アミロイドタンパク質に関係する疾患を治療するための組織カリクレイン
本発明はアルツハイマー病またはその症候群、および健忘性軽度認知障害またはその症候群を治療する方法に関する。本発明の方法は、治療上有効な量の組織カリクレイン、その変異体または活性断片を投与するステップを含む。本発明はさらに、アミロイドの消化または切断のための、およびアミロイドの消化または切断から利益を得る症状の治療のための、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用に関する。本発明はさらに、治療上有効な量の組織カリクレイン、その変異体または活性断片を含む、経口または鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミロイドタンパク質に関連する疾患を治療する方法に関し、前記疾患にはアルツハイマー病、アルツハイマーの前駆症状である健忘性軽度認知障害および関連する症状が含まれる。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は致命的な神経変性障害であり、現在世界中で2千万人を越える人が冒され、発生率は増加している。発現率は次の30年間に倍増し、アルツハイマー病は高齢者間の死亡率の最高の病因になりうると予測されている(van Leeuwenら, Neurobiology of Aging, 2000, 21 : 879-891)。特徴としては、知的機能の低下(記憶、言語、視覚空間能力および問題解決能力)および異常行動を伴う抽象的推理の低下が挙げられる。アルツハイマー病は最終的に運動機能の喪失、衰弱そして死をもたらす(Friedlanderら, Clinical Practice 2006, 137: 1240-1251)。アルツハイマー病は一般に晩年に発症し、「晩期発症型」と言われる。65〜74歳の人たちのアルツハイマー病の罹患率は3%である一方、85歳および85歳超の群はそれぞれ19%および47%である(Friedlanderら, 2006)。アルツハイマー病と診断された個人の平均寿命は発症後8〜10年である(Friedlanderら, 2006)。
【0003】
アルツハイマー病と診断される前駆症状として、多くの人は最初に健忘性軽度認知障害(MCI)を経験し、これは正常な加齢とアルツハイマー病の遷移段階またはアルツハイマー病の前臨床段階であると考えられる(Arch Neurol. 2004 Jan; 61(l):59-66)。記憶喪失が主な特徴である場合、このタイプの機能障害は健忘性MCIと呼ばれ、認知低下が増加するにつれて時間がたつとアルツハイマー病に転化することが多い。
【0004】
アルツハイマー病は7段階に分類され、各段階はその前段階よりさらに衰弱する。第1段階は遡及分析(retrospective analysis)によって特徴付けられ、アルツハイマー病の症候群が進行すると痴呆と重篤認知機能低下からなる最終段階に至り、患者の終日在宅看護を必要とすることが多く(Friedlanderら, 2006)、非常に大きい看護出費を生じる。
【0005】
アルツハイマー病発症はある特定のリスク因子と相関があると思われる。これらのリスク因子としては、頭部外傷、民族性、高カロリー、高脂肪、低葉酸食事、限られた教育、高コレステロール血症、糖尿病および座位生活様式が挙げられる(Friedlanderら, 2006)。常染色体優性遺伝パターンが家族性発症を示す事例の約5%で観察される。
【0006】
アルツハイマー病の正確な病因は現在わかってないが、この疾患は非常に複雑な様式の多数の経路により制御されている。経路としては、β-アミロイドタンパク質(Aβ)の代謝欠陥、異常な神経伝達(グルタミン、アドレナリン作用性因子、セロトニンおよびドーパミン)、炎症、ホルモン性よび酸化経路が挙げられる(Frankら, Ann. Clin. Psychiatry 2005, 17(4): 269-286)。4つの遺伝子がアルツハイマー病に関わるようである。これらの遺伝子は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、プレセニリン1、プレセニリン2およびアポリポタンパク質Eをコードする(Frankら, 2005)。アルツハイマー病は、繊維状プラークまたはもつれ(tangles)の存在する脳領域を特徴とする。プラークは細胞外沈着物および細胞内に観察されるもつれである。プラークはAβおよびその断片Aβ40およびAβ42を含有する一方、もつれはタウタンパク質として知られる微小管関連タンパク質を含有する。Aβ断片はそのAPP(前駆体)に関わる異常なタンパク質分解性切断事象の産物である。プラークは記憶形成および情報取得に関わる脳の領域において形成しうる。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体はアルツハイマー病の神経毒性事象に関わると考えられ、Aβは直接関わりうる。もつれは、特定部位におけるタンパク質キナーゼにより過剰リン酸化された後、タウタンパク質が一緒に凝集するときに生じる。特に、タンパク質キナーゼのグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)が、もつれ形成および軸索微小管崩壊に導くタウタンパク質の過剰リン酸化に結びつけられている(Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5)。Aβは、ニューロン内のGSK-3β活性を刺激することが示されている(Neuroscience 2002;1 15(1):201-1 1)。微小管の崩壊は軸索輸送を防止し、シナプスの喪失および神経変性に導く。
【0007】
認知および機能性低下に関する通常の治療方法としては、コリンエステラーゼインヒビターおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニストが挙げられる。精神病および不穏の事象は、非定形的の抗精神病薬(オランザピンおよびリスペリドンなど)および気分安定薬を用いて治療することができる。最後に、うつ病および不安は選択的なセロトニン再取り込みインヒビター、3環の抗抑制薬、ノルエピネフリン再取り込みインヒビターおよび中枢α2-アドレナリン作動性自己受容体およびヘテロ受容体アンタゴニストを用いて治療することができる(Friedlanderら, 2006)。
【0008】
一般集団において、アルツハイマー病は大部分の患者を比較的高年齢に襲うが、ダウン症候(「トリソミー21」または「DS」としても知られる)の患者の場合はもっと早い。ほとんどのダウン症候の人たちは中年遅くにアルツハイマー病理を発症し、それにはほとんどの他のアルツハイマー患者よりしばしば重症であるプラーク形成性タンパク質Aβの沈着が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】van Leeuwenら, Neurobiology of Aging, 2000, 21 : 879-891
【非特許文献2】Friedlanderら, Clinical Practice 2006, 137: 1240-1251
【非特許文献3】Arch Neurol. 2004 Jan; 61(l):59-66
【非特許文献4】Frankら, Ann. Clin. Psychiatry 2005, 17(4): 269-286
【非特許文献5】Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5
【非特許文献6】Neuroscience 2002;1 15(1):201-1 1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はアルツハイマー病もしくはその症候群の治療および健忘性軽度認知障害もしくはその症候群の治療における、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。本発明はさらに、アミロイドの消化または切断のためのおよびアミロイドの消化または切断から利益を得る症状の治療のための、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0011】
一態様において、本発明は、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群;または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を有する患者を治療する方法であって、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の治療上有効な量を患者に投与するステップを含んでなる前記方法を提供する。
【0012】
本発明のある実施形態においては、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与する。
【0013】
他の態様においては、1日当たり約1〜約1000 IUの組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含む、経口投与用に製剤された医薬組成物を提供する。
【0014】
他の態様においては、1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含む、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物を提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明による医薬組成物はアジュバントと組合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、アジュバントは乳濁化剤である。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明による医薬組成物は、脂肪親和性ミセルと組合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0018】
さらなる実施形態において、本発明による医薬組成物はさらに、アルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物を含む。
【0019】
他の態様においては、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するのに有用な医薬品を調製するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0020】
他の態様においては、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0021】
本発明の一実施形態において、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用はさらに、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物の同時使用を含む。
【0022】
本発明のさらなる実施形態において、第2の治療化合物はアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む。
【0023】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリンエステラーゼ前駆体はコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される。
【0024】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリン放出を促進する化合物は4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである。
【0025】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリンエステラーゼインヒビターはフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される。
【0026】
本発明のさらなる実施形態において、ムスカリンアゴニストはミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される。
【0027】
本発明のさらなる実施形態において、酸化防止剤はビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される。
【0028】
本発明のさらなる実施形態において、抗炎症薬は非ステロイド抗炎症薬である。
【0029】
本発明のさらなる実施形態において、ホルモンはエストロゲンまたはテストステロンである。
【0030】
本発明のさらなる実施形態において、向知性薬はピラセタムである。
【0031】
本発明のさらなる実施形態において、エルゴロイドメシラートはヒデルジンである。
【0032】
本発明のさらなる実施形態においては、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与する。
【0033】
本発明のさらなる実施形態において、治療上有効な用量は1投薬頻度当たり約0.001〜約5000国際単位(IU)である。
【0034】
本発明のさらなる実施形態においては、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与する。
【0035】
本発明のさらなる実施形態において、治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は1日当たり約0.001〜約1000 IUである。
【0036】
さらなる態様においては、それを必要とする患者におけるアミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0037】
さらなる態様においては、それを必要とする患者における神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0038】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳への酸素取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0039】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳への血流を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0040】
さらなる態様においては、それを必要とする患者のプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0041】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳によるグルコース取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0042】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アミロイド原線維の組織カリクレイン(KLK1)切断in vitroを示す質量スペクトルである。A)β-アミロイド(Aβ)単独;B)KLK1単独;およびC)KLK1およびAβ。
【図2】可溶アミロイドの組織カリクレイン(KLK1)切断in vitroを示す質量スペクトルである。A)可溶性Aβ単独;およびB)可溶性AβおよびKLK1。
【図3】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定結果を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図4】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のニューロン生存を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは%生存ニューロンとして、平均値+SDとして提示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図5】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前(-30 min)およびまた、後+24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOO2(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図6】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のニューロン生存を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前(-30 min)およびまた、後+24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは%生存ニューロンとして、平均値+SDとして提示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図7】10μg/ml組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリクレインは、細胞にAβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、24 hおよび30 minに細胞に加え(研究アームA)、細胞にAβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前30 minにおよび後24 hにも加え(研究アームB)、ならびに細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた(研究アームC)。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図8】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図9】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図10】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図11】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図12】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図13】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図14】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図15】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。*p<O.O5(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図16】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図17】組織カリクレインの様々な濃度に対するアミロイドβ切断のパーセントを示す対数直線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
定義
「組織カリクレイン」または「KLK1」は主に、キニノーゲンのリシル-ブラジキニン(カリジン)への切断を介して高血圧を制御するその役割に対して注目されるセリンプロテアーゼである(Yousefら、Endocrine Rev. 2001; 22: 184-204)。
【0045】
KLKファミリーには多数の酵素が存在するので、本発明者らは、KLK1は高血圧制御などで認識された役割だけでなく、ユビキタスまたは複数標的に作用する酵素であるように見え、従ってアルツハイマー病を治療する上で重要な役割を特異的に果たしうると考えている。本明細書に使用する用語「組織カリクレイン(kallikrein)」は次の用語:カリクレイン(callicrein)、グルモリン、パドレアチン、パヅチン、カリジノゲナーゼ、ブラジキニノゲナーゼ、膵カリクレイン、オノクレインP、ジルミナールD、デポ-パヅチン、ウロカリクレイン、または尿カリクレインと同義である。
【0046】
上記の「カリジン」はリシル-ブラジキニンを意味する。カリクレインはキニノーゲンをカリジンに切断する。カリジンはブラジキニン2受容体を活性化することができ、これがマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)の発現を増加することは公知である。MMP-9もアミロイドを切断することができる。
【0047】
組織カリクレインポリペプチドは次の配列(配列番号1)を有する:
NP_001001911 GI =50054435 Sus scrofa(ブタ)
1-17 シグナルペプチド
18-24 プロペプチド
25-263 成熟ペプチド
>gi|50054435 | ref | NP_001001911.1 | カリクレイン 1 [Sus scrofa]
MWSLVMRLALSLAGTGAAPPIQSRIIGGRECEKDSHPWQVAIYHYSSFQCGGVLVDPKWVLTAAHCKNDN
YQVWLGRHNLFENEVTAQFFGVTADFPHPGFNLSLLKNHTKADGKDYSHDLMLLRLQSPAKITDAVKVLE
LPTQEPELGSTCQASGWGSIEPGPDDFEFPDEIQCVELTLLQNTFCADAHPDKVTESMLCAGYLPGGKDT
CMGDSGGPLICNGMWQGITSWGHTPCGSANKPSIYTKLIFYLDWINDTITENP
他の実施形態には次が含まれる:
NP_002248 GI =4504875 Homo sapiens(ヒト)
1-18 シグナルペプチド
19-24 プロペプチド
25-262 成熟ペプチド
>gi | 4504875 | ref |NP_002248.1| カリクレイン 1 プレプロタンパク質 [Homo sapiens]
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECEQHSQPWQAALYHFSTFQCGGILVHRQWVLTAAHCISDN YQLWLGRHNLFDDENTAQFVHVSESFPHPGFNMSLLENHTRQADEDYSHDLMLLRLTEPADTITDAVKVV
ELPTEEPEVGSTCLASGWGSIEPENFSFPDDLQCVDLKILPNDECKKAHVQKVTDFMLCVGHLEGGKDTC
VGDSGGPLMCDGVLQGVTSWGYVPCGTPNKPSVAVRVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号2)
用語「活性断片」は全長KLK1ポリペプチドの活性を保持するKLK1ポリペプチドのより小さい部分を意味する。
【0048】
出発または参照ポリペプチドの「変異体」または「突然変異体」は、1)出発または参照ポリペプチドのアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有しかつ2)出発または参照ポリペプチドから自然または人為的(人工的)突然変異誘発を介して誘導されたポリペプチドである。かかる変異体には、例えば、目的のポリペプチドのアミノ酸配列由来の残基の欠失体、および/または前記配列中への残基の挿入体および/または前記配列内の残基の置換体が含まれる。この文脈における変異アミノ酸は、出発または参照ポリペプチド配列(出所の抗体または抗原結合断片のアミノ酸など)の対応する位置におけるアミノ酸と異なるアミノ酸を意味する。最終構築物が所望の機能的特徴を所持することを条件として、最終の変異体または突然変異体構築物に到達するために、任意の組合わせの欠失、挿入、および置換を行ってもよい。アミノ酸変化はまた、グリコシル化部位の数または位置を変えるなどのポリペプチドの翻訳後のプロセスで改変してもよい。ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を作製する方法は米国特許第5,534,615号に記載されており、本明細書に参照により明記して組み入れられる。
【0049】
