説明

アミド又はその前駆体の製造法

【課題】 ルイス酸の作用によりカルボカチオンを生成可能な化合物とニトリルからアミドの簡易に製造できる方法を提供する。
【解決手段】 式(1)


[式中、R1、R2、R3は、水素原子又は有機基を示し、Xはルイス酸により脱離してカルボカチオンを生成可能な基を示す。]で表される化合物と、式(2)


[式中、R4は有機基を示す]で表されるニトリルとを、遷移金属を含むルイス酸の存在下で反応させて対応するアミド化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド又はその前駆体の製造法、より詳しくは、ハライド等のルイス酸の作用によりカルボカチオンを生成可能な化合物とニトリルとをルイス酸の存在下で反応させてアミド又はその前駆体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−アルキルアミド化合物は医薬中間体、塗料、有機溶媒、接着剤、粘着剤、膜、吸着剤、フォトレジスト材料やフレキシブル基板の電子材料などの原料として広く用途があり、工業上重要な化合物である。
【0003】
従来、2級ハロゲン化アルキルや3級ハロゲン化アルキル等のハロゲン化アルキルのハロゲン原子が結合している炭素原子にアミド基(アシルアミノ基)を導入することによりN−アルキルアミド化合物を製造する方法として、例えば、1−ブロモアダマンタンをテトラフルオロリン酸ニトロソニウムの存在下、アセトニトリルと反応させて、N−アダマンチルアセトアミドを得る方法(Synthesis, 274-276, 1979; J. Chem. Soc. Perkin Trans. 2, 336-340, 1981)、クロロアダマンタンをテトラフルオロホウ素ニトロソニウムの存在下、アセトニトリルと反応させて、N−アダマンチルアセトアミドを得る方法(J. Org. Chem., 44, 1739-1740, 1979)、tert−ブチルブロマイドをアセトニトリル中、過塩素酸リチウム存在下、電気的に酸化することにより、N−tert−ブチルアセトアミドを得る方法(J. Org. Chem., 42, 3997-4000, 1977)などが知られている。
【0004】
【非特許文献1】Synthesis, 274−276, 1979
【非特許文献2】J. Chem. Soc. Perkin Trans.2, 336−340, 1981
【非特許文献3】J. Org. Chem., 44, 1739−1740, 1979
【非特許文献4】J. Org. Chem., 42, 3997−4000, 1977
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、テトラフルオロリン酸ニトロソニウムやテトラフルオロホウ素ニトロソニウムを用いる方法は収率は高いものの、ニトロソニウム塩が入手容易とは言えず、工業的に実施するには難がある。また、過塩素酸リチウム存在下、電気的に酸化する方法も、特殊な装置が必要であり、工業的製法としては一般的ではない。
【0006】
従って、本発明の目的は、工業的に安価で取り扱いやすい化合物を用いて、ハライド等のルイス酸の作用によりカルボカチオンを生成可能な化合物とニトリルからアミド又はその前駆体を簡易に且つ高い選択的で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ルイス酸の作用によりカルボカチオンを生成可能な化合物とニトリルとを遷移金属を含むルイス酸の存在下で反応させると、いわゆるリッター型反応が進行して対応するアミドの前駆体が生成し、これをクウェンチすることにより該アミドが高い収率で得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

[式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示し、Xはルイス酸により脱離してカルボカチオンを生成可能な基を示す。R1、R2、R3のうち少なくとも2つが互いに結合して、隣接する炭素原子とともに、非芳香族性の環を形成していてもよい]
で表される化合物と、下記式(2)
【化2】

