説明

アミノ化複合型糖鎖誘導体及びその製造方法

例えば、式(1)で示されるアミノ化複合型糖鎖誘導体。(1)〔式中、Rは、−NH−(CO)−CHX、−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHOを示す。Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。RおよびRは、水素原子、明細書中に示す式(2)〜(5)で示される基であり、同一でも異なっていてもよい。ただし、RおよびRが共に水素原子または式(5)である場合、RあるいはRが水素原子であって残りのRあるいはRが式(5)である場合を除く。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖誘導体(以下、アミノ化複合型糖鎖誘導体という)および糖鎖ペプチドに関する。
【背景技術】
生体内に存在するペプチド(タンパク質)の多くは、糖鎖を有している。糖鎖とは、単糖と単糖がグリコシル結合という結合を介して鎖状に結合したもので図1に示したように表されている。
ペプチド(タンパク質)と結合している糖鎖はそのアミノ酸との結合様式から大きく2種類に分類されている。アスパラギン(Asn)の側鎖に結合したアスパラギン結合型(N−結合型)とセリン(Ser)、スレオニン(Thr)の側鎖水酸基に結合したムチン結合型(O−結合型)である。すべてのアスパラギン結合型糖鎖は5つの糖残基からなる基本骨格をもち、結合する糖鎖の非還元末端の糖残基の種類によって、図2に示すように高マンノース型、複合型、混成型のサブグループに分類される。
このような糖鎖は、ペプチド(タンパク質)と結合しその分子の表面を覆うことでペプチド(タンパク質)の溶解性を調節したり、プロテアーゼへの耐性を付加し、血中からの代謝を遅延させるだけでなくペプチド(タンパク質)の3次元構造を維持するために働く。
代表的な例として、ヒトのエリスロポエチン(EPO)という糖鎖ペプチド(糖タンパク質)がある。この糖鎖ペプチド(糖タンパク質)は、複合型アスパラギン結合型糖鎖を有しており、赤血球系前駆細胞に作用しその増殖・分化を促進することにより、末梢血中の赤血球数を維持する機能を持った血球分化ホルモンである。ペプチド(タンパク質)上の糖鎖構造と生理活性の相関についていろいろ研究され、in vitroでは糖鎖が結合していないEPOでも生理活性を有するが、in vivoでは糖鎖がないと生理活性がないということが判明した。
このような糖鎖ペプチド(糖タンパク質)だけでなくさまざまなペプチド(タンパク質)を医薬品として用いる研究が展開されているが、依然として解決すべき問題点がある。ペプチド(タンパク質)製剤などが血中でタンパク質分解酵素(ペプチダーゼ)などにより簡単に分解し代謝されるために、十分な血中濃度を維持できないということである。
本発明の目的は、十分な血中濃度を維持可能なアミノ化複合型糖鎖誘導体および糖鎖ペプチドを提供することにある。
【発明の開示】
本発明は、以下の発明に係る。
1. アミノ化複合型糖鎖誘導体。
2. 式(1)で示されるアミノ化複合型糖鎖誘導体。

〔式中、Rは、−NH−(CO)−CHX、−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHOを示す。Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。RおよびRは、水素原子、式(2)〜(5)で示される基であり、同一でも異なっていてもよい。ただし、RおよびRが共に水素原子または式(5)である場合、RあるいはRが水素原子であって残りのRあるいはRが式(5)である場合を除く。〕

3. Rが−NH−ハロゲン化アセチル基である上記に記載のアミノ化複合型糖鎖誘導体。
4. 上記アミノ化複合型糖鎖誘導体とアミノ酸のチオール基が結合した糖鎖ペプチド。
5. 上記アミノ化複合型糖鎖誘導体とアミノ酸のチオール基を結合させることを特徴とする糖鎖ペプチドの製造方法。
6. 上記アミノ化複合型糖鎖誘導体とアミノ酸のチオール基が結合した糖鎖ペプチドが抗体であることを特徴とする糖鎖ペプチド。
7. 糖鎖ペプチドの糖をアミノ酸から切断し、次いで上記アミノ化複合型糖鎖誘導体を結合することを特徴とする糖鎖ペプチドの製造方法。
8. 糖鎖ペプチドの糖をアミノ酸から切断し、次いで上記アミノ化複合型糖鎖誘導体を結合して得られた糖鎖ペプチドが抗体であることを特徴とする糖鎖ペプチド。
本発明のアミノ化複合型糖鎖誘導体は、複合型アスパラギン結合型糖鎖の1位の炭素に結合している水酸基を、−NH−(CO)−CHX、−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHO(Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。)のいずれかの基で置換した化合物である。
複合型アスパラギン結合型糖鎖は、例えば式(6)に示される糖鎖を挙げることができる。

