される状態に直接に接触するように設計される。組成物はさらに、薬学的に許容される安定剤、アジュバント、希釈剤、抗ウイルス剤などの生体活性化学品、抗生物質またはこれらの混合物、当業者に周知である他の成分、および製薬業界で一般的に使用される他の成分を含むことができる。これらはその使用が認可されている。また、このような担体は不活性に作用すべきである。
【0038】
他の実施態様では、本発明は非反応性状態で貯蔵し、次いで、記載される組成物の活性化は使用者により適用部位で行われうる。
【0039】
ここで使用される用語、「化学療法」とは、本発明の有効量を投与することを含む治療によって、ここに開示される組成物に対して感受性を有する癌性細胞の成長阻止と考えられる。好ましくは、このような治療はまた癌性細胞のいくらかの退行につながる。最も好ましくは、このような治療は癌性細胞の完全に近いまたは完全な退行につながる。ここで使用される用語、「細胞毒性」とは、生細胞に有毒であるものの程度であると考えられる。
【0040】
本発明の濃度は治療の部位、組成物の作用の所望される反応と持続時間、および当業者にとって明白である他の要因を含む多くの要因に依存する。
【0041】
本発明はさらに、次の代表的でかつ非制限の実施例によって説明される。これらの実験はここに開示される本発明の実施態様のいくつかを構成する。これらの実施例の背後にある主たる推進力は、単に説明を目的とし、なんら制限されるものではない。
【0042】
方法論
【0043】
薬品
無菌の二重蒸留脱イオン水を全ての細胞毒性分析および銀溶液および錯体の調製に使用した。医薬品等級試薬は、Sigma-Aldrichから購入し、活性成分として50mgのシスプラチン「Ebewe」を含む100mLのバイアルをEBEWE Arzneimittel Ges.m.b.H Laboratories (Unterach, Austria)から購入した。
【0044】
腫瘍セルライン
銀(I)配位錯体の化学療法活性は、T−47Dヒト乳癌およびジャーカットT−細胞急性リンパ芽球白血病で測定し、250μg/mL白金に相当する385μg/mLのシスプラチン(Pt(NHCl)と比較した。この濃度は下記実施例1および2に記載される実験における銀で使用した濃度と同じである。2つの腫瘍セルラインは固形腫瘍症(T−47D)および播種性腫瘍症(ジャーカット)を含むように非常に注意深く選択した。細胞は96穴平底組織培養プレート中で50,000細胞/穴に播種する。実験は段階希釈によって実施した。
【0045】
全てのセルラインを10%FBS、40μg/mL GEN、pH=7.2のHEPES緩衝液、2mM L−グルタミンおよびピルビン酸ナトリウムで補充した完全RPMI−1640培地で成長させて試験した。24時間、加湿インキュベーター中で37℃、5%CO2の存在下にプレートをインキュベートした。ヒト腫瘍細胞を2〜3日毎、通常の継代培養により対数期で維持した。
【0046】
細胞毒性の評価
腫瘍細胞の阻止%を評価するために、生存能力のある細胞の数を顕微鏡の血球計測器を使用し、トリパンブルー色素排除法で計数し、濃度(細胞/mL)を調整した。簡単には、各細胞を播種し、PBSで2回洗浄し、次いで、0.5mLのトリプシン/EDTAで収集した。細胞を1mlの培養培地で希釈し、トリパンブルー色素で染色した。
【0047】
培養培地と試験試薬との間の相互作用が存在するか否かを試験するために、試験培地もまた、いかなる薬剤も存在しない状態で本発明の試薬を播種した。全てのコントロールは結果的には期待されるように、実際の実験の知見を確証する結果となった。全ての実験は3回行い、その結果を平均して報告する。
【0048】
アポトーシスの検出
インサイチュー・アポトーシスの検出は、Promegaキット(Promega Corporation-2800 Woods Hollow Road Madison WI53711-5399, USA)に記載されるように、培養細胞中のアポトーシス検出のためのDeadEnd Colorimetric TUNEL(ターミナル・デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ・ニック・エンド標識)によって実施した。簡単には、コントロールとアポトーシス誘発細胞を遠心分離し、PBSで洗浄し、ポリ−L−リジン(Sigma-Aldrich)を被覆したガラススライド上に固定した。室温で25分間、10%緩衝化ホルマリン、4%パラホルムアルデヒド溶液中にスライドを浸漬して細胞を固定した。次いで、固定された細胞を室温で5分間、新鮮なPBSで2回、洗浄した。スライドを0.2%トリトンRX−100のPBS溶液中に浸漬して細胞を膜透過処理した。次いで、スライドを室温でそれぞれ5分間、PBSで2回、洗浄した。次いで、スライドをたたくことによって過剰な液体を除去し、細胞を100μLの平衡緩衝液で覆い、スライドを室温で8分間、平衡化した。次いで、100μLのrTdT反応混合物を添加し、平衡化領域の周囲をブロットした。次いで、スライドを加湿器の内側で1時間、37℃でインキュベートした。次いで、反応を終了させ、スライドを洗浄し、0.3%過酸化水素、および他の試薬および洗浄工程を製造者の指示書にしたがって実施した。次いで、スライドをアポトーシス染色のための光学顕微鏡で観察した。比較の目的で、シスプラチンでもアポトーシス研究を実施した。メトトレキセート(MTX)を使用し、かつ、細胞毒性薬剤(NEG)の存在しない状態で培地中に細胞をそれぞれ維持して、ポジティブおよびネガティブコントロールを使用した。
【0049】
分子構造、熱的および熱重量分析の特性と純度
