説明

アミノ酸分析法および分析装置

【課題】1時間以内に42成分を一斉に分析できるアミノ酸分析方法を提供すること。
【解決手段】 複数の成分を含む複数種類の緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液中のアミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析法において、前記試料が導入される緩衝液の所定のリチウムイオン濃度およびpH値を、予め定めた成分が溶出される時間までは所定のリチウムイオン濃度を維持し、予め定めた他の成分が溶出される時間以降に、緩衝液の所定のリチウムイオン濃度よりも高くし、pH値を低下させる段階を含むことを特徴とするアミノ酸分析法およびアミノ酸分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床分野に好適なアミノ酸分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸分析計は大別して、蛋白質加水分解物アミノ酸約20成分を対象とした標準分析と、生体液アミノ酸類縁物質約40成分またはそれ以上の成分を対象とした生体液分析法を行うものに分類できる。ここでは生体液分析法、すなわち、血清や尿、髄液などの生体液を分析し、これを臨床的に利用して、病気の診断や、治療に役立てることができる分析方法について述べる。
【0003】
生体液分析法の例としては、特許文献1,2がある。これら従来の生体液分析法は、複数の緩衝液を混合し、混合した緩衝液に試料を添加し、分離カラムを通過させて検出するという一連の分析手法は変わらないが、分離カラムや緩衝液の流速などを工夫することにより、時代と共に分析時間が短縮される傾向にある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−80037号公報
【特許文献2】特開2002−71660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の説明において、分析対象となる生体液試料中のアミノ酸42種の名称およびその略号は、表1の表記に従った。
【0006】
【表1】

【0007】
生体液分析法では、現在上記に示したように約40成分の分析を一斉に行うことが出来る。ところが最近、メタボローム解析の発達により、分析対象試料中の成分を一斉に分析しながら、複数種の成分比率も分析することが、特定の病気に関する研究を行う上で非常に有効であり、臨床分野においてそのような要求が高まりつつある。具体的には、表1注の*が付されている成分の比率を求めることなどである。また、上記の成分を迅速に分析できることも重要である。
【0008】
従来の分析プログラムによって得られる分析結果は、41成分を迅速且つ正確に分析することができるが、LysとOrnについてはピークが互いに隣り合い、近接している。動物由来の生体試料には、Orn及びHisに対してLysが多量に含まれている場合があるため、従来の分析プログラムを用いて分析すると、これら3成分を同時に分析できないことがある。つまり、従来の分析プログラムは、実際の分析結果については分析者の要求を満足できないことがある。
【0009】
本発明の目的は、生体液試料の40種以上のアミノ酸類縁物質を1時間以内で分析することである。また、Lys、HisおよびOrnの3成分のピークが重ならないクロマトグラムを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、カラムの充填剤の検討、及び分離実験を重ねたところ、アミノ酸類縁物質42成分を一斉に短時間で分析可能な分析法を見出した。
【0011】
本発明は、複数の成分を含む複数種類の緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象としたアミノ酸分析法において、前記試料が導入される緩衝液のリチウムイオン濃度およびpH値を、所定の時間維持し、その時間経過後はリチウムイオン濃度を上昇させ、pH値を低下させることを特徴とするアミノ酸分析法を提供するものである。
【0012】
