アミノ酸転移酵素
【課題】 多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が可能なスクリーニング方法およびそれにより得られた組換アミノ酸転移酵素を提供する。
【解決手段】 活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供し、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する。このスクリーニング方法によれば、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が可能となる。前記組換アミノ酸転移酵素は、例えば、アミノペプチダーゼの活性中心セリン残基をシステインに置換することで得られる。この組換アミノ酸転移酵素によれば、例えば、アミノ酸誘導体を基質として、ジペプチドが環化したジケトピペラジンが合成できる。
【解決手段】 活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供し、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する。このスクリーニング方法によれば、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が可能となる。前記組換アミノ酸転移酵素は、例えば、アミノペプチダーゼの活性中心セリン残基をシステインに置換することで得られる。この組換アミノ酸転移酵素によれば、例えば、アミノ酸誘導体を基質として、ジペプチドが環化したジケトピペラジンが合成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法および組換アミノ酸転移酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能を持つジペプチドおよびその誘導体が、食品や医薬品等の原料素材として注目を集めている。このようなジペプチドとしては、例えば、アスパルテーム(aspartame)、環状アルギニル−プロリン(cyclo(LR-DP))、デヒドロフェニルアヒスチン(dehydrophenylahistin)、バリル−チロシン(LV-LY)およびアラニル−チロシン(LA-LY)が知られている。アスパルテームは、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルであり、甘味は砂糖の約180倍である。環状アルギニル−プロリンは、キチナーゼ(chitinase)の特異的阻害剤であり、抗カビ剤および殺虫剤の用途が期待されている。デヒドロフェニルアヒスチンは、細胞分裂阻害作用を有し、新規抗がん剤としての用途が期待されている。バリル−チロシンは、アンジオテンシンI変換酵素活性を阻害する機能を有する。アラニル−チロシンは、水への溶解度が低いチロシンの有力な供給源になる。
【0003】
ジペプチドの製造方法は、化学合成法と酵素合成法とに大別され、酵素合成法は、温和な反応条件での合成が可能であること、副生成物が少ないこと等の利点を有する。酵素合成法としては、例えば、サーモリシン等のメタロペプチダーゼ、アミノアシル−tRNA合成酵素、アラニンリガーゼ、又は非リボソームペプチド合成酵素を用いる方法等が知られている。このなかで、エステル結合のアミノ分解反応を含む酵素合成法(特許文献1)は、サーモリシン等を用いる酵素合成法と異なり、基質として化学的N−保護アミノ酸を必要とせず、遊離アミノ酸とアミノアシルメチルエステルとからジペプチドを合成することが可能である。しかしながら、従来の酵素合成法で使用されている酵素の中には、コストが高いものもあり、また、基質特異性に偏りがあるため、例えば、バリル−チロシンやアラニル−チロシン等のジペプチドを実用化レベルで製造できないといった問題があった。この問題に対し、ペプチダーゼファミリー28に属する熱安定性アミノペプチダーゼを用いた酵素合成法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/010307号パンフレット
【特許文献2】特開2007−319063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2の方法は、合成されるジペプチドの種類の幅を広げ、例えば、疎水性のアミノ酸を含むジペプチドを合成でき、またジペプチドの構造の制御も可能な方法である。しかも、前記特許文献2の方法は、高収率、高速および簡便にジペプチドを合成可能である。一方、ジペプチドを含むオリゴペプチドに関しては、様々な機能が期待されている。このため、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が可能なスクリーニング方法およびそれにより得られた組換アミノ酸転移酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のスクリーニング方法は、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前記本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニン、アスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等は、多様な構造のオリゴペプチドを製造するための酵素を開発するために、一連の研究を重ねたところ、酵素の活性中心であるセリン残基を置換するという着想を得た。この着想を基に、アミノペプチダーゼの活性中心を、遺伝子組み換え技術によってシステイン残基等のセリン残基以外のアミノ酸残基に置換したところ、後述するように、直鎖状ジペプチドに加え、環状ジペプチド、トリペプチドおよびテトラペプチド等も合成可能な酵素が得られることを見出し、本発明に至った。本発明では、組換アミノ酸転移酵素を用いるため、酵素を、低コストで、簡便にかつ高収率で得ることが可能であるため、オリゴペプチドの酵素合成法を、実用化(工業化)することも容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図2】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図4】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析およびMS/MS分析の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図6】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3および4における、アミノリシンSのアミノ酸結合活性の濃度による変化および経時的変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例4における、アミノリシンSの至適pHを示すグラフである。
【図9】本発明の実施例4における、DMSO存在下でのアミノリシンSの活性を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例4における、アミノリシンS活性の処理温度および高温処理時間による変化を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例4における、アミノリシンSの活性とLF濃度またはLW濃度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例5における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図13】本発明の実施例5における、アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例6における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図15】本発明の実施例6における、アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例7における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムおよびMS/MS分析の結果を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例7における、MS/MSスペクトルから推定されるイオンを示す。
【図18】参考例における、アミノペプチダーゼS9AP−STの活性を示すグラフである。
【図19】本発明の実施例9における、プロリンベンジルエステルを含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図20】本発明の実施例9における、プロリンベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図21】本発明の実施例9において、各pHにおけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図22】本発明の実施例9において、各酵素量におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図23】本発明の実施例9において、各基質濃度におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図24】本発明の実施例9において、各反応時間におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図25】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図26】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図27】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図28】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体のlogPとそれに対応するジペプチドエステルの生成を示すグラフである。
【図29】本発明の実施例12における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラム結果を示す。
【図30】本発明の実施例12における、フェニルアラニンアミドを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図31】本発明の実施例12における、フェニルアラニンメチルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図32】本発明の実施例12における、フェニルアラニンエチルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図33】本発明の実施例12における、D−体フェニルアラニンメチルエステルまたはベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図34】本発明の実施例12における、L−体またはD−体ロイシンベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図35】本発明の実施例13における、アミノ酸を含む反応液のイオンクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のスクリーニング方法は、前述のように、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、
活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、
前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明のスクリーニング方法において、前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基は、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つの残基であることが好ましい。
【0013】
本発明のスクリーニング方法において、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることが好ましい。
【0014】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前述のように、本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、
前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素がアミノペプチダーゼであることを特徴とする。
【0015】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、後述する反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒することが好ましい。
【0016】
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法について、以下に説明する。
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、前述のように、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、以下、活性中心がセリン残基である酵素を、「非置換型酵素」といい、前記非置換型酵素の活性中心のセリン残基を他のアミノ酸残基に置換して得られる組換アミノ酸転移酵素を、「置換型アミノ酸転移酵素」または「置換型組換アミノ酸転移酵素」ともいう。なお、本発明において、前記非置換型酵素とは、活性中心のセリン残基が他のアミノ酸残基に置換されていないことを意味し、その他のアミノ酸残基の置換の有無を意味するものではない。また、「活性中心がセリン残基である酵素」とは、例えば、活性中心を形成するアミノ酸残基の少なくとも一つがセリン残基である酵素をいう。
【0019】
前記アミノ酸転移酵素とは、アミノ酸の転移を触媒する酵素であり、例えば、アシルトランスフェラーゼ、アミノアシルトランスフェラーゼ、トランスアミノペプチダーゼともいう。
【0020】
本発明においては、活性中心がセリン残基である所望の酵素について、前記セリン残基を他のアミノ酸残基に置換して、組換アミノ酸転移酵素を提供し、前記組換アミノ酸転移酵素が、他のアミノ酸残基への置換により新規な酵素反応を発揮するか否かを判定することがポイントである。したがって、組換アミノ酸転移酵素の提供にあたって、活性中心がセリン残基である非置換型酵素の種類や、セリン残基を他のアミノ酸残基へ置換する方法は、何ら制限されない。
【0021】
前記非置換型酵素の由来は、何ら制限されず、例えば、自然界由来の酵素であってもよいし、人工的に構築された酵素であってもよい。本発明においては、このような活性中心がセリン残基である非置換型酵素について、前述のように他のアミノ酸残基への置換を行って置換型組換アミノ酸転移酵素を提供すればよい。前記自然界の由来としては、前述のように、特に制限されず、例えば、細菌等の微生物、ヒト、マウス等の哺乳類を含む動物、昆虫、植物等があげられる。前記細菌としては、例えば、一例として、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)、さらに好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271があげられる。この他にも、例えば、ストレプトマイセス・サーモルテウス(Streptomyces thermoluteus)NBRC14269、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068等があげられる。
【0022】
本発明において、前記非置換型酵素の種類は、何ら制限されず、活性中心がセリン残基の酵素であればよい。前記非置換型酵素としては、例えば、アミノ酸を遊離する活性を示すアミノペプチダーゼ(EC3.4.11群)、アミノ酸転移酵素等があげられる。
【0023】
本発明において、前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基は、特に制限されないが、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸等があげられ、中でも、好ましくは、アラニン、グリシンまたはシステインであり、より好ましくはシステインである。
【0024】
前記非置換型酵素のセリン残基を他のアミノ酸残基へ置換する方法としては、何ら制限されず、例えば、遺伝子工学的手法等の従来公知の方法が使用できる。具体例としては、例えば、活性中心がセリン残基である非置換型酵素をコードする核酸について、前記活性中心のセリン残基に対応するコドンを、他のアミノ酸残基に対応するコドンに置換する方法があげられる。このように、活性中心のセリン残基に対応するコドンを他のアミノ酸に対応するコドンに置換した核酸から、タンパク質を発現させることによって、活性中心のセリン残基が他のアミノ酸に置換された組換アミノ酸転移酵素を得ることができる。前記核酸としては、例えば、DNAでもRNAでもよく、また、PNA等の人工核酸を含んでもよい。
【0025】
前記セリン以外のアミノ酸に対応するコドンに置換した核酸からのタンパク質の発現方法は、何ら制限されず、従来公知の方法が採用できる。具体例としては、例えば、以下に示すような方法があげられる。まず、セリン以外のアミノ酸に対応するコドンに置換した前記核酸を準備し、これをベクターに挿入して発現ベクターを作製する。そして、前記発現ベクターを宿主に導入し、形質転換体を得て、前記形質転換体を培養する。前記培養により前記形質転換体においてタンパク質が発現するため、セリン残基を他のアミノ酸残基に置換した目的のタンパク質を得ることができる。
【0026】
前記核酸を挿入する前記ベクターの種類は、何ら制限されず、例えば、宿主の種類に応じて適宜設定できる。前記ベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド、放線菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージ、人工プラスミド等があげられ、具体例としては、例えば、pIJ702、pACYC177、pACYC184、pBluescript、pBR322、pHSG367、pNUT4、pTrc99A、pUC19、pUB110、YEp13、λgt10、pTONA5a、pET28等があげられる。また、前記ベクターは、例えば、さらに、発現を制御する配列や、形質転換体を選択するための選択マーカーの配列等を有してもよい。前記発現を制御する配列としては、特に制限されないが、例えば、プロモーター、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等があげられる。前記選択マーカー配列としては、特に制限されないが、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等があげられる。前記ベクターに前記核酸を挿入する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用でき、例えば、前記核酸を適当な制限酵素で切断した後、前記ベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに連結する方法等があげられる。
【0027】
前記宿主の種類は、特に制限されず、例えば、前記発現ベクターの種類等に応じて、適宜決定できる。前記宿主としては、例えば、大腸菌、酵母、糸状菌、放線菌、COS細胞、CHO細胞、Sf9細胞等の細胞があげられる。前記大腸菌としては、特に制限されないが、例えば、S17−1、BL21(DE3)、Rosetta2(DE3)、Rosetta−gami2(DE3)等があげられる。前記宿主への前記発現ベクターの導入方法としては、特に制限されず、例えば、エレクトロポレーション法、プロトプラスト−PEG法、アグロバクテリウム法、Li法、Biolistic法、パーティクル・ガン法等の従来公知の方法を適宜採用できる。
【0028】
また、前記形質転換体の培養条件は、何ら制限されず、例えば、宿主、発現ベクター等の種類に応じて、温度、時間、pH、培地等の条件を適宜決定できる。
【0029】
前記形質転換体の培養により発現した置換型組換アミノ酸転移酵素は、例えば、培養液、培養液の上清、培養液の沈殿物、培養細胞、培養細胞の抽出物等から採取できる。前記置換型組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記培養物から精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、硫安沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の従来公知の方法を採用できる。
【0030】
前記酵素反応の判定工程において、その判定手法は、何ら制限されない。具体例としては、例えば、活性中心がセリン残基である非置換型酵素では基質となり得ない基質を用いて、置換型組換アミノ酸転移酵素を用いた酵素反応を行い、生成物の有無を確認する方法があげられる。この方法によれば、例えば、セリン残基の置換により、置換型組換アミノ酸転移酵素が、非置換型酵素とは異なる基質特異性を有する酵素か否かを判定でき、新たな基質特異性を示す組換アミノ酸転移酵素を提供できる。また、置換型組換アミノ酸転移酵素を用いて酵素反応を行い、前記非置換型酵素の触媒反応による生成物とは異なる生成物の有無を確認する方法があげられる。この方法によれば、例えば、セリン残基の置換により、置換型組換アミノ酸転移酵素が、非置換型酵素とは異なる触媒反応を示す酵素か否かを判定でき、同じ基質であっても、非置換型酵素とは異なる生成物を生成可能な組換アミノ酸転移酵素を提供できる。なお、これらの判定手法は、一例であって、本発明を制限するものではない。
【0031】
前記判定工程における酵素反応の条件は、何ら制限されず、例えば、非置換型酵素を使用する際と同様の条件に設定することができる。
【0032】
<組換アミノ酸転移酵素>
つぎに、本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前述のように、本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニン、アスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であって、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする。
【0033】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、後述する反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒することが好ましい。
【0034】
反応(1)
【化1】
【0035】
前記反応(1)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、アミノ基(−NH2)、ベンゾキシ基(−OBzl)または水酸基(−OH)であり、R1は、例えば、下記の通りである。基質である各アミド化合物において、XおよびR1は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。前記反応において、例えば、一方のアミド化合物を構成するXが、水酸基(−OH)の場合は、他方のアミド化合物を構成するXは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であることが好ましい。前記反応においては、例えば、矢印で示すように、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド等のオリゴペプチドを合成することができ、さらに、反応を進めることで、前記ジペプチドから環化したジケトピペラジンを合成することもできる。
【化2】
【0036】
反応(2)
【化3】
【0037】
前記反応(2)において、Yは、例えば、ベンゾキシ基(−OBzl)またはエトキシ基(−OEt)であり、R2は、例えば、以下の通りである。基質である各アミド化合物において、R2は、同一でもよく、異なってもよい。このように、Yがベンゾキシ基であるアミド化合物を使用することにより、環化したジケトピペラジンを効率良く得ることができる。
【化4】
【0038】
前記反応(2)において、一方のアミド化合物のR2をベンジル基(−CH2−C6H5)、他方のアミド化合物のR2をパラヒドロキシベンジル基(−CH2−C6H4−OH)とした場合、下記式の化合物が得られる。
【化5】
【0039】
反応(3)
【化6】
【0040】
前記反応(3)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R3およびR3’は、例えば、下記の通りである。基質である各アミド化合物において、R3およびR3’は、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、R3は、例えば、フェニル基(−C6H5)であることが好ましい。
【化7】
【0041】
反応(4)
【化8】
【0042】
前記反応(4)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R4は、例えば、下記の通りである。
【化9】
【0043】
反応(5)
【化10】
【0044】
反応(6)
【化11】
【0045】
前記反応(6)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。また、R5は、例えば、ヒドロキシ基(−OH)であり、R6は、例えば、水素原子(−H)である。
【0046】
反応(7)
【化12】
【0047】
前記反応(7)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R7は、例えば、下記のとおりである。
【化13】
【0048】
反応(8)
【化14】
【0049】
前記反応(8)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。また、R8は、例えば、ヒドロキシ基(−OH)であり、R9は、例えば、水素原子(−H)である。
【0050】
本発明の組換アミノ酸転移酵素において、前記反応(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン残基に置換することで得られる。前記(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、Streptomyces thermocyaneoviolaceus NBRC14271由来アミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068由来アミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素等があげられる。また、前記反応(4)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記反応(5)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記反応(6)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られ、前記反応(7)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られ、前記反応(8)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記式(6)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、前記反応(4)または(5)を触媒する組換アミノ酸転移酵素と同様のものがあげられ、反応に応じた基質を使用することで、所望の反応を行うことができる。前記反応(4)、(5)および(7)を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus NBRC14270由来プロリルアミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素があげられる。
【0051】
前記アミノペプチダーゼの由来は、特に制限されないが、例えば、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、アシドサーマス属(Acidothermus)が好ましく、より好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)、さらに好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068である。
【0052】
また、本発明の第1の組換アミノ酸転移酵素は、下記(a)〜(c)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において、502番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列において、502番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号7で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0053】
前記(b)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0054】
前記(c)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)は、通常、2つのタンパク質のアミノ酸配列同士を適切に整列(アライメント)したときの同一性のパーセント値で表わすことができ、一般に、前記両アミノ酸配列間の正確な一致の出現率を意味する。同一性比較のための配列間での適切な整列は、種々のアルゴリズム、例えば、BLASTアルゴリズムを用いて決定できる(Altschu SF、外4名、J Mol Biol、1990年10月5日、第215巻、第3号、p.403−410)。
【0055】
本発明の第2の組換アミノ酸転移酵素は、下記(d)〜(f)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(d)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列において、144番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(f)配列番号17で表されるアミノ酸配列において、144番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号17で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0056】
前記(e)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0057】
前記(f)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)の意味は、前述と同様である。また、同一性比較のための配列間での適切な整列は、前述と同様にして決定できる。
【0058】
本発明の第3の組換アミノ酸転移酵素は、下記(g)〜(i)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(g)配列番号22で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(h)配列番号22で表されるアミノ酸配列において、491番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(i)配列番号22で表されるアミノ酸配列において、491番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号22で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0059】
前記(h)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0060】
前記(i)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)の意味は、前述と同様である。また、同一性比較のための配列間での適切な整列は、前述と同様にして決定できる。
【0061】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質であることが好ましい。
【0062】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、下記(x1)〜(x3)の性質であることを特徴とする。
(x1)分子量が30〜80kDaの範囲
(x2)至適pHが5〜8の範囲
(x3)至適温度が30〜60℃の範囲
【0063】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質であることが好ましい。
【0064】
前記(x1)において、分子量は、好ましくは、30〜80kDaであり、特に好ましくは45〜80kDaである。前記(x2)において、至適pHは、好ましくは、5〜8であり、特に好ましくは6〜7.7である。前記(x3)において、至適温度は、好ましくは、30〜60℃であり、特に好ましくは30〜50℃である。
【0065】
<組換アミノ酸転移酵素遺伝子>
本発明の第1のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(A)〜(D)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(A)〜(D)は、配列番号8で表される塩基配列において、例えば、1112〜1114番目がシステインのコドンtgcである。
(A)配列番号8で表される塩基配列からなる核酸
(B)配列番号8で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(C)配列番号8で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(D)配列番号8で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0066】
前記(B)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、当該技術分野の当業者において、周知のハイブリダイゼーションの実験条件である。具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、0.7〜1mol/LのNaCl存在下、60〜68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍のSSC溶液を用い、65〜68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。なお、1×SSCとは、150mmol/LのNaCl、15mmol/Lクエン酸ナトリウムからなる。
【0067】
前記(C)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、BLAST等を用いてデフォルトの条件で計算することにより、求めることができる。
【0068】
前記(D)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0069】
前記(B)、(C)および(D)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0070】
本発明の第2のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(E)〜(H)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(E)〜(H)は、配列番号18で表される塩基配列において、例えば、430〜432番目がシステインのコドンtgcである。
(E)配列番号18で表される塩基配列からなる核酸
(F)配列番号18で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(G)配列番号18で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(H)配列番号18で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0071】
前記(F)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、前述と同様の実験条件である。
【0072】
前記(G)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、前述と同様にして、求めることができる。
【0073】
前記(H)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0074】
