説明

アミド結合を持つオキセタン化合物およびその重合体

【課題】特殊な溶媒を必要としない低温の製造条件でも、ラセミ化が生じることなく、高次構造を有する高分子量のポリアミノ酸を与える化合物を提供する。
【解決手段】一般式(I)
【化1】


[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示す。]
で表わされるモノオキセタンジカルボン酸化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミド結合を持つオキセタン化合物およびその重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構成要素であるアミノ酸は、食品関係、飼料、および医薬品などに広く利用されており、我々の生活に密接に関係している。アミノ酸の特徴に着目した機能性材料の応用は積極的に進められており、中でもアミノ酸を原料としたポリアミノ酸に関する研究はタンパク質のモデルとして重要な役割として過去50年以上にわたって行われており、α−へリックス、βコイル、ランダムコイルをもった構造上の特徴があること、耐有機溶媒性、耐熱性、耐候性が良好であるという特徴があることが分かっている。ポリアミノ酸が研究されている分野は人工臓器、医薬、動物性合成繊維、界面活性剤、樹脂など多岐にわたっている。利用されている用途として、医療、食品、衣料、化粧品などの幅広い分野である。また、光学活性材料や生分解性材料、生体適合性材料などの機能性材料としての応用は特に注目を集めている。
【0003】
現在、高分子量のポリアミノ酸を合成する方法として、N-カルボキシ−α−アミノ酸無水物(α−アミノ酸NCA)を用いたNCA法が一般的である。この方法は、α−アミノ酸にホスゲンを直接反応させ、そこで得られたα−アミノ酸NCAのアニオン開環重合によってポリアミノ酸を合成する方法である。この方法は、モノマーは純粋な状態で容易に得られ、高分子量のポリアミノ酸が得られるという利点がある。そのため、特にポリグルタミン酸-γ-メチル (PMG)の合成において、NCA法は工業的に利用されている。しかし、NCAの合成の際に用いるホスゲンは毒性が非常に高いにもかかわらず、その使用は避けられないという問題点がある。他にも、アミノ酸類の種類によってはNCA類の合成が困難である点、さらにはNCAの安定性が低い点など多くの問題点が残されている。
【0004】
四員環エーテルであるオキセタン類はカチオン重合が進行しやすく、また開環プロセスによってポリエーテルを得られる事が知られている。カチオン重合は、使用する開始剤や溶媒の種類によって反応速度や得られるポリマーの構造を規制することが比較的容易であるという興味深い特徴を有している。
【0005】
特開2007-210946号公報は、同一分子内にオキセタニル基と、アミド結合と、カルボキシル基とを有する重合性化合物を開示している。
しかし、開示されている分子は重合時にラセミ化が起こってしまい、モノマーの光学活性を維持できなかった。よって、アミノ酸の光学活性を維持したまま重合出来るモノマー、及び、その重合体の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-210946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、特殊な溶媒を必要としない低温の製造条件でも、ラセミ化が生じることなく、高次構造を有する高分子量のポリアミノ酸を得ることを目的とする。
本発明の他の目的は、易生分解性ポストポリアミノ酸の合成を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
一般式(I)
【化1】

[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示す。]
で表わされるモノオキセタンジカルボン酸化合物を提供する。
【0009】
加えて、本発明は、
一般式(II)
【化2】

[式中、Rは前記と同意義を示す。]
で表わされる繰り返し単位を含むことを特徴とするオキセタン重合体を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、
一般式(III)
【化3】

[式中、Rは、前記と同意義を示し、Rは、Rと同一又は異なっても良く、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示し、Rは、アミノ酸の側鎖を示す。]
で表わされる繰り返し単位を含むことを特徴とするハイパーブランチポリマーを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特殊な溶媒を必要としない低温の製造条件でも、ラセミ化が生じることなく、高次構造を有する高分子量のポリアミノ酸が得られる。
さらに、その得られるポリアミノ酸は、生物により容易に加水分解できる重合物である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
モノオキセタンジカルボン酸化合物は、