(式中、RおよびRは、水素原子、上記式(2)〜(5)で示される基であり、同一でも異なっていてもよい。ただし、RおよびRが共に水素原子または式(5)である場合、RあるいはRが水素原子であって残りのRあるいはRが式(5)である場合を除く。)
この複合型アスパラギン結合型糖鎖は、例えば、国際公開公報 WO 03/008431号公報に従って合成することができる。また、糖タンパク質から酵素により糖鎖を切り出す方法や化学的に切断する方法を使用してもよい。酵素としては、グリコペプチダーゼAやN−グリカナーゼを使用できる。化学的切断法としては、ヒドラジン分解により糖鎖を製造することができる。
アミノ化複合型糖鎖誘導体は、複合型アスパラギン結合型糖鎖の1位の炭素に結合している水酸基を、−NH−(CO)−CHX、−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHO(Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。)のいずれかの基で置換した化合物であり、例えば、下記式(1)で示すことができる。ここでハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を例示することができる。

(式中、R〜Rは上記に同じである。)
アミノ化複合型糖鎖誘導体は、公知の方法で製造することができるが、例えば、アミノ化複合型糖鎖誘導体に−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHO(Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。)を持つ化合物を反応させればよい。具体的には、Rが−NH−ブロモアセチル基の場合、溶媒中、縮合剤存在下、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖とブロモ酢酸を反応させる。溶媒としては、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖、ブロモ酢酸等が溶解するものであれば良く、例えば、水、DMF等を挙げることができる。縮合剤としては、例えば1−メシチレンスルホニル−3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール(MSNT)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)等を挙げることができ、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖1モルに対して、縮合剤を1〜10モル使用するのが好ましい。また、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖1モルに対して、ブロモ酢酸を1〜10モル使用するのが好ましい。反応は、通常0〜80℃、好ましくは、10〜60℃、更に好ましくは、15〜35℃で行うのが良く、通常30分〜5時間で行うのが良い。反応終了後は、適宜、公知の方法〔例えば、高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)〕で精製するのが良い。
本発明の1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドは、任意のアミノ酸をペプチド結合したペプチドに、該ペプチドのチオール基を介して1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合させた糖鎖ペプチドである。
本発明においてペプチドとは、同種または異種のアミノ酸が2個またはそれ以上で、互いに一方のカルボキシ基と他方のアミノ基との間で脱水して酸アミド結合、すなわちペプチド結合(−CO−NH−)を形成してできる化合物を言う。約10個以下のアミノ酸からなる比較的小さいものをオリゴペプチド、それよりも大きいものをポリペプチドという。また、ポリペプチドにはタンパク質を含む。
ペプチドは、固相合成法、液相合成法、細胞による合成、天然に存在するものを分離抽出する方法等により得ることできる。
本発明の1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドは、アミノ化複合型糖鎖誘導体をチオール基を有するペプチドとを反応させることにより製造することができる。反応は、通常0〜80℃、好ましくは、10〜60℃、更に好ましくは、15〜35℃で行うのが良く、通常30分〜5時間で行うのが良い。反応終了後は、適宜、公知の方法[例えば、高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)]で精製するのが良い。具体的には、アミノ化複合型糖鎖誘導体をチオール基を有するペプチドをリン酸緩衝液中、室温で反応させる。反応終了後、HPLCで精製することにより本発明の1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドを得ることができる。