前記(F)、(G)および(H)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0075】
本発明の第3のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(I)〜(L)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(I)〜(L)は、配列番号23で表される塩基配列において、例えば、1471〜1473番目がシステインのコドンtgtである。
(I)配列番号23で表される塩基配列からなる核酸
(J)配列番号23で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(K)配列番号23で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(L)配列番号23で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0076】
前記(J)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、前述と同様の実験条件である。
【0077】
前記(K)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、前述と同様にして、求めることができる。
【0078】
前記(L)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0079】
前記(J)、(K)および(L)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0080】
<発現ベクター>
本発明の発現ベクターは、本発明の組換アミノ酸転移酵素遺伝子を含むことを特徴とする。本発明の発現ベクターは、本発明の組換アミノ酸転移酵素遺伝子を含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の発現ベクターは、例えば、宿主内で複製可能なベクターに前記組換アミノ酸転移酵素遺伝子を連結することにより調製できる。前記遺伝子を連結する前記ベクターとしては、特に制限されず、例えば、前述のものが使用できる。
【0081】
<形質転換体>
本発明の形質転換体は、前記本発明の発現ベクターを含むことを特徴とする。本発明の形質転換体は、本発明の発現ベクターを含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の形質転換体は、例えば、宿主に前記発現ベクターを導入することにより調製できる。前記宿主としては、特に制限されず、例えば、前述のものが使用できる。
【0082】
このような本発明のアミノ酸転移酵素遺伝子、発現ベクターまたは形質転換体によれば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素を容易に製造することができる。
【0083】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
本例では、活性中心をシステインに置換した、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)由来トランスアミノペプチダーゼ(以下、「アミノリシンS」という。)を、以下のようにして作製した。
【0085】
[S9AP−ST遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)由来アミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「S9AP−ST」という)をクローニングした。
【0086】
ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271の菌体より、ホップウッドらの方法(Hopwood, D.A.Bibb, M.J.Chater, K.F.Kieser, T.Bruton, C.J.Kieser, H.M.Lydiate, D.J.Smith, C.P.Ward, J.M.Schrempf,H.A Laboratory Manual; The John Ines Foundation:Norwich, CT, 1985, pp.70−84.)によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、アシルペプチド加水分解酵素と推定される遺伝子の保存領域から、以下に示す配列番号1のセンスプライマー1および配列番号2のアンチセンスプライマー1を合成した。前記アシルペプチド加水分解酵素と推定される遺伝子としては、ストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 1898およびストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 6488を用いた。なお、下記プライマーの配列において、Sは、グアニンまたはシトシンを表す。
【0087】
センスプライマー1:(配列番号1)
5′−GSGTSATCGAGTACGGAGG−3′
アンチセンスプライマー1:(配列番号2)
5′−CCGTGSCCCTCSCCCTCGAA−3′
【0088】
前記調製したゲノムDNA、センスプライマー1およびアンチセンスプライマー1を用いてPCRを行い、DNAを増幅させた。増幅したDNA断片(1.5kbp)を、PCRクローニングキット(商品名「Zero Blunt(登録商標)II TOPO(登録商標)」、インビトロジェン社製)を用いてクローニングし、塩基配列を決定した。また、制限酵素PvuIIを用いた逆PCR法により、5′および3′領域の配列情報を得た。そして、開始コドンの上流側にNdeI部位を導入するセンスプライマー2(配列番号3)と、停止コドンの下流側にHindIII部位を導入するアンチセンスプライマー2(配列番号4)とを用いて、増幅したDNA断片をPCRにより増幅した。なお、下記センスプライマー2の配列において、下線部の3塩基は開始コドンであり、下記アンチセンスプライマー2の配列において、下線部の3塩基は停止コドンである。
【0089】
センスプライマー2:(配列番号3)
5′−CATATGTCGGACGTACAGACCC−3′
アンチセンスプライマー2:(配列番号4)
5′−AAGCTTCACGTGTGCAGCTCCA−3′
【0090】
増幅したDNA断片(2kbp)を、前述のPCRクローニングキットを用いてクローニングし、塩基配列を決定した。そして、制限酵素NdeIおよびHindIIIを用いて、前記DNA断片を消化し、前記S9AP−STをコードするDNA断片を得た。得られたDNA断片を、プラスミドpET 28a(+)(ノバジェン社製)のNdeI−HindIIIギャップに導入し、S9AP−STアミノペプチダーゼを発現するプラスミドpET28−His6−S9AP−STを構築した。なお、この発現ベクターは、N末端にHis6−tagを含むように設計した。前記S9AP−STの全塩基配列は、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にアクセッション番号AB480284として登録されている。
【0091】
[アミノペプチダーゼS9AP−STの発現]
つぎに、商品名「Overnight Express(商標)system 1」(ノバジェン社製)を用いて、以下のようにして、前記S9AP−STアミノペプチダーゼを過剰発現させた。
【0092】
まず、前記製品付属の使用説明書に従い、製品付属の培地(Overnight Express(商標)Instant TB medium)50mLに、前記発現プラスミドを有するRosetta(商標)2(DE3)pLysS(ノバジェン社製)のコロニーを植菌し、30℃、回転数180rpmの条件下で、16時間回転振とう培養した。培養終了後、遠心分離により細胞を回収し、商品名「Elestin NP035SP」(ネパジーン社製)を用いて、1分間隔で、最大出力で合計30分間、超音波処理した。得られた細胞除去抽出物を、His−タグ精製レジン(商品名「Talon(登録商標)Metal affinity resin」、クロンテック社製)を用いて、製品付属の使用説明書に従い精製した。精製タンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質であることを確認した。
【0093】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、以下のようにして、前記アミノペプチダーゼS9AP−STの変異タンパク質(以下、「アミノリシンS」という)を構築した。
【0094】
まず、下記のセンスプライマー3(配列番号5)およびアンチセンスプライマー3(配列番号6)を用いて、前記プラスミドpET28−His6−S9AP−STをPCRに供した。なお、下記センスプライマー3の配列は、S9AP−STの1505番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、1487−1516番目の塩基配列に相当し、下線部はBalI部位である。また、下記アンチセンスプライマー3の配列は、下線部がHindIII部位であり、その3´側に停止コドンTCAを有する。
【0095】
センスプライマー3:(配列番号5)
5′−TGGCCATCCGCGGCGGCTGCGCCGGCGGCT−3′
アンチセンスプライマー3:(配列番号6)
5′−AAGCTTCACGTGTGCAGCTCCA−3′
【0096】
増幅したDNA断片(0.5kbp)を、前述のPCRクローニングキットを用いてクローニングし、塩基配列を決定した。前記DNA断片を、制限酵素BalIおよびHindIIIで消化し、DNA断片を得た。得られたDNA断片を、pET28−His6−S9AP−STのBalI−HindIIIギャップに導入し、プラスミドpET28−His6−S502Cを構築し、塩基配列を決定した。前記プラスミドpET28−His6−S502Cを使用し、Rosetta(商標)2(DE3)pLysS(ノバジェン社製)を形質転換させた。なお、この発現ベクターは、N末端にHis6−tagを含むように設計した。
【0097】
前記プラスミドpET28−His6−S502Cをプラスミドとして用いたこと以外は、前述と同様にして、アミノリシンSを過剰発現させ、精製した。前記アミノリシンSのアミノ酸配列を、配列番号7に示し、前記アミノ酸配列をコードする塩基配列を、配列番号8に示す。前記アミノリシンSは、配列番号7のアミノ酸配列において502番目のシステインは、野生型のセリンから置換されたものである。
【0098】
<実施例2>
[アミノ酸誘導体に対する反応性評価]
基質として、下記表1記載のアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、本発明のアミノリシンSの前記基質に対する反応性を評価した。下記表1において、O−Meは、メトキシ基を表し、O−Bzlは、ベンゾキシ基を表し、O−Etは、エトキシ基を表す(以下、同様)。また、実施例において、アミノ酸およびアミノ酸誘導体におけるアミノ酸残基を、下記表1のように、省略形または一文字表記で記載することもある。
【0099】
【表1】
【0100】
まず、アミノリシンS 10μgを含む0.5mol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に、前記各アミノ酸誘導体を20mmol/Lの濃度となるように加え、50℃で23時間反応させた。なお、前記緩衝液には、前記反応液の最終容量が100μLとなるように、5体積%のDMSOを添加した。反応終了後、3体積%のギ酸100μLを加えて反応を停止させ、遠心分離した。遠心分離後、上層20μLを採取し、ODS−HPLC/UV/MS分析に供した。なお、前記ODS−HPLC/UV/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。
【0101】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有アセトニトリル、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:15%溶媒B
同 5−30分後:溶媒B濃度を15%から50%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 30−35分後:50%溶媒B
同 35−40分後:溶媒B濃度を50%から80%に変化させる
直線勾配グラジェント
検出条件: UV210nmの吸収
【0102】
前記表1記載のアミノ酸誘導体を用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、前記10のアミノ酸誘導体と、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0103】
図1のグラフに、前記No.1〜3のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.1、3、2のアミノ酸誘導体の結果である。同図中の(a)〜(k)は、検出された各ピークである。同図の上段に示すように、No.1(L−フェニルアラニンアミド、LF−NH2)を基質とする反応の結果、(a)〜(c)のピークに示される、3つの生成物が確認された。また、同図の中段に示すように、No.3(エトキシ−L−フェニルアラニン、LF−O−Et)を基質とする反応の結果、(d)〜(g)のピークに示される、4つの生成物が確認された。そして、同図の下段に示すように、No.2(メトキシ−L−フェニルアラニン、LF−O−Me)を基質とする反応の結果、(h)〜(k)のピークに示される、4つの生成物が確認された。
【0104】
図2に、図1における前記ピーク(a)〜(k)のMS分析結果を示す。
【0105】
図2において、グラフ(a)、(b)および(c)は、それぞれ、図1のピーク(a)、ピーク(b)およびピーク(c)のMSスペクトルプロファイルである。図2(a)〜(c)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(a)の生成物は、LF−NH2にLFが結合したLF−LF−NH2であり、図1のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図1のピーク(c)の生成物は、LF−NH2に2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−NH2であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.1(LF−NH2)のC末端側にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−NH2およびLF−LF−LF−NH2が生成した。
【0106】
図2において、グラフ(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図1のピーク(d)、ピーク(e)、ピーク(f)およびピーク(g)のMSスペクトルプロファイルである。図2(d)〜(g)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(d)の生成物は、LF−LFであり、図1のピーク(e)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図1のピーク(f)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図1のピーク(g)の生成物は、LF−O−Etに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−O−Etであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.3(LF−O−Et)にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF、LF−LF−LF−O−Et、および、ジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。なお、以下、ジペプチドが環化したものを、シクロジペプチドともいう。
【0107】
図2において、グラフ(h)、(i)、(j)および(k)は、それぞれ、図1のピーク(h)、(i)、(j)および(k)のMSスペクトルプロファイルである。図2(h)〜(k)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(h)の生成物は、LF−LFであり、図1のピーク(i)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図1のピーク(j)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図1のピーク(k)の生成物は、LF−O−Meに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.2(LF−O−Me)にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF、LF−LF−LF−O−Me、およびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0108】
図3のグラフに、No.4〜7のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.4、5、6、7のアミノ酸誘導体の結果である。また、同図中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図の上段に示すように、No.4(LL−O−Me)に対する反応の結果、(a)および(b)のピークに示される、2つの生成物が確認された。また、同図の2段目に示すように、No.5(LL−O−Et)に対する反応の結果、(c)〜(e)のピークに示される、3つの生成物が確認された。そして、同図の3段目に示すように、No.6(LL−O−Bzl)に対する反応の結果、(f)のピークに示される、1つの生成物が確認された。さらに、同図の4段目に示すように、No.7(DL−O−Bzl)に対する反応の結果、(g)のピークに示される、1つの生成物が確認された。
【0109】
図4に、図3における前記ピーク(a)〜(g)のMS分析結果およびMS/MS分析結果を示す。
【0110】
図4において、グラフ(a)は、上段が、図3のピーク(a)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(a)のMS/MSスペクトルプロファイルである。図4において、グラフ(b)は、図3のピーク(b)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(a)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図3のピーク(b)の生成物は、LL−O−Meに2分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.4(LL−O−Me)にL−ロイシンが転移したペプチドLL−LL−LL−O−Me、およびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0111】
図4において、グラフ(c)は、上段が、図3のピーク(c)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(c)のMS/MSスペクトルプロファイルである。図4において、グラフ(d)は、図3のピーク(d)のMSスペクトルプロファイルであり、グラフ(e)は、図3のピーク(e)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(c)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図3のピーク(d)の生成物は、LL−O−EtにLLが結合したLL−LL−O−Etであり、図3のピーク(e)の生成物は、LL−O−Etに2分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−O−Etであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.5(LL−O−Et)にL−ロイシンが転移したペプチド LL−LL−O−Et、LL−LL−LL−O−Et、およびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0112】
図4において、グラフ(f)は、上段が、図3のピーク(f)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(f)のMS/MSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(f)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.6(LL−O−Bzl)にL−ロイシンが転移したジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0113】
図4において、グラフ(g)は、上段が、図3のピーク(g)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(g)のMS/MSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(g)の生成物は、DL−DLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DL−DL)であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.7(DL−O−Bzl)にD−ロイシンが転移したジペプチドが環化したシクロ(DL−DL)が生成した。
【0114】
図5に、No.8〜10のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.8、10、9のアミノ酸誘導体の結果である。また、同図中の(a)〜(e)は、検出された各ピークを示す。同図の上段に示すように、No.8(LW−O−Me)に対する反応の結果、(a)および(b)のピークに示される、2つの生成物が確認された。また、同図の中段に示すように、No.10(LY−O−Me)に対する反応の結果、(c))のピークに示される、1つの生成物が確認された。そして、同図の下段に示すように、No.9(LM−O−Me)に対する反応の結果、(d)および(e)のピークに示される、2つの生成物が確認された。
【0115】
図6に、図5における前記ピーク(a)〜(e)のMS分析結果を示す。
【0116】
図6において、グラフ(a)および(b)は、それぞれ、図5のピーク(a)およびピーク(b)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(a)の生成物は、LW−LWのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LW−LW)であり、図5のピーク(b)の生成物は、LW−O−Meに2分子のLWが連続して結合したLW−LW−LW−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.8(LW−O−Me)にL−トリプトファンが転移したペプチド LW−LW−LW−O−Meおよびジペプチドが環化したシクロ(LW−LW)が生成した。
【0117】
図6において、グラフ(c)は、図5のピーク(c)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(c)の生成物は、LY−O−Meに2分子のLYが連続して結合したLY−LY−LY−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.10(LY−O−Me)にL−チロシンが転移したLY−LY−LY−O−Meが生成した。
【0118】
図6において、グラフ(d)および(e)は、それぞれ、図5のピーク(d)およびピーク(e)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(d)の生成物は、LM−LMのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LM−LM)であり、図5のピーク(e)の生成物は、LM−O−Meに2分子のLMが連続して結合したLM−LM−LM−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.9(LM−O−Me)にL−メチオニンが転移したペプチド LM−LM−LM−O−Meおよびジペプチドが環化したシクロ(LM−LM)が生成した。
【0119】
<実施例3>
[酵素量]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、酵素量によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価においては、前記アミノ酸誘導体に代えて、60mmol/L LFおよび0.5mmol/L LF−O−Etを使用し、アミノリシンS量を所定量(0、3.75、7.5、15、30μg)とし、反応時間を1時間としたこと以外は、実施例2と同様にして反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。なお、前記分析において、シグマ社製の試薬LF−O−EtおよびLF−LFのリテンション時間との比較から、LF−O−EtおよびLF−LFの検出を確認した。また、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの検出は、MSスペクトルにおけるm/z 295およびm/z 342の[M+H]+イオンから確認した。そして、下記式1を用いて、LF−O−EtからLF−LFへの変換率を算出した。
【0120】
(式1)
変換率(%)=(A/B)×100
A:生成LF−LFのモル数
B:基質として添加したLF−O−Etのモル数
【0121】
図7(A)のグラフに、酵素量による活性測定結果を示す。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、アミノリシンS濃度依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、アミノリシンS 30μgのとき、基質であるLF−O−Etが全て、他のペプチドに転換された。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。最も生成量の多いLF−LFの変換率は、約30%であった。
【0122】
<実施例4>
本発明のアミノリシンSについて、各種要因による酵素活性への影響を評価した。
【0123】
[反応時間]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、反応時間によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価においては、アミノリシンS量を10μgとし、反応時間を所定時間(0、0.5、1、1.5、2、3時間)としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。
【0124】
図7(B)のグラフに、反応時間による活性測定結果を示す。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、時間依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、反応時間が1.5時間を過ぎると、基質であるLF−O−Etが全て、他のペプチドに転換された。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0125】
[pH]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、pHによるアミノ酸結合活性をへの影響を評価した。すなわち、まず、80mmol/L LW、1mmol/L LF−NH2および1v/v% DMSOを添加した緩衝液 100μLに、アミノリシンS 10μgを加え、30℃で1時間反応させた。なお、前記緩衝液としては、所定pH(pH6.6、7.0、7.2、7.5および7.7)に調整した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、または所定pH(pH7.7、7.9、8.4、8.8および9.3)に調整した0.5mol/Lのホウ酸ナトリウム緩衝液を用いた。反応後、0.05v/v%のトリフルオロ酢酸を含む、20v/v%のアセトニトリル 100μLを加えて反応を停止させ、遠心分離した。上層の20μLを回収し、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、また、LF−LWの検出は、MSスペクトルにおけるm/z 334の[M+H]+イオンから確認した。そして、LF−LWの生成量を、UVクロマトグラム(測定波長210nm)における該当ピークのピーク面積から算出し、前記ピーク面積から、アミノ酸結合活性を評価した。
【0126】
図8のグラフに、pHによる活性測定結果を示す。同図において、横軸は、pHであり、縦軸は、前記LF−LWの生成量を示す。また、同図において、白丸(○)のスポットは、リン酸ナトリウム緩衝液を用いたpH6.6〜7.7の測定結果であり、白三角(△)のスポットは、ホウ酸ナトリウム緩衝液を用いたpH7.7〜9.3の測定結果である。同図に示すように、アミノリシンSは、pH6.6〜8.8で酵素活性が確認され、至適pHは、7.7であった。
【0127】
[DMSO]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、DMSOによるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価において、前記LFの濃度を40mmol/Lとし、アミノリシンS量を10μgとし、DMSOを所定濃度(5、10、15、20v/v%)としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。そして、得られた反応液を、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、LF−LFの検出は、実施例3と同様にして行った。また、下記式2を用いて、LF−LFの生成量から、比活性(%)を算出した。
【0128】
(式2)
比活性(%)=(C/D)×100
C:各濃度のDMSO添加区における生成LF−LFのモル数
D:DMSO添加濃度5%における生成LF−LFのモル数
【0129】
図9のグラフに、DMSOによる活性測定結果を示す。同図において、横軸は、反応液中のDMSO濃度(v/v%)であり、縦軸は、比活性(%)である。同図に示すように、DMSO 5体積%添加時と比較して、DMSO 10体積%添加時は約95%、DMSO 15体積%添加時は約90%、DMSO 20体積%添加時は約60%の比活性を有した。すなわち、本発明のアミノリシンSは、高濃度のDMSO条件下も、高い酵素活性を示した。
【0130】
[温度]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、処理温度によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。すなわち、まず、アミノリシンS 50μgを添加した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)50μLを、所定温度(20、30、40、50、60、70℃)で1時間処理し、処理液を調製した。そして、前記リン酸ナトリウム緩衝液90μLに、アミノリシンSに代えて前記処理液10μLを添加したこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。得られた反応液10μLを回収し、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、LF−LFの検出は、実施例3と同様にして行った。また、下記式3を用いて、LF−LFの生成量から、比活性(%)を算出した。
【0131】
(式3)
比活性(%)=(E/F)×100
E:各温度で処理した酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
F:未加熱処理の酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
【0132】
図10(A)のグラフに、耐熱性の測定結果を示す。同図において、横軸は、処理温度(℃)であり、縦軸は、前記比活性(%)である。前述のように、各温度で1時間処理した後の酵素を用いて、その残存活性を測定した。同図に示すように、アミノリシンSは、20〜50℃の処理間で酵素活性が90%以上保持され、60℃処理においても60%以上の酵素活性が保持された。この結果から、本発明のアミノリシンSは、高い耐熱性を有することが明らかとなった。
【0133】
[高温処理時間]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、高温処理時間によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。前記アミノリシンS 50μgを添加した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)50μLを、50℃で所定時間(0、1、2、3、4、5時間)処理したこと以外は、前記処理温度によるアミノ酸結合活性への影響の評価と同様にして、処理液を反応させ、LC/UV/MS分析を行った。そして、LF−LFの生成量から、下記式4を用いて比活性(%)を算出した。
【0134】
(式4)
比活性(%)=(G/H)×100
G:各温度で処理した酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
H:未加熱処理の酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
【0135】
図10(B)のグラフに、高温処理時間による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、処理時間(時間)であり、縦軸は、前記比活性(%)である。同図に示すように、アミノリシンSは、50℃で5時間処理後も、40%以上の酵素活性が確認された。
【0136】
[アミノ酸濃度]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、アミノ酸の濃度によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価において、前記アミノ酸誘導体に代えて、LF−O−Etと、LFまたはLWとを使用し、反応時間を1時間としたこと以外は、実施例2と同様にして反応を行い、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。反応液における濃度は、LF−O−Etを0.5mmol/L、LFまたはLWを所定濃度(10、20、30、40、50、60、70、80mmol/L)とした。なお、前記分析において、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−O−EtおよびLF−LF−O−Etは、実施例3と同様にして検出した。LF−LWは、MSスペクトルにおけるm/z 334の[M+H]+イオンから検出した。また、各ペプチドの生成量は、UVクロマトグラム(測定波長210nm)における該当ピークのピーク面積から算出した。そして、前述の式1を用いて、LF−O−EtからLF−LFへの変換率を算出した。また、下記式5を用いて、LF−O−EtからLF−LWへの変換率を算出した。
【0137】
(式5)
変換率(%)=(I/J)×100
I:生成LF−LWのモル数
J:基質として添加したLF−O−Etのモル数
【0138】
図11(A)のグラフに、LF濃度による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、LFの濃度(mmol/L)であり、左端の縦軸は、各ペプチドの生成量を示すピーク面積であり、右端の縦軸は、前記変換率(%)である。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、LF濃度依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、LF濃度が50mmol/Lのとき、LF−LFの生成量が最も高かった。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0139】
図11(B)のグラフに、LW濃度による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、LWの濃度(mmol/L)であり、左端の縦軸は、各ペプチドの生成量を示すピーク面積であり、右端の縦軸は、前記変換率(%)である。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LWであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、LW濃度依存的に、LF−LW、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、LW濃度が50mmol/Lのとき、LF−LWの生成量が最も高かった。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LW、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0140】