「野生型」もしくは「参照」配列、または「野生型」もしくは「参照」タンパク質/ポリペプチドは、突然変異の導入を介して変異体ポリペプチドを誘導する元となる参照配列でありうる。一般に、所与のタンパク質に対する「野生型」配列は自然で最も普通の配列である。同様に、「野生型」遺伝子配列は自然で最も普通に見出される遺伝子に対する配列である。突然変異は、自然のプロセスを介してまたは人為的に誘発させる手段を介して、「野生型」遺伝子(従って、その遺伝子がコードするタンパク質)中に導入することができる。かかるプロセスの産物が元来の「野生型」タンパク質または遺伝子の「変異体」または「突然変異体」型である。
【0050】
本明細書で同定したポリペプチドに関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列のアラインメントを行い、必要であれば、最大%配列同一性を達成するようにギャップを導入した後の、参照配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義され、その際、保存的置換は配列同一性の部分とみなさない。%アミノ酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野の様々な方法、例えば、公的に利用しうるコンピューターソフトウエア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegAlign(DNASTAR)ソフトウエアを用いて達成することができる。当業者は、アラインメントを測定するために適当なパラメーターを決定することができ、それには、比較する配列の全長にわたり最大のアラインメントを達成するために必要ないずれのアルゴリズムも含まれる。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc.(South San Francisco, California)を介して公的に入手することができる。
【0051】
本明細書の目的に対して、所与のアミノ酸配列Aの所与のアミノ酸配列Bに対する%アミノ酸配列同一性(これは、所与のアミノ酸配列Bに対するある特定の%アミノ酸配列同一性を有する所与のアミノ酸配列Aという表現であってもよい)は、
アミノ酸配列同一性=分率X/Yの100倍
[ここでXは、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムにより同一マッチとスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはBのアミノ酸残基の合計数である]によって計算される。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性はBのAに対する%アミノ酸配列同一性と等しくないであろう。
【0052】
「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列をアラインメントし、必要であれば、ギャップを導入して最大の%配列同一性を達成した後に、参照ポリペプチドをコードする核酸配列中のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセント核酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野である様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2またはMegAlign(DNASTAR)ソフトウエアなどの公的に入手しうるコンピューターソフトウエアを用いて達成することができる。アラインメントを測定するための適当なパラメーターは、比較される配列の全長にわたり最大のアラインメントを達成するために必要であるアルゴリズムを含めて、公知の方法により決定することができる。
【0053】
本明細書の目的に対して、所与の核酸配列Cの所与の核酸配列Dに対する%核酸配列同一性(これは、所与の核酸配列Dに対するある特定の%核酸配列同一性を有する所与の核酸配列Cという表現であってもよい)は、
%核酸配列同一性=分率W/Zの100倍
[ここでWは、そのプログラムのCとDのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムにより同一マッチとスコアされたヌクレオチドの数であり、ZはDのヌクレオチドの合計数である]によって計算される。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、CのDに対する%核酸配列同一性はDのCに対する%核酸配列同一性と等しくないであろう。
【0054】
用語「アミノ酸」は、その最も広い意味で使用され、天然のL α-アミノ酸または残基を含むことを意味する。通常使用される天然アミノ酸に対する1文字および3文字の略語を本明細書で使用している(Lehninger, A.L., Biochemistry, 2d ed., pp. 71-92, (1975), Worth Publishers, New York)。この用語は全てのD-アミノ酸、ならびにアミノ酸類似体などの化学修飾されたアミノ酸、タンパク質中に通常組み込まれないノルロイシンなどの天然アミノ酸、およびアミノ酸の特徴である当技術分野で公知の特性を有する化学合成された化合物を含む。例えば、天然PheまたはProと同じペプチド化合物のコンフォメーション制限を可能にするフェニルアラニンまたはプロリンの類似体または擬似体がアミノ酸の定義に含まれる。かかる類似体および擬似体は本明細書においてアミノ酸の「機能性等価体」と呼ぶ。他のアミノ酸の例は、RobertsおよびVellaccio, In: The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, GrossおよびMeiehofer, 編, Vol. 5 p 341, Academic Press, Inc, N.Y. 1983に列挙されており、この文献は本明細書に参照により組み入れられる。
【0055】
用語「タンパク質」はペプチドより長いアミノ酸配列を有する。「ペプチド」は2〜約50個のアミノ酸残基を含有する。用語「ポリペプチド」はタンパク質およびペプチドを含む。タンパク質の例には、限定されるものでないが、抗体、酵素、レクチンおよび受容体;リポタンパク質およびリポポリペプチド;および糖タンパク質および糖ポリペプチドが含まれる。
【0056】
「融合タンパク質」および「融合ポリペプチド」は、共有結合で一緒に連結された2つの部分を有するポリペプチドであって、それらの部分がそれぞれ異なる特性を有するポリペプチドを意味する。その特性はin vitroまたはin vivo活性などの生物学的特性であってもよい。その特性はまた、標的抗原との結合、反応の触媒などの単純な化学または物理特性であってもよい。2つの部分は単一のペプチド結合により直接に、または1以上のアミノ酸残基を含有するペプチドリンカーを介して連結されていてもよい。一般に、2つの部分とリンカーはお互いにリーディングフレーム内にありうる。好ましくは、ポリペプチドのその2つの部分は異種または異なるポリペプチドから得られる。
【0057】
用語「治療上有効な量」は、被験体または哺乳動物における疾患または障害を「軽減する」または「治療する」ために有効な本発明の組成物の量を意味する。一般に、疾患または障害の軽減または治療は、疾患または障害に関連する1以上の症候群または医療上の問題を軽減することに関わる。いくつかの実施形態において、治療上有効な量は、神経脈管構造、酸素取込み、血流、プラーククリアランス、グルコース取込み、原線維の切断、プラークの崩壊、プラーク負荷、タウタンパク質リン酸化の低減およびそれらの混合症状を改善する量である。
【0058】
用語「治療」および「治療する」は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、健忘性MCI、およびそれらの症状または症候を含むアミロイドタンパク質関連疾患を阻止し、軽減し、治癒することを意味する。「治療する」または「治療」は、治療処置と予防もしくは防止対策の両方を意味し、その目的は標的とする病理学的症状または障害を阻止するかまたは鈍化させる(低減する)ことである。治療は、本発明の少なくとも1つの化合物の治療上有効な量を投与することにより行うことができる。本明細書で使用する「治療上有効な量」には、予防量、例えば上記疾患またはその症候を軽減または治癒するために有効な量が含まれる。疾患における治療および改善の成功を評価するためのこれらのパラメーターは、医師が馴染む日常的手順によって容易に測定可能である。
【0059】
用語「神経脈管構造の改善」は、血管密度の増加または血管網を通して脳への栄養分送達の増加を意味する。当業者に公知の高解像磁気共鳴画像(MRI)の使用は、撮像した脳の3次元(3D)血管網マップの開発を可能にする。内因性血液酸素負荷レベルに依存するコントラストと外因性造影剤を使用すると、3D画像での動脈および静脈構造の可視化が可能になる(Bolanら, 2006)。治療前、治療中および治療後の血管網の比較は、治療を受けている特定のアルツハイマー病患者についての神経脈管構造の改善の評価を可能にする。「増加」は、治療前の患者における血管密度または脳への栄養分送達と比較して、治療後の患者における血管密度の増加または脳への栄養分送達の増加を意味する。
【0060】
用語「酸素取込みの改善」は酸素の脳および脳細胞への送達の増加を意味する一方、用語「血流の改善」は脳を通って循環する血液体積の増加を意味する。当技術分野で十分確立された機能性MRIの使用は、脳内の血流の可視化を可能にする(Davisら, 1998)。活性化される脳の領域は、エネルギーのためのグルコースの代謝を助ける酸素を必要とする。これは血流が大きく増加し、酸素の拡散制限が克服されて十分な量が活性脳組織へ供給されることにより達成される。この血流の増加および随伴する酸素の増加は、機能性MRIにより、内因性血液酸素負荷レベルに依存するコントラストの変化を通して検出される。このシグナルの増加が次に利用されて血流および酸素取込みおよび代謝の増加を誘導する。アルツハイマー病患者の脳における血流および酸素取込み欠乏の領域をマッピングすることにより、整合した年齢の非アルツハイマー病患者を対照として用いて、治療中および治療後に改善を評価することができる。「増加」は治療前の患者における酸素取込みまたは血流と比較して、治療後の患者における酸素取込みまたは血流の増加を意味する。
【0061】
用語「プラーククリアランスの改善」は測定可能なプラーク領域の減少を意味する。ポジトロン放出断層撮影(PET)およびプラークに対する特異性をもつ造影剤(例えば、チオフラビン誘導体、ピッツバーグ化合物B(PIB))の使用(Klunkら, 2004)は、アルツハイマー病患者の脳におけるプラーク沈着を可視化する当技術分野で公知の方法である。プラーク負荷の画像を作製することにより、治療前および整合した年齢の非アルツハイマー病対照被験者と比較して、治療結果としてのプラークのクリアランスの改善を評価することができる。
【0062】
用語「グルコース取込みの改善」は、血流からグルコースを利用する脳の能力の改善を意味する。アルツハイマー病の証明の1つは、脳細胞によるグルコース取込みおよび代謝の低下(低代謝)であり;この疾患発症マーカーはフッ素標識したグルコース造影剤による脳のPET画像(FDG-PET)の使用により確認される(Bucknerら, 2005)。整合した年齢の非アルツハイマー病対照被験者と比較する一方、治療前、治療中および治療後にこの方法によって作製した画像を比較することにより、以前にグルコース取込みの低下を示しているアルツハイマー病患者における脳領域のグルコース取込みの改善を評価することができる。
【0063】
用語「原線維の切断の改善」は原線維をタンパク質分解して消化する能力の増進を意味する。
【0064】
用語「プラークの崩壊」は原線維のタンパク質分解切断の結果を意味する。
【0065】
用語「プラーク負荷」はプラークを作る凝集した原線維の合計量を意味する。
【0066】
用語「タウタンパク質リン酸化の低減」は脳細胞内のタウタンパク質リン酸化の量の低減を意味する。
【0067】
アルツハイマー病および健忘性軽度認知障害を治療する方法
本発明は、アルツハイマー病もしくはその症候群の治療における、治療上有効な量組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。本発明のある実施形態においては、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与することができる。アルツハイマー病を治療するのに有用な化合物の例を以下にさらに詳しく考察する。治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片を、経口でまたはより好ましくは、鼻腔内に投与することができる。投与の方法を以下にさらに詳しく考察する。
【0068】
本発明はさらに、記憶、言語、視覚空間技能および問題解決などの神経症状ならびに感情鈍麻、被刺激性、不安、うつ病、妄想、幻覚、不眠症、摂食障害、精神病飢餓性衰弱、失調、または社会的後退などの心理学的症状を含むアルツハイマー病に関連する症状の治療における、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0069】
アルツハイマー病はインスリンおよびシグナル伝達機構における脳特異的異常と関係がある(Lester-Collら, J. Alzheimers Dis. 2006, 9(1): 13-33 (要約のみ))。動物モデルはリン酸化タウタンパク質およびAβのレベルの増加ならびにタウタンパク質およびアミロイド前駆体タンパク質をコードする遺伝子の発現の上方調節による神経変性を示す。これらの遺伝子発現における改変は直接、インスリン、インスリン様成長因子IIおよび様々なインスリン関係受容体(インスリン受容体、インスリン様成長因子I受容体、インスリン受容体基質I、インスリン様成長因子II受容体)をコードする遺伝子の発現の低減およびインスリン受容体とのリガンド結合の低減をもたらす(Lester-Collら, 2006)。アルツハイマー病を患う患者は、しばしばインスリン異常に因る脳細胞におけるグルコース取込みおよび代謝の低下を有する。
【0070】
本発明の他の実施形態としては、患者の脳によるグルコース取込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用が挙げられる。
【0071】
アミロイドプラークの沈着はアルツハイマー病に関係する主な病理である。プラーククリアランスは、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)などの内因性プロテイナーゼによって可能であることが示されている(Yan, 2006)。
【0072】
KLK1はアミロイドチャレンジに対して保護する能力を有するので、KLK1はまたダウン症候の患者を治療する利点も有しうる。ダウン症候は染色体21の余分なコピーにより引き起こされ、ある特定のタンパク質の過剰発現を導きうる。切断されるとAβを形成するアミロイド前駆体タンパク質(APP)は染色体21上に位置し、おそらくその産生の増加はダウン症候患者におけるアルツハイマー病の早期発症に寄与する。
【0073】
KLK1は直接、繊維状アミロイドプラークを切断する。アミロイドタンパク質に関係する疾患を証明するこれらの物質を切断する能力は、アルツハイマー病、およびダウン症候におけるプラークを低減しうる。これらの繊維状アミロイドプラークの直接切断は、これらの疾患を治療し、例えばアルツハイマー病に関係する認知減退を救うことができる。
【0074】
本発明の他の実施形態は、アミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、原線維の切断を改善するために使用することができる。原線維のタンパク質分解性切断は、繊維状のアミロイドプラークを作る凝集した原線維の合計量の低減をもたらし、従って、患者の脳からのプラーククリアランスの改善をもたらす。
【0075】
GSK-3βキナーゼの活性は、そのタウタンパク質およびAPPのリン酸化を介するアルツハイマー病の進行における必須の因子である。タウタンパク質のリン酸化から生じるもつれの形成は神経変性に導く一方、リン酸化がアミロイドプラーク形成に導く場合、APPのAβへのプロセシングを助ける。リチウムなどの特異的インヒビターによるGSK-3βの直接阻害は、タウタンパク質リン酸化、もつれ、神経変性、およびAβへのAPPプロセシングを低減する(Biochemistry 2004 Jun 8;43(22):6899-908;Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5)。本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。
【0076】
GSK-3βの活性は通常、Aktによるセリン9リン酸化により制御される。興味深いことに、キニンによるブラジキニンB2受容体シグナル伝達経路(J Biol Chem. 2005 Mar 4;280(9):8022-30)およびNGF-アセチルコリン経路の活性化はGSK-3βリン酸化の増加に導く(J Neurosci. 1993 Sep;13(9):3956-63; Neurobiol Aging 2006 Mar; 27(3):413-22)。両方の経路は、KLK1を含む細胞外プロテアーゼにより媒介されると思われる(FEBS Lett. 1990 Jul 16;267(2):207-12; Hypertension 2006 Apr; 47(4):752-61)。
【0077】
本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。
【0078】
神経血管性機能障害がアルツハイマー病の病理と進行に寄与することは公知である。神経血管性機能障害は乏しいプラーククリアランスにより引き起こされる炎症から生じうる。
【0079】
本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。さらなる実施形態において、その使用は、それを必要とする患者の血流の改善および/または脳への酸素取込みの改善を含む。
【0080】
健忘性MCIは正常な認知とアルツハイマー病に見られる痴呆との間の中間状態を表す。それ故に、当然のことながら、健忘性MCIの神経病理学的な発現はそれ自体アルツハイマー病への遷移状態を表す。特に、脳の内側側頭葉構造内のタウタンパク質もつれの優勢な発現および正常で健康な個人に見られるのとよく似たアミロイド負荷(Arch Neurol. 2006 May;63(5):665-72)が健忘性MCIにおいて見られる。このように、アルツハイマー病について記載される病理に関わる根底の機構は健忘症MCIにおいて働いており、それ故に、アルツハイマー病を治療するために用いるKLK1の同じ治療作用は、健忘性MCIおよびアルツハイマー病への進行の治療に応用することができる。
【0081】
このように、KLK1、その変異体または活性断片の投与を介してアルツハイマー病または健忘性MCIを治療する方法は、脳におけるプラーククリアランスを改善する。
【0082】
本発明の他の態様は、健忘性MCIを治療するための、治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。一実施形態は、経口でまたは、より好ましくは、鼻腔内に、治療上有効な量の組織カリクレインを投与することにより哺乳動物における健忘性MCIを治療する方法を含む
さらなる実施形態においては、組織カリクレインを、アルツハイマー病または健忘性MCIを治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与することができる。かる化合物の例を以下にさらに詳しく記載する。
【0083】
組織カリクレインの投与
脳における栄養物を治療するための薬物投与の伝統的な様式には、投与の経口ならびに静脈内経路が含まれる。これらの様式は常に理想的とは言えない。化合物の経口投与は、限定されたバイオアベイラビリティ(溶解度、第1パスの肝分解、血液脳関門制限)ならびに望ましくない胃腸副作用の可能性のある時間放出問題をもたらす。しかし、組織カリクレイン(KLK1)は通過でき、血液-脳関門をバイパスしてその効果を脳に生じうるようである。
【0084】
静脈内(i.v.)投与は訓練された医療専業者を必要とし、時間がかかりかつ看護システムに費用がかかる。かかる投与は患者コンプライアンス問題も生じる。静脈内投与に関係するリスクとしては、注射部位における感染ならびに患者と用量を投与する専業者の両方に対する安全問題が挙げられる。しかし、制御された環境において、静脈内投与は効果的でありうる。
【0085】
鼻腔内投与はより直接的な経路によって脳に到達できるので、医薬品を「即効性」にする。鼻腔内投与は好都合であり、静脈内投与で見られる患者コンプライアンスの問題を実質的に排除する。嗅覚上皮細胞は選択的に透過性がある。従って、KLK1などのタンパク質は通過できるので、鼻腔内経路を介して血液-脳関門をバイパスしうる。それにより、KLK1の鼻腔内投与は脳にその効果を直接生じ、それにより末梢の効果も最小限にすることができる。これは、経鼻経路の上部における嗅覚領域の関与に因る。
【0086】
鼻腔内に投与された物質が嗅覚領域でたどりうる2つの可能なルート(ニューロン内およびニューロン外)が存在する。ニューロン内ルートには、ペプチドの嗅覚のニューロン中への取込みが含まれ、この場合、ペプチドは軸索沿いに進んで血液脳関門をバイパスする。嗅覚領域上皮のユニークな細胞内間隙を通る経路はペプチドがクモ膜下空間中に拡散するのを可能にする細胞外ルートである。
【0087】
細胞外ルートは脳への速い通過時間、ニューロン内経路で関わるタンパク質分解の回避(Bornら, Nat. Neurosci. 2002, 5(6):514-6)および脳の複数部位における生体効果の迅速な誘発(Throneら, 2004)に因って、より好ましい。
【0088】
鼻腔内投与は、KLK1を所望の作用部位(脳)へ直接送達することにより、経口投与を越える利点を提供しうる。
【0089】
医薬組成物は経口でまたは鼻腔内で投与することができる。鼻腔内投与用に好適な製剤としては、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エーロゾル、オイルなどが挙げられる。溶液または懸濁液は鼻腔に通常の手段により、例えば、滴下器、ピペットまたはスプレーにより直接適用される。製剤は、単一または多用量型で提供することができる。後者の場合の滴下器またはピペットでは、溶液または懸濁液の適当な、所定の体積を患者に投与することにより達成することができる。スプレーには計量霧化スプレーポンプが含まれる。
【0090】
特に鼻腔および嗅覚領域を含む上気道へのエーロゾル投与用の製剤には、鼻腔内投与製剤が含まれる。活性成分は好適なスプレー剤とともに加圧パックに入れて提供され、前記スプレー剤としては、限定されるものでないが、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素あるいはその他の好適なガスが挙げられる。エーロゾルはまた、レシチンなどの界面活性剤を含有してもよい。薬物の用量は計量バルブによって制御することができる。あるいは 活性成分は乾燥粉末の形態で提供される。化合物の粉末混合物は、ラクトース、デンプンなどの好適な粉末基材、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体および ポリビニルピロリジン(PVP)であってもよい。粉末担体は鼻腔内でゲルを形成してもよい。粉末組成物は、限定されるものでないが、カプセルまたはカートリッジ(例えば、吸入器の手段により、粉末を投与することができるゼラチンまたはブリスターパック)を含む単位用量形態で提示することができる。
【0091】
経口投与は、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセル、経口崩壊錠およびシロップの経腸投与を含む。
【0092】
「有効量」または「治療上有効な量」は無毒であるが、所望の効果を提供するのに十分な薬物または薬剤の量を意味する。併用療法においては、組合わせの一成分の「有効量」は、組合わせの他成分と併用するときに所望の効果を提供するのに有効な化合物の量である。「有効」である量は被験者ごとに、個人の年齢および一般症状、特定の活性薬などに応じて変化しうる。任意の個々の事例における適当な「有効」量は、日常的な実験を利用して決定することができる。
【0093】
以上に同定した疾患またはその症候群を治療するための本発明の化合物の治療上有効な量を、その疾患またはその症候の発症前に、発症と同時に、または発症後に投与することができる。
【0094】
本発明の化合物は、その疾患またはその症候の発症と同時に投与することができる。本明細書で使用する「同時投与」および「同時に投与する」には、本発明のポリペプチドと他の治療薬を、混合物で、例えば、医薬組成物でもしくは溶液で、または別々に、例えば、別々の医薬組成物または溶液を引き続いて、同時に、または異なる時間であるが、本発明の化合物と他の治療薬が相互作用できないおよびさらに低い用量の活性成分が投与できないほど離れていない時間に投与することが含まれる。