本発明はまた、複数の緩衝液を各緩衝液毎に設けられたバルブを調整して混合し、当該混合された緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析装置において、前記混合後の緩衝液のリチウムイオン濃度が、所定の時間の間維持され、その後緩衝液のリチウムイオン濃度を上昇させ、pH値を低下させるように前記バルブを制御する分析プログラムを格納する記憶装置と、該プログラムに従って緩衝液の流量調整を行う制御装置とを有することを特徴とするアミノ酸分析装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、40種以上のアミノ酸類縁物質を1時間以内で分析できる。また、液体クロマトグラフィにより、短時間で分析すること、Lys、His、Ornの3成分のピークが重なることなく、His及びOrnのピークと、Lysのピークとの間隔を離すこと、3Mehis、His、Lysのピークが互いに重なりにくくなるように、これら3成分の溶出順をHis、3Mehis、Lysとすることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、従来例と比較しながら本発明の実施例の詳細を述べる。
【0015】
本発明の実施形態の例として、複数の成分を含む複数種類の緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析法において、前記試料が導入される緩衝液のリチウムイオン濃度を、少なくともチロシン(Tyr)が溶出される時間までは0.255mol/L以下とし、フェニルアラニン(Phe)からホモシスチン(Homocys)が溶出される時間では、緩衝液のリチウムイオン濃度を0.255mol/Lより大で1.13mol/L以下の濃度に上昇させ、pH値を低下させることを特徴とするアミノ酸分析法が挙げられる。
【0016】
本発明の他の実施形態として、複数の緩衝液を各緩衝液ごとに設けられたバルブを調整することで混合し、当該混合された緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析装置において、前記混合後の緩衝液のリチウムイオン濃度が、少なくともTyrが溶出される時間まで0.255mol/L以下であり、且つ、PheからHomocysが溶出される時間では、緩衝液のリチウムイオン濃度が0.255mol/Lより大で1.13mol/L以下に上昇するように前記バルブを制御する分析プログラムを格納する記憶装置と、該プログラムに従って緩衝液の流量調整を行う制御装置とを有することを特徴とするアミノ酸分析装置がある。
【0017】
更に、本発明の他の実施の形態として、以下のものが例示される。前記生体液アミノ酸類縁物質は所定の42種類であって、前記アミノ酸分析を1時間以内で完了する。1時間以内の分析は、現在のアミノ酸分析技術において強く望まれている。本発明の実施形態によれば、42種類のアミノ酸が分離カラムから溶出された後、分離カラムの洗浄、再生を含めても60分程度で完了することができる。
【0018】
また、前記アミノ酸類縁物質は、ホスホセリン(P−Ser)、タウリン(Tau)、ホスホエタノールアミン(PEA)、ウレア(Urea)、アスパラギン酸(Asp)、ハイドロキシプロリン(Hypro)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(AspNH2)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(GluNH2)、サルコシン(Sar)、α−アミノアジピン酸(α−AAA)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、シトルリン(Cit)、α−アミノ−n−酪酸(α−ABA)、バリン(Val)、シスチン(Cys)、メチオニン(Met)、シスタチオニン(Cysthi)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、β−アラニン(β−Ala)、β−アミノイソ酪酸(β−AiBA)、γ−アミノ−n−酪酸(γ−ABA)、エタノールアミン(EOHNH2)、アンモニア(NH3)、ハイドロキシリジン(Hylys)、オルニチン(Orn)、1−メチルヒスチジン(1Mehis)、ヒスチジン(His)、3−メチルヒスチジン(3Mehis)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、アンセリン(Ans)、カルノシン(Car)、アルギニン(Arg)の42種である。
【0019】
更に本発明は、液体クロマトグラフィにより複数種の緩衝液を用いて、生体液試料中の40種以上のアミノ酸を溶出して分析クロマトグラムを作成し、該クロマトグラムを表示装置に表示して、該クロマトグラムを解析して所定のアミノ酸分析を行う方法であって、該表示装置に、3−メチルヒスチジン(3Mehis)、リジン(Lys)およびトリプトファン(Trp)の順で溶出したアミノ酸のクロマトグラムを表示することを特徴とするアミノ酸分析装置を提供する。本発明の実施形態によれば、上記3種のアミノ酸が従来方法とは異なった順序で溶出し、それが相互に明確に分離されているために、アミノ酸分析、例えば各成分の含有比が容易に計算できる。