<実施例5>
[遊離アミノ酸のアシル受容体評価]
アシル受容体として、下記表2記載の遊離アミノ酸を用い、以下のようにして、アミノリシンSによるアミノ酸結合反応を行い、生成物を分析した。前記LFに代えて、60mmol/Lの前記遊離アミノ酸を用い、アミノリシンSを10μgとし、反応時間を15時間としたこと以外は、実施例3と同様にして、前記遊離アミノ酸とLF−O−Etとを反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行い、各ペプチドを検出した。
【0141】
【表2】
【0142】
前記表2記載の、L−フェニルアラニン、L−ロイシン、L−トリプトファン、L−メチオニン、(R)−α−アリルグリシン、(S)−α−アリルグリシンおよび(R)−α−プロパルギルグリシンについて、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0143】
図12に、前述の7つの化合物の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、(R)−α−アリルグリシン、(S)−α−アリルグリシン、(R)−α−プロパルギルグリシン、L−ロイシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファンの結果である。分析の結果、同図において、ピーク(a)〜(g)は、ジペプチドであり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であった。
【0144】
図13に、図12における前記ピーク(a)〜(g)のMS分析結果を示す。図13において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図12のピーク(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)のMSスペクトルプロファイルである。グラフ(a)〜(g)中の構造化学式は、各ピークのジペプチドである。
【0145】
<実施例6>
[ベンジルエステルアミノ酸誘導体の評価]
アミノ酸誘導体として、下記表3のベンジルエステルアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、アミノリシンSによるアミノ酸結合反応を行い、生成物を分析した。前記LF−O−Etの濃度を2.5mmol/Lとし、前記LFに代えて、2.5mmol/Lの下記ベンジルエステルアミノ酸誘導体を用い、アミノリシンSを10μgとし、前記DMSO濃度を1v/v%とし、反応時間を15時間としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。反応後、DMSO 200μLを加えて反応を停止させ、上層の10μLを回収したこと以外は、実施例3と同様にして、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。
【0146】
【表3】
【0147】
前記表3記載の、アミノ酸部分が、L−ロイシン、D−ロイシン、L−チロシン、D−チロシン、D−バリンおよびD−フェニルアラニンのベンジルエステルアミノ酸誘導体について、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0148】
図14に、前述の6つの化合物の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、縦軸は、測定波長210nmにおける相対強度であり、上から順に、LY−O−Bzl、DY−O−Bzl、LL−O−Bzl、DL−O−Bzl、DV−O−Bzl、DF−O−Bzlの結果である。分析の結果、同図において、ピーク(a)〜(f)は、一方のペプチドのみがLFであるシクロジペプチドであり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であった。
【0149】
図15に、図14のピーク(a)〜(f)のMS分析結果を示す。図15において、グラフ(a)〜(f)は、それぞれ、図14のピーク(a)〜(f)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、ピーク(a)は、LFとLYのジペプチドが環化したシクロ(LF−LY)であり、ピーク(b)は、LFとDYのジペプチドが環化したシクロ(LF−DY)であり、ピーク(c)は、LFとLLのジペプチドが環化したシクロ(LF−LL)であり、ピーク(d)は、LFとDLのジペプチドが環化したシクロ(LF−DL)であり、ピーク(e)は、LFとDVのジペプチドが環化したシクロ(LF−DV)であり、ピーク(f)は、LFとDFのジペプチドが環化したシクロ(LF−DF)であった。このように、アミノリシンSによる、LF−O−Etと、L−アミノ酸型またはD−アミノ酸型のベンジルエステル誘導体との結合反応が、確認された。
【0150】
<実施例7>
[生成したシクロジペプチドの分析]
実施例6において、LF−O−Etと前記LY−O−BzlまたはDY−O−Bzlとの反応から得られた生成物について、LC/MS/MS分析を行った。
【0151】
まず、図16(A)のグラフに、前記ベンジルエステルアミノ酸誘導体として、LY−O−Bzlを使用した反応液、および、DY−O−Bzlの反応液のトータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、測定波長210nmにおける相対強度である。また、同図において、上段のチャートが、LY−O−Bzlの結果であり、下段のチャートが、DY−O−Bzlの結果である。なお、同図において、線Xは、LY−O−BzlまたはDY−O−Bzlを用いた結果であり、線Yは、アミノリシンSを添加していないコントロールの結果である。同図に示すように、前記分析の結果、ピーク(a)および(b)の生成物が確認された。そして、MS分析により、前記ピーク(a)は、シクロ(LF−LY)であり、前記ピーク(b)は、シクロ(LF−DY)であり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であることが確認された。
【0152】
つぎに、図16(B)のグラフに、図16(A)のピーク(a)およびピーク(b)のMS/MSスペクトルプロファイルを、それぞれ示す。同図において、上段のチャートが、図16(A)のピーク(a)の結果であり、下段のチャートが、図16(A)のピーク(b)の結果である。図16(B)の上段に示すように、MS/MS分析により、図16(A)のピーク(a)は、さらに、ピーク(a)〜(g)に分離され、図16(B)の下段に示すように、図16(A)のピーク(b)は、さらに、前記上段と同じピーク(a)〜(g)に分離された。図16(B)において、ピーク(a)、(b)および(c)は、m/z値が、それぞれ、283.1、265.9、237.8であり、ジケトピペラジン骨格に特徴的なイオンピークであり、ピーク(d)および(f)は、m/z値が、それぞれ、205.1、120.0であり、トリプロファンに特徴的なイオンピークであり、ピーク(e)および(g)は、m/z値が、それぞれ、136.0、106.8であり、チロシンに特徴的なイオンピークであった。
【0153】
図17に、前記MS/MSスペクトルから推定される、図16(B)の前記ピーク(a)〜(g)のイオンを示す。
【0154】
<参考例>
[アミノペプチダーゼS9AP−STの活性評価]
実施例1で精製したアミノペプチダーゼS9AP−STの酵素活性を、下記表4のパラニトロアニリド誘導体を基質として使用し、以下のようにして測定した。まず、前記パラニトロアニリド誘導体を含む50mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH8.5)に、前記アミノペプチダーゼS9AP−ST 1.0μgを加え、37℃で、5分間反応させた。分光光度計(U2800、日立製作所製)を用い、405nmの測定波長で、前記反応液の吸光度を連続的に5分間測定した。下記式6を用いて、比活性(%)を算出した。
【0155】
(式6)
比活性(%)=(K/L)×100
K:各基質を添加した系における遊離パラニトロアニリドのモル数
L:Ala−pNAを基質とした系における遊離パラニトロアニリドのモル数
【0156】
【表4】
【0157】
図18のグラフに、アミノペプチダーゼS9AP−STの活性測定結果を示す。同図において、縦軸は、比活性(%)であり、横軸は、各種基質である。なお、前記横軸には、各種基質のアミノ酸部分の省略形のみ表記している。同図に示すように、アミノペプチダーゼS9AP−STは、フェニルアラニン、アラニン、プロリン、グリシン、アルギニン、メチオニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、リジンまたはアスパラギンをジペプチドのN末端から遊離させ、特に、フェニルアラニン、アラニンおよびプロリンに対し、高い酵素活性を有した。このように、アミノペプチダーゼS9AP−STは、幅広いアミノ酸に対するアミノペプチダーゼ活性が確認された。また、いずれの基質を用いた場合にも、アミノペプチダーゼS9AP−STによるアミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0158】
<実施例8>
本例では、活性中心をシステインに置換した、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270由来アミノ酸転移酵素(以下、「scPAP14270」という。)を、以下のようにして作製した。
【0159】
[pap14270遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)由来プロリルアミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「pap14270遺伝子」という)をクローニングした。
【0160】
ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270の菌体より、前記ホップウッドらの方法によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、プロリルアミノペプチダーゼと推定される遺伝子の保存領域から、以下に示す配列番号9のセンスプライマー4および配列番号10のアンチセンスプライマー4を合成した。前記プロリルアミノペプチダーゼと推定される遺伝子としては、前述のストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 3144、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 5122およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のSGR 2407を用いた。なお、下記プライマーの配列において、Wは、アデニンまたはチミンを表し、Sは、グアニンまたはシトシンを表す。
【0161】
センスプライマー4:(配列番号9)
5′−CAGWSSTTCGGSGGSTTCTGC−3′
アンチセンスプライマー4:(配列番号10)
5′−ACGTACATGTCGTCGTGGTA−3′
【0162】
下記組成のPCR反応液についてPCRを行い、DNAを増幅させた。なお、下記センスプライマーとしては、前記センスプライマー4を用い、下記アンチセンスプライマーとしては、前記アンチセンスプライマー4を用いた。前記PCRは、94℃で1分処理後、94℃で30秒、60℃で30秒および72℃で90秒を1サイクルとして30サイクル繰り返し、さらに、72℃で5分間処理して行った。
【0163】
(PCR反応液)
0.1μg/L ゲノムDNA
10μmol/L センスプライマー
10μmol/L アンチセンスプライマー
0.042U/μL LA Taq DNA polymerase
(タカラバイオ社製)
GC buffer I(タカラバイオ社製)
【0164】
増幅したDNA断片を、制限酵素CpolIを用いて37℃で一晩消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール混合液を用いて抽出した。前記ゲノムDNAおよびプライマーに代えて、この抽出したDNA、下記センスプライマー5およびアンチセンスプライマー5を用いた以外は、前述と同様にしてPCRを行った。得られたDNA断片(約2kbp)を、下記センスプライマー5およびアンチセンスプライマー5を用いてシークエンスし、前記pap14270遺伝子の塩基配列を決定した。なお、前記pap14270遺伝子の全塩基配列は、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にアクセッション番号AB519645として登録されている。
【0165】
センスプライマー5:(配列番号11)
5′−AACGAGGTCCCGGTCGCCGC−3′
アンチセンスプライマー5:(配列番号12)
5′−GGCGAGGGAGAGGTACGACA−3′
【0166】
前記LA Taq DNA polymeraseおよびプライマーに代えて、PrimeSTAR(登録商標)GXL DNAPolymerase(タカラバイオ社製)、下記センスプライマー6および下記アンチセンスプライマー6を用いた以外は前述と同様にして、PCRを行い、前記pap14270遺伝子のDNA断片を増幅した。なお、前記センスプライマー6は、NdelIサイト(CATATG:下線部の塩基は開始コドンである)を含み、前記アンチセンスプライマー6は、停止コドンの下流にHindIIIサイトを含んだ。PCRクローニングキット(商品名「Zero Blunt(登録商標)II TOPO(登録商標)」、インビトロジェン社製)を用いて、得られたDNA断片をクローニングおよびシークエンスし、塩基配列を決定した。そして、制限酵素NdeIおよびHindIIIを用いて、前記DNA断片を消化し、前記PAP14270をコードするDNA断片を得た。得られたDNA断片を、プラスミドpET 28a(+)(ノバジェン社製)のNdeI−HindIIIギャップに導入し、前記PAP14270を発現する発現プラスミドpET28−PAP14270を得た。GenePulseXcell(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、前記発現プラスミドpET28−PAP14270を、Rosetta−Gami−2(DE3)(メルク社製)に導入し、形質転換体を得た。
【0167】
センスプライマー6:(配列番号13)
5′−CATATGAGCCTCAGCTACCGTCAG−3′
アンチセンスプライマー6:(配列番号14)
5′−AAGCTTCACACCTCGTCGCGCACCAG−3′
【0168】
[PAP14270の発現]
つぎに、以下のようにして、前記PAP14270を過剰発現させた。
【0169】
まず、Overnight Express system I(メルク社製)を用いて、製品付属の培地(Overnight Express Instant TB medium)50mLに、前記形質転換体を植菌し、25℃、回転数180rpmの条件下で、48時間回転振とう培養した。培養終了後、遠心分離により細胞を回収し、Elestin NP035SP(ネパジーン社製)を用いて、5分間隔で1分間欠し、合計45分間、最大出力で超音波処理した。得られた無細胞抽出物(細胞除去抽出物)を、コバルトアフィニティ製レジン(Talon(登録商標)、クロンテック社製)を用いて、製品付属の使用説明書に従い精製した。精製タンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質であることを確認した。Bio−Rad Protein assay reagent(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、前記タンパク質の濃度を測定した。
【0170】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、以下のようにして、前記PAP14270の変異タンパク質(以下、「scPAP14270」という)を構築した。
【0171】
まず、前記LA Taq DNA polymeraseおよびプライマーに代えて、PrimeSTAR(登録商標)GXL DNAPolymerase kit(タカラバイオ社製)、下記センスプライマー7および下記アンチセンスプライマー7を用いた以外は前述と同様にして、前記発現プラスミドpET28−PAP14270をPCRに供した。なお、下記センスプライマー7の配列は、前記pap14270遺伝子の全塩基配列における430番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、424−444番目の塩基配列に相当する。また、前記PCRは、98℃で10秒、60℃で15秒および68℃で7分を1サイクルとして30サイクル繰り返して行った。
【0172】
センスプライマー7:(配列番号15)
5′−GGCCAGTGCTTCGGCGGCTTC−3′
アンチセンスプライマー7:(配列番号16)
5′−GAAGCCGCCGAAGCACTGGCC−3′
【0173】
増幅したDNA断片を、制限酵素DpnIを用いて37℃で一晩消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール混合液を用いて抽出した。エタノール沈殿後、取扱説明書に従って、得られた沈殿物をJM109(COMPETENT high、東洋紡社製)にトランスフェクトした。GenePulseXcell(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、抽出プラスミド(NucleoSpin(登録商標)ExtractII、Macherey−Nagel社製)をRosetta−Gami−2(DE3)(メルク社製)に導入し、変異PAP14270(scPAP14270)の発現プラスミドpET28−scPAP14270を得た。
【0174】
前記発現プラスミドpET28−scPAP14270を用いた以外は、前記PAP14270と同様にして、形質転換体を作製し、scPAP14270を過剰発現させて、精製した。精製したタンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質(scPAP14270)であることを確認した。前記scPAP14270のSDS−PAGE法による分子量は、約45kDaであった。前記scPAP14270のアミノ酸配列を、配列番号17に示し、前記アミノ酸配列をコードするscPAP14270遺伝子の塩基配列を、配列番号18に示す。配列番号17に示すアミノ酸配列において、144番目のシステインは、野生型のセリンから置換されている。配列番号18に示す前記scPAP14270遺伝子の塩基配列において、430番目のチミンは、野生型のアデニンから置換されている。
【0175】
<実施例9>
[プロリンペプチド生成測定]
本例では、プロリンベンジルエステル(Pro−OBzl)を基質として用い、以下のようにして、実施例8のscPAP14270によるペプチド生成を測定した。
【0176】
まず、200mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH8.5)50μLに、scPAP14270 8.7μgを含む酵素液40μL、100mmol/L プロリンベンジルエステル(バッケムAG社製)5μLおよびDMSO 5μLを加え、37℃、900rpmで3時間反応させた。反応終了後、メタノール200μLを加えて反応を停止させ、遠心分離(10000rpm、約11000×g)した。遠心分離後、上層20μLを採取し、LS/MS分析に供した。なお、前記LS/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。そして、各ペプチドの生成量を、MS分析により得られる、指定された分子量のイオン強度が示す面積から算出した。
【0177】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有メタノール、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:5%溶媒B
同 5−30分後:溶媒B濃度を5%から50%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 30−35分後:50%溶媒B
同 35−40分後:溶媒B濃度を50%から80%に変化させる
直線勾配グラジェント
検出条件:UV210nmの吸収
【0178】
プロリンベンジルエステルを用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、プロリンベンジルエステルと、scPAP14270との反応による生成物が確認された。
【0179】
図19のグラフに、プロリンベンジルエステルを含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、プロリンベンジルエステル(P−OBzl)を基質とする反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。
【0180】
図20に、図19における前記ピーク(a)〜(f)のMS分析結果を示す。以下、プロリンを「P」で示す。
【0181】
図20において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)は、それぞれ、図19のピーク(a)、ピーク(b)、ピーク(c)、ピーク(d)、ピーク(e)およびピーク(f)のMSスペクトルプロファイルである。図20(a)〜(f)に示すMS分析の結果から、図19のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図19のピーク(b)の生成物は、P−OBzlであり、図19のピーク(c)の生成物は、P−OBzlにPが結合したP−P−OBzl(以下、「P2−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(以下、「P3−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(以下、「P4−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(以下、「P5−OBzl」ということもある)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、P−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、5種類のペプチドP−P−OBzl、P−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。なお、図20の各グラフ中の[M+H]+の値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いたm/z値である。また、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼPAP14270を用いた場合には、アミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0182】
[pH]
scPAP14270について、以下のようにして、pHによるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、基質として、プロリンベンジルエステルを用い、前記緩衝液として、各所定pHに調整したクエン酸−リン酸−ホウ酸緩衝液(pH3.5−11.5)を用いた以外は、前記プロリンペプチド生成測定と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0183】
図21のグラフに、各pHにおけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、pHであり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、シクロ(P−P)はpH8.5、P2−OBzlはpH6.5、P3−OBzlはpH8.5、P4−OBzlはpH8.5、P5−OBzlはpH9.5において、それぞれ最も生成量が高かった。このように、pHにより、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0184】
[酵素量]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、酵素量によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、前記酵素液中のscPAP14270量を、所定濃度(0.55、1.09、2.19、4.38、8.75、17.5および35μg)とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0185】
図22のグラフに、各酵素量におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、酵素量(μg)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、0.55〜8.75μgの酵素量では、シクロ(P−P)、P3−OBzl、P4−OBzlの順に生成量が多く、P5−OBzlは、ほとんど生成されなかった。これに対して、17.5〜35μgの酵素量では、P3−OBzlおよびP4−OBzlに比べて、シクロ(P−P)およびP5−OBzlの生成量が多かった。このように、反応系中の酵素量により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0186】
[基質濃度]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、基質濃度によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、プロリンベンジルエステル量を、所定濃度(5、10、25、50および100mmol/L)とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0187】
図23のグラフに、各基質濃度におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、基質濃度(mmol/L)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、6.25〜50mmol/Lの基質濃度では、シクロ(P−P)の生成量が最も多く、P3−OBzlおよびP4−OBzlの生成量が次に多かった。これに対して、P2−OBzlおよびP5−OBzlは、生成量が少なかった。このように、反応系中の基質濃度により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0188】
[反応時間]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、反応時間によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、所定(0.5、1、1.5、3、6、12および24時間)の反応時間とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0189】
図24のグラフに、各反応時間におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、反応時間(時間)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、白丸(○)は、P−OBzlの結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、0.5〜3時間においては、P2−OBzl、P4−OBzlおよびP5−OBzlに比べて、シクロ(P−P)およびP3−OBzlの生成量が高かった。これに対して、6〜24時間においては、シクロ(P−P)の生成量が高く、その他のペプチドは減少した。このように、反応時間により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0190】
<実施例10>
[へテロオリゴペプチド生成測定]
本例では、アシル供与体として、プロリンベンジルエステル(P−OBzl)を用い、アシル受容体として、アミノ酸およびアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、実施例8のscPAP14270によるペプチド生成を測定した。なお、前記アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、アルギニン、ヒスチジン、バリン、ヒドロキシプロリン、トレオニン、グリシン、リシン、アラニン、システイン、プロリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを用いた。また、前記アミノ酸誘導体としては、アミノ酸ベンジルエステル、アミノ酸メチルエステルおよびアミノ酸エチルエステルを用いた。本測定では、前記DMSOに代えて、前記アシル受容体 5μLを所定濃度で添加して反応させた以外は、実施例8と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0191】
図25〜27のグラフに、前記アシル受容体のうち、下記表5記載のアミノ酸誘導体を含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。図25〜27のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。なお、図25〜27の各グラフ中のm/z値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いた[M+H]+の値である。
【0192】
【表5】
【0193】
図25(A)中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トリプトファンベンジルエステル(Trp−OBzl、W−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(g)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(A)のピーク(b)の生成物は、トリプトファン(Trp、W)であり、図25(A)のピーク(c)の生成物は、P−YのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−W)であり、図25(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(A)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(A)のピーク(f)の生成物は、W−OBzlであり、図25(A)のピーク(g)の生成物は、W−OBzlにPが結合したP−W−OBzl(Pro−Trp−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、W−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−W−OBzlおよびシクロ(P−W)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0194】
図25(B)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トリプトファンメチルエステル(Trp−OMe、W−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(B)のピーク(b)の生成物は、トリプトファン(Trp、W)であり、図25(B)のピーク(c)の生成物は、W−OMeにPが結合したP−W−OMe(Pro−Trp−OMe)であり、図25(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(B)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(B)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、W−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−W−OMeと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0195】
図25(C)中の(a)〜(h)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、フェニルアラニンエチルエステル(Phe−OEt、F−OEt)を用いた反応の結果、(a)〜(h)のピークに示される、8つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(C)のピーク(a)の生成物は、フェニルアラニン(Phe、F)であり、図25(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(C)のピーク(c)の生成物は、F−OEtであり、図25(C)のピーク(d)の生成物は、P−FのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−F)であり、図25(C)のピーク(e)の生成物は、F−OEtにPが結合したP−F−OEt(Pro−Phe−OEt)であり、図25(C)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(C)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(C)のピーク(h)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、F−OEtのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−F−OEtおよびシクロ(P−F)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0196】
図25(D)中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、チロシンベンジルエステル(Tyr−OBzl、Y−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(g)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(D)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(D)のピーク(b)の生成物は、P−YのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−Y)であり、図25(D)のピーク(c)の生成物は、Y−OBzlであり、図25(D)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(D)のピーク(e)の生成物は、Y−OBzlにPが結合したP−Y−OBzl(P−Y−OBzl)であり、図25(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(D)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、Y−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−Y−OBzlおよびシクロ(P−Y)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0197】
図25(E)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、チロシンメチルエステル(Tyr−OMe、Y−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(E)のピーク(a)の生成物は、Y−OMeであり、図25(E)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(E)のピーク(c)の生成物は、Y−OMeにPが結合したP−Y−OMe(P−Y−OBzl)であり、図25(E)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(E)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(E)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、Y−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−Y−OMeと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0198】