【0095】
本発明の他の態様は、アルツハイマー病を治療するのに有用なさらなる治療化合物を同時に投与するステップをさらに含んでなる、本明細書に記載の方法を含む。アルツハイマー病の治療化合物には、限定されるものでないが、アセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック(Massaら, J. MoI. Neurosci. 2002, 19: 107-111)、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト(例えばキサリプローデン)、抗アミロイド形成薬(例えばトラミプロセート(Alzemed(登録商標)))、抗ヒスタミン(例えばディメボン(登録商標))、エルゴロイドメシラート(ヒデルジン(登録商標))、イチョウ、およびフペラジンAが含まれる。かかる化合物はまた、健忘性MCIを治療するのにも有用である。
【0096】
本発明のさらなる態様は、コリンであってもよいアセチルコリン前駆体、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンを含む。
【0097】
アセチルコリン放出を増進する化合物は、限定されるものでないが、4-アミノピリジンンまたはリノピリジンを含む。
【0098】
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)インヒビターは、限定されるものでないが、フィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、ガラクタミン(RAZAD YNE(登録商標))、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンを含む。
【0099】
ムスカリンアゴニストは、限定されるものでないが、ミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンを含む。
【0100】
酸化防止剤は、限定されるものでないが、ビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCを含む。
【0101】
抗炎症薬は非ステロイド抗炎症薬を含む。
【0102】
ホルモンは、限定されるものでないが、エストロゲンまたはテストステロンを含む。
【0103】
向知性薬は、限定されるものでないが、ピラセタム、アニラセタム、フォスラセタム、ネフィラセタム、プラミラセタム、ネブラセタム、およびオキシラセタムを含む。
【0104】
NMDA受容体アンタゴニストは、限定されるものでないが、メマチン;ケタミン;MK-801;L-701,324;L-689,560;GV196771A;2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(AP5);(R)-CPP-エン;および(2S*,3R*)-l-(ビフェニル-4-カルボニル)ピペラジン-2,3-ジカルボン酸(PBPD)を含む。
【0105】
「治療」および「治療する」は、哺乳動物の器官および組織を冒す、疾患および関係する症候群を予防し、阻止し、および/または軽減しならびに疾患症状または症候群を治癒することを意味する。本発明の組成物の治療上有効な量を、任意の記載した症状が起こる前に、間に、および後に患者へ投与することができる。
【0106】
医薬組成物
本発明は、アルツハイマー病、健忘性MCIおよびそれらの症候群の治療において経口および鼻腔内投与するのに好適な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む医薬組成物を提供する。
【0107】
一態様において、本発明は、1投薬頻度当たり約0.001〜約1000国際単位(IU)の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、経口投与用に製剤された医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.001〜100 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.001〜10 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.01〜10 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.01〜1 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.1〜1 IUであってもよい。
【0108】
他の態様において、本発明は、1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.001〜500 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.001〜50 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.01〜50 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.01〜5 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.1〜5 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.1〜1 IUであってもよい。
【0109】
医薬組成物は、アルツハイマー病または以上考察した健忘性MCIを治療するのに有用な第2の治療化合物をさらに含んでもよい。
【0110】
本発明の医薬組成物は、経口でまたは鼻腔内に投与する製剤を含む。鼻腔内投与用に好適な製剤としては、粉末、顆粒、溶液、滴剤、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エーロゾル、オイルなどが挙げられる。本発明の溶液または懸濁液は鼻腔に通常の手段により、例えば、滴下器、ピペットまたはスプレーにより直接適用される。製剤は、単一または多用量型で提供することができる。溶液は無菌で、等張性で、または低張性で、その他に、注射または他の手段による投与に好適であってもよく、そして適当なアジュバント、バッファー、保存剤および塩を含有してもよい。点鼻剤などの溶液は酸化防止剤、バッファーなどを含有してもよい。医薬組成物の粉末または顆粒形態を溶液と、および希釈剤、分散剤および/または表面活性剤と組合わせてもよい。
【0111】
エーロゾル投与用の製剤は鼻腔内投与用に設計した製剤を含む。活性成分は好適なスプレー剤とともに加圧パックに入れて提供することができ、前記スプレー剤としては、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素あるいはその他の好適なガスが挙げられる。エーロゾルはまた、レシチンなどの界面活性剤を含有してもよい。薬物の用量は計量バルブによって制御することができる。あるいは、活性成分を乾燥粉末の形態で提供し、例えば、化合物の粉末混合物は、ラクトース、デンプンなどの好適な粉末基材、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体および ポリビニルピロリジン(PVP)であってもよい。粉末担体は鼻腔内でゲルを形成してもよい。粉末組成物は例えば、例えばゼラチンのカプセルもしくはカートリッジ、またはデバイスを用いてそれから粉末を投与できるブリスターパックに入れた単位用量形態で提示することができる。
【0112】
鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物は、約0.001〜約5000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。経口投与用に好適な製剤としては、液剤、丸薬、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセルまたはシロップが挙げられる。経口投与用に製剤された医薬組成物は、約0.001〜約1000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。ある実施形態において、経口投与用に製剤された医薬組成物は、少なくとも約1.0μg/mlのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。組成物は、少なくとも約2.0μg/ml、2.5μg/ml、5μg/ml、7.5μg/ml、または10μg/mlのKLK1、またはその変異体または活性断片を含むことができる。
【0113】
鼻腔内投与用に有用な医薬組成物とその使用
本発明の一態様は、約0.001〜約5000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては製薬上許容される賦形剤を含む、鼻腔内投与用に製剤された組成物を含むものである。
【0114】
組成物を、ヒトまたは他の哺乳動物の鼻腔へ、嗅覚神経経路を経て脳の疾患領域へ投与することができる。本方法はKLK1を脳の疾患ニューロンへ輸送することができる医薬組成物を使用する。
【0115】
本発明の方法は、経ニューロン逆行性輸送機構を介して化合物を脳の患部へ送達することができる。この輸送系により神経薬の脳への送達はいくつかの方法で達成することができる。1つの技法は、神経薬だけを鼻腔に送達するステップを含んでなる。この場合、KLK1の化学的特徴は脳の疾患ニューロンへのその送達を容易にすることができる。嗅覚神経経路の末梢神経細胞を、嗅覚球に接続されている脳領域の傷害性ニューロンへKLK1を送達するために利用することができる。
【0116】
KLK1を鼻腔へ単独で、またはアルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物と組合わせて投与することができる。KLK1を担体および/または他のアジュバントと組合わせて医薬組成物を形成させる。潜在的アジュバントとしては、限定されるものでないが、GM-1、ホスファチジルセリン(PS)、およびポリソルベート80などの乳濁化剤が挙げられる。さらなる補充物としては、限定されるものでないが、親油性物質、例えば、ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。
【0117】
本発明の方法はKLK1を哺乳動物の鼻腔へ送達する。KLK1を上方第3鼻腔の嗅覚領域、特に嗅覚上皮に送達して、呼吸器上皮内毛細血管よりむしろ末梢嗅覚ニューロン中へのこの作用薬の輸送を促進することが好ましい。それにより、KLK1は神経系を用いて脳および脳内の傷害ニューロンへ輸送される。
【0118】
本発明の一実施形態においては、KLK1を親油性物質から成るミセルと組合わせることができる。かかるミセルは鼻膜の透過性を改変して作用薬の吸収を促進することができる。親油性ミセルには、ガングリオシド、特にGM-1ガングリオシド、およびホスファチジルセリン(PS)が含まれる。
【0119】
KLK1が嗅覚上皮を通過すると、本発明はさらに嗅覚神経経路に沿ってKLK1の輸送を提供する。KLK1は嗅覚系内を移動することができる。特に、神経栄養物質および神経突起生成物質は神経細胞膜中への組込むことができかつ神経細胞受容体部位に対するアフィニティを有することが示されている。
【0120】
KLK1を嗅覚のニューロンへ送達するために、KLK1を単独でまたは医薬組成物のような他の物質と組合わせて上方第3の鼻腔に位置する嗅覚領域へ投与することができる。組成物を鼻腔内に粉末または液体の鼻スプレー、点鼻剤、ゲルまたは軟膏として、チューブまたはカテーテルを介して、注射器により、パックテール(pack tail)により、綿球により、または粘膜下注入により投薬することができる。
【0121】
鼻腔内投与用の医薬組成物は、粉末、顆粒、溶液、軟膏、クリーム、エーロゾル、粉末、または滴剤として製剤することができる。溶液は無菌、等張性、または低張性であっても、その他に、注射または他の手段による投与に好適であってもよい。KLK1に加えて、溶液は適当なアジュバント、バッファー、保存剤および塩を含有してもよい。医薬組成物の粉末または顆粒形態を、溶液とならびに、希釈剤、分散剤および/または表面活性剤と組合わせてもよい。点鼻剤などの溶液は酸化防止剤、バッファーなどを含有してもよい。
【0122】
嗅覚系は、外部環境と脳の間の直接結合を提供し、従って、アルツハイマー病 および 健忘性軽度認知障害を治療するためのKLK1の迅速かつ即時の送達を提供する。さらに、医薬組成物を鼻腔内に適用する手段は、粉末、スプレー、または点鼻剤などの静脈内または筋肉内注射を不要としかつ治療薬の投与を簡略化する、様々な形態であってよい。
【0123】
本発明を、様々な好ましい実施形態および技法を参照して説明しよう。しかし、多くの変化と改変がなされうるものの、本発明の精神と範囲内に留まることは理解されなければならない。
【実施例】
【0124】
(実施例1)In vitroアミロイドタンパク質切断アッセイ
原線維の調製
合成ヒトアミロイドタンパク質Aβ1-42またはAβ1-40をジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma, St. Louis, MO)に溶解して5mMの濃度とし、次いでこれを使用直前にMilliQ(登録商標)に希釈して25mMの最終濃度とした。アミロイド原線維(fAβ)を調製するために、DMSO中の5mM Aβ1-42またはAβ1-40を10mM HClに希釈して100μM(Aβ1-42について)または200mM(Aβ1-40について)とし、30秒間攪拌し、37℃で5日間インキュベートした。
【0125】
原線維の消化:
KLK1(Sigma)を用いて、次のバッファー:ECE、0.1M MES、0.1M NaCl(pH 6.0);IDE、50mM Tris、1M NaCl(pH 7.5);NEP、0.1M MES(pH6.5);およびMMP-9、50mM Tris-HCl(pH7.5)、10mM CaCl2、150mM NaCl、0.05% Brij 35中で消化反応を行った。これを37℃で4時間〜5日間インキュベートした。消化後、その反応物を質量分析計により分析した。
【0126】
原線維切断の分析:
サンプルを50mMグリシン(pH 9.2)/2mMチオフラビンT(ThT)(Sigma)に最終体積2mlまで加えた。蛍光を分光計によりそれぞれ435および485nmの励起および放出波長にて測定した。分析は、KLK1がアミロイド原線維(図1)および可溶アミロイドオリゴマー(図2)を切断することを示した。図1において、パネルAはAβ単独を示し、ここではアミロイド原線維の大きい凝集塊が存在し、小断片は見られなかった。パネルBはKLK1単独を示し、ここでは有意に小さいペプチド断片は存在しなかった。しかし、パネルCでは、切断の徴候を示す明確なピークが約2423 M/Z(質量対荷電比)に存在する。図2において、パネルAは可溶アミロイドが約 4000〜5000 M/Zの間で可視ピークを有することを示す。パネルBでは、KLK1を可溶アミロイドに加えた場合、可視ピークは存在しない。これはKLK1が可溶アミロイドをさらに小さい断片に切断したことを示す。この結果は、KLK1がアミロイドの原線維および可溶型を切断することを示し、KLK1が原線維プラークおよび可溶アミロイドに関係する疾患を治療するのに有用であることを示唆する。
【0127】
(実施例2)ラット混合皮質培養中のAβ1-42毒性に与える、組織カリクレインの効果
組織カリクレインによる前処理がラット混合皮質培養をヒトアミロイドβペプチド(Aβ1-42)への曝露に対して保護するかどうかを研究した。細胞死をLDH放出(壊死の徴候)により分析し、細胞生存をニューロン細胞数により分析した。第1部(研究アームA)においては、細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)に、組織カリクレインを単独で加えた。しかし、第2部(研究アームB)においては、細胞にAβ1-42侵襲の前(-30 min)におよびAβ1-42侵襲の後(+24 h)にも加えた。+24 h時点に、細胞培地を取り換えなかった(組織カリクレインまたは対応する量のビヒクルをウエルに加えた)、しかし-24 hおよび-30 min時点に細胞培地を取り換えた。
【0128】
方法
RNAC細胞培養
混合皮質培養はE18 Wistarラット胎仔(National Animal Center、Kuopio、Finland)から調製した。皮質を解剖し、組織を小片に切断した。細胞をDNaseおよびパパインとの15分間インキュベーションにより分離した。細胞を遠心分離(1500 rpm、5分間)により採集した。組織をピペットを用いて摺り潰し、細胞を、ポリ-L-リシンをコートした48-ウエルプレート上に、300,000細胞/cm2で、2mMグルタミン、0.1μg/mlゲンタマイシン、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS-HI)および10%熱不活性化ウマ血清(HS-HI)を補充したMEM(グルコース2g/L)中にプレーティングした。3〜4時間後、培地を2mMグルタミン、0.1μg/mlゲンタマイシン、5%HS-HIを補充したMEM(2g/L グルコース)に取り換えた。in vitroで3日後、グルタミン、ゲンタマイシン、および5%の両方の血清を補充したMEM(2g/L グルコース)を含有する培地を、細胞に対して、取り換えた。in vitroで第6日に、シトシンアラビノシド(10μM最終濃度)を24時間加えることにより、欲しない細胞分裂を阻止した。培養にグルタミン、ゲンタマイシン、および5%HS-HIを補充したMEM(2g/Lグルコース)を再供給した後、実験を行った。
【0129】
Aβ1-42曝露
組織カリクレイン(配列番号1)をグルコース、グルタミン、ゲンタマイシン、および5%HS-HIを補充したMEMに溶解し、さらに希釈した。全ニューロン死に対する対照として300μMN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA) 48時間を使い、そして10μM Aβ1-42 48時間を使ってほぼ30〜50%の細胞死を誘発した。培地だけで処理したウエルを0対照とした。10μM Aβ1-42(最終濃度)を加える前、-24 hおよび-30 minに、組織カリクレインまたはビヒクルを細胞にピペットで加えた。曝露後、+24 hに、組織カリクレインまたはビヒクルをふたたび細胞にピペットで加えた。
【0130】
LDH測定
48時間後、全てのウエルの培地を採集し、含有しうる細胞砕片を遠心分離(13,000 rpm、3分間)により除去した。100μlアリコートを複製としてマイクロタイタープレート中にピペットで加え、等量のLDH試薬をそのウエルにピペットで加えた。340nmにおける吸収を、3分間動力学測定プロトコルを用いてMultiskan ELISAリーダー(Labsystems、Finland)で直ぐに測定した。吸収/分(min)の変化を決定したが、これは放出されるLDHと正比例した。残りの上清(50μl)をドライアイス中で即座に冷凍して貯蔵した。
【0131】
ニューロン生存についての免疫細胞化学
ニューロン計数については、培養を、0.01M PBS中の4%パラフォルムアルデヒドを用いて30分間固定し、PBSを用いて2回洗浄した。固定した細胞を最初に透過化処理し、1%ウシ血清アルブミンおよび0.3%Triton(登録商標)X-100をPBS中に含有するブロックバッファーとの30分間インキュベーションによって非特異的結合をブロックした。抗ニューロン核抗体(抗NeuN、1:500希釈物、Chemicon、Temecula、CA)を一次抗体として用いた。細胞を一次抗体と48時間インキュベートし、次いでビオチン化した二次抗体(1:200、VectorLabs)と2時間、およびアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC-試薬、1:200、ベクターABC Eliteキット、Vector Labs)と2時間インキュベートした。陽性細胞を、基質としてNi増進したDAB(DAB基質キット、Vector Labs)を用いて可視化した。光顕微鏡を用いてNeuN免疫陽性ニューロンの計数を行った。また、各ウエルの2つのフィールドの計数を行った。その結果を%可視ニューロンとして示した。
【0132】
データ解析
使用した化合物濃度当たりのウエルの数は6個であった(n=6)。両方の研究アームにおいて、組織カリクレインの5レベルの濃度(0.001、0.01、0.1、1、10μg/ml)を研究した。統計分析はStatsDirect統計ソフトウエアを用いて実施した。その値を一元配置のANOVAにより分析し、ダネットの検定(ビヒクル処置グループとの比較)を行った。結果を平均±標準偏差(SD)で示したが、差はP<0.05レベルで統計的に有意であるとみなされた。
【0133】
結果
組織カリクレインの結果(研究アームA)
組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた(10μM最終濃度)。-24hおよび-30min時点に細胞培地を取り換えた。NMDA対照により誘発された100%LDH放出と比較すると、組織カリクレインの非存在におけるAβ1-42侵襲は、39.14% LDH放出をもたらした。組織カリクレインは0.001μg/ml、0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1,0 μg/mlの濃度においてAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えかった(図3)。しかし、10μg/ml組織カリクレインは有意にLDH放出を低下した。同様に、低濃度の組織カリクレインはAβ1-42侵襲後の細胞数(生存)に影響を与えなかった(図4)。組織カリクレインは1.0μg/mlおよび10μg/mlにおいて保護を与え、その場合、Aβ1-42により侵襲をしてかつ組織カリクレインなしでチャレンジしたRMCCと比較して、RMCC数が増加した。10μg/mlにより提供される保護は統計的に有意であった。
【0134】
(研究アームB)
組織カリクレインを、Aβ1-42(10μM最終濃度)侵襲前(-30min)および後(+24h)に細胞に加えた。+24h時点に細胞培地を取り換えなかった(組織カリクレインまたは対応する量のビヒクルをウエルに加えた)が、-30min時点に細胞培地を取り換えた。NMDA対照により誘発された100% LDH放出と比較すると、組織カリクレインの非存在でのAβ1-42侵襲は43.87% LDH放出をもたらした。組織カリクレインは0.001μg/ml、0.01μg/ml、および0.1μg/mllの濃度においてAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えかった(図5)。しかし、1.0μg/mlおよび10μg/ml組織カリクレインはLDH 放出を低下し、組織カリクレインの10μg/ml投与は統計的に有意なLDH放出の低下を生じた。同様に、低濃度の組織カリクレインはAβ1-42後の細胞数(生存)に影響を与えなかった(図6)。細胞数の増加は、Aβ1-42侵襲をしてかつ組織カリクレインなしでチャレンジしたRMCCと比較して、1.0μg/mlおよび10μg/mlの組織カリクレインをRMCCに適用した時に、見ることができる。10μg/mlにより提供される保護は統計的に有意であった。
【0135】
総括
組織カリクレインは10μg/mlで、LDH放出およびニューロン細胞計数の両方により測定した両方の組織カリクレイン投与スキーム(上記研究アームAおよび研究アームB)におけるAβ1-42誘発性ニューロン死を減少する(両方の試験で統計的に有意である)。これらの結果は、組織カリクレインによる前処理(-24hおよび-30minにおける)ならびに組合わせた前処理(-30min)と後処理(+24h)がラット皮質培養をAβ1-42誘導性細胞死に対して保護することを示唆する。
【0136】
(実施例3)異なる処理アームを用いる、ラット混合皮質培養中のAβ1-42毒性に与える、10μg/mlの組織カリクレインの効果
