説明

アミロイド形成疾患の予防および治療剤

【課題】 アルツハイマー病の予防および治療に有効な手段の提供。
【解決手段】 患者におけるアミロイドの沈積に対する免疫応答を誘導し得る薬剤、例えば、β−アミロイドペプチドまたはその活性フラグメントの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学および医学の技術的分野に関し、より具体的には、β−アミロイドペプチド(Aβ)およびそのフラグメントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、老年痴呆を生じる進行性の疾患である(一般的には、非特許文献1;特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4を参照のこと。)。概して、この疾患は2つのカテゴリーに分類される;後期発症(老年期(65歳以上)に発生する)および初期発症(老年期のかなり前(すなわち、35歳と60歳との間)に発生する)。疾患の両方の型において、その病理学は同じであるが、異常性はより若い年齢で始まる症例において、より重篤およびより広範囲になる傾向がある。この疾患は、脳内における病変の2つの型、老人斑および神経細線維もつれ、により特徴付けられる。老人斑とは、脳組織切片の顕微鏡解析により可視され得る中心での細胞外アミロイド沈積物を横切る150μmまでの組織の破壊された神経網の領域である。神経細線維もつれとは、対において互いにねじられた2つのフィラメントから構成されるタウタンパク質の細胞内沈積物である。
【0003】
斑の主成分は、Aβまたはβ−アミロイドペプチドと呼ばれるペプチドである。Aβペプチドはアミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる前駆体タンパク質のアミノ酸39〜43の内部フラグメントである。APPタンパク質中のいくつかの変異は、アルツハイマー病の存在と相関している(例えば、非特許文献5(バリン717をイソロイシンに);非特許文献6(バリン717をグリシンに);非特許文献7(バリン717をフェニルアラニンに);非特許文献8(リジン595−メチオニン596をアスパラギン595−ロイシン596に変換する二重変異)を参照のこと。)。そのような変異は、APPのAβへのプロセシングを増加または変化させることにより、特にAβの長形態(すなわち、Aβ1−42およびAβ1−43)を増量するようにAPPをプロセシングすることにより、アルツハイマー病を生じるものと考えられている。他の遺伝子(例えば、プレセニリン(presenilin)遺伝子、PS1およびPS2)における変異は、増加した量のAβの長形態を産生するAPPのプロセシングに間接的に影響を及ぼすと考えられる(例えば、非特許文献9を参照のこと)。これらの観察から、Aβ、そして特にその長形態は、アルツハイマー病における原因要素であることが示される。
【0004】
特許文献2は、予め確立されたADの患者に対する、ホメオパシー用量(10-2mg/1日以下)のAβの投与を提案する。約5リットルの血漿を有する代表的なヒトにおいては、この用量の上限でさえ、2pg/ml以下の濃度を産生すると予期される。ヒト血漿におけるAβの標準的な濃度は、代表的には50〜200pg/mlの範囲内である(例えば、非特許文献10参照)。特許文献3の提案される用量は、内因性循環Aβのレベルをほとんど変化しないため、そして特許文献4はアジュバントの使用を推奨しないため、治療的利点を生じることは信じがたく思われる。
【特許文献1】WO 92/13069
【特許文献2】EP526,511
【特許文献3】EP 526,511
【特許文献4】EP 526,511
【非特許文献1】Selkoe、TINS 16、403−409(1993)
【非特許文献2】Solkoe、J.Neuropathol.Exp.Neurol.53、438−447(1994)
【非特許文献3】Duffら、Nature 373、476−477(1995)
【非特許文献4】Gamesら、Nature 373,523(1995)
【非特許文献5】Goateら、Nature 349、704(1991)
【非特許文献6】Chartier Harlanら、Nature 353,844(1991)
【非特許文献7】Murrellら、Science254,97(1991)
【非特許文献8】Mullanら、Nature Genet.1,345(1992)
【非特許文献9】Hardy、TINS 20、154(1997)
【非特許文献10】Seubertら、Nature359,325−327(1992)
【発明の開示】
【0005】
対照的に、本発明はとりわけアルツハイマー病および他のアミロイド性疾患の、患者における有益な免疫応答を生じる条件下で、その患者にAβまたは他の免疫原を投与することによる処置に関する。従って本発明は、アルツハイマー病の神経病理学を予防または寛解するための治療プログラムに対する長期にわたる要求を満たす。
【0006】
1つの局面において、本発明は患者におけるアミロイド沈積により特徴付けられる疾患を、予防または処置する方法を提供する。そのような方法は、患者におけるアミロイド沈積物のペプチド成分に対する免疫応答を誘導する工程を包含する。そのような誘導は、免疫原の投与により能動的であり得るか、または抗体または抗体の活性フラグメントもしくは誘導体の投与により受動的であり得る。何人かの患者において、アミロイド沈積物は凝集化されたAβペプチドであり、そして疾患はアルツハイマー病である。いくつかの方法において、患者は無症候性である。いくつかの方法において、患者は50歳以下の年齢である。いくつかの方法において、患者はアルツハイマー病に感受性を示す、遺伝される危険因子を有する。そのような危険因子は、プレセニリン遺伝子PS1またはPS2における変異型の対立遺伝子および変異型形態のAPPを含む。他の方法において、患者はアルツハイマー病に対する公知の危険因子を全く有さない。
【0007】
アルツハイマー病に罹患した患者の処置について、1つの処置レジメンは、Aβペプチドのある用量を患者に投与して免疫応答を誘導する工程を包含する。いくつかの方法において、AβペプチドはAβペプチドに対する免疫応答を増強するアジュバントとともに投与される。いくつかの方法において、アジュバントはミョウバンである。いくつかの方法において、アジュバントはMPLである。患者に投与されるAβペプチドの用量は、アジュバントとともに投与される場合、代表的には少なくとも1μgまたは10μg、そしてアジュバントを伴わずに投与される場合、少なくとも50μgである。いくつかの方法において、その用量は少なくとも100μgである。
【0008】
いくつかの方法において、AβペプチドはAβ1−42である。いくつかの方法におい
て、Aβペプチドは凝集化形態において投与される。他の方法において、Aβペプチドは解離化形態において投与される。いくつかの方法において、治療剤はAβまたはその活性なフラグメントもしくは誘導体をコードする有効用量の核酸である。Aβまたはそのフラグメントをコードする核酸は、患者において発現され、免疫応答を誘導するAβまたはその活性なフラグメントを産生する。そのような方法のいくつかにおいて、核酸は皮膚を通して、必要に応じてパッチを介して投与される。いくつかの方法において、治療剤は、Aβに対する抗体に反応性の化合物を同定するために、化合物のライブラリーをスクリーニングする工程、および化合物を患者に投与して免疫応答を誘導する工程によって同定される。
【0009】
いくつかの方法において、免疫応答は、解離化Aβペプチドに対して向けられるのでなく、凝集化Aβペプチドに向けられる。例えば、免疫応答は解離化Aβペプチドに結合せず、凝集化Aβペプチドに結合する抗体を含み得る。いくつかの方法において、免疫応答はCD8またはCD4細胞上でMCHIまたはMCHIIと複合体を形成したAβに結合するT細胞を含む。他の方法において、免疫応答はAβに対する抗体を患者に投与することによって誘導される。いくつかの方法において、免疫応答は、患者からT細胞を取り出す工程、T細胞が感作される条件下でT細胞とAβペプチドを接触させる工程、および患者中にT細胞を戻す工程により誘導される。
【0010】
治療剤は、代表的には経口的に、鼻腔内的に、皮内的に、皮下的に、筋肉内的に、局所的に、または静脈内的に投与される。いくつかの方法において、患者は投与後に、免疫応答を評価するためにモニターされる。モニタリングが長期にわたる免疫応答の減少を示す場合、患者は1以上のさらなる用量の薬剤を与えられ得る。
【0011】
別の局面において、本発明はAβおよび、経口および他の投与経路に適切な賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。本発明はまた、患者においてAβに対する免疫原応答を誘導するのに効果的な薬剤、および薬学的に許容され得るアジュバントを含む薬学的組成物を提供する。いくつかのそのような組成物において、薬剤はAβまたはその活性フラグメントである。いくつかの組成物において、アジュバントはミョウバンである。いくつかの組成物において、アジュバントは水中油エマルジョンを含む。いくつかの組成物において、Aβまたは活性フラグメントはポリラクチドポリグリコリドコポリマー(PLPG)または他の粒子の成分である。本発明はさらに、患者の血流へのAβの送達を促進し、そして/またはAβに対する免疫応答を促進するコンジュゲート(または結合体)分子に連結されたAβまたは活性フラグメントを含む組成物を提供する。例えば、コンジュゲートはAβに対する免疫応答を促進するために役立ち得る。いくつかの組成物において、コンジュゲートはコレラ毒素である。いくつかの組成物において、コンジュゲートは免疫グロブリンである。いくつかの組成物において、コンジュゲートは弱毒化されたジフテリア毒素CRM197(Gupta、Vaccine15、1341−3(1997))である。
【0012】
本発明はまた、組成物が完全フロイントアジュバントを含まないという条件下で、患者においてAβに対する免疫応答を誘導する効果のある薬剤を含む薬学的組成物を提供する。本発明はまた、Aβに対する免疫応答を誘導するのに有効な、Aβまたはその活性フラグメントをコードするウイルスベクターを含む組成物を提供する。適切なウイルスベクターは、ヘルペス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、シンドビス、セムリキ森林ウイルス、痘疹またはトリ痘疹を含む。
【0013】
本発明はさらに、アルツハイマー病を予防または治療する方法を提供する。そのような方法において、有効用量のAβペプチドが患者に投与される。本発明はさらに、アルツハイマー病の予防または治療のための医薬の製造におけるAβまたはそれに対する抗体の使用を提供する。
【0014】
別の局面において、本発明は、患者におけるアルツハイマー処置方法の効力を評価する方法を提供する。これらの方法において、Aβペプチドに対して特異的な抗体の基線量(ベースライン)は、薬剤処置前の患者由来の組織サンプルにおいて決定される。その薬剤処置後の患者由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の量は、Aβペプチド特異的抗体の基線量と比較される。Aβペプチド特異的抗体の基線量よりも有意に多い、処置後に測定されたAβペプチド特異的抗体の量は、陽性の処置結果を示す。
【0015】
患者におけるアルツハイマーの処置方法の効力を評価する他の方法において、薬剤処置前の患者由来の組織サンプルにおける、Aβペプチドに特異的な抗体の基線量が決定される。その薬剤処置後の被験者由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の量は、Aβペプチド特異的抗体の基線量と比較される。Aβペプチド特異的抗体の基線量に比較される、処置後に測定されるAβペプチド特異的抗体の量の間の有意な差異の減少または欠如は、陰性の処置結果を示す。
【0016】
患者におけるアルツハイマー病処置方法の効力を評価する他の方法において、Aβペプチドに特異的な抗体の対照量を、対照集団由来の組織サンプルにおいて決定する。薬剤投与後の患者由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の量を、Aβペプチド特異的抗体の対照量と比較する。Aβペプチド特異的抗体の対照量よりも有意に多い、処置後に測定されるAβペプチド特異的抗体の量は、陽性の処置結果を示す。
【0017】
患者におけるアルツハイマー処置方法の効力を評価する他の方法において、対照集団由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の対照量が決定される。薬剤投与後の患者由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の量は、Aβペプチド特異的抗体のその対照量と比較される。Aβペプチド特異的抗体の対照量と比較される、その処置の開始後に測定されるAβ特異的抗体の量の間の有意な差異の欠如は、陰性の処置結果を示す。
【0018】
患者におけるアルツハイマー病またはそれに対する感受性をモニターする他の方法は、患者由来のサンプルにおけるAβペプチドに対する免疫応答を検出する工程を含む。そのようないくつかの方法において、患者はアルツハイマー病を処置または予防するのに有効な薬剤を投与されており、そしてその応答レベルが患者の将来の処置レジメンを決定する。
【0019】
患者におけるアルツハイマー処置方法の効力を評価する他の方法において、薬剤で処置された患者由来の組織サンプルにおけるAβペプチドに特異的な抗体の量の値が決定される。その値は、その薬剤での処置に起因する、アルツハイマー病の症状の回復、または脱却を経験した患者集団から決定される対照値と比較される。少なくとも対照値に等しい患者の値は、処置に対する陽性の応答を示す。
【0020】
本発明はさらに、上記方法を実施するための診断用キットを提供する。そのようなキットは、代表的にAβに対する抗体に特異的に結合する試薬、またはAβと反応性のT細胞の増殖を刺激する試薬を含む。
【0021】
(定義)
用語「実質的な同一性」は、2つのペプチド配列が、最適に整列された場合に(例えば、初期設定ギャップウェイトを使用するGAPまたはBESTFITプログラムにより)、少なくとも65%の配列同一性を、好ましくは少なくとも80または90%の配列同一性を、さらに好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性(例えば、99%以上の配列同一性)を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ
酸置換により異なる。
【0022】
配列比較について、代表的には1つの配列は参照配列として働き、それに対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列はコンピューター内に入力され、必要であれば、配列座標が指示され、そして配列アルゴリズムプログラムのパラメーターが指示される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指示されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列と比較される試験配列についてのパーセント配列同一性を計算する。
【0023】
比較についての配列の最適な整列は、例えば、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性整列アルゴリズムにより、PearsonおよびLipman、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索方法により、コンピュータ処理されたこれらのアルゴリズムの実行(WisconsinGenetics Software Package、GeneticsComputer
Group、575 Science Dr.、Madison、WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)により、または視覚的検査(一般的に、前出のAusubelらを参照のこと)により実行され得る。パーセント配列同一性および配列類似性を決定するために適切であるアルゴリズムの1つの例は、BLASTアルゴリズムである(これは、Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410(1990)に記載される)。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、NationalCenter forBiotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通して公に入手し得る。代表的には、初期設定のプログラムパラメーターが配列比較を実施するために使用され得るが、カスタマイズされたパラメーターもまた使用され得る。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、初期設定として文字長(wordlength)(W)が3、期待値(E)が10、およびBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用する(HenikoffおよびHenikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89、10915(1989)を参照のこと)。
【0024】
アミノ酸置換を保存的または非保存的として分類する目的のために、アミノ酸は以下のように分類される;I群(疎水性側鎖):ノルロイシン、メチオニン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン;II群(中性親水性側鎖):システイン、セリン、トレオニン;III群(酸性側鎖):アスパラギン酸、グルタミン酸;IV群(塩基性側鎖):アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン;V群(鎖の配向に影響する残基):グリシン、プロリン;およびVI群(芳香性側鎖):トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン。保存的置換は同じクラス内のアミノ酸間の置換を含む。非保存的置換は、これらのうちの1つのクラスのメンバーと別のクラスのメンバーとの交換からなる。
【0025】
本発明の治療剤は、代表的には、実質的に純粋である。このことは、薬剤が代表的には、少なくとも約50%w/w(重量/重量)純度であること、および妨害タンパク質および夾雑物を実質的に含まない状態を意味する。時として、薬剤は少なくとも約80%w/wおよび、より好ましくは少なくとも90% w/w純度または約95% w/w純度である。しかし、従来のタンパク質精製技術を使用して、少なくとも99%w/wの均質ペプチドが得られ得る。
【0026】
2つの実体間の特異的結合は、少なくとも106、107、108、109-1、または1010-1の親和力を意味する。108-1より大きな親和性が好ましい。
【0027】
用語「抗体」とは、インタクトな抗体およびその結合フラグメントを含めるために使用される。代表的には、フラグメントは、抗原に対する特異的な結合について、フラグメントが由来するインタクトな抗体と競合する。必要に応じて、抗体またはその結合フラグメントは、他のタンパク質と化学的に連結され得るか、または他のタンパク質との融合タンパク質として発現され得る。
【0028】
APP695、APP751、およびAPP770とはそれぞれ、ヒトAPP遺伝子によりコードされる695、751および770アミノ酸残基長のポリペプチドをいう。Kangら、Nature325、773(1987);Ponteら、Nature 331、525(1988);およびKitaguchiら、Nature 331、530(1988)を参照のこと。ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)中のアミノ酸は、APP770イソ型の配列に従う数が割り当てられる。Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、およびAβ43のような用語はアミノ酸残基1−39、1−40、1−41、1−42、および1−43を含むAβペプチドをいう。
【0029】
用語「エピトープ」または「抗原決定基」は、B細胞および/またはT細胞が応答する抗原上の部位をいう。B−細胞のエピトープは、タンパク質の三次元的な折り畳みによって並列される隣接するアミノ酸または隣接しないアミノ酸の両方から形成され得る。隣接するアミノ酸から形成されるエピトープは、代表的には、変性溶媒への曝露において保持されるが、三次元的な折り畳みによって形成されるエピトープは、代表的に、変性溶媒を用いる処理において失われる。エピトープは、代表的には、固有の空間的構造の中に少なくとも3、そしてより通常には少なくとも5または8〜10のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法には、例えば、X線結晶学および二次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、EpitopeMapping Protocolsin Methodsin MolecularBiology、第66巻、Glenn E. Morris編(1996)を参照のこと。同一のエピトープを認識する抗体は、標的抗原に対するある抗体の結合を阻止する別の抗体の能力を示す単純なイムノアッセイにおいて同定され得る。T−細胞は、CD8細胞に対する約9のアミノ酸の連続するエピトープまたはCD4細胞に対する約13〜15アミノ酸の連続するエピトープを認識する。このエピトープを認識するT細胞は、エピトープに応答する初回刺激されたT細胞による3H-チミジン取り込みによって(Burkeら、J.Inf. Dis.170、1110〜19(1994))、抗原依存性殺傷によって(細胞傷害性 Tリンパ球アッセイ、Tiggesら、J. Immunol. 156、3901〜3910)またはサイトカイン分泌によって決定されるような、抗原依存性増殖を測定するインビトロアッセイによって同定され得る。