[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示す。]
で表わされる。
の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基およびi-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基およびter-ブチル基)である。
【0013】
モノオキセタンジカルボン酸化合物の具体例において、Rは次のとおりである。
:水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル、n-ブチル基、sec-ブチル基またはter-ブチル基。
【0014】
モノオキセタンジカルボン酸化合物は、下記の反応(1)および反応(2)を行うことによって製造できる。
(1)グルタミン酸の2つの末端ヒドロキシル基を保護したグルタミン酸エステル塩酸塩(例えば、グルタミン酸ジメチル塩酸塩)に、オキセタンカルボン酸(例えば、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO))を反応させる反応(縮合反応)、および
(2)縮合反応生成物におけるグルタミン酸エステル残基において2つの末端ヒドロキシル基を形成する反応(脱保護反応)。
【0015】
縮合反応(1)および脱保護反応(2)について以下に説明する。
(1)縮合反応
縮合反応は、次のような反応式である。この反応式は、グルタミン酸ジメチル塩酸塩と3-カルボキシ-3-エチルオキセタンとの反応である。
【0016】

式中、の付いた炭素原子は、立体配置(S)を有する。
【0017】
グルタミン酸エステルは、グルタミン酸の炭化水素エステルであることが好ましい。炭化水素(例えば炭素数1〜30)の例は、脂肪族炭化水素基(特に、アルキル基)、芳香族炭化水素基(例えば、アリール基)、芳香脂肪族基(例えば、アリールアルキル基)である。グルタミン酸は、L体、D体、又はこれらの任意の割合の混合体であってよく、L体、D体又はDL体を好ましく使用でき、より好ましくはL体である。
【0018】
一般式(I)が、一般式(V)


[式中、Rは前記と同意義を示し、*はL体を示す。]
で表される光学活性化合物であることが好ましい。式中、の付いた炭素原子は、立体配置(S)を有する。
【0019】
オキセタンカルボン酸は、R基を有する化合物であり、下記式の化合物である。