[式中、R4は有機基を示す]
で表されるニトリルとを、遷移金属を含むルイス酸の存在下で反応させて、下記式(3)
【化3】

[式中、R1、R2、R3、R4は前記に同じ]
で表されるアミド又はその前駆体を得ることを特徴とするアミド又はその前駆体の製造法を提供する。
【0009】
式(1)におけるXはハロゲン原子であるのが好ましい。また、式(1)におけるR1、R2、R3のうち少なくとも2つが有機基であるのが好ましい。前記式(2)のR4における有機基としては芳香族環式基が好ましい。前記遷移金属を含むルイス酸としては周期表3族〜12族金属原子とハロゲン原子とで構成される化合物が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取扱いが容易で安価な遷移金属を含むルイス酸を用いて、ハライド等のルイス酸によりカルボカチオンを生成可能な化合物とニトリルから対応するアミド又はその前駆体を簡易に且つ高い選択的及び収率で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[式(1)で表される化合物]
本発明の方法において原料として用いる化合物は前記式(1)で表される。式(1)中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。前記有機基としては、例えば、炭化水素基、複素環式基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換若しくは無置換カルバモイル基、シアノ基、アシル基、これらが複数個結合した基、又はこれらの基にハロゲン原子、オキソ基、ニトロ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基、保護基で保護されていてもよいメルカプト基、置換チオ基、置換若しくは無置換アミノ基等の置換基が1又は2以上結合している基などが挙げられる。
【0012】
前記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが複数結合した基が挙げられる。脂肪族炭化水素基として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、ビニル、アリル、エチニル、1−プロピニル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8)程度の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシル、ノルボルニル、アダマンチル基などの炭素数3〜20(好ましくは3〜15)程度の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、橋架け炭素環式基等)などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14程度の芳香族炭化水素基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基として、例えば、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル基などが挙げられる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基として、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、1−フェニルエチル、3−フェニルプロピル等のアラルキル基;2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基などが挙げられる。
【0013】
前記複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリンなどの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマンなどの縮合環など)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾールなどの5員環、4−オキソ−4H−チオピランなどの6員環、ベンゾチオフェンなどの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾールなどの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジンなどの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリンなどの縮合環など)などが挙げられる。
【0014】
置換オキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基等のC1-10アルコキシ−カルボニル基;ビニルオキシカルボニル基等のC2-10アルケニルオキシカルボニル基;シクロヘキシルオキシカルボニル基等のC3-15シクロアルキルオキシ−カルボニル基;フェニルオキシカルボニル基等のC6-14アリールオキシ−カルボニル基;C7-15ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基などが挙げられる。置換若しくは無置換カルバモイル基としては、例えば、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基などが挙げられる。
【0015】
アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ヘキサノイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アセトアセチル基等のC1-10脂肪族アシル基;シクロヘキサンカルボニル基等のC3-15脂環式アシル基;ベンゾイル基等のC6-14芳香族アシル基;ピリジンカルボニル基等の複素環式アシル基などが挙げられる。ハロゲン原子には、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子が含まれる。置換オキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ基等のC1-6アルコキシ基などのアルコキシ基;シクロヘキシルオキシ基等のシクロアルキルオキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチルオキシ、プロピオニルオキシ基等のアシルオキシ基などが挙げられる。置換チオ基としては、例えば、メチルチオ、エチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基;シクロヘキシルチオ基等のシクロアルキルチオ基;フェニルチオ基等のアリールチオ基;アセチルチオ基等のアシルチオ基などが挙げられる。置換若しくは無置換アミノ基としては、例えば、アミノ基;メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジC1-6アルキルアミノ基など)などが挙げられる。カルボキシル基等の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基を使用できる。
【0016】
1、R2、R3のうち少なくとも2つは、互いに結合して、隣接する炭素原子とともに、非芳香族性の環を形成していてもよい。該非芳香族性の環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロオクタン環、シクロデカン環、シクロドデカン環、デカリン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環、アダマンタン環などの3〜20員(好ましくは3〜15員)程度の非芳香族性炭素環(シクロアルカン環、シクロアルケン環、橋かけ炭素環);ピロリジン環、ピペリジン環、モルホリン環、オキシラン環、オキセタン環、オキソラン環、オキサン環、オキセパン環、チオラン環、チアン環などの窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する非芳香族性複素環が挙げられる。これらの環は、置換基を有していてもよく、また他の環(非芳香族性環又は芳香族性環)が縮合していてもよい。
【0017】
上記の環が有していてもよい置換基としては、例えば、炭化水素基、複素環式基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換若しくは無置換カルバモイル基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子、オキソ基、ニトロ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基、保護基で保護されていてもよいメルカプト基、置換チオ基、置換若しくは無置換アミノ基などが挙げられる。これらの基の例としては、それぞれ前記例示のものが挙げられる。
【0018】
1、R2、R3のうち少なくとも2つが有機基であるのが好ましい。R1としては、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、置換又は無置換アミノ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基などが好ましい。また、R2、R3としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、置換又は無置換アミノ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基などが好ましい。また、R1としては水素原子又は電子供与基(例えば、アルキル基、置換又は無置換アミノ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基等)が好ましく、R2、R3としては電子供与基が好ましい。R1、R2、R3のうち少なくとも2つが、互いに結合して、隣接する炭素原子とともに、非芳香族性の環を形成するのも好ましい。
【0019】
式(1)中、Xはルイス酸の作用により脱離して、該Xが結合していた炭素原子部位にカルボカチオンを生成可能な基であれば特に限定されず、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシル基、−ONO2、ヒドリド(H)などが挙げられる。Xとしては、特にハロゲン原子が好ましい。式(1)で表される化合物としては、第2級又は第3級ハライドが好ましい。
【0020】
式(1)で表される化合物の好ましい例として、下記式(1a)又は(1b)
【化4】