【0030】
用語「免疫学的」または「免疫」応答とは、(抗体媒介性の)有益な体液性応答および/またはレシピエント患者のアミロイドペプチドに対する(抗原特異的T細胞またはこれらの分泌産物によって媒介される)細胞の応答の発生である。このような応答は、免疫原の投与によって誘導される能動的な応答であり得るか、または抗体もしくは初回刺激されたT−細胞の投与によって誘導される受動的な応答であり得る。細胞性免疫応答は、抗原特異的CD4+ Tヘルパー細胞および/またはCD8+ 細胞傷害性T細胞を活性化するクラスIMHC分子またはクラスIIMHC分子に関連するポリペプチドエピトープの存在によって誘発される。この応答はまた、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球または他の本質的な免疫性の成分の活性化に関与し得る。細胞媒介性の免疫学的応答の存在は、増殖アッセイ(CD4+ T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ(Burke(前出);Tigges(前出)を参照のこと)によって決定され得る。免疫原の保護的または治療的効果に応答する、体液性および細胞性応答に関連する寄与は、免疫化された同系の動物からIgGおよびT−細胞
を別々に単離し、そして2番目の被験体における保護的または治療的効果を測定することによって区別され得る。
【0031】
「免疫原性物質」または「免疫原」は、必要に応じてアジュバントを組み合わせて、患者への投与におけるそれ自体に対する免疫学的応答の誘導が可能である。
【0032】
用語「裸のヌクレオチド」とは、コロイド状物質と複合体化しないポリヌクレオチドをいう。裸のポリペプチドは、時にプラスミドベクターにおいてクローン化される。
【0033】
用語「アジュバント」とは、抗原を組み合わせて投与される場合は、抗原に対する免疫応答を増大し、しかし単独で投与される場合は、抗原に対する免疫応答をもたらさない化合物をいう。アジュバントは、リンパ球補充、B細胞および/またはT細胞の刺激、ならびにマクロファージの刺激を含む種々の機構による免疫応答を増大し得る。
【0034】
用語「患者」には、予防的処置または治療的処置のいずれかを受けるヒトおよび他の哺乳動物被験体が挙げられる。
【0035】
脱凝集したAβまたは単量体Aβとは、Aβの可溶性の単量体のペプチド単位を意味する。単量体Aβを調製する1つの方法は、超音波処理を用いて、純粋なDMSO中に凍結乾燥されたペプチドを溶解することである。この生じる溶液は、いくらかの不溶解性粒子を除去するために遠心分離される。凝集したAβは、単量体単位が非共有結合によって結合される、オリゴマーの混合物である。
【0036】
1以上の列挙されているエレメントを「含む」組成物または方法は、具体的には列挙されていない他のエレメントを含み得る。例えば、Aβペプチドを含む組成物は、単離されたAβペプチドおよびより大きなポリペプチド配列の成分としてのAβペプチドの両方を包含する。
【0037】
(詳細な説明)
I.概略
本発明は、アミロイド沈着の蓄積によって特徴付けられる疾患の予防的処置および治療的処置に対する薬学的組成物および方法を提供する。アミロイド沈着は、不溶性塊に凝集されたペプチドを含む。このペプチドの性質は、異なる疾患において変化するが、しかし多くの場合において、この凝集体はβ−ひだ状シート構造を有し、そしてコンゴーレッド色素を用いて染色する。アミロイド沈着によって特徴付けられる疾患は、早期および後期発症のアルツハイマー病(AD)の両方を含む。両方の疾患において、このアミロイド沈着は、Aβと呼ばれるペプチドを含み、これは発症される個体の脳において蓄積される。いくつかの他の疾患の例は、アミロイド沈着が、SAAアミロイドーシス、遺伝性アイスランド症候群、多発性骨髄腫、および海綿状脳障害(狂牛病、クロイツフェルト−ヤーコプ病、ヒツジスクラピー、およびミンク海綿状脳障害を含む)によって特徴付けられる(Weissmannら、Curr.Opin. Neurobiol.7、695〜700(1997);Smitsら、Veterinary Quarterly 19、101〜105(1997);Nathansonら、Am.J. Epidemiol.145、959〜969(1997)を参照のこと)。これらの疾患において凝集体を形成するペプチドは、最初の3つに対してはそれぞれ、血清アミロイドA、シスタンチン(cystantin)C、IgG κ軽鎖であり、そして他のものに対してはプリオンタンパク質である。
【0038】
II.治療剤
1.アルツハイマー病
本発明における使用のための治療剤は、Aβペプチドに対する免疫応答を誘導する。これらの薬剤は、Aβペプチド自体ならびにその改変体、Aβペプチドに対する抗体を誘導するかおよび/またはAβペプチドに対する抗体と交差反応するAβペプチドのアナログおよびAβペプチドの模倣物、ならびにAβペプチドと反応性のある抗体もしくはT−細胞を含む。免疫反応の誘導は、免疫原が患者におけるAβと反応性のある抗体またはT−細胞を誘導するために投与される場合に、活性であり得、または抗体が、抗体それ自体が患者におけるAβに結合するように投与される場合に、受動的であり得る。
【0039】
βアミロイドペプチドとしても知られているAβ、またはA4ペプチド(US4,666,829;GlennerおよびWong、Biochem.Biophys.Res.Commun.120、1131(1984)を参照のこと)は、39〜43アミノ酸のペプチドであり、これはアルツハイマー病の特徴的なプラークの主要な成分である。Aβは、2つの酵素(βセクレターゼおよびγセクレターゼと呼ばれている(Hardy、TINS20、154(1997)を参照のこと))による、より大きなタンパク質であるAPPのプロセシングによって生成される。アルツハイマー病と関連するAPPにおける公知の変異体は、βセクレターゼおよびγセクレターゼの部位に近接して、またはAβ内部に生じる。例えば、717位は、AβへのAPPのプロセシングにおけるAPPのγセクレターゼ切断の部位に近接し、そして670/671位は、βセクレターゼ切断の部位に近接する。この変異は、それによってAβが、生成されるAβの42/43アミノ酸形態の量を増大するために形成される、切断反応との相互作用によって、AD疾患を引き起こす。
【0040】
Aβは、古典的および代替的な補体カスケードの両方で結合し、そして活性化し得る、異常な特性を有する。特に、これは、Clqおよび最終的にはC3biに結合する。この結合は、B細胞の活性化を導くマクロファージへの結合を促進する。さらに、C3biはさらに崩壊し、次いでこれらの細胞の活性化を10,000増加することを導くT−細胞依存様式において、B−細胞上でCR2に結合する。この機構は、他の抗原の免疫応答以上の免疫応答を生成するためにAβを生じる。
【0041】
本願方法において使用される治療剤は、Aβペプチドの任意に天然に生じる形態であり得、そして特に、ヒトの形態であり得る(すなわち、Aβ39、Aβ40、Aβ41、Aβ42、またはAβ43)。これらのペプチドの配列およびAPP前駆体へのそれらの関連性は、Hardyら、TINS20、155〜158(1997)の図1に図示されている。例えば、Aβ42は以下の配列を有する:H2N−Asp−Ala−Glu−Phe−Arg−His−Asp−Ser−Gly−Tyr−Glu−Val−His−His−Gln−Lys−Leu−Val−Phe−Phe−Ala−Glu−Asp−Val−Gly−Ser−Asn−Lys−Gly−Ala−Ile−Ile−Gly−Leu−Met−Val−Gly−Gly−Val−Val−Ile−Ala−OH。
【0042】
Aβ41、Aβ40およびAβ39は、C末端からそれぞれAla、Ala−Ile、およびAla−Ile−Valの脱落によって、Aβ42と異なる。Aβ43は、C末端でのスレオニン残基の存在によってAβ42と異なる。この治療剤はまた、ヒトへの投与における同様の防御的または治療的免疫応答を誘導するエピトープを含む、天然のAβペプチドの活性フラグメントまたはアナログであり得る。代表的には、免疫原性フラグメントは、天然のペプチド由来の、少なくとも3、5、6、10または20の連続するアミノ酸の配列を有する。免疫原性フラグメントは、Aβ1〜5、1〜6、1〜12、13〜28、17〜28、25〜25、35〜40および35〜42を含む。AβのN末端から半分由来のフラグメントは、いくつかの方法において好ましい。アナログは、対立遺伝子、種、および誘導される改変体を含む。代表的に、アナログは、1または2、3の位置において、天然に存在するペプチドと異なる(しばしば保存的置換による)。代表的には、ア
ナログは、天然のペプチドと少なくとも80%または90%の配列同一性を示す。いくつかのアナログはまた、非天然のアミノ酸またはN末端もしくはC末端アミノ酸の改変を含む。非天然のアミノ酸の例は、α,α−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N,N,N−トリメチルリジン、ε−N−アセチルリジン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリジン、ω−N−メチルアルギニンである。フラグメントおよびアナログは、以下に記載されるように、トランスジェニック動物モデルにおける予防的能力または治療的能力についてスクリーニングされ得る。
【0043】
Aβ、そのフラグメント、アナログおよび他のアミロイド形成ペプチドは、固相ペプチド合成もしくは組換え体の発現によって合成され得、または天然の供給源から得られ得る。自動ペプチドシンセサイザーは、多数の業者(例えば、AppliedBiosystems、Foster City、California)から市販されている。組換え体の発現は、細菌(例えば、E.coli)、酵母、昆虫細胞または哺乳動物細胞中であり得る。組換え体の発現の手順は、Sambrookら、MolecularCloning:A Laboratory Manual(C.S.H.P.Press、NY 第2版、1989)によって記載される。Aβペプチドのいくつかの形態もまた、市販されている(例えば、American Peptides Company、Inc.,Sunnyvale、CAおよびCaliforniaPeptide Research、Inc.,Napa、CA)。
【0044】
治療剤はまた、他のアミノ酸とともに、例えば、Aβペプチド、活性フラグメントまたはアナログを含む、より長いポリペプチドを含む。例えば、Aβペプチドは、インタクトなAPPタンパク質またはそのセグメント(例えば、AβのN末端で始まり、そしてAPPの端まで連続するC−100フラグメント)として存在し得る。このようなポリペプチドは、以下に記載されるような動物モデルにおける予防的効力または治療的効力についてスクリーニングされ得る。このAβペプチド、アナログ、活性フラグメントまたは他のポリペプチドは、会合した形態において(すなわち、アミロイドペプチドとして)、または解離した形態において投与され得る。治療剤はまた、単量体免疫原性物質の多量体を含む。
【0045】
さらなる変化において、免疫原性ペプチド(例えば、Aβ)は、ウイルス性ワクチンまたは細菌性ワクチンとして提供され得る。免疫原性ペプチドをコードする核酸は、ウイルスもしくは細菌のゲノムまたはエピソーム中に組み込まれる。必要に応じて、免疫原性ペプチドが分泌タンパク質として、またはウイルスの外表面タンパク質を有する融合タンパク質もしくは細菌の膜貫通タンパク質として発現され様に核酸が組み込まれるので、該ペプチドが呈示される。このような方法において使用されるウイルスまたは細菌は、非病原性であるかまたは弱毒化されるべきである。適切なウイルスには、アデノウイルス、HSV、ワクシニアおよび鶏痘が挙げられる。HBVのHBsAgに対する免疫原性ペプチドの融合は、とくに適切である。治療剤にはまた、Aβとの有意なアミノ酸配列類似性を有する必要がないにも関わらず、Aβの模倣物として役立ち、そして同様の免疫応答を誘導するペプチドおよび他の化合物が挙げられる。例えば、β−ひだ状シートを形成する任意のペプチドおよびタンパク質は、適切にスクリーニングされ得る。Aβまたは他のアミロイド形成ペプチドへのモノクローナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体もまた、使用され得る。このような抗−Id抗体は、抗原を模倣し、そして抗原への免疫応答を生成する(EssentialImmunology(Roit編、Blackwell Scientific Publications、PaloAlto、第6版)、181頁を参照のこと)。
【0046】
ペプチドまたは他の化合物の無作為なライブラリーはまた、適切にスクリーニングされ
得る。コンビナトリアルライブラリーは、段階的な様式で合成され得る多くの型の化合物について産生され得る。このような化合物には、ポリペプチド、β−ターン模倣物、ポリサッカライド、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環式化合物、ベンゾジアゼピン、N−置換グリシンオリゴマーおよびオリゴカルバメートが挙げられる。これらの化合物の大きなコンビナトリアルライブラリーは、Affymax、WO95/12608、Affymax、WO 93/06121、Columbia University、WO 94/08051、Pharmacopeia、WO95/35503およびScripps、WO 95/30642(これらの各々は、あらゆる目的のために、引用することにより本明細書の内容となる)に記載されるコードされた合成ライブラリー(ESL)法によって構築され得る。ペプチドライブラリーはまた、ファージディスプレイ法によって生成され得る。例えば、Devlin、WO91/18980を参照のこと。
【0047】
コンビナトリアルライブラリーおよび他の化合物は、最初に、Aβもしくは他のアミロイド形成ペプチドに特異的であることが公知な抗体またはリンパ球(BまたはT)に結合するそれらの能力を決定することによって、適切にスクリーニングされる。例えば、最初のスクリーニングは、Aβあるいは他のアミロイド形成ペプチドへの任意のポリクローナル血清またはモノクローナル抗体を用いて実施され得る。次いで、このようなスクリーニングによって同定された化合物は、Aβあるいは他のアミロイド形成ペプチドへの抗体または反応性のリンパ球を誘導する能力について、さらに分析される。例えば、血清の複数希釈液は、Aβペプチドであらかじめコートされたマイクロタイタープレート上で試験され得、そして標準ELISAは、Aβへの反応性抗体について試験するために実施され得る。次いで、化合物は、実施例に記載されるような、アミロイド形成疾患に前もって感染されたトランスジェニック動物における予防的効果または治療効果について試験され得る。このような動物には、例えば、前出のGamesらによって記載されるAPPの717変異を有するマウス、およびAPPのSwedish変異を有するマウス(例えば、McConlogueら、米国特許第5,612,486号およびHsiaoら、Science274、99(1996);Staufenbielら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA94、13287〜13292(1997);Sturchler−Pierratら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA94、13287〜13292(1997);Borcheltら、Neuron 19、939〜945(1997)によって記載される)が挙げられる。同様のスクリーニングのアプローチは、他の潜在的な薬剤(例えば、上記のAβのフラグメント、AβのアナログおよびAβを含む、より長いペプチド)において使用され得る。
【0048】
本発明の治療剤はまた、Aβと特異的に結合する抗体を含む。このような抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。いくつかのこのような抗体は、解離形態に結合することなくAβの凝集形態に特異的に結合する。いくつかは、凝集形態に結合することなくこの解離形態に特異的に結合する。いくつかは、凝集形態および解離形態の両方に結合する。非ヒトモノクローナル抗体(例えば、マウスまたはラット)の産生は、例えば、Aβで動物を免疫化することによって達成され得る。HarlowおよびLane、Antibodies、ALaboratory Manual(CSHP NY、1988)を参照のこと(あらゆる目的のために引用することにより本明細書の内容となる)。このような免疫原は、ペプチド合成によって、または組換え発現によって天然の供給源から得られ得る。
【0049】
マウス抗体のヒト化形態は、組換えDNA技術による、ヒトの定常領域への非ヒト抗体のCDR領域の連結によって生成され得る。Queenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA86,10029〜10033(1989)およびWO 90/07861を参照のこと(あらゆる目的のために引用することにより本明細書の内容となる)

【0050】
ヒト抗体は、ファージディスプレイ法を使用して得られ得る。例えば、Dowerら、WO91/17271;McCaffertyら、WO 92/01047を参照のこと。これらの方法において、メンバーがファージの外表面上に異なる抗体を表示する、ファージのライブラリーが、産生される。抗体は、通常FvまたはFabフラグメントとして表示される。所望の特異性を有する抗体を表示するファージは、Aβ、またはそのフラグメントに対する親和性の豊富さによって選択される。Aβに対するヒト抗体はまた、少なくともヒト免疫グロブリン遺伝子座のセグメントおよび不活性化内因性免疫グロブリン遺伝子座をコードする導入遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック哺乳動物から産生され得る。例えば、Lonbergら、WO93/12227(1993);Kucherlapati、WO 91/10741(1991)を参照のこと(これらの各々は、あらゆる目的のためにその全体が引用することにより本明細書の内容となる)。ヒト抗体は、競合的結合実験によって、さもなくば、特定のマウス抗体として同一のエピトープ特異性を有するように選択され得る。このような抗体はおそらく、特にマウス抗体の有用な機能的特性を共有する。ヒトポリクローナル抗体はまた、免疫原性剤で免疫化されたヒト由来の血清形態において提供され得る。必要に応じて、このようなポリクローナル抗体は、アフィニティー試薬としてAβまたは他のアミロイドペプチドを用いたアフィニティー精製によって濃縮され得る。
【0051】
ヒト抗体またはヒト化抗体は、IgG、IgD、IgAおよびIgE定常領域、ならびに任意のアイソタイプ(IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)を有するように設計され得る。抗体は、2つの軽鎖および2つの重鎖を含む四量体として、重鎖、軽鎖を分離するように、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFvとして、または単鎖抗体として、発現され得、ここで重鎖および軽鎖の可変ドメインは、スペーサーを介して連結される。
【0052】
本方法における使用のための治療剤はまた、Aβペプチドに結合するT−細胞を含む。例えば、T−細胞は、昆虫細胞株からのヒトMHCクラスI遺伝子およびヒトβ−2−ミクログロブリン遺伝子の発現によってAβペプチドに対して活性化され得、これによって空の複合体が、細胞の表面上に形成され、かつAβペプチドに結合し得る。この細胞株に接触するT−細胞は、このペプチドに対して特異的に活性化されるようになる。Petersonら、米国特許第5,314,813号を参照のこと。MHCクラスII抗原を発現する昆虫細胞株は、同様に使用されて、CD4T細胞を活性化し得る。
【0053】
2.他の疾患
同一のまたは類似の原理によって、他のアミロイド形成疾患の処置に対する治療剤の産生を決定する。一般に、アルツハイマー病の処置に使用するために上記に述べた薬剤はまた、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病の初期発症の処置のために使用され得る。狂牛病において、プリオンペプチド、活性フラグメント、およびアナログ、ならびにプリオンペプチドに対する抗体は、アルツハイマー病の処置におけるAβペプチド、活性フラグメント、アナログ、およびAβペプチドに対する抗体の代わりに使用される。多発性骨髄腫の処置において、IgG軽鎖およびアナログならびにそれらに対する抗体は、他の疾患の場合と同様に使用される。
【0054】
3.キャリアタンパク質
免疫応答の誘導のためのいくつかの物質は、アミロイド沈着に対する免疫応答の誘導のための適切なエピトープを含むが、あまりにも小さくて免疫原性になり得ない。この状態において、ペプチド免疫原は、適切なキャリアに連結されて免疫応答の誘発を補助し得る。適切なキャリアには、血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシニアニン、免疫グ