錯体の構造的、熱的および熱重量分析の測定は、それぞれ、X線結晶解析(XRC)、示差走査熱量測定法(DSC)および熱量重量分析(TG)で測定した。これらの測定は専門の研究所、Chemir Analytical Services (2672 Metro Blvd, Maryland Heights, MO 63043-USA; wwwdotchemirdotcom)で実施した。さらに、その構造はDr. Peter Y. Zavalij (Director, X-ray Crystallographic Laboratory: Department of Chemistry & Biochemistry, 091 Chemistry Building University of Maryland-College Park, MD 20742-4454)によって確認されている。錯体の炭素と水素の純度判定基準は、燃焼/熱量重量分析によって測定し、一方、銀は標準的原子吸光により測定した。
【0050】
単結晶XRCは、BrukerSMART1000CCD回折計で実施した。約0.23×0.2×0.18mmの大きさを有する無色単分光結晶を取り付け、一列に並べ、回折パターンを集めた。X線強度データをグラファイトモノクロメーターおよびMoKα線ファイン・フォーカス・シールド・チューブ(λ=0.71073Å)を使用して、Brucker SMART1000CCD回折計で、170(2)Kで測定し、ユニットセルの大きさは、最小二乗法細分化で得た。単一の高電子密度原子への銀原子のアサインメントは、データセットのフェージングを可能とした。空間群、ユニットセルの大きさおよび他のパラメーターを測定した。細分化構造から結合長さと角度、原子配位、および異方性パラメーターを得た。プログラムSAINTを回折パターンの集積のために使用し、一方、構造は直接SHELXS−プラス・プログラム(SMART and SHELXTL-plus Software. Brucker AXS Inc. Madison WI, USA)によって解析した。非水素原子の全ては、連続的差フーリエ解析中に位置していた。最終の細分化はF2の非水素原子における異方性熱的パラメーターをもつフル・マトリックス・最小二乗分析でもって行われた。酸素に結合した水素原子は、差フーリエマップから位置つけられ、一方、他のものは、その関係する原子に乗せて理論的に配置し、一般的な等方性変位パラメーターで細分化した。
【0051】
DSC測定を試料重量5.4mg、走査温度範囲25〜300℃、加熱速度10℃/分、でPerkin-Elmer/DSC Series7を使用して実施した。TG測定は、試料重量11.872mgで、走査温度範囲25〜600℃、加熱速度20℃/分を使用し、TAC7/DXコントローラーを備えたPerkin-Elmer TGA7で実施した。
【実施例1】
【0052】
銀(I)配位錯体(KB−Ag(I))の調製
室温で、かつ、最小光のもとに、0.5mlの85%HPOを4.0mlの2回蒸留脱イオン水に添加した。これに、0.2gのトリポリリン酸ナトリウムを攪拌しながら添加し、次いで、1.94gのL−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸を添加した。得られた溶液を均質化が達成されるまで緩やかに攪拌した。次いで、0.7gの硝酸銀を緩やかに混合しながら添加した。これは、pHが約1.7である僅かに色がついた水溶液となった。この水溶液に、0.7gのグルタミン酸を添加し、緩やかに混合した。銀配位を高めるためにグルタミン酸を使用した銀(I)−酒石酸配位錯体は、ここでは、「KB−Ag(I)」との名前で呼ぶ。(配位錯体は米国仮特許出願番号60/642,805では、「T−Ag」との名前で呼ぶが、グルタミン酸をこの溶液に添加した。)ミクロピペットを使用して、この溶液25.4μLの10mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に添加した。これは、原子吸光法で確認したところ、初期銀濃度が250μg/mLであった。
【0053】
結果
【0054】
I.抗癌活性
細胞毒性について得られた結果を図1および2に示す。用語、「CIS−Pt」および「KB−Ag(I)」はそれぞれ、シスプラチンおよび銀(I)配位錯体をいう。定量目的では、その結果はPtとAgをμg/mLの量で表示する。
【0055】
KB−Ag(I)に関する図1および2のデータを注意深く検討すると、T−47Dおよびジャーカットにおける阻止の特徴は、両プロファイルが三相であることにおいて類似している。一般的にはフェーズIはナノ濃度範囲の細胞毒性を特徴とし、フェーズIIは中間範囲の細胞毒性の欠如を特徴とし、そして、最後にフェーズIIIはミクロ濃度範囲の細胞毒性を特徴とする。この挙動はジャーカットのものに比べて、特にCIS−Ptに対して比べたとき、T−47Dではより明白である。これらのフェーズはKB−Ag(I)の濃度が増加するにつれて、急激に生じる。ここで検討した濃度範囲では、これらのフェーズの開始は試験した各腫瘍セルラインで異なっている。T−47Dの場合、フェーズI、II、IIIの濃度範囲はそれぞれ、0.0019〜0.0305、0.061〜7.812および15.625〜125μg/mLであり、ジャーカットでは、その範囲はそれぞれ、0.0019〜0.488、0.977〜7.812および15.625〜125μg/mLである。フェーズIIIの細胞毒性の発生が試験した両セルラインにおいて同じであるとここで観察したことは重要であり、以下に明らかになるように、この挙動の原因となる同じメカニズムが固形および播種性腫瘍において同じである(15.625μg/ml)と推察される。試験した両セルラインでは、フェーズIIは、KB−Ag(I)がこれらの濃度でもはや毒性でない領域と考えられる。この発見は細胞が前の状態にもどり、悪性でなくなる細胞再分化を表す、KB−Ag(I)の細胞毒性の欠失という形で解釈され得た。
【0056】