[式中、R1a、R2a、R3aは、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示し、Xはルイス酸により脱離してカルボカチオンを生成可能な基を示す。式(1a)において、R1a、R2a、R3aのうち少なくとも2つが互いに結合して、隣接する炭素−炭素結合とともに、非芳香族性の環を形成していてもよい。また、式(1b)において、R2a、R3aが互いに結合して、隣接する炭素−炭素結合とともに、非芳香族性の環を形成していてもよい]
で表される化合物が挙げられる。
【0021】
1a、R2a、R3aにおける有機基、Xにおけるルイス酸により脱離してカルボカチオンを生成可能な基、非芳香族性の環としては、それぞれ、前記と同様のものが挙げられる。R1a、R2a、R3aとしては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、置換又は無置換アミノ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基などが好ましく、特に電子供与基であるのが好ましい。
【0022】
式(1)で表される化合物の代表的な例として、例えば、1−ブロモブタン、1−ブロモヘキサン、1−ブロモオクタン、ベンジルブロマイド、これらに対応するフッ化物、塩化物、ヨウ化物などの第1級ハライド;sec−ブチルブロマイド、1−ブロモシクロペンタン、1−ブロモシクロヘキサン、2−ブロモノルボルナン、2−ブロモアダマンタン、これらに対応するフッ化物、塩化物、ヨウ化物などの第2級ハライド;tert−ブチルブロマイド、1−ブロモノルボルナン、1−ブロモアダマンタン、3,3′−ジブロモ−1,1′−ビアダマンタン、これらに対応するフッ化物、塩化物、ヨウ化物などの第3級ハライドが挙げられる。
【0023】
[ニトリル]
本発明の方法においてもう一方の原料として用いるニトリルは前記式(2)で表される。式(2)中、R4における有機基としては、前記R1、R2、R3における有機基と同様の基が挙げられる。R4としては、特に、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環式基が好ましい。該置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、置換オキシ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、置換オキシカルボニル基、置換又は無置換アミノ基、オキソ基、ニトロ基などが挙げられる。該炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基(アリール基)、これらが複数個結合した基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、C1-6アルキル基等のアルキル基、C2-6アルケニル基等のアルケニル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの3〜15員程度のシクロアルキル基又は橋架け炭素環式基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などのC6-14アリール基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基が結合した基として、ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基(C7-17アラルキル基等);トルイル基などのアルキル置換フェニル基などが挙げられる。置換基を有する炭化水素基として、例えば、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、トリフルオロメチル基、2−ブロモフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基などのハロゲン原子を有する炭化水素基(C1-6ハロアルキル基、C6-14ハロアリール基等);3−メトキシプロピル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基などの置換オキシ基(アルコキシ基等)を有する炭化水素基などが挙げられる。前記複素環式基としては、フリル基、チエニル基、ピリジル基などの、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群より選択された少なくとも1種のヘテロ原子を1〜3個程度有する芳香族性又は非芳香族性の複素環式基が挙げられる。R4としては、特に芳香族環式基(芳香族炭化水素基、芳香族性複素環式基)が好ましい。
【0024】
式(2)で表されるニトリルの代表的な例として、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、カプロニトリル、カプリロニトリル、カプリニトリル、ラウロニトリル、ステアロニトリル、アクリロニトリル、ビニルアセトニトリル、クロトンニトリル、クロロアセトニトリル、2−クロロプロピオニトリル、マロンニトリル、スクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリルなどの脂肪族ニトリル;シクロヘキシルカルボニトリル、1−シアノアダマンタンなどの脂環式ニトリル;ベンゾニトリル、トルニトリル、2−クロロベンゾニトリル、フェニルアセトニトリル、2−ブロモフェニルアセトニトリル、3−ブロモフェニルアセトニトリル、4−ブロモフェニルアセトニトリル、桂皮酸ニトリル、ナフトニトリルなどの芳香族ニトリル;2−シアノピリジン、3−シアノピリジン、4−シアノピリジンなどの複素環式ニトリルなどが挙げられる。