ロブリン分子、サイログロブリン、オボアルブミン、破傷風トキソイド、または他の病原性細菌(例えば、ジフテリア、E.coli、コレラ、もしくはH.pylori、)由来のトキソイド、または弱毒化されたトキシン誘導体が挙げられる。免疫応答の刺激または増強のための他のキャリアには、サイトカイン(例えば、IL−1、IL−1αペプチドおよびIL−1βペプチド、IL−2、γINF、IL−10、GM−CSF、およびケモカイン(例えば、M1P1αおよびM1P1βおよびRANTES)が挙げられる。免疫原性剤はまた、O’Mahony、WO 97/17613およびWO 97/17614に記載されるように、組織を横切る輸送を増強するペプチドに連結され得る。
【0055】
免疫原性剤は、化学的架橋によってキャリアに連結され得る。免疫原のキャリアへの連結のための技術は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジル−チオ)プロピオネート(SPDP)およびスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)を使用するジスルフィド結合の形成を含む(このペプチドがスルフヒドリル基を欠く場合、これはシステイン残基の付加によって提供され得る)。これらの試薬は、1つのタンパク質において、それら自体のシステイン残基とペプチドのシステイン残基との間でジスルフィド結合を作製し、そしてリジンにおけるε−アミノ基、または他のアミノ酸の他の遊離のアミノ基によってアミド結合を作製する。このような種々のジスルフィド/アミド−形成試薬は、Immun.Rev.62,185(1982)によって記載される。他の二官能性のカップリング剤は、ジスルフィド結合よりもむしろチオエーテルを形成する。これらの多くのチオ−エーテル−形成剤は、市販されており、そして6−マレイミドカプロン酸、2−ブロモ酢酸、および2−ヨード酢酸、4−(N−マレイミド−メチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸の反応性のエステルを含む。これらのカルボキシル基は、スクシンイミドまたは1−ヒドロキシル−2−ニトロ−4−スルホン酸ナトリウム塩と、それらを組み合わせることによって活性化され得る。
【0056】
免疫原性ペプチドはまた、キャリアを有する融合タンパク質として発現され得る。この免疫原性ペプチドは、アミノ末端、カルボキシル末端、またはこのキャリアの内部で結合され得る。必要に応じて、免疫原性ペプチドの複数の繰り返しは、融合タンパク質において存在し得る。
【0057】
4.免疫原をコードする核酸
アミロイド沈着物に対する免疫応答はまた、Aβペプチドまたは他の免疫原ペプチドをコードしている核酸の投与によっても誘導され得る。そのような核酸は、DNAまたはRNAであり得る。免疫原をコードしている核酸セグメントは、代表的には、患者の意図した標的細胞中のDNAセグメントの発現を可能にするプロモーターおよびエンハンサーのような制御エレメントと連結されている。免疫応答の導入に望ましい血液細胞での発現のために、免疫グロブリン遺伝子の軽鎖または重鎖由来のプロモーターおよびエンハンサーエレメント、あるいはCMV主要中間初期プロモーターおよびエンハンサーが、直接発現に適している。連結された制御エレメントおよびコード配列は、しばしばベクターにクローニングされる。
【0058】
以下を含む多くのウイルスベクター系が、利用可能である:レトロウイルス系(例えば、LawrieおよびTumin、Cur.Opin.Genet.Develop.3、102−109(1993)を参照のこと);アデノウイルスベクター(例えば、Bettら、J.Virol.67、5911(1993)を参照のこと);アデノ随伴ウイルスベクター(例えば、Zhouら、J.Exp.Med.179、1867(1994)を参照のこと)、ワクシニアウイルスおよびトリポックスウイルスを含むポックス科由来のウイルスベクター、シンドビスウイルスおよびセムリキ森林熱ウイルス由来のウイルスベクターのようなアルファウイルス属由来ウイルスベクター(例えば、Dubenskyら、J.Virol.70、508−519(1996)を参照のこと)、ならびにパ
ピローマウイルス(Oheら、HumanGene Therapy6、325−333(1995);Wooら、WO 94/12629ならびにXiaoおよびBrandsma、Nucleic Acids.Res.24、2630−2622(1996))。
【0059】
免疫原をコードしているDNA、または免疫原を含有するベクターは、リポソームにパッケージングされ得る。適切な脂質および関連アナログは、米国特許第5,208,036号、同第5,264,618号、同第5,279,833号および同第5,283,185号に記載される。ベクターおよび免疫原をコードしているDNAはまた、粒子状キャリアに吸収され得るか、または粒子状キャリアと結合し得る(キャリアの例として、ポリメチルメタクリレートポリマーおよびポリ乳酸およびポリ(ラクチド−コ−グリコリド)を含む)(例えば、McGeeら、J.MicroEncap.(1996)を参照のこと)。
【0060】
遺伝子治療ベクターまたは裸のDNAは、インビボにおいて、個々の患者に投与されることによって、代表的には、全身的な投与(例えば、静脈内、腹腔内、鼻、胃、皮内、筋肉内、歯根下、または頭蓋内への注入)、または局所的な適用(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)によって送達され得る。DNAはまた、遺伝子銃を用いて投与され得る。XiaoおよびBrandsma、前出を参照のこと。免疫原をコードしているDNAは、微小な金属ビーズの表面上に沈殿させられる。この微粒子は、衝撃波、またはヘリウムガスの拡張により加速され、そしていくつかの細胞層の深さまで組織を貫通する。例えば、Agacetus、Inc.MiddletonWIにより製造される、AccelTM Gene Delivery Deviceが、適している。あるいは、裸のDNAは、化学的または機械的な刺激を用いて、DNAを皮膚へ単にスポットすることにより、皮膚を通して血流中へと通過させ得る(WO95/05853を参照のこと)。
【0061】
さらなる別法において、免疫原をコードするベクターは、エキソビボで細胞へ送達され得る。そのような細胞は、例えば、個々の患者から移殖される細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引、組織生検)であり、または患者への細胞の再移植に続く、万能供血者造血幹細胞であり、その後ベクターを組込まれた細胞が、通常選抜される。
【0062】
III.処置を受ける余地がある患者
処置を受ける余地がある患者は、現在症状を示している患者と同様に、症状を示していないが、疾患の危険性がある個体を含む。アルツハイマー病の場合において、彼または彼女が充分長く生きている場合、実質的に誰であってもアルツハイマー病を患う危険性がある。従って、本発明の方法は、被検体の患者の危険の評価を全く用いず、一般的な集団に対して予防的に投与され得る。本発明の方法は、特にアルツハイマー病の公知の遺伝的危険性を有する個体にとって有用である。このような個体は、この疾患の経験を持つ親族を有する患者を含み、そしてそのような患者の危険性は、遺伝子的または生化学的マーカーを用いた分析により決定される。アルツハイマー病に対する危険性の遺伝子マーカーは、APP遺伝子における変異を含み、特に717位、そしてHardyおよびSwedish変異に参照される670位、および671位の変異をそれぞれ含む(Hardy、TINS、前出を参照のこと)。他の危険性のマーカーは、プレセニリン遺伝子(PS1およびPS2)、およびApoE4(ADの家族歴、高コレステロール血症またはアテローム性動脈硬化症)における変異である。現在アルツハイマー病を患っている個体は、上記の危険性因子の存在と同様に特有の痴呆により認識され得る。さらに、多くの診断試験が、ADを有する個体を同定するために利用可能である。これらは、CSFtauおよびAβ42レベルの測定を含む。tauレベルの増加およびAβ42レベルの減少は、ADの存在を示す。アルツハイマー病を患っている個体はまた、実施例の節に記載される、MMS
EまたはADRDA診断基準により、診断され得る。
【0063】
無症候性の患者への処置は、任意の年齢(例えば、10、20、30)において開始され得る。しかし、通常、処置は、患者が40歳、50歳、60歳または70歳に達するまで開始する必要はない。代表的には、処置は、一定の時間にわたる複数の投薬を伴う。処置は、抗体のアッセイによりモニターされ得るか、または治療剤(例えば、Aβペプチド)に対する時間にわたる、活性なT細胞応答またはB細胞応答によりモニターされ得る。反応が低下した場合、ブースター投薬が指示される。潜在性ダウン症候群の患者の場合、処置は、治療的薬剤の妊娠中の母体への投与、または誕生後すぐの投与が開始され得る。
【0064】
IV.処置レジメ(または処置プログラム)
予防的な適用において、薬学的組成物または薬剤は、特定の疾患に対して感受性または別の危険性がある患者ヘ十分な量が投与され、危険性を除去または減少させる、あるいは疾患の発病を遅らせる。治療的な適用に、組成物または薬剤の、そのような疾患の疑わしい患者、またはすでにそのような疾患を患っている患者への、疾患の症状およびその合併症の治癒に十分な量、または少なくとも一部分の停止に十分な量が投与される。この達成に適切な量は、治療的にまたは薬学的に効果的な量として定義される。予防的および治療的レジメの両方において、薬剤は、通常、十分な免疫応答が達されるまでいくつかの投薬量で投与される。代表的には、免疫応答は、モニターされ、そして免疫応答が衰え始めた場合、投薬がくり返される。
【0065】
本発明の組成物の、上述した状態への処置に効果的な用量は、以下を含む、多くの異なる要因に依存して変化する:投与の手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、他の薬剤の投与、および処置が予防的であるか治療的であるか。通常、患者は、ヒトであるが、狂牛病(madcow disease)のようないくつかの疾患において、患者は、ウシのようなヒトではない哺乳動物であり得る。処置投薬量は、安全性かつ効力を最適にするように滴定する必要がある。免疫原の量はまた、アジュバントの非存在下で要求される高投薬量で、アジュバントが投与されるかどうかに依存している。投与のための免疫原の量は、時には、患者当たり1μg〜500μg、そしてより通常は、ヒトへの投与について、1回の注射当たり5〜500μgで変化する。ときおり、1回の注射当たり1〜2mgの高用量が用いられる。代表的には、それぞれのヒトへの注射当たり、約10、20、50、または100μgが、用いられる。注射のタイミングは、1日に1回から、1年に1回、10年に1回まで有意に変化し得る。任意の投与日に、免疫原の投薬量が投与され、その投薬量は、アジュバントもまた、投与される場合、1μg/患者より多く、そして通常は10μg/患者よりも多く、そしてアジュバントの非存在下では、10μg/患者よりも多く、そして通常は、100μg/患者よりも多い。代表的なレジメは、6週間間隔のブースター注射に続く、免疫化からなる。別のレジメは、1、2、および12ヶ月後のブースター注射に続く免疫化からなる。別のレジメは、生涯にわたる2ヶ月ごとの注射を伴う。あるいは、ブースター注射は、免疫応答をモニターすることにより示されるように不規則な基準であり得る。抗体を用いる受動的な免疫化のための、この投薬量の範囲は、宿主体重に対して約0.0001〜100mg/kg、およびさらに通常は、0.01〜5mg/kgである。免疫原をコードする核酸の用量の範囲は、患者当たり、約10ng〜1gDNA、100ng〜100mgDNA、1μg〜10mgDNA、または30〜300μgDNAである。感染性ウイルスベクターのための用量は、用量当たり10〜109ビリオン、またはそれ以上に変化する。
【0066】
免疫応答を誘導するための薬剤は、非経口的、局所的、静脈、口腔、皮下、腹腔内、鼻腔内、または筋肉内を含む手順によって、予防的および/または治療的処置のために投与され得る。投与の最も代表的な経路は、他も等しく効果的であり得るが、皮下である。次に最も一般的であるのは、筋肉内への注射である。この注射のタイプは、最も代表的には
、腕または足の筋肉に行なわれる。腹腔内注射、動脈内、頭蓋内、あるいは皮内への注射と同様に静脈内への注射はまた、免疫応答の発生に効果的である。いくつかの方法において、薬剤は、沈着物が蓄積した、特定の組織へ直接注射される。
【0067】
本発明の薬剤は、アミロイド形成疾患の処置において少なくとも部分的に効果的である他の薬剤と組み合わせて必要に応じて投与され得る。アミロイド沈着が脳内で生じる、アルツハイマーおよびダウン症候群の場合、本発明の薬剤はまた、本発明の薬剤の血液脳関門の通過を増大させる、他の薬剤との組み合わせにより投与され得る。
【0068】
ペプチドのような本発明の免疫原性の薬剤は、ときおりアジュバントと組み合わせて投与される。種々のアジュバントは、免疫応答を誘発するAβのようなペプチドと組み合わせて用いられ得る。好ましいアジュバントは、応答の質的な形態に影響する免疫原の構造変化を起こさずに、免疫原に対する固有の応答を増強する。好ましいアジュバントは、ミョウバン、3脱O−アシル化モノホスホリル脂質A(MPL)を含む(GB 2220211を参照のこと)。QS21は、南アメリカで発見されたQuillaja Saponaria Molinatreeの皮から単離されたトリテルペングリコシドまたはサポニンである(Kensilら、VaccineDesign:The Subunit and Ajuvant Approach(PowellおよびNewman編、PlenumPress、NY、1995);米国特許第5,057,540号を参照のこと)。他のアジュバントには、水中油乳濁液(例えば、スクアレンまたはピーナッツ油)であり、必要に応じて、モノホスホリル脂質Aのような免疫賦活薬との組み合わせである(Stouteら、N.Engl.J.Med.336、86−91(1997)を参照のこと)。別のアジュバントは、CpGである(BioworldToday、Nov.15、1998)。あるいは、Aβは、アジュバントと結合し得る。例えば、Aβのリポペプチドバージョンは、B型肝炎抗原ワクチン接種について記述されたように、AβのN末端に、パルミチン酸または他の脂質が直接結合することにより調製され得る(Livingston、J.Immunol.159、1383−1392(1997))。しかし、そのような結合は、それらに対する免疫応答の性質に影響するようなAβの実質的な構造の変化を起こすべきではない。アジュバントは、活性薬剤とともに治療的組成物の成分として投与され得るか、あるいは治療的薬剤の投与とは別々に、事前に、同時に、または事後に投与され得る。
【0069】
好ましいアジュバントのクラスは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのようなアルミニウム塩(ミョウバン)である。そのようなアジュバントは、MPLまたは3−DMP、QS21、重合体のまたは単量体のアミノ酸(例えば、ポリグルタミン酸またはポリリシン)のような、他の特定の免疫賦活薬剤と共に用いられ得るか、または共にではなく用いられ得る。別のアジュバントのクラスは、水中油乳濁液処方物である。そのようなアジュバントは、以下のような他の特定の免疫賦活薬剤と共に用いられ得るか、または共にではなく用いられ得る:ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルコサミニル(acetylglucsaminyl)−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシ(dipalmitoxy)プロピルアミド(DTP−DPP)theramideTM)または他の細菌細胞壁構成成分。水中油乳濁液は、以下を含む:(a)5%スクアレン、0.5%Tween80、および0.5%Span 85(必要に応じて、種々の量のMTP−PEを含む)を含み、モデル110Yマイクロフルイタイザー(Microfluidics、NewtonMA)のようなマイクロフルイダイザーを用いたサブミクロン粒子に処方され
た、MF59(WO90/14837)(b)10%スクアレン、0.4%Tween 80、5%pluronic−blockedポリマーL121、およびthr−MDPを含み、サブミクロン乳濁液にマイクロフルイダイズされるかまたは、より大きな粒子サイズの乳濁液を生成するためにボルテックスされたSAF、ならびに(c)2%スクアレン、0.2%Tween80、および1つ以上の以下からなる群から選択される細菌細胞壁組成物を含むRibiTMアジュバントシステム(RAS)、(RibiImmunochem、Hamilton、MT):モノホスホリル脂質A(MPL)、トレハロースジマイコレート(trehalosedimycolate)(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)、好ましくは、MPL+CWS(DetoxTM)。好ましいアジュバントの別のクラスは、StimulonTM(QS21、Aquila、Worcester、MA)のようなサポニンアジュバント、またはISCOMs(免疫賦活複合体)およびISCOMATRIXのようなそれらから生成される粒子である。他のアジュバントは、完全フロイントアジュバント(CFA)および不完全フロイントアジュバント(IFA)を含む。他のアジュバントは、インターロイキン(IL−1、IL−2、およびIL−12)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)のようなサイトカインを含む。
【0070】
アジュバントは、単一組成物として免疫原と共に投与され得るか、あるいは免疫原投与に先だって、同時に、または投与後に投与され得る。免疫原およびアジュバントは、パッケージングされ得、そして同じバイアルに供給され得るか、または別々のバイアルにパッケージングされ得、そして使用前に混合され得る。代表的には、免疫原およびアジュバントは、ラベルが意図した治療への適用を示すようにパッケージングされる。免疫原およびアジュバントが、別々にパッケージングされる場合、代表的には、そのパッケージングは、使用前の混合のための説明書を含む。アジュバントおよび/またはキャリアの選択は、アジュバントを含むワクチンの安定性、投与の経路、投薬スケジュール、ワクチンを受ける種についてのアジュバントの有効性に依存し、そしてヒトにおいては、薬学的に受容可能なアジュバントは、承認されているアジュバント、または体の適切な制御によるヒトへの投与が認可されているアジュバントである。例えば、完全フロイントアジュバントは、ヒトへの投与には適さない。ミョウバン、MPLおよびQS21は、好ましい。必要に応じて2つ以上の異なるアジュバントが、同時に用いられ得る。好ましい組み合わせは、ミョウバンとMPL、ミョウバンとQS21、MPLとQS21、ならびにミョウバン、QS21およびMPLを共に含む。また、不完全フロイントアジュバント(Changら、AdvancedDrug DeliveryReviews 32、173−186(1998))も、必要に応じて、ミョウバン、QS21およびMPLの任意の組み合わせ、ならびにそれら全ての組み合わせで用いられ得る。
【0071】
本発明の薬剤は、しばしば活性な治療的薬剤(すなわち、および種々の他の薬学的に受容可能な組成物)を包含する薬学的処方物として投与される。Remington’s Pharmaceutical Science (第15版、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、1980)を参照のこと。好ましい形態は、投与および治療的適用を意図した態様に依存する。この組成物はまた、動物またはヒトに投与されるための薬学的組成物の処方のために一般的に用いられるビヒクルとして定義される、所望される処方に依存した薬学的に受容可能な非毒性キャリアまたは賦形薬もまた含み得る。賦形薬は、組み合わせでの生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような賦形薬の例は、蒸留水、生理的リン酸緩衝化食塩水、リンゲル溶液、ブドウ糖溶液、およびハンクス溶液である。さらに、薬学的組成物または処方物はまた、他のキャリア、アジュバント、または非毒性、非治療的、非免疫原性安定剤なども含み得る。しかし、完全フロイントアジュバントのような動物への投与に適しているいくつかの試薬は、ヒトへの使用のための組成物には、代表的には含まれない。
【0072】
薬学的組成物はまた、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびコポリマー(例えば、ラテックス機能性セファロース、アガロース、セルロースなど)、アミノ酸重合体、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)のような、大きく、ゆっくりと代謝される高分子を含み得る。さらに、これらのキャリアは、免疫刺激薬剤(すなわちアジュバント)として機能し得る。
【0073】
非経口的な投与のための本発明の薬剤は、水油、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールのような滅菌した液体であり得る薬学的キャリアでの生理学的に許容され得る賦形薬中の物質の溶液または懸濁物の、注入可能な投薬量として投与され得る。さらに、湿った薬剤または乳化した薬剤、界面活性剤、pH緩衝化物質などのような、補助的な物質が、組成物中に含まれ得る。薬学的組成物の他の成分は、石油、動物、野菜、または合成の起源の成分(例えば、ピーナッツ油、大豆油または鉱油)である。一般的にプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールは、特に注射溶液としての、好ましい液体キャリアである。