検討した濃度範囲の全体にわたって、その結果は固形腫瘍セルラインT−7Dはより低い濃度で容易に阻止されるジャーカットに比べて、阻止にはより高濃度のKB−Ag(I)を必要とすることを示す。この挙動はまた、CIS−Ptでも観察されるが、CIS−PtによるT−47Dの阻止はジャーカットに比べて、さらなる希釈により終わり、ジャーカットはさらなる希釈によっても継続する(図1および2)。PtおよびAgの両者の濃度がKB−Ag(I)の阻止%プロファイルがシフトし、有意に、特にT−47D(細胞毒性はフェーズIのCIS−Ptにおいて観察されない。図1)を改善するナノ範囲になるまで、同じ濃度のPtおよびAgではCIS−PtはKB−Ag(I)よりもより良い細胞毒性を示す。
【0057】
T−47DにおけるKB−Ag(I)のプロファイルの特徴は、プロファイルがフェーズIおよびIIIでそれ自体、低細胞毒性で始まり、濃度増加につれて増加することを繰り返し、一方、ジャーカットでは、フェーズIのプロファイルは0.122m/mLの濃度までフェーズIIIのものを模倣し、次いで、釣鐘状曲線になるようにシフトする(図1および2)。CIS−Ptの場合、細胞毒性は、それがT−47Dにおいてその細胞毒性を失うまで、非常に低濃度ですら存在し続ける(図1)。
【0058】
図1および2の0.0019〜0.0152μg/mL(1.9〜15.2ng/mL)の範囲でKB−Ag(I)とCIS−Ptを定量的に比較すると、この領域内では、KB−Ag(I)の平均阻止%がジャーカットではCIS−Ptより2倍大きく(25.4%に対して49.9%)、一方、T−47Dでは、KB−Ag(I)の阻止%は、CIS−Ptにおいて、0%であるのに比べて、38.3%である。ここで、Kb−Ag(I)およびCIS−Ptの濃度が減少するにつれて、ジャーカットでは、細胞毒性の差が後者に比べて前者においてより顕著となる。
【0059】
図1および2のCIS−PtおよびKB−Ag(I)の活性に関して、より定量的な薬物動態学的−薬力学的予測を得るには、50%最大阻止濃度(MIC50)に対する24時間にわたる濃度曲線下面積(AUCt>24)の割合(AUCt>24/MIC50)を計算し、その結果を表1に示す。一次台形公式を使用して、両薬剤のAUCt>24値を計算し、一方、CIS−PtおよびKB−Ag(I)の両者によって生じた50%最大反応を阻止%濃度曲線から読み取った。ここで、KB−Ag(I)ではフェーズIおよびIIIでは両セルラインにおいて2つのMIC50が存在したことに注目すべきである。阻止%と濃度との相関関係を評価するために、データに回帰モデルを適用した。多重曲線評価手法を使用し、各モデルの相対フィットを相関係数、rの値をもとに測定し;1.0に近いr値を生じるフィットが選択された。次いで、回帰等式を各フェーズにおいて濃度間隔にわたって集積し、その和をAUCt>24とした。
【0060】
CIS−PtおよびKB−Ag(I)におけるフェーズI、IIおよびIIIのT−47Dの計算されたAUCt>24値は、それぞれ、0.0、2.05および107、および0.0129、0.0および59.4cfu.μg/mLであり、一方、ジャーカットでは、それぞれ、0.159、4.89および108.1、および0.0989、0.0および77.6cfu.μg/mLである。CIS−PtにおけるT−47Dの相対MIC50は、12.4μg/mLであり、KB−Ag(I)では0.025(フェーズI)および50μg/mL(フェーズIII)であり、一方、CIS−Ptにおけるジャーカットでは1.28μg/mLであり、そして、KB−Ag(I)では0.0076(フェーズI)および27.4μg/mL(フェーズIII)である。
【0061】
表1:3つのフェーズにおけるCIS−PtおよびKB−Ag(I)の計算された比、AUCt>24/MIC50
【表1】

【0062】
表1の値を比較すると、これら2つの薬剤の活性に関して同じ結論が推論され得る。予期されるように、CIS−Pt化学療法活性はフェーズIIおよびIIIではKB−Ag(I)よりもよいが、一方、フェーズIでは逆である。フェーズI、IIおよびIIIでは、T−47DにおけるCIS−Ptの活性に対するKB−Ag(I)の活性の比を計算して、それぞれ、∞の値、0および0.138を得るであろう。一方、ジャーカットではそれぞれ、104.8、0および0.0335である。これらのデータを考察すると、KB−Ag(I)はCIS−Ptに関する播種性ジャーカット腫瘍に比べて、固形T−47D腫瘍において有意な活性を示すと結論され得る。これはKB−Ag(I)の拡散の容易さにも起因し、これはその構造的特質に関連する。ここで、もしも両腫瘍セルラインにおけるKB−Ag(I)およびCIS−Ptの表1の値、AUCt>24/MIC50がAgおよびPtの両方の濃度が癌の全身治療において興味ある範囲内にあるフェーズIおよびIIにおいて添加されるなら、KB−Ag(I)の値はCIS−Ptにおける値よりもほぼ3.3倍大きくなる(T−47Dにおいて0.165に比べて0.516、およびジャーカットにおいて3.94に比べて13.0)。KB−Ag(I)がフェーズIIにおいていかなる化学療法活性を示さなかったとしても、金属濃度スペクトルの低位端で、CIS−Ptよりなおも優れている。
【0063】
したがって、KB−Ag(I)の細胞毒性は、特にT−47D固形腫瘍セルラインにおいてCIS−Ptに比べて優れていて、両腫瘍セルラインでは、非常に低金属濃度で優れている。本発明の結果が示すように、銀が白金よりもより安全な許容記録を有し、特に低濃度でよりよい細胞毒性活性を示す事実を考慮すれば、本発明の銀錯体でもってシスプラチンなどの白金錯体を置換することは、有利であり、かつ、有益であろう。
【0064】
II.細胞毒性のメカニズム
【0065】