【0020】
図2は本発明のアミノ酸分析計の装置構成及び流路説明図である。1〜4はそれぞれ第1〜第4緩衝液、5はカラム再生液である。この中から電磁弁シリーズ6によって何れかの緩衝液が選ばれ、緩衝液ポンプ7によってアンモニアフィルタカラム8、オートサンプラ9によって導入されたアミノ酸試料は分離カラム10で分離される。ここで分離したアミノ酸は、ニンヒドリンポンプ12によって送られてきたニンヒドリン試薬11とミキサ13で混合し、加熱された反応カラム14で反応する。反応によって発色したアミノ酸は検出器15で連続的に検知され、データ処理装置16によってクロマトグラム及びデータとして出力され、記録、保存される。
【0021】
制御装置17は緩衝液容器の電磁弁6A〜6D、カラム再生液容器の電磁弁6E,並びにニンヒドリンポンプ12、オートサンプラ9、緩衝液容器などの温度を制御する手段(図示せず)を制御する。この制御は主として制御装置の記憶装置(図示せず)に格納されたプログラムによって実行される。
【0022】
【表2】

【0023】
第1緩衝液1、第2緩衝液2及びカラム再生液5としては、表2に示す緩衝液を用いた。また、本発明の分析方法では第3緩衝液3及び第4緩衝液4として、表3に示す緩衝液を用いた。ニンヒドリン試薬11は市販のニンヒドリン試薬L−8500セット(和光純薬工業(株)製)を用いた。分離カラム10にはパックドカラム5.4mmIDx25mmxTwin、充填剤としては、イオン交換樹脂#2623を用いた。
【0024】
【表3】

【0025】
イオン交換樹脂#2623は高速高分離分析に適した充填剤である。以下、イオン交換樹脂#2623の特徴を示す。高速高分離に適した樹脂の条件は、ポンプの送液速度を上げてもより高い理論段数Nを示すことである。また、送液速度が高くなるとカラム圧が上昇することにより、イオン交換樹脂が潰れ、カラムとしての性能が低下することがあるので、送液速度が大きくなってもカラム圧が上昇しにくいという特徴も、高速分析に適している。従って、高速高分離分析に適しているか否かを評価するには、理論段数とカラム圧を同時に考慮する必要がある。
【0026】
式(1)で示されるセパレーションインピーダンスEを用いると、カラム圧と理論段数を加味した評価を行うことが可能である。Hはカラムの長さを理論段数Nで割った値、カラムパーミアビリティKvは式(2)で示され、カラムの圧力損失ΔP/Lに反比例する。従って、理論段数Nが大きく、圧力損失ΔP/Lが小さいほど、つまり、セパレーションインピーダンスEの値は小さいほど、高速高分離分析に適したイオン交換樹脂であると言える。
【0027】
【数1】

【0028】
#2623及び#2622は平均粒子径が3μm、#2617は平均粒子径が5μmのイオン交換樹脂であり、#2622及び#2617は株式会社日立ハイテクノロジーズが供給している従来のイオン交換樹脂である。これら3種類のイオン交換樹脂を充填したカラムについて、カラムの中を流れる移動相の線速度uとセパレーションインピーダンスEとの関係を調べた。図15はその結果を示したものである。
【0029】
図15より、線速度0.001m/s以下の領域においては#2623のセパレーションインピーダンスEが最も低い値を示し、線速度0.001m/sにおいては、#2623のEは#2622及び#2617のEの半分の値となった。つまり、流速が大きくなるにつれて#2623のセパレーションインピーダンスEは従来の樹脂のセパレーションインピーダンスEよりも小さくなる傾向がある。従って、#2623は従来の樹脂よりも高速高分離分析に適していると言える。
【0030】
次に、図3に示した本発明の分析プログラムについて説明する。「%B1−%B5」欄は、それぞれ第1緩衝液1〜カラム再生液5に相当する。時間0で、%B1−%B5の欄に100.0とあるのは相当する電磁弁が100%開くという意味である。80と20は、相当する二つの電磁弁が時間比で80%と20%に開く、すなわち80%と20%に液が混合するという意味である。さらに時間と共に混合比を変えると、グラジエント混合が可能となる。図2の構成であれば、最大5液までグラジエントができる。
【0031】
「温度」は、分離カラムの温度プログラムを示す。38とあるのは次の指定時間まで38℃一定を保つという意味である。「流量1」は、緩衝液ポンプの流量、「流量2」は、ニンヒドリンポンプの流量である。
【0032】
「%R1−%R3」欄は、ニンヒドリン試薬の混合比である。通常ニンヒドリン試薬は2液に分かれて市販されており、使用時R1とR2は50%ずつ混合するようになっている。R3は蒸留水が設置してあり、分析終了時の洗浄などに使用する。
【0033】