【0074】
代表的には、組成物は、液体溶液または、懸濁液としてのいずれかで注射可能となるように調製される;注射に先立ち液体ビヒクルへの溶解、または懸濁に適した固体形態もまた、調製され得る。この調製物はまた、リポソーム、またはポリ乳酸、ポリグリコリド、あるいは上述のようなアジュバントの効果を増大させるコポリマーのような微粒子中に、乳化され得るかまたはカプセルに包まれ得る(Langer、Science249、1527(1990)およびHanes、Advanced Drug DeliveryReviews 28、97−119(1997)参照のこと)。本発明の薬剤は、活性な成分の持続性または拍動性放出を可能にする様式で処方され得る調製物を、貯蔵注射または移殖の形態で投与され得る。
【0075】
投与の他の形態に適しているさらなる処方物は、経口、鼻腔内、および肺への処方物、坐薬、および経皮的適用を含む。
【0076】
坐薬、結合剤およびキャリアについては、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含む;そのような坐薬は、0.5%〜10%の、好ましくは1%〜2%の範囲の活性な成分を含有する混合物から形成され得る。経口処方物は、薬学的なグレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロースおよび炭酸マグネシウムのような賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、持続性の放出処方物または粉末の形態をとり、そして10%〜95%、好ましくは25%〜70%の活性な成分を含有する。
【0077】
局所的な適用は、経皮的または皮内への送達を生じ得る。局所的な投与は、薬剤とコレラ毒素または解毒誘導体、あるいはそれらのサブユニットまたは他の類似した細菌毒素との同時投与により促進され得る(Glennら、Nature391、851(1998)を参照のこと)。同時投与は、組成物を混合物として、あるいは融合タンパク質の化学的架橋または発現により得られる連結された分子として用いることにより達成され得る。
【0078】
あるいは、経皮的送達は、スキンパス(skin path)の使用またはトランスフェロソーム(transferosome)の使用により達成され得る(Paulら、Eur.J.Immunol.25、3521−24(1995);Cevcら、Biochem.Biophys.Acta1368、201−15(1998))。
【0079】
V.診断の方法
本発明は、アルツハイマー病を患っている、または感受性である患者におけるAβペプチドに対する免疫応答を検出する方法を提供する。この方法は、患者への投与による処置
の経過をモニターするのに特に有用である。この方法は、症状のある患者への治療的処置、および症状のない患者への予防的処置の両方をモニターするために、用いられ得る。
【0080】
いくつかの方法が、薬剤の投薬量を投与する前の患者の免疫応答の底値の決定を伴い、そしてこれと処置後の免疫応答の値との比較を伴う。免疫応答シグナルの値における有意な増加(すなわち、同じサンプルを繰り返し測定することでの実験誤差の代表的な限度より大きい、そのような測定の平均からの任意の標準偏差として表される)は、陽性処置結果(すなわち、薬剤の投与が、免疫応答を達成または増強した)を示す。免疫応答の値が、有意に変化しない、または減少した場合は、陰性の処置結果が示される。一般的に、薬剤による最初の処置過程を受けている患者は、最終的にプラトーになるまで継時的な用量での免疫応答の増加を示すことが予測される。薬剤の投与は、一般的に、免疫応答が増加している間、継続される。プラトーへの到達は、処置による投与が、投薬量または頻度において非継続的または減少となり得る指標である。
【0081】
他の方法において、免疫応答のコントロール値(すなわち、平均および標準偏差)は、コントロール集団によって決定される。代表的には、コントロール集団における個体は、事前の処置を受けていない。次いで、治療薬投与後の患者における免疫応答の測定値は、コントロール値と比較される。コントロール値に対する有意な増加は(例えば、平均からの標準偏差よりも大きい)、陽性の治療結果を示す。有意な増加の欠如または減少は、陰性の処置結果を示す。薬剤の投与は、一般的に、コントロール値に対して免疫応答が明らかに増加している間、継続される。すでに述べたように、プラトーの指標は、処置投与が投薬量または頻度において、非継続的または減少し得る指標においてコントロール値に関連する。
【0082】
他の方法において、免疫応答のコントロール値(例えば、平均および標準偏差)は、治療的薬剤による処置が行なわれた個体のコントロール集団より決定され、その個体の免疫応答は、処置に対する応答がプラトーとなる。患者の免疫応答の測定値は、コントロール値と比較される。患者における測定レベルが、コントロール値と有意に異ならない(例えば、ある標準偏差以上)場合、処置は、中断され得る。患者におけるレベルが、コントロール値より有意に低い場合、薬剤の投与の継続が正当化される。患者におけるレベルが、コントロール値未満で持続する場合は、次いで、処置レジメンの変更、例えば、異なるアジュバントの使用が示され得る。
【0083】
他の方法において、現在処置を受けていないが、以前に処置過程を受けたことがある患者は、処置の再開が必要であるかどうかを決定するために、免疫応答についてモニターされる。患者の免疫応答の測定値は、以前の処置過程後の患者において以前に達成された、免疫応答値と比較され得る。以前の測定値に対する、有意な減少(すなわち、同じサンプルの反復測定の代表的な誤差範囲よりも大きい)は、処置が再開され得る指標である。あるいは、患者の測定値は、処置過程を受けた後の患者の集団において決定された、コントロール値(平均プラス標準偏差)と比較され得る。あるいは、患者の測定値は、疾患の症状を示していない予防的処置された患者の集団におけるコントロール値、または疾患の特徴の改善を示す治療的処置患者の集団におけるコントロール値と比較され得る。これらの全ての場合において、コントロールレベルに対する有意な減少(すなわち、標準偏差より大きい)は、患者の処置が再開されるべきであることの指標である。
【0084】
分析のための組織サンプルは、代表的には、患者からの、血液、血漿、血清、粘液、または脳髄液である。このサンプルは、Aβペプチド、代表的にはAβ42の任意の形態に対する、免疫応答の印について分析される。この免疫応答は、例えば、Aβペプチドに特異的に結合する抗体またはT細胞の存在により決定され得る。Aβに対して特異的な抗体を検出するELISA法を、実施例の節に記載する。T細胞に対する反応性を検出する方
法は、上述した(定義を参照のこと)。
【0085】
本発明はさらに、上述した診断の方法を行なうための診断キットを提供する。代表的には、そのようなキットは、Aβに対する抗体と特異的に結合するか、またはAβに特異的なT細胞と反応する、薬剤を含むキットである。このキットはまた、標識を含む。Aβに対する抗体の検出のために、この標識は、代表的には、標識化された抗イディオタイプの抗体の形態である。抗体検出のための薬剤は、マイクロタイター皿のウェルのような固相に前もって結合して供給され得る。反応性のT細胞の検出のために、標識は、増殖応答の測定のために3H−チミジンとして供給され得る。キットはまた、代表的には、キットの使用法についてラベルに提供された指示書を含む。このラベルはまた、Aβに対する抗体、Aβまたはと反応するT細胞のレベルと、測定した標識のレベルに関係した図表または他の対応するレジメを含み得る。ラベルという用語は、製造、輸送、販売、または使用の間の任意の時期にキットに付属するあるいは付随しない、任意の書面または記録された材料をいう。例えばラベルという用語は、宣伝用パンフレット、および小冊子、パッケージ材料、説明書、オーディオまたはビデオカセット、コンピューターディスク、ならびにキットに直接書かれた印刷を含む。
【実施例】
【0086】
(I.ADに対するAβの予防的効果)
これらの実施例は、アルツハイマー様の神経病理を引き起こす素因となる、717番目の位置に変異を持つAPP(APP717VF)を過剰発現しているトランスジェニックマウスに対するAβ42ペプチドの投与を述べる。これらのマウス(PDAPPマウス)の産生および特徴はGamesら、Nature、前出に述べられている。ヘテロ接合体であるこれらの動物では、6ヶ月齢の前からAβが沈着し始める。15ヶ月齢までにアルツハイマー病で見られるのと同じくらいの程度までAβの沈着を示す。PDAPPマウスに凝集したAβ42(凝集Aβ42)またはリン酸緩衝化生理食塩水を注射した。Aβの複数のエピトープに対して抗体を誘導する能力のために、凝集Aβ42を選択した。
【0087】
(A.方法)
(1.マウスの供給源)
30匹の異型遺伝子型の雌性PDAPPマウスを次のグループに無作為に分けた。10匹には凝集Aβ42を注射(1匹は輸送中に死亡)、5匹にはPBS/アジュバントまたはPBSを注射、そして10匹には注射しないコントロールとした。5匹には血清アミロイドタンパク質(SAP)を注射した。
【0088】
(2.免疫原の調製)
凝集Aβ42の調製:2mgのAβ42(US PeptidesInc、ロット番号K−42−12)を0.9mlの水に溶解し、0.1mlの10×PBSを加えることによって1mlにした。これをボルテックスして、ペプチドが凝集する条件である37℃で一晩インキュベートさせた。未使用のAβは凍結乾燥粉末として−20℃で次の注射まで保管した。
【0089】
(3.注射液の調製)
最初の免疫のために、マウス1匹あたりPBS中に100μgの凝集Aβ42を完全フロイントアジュバント(CFA)と1:1の割合で乳化し、最終的な容量を400μlのエマルジョンとした。次に2週間後に同量の免疫原を不完全フロイントアジュバント(IFA)中で追加免疫した。1ヶ月間隔で、さらに2回の用量をIFA中で投与した。次に1ヶ月間隔で500μlのPBS中で引き続き免疫した。注射は腹腔内(i.p.)に投与した。
【0090】
PBSを同じスケジュールに従って注射し、マウスに1匹あたり400μlのPBS/アジュバントの1:1の混合物、または1匹あたり500μlのPBSを注射した。同様に、SAPを同じスケジュールに従って、1回の注射に100μgの投与量を用いて注射した。
【0091】
(4.マウス血液の力価測定、組織の調製、および免疫組織化学的検査)
上記の方法は後述の一般的な材料および方法において述べる。
【0092】
(B.結果)
PDAPPマウスに凝集したAβ42(凝集Aβ42)、SAPペプチド、またはリン酸緩衝化生理食塩水のどれかを注射した。1グループのPDAPPマウスもポジティブコントロールとして注射せずに残した。凝集Aβ42に対するマウスの力価を、4回目の追加免疫からマウスが1年齢になるまで、1ヶ月おきに測定した。マウスを13ヶ月で屠殺した。調査した全ての時点で、9匹の凝集Aβ42を投与したマウスのうち8匹は高い抗体力価を示し、これは一連の注射の間、高いままであった(1/10000以上の力価)。9匹目のマウスの力価は低かったが、約1/1000の力価にかなり近かった(図1、表1)。SAPPを注射したマウスはこの免疫原に対して1:1,000から1:30,000の力価を示し、1匹のマウスのみが1:100,000を超えた。
【0093】
【表1】

【0094】
PBSで処置したマウスで、6、10、および12ヶ月に凝集Aβ42に対する力価を測定した。1/100の希釈で、PBSマウスの凝集Aβ42に対する力価を測定したとき、1つのデータポイントのみでバックグラウンドの4倍を超える力価を示したが、他の点で
は全ての時点でバックグラウンドの4倍以下であった(表1)。これらの時点で、SAPに特異的な応答はごくわずかであり、全ての力価は300未満であった。
【0095】
凝集Aβ1−42グループの9匹のうち7匹は、脳にアミロイドは検出されなかった。対照的に、SAPおよびPBSグループのマウス由来の脳組織は、海馬ならびに前頭および帯状回(cingulate)皮質に多くの3D6−陽性アミロイド沈着を含んでいた。沈着のパターンは未処置のコントロールのものと同様であり、海馬歯状回の外側分子層のような攻撃されやすい小領域が特徴的に関与している。Aβ1−42を注射したグループの1匹のマウスでは、海馬に限ればアミロイドの生産量が大きく抑制された。別のAβ1−42処置マウスでは孤立したプラークが同定された。
【0096】
海馬におけるアミロイド生産量の定量的画像分析は、AN1792処置動物で劇的な抑制が達成されたことを検証した(図2)。PBSグループ(2.22%)、および未処置のコントロールグループ(2.65%)のアミロイド生産量の中央値は、AN1792で免疫したグループに比べて有意に大きかった(0.00%、p=0.0005)。対照的に、SAPペプチド(SAPP)で免疫したグループの中央値は5.74%であった。未処置のコントロールマウスの脳組織は、海馬および後方板状(retrosplenial)皮質に、Aβ特異的モノクローナル抗体(mAb)3D6で視覚化される多くのAβアミロイド沈着を含んでいた。アミロイド沈着の同様のパターンがSAPPまたはPBSで免疫したマウスにも見られた(図2)。それに加えて、後者の3つのグループにおいては、3つのグループ全てにおいて、典型的にADで見られる、海馬歯状回の外側分子層のような攻撃されやすい脳の小領域が特徴的に関与していた。
【0097】
Aβの沈着を含まない脳は、代表的にヒトAPP抗体8E5によってPDAPPマウスで視覚化される老人斑(neuriticplaques)も全く無かった。残りのグループ(SAP注射、PBS、および注射していないマウス)由来の全ての脳は、未処置のPDAPPマウスに典型的な老人斑を多く含んでいた。AN1792で処置した1匹のマウスに少数の老人斑が存在し、AN1792で処置した2番目のマウスで、異栄養(dystrophic)軸索の集団が1つ見られた。図3に示したように、海馬の画像分析は、AN1792で処置したマウスでは、PBSを注射したマウスに比べて(中央値0.28%、p=0.0005)、事実上異栄養(dystrophic)軸索が排除された(中央値0.00%)ことを実証した。
【0098】
プラークに関連する炎症に特有な星状細胞特性も、Aβ1−42を注射したグループの脳には存在しなかった。他のグループのマウス由来の脳は、Aβプラークに関連するグリオーシスに典型的な、多くの密集したGFAP陽性星状細胞を含んでいた。1組のGFAP反応スライドグラスを、Aβ沈着の局在を見るためにチオフラビンSで対比染色した。SAP、PBS、未処置のコントロールグループでは、GFAP陽性星状細胞はAβプラークと関連していた。プラークの存在しないAβ1−42処置マウスではそのような関連は見られなかったが、AN1792で処置したマウスの1匹で、わずかなプラークに関連したグリオーシスが同定された。
【0099】
後方板状皮質に関しては、図4に示したように、画像分析は、SAPペプチド、PBSで免疫した、または未処置のグループの中央値が6%以上であるのに対して、AN1792で処置したグループの中央値が1.56%であり、星状細胞増加の抑制が有意であることを実証した(p=0.0017)。
【0100】
1組のAβ1−42およびPBSを注射したマウスのサブセットからの証拠は、プラークに関連するMHC II免疫応答性がAβ1−42を注射したマウスには存在しないことを示した。これはAβに関連する炎症性反応が無いことと一致する。
【0101】
マウス脳の切片を、細胞表面タンパク質であるMAC−1特異的mAβとも反応させた。MAC−1(CD11b)はインテグリンファミリーのメンバーでCD18とのヘテロダイマーとして存在する。CD11b/CD18複合体は単球、マクロファージ、好中球、およびナチュラルキラー細胞に存在する(MakおよびSimard)。脳内に存在するMAC−1応答性細胞の型は、MAC−1免疫応答切片における同様な表現型形態に基づくと、小グリア細胞である可能性がある。プラークに関連したMAC−1の標識は、PBSコントロールグループに比べてAN1792で処置したマウスの脳ではより低かった。この結果はAβ誘導による炎症性反応が存在しないことと一致する。
【0102】
(C.結論)
Aβ1−42を注射したマウスの脳においてAβプラークならびに、神経およびグリア細胞の反応性変化が存在しないことは、それらの脳にアミロイドが沈着しないか、ごくわずかなアミロイドしか沈着せず、グリオーシスおよび神経炎の病状のような病的な結果が起こらなかったことを示している。Aβ1−42で処置したPDAPPマウスは、コントロールの非トランスジェニックマウスと本質的に同様な病状の欠如を示している。従って、Aβ1−42の注射は脳組織からのヒトAβの沈着予防または除去、その次に起こる神経性および炎症性変性変化を排除するのに、高い効果がある。従って、Aβペプチドの投与はADの予防に治療的な利益がある。
【0103】
(II.用量反応性試験)
5週齢、雌Swiss Websterマウスのグループ(グループあたりN=6)を、CFA/IFA中で調剤した300、100、33、11、3.7、1.2、0.4、または0.13μgのAβを腹腔内に投与して免疫した。2週間おきに3回投与し、次に1ヵ月後に4回目の投与を行った。最初の投与はCFAで乳化し、残りの投与はIFAで乳化した。抗体力価を測定するために、2回目の投与後から始めて、それぞれの免疫から4−7日後に動物から採血した。11、33、または300μgの抗原で免疫した1組の3グループの動物から、4回目の免疫から約1ヶ月間隔で4ヶ月間、さらに採血して、ワクチンの用量のある範囲にわたって抗体応答の減衰をモニターした。これらの動物には、試験開始後7ヶ月目に最終的な5回目の免疫を行った。それらを1週間後に屠殺し、AN1792に対する抗体応答を測定し、毒性分析を行った。
【0104】
減少する用量反応性は、300から3.7μgまで観察され、最も低用量の2つでは反応が見られなかった。平均抗体力価は、11−300μgの抗原の、3回目の投与後で約1:1000、4回目の投与後で約1:10,000であった(図5参照のこと)。
【0105】
抗体力価は最も低用量のグループを除いた全てにおいて、3回目の免疫後、劇的に増加し、GMTは、5から25倍増加した。次いで、0.4μgを投与したグループにおいてさえ、低い抗体応答が検出された。1.2および3.7μgのグループは同等の力価であり、GMTは約1000であった。33μg用量のグループではGMTが3000と低かったのを除いて、最も高用量の4つのグループはGMTが約25,000で密集していた。4回目の免疫後、力価の増加はほとんどのグループにおいてよりゆるやかになった。0.14μgから11μgまでのより低い抗原用量のグループにおいては明らかな用量反応性があり、0.14μgのグループでの抗体未検出から、11μgのグループでのGMT36,000までの範囲にわたっていた。ここでも、11から300μgの4つの高用量グループの力価は密集していた。従って、次の2回の免疫では、抗体力価は0.4から300μgまでの広い範囲で抗原の用量に依存していた。3回目の免疫までは、4つの高用量グループの力価はすべて同等で、さらなる免疫後もプラトーのままであった。
【0106】
4回目の免疫から1ヶ月後、300μgのグループにおいて、免疫から5日後採血した
血液で測定したものよりも、力価は、2倍から3倍高かった(図6)。この観察は、既往性の抗体応答が最高点に達するのは免疫から5日後以降であることを示唆している。33μgのグループにおいて、この時点でよりゆるやかな(50%)増加が見られた。300μg投与グループにおいて最後の投与から2ヵ月後、GMTは急速に約70%まで減少した。さらに1ヵ月後、減少はより急激ではなくなり45%(100μg)、および33および11μgで約14%であった。従って、免疫中止後の循環している抗体力価の減少率は2相性であり、応答が最高点に達してから最初の1ヶ月は急激に減少し、その後はよりゆるやかな減少率であるようである。
【0107】
これらのSwiss Websterマウスの抗体力価および応答の反応速度論は、対応する方法で免疫した若いヘテロ接合体PDAPPトランスジェニックマウスと同様である。ヒトにおいて免疫応答を引き起こすのに有効な用量は、代表的にはマウスで有効な用量と同様である。
【0108】
(III.確立したADに対する治療的効果のスクリーニング)
免疫原性製剤が老齢動物においてADの神経病理学的な特徴を阻止または逆転させる活性を調べるために、このアッセイを設計する。PDAPPマウスの脳にアミロイドプラークが既に存在する時点から、42アミノ酸長のAβ(AN1792)を用いて免疫を始めた。
【0109】
この試験の期間中、未処置のPDAPPマウスは、ADにおいて見られるものと類似した多くの神経変性変化を起こす(Gamesら、前出、およびJohnson−Woodら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA94、1550−1555(1997))。アミロイドプラークへのAβの沈着は、異栄養(dystrophic)軸索と呼ばれる異常型の軸索および樹状要素を含む変性的な神経反応と関連している。異栄養(dystrophic)軸索に囲まれ、それを含むアミロイド沈着は、老人斑と呼ばれる。ADおよびPDAPPマウスのどちらにおいても、異栄養軸索は区別できる球状の構造を持ち、APPおよび細胞骨格構成要素を認識する一対の抗体に対して免疫応答性であり、超微細構造レベルにおいて、複雑な細胞レベル下の変性変化を示す。これらの特徴は、PDAPPの脳において、疾患に関連する、選択的な、および再現性のある老人斑形成の測定を可能にする。PDAPP老人斑の異栄養性神経構成要素は、ヒトAPPに特異的な抗体(mAβ 8E5)を用いて簡単に視覚化され、コンピューターによる画像分析によって簡単に測定できる。従って、AN1792のアミロイドプラーク形成における効果を測定するのに加えて、我々は軸索の異栄養発達における、この処置の効果をモニターした。