【0025】
[遷移金属を含むルイス酸]
本発明では、ルイス酸として、遷移金属を含むルイス酸を用いる。従来、この種の反応(リッター型反応)では、強いルイス酸が良いとされていたが、本発明者の検討の結果、比較的弱いルイス酸であっても遷移金属を含むルイス酸であれば良好な結果を与えることが判明した。
【0026】
本発明の方法で用いる遷移金属を含むルイス酸における遷移金属には、周期表3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族の金属が含まれる。これらなかでも8族の金属が特に好ましい。遷移金属を含むルイス酸としては、ルイス酸性を示す化合物であれば特に限定されないが、その代表的な例として、遷移金属とハロゲン原子とで構成される化合物、例えば遷移金属ハライド等が挙げられる。
【0027】
遷移金属を含むルイス酸の代表的な例として、例えば、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、フッ化鉄(III)、塩化鉄(II)などの鉄化合物(ハロゲン化鉄等);臭化ルテニウム(III)、塩化ルテニウム(III)などのルテニウム化合物(ハロゲン化ルテニウム等);塩化オスミウム(III)などのオスミウム化合物(ハロゲン化オスミウム等);塩化コバルト(III)、塩化コバルト(II)などのコバルト化合物(ハロゲン化コバルト等);塩化ロジウム(III)などのロジウム化合物(ハロゲン化ロジウム等);塩化イリジウム(III)、塩化イリジウム(IV)などのイリジウム化合物(ハロゲン化イリジウム等);臭化ニッケル(II)などのニッケル化合物(ハロゲン化ニッケル等);塩化パラジウム(II)などのパラジウム化合物(ハロゲン化パラジウム等);塩化白金(II)、塩化白金(IV)などの白金化合物(ハロゲン化白金等);塩化銅(II)などの銅化合物(ハロゲン化銅等);塩化亜鉛(II)などの亜鉛化合物(ハロゲン化亜鉛等);塩化マンガン(II)、塩化マンガン(III)などのマンガン化合物(ハロゲン化マンガン等);塩化クロム(III)などのクロム化合物(ハロゲン化クロム等);塩化モリブデン(III)、塩化モリブデン(V)などのモリブデン化合物(ハロゲン化モリブデン等);塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)などのバナジウム化合物(ハロゲン化バナジウム等);塩化タンタル(V)などのタンタル化合物(ハロゲン化タンタル等);塩化タングステン(IV)、塩化タングステン(VI)などのタングステン化合物(ハロゲン化タングステン等);塩化ジルコニウム(IV)などのジルコニウム化合物(ハロゲン化ジルコニウム等);塩化チタニウム(IV)などのチタン化合物(ハロゲン化チタニウム等);塩化スカンジウム(III)などのスカンジウム化合物(ハロゲン化スカンジウム等)などが挙げられる。
【0028】
これらのなかでも、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、フッ化鉄(III)、塩化鉄(II)、臭化ルテニウム(III)、塩化ルテニウム(III)、塩化オスミウム(III)などの周期表8族金属化合物(周期表8族金属とハロゲン原子とで構成された化合物等)が好ましく、特に、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、フッ化鉄(III)などの鉄化合物(とりわけ、ハロゲン化鉄(III)などのハロゲン化鉄)が好ましい。遷移金属を含むルイス酸は無水物、水和物の何れであってもよいが、反応性(活性)の点で無水物の方がより好ましい。
【0029】
[反応]
本発明において、式(1)で表される化合物と式(2)で表されるニトリルとの反応は溶媒の存在下又は非存在下の何れで行うことも可能である。溶媒としては、反応を阻害しないものであればよいが、反応後の後処理において水でクウェンチした後、目的化合物であるニトリルを抽出できる点で、水と分液可能な有機溶媒が好ましい。また、特に、式(2)で表されるニトリルを溶媒として用いるのが好ましい。
【0030】
反応溶媒として用いる有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;ジメチルカーボネート等の炭酸エステル類などが挙げられる。これらのなかでも、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などが好ましい。反応溶媒の使用量は、式(1)で表されるハライドに対して、例えば0.1〜1000質量倍、好ましくは2〜100質量倍である。
【0031】
式(2)で表されるニトリルの使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対して、例えば1〜1000モル、好ましくは5〜100モル程度である。また、遷移金属を含むルイス酸の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対して、例えば0.5〜100モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0032】
反応温度は、反応成分の種類等に応じて適宜選択できるが、通常−50℃〜150℃、好ましくは−10℃〜50℃の範囲である。反応時間も反応速度に応じて適宜選択でき、一般に0.5〜600分、好ましくは5〜200分である。反応は、減圧、常圧、加圧下の何れの条件で行ってもよい。
【0033】