上記のプログラムは本発明によるアミノ酸分析装置の制御装置の記憶部に格納し、このプログラムに従ってアミノ酸分析装置が自動的に緩衝液の供給、停止、置換等を実行する。
【0034】
図1の(A)に図3の分析プログラムを使用して得られた、本発明の結果である分析クロマトグラムを示す。また比較のため、図1の(B)に従来の図4の分析プログラムによるクロマトグラムを示す。どちらのクロマトグラムも表1に示すアミノ酸試料を測定したものである。また、図1(C)は図1(A)のクロマトグラムと図1の(B)のクロマトグラムのそれぞれ同じ成分のピークを線で結んで表わしたものである。図1から分かるように、図1の(B)ではLysとOrnについてはピークが互いに隣り合い、近接している。これに対して図1(A)ではHis及びOrnのピークと、Lysのピークとは十分に間隔がとれている。
【0035】
次に、図1(A)に示すように、42成分の一斉分析を可能にした本発明の緩衝液組成検討過程、及び、分析プログラムの作成過程について述べる。
【0036】
図5及び図6は、緩衝液のパラメータ(組成)について検討したときの、各成分の保持時間の変化を示したものである。図5は、緩衝液のpHを2.8で一定にし、リチウムイオン濃度を変化させたときの、各成分の保持時間を示したものである。図5より、緩衝液のリチウムイオン濃度を1.13mol/Lより大きくすることによって、TrpがLysより後に溶出するようになることが分かる。また、緩衝液のリチウムイオン濃度を1.13mol/Lより大きくすることによって、Trpと他の成分との分離が良くなることも分かった。図6は、緩衝液のリチウムイオン濃度を1.5mol/Lとし、緩衝液のpHを変化させたときの、各成分の保持時間の変化を示したものである。図6から、緩衝液のpHを3以下にすると、TrpがLysより後に溶出するようになることが分かる。また、緩衝液のpHを3以下にすると、図6に示す成分の全体的な分離バランスが改善されることも分かった。
【0037】
図13は、緩衝液のpHを2.8で一定にし、リチウムイオン濃度を0.57〜1.70mol/Lの間で変化させたときの、3Mehis及びLysの保持時間を示したものである。図Aより、リチウムイオン濃度が1.40mol/Lより低いときに3Mehis、Lysの順に溶出することが分かる。図14は緩衝液のリチウムイオン濃度を1.13mol/Lで一定にし、pHを変化させたときのLys及び3Mehisの保持時間を示したものである。図14より、pHが2.85以下では3Mehis、Lysの順で溶出することが分かる。
【0038】
本発明においては、緩衝液B3及びB4のリチウムイオン濃度及びpHを表3に示すような値にした。B4のpHはクエン酸緩衝液の酸解離定数pKa1(3.13)と同等の3.3とした。B4のリチウムイオン濃度は、Argの溶出を早めるために、B3のリチウムイオン濃度1.13mol/Lよりも大きい、1.37mol/Lとした。
【0039】
表2に示す第1、第2緩衝液、カラム再生液組成及び、表3に示す第3、第4緩衝液を用いて分析プログラムの検討を行った。以下、その実施例を説明する。
【0040】
図7は、γ―ABA〜EOHNHの分析プログラムの31分から始まるB3の0%から100%までのグラジエント勾配による分離改善の様子を示したものである。B3混合比の切り替え方を、31分でステップワイズ(C)させるよりも、31分から35分でグラジエントされる(B)か、31分から40分でグラジエントさせるほうが(A)、γ−ABA〜EOHNH間の分離バランスが良くなることが分かる。ここで、リチウムイオン濃度の変化を見ると、0.255mol/L→1.13mol/Lである。また、pHの変化を見ると、3.7→2.8となっている。本発明の分析プログラムでは、31分から39分で切り替えるようにしている。
【0041】
図8は、分析プログラムの48分から53分の間で、緩衝液B4=100%の場合(B)と、緩衝液B4=60%かつB5=40%の場合(A)の分離の状態を示したものである。図8からB4=60%かつB5=40%で緩衝液を混合させた方が、Trp〜Ans間の分離とCar〜Arg間の分離が良くなることがわかる。これはリチウムイオン濃度とpHがB4のレベル(Li濃度:1.37mol/L、pH:3.3)で一定であるよりも、B4とB5との混合の方(Li濃度:1.02mol/L、pH:6.15)が良いことを示す。本発明の分析プログラムでは、Argを測定開始後60分以内に納めることを考慮し、分析プログラムの48分から53分の間で緩衝液の割合をB4=70%、B5=30%に切り替えるようにしている。
【0042】