図25(F)中の(a)〜(e)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、イソロイシンベンジルエステル(Ile−OBzl、I−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(e)のピークに示される、5つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(F)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(F)のピーク(b)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(F)のピーク(c)の生成物は、I−OBzlであり、図25(F)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(F)のピーク(e)の生成物は、I−OBzlにPが結合したP−I−OBzl(Pro−Ile−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、I−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−W−OBzlと、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0199】
図26(A)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、ロイシンベンジルエステル(Leu−OBzl、L−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(A)のピーク(b)の生成物は、P−LのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−L)であり、図26(A)のピーク(c)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(A)のピーク(e)の生成物は、L−OBzlであり、図26(A)のピーク(f)の生成物は、L−OBzlにPが結合したP−L−OBzl(Pro−Leu−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、L−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−L−OBzlおよびシクロ(P−L)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0200】
図26(B)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、ロイシンメチルエステル(Leu−OMe、L−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(B)のピーク(b)の生成物は、L−OMeにPが結合したP−L−OMe(Pro−Leu−OMe)であり、図26(B)のピーク(c)の生成物は、P−LのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−L)であり、図26(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(B)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(B)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、L−OMeのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−L−OMeおよびシクロ(P−L)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0201】
図26(C)中の(a)〜(d)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、メチオニンメチルエステル(Met−OMe、M−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(d)のピークに示される、4つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(C)のピーク(a)の生成物は、M−OMeであり、図26(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(C)のピーク(c)の生成物は、M−OMeにPが結合したP−M−OMe(Pro−Met−OMe)であり、図26(C)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、M−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−M−OMeと、2種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0202】
図26(D)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、アラニンベンジルエステル(Ala−OBzl、A−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(D)のピーク(a)の生成物は、P−AのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−A)であり、図26(D)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(D)のピーク(c)の生成物は、A−OBzlであり、図26(D)のピーク(d)の生成物は、A−OBzlにPが結合したP−A−OBzl(Pro−Ala−OBzl)であり、図26(D)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、A−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−A−OBzlおよびシクロ(P−A)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0203】
図26(E)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、リシンベンジルエステル(Lys−OBzl、K−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(E)のピーク(a)の生成物は、K−OBzlであり、図26(E)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(E)のピーク(c)の生成物は、K−OBzlにPが結合したP−K−OBzl(Pro−Lys−OBzl)であり、図26(E)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(E)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(E)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、K−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−L−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0204】
図26(F)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、グリシンベンジルエステル(Gly−OBzl、G−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(F)のピーク(a)の生成物は、P−GのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−G)であり、図26(F)のピーク(b)の生成物は、G−OBzlであり、図26(F)のピーク(c)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(F)のピーク(d)の生成物は、G−OBzlにPが結合したP−G−OBzl(Pro−Gly−OBzl)であり、図26(F)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(F)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、G−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−G−OBzlおよびシクロ(P−G)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0205】
図27(A)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トレオニンベンジルエステル(Thr−OBzl、T−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(A)のピーク(b)の生成物は、T−OBzlであり、図27(A)のピーク(c)の生成物は、T−OBzlにPが結合したP−T−OBzl(Pro−Thr−OBzl)であり、図27(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(A)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(A)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、T−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−T−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0206】
図27(B)中の(a)〜(e)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、バリンベンジルエステル(Val−OBzl、V−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(e)のピークに示される、5つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(B)のピーク(b)の生成物は、V−OBzlであり、図27(B)のピーク(c)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(B)のピーク(e)の生成物は、V−OBzlにPが結合したP−V−OBzl(Pro−Val−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、V−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−V−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0207】
図27(C)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、セリンベンジルエステル(Ser−OBzl、S−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(C)のピーク(a)の生成物は、S−OBzlであり、図27(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(C)のピーク(c)の生成物は、S−OBzlにPが結合したP−S−OBzl(Pro−Ser−OBzl)であり、図27(C)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(C)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(C)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、S−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−S−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0208】
図27(D)中の(a)〜(h)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、フェニルアラニンメチルエステル(Phe−OMe、F−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(h)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(D)のピーク(a)の生成物は、フェニルアラニン(F)であり、図27(D)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(D)のピーク(c)の生成物は、F−OMeであり、図27(D)のピーク(d)の生成物は、F−OMeにPが結合したP−F−OMe(Pro−Phe−OMe)であり、図27(D)のピーク(e)の生成物は、P−FのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−F)であり、図27(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(D)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(D)のピーク(h)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、F−OMeのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−F−OMeおよびシクロ(P―F)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0209】
図28に、前記各アシル受容体のlogP値と生成したジペプチドエステルとの関係を示す。同図において、横軸は、前記各アシル受容体のアミノ酸部分の番号であり、縦軸は、logPである。なお、前記アミノ酸部分の番号は、同図中に示すアミノ酸の番号に対応する。また、同図において、白丸(○)のプロットは、アミノ酸ベンジルエステルの結果であり、白四角(□)のプロットは、アミノ酸メチルエステルの結果であり、白三角(△)のプロットは、アミノ酸エチルエステルの結果であり、白菱形(◇)のプロットは、遊離アミノ酸の結果である。なお、ヘテロプロリンペプチドが生成された誘導体の結果は、前記プロットの色を白から黒に変えている。なお、前記へテロプロリンペプチドは、アシル受容体にプロリンが結合したペプチド(P−X−OY、X=アミノ酸、Y=Bzl、MeまたはEt)である。また、同図中の文字「c」は、シクロペプチドの生成を示し、アスタリスクは、反応液中のプロリンベンジルエステル濃度が10mmol/Lであることを示す。
【0210】
図28に示すように、前記アシル受容体として、S−OBzl、V−OBzl、T−OBzl、G−OBzl、K−OBzl、A−OBzl、P−OBzl、M−OMe、L−OBzl、L−OMe、I−OBzl、Y−OBzl、Y−OMe、F−OMe、F−OEt、W−OBzlおよびW−OMeを用いた場合には、前記ヘテロプロリンペプチドが生成した。このうち、G−OBzl、A−OBzl、P−OBzl、L−OBzl、L−OMe、F−OMe、F−OEtおよびW−OBzlを用いた場合には、シクロペプチドが生成した。このように、アシル受容体の種類により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。なお、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼPAP14270は、いずれのアシル受容体を用いた場合にも、アミノ酸転移反応を示さなかった。
【0211】
<実施例11>
本例では、活性中心をシステインに置換した、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068由来アミノペプチダーゼ(以下、「アミノリシンA」という。)を、以下のようにして作製した。
【0212】
[S9−ACAP遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)由来アミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「S9−ACAP遺伝子」という)をクローニングした。
【0213】
アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068の菌体より、前記ホップウッドらの方法によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、アミノペプチダーゼと推定される遺伝子の保存領域から、下記センスプライマー8およびアンチセンスプライマー8を合成した。前記アミノペプチダーゼと推定される遺伝子としては、ストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 3144、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 5122およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のSGR 2407を用いた。
【0214】
センスプライマー8:(配列番号19)
5′−CATATGCCCGAGATTGCTCCGTA−3′
アンチセンスプライマー8:(配列番号20)
5′−AAGCTTCTAAGGAGCCGGCGGCGCCGG−3′
【0215】
前記ATCC43068のゲノムDNA、前記センスプライマー8およびアンチセンスプライマー8を用いた以外は、実施例8と同様にして、PCRを行い、クローニングおよびシークエンスし、前記S9−ACAP遺伝子をコードするDNA断片を得た。このDNA断片を用いて、実施例8と同様にして、発現プラスミドpET28−S9−ACAPを作製し、形質転換体を得た。そして、前記形質転換体を用いた以外は、実施例8と同様にして、前記S9−ACAPを過剰発現させた。なお、前記S9−ACAP遺伝子の全塩基配列および前記S9−ACAPのアミノ酸配列は、DDBJデータベースのA.Cellulolyticus 11B ゲノムプロジェクトのローカスタグAcel_1489(http://gib.genes.nig.ac.jp/single/main.php?spid=Acel_11B)に開示されている。
【0216】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、下記センスプライマー9を用いた以外は、実施例8と同様にして、前記発現プラスミドpET28−S9−ACAPをPCRに供した。なお、下記センスプライマー9の配列は、前記S9−ACAPの全塩基配列における1471番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、1456−1485番目の塩基配列に相当する。得られたDNA断片を用いた以外は、実施例8と同様にして、発現プラスミドpET28−S491Cを作製した。
【0217】
センスプライマー9:(配列番号21)
5′−GCGATCCGCGGCGGCTGTGCCGGCGGCTGG−3′
【0218】
前記発現プラスミドpET28−S491Cを用いた以外は、実施例8と同様にして、アミノリシンAを過剰発現させ、精製した。精製したタンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質(アミノリシンA)であることを確認した。前記アミノリシンAのSDS−PAGE法による分子量は、約70kDaであった。前記アミノリシンAのアミノ酸配列を、配列番号22に示し、前記アミノ酸配列をコードするアミノリシンA遺伝子の塩基配列を、配列番号23に示す。配列番号22に示すアミノ酸配列において、491番目のシステインは、野生型のセリンから置換されている。配列番号23に示す塩基配列において、1471番目のチミンは、野生型のアデニンから置換されている。
【0219】
<実施例12>
[ホモオリゴペプチド生成分析]
本例では、下記表6のアミノ酸誘導体を基質として用い、以下のようにして、実施例9のアミノリシンAによるペプチド生成を分析した。
【0220】
【表6】
【0221】
まず、0.1mol/L リン酸緩衝液(pH8.0)に、アミノリシンA 10μg、10mmol/L アミノ酸誘導体および10v/v%DMSOを加え、反応液 100μLを調製した。この反応液を、50℃、900rpmで6時間反応させた。反応終了後、10v/v% ギ酸/メタノール/DMSO混合液(容積比1:1:1)300μLを加えて反応を停止させ、遠心分離(1000rpm)した。遠心分離後、上層20μLを採取し、LS/MS分析に供した。なお、前記LS/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。そして、各ペプチドの生成量を、UVクロマトグラム(測定波長210nm)におけるピーク面積から算出した。
【0222】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有メタノール、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:20%溶媒B
同 5−40分後:溶媒B濃度を20%から99%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 40−45分後:99%溶媒B
検出条件:UV210nmの吸収
【0223】
前記表6のアミノ酸誘導体を用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、アミノ酸誘導体と、アミノリシンAとの反応による生成物が確認された。
【0224】
図29のグラフに、前記表6のアミノ酸誘導体を含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図において、(A)は、LF−NH2の結果であり、(B)は、LF−OMeの結果であり、(C)は、LF−OEtの結果であり、(D)は、DF−OMeの結果であり、(E)は、DF−OBzlの結果であり、(F)は、LL−OBzlの結果であり、(G)は、DL−OBzlの結果である。同図中の(a)〜(z6)は、検出された各ピークである。同図に示すように、前記アミノ酸誘導体を基質とする反応の結果、(a)〜(y)のピークに示される、25の生成物が確認された。図30〜34に、図29における前記ピーク(a)〜(z6)のMS分析結果を示す。なお、図30〜34の各グラフ中の[M+H]+の値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いたm/z値である。
【0225】
図30において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図29(A)のピーク(a)、ピーク(b)、ピーク(c)、ピーク(d)、ピーク(e)、ピーク(f)およびピーク(g)のMSスペクトルプロファイルである。図30(a)〜(g)に示すMS分析の結果から、図29(A)のピーク(a)の生成物は、LF−NH2にLFが結合したLF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(A)のピーク(c)の生成物は、LF−NH2に2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(d)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図29(A)のピーク(e)の生成物は、LF−NH2に3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(f)の生成物は、4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LFであり、図29(A)のピーク(g)の生成物は、LF−NH2に4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−NH2であることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−NH2のC末端側にフェニルアラニンが転移した、7種類のペプチドLF−LF,LF−LF−NH2、LF−LF−LF、LF−LF−LF−NH2、LF−LF−LF−LF−NH2、LF−LF−LF−LFおよびLF−LF−LF−LF−LF−NH2が生成した。
【0226】
図31において、グラフ(z1)、(b)、(d)、(h)、(i)、(f)、(j)および(k)は、それぞれ、図29(B)のピーク(z1)、ピーク(b)、ピーク(d)、ピーク(h)、ピーク(i)、ピーク(f)、ピーク(j)およびピーク(k)のMSスペクトルプロファイルである。図31に示すMS分析の結果から、図29(B)のピーク(z1)の生成物は、LF−OMe(基質)であり、図29(B)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(B)のピーク(d)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図29(B)のピーク(h)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図29(B)のピーク(i)の生成物は、LF−OMeに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−OMeであり、図29(B)のピーク(f)の生成物は、4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LFであり、図29(B)のピーク(j)の生成物は、LF−OMeに3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−OMeであり、図29(B)のピーク(k)の生成物は、LF−OMeに4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−OMeであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−OMeのC末端側にフェニルアラニンが転移した、6種類のペプチドLF−LF,LF−LF−LF、LF−LF−LF−OMe、LF−LF−LF−LF、LF−LF−LF−LF−OMe、LF−LF−LF−LF−LF−OMeおよびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0227】
図32において、グラフ(z2)、(b)、(h)、(l)、(m)および(n)は、それぞれ、図29(C)のピーク(z1)、ピーク(b)、ピーク(h)、ピーク(l)、ピーク(m)およびピーク(n)のMSスペクトルプロファイルである。図32に示すMS分析の結果から、図29(C)のピーク(z2)の生成物は、LF−OEt(基質)であり、図29(C)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(C)のピーク(h)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図29(C)のピーク(l)の生成物は、LF−OEtに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−OEtであり、図29(C)のピーク(m)の生成物は、LF−OEtに3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−OEtであり、図29(C)のピーク(n)の生成物は、LF−OEtに4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−OEtであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−OEtのC末端側にフェニルアラニンが転移した、6種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF−OEt、LF−LF−LF−LF−OEt、LF−LF−LF−LF−LF−OEtおよびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0228】
図33において、グラフ(z3)、(z4)、(o)、(p)、(q)および(r)は、それぞれ、図29(D)および(E)のピーク(z3)、(z4)、ピーク(o)、ピーク(p)、ピーク(q)およびピーク(r)のMSスペクトルプロファイルである。図33に示すMS分析の結果から、図29(D)のピーク(z3)の生成物は、DF−OMe(基質)であり、図29(E)のピーク(z4)の生成物は、DF−OBzl(基質)であり、図29(D)および(E)のピーク(o)の生成物は、DF−DFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DF−DF)であり、図29(E)のピーク(p)の生成物は、DFにDFが結合したDF−DFであり、図29(E)のピーク(q)の生成物は、DF−OBzlにDFが結合したDF−DF−OBzlであり、図29(E)のピーク(r)の生成物は、DF−OBzlに2分子のDFが連続して結合したDF−DF−DF−OBzlであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、DF−OBzlのC末端側にフェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドDF−DF,DF−DF−OBzl、DF−DF−DF−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(DF−DF)が生成した。
【0229】
図34において、グラフ(z5)、(z6)、(s)、(t)、(u)、(v)、(w)、(x)および(y)は、それぞれ、図29(F)および(G)のピーク(z5)、ピーク(z6)、ピーク(s)、ピーク(t)、ピーク(u)、ピーク(v)、ピーク(w)、ピーク(x)およびピーク(y)のMSスペクトルプロファイルである。図34に示すMS分析の結果から、図29(F)のピーク(z5)の生成物は、LL−OBzl(基質)であり、図29(G)のピーク(z6)の生成物は、DL−OBzl(基質)であり、図29(F)のピーク(s)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図29(F)のピーク(t)の生成物は、LL−OBzlに3分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−LL−OBzlであり、図29(F)のピーク(u)の生成物は、LL−OBzlに4分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−LL−LL−OBzlであり、図29(G)のピーク(v)の生成物は、DLにDLが結合したDL−DLであり、図29(G)のピーク(w)の生成物は、DL−DLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DL−DL)であり、図29(G)のピーク(x)の生成物は、DL−OBzlにDLが結合したDL−DL−OBzlであり、図29(G)のピーク(y)の生成物は、DL−OBzlに2分子のDLが連続して結合したDL−DL−DL−OBzlであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LL−OBzlのC末端側にロイシンが転移した、2種類のペプチド、LL−LL−LL−LL−OBzl、LL−LL−LL−LL−LL−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成し、DL−OBzlのC末端側にフェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドDL−DL、DL−DL−OBzl、DL−DL−DL−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(DL−DL)が生成した。
【0230】
なお、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼS9−ACAPを用いた場合には、アミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0231】
<実施例13>
[へテロオリゴペプチド生成評価]
本例では、アシル供与体として、2.0mmol/L プロリンメチルエステルを用い、アシル受容体として、22.5mmol/L アミンを用い、5v/v%ギ酸 200μLを用いて反応を停止した以外は、実施例11と同様にして、ペプチド生成を評価した。下記表7に、前記アミン(アミノ酸)を示す。
【0232】
【表7】
【0233】
前記表7のアミンを用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。前記ピークには、プロリンおよびメチオニン残基を有するヘテロジペプチドのピークが含まれた。すなわち、プロリンメチルエステルと前記アミンと前記アミノリシンAとの反応による、ヘテロオリゴペプチドの生成が確認された。
【0234】
図35のグラフに、プロリンメチルエステルおよび前記表7のアミンを含む反応液における、前記へテロジペプチドのイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図中の矢印は、検出されたヘテロジペプチド(F−X、Xはアミン由来のアミノ酸残基)のピークである。同図に示すように、前記アミンを基質とする反応の結果、矢印のピークに示される、15のヘテロジペプチドが確認された。下記表8に、生成した各ヘテロジペプチドを示す。なお、同図中のm/z値は、前記LS/MS分析において、各ヘテロジペプチドの確認に用いた[M+H]+の値である。なお、本例の反応では、アスタリスクのピークに示される、シクロ(F−F)も確認された(m/z=295)。
【0235】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明によれば、組換アミノ酸転移酵素を用いるため、酵素を、低コストで、簡便にかつ高収率で得ることが可能である。このため、例えば、オリゴペプチドの酵素合成法を、実用化(工業化)することも容易になる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法および組換アミノ酸転移酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能を持つジペプチドおよびその誘導体が、食品や医薬品等の原料素材として注目を集めている。このようなジペプチドとしては、例えば、アスパルテーム(aspartame)、環状アルギニル−プロリン(cyclo(LR-DP))、デヒドロフェニルアヒスチン(dehydrophenylahistin)、バリル−チロシン(LV-LY)およびアラニル−チロシン(LA-LY)が知られている。アスパルテームは、フェニルアラニンのメチルエステルと、アスパラギン酸とがペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルであり、甘味は砂糖の約180倍である。環状アルギニル−プロリンは、キチナーゼ(chitinase)の特異的阻害剤であり、抗カビ剤および殺虫剤の用途が期待されている。デヒドロフェニルアヒスチンは、細胞分裂阻害作用を有し、新規抗がん剤としての用途が期待されている。バリル−チロシンは、アンジオテンシンI変換酵素活性を阻害する機能を有する。アラニル−チロシンは、水への溶解度が低いチロシンの有力な供給源になる。
【0003】
ジペプチドの製造方法は、化学合成法と酵素合成法とに大別され、酵素合成法は、温和な反応条件での合成が可能であること、副生成物が少ないこと等の利点を有する。酵素合成法としては、例えば、サーモリシン等のメタロペプチダーゼ、アミノアシル−tRNA合成酵素、アラニンリガーゼ、又は非リボソームペプチド合成酵素を用いる方法等が知られている。このなかで、エステル結合のアミノ分解反応を含む酵素合成法(特許文献1)は、サーモリシン等を用いる酵素合成法と異なり、基質として化学的N−保護アミノ酸を必要とせず、遊離アミノ酸とアミノアシルメチルエステルとからジペプチドを合成することが可能である。しかしながら、従来の酵素合成法で使用されている酵素の中には、コストが高いものもあり、また、基質特異性に偏りがあるため、例えば、バリル−チロシンやアラニル−チロシン等のジペプチドを実用化レベルで製造できないといった問題があった。この問題に対し、ペプチダーゼファミリー28に属する熱安定性アミノペプチダーゼを用いた酵素合成法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/010307号パンフレット