[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示す。]
の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基およびi-プロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基およびter-ブチル基)である。
オキセタンカルボン酸の具体例は、3-カルボキシオキセタン、3-カルボキシ-3-メチルオキセタン、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン、3-カルボキシ-3-プロピルオキセタン、3-カルボキシ-3-ブチルオキセタンである。
【0020】
縮合反応において、グルタミン酸エステル塩酸塩とオキセタンカルボン酸との仕込みモル比は、1:10〜10:1、例えば1:2〜2:1であることが好ましい。
【0021】
カルボン酸とアミンとの縮合剤として、公知のペプチド縮合剤を用いることが好ましい。縮合剤としては、カルボジイミド系縮合剤やホスフィネート系縮合剤が例示でき、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)や1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(塩酸塩)(EDC)が好ましい。また、カルボジイミド系縮合剤を用いる場合、反応性の向上やラセミ化を防止するため、添加剤としてHOBt(1-Hydroxybenzotriazole)、HOOBt(3,4-Dihydro-3-hydroxy-4-oxo-1,2,3-benzotriazine)、又はHOAt(7-Aza-1-hydroxy-1,2,3-benzotriazole)等を併用することも好ましい。縮合剤の使用量は、オキセタンカルボン酸1モルに対して、0.1〜10モル、例えば0.5〜5モルであってよい。
縮合反応には、塩基を用いてもよい。塩基の例は、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのアルキルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンなどの芳香族アミンである。塩基の使用量は、オキセタンカルボン酸1モルに対して、0.1〜10モル、例えば0.5〜5モルであってよい。
【0022】
反応において、溶媒を使用しなくてもよいが、一般に溶媒(特に、有機溶媒)を使用する。溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、含窒素炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、ニトリル、アミド等が挙げられる。
【0023】
溶媒の例は次のとおりである。溶媒の炭素数は、1〜30であってよい。
脂肪族炭化水素:例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの鎖状脂肪族炭化水素、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素。
芳香族炭化水素:例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン。
ハロゲン化炭化水素:例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン。
含窒素炭化水素:例えば、ニトロメタン、ニトロベンゼン。
エーテル:例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、テトラヒドロピラン。
ケトン:例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン。
エステル:例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル。
ニトリル:例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル。
アミド:例えば、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホンアミド、ジエチルスルホンアミド。
溶媒の量は、グルタミン酸エステル塩酸塩1重量部に対して0.5〜100重量部であってよい。
縮合反応において、反応温度は−20〜100℃、例えば0〜80℃、反応時間は1分〜48時間、例えば5分〜24時間であってよい。
【0024】
(2)脱保護反応
縮合反応生成物のグルタミン酸エステル残基において、保護基を脱離させ、2つの末端ヒドロキシル基を形成する。脱保護反応は、加水分解であることが好ましい。塩基を存在させることが好ましい。塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩等が例示できる。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
脱保護反応において、溶媒を用いることが好ましい。溶媒は、原料および反応生成物に対して不活性な化合物である。溶媒の具体例としては、水、前記の縮合反応(1)で用いる溶剤(例えば、塩化メチレン)などを挙げることができる。溶剤の量は、縮合反応生成物1重量部に対して0.5〜100重量部であってよい。
【0025】
モノオキセタンジカルボン酸化合物は、重合体を与える重合可能なモノマーとして機能できる。モノオキセタンジカルボン酸化合物の単独重合を行っても、あるいは2種以上のモノマーの共重合を行ってもよい。共重合体は、2種以上のモノオキセタンジカルボン酸化合物の共重合体であってもよいし、あるいはモノオキセタンジカルボン酸化合物と他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーの例は、他のオキセタン化合物、例えば、本発明のモノオキセタンジカルボン酸化合物(すなわち、モノオキセタングルタミン酸化合物)以外の他のモノオキセタンジカルボン酸化合物、具体的には、グルタミン酸以外の他のアミノ酸を含有する以外は本発明のモノオキセタンジカルボン酸化合物と同様の化合物である。他のアミノ酸は、α−アミノ酸であっても、β−以上のアミノ酸であってもよい。他のアミノ酸の具体例には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン又はフェニルアラニンが挙げられる。
モノオキセタンジカルボン酸化合物と他のモノマーの重量比は、1:99〜99:1、例えば1:9〜9:1であってよい。
【0026】
本発明の重合体は、一般に、ハイパーブランチポリマー(HBP)である。
単独重合体は、一般に、次式の化合物である。

[式中、Rは前記と同意義を示す。]
【0027】
共重合体の例は、次のとおりである。



[式中、Rは、前記と同意義を示し、Rは、Rと同一又は異なっても良く、水素原子、又は、C−Cのアルキル基を示し、Rは、アミノ酸の側鎖を示す。]
【0028】
の例は、水素原子、炭素数1〜30の非置換または置換の炭化水素基、炭素数1〜30のヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子および/または窒素原子)を有する炭化水素基である。なお、R基と、R基の隣の窒素原子とは、環(例えば、五員環または六員環)を形成していてもよい。
【0029】
は、好ましくはアミノ酸の側鎖であり、具体的には、水素原子、メチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、スルファニルメチル基、2−メチルスルファニルエチル基、ベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基、(1H−インドール−3−イル)メチル基、(1H−イミダゾール−4−イル)メチル基、4−アミノブチル基、アミノカルボニルメチル基、2−アミノカルボニルエチル基、カルボキシメチル基、2−カルボニルエチル基、3−グアニジルプロピル基であり、また、隣の窒素原子と一緒になってピロリジニル基を形成してもよい。
【0030】
の置換基において、1個以上の不斉中心を有する場合、光学異性体(エナンチオマー、および、ジアステレオマーを含む)が存在し得、これら異性体およびそれらの混合物は、式(III)のような単一の式で記載される。本発明は、これらの各異性体および任意の割合のそれらの混合物(ラセミ体を含む)を包含する。
【0031】
式(III)の重合体は、式(V)で表される化合物と、下記式(IV)
【0032】
【化4】