生細胞は壊死「細胞殺人」またはアポトーシス「細胞自殺」のいずれかによって死ぬことができる。壊死は外部損傷により生じ、かつ腫大した形態、原形質膜の溶解、炎症および組織破壊を特徴とし、数秒内に生じ、細胞毒性薬剤の過剰摂取によって誘発され得る(Darzynkiewicz, Z.ら、Hum. Cell., 1, 3(1998); Ferreira, C.ら、Clin. Cancer Res., 8, 2024(2002))。他方、アポトーシスは生細胞の遺伝的に制御されてコードされた自己消化であり、発生および組織恒常性において重要である。これはイニシエーターの活性または毒性プロテアーゼの特異的シリーズによる低可逆的生化学プロセスを特徴とし、細胞を死への非変換遂行(no-turn commitment)へ導く。このプロセスは細胞サイクル機構の遺伝的チェックポイントが損なわれるときに生じて、細胞の収縮、膜小疱形成、染色質の分解およびその溶解(核融解)、核凝縮、ヌクレオソーム間DNA断片化、チトクロームcの放出によるミトコンドリアの破壊となり、これはカスペース・カスケードの活性化、および小さな膜包括断片への細胞骨格の細胞分裂および破損である(Darzynkiewicz, Z.ら、Hum. Cell, 1, 3(1998); Ferreira, C.ら、Clin. Cancer Res., 8, 2024(2002))。アポトーシスは遺伝子制御現象であるから、変異により分裂を受けやすく、ウイルス感染および癌などの多くの病理学的状態につながる(Hengartner, M. O.ら、Nat. 407, 770(2002))。化学療法薬剤は壊死(細胞毒性薬剤の過剰摂取)、アポトーシス、遺伝毒性物質(DNA損傷)、細胞膜損傷またはフリーラジカル形成を含む多くのメカニズムによる細胞毒性活性を誘発することが十分に確立している。
【0066】
銀(I)錯体固有の化学療法活性の機序を考察するために、ポトーシスは上記したフェーズI、IIおよびIIIにおける各セルライン研究におけるTUNEL分析によって検出した。フェーズ毎に1つ、すなわち3つの濃度を銀(I)錯体およびシスプラチンの両者のアポトーシス研究において選択し、コントロールと比較した。選択された濃度は、フェーズI、IIおよびIIIにおいて、それぞれ、0.0076、3.906、および15.625μg/mLを選択した。T−47Dにおける18時間後、およびジャーカットにおける6時間後のTUNEL分析結果は、図3A〜3Hおよび4A〜4Hに示される。18および6時間加熱時間は、銀(I)錯体のアポトーシスの誘発がこれらの2つのセルラインで、これらの時間内であったという、この研究の先の実験で決定されていたから選択した。
【0067】
検討した両セルラインでは、矢印で示されるアポトーシス染色はKB−Ag(I)およびCIS−Ptにおいて、これらの濃度で明白であることが図3および4から結論つけられる。細胞形態学の明白な変性および培養表面からの脱離が存在し、細胞は薄く、かつ丸くなることが見られた。細胞収縮とヌクレオソーム間DNA断片化は、アポトーシスの古典的な特徴であり、壊死ではない。しかしながら、KB−Ag(I)で処理したT−47Dおよびジャーカットでは、フェーズIIで、アポトーシスが存在せず(それぞれ、図3Fおよび4F)、両セルラインにおけるネガティブ(NEG)のものと似ている(それぞれ、図3Hおよび4H)。これは先の結果、すなわち、このフェーズでのKB−Ag(I)の細胞毒性の欠如を実証する(図1および2)。CIS−Ptで処理したジャーカットでは、アポトーシスは検討した3つの濃度で明白であり(それぞれ、図4A、4Bおよび4C)、一方、T−47Dでは検討した最小濃度(Ptが0.0076μg/mL)ではアポトーシスが欠如して(図3C)、またも図1および2の先の結果を実証する。ここで、アポトーシスの頻度もまた、阻止%の結果を反映していることに注目することも重要である。例えば、KB−Ag(I)で処理したジャーカットの場合、Agの濃度0.0076μg/mLはAgの15.625μg/mLのものよりもより高い阻止に相当する(図2、50.5%と38.9%を比較する)。これはアポトーシス結果で確認される(fingerprinted)(図4Eおよび4G)。
【実施例2】
【0068】
銀配位錯体(KB'−Ag(I))の調製
アミノ酸添加の効果を検討するために、実施例1と同じ手法を繰り返したが、グルタミン酸を添加しなかった。ジャーカット細胞について細胞毒性の比較を図5に示す。ここで、KB'−Ag(I)はグルタミン酸を添加しないで調製した銀(I)−酒石酸配位複合体を呼ぶ(この配位錯体は米国仮特許出願番号60/642,805にT−Agとして記載される配位錯体と同じである)。Agの濃度が3.906μg/mLに低下するまで、KB'−Ag(I)はKB−Ag(I)よりもよい細胞毒性活性を示すが、その活性は減少することが明らかであり、KB−Ag(I)の活性が優れたものとなる。したがって、ここで記載する銀(I)酒石酸配位錯体などの本発明の細胞毒性金属と掌性α−有機酸の配位複合体の調製では、アミノ酸の添加はより低濃度で錯体の抗癌活性に顕著な増加を引き起こすと結論され得る。ここで、遊離銀イオン溶液もまた、細胞毒性活性を検討し、KB−Ag(I)およびKB'−Ag(I)の結果を比較するために調製された。この遊離銀イオン溶液は上記実施例1および2と全く同じ方法で調製したが、トリポリリン酸ナトリウム、酒石酸またはグタミン酸を溶液に添加しなかった。KB−Ag(I)およびKB'−Ag(I)の両者は遊離銀溶液と比較すると、平均して、T−47Dおよびジャーカットの両者で、元の細胞数の1桁の減少、すなわち15.625μg/mL以下を誘発したと判断され、遊離銀イオン溶液はいかなる細胞毒性活性も示さなかった。
【0069】
III.KB−Ag(I)およびKB'−Ag(I)結晶の調製:
KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の結晶を上記実施例1および2に記載した手法と同じ手法によって調製したが、結晶が見られる暗所にて室温で24時間、混合物を静置させた。次いで、混合物を真空で濾過し、結晶を採取した、これはKB−Ag(I)およびKB'−Ag(I)の清澄で無色の単結晶となった。
【0070】
IV.KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の分子構造、熱的および熱重量分析特性および純度:
ここで、KB−Ag(I)およびKB'−Ag(I)の両者に関する分子構造、熱的および熱重量分析が細胞毒性を除いて同じであり、低銀濃度では前者がより高いと判断されたことは、注目すべきことである(図5)。それ故、前述の議論はKB−Ag(I)による銀(I)錯体にのみ適用される。
【0071】
I.KB−Ag(I)の分子構造
原子番号の図式を含む表記化合物KB−Ag(I)の構造を図6Aおよび6Bに示す。図6Aに示されるように、KB−Ag(I)の結晶状態の配位圏は、重合体鎖水和物構造を示し、銀錯体分子と水の溶媒分子から構成され、それには課せられた対称は存在しない。表記化合物の立体化学構造は、基本的には酒石酸環と水の2つの二座と2つの単座キレート残基である、[Ag(二座)(単座)]±。水分子は錯体に対して化学量論的に存在し、これは図6Bに示されるように、銀原子に配位されている。中心の銀原子は6つの配位子供与体酸素原子に6配位されて、酒石酸残基からの2つのヒドロキシル酸素供与体と3つのカルボキシレート酸素供与体の全てと、HOからの1つの酸素供与体を有する、ゆがんだ歪台形ビピラミッド形6配位幾何学を形成する。酒石酸残基はAg(I)中心に配位して、5−員および6−員配位環を形成する。5−員環配位は1つのカルボキシレート酸素(O1、off of C1)および1つのヒドロキシル酸素(O3、off of C2)であるが、一方、6−員環配位は1つのカルボキシレート酸素(O2、off of C1)および1つのヒドロキシル酸素(O4、off of C3)であり、残りのカルボキシレート(O5およびO6、off of C4)は銀に配位しないが、隣接するリガンド分子間の水素結合に関与している(図7参照)。Ag(1)−O(1)とAg(1)−O(3)の距離は、同値でなく、それぞれ、2.356(3)および2.489(3)Åである。しかしながら、Agと水の酸素との間の結合距離、Ag(1)−O(7)は、Ag(1)−O(1)の距離とほとんど同値であり、2.316(3)Åである。
【0072】
Ag−O6の距離は2.853Åであり、典型的な配位距離の範囲外と考えられる。この挙動を説明するには、図7はAgの環境とカルボキシルH(O6−H6・・O2A)のH結合の状態を示す。擬一次元鎖構造はO6−H6・・・O2A水素結合中に形成され、カルボキシレートの水素H6は、図7にカルボキシレートO2Aにより隣接錯体に破線で結合する。O6−O2A距離は2.537Åであり、これはO6が銀中心の配位圏の一部ではないとの論点を支持する。角度、O6−Ag−Ox(式中、x=1,2,3,4,5および7)は、それぞれ、87.7、171.1、87.3、106.3、111.6および69.2°である。
【0073】
可能性ある一致性を見るために、ケンブリッジ結晶構造データベース(CSD)探索を実施した。その結果はKB−Ag(I)の分子構造は、結合角度および長さの値を含む、先に公表されている錯体に一致しているようである(Bott, R.ら、Zeitschrift Fur Kristallographie, 209, 803(1994))。表記化合物、KB−Ag(I)の詳細な結晶構造データ、構造リファインメント、異方性パラメーター、結合距離および角度を含む包括的な構造データは、下記表2〜7に示される。ここで注目すべき興味ある点は、引用された研究では、引用研究の錯体が調製された実験条件および方法が、pH、溶液の化学環境および薬品の添加順序または調製工程を含めて、本発明で示されるものと相違する点である。引用された研究の錯体は水中で調製するが、一方、本発明の錯体は高い酸性条件、pH<2.0の下で、リン酸溶液中で調製する。また、化学的成分が相違する:引用された研究では硝酸銀と酒石酸のみを使用するが、一方、本発明では硝酸銀および酒石酸に加えて、リン酸とトリポリリン酸ナトリウムもまた含める。ここで、引用された研究に記載される結晶形状と本発明の結晶形状は、前者のプリズム針状(0.26×0.18×0.12mm)であり、後者のプリズムは(0.23×0.2×0.18mm)である。それ故に、ここで、新規な抗癌剤である本発明の錯体KB−Ag(I)だけではなく、本発明ではこの配位錯体の新規な調製方法を提供する。
【0074】
表2 表記化合物KB−Ag(I)における結晶構造データと構造リファインメント
【表2】

【0075】
表3 表記化合物KB−Ag(I)における原子配位子(×10)および均等な等方性転位パラメーター(Å2×10
【表3】

U*(eq)は、直交性Uijテンソルのトレースの3分の1として規定する。
【0076】
表4 表記化合物KB−Ag(I)の結合長(Å)および角度(°)
【表4】


等価原子を作成するために使用した対称変換 #1:−x−1、y−1/2、−z;および#2:−x−1、y+1/2、−z
【0077】
表5 表記化合物KB−Ag(I)における異等方性変位パラメーター(Å2×10
【表5】

【0078】
表6 表記化合物KB−Ag(I)における水素配位子(×10)および等方性変位パラメーター(Å2×10
【表6】

【0079】
表7 表記化合物KB−Ag(I)のねじれ角(°)
【表7】

等価原子を作成するために使用した対称変換 #1:−x−1、y−1/2、−z;および#2:−x−1、y+1/2、−z
【0080】
Ag−O結合のいくつかはソフトウェアが通常、結合長および角度を計算する配位圏の外側にあった。銀中心のまわりのこれらの値は、手でもって誘導され、下記表8に示される。これらの結果のいくつかは表4に示されるものと同じである。
【0081】
表8 表記化合物KB−Ag(I)における選択された結合長(Å)および角度(°)
【表8】

【0082】
II.KB−Ag(I)の熱的および熱重量分析