【特許文献2】特開2007−319063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献2の方法は、合成されるジペプチドの種類の幅を広げ、例えば、疎水性のアミノ酸を含むジペプチドを合成でき、またジペプチドの構造の制御も可能な方法である。しかも、前記特許文献2の方法は、高収率、高速および簡便にジペプチドを合成可能である。一方、ジペプチドを含むオリゴペプチドに関しては、様々な機能が期待されている。このため、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、多様な構造のオリゴペプチドを合成可能な酵素の開発が可能なスクリーニング方法およびそれにより得られた組換アミノ酸転移酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のスクリーニング方法は、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前記本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニン、アスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者等は、多様な構造のオリゴペプチドを製造するための酵素を開発するために、一連の研究を重ねたところ、酵素の活性中心であるセリン残基を置換するという着想を得た。この着想を基に、アミノペプチダーゼの活性中心を、遺伝子組み換え技術によってシステイン残基等のセリン残基以外のアミノ酸残基に置換したところ、後述するように、直鎖状ジペプチドに加え、環状ジペプチド、トリペプチドおよびテトラペプチド等も合成可能な酵素が得られることを見出し、本発明に至った。本発明では、組換アミノ酸転移酵素を用いるため、酵素を、低コストで、簡便にかつ高収率で得ることが可能であるため、オリゴペプチドの酵素合成法を、実用化(工業化)することも容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図2】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図4】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析およびMS/MS分析の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図6】本発明の実施例2における、前記アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3および4における、アミノリシンSのアミノ酸結合活性の濃度による変化および経時的変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例4における、アミノリシンSの至適pHを示すグラフである。
【図9】本発明の実施例4における、DMSO存在下でのアミノリシンSの活性を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例4における、アミノリシンS活性の処理温度および高温処理時間による変化を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例4における、アミノリシンSの活性とLF濃度またはLW濃度との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例5における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図13】本発明の実施例5における、アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図14】本発明の実施例6における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムである。
【図15】本発明の実施例6における、アミノ酸誘導体の反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例7における、アミノ酸誘導体の反応液のイオンクロマトグラムおよびMS/MS分析の結果を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例7における、MS/MSスペクトルから推定されるイオンを示す。
【図18】参考例における、アミノペプチダーゼS9AP−STの活性を示すグラフである。
【図19】本発明の実施例9における、プロリンベンジルエステルを含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図20】本発明の実施例9における、プロリンベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図21】本発明の実施例9において、各pHにおけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図22】本発明の実施例9において、各酵素量におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図23】本発明の実施例9において、各基質濃度におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図24】本発明の実施例9において、各反応時間におけるペプチド生成結果を示すグラフである。
【図25】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図26】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図27】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラムである。
【図28】本発明の実施例10における、アミノ酸誘導体のlogPとそれに対応するジペプチドエステルの生成を示すグラフである。
【図29】本発明の実施例12における、アミノ酸誘導体を含む反応液のトータルイオンクロマトグラム結果を示す。
【図30】本発明の実施例12における、フェニルアラニンアミドを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図31】本発明の実施例12における、フェニルアラニンメチルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図32】本発明の実施例12における、フェニルアラニンエチルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図33】本発明の実施例12における、D−体フェニルアラニンメチルエステルまたはベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図34】本発明の実施例12における、L−体またはD−体ロイシンベンジルエステルを含む反応液のMS分析の結果を示すグラフである。
【図35】本発明の実施例13における、アミノ酸を含む反応液のイオンクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のスクリーニング方法は、前述のように、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、
活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、
前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明のスクリーニング方法において、前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基は、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つの残基であることが好ましい。
【0013】
本発明のスクリーニング方法において、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることが好ましい。
【0014】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前述のように、本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、
前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素がアミノペプチダーゼであることを特徴とする。
【0015】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、後述する反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒することが好ましい。
【0016】
<スクリーニング方法>
本発明のスクリーニング方法について、以下に説明する。
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、前述のように、組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、以下、活性中心がセリン残基である酵素を、「非置換型酵素」といい、前記非置換型酵素の活性中心のセリン残基を他のアミノ酸残基に置換して得られる組換アミノ酸転移酵素を、「置換型アミノ酸転移酵素」または「置換型組換アミノ酸転移酵素」ともいう。なお、本発明において、前記非置換型酵素とは、活性中心のセリン残基が他のアミノ酸残基に置換されていないことを意味し、その他のアミノ酸残基の置換の有無を意味するものではない。また、「活性中心がセリン残基である酵素」とは、例えば、活性中心を形成するアミノ酸残基の少なくとも一つがセリン残基である酵素をいう。
【0019】
前記アミノ酸転移酵素とは、アミノ酸の転移を触媒する酵素であり、例えば、アシルトランスフェラーゼ、アミノアシルトランスフェラーゼ、トランスアミノペプチダーゼともいう。
【0020】
本発明においては、活性中心がセリン残基である所望の酵素について、前記セリン残基を他のアミノ酸残基に置換して、組換アミノ酸転移酵素を提供し、前記組換アミノ酸転移酵素が、他のアミノ酸残基への置換により新規な酵素反応を発揮するか否かを判定することがポイントである。したがって、組換アミノ酸転移酵素の提供にあたって、活性中心がセリン残基である非置換型酵素の種類や、セリン残基を他のアミノ酸残基へ置換する方法は、何ら制限されない。
【0021】
前記非置換型酵素の由来は、何ら制限されず、例えば、自然界由来の酵素であってもよいし、人工的に構築された酵素であってもよい。本発明においては、このような活性中心がセリン残基である非置換型酵素について、前述のように他のアミノ酸残基への置換を行って置換型組換アミノ酸転移酵素を提供すればよい。前記自然界の由来としては、前述のように、特に制限されず、例えば、細菌等の微生物、ヒト、マウス等の哺乳類を含む動物、昆虫、植物等があげられる。前記細菌としては、例えば、一例として、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)、さらに好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271があげられる。この他にも、例えば、ストレプトマイセス・サーモルテウス(Streptomyces thermoluteus)NBRC14269、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068等があげられる。
【0022】
本発明において、前記非置換型酵素の種類は、何ら制限されず、活性中心がセリン残基の酵素であればよい。前記非置換型酵素としては、例えば、アミノ酸を遊離する活性を示すアミノペプチダーゼ(EC3.4.11群)、アミノ酸転移酵素等があげられる。
【0023】
本発明において、前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基は、特に制限されないが、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸等があげられ、中でも、好ましくは、アラニン、グリシンまたはシステインであり、より好ましくはシステインである。
【0024】
前記非置換型酵素のセリン残基を他のアミノ酸残基へ置換する方法としては、何ら制限されず、例えば、遺伝子工学的手法等の従来公知の方法が使用できる。具体例としては、例えば、活性中心がセリン残基である非置換型酵素をコードする核酸について、前記活性中心のセリン残基に対応するコドンを、他のアミノ酸残基に対応するコドンに置換する方法があげられる。このように、活性中心のセリン残基に対応するコドンを他のアミノ酸に対応するコドンに置換した核酸から、タンパク質を発現させることによって、活性中心のセリン残基が他のアミノ酸に置換された組換アミノ酸転移酵素を得ることができる。前記核酸としては、例えば、DNAでもRNAでもよく、また、PNA等の人工核酸を含んでもよい。
【0025】
前記セリン以外のアミノ酸に対応するコドンに置換した核酸からのタンパク質の発現方法は、何ら制限されず、従来公知の方法が採用できる。具体例としては、例えば、以下に示すような方法があげられる。まず、セリン以外のアミノ酸に対応するコドンに置換した前記核酸を準備し、これをベクターに挿入して発現ベクターを作製する。そして、前記発現ベクターを宿主に導入し、形質転換体を得て、前記形質転換体を培養する。前記培養により前記形質転換体においてタンパク質が発現するため、セリン残基を他のアミノ酸残基に置換した目的のタンパク質を得ることができる。
【0026】
前記核酸を挿入する前記ベクターの種類は、何ら制限されず、例えば、宿主の種類に応じて適宜設定できる。前記ベクターとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド、放線菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージ、人工プラスミド等があげられ、具体例としては、例えば、pIJ702、pACYC177、pACYC184、pBluescript、pBR322、pHSG367、pNUT4、pTrc99A、pUC19、pUB110、YEp13、λgt10、pTONA5a、pET28等があげられる。また、前記ベクターは、例えば、さらに、発現を制御する配列や、形質転換体を選択するための選択マーカーの配列等を有してもよい。前記発現を制御する配列としては、特に制限されないが、例えば、プロモーター、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等があげられる。前記選択マーカー配列としては、特に制限されないが、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子等があげられる。前記ベクターに前記核酸を挿入する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用でき、例えば、前記核酸を適当な制限酵素で切断した後、前記ベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに連結する方法等があげられる。
【0027】
前記宿主の種類は、特に制限されず、例えば、前記発現ベクターの種類等に応じて、適宜決定できる。前記宿主としては、例えば、大腸菌、酵母、糸状菌、放線菌、COS細胞、CHO細胞、Sf9細胞等の細胞があげられる。前記大腸菌としては、特に制限されないが、例えば、S17−1、BL21(DE3)、Rosetta2(DE3)、Rosetta−gami2(DE3)等があげられる。前記宿主への前記発現ベクターの導入方法としては、特に制限されず、例えば、エレクトロポレーション法、プロトプラスト−PEG法、アグロバクテリウム法、Li法、Biolistic法、パーティクル・ガン法等の従来公知の方法を適宜採用できる。
【0028】
また、前記形質転換体の培養条件は、何ら制限されず、例えば、宿主、発現ベクター等の種類に応じて、温度、時間、pH、培地等の条件を適宜決定できる。
【0029】
前記形質転換体の培養により発現した置換型組換アミノ酸転移酵素は、例えば、培養液、培養液の上清、培養液の沈殿物、培養細胞、培養細胞の抽出物等から採取できる。前記置換型組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記培養物から精製してもよい。精製方法は、特に制限されず、例えば、硫安沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の従来公知の方法を採用できる。
【0030】
前記酵素反応の判定工程において、その判定手法は、何ら制限されない。具体例としては、例えば、活性中心がセリン残基である非置換型酵素では基質となり得ない基質を用いて、置換型組換アミノ酸転移酵素を用いた酵素反応を行い、生成物の有無を確認する方法があげられる。この方法によれば、例えば、セリン残基の置換により、置換型組換アミノ酸転移酵素が、非置換型酵素とは異なる基質特異性を有する酵素か否かを判定でき、新たな基質特異性を示す組換アミノ酸転移酵素を提供できる。また、置換型組換アミノ酸転移酵素を用いて酵素反応を行い、前記非置換型酵素の触媒反応による生成物とは異なる生成物の有無を確認する方法があげられる。この方法によれば、例えば、セリン残基の置換により、置換型組換アミノ酸転移酵素が、非置換型酵素とは異なる触媒反応を示す酵素か否かを判定でき、同じ基質であっても、非置換型酵素とは異なる生成物を生成可能な組換アミノ酸転移酵素を提供できる。なお、これらの判定手法は、一例であって、本発明を制限するものではない。
【0031】
前記判定工程における酵素反応の条件は、何ら制限されず、例えば、非置換型酵素を使用する際と同様の条件に設定することができる。
【0032】
<組換アミノ酸転移酵素>
つぎに、本発明の組換アミノ酸転移酵素は、前述のように、本発明のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニン、アスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であって、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする。
【0033】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、後述する反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒することが好ましい。
【0034】
反応(1)
【化1】
【0035】
前記反応(1)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、アミノ基(−NH2)、ベンゾキシ基(−OBzl)または水酸基(−OH)であり、R1は、例えば、下記の通りである。基質である各アミド化合物において、XおよびR1は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。前記反応において、例えば、一方のアミド化合物を構成するXが、水酸基(−OH)の場合は、他方のアミド化合物を構成するXは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であることが好ましい。前記反応においては、例えば、矢印で示すように、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド等のオリゴペプチドを合成することができ、さらに、反応を進めることで、前記ジペプチドから環化したジケトピペラジンを合成することもできる。
【化2】
【0036】
反応(2)
【化3】
【0037】
前記反応(2)において、Yは、例えば、ベンゾキシ基(−OBzl)またはエトキシ基(−OEt)であり、R2は、例えば、以下の通りである。基質である各アミド化合物において、R2は、同一でもよく、異なってもよい。このように、Yがベンゾキシ基であるアミド化合物を使用することにより、環化したジケトピペラジンを効率良く得ることができる。
【化4】
【0038】
前記反応(2)において、一方のアミド化合物のR2をベンジル基(−CH2−C6H5)、他方のアミド化合物のR2をパラヒドロキシベンジル基(−CH2−C6H4−OH)とした場合、下記式の化合物が得られる。
【化5】
【0039】
反応(3)
【化6】
【0040】
前記反応(3)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R3およびR3’は、例えば、下記の通りである。基質である各アミド化合物において、R3およびR3’は、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、R3は、例えば、フェニル基(−C6H5)であることが好ましい。
【化7】
【0041】
反応(4)
【化8】
【0042】
前記反応(4)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R4は、例えば、下記の通りである。
【化9】
【0043】
反応(5)
【化10】
【0044】
反応(6)
【化11】
【0045】
前記反応(6)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。また、R5は、例えば、ヒドロキシ基(−OH)であり、R6は、例えば、水素原子(−H)である。
【0046】
反応(7)
【化12】
【0047】
前記反応(7)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、R7は、例えば、下記のとおりである。
【化13】
【0048】
反応(8)
【化14】
【0049】
前記反応(8)において、Xは、例えば、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。また、R8は、例えば、ヒドロキシ基(−OH)であり、R9は、例えば、水素原子(−H)である。
【0050】
本発明の組換アミノ酸転移酵素において、前記反応(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン残基に置換することで得られる。前記(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、Streptomyces thermocyaneoviolaceus NBRC14271由来アミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068由来アミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素等があげられる。また、前記反応(4)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記反応(5)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記反応(6)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られ、前記反応(7)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られ、前記反応(8)を触媒する組換アミノ酸転移酵素は、例えば、プロリルアミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンまたはアスパラギン酸残基に置換することで得られる。前記式(6)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、前記反応(4)または(5)を触媒する組換アミノ酸転移酵素と同様のものがあげられ、反応に応じた基質を使用することで、所望の反応を行うことができる。前記反応(4)、(5)および(7)を触媒する組換アミノ酸転移酵素の具体例としては、例えば、Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus NBRC14270由来プロリルアミノペプチダーゼについて、活性中心のセリン残基をシステイン残基に置換した酵素があげられる。
【0051】
前記アミノペプチダーゼの由来は、特に制限されないが、例えば、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、アシドサーマス属(Acidothermus)が好ましく、より好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)、さらに好ましくは、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068である。
【0052】
また、本発明の第1の組換アミノ酸転移酵素は、下記(a)〜(c)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号7で表されるアミノ酸配列において、502番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(c)配列番号7で表されるアミノ酸配列において、502番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号7で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0053】
前記(b)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0054】
前記(c)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)は、通常、2つのタンパク質のアミノ酸配列同士を適切に整列(アライメント)したときの同一性のパーセント値で表わすことができ、一般に、前記両アミノ酸配列間の正確な一致の出現率を意味する。同一性比較のための配列間での適切な整列は、種々のアルゴリズム、例えば、BLASTアルゴリズムを用いて決定できる(Altschu SF、外4名、J Mol Biol、1990年10月5日、第215巻、第3号、p.403−410)。
【0055】
本発明の第2の組換アミノ酸転移酵素は、下記(d)〜(f)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(d)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列において、144番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(f)配列番号17で表されるアミノ酸配列において、144番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号17で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0056】
前記(e)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0057】
前記(f)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)の意味は、前述と同様である。また、同一性比較のための配列間での適切な整列は、前述と同様にして決定できる。
【0058】
本発明の第3の組換アミノ酸転移酵素は、下記(g)〜(i)からなる群から選択された少なくとも一つのタンパク質からなることを特徴とする。
(g)配列番号22で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(h)配列番号22で表されるアミノ酸配列において、491番目のアミノ酸残基がシステインであり、1または数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
(i)配列番号22で表されるアミノ酸配列において、491番目のアミノ酸残基がシステインであり、前記配列番号22で表されるアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質
【0059】
前記(h)のタンパク質において、欠失、置換、挿入または付加された前記アミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜33個であることが好ましく、より好ましくは、1個〜15個である。
【0060】
前記(i)のタンパク質において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記タンパク質の相同性(ホモロジー)の意味は、前述と同様である。また、同一性比較のための配列間での適切な整列は、前述と同様にして決定できる。
【0061】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質であることが好ましい。
【0062】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、下記(x1)〜(x3)の性質であることを特徴とする。
(x1)分子量が30〜80kDaの範囲
(x2)至適pHが5〜8の範囲
(x3)至適温度が30〜60℃の範囲
【0063】
本発明の組換アミノ酸転移酵素は、例えば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質であることが好ましい。
【0064】
前記(x1)において、分子量は、好ましくは、30〜80kDaであり、特に好ましくは45〜80kDaである。前記(x2)において、至適pHは、好ましくは、5〜8であり、特に好ましくは6〜7.7である。前記(x3)において、至適温度は、好ましくは、30〜60℃であり、特に好ましくは30〜50℃である。
【0065】
<組換アミノ酸転移酵素遺伝子>
本発明の第1のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(A)〜(D)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(A)〜(D)は、配列番号8で表される塩基配列において、例えば、1112〜1114番目がシステインのコドンtgcである。
(A)配列番号8で表される塩基配列からなる核酸
(B)配列番号8で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(C)配列番号8で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(D)配列番号8で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0066】
前記(B)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、当該技術分野の当業者において、周知のハイブリダイゼーションの実験条件である。具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、0.7〜1mol/LのNaCl存在下、60〜68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍のSSC溶液を用い、65〜68℃で洗浄することにより同定することができる条件をいう。なお、1×SSCとは、150mmol/LのNaCl、15mmol/Lクエン酸ナトリウムからなる。
【0067】
前記(C)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、BLAST等を用いてデフォルトの条件で計算することにより、求めることができる。
【0068】
前記(D)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0069】
前記(B)、(C)および(D)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0070】
本発明の第2のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(E)〜(H)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(E)〜(H)は、配列番号18で表される塩基配列において、例えば、430〜432番目がシステインのコドンtgcである。
(E)配列番号18で表される塩基配列からなる核酸
(F)配列番号18で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(G)配列番号18で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(H)配列番号18で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0071】
前記(F)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、前述と同様の実験条件である。
【0072】
前記(G)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、前述と同様にして、求めることができる。
【0073】
前記(H)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0074】
前記(F)、(G)および(H)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0075】
本発明の第3のアミノ酸転移酵素遺伝子は、下記(I)〜(L)からなる群から選択された少なくとも一つの核酸からなることを特徴とする。なお、下記(I)〜(L)は、配列番号23で表される塩基配列において、例えば、1471〜1473番目がシステインのコドンtgtである。
(I)配列番号23で表される塩基配列からなる核酸
(J)配列番号23で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(K)配列番号23で表される塩基配列との相同性が60%以上の塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
(L)配列番号23で表される塩基配列において、1または数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された塩基配列からなる核酸であり、且つ、アミノ酸転移活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0076】
前記(J)において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、例えば、前述と同様の実験条件である。
【0077】
前記(K)において、前記相同性は、例えば、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。前記相同性は、例えば、前述と同様にして、求めることができる。
【0078】
前記(L)において、欠失、置換、挿入または付加された前記塩基の数は、特に制限されないが、例えば、1個〜406個、好ましくは、1個〜200個である。
【0079】
前記(J)、(K)および(L)において、前記核酸は、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒するタンパク質をコードする核酸であることが好ましい。
【0080】
<発現ベクター>
本発明の発現ベクターは、本発明の組換アミノ酸転移酵素遺伝子を含むことを特徴とする。本発明の発現ベクターは、本発明の組換アミノ酸転移酵素遺伝子を含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の発現ベクターは、例えば、宿主内で複製可能なベクターに前記組換アミノ酸転移酵素遺伝子を連結することにより調製できる。前記遺伝子を連結する前記ベクターとしては、特に制限されず、例えば、前述のものが使用できる。
【0081】
<形質転換体>
本発明の形質転換体は、前記本発明の発現ベクターを含むことを特徴とする。本発明の形質転換体は、本発明の発現ベクターを含んでいればよく、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の形質転換体は、例えば、宿主に前記発現ベクターを導入することにより調製できる。前記宿主としては、特に制限されず、例えば、前述のものが使用できる。
【0082】
このような本発明のアミノ酸転移酵素遺伝子、発現ベクターまたは形質転換体によれば、前記反応(1)〜(8)からなる群から選択された少なくとも一つの反応を触媒する組換アミノ酸転移酵素を容易に製造することができる。
【0083】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
<実施例1>
本例では、活性中心をシステインに置換した、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)由来トランスアミノペプチダーゼ(以下、「アミノリシンS」という。)を、以下のようにして作製した。
【0085】
[S9AP−ST遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)由来アミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「S9AP−ST」という)をクローニングした。