また、上記の製造方法により、予め糖あるいは糖鎖が結合したチオール基を有する糖鎖ペプチドにアミノ化複合型糖鎖誘導体を反応させ、複数の糖あるいは糖鎖を有する1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドを得ることができる。
さらに、予め糖あるいは糖鎖が結合したチオール基を有する糖鎖ペプチドにアミノ化複合型糖鎖誘導体を反応させ、予め有していた糖あるいは糖鎖を切断することにより、1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドを得ることができる。この時、予め有していた糖あるいは糖鎖を切断するには、例えば、酵素を使用して切断することが好ましい。また、アミノ化複合型糖鎖誘導体の導入前でもよいし、導入後でもよいが、切断と同時にアミノ化複合型糖鎖誘導体をペプチドに導入することが好ましい。切断する酵素としては、ペプチドと糖あるいは糖鎖の還元末端を切断する酵素(糖加水分解酵素)であれば良く、例えば、PNGase F等を使用することができる。反応は、通常0〜80℃、好ましくは、10〜60℃、更に好ましくは、15〜35℃で行うのが良く、通常30分〜5時間で行うのが良い。反応終了後は、適宜、公知の方法[例えば、高速液体カラムクロマトグラフィー(HPLC)]で精製するのが良い。
本発明の1−アミノ−複合型アスパラギン結合型糖鎖を結合した糖鎖ペプチドは、天然に存在する複合型アスパラギン結合型糖鎖ペプチドよりも、糖加水分解酵素に対する耐性に優れている(分解されにくい)。この為、血中での安定性が向上し、血中寿命が延びる。
本発明のアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合した糖鎖ペプチドは、ペプチドのアミノ酸配列、糖鎖の結合位置あるいは糖鎖の構造や種類が均一である為、この糖鎖ペプチドが生理活性分子である場合(例えば、抗体)、生理活性分子の生理活性は均一である。
本発明のアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合した糖鎖ペプチドの製造方法は、ペプチドのチオール基に選択的にアミノ化複合型糖鎖誘導体を任意の位置に選択的に複合型アスパラギン結合型糖鎖を導入することができる。
本発明のアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合した糖鎖ペプチドの製造方法は、高分子量(例えば、分子量1万以上)の糖鎖ペプチドを製造することができる。
本発明のアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合した糖鎖ペプチドの製造方法は、糖鎖ペプチドのフォールディングを崩すことなく任意の複合型アスパラギン結合型糖鎖を任意の位置に選択的に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は糖鎖の構造の1例を示す図である。
図2はアスパラギン結合型糖鎖の分類を示す図である。
図3はAnti−CD20キメラ抗体(Mutant)とAnti−CD20キメラ抗体(Mutant)糖鎖修飾体の電気泳動を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に参考例及び実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、何らこれに限定されるものではない。
参考例1(ジシアロ糖鎖アスパラギンの合成)
粗精製のSGP(シアリルグリコペプチド)500mgとアジ化ナトリウム10mg(319μmol)をトリス−塩酸・塩化カルシウム緩衝溶液(TRIZMA BASE 0.05mol/l、塩化カルシウム0.01mol/l、pH=7.5)25mlに溶解させた。これにアクチナーゼ−E(タンパク質分解酵素、科研製薬)50mgをトリス−塩酸・塩化カルシウム緩衝溶液5mlに溶かした溶液を加え、37℃で静置した。115時間後、この溶液を凍結乾燥した。この残留物をゲルろ過カラムクロマトグラフィーで2回精製し、ジシアロ糖鎖アスパラギンを252mg得た。
H−NMR (30℃) δ5.13(s,1H,Man4−H−1),5.07(d,1H,J=9.5Hz,GlcNAc1−H−1),4.95(s,1H,Man4−H−1),4.77(s,1H,Man3−H−1),4.61(d,1H,J=7.6Hz,GlcNAc2−H−1),4.60(d,2H,J=7.6Hz,GlcNAc5,5−H−1),4.44(d,2H,J=8.0Hz,Gal6,6−H−1),4.25(bd,1H,Man3−H−2),4.20(bdd,1H,Man4−H−2),4.12(bd,1H,Man4−H−2),2.94(dd,1H,J=4.5Hz,17.2Hz,Asn−βCH),2.85(dd,1H,J=7.0Hz,17.2Hz,Asn−βCH),2.67,2.66(dd,2H,J=4.6Hz,12.4Hz,NeuAc7,7−H−3),2.07(s,3H,Ac),2.06(s,6H,Ac×2),2.02(s,6H,Ac×2),2.01(s,3H,Ac),1.71(dd,2H,J=12.4Hz,12.4Hz,NeuAc7,7−H−3ax