[式中、R、Rは前記と同意義を示し、*は不斉炭素を示す。]
で表される化合物を共重合させることで得られる。式中、の付いた炭素原子の立体配置は、(S)、(R)のどちらでもよいが、(S)が望ましい。
【0033】
式(IV)で表される化合物は、特許文献1に記載の方法で合成することができる。
出発原料となる化合物が、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等の目的の反応を阻害する基を有する場合、必要に応じて適宜、それらの基への保護基の導入および導入した保護基の除去を行なってもよい。そのような保護基は、通常用いられる保護基であれば特に限定はなく、例えば、T. W. Greene, P. G. Wuts, Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis. Fourth Edition, 2007, John Wiley & Sons, Inc.等に記載された保護基であり得る。それらの保護基の導入反応、および、当該保護基の除去反応は、有機化学の分野で周知の方法(例えば、上記文献に記載された方法)にしたがって行うことができる。
【0034】
本発明における重合では、一般に、オニウム塩(四級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩等)を触媒として使用できる。また、カチオン重合触媒も使用できる。カチオン重合触媒は、例えば光あるいは熱により活性化されて酸成分を生成し単量体中の開環重合性基のカチオン開環重合を誘発する触媒(例えば、プロトン酸、ルイス酸等)である。
【0035】
重合触媒の具体例は、テトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB)、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素エーテル錯体、テトライソプロピルチタン等である。
重合触媒の使用量は、基質(すなわち、重合性化合物)1molに対して0.01〜20mol%、好ましくは0.1〜10mol%である。
【0036】
重合においては、溶媒(重合溶媒)を使用してもよい。
重合溶媒の例は次のとおりである。重合溶媒の炭素数は、1〜30であってよい。
炭化水素(例えば、芳香族炭化水素):例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン。
ハロゲン化炭化水素:例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン。
含窒素炭化水素:例えば、ニトロメタン。
エーテル:例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、テトラヒドロピラン。
ケトン:例えば、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン、シクロヘキサノンまたはシクロペンタノン。
エステル:例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル。
重合溶媒の使用量は、基質(すなわち、重合性化合物)に対して0.01〜100L、好ましくは0.1〜10Lであってよい。
カチオン重合は、反応温度−30〜150℃、好ましくは20〜100℃で、反応時間1〜100時間、好ましくは10〜72時間行ってよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
(1)N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-(L)-グルタミン酸-α-γ-ジメチルエステル(N-Oxe-(L)-Glu (Me))の合成:
100 mlナスフラスコに、塩化メチレン20 ml、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)塩酸塩3.83 g (20 mmol)を加え0 ℃で1 h攪拌した。その後、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン(CEO) 2.6 g (20 mmol)、L-グルタミン酸ジメチル塩酸塩4.23 g (20 mmol)、トリエチルアミン(NEt3)2.23 mlを加え、室温中12h反応させた。反応液を1N HCl 、重曹水、NaClaqで洗浄し、減圧留去させ淡黄色の粘性液体(N-Oxe-(L)-Glu (Me))が得られた。
粗収量:4.01 g(70 %)(若干の塩化メチレン含)
融点:140 ℃(by DSC)
【0039】
IR(KRS, cm-1):3308 (νNH)
2959, 2880 (νCH,CH2)
1741 (νC=O ester)
1653 (νC=O amide)
983 (νC-O-C cyclic )
【0040】



1H NMR(600MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):8.40 (d, 1.0 H, Hg)
4.73,4.34 (ABq, Jab =6.6 Hz, 4.0H, He)
4.35〜4.38 (m, 1.0H, Hd)
3.65,3.69 (s,s 6.0 H, Hf,f')
2.40 (q, Jab= 7.2 Hz, 2.0 H, Hc )
1.95 (t, Jab = 7.2 Hz, 4.2H, Hb,b' )
0.77 (t, Jab =6.6 Hz, 3.0 H, Ha)
【0041】