図9は、図8の実験と合わせて検討した、緩衝液B4=70%、B5=30%に切り替える時間を変化させたときの分離改善の様子を示したものである。緩衝液B4=70%、B5=30%に切り替える時間を、51分とした場合(A)と、45分とした場合(C)を見ると、前者は3Mehis〜Lysの分離が良くなるが、Car〜Argの分離が悪くなり、後者は3Mehis〜Lysの分離が悪くなるが、Car〜Argの分離が改善されることが分かる。そこで、緩衝液B4=70%、B5=30%に切り替える時間を48分にすると(B)、3Mehis〜Lys間、Car〜Arg間共に分離のバランスが良くなった。
【0043】
上記は緩衝液の組成について検討したものであるが、カラム温度についての検討も行ったので図10に示す。図10は、カラム温度切り替え開始時間の変更によるHomocys〜γ−ABA間の分離改善を試みたものである。カラム温度を70℃にする切り替え開始時間を32分から26分に早めていくと、Homocys〜γ−ABA間の分離が改善されることが分かる。カラム温度を70℃にする切り替え開始時間を早めると、その一方で、Lys〜Trpの分離が悪くなる傾向があることを考慮して、本発明の分析プログラムでは、カラム温度を70℃にする切り替え開始時間を29分で行うことを採用している。
【0044】
以上、図5、6に示した緩衝液の塩濃度及びpH、図7〜10に示した部分分離改善を組み合わせることにより、図3に示す本発明の分析プログラムが求められ、図1(A)の分離結果が実現する。
【0045】
上記本発明の分析プログラムにおいては、複数の緩衝液を混合し、且つカラム温度を調整しているが、42成分のピークを上手く分離できた要因としては、先にも述べた通り、リチウムイオン濃度、pH、カラム温度が大きな要因である。そこで、図11、図12に、分析プログラムに沿ったリチウムイオン濃度とpHの変化の様子を示す。
【0046】
図11は、本発明と従来の分析プログラムにおけるリチウムイオン濃度の変化をグラフ化したものである。実線(A)は図3に示す本発明の分析プログラム、破線(B)は図4の従来の分析プログラムに対応する。このグラフから分かるように、図11(A)に示す本発明の分析プログラムにおけるリチウムイオン濃度は、図11(B)に示す従来の分析プログラムにおけるリチウムイオン濃度に比べて、塩濃度が0.3mol/Lより高くなる時間が遅く、且つグラジエントにより上昇するようになっている。
【0047】
また図12は、pHの変化を測定しグラフ化したものである。図12の(A)は図3に示す本発明の分析プログラムに対応するものであり、図12の(B)は図4に示す従来の分析プログラムに対応するものである。分析プログラムにおける39分以降では、図12の(B)についてはpHを約4で20分間一定にしているが、図12の(A)については一度pHを下げてから、48分から53分の間でpHを6.2まで上昇させている。
【0048】
ここで、本発明の分析プログラムについて、図5〜10に示した部分分離改善を基に、そのポイントを纏めると以下のようになる。
【0049】
(1)γ−ABA〜EOHNH2間の分離バランスを改善するためには、リチウムイオン濃度を0.255mol/Lから1.13mol/Lに、pHを3.7から2.8にグラジエントで変化させる。尚、このグラジエントを行う時間は、分析プログラムと保持時間のずれを考慮し、PheからHomocysが溶出される時間(保持時間)で行い、且つ、Tyrが溶出される時間まではリチウムイオン濃度が0.255mol/Lを超えないようにする。本発明の分析プログラムでは31分〜39分の間となる。
【0050】
(2)Trp〜Ans間の分離とCar〜Arg間の分離を改善するためには、リチウムイオン濃度を1.02mol/L、pHを6.15とする。本発明の分析プログラムではB4とB5の混合(B4比率70%)で実施する。
【0051】
また、このリチウムイオン濃度、pHにする時間は、分析プログラムと保持時間のずれを考慮し、1Mehis〜Lysが溶出される時間(保持時間)で行うようにする。本発明の分析プログラムでは、48分〜53分の間となる。また、このリチウムイオン濃度を1.02mol/L、pHを6.15とする時間を早めることにより、Car〜Arg間の分離を改善することができる。さらに、このリチウムイオン濃度を1.02mol/L、pHを6.15とする時間を遅くすることにより、3Mehis〜Lys間の分離を改善することができる。
【0052】
(3)Homocys〜μ−ABA間の分離バランスを改善するためには、カラム温度を70℃とする時間を調整する。本発明の分析プログラムでは、29分で56℃から70℃へ切り替えている。
【0053】