【0110】
星状細胞および小グリア細胞は非神経細胞であり、神経の障害の程度に反応してその程度を反映する。GFAP陽性星状細胞およびMHCII陽性小グリア細胞は一般にADで観察され、疾患の重篤度と共にその活性が増加する。従って、本発明者らは、AN1792処置マウスにおける反応性星状細胞および小グリア細胞の発達もモニターした。
【0111】
(A.材料および方法)
Charles Riverから入手した11から11.5ヶ月齢の、48匹のヘテロ接合体の雌性PDAPPマウスを2つのグループに無作為に分けた。すなわち、24匹のマウスを100μgのAN1792で、24匹のマウスをPBSで、それぞれフロイントアジュバントと組み合せて免疫した。それらが15ヶ月齢に達したとき、AN1792およびPBSのグループを再び分けた。15ヶ月齢の時、AN1792およびPBS処置動物の、それぞれのグループの約半数を安楽死させ(それぞれn=10および9)、残りを18ヶ月で終了するまで免疫し続けた(それぞれn=9および12)。全体で8匹の動物(AN1792で5匹、PBSで3匹)が試験中に死亡した。免疫した動物に加えて、1
年齢(n=10)、15ヶ月齢(n=10)、および18ヶ月齢(n=10)の未処置PDAPPマウスを、脳内のAβおよびAPPレベルを測定するELISAでの比較のために含めた;1年齢の動物を免疫組織化学的分析にも含めた。
【0112】
方法論は、他に示されない限り実施例1と同じであった。US Peptidesのロット番号12、およびCalifornia Peptidesのロット番号ME0339のAN1792を使用して、15ヶ月の時点までに投与する6回の免疫のための抗原を調製した。CaliforniaPeptidesのロット番号ME0339およびME0439を使用して、15ヶ月から18ヶ月の間に投与してさらに3回、免疫した。
【0113】
免疫のために、PBS200μl中100μgのAN1792、またはPBS単独を、完全フロイントアジュバント(CFA)または不完全フロイントアジュバント(IFA)またはPBSと1:1(容量:容量)で乳化し、最終的な容量を400μlとした。最初の免疫はアジュバントとしてCFAと共に投与し、次の4回はIFAと共に投与し、最後の4回はアジュバントを加えずにPBS単独と共に投与した。全体として9回の免疫を7ヶ月間で、最初の3回の投与は2週間おきに、次に残りの注射は4週間おきに投与した。4ヶ月間処置するグループは15ヶ月齢で安楽死させ、最初の6回の免疫のみを行った。
【0114】
(B.結果)
1.アミロイド産生量に対するAN1792処置の効果 定量的画像分析によって決定した皮質のアミロイド産生量に対するAN1792処置の結果を図7に示す。皮質のアミロイド産生量の中央値は、未処置12ヶ月齢PDAPPマウスのグループで0.28%であり、この値は試験開始時のマウスにおけるプラーク産生量をあらわす。18ヶ月で、PBS処置マウスではアミロイド産生量は17倍以上増加して4.87%となったが、AN1792処置マウスではアミロイド産生量が大きく抑制され0.01%だけであり、12ヶ月の未処置、15ヶ月および18ヶ月のPBS処置マウスのグループより著しく低かった。アミロイド産生量はAN1792を投与したもので、15ヶ月(96%の抑制、p=0.003)および18ヶ月(99%以上の抑制、p=0.0002)の両方で有意に抑制された。
【0115】
一般的に、PDAPPマウスにおける皮質のアミロイド沈着は前頭および後方板状皮質(RSC)から始まり、腹側−側面の方向へ進行し側頭および内側嗅領皮質(EC)へ達する。AN1792が最初に投与された年齢に近い、12ヶ月齢のマウスにおいてはECにアミロイドは少ししか見られないか、または全く見られない。AN1792処置の4ヵ月後、アミロイド沈着はRSCにおいて大きく減少し、ECへ達する進行はAN1792処置により完全に排除された。後者の観察は、AN1792が通常側頭および腹側の皮質を侵すアミロイドの進行を完全に停止させること、ならびにRSCにおける沈着を阻止または逆転し得ることを示した。
【0116】
PDAPPマウスにおける皮質アミロイド産生量の発達に対するAN1792処置の著明な効果は、7ヶ月間処置した18ヶ月のグループでさらに示された。皮質アミロイドのほとんど完全な欠如がAN1792処置マウスで見られ、びまん性のプラークが完全に欠如、および密集した沈着が抑制された。
【0117】
(2.AN1792処置に関連する細胞および形態学的な変化)
Aβ陽性細胞の集団は、代表的的にはアミロイド沈着を含む脳の領域に見られた。驚くべきことに、AN1792レシピエント由来のいくつかの脳では、細胞外皮質アミロイドプラークが極めて少ないか、または全く見られなかった。ほとんどのAβ免疫応答性は大きな小葉または凝集体の細胞中に含まれているようであった。表現型では、これらの細胞は活性化した小膠細胞または単球に類似していた。それらは活性化した単球および小膠細
胞に発現されるリガンド(MHCIIおよびCD11b)を認識する抗体に免疫応答性を示し、時折血管壁または内腔に結合していた。AβおよびMHC II特異的抗体を用いて標識した、近接した切片との比較により、これらの細胞の類似したパターンが両方のクラスの抗体により認識されることが明らかになった。AN1792処置した脳の詳細な調査により、MHCII陽性細胞はこれらの動物に残っている、限られたアミロイドの付近に限られることが明らかになった。使用した固定条件化では、細胞はT細胞(CD3、CD3e)またはB細胞(CD45RA、CD45RB)リガンドまたは白血球共通抗原(CD45)を認識する抗体には免疫応答性を示さなかったが、単球と交差反応するロイコシアリン(leukosialin)(CD43)を認識する抗体には反応を示した。どのPBS処置マウスでも、そのような細胞は見られなかった。
【0118】
PDAPPマウスでは、海馬歯状回の外側分子層に必ず高度のアミロイド沈着が起きる。沈着は、ADにおいて典型的にアミロイドプラークを含む小領域である穿孔性(perforant)の経路内に区別できる筋を形成する。PBS処置マウスにおけるこれらの沈着の特徴的な外見は、未処置のPDAPPマウスで以前に述べた特徴と類似していた。アミロイド沈着は、びまん性のものと、連続的な帯状に密集したプラークの両方からなっていた。対照的に、AN1792処置マウス由来の多くの脳では、このパターンは大きく変化していた。海馬のアミロイド沈着はびまん性のアミロイドを含まず、帯状のパターンは完全に崩壊していた。そのかわりに、多くの異常な斑点状の構造が存在した。それらは抗Aβ抗体に反応性であり、そのいくつかはアミロイドを含む細胞のようであった。
【0119】
AN1792処置動物では、細胞外アミロイドの付近にMHC II陽性細胞が頻繁に観察された。AN1792処置マウス由来のいくつかの脳では、Aβ陽性細胞とアミロイドの結合のパターンは非常に類似していた。これらの単球様の細胞の分布は沈着アミロイドの周辺に限られており、Aβプラークが全く無い脳の他の領域には全く存在しなかった。
【0120】
MHC IIおよびMAC I標識切片の定量的画像分析により、PBS群に比べて、AN1792処置マウスのRSCおよび海馬では免疫応答性が増加する傾向があり、海馬でMAC1反応性を測定すると有意であることが明らかになった。
【0121】
これらの結果はプラークを保有する脳の領域で、アミロイドの活発細胞媒介性除去の指標である。
【0122】
(3.Aβレベルに対するAN1792の効果:ELISAによる決定)
(a)皮質のレベル
未処置のPDAPPマウスでは、12ヶ月の皮質における全Aβレベルの中央値は1,600ng/gであり、15ヶ月までに8,700ng/gまで増加した(表2)。18ヶ月時の値は22,000ng/gであり、実験の期間中に10倍以上増加した。PBS処置動物は15ヶ月で全Aβは8,600ng/gであり、18ヶ月で19,000ng/gまで増加した。対照的に、AN1792処置動物では15ヶ月で、PBSで免疫した群に比べて全Aβが81%少なかった(1,600ng/g)。AN1792およびPBS群を比べると18ヶ月で有意に低い(p=0.0001)全Aβ(5,200ng/g)が見られた(表2)。これは他の見方では存在するAβが72%減少したことを示している。同様の結果がAβ42の皮質レベルを比較した時に得られた。すなわち、AN1792処置群はより少ないAβ42を含んだが、この場合、AN1792およびPBS群の差は15ヶ月(p=0.04)および18ヶ月(p=0.0001、表2)の両方で有意であった。
【0123】
【表2】

【0124】
(b)海馬のレベル
未処置のPDAPPマウスでは、12ヶ月齢での海馬における全Aβレベルの中央値は15,000ng/gであり、15ヶ月で51,000ng/g、および18ヶ月でさらに81,000ng/gまで増加した(表3)。同様に、PBSで免疫したマウスでは15ヶ月および18ヶ月でそれぞれ40,000ng/gおよび65,000ng/gの値を示した。AN1792で免疫した動物はより少ない全Aβを示し、具体的には15ヶ月および18ヶ月の時点で、それぞれ25,000ng/gおよび51,000ng/gであった。18ヶ月のAN1792処置群の値は、PBS処置群の値に比べて有意に低かった(p=0.0105、表3)。Aβ42の測定は同じパターンの結果を示した。すなわち18ヶ月の評価では、AN1792処置群のレベルはPBS群より有意に低かった(それぞれ39,000ng/g対57,000ng/g、p=0.0022)(表3)。
【0125】
【表3】

【0126】
(c)小脳のレベル
12ヶ月の未処置PDAPPマウスでは、小脳における全Aβレベルの中央値は15ng/gであった(表4)。15ヶ月では、この中央値は28ng/gまで増加し、18ヶ月までには35ng/gまで増加した。PBS処置マウスでは、全Aβ値の中央値は、15ヶ月で21ng/g、および18ヶ月で43ng/gであった。AN1792処置動物では15ヶ月で全Aβは22ng/gであり、18ヶ月では対応するPBS群に比べて有意に低い(p=0.002)全Aβであった(25ng/g)(表4)。
【0127】
【表4】

【0128】
(4.APPレベルにおけるAN1792処置の効果)
APP−αおよび全長のAPP分子はどちらも、Aβ配列の全てまたは一部を含み、従ってAN1792特異的免疫応答の生成によって、潜在的に影響を受け得る。現在までの研究では、PDAPPマウスにおける神経病理学的な増加として、APPレベルのわずかな増加が言及されている。皮質においては、APP−α/FL(全長)またはAPP−αどちらかのレベルは、処置によって本質的には変化しなかった。例外として18ヶ月の時点でAN1792処置群において、PBS処置群に比べてAPP−αが19%減少された。18ヶ月におけるAN1792処置群のAPPの値は、未処置群の12ヶ月および15ヶ月、ならびにPBS群の15ヶ月の値とは有意に違わなかった。全ての場合で、APPの値はPDAPPマウスで正常に見られる範囲内にとどまった。
【0129】
(5.神経変性および神経膠症の病状におけるAN1792処置の効果)
神経炎性局面過重は、15ヶ月齢(84%、p=0.03)および18ヶ月齢(55%、p=0.01)の両方で、PBS群に比べてAN1792処置マウスの前頭皮質で有意に減少した(図8)。神経炎性局面過重の中央値は、PBS群で15ヶ月と18ヶ月との間に0.32%から0.49%まで増加した。これと対照的に、AN1792群では神経炎性局面の発達が大きく減少し、神経炎性局面過重の中央値は、15ヶ月および18ヶ月の群でそれぞれ0.05%および0.22%であった。
【0130】
AN1792による免疫はよく耐用性があるようであり、反応性星状細胞もまた、PBS群と比べると、15ヶ月齢(56%、p=0.011)および18ヶ月齢(39%、p=0.028)の両方で、AN1792処置マウスのRSCで有意に減少した(図9)。PBS群における星状細胞の割合の中央値は、15ヶ月と18ヶ月との間に4.26%から5.21%に増加した。AN1792処置は、両方の時点でそれぞれ1.89%および3.2%まで星状細胞増加の発達を抑制した。これは神経網が除去の過程で損傷していなかったことを示唆している。
【0131】
(6.抗体応答)
上記で述べたように、11ヶ月齢のヘテロ接合性のPDAPPマウス(N=24)に、フロイントアジュバントで乳化した100μgのAN1792を用いて一連の免疫を5回行った。0、2、4、8、および12週に腹腔内に投与し、16週にPBS単独(フロイントアジュバントなし)で6回目の免疫を行った。ネガティブコントロールとして、並行して1組の24匹の月齢を一致させたトランスジェニックマウスを、同じアジュバントで乳化したPBSを用いて、同じスケジュールで投与して免疫した。2回目の投与後から始めて、それぞれの免疫後3から7日以内に動物から採血した。AN1792に対する抗体反応をELISAによって測定した。AN1792で免疫した動物の相乗平均力価(GMT)は、2回目、3回目および最後(6回目)の投与後それぞれ約1,900、7,60
0、および45,000であった。コントロールの動物では6回目の免疫後、Aβ特異的な抗体は測定されなかった。
【0132】
約半数の動物をさらに3ヶ月処置し、約20、24、および27週に免疫した。これらはそれぞれPBSビヒクル単独でフロイントアジュバント無しで投与した。平均抗体力価はこの期間中変化しなかった。実際、抗体力価は5回目から9回目の注射の時期に対応する4回目から8回目の採血まで安定したままのようであった。
【0133】
AN1792処置マウスの血清に検出される、免疫によって惹起されたAβ特異的抗体もまた、沈着した脳のアミロイドと関連しているかどうかを決定するために、AN1792およびPBS処置マウス由来の一組の切片を、マウスIgGに特異的な抗体と反応させた。PBS群とは対照的に、AN1792処置した脳のAβプラークは内因性のIgGで覆われていた。この2つの群の間の違いは15ヶ月および18ヶ月の群で見られた。特に印象的なのは、PBS群のマウスでは重度なアミロイド産生が存在するにもかかわらず、これらの群で標識が欠如していることであった。これらの結果は合成Aβタンパク質を用いた免疫は、インビボでアミロイドプラーク中のAβを認識し、結合する抗体を産生することを示している。
【0134】
(7.細胞媒介性の免疫応答)
9匹のAN1792で免疫した、および12匹のPBSで免疫した18ヶ月齢のPDAPPマウスから、9回目の免疫から7日後に脾臓を取り出した。脾臓細胞を単離し、Aβ40、Aβ42、またはAβ40−1(逆順のタンパク質)の存在下で72時間培養した。マイトジェンConAをポジティブコントロールとして使用した。1.7μMより多いタンパク質で最高の応答が得られた。9匹全てのAN1792処置動物由来の細胞は、Aβ1−40またはAβ1−42タンパク質のどちらかに応答して増殖し、どちらのタンパク質に対しても同じレベルの取り込みを示した(図10、上のパネル)。Aβ40−1逆向きタンパク質に対する反応は無かった。コントロール動物由来の細胞はどのAβタンパク質にも反応しなかった(図10、下のパネル)。
【0135】
(C.結論)
この研究の結果は、アミロイド沈着が存在するPDAPPマウスをAN1792で免疫すると、アミロイド沈着の進行を遅くし、および阻止し、その次に起こる老齢PDAPPマウスの脳内での神経病理学的な変化を遅らせることを示している。AN1792を用いた免疫は、アミロイドが通常アミロイドーシスへと至る構造に発展するのを本質的に停止させた。従って、Aβペプチドの投与はADの処置に処置上の利益がある
(IV.Aβフラグメントのスクリーニング)
9〜11ヶ月齢の100匹のPDAPPマウスを、9つの異なったAPPおよびAβの領域で免疫し、どのエピトープが応答を伝達するのか決定する。9つの異なった免疫原および1つのコントロールを、上記で述べたようにi.p.で投与する。免疫原は、すべてシスチン結合によってヒツジ抗マウスIgGと結合している4つのヒトAβペプチド結合体1−12、13−28、32−42、1−5、およびAPPポリペプチドaa592−695、凝集ヒトAβ1−40、および凝集ヒトAβ25−35、および凝集げっ歯類Aβ42を含む。凝集Aβ42およびPBSをコントロールとして使用する。1つの処置群あたり10匹のマウスを使用する。力価を上記のように測定し、注射の4ヶ月後マウスを安楽死させる。組織化学、Aβレベル、および毒性を死後に決定する。
【0136】
(A.材料および方法)
(1.免疫原の調製)
結合Aβペプチドの調製:4つのヒトAβペプチド結合体(アミノ酸残基1−5、1−12、13−28、および33−42、それぞれヒツジ抗マウスIgGに結合している)
を、架橋剤スルホEMCSを用いてAβペプチドに加えた人工的なシステインにより結合することによって調製した。Aβペプチド誘導体を、次の最終的なアミノ酸配列で合成した。それぞれの場合で挿入したシステイン残基の位置を下線で示す。示されているように、Aβ13−28ペプチド誘導体は、カルボキシル末端のシステインの前に加えられた2つのグリシン残基を有した。
【0137】
Aβ1−12ペプチド NH2−DAEFRHDSGYEVCCOOH Aβ1−5ペプチド NH2−DAEFRC COOHAβ33−42ペプチド NH2−C−アミノ−ヘプタン酸−GLMVGGVVIACOOH Aβ13−28ペプチド Ac−NH−HHQKLVFFAEDVGSNKGGC−COOH。
【0138】
結合反応を準備するために、10mgのヒツジ抗マウスIgG(JacksonImmunoResearch Laboratories)を10mMのホウ酸ナトリウム緩衝液、pH8.5に対して一晩透析した。透析した抗体を次にAmicon Centriprepチューブを用いて容量2mlまで濃縮した。10mgのスルホ−EMCS[N(ε−maleimidocuproyloxy)succinimide](MolecularSciences Co.)を1mLの脱イオン水に溶解した。40倍モル過剰のスルホ−EMCSを攪拌しながらヒツジ抗マウスIgGに1滴ずつ加え、次に溶液をさらに10分間攪拌する。活性化されたヒツジ抗マウスIgGを、0.1MのNaPO4、5mMのEDTA、pH6.5で平衡化した10mLのゲル濾過カラム(PiercePresto Column、PierceChemicalsから入手)に通して精製し、緩衝液を交換した。280nmでの吸光度で同定された抗体を含む画分をプールして、吸光係数として1.4mg/ODを用いて約1mg/mLの濃度まで希釈した。40倍モル過剰のAβペプチドを20mLの10mM NaPO4、pH8.0に溶解した。例外として、Aβ33−42ペプチドは10mgを最初に0.5mLのDMSOに溶解して、次に10mMのNaPO4緩衝液で20mLに希釈した。ペプチド溶液をそれぞれ10mLの活性化ヒツジ抗マウスIgGに加え、室温で4時間振とうした。得られた結合体を、最終的な容量が10mL未満になるまで、AmiconCentriprepチューブを用いて濃縮し、次にPBSに対して透析して緩衝液を交換し、遊離のペプチドを除去した。結合体を滅菌のために0.22μサイズの穴をもつフィルターに通し、次に1mgのアリコートに分けて−20℃で凍結保存した。結合体の濃度はBCAタンパク質アッセイ(PierceChemicals)を使用して、標準曲線にウマIgGを用いて決定した。結合は、活性化ヒツジ抗マウスIgGの分子量と比較した、結合ペプチドの分子量の増加によって証明した。Aβ1−5ヒツジ抗マウス結合体は2つの結合のプールであり、他は1回の調製で作られた。
【0139】
(2.凝集Aβペプチドの調製)
ヒト1−40(AN1528;California Peptides Inc.、ロット番号ME0541)、ヒト1−42(AN1792;CaliforniaPeptides Inc.、ロット番号ME0339およびME0439)、ヒト25−35、およびげっ歯類1−42(California Peptides Inc.、ロット番号ME0218)ペプチドを、それぞれの組の注射を調製するために、−20℃で乾燥して保存してあった凍結乾燥粉末から新しく可溶化した。この目的のために、2mgのペプチドを0.9mlの脱イオン水に加え、混合物をボルテックスして比較的均一な溶液または懸濁液を作成した。4つのうち、AN1528のみがこの段階で可溶性のペプチドであった。次に、10×PBS(1×PBS:0.15M NaCl、0.01M リン酸ナトリウム、pH7.5)の100μlのアリコートを、AN1528が沈殿し始めた時点で加えた。懸濁液を再びボルテックスして翌日使用するために37℃で一晩インキュベートした。
【0140】
pBx6タンパク質の調製:100アミノ酸のバクテリオファージMS−2ポリメラーゼN末端リーダー配列の次に、APPの592−695アミノ酸(βAPP)からなる融合タンパク質であるpBx6をコードする発現プラスミドを、Oltersdorfら、J.Biol.Chem.265、4492−4497(1990)によって記載されるように構築した。プラスミドをE.coliにトランスフェクトし、タンパク質をプロモーターの誘導後発現させた。細菌を8Mの尿素中で溶菌し、pBx6を分離用SDSPAGEによって部分的に精製した。pBx6を含む画分を、ウサギ抗pBx6ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットによって同定し、プールし、AmicomCentriprepチューブを用いて濃縮してPBSに対して透析した。クーマシ−ブルー染色SDSPAGEによって判断した調製物の純度は約5から10%であった。
【0141】
(B.結果および考察)
(1.実験計画)