参考例2(Fmoc基でアスパラギンのアミノ基窒素を保護したジシアロ糖鎖アスパラギンの合成)
参考例1で得られたジシアロ糖鎖アスパラギン80mg(0.034mmol)を蒸留水2.7mlとアセトン4.1ml混合溶液に溶解させ、これに9−フルオレニルメチル−N−スクシニミジルカーボネート(Fmoc−OSn)34.7mg(0.103mmol)と炭酸水素ナトリウム11.5mg(0.137mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。TLCで反応終了を確認後この溶液を減圧濃縮し、アセトンを除去した。残渣をオクタデシルシリル基を結合したシリカゲルを充填したカラム(ODSカラム)にかけ精製し、目的のFmoc−ジシアロ糖鎖アスパラギン60.1mg 収率68%を得た。
H−NMR (30℃)
8.01(2H,d,J=7.5Hz,Fmoc),7.80(2H,d,J=7.5Hz,Fmoc),7.60(2H,dd,J=7.5Hz,Fmoc),7.53(2H,dd,J=7.5Hz,Fmoc),5.23(1H,s,Man4−H),5.09(1H,d,J=9.4Hz,GlcNAc1−H),5.04(1H,s,Man4−H),4.86(1H,s,Man3−H),4.70〜4.66(m,GlcNAc2−H GlcNAc5,5−H),4.54(2H,d,J=7.9Hz,Gal6,6−H),4.44(1H,d,FmocCH),4.34(1H,bd,Man3−H),4.29,(1H,bd,Man4−H),4.20(1H,bd,Man4−H),2.77(2H,dd,NeuAc7,7−H3eq),2.80(1H,bdd,Asn−βCH),2.62(1H,bdd,Asn−βCH),2.14(18H,s×6,−Ac),1.80(2H,dd,NeuAc7,7−H3ax