13C NMR(150MHz, DMSO-d6, TMS)
δ(ppm):173.91(Cd) , 172.60(Cf'), 172.18(Cf),
77.20(Cc), 51.92(Ch), 51.41(Ci'), 51.18 (Ci),
49.05 (Ce), 29.78(Cg'), 25.68(Cg), 29.31 (Cb) ,
8.34 (Ca)
【0042】
(2)N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-グルタミン酸(N-Oxe-Glu)
の合成:
50 mlナスフラスコにN-Oxe-Glu(Me) 1.15 g (4 mmol)、6M KOHaq 12.6 ml加え室温中で6h反応させた。濃塩酸を加え酸性とした後に酢酸エチルを用いて抽出操作を10回行い減圧留去させ無色の固体(N-Oxe-Glu)が得られた。
収量:0.74 g(71 %)
【0043】
IR(KRS, cm-1):3305 (νNH,OH)
2969, 2888 (νCH,CH2)
1724 (νC=O ester)
1649 (νC=O amide )
982 (νC-O-C cyclic)
【0044】



1H NMR(600MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):12.4 (s, 1.8 H, Hf,f')
8.09 (d, Jab =8.3 Hz, 1.0 H, Hg)
4.28〜4.31(m, 0.9H, Hd)
4.74,4.33 (d,m, Jab =6.2 Hz, 4.0H, He)
2.40 (q, Jab= 7.2 Hz, 1.9 H, Hc )
1.81〜1.94 (m, 4.32H, Hb',b)
0.85 (t, Jab =6.7 Hz, 3.0 H, Ha )
【0045】



13C NMR(150MHz, DMSO-d6, TMS)
δ(ppm):173.85(Cd), 173.82(Cf'), 172.44(Cf),
77.34(Cc), 51.22 (Ch), 49.13 (Ce),
30.27(Cg'), 25.98 (Cg), 29.42 (Cb), 8.52 (Ca)
【0046】
合成例1
(1)N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-(L)-アラニン-メチルエステル(N -oxe-(L)-Ala(Me))の合成:
300 mlのナスフラスコにCEO 6.51 g(50 mmol)、塩化メチレン50 mml、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)塩酸塩10.54 gを加え0 ℃にて2 h攪拌した。その後0 ℃中,NEt7.62 ml(55 mmol)を滴下し中和させた。L-アラニンメチルエステル塩酸塩7.68 g(55 mmol)を加え室温で6 h以上攪拌させた。反応液を1 N HClaq、重曹水、NaClaqで洗浄し、減圧留去させ、淡黄色の粘性液体(N -oxe-(L)-Ala(Me))が得られた。
粗収量:6.29 g (59 %)(若干の塩化メチレン含)
【0047】
IR(KRS, cm-1):3306 (νNH)
2965, 2880 (νCH,CH2)
1746 (νC=O ester)
1650 (νC=O amide)
982 (νC-O-C cyclic )
【0048】



1H NMR(600MHz, DMSO-d6, TMS)
δ(ppm):8.20 (s, 0.9H, He)
4.31(m, 0.9 H, Hb )
4.27, 4.67 (ABq, Jab =6.0 Hz, Jab =7.5 Hz, 4.0H, ,Hd)
3.63 (s, 2.8 H, Ha)
1.95 (q, Jab= 6.6 Hz, 2.0 H, Hf )
1.30(d, Jab = 7.2 Hz, 3.4H, Hc )
0.79 (t, Jab = 7.8 Hz, 3.0 H, Hg)
【0049】