ラット混合皮質培養(RMCC)中のAβ1-42毒性に与える10μg/mlカリクレインの効果も試験した。カリクレインの効果を試験するために用いた方法は、実施例2で組織カリクレインを試験するために用いた方法と同じで、カリクレイン (10 μg/ml)のRMCCに対する3つの異なるスキーム:研究アームA)Aβ1-42侵襲前24hおよび30min;研究アームB)Aβ1-42侵襲前30minおよびまた後24h、ならびに研究アームC)Aβ1-42侵襲前24hおよび30minならびにまた後24hを試験した。結果を図7に示した。10μg/mlのカリクレインによるRMCCの処理はAβ1-42侵襲からの保護を提供し、これは全ての3つの処理アームにおいて統計的に有意なLDH放出の低下によって見られた。これらの結果は、固定濃度の組織カリクレイン(10μg/ml)による前処理(-24hおよび-30minにおける)、前処理(-30min)と後処理(+24h)の組合わせ、および前処理(-24hおよびat-30min)と後処理(+24H)の組合わせが、Aβ1-42誘導性細胞死に対してラット皮質培養を保護することを示唆する。
【0137】
(実施例4)ラット混合皮質培養におけるAβ1-42毒性に与える、カリジン(1nM〜100nM)の効果
ラット混合皮質培養(RMCC)におけるAβ1-42毒性に与える、カリジンの効果も試験した。カリジンの効果を試験するために用いた方法は実施例2で組織カリクレインを試験するために用いたのと同じ方法であった。3つの異なるカリジンのRMCCへの投与スキーム:研究アームA)Aβ1-42侵襲前24hおよび30min、研究アームB)Aβ1-42侵襲前30minおよびまた侵襲後24h、ならびに研究アームC)Aβ1-42侵襲前24hおよび30minおよびまたAβ1-42侵襲後24hを試験した。研究アームA、B、またはCにおいて、カリジンによるRMCCの処理(1nM、5nM、1OnM、5OnM、および10OnM)はAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えなかった(図8〜10)また、Aβ1-42侵襲後の細胞(生存)数に影響を与えなかった(図11〜13)。これは直感に反する、何故なら、カリジンはブラジキニンB2受容体を活性化して、アミロイドを切断できるMMP-9の発現の増加に導くからである。カリジン投与によるMMP-9の増加はアミロイド切断の増加を導いてAβ1-42侵襲誘導性細胞死から保護すると仮定し得た。
【0138】
(実施例5)ラット混合皮質培養におけるAβ1-42毒性に与える、カリジン(1μM〜100μM)の効果
ラット混合皮質培養(RMCC)中のAβ1-42毒性に与えるカリジンの効果を、実施例4の方法と研究アームに従って再試験した。研究アームA、B、およびCの結果を図14〜16に示した。lμMおよび10μMのカリジンによるRMCCの処理は、Aβ1-42侵襲後の研究アームA、B、またはCのLDH放出を変えなかった。しかし、むしろ意外にも、100μMのカリジンによるRMCCの処理は、Aβ1-42侵襲単独と比較して、Aβ1-42侵襲後の細胞死を有意に増強し、この濃度でカリジンがRMCCに毒性であることを示唆した。これは直感に反する、何故なら、カリジンはブラジキニンB2受容体を活性化して、アミロイドを切断できるMMP-9の発現の増加に導くからである。カリジン投与によるMMP-9の増加はアミロイド切断の増加を導いてAβ1-42侵襲誘導性細胞死から保護すると仮定し得た。
【0139】
(実施例6)鼻腔内組織カリクレインの薬物動態学的研究
本研究の目的は、麻酔したラットへの鼻腔内投与後に、中枢神経系および末梢組織に到達する組織カリクレイン(KLK1)の量を定量することであった。KLK1投与後30分に、動物を氷冷生理食塩水を用いて経心灌流し、次いでパラフォルムアルデヒドで固定して組織を解剖した。各組織サンプル中の放射標識したKLK1の量をγカウント測定により定量し、組織重と投与溶液の標準のγカウント測定値を用いて組織濃度を計算した。
【0140】
動物
成熟雄Sprague Dawley)ラット(n = 10、平均335.4g±4.57g SE)をこの研究に用いた。動物は、地域病院動物管理施設(the Regions Hospital Animal Care Facility)においてグループ分けして飼育し、食餌および水にはフリーアクセスとした。動物は、12時間光サイクルに保持した。全ての実験手順は、地域病院の動物管理使用委員会(the Animal Care and Use Committee at Regions Hospital)によりIACUCプロトコル番号08-022のもとで認可されたものであった。
【0141】
製剤
組織カリクレインをPerkin-Elmerへ送って125I標識付けをした(Quote NEX-084、lot C1541583)。Sigmaからの非標識KLK1(カタログ番号K3627-lKU、ロット番号018K1441)も使用した。非標識KLK1を1 X PBS(10 X PBS、Sigma、カタログ番号P5493、ロット番号027K8405を無菌水に希釈したもの)中に溶解した。平均用量は48.1μL、75μCi、および2.6mgであった。
【0142】
麻酔
a. 麻酔前に、各ラットを秤量した。
【0143】
b. 麻酔カクテルを調製し、全、半、および四分の一麻酔用量を動物重量によって計算し、全用量が30mg/kgケタミン、6mg/kgキシラジン、および1mg/kgアセプロマジンを含有するようにした。
【0144】
c. 25Gまたは27Gと適合した1-cc 注射器 、1/2インチ針を組立てて全用量を注射用の注射器中に吸引した。
【0145】
d. ラットを次のようにタオルで拘束した。 ラットを腹側を下にしてハンドタオルの中央に置いた。次いでタオルで頭と肩の周りを包んで拘束した。包まれた動物を腹側を下にしたままで、左後肢の位置を確かめた。
【0146】
e. 左後肢を側面に引張り出し、針を丁度大腿上の皮膚の下(皮下)に挿入した。針が皮下にある(かつ筋肉内でない)ことを確認した後に、全用量を注射した。ラットを保持籠に置いて、注射時間を記録した。動物は5分以内に降ろすべきこと。
【0147】
f. 麻酔は、全過程を通して、後足または尾をはじいて反射を確かめることによりモニターした。もし反射があれば、半または四分の一用量の追加麻酔を必要に応じて投与した。
【0148】
g. 薬物投与中、最初の用量後、大まかに20〜25分に、動物は半用量の追加麻酔を受けた。
【0149】
125I-KLK1の鼻腔内送達
a. 麻酔ラットを、金属外科トレイ内の加熱パッド上にその背を下にして置いた。加熱パッドをサーモスタットに接続し、直腸プローブからの連続測定値に基づいて37℃に維持するように自動制御した。
【0150】
b. 2" x 2"ガーゼパッドをしっかりと巻いて枕とし、一緒に、首下でテープ留めして、カウンターと水平な正しい首位置を維持した。
【0151】
c. 照射に対する保護のために、鉛を含浸したシールドを外科トレイと実験者の間に置いた。用量溶液、ピペット、ピペットチップ、および廃棄物受器をシールドの後に配置して容易に取り扱えるようにした。
【0152】
d. 6μL滴剤をシールドの後のピペット中に装填した。
【0153】
e. パラフィンでカバーした綿棒を用いて1つの外鼻孔を完全に閉鎖する(綿棒の平滑な部分を静かに外鼻孔に押し込んで気流を阻止する)一方、6μL滴剤をピペットからゆっくりと押し出し(ラットの正中線から45°角度に保って)、ピペットチップ上に液滴を形成させた。その液滴を開放した外鼻孔上に降ろして吸入させる。
【0154】
f. 2分間後に、かわりの外鼻孔を閉鎖し、6μL滴剤を同じ様式で投与した。
【0155】
g. 2分間毎に、交互の外鼻孔へ1滴を上記の通り、8滴(各外鼻孔へ4滴づつ)全てを送達するまで14分間にわたって投与した。
【0156】
h. 各液滴の送達時刻、ならびに動物の呼吸または送達の成否について詳細を記録した。
【0157】
各投薬溶液の3つの3μLアリコートをγカウントし、測定された比活性を確認した。
【0158】
経心潅流
a. 所望の終点時刻前2分に、麻酔した動物を金属外科トレイ内に背を下にして平たく置いた。加熱パッド、直腸プローブ、および首枕を取り除いた。テープを用いて前肢をパン上に固定した。パンの背をわずかの持ち上げて血液が動物から流れ去るようにした。
【0159】
b. 皮膚を切って胸骨を曝した。胸骨を止血鉗子ではさみ、肋骨郭を側方に切り開いて横隔膜を曝した。
【0160】
c. 横隔膜を側方に切断して胸膜腔を曝した。
【0161】
d. 外科用鋏を用いて肋骨郭の側部を動物の腋窩へ向かって切り上げ、「V」形の切開部を作って心臓を曝した。
【0162】
e. 胸骨を保持する止血鉗子を頭部の上でテープ止めし、腔を開放して保持した。
【0163】
f. ブラント鉗子を用いて心臓を安定化するとともに、左心室中へ小カットを行った。
【0164】
18Gの1cc-注射器、1"ブラント針を左心室中に挿入して、およそ0.1mLの血液を取出し、予め秤量したチューブ中に移してγカウントを行った。
【0165】
g. 拡張セットに添付された第2の18Gブラント針に60ccの生理食塩水を満たし、これを左心室を通って大動脈中に挿入した。
【0166】
h. 大きいブルドッグ鉗子を大動脈上の心臓のちょうど上に置いて、ブラント針を固定した。
【0167】
i. 注射器ポンプを15mL/minの流量で用いて、動物に60mLの生理食塩水、次いで360mLのパラフォルムアルデヒドを潅流した。
【0168】
脳解剖
a. 実験手順全体にわたって、動物組織、外科道具、および設備の放射性汚染を防止するために、厳重な注意を払った。ガイガー計数管を各作業場に配置し、連続的に道具、作業空間およびスタッフをスクリーニングした。二層手袋、実験コート、保護メガネ、マスクおよび保護キャップを含む個人保護着を常時着用した。鉛含浸したシールドを用いて照射への曝露を最小限にした。スタッフは実験中、放射性モニタリングバッジも常時着用し、曝露を定量した。
【0169】
b. 各組織サンプルは採集した後、予め標識しかつ予め秤量したγチューブ中に入れて、後に測定した。
【0170】
c. 頭を取り除くために、首周りの皮膚および筋肉をちょうど肩甲骨の上でメスにより切断し、一対の大きいハサミを用いて動物を断頭し、背側から腹側へ切断して気管および食道からの汚染を回避した。
【0171】
d. 脳を曝すために、正中線切開を頭蓋の背側で行い、次いで皮膚を剥ぎとり、真直ぐな止血鉗子を用いて、背側硬膜が付着したまま残るように注意しながら、骨を切断した。
【0172】
e. 背側硬膜を採集した。
【0173】
f. 脳を頭蓋から取り外すために、頭を逆転して小スパチュラを用いて腔から分離した。後側の視神経および三叉神経を脳の近くで切断した。次いで脳を解剖するために清浄なペトリ皿中に移した。腹側の頭蓋壁上をピンセットで掻き取ることにより、頭蓋の基部から、腹側の硬膜を採集した。下垂体、視交差、および三叉神経を採集した。三叉神経の前側部分は頭蓋中の可視分枝の前の部分から成る一方、三叉神経節を含有する残部は後側セクションと考えられた。頭を次いで側において、後の解剖のために、キムワイプで覆った。
【0174】
h. 外科ピンセット、ミクロはさみ、および30 G針を用いて、脳底動脈およびウィルス輪(circle of Willis)を取り出して、予め秤量したペーパー(ペーパーを用いたのは、この組織の重量が小さいからである)上に置いた。針を用いて血管を持ち上げて脳から取り去り、ピンセットでつかみ、ミクロはさみで切片を作った。この組織を採集すると直ぐ秤量し、次いで全ペーパーをもみくちゃにして、チューブの底に置いた
i. 脳を冠状基質中に置く前に、嗅覚球をかみそりの刃を用いて自然の角度で切り取った。
【0175】
j. 冠状脳基質において、視交差を除去する前に、かみそりの刃をその中央に挿入し、各動物を同じ位置に基準化した(十字縫合)。第1の刃から2mm毎にさらなる刃を入れて、6 x 2mmスライス(3つは視交差の頭側へおよび3つは尾側へ)を得た。
【0176】
k. 刃を取除いて、組織を各スライス(1〜6)から解剖した。各スライスからの残りの脳組織も解剖した。
【0177】
l. 皮質および海馬の残りのセクションを基質中の残りの脳組織から解剖し、それぞれのチューブ中に置いた。
【0178】
m. 上方の頚部脊髄を採集した。
【0179】
n. 次いで残りの脳を正中性に沿って二分し、中脳、脳橋、髄質、および 小脳に解剖した。
【0180】
o. 頭部に戻って、首の腹側を前側に切断し、皮膚を剥ぎ取ってリンパ節、唾液腺、および首筋肉を曝した。
【0181】
p. 表面結節、深頚部結節、頸動脈、および甲状腺を解剖し、結合組織を取り除いた。
【0182】
q. かみそりの刃を用いて頭蓋を正中線沿いに二分した。嗅覚上皮および呼吸器上皮を採集した。
【0183】
身体解剖
a. 採集後直ぐに、各組織サンプルを予め標識しかつ予め秤量したγチューブに入れて、その後の測定に備えた。
【0184】
a. 身体をその背を下にして置き、メスを使って長軸方向にカットし、腹膜腔を下方に膀胱まで開いた。
【0185】
b. 肝臓(表面の右葉)、腎臓(左、先端部)、腎動脈、脾臓(先端部)、肺(右、頂葉)、および心臓の3mm平方サンプルを採集した。
【0186】
c. およそ0.1〜0.2mLの尿を採集した。
【0187】
d. 身体の胃の上を全体にはじき、そして表面切開を動物の長さ方向に肩部から臀部へ脊髄に沿って行った。皮膚を両側の下に横たわる組織から剥ぎ取って肩甲骨を曝した。
【0188】
e. 腋窩の腋結節を解剖し、結合組織を取り除いた。
【0189】
f. 右三角筋の一片を採集した(ほぼ3 mm2)。
【0190】
g. 脊椎上に重なる筋肉にメスで刻み目を入れた。脊髄を曝すために、小止血鉗子を脊柱中に挿入し、上に重なる椎骨および組織を取り去った。小スパチュラを用いて脊髄腔から脊髄をゆるめ、ピンセットを用いてこれを取出してペトリ皿中に置いた。硬膜を脊髄からピンセットを用いて剥ぎ取った。脊髄を低頚部、胸部、および腰部に解剖した。低頚部セグメントの頂部のほぼ2mmは廃棄した。
【0191】
h. 気管および食道の2cmセグメントを身体および結合組織から解剖して取り出した。それぞれの頂部0.5cm(断頭点の最も近い部分)は廃棄した。
【0192】
組織のカウント測定
サンプルを含有する予め秤量したγチューブを再秤量して組織重を測定した。全てのラットからのサンプルを、COBRA II自動ガンマカウンター(標準125Iプロトコル、カウント時間5分、エレベーター位置1)を用いてカウント測定した。カウンターは毎週規準化して80%超のカウント測定効率を確実にした。全てのラットについて、バックグラウンドプロトコルを実施し、平均測定バックグラウンドカウントをガンマカウンターによって測定したカウントから自動的に差し引いた。
【0193】
データ分析と計算
各組織サンプルのnM濃度の平均と標準誤差を計算した。各組織に対する平均の2標準偏差外の値は、異常値とみなしてデータセットから除去した。異常値は動物データシートでは「X」によって示した。
【0194】
エクセル・スプレッドシートは各組織に対するnM KLK1濃度を、投薬溶液の測定した特異的活性、各組織のCPM、および各組織の体積を用いて、自動計算した(1g =1mLと仮定した)。
【0195】
サンプル計算
nM濃度=(組織カウントCPM)/(測定した比活性cpm/fmol)/(組織体積mL)/(103fmol/pmol)
例:嗅覚球、KLK1について
(4130 CPM)/(2.76 CPM/fmol)/(0.07734 mL)/(103 fmol/pmol)=19.35 pmol/mL=19.35 nM
結果
結果を表1に総括した。
【0196】
総括
KLK1は、次に掲げた神経性疾患を治療するための標的領域に効果的に到達した:1)アルツハイマー病の神経病理学に関わることが公知である前頭皮質、側頭皮質、海馬および他の領域;2)脳血管壁、アルツハイマー病におけるアミロイド血管障害の部位;および3)神経炎症の治療におそらく重要なリンパ系の頚部結節。
【表1】
【0197】
(実施例8)可溶および原線維アミロイドβの直接切断
アミロイドβ1-42標準(β-アミロイド1-42ELISA、ヒトキット、Sigma BE0200由来)をキット取扱説明書によって、1.0μg/mLに再構築した。組織カリクレイン(配列番号1)のストック溶液およびほぼ0.5モル当量のダイズトリプシンインヒビター(Sigma、T6522)をPBS中で調製し、500 pg/mLに固定した濃度のhAβ42ペプチドを用いて三つ組で連続希釈した。
【0198】
溶液を3および18時間それぞれインキュベートし、その後、追加のプロテアーゼインヒビター(プロテアーゼインヒビターカクテル溶液、Sigma P8340の1/100希釈液)を加えた。
【0199】
キット取扱説明書に従い、50μLの上記サンプルを加え、ELISAプレートを一晩40℃にてインキュベートした。ELISAプレート現像の残りのステップを、キット取扱説明書の通り実施し、次いでマルチウエルELISAプレートリーダーを用いて450nmにて読み取った。
【0200】
%切断を次式:
100-[(Ave KLK1-Aveブランク)/(Ave 対照-Ave ブランク) x 100]=%切断
により決定した。
【0201】
結果
【表2】
【0202】
KLK1の様々な濃度に対するアミロイドβ切断のパーセントを図17に見い出すことができる。
【技術分野】
【0001】
本発明はアミロイドタンパク質に関連する疾患を治療する方法に関し、前記疾患にはアルツハイマー病、アルツハイマーの前駆症状である健忘性軽度認知障害および関連する症状が含まれる。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は致命的な神経変性障害であり、現在世界中で2千万人を越える人が冒され、発生率は増加している。発現率は次の30年間に倍増し、アルツハイマー病は高齢者間の死亡率の最高の病因になりうると予測されている(van Leeuwenら, Neurobiology of Aging, 2000, 21 : 879-891)。特徴としては、知的機能の低下(記憶、言語、視覚空間能力および問題解決能力)および異常行動を伴う抽象的推理の低下が挙げられる。アルツハイマー病は最終的に運動機能の喪失、衰弱そして死をもたらす(Friedlanderら, Clinical Practice 2006, 137: 1240-1251)。アルツハイマー病は一般に晩年に発症し、「晩期発症型」と言われる。65〜74歳の人たちのアルツハイマー病の罹患率は3%である一方、85歳および85歳超の群はそれぞれ19%および47%である(Friedlanderら, 2006)。アルツハイマー病と診断された個人の平均寿命は発症後8〜10年である(Friedlanderら, 2006)。
【0003】
アルツハイマー病と診断される前駆症状として、多くの人は最初に健忘性軽度認知障害(MCI)を経験し、これは正常な加齢とアルツハイマー病の遷移段階またはアルツハイマー病の前臨床段階であると考えられる(Arch Neurol. 2004 Jan; 61(l):59-66)。記憶喪失が主な特徴である場合、このタイプの機能障害は健忘性MCIと呼ばれ、認知低下が増加するにつれて時間がたつとアルツハイマー病に転化することが多い。
【0004】
アルツハイマー病は7段階に分類され、各段階はその前段階よりさらに衰弱する。第1段階は遡及分析(retrospective analysis)によって特徴付けられ、アルツハイマー病の症候群が進行すると痴呆と重篤認知機能低下からなる最終段階に至り、患者の終日在宅看護を必要とすることが多く(Friedlanderら, 2006)、非常に大きい看護出費を生じる。
【0005】
アルツハイマー病発症はある特定のリスク因子と相関があると思われる。これらのリスク因子としては、頭部外傷、民族性、高カロリー、高脂肪、低葉酸食事、限られた教育、高コレステロール血症、糖尿病および座位生活様式が挙げられる(Friedlanderら, 2006)。常染色体優性遺伝パターンが家族性発症を示す事例の約5%で観察される。
【0006】
アルツハイマー病の正確な病因は現在わかってないが、この疾患は非常に複雑な様式の多数の経路により制御されている。経路としては、β-アミロイドタンパク質(Aβ)の代謝欠陥、異常な神経伝達(グルタミン、アドレナリン作用性因子、セロトニンおよびドーパミン)、炎症、ホルモン性よび酸化経路が挙げられる(Frankら, Ann. Clin. Psychiatry 2005, 17(4): 269-286)。4つの遺伝子がアルツハイマー病に関わるようである。これらの遺伝子は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、プレセニリン1、プレセニリン2およびアポリポタンパク質Eをコードする(Frankら, 2005)。アルツハイマー病は、繊維状プラークまたはもつれ(tangles)の存在する脳領域を特徴とする。プラークは細胞外沈着物および細胞内に観察されるもつれである。プラークはAβおよびその断片Aβ40およびAβ42を含有する一方、もつれはタウタンパク質として知られる微小管関連タンパク質を含有する。Aβ断片はそのAPP(前駆体)に関わる異常なタンパク質分解性切断事象の産物である。プラークは記憶形成および情報取得に関わる脳の領域において形成しうる。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体はアルツハイマー病の神経毒性事象に関わると考えられ、Aβは直接関わりうる。もつれは、特定部位におけるタンパク質キナーゼにより過剰リン酸化された後、タウタンパク質が一緒に凝集するときに生じる。特に、タンパク質キナーゼのグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)が、もつれ形成および軸索微小管崩壊に導くタウタンパク質の過剰リン酸化に結びつけられている(Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5)。Aβは、ニューロン内のGSK-3β活性を刺激することが示されている(Neuroscience 2002;1 15(1):201-1 1)。微小管の崩壊は軸索輸送を防止し、シナプスの喪失および神経変性に導く。
【0007】
認知および機能性低下に関する通常の治療方法としては、コリンエステラーゼインヒビターおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニストが挙げられる。精神病および不穏の事象は、非定形的の抗精神病薬(オランザピンおよびリスペリドンなど)および気分安定薬を用いて治療することができる。最後に、うつ病および不安は選択的なセロトニン再取り込みインヒビター、3環の抗抑制薬、ノルエピネフリン再取り込みインヒビターおよび中枢α2-アドレナリン作動性自己受容体およびヘテロ受容体アンタゴニストを用いて治療することができる(Friedlanderら, 2006)。
【0008】
一般集団において、アルツハイマー病は大部分の患者を比較的高年齢に襲うが、ダウン症候(「トリソミー21」または「DS」としても知られる)の患者の場合はもっと早い。ほとんどのダウン症候の人たちは中年遅くにアルツハイマー病理を発症し、それにはほとんどの他のアルツハイマー患者よりしばしば重症であるプラーク形成性タンパク質Aβの沈着が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】van Leeuwenら, Neurobiology of Aging, 2000, 21 : 879-891
【非特許文献2】Friedlanderら, Clinical Practice 2006, 137: 1240-1251
【非特許文献3】Arch Neurol. 2004 Jan; 61(l):59-66
【非特許文献4】Frankら, Ann. Clin. Psychiatry 2005, 17(4): 269-286
【非特許文献5】Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5
【非特許文献6】Neuroscience 2002;1 15(1):201-1 1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はアルツハイマー病もしくはその症候群の治療および健忘性軽度認知障害もしくはその症候群の治療における、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。本発明はさらに、アミロイドの消化または切断のためのおよびアミロイドの消化または切断から利益を得る症状の治療のための、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0011】
一態様において、本発明は、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群;または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を有する患者を治療する方法であって、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の治療上有効な量を患者に投与するステップを含んでなる前記方法を提供する。
【0012】