【0086】
ストレプトマイセス・サーモシアネオビオラセウス(Streptomyces thermocyaneoviolaceus)NBRC14271の菌体より、ホップウッドらの方法(Hopwood, D.A.Bibb, M.J.Chater, K.F.Kieser, T.Bruton, C.J.Kieser, H.M.Lydiate, D.J.Smith, C.P.Ward, J.M.Schrempf,H.A Laboratory Manual; The John Ines Foundation:Norwich, CT, 1985, pp.70−84.)によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、アシルペプチド加水分解酵素と推定される遺伝子の保存領域から、以下に示す配列番号1のセンスプライマー1および配列番号2のアンチセンスプライマー1を合成した。前記アシルペプチド加水分解酵素と推定される遺伝子としては、ストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 1898およびストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 6488を用いた。なお、下記プライマーの配列において、Sは、グアニンまたはシトシンを表す。
【0087】
センスプライマー1:(配列番号1)
5′−GSGTSATCGAGTACGGAGG−3′
アンチセンスプライマー1:(配列番号2)
5′−CCGTGSCCCTCSCCCTCGAA−3′
【0088】
前記調製したゲノムDNA、センスプライマー1およびアンチセンスプライマー1を用いてPCRを行い、DNAを増幅させた。増幅したDNA断片(1.5kbp)を、PCRクローニングキット(商品名「Zero Blunt(登録商標)II TOPO(登録商標)」、インビトロジェン社製)を用いてクローニングし、塩基配列を決定した。また、制限酵素PvuIIを用いた逆PCR法により、5′および3′領域の配列情報を得た。そして、開始コドンの上流側にNdeI部位を導入するセンスプライマー2(配列番号3)と、停止コドンの下流側にHindIII部位を導入するアンチセンスプライマー2(配列番号4)とを用いて、増幅したDNA断片をPCRにより増幅した。なお、下記センスプライマー2の配列において、下線部の3塩基は開始コドンであり、下記アンチセンスプライマー2の配列において、下線部の3塩基は停止コドンである。
【0089】
センスプライマー2:(配列番号3)
5′−CATATGTCGGACGTACAGACCC−3′
アンチセンスプライマー2:(配列番号4)
5′−AAGCTTCACGTGTGCAGCTCCA−3′
【0090】
増幅したDNA断片(2kbp)を、前述のPCRクローニングキットを用いてクローニングし、塩基配列を決定した。そして、制限酵素NdeIおよびHindIIIを用いて、前記DNA断片を消化し、前記S9AP−STをコードするDNA断片を得た。得られたDNA断片を、プラスミドpET 28a(+)(ノバジェン社製)のNdeI−HindIIIギャップに導入し、S9AP−STアミノペプチダーゼを発現するプラスミドpET28−His6−S9AP−STを構築した。なお、この発現ベクターは、N末端にHis6−tagを含むように設計した。前記S9AP−STの全塩基配列は、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にアクセッション番号AB480284として登録されている。
【0091】
[アミノペプチダーゼS9AP−STの発現]
つぎに、商品名「Overnight Express(商標)system 1」(ノバジェン社製)を用いて、以下のようにして、前記S9AP−STアミノペプチダーゼを過剰発現させた。
【0092】
まず、前記製品付属の使用説明書に従い、製品付属の培地(Overnight Express(商標)Instant TB medium)50mLに、前記発現プラスミドを有するRosetta(商標)2(DE3)pLysS(ノバジェン社製)のコロニーを植菌し、30℃、回転数180rpmの条件下で、16時間回転振とう培養した。培養終了後、遠心分離により細胞を回収し、商品名「Elestin NP035SP」(ネパジーン社製)を用いて、1分間隔で、最大出力で合計30分間、超音波処理した。得られた細胞除去抽出物を、His−タグ精製レジン(商品名「Talon(登録商標)Metal affinity resin」、クロンテック社製)を用いて、製品付属の使用説明書に従い精製した。精製タンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質であることを確認した。
【0093】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、以下のようにして、前記アミノペプチダーゼS9AP−STの変異タンパク質(以下、「アミノリシンS」という)を構築した。
【0094】
まず、下記のセンスプライマー3(配列番号5)およびアンチセンスプライマー3(配列番号6)を用いて、前記プラスミドpET28−His6−S9AP−STをPCRに供した。なお、下記センスプライマー3の配列は、S9AP−STの1505番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、1487−1516番目の塩基配列に相当し、下線部はBalI部位である。また、下記アンチセンスプライマー3の配列は、下線部がHindIII部位であり、その3´側に停止コドンTCAを有する。
【0095】
センスプライマー3:(配列番号5)
5′−TGGCCATCCGCGGCGGCTGCGCCGGCGGCT−3′
アンチセンスプライマー3:(配列番号6)
5′−AAGCTTCACGTGTGCAGCTCCA−3′
【0096】
増幅したDNA断片(0.5kbp)を、前述のPCRクローニングキットを用いてクローニングし、塩基配列を決定した。前記DNA断片を、制限酵素BalIおよびHindIIIで消化し、DNA断片を得た。得られたDNA断片を、pET28−His6−S9AP−STのBalI−HindIIIギャップに導入し、プラスミドpET28−His6−S502Cを構築し、塩基配列を決定した。前記プラスミドpET28−His6−S502Cを使用し、Rosetta(商標)2(DE3)pLysS(ノバジェン社製)を形質転換させた。なお、この発現ベクターは、N末端にHis6−tagを含むように設計した。
【0097】
前記プラスミドpET28−His6−S502Cをプラスミドとして用いたこと以外は、前述と同様にして、アミノリシンSを過剰発現させ、精製した。前記アミノリシンSのアミノ酸配列を、配列番号7に示し、前記アミノ酸配列をコードする塩基配列を、配列番号8に示す。前記アミノリシンSは、配列番号7のアミノ酸配列において502番目のシステインは、野生型のセリンから置換されたものである。
【0098】
<実施例2>
[アミノ酸誘導体に対する反応性評価]
基質として、下記表1記載のアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、本発明のアミノリシンSの前記基質に対する反応性を評価した。下記表1において、O−Meは、メトキシ基を表し、O−Bzlは、ベンゾキシ基を表し、O−Etは、エトキシ基を表す(以下、同様)。また、実施例において、アミノ酸およびアミノ酸誘導体におけるアミノ酸残基を、下記表1のように、省略形または一文字表記で記載することもある。
【0099】
【表1】
【0100】
まず、アミノリシンS 10μgを含む0.5mol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に、前記各アミノ酸誘導体を20mmol/Lの濃度となるように加え、50℃で23時間反応させた。なお、前記緩衝液には、前記反応液の最終容量が100μLとなるように、5体積%のDMSOを添加した。反応終了後、3体積%のギ酸100μLを加えて反応を停止させ、遠心分離した。遠心分離後、上層20μLを採取し、ODS−HPLC/UV/MS分析に供した。なお、前記ODS−HPLC/UV/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。
【0101】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有アセトニトリル、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:15%溶媒B
同 5−30分後:溶媒B濃度を15%から50%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 30−35分後:50%溶媒B
同 35−40分後:溶媒B濃度を50%から80%に変化させる
直線勾配グラジェント
検出条件: UV210nmの吸収
【0102】
前記表1記載のアミノ酸誘導体を用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、前記10のアミノ酸誘導体と、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0103】
図1のグラフに、前記No.1〜3のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.1、3、2のアミノ酸誘導体の結果である。同図中の(a)〜(k)は、検出された各ピークである。同図の上段に示すように、No.1(L−フェニルアラニンアミド、LF−NH2)を基質とする反応の結果、(a)〜(c)のピークに示される、3つの生成物が確認された。また、同図の中段に示すように、No.3(エトキシ−L−フェニルアラニン、LF−O−Et)を基質とする反応の結果、(d)〜(g)のピークに示される、4つの生成物が確認された。そして、同図の下段に示すように、No.2(メトキシ−L−フェニルアラニン、LF−O−Me)を基質とする反応の結果、(h)〜(k)のピークに示される、4つの生成物が確認された。
【0104】
図2に、図1における前記ピーク(a)〜(k)のMS分析結果を示す。
【0105】
図2において、グラフ(a)、(b)および(c)は、それぞれ、図1のピーク(a)、ピーク(b)およびピーク(c)のMSスペクトルプロファイルである。図2(a)〜(c)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(a)の生成物は、LF−NH2にLFが結合したLF−LF−NH2であり、図1のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図1のピーク(c)の生成物は、LF−NH2に2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−NH2であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.1(LF−NH2)のC末端側にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−NH2およびLF−LF−LF−NH2が生成した。
【0106】
図2において、グラフ(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図1のピーク(d)、ピーク(e)、ピーク(f)およびピーク(g)のMSスペクトルプロファイルである。図2(d)〜(g)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(d)の生成物は、LF−LFであり、図1のピーク(e)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図1のピーク(f)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図1のピーク(g)の生成物は、LF−O−Etに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−O−Etであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.3(LF−O−Et)にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF、LF−LF−LF−O−Et、および、ジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。なお、以下、ジペプチドが環化したものを、シクロジペプチドともいう。
【0107】
図2において、グラフ(h)、(i)、(j)および(k)は、それぞれ、図1のピーク(h)、(i)、(j)および(k)のMSスペクトルプロファイルである。図2(h)〜(k)に示すMS分析の結果から、図1のピーク(h)の生成物は、LF−LFであり、図1のピーク(i)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図1のピーク(j)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図1のピーク(k)の生成物は、LF−O−Meに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.2(LF−O−Me)にL−フェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF、LF−LF−LF−O−Me、およびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0108】
図3のグラフに、No.4〜7のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.4、5、6、7のアミノ酸誘導体の結果である。また、同図中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図の上段に示すように、No.4(LL−O−Me)に対する反応の結果、(a)および(b)のピークに示される、2つの生成物が確認された。また、同図の2段目に示すように、No.5(LL−O−Et)に対する反応の結果、(c)〜(e)のピークに示される、3つの生成物が確認された。そして、同図の3段目に示すように、No.6(LL−O−Bzl)に対する反応の結果、(f)のピークに示される、1つの生成物が確認された。さらに、同図の4段目に示すように、No.7(DL−O−Bzl)に対する反応の結果、(g)のピークに示される、1つの生成物が確認された。
【0109】
図4に、図3における前記ピーク(a)〜(g)のMS分析結果およびMS/MS分析結果を示す。
【0110】
図4において、グラフ(a)は、上段が、図3のピーク(a)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(a)のMS/MSスペクトルプロファイルである。図4において、グラフ(b)は、図3のピーク(b)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(a)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図3のピーク(b)の生成物は、LL−O−Meに2分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.4(LL−O−Me)にL−ロイシンが転移したペプチドLL−LL−LL−O−Me、およびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0111】
図4において、グラフ(c)は、上段が、図3のピーク(c)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(c)のMS/MSスペクトルプロファイルである。図4において、グラフ(d)は、図3のピーク(d)のMSスペクトルプロファイルであり、グラフ(e)は、図3のピーク(e)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(c)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図3のピーク(d)の生成物は、LL−O−EtにLLが結合したLL−LL−O−Etであり、図3のピーク(e)の生成物は、LL−O−Etに2分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−O−Etであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.5(LL−O−Et)にL−ロイシンが転移したペプチド LL−LL−O−Et、LL−LL−LL−O−Et、およびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0112】
図4において、グラフ(f)は、上段が、図3のピーク(f)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(f)のMS/MSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(f)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.6(LL−O−Bzl)にL−ロイシンが転移したジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成した。
【0113】
図4において、グラフ(g)は、上段が、図3のピーク(g)のMSスペクトルプロファイルであり、下段が、前記ピーク(g)のMS/MSスペクトルプロファイルである。MS分析およびMS/MS分析の結果、図3のピーク(g)の生成物は、DL−DLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DL−DL)であることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.7(DL−O−Bzl)にD−ロイシンが転移したジペプチドが環化したシクロ(DL−DL)が生成した。
【0114】
図5に、No.8〜10のアミノ酸誘導体の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、No.8、10、9のアミノ酸誘導体の結果である。また、同図中の(a)〜(e)は、検出された各ピークを示す。同図の上段に示すように、No.8(LW−O−Me)に対する反応の結果、(a)および(b)のピークに示される、2つの生成物が確認された。また、同図の中段に示すように、No.10(LY−O−Me)に対する反応の結果、(c))のピークに示される、1つの生成物が確認された。そして、同図の下段に示すように、No.9(LM−O−Me)に対する反応の結果、(d)および(e)のピークに示される、2つの生成物が確認された。
【0115】
図6に、図5における前記ピーク(a)〜(e)のMS分析結果を示す。
【0116】
図6において、グラフ(a)および(b)は、それぞれ、図5のピーク(a)およびピーク(b)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(a)の生成物は、LW−LWのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LW−LW)であり、図5のピーク(b)の生成物は、LW−O−Meに2分子のLWが連続して結合したLW−LW−LW−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.8(LW−O−Me)にL−トリプトファンが転移したペプチド LW−LW−LW−O−Meおよびジペプチドが環化したシクロ(LW−LW)が生成した。
【0117】
図6において、グラフ(c)は、図5のピーク(c)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(c)の生成物は、LY−O−Meに2分子のLYが連続して結合したLY−LY−LY−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.10(LY−O−Me)にL−チロシンが転移したLY−LY−LY−O−Meが生成した。
【0118】
図6において、グラフ(d)および(e)は、それぞれ、図5のピーク(d)およびピーク(e)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、図5のピーク(d)の生成物は、LM−LMのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LM−LM)であり、図5のピーク(e)の生成物は、LM−O−Meに2分子のLMが連続して結合したLM−LM−LM−O−Meであることが示された。すなわち、アミノリシンSのアミノ酸結合活性により、No.9(LM−O−Me)にL−メチオニンが転移したペプチド LM−LM−LM−O−Meおよびジペプチドが環化したシクロ(LM−LM)が生成した。
【0119】
<実施例3>
[酵素量]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、酵素量によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価においては、前記アミノ酸誘導体に代えて、60mmol/L LFおよび0.5mmol/L LF−O−Etを使用し、アミノリシンS量を所定量(0、3.75、7.5、15、30μg)とし、反応時間を1時間としたこと以外は、実施例2と同様にして反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。なお、前記分析において、シグマ社製の試薬LF−O−EtおよびLF−LFのリテンション時間との比較から、LF−O−EtおよびLF−LFの検出を確認した。また、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの検出は、MSスペクトルにおけるm/z 295およびm/z 342の[M+H]+イオンから確認した。そして、下記式1を用いて、LF−O−EtからLF−LFへの変換率を算出した。
【0120】
(式1)
変換率(%)=(A/B)×100
A:生成LF−LFのモル数
B:基質として添加したLF−O−Etのモル数
【0121】
図7(A)のグラフに、酵素量による活性測定結果を示す。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、アミノリシンS濃度依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、アミノリシンS 30μgのとき、基質であるLF−O−Etが全て、他のペプチドに転換された。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。最も生成量の多いLF−LFの変換率は、約30%であった。
【0122】
<実施例4>
本発明のアミノリシンSについて、各種要因による酵素活性への影響を評価した。
【0123】
[反応時間]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、反応時間によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価においては、アミノリシンS量を10μgとし、反応時間を所定時間(0、0.5、1、1.5、2、3時間)としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。
【0124】
図7(B)のグラフに、反応時間による活性測定結果を示す。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、時間依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、反応時間が1.5時間を過ぎると、基質であるLF−O−Etが全て、他のペプチドに転換された。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0125】
[pH]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、pHによるアミノ酸結合活性をへの影響を評価した。すなわち、まず、80mmol/L LW、1mmol/L LF−NH2および1v/v% DMSOを添加した緩衝液 100μLに、アミノリシンS 10μgを加え、30℃で1時間反応させた。なお、前記緩衝液としては、所定pH(pH6.6、7.0、7.2、7.5および7.7)に調整した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液、または所定pH(pH7.7、7.9、8.4、8.8および9.3)に調整した0.5mol/Lのホウ酸ナトリウム緩衝液を用いた。反応後、0.05v/v%のトリフルオロ酢酸を含む、20v/v%のアセトニトリル 100μLを加えて反応を停止させ、遠心分離した。上層の20μLを回収し、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、また、LF−LWの検出は、MSスペクトルにおけるm/z 334の[M+H]+イオンから確認した。そして、LF−LWの生成量を、UVクロマトグラム(測定波長210nm)における該当ピークのピーク面積から算出し、前記ピーク面積から、アミノ酸結合活性を評価した。
【0126】
図8のグラフに、pHによる活性測定結果を示す。同図において、横軸は、pHであり、縦軸は、前記LF−LWの生成量を示す。また、同図において、白丸(○)のスポットは、リン酸ナトリウム緩衝液を用いたpH6.6〜7.7の測定結果であり、白三角(△)のスポットは、ホウ酸ナトリウム緩衝液を用いたpH7.7〜9.3の測定結果である。同図に示すように、アミノリシンSは、pH6.6〜8.8で酵素活性が確認され、至適pHは、7.7であった。
【0127】
[DMSO]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、DMSOによるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価において、前記LFの濃度を40mmol/Lとし、アミノリシンS量を10μgとし、DMSOを所定濃度(5、10、15、20v/v%)としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。そして、得られた反応液を、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、LF−LFの検出は、実施例3と同様にして行った。また、下記式2を用いて、LF−LFの生成量から、比活性(%)を算出した。
【0128】
(式2)
比活性(%)=(C/D)×100
C:各濃度のDMSO添加区における生成LF−LFのモル数
D:DMSO添加濃度5%における生成LF−LFのモル数
【0129】
図9のグラフに、DMSOによる活性測定結果を示す。同図において、横軸は、反応液中のDMSO濃度(v/v%)であり、縦軸は、比活性(%)である。同図に示すように、DMSO 5体積%添加時と比較して、DMSO 10体積%添加時は約95%、DMSO 15体積%添加時は約90%、DMSO 20体積%添加時は約60%の比活性を有した。すなわち、本発明のアミノリシンSは、高濃度のDMSO条件下も、高い酵素活性を示した。
【0130】
[温度]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、処理温度によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。すなわち、まず、アミノリシンS 50μgを添加した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)50μLを、所定温度(20、30、40、50、60、70℃)で1時間処理し、処理液を調製した。そして、前記リン酸ナトリウム緩衝液90μLに、アミノリシンSに代えて前記処理液10μLを添加したこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。得られた反応液10μLを回収し、LC/UV/MS分析に供した。なお、前記分析において、LF−LFの検出は、実施例3と同様にして行った。また、下記式3を用いて、LF−LFの生成量から、比活性(%)を算出した。
【0131】
(式3)
比活性(%)=(E/F)×100
E:各温度で処理した酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
F:未加熱処理の酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
【0132】
図10(A)のグラフに、耐熱性の測定結果を示す。同図において、横軸は、処理温度(℃)であり、縦軸は、前記比活性(%)である。前述のように、各温度で1時間処理した後の酵素を用いて、その残存活性を測定した。同図に示すように、アミノリシンSは、20〜50℃の処理間で酵素活性が90%以上保持され、60℃処理においても60%以上の酵素活性が保持された。この結果から、本発明のアミノリシンSは、高い耐熱性を有することが明らかとなった。
【0133】
[高温処理時間]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、高温処理時間によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。前記アミノリシンS 50μgを添加した0.5mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)50μLを、50℃で所定時間(0、1、2、3、4、5時間)処理したこと以外は、前記処理温度によるアミノ酸結合活性への影響の評価と同様にして、処理液を反応させ、LC/UV/MS分析を行った。そして、LF−LFの生成量から、下記式4を用いて比活性(%)を算出した。
【0134】
(式4)
比活性(%)=(G/H)×100
G:各温度で処理した酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
H:未加熱処理の酵素を用いた反応による生成LF−LFのモル数
【0135】
図10(B)のグラフに、高温処理時間による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、処理時間(時間)であり、縦軸は、前記比活性(%)である。同図に示すように、アミノリシンSは、50℃で5時間処理後も、40%以上の酵素活性が確認された。
【0136】
[アミノ酸濃度]
本発明のアミノリシンSについて、以下のようにして、アミノ酸の濃度によるアミノ酸結合活性への影響を評価した。本評価において、前記アミノ酸誘導体に代えて、LF−O−Etと、LFまたはLWとを使用し、反応時間を1時間としたこと以外は、実施例2と同様にして反応を行い、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。反応液における濃度は、LF−O−Etを0.5mmol/L、LFまたはLWを所定濃度(10、20、30、40、50、60、70、80mmol/L)とした。なお、前記分析において、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−O−EtおよびLF−LF−O−Etは、実施例3と同様にして検出した。LF−LWは、MSスペクトルにおけるm/z 334の[M+H]+イオンから検出した。また、各ペプチドの生成量は、UVクロマトグラム(測定波長210nm)における該当ピークのピーク面積から算出した。そして、前述の式1を用いて、LF−O−EtからLF−LFへの変換率を算出した。また、下記式5を用いて、LF−O−EtからLF−LWへの変換率を算出した。
【0137】
(式5)
変換率(%)=(I/J)×100
I:生成LF−LWのモル数
J:基質として添加したLF−O−Etのモル数
【0138】
図11(A)のグラフに、LF濃度による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、LFの濃度(mmol/L)であり、左端の縦軸は、各ペプチドの生成量を示すピーク面積であり、右端の縦軸は、前記変換率(%)である。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LFであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、LF濃度依存的に、LF−LF、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、LF濃度が50mmol/Lのとき、LF−LFの生成量が最も高かった。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LF、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0139】
図11(B)のグラフに、LW濃度による活性測定結果を示す。同図において、横軸は、LWの濃度(mmol/L)であり、左端の縦軸は、各ペプチドの生成量を示すピーク面積であり、右端の縦軸は、前記変換率(%)である。同図において、黒丸(●)のスポットは、LF−LWであり、白丸(○)のスポットは、シクロ(LF−LF)であり、黒三角のスポットは、LF−LF−O−Etであり、白三角(△)のスポットは、LF−O−Etである。同図に示すように、LW濃度依存的に、LF−LW、シクロ(LF−LF)およびLF−LF−O−Etの生成が確認された。そして、LW濃度が50mmol/Lのとき、LF−LWの生成量が最も高かった。なお、各ペプチドの生成量は、LF−LW、シクロ(LF−LF)、LF−LF−O−Etの順に多かった。
【0140】
<実施例5>
[遊離アミノ酸のアシル受容体評価]
アシル受容体として、下記表2記載の遊離アミノ酸を用い、以下のようにして、アミノリシンSによるアミノ酸結合反応を行い、生成物を分析した。前記LFに代えて、60mmol/Lの前記遊離アミノ酸を用い、アミノリシンSを10μgとし、反応時間を15時間としたこと以外は、実施例3と同様にして、前記遊離アミノ酸とLF−O−Etとを反応させ、ODS−HPLC/UV/MS分析を行い、各ペプチドを検出した。
【0141】
【表2】
【0142】
前記表2記載の、L−フェニルアラニン、L−ロイシン、L−トリプトファン、L−メチオニン、(R)−α−アリルグリシン、(S)−α−アリルグリシンおよび(R)−α−プロパルギルグリシンについて、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0143】
図12に、前述の7つの化合物の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)であり、上から順に、(R)−α−アリルグリシン、(S)−α−アリルグリシン、(R)−α−プロパルギルグリシン、L−ロイシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トリプトファンの結果である。分析の結果、同図において、ピーク(a)〜(g)は、ジペプチドであり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であった。
【0144】
図13に、図12における前記ピーク(a)〜(g)のMS分析結果を示す。図13において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図12のピーク(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)のMSスペクトルプロファイルである。グラフ(a)〜(g)中の構造化学式は、各ピークのジペプチドである。
【0145】
<実施例6>
[ベンジルエステルアミノ酸誘導体の評価]
アミノ酸誘導体として、下記表3のベンジルエステルアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、アミノリシンSによるアミノ酸結合反応を行い、生成物を分析した。前記LF−O−Etの濃度を2.5mmol/Lとし、前記LFに代えて、2.5mmol/Lの下記ベンジルエステルアミノ酸誘導体を用い、アミノリシンSを10μgとし、前記DMSO濃度を1v/v%とし、反応時間を15時間としたこと以外は、実施例3と同様にして反応させた。反応後、DMSO 200μLを加えて反応を停止させ、上層の10μLを回収したこと以外は、実施例3と同様にして、ODS−HPLC/UV/MS分析を行った。
【0146】
【表3】
【0147】
前記表3記載の、アミノ酸部分が、L−ロイシン、D−ロイシン、L−チロシン、D−チロシン、D−バリンおよびD−フェニルアラニンのベンジルエステルアミノ酸誘導体について、アミノリシンSとの反応による生成物が確認された。
【0148】
図14に、前述の6つの化合物の反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、縦軸は、測定波長210nmにおける相対強度であり、上から順に、LY−O−Bzl、DY−O−Bzl、LL−O−Bzl、DL−O−Bzl、DV−O−Bzl、DF−O−Bzlの結果である。分析の結果、同図において、ピーク(a)〜(f)は、一方のペプチドのみがLFであるシクロジペプチドであり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であった。