13C NMR(150MHz, DMSO-d6,vTMS)
δ(ppm):8.36(Ch), 16.66(Cg), 29.30(Cf),
47.61(Ce), 48.89(Cd), 51.78(Ci), 77.19(Cc), 77.23(Cc) , 173.01(Cb) , 173.48(Ca)
【0050】
(2) N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-アラニン(N-oxe-Ala)の合成:
50mlのナスフラスコに.L-メチル2-(3-エチルオキセタン-3-カルボキシアミド)プロパノエイト(N- oxe(L)-Ala(Me))2.50 g(11.64 mmol)、6M KOHaq 12.6 ml加え、12 h攪拌した。濃塩酸を0 ℃中で加え酸性とした後に酢酸エチルを用いて抽出操作を10回行い減圧溜去させ無色の固体(N-oxe-Ala)を得た。
収量:2.34 g (88 %)
融点:145.7 ℃ (by DSC)
【0051】
IR(KRS, cm-1):3445 (νOH)
3309 (νNH)
2965, 2885 (νCH,CH2)
1752 (νC=O ester)
1639 (νC=O amide )
982 (νC-O-C cyclic)
【0052】


1H NMR(600MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):12.5 (s, 0.6H, Ha)
8.06 (s, 0.8H, He)
4.21〜4.27 (m, 2.5H, Hd,)
4.67 (t, Jab = 7.0 Hz, 1.8H, Hb)
1.94 (q, Jab= 3.5 Hz, 2.0 H, Hf )
1.28 (d, Jab = 6.5 Hz, 2.8H, Hc )
0.78 (t, Jab =8.0Hz, 3.0 H, Hg)
【0053】



13C NMR(150MHz, DMSO-d6, TMS)
δ(ppm):8.49(Ch), 16.93(Cg), 29.40(Cf),
47.56(Ce), 48.96(Cd), 77.28(C),77.34(C), 173.50(Cb), 174.23(Ca)
【0054】
実施例2
N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-グルタミン酸(N-Oxe-Glu)の単独重合反応(ハイパーブランチポリマー(HBP)の製造):
アンプル管にテトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB) 0.084 g (10 mol %), N-Oxe-Glu 0.518 g ( 2.0 mmol)、o-ジクロロベンゼン 2 mL量り取り、凍結・脱気, Ar置換を行った。アンプル管を封管し130 ℃で1.5 h攪拌した後、良溶媒をメタノール、貧溶媒をエーテルとして再沈殿操作をおこない白色固体が得られた。得られた白色個体をろ過し減圧乾燥させた後、良溶媒をメタノール、貧溶媒を1 N HCl aqとして再沈殿、および水を貧溶媒として用いた再沈殿を行うことにより、粘性液体を得た。得られた粘性液体に少量のメタノールを加え溶解させ、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。乾燥剤をろ別後、溶媒を減圧留去し無色の白色固体が得られた。
粗収量:0.440 g (85 %)(残存TPPB含)
Mn: 2875
Mw/Mn: 2.3
Td5%=163 ℃, Td10%=230 ℃
【0055】
IR (KRS cm-1)3367 (νNH,OH)
2970 (νCH,CH2)
1728 (νC=O ester)
1644 (νC=O amide)
983(νC-O-C oxetane)
【0056】



1H NMR (600MHz、DMSO-d6、TMS)
δ( ppm ):7.95〜8.14 (m, 1.0 H, H)
4.67 (s, 0.6H, H)
4.16〜4.31(m, 3.1H, Hd,e)
3.45〜3.59 (m, 1.8 H, H)
1.81〜1.94 (m, 4.32H, Hb',b)
1.46〜1.54 (m, 1.6 H, Hc)
0.74 (s, 3.0 H, Ha)