本発明のある実施形態においては、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与する。
【0013】
他の態様においては、1日当たり約1〜約1000 IUの組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含む、経口投与用に製剤された医薬組成物を提供する。
【0014】
他の態様においては、1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含む、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物を提供する。
【0015】
一実施形態において、本発明による医薬組成物はアジュバントと組合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、アジュバントは乳濁化剤である。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明による医薬組成物は、脂肪親和性ミセルと組合わせた組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む。
【0018】
さらなる実施形態において、本発明による医薬組成物はさらに、アルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物を含む。
【0019】
他の態様においては、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するのに有用な医薬品を調製するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0020】
他の態様においては、(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0021】
本発明の一実施形態において、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用はさらに、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物の同時使用を含む。
【0022】
本発明のさらなる実施形態において、第2の治療化合物はアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む。
【0023】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリンエステラーゼ前駆体はコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される。
【0024】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリン放出を促進する化合物は4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである。
【0025】
本発明のさらなる実施形態において、アセチルコリンエステラーゼインヒビターはフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される。
【0026】
本発明のさらなる実施形態において、ムスカリンアゴニストはミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される。
【0027】
本発明のさらなる実施形態において、酸化防止剤はビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される。
【0028】
本発明のさらなる実施形態において、抗炎症薬は非ステロイド抗炎症薬である。
【0029】
本発明のさらなる実施形態において、ホルモンはエストロゲンまたはテストステロンである。
【0030】
本発明のさらなる実施形態において、向知性薬はピラセタムである。
【0031】
本発明のさらなる実施形態において、エルゴロイドメシラートはヒデルジンである。
【0032】
本発明のさらなる実施形態においては、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与する。
【0033】
本発明のさらなる実施形態において、治療上有効な用量は1投薬頻度当たり約0.001〜約5000国際単位(IU)である。
【0034】
本発明のさらなる実施形態においては、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与する。
【0035】
本発明のさらなる実施形態において、治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は1日当たり約0.001〜約1000 IUである。
【0036】
さらなる態様においては、それを必要とする患者におけるアミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0037】
さらなる態様においては、それを必要とする患者における神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0038】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳への酸素取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0039】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳への血流を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0040】
さらなる態様においては、それを必要とする患者のプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0041】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳によるグルコース取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0042】
さらなる態様においては、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】アミロイド原線維の組織カリクレイン(KLK1)切断in vitroを示す質量スペクトルである。A)β-アミロイド(Aβ)単独;B)KLK1単独;およびC)KLK1およびAβ。
【図2】可溶アミロイドの組織カリクレイン(KLK1)切断in vitroを示す質量スペクトルである。A)可溶性Aβ単独;およびB)可溶性AβおよびKLK1。
【図3】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定結果を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図4】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のニューロン生存を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは%生存ニューロンとして、平均値+SDとして提示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図5】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前(-30 min)およびまた、後+24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOO2(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図6】組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のニューロン生存を示す棒グラフである。組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前(-30 min)およびまた、後+24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは%生存ニューロンとして、平均値+SDとして提示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図7】10μg/ml組織カリクレイン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリクレインは、細胞にAβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前、24 hおよび30 minに細胞に加え(研究アームA)、細胞にAβ1-42侵襲(10μM最終濃度)の前30 minにおよび後24 hにも加え(研究アームB)、ならびに細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた(研究アームC)。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図8】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図9】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図10】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図11】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図12】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図13】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)の細胞数を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。NeuN-免疫反応性ニューロンの数を10μM Aβ1-42曝露後48 hに数えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した生存ニューロンの%として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。
【図14】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前24 hおよび30 minに細胞に加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図15】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前30 minにおよび後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%とした%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。*p<O.O5(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図16】カリジン処理したラット混合皮質培養(RMCC)のLDH測定を示す棒グラフである。カリジンは細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)および後24 hにも加えた。データは、基線値(10μM Aβ1-42ウエル)と比較し、300μM NMDAを100%と設定した%増加として提示し、そしてデータは平均値+SDとして示した。***p<O.OOOl(一元配置のANOVA)は、ビヒクル(=10μM Aβ1-42)群と比較して統計的に有意な差を表す。
【図17】組織カリクレインの様々な濃度に対するアミロイドβ切断のパーセントを示す対数直線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
定義
「組織カリクレイン」または「KLK1」は主に、キニノーゲンのリシル-ブラジキニン(カリジン)への切断を介して高血圧を制御するその役割に対して注目されるセリンプロテアーゼである(Yousefら、Endocrine Rev. 2001; 22: 184-204)。
【0045】
KLKファミリーには多数の酵素が存在するので、本発明者らは、KLK1は高血圧制御などで認識された役割だけでなく、ユビキタスまたは複数標的に作用する酵素であるように見え、従ってアルツハイマー病を治療する上で重要な役割を特異的に果たしうると考えている。本明細書に使用する用語「組織カリクレイン(kallikrein)」は次の用語:カリクレイン(callicrein)、グルモリン、パドレアチン、パヅチン、カリジノゲナーゼ、ブラジキニノゲナーゼ、膵カリクレイン、オノクレインP、ジルミナールD、デポ-パヅチン、ウロカリクレイン、または尿カリクレインと同義である。
【0046】
上記の「カリジン」はリシル-ブラジキニンを意味する。カリクレインはキニノーゲンをカリジンに切断する。カリジンはブラジキニン2受容体を活性化することができ、これがマトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)の発現を増加することは公知である。MMP-9もアミロイドを切断することができる。
【0047】
組織カリクレインポリペプチドは次の配列(配列番号1)を有する:
NP_001001911 GI =50054435 Sus scrofa(ブタ)
1-17 シグナルペプチド
18-24 プロペプチド
25-263 成熟ペプチド
>gi|50054435 | ref | NP_001001911.1 | カリクレイン 1 [Sus scrofa]
MWSLVMRLALSLAGTGAAPPIQSRIIGGRECEKDSHPWQVAIYHYSSFQCGGVLVDPKWVLTAAHCKNDN
YQVWLGRHNLFENEVTAQFFGVTADFPHPGFNLSLLKNHTKADGKDYSHDLMLLRLQSPAKITDAVKVLE
LPTQEPELGSTCQASGWGSIEPGPDDFEFPDEIQCVELTLLQNTFCADAHPDKVTESMLCAGYLPGGKDT
CMGDSGGPLICNGMWQGITSWGHTPCGSANKPSIYTKLIFYLDWINDTITENP
他の実施形態には次が含まれる:
NP_002248 GI =4504875 Homo sapiens(ヒト)
1-18 シグナルペプチド
19-24 プロペプチド
25-262 成熟ペプチド
>gi | 4504875 | ref |NP_002248.1| カリクレイン 1 プレプロタンパク質 [Homo sapiens]
MWFLVLCLALSLGGTGAAPPIQSRIVGGWECEQHSQPWQAALYHFSTFQCGGILVHRQWVLTAAHCISDN YQLWLGRHNLFDDENTAQFVHVSESFPHPGFNMSLLENHTRQADEDYSHDLMLLRLTEPADTITDAVKVV
ELPTEEPEVGSTCLASGWGSIEPENFSFPDDLQCVDLKILPNDECKKAHVQKVTDFMLCVGHLEGGKDTC
VGDSGGPLMCDGVLQGVTSWGYVPCGTPNKPSVAVRVLSYVKWIEDTIAENS (配列番号2)
用語「活性断片」は全長KLK1ポリペプチドの活性を保持するKLK1ポリペプチドのより小さい部分を意味する。
【0048】
出発または参照ポリペプチドの「変異体」または「突然変異体」は、1)出発または参照ポリペプチドのアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有しかつ2)出発または参照ポリペプチドから自然または人為的(人工的)突然変異誘発を介して誘導されたポリペプチドである。かかる変異体には、例えば、目的のポリペプチドのアミノ酸配列由来の残基の欠失体、および/または前記配列中への残基の挿入体および/または前記配列内の残基の置換体が含まれる。この文脈における変異アミノ酸は、出発または参照ポリペプチド配列(出所の抗体または抗原結合断片のアミノ酸など)の対応する位置におけるアミノ酸と異なるアミノ酸を意味する。最終構築物が所望の機能的特徴を所持することを条件として、最終の変異体または突然変異体構築物に到達するために、任意の組合わせの欠失、挿入、および置換を行ってもよい。アミノ酸変化はまた、グリコシル化部位の数または位置を変えるなどのポリペプチドの翻訳後のプロセスで改変してもよい。ポリペプチドのアミノ酸配列変異体を作製する方法は米国特許第5,534,615号に記載されており、本明細書に参照により明記して組み入れられる。
【0049】
「野生型」もしくは「参照」配列、または「野生型」もしくは「参照」タンパク質/ポリペプチドは、突然変異の導入を介して変異体ポリペプチドを誘導する元となる参照配列でありうる。一般に、所与のタンパク質に対する「野生型」配列は自然で最も普通の配列である。同様に、「野生型」遺伝子配列は自然で最も普通に見出される遺伝子に対する配列である。突然変異は、自然のプロセスを介してまたは人為的に誘発させる手段を介して、「野生型」遺伝子(従って、その遺伝子がコードするタンパク質)中に導入することができる。かかるプロセスの産物が元来の「野生型」タンパク質または遺伝子の「変異体」または「突然変異体」型である。
【0050】
本明細書で同定したポリペプチドに関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列のアラインメントを行い、必要であれば、最大%配列同一性を達成するようにギャップを導入した後の、参照配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義され、その際、保存的置換は配列同一性の部分とみなさない。%アミノ酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野の様々な方法、例えば、公的に利用しうるコンピューターソフトウエア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegAlign(DNASTAR)ソフトウエアを用いて達成することができる。当業者は、アラインメントを測定するために適当なパラメーターを決定することができ、それには、比較する配列の全長にわたり最大のアラインメントを達成するために必要ないずれのアルゴリズムも含まれる。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc.(South San Francisco, California)を介して公的に入手することができる。
【0051】
本明細書の目的に対して、所与のアミノ酸配列Aの所与のアミノ酸配列Bに対する%アミノ酸配列同一性(これは、所与のアミノ酸配列Bに対するある特定の%アミノ酸配列同一性を有する所与のアミノ酸配列Aという表現であってもよい)は、
アミノ酸配列同一性=分率X/Yの100倍
[ここでXは、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムにより同一マッチとスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはBのアミノ酸残基の合計数である]によって計算される。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性はBのAに対する%アミノ酸配列同一性と等しくないであろう。
【0052】
「パーセント(%)核酸配列同一性」は、配列をアラインメントし、必要であれば、ギャップを導入して最大の%配列同一性を達成した後に、参照ポリペプチドをコードする核酸配列中のヌクレオチドと同一である候補配列中のヌクレオチドのパーセントとして定義される。パーセント核酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野である様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2またはMegAlign(DNASTAR)ソフトウエアなどの公的に入手しうるコンピューターソフトウエアを用いて達成することができる。アラインメントを測定するための適当なパラメーターは、比較される配列の全長にわたり最大のアラインメントを達成するために必要であるアルゴリズムを含めて、公知の方法により決定することができる。
【0053】
本明細書の目的に対して、所与の核酸配列Cの所与の核酸配列Dに対する%核酸配列同一性(これは、所与の核酸配列Dに対するある特定の%核酸配列同一性を有する所与の核酸配列Cという表現であってもよい)は、
%核酸配列同一性=分率W/Zの100倍
[ここでWは、そのプログラムのCとDのアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムにより同一マッチとスコアされたヌクレオチドの数であり、ZはDのヌクレオチドの合計数である]によって計算される。核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さと等しくない場合、CのDに対する%核酸配列同一性はDのCに対する%核酸配列同一性と等しくないであろう。
【0054】
用語「アミノ酸」は、その最も広い意味で使用され、天然のL α-アミノ酸または残基を含むことを意味する。通常使用される天然アミノ酸に対する1文字および3文字の略語を本明細書で使用している(Lehninger, A.L., Biochemistry, 2d ed., pp. 71-92, (1975), Worth Publishers, New York)。この用語は全てのD-アミノ酸、ならびにアミノ酸類似体などの化学修飾されたアミノ酸、タンパク質中に通常組み込まれないノルロイシンなどの天然アミノ酸、およびアミノ酸の特徴である当技術分野で公知の特性を有する化学合成された化合物を含む。例えば、天然PheまたはProと同じペプチド化合物のコンフォメーション制限を可能にするフェニルアラニンまたはプロリンの類似体または擬似体がアミノ酸の定義に含まれる。かかる類似体および擬似体は本明細書においてアミノ酸の「機能性等価体」と呼ぶ。他のアミノ酸の例は、RobertsおよびVellaccio, In: The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology, GrossおよびMeiehofer, 編, Vol. 5 p 341, Academic Press, Inc, N.Y. 1983に列挙されており、この文献は本明細書に参照により組み入れられる。
【0055】
用語「タンパク質」はペプチドより長いアミノ酸配列を有する。「ペプチド」は2〜約50個のアミノ酸残基を含有する。用語「ポリペプチド」はタンパク質およびペプチドを含む。タンパク質の例には、限定されるものでないが、抗体、酵素、レクチンおよび受容体;リポタンパク質およびリポポリペプチド;および糖タンパク質および糖ポリペプチドが含まれる。
【0056】
「融合タンパク質」および「融合ポリペプチド」は、共有結合で一緒に連結された2つの部分を有するポリペプチドであって、それらの部分がそれぞれ異なる特性を有するポリペプチドを意味する。その特性はin vitroまたはin vivo活性などの生物学的特性であってもよい。その特性はまた、標的抗原との結合、反応の触媒などの単純な化学または物理特性であってもよい。2つの部分は単一のペプチド結合により直接に、または1以上のアミノ酸残基を含有するペプチドリンカーを介して連結されていてもよい。一般に、2つの部分とリンカーはお互いにリーディングフレーム内にありうる。好ましくは、ポリペプチドのその2つの部分は異種または異なるポリペプチドから得られる。
【0057】
用語「治療上有効な量」は、被験体または哺乳動物における疾患または障害を「軽減する」または「治療する」ために有効な本発明の組成物の量を意味する。一般に、疾患または障害の軽減または治療は、疾患または障害に関連する1以上の症候群または医療上の問題を軽減することに関わる。いくつかの実施形態において、治療上有効な量は、神経脈管構造、酸素取込み、血流、プラーククリアランス、グルコース取込み、原線維の切断、プラークの崩壊、プラーク負荷、タウタンパク質リン酸化の低減およびそれらの混合症状を改善する量である。
【0058】