尚、本発明の分析プログラムにおける48分から53分の間のB4とB5の混合は、緩衝液を更にもう1種加えることによっても、図1(A)と同等のクロマトグラムを得ることができる。即ち、分析プログラムの43分においてステップワイズに変化させることにより、B4比率100%から、新たな緩衝液(リチウムイオン濃度1.02mol/L、pH6.15)の比率100%に切り替え、更に、分析プログラムの53分でB5比率100%に切り替えるという方法である。
【0054】
本発明の実施形態における分析プログラムを採用したことによる効果を纏めると以下のようになる。
(1)緩衝液切り替え時間の適正化によって、42成分を同時に分析した場合でも各成分のピークがバランスよく分離でき、且つ、分析時間も75分に抑えることが出来た。
(2)これにより、臨床検査で求められる、ハイスループットを実現することが出来た。
(3)分析装置のハードウェアや、分離カラムを変更することは必須ではない。アプリケーションのみの改善によっても、42成分の分離が実現した。
(4)得られる分析結果ではLysが3Mehisの後に溶出する。これにより、Lysが多量に含まれる生体試料を分析した場合でも、分離のバランスが損なわれることが無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(A)は本発明の分析プログラムによる42成分のアミノ酸を分離したクロマトグラム、(B)は従来の分析プログラムによるクロマトグラムである。
【図2】本発明で使用するアミノ酸分析装置の概略流路図である。
【図3】本発明の分析プログラムである。
【図4】従来の分析プログラムである。
【図5】緩衝液のリチウムイオン濃度(pHは一定)と各成分の保持時間との関係を表すグラフである。
【図6】緩衝液のpH(リチウムイオン濃度は一定)と各成分の保持時間との関係を表すグラフである。
【図7】31分から始まるB3の0%から100%までのグラジエント勾配による、γ−ABA〜EOHNH2間の分離改善を示す図である。
【図8】48分から53分の間で、緩衝液B4=100%の場合(B)と、緩衝液B4=60%かつB5=40%の場合(A)の状態を示す図である。
【図9】緩衝液B4=70%、B5=30%に切り替える時間を変化させたときの分離改善の様子を示す図である。
【図10】カラム温度切り替え開始時間の変更によるHomocys〜γ−ABA間の分離改善を示す図である。
【図11】(A)は本発明の分析プログラムのリチウムイオン濃度グラフ、(B)は従来の分析プログラムのリチウムイオン濃度グラフである。
【図12】(A)は本発明の分析プログラムのpHグラフ、(B)は従来の分析プログラムのpHグラフである。
【図13】緩衝液のpH(リチウムイオン濃度は1.13mol/Lで一定)と各成分の保持時間との関係を表すグラフである。
【図14】緩衝液のリチウムイオン濃度(pHは2.80で一定)と各成分の保持時間との関係を表すグラフである。
【図15】各イオン交換樹脂についての線速度uとセパレーションインピーダンスEの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1〜4…緩衝液、5…再生液、6…電磁弁シリーズ、7…緩衝液ポンプ、8…アンモニアフィルタカラム、9…オートサンプラ、10…分離カラム、11…ニンヒドリン試薬、12…ニンヒドリンポンプ、13…ミキサ、14…反応カラム、15…検出器、16…データ処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含む複数種類の緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液中のアミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析法において、前記試料が導入される緩衝液の所定のリチウムイオン濃度およびpH値を、予め定めた成分が溶出される時間までは所定のリチウムイオン濃度を維持し、予め定めた他の成分が溶出される時間以降に、緩衝液の所定のリチウムイオン濃度よりも高くし、pH値を低下させる段階を含むことを特徴とするアミノ酸分析法。
【請求項2】
複数の成分を含む複数種類の緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析法において、前記試料が導入される緩衝液のリチウムイオン濃度を、少なくともチロシン(Tyr)が溶出される時間までは0.255mol/L以下とし、フェニルアラニン(Phe)からホモシスチン(Homocys)が溶出される時間では、緩衝液のリチウムイオン濃度を0.255mol/Lより大で1.13mol/L以下の濃度に上昇させることを特徴とするアミノ酸分析法。
【請求項3】
前記生体液中のアミノ酸類縁物質は所定の42種類であって、前記アミノ酸分析を1時間以内で完了するように準備されたプログラムによって行うことを特徴とする請求項1又は2記載のアミノ酸分析法。