100匹の雄および雌、9から11ヶ月齢のヘテロ接合性のPDAPPトランスジェニックマウスを、CharlesRiver LaboratoryおよびTaconicLaboratoryから入手した。マウスを10の群に分けて、フロイントアジュバントと組み合せたAβまたはAPPの異なった領域で免疫した。動物は動物の性別、月齢、血統および供給源が群内でできるだけ近くなるように分けた。免疫原は、それぞれヒツジ抗マウスIgGと結合したヒト配列由来の4つのAβペプチド、1−5、1−12、13−28、および33−42;4つの凝集Aβペプチド、ヒト1−40(AN1528)、ヒト1−42(AN1792)、ヒト25−35、およびげっ歯類1−42;およびAPPアミノ酸残基592−695を含むpBx6と呼ばれる融合ポリペプチドを含んだ。10番目の群はコントロールとしてアジュバントと組み合せたPBSで免疫した。
【0142】
それぞれの免疫のために、200μlのPBS中の、100μgのそれぞれのAβペプチド、または同じ容量のPBS中の、200μgのAPP誘導体pBx6、またはPBS単独を、完全フロイントアジュバント(CFA)と1:1(容量:容量)の割合で乳化し、最初の免疫のために最終的な容量を400μlとした。次に、次の4回の投与のために不完全フロイントアジュバント(IFA)中の同量の免疫原で追加免疫し、最後にPBSで免疫した。免疫は腹腔内投与で行い、最初の3回の投与は2週間おき、その後は1ヶ月おきのスケジュールで投与した。抗体力価を測定するために、2回目の投与後から始めてそれぞれの免疫から4から7日後に動物から採血した。動物を最後の投与から約1週間後に安楽死させた。
【0143】
(2.脳におけるAβおよびAPPのレベル)
様々なAβペプチドまたはAPP誘導体で免疫してから約4ヵ月後、生理食塩水で灌流した動物から脳を取り出した。半球の一つを免疫組織化学的分析のために調製し、そしてもう1つをAβおよびAPPレベルを定量するために使用した。様々な形態のベータアミロイドペプチドおよびアミロイド前駆体タンパク質の濃度を測定するために、この半球を解剖し、そして海馬、皮質、および小脳領域のホモジネートを5Mグアニジン中で調製した。これらを希釈し、そしてアミロイドまたはAPPのレベルをELISAフォーマットで、既知の濃度の標準AβペプチドまたはAPPの、一連の希釈液と比較して定量した。
【0144】
PBSで免疫したコントロールグループの総Aβ濃度の中央値は、皮質中に比べて海馬中で5.8倍より高かった(皮質では4,211ng/gであるのに比べて海馬組織での中央値は24,318ng/g)。コントロールグループの小脳における中央値レベル(23.4ng/g組織)は海馬より約1,000倍低かった。これらのレベルは、我々が以前にこの月齢のヘテロ接合体のPDAPPトランスジェニックマウスで報告したものと同様である(Johnson−Woodら、1997、前出)。
【0145】
皮質については、処置グループのサブセットでは総AβおよびAβ1−42レベルの中央値は、コントロールグループの値と有意に違っていた(p<0.05)。AN1792、げっ歯類Aβ1−42、またはAβ1−5ペプチド結合体を投与した動物の値を図11に示す。これらの処置グループでは、コントロールに比べて総Aβレベルの中央値はそれぞれ75%、79%、および61%減少した。どのグループにおいても、Aβ特異的抗体の力価と、脳の皮質領域におけるAβレベルとの間には識別し得る相関関係は認められなかった。
【0146】
海馬においては、AN1792処置に伴う総Aβの中央値の減少は(46%、p=0.0543)、皮質で見られたほど(75%、p=0.0021)大きくなかった。しかし、減少の大きさは海馬において皮質におけるよりはるかに大きく、海馬では正味の減少が11,186ng/g組織であったのに対して、皮質では3,171ng/g組織であった。げっ歯類Aβ1−42またはAβ1−5を投与した動物のグループでは、総Aβレベルの中央値はそれぞれ36%および26%減少した。しかし、グループの大きさが小さいこと、および両方のグループ内で動物によってアミロイドペプチドのレベルが大きく変動することのために、これらの減少は有意ではなかった。海馬でAβ1−42レベルを測定した場合、処置で誘導された減少はどれも有意ではなかった。従って、皮質でのAβ負荷がより低いために、この領域での変化はより高感度の処置効果の指標である。皮質においてELISAで測定されたAβレベルの変化は同様であるが、免疫組織化学的分析からの結果によれば同じではない(下記参照)。
【0147】
総Aβを、代表的にはADの病状においては影響されない領域である小脳でも測定した。様々なAβペプチドまたはAPP誘導体で免疫したどのグループにおけるAβ濃度の中央値も、脳のこの領域におけるコントロールグループの値と違わなかった。この結果は非病理学的なAβのレベルは処置によって影響されないことを示唆している。
【0148】
処置およびコントロールマウス由来の皮質および小脳において、APP濃度もまた、ELISAによって決定した。2つの異なったAPPアッセイを利用した。APP−α/FLと呼ばれる最初のものは、APPアルファ(α、Aβ配列の中で切断されたAPPの分泌形態)およびAPPの全長形態(FL)の両方を認識するが、その一方2番目のものはAPP−αのみを認識する。処置グループのサブセットにおける処置にともなうAβの減少とは対照的に、APPレベルはすべての処置グループにおいてコントロール動物と比べて変化しなかった。これらの結果はAβペプチドを用いた免疫はAPPを枯渇させず、どちらかと言えば処置効果はAβに特異的であることを示している。
【0149】
まとめると、総AβおよびAβ1−42レベルは、AN1792、げっ歯類Aβ1−42、またはAβ1−5結合体を用いた処置により、皮質において有意に減少した。海馬においては、総Aβは、AN1792処置によってのみ有意に減少した。海馬、皮質、または小脳領域における、処置に伴う他のどのAβまたはAPPレベルの変化も有意ではなかった。
【0150】
(2.組織化学的分析)
6グループのサブセット由来の脳を免疫組織化学的分析のために調製した。Aβペプチド結合体Aβ1−5、Aβ1−12、およびAβ13−28で免疫した3つのグループ、全長Aβ凝集物AN1792およびAN1528で免疫した2つのグループ、およびPBSで処置したコントロールグループである。これらのグループからの脳切片におけるアミロイド負荷のイメージ分析の結果を図12に示す。コントロール動物に比べて、3つの処置グループの皮質領域においてアミロイド負荷の有意な減少がみられた。アミロイド負荷の一番大きな減少はAN1792を投与したグループで観察され、平均値は97%減少した(p=0.001)。AN1528(95%、p=0.005)およびAβ1−5ペプ
チド結合体(67%、p=0.02)で処置した動物においても有意な減少が観察された。
【0151】
ELISAによる総AβまたはAβ1−42の定量から得られた結果と、イメージ分析によるアミロイド負荷から得られた結果はいくらか違っている。AN1528による処置は、定量的イメージ分析によって測定した場合は皮質アミロイド負荷のレベルに有意な影響を与えたが、ELISAで測定した場合同じ領域で総Aβ濃度に有意な影響を与えなかった。これら2つの結果の相違は、アッセイの特異性によるものと思われる。イメージ分析はプラークに凝集した不溶性のAβのみを測定する。対照的に、ELISAは、全ての形態のAβ、可溶性および不溶性、単量体および凝集体の両方を測定する。疾患の病状は不溶性のプラーク結合形態のAβと関連していると考えられるので、処置効果を示すためにはイメージ分析技術のほうがより高い感受性を持ち得る。しかし、ELISAはより速く、かつより簡単なアッセイであるので、スクリーニングの目的には非常に有用である。その上、それは処置に関連するAβの減少は、総Aβよりもプラーク結合形態についてより大きいことを明らかにし得る。
【0152】
処置した動物において、免疫によって誘発されたAβ特異的抗体が、沈着した脳アミロイドと反応したか否かを決定するために、処置マウスおよびコントロールマウス由来の切片のサブセットをマウスIgGに特異的な抗体と反応させた。PBSグループとは対照的に、Aβペプチド結合体Aβ1−5、Aβ1−12、およびAβ13−28;および全長Aβ凝集物AN1792、およびAN1528で免疫した動物では、Aβを含むプラークは内因性のIgGで覆われていた。他のAβペプチドまたはAPPペプチドpBx6で免疫した動物由来の脳はこのアッセイでは分析されなかった。
【0153】
(3.抗体力価の測定)
第2回目の免疫の後から始めて、それぞれの免疫から4から7日後にマウスから採血し、全部で5回採血した。抗体力価を、Aβ1−42結合抗体として、Aβ1−42でコートしたプラスチックマルチウェルプレートでサンドイッチELISAを用いて測定した。図13に示したように、最も高い力価のAN1792特異的抗体を誘発した4つのワクチンでは、第4回目の投与後にピークの抗体力価が誘発された。すなわち、AN1792(GMTピーク値:94,647)、AN1528(GMTピーク値:88,231)、Aβ1−12結合体(GMTピーク値:47,216)およびげっ歯類Aβ1−42(GMTピーク値:10,766)であった。これらのグループにおける力価は、第5回目および6第回目の用量後にいくらか減少した。残りの5つの免疫原では、第5回目または第6回目の用量後にピーク力価に達し、そしてこれらは4つの最も高い力価を示すグループの値よりもかなり低かった。すなわち、Aβ1−5結合体(GMTピーク値:2,356)、pBx6(GMTピーク値:1,986)、Aβ13−28結合体(GMTピーク値:1,183)、Aβ33−42結合体(GMTピーク値:658)、Aβ25−35(GMTピーク値:125)であった。同じELISAサンドイッチフォーマットを用い、免疫原のサブセット、Aβ1−5、Aβ13−28、Aβ25−35、Aβ33−42またはげっ歯類Aβ1−42で免疫したグループについて、相同性ペプチドに対する抗体の力価もまた測定した。これらの力価はAβ1−42に対して測定した力価とほぼ同じであったが、例外としてげっ歯類Aβ1−42免疫原について相同性免疫原に対する抗体力価が約2倍高かった。個々の動物のAN1792特異的抗体力価の大きさまたは処置グループの平均値は、皮質におけるAβの減少として測定される効力と相関しなかった。
【0154】
(4.リンパ球増殖反応)
Aβ依存的リンパ球増殖を、最後の6回目の免疫から約1週間後に採取した脾臓細胞を用いて測定した。ウェルあたり105個の新しく採取した細胞を、刺激のために5μMの濃度のAβ1−40存在下で5日間培養した。10グループのうち7グループのサブセッ
ト由来の細胞は、逆ペプチドAβ40−1の存在下でも培養した。ポジティブコントロールとして、追加の細胞をT細胞分裂促進剤であるPHAと共に培養し、そしてネガティブコントロールとしてペプチドを加えずに細胞を培養した。
【0155】
大部分の動物由来のリンパ球はPHAに応答して増殖した。Aβ40−1逆ペプチドに対しては有意な応答はなかった。より大きく凝集したAβペプチド、AN1792、げっ歯類Aβ1−42およびAN1528で免疫した動物由来の細胞は、Aβ1−40で刺激した場合強く増殖し、AN1792のレシピエントにおいて最も高いcpmを示した。Aβ1−12結合体、Aβ13−28結合体およびAβ25−35で免疫したそれぞれのグループにおける1匹の動物は、Aβ1−40に応答して増殖した。Aβ1−5結合体、Aβ33−42結合体、pBx6またはPBSを投与した残りのグループでは、Aβ刺激による応答を示した動物はいなかった。これらの結果を下記の表5にまとめる。
【0156】
【表5】

【0157】
これらの結果はAN1792およびAN1528は、T細胞応答、おそらくはCD4+表現型を強く刺激することを示している。より短いペプチドは時にはより少ない効力で機能し得るが、CD4+T細胞によって認識されるペプチドエピトープは通常約15アミノ酸の長さであるので、Aβ1−5で免疫した動物においてAβ特異的T細胞応答が見られないことは、驚くべきことではない。従って、4つの結合体ペプチドに対するヘルパーT細胞エピトープの大部分は、おそらくAβ領域ではなくIgG結合体のパートナー内にあると思われる。この仮説は、これらの処置グループそれぞれの動物における増殖応答の発生率が非常に低いことによって支持される。Aβ特異的T細胞が明らかに欠如した状態で、Aβ1−5結合体は、脳内のAβレベルを有意に減少するのに有効であったので、このペプチドを用いた免疫により誘導される免疫応答の鍵となるエフェクターは抗体であろう。
【0158】
Aβ残基を全て含むAPPアミノ酸592−695を含む融合ペプチドpBx6からのT細胞の欠如および低い抗体応答は、この特定の調製物の低い免疫原性が原因であり得る。Aβ25−35凝集物の低い免疫原性は、ペプチドが小さすぎて抗体応答を誘発するのを助ける良好なT細胞エピトープを含まない可能性があるためであろう。このペプチドをキャリアタンパク質と結合させれば、おそらくより免疫原性が高い。
【0159】
(V.受動的な保護のためのポリクローナル抗体の調製)
20匹の非トランスジェニックマウスを、Aβまたは他の免疫原を用い、必要に応じてアジュバントを加えて免疫し、4−5ヶ月で安楽死させる。免疫したマウスから血液を採集する。必要に応じてIgGを他の血液成分から分離する。免疫原に特異的な抗体は、アフィニティークロマトグラフィーで部分的に精製し得る。マウスあたり平均約0.5−1mg、全体で5−10mgの免疫原特異的抗体が得る。
【0160】
(VI.Aβに対する抗体を用いた受動免疫)
7−9ヶ月齢のPDAPPマウスのグループに、それぞれPBS中の0.5mgのポリクローナル抗Aβ抗体、または特異的抗Aβモノクローナル抗体を下記に示すように注射する。全ての抗体製剤をエンドトキシンレベルが低くなるように精製する。Aβのフラグメントまたはより長い形態をマウスに注射して、ハイブリドーマを調製し、そしてこのハイブリドーマを、望ましいAβの所望のフラグメントに特異的に結合してAβの他の重複しないフラグメントに結合しない抗体に関してスクリーニングし、フラグメントに対するモノクローナル抗体を調製し得る。
【0161】
【表6】

【0162】
Aβ42または他の免疫原に対して、ELISA力価で測定される循環抗体濃度を、ELISAで規定される1/1000より大きくに保つために、4ヶ月間以上に亘って必要な時にマウスにip注射する。力価を上記のようにモニターし、そしてマウスを注射の4ヶ月後安楽死させる。組織化学、Aβレベルおよび毒性を死後に試験する。1グループあたり10匹のマウスを使用する。
【0163】
(VII.異なるアジュバントの比較)
この実施例はCFA、ミョウバン、水中油型エマルジョンおよびMPLを、免疫応答を刺激する能力に関して比較する。
【0164】
(A.材料および方法)
(1.実験計画)
Elm Hillから入手した100匹の雌Hartley種、6週齢のモルモットを10グループに分け、AN1792またはそのパルミトイル化誘導体で、様々なアジュバントと組み合せて免疫した。7グループにはAN1792(明記しなければ33μg)を、a)PBS、b)フロイントアジュバント、c)MPL、d)スクアレン、e)MPL/ス
クアレン、f)低用量のミョウバン、またはg)高用量のミョウバン(300μgのAN1792)と組み合せて注射した。2グループには、AN1792のパルミトイル化誘導体(33μg)を、a)PBS、またはb)スクアレンと組み合せて注射した。最後に、10番目のグループには抗原または追加のアジュバント無しにPBS単独を投与した。フロイントアジュバントを投与したグループでは、最初の用量はCFAと乳化し、そして残りの4回の用量はIFAと乳化した。高用量のミョウバングループに300μgのAN1792を投与した以外は、全てのグループに抗原を33μgの用量で投与した。注射はCFA/IFAは腹腔内、そして他の全てのグループでは左右交互の後足四頭筋に筋肉内投与した。最初の3回の用量は2週間おきのスケジュールで投与し、次に2回の用量を1ヶ月おきに投与した。抗体力価を測定するために、2回目の投与後から始めて、それぞれの免疫から6から7日後に採血した。
【0165】
(2.免疫原の調製)
2mgのAβ42(California Peptide、ロット番号ME0339)を0.9mlの脱イオン水に加え、そしてこの混合物をボルテックスして比較的均一な懸濁液を作成した。10×PBS(1×PBSは、0.15M NaCl、0.01Mリン酸ナトリウム、pH7.5)の100μlのアリコートを加えた。この懸濁液を再びボルテックスし、そして翌日使用するために37℃で一晩インキュベートした。未使用のAβ1−42は乾燥剤と共に凍結乾燥粉末として−20℃で保存した。
【0166】
フッ化水素酸処理によって樹脂から発生期の(nascent)ペプチドを除去する前に、ジメチルホルムアミドに溶解したパルミチン酸無水物を、AN1792のアミノ末端残基に結合させることによって、AN1792のパルミトイル化誘導体を調製した。
【0167】
最初の免疫のために、完全フロイントアジュバント(CFA)を用いたワクチン用量を調製するために(グループ2)、200μlのPBS中、33μgのAN1792をCFAと1:1(容量:容量)の割合で乳化して、最終的な容量を400μlとした。後の免疫のために、抗原を、不完全フロイントアジュバント(IFA)と同様に乳化した。
【0168】
グループ5および8のMPLを用いたワクチン用量を調製するために、凍結乾燥粉末(RibiImmunoChem Research, Inc.、Hamilton、MT)を、0.2%トリエチルアミン水溶液に最終的な濃度が1mg/mlになるように加え、ボルテックスした。この混合物を65から70℃まで30秒間温めて、わずかに不透明な均一なミセル懸濁液を作成した。この溶液は、各セットの注射のために用時調製した。グループ5の各注射のために、16.5μlのPBS中33μgのAN1792、50μgのMPL(50μl)および162μlのPBSを、ホウ珪酸塩チューブ中で使用の直前に混合した。
【0169】
水中低油型エマルジョンを用いたワクチン用量を調製するために、PBS中のAN1792を、5%スクアレン、0.5%Tween80、PBS中0.5%Span 85に加え、最終の1回の用量の濃度が250μl中で33μgのAN1792となるようにした(グループ6)。この混合物を、15から20回、顕微鏡で見た時エマルジョンの粒子が直径1.0μmの標準ラテックスビーズと同じくらいの直径に見えるまで2チャンバの手持デバイスに通して乳化した。その結果できた懸濁液はオパールのような光彩を放つ(opalescent)乳白色であった。このエマルジョンは、各一連の注射のために用時調製した。グループ8については、上記で述べたように乳化するために、0.2%トリエチルアミン中のMPLを、スクアレンおよび界面活性剤の混合物に、用量あたり50μgの濃度で加えた。パルミトイル誘導体については(グループ7)、用量あたり33μgのパルミトイル−NH−Aβ1−42をスクアレンに加え、そしてボルテックスした。次にTween80およびSpan 85をボルテックスしながら加えた。この混合物を、
PBSに、最終的な濃度が5%のスクアレン、0.5%のTween 80、0.5%のSpan 85となるように加え、そしてこの混合物を上記で述べたように乳化した。
【0170】
ミョウバンを用いたワクチン用量を調製するために(グループ9および10)、PBS中のAN1792をAlhydrogel(水酸化アルミニウムゲル、Accurate、Westbury、NY)に加え、最終用量容積250μl中、5mgのミョウバンあたり33μg(低用量、グループ9)または300μg(高用量、グループ10)のAN1792濃度になるようにした。この懸濁液を室温で4時間、静かに攪拌した。
【0171】
(3.抗体力価の測定)
2回目の免疫後から始めて、免疫の6から7日後にモルモットから採血し、全部で4回採血した。Aβ42に対する抗体力価を一般的な材料および方法で述べたようにELISAで測定した。
【0172】
(4.組織の調製)
約14週後、全てのモルモットにCO2を投与した。脳脊髄液を採取し、そして脳を取り出して、3つの脳領域(海馬、皮質および小脳)を解剖して総Aβタンパク質の濃度をELISAで測定するために使用した。
【0173】
(B.結果)
(1.抗体応答)
免疫後AN1792に対する抗体応答として測定される場合、種々のアジュバントの強度(potency)の広範な範囲が存在した。図14に示すように、AN1792をPBS中で投与した場合、2または3回の免疫後には抗体は検出されず、そして4回目および5回目の投与後にわずかな応答が検出され、相乗平均力価(GMT)はわずかに約45であった。o/wエマルジョンは3回目の投与後に大きくない力価(GMT255)を誘導し、この力価は4回目の投与後に維持され(GMT 301)、そして最後の投与で減少した(GMT 54)。ミョウバンに結合したAN1792に関しては明らかな抗原用量応答が存在し、300μgは33μgに比べて全ての時点でより免疫原性であった。4回目の免疫後の、抗体応答のピーク点では、2つの投与間の差は43%、GMTは約1940(33μg)および3400(300μg)であった。33μgのAN1792プラスMPLに対する抗体応答は、ミョウバンに結合した約10倍高用量の抗原(300μg)で生じる応答と非常に類似していた。o/wエマルジョンにMPLを加えると、MPLを単独のアジュバントとして使用した時に比べて75%ほどワクチンの強度が減少した。AN1792のパルミトイル化誘導体は、PBS中で投与した場合に完全に非免疫原性であり、そしてo/wエマルジョン中で提示した場合大きくない力価を示して、3回目および4回目の採血についてGMTは340および105であった。最も高い抗体力価はフロイントアジュバントで産生され、GMTのピーク値は約87,000で、2つの次に最も強力なワクチンであるMPLおよび高用量AN1792/ミョウバンの約30倍大きい値であった。
【0174】