参考例3(HOOC−Arg−Glu−Glu−Gln−Tyr−Cys−Ser−Thr−Tyr−Arg−Val−NHの合成)
固相合成用カラムにHMPA−PEGAレジン370mgを入れ、CHCl,DMFで十分に洗浄し反応に用いた。
Fmoc−Arg(OtBu)−OH、1−メシチレンスルホニル−3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール(MSNT),N−メチルイミダゾールをCHClに溶解させ5分間撹拌した後、樹脂の入った固相合成用カラムに入れ室温で3時間攪拌した。攪拌後、樹脂をメチレンクロライド、イソプロパノール、DMFで洗浄し乾燥させた。その後、20分間20%無水酢酸DMF溶液を用いて固相上の未反応の水酸基をアセチル化しキャッピングした。DMFで樹脂を洗浄後、20%ピペリジン/DMF溶液を用いて20分撹拌することによりFmoc基を脱保護しレジン−Arg−NHを得た。DMFで洗浄後、乾燥させた。
この樹脂に、グルタミン酸(Glu)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、アルギニン(Arg)、バリン(Val)を同様に縮合およびFmoc基の脱保護を行って、レジン−Arg−Glu−Glu−Gln−Tyr−Cys−Ser−Thr−Tyr−Arg−Val−NHを得た。
グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、アルギニン(Arg)、バリン(Val)のアミノ酸はカルボキシル基をpfpエステル化したFmoc−AA−Opfp(AA=アミノ酸)を用い、3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン−3−yl(Dhbt)によって縮合させた。すべての縮合はDMF溶液中で行った。
樹脂を洗浄後、95%TFA水溶液を加え、室温で3時間攪拌してレジンを切断した。レジンをろ過して除き、反応溶液を室温で減圧濃縮した後、水に溶かし凍結乾燥した。
参考例4(HOOC−Ser−Ser−Asn(disialooligo)−Cys−Leu−Leu−Ala−NHの合成)
固相合成用カラムにHMPA−PEGAレジン370mgを入れ、CHCl,DMFで十分に洗浄し反応に用いた。
Fmoc−Ser(OtBu)−OH、1−メシチレンスルホニル−3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール(MSNT),N−メチルイミダゾールをCHClに溶解させ5分間撹拌した後、樹脂の入った固相合成用カラムに入れ室温で3時間攪拌した。攪拌後、樹脂をメチレンクロライド、イソプロパノール、DMFで洗浄し乾燥させた。その後、20分間20%無水酢酸DMF溶液を用いて固相上の未反応の水酸基をアセチル化しキャッピングした。DMFで樹脂を洗浄後、20%ピペリジン/DMF溶液を用いて20分撹拌することによりFmoc基を脱保護しレジン−Ser−NHを得た。DMFで洗浄後、乾燥させた。
次に、Fmoc−Ser(OtBu)−OHを用いHOBt・HOとDIPCDIによって縮合させた。
次に、参考例2のFmoc−ジシアロ糖鎖アスパラギンをDMSO、DMF1対1の混合溶媒に溶かし、HATUとDIPEAを用いて室温24時間攪拌させて縮合させた。DMFで洗浄後10%無水酢酸/2−プロパノール:メタノールで20分間攪拌しキャッピングした。樹脂を2−プロパノール、DMFで洗浄後、20%ピペリジン/DMFで20分間攪拌しFmoc基を脱保護しDMFで樹脂を洗浄した。
この樹脂に、システイン(Cys)、ロイシン(Leu)、ロイシン(Leu)、アラニン(Ala)を同様に縮合およびFmoc基の脱保護を行って、レジン−Ser−Ser−Asn(disialooligo)−Cys−Leu−Leu−Ala−NHを得た。
システイン(Cys)、ロイシン(Leu)、アラニン(Ala)のアミノ酸はカルボキシル基をpfpエステル化したFmoc−AA−Opfp(AA=アミノ酸)を用い、3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン−3−yl(Dhbt)によって縮合させた。すべての縮合はDMF溶液中で行った。
樹脂を洗浄後、95%TFA水溶液を加え、室温で3時間攪拌してレジンを切断した。レジンをろ過して除き、反応溶液を室温で減圧濃縮した後、水に溶かし凍結乾燥した。凍結乾燥品をpH11水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、ベンジルエステルを加水分解した後、酢酸で中和し、HPLCで精製することで目的とするHOOC−Ser−Ser−Asn(disialooligo)−Cys−Leu−Leu−Ala−NHを得た。(YMC−Pack A−314 S−5 ODS 300×6.0mm 展開溶媒 :0.1%TFA水溶液 B:0.1%TFA アセトニトリル:水=90:10 グラジエントA 100% 0.60ml/min→B 100% 0.60ml/min 60分)
参考例5(ジシアロ糖鎖合成)
SGP(100mg)を50mMリン酸緩衝液pH7.0に溶かしPNGase F(BioLabs Inc.1U)を加えた。37度24時間インキュベートし、TLC(IPA:1M NHOAc=1:1)で反応終了を確認後、凍結乾燥した。凍結乾燥品をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Sephadex G25,1.5cm×30cm,水,流速1.0ml/min)で精製しジシアロ糖鎖を収量74mg得た。
H−NMR(400MHz,DO)
δ 5.28(bd,1H,GlcNAc1−H−1a),5.23(s,1H,Man4−H−1),5.03(s,1H,Man4’−H−1),4.86(s,1H,Man3−H−1),4.70(m,3H,GlcNAc2,5,5’−H−1),4.53(d,2H,Gal6,6’−H−1),4.34(bs,1H,Man3−H−2),4.28(bd,1H,Man4−H−2),4.20(bd,1H,Man4’−H−2),2.76(bdd,2H,NeuAc7,7’−H−3eq),2.17(s,3H,Ac),2.16(s,6H,Ac×2),2.13(s,6H,Ac×3),1.80(dd,2H,NeuAc7,7’−H−3ax)

参考例6(アミノ化)
参考例5のジシアロ糖鎖(10mg)を飽和炭酸水素アンモニウム水溶液に溶かし濃度30mMに調製した。室温で反応させ常に飽和している状態を維持した。7日間反応させTLC(IPA:1M NHOAc=1:1)で反応がほぼ終了した後、反応溶液をそのまま凍結乾燥した。炭酸水素アンモニウムを除くために、凍結乾燥を3回繰り返しクルードの状態でアミノ化したジシアロ糖鎖を収量9mg得た。
H−NMR(400MHz,DO)
δ 5.22(s,1H,Man4−H−1),5.03(s,1H,Man4’−H−1),4.86(s,1H,Man3−H−1),4.69(m,3H,GlcNAc2,5,5’−H−1),4.53(d,2H,Gal6,6’−H−1),4.34(bs,1H,Man3−H−2),4.28(bd,1H,Man4−H−2),4.23(bd,1H,GlcNAc1−H−1),4.20(bd,1H,Man4’−H−2),2.76(bdd,2H,NeuAc7,7’−H−3eq),2.17(s,3H,Ac),2.16(s,6H,Ac×2),2.12(s,6H,Ac×3),1.80(dd,2H,NeuAc7,7’−H−3ax)