【請求項4】
前記アミノ酸類縁物質は、ホスホセリン(P−Ser)、タウリン(Tau)、ホスホエタノールアミン(PEA)、ウレア(Urea)、アスパラギン酸(Asp)、ハイドロキシプロリン(Hypro)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(AspNH2)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(GluNH2)、サルコシン(Sar)、α−アミノアジピン酸(α−AAA)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、シトルリン(Cit)、α−アミノ−n−酪酸(α−ABA)、バリン(Val)、シスチン(Cys)、メチオニン(Met)、シスタチオニン(Cysthi)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、チロシン(Tyr)、フェニルアラニン(Phe)、β−アラニン(β−Ala)、β−アミノイソ酪酸(β−AiBA)、γ−アミノ−n−酪酸(γ−ABA)、エタノールアミン(EOHNH2)、アンモニア(NH3)、ハイドロキシリジン(Hylys)、オルニチン(Orn)、1−メチルヒスチジン(1Mehis)、ヒスチジン(His)、3−メチルヒスチジン(3Mehis)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、アンセリン(Ans)、カルノシン(Car)、アルギニン(Arg)の42種であることを特徴とする請求項1又は2記載のアミノ酸分析法。
【請求項5】
リジン(Lys)の溶出後にトリプトファン(Trp)が溶出されることを特徴とする請求項1又は2記載のアミノ酸分析法。
【請求項6】
第1のリチウムイオン濃度から第2のリチウムイオン濃度に切り替える時間は、分離カラムからの溶出開始後30分近傍であることを特徴とする請求項1又は2記載のアミノ酸分析法。
【請求項7】
複数の緩衝液を各緩衝液ごとに設けられたバルブを調整することで混合し、当該混合された緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析装置において、前記混合後の緩衝液の所定のリチウムイオン濃度およびpH値を予め定めた物質が溶出されるまでは維持し、その後予め定めた他の成分が溶出された時間以降は、緩衝液の所定のリチウムイオン濃度を上昇させ、pH値を低下させる段階を実行するように前記バルブを制御する分析プログラムを格納する記憶装置と、該プログラムに従って緩衝液の流量調整を行う制御装置とを有することを特徴とするアミノ酸分析装置。
【請求項8】
複数の緩衝液を各緩衝液ごとに設けられたバルブを調整することで混合し、当該混合された緩衝液に試料を導入し、分離カラムを通過させて、生体液アミノ酸類縁物質を検出対象とした生体液分析を行うアミノ酸分析装置において、前記混合後の緩衝液のリチウムイオン濃度が、少なくともTyrが溶出される時間まで0.255mol/L以下であり、且つ、PheからHomocysが溶出される時間では、緩衝液のリチウムイオン濃度が0.255mol/Lより大で1.13mol/L以下に上昇するように前記バルブを制御する分析プログラムを格納する記憶装置と、該プログラムに従って緩衝液の流量調整を行う制御装置とを有することを特徴とするアミノ酸分析装置。
【請求項9】
液体クロマトグラフィにより複数種の緩衝液を用いて、生体液試料中の40種以上のアミノ酸を溶出して分析クロマトグラムを作成し、該クロマトグラムを表示装置に表示して、該クロマトグラムを解析して所定のアミノ酸分析を行う方法であって、該表示装置に、3−メチルヒスチジン(3Mehis)、リジン(Lys)およびトリプトファン(TRP)の順で溶出したアミノ酸のクロマトグラムを表示することを特徴とするアミノ酸分析装置。
【請求項10】
リジン(Lys)の溶出後にトリプトファン(Trp)が溶出されることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のアミノ酸分析装置。
【請求項11】
リチウムイオン濃度を上昇させる時間は、分離カラムからの溶出開始後30分近傍であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載のアミノ酸分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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