図8は試料重量5.4mgのKB−Ag(I)結晶の温度プログラム速度10℃/分、25〜350℃でのDSC結果を示し、一方、図9は試料重量11.872mgでの温度函数として、TGデータの結果を示す。図8のプロファイルは3つの吸熱バンドと1つの発熱バンドを示す。第1吸熱バンドはピークが107.5℃である100.451〜120℃の間にあり、第2はピークが152.333℃である146.32〜156.506℃の間にあり、最後に、第3はピークが180℃である168.271〜189.848℃の間にあり、一方、発熱バンドはピークが221.666℃である215.583〜233℃の間にある。221.666℃の最終発熱ピークは、図8のDSCプロファイルに見られるように、試料が突然、分解し、広がり、機器の内側に接触する熱的分解に相当する。温度範囲と重量損失%の両者(図8および9)は、高温現象がKB−Ag(I)の分解を暗示し、溶融でないことを示唆する。
【0083】
図8の152.333°の第2吸熱ピークは銀原子に結合した分子状水の脱水に起因する(図6):
【化1】

【0084】
この遅い脱水工程(質量の損失)は図9に見られるように、約130℃で始まり、約150℃まで進行し、重量損失
【化2】

を伴う。180℃の第3吸熱ピークは約3%の重量損失を伴う融解を示し、150°〜195°の間でほぼ生じる(図9)。221.666℃の最終発熱ピークは熱分解に相当する。図9に見られるように、熱分解は約195℃で観察され、これは急速な重量損失%
【化3】

を伴うシャープなプロファイルによって示される。図8のDSCプロファイルに見られるように、試料が分解温度に近づくにつれ、これは突然に分解し、広がり、そして機器の内側に接触する。本データはKB−Ag(I)が約145℃まで安定であり、より高温で分解し、融解と分解が始まることを示唆する。
【0085】
III.KB−Ag(I)の純度
KB−Ag(I)の炭素および水素の純度は、リンドバーグ(Lindberg)C/H元素分析装置を使用して、燃焼/重量分析法によって測定し、一方、銀にはパーキン・エルマー(Perkin-Elmer)PE2100AASを使用する標準原子吸光法を利用した。KB−Ag(I)の炭素および水素の純度を確認するデータは、表9に示される。
【0086】
表9 KB−Ag(I)(C4H7AgO7)の純度を確認する実験データの要約
【表9】

【0087】
このデータは±0.4%内で計算値と一致するから、元素分析は正しく、アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(ACS)スタンダードと一致する。銀において見られた分析値は38.22%であり、一方、計算値は39.23%であり、誤差は±1.01%であった。この値は銀を測定するために使用した原子吸光分析法の実験誤差の範囲内であり、±1.7%であった。
【0088】
追加実験
D−酒石酸、L−リンゴ酸およびL−乳酸などの他の掌性α−有機酸の細胞毒性もまた検討した。実施例1と同じ手法を繰り返したが、グルタミン酸を添加しなかった。添加した各酸の量は溶液中の銀の濃度に対してその分子量に従った;添加した各酸のモル濃度は上記実施例1および2の場合と同じであった。添加した銀の最初の量は全ての実験(run)で同じであり、上記実施例1および2のものと等しい。各濃度および各酸において3回実験を実施し、その結果を平均して報告する。濃度の函数として阻止%の用語で表示されるジャーカット細胞に関する細胞毒性の結果を下記表10に示す。ここで、D−TA、L−MAおよびL−LAは、それぞれ、D−酒石酸、L−リンゴ酸およびL−乳酸を示す。比較のために、KB'−Ag(I)で得られた結果、グルタミン酸を添加しないL−酒石酸(実施例2)も示す。表10のデータを検討すると、D−TA、L−MAおよびL−LAにおける細胞毒性の一般的な傾向はKB'−Ag(I)におけるものと同じであることに注目することは興味深い。すなわち、細胞毒性の3つのフェーズは前述したように存在する。しかしながら、これらのフェーズの範囲は、KB'−Ag(I)またはL−TAおよびD−TAを除いて、検討した各酸において相違する。L−TAはD−TAよりもよい細胞毒性を示すことに注目することは興味深い。平均して、細胞毒性の順位はL−MA>KB'−g(I)またはL−TA>D−TA>L−LAである。
【0089】
表10 KB'−g(I)、D−TA、L−MAおよびL−LAにおける阻止%
【表10】

【0090】
さらなる参考資料
Batarseh, K.I., J. Antimicrob. Chemo., 54, 546(2004)
Bernes-Price, S.J.ら、Coord. Chem. Rev., 185-186, 823(1999)
Bernes-Price, S.J.ら、J. Inorg. Biochem., 33, 285(1988)
Bernes-Price, S.J.ら、Inorg. Chem., 25, 596(1986)
【0091】
本明細書中に記載する全ての刊行物、特許および特許出願明細書は、本特許出願の一部であり、その全体を参考として本明細書中に導入する。
【0092】
出願人は特に、この詳細な説明の中に引用した全参考文献の全内容を導入する。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメーターがある範囲、好ましい範囲または好ましい範囲の上限および加減のリストとして示される場合、これは範囲が別個に記載されているか否かにかかわらず、いかなる上限範囲または好ましい値といかなる下限範囲または好ましい値との組合せから作られる全ての範囲を、特に開示するものと理解されるべきである。ここで数値の範囲が記載される場合、特に断りがない限り、その範囲はその終末点、および範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図する。本発明の範囲は、範囲を規定する場合、記載される範囲に限定されることを意図しない。
【0093】
ここに記載される先の説明、実施例、手法および具体的な特徴は、単に本発明の一般的かつ、ある好ましい態様を提供することを意図する。すなわち、これらに代わって、種々の変更および示唆は当業者によって実行され得る。これらは本明細書の本質的部分であるべきであり、前記説明の文字および精神、および本発明の真の範囲、利点および権限と一致され得る。これは下記特許請求の範囲に示される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、T−47Dにおけるシスプラチン(CIS−Pt)と銀(I)錯体(KB−Ag(I))の阻止%を示す図である。