実施例1(ブロモアセチル化)
参考例6のアミノ化したジシアロ糖鎖(クルード 5mg)を水100μLに溶かし炭酸水素ナトリウム2mgを加えた。そこに、DMF(100μl)に溶かしたブロモ酢酸6.2mgとDCC4.6mgを加え室温で反応させた。1.5時間後、TLC(IPA:1M NHOAc=2:1)で反応終了を確認し、炭酸水素ナトリウムで中和し、ろ過後、減圧濃縮した。続いて、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Sephadex G25,1.5cm×30cm,水,流速1.0ml/min)で精製しブロモアセチル化したジシアロ糖鎖を収量4mg、収率77%で得た。
H−NMR(400MHz,DO)
δ 5.22(s,1H,Man4−H−1),5.16(bd,1H,GlcNAc1−H−1),5.03(s,1H,Man4’−H−1),4.86(s,1H,Man3−H−1),4.70(m,3H,GlcNAc2,5,5’−H−1),4.53(d,2H,Gal6,6’−H−1),4.34(bs,1H,Man3−H−2),4.28(bd,1H,Man4−H−2),4.20(bd,1H,Man4’−H−2),2.77(bdd,2H,NeuAc7,7’−H−3eq),2.17(s,3H,Ac),2.15(s,6H,Ac×2),2.12(s,6H,Ac×2),2.10(s,3H,Ac),1.80(dd,2H,NeuAc7,7’−H−3ax)

【実施例2】
実施例1のブロモアセチル化したジシアロ糖鎖 2mgと参考例3で合成したペプチド鎖1.8mg(Arg−Glu−Glu−Gln−Tyr−Cys−Ser−Thr−Tyr−Arg−Val)を100mMリン酸緩衝液pH7.0、170μlに溶かし、室温でインキュベートした。HPLCで原料消失を確認した後、そのままHPLC[カラム:Mightysil−GP(5μm)、φ10×250mm、グラジエント:0.1%トリフルオロ酢酸/水 100%から0.1%トリフルオロ酢酸 アセトニトリル/水=90/10 75%;60min linear、流速2.5ml]で精製し、ジシアロ糖鎖ペプチドを収量2mg、収率64%で得た。
H−NMR(400MHz,DO)
δ 7.18(4H,Ph),6.89(4H,Ph),5.22(s,1H,Man4−H−1),5.14(bd,1H,GlcNAc1−H−1),5.04(s,1H,Man4’−H−1),4.86(s,1H,Man3−H−1),4.69−4.63(m,5H,GlcNAc2,5,5’−H−1,Tyr−αH,Cys−αH),4.55−4.52(m,4H,Gal6,6’−H−1,Gln−αH,Ser−αH),4.44−4.38(m,4H,Glu−αH×2,Arg−Hα,Thr−αH),4.34(bs,1H,Man3−H−2),4.28(m,3H,Man4−H−2,Thr−βH),4.23(d,1H,J=5.9Hz,Val−αH),4.20(bd,1H,Man4’−H−2),4.15(1H,Arg−αH),3.30,3.25(each 2H,Arg−δCH),3.14−2.99(6H,Cys−βH,Tyr−βH×2),2.76(bdd,2H,NeuAc7,7’−H−3eq),2.57(2H,Gln−γCH),2.49,2.35(each 2H,Glu−γCH),2.23−2.10(m,3H,Val−βH,Gln−βH),2.16(s,3H,Ac),2.15(s,6H,Ac×2),2.12(s,6H,Ac×2),2.10−1.98(m,6H,Glu−βH×2,Arg−βH),2.07(s,3H,Ac),1.92−1.57(m,8H,NeuAc7,7’−H−3ax,Arg−βH,Arg−γCH×2),1.23(d,3H,Thr−γCH),1.04(d,6H,Val−γCH