【0149】
図15に、図14のピーク(a)〜(f)のMS分析結果を示す。図15において、グラフ(a)〜(f)は、それぞれ、図14のピーク(a)〜(f)のMSスペクトルプロファイルである。MS分析の結果、ピーク(a)は、LFとLYのジペプチドが環化したシクロ(LF−LY)であり、ピーク(b)は、LFとDYのジペプチドが環化したシクロ(LF−DY)であり、ピーク(c)は、LFとLLのジペプチドが環化したシクロ(LF−LL)であり、ピーク(d)は、LFとDLのジペプチドが環化したシクロ(LF−DL)であり、ピーク(e)は、LFとDVのジペプチドが環化したシクロ(LF−DV)であり、ピーク(f)は、LFとDFのジペプチドが環化したシクロ(LF−DF)であった。このように、アミノリシンSによる、LF−O−Etと、L−アミノ酸型またはD−アミノ酸型のベンジルエステル誘導体との結合反応が、確認された。
【0150】
<実施例7>
[生成したシクロジペプチドの分析]
実施例6において、LF−O−Etと前記LY−O−BzlまたはDY−O−Bzlとの反応から得られた生成物について、LC/MS/MS分析を行った。
【0151】
まず、図16(A)のグラフに、前記ベンジルエステルアミノ酸誘導体として、LY−O−Bzlを使用した反応液、および、DY−O−Bzlの反応液のトータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図において、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、測定波長210nmにおける相対強度である。また、同図において、上段のチャートが、LY−O−Bzlの結果であり、下段のチャートが、DY−O−Bzlの結果である。なお、同図において、線Xは、LY−O−BzlまたはDY−O−Bzlを用いた結果であり、線Yは、アミノリシンSを添加していないコントロールの結果である。同図に示すように、前記分析の結果、ピーク(a)および(b)の生成物が確認された。そして、MS分析により、前記ピーク(a)は、シクロ(LF−LY)であり、前記ピーク(b)は、シクロ(LF−DY)であり、アスタリスク直下のピークは、シクロ(LF−LF)であることが確認された。
【0152】
つぎに、図16(B)のグラフに、図16(A)のピーク(a)およびピーク(b)のMS/MSスペクトルプロファイルを、それぞれ示す。同図において、上段のチャートが、図16(A)のピーク(a)の結果であり、下段のチャートが、図16(A)のピーク(b)の結果である。図16(B)の上段に示すように、MS/MS分析により、図16(A)のピーク(a)は、さらに、ピーク(a)〜(g)に分離され、図16(B)の下段に示すように、図16(A)のピーク(b)は、さらに、前記上段と同じピーク(a)〜(g)に分離された。図16(B)において、ピーク(a)、(b)および(c)は、m/z値が、それぞれ、283.1、265.9、237.8であり、ジケトピペラジン骨格に特徴的なイオンピークであり、ピーク(d)および(f)は、m/z値が、それぞれ、205.1、120.0であり、トリプロファンに特徴的なイオンピークであり、ピーク(e)および(g)は、m/z値が、それぞれ、136.0、106.8であり、チロシンに特徴的なイオンピークであった。
【0153】
図17に、前記MS/MSスペクトルから推定される、図16(B)の前記ピーク(a)〜(g)のイオンを示す。
【0154】
<参考例>
[アミノペプチダーゼS9AP−STの活性評価]
実施例1で精製したアミノペプチダーゼS9AP−STの酵素活性を、下記表4のパラニトロアニリド誘導体を基質として使用し、以下のようにして測定した。まず、前記パラニトロアニリド誘導体を含む50mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH8.5)に、前記アミノペプチダーゼS9AP−ST 1.0μgを加え、37℃で、5分間反応させた。分光光度計(U2800、日立製作所製)を用い、405nmの測定波長で、前記反応液の吸光度を連続的に5分間測定した。下記式6を用いて、比活性(%)を算出した。
【0155】
(式6)
比活性(%)=(K/L)×100
K:各基質を添加した系における遊離パラニトロアニリドのモル数
L:Ala−pNAを基質とした系における遊離パラニトロアニリドのモル数
【0156】
【表4】
【0157】
図18のグラフに、アミノペプチダーゼS9AP−STの活性測定結果を示す。同図において、縦軸は、比活性(%)であり、横軸は、各種基質である。なお、前記横軸には、各種基質のアミノ酸部分の省略形のみ表記している。同図に示すように、アミノペプチダーゼS9AP−STは、フェニルアラニン、アラニン、プロリン、グリシン、アルギニン、メチオニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、リジンまたはアスパラギンをジペプチドのN末端から遊離させ、特に、フェニルアラニン、アラニンおよびプロリンに対し、高い酵素活性を有した。このように、アミノペプチダーゼS9AP−STは、幅広いアミノ酸に対するアミノペプチダーゼ活性が確認された。また、いずれの基質を用いた場合にも、アミノペプチダーゼS9AP−STによるアミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0158】
<実施例8>
本例では、活性中心をシステインに置換した、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270由来アミノ酸転移酵素(以下、「scPAP14270」という。)を、以下のようにして作製した。
【0159】
[pap14270遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)由来プロリルアミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「pap14270遺伝子」という)をクローニングした。
【0160】
ストレプトマイセス・サーモルテウス・サブスピーシーズ・フスカス(Streptomyces thermoluteus subsp.fuscus)NBRC14270の菌体より、前記ホップウッドらの方法によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、プロリルアミノペプチダーゼと推定される遺伝子の保存領域から、以下に示す配列番号9のセンスプライマー4および配列番号10のアンチセンスプライマー4を合成した。前記プロリルアミノペプチダーゼと推定される遺伝子としては、前述のストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 3144、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 5122およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のSGR 2407を用いた。なお、下記プライマーの配列において、Wは、アデニンまたはチミンを表し、Sは、グアニンまたはシトシンを表す。
【0161】
センスプライマー4:(配列番号9)
5′−CAGWSSTTCGGSGGSTTCTGC−3′
アンチセンスプライマー4:(配列番号10)
5′−ACGTACATGTCGTCGTGGTA−3′
【0162】
下記組成のPCR反応液についてPCRを行い、DNAを増幅させた。なお、下記センスプライマーとしては、前記センスプライマー4を用い、下記アンチセンスプライマーとしては、前記アンチセンスプライマー4を用いた。前記PCRは、94℃で1分処理後、94℃で30秒、60℃で30秒および72℃で90秒を1サイクルとして30サイクル繰り返し、さらに、72℃で5分間処理して行った。
【0163】
(PCR反応液)
0.1μg/L ゲノムDNA
10μmol/L センスプライマー
10μmol/L アンチセンスプライマー
0.042U/μL LA Taq DNA polymerase
(タカラバイオ社製)
GC buffer I(タカラバイオ社製)
【0164】
増幅したDNA断片を、制限酵素CpolIを用いて37℃で一晩消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール混合液を用いて抽出した。前記ゲノムDNAおよびプライマーに代えて、この抽出したDNA、下記センスプライマー5およびアンチセンスプライマー5を用いた以外は、前述と同様にしてPCRを行った。得られたDNA断片(約2kbp)を、下記センスプライマー5およびアンチセンスプライマー5を用いてシークエンスし、前記pap14270遺伝子の塩基配列を決定した。なお、前記pap14270遺伝子の全塩基配列は、DDBJデータベース(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)にアクセッション番号AB519645として登録されている。
【0165】
センスプライマー5:(配列番号11)
5′−AACGAGGTCCCGGTCGCCGC−3′
アンチセンスプライマー5:(配列番号12)
5′−GGCGAGGGAGAGGTACGACA−3′
【0166】
前記LA Taq DNA polymeraseおよびプライマーに代えて、PrimeSTAR(登録商標)GXL DNAPolymerase(タカラバイオ社製)、下記センスプライマー6および下記アンチセンスプライマー6を用いた以外は前述と同様にして、PCRを行い、前記pap14270遺伝子のDNA断片を増幅した。なお、前記センスプライマー6は、NdelIサイト(CATATG:下線部の塩基は開始コドンである)を含み、前記アンチセンスプライマー6は、停止コドンの下流にHindIIIサイトを含んだ。PCRクローニングキット(商品名「Zero Blunt(登録商標)II TOPO(登録商標)」、インビトロジェン社製)を用いて、得られたDNA断片をクローニングおよびシークエンスし、塩基配列を決定した。そして、制限酵素NdeIおよびHindIIIを用いて、前記DNA断片を消化し、前記PAP14270をコードするDNA断片を得た。得られたDNA断片を、プラスミドpET 28a(+)(ノバジェン社製)のNdeI−HindIIIギャップに導入し、前記PAP14270を発現する発現プラスミドpET28−PAP14270を得た。GenePulseXcell(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、前記発現プラスミドpET28−PAP14270を、Rosetta−Gami−2(DE3)(メルク社製)に導入し、形質転換体を得た。
【0167】
センスプライマー6:(配列番号13)
5′−CATATGAGCCTCAGCTACCGTCAG−3′
アンチセンスプライマー6:(配列番号14)
5′−AAGCTTCACACCTCGTCGCGCACCAG−3′
【0168】
[PAP14270の発現]
つぎに、以下のようにして、前記PAP14270を過剰発現させた。
【0169】
まず、Overnight Express system I(メルク社製)を用いて、製品付属の培地(Overnight Express Instant TB medium)50mLに、前記形質転換体を植菌し、25℃、回転数180rpmの条件下で、48時間回転振とう培養した。培養終了後、遠心分離により細胞を回収し、Elestin NP035SP(ネパジーン社製)を用いて、5分間隔で1分間欠し、合計45分間、最大出力で超音波処理した。得られた無細胞抽出物(細胞除去抽出物)を、コバルトアフィニティ製レジン(Talon(登録商標)、クロンテック社製)を用いて、製品付属の使用説明書に従い精製した。精製タンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質であることを確認した。Bio−Rad Protein assay reagent(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、前記タンパク質の濃度を測定した。
【0170】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、以下のようにして、前記PAP14270の変異タンパク質(以下、「scPAP14270」という)を構築した。
【0171】
まず、前記LA Taq DNA polymeraseおよびプライマーに代えて、PrimeSTAR(登録商標)GXL DNAPolymerase kit(タカラバイオ社製)、下記センスプライマー7および下記アンチセンスプライマー7を用いた以外は前述と同様にして、前記発現プラスミドpET28−PAP14270をPCRに供した。なお、下記センスプライマー7の配列は、前記pap14270遺伝子の全塩基配列における430番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、424−444番目の塩基配列に相当する。また、前記PCRは、98℃で10秒、60℃で15秒および68℃で7分を1サイクルとして30サイクル繰り返して行った。
【0172】
センスプライマー7:(配列番号15)
5′−GGCCAGTGCTTCGGCGGCTTC−3′
アンチセンスプライマー7:(配列番号16)
5′−GAAGCCGCCGAAGCACTGGCC−3′
【0173】
増幅したDNA断片を、制限酵素DpnIを用いて37℃で一晩消化し、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール混合液を用いて抽出した。エタノール沈殿後、取扱説明書に従って、得られた沈殿物をJM109(COMPETENT high、東洋紡社製)にトランスフェクトした。GenePulseXcell(バイオ−ラッド・ラボラトリー社製)を用いて、抽出プラスミド(NucleoSpin(登録商標)ExtractII、Macherey−Nagel社製)をRosetta−Gami−2(DE3)(メルク社製)に導入し、変異PAP14270(scPAP14270)の発現プラスミドpET28−scPAP14270を得た。
【0174】
前記発現プラスミドpET28−scPAP14270を用いた以外は、前記PAP14270と同様にして、形質転換体を作製し、scPAP14270を過剰発現させて、精製した。精製したタンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質(scPAP14270)であることを確認した。前記scPAP14270のSDS−PAGE法による分子量は、約45kDaであった。前記scPAP14270のアミノ酸配列を、配列番号17に示し、前記アミノ酸配列をコードするscPAP14270遺伝子の塩基配列を、配列番号18に示す。配列番号17に示すアミノ酸配列において、144番目のシステインは、野生型のセリンから置換されている。配列番号18に示す前記scPAP14270遺伝子の塩基配列において、430番目のチミンは、野生型のアデニンから置換されている。
【0175】
<実施例9>
[プロリンペプチド生成測定]
本例では、プロリンベンジルエステル(Pro−OBzl)を基質として用い、以下のようにして、実施例8のscPAP14270によるペプチド生成を測定した。
【0176】
まず、200mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH8.5)50μLに、scPAP14270 8.7μgを含む酵素液40μL、100mmol/L プロリンベンジルエステル(バッケムAG社製)5μLおよびDMSO 5μLを加え、37℃、900rpmで3時間反応させた。反応終了後、メタノール200μLを加えて反応を停止させ、遠心分離(10000rpm、約11000×g)した。遠心分離後、上層20μLを採取し、LS/MS分析に供した。なお、前記LS/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。そして、各ペプチドの生成量を、MS分析により得られる、指定された分子量のイオン強度が示す面積から算出した。
【0177】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有メタノール、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:5%溶媒B
同 5−30分後:溶媒B濃度を5%から50%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 30−35分後:50%溶媒B
同 35−40分後:溶媒B濃度を50%から80%に変化させる
直線勾配グラジェント
検出条件:UV210nmの吸収
【0178】
プロリンベンジルエステルを用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、プロリンベンジルエステルと、scPAP14270との反応による生成物が確認された。
【0179】
図19のグラフに、プロリンベンジルエステルを含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、プロリンベンジルエステル(P−OBzl)を基質とする反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。
【0180】
図20に、図19における前記ピーク(a)〜(f)のMS分析結果を示す。以下、プロリンを「P」で示す。
【0181】
図20において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)は、それぞれ、図19のピーク(a)、ピーク(b)、ピーク(c)、ピーク(d)、ピーク(e)およびピーク(f)のMSスペクトルプロファイルである。図20(a)〜(f)に示すMS分析の結果から、図19のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図19のピーク(b)の生成物は、P−OBzlであり、図19のピーク(c)の生成物は、P−OBzlにPが結合したP−P−OBzl(以下、「P2−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(以下、「P3−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(以下、「P4−OBzl」ということもある)であり、図19のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(以下、「P5−OBzl」ということもある)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、P−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、5種類のペプチドP−P−OBzl、P−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。なお、図20の各グラフ中の[M+H]+の値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いたm/z値である。また、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼPAP14270を用いた場合には、アミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0182】
[pH]
scPAP14270について、以下のようにして、pHによるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、基質として、プロリンベンジルエステルを用い、前記緩衝液として、各所定pHに調整したクエン酸−リン酸−ホウ酸緩衝液(pH3.5−11.5)を用いた以外は、前記プロリンペプチド生成測定と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0183】
図21のグラフに、各pHにおけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、pHであり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、シクロ(P−P)はpH8.5、P2−OBzlはpH6.5、P3−OBzlはpH8.5、P4−OBzlはpH8.5、P5−OBzlはpH9.5において、それぞれ最も生成量が高かった。このように、pHにより、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0184】
[酵素量]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、酵素量によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、前記酵素液中のscPAP14270量を、所定濃度(0.55、1.09、2.19、4.38、8.75、17.5および35μg)とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0185】
図22のグラフに、各酵素量におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、酵素量(μg)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、0.55〜8.75μgの酵素量では、シクロ(P−P)、P3−OBzl、P4−OBzlの順に生成量が多く、P5−OBzlは、ほとんど生成されなかった。これに対して、17.5〜35μgの酵素量では、P3−OBzlおよびP4−OBzlに比べて、シクロ(P−P)およびP5−OBzlの生成量が多かった。このように、反応系中の酵素量により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0186】
[基質濃度]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、基質濃度によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、プロリンベンジルエステル量を、所定濃度(5、10、25、50および100mmol/L)とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0187】
図23のグラフに、各基質濃度におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、基質濃度(mmol/L)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、6.25〜50mmol/Lの基質濃度では、シクロ(P−P)の生成量が最も多く、P3−OBzlおよびP4−OBzlの生成量が次に多かった。これに対して、P2−OBzlおよびP5−OBzlは、生成量が少なかった。このように、反応系中の基質濃度により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0188】
[反応時間]
本発明のscPAP14270について、以下のようにして、反応時間によるペプチド生成への影響を評価した。本評価においては、所定(0.5、1、1.5、3、6、12および24時間)の反応時間とした以外は、前記プロリンペプチド生成評価と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0189】
図24のグラフに、各反応時間におけるペプチド生成結果を示す。同図において、横軸は、反応時間(時間)であり、縦軸は、ピーク面積(ペプチド生成量の相対値)を示す。また、同図において、黒丸(●)は、シクロ(P−P)の結果であり、白丸(○)は、P−OBzlの結果であり、黒三角は、P2−OBzlの結果であり、黒四角(■)は、P3−OBzlの結果であり、黒四角(◆)は、P4−OBzlの結果であり、×は、P5−OBzlの結果である。同図に示すように、0.5〜3時間においては、P2−OBzl、P4−OBzlおよびP5−OBzlに比べて、シクロ(P−P)およびP3−OBzlの生成量が高かった。これに対して、6〜24時間においては、シクロ(P−P)の生成量が高く、その他のペプチドは減少した。このように、反応時間により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。
【0190】
<実施例10>
[へテロオリゴペプチド生成測定]
本例では、アシル供与体として、プロリンベンジルエステル(P−OBzl)を用い、アシル受容体として、アミノ酸およびアミノ酸誘導体を用い、以下のようにして、実施例8のscPAP14270によるペプチド生成を測定した。なお、前記アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、セリン、アルギニン、ヒスチジン、バリン、ヒドロキシプロリン、トレオニン、グリシン、リシン、アラニン、システイン、プロリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンを用いた。また、前記アミノ酸誘導体としては、アミノ酸ベンジルエステル、アミノ酸メチルエステルおよびアミノ酸エチルエステルを用いた。本測定では、前記DMSOに代えて、前記アシル受容体 5μLを所定濃度で添加して反応させた以外は、実施例8と同様にして、LS/MS分析を行い、ペプチド生成量を算出した。
【0191】
図25〜27のグラフに、前記アシル受容体のうち、下記表5記載のアミノ酸誘導体を含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。図25〜27のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。なお、図25〜27の各グラフ中のm/z値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いた[M+H]+の値である。
【0192】
【表5】
【0193】
図25(A)中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トリプトファンベンジルエステル(Trp−OBzl、W−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(g)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(A)のピーク(b)の生成物は、トリプトファン(Trp、W)であり、図25(A)のピーク(c)の生成物は、P−YのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−W)であり、図25(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(A)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(A)のピーク(f)の生成物は、W−OBzlであり、図25(A)のピーク(g)の生成物は、W−OBzlにPが結合したP−W−OBzl(Pro−Trp−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、W−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−W−OBzlおよびシクロ(P−W)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0194】
図25(B)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トリプトファンメチルエステル(Trp−OMe、W−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(B)のピーク(b)の生成物は、トリプトファン(Trp、W)であり、図25(B)のピーク(c)の生成物は、W−OMeにPが結合したP−W−OMe(Pro−Trp−OMe)であり、図25(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(B)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(B)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、W−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−W−OMeと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0195】
図25(C)中の(a)〜(h)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、フェニルアラニンエチルエステル(Phe−OEt、F−OEt)を用いた反応の結果、(a)〜(h)のピークに示される、8つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(C)のピーク(a)の生成物は、フェニルアラニン(Phe、F)であり、図25(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(C)のピーク(c)の生成物は、F−OEtであり、図25(C)のピーク(d)の生成物は、P−FのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−F)であり、図25(C)のピーク(e)の生成物は、F−OEtにPが結合したP−F−OEt(Pro−Phe−OEt)であり、図25(C)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(C)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(C)のピーク(h)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、F−OEtのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−F−OEtおよびシクロ(P−F)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0196】
図25(D)中の(a)〜(g)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、チロシンベンジルエステル(Tyr−OBzl、Y−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(g)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(D)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(D)のピーク(b)の生成物は、P−YのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−Y)であり、図25(D)のピーク(c)の生成物は、Y−OBzlであり、図25(D)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(D)のピーク(e)の生成物は、Y−OBzlにPが結合したP−Y−OBzl(P−Y−OBzl)であり、図25(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(D)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、Y−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−Y−OBzlおよびシクロ(P−Y)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0197】
図25(E)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、チロシンメチルエステル(Tyr−OMe、Y−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(E)のピーク(a)の生成物は、Y−OMeであり、図25(E)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(E)のピーク(c)の生成物は、Y−OMeにPが結合したP−Y−OMe(P−Y−OBzl)であり、図25(E)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(E)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(E)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、Y−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−Y−OMeと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0198】
図25(F)中の(a)〜(e)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、イソロイシンベンジルエステル(Ile−OBzl、I−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(e)のピークに示される、5つの生成物が確認された。MS分析の結果、図25(F)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図25(F)のピーク(b)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図25(F)のピーク(c)の生成物は、I−OBzlであり、図25(F)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図25(F)のピーク(e)の生成物は、I−OBzlにPが結合したP−I−OBzl(Pro−Ile−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、I−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−W−OBzlと、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0199】
図26(A)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、ロイシンベンジルエステル(Leu−OBzl、L−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(A)のピーク(b)の生成物は、P−LのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−L)であり、図26(A)のピーク(c)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(A)のピーク(e)の生成物は、L−OBzlであり、図26(A)のピーク(f)の生成物は、L−OBzlにPが結合したP−L−OBzl(Pro−Leu−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、L−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−L−OBzlおよびシクロ(P−L)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0200】
図26(B)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、ロイシンメチルエステル(Leu−OMe、L−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(B)のピーク(b)の生成物は、L−OMeにPが結合したP−L−OMe(Pro−Leu−OMe)であり、図26(B)のピーク(c)の生成物は、P−LのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−L)であり、図26(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(B)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(B)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、L−OMeのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−L−OMeおよびシクロ(P−L)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0201】