【図2】図2は、ジャーカットにおけるシスプラチン(CIS−Pt)と銀(I)錯体(KB−Ag(I))の阻止%を示す図である。
【図3】図3A〜3Hは、T−47D中の矢印で示されるインサイチュー・アポトーシス染色を示す顕微鏡写真である。T−47D細胞はシスプラチン(CIS−Pt)と銀(I)錯体(KB−Ag(I))で処理されて、3つの異なった濃度、0.0076、3.906および15.625μg/mLでアポトーシスを誘発した。陽性および陰性コントロールが、メトトレキセート(MTX)を使用して、そして、細胞毒性薬剤(NEG)の存在しない培地中に細胞を保持して使用した。アポトーシスの検出は、Promegaキットに記載されるように培養細胞中のアポトーシスの検出のためのDeadEnd Colorimetric TUNEL(ターミナル・デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ・ニック・エンド標識)分析によって実施した。図中のバーの長さは全て40μmであることを示す。各図と化合物と濃度の関係は以下である。3A:CIS−Pt 15.625μg/mL3B:CIS−Pt 3.906μg/mL3C:CIS−Pt 0.0076μg/mL3D:MTX3E:KB−Ag(I) 15.625μg/mL3F:KB−Ag(I) 3.906μg/mL3G:KB−Ag(I) 0.0076μg/mL3H:NEG
【図4】図4A〜4Hは、ジャーカット中の矢印で示されるインサイチュー・アポトーシス染色を示す顕微鏡写真である。ジャーカットはシスプラチン(CIS−Pt)と銀(I)錯体(KB−Ag(I))で処理されて、3つの異なった濃度、0.0076、3.906および15.625μg/mLでアポトーシスを誘発した。陽性および陰性コントロールが、メトトレキセート(MTX)を使用して、そして、細胞毒性薬剤(NEG)の存在しない培地中に細胞を保持して使用した。アポトーシスの検出は、Promegaキットに記載されるように培養細胞中のアポトーシスの検出のためのDeadEnd Colorimetric TUNEL(ターミナル・デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ・ニック・エンド標識)分析によって実施した。図中のバーの長さは全て20μmであることを示す。各図と化合物と濃度の関係は以下である。4A:CIS−Pt 15.625μg/mL4B:CIS−Pt 3.906μg/mL4C:CIS−Pt 0.0076μg/mL4D:MTX4E:KB−Ag(I) 15.625μg/mL4F:KB−Ag(I) 3.906μg/mL4G:KB−Ag(I) 0.0076μg/mL4H:NEG
【図5】図5は、ジャーカットにおけるグルタミン酸を添加した銀(I)錯体(KB−Ag(I))およびグルタミン酸を添加しない銀(I)錯体(KB'−Ag(I))の阻止%を示す図である。
【図6A】図6Aは、X線結晶学によって決定された錯体KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の分子構造を示す。
【図6B】図6Bは、化学量論的に示された錯体KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の分子構造である。
【図7】図7は、銀の環境と錯体KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)におけるカルボキシルH(O6−H6・・・O2A)のH結合を示す。
【図8】図8は、スキャン温度範囲25〜350℃、加熱速度10℃/分で得られた錯体KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の熱的結果を示すグラフである。
【図9】図9は、スキャン温度範囲25〜600℃、加熱速度20℃/分で得られた錯体KB−Ag(I)またはKB'−Ag(I)の熱重量分析結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的担体中に少なくとも1つの細胞毒性金属および少なくとも1つの掌性α−有機酸の金属配位錯体を含む組成物。
【請求項2】
前記細胞毒性金属が銀、白金、ゲルマニウム、ガリウム、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、またはこれらの混合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記掌性α−有機酸が酒石酸、リンゴ酸、または乳酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記掌性α−有機酸が酒石酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記掌性α−有機酸がL−(+)−酒石酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記掌性α−有機酸が(2R,3R)−(+)−酒石酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
さらに、少なくとも1つのアミノ酸を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記アミノ酸がイソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アルパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、またはこれらの混合物である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