この研究で同定された最も有望なアジュバントは、MPLおよびミョウバンである。これら2つのうち、ミョウバンで得られるのと同じ抗体応答を起こすのに必要な抗原投与量が10倍低いので、MPLが好ましいようである。抗原および/またはアジュバントの用量を増すことによって、および免疫のスケジュールを最適化することによって、応答を増加し得る。o/wエマルジョンはAN1792の非常に弱いアジュバントであり、そしてMPLアジュバントにo/wエマルジョンを加えると、MPL単独での本来のアジュバント活性が減少した。
【0175】
(2.脳内のAβレベル)
約14週でモルモットを深く麻酔し、群のサブセットであるフロイントアジュバント(群2)、MPL(群5)、高用量のAN1792300μgとミョウバン(群10)で免疫した群、およびPBSで免疫したコントロール群(群3)の動物から、脳脊髄液(CSF)を採取し、そして脳を摘出した。Aβペプチドのレベルを測定するために、1つの半球を解剖して、海馬、皮質、および小脳領域のホモジネートを5Mグアニジン中で調製した。これらを希釈し、そしてELISA形式で、既知の濃度のAβ標準タンパク質の一連の希釈液と比較して定量した。海馬、皮質および小脳のAβタンパク質レベルは、これらのワクチンで惹起されるAβに対する抗体応答が広い範囲にわたるにもかかわらず、4つのグループ全てで非常に類似していた。測定されたAβレベルの平均値は、海馬においては約25ng/g組織、皮質では21ng/g、および小脳では12ng/gであった。従って、これらの動物のいくつかで、ほとんど3ヶ月間Aβに対する高い循環抗体力価が存在することは、それらの脳での全Aβレベルを変化させなかった。CSF中のAβレベルもグループ間で非常に類似していた。AN1792による免疫が内因性のAβに大きな影響を与えないことは、免疫応答がAβの病的な形成に焦点を合わせていることを示している。
【0176】
(VIII.マウスにおける異なったアジュバントに対する免疫応答)
この研究のために6週齢の雌性Swiss Websterマウスを1グループあたり10−13匹使用した。0、14、28、60、90、および120日目に200μlの投与量で皮下に投与し、免疫を行った。全ての処方でPBSを緩衝液として使用した。ELISAによって抗体力価を分析するために、2回目の投与後から始めて、それぞれの免疫から7日後に動物から採血した。それぞれのグループの処置レジメを表7にまとめる。
【0177】
【表7】

【0178】
それぞれのグループにおけるAβ42に対する抗体のELISA力価を、下記の表8に示す。
【0179】
【表8】

【0180】
(IX.異なったアジュバントの治療的効果)
治療的効果の研究を、ヒトでの使用に適当な一連のアジュバントを用いて、PDAPPトランスジェニックマウスで行い、Aβに対する免疫応答を増強する能力、および脳内のアミロイド沈着の免疫媒介性の除去を誘発する能力を決定した。
【0181】
180匹の雄性および雌性の、7.5から8.5ヵ月齢のヘテロ接合性のPDAPPトランスジェニックマウスをCharlesRiver Laboratoriesから入手した。このマウスを1グループあたり15から23匹の動物を含む9つのグループに分け、様々なアジュバントと組み合せたAN1792またはAN1528で免疫した。動物はグループ内で動物の性別、月齢、および血統ができるだけ近く適合するように分けた。アジュバントは、それぞれ両方の抗原と組み合せたミョウバン、MPL、およびQS21、ならびにAN1792のみと組み合せたフロイントアジュバント(FA)を含んでいた。もう1つのグループをアジュバント無しにPBS緩衝液中で保存剤チメロサールを添加して調製したAN1792で免疫した。9番目のグループをネガティブコントロールとしてPBS単独で免疫した。
【0182】
凝集Aβペプチドの調製:ヒトAβ1−40(AN1528;California Peptides Inc.、Napa、CA;ロット番号ME0541)およびヒトAβ1−42(AN1792;CaliforniaPeptides Inc.、ロット番号ME0439)ペプチドを、それぞれ一連の注射液を調製するために、−20℃で乾燥して保存してあった凍結乾燥粉末から新しく可溶化した。この目的のために、2mgのペプチドを0.9mlの脱イオン水に加え、そして混合物をボルテックスして比較的均一な溶液または懸濁液を作成した。AN1792とは対照的に、AN1528はこの段階で可溶性であった。次いで、10×PBS(1×PBS:0.15MのNaCl、0.01Mのリン酸ナトリウム、pH7.5)の100μlのアリコートをAN1528が沈殿し始める時点で加えた。懸濁液を再びボルテックスし、そして翌日使用するために37℃で一晩インキュベートした。
【0183】
ミョウバンを用いたワクチン投与を調製するために(グループ1および5)、PBS中のAβペプチドをAlhydrogel(水酸化アルミニウムゲルの2%水溶液、Sargeant,Inc.、Clifton、NJ)に加えて、ミョウバン1mgあたり100μgのAβペプチド濃度になるようにした。10×PBSを最終的な用量の1×PBS中200μlの容量まで加えた。次いで、この懸濁液を注射の前に室温で約4時間、静かに混合した。
【0184】
MPLを用いたワクチン投与を調製するために(グループ2および6)、凍結乾燥粉末(RibiImmunoChem Research,Inc.、Hamilton、MT;ロット番号67039−E0896B)を0.2%トリエチルアミン水溶液に加え、最終的な濃度が1mg/mlとなるようにし、そしてボルテックスした。この混合物を65から70℃で30秒間加熱し、わずかに不透明な均一なミセル懸濁液を作成した。この溶液を4℃で保存した。それぞれの組の注射のために、50μlPBS中の1用量あたり100μgのペプチド、1用量あたり50μgのMPL(50μl)および1用量あたり100μlのPBSをホウ珪酸塩チューブ中で使用の直前に混合した。
【0185】
QS21を用いたワクチン用量を調製するために(グループ3および7)、凍結乾燥粉末(Aquila、Framingham、MA;ロット番号A7018R)をPBS、pH6.6−6.7に加え、最終的な濃度が1mg/mlになるようにし、そしてボルテックスした。この溶液を−20℃で保存した。それぞれの組の注射のために、50μlPBS中の1用量あたり100μgのペプチド、25μlPBS中の1用量あたり25μgのQS21、および1用量あたり125μlのPBSをホウ珪酸塩チューブ中で使用の直前に混合した。
【0186】
フロイントアジュバントを用いたワクチン用量を調製するために(グループ4)、最初の免疫のために200μlPBS中の100μgのAN1792を完全フロイントアジュバント(CFA)と1:1(容量:容量)で乳化し、最終的な容量を400μlとした。後の免疫のために、抗原を同様に不完全フロイントアジュバント(IFA)と乳化した。アジュバントであるミョウバン、MPLまたはQS21を含むワクチンのために、最終的な容量である200μlのPBS中で、1用量あたり100μgのAN1792またはAN1528を、ミョウバン(1用量あたり1mg)またはMPL(1用量あたり50μg)またはQS21(1用量あたり25μg)と組み合せて、肩甲骨の間の背中に皮下注射で投与した。FAを投与するグループのために、100μgのAN1792を完全フロイントアジュバント(CFA)と1:1(容量:容量)で乳化して最終的な容量を400μlとし、そして最初の免疫では腹腔内に投与した。次に、後の5回の投与では不完全フロイントアジュバント(IFA)中の同量の免疫原で追加免疫した。アジュバントなしのAN1792を受けるグループのために、最終的な容量である50μlのPBS中で、10
μgのAN1792を5μgのチメロサールと組み合せて、そして皮下に投与した。9番目のコントロールグループは、皮下に投与された200μlのPBSのみを受けた。免疫は最初の3回の投与は2週間ごと、その後は1ヵ月ごとのスケジュールで行い、0、16、28、56、85および112日目に行った。抗体力価を測定するために、2回目の投与後から始めてそれぞれの免疫から6〜7日後に動物を採血した。最後の投与から約1週間後に動物を安楽死させた。脳内のAβおよびAPPレベルのELISAアッセイによって、および脳切片におけるアミロイドプラークの存在を免疫組織化学的に評価することによって結果を測定した。さらに、Aβ特異的抗体力価、およびAβ依存的増殖およびサイトカイン応答を決定した。
【0187】
表9はAβ1−42に対する最も高い抗体力価が、FAおよびAN1792によって惹起されたことを示している。力価は4回目の免疫後最高値に達し(GMT最高値:75,386)、次いで最後の6回目の免疫後59%まで減少した。AN1792と組み合せたMPLによって惹起された平均力価の最高値は、FAによって得られた値よりも62%低く(GMT最高値:28,867)、そしてこれも免疫計画の初期、3回の投与後に達し、6回目の免疫後、最高値の28%にまで減少した。AN1792と組み合せたQS21によって得られた平均力価の最高値(GMT:1,511)は、MPLによって得られた値より約5倍低かった。さらに、最高の応答に達するために追加の免疫が必要であったので、応答の反応速度論がより遅かった。ミョウバンに結合したAN1792によって産生された力価は、QS21によって得られた値よりわずかに大きく、そして応答の反応速度論はより速かった。チメロサールと共にPBS中で投与したAN1792では、力価の頻度(frequency)および大きさがPBS単独よりもわずかに大きかった。MPLおよびAN1528によって産生された力価の最高値(GMT最高値3099)は、AN1792による値よりも約9倍低かった。ミョウバンに結合したAN1528は免疫原性が非常に乏しく、いく匹かの動物でのみ低い力価が得られた。PBS単独で免疫したコントロール動物では、抗体応答は見られなかった。
【0188】
【表9】

【0189】
12ヶ月齢のマウスにおいてELISAによって決定された皮質のアミロイド生産量に対する、種々のアジュバントまたはチメロサールと組み合せたAN1792またはAN1528による処置の結果を図15に示す。PBSコントロールPDAPPマウスでは、12ヶ月時、皮質での全Aβレベルの中央値は1,817ng/gであった。Aβレベルの著しい抑制が、AN1792プラスCFA/IFA、AN1792プラスミョウバン、AN1792プラスMPLおよびQS21プラスAN1792で処置したマウスで観察された。その抑制はAN1792プラスCFA/IFAでのみ統計学的に有意であった(p<0.05)。しかし、実施例IおよびIIIで示したように、Aβレベルの抑制に対する免疫の効果は、15ヶ月および18ヶ月齢のマウスで実質上より大きくなる。従って、少なくともAN1792プラスミョウバン、AN1792プラスMPLおよびAN1792プラスQS21組成物では、より老齢のマウスの処置において統計学的に有意になること
が期待される。対照的に、AN1792プラス保存剤チロメサールは、PBSで治療したマウスとほとんど同じAβレベルの中央値を示した。Aβ42の皮質レベルを比較した場合、同様の結果が得られた。PBSコントロールにおけるAβ42レベルの中央値は1624ng/gであった。AN1792プラスCFA/IFA、AN1792プラスミョウバン、AN1792プラスMPLおよびAN1792プラスQS21で処置したマウスで著しく抑制された中央値が観察され、それぞれ403、1149、620、および714であり、AN1792プラスCFA/IFA処置グループでは統計学的に有意な(p=0.05)抑制であった。AN1792プラスチメロサールで処置したマウスでの中央値は、1619ng/gのAβ42であった。
【0190】
(X.毒性分析)
実施例2、3および7で記載したように、研究終了時に組織病理学的調査のために組織を採取した。さらに、血液学的、および臨床化学的検査を、実施例3および7由来の最終の血液試料で行った。脳、肺、リンパ節、胃腸、肝、腎、副腎および生殖巣を含むほとんどの主要な臓器を評価した。研究動物において散発的な病変が観察されたが、影響を受けた組織または病変の重症度のいずれにおいても、AN1792で処置された動物と未処置の動物の間で明らかな違いは見られなかった。PBSで処置した、または未処置の動物と比べて、AN1792で免疫した動物において独特な組織病理学的病変は見られなかった。実施例7において、アジュバントグループおよびPBS処置グループ間で、臨床化学的プロファイルにおいても違いは見られなかった。実施例7において、PBS処置動物に比べてAN1792とフロイントアジュバントで処置した動物との間で、いくつかの血液学的パラメーターが有意に上昇していたが、この種の影響はフロイントアジュバント処置およびそれに伴う腹膜炎から予想され、AN1792処置による副作用を示すものではない。毒性評価の一部分ではないが、PDAPPマウスの脳の病変を有効性のエンドポイントの一部として広範囲に調査した。どの研究においても、脳形態学において処置に関連する有害作用の徴候は見られなかった。これらの結果はAN1792による処置は、十分耐用性があり、少なくとも実質的に副作用がないことを示している。
【0191】
(XI.被験体における予防および治療)
安全性を決定するために単回投与の第1相試験を行う。治療薬を、投与量を増やしながら異なった患者に投与する。有効性が推定されるレベルの約0.01から始めて、マウスで有効な投与量の約10倍のレベルに達するまで3倍ずつ増加させる。
【0192】
治療的効果を決定するために第2相試験を行う。Alzheimer’s Disease andRelated DisordersAssociation(ADRDA)基準を用いて推定(probable)ADと定義される初期から中期のアルツハイマー病患者を選択する。適当な患者はMini−MentalState Exam(MMSE)の点数が12−26点の範囲である。他の選択基準は患者が試験期間中生存する可能性が高く、干渉し得る併用薬の使用のような複雑な問題がないことである。患者の機能の基準となる評価は、MMSE、およびADASのような伝統的な精神測定法を用いて行う。ADASはアルツハイマー病患者の状態および機能を評価する総合的な指標である。これらの精神測定の指標は、アルツハイマー状態の進行の測定法を提供する。適当な生活の質の指標も処置をモニターするために使用し得る。疾患の進行はMRIによってもモニターし得る。免疫原特異的抗体およびT細胞応答のアッセイを含む患者の血液プロファイルも観察し得る。
【0193】
基準の測定の後、患者の処置を始める。患者を無作為に分けて、治療薬またはプラセボのどちらかで盲検法で治療する。患者を少なくとも6ヶ月ごとに観察する。プラセボグループに対する治療グループの有意な進行の抑制によって、有効性を決定する。
【0194】
加齢に伴う記憶障害(AAMI)と時折、呼ばれる非アルツハイマー病の初期の記憶喪失から、ADRDA基準によって定義される推定(probable)アルツハイマー病への患者の移行を評価するために、2つ目の第2相試験を行う。記憶喪失の初期の徴候または前アルツハイマー病の総合的症状に伴う他の困難、アルツハイマー病の家族歴、遺伝的危険因子、年齢、性別およびアルツハイマー病の高いリスクを予想することがわかっている他の特徴について、参考(reference)集団をスクリーニングすることによって、アルツハイマー病へ移行する高いリスクを持つ患者を、非臨床集団から選択する。より正常な集団を評価するために設計した、他の測定基準と共にMMSEおよびADASを含む適当な測定基準の基準となる点数を集める。これらの患者集団を、プラセボと薬剤の代替の投与を比較する適当なグループに分ける。これらの患者集団を約6ヶ月ごとに追跡する。それぞれの患者のエンドポイントは、患者が観察終了時にADRDA基準で定義される推定アルツハイマー病に移行したかどうかである。
【0195】
(XII.一般的な材料および方法)
(1.抗体力価の測定)
マウスを、尾静脈を小さく切開して採血し、そして約200μlの血液を微量遠心チューブに採取した。モルモットを、まず後足のかかと部分の毛を剃り、次いで、18ゲージの針で中足静脈を切開して採血し、血液を微量遠心チューブに採取した。血液を室温(RT)で1時間凝固させ、ボルテックスして、次に14,000×gで10分間遠心分離し、血清から血餅を分離した。次に、血清を清潔な微量遠心チューブに移して、力価を測定するまで4℃で保存した。
【0196】
抗体力価をELISAによって測定した。96ウェルマイクロタイタープレート(CostarEIA plates)を、個々の報告の各々で述べたように、WellCoating Buffer(0.1Mリン酸ナトリウム、pH8.5、0.1%アジ化ナトリウム)中の10μg/mlのAβ42またはSAPPまたは他の抗原のいずれかを含む100μlの溶液でコートし、室温で一晩置いた。ウェルを吸引して、SpecimenDiluent(0.014Mリン酸ナトリウム、pH7.4、0.15M NaCl、0.6%ウシ血清アルブミン、0.05%チメロサール)中の1/100の希釈から始めて、血清をウェルに加えた。7つの連続した試料の希釈液を、3倍ずつ最終的には1/218,700の希釈になるようにプレート中で直接作製した。コートしたプレートウェル中で、希釈液を室温で1時間インキュベートした。次に、プレートを0.05%Tween20を含むPBSで4回洗浄した。2次抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼと結合体化したヤギ抗マウスIg(BoehringerMannheimから入手)を、Specimen Diluent中、1/3000希釈の100μlとしてウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。プレートを再びPBS、Tween 20で4回洗浄した。クロモゲンを発色させるために、Slow TMB(Pierce Chemicalsから入手した3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)100μlをそれぞれのウェルに加え、室温で15分間インキュベートした。25μlの2M H2SO4を加えることによって反応を停止させた。次いで、色の強度をMolecular Devices Vmaxを用いて(450nm−650nmで)読み取った。
【0197】
力価を、最大ODの半分を与える血清の希釈の逆数として定義した。非常に力価が高い場合を除いて、最大ODは通常最初の1/100希釈物からとった。その場合、最大ODを確立するためにより高い最初の希釈物が必要であった。50%の点が2つの希釈の間にある場合、最終的な力価を計算するのに線形外挿を行った。抗体力価の相乗平均を計算するために、100未満の力価を任意に力価値25とした。
【0198】
(2.リンパ球増殖アッセイ)
マウスをイソフルランで麻酔した。脾臓を取り出し、10%の熱非働化ウシ胎仔血清を
含むPBS(PBS−FBS)5mlで2回リンスし、次に1.5mlのPBS−FBS中の50μのCentriconユニット(DakoA/S、Denmark)で、Medimachine(Dako)を用いて100rpm、10秒間ホモジナイズした。次に100μサイズの孔を持つナイロンメッシュで濾過した。脾臓細胞を15mlのPBS−FBSで1回洗浄し、次いで、200×gで5分間遠心分離してペレット化した。ペレットを0.15MNH4Cl、1M KHCO3、0.1M NaEDTAを含む緩衝液(pH7.4)5mLに、室温で5分間再懸濁することにより赤血球を溶解した。次に、白血球を上記のように洗浄した。新しく単離した脾臓細胞(ウェルあたり105細胞)を3組、96ウェルU底組織培養用処理マイクロタイタープレート(Corning、Cambridge、MA)上で、2.05mMLグルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、および10%熱非働化FBSを補充したRPMI1640培地(JRH Biosciences、Lenexa、KS)中で、37℃、96時間培養した。様々なAβペプチド、Aβ1−16、Aβ1−40、Aβ1−42、またはAβ40−1逆向き配列タンパク質もまた、5μMから0.18μMの範囲の投与量で、4段階で加えた。コントロールウェルの細胞は、タンパク質を加えずにコンカナバリンA(ConA)(Sigma、cat.#C−5275、1μg/ml)とともに培養した。細胞を最後の24時間3H−チミジン(1μCi/ウェル、Amersham Corp.、Arlington Heights、ILから入手)でパルスした。次に細胞をUniFilterプレートに回収し、Top Count MicroplateScintillation Counter(Packard Instruments、DownersGrove、IL)でカウントした。結果は不溶性の高分子に組み込まれた放射活性の1分あたりのカウント(cpm)として表す。
【0199】
(4.脳組織の調製)
安楽死させた後、脳を取り出し一方の半球を免疫組織化学的分析のために調製し、他方の半球から3つの脳の領域(海馬、皮質および小脳)を分離して、様々なAβタンパク質の濃度およびAPPの形を特異的なELISAを用いて測定するのに使用した(Johnson−Woodら、前出)。
【0200】
ELISAに使用する組織を、10容量の氷冷グアニジン緩衝液(5.0Mグアニジン−HCl、50mMTris−HCl、pH8.0)中でホモジナイズした。ホモジネートをAdamsNutator(Fisher)を用いて室温で3から4時間、静かに攪拌して混合し、次にAβおよびAPPを定量する前に−20℃で保存した。以前の実験で分析物はこの保存条件で安定であり、そしてマウス同腹仔由来のコントロール脳組織のホモジネートに加えた場合、合成Aβタンパク質(Bachem)を定量的に回収し得ることが示された(Johnson−Woodら、前出)。
【0201】
(5.Aβレベルの測定)