用語「治療」および「治療する」は、限定されるものでないが、アルツハイマー病、健忘性MCI、およびそれらの症状または症候を含むアミロイドタンパク質関連疾患を阻止し、軽減し、治癒することを意味する。「治療する」または「治療」は、治療処置と予防もしくは防止対策の両方を意味し、その目的は標的とする病理学的症状または障害を阻止するかまたは鈍化させる(低減する)ことである。治療は、本発明の少なくとも1つの化合物の治療上有効な量を投与することにより行うことができる。本明細書で使用する「治療上有効な量」には、予防量、例えば上記疾患またはその症候を軽減または治癒するために有効な量が含まれる。疾患における治療および改善の成功を評価するためのこれらのパラメーターは、医師が馴染む日常的手順によって容易に測定可能である。
【0059】
用語「神経脈管構造の改善」は、血管密度の増加または血管網を通して脳への栄養分送達の増加を意味する。当業者に公知の高解像磁気共鳴画像(MRI)の使用は、撮像した脳の3次元(3D)血管網マップの開発を可能にする。内因性血液酸素負荷レベルに依存するコントラストと外因性造影剤を使用すると、3D画像での動脈および静脈構造の可視化が可能になる(Bolanら, 2006)。治療前、治療中および治療後の血管網の比較は、治療を受けている特定のアルツハイマー病患者についての神経脈管構造の改善の評価を可能にする。「増加」は、治療前の患者における血管密度または脳への栄養分送達と比較して、治療後の患者における血管密度の増加または脳への栄養分送達の増加を意味する。
【0060】
用語「酸素取込みの改善」は酸素の脳および脳細胞への送達の増加を意味する一方、用語「血流の改善」は脳を通って循環する血液体積の増加を意味する。当技術分野で十分確立された機能性MRIの使用は、脳内の血流の可視化を可能にする(Davisら, 1998)。活性化される脳の領域は、エネルギーのためのグルコースの代謝を助ける酸素を必要とする。これは血流が大きく増加し、酸素の拡散制限が克服されて十分な量が活性脳組織へ供給されることにより達成される。この血流の増加および随伴する酸素の増加は、機能性MRIにより、内因性血液酸素負荷レベルに依存するコントラストの変化を通して検出される。このシグナルの増加が次に利用されて血流および酸素取込みおよび代謝の増加を誘導する。アルツハイマー病患者の脳における血流および酸素取込み欠乏の領域をマッピングすることにより、整合した年齢の非アルツハイマー病患者を対照として用いて、治療中および治療後に改善を評価することができる。「増加」は治療前の患者における酸素取込みまたは血流と比較して、治療後の患者における酸素取込みまたは血流の増加を意味する。
【0061】
用語「プラーククリアランスの改善」は測定可能なプラーク領域の減少を意味する。ポジトロン放出断層撮影(PET)およびプラークに対する特異性をもつ造影剤(例えば、チオフラビン誘導体、ピッツバーグ化合物B(PIB))の使用(Klunkら, 2004)は、アルツハイマー病患者の脳におけるプラーク沈着を可視化する当技術分野で公知の方法である。プラーク負荷の画像を作製することにより、治療前および整合した年齢の非アルツハイマー病対照被験者と比較して、治療結果としてのプラークのクリアランスの改善を評価することができる。
【0062】
用語「グルコース取込みの改善」は、血流からグルコースを利用する脳の能力の改善を意味する。アルツハイマー病の証明の1つは、脳細胞によるグルコース取込みおよび代謝の低下(低代謝)であり;この疾患発症マーカーはフッ素標識したグルコース造影剤による脳のPET画像(FDG-PET)の使用により確認される(Bucknerら, 2005)。整合した年齢の非アルツハイマー病対照被験者と比較する一方、治療前、治療中および治療後にこの方法によって作製した画像を比較することにより、以前にグルコース取込みの低下を示しているアルツハイマー病患者における脳領域のグルコース取込みの改善を評価することができる。
【0063】
用語「原線維の切断の改善」は原線維をタンパク質分解して消化する能力の増進を意味する。
【0064】
用語「プラークの崩壊」は原線維のタンパク質分解切断の結果を意味する。
【0065】
用語「プラーク負荷」はプラークを作る凝集した原線維の合計量を意味する。
【0066】
用語「タウタンパク質リン酸化の低減」は脳細胞内のタウタンパク質リン酸化の量の低減を意味する。
【0067】
アルツハイマー病および健忘性軽度認知障害を治療する方法
本発明は、アルツハイマー病もしくはその症候群の治療における、治療上有効な量組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。本発明のある実施形態においては、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与することができる。アルツハイマー病を治療するのに有用な化合物の例を以下にさらに詳しく考察する。治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片を、経口でまたはより好ましくは、鼻腔内に投与することができる。投与の方法を以下にさらに詳しく考察する。
【0068】
本発明はさらに、記憶、言語、視覚空間技能および問題解決などの神経症状ならびに感情鈍麻、被刺激性、不安、うつ病、妄想、幻覚、不眠症、摂食障害、精神病飢餓性衰弱、失調、または社会的後退などの心理学的症状を含むアルツハイマー病に関連する症状の治療における、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を提供する。
【0069】
アルツハイマー病はインスリンおよびシグナル伝達機構における脳特異的異常と関係がある(Lester-Collら, J. Alzheimers Dis. 2006, 9(1): 13-33 (要約のみ))。動物モデルはリン酸化タウタンパク質およびAβのレベルの増加ならびにタウタンパク質およびアミロイド前駆体タンパク質をコードする遺伝子の発現の上方調節による神経変性を示す。これらの遺伝子発現における改変は直接、インスリン、インスリン様成長因子IIおよび様々なインスリン関係受容体(インスリン受容体、インスリン様成長因子I受容体、インスリン受容体基質I、インスリン様成長因子II受容体)をコードする遺伝子の発現の低減およびインスリン受容体とのリガンド結合の低減をもたらす(Lester-Collら, 2006)。アルツハイマー病を患う患者は、しばしばインスリン異常に因る脳細胞におけるグルコース取込みおよび代謝の低下を有する。
【0070】
本発明の他の実施形態としては、患者の脳によるグルコース取込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用が挙げられる。
【0071】
アミロイドプラークの沈着はアルツハイマー病に関係する主な病理である。プラーククリアランスは、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)などの内因性プロテイナーゼによって可能であることが示されている(Yan, 2006)。
【0072】
KLK1はアミロイドチャレンジに対して保護する能力を有するので、KLK1はまたダウン症候の患者を治療する利点も有しうる。ダウン症候は染色体21の余分なコピーにより引き起こされ、ある特定のタンパク質の過剰発現を導きうる。切断されるとAβを形成するアミロイド前駆体タンパク質(APP)は染色体21上に位置し、おそらくその産生の増加はダウン症候患者におけるアルツハイマー病の早期発症に寄与する。
【0073】
KLK1は直接、繊維状アミロイドプラークを切断する。アミロイドタンパク質に関係する疾患を証明するこれらの物質を切断する能力は、アルツハイマー病、およびダウン症候におけるプラークを低減しうる。これらの繊維状アミロイドプラークの直接切断は、これらの疾患を治療し、例えばアルツハイマー病に関係する認知減退を救うことができる。
【0074】
本発明の他の実施形態は、アミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片は、原線維の切断を改善するために使用することができる。原線維のタンパク質分解性切断は、繊維状のアミロイドプラークを作る凝集した原線維の合計量の低減をもたらし、従って、患者の脳からのプラーククリアランスの改善をもたらす。
【0075】
GSK-3βキナーゼの活性は、そのタウタンパク質およびAPPのリン酸化を介するアルツハイマー病の進行における必須の因子である。タウタンパク質のリン酸化から生じるもつれの形成は神経変性に導く一方、リン酸化がアミロイドプラーク形成に導く場合、APPのAβへのプロセシングを助ける。リチウムなどの特異的インヒビターによるGSK-3βの直接阻害は、タウタンパク質リン酸化、もつれ、神経変性、およびAβへのAPPプロセシングを低減する(Biochemistry 2004 Jun 8;43(22):6899-908;Proc Natl Acad Sci USA. 2005 May 10;102(19):6990-5)。本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。
【0076】
GSK-3βの活性は通常、Aktによるセリン9リン酸化により制御される。興味深いことに、キニンによるブラジキニンB2受容体シグナル伝達経路(J Biol Chem. 2005 Mar 4;280(9):8022-30)およびNGF-アセチルコリン経路の活性化はGSK-3βリン酸化の増加に導く(J Neurosci. 1993 Sep;13(9):3956-63; Neurobiol Aging 2006 Mar; 27(3):413-22)。両方の経路は、KLK1を含む細胞外プロテアーゼにより媒介されると思われる(FEBS Lett. 1990 Jul 16;267(2):207-12; Hypertension 2006 Apr; 47(4):752-61)。
【0077】
本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。
【0078】
神経血管性機能障害がアルツハイマー病の病理と進行に寄与することは公知である。神経血管性機能障害は乏しいプラーククリアランスにより引き起こされる炎症から生じうる。
【0079】
本発明の他の実施形態は、それを必要とする患者の神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用である。さらなる実施形態において、その使用は、それを必要とする患者の血流の改善および/または脳への酸素取込みの改善を含む。
【0080】
健忘性MCIは正常な認知とアルツハイマー病に見られる痴呆との間の中間状態を表す。それ故に、当然のことながら、健忘性MCIの神経病理学的な発現はそれ自体アルツハイマー病への遷移状態を表す。特に、脳の内側側頭葉構造内のタウタンパク質もつれの優勢な発現および正常で健康な個人に見られるのとよく似たアミロイド負荷(Arch Neurol. 2006 May;63(5):665-72)が健忘性MCIにおいて見られる。このように、アルツハイマー病について記載される病理に関わる根底の機構は健忘症MCIにおいて働いており、それ故に、アルツハイマー病を治療するために用いるKLK1の同じ治療作用は、健忘性MCIおよびアルツハイマー病への進行の治療に応用することができる。
【0081】
このように、KLK1、その変異体または活性断片の投与を介してアルツハイマー病または健忘性MCIを治療する方法は、脳におけるプラーククリアランスを改善する。
【0082】
本発明の他の態様は、健忘性MCIを治療するための、治療上有効な量の組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の使用を含む。一実施形態は、経口でまたは、より好ましくは、鼻腔内に、治療上有効な量の組織カリクレインを投与することにより哺乳動物における健忘性MCIを治療する方法を含む
さらなる実施形態においては、組織カリクレインを、アルツハイマー病または健忘性MCIを治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与することができる。かる化合物の例を以下にさらに詳しく記載する。
【0083】
組織カリクレインの投与
脳における栄養物を治療するための薬物投与の伝統的な様式には、投与の経口ならびに静脈内経路が含まれる。これらの様式は常に理想的とは言えない。化合物の経口投与は、限定されたバイオアベイラビリティ(溶解度、第1パスの肝分解、血液脳関門制限)ならびに望ましくない胃腸副作用の可能性のある時間放出問題をもたらす。しかし、組織カリクレイン(KLK1)は通過でき、血液-脳関門をバイパスしてその効果を脳に生じうるようである。
【0084】
静脈内(i.v.)投与は訓練された医療専業者を必要とし、時間がかかりかつ看護システムに費用がかかる。かかる投与は患者コンプライアンス問題も生じる。静脈内投与に関係するリスクとしては、注射部位における感染ならびに患者と用量を投与する専業者の両方に対する安全問題が挙げられる。しかし、制御された環境において、静脈内投与は効果的でありうる。
【0085】
鼻腔内投与はより直接的な経路によって脳に到達できるので、医薬品を「即効性」にする。鼻腔内投与は好都合であり、静脈内投与で見られる患者コンプライアンスの問題を実質的に排除する。嗅覚上皮細胞は選択的に透過性がある。従って、KLK1などのタンパク質は通過できるので、鼻腔内経路を介して血液-脳関門をバイパスしうる。それにより、KLK1の鼻腔内投与は脳にその効果を直接生じ、それにより末梢の効果も最小限にすることができる。これは、経鼻経路の上部における嗅覚領域の関与に因る。
【0086】
鼻腔内に投与された物質が嗅覚領域でたどりうる2つの可能なルート(ニューロン内およびニューロン外)が存在する。ニューロン内ルートには、ペプチドの嗅覚のニューロン中への取込みが含まれ、この場合、ペプチドは軸索沿いに進んで血液脳関門をバイパスする。嗅覚領域上皮のユニークな細胞内間隙を通る経路はペプチドがクモ膜下空間中に拡散するのを可能にする細胞外ルートである。
【0087】
細胞外ルートは脳への速い通過時間、ニューロン内経路で関わるタンパク質分解の回避(Bornら, Nat. Neurosci. 2002, 5(6):514-6)および脳の複数部位における生体効果の迅速な誘発(Throneら, 2004)に因って、より好ましい。
【0088】
鼻腔内投与は、KLK1を所望の作用部位(脳)へ直接送達することにより、経口投与を越える利点を提供しうる。
【0089】
医薬組成物は経口でまたは鼻腔内で投与することができる。鼻腔内投与用に好適な製剤としては、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エーロゾル、オイルなどが挙げられる。溶液または懸濁液は鼻腔に通常の手段により、例えば、滴下器、ピペットまたはスプレーにより直接適用される。製剤は、単一または多用量型で提供することができる。後者の場合の滴下器またはピペットでは、溶液または懸濁液の適当な、所定の体積を患者に投与することにより達成することができる。スプレーには計量霧化スプレーポンプが含まれる。
【0090】
特に鼻腔および嗅覚領域を含む上気道へのエーロゾル投与用の製剤には、鼻腔内投与製剤が含まれる。活性成分は好適なスプレー剤とともに加圧パックに入れて提供され、前記スプレー剤としては、限定されるものでないが、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素あるいはその他の好適なガスが挙げられる。エーロゾルはまた、レシチンなどの界面活性剤を含有してもよい。薬物の用量は計量バルブによって制御することができる。あるいは 活性成分は乾燥粉末の形態で提供される。化合物の粉末混合物は、ラクトース、デンプンなどの好適な粉末基材、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体および ポリビニルピロリジン(PVP)であってもよい。粉末担体は鼻腔内でゲルを形成してもよい。粉末組成物は、限定されるものでないが、カプセルまたはカートリッジ(例えば、吸入器の手段により、粉末を投与することができるゼラチンまたはブリスターパック)を含む単位用量形態で提示することができる。
【0091】
経口投与は、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセル、経口崩壊錠およびシロップの経腸投与を含む。
【0092】
「有効量」または「治療上有効な量」は無毒であるが、所望の効果を提供するのに十分な薬物または薬剤の量を意味する。併用療法においては、組合わせの一成分の「有効量」は、組合わせの他成分と併用するときに所望の効果を提供するのに有効な化合物の量である。「有効」である量は被験者ごとに、個人の年齢および一般症状、特定の活性薬などに応じて変化しうる。任意の個々の事例における適当な「有効」量は、日常的な実験を利用して決定することができる。
【0093】
以上に同定した疾患またはその症候群を治療するための本発明の化合物の治療上有効な量を、その疾患またはその症候の発症前に、発症と同時に、または発症後に投与することができる。
【0094】
本発明の化合物は、その疾患またはその症候の発症と同時に投与することができる。本明細書で使用する「同時投与」および「同時に投与する」には、本発明のポリペプチドと他の治療薬を、混合物で、例えば、医薬組成物でもしくは溶液で、または別々に、例えば、別々の医薬組成物または溶液を引き続いて、同時に、または異なる時間であるが、本発明の化合物と他の治療薬が相互作用できないおよびさらに低い用量の活性成分が投与できないほど離れていない時間に投与することが含まれる。
【0095】
本発明の他の態様は、アルツハイマー病を治療するのに有用なさらなる治療化合物を同時に投与するステップをさらに含んでなる、本明細書に記載の方法を含む。アルツハイマー病の治療化合物には、限定されるものでないが、アセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック(Massaら, J. MoI. Neurosci. 2002, 19: 107-111)、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト(例えばキサリプローデン)、抗アミロイド形成薬(例えばトラミプロセート(Alzemed(登録商標)))、抗ヒスタミン(例えばディメボン(登録商標))、エルゴロイドメシラート(ヒデルジン(登録商標))、イチョウ、およびフペラジンAが含まれる。かかる化合物はまた、健忘性MCIを治療するのにも有用である。
【0096】
本発明のさらなる態様は、コリンであってもよいアセチルコリン前駆体、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンを含む。
【0097】
アセチルコリン放出を増進する化合物は、限定されるものでないが、4-アミノピリジンンまたはリノピリジンを含む。
【0098】
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)インヒビターは、限定されるものでないが、フィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、ガラクタミン(RAZAD YNE(登録商標))、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンを含む。
【0099】
ムスカリンアゴニストは、限定されるものでないが、ミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンを含む。
【0100】
酸化防止剤は、限定されるものでないが、ビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCを含む。
【0101】
抗炎症薬は非ステロイド抗炎症薬を含む。
【0102】
ホルモンは、限定されるものでないが、エストロゲンまたはテストステロンを含む。
【0103】
向知性薬は、限定されるものでないが、ピラセタム、アニラセタム、フォスラセタム、ネフィラセタム、プラミラセタム、ネブラセタム、およびオキシラセタムを含む。
【0104】
NMDA受容体アンタゴニストは、限定されるものでないが、メマチン;ケタミン;MK-801;L-701,324;L-689,560;GV196771A;2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(AP5);(R)-CPP-エン;および(2S*,3R*)-l-(ビフェニル-4-カルボニル)ピペラジン-2,3-ジカルボン酸(PBPD)を含む。
【0105】
「治療」および「治療する」は、哺乳動物の器官および組織を冒す、疾患および関係する症候群を予防し、阻止し、および/または軽減しならびに疾患症状または症候群を治癒することを意味する。本発明の組成物の治療上有効な量を、任意の記載した症状が起こる前に、間に、および後に患者へ投与することができる。
【0106】
医薬組成物
本発明は、アルツハイマー病、健忘性MCIおよびそれらの症候群の治療において経口および鼻腔内投与するのに好適な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を含む医薬組成物を提供する。
【0107】
一態様において、本発明は、1投薬頻度当たり約0.001〜約1000国際単位(IU)の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、経口投与用に製剤された医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.001〜100 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.001〜10 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.01〜10 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.01〜1 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の鼻腔内用量は約0.1〜1 IUであってもよい。
【0108】
他の態様において、本発明は、1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物を提供する。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.001〜500 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.001〜50 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.01〜50 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.01〜5 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.1〜5 IUであってもよい。組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の経口用量は約0.1〜1 IUであってもよい。
【0109】
医薬組成物は、アルツハイマー病または以上考察した健忘性MCIを治療するのに有用な第2の治療化合物をさらに含んでもよい。
【0110】
本発明の医薬組成物は、経口でまたは鼻腔内に投与する製剤を含む。鼻腔内投与用に好適な製剤としては、粉末、顆粒、溶液、滴剤、軟膏、クリーム、ローション、ペースト、ゲル、スプレー、エーロゾル、オイルなどが挙げられる。本発明の溶液または懸濁液は鼻腔に通常の手段により、例えば、滴下器、ピペットまたはスプレーにより直接適用される。製剤は、単一または多用量型で提供することができる。溶液は無菌で、等張性で、または低張性で、その他に、注射または他の手段による投与に好適であってもよく、そして適当なアジュバント、バッファー、保存剤および塩を含有してもよい。点鼻剤などの溶液は酸化防止剤、バッファーなどを含有してもよい。医薬組成物の粉末または顆粒形態を溶液と、および希釈剤、分散剤および/または表面活性剤と組合わせてもよい。
【0111】
エーロゾル投与用の製剤は鼻腔内投与用に設計した製剤を含む。活性成分は好適なスプレー剤とともに加圧パックに入れて提供することができ、前記スプレー剤としては、クロロフルオロカーボン(CFC)、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、もしくはジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素あるいはその他の好適なガスが挙げられる。エーロゾルはまた、レシチンなどの界面活性剤を含有してもよい。薬物の用量は計量バルブによって制御することができる。あるいは、活性成分を乾燥粉末の形態で提供し、例えば、化合物の粉末混合物は、ラクトース、デンプンなどの好適な粉末基材、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのデンプン誘導体および ポリビニルピロリジン(PVP)であってもよい。粉末担体は鼻腔内でゲルを形成してもよい。粉末組成物は例えば、例えばゼラチンのカプセルもしくはカートリッジ、またはデバイスを用いてそれから粉末を投与できるブリスターパックに入れた単位用量形態で提示することができる。