反応により、式(1)で表される化合物及び式(2)で表されるニトリルに対応する式(3)で表されるアミドの前駆体が生成する。この前駆体は、例えば水でクウェンチすることにより、式(3)で表されるアミドに変換される。クウェンチに使用する水の量は、例えば式(1)で表される化合物1モルに対して、1〜10000モル、好ましくは50〜1000モル程度である。クウェンチ時の温度は、通常5〜95℃、好ましくは10〜40℃である。クウェンチ時の撹拌時間は、例えば1〜60分程度である。有機層と水層とが懸濁状態となるように撹拌するのが好ましい。
【0034】
このようにして得られた式(3)で表されるアミドの単離精製法としては、特に制限はなく一般に用いられる方法が採用される。例えば、液性調整、濃縮、濾過、洗浄等の精製手段を用いる。反応副生物が多い場合は、例えば、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製手段が採られる。また、目的化合物によっては、蒸留、昇華により精製することもできる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0036】
実施例1
1−ブロモアダマンタン0.5g、無水塩化第二鉄0.5g、ベンゾニトリル20gを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、25℃で1時間反応させた後、水5mlを加え、10分撹拌した。ベンゾニトリルを減圧下で留去した後、残渣を酢酸エチルとヘキサンの混合液(重量比1:1)から晶析し乾燥させたところ、N−(1−アダマンチル)ベンズアミドが0.38g(収率65%)得られた。
【0037】
実施例2
3,3′−ジブロモ−1,1′−ビアダマンタン10g、無水塩化第二鉄5g、ベンゾニトリル200gを300mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、25℃で1時間反応させた後、水50mlを加え、10分撹拌し、分液させた。上層を300mlの三角フラスコに移した。その溶液に無水硫酸マグネシウム10gを添加し脱水を行った後、濾過した。濾液を300mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、無水塩化第二鉄5gを再度添加し、25℃で1時間反応させた。水50mlを添加すると白色固体が析出した。この固体を濾過し、アセトンで洗浄し、乾燥させたところ、3,3′−ベンズアミド−1,1′−ビアダマンタンが7.12g(収率60%)得られた。
【0038】
実施例3
tert−ブチルブロマイド0.2g、無水塩化第二鉄0.5g、ベンゾニトリル20gを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、25℃で1時間反応させた後、水5mlを加え、10分撹拌した。ベンゾニトリルを減圧下で留去した後、100mmHg(=13.3kPa)の減圧下、蒸留精製することにより、N−(tert−ブチル)ベンズアミドを0.11g(収率43%)得た。
【0039】
実施例4
sec−ブチルブロマイド0.2g、無水塩化第二鉄0.5g、ベンゾニトリル20gを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、25℃で1時間反応させた後、水5mlを加え、10分撹拌した。ベンゾニトリルを減圧下で留去した後、100mmHgの減圧下、蒸留精製することにより、N−(sec−ブチル)ベンズアミドを0.08g(収率30%)得た。
【0040】
比較例1
1−ブロモアダマンタン0.5g、無水塩化アルミニウム0.5g、ベンゾニトリル20gを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、25℃で1時間反応させたが、N−(1−アダマンチル)ベンズアミドは全く生成しなかった。
【0041】
比較例2
1−ブロモアダマンタン0.5g、無水塩化アルミニウム0.5g、ベンゾニトリル20gを100mlの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、60℃で1時間反応させたが、N−(1−アダマンチル)ベンズアミドは全く生成しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示し、Xはルイス酸により脱離してカルボカチオンを生成可能な基を示す。R1、R2、R3のうち少なくとも2つが互いに結合して、隣接する炭素原子とともに、非芳香族性の環を形成していてもよい]
で表される化合物と、下記式(2)
【化2】

[式中、R4は有機基を示す]
で表されるニトリルとを、遷移金属を含むルイス酸の存在下で反応させて、下記式(3)
【化3】

[式中、R1、R2、R3、R4は前記に同じ]
で表されるアミド又はその前駆体を得ることを特徴とするアミド又はその前駆体の製造法。
【請求項2】
式(1)におけるXがハロゲン原子である請求項1記載のアミド又はその前駆体の製造法。
【請求項3】
式(1)におけるR1、R2、R3のうち少なくとも2つが有機基である請求項1記載のアミド又はその前駆体の製造法。
【請求項4】
式(2)のR4における有機基が芳香族環式基である請求項1記載のアミド又はその前駆体の製造法。
【請求項5】
遷移金属を含むルイス酸が周期表3族〜12族金属原子とハロゲン原子とで構成される化合物である請求項1記載のアミド又はその前駆体の製造法。

【公開番号】特開2006−306798(P2006−306798A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132633(P2005−132633)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】