実施例3(1−ブロモアセチル−ジシアロ糖鎖を用いたすり替え)
参考例4で合成したジシアロ糖鎖ペプチド1mgと実施例1のブロモアセチル化したジシアロ糖鎖1mgを100mMリン酸緩衝液200μlに溶かし、アスパラギン結合型糖鎖をアスパラギンから切断する酵素である、PNGase F(5U)を加え室温で反応させた。生成物をHPLCで精製することにより目的とするシステインにジシアロ糖鎖が結合したジシアロ糖鎖ペプチドを得た。
(YMC−Pack A−314 S−5 ODS 300×6.0mm 展開溶媒 :0.1%TFA水溶液 B:0.1%TFA アセトニトリル:水=90:10 グラジエントA 100% 0.60ml/min→B 100% 0.60ml/min 60分)

試験例1(糖加水分解酵素に対する耐性)
実施例3で得られたジシアロ糖鎖ペプチド1mgを100mMリン酸緩衝液200μlに溶かし、アスパラギン結合型糖鎖をアスパラギンから切断する酵素である、PNGase F(5U)を加え室温で反応させ、ジシアロ糖鎖がペプチドから切断される時間を測定した。切断されるまでの時間は、6時間であった。
参考例4で得られたジシアロ糖鎖ペプチド1mgを100mMリン酸緩衝液200μlに溶かし、アスパラギン結合型糖鎖をアスパラギンから切断する酵素である、PNGase F(5U)を加え室温で反応させ、ジシアロ糖鎖がペプチドから切断される時間を測定した。切断されるまでの時間は、30分であった。
この結果から明らかなように天然結合型糖鎖ペプチド(参考例4)に比べて糖加水分解酵素に対する耐性が高いことがわかる。
【実施例4】
Anti−CD20キメラ抗体(Mutant)(株式会社医学生物学研究所製:ミューテーション技術により、アミノ酸配列297番目のアスパラギンをシステインに変換した抗体)43.9μgと実施例1のブロモアセチル化したジシアロ糖鎖 100μgを100mMリン酸緩衝液300μlに溶かし、室温でインキュベートした。反応終了後、プロテインAカラムクロマトグラフィーと、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーで精製することにより目的とするシステインにジシアロ糖鎖が結合した抗体を得た。抗体は、電気泳動(10% SDS−PAGE(with 2−mercaptethanol):分子量マーカーは、BIO−RAD社製 プレステインドSDS−PAGE スタンダード ブロードレンジ(カタログNo161−0318))およびMASSにより確認した。結果を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、十分な血中濃度を維持可能な新規なアミノ化複合型糖鎖誘導体および糖鎖ペプチドを得ることができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ化複合型糖鎖誘導体。
【請求項2】
式(1)で示される請求項1記載のアミノ化複合型糖鎖誘導体。

〔式中、Rは、−NH−(CO)−CHX、−NH−(CO)−(CH−CHX、イソチオシアネート基、−NH−(CO)−(CH−COH、−NH−(CO)−(CH−CHOを示す。Xはハロゲン原子、aは0または1であり、bは1〜4の整数を示す。RおよびRは、水素原子、式(2)〜(5)で示される基であり、同一でも異なっていてもよい。ただし、RおよびRが共に水素原子または式(5)である場合、RあるいはRが水素原子であって残りのRあるいはRが式(5)である場合を除く。〕


【請求項3】
が−NH−ハロゲン化アセチル基である請求の範囲第2項記載のアミノ化複合型糖鎖誘導体。
【請求項4】
アミノ化複合型糖鎖誘導体とアミノ酸のチオール基が結合した糖鎖ペプチド。
【請求項5】
アミノ化複合型糖鎖誘導体とアミノ酸のチオール基を結合させることを特徴とする糖鎖ペプチドの製造方法。
【請求項6】
糖鎖ペプチドが抗体であることを特徴とする請求の範囲第4項記載の糖鎖ペプチド。
【請求項7】
糖鎖ペプチドの糖をアミノ酸から切断し、次いでアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合することを特徴とする糖鎖ペプチドの製造方法。
【請求項8】
糖鎖ペプチドの糖をアミノ酸から切断し、次いでアミノ化複合型糖鎖誘導体を結合して得られた糖鎖ペプチドが抗体であることを特徴とする糖鎖ペプチド。

【国際公開番号】WO2005/010053
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512111(P2005−512111)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011036
【国際出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【出願人】(502244258)
【Fターム(参考)】