【0112】
鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物は、約0.001〜約5000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。経口投与用に好適な製剤としては、液剤、丸薬、溶液、錠剤、徐放カプセル、腸溶カプセルまたはシロップが挙げられる。経口投与用に製剤された医薬組成物は、約0.001〜約1000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。ある実施形態において、経口投与用に製剤された医薬組成物は、少なくとも約1.0μg/mlのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては、さらに製薬上許容される賦形剤を含む。組成物は、少なくとも約2.0μg/ml、2.5μg/ml、5μg/ml、7.5μg/ml、または10μg/mlのKLK1、またはその変異体または活性断片を含むことができる。
【0113】
鼻腔内投与用に有用な医薬組成物とその使用
本発明の一態様は、約0.001〜約5000 IUのKLK1、またはその変異体もしくは活性断片を含み、場合によっては製薬上許容される賦形剤を含む、鼻腔内投与用に製剤された組成物を含むものである。
【0114】
組成物を、ヒトまたは他の哺乳動物の鼻腔へ、嗅覚神経経路を経て脳の疾患領域へ投与することができる。本方法はKLK1を脳の疾患ニューロンへ輸送することができる医薬組成物を使用する。
【0115】
本発明の方法は、経ニューロン逆行性輸送機構を介して化合物を脳の患部へ送達することができる。この輸送系により神経薬の脳への送達はいくつかの方法で達成することができる。1つの技法は、神経薬だけを鼻腔に送達するステップを含んでなる。この場合、KLK1の化学的特徴は脳の疾患ニューロンへのその送達を容易にすることができる。嗅覚神経経路の末梢神経細胞を、嗅覚球に接続されている脳領域の傷害性ニューロンへKLK1を送達するために利用することができる。
【0116】
KLK1を鼻腔へ単独で、またはアルツハイマー病を治療するのに有用な第2の治療化合物と組合わせて投与することができる。KLK1を担体および/または他のアジュバントと組合わせて医薬組成物を形成させる。潜在的アジュバントとしては、限定されるものでないが、GM-1、ホスファチジルセリン(PS)、およびポリソルベート80などの乳濁化剤が挙げられる。さらなる補充物としては、限定されるものでないが、親油性物質、例えば、ガングリオシドおよびホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。
【0117】
本発明の方法はKLK1を哺乳動物の鼻腔へ送達する。KLK1を上方第3鼻腔の嗅覚領域、特に嗅覚上皮に送達して、呼吸器上皮内毛細血管よりむしろ末梢嗅覚ニューロン中へのこの作用薬の輸送を促進することが好ましい。それにより、KLK1は神経系を用いて脳および脳内の傷害ニューロンへ輸送される。
【0118】
本発明の一実施形態においては、KLK1を親油性物質から成るミセルと組合わせることができる。かかるミセルは鼻膜の透過性を改変して作用薬の吸収を促進することができる。親油性ミセルには、ガングリオシド、特にGM-1ガングリオシド、およびホスファチジルセリン(PS)が含まれる。
【0119】
KLK1が嗅覚上皮を通過すると、本発明はさらに嗅覚神経経路に沿ってKLK1の輸送を提供する。KLK1は嗅覚系内を移動することができる。特に、神経栄養物質および神経突起生成物質は神経細胞膜中への組込むことができかつ神経細胞受容体部位に対するアフィニティを有することが示されている。
【0120】
KLK1を嗅覚のニューロンへ送達するために、KLK1を単独でまたは医薬組成物のような他の物質と組合わせて上方第3の鼻腔に位置する嗅覚領域へ投与することができる。組成物を鼻腔内に粉末または液体の鼻スプレー、点鼻剤、ゲルまたは軟膏として、チューブまたはカテーテルを介して、注射器により、パックテール(pack tail)により、綿球により、または粘膜下注入により投薬することができる。
【0121】
鼻腔内投与用の医薬組成物は、粉末、顆粒、溶液、軟膏、クリーム、エーロゾル、粉末、または滴剤として製剤することができる。溶液は無菌、等張性、または低張性であっても、その他に、注射または他の手段による投与に好適であってもよい。KLK1に加えて、溶液は適当なアジュバント、バッファー、保存剤および塩を含有してもよい。医薬組成物の粉末または顆粒形態を、溶液とならびに、希釈剤、分散剤および/または表面活性剤と組合わせてもよい。点鼻剤などの溶液は酸化防止剤、バッファーなどを含有してもよい。
【0122】
嗅覚系は、外部環境と脳の間の直接結合を提供し、従って、アルツハイマー病 および 健忘性軽度認知障害を治療するためのKLK1の迅速かつ即時の送達を提供する。さらに、医薬組成物を鼻腔内に適用する手段は、粉末、スプレー、または点鼻剤などの静脈内または筋肉内注射を不要としかつ治療薬の投与を簡略化する、様々な形態であってよい。
【0123】
本発明を、様々な好ましい実施形態および技法を参照して説明しよう。しかし、多くの変化と改変がなされうるものの、本発明の精神と範囲内に留まることは理解されなければならない。
【実施例】
【0124】
(実施例1)In vitroアミロイドタンパク質切断アッセイ
原線維の調製
合成ヒトアミロイドタンパク質Aβ1-42またはAβ1-40をジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma, St. Louis, MO)に溶解して5mMの濃度とし、次いでこれを使用直前にMilliQ(登録商標)に希釈して25mMの最終濃度とした。アミロイド原線維(fAβ)を調製するために、DMSO中の5mM Aβ1-42またはAβ1-40を10mM HClに希釈して100μM(Aβ1-42について)または200mM(Aβ1-40について)とし、30秒間攪拌し、37℃で5日間インキュベートした。
【0125】
原線維の消化:
KLK1(Sigma)を用いて、次のバッファー:ECE、0.1M MES、0.1M NaCl(pH 6.0);IDE、50mM Tris、1M NaCl(pH 7.5);NEP、0.1M MES(pH6.5);およびMMP-9、50mM Tris-HCl(pH7.5)、10mM CaCl2、150mM NaCl、0.05% Brij 35中で消化反応を行った。これを37℃で4時間〜5日間インキュベートした。消化後、その反応物を質量分析計により分析した。
【0126】
原線維切断の分析:
サンプルを50mMグリシン(pH 9.2)/2mMチオフラビンT(ThT)(Sigma)に最終体積2mlまで加えた。蛍光を分光計によりそれぞれ435および485nmの励起および放出波長にて測定した。分析は、KLK1がアミロイド原線維(図1)および可溶アミロイドオリゴマー(図2)を切断することを示した。図1において、パネルAはAβ単独を示し、ここではアミロイド原線維の大きい凝集塊が存在し、小断片は見られなかった。パネルBはKLK1単独を示し、ここでは有意に小さいペプチド断片は存在しなかった。しかし、パネルCでは、切断の徴候を示す明確なピークが約2423 M/Z(質量対荷電比)に存在する。図2において、パネルAは可溶アミロイドが約 4000〜5000 M/Zの間で可視ピークを有することを示す。パネルBでは、KLK1を可溶アミロイドに加えた場合、可視ピークは存在しない。これはKLK1が可溶アミロイドをさらに小さい断片に切断したことを示す。この結果は、KLK1がアミロイドの原線維および可溶型を切断することを示し、KLK1が原線維プラークおよび可溶アミロイドに関係する疾患を治療するのに有用であることを示唆する。
【0127】
(実施例2)ラット混合皮質培養中のAβ1-42毒性に与える、組織カリクレインの効果
組織カリクレインによる前処理がラット混合皮質培養をヒトアミロイドβペプチド(Aβ1-42)への曝露に対して保護するかどうかを研究した。細胞死をLDH放出(壊死の徴候)により分析し、細胞生存をニューロン細胞数により分析した。第1部(研究アームA)においては、細胞にAβ1-42侵襲の前(-24 hおよび-30 min)に、組織カリクレインを単独で加えた。しかし、第2部(研究アームB)においては、細胞にAβ1-42侵襲の前(-30 min)におよびAβ1-42侵襲の後(+24 h)にも加えた。+24 h時点に、細胞培地を取り換えなかった(組織カリクレインまたは対応する量のビヒクルをウエルに加えた)、しかし-24 hおよび-30 min時点に細胞培地を取り換えた。
【0128】
方法
RNAC細胞培養
混合皮質培養はE18 Wistarラット胎仔(National Animal Center、Kuopio、Finland)から調製した。皮質を解剖し、組織を小片に切断した。細胞をDNaseおよびパパインとの15分間インキュベーションにより分離した。細胞を遠心分離(1500 rpm、5分間)により採集した。組織をピペットを用いて摺り潰し、細胞を、ポリ-L-リシンをコートした48-ウエルプレート上に、300,000細胞/cm2で、2mMグルタミン、0.1μg/mlゲンタマイシン、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS-HI)および10%熱不活性化ウマ血清(HS-HI)を補充したMEM(グルコース2g/L)中にプレーティングした。3〜4時間後、培地を2mMグルタミン、0.1μg/mlゲンタマイシン、5%HS-HIを補充したMEM(2g/L グルコース)に取り換えた。in vitroで3日後、グルタミン、ゲンタマイシン、および5%の両方の血清を補充したMEM(2g/L グルコース)を含有する培地を、細胞に対して、取り換えた。in vitroで第6日に、シトシンアラビノシド(10μM最終濃度)を24時間加えることにより、欲しない細胞分裂を阻止した。培養にグルタミン、ゲンタマイシン、および5%HS-HIを補充したMEM(2g/Lグルコース)を再供給した後、実験を行った。
【0129】
Aβ1-42曝露
組織カリクレイン(配列番号1)をグルコース、グルタミン、ゲンタマイシン、および5%HS-HIを補充したMEMに溶解し、さらに希釈した。全ニューロン死に対する対照として300μMN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA) 48時間を使い、そして10μM Aβ1-42 48時間を使ってほぼ30〜50%の細胞死を誘発した。培地だけで処理したウエルを0対照とした。10μM Aβ1-42(最終濃度)を加える前、-24 hおよび-30 minに、組織カリクレインまたはビヒクルを細胞にピペットで加えた。曝露後、+24 hに、組織カリクレインまたはビヒクルをふたたび細胞にピペットで加えた。
【0130】
LDH測定
48時間後、全てのウエルの培地を採集し、含有しうる細胞砕片を遠心分離(13,000 rpm、3分間)により除去した。100μlアリコートを複製としてマイクロタイタープレート中にピペットで加え、等量のLDH試薬をそのウエルにピペットで加えた。340nmにおける吸収を、3分間動力学測定プロトコルを用いてMultiskan ELISAリーダー(Labsystems、Finland)で直ぐに測定した。吸収/分(min)の変化を決定したが、これは放出されるLDHと正比例した。残りの上清(50μl)をドライアイス中で即座に冷凍して貯蔵した。
【0131】
ニューロン生存についての免疫細胞化学
ニューロン計数については、培養を、0.01M PBS中の4%パラフォルムアルデヒドを用いて30分間固定し、PBSを用いて2回洗浄した。固定した細胞を最初に透過化処理し、1%ウシ血清アルブミンおよび0.3%Triton(登録商標)X-100をPBS中に含有するブロックバッファーとの30分間インキュベーションによって非特異的結合をブロックした。抗ニューロン核抗体(抗NeuN、1:500希釈物、Chemicon、Temecula、CA)を一次抗体として用いた。細胞を一次抗体と48時間インキュベートし、次いでビオチン化した二次抗体(1:200、VectorLabs)と2時間、およびアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABC-試薬、1:200、ベクターABC Eliteキット、Vector Labs)と2時間インキュベートした。陽性細胞を、基質としてNi増進したDAB(DAB基質キット、Vector Labs)を用いて可視化した。光顕微鏡を用いてNeuN免疫陽性ニューロンの計数を行った。また、各ウエルの2つのフィールドの計数を行った。その結果を%可視ニューロンとして示した。
【0132】
データ解析
使用した化合物濃度当たりのウエルの数は6個であった(n=6)。両方の研究アームにおいて、組織カリクレインの5レベルの濃度(0.001、0.01、0.1、1、10μg/ml)を研究した。統計分析はStatsDirect統計ソフトウエアを用いて実施した。その値を一元配置のANOVAにより分析し、ダネットの検定(ビヒクル処置グループとの比較)を行った。結果を平均±標準偏差(SD)で示したが、差はP<0.05レベルで統計的に有意であるとみなされた。
【0133】
結果
組織カリクレインの結果(研究アームA)
組織カリクレインは、Aβ1-42侵襲の前、-24 hおよび-30 minに、単独で細胞に加えた(10μM最終濃度)。-24hおよび-30min時点に細胞培地を取り換えた。NMDA対照により誘発された100%LDH放出と比較すると、組織カリクレインの非存在におけるAβ1-42侵襲は、39.14% LDH放出をもたらした。組織カリクレインは0.001μg/ml、0.01μg/ml、0.1μg/ml、および1,0 μg/mlの濃度においてAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えかった(図3)。しかし、10μg/ml組織カリクレインは有意にLDH放出を低下した。同様に、低濃度の組織カリクレインはAβ1-42侵襲後の細胞数(生存)に影響を与えなかった(図4)。組織カリクレインは1.0μg/mlおよび10μg/mlにおいて保護を与え、その場合、Aβ1-42により侵襲をしてかつ組織カリクレインなしでチャレンジしたRMCCと比較して、RMCC数が増加した。10μg/mlにより提供される保護は統計的に有意であった。
【0134】
(研究アームB)
組織カリクレインを、Aβ1-42(10μM最終濃度)侵襲前(-30min)および後(+24h)に細胞に加えた。+24h時点に細胞培地を取り換えなかった(組織カリクレインまたは対応する量のビヒクルをウエルに加えた)が、-30min時点に細胞培地を取り換えた。NMDA対照により誘発された100% LDH放出と比較すると、組織カリクレインの非存在でのAβ1-42侵襲は43.87% LDH放出をもたらした。組織カリクレインは0.001μg/ml、0.01μg/ml、および0.1μg/mllの濃度においてAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えかった(図5)。しかし、1.0μg/mlおよび10μg/ml組織カリクレインはLDH 放出を低下し、組織カリクレインの10μg/ml投与は統計的に有意なLDH放出の低下を生じた。同様に、低濃度の組織カリクレインはAβ1-42後の細胞数(生存)に影響を与えなかった(図6)。細胞数の増加は、Aβ1-42侵襲をしてかつ組織カリクレインなしでチャレンジしたRMCCと比較して、1.0μg/mlおよび10μg/mlの組織カリクレインをRMCCに適用した時に、見ることができる。10μg/mlにより提供される保護は統計的に有意であった。
【0135】
総括
組織カリクレインは10μg/mlで、LDH放出およびニューロン細胞計数の両方により測定した両方の組織カリクレイン投与スキーム(上記研究アームAおよび研究アームB)におけるAβ1-42誘発性ニューロン死を減少する(両方の試験で統計的に有意である)。これらの結果は、組織カリクレインによる前処理(-24hおよび-30minにおける)ならびに組合わせた前処理(-30min)と後処理(+24h)がラット皮質培養をAβ1-42誘導性細胞死に対して保護することを示唆する。
【0136】
(実施例3)異なる処理アームを用いる、ラット混合皮質培養中のAβ1-42毒性に与える、10μg/mlの組織カリクレインの効果
ラット混合皮質培養(RMCC)中のAβ1-42毒性に与える10μg/mlカリクレインの効果も試験した。カリクレインの効果を試験するために用いた方法は、実施例2で組織カリクレインを試験するために用いた方法と同じで、カリクレイン (10 μg/ml)のRMCCに対する3つの異なるスキーム:研究アームA)Aβ1-42侵襲前24hおよび30min;研究アームB)Aβ1-42侵襲前30minおよびまた後24h、ならびに研究アームC)Aβ1-42侵襲前24hおよび30minならびにまた後24hを試験した。結果を図7に示した。10μg/mlのカリクレインによるRMCCの処理はAβ1-42侵襲からの保護を提供し、これは全ての3つの処理アームにおいて統計的に有意なLDH放出の低下によって見られた。これらの結果は、固定濃度の組織カリクレイン(10μg/ml)による前処理(-24hおよび-30minにおける)、前処理(-30min)と後処理(+24h)の組合わせ、および前処理(-24hおよびat-30min)と後処理(+24H)の組合わせが、Aβ1-42誘導性細胞死に対してラット皮質培養を保護することを示唆する。
【0137】
(実施例4)ラット混合皮質培養におけるAβ1-42毒性に与える、カリジン(1nM〜100nM)の効果
ラット混合皮質培養(RMCC)におけるAβ1-42毒性に与える、カリジンの効果も試験した。カリジンの効果を試験するために用いた方法は実施例2で組織カリクレインを試験するために用いたのと同じ方法であった。3つの異なるカリジンのRMCCへの投与スキーム:研究アームA)Aβ1-42侵襲前24hおよび30min、研究アームB)Aβ1-42侵襲前30minおよびまた侵襲後24h、ならびに研究アームC)Aβ1-42侵襲前24hおよび30minおよびまたAβ1-42侵襲後24hを試験した。研究アームA、B、またはCにおいて、カリジンによるRMCCの処理(1nM、5nM、1OnM、5OnM、および10OnM)はAβ1-42侵襲後のLDH放出を変えなかった(図8〜10)また、Aβ1-42侵襲後の細胞(生存)数に影響を与えなかった(図11〜13)。これは直感に反する、何故なら、カリジンはブラジキニンB2受容体を活性化して、アミロイドを切断できるMMP-9の発現の増加に導くからである。カリジン投与によるMMP-9の増加はアミロイド切断の増加を導いてAβ1-42侵襲誘導性細胞死から保護すると仮定し得た。
【0138】
(実施例5)ラット混合皮質培養におけるAβ1-42毒性に与える、カリジン(1μM〜100μM)の効果
ラット混合皮質培養(RMCC)中のAβ1-42毒性に与えるカリジンの効果を、実施例4の方法と研究アームに従って再試験した。研究アームA、B、およびCの結果を図14〜16に示した。lμMおよび10μMのカリジンによるRMCCの処理は、Aβ1-42侵襲後の研究アームA、B、またはCのLDH放出を変えなかった。しかし、むしろ意外にも、100μMのカリジンによるRMCCの処理は、Aβ1-42侵襲単独と比較して、Aβ1-42侵襲後の細胞死を有意に増強し、この濃度でカリジンがRMCCに毒性であることを示唆した。これは直感に反する、何故なら、カリジンはブラジキニンB2受容体を活性化して、アミロイドを切断できるMMP-9の発現の増加に導くからである。カリジン投与によるMMP-9の増加はアミロイド切断の増加を導いてAβ1-42侵襲誘導性細胞死から保護すると仮定し得た。
【0139】
(実施例6)鼻腔内組織カリクレインの薬物動態学的研究
本研究の目的は、麻酔したラットへの鼻腔内投与後に、中枢神経系および末梢組織に到達する組織カリクレイン(KLK1)の量を定量することであった。KLK1投与後30分に、動物を氷冷生理食塩水を用いて経心灌流し、次いでパラフォルムアルデヒドで固定して組織を解剖した。各組織サンプル中の放射標識したKLK1の量をγカウント測定により定量し、組織重と投与溶液の標準のγカウント測定値を用いて組織濃度を計算した。
【0140】
動物
成熟雄Sprague Dawley)ラット(n = 10、平均335.4g±4.57g SE)をこの研究に用いた。動物は、地域病院動物管理施設(the Regions Hospital Animal Care Facility)においてグループ分けして飼育し、食餌および水にはフリーアクセスとした。動物は、12時間光サイクルに保持した。全ての実験手順は、地域病院の動物管理使用委員会(the Animal Care and Use Committee at Regions Hospital)によりIACUCプロトコル番号08-022のもとで認可されたものであった。
【0141】
製剤
組織カリクレインをPerkin-Elmerへ送って125I標識付けをした(Quote NEX-084、lot C1541583)。Sigmaからの非標識KLK1(カタログ番号K3627-lKU、ロット番号018K1441)も使用した。非標識KLK1を1 X PBS(10 X PBS、Sigma、カタログ番号P5493、ロット番号027K8405を無菌水に希釈したもの)中に溶解した。平均用量は48.1μL、75μCi、および2.6mgであった。
【0142】
麻酔
a. 麻酔前に、各ラットを秤量した。
【0143】
b. 麻酔カクテルを調製し、全、半、および四分の一麻酔用量を動物重量によって計算し、全用量が30mg/kgケタミン、6mg/kgキシラジン、および1mg/kgアセプロマジンを含有するようにした。
【0144】
c. 25Gまたは27Gと適合した1-cc 注射器 、1/2インチ針を組立てて全用量を注射用の注射器中に吸引した。
【0145】
d. ラットを次のようにタオルで拘束した。 ラットを腹側を下にしてハンドタオルの中央に置いた。次いでタオルで頭と肩の周りを包んで拘束した。包まれた動物を腹側を下にしたままで、左後肢の位置を確かめた。
【0146】
e. 左後肢を側面に引張り出し、針を丁度大腿上の皮膚の下(皮下)に挿入した。針が皮下にある(かつ筋肉内でない)ことを確認した後に、全用量を注射した。ラットを保持籠に置いて、注射時間を記録した。動物は5分以内に降ろすべきこと。
【0147】
f. 麻酔は、全過程を通して、後足または尾をはじいて反射を確かめることによりモニターした。もし反射があれば、半または四分の一用量の追加麻酔を必要に応じて投与した。
【0148】
g. 薬物投与中、最初の用量後、大まかに20〜25分に、動物は半用量の追加麻酔を受けた。
【0149】
125I-KLK1の鼻腔内送達
a. 麻酔ラットを、金属外科トレイ内の加熱パッド上にその背を下にして置いた。加熱パッドをサーモスタットに接続し、直腸プローブからの連続測定値に基づいて37℃に維持するように自動制御した。
【0150】
b. 2" x 2"ガーゼパッドをしっかりと巻いて枕とし、一緒に、首下でテープ留めして、カウンターと水平な正しい首位置を維持した。
【0151】
c. 照射に対する保護のために、鉛を含浸したシールドを外科トレイと実験者の間に置いた。用量溶液、ピペット、ピペットチップ、および廃棄物受器をシールドの後に配置して容易に取り扱えるようにした。
【0152】
d. 6μL滴剤をシールドの後のピペット中に装填した。
【0153】
e. パラフィンでカバーした綿棒を用いて1つの外鼻孔を完全に閉鎖する(綿棒の平滑な部分を静かに外鼻孔に押し込んで気流を阻止する)一方、6μL滴剤をピペットからゆっくりと押し出し(ラットの正中線から45°角度に保って)、ピペットチップ上に液滴を形成させた。その液滴を開放した外鼻孔上に降ろして吸入させる。
【0154】
f. 2分間後に、かわりの外鼻孔を閉鎖し、6μL滴剤を同じ様式で投与した。
【0155】
g. 2分間毎に、交互の外鼻孔へ1滴を上記の通り、8滴(各外鼻孔へ4滴づつ)全てを送達するまで14分間にわたって投与した。
【0156】
h. 各液滴の送達時刻、ならびに動物の呼吸または送達の成否について詳細を記録した。
【0157】
各投薬溶液の3つの3μLアリコートをγカウントし、測定された比活性を確認した。
【0158】
経心潅流
a. 所望の終点時刻前2分に、麻酔した動物を金属外科トレイ内に背を下にして平たく置いた。加熱パッド、直腸プローブ、および首枕を取り除いた。テープを用いて前肢をパン上に固定した。パンの背をわずかの持ち上げて血液が動物から流れ去るようにした。