Mn(SEC(DMF)): 2.9x10
Mw/Mn(SEC(DMF)): 2.3
【0057】
実施例3
N-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-アラニン(N-oxe-Ala)とN-〔(3-エチルオキセタン-3-イル)カルボキシ〕-グルタミン酸(N-Oxe-Glu)の共重合反応(ハイパーブランチポリマー(HBP)の製造):
アンプル管にテトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB) 0.042 g (10 mol %), N-Oxe-Ala 0.101 g (0.5 mmol), N-Oxe-Glu 0.130 g (0.5 mmol)、o-ジクロロベンゼン 1 mL量り取り、凍結・脱気, Ar置換を行った。アンプル管を封管し130 ℃で1.5 h攪拌した後、良溶媒をメタノール、貧溶媒をエーテルとして再沈殿操作をし、白色固体が得られた。
粗収量: 0.200 g(87 %)
Mn: 12800
Mn/Mw: 1.7
Td5%=254 ℃, Td10%=268 ℃



Mn(SEC(DMF)): 12.8x10
Mw/Mn(SEC(DMF)): 1.7
【0058】
試験例
ポリマーの生分解性評価の検討
得られたポリマーである、HBP(N-Oxe-Glu), HBP(N-Oxe-Ala-co-N-Oxe-Glu)の生分解性評価を行った。
【0059】
合成ポリマーの生分解性は生化学的酸素要求量(BOD)法によって評価した。
試験溶液である基礎培養基には組成のA液を10 ml, B, C, D液をそれぞれ1 ml分取し、蒸留水を加えて 1 Lに定容したものを用いた。活性汚泥は室温で曝気培養したものを用いた。BOD測定には、BOD自動測定記録装置 DKK-BOD-3(ディーケーケー東亜(株)製)を使用し、25 ℃で4週間攪拌して行った。
【0060】
実験操作
試験容器に基礎培養基300 mLを入れ、試料は濃度100 mg/L、活性汚泥は懸濁物質濃度30 mg/Lとなるように添加した。各試料は秤量し、低速で攪拌しながら試験容器に投入した。対照となるアニリンについては所定量を測り取って容器に投入した。基礎培養基と汚泥のみを入れた試験容器をブランクとした。
BOD測定による生分解度は次式によって算出した。
【0061】



BOD: 試料の生物化学的酸素要求量(測定値)(ppm)
B: 基礎培養基に活性汚泥のみを接種したもの(ブランク)の酸素要求量(ppm)
ThOD: 試料が完全に酸化された場合に必要とされる理論的酸素要求量(ppm)
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のモノオキセタンジカルボン酸化合物および重合体は、医療、食品、衣料、化粧品などの幅広い分野において、光学活性材料や生分解性材料、生体適合性材料などの機能性材料として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、Rは、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示す。]
で表わされるモノオキセタンジカルボン酸化合物。
【請求項2】
一般式(II)
【化2】

[式中、Rは前記と同意義を示す。]
で表わされる繰り返し単位を含むことを特徴とするオキセタン重合体。
【請求項3】
請求項1記載の一般式(I)で表されるモノオキセタン化合物を重合させることにより製造される、請求項2記載のオキセタン重合体。
【請求項4】
一般式(III)
【化3】

[式中、Rは、前記と同意義を示し、Rは、Rと同一又は異なっても良く、水素原子、又は、C1−C4のアルキル基を示し、Rは、アミノ酸の側鎖を示す。]
で表わされる繰り返し単位を含むことを特徴とするハイパーブランチポリマー。
【請求項5】
一般式(IV)
【化4】

[式中、R及びRは前記と同意義を示す。]で表わされる化合物と、一般式(I)
【化5】

[式中、Rは前記と同意義を示す。]で表されるモノオキセタンジカルボン酸化合物を共重合させる事によって製造される、請求項4記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項6】
がエチル基である、請求項1記載のモノオキセタンジカルボン酸化合物。
【請求項7】
がエチル基である、請求項2記載のオキセタン重合体。
【請求項8】
がエチル基である、請求項4記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項9】
がアラニンの側鎖である、請求項4記載のハイパーブランチポリマー。
【請求項10】
一般式(I)が、一般式(V)
【化6】

[式中、Rは前記と同意義を示し、*はL体を示す。]
で表される請求項1記載のモノオキセタンジカルボン酸化合物。

【公開番号】特開2011−207831(P2011−207831A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78531(P2010−78531)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】