図26(C)中の(a)〜(d)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、メチオニンメチルエステル(Met−OMe、M−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(d)のピークに示される、4つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(C)のピーク(a)の生成物は、M−OMeであり、図26(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(C)のピーク(c)の生成物は、M−OMeにPが結合したP−M−OMe(Pro−Met−OMe)であり、図26(C)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、M−OMeのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−M−OMeと、2種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0202】
図26(D)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、アラニンベンジルエステル(Ala−OBzl、A−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(D)のピーク(a)の生成物は、P−AのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−A)であり、図26(D)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(D)のピーク(c)の生成物は、A−OBzlであり、図26(D)のピーク(d)の生成物は、A−OBzlにPが結合したP−A−OBzl(Pro−Ala−OBzl)であり、図26(D)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、A−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−A−OBzlおよびシクロ(P−A)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0203】
図26(E)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、リシンベンジルエステル(Lys−OBzl、K−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(E)のピーク(a)の生成物は、K−OBzlであり、図26(E)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(E)のピーク(c)の生成物は、K−OBzlにPが結合したP−K−OBzl(Pro−Lys−OBzl)であり、図26(E)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(E)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図26(E)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、K−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−L−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0204】
図26(F)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、グリシンベンジルエステル(Gly−OBzl、G−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図26(F)のピーク(a)の生成物は、P−GのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−G)であり、図26(F)のピーク(b)の生成物は、G−OBzlであり、図26(F)のピーク(c)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図26(F)のピーク(d)の生成物は、G−OBzlにPが結合したP−G−OBzl(Pro−Gly−OBzl)であり、図26(F)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図26(F)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、G−OBzlのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−G−OBzlおよびシクロ(P−G)と、3種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0205】
図27(A)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、トレオニンベンジルエステル(Thr−OBzl、T−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(A)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(A)のピーク(b)の生成物は、T−OBzlであり、図27(A)のピーク(c)の生成物は、T−OBzlにPが結合したP−T−OBzl(Pro−Thr−OBzl)であり、図27(A)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(A)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(A)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、T−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−T−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0206】
図27(B)中の(a)〜(e)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、バリンベンジルエステル(Val−OBzl、V−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(e)のピークに示される、5つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(B)のピーク(a)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(B)のピーク(b)の生成物は、V−OBzlであり、図27(B)のピーク(c)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(B)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(B)のピーク(e)の生成物は、V−OBzlにPが結合したP−V−OBzl(Pro−Val−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、V−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−V−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0207】
図27(C)中の(a)〜(f)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、セリンベンジルエステル(Ser−OBzl、S−OBzl)を用いた反応の結果、(a)〜(f)のピークに示される、6つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(C)のピーク(a)の生成物は、S−OBzlであり、図27(C)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(C)のピーク(c)の生成物は、S−OBzlにPが結合したP−S−OBzl(Pro−Ser−OBzl)であり、図27(C)のピーク(d)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(C)のピーク(e)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(C)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、S−OBzlのC末端側にプロリンが転移したペプチドP−S−OBzlと、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0208】
図27(D)中の(a)〜(h)は、検出された各ピークである。同図に示すように、アシル受容体として、フェニルアラニンメチルエステル(Phe−OMe、F−OMe)を用いた反応の結果、(a)〜(h)のピークに示される、7つの生成物が確認された。MS分析の結果、図27(D)のピーク(a)の生成物は、フェニルアラニン(F)であり、図27(D)のピーク(b)の生成物は、P−PのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−P)であり、図27(D)のピーク(c)の生成物は、F−OMeであり、図27(D)のピーク(d)の生成物は、F−OMeにPが結合したP−F−OMe(Pro−Phe−OMe)であり、図27(D)のピーク(e)の生成物は、P−FのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(P−F)であり、図27(D)のピーク(f)の生成物は、P−OBzlに2分子のPが連続して結合したP−P−P−OBzl(P3−OBzl)であり、図27(D)のピーク(g)の生成物は、P−OBzlに3分子のPが連続して結合したP−P−P−P−OBzl(P4−OBzl)であり、図27(D)のピーク(h)の生成物は、P−OBzlに4分子のPが連続して結合したP−P−P−P−P−OBzl(P5−OBzl)であることが示された。すなわち、scPAP14270のアミノ酸結合活性により、F−OMeのC末端側にプロリンが転移した、2種類のペプチドP−F−OMeおよびシクロ(P―F)と、4種類のプロリンペプチドP−P−P−OBzl、P−P−P−P−OBzl、P−P−P−P−P−OBzlおよびシクロ(P−P)が生成した。
【0209】
図28に、前記各アシル受容体のlogP値と生成したジペプチドエステルとの関係を示す。同図において、横軸は、前記各アシル受容体のアミノ酸部分の番号であり、縦軸は、logPである。なお、前記アミノ酸部分の番号は、同図中に示すアミノ酸の番号に対応する。また、同図において、白丸(○)のプロットは、アミノ酸ベンジルエステルの結果であり、白四角(□)のプロットは、アミノ酸メチルエステルの結果であり、白三角(△)のプロットは、アミノ酸エチルエステルの結果であり、白菱形(◇)のプロットは、遊離アミノ酸の結果である。なお、ヘテロプロリンペプチドが生成された誘導体の結果は、前記プロットの色を白から黒に変えている。なお、前記へテロプロリンペプチドは、アシル受容体にプロリンが結合したペプチド(P−X−OY、X=アミノ酸、Y=Bzl、MeまたはEt)である。また、同図中の文字「c」は、シクロペプチドの生成を示し、アスタリスクは、反応液中のプロリンベンジルエステル濃度が10mmol/Lであることを示す。
【0210】
図28に示すように、前記アシル受容体として、S−OBzl、V−OBzl、T−OBzl、G−OBzl、K−OBzl、A−OBzl、P−OBzl、M−OMe、L−OBzl、L−OMe、I−OBzl、Y−OBzl、Y−OMe、F−OMe、F−OEt、W−OBzlおよびW−OMeを用いた場合には、前記ヘテロプロリンペプチドが生成した。このうち、G−OBzl、A−OBzl、P−OBzl、L−OBzl、L−OMe、F−OMe、F−OEtおよびW−OBzlを用いた場合には、シクロペプチドが生成した。このように、アシル受容体の種類により、生成するペプチドの種類を制御できることが示された。なお、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼPAP14270は、いずれのアシル受容体を用いた場合にも、アミノ酸転移反応を示さなかった。
【0211】
<実施例11>
本例では、活性中心をシステインに置換した、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068由来アミノペプチダーゼ(以下、「アミノリシンA」という。)を、以下のようにして作製した。
【0212】
[S9−ACAP遺伝子のクローニング]
まず、以下のようにして、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)由来アミノペプチダーゼ遺伝子(以下、「S9−ACAP遺伝子」という)をクローニングした。
【0213】
アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus) ATCC43068の菌体より、前記ホップウッドらの方法によりゲノムDNAを調製した。他方、ストレプトマイセス属(Streptomyces)の他の菌株における、アミノペプチダーゼと推定される遺伝子の保存領域から、下記センスプライマー8およびアンチセンスプライマー8を合成した。前記アミノペプチダーゼと推定される遺伝子としては、ストレプトマイセス・エバーミチリス(S.avermitilis)由来のSAV 3144、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)由来のSCO 5122およびストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来のSGR 2407を用いた。
【0214】
センスプライマー8:(配列番号19)
5′−CATATGCCCGAGATTGCTCCGTA−3′
アンチセンスプライマー8:(配列番号20)
5′−AAGCTTCTAAGGAGCCGGCGGCGCCGG−3′
【0215】
前記ATCC43068のゲノムDNA、前記センスプライマー8およびアンチセンスプライマー8を用いた以外は、実施例8と同様にして、PCRを行い、クローニングおよびシークエンスし、前記S9−ACAP遺伝子をコードするDNA断片を得た。このDNA断片を用いて、実施例8と同様にして、発現プラスミドpET28−S9−ACAPを作製し、形質転換体を得た。そして、前記形質転換体を用いた以外は、実施例8と同様にして、前記S9−ACAPを過剰発現させた。なお、前記S9−ACAP遺伝子の全塩基配列および前記S9−ACAPのアミノ酸配列は、DDBJデータベースのA.Cellulolyticus 11B ゲノムプロジェクトのローカスタグAcel_1489(http://gib.genes.nig.ac.jp/single/main.php?spid=Acel_11B)に開示されている。
【0216】
[変異タンパク質の構築]
つぎに、下記センスプライマー9を用いた以外は、実施例8と同様にして、前記発現プラスミドpET28−S9−ACAPをPCRに供した。なお、下記センスプライマー9の配列は、前記S9−ACAPの全塩基配列における1471番目のA(アデニン)をT(チミン)に変更した、1456−1485番目の塩基配列に相当する。得られたDNA断片を用いた以外は、実施例8と同様にして、発現プラスミドpET28−S491Cを作製した。
【0217】
センスプライマー9:(配列番号21)
5′−GCGATCCGCGGCGGCTGTGCCGGCGGCTGG−3′
【0218】
前記発現プラスミドpET28−S491Cを用いた以外は、実施例8と同様にして、アミノリシンAを過剰発現させ、精製した。精製したタンパク質を、還元条件下、クマシーブルー染色によるSDS−PAGE法を用いて分析し、単一のタンパク質(アミノリシンA)であることを確認した。前記アミノリシンAのSDS−PAGE法による分子量は、約70kDaであった。前記アミノリシンAのアミノ酸配列を、配列番号22に示し、前記アミノ酸配列をコードするアミノリシンA遺伝子の塩基配列を、配列番号23に示す。配列番号22に示すアミノ酸配列において、491番目のシステインは、野生型のセリンから置換されている。配列番号23に示す塩基配列において、1471番目のチミンは、野生型のアデニンから置換されている。
【0219】
<実施例12>
[ホモオリゴペプチド生成分析]
本例では、下記表6のアミノ酸誘導体を基質として用い、以下のようにして、実施例9のアミノリシンAによるペプチド生成を分析した。
【0220】
【表6】
【0221】
まず、0.1mol/L リン酸緩衝液(pH8.0)に、アミノリシンA 10μg、10mmol/L アミノ酸誘導体および10v/v%DMSOを加え、反応液 100μLを調製した。この反応液を、50℃、900rpmで6時間反応させた。反応終了後、10v/v% ギ酸/メタノール/DMSO混合液(容積比1:1:1)300μLを加えて反応を停止させ、遠心分離(1000rpm)した。遠心分離後、上層20μLを採取し、LS/MS分析に供した。なお、前記LS/MS分析は、下記に示す分析条件で行った。そして、各ペプチドの生成量を、UVクロマトグラム(測定波長210nm)におけるピーク面積から算出した。
【0222】
(分析条件)
分析機器:2690 Separation Module(ウォーターズ社製)、
2487 Dual λ Absorbance Detector
(ウォーターズ社製)、
API 2000(商標)LC/MS/MS System
(アプライドバイオシステム社製)
カラム: TSKgel ODS−120T
(東ソー社製、5mm、2.0×150mm)
移動相: 溶媒A:0.1体積%ギ酸含有水、
溶媒B:0.1体積%ギ酸含有メタノール、
流速0.2mL/分
LC条件:移動開始0−5分後:20%溶媒B
同 5−40分後:溶媒B濃度を20%から99%に変化させる
直線勾配グラジェント
同 40−45分後:99%溶媒B
検出条件:UV210nmの吸収
【0223】
前記表6のアミノ酸誘導体を用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。すなわち、アミノ酸誘導体と、アミノリシンAとの反応による生成物が確認された。
【0224】
図29のグラフに、前記表6のアミノ酸誘導体を含む反応液における、トータルイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図において、(A)は、LF−NH2の結果であり、(B)は、LF−OMeの結果であり、(C)は、LF−OEtの結果であり、(D)は、DF−OMeの結果であり、(E)は、DF−OBzlの結果であり、(F)は、LL−OBzlの結果であり、(G)は、DL−OBzlの結果である。同図中の(a)〜(z6)は、検出された各ピークである。同図に示すように、前記アミノ酸誘導体を基質とする反応の結果、(a)〜(y)のピークに示される、25の生成物が確認された。図30〜34に、図29における前記ピーク(a)〜(z6)のMS分析結果を示す。なお、図30〜34の各グラフ中の[M+H]+の値は、前記LS/MS分析において、各ペプチドの確認に用いたm/z値である。
【0225】
図30において、グラフ(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)および(g)は、それぞれ、図29(A)のピーク(a)、ピーク(b)、ピーク(c)、ピーク(d)、ピーク(e)、ピーク(f)およびピーク(g)のMSスペクトルプロファイルである。図30(a)〜(g)に示すMS分析の結果から、図29(A)のピーク(a)の生成物は、LF−NH2にLFが結合したLF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(A)のピーク(c)の生成物は、LF−NH2に2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(d)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図29(A)のピーク(e)の生成物は、LF−NH2に3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−NH2であり、図29(A)のピーク(f)の生成物は、4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LFであり、図29(A)のピーク(g)の生成物は、LF−NH2に4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−NH2であることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−NH2のC末端側にフェニルアラニンが転移した、7種類のペプチドLF−LF,LF−LF−NH2、LF−LF−LF、LF−LF−LF−NH2、LF−LF−LF−LF−NH2、LF−LF−LF−LFおよびLF−LF−LF−LF−LF−NH2が生成した。
【0226】
図31において、グラフ(z1)、(b)、(d)、(h)、(i)、(f)、(j)および(k)は、それぞれ、図29(B)のピーク(z1)、ピーク(b)、ピーク(d)、ピーク(h)、ピーク(i)、ピーク(f)、ピーク(j)およびピーク(k)のMSスペクトルプロファイルである。図31に示すMS分析の結果から、図29(B)のピーク(z1)の生成物は、LF−OMe(基質)であり、図29(B)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(B)のピーク(d)の生成物は、3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LFであり、図29(B)のピーク(h)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図29(B)のピーク(i)の生成物は、LF−OMeに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−OMeであり、図29(B)のピーク(f)の生成物は、4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LFであり、図29(B)のピーク(j)の生成物は、LF−OMeに3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−OMeであり、図29(B)のピーク(k)の生成物は、LF−OMeに4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−OMeであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−OMeのC末端側にフェニルアラニンが転移した、6種類のペプチドLF−LF,LF−LF−LF、LF−LF−LF−OMe、LF−LF−LF−LF、LF−LF−LF−LF−OMe、LF−LF−LF−LF−LF−OMeおよびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0227】
図32において、グラフ(z2)、(b)、(h)、(l)、(m)および(n)は、それぞれ、図29(C)のピーク(z1)、ピーク(b)、ピーク(h)、ピーク(l)、ピーク(m)およびピーク(n)のMSスペクトルプロファイルである。図32に示すMS分析の結果から、図29(C)のピーク(z2)の生成物は、LF−OEt(基質)であり、図29(C)のピーク(b)の生成物は、LFにLFが結合したLF−LFであり、図29(C)のピーク(h)の生成物は、LF−LFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LF−LF)であり、図29(C)のピーク(l)の生成物は、LF−OEtに2分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−OEtであり、図29(C)のピーク(m)の生成物は、LF−OEtに3分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−OEtであり、図29(C)のピーク(n)の生成物は、LF−OEtに4分子のLFが連続して結合したLF−LF−LF−LF−LF−OEtであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LF−OEtのC末端側にフェニルアラニンが転移した、6種類のペプチドLF−LF、LF−LF−LF−OEt、LF−LF−LF−LF−OEt、LF−LF−LF−LF−LF−OEtおよびジペプチドが環化したシクロ(LF−LF)が生成した。
【0228】
図33において、グラフ(z3)、(z4)、(o)、(p)、(q)および(r)は、それぞれ、図29(D)および(E)のピーク(z3)、(z4)、ピーク(o)、ピーク(p)、ピーク(q)およびピーク(r)のMSスペクトルプロファイルである。図33に示すMS分析の結果から、図29(D)のピーク(z3)の生成物は、DF−OMe(基質)であり、図29(E)のピーク(z4)の生成物は、DF−OBzl(基質)であり、図29(D)および(E)のピーク(o)の生成物は、DF−DFのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DF−DF)であり、図29(E)のピーク(p)の生成物は、DFにDFが結合したDF−DFであり、図29(E)のピーク(q)の生成物は、DF−OBzlにDFが結合したDF−DF−OBzlであり、図29(E)のピーク(r)の生成物は、DF−OBzlに2分子のDFが連続して結合したDF−DF−DF−OBzlであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、DF−OBzlのC末端側にフェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドDF−DF,DF−DF−OBzl、DF−DF−DF−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(DF−DF)が生成した。
【0229】
図34において、グラフ(z5)、(z6)、(s)、(t)、(u)、(v)、(w)、(x)および(y)は、それぞれ、図29(F)および(G)のピーク(z5)、ピーク(z6)、ピーク(s)、ピーク(t)、ピーク(u)、ピーク(v)、ピーク(w)、ピーク(x)およびピーク(y)のMSスペクトルプロファイルである。図34に示すMS分析の結果から、図29(F)のピーク(z5)の生成物は、LL−OBzl(基質)であり、図29(G)のピーク(z6)の生成物は、DL−OBzl(基質)であり、図29(F)のピーク(s)の生成物は、LL−LLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(LL−LL)であり、図29(F)のピーク(t)の生成物は、LL−OBzlに3分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−LL−OBzlであり、図29(F)のピーク(u)の生成物は、LL−OBzlに4分子のLLが連続して結合したLL−LL−LL−LL−LL−OBzlであり、図29(G)のピーク(v)の生成物は、DLにDLが結合したDL−DLであり、図29(G)のピーク(w)の生成物は、DL−DLのC末端とN末端とが結合により環化したシクロ(DL−DL)であり、図29(G)のピーク(x)の生成物は、DL−OBzlにDLが結合したDL−DL−OBzlであり、図29(G)のピーク(y)の生成物は、DL−OBzlに2分子のDLが連続して結合したDL−DL−DL−OBzlであることが示された。すなわち、アミノリシンAのアミノ酸結合活性により、LL−OBzlのC末端側にロイシンが転移した、2種類のペプチド、LL−LL−LL−LL−OBzl、LL−LL−LL−LL−LL−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(LL−LL)が生成し、DL−OBzlのC末端側にフェニルアラニンが転移した、3種類のペプチドDL−DL、DL−DL−OBzl、DL−DL−DL−OBzlおよびジペプチドが環化したシクロ(DL−DL)が生成した。
【0230】
なお、非置換型酵素であるアミノペプチダーゼS9−ACAPを用いた場合には、アミノ酸転移反応は確認されなかった。
【0231】
<実施例13>
[へテロオリゴペプチド生成評価]
本例では、アシル供与体として、2.0mmol/L プロリンメチルエステルを用い、アシル受容体として、22.5mmol/L アミンを用い、5v/v%ギ酸 200μLを用いて反応を停止した以外は、実施例11と同様にして、ペプチド生成を評価した。下記表7に、前記アミン(アミノ酸)を示す。
【0232】
【表7】
【0233】
前記表7のアミンを用いた反応液のトータルイオンクロマトグラムにおいて、新たなピークが検出された。前記ピークには、プロリンおよびメチオニン残基を有するヘテロジペプチドのピークが含まれた。すなわち、プロリンメチルエステルと前記アミンと前記アミノリシンAとの反応による、ヘテロオリゴペプチドの生成が確認された。
【0234】
図35のグラフに、プロリンメチルエステルおよび前記表7のアミンを含む反応液における、前記へテロジペプチドのイオンクロマトグラム結果を示す。同図のグラフにおいて、横軸は、リテンション時間(分)であり、縦軸は、イオン強度を示す1秒あたりのイオンカウント(c.p.s.)である。同図中の矢印は、検出されたヘテロジペプチド(F−X、Xはアミン由来のアミノ酸残基)のピークである。同図に示すように、前記アミンを基質とする反応の結果、矢印のピークに示される、15のヘテロジペプチドが確認された。下記表8に、生成した各ヘテロジペプチドを示す。なお、同図中のm/z値は、前記LS/MS分析において、各ヘテロジペプチドの確認に用いた[M+H]+の値である。なお、本例の反応では、アスタリスクのピークに示される、シクロ(F−F)も確認された(m/z=295)。
【0235】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0236】
本発明によれば、組換アミノ酸転移酵素を用いるため、酵素を、低コストで、簡便にかつ高収率で得ることが可能である。このため、例えば、オリゴペプチドの酵素合成法を、実用化(工業化)することも容易になる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、
活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、
前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むスクリーニング方法。
【請求項2】
前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つの残基である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素である請求項1または2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
請求項1記載のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、
前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする組換アミノ酸転移酵素。
【請求項5】
下記に示す反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒する請求項4記載の組換アミノ酸転移酵素。
反応(1)
【化1】
前記反応(1)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、アミノ基(−NH2)、ベンゾキシ基(−OBzl)または水酸基(−OH)であり、
R1は、
【化2】
であり、基質である各アミド化合物において、XおよびR1は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。
反応(2)
【化3】
前記反応(2)において、Yは、ベンゾキシ基(−OBzl)またはエトキシ基(−OEt)であり、
R2は、
【化4】
であり、基質である各アミド化合物において、R2は、同一でもよく、異なってもよい。
反応(3)
【化5】
前記反応(3)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、
R3およびR3’は、
【化6】
であり、基質である各アミド化合物において、R3およびR3’は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。
反応(4)
【化7】
前記反応(4)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、
R4は、
【化8】
である。
反応(5)
【化9】
反応(6)
【化10】
前記反応(6)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
反応(7)
【化11】
前記反応(7)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
反応(8)
【化12】
前記反応(8)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
【請求項1】
組換アミノ酸転移酵素のスクリーニング方法であって、
活性中心のセリン残基が、セリン残基以外のアミノ酸残基に置換された組換アミノ酸転移酵素を提供する工程と、
前記組換アミノ酸転移酵素の酵素反応を調べ、前記酵素反応が新規な酵素反応であるか否かを判定する工程とを含むスクリーニング方法。
【請求項2】
前記置換されたセリン以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つの残基である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素である請求項1または2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
請求項1記載のスクリーニング方法によって得られた組換アミノ酸転移酵素であって、
前記置換されたセリン残基以外のアミノ酸残基が、システイン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、プロリン、アルギニンおよびアスパラギン酸からなる群から選択される一つのアミノ酸残基であり、前記提供されるアミノ酸転移酵素が、アミノペプチダーゼの活性中心のセリン残基を他のアミノ酸に置換して得られる酵素であることを特徴とする組換アミノ酸転移酵素。
【請求項5】
下記に示す反応(1)〜(8)の少なくとも一つの反応を触媒する請求項4記載の組換アミノ酸転移酵素。
反応(1)
【化1】
前記反応(1)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、アミノ基(−NH2)、ベンゾキシ基(−OBzl)または水酸基(−OH)であり、
R1は、
【化2】
であり、基質である各アミド化合物において、XおよびR1は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。
反応(2)
【化3】
前記反応(2)において、Yは、ベンゾキシ基(−OBzl)またはエトキシ基(−OEt)であり、
R2は、
【化4】
であり、基質である各アミド化合物において、R2は、同一でもよく、異なってもよい。
反応(3)
【化5】
前記反応(3)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、
R3およびR3’は、
【化6】
であり、基質である各アミド化合物において、R3およびR3’は、それぞれ同一でもよく、異なってもよい。
反応(4)
【化7】
前記反応(4)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)であり、
R4は、
【化8】
である。
反応(5)
【化9】
反応(6)
【化10】
前記反応(6)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
反応(7)
【化11】
前記反応(7)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
反応(8)
【化12】
前記反応(8)において、Xは、メトキシ基(−OMe)、エトキシ基(−OEt)、ベンゾキシ基(−OBzl)またはアミノ基(−NH2)である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2010−233564(P2010−233564A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48436(P2010−48436)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【Fターム(参考)】
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