さらに、グルタミン酸を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
さらに、少なくとも1つのDNA挿入剤、少なくとも1つの脈管形成阻止剤、または両者を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記金属配位錯体は、水溶性溶媒中で少なくとも1つの無機酸、少なくとも1つの界面活性剤、少なくとも1つの掌性α−有機酸および少なくとも1つの金属塩を混合して形成される、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記薬学的担体中に銀(I)−掌性α−有機酸配位錯体を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記銀(I)−掌性α−有機酸配位錯体の銀(I)は、コロイド状銀を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記銀(I)−掌性α−有機酸配位錯体の銀(I)は、非コロイド状銀を含む、請求項12記載の組成物。
【請求項15】
前記掌性α−有機酸は、酒石酸、リンゴ酸または乳酸である、請求項12記載の組成物。
【請求項16】
前記掌性α−有機酸がL−(+)−酒石酸または(2R,3R)−(+)−酒石酸である、請求項12記載の組成物。
【請求項17】
前記腫瘍細胞を請求項1記載の組成物と接触させることを含む、腫瘍細胞にアポトーシスを誘発する方法。
【請求項18】
前記方法は、前記腫瘍細胞を請求項12記載の組成物と接触させることを含む、腫瘍細胞のアポトーシスを誘発する方法。
【請求項19】
前記方法は、前記腫瘍細胞を請求項16記載の組成物と接触させることを含む、腫瘍細胞にアポトーシスを誘発する方法。
【請求項20】
前記組成物は、さらにグルタミン酸を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記方法は、有効量の請求項1の組成物を哺乳動物へ投与することを含む、哺乳動物の腫瘍細胞の成長を阻止する方法。
【請求項22】
前記方法は、有効量の請求項12の組成物を哺乳動物へ投与することを含む、哺乳動物の腫瘍細胞の成長を阻止する方法。
【請求項23】
前記方法は、有効量の請求項16の組成物を哺乳動物へ投与することを含む、哺乳動物の腫瘍細胞の成長を阻止する方法。
【請求項24】
有効量の請求項1記載の組成物を被検者に投与することを含む肝炎を治療する方法。
【請求項25】
有効量の請求項12記載の組成物を被検者に投与することを含む肝炎を治療する方法。
【請求項26】
有効量の請求項16記載の組成物を被検者に投与することを含む肝炎を治療する方法。
【請求項27】
下記工程を含む、請求項12記載の銀(I)掌性α−有機酸配位錯体を製造する方法;
(a)少なくとも1つの無機酸を水溶性溶媒に添加して、pH2.0またはそれ以下である溶液を用意し、次いで、
(b)工程(a)後の溶液に、少なくとも1つの界面活性剤を添加し、次いで、
(c)工程(b)後の溶液に、少なくとも1つの掌性α−有機酸を添加し、次いで、
(d)工程(c)後の溶液に、少なくとも1つの銀(I)塩を添加し、その際、掌性α−有機酸と銀(I)塩からの塩(I)が相互作用して、銀(I)掌性α−有機酸錯体を形成する。
【請求項28】
水溶性溶媒中に存在する界面活性剤の量は、存在する銀(I)の量に対して等モル量より大きくなく、かつ、水溶性溶媒中に存在する掌性α−有機酸の量は、存在する銀(I)の量に対して等モル量の4倍より大きくない、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記界面活性剤はトリポリリン酸ナトリウムであり、無機酸はリン酸である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記掌性α−有機酸は酒石酸、リンゴ酸、乳酸またはこれらの混合物である、請求項27記載の方法。
【請求項31】
工程(d)後の組成物に、少なくとも1つのアミノ酸を添加する工程(e)を含む、請求項27記載の方法。
【請求項32】
少なくとも1つのアミノ酸は、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、γ−アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、フェリルアラニン、プロリン、セリン、チロシン、またはこれらの混合物である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
下記工程を含む、請求項1記載の細胞毒性金属掌性α−有機酸配位錯体を製造する方法;
(a)少なくとも1つの無機酸を水溶性溶媒に添加して、pH2.0またはそれ以下である溶液を用意し、次いで、
(b)工程(a)後の溶液に、少なくとも1つの界面活性剤を添加し、次いで、
(c)工程(b)後の溶液に、少なくとも1つの掌性α−有機酸を添加し、次いで、
(d)工程(c)後の溶液に、少なくとも1つの細胞毒性金属を添加し、その際、掌性α−有機酸と細胞毒性金属が相互作用して、細胞毒性金属掌性α−有機酸錯体を形成する。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−526873(P2008−526873A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550477(P2007−550477)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2006/000390
【国際公開番号】WO2006/076216
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(507233110)
【Fターム(参考)】