【0159】
b. 皮膚を切って胸骨を曝した。胸骨を止血鉗子ではさみ、肋骨郭を側方に切り開いて横隔膜を曝した。
【0160】
c. 横隔膜を側方に切断して胸膜腔を曝した。
【0161】
d. 外科用鋏を用いて肋骨郭の側部を動物の腋窩へ向かって切り上げ、「V」形の切開部を作って心臓を曝した。
【0162】
e. 胸骨を保持する止血鉗子を頭部の上でテープ止めし、腔を開放して保持した。
【0163】
f. ブラント鉗子を用いて心臓を安定化するとともに、左心室中へ小カットを行った。
【0164】
18Gの1cc-注射器、1"ブラント針を左心室中に挿入して、およそ0.1mLの血液を取出し、予め秤量したチューブ中に移してγカウントを行った。
【0165】
g. 拡張セットに添付された第2の18Gブラント針に60ccの生理食塩水を満たし、これを左心室を通って大動脈中に挿入した。
【0166】
h. 大きいブルドッグ鉗子を大動脈上の心臓のちょうど上に置いて、ブラント針を固定した。
【0167】
i. 注射器ポンプを15mL/minの流量で用いて、動物に60mLの生理食塩水、次いで360mLのパラフォルムアルデヒドを潅流した。
【0168】
脳解剖
a. 実験手順全体にわたって、動物組織、外科道具、および設備の放射性汚染を防止するために、厳重な注意を払った。ガイガー計数管を各作業場に配置し、連続的に道具、作業空間およびスタッフをスクリーニングした。二層手袋、実験コート、保護メガネ、マスクおよび保護キャップを含む個人保護着を常時着用した。鉛含浸したシールドを用いて照射への曝露を最小限にした。スタッフは実験中、放射性モニタリングバッジも常時着用し、曝露を定量した。
【0169】
b. 各組織サンプルは採集した後、予め標識しかつ予め秤量したγチューブ中に入れて、後に測定した。
【0170】
c. 頭を取り除くために、首周りの皮膚および筋肉をちょうど肩甲骨の上でメスにより切断し、一対の大きいハサミを用いて動物を断頭し、背側から腹側へ切断して気管および食道からの汚染を回避した。
【0171】
d. 脳を曝すために、正中線切開を頭蓋の背側で行い、次いで皮膚を剥ぎとり、真直ぐな止血鉗子を用いて、背側硬膜が付着したまま残るように注意しながら、骨を切断した。
【0172】
e. 背側硬膜を採集した。
【0173】
f. 脳を頭蓋から取り外すために、頭を逆転して小スパチュラを用いて腔から分離した。後側の視神経および三叉神経を脳の近くで切断した。次いで脳を解剖するために清浄なペトリ皿中に移した。腹側の頭蓋壁上をピンセットで掻き取ることにより、頭蓋の基部から、腹側の硬膜を採集した。下垂体、視交差、および三叉神経を採集した。三叉神経の前側部分は頭蓋中の可視分枝の前の部分から成る一方、三叉神経節を含有する残部は後側セクションと考えられた。頭を次いで側において、後の解剖のために、キムワイプで覆った。
【0174】
h. 外科ピンセット、ミクロはさみ、および30 G針を用いて、脳底動脈およびウィルス輪(circle of Willis)を取り出して、予め秤量したペーパー(ペーパーを用いたのは、この組織の重量が小さいからである)上に置いた。針を用いて血管を持ち上げて脳から取り去り、ピンセットでつかみ、ミクロはさみで切片を作った。この組織を採集すると直ぐ秤量し、次いで全ペーパーをもみくちゃにして、チューブの底に置いた
i. 脳を冠状基質中に置く前に、嗅覚球をかみそりの刃を用いて自然の角度で切り取った。
【0175】
j. 冠状脳基質において、視交差を除去する前に、かみそりの刃をその中央に挿入し、各動物を同じ位置に基準化した(十字縫合)。第1の刃から2mm毎にさらなる刃を入れて、6 x 2mmスライス(3つは視交差の頭側へおよび3つは尾側へ)を得た。
【0176】
k. 刃を取除いて、組織を各スライス(1〜6)から解剖した。各スライスからの残りの脳組織も解剖した。
【0177】
l. 皮質および海馬の残りのセクションを基質中の残りの脳組織から解剖し、それぞれのチューブ中に置いた。
【0178】
m. 上方の頚部脊髄を採集した。
【0179】
n. 次いで残りの脳を正中性に沿って二分し、中脳、脳橋、髄質、および 小脳に解剖した。
【0180】
o. 頭部に戻って、首の腹側を前側に切断し、皮膚を剥ぎ取ってリンパ節、唾液腺、および首筋肉を曝した。
【0181】
p. 表面結節、深頚部結節、頸動脈、および甲状腺を解剖し、結合組織を取り除いた。
【0182】
q. かみそりの刃を用いて頭蓋を正中線沿いに二分した。嗅覚上皮および呼吸器上皮を採集した。
【0183】
身体解剖
a. 採集後直ぐに、各組織サンプルを予め標識しかつ予め秤量したγチューブに入れて、その後の測定に備えた。
【0184】
a. 身体をその背を下にして置き、メスを使って長軸方向にカットし、腹膜腔を下方に膀胱まで開いた。
【0185】
b. 肝臓(表面の右葉)、腎臓(左、先端部)、腎動脈、脾臓(先端部)、肺(右、頂葉)、および心臓の3mm平方サンプルを採集した。
【0186】
c. およそ0.1〜0.2mLの尿を採集した。
【0187】
d. 身体の胃の上を全体にはじき、そして表面切開を動物の長さ方向に肩部から臀部へ脊髄に沿って行った。皮膚を両側の下に横たわる組織から剥ぎ取って肩甲骨を曝した。
【0188】
e. 腋窩の腋結節を解剖し、結合組織を取り除いた。
【0189】
f. 右三角筋の一片を採集した(ほぼ3 mm2)。
【0190】
g. 脊椎上に重なる筋肉にメスで刻み目を入れた。脊髄を曝すために、小止血鉗子を脊柱中に挿入し、上に重なる椎骨および組織を取り去った。小スパチュラを用いて脊髄腔から脊髄をゆるめ、ピンセットを用いてこれを取出してペトリ皿中に置いた。硬膜を脊髄からピンセットを用いて剥ぎ取った。脊髄を低頚部、胸部、および腰部に解剖した。低頚部セグメントの頂部のほぼ2mmは廃棄した。
【0191】
h. 気管および食道の2cmセグメントを身体および結合組織から解剖して取り出した。それぞれの頂部0.5cm(断頭点の最も近い部分)は廃棄した。
【0192】
組織のカウント測定
サンプルを含有する予め秤量したγチューブを再秤量して組織重を測定した。全てのラットからのサンプルを、COBRA II自動ガンマカウンター(標準125Iプロトコル、カウント時間5分、エレベーター位置1)を用いてカウント測定した。カウンターは毎週規準化して80%超のカウント測定効率を確実にした。全てのラットについて、バックグラウンドプロトコルを実施し、平均測定バックグラウンドカウントをガンマカウンターによって測定したカウントから自動的に差し引いた。
【0193】
データ分析と計算
各組織サンプルのnM濃度の平均と標準誤差を計算した。各組織に対する平均の2標準偏差外の値は、異常値とみなしてデータセットから除去した。異常値は動物データシートでは「X」によって示した。
【0194】
エクセル・スプレッドシートは各組織に対するnM KLK1濃度を、投薬溶液の測定した特異的活性、各組織のCPM、および各組織の体積を用いて、自動計算した(1g =1mLと仮定した)。
【0195】
サンプル計算
nM濃度=(組織カウントCPM)/(測定した比活性cpm/fmol)/(組織体積mL)/(103fmol/pmol)
例:嗅覚球、KLK1について
(4130 CPM)/(2.76 CPM/fmol)/(0.07734 mL)/(103 fmol/pmol)=19.35 pmol/mL=19.35 nM
結果
結果を表1に総括した。
【0196】
総括
KLK1は、次に掲げた神経性疾患を治療するための標的領域に効果的に到達した:1)アルツハイマー病の神経病理学に関わることが公知である前頭皮質、側頭皮質、海馬および他の領域;2)脳血管壁、アルツハイマー病におけるアミロイド血管障害の部位;および3)神経炎症の治療におそらく重要なリンパ系の頚部結節。
【表1】
【0197】
(実施例8)可溶および原線維アミロイドβの直接切断
アミロイドβ1-42標準(β-アミロイド1-42ELISA、ヒトキット、Sigma BE0200由来)をキット取扱説明書によって、1.0μg/mLに再構築した。組織カリクレイン(配列番号1)のストック溶液およびほぼ0.5モル当量のダイズトリプシンインヒビター(Sigma、T6522)をPBS中で調製し、500 pg/mLに固定した濃度のhAβ42ペプチドを用いて三つ組で連続希釈した。
【0198】
溶液を3および18時間それぞれインキュベートし、その後、追加のプロテアーゼインヒビター(プロテアーゼインヒビターカクテル溶液、Sigma P8340の1/100希釈液)を加えた。
【0199】
キット取扱説明書に従い、50μLの上記サンプルを加え、ELISAプレートを一晩40℃にてインキュベートした。ELISAプレート現像の残りのステップを、キット取扱説明書の通り実施し、次いでマルチウエルELISAプレートリーダーを用いて450nmにて読み取った。
【0200】
%切断を次式:
100-[(Ave KLK1-Aveブランク)/(Ave 対照-Ave ブランク) x 100]=%切断
により決定した。
【0201】
結果
【表2】
【0202】
KLK1の様々な濃度に対するアミロイドβ切断のパーセントを図17に見い出すことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群;または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を有する患者を治療する方法であって、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の治療上有効な量を患者に投与するステップを含んでなる前記方法。
【請求項2】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
向知性薬がピラセタムである、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
治療上有効な用量が1投薬頻度当たり約0.001〜約5000国際単位(IU)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片が1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、経口投与用に製剤された医薬組成物。
【請求項18】
1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物。
【請求項19】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片をアジュバントと組合わせた、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
アジュバントが乳濁化剤である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を脂肪親和性ミセルと組合わせた、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項22】
さらに、アルツハイマー病または 健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物を含む、請求項17〜21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項28】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項29】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項31】
向知性薬がピラセタムである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項32】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項33】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するのに有用な医薬品を調製するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項34】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項35】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用がさらに、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物の同時使用を含む、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項40】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項41】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項42】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項36に記載の使用。
【請求項43】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項36に記載の使用。
【請求項44】
向知性薬がピラセタムである、請求項36に記載の使用。
【請求項45】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項36に記載の使用。
【請求項46】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与用に製剤する、請求項34〜45のいずれか1項に記載の使用。
【請求項47】
治療上有効な用量が1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUである、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与用に製剤する、請求項34〜45のいずれか1項に記載の使用。
【請求項49】
治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片が1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUである、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
それを必要とする患者におけるアミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項51】
それを必要とする患者における神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項52】
それを必要とする患者の脳への酸素取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項53】
それを必要とする患者の脳への血流を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項54】
それを必要とする患者のプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項55】
それを必要とする患者の脳によるグルコース取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項56】
それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項1】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群;または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を有する患者を治療する方法であって、組織カリクレインまたはその変異体もしくは活性断片の治療上有効な量を患者に投与するステップを含んでなる前記方法。
【請求項2】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物と同時に投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
向知性薬がピラセタムである、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
治療上有効な用量が1投薬頻度当たり約0.001〜約5000国際単位(IU)である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片が1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、経口投与用に製剤された医薬組成物。
【請求項18】
1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUの組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片および製薬上許容される賦形剤を含み、鼻腔内投与用に製剤された医薬組成物。
【請求項19】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片をアジュバントと組合わせた、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
アジュバントが乳濁化剤である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を脂肪親和性ミセルと組合わせた、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項22】
さらに、アルツハイマー病または 健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物を含む、請求項17〜21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項28】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項29】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項31】
向知性薬がピラセタムである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項32】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項33】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するのに有用な医薬品を調製するための、組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項34】
(a)アルツハイマー病もしくはその症候群、または(b)健忘性軽度認知障害もしくはその症候群を治療するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項35】
組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用がさらに、アルツハイマー病または健忘性軽度認知障害を治療するのに有用な第2の治療化合物の同時使用を含む、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
第2の治療化合物がアセチルコリン前駆体、アセチルコリン放出を促進する化合物、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、ムスカリンアゴニスト、酸化防止剤、抗炎症薬、ホルモン、カルシウムチャネルブロッカー、神経成長因子、向知性薬、ニューロトロフィン小分子ミメチック、NMDA受容体アンタゴニスト、5-HT1A受容体アゴニスト、抗アミロイド形成薬、抗ヒスタミン、エルゴロイドメシラート、イチョウ、またはフペラジンAを含む、請求項35に記載の使用。
【請求項37】
アセチルコリンエステラーゼ前駆体がコリン、レシチン、またはアセチル-1-カルニチンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
アセチルコリン放出を促進する化合物が4-アミノピリジンンまたはリノピリジンである、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
アセチルコリンエステラーゼインヒビターがフィソスチグミン、タクリン、ドネペジル、リバスチグミン、グランタミン、メトリフォネート、フペラジンA、またはエパスチグミンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項40】
ムスカリンアゴニストがミラメリン、キサノメリン、アレコリン、オキサトレモリン、サブコメリン、またはタルサクリジンから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項41】
酸化防止剤がビタミンE、イエドベノン、補酵素Q-10、n-アセチルシステイン、またはビタミンCから選択される、請求項36に記載の使用。
【請求項42】
抗炎症薬が非ステロイド抗炎症薬である、請求項36に記載の使用。
【請求項43】
ホルモンがエストロゲンまたはテストステロンである、請求項36に記載の使用。
【請求項44】
向知性薬がピラセタムである、請求項36に記載の使用。
【請求項45】
エルゴロイドメシラートがヒデルジンである、請求項36に記載の使用。
【請求項46】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を鼻腔内投与用に製剤する、請求項34〜45のいずれか1項に記載の使用。
【請求項47】
治療上有効な用量が1投薬頻度当たり約0.001〜約5000 IUである、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片を経口投与用に製剤する、請求項34〜45のいずれか1項に記載の使用。
【請求項49】
治療上有効な組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片が1投薬頻度当たり約0.001〜約1000 IUである、請求項48に記載の使用。
【請求項50】
それを必要とする患者におけるアミロイドを消化または切断するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項51】
それを必要とする患者における神経脈管構造を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項52】
それを必要とする患者の脳への酸素取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項53】
それを必要とする患者の脳への血流を改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項54】
それを必要とする患者のプラーククリアランスを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項55】
それを必要とする患者の脳によるグルコース取り込みを改善するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【請求項56】
それを必要とする患者の脳におけるタウタンパク質リン酸化を低減するための、治療上有効な量の組織カリクレイン、またはその変異体もしくは活性断片の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2010−533657(P2010−533657A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516341(P2010−516341)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001327
【国際公開番号】WO2009/012571
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510017479)ジェネシス ベンチャー インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001327
【国際公開番号】WO2009/012571
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510017479)ジェネシス ベンチャー インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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