脳ホモジネートを氷冷Casein Diluent(0.25%カゼイン、PBS、0.05%アジ化ナトリウム、20μg/mlアプロチニン、5mM EDTA pH8.0、10μg/mlロイペプチン)で1:10に希釈し、次に16,000×gで20分間、4℃で遠心分離した。合成Aβタンパク質標準物質(1−42アミノ酸)およびAPP標準物質を、最終的な組成物中に0.5Mグアニジンおよび0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むように調製した。「全」AβのサンドイッチELISAは、Aβの13−28アミノ酸に特異的なモノクローナル抗体(mAβ)266(Seubertら)を捕獲抗体として利用し、Aβの1−5アミノ酸に特異的なビオチン化mAβ 3D6(Johnson−Woodら)をリポーター抗体として利用する。3D6mAβは分泌されたAPPまたは全長のAPPを認識せず、アミノ末端のアスパラギン酸を持つAβ種のみを検出する。このアッセイの感受性の下限は、約50ρg/ml(11ρM)であり、そして1ng/mlまでの濃度では内因性のマウスAβタンパク質に交差反応性を示さな
い(Johnson−Woodら、前出)。
【0202】
Aβ1−42特異的サンドイッチELISAは、Aβの33−42アミノ酸に特異的なmAβ 21F12(Johnson−Woodら)を捕獲抗体として利用する。このアッセイでもビオチン化mAβ 3D6がリポーター抗体であり、このアッセイの感受性の下限は約125ρg/ml(28ρM、Johnson−Woodら)である。AβのELISAについては、100μlのmAβ 266(10μg/ml)またはmAβ 21F12(5μg/ml)のどちらかを、96ウェルイムノアッセイプレート(Coster)のウェルに、室温で一晩インキュベートすることによりコートした。溶液を吸引して除去し、ウェルをPBS緩衝液中200μlの0.25%ヒト血清アルブミンを室温で少なくとも1時間加えることによりブロッキングした。ブロッキング溶液を除去し、使用するまでプレートを乾燥して4℃で保存した。プレートをWashBuffer[Tris緩衝化生理食塩水(0.15M NaCl、0.01M Tris−HCl、pH7.5)、プラス0.05%Tween 20]で使用前に再水和した。試料および標準物質を3連で、ウェルあたり100μlのアリコートで加え、次に4℃で一晩インキュベートした。アッセイのそれぞれの段階の間に、プレートをWashBufferで少なくとも3回洗浄した。Casein Assay Buffer(0.25%カゼイン、PBS、0.05%Tween 20、pH7.4)で0.5μg/mlに希釈したビオチン化mAβ 3D6を加え、室温で1時間、ウェル中でインキュベートした。CaseinAssay Bufferで1:4000に希釈したアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ結合物(Vector、Burlingame、CAから入手したアビジン−HRP)を室温で1時間、ウェルに加えた。比色定量基質であるSlowTMB−ELISA(Pierce)を加え、そして室温で15分間反応させた。その後、酵素反応を25μlの2N H2SO4を加えることにより停止させた。反応生成物を、450nmおよび650nmでの吸収の差を測定するMolecularDevices Vmaxを用いて定量した。
【0203】
(6.APPレベルの測定)
2つの異なったAPPアッセイを利用した。APP−α/FLと呼ばれる第1のアッセイは、APP−アルファ(α)および全長(FL)の形のAPPの両方を認識する。2つ目のアッセイはAPP−αに特異的である。APP−α/FLアッセイは、Aβの最初の12アミノ酸を含む分泌APPを認識する。リポーター抗体(2H3)は、APP695のアミノ酸612−613の間で起こるα切断部位(clip−site)に特異的でない(Eschら、Science248、1122−1124(1990))ので、このアッセイは全長APP(APP−FL)もまた認識する。APP−FLの細胞質側尾部に対する固定化APP抗体を用いて、脳ホモジネートからAPP−FLを涸渇させる予備実験は、APP−α/FL APPの約30−40%がFLであることを示唆している(データは示していない)。APP−α/FLおよびAPP−αアッセイの両方に対する捕獲抗体は、APP695形態のアミノ酸444から592に対して惹起されたmAβ 8E5(Gamesら、前出)である。APP−α/FLアッセイについてのリポーターmAβは、APP695のアミノ酸597から608に特異的なmAβ 2H3(Johnson−Woodら、前出)であり、APP−αアッセイについてのリポーター抗体はAPPのアミノ酸605から611に対して惹起されたmAβ 16H9のビオチン化誘導体である。APP−α/FLアッセイの感受性の下限は約11ng/ml(150ρM)(Johnson−Woodら)であり、そしてAPP−α特異的アッセイの感受性の下限は22ng/ml(0.3nM)である。どちらのAPPアッセイでも、mAβ 266に関して上記で述べたように、mAβ 8E5を96ウェルEIAプレートのウェルにコートした。精製した組換え分泌APP−αを、APP−αアッセイおよびAPP−α/FLアッセイの参照標準物質として使用した(Eschら、前出)。5Mグアニジン中の脳ホモジネート試料をELISASpecimen Diluent(0.014Mリン酸緩衝液、pH7.4、0.6%ウシ血清アルブミン、0.05%チメロサール、0.5M
NaCl、0.1% NP40)中で1:10に希釈した。それらを次に0.5Mグアニジンを含むSpecimenDiluent中で1:4に希釈した。次いで、希釈したホモジネートを16,000×gで15秒間、室温で遠心分離した。APP標準物質および試料を、2連のアリコートでプレートに加え、室温で1.5時間インキュベートした。ビオチン化リポーター抗体2H3または16H9を試料と共に室温で1時間インキュベートした。試料希釈液で1:1000に希釈したストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(BoehringerMannheim)をウェル中で、室温で1時間インキュベートした。蛍光基質4−メチル−ウンベリフェリルホスフェートを加えて室温で30分間インキュベートし、そしてCytofluortm 2350蛍光計(Millipore)を用いて365nmの励起および450nmの発光でプレートを読み出した。
【0204】
(7.免疫組織化学)
脳をPBS中4%パラホルムアルデヒドで、4℃で3日間固定し、次いで、切片にするまでにPBS中1%パラホルムアルデヒドで、4℃で1〜7日間保存した。40ミクロンの厚さの、冠状切片を室温でビブラトームを用いて切断し、免疫組織化学的処理の前に凍結防止剤(リン酸緩衝液中30%グリセロール、30%エチレングリコール)中、−20℃で保存した。それぞれの脳について、背側海馬のレベルでの6つの切片(それぞれ連続する240μmの間隔で分離した)を、以下の抗体:(1)PBSおよび1%ウマ血清中で2μg/mlの濃度に希釈した、ビオチン化抗Aβ(mAβ、3D6、ヒトAβに特異的)、または(2)PBSおよび1.0%ウマ血清中で3μg/mlの濃度に希釈した、ヒトAPPに特異的なビオチン化mAβ、8E5、または(3)Tris緩衝化生理食塩水、pH7.4(TBS)中で、0.25%TritonX−100および1%ウマ血清で1:500に希釈した、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP、SigmaChemical Co.)に特異的なmAβ、または(4)TBS中で、0.25%Triton X−100および1%ウサギ血清で1:100に希釈した、MAC−1抗原CD11b(ChemiconInternational)に特異的なmAβ、または(5)TBS中で、0.25%Triton X−100および1%ウサギ血清で1:100に希釈したMHC II抗原(Pharmingen)に特異的なmAβ、または(6)PBS中1%ウサギ血清で1:100に希釈したCD43(Pharmingen)に特異的なラットmAβ、または(7)PBS中1%ウサギ血清で1:100に希釈したCD45RA(Pharmingen)に特異的なラットmAβ、または(8)PBS中1%ウサギ血清で1:100に希釈したCD45RB(Pharmingen)に特異的なラットモノクローナルAβ、または(9)PBS中1%ウサギ血清で1:100に希釈したCD45(Pharmingen)に特異的なラットモノクローナルAβ、または(10)PBS中1%ウサギ血清で1:100に希釈したCD3e(Pharmingen)に特異的なビオチン化ポリクローナルハムスターAβ、または(11)PBS中1%ウサギ血清で1:200に希釈したCD3(Serotec)に特異的なラットmAβ、または(12)1%正常ウマ血清を含む、一次抗体を含まないPBS溶液、の1つとともに一晩インキュベートした。
【0205】
上記の1、2および6−12に列挙した抗体溶液と反応させた切片を、内因性のペルオキシダーゼをブロッキングするために、PBS中の1.0%TrironX−100、0.4%過酸化水素で、室温で20分間前処理した。それらを次に一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。3D6または8E5またはCD3emAβと反応させた切片を次に、PBS中で1:75に希釈したキット成分「A」および「B」を用いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ−アビジン−ビオチン−複合体と室温で1時間反応させた(VectorElite StandardKit、Vector Labs、Burlingame、CA)。CD45RA、CD45RB、CD45、CD3に特異的な抗体および一次抗体が存在しないPBS溶液と反応させた切片を、それぞれPBS中で1:75に希釈したビオチン化抗ラットIgG(Vector)、またはPBS中で1:75に希釈したビオチン
化抗マウスIgG(Vector)と、室温で1時間インキュベートした。切片を次に、PBS中で1:75に希釈したキット成分「A」および「B」を用いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ−アビジン−ビオチン−複合体と室温で1時間反応させた(VectorElite StandardKit、Vector Labs、Burlingame、CA)。
【0206】
切片を0.01%過酸化水素、0.05%3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)中で、室温で発色させた。GFAP−、MAC−1−、およびMHCII−特異的抗体とインキュベーションするために脱色させた切片を、内因性のペルオキシダーゼをブロッキングするために、室温で0.6%過酸化水素を用いて前処理し、次に4℃で一次抗体と一晩インキュベートした。GFAP抗体と反応させた切片を、TBSで1:200に希釈したウマで作製したビオチン化抗マウスIgG(VectorLaboratories、Vectastain Elite ABCKit)と、室温で1時間インキュベートした。切片を次に、TBSで1:1000に希釈したアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体(VectorLaboratories、Vectastain Elite ABCKit)と、1時間反応させた。一次抗体としてMAC−1−またはMHC II−特異的mAβとインキュベートした切片を次に、TBSで1:200に希釈したウサギで作製したビオチン化抗ラットIgGと、室温で1時間反応させ、次にTBSで1:1000に希釈したアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ複合体と1時間インキュベートした。GFAP−、MAC−1−、およびMHCII−特異的抗体とインキュベートした切片を次に、0.05% DAB、0.01%過酸化水素、0.04%塩化ニッケル、TBSで、室温でそれぞれ4分間および11分間処理することにより視覚化した。
【0207】
免疫標識した切片をガラススライド(VWR、Superfrostslides)にマウントし、一晩空気乾燥し、Propar(Anatech)に浸して、Permount(Fisher)をマウント用媒体として使用して、カバーグラスで覆った。
【0208】
Aβプラークを対比染色するために、GFAP陽性切片のサブセットをSuperfrostスライドにマウントし、免疫組織化学的処理の後で1%チオフラビンS(Sigma)水溶液中で7分間インキュベートした。切片を次に脱水しPropar中で清澄にし、次にPermountでマウントしてカバーグラスで覆った。
【0209】
(8.画像分析)
CCDビデオカメラおよびSony Trinitronモニターを通してNikon Microphot−FX顕微鏡と連結したVideometric 150 ImageAnalysis System(Oncor,Inc.、Gaithersburg、MD)を、免疫反応性のスライドグラスの定量に使用した。切片の画像をビデオバッファーに保存し、色調および彩度を基礎とした閾値を決定し、免疫標識された構造によって占められた全画素領域(pixelarea)を選択し、計算した。それぞれの切片について、海馬は手動で輪郭を描き、海馬によって占められる全画素領域を計算した。アミロイド負荷のパーセントを次のように測定した:(mAβ 3D6に免疫反応性のAβ沈着を含む海馬領域の割合)×100。同様に、神経炎負荷のパーセントを次のように測定した:(mAβ 8E5に反応性のジストロフィーの軸索を含む海馬領域の割合)×100。Simple 32 SoftwareApplicationプログラムを作動させるC−Imaging System(Compix,Inc.、Cranberry Township、PA)を、Optronicsカメラを通してNikon Microphot−FX顕微鏡に連結し、GFAP−陽性星状細胞ならびにMAC−1−およびMHCII−陽性小グリア細胞によって占められる後方板状回の(retrospenial)皮質のパーセントを定量するのに使用した。免疫反応させた切片の画像をビデオバッファーに保存し、単色を基礎とした閾値を決定し、免疫標識された細胞によって占められた全
画素領域を選択し、計算した。それぞれの切片について、後方板状回の(retrosplenial)皮質(RSC)は手動で輪郭を描き、RSCによって占められる全画素領域を計算した。星状細胞のパーセントは次のように定義した:(GFAP−反応性星状細胞に占められるRSCの割合)×100。同様に、小グリア細胞のパーセントを次のように定義した:(MAC−1−またはMHCII−反応性小グリア細胞に占められるRSCの割合)×100。全ての画像分析について、背側海馬のレベルでの6つの切片(それぞれ連続して240μmの間隔で分離された)を、それぞれの動物で定量した。全ての場合で動物の処置状態は観測者には未知であった。
【0210】
理解を明快にするために前述の発明は詳しく述べられているが、特定の変更が添付の請求の範囲内で行われ得ることは明らかである。本明細書中で引用した全ての刊行物および特許書類は、引用する項とにより、全ての目的のために、それぞれが個々に示されたように同程度、その全体が本明細書内容となる。
【図面の簡単な説明】
【0211】
【図1】トランスジェニックマウスへのAβ1−42注射後の抗体力価
【図2】海馬におけるアミロイド負荷量。Aβ特異的mAβ 3D6との反応性により規定される、アミロイド斑により占められる海馬領域の面積の割合は、免疫反応した脳切片の、コンピューターを使用した定量的画像解析により決定された。各マウスに対する値は処置群により分類されて示される。各群についての水平方向の線は、分布の中央値を示す。
【図3】海馬における神経炎性形成異常(Neuritic dystrophy)。ヒトAPP特異的mAβ 8E5との反応性により規定される、形成異常の軸索により占められる海馬領域の面積の割合は、免疫反応した脳切片の、定量的なコンピューターを使用する画像解析により決定された。各マウスについての値は、AN1792処置群およびPBS処置対照群に対して示される。各群についての水平方向の線は、分布の中央値を示す。
【図4】後方板状(retrosplenial)皮質における星状細胞増加。神経膠原線維酸性タンパク質(GFAP)−陽性星状細胞により占められる皮質領域の面積の割合は、免疫応答した脳切片の、定量的なコンピューターを使用する画像解析により決定された。各マウスについての値は処置群により分類されて示され、そして中央群の値は水平方向の線により示される。
【図5】AN1792の8つの用量(0.14、0.4、1.2、3.7、11、33、100、または300μgを含む)の範囲で免疫後の、Aβ1−42に対する抗体力価の幾何平均。
【図6】AN1792免疫に対する抗体応答の速度論。力価は各群において6匹の動物に対する値の幾何平均として表現される。
【図7】PBS処置マウスおよびAN1792処置マウスにおける皮質性アミロイド負荷量の定量的画像解析。
【図8】PBS処置マウスおよびAN1792処置マウスにおける神経炎斑負荷量の定量的画像解析。
【図9】PBS処置マウスおよびAN1792処置マウスにおいて星状細胞増加により占められる後方板状皮質の割合に関する定量的画像解析。
【図10】AN1792処置(上方パネル)またはPBS処置(下方パネル)由来の脾細胞でのリンパ球増殖アッセイ。
【図11】皮質における総Aβレベル。フロイントアジュバントと組み合わせられたAβまたはAPP誘導体で免疫されたマウスにおける各Aβプロフィールの散布プロット。
【図12】皮質におけるアミロイド負荷量は、Aβペプチド結合体Aβ1−5、Aβ1−12、およびAβ13−28;全長Aβ凝集体AN1792(Aβ1−42)およびAN1528(Aβ1−40)、ならびにPBS処置対照群で免疫されたマウスについての、免疫反応した脳切片の定量的画像解析により決定された。
【図13】フロイントアジュバントと組み合わせられたAβまたはAPP誘導体で免疫されたマウス群に対するAβ特異的抗体の力価の幾何平均。
【図14】種々のアジュバントと組み合わせられたAN1792、またはそのパルミトイル化された誘導体で免疫されたモルモット群に対するAβ特異的抗体の幾何平均力価。
【図15A】異なるアジュバントを用いてAN1792またはAN1528で処置された12月齢PDAPPマウスの皮質におけるAβレベル。
【図15B】異なるアジュバントを用いてAN1792またはAN1528で処置された12月齢PDAPPマウスの皮質におけるAβレベル。
【図15C】異なるアジュバントを用いてAN1792またはAN1528で処置された12月齢PDAPPマウスの皮質におけるAβレベル。
【図15D】異なるアジュバントを用いてAN1792またはAN1528で処置された12月齢PDAPPマウスの皮質におけるAβレベル。
【図15E】異なるアジュバントを用いてAN1792またはAN1528で処置された12月齢PDAPPマウスの皮質におけるAβレベル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてAβに対する免疫原性応答を誘導するのに有効な薬剤および薬学的に受容可能なアジュバントを含む、アミロイドの沈積に随伴する疾患の治療または予防のための薬学的組成物。
【請求項2】
結合体分子に連結したAβまたはその免疫原性フラグメントを含み、かつ、該キャリアがAβに対する免疫応答を促進するものである、アミロイドの沈積を特徴とする疾患を治療または予防するための組成物。
【請求項3】
Aβに対する免疫応答を誘導するのに有効なAβまたはそのフラグメントをコードするウイルスベクターを含む、アミロイドの沈積を特徴とする疾患を治療または予防するための組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aβの1−12アミノ酸残基内のエピト−プに特異的に結合するヒトまたはヒト化抗体および薬学的キャリアを含有する薬学的組成物。
【請求項2】
Aβの13−28アミノ酸残基内のエピト−プに特異的に結合するヒトまたはヒト化抗体および薬学的キャリアを含有する薬学的組成物。
【請求項3】
Aβに特異的に結合するヒトまたはヒト化抗体および薬学的キャリアを含有し、かつ、該抗体のイソタイプがヒトIgG1である薬学的組成物。
【請求項4】
抗体がAβの1−12アミノ酸残基内のエピト−プに特異的に結合する請求項3記載鎖の薬学的組成物。
【請求項5】
抗体がAβの13−28アミノ酸残基内のエピト−プに特異的に結合する請求項3記載鎖の薬学的組成物。
【請求項6】
Aβのアミロイド沈積を特徴とする疾患にかかった患者の該疾患を治療するのに使用するための請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
Aβのアミロイド沈積を特徴とする疾患にかかりやすい患者の該疾患を予防するのに使用するための請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【公開番号】特開2006−77030(P2006−77030A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346511(P2005−346511)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【分割の表示】特願2000−522929(P2000−522929)の分割
【原出願日】平成10年11月30日(1998.11.30)
【出願人】(500248504)ニューララブ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】