説明

アミンの脱ラセミ化

【課題】酵素処理によるアミンのエナンチオマー変換方法を提供する。
【解決手段】キラルアミン又はアミンエナンチオマーの混合物を、アミンの立体選択的な方法での酸化を触媒できるII型アミンオキシダーゼ酵素(例えばAspergillus niger由来のモノアミンオキシダーゼ)で処理し、続いて又は同時に還元剤で処理することを含む、アミンのエナンチオマー変換方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナンチオマー混合物の酵素的処理による、キラルなアミンの脱ラセミ化またはキラル反転方法に関する。本方法は、立体選択的酵素的変換、及び非選択的または部分的に選択的な化学的または酵素的変換を同時に、または連続して用いる。本発明はまた、好適な酵素、特に好適なアミンオキシダーゼの選択のための方法、及び上記脱ラセミ化方法において使用するのに好適な新規酵素の生成のための方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
エナンチオマー的に純粋なキラルアミンは、特に薬学的標的分子の調製のための貴重な合成中間体である。伝統的に、キラルアミンは、キラルな酸を用いたジアステレオマー結晶化等の分離方法によってエナンチオマーの一方の塩を形成することで、あるいは溶媒間分配またはクロマトグラフィー等の物理的方法(1)による分離をより容易なものとする、一方のエナンチオマーと選択的に反応する酵素を用いたラセミ化合物の速度論的分割によって得てきた。こうした方法は高いエナンチオマー過剰率(e.e.)を達成し得るが、必要とするエナンチオマーとしてラセミ出発材料の最大50%が得られるだけである。多くのキラル化合物と同様に、いずれも原理的には100%の収率と100%のe.e.で生成物を産することができる、不斉的アプローチを含むか、または分割と所望でないエナンチオマーのラセミ化とを組み合わせる、アミンの合成戦略の開発に対する需要が増大している。現在までに示唆された不斉的方法は、ケトンをキラルアミンに変換するトランスアミナーゼの使用を含んでいる(2,3,4)。更に、Burkholderia plantariiリパーゼ(5,6)またはCandida antarctica(7)等のリパーゼを用いるアミンの速度論的光学分割が、イミンの形成(5,6)または触媒としてPd/Cを用いる転移水素化(7)による未反応のアミンのラセミ化と組み合わせられている。
【0003】
脱ラセミ化と呼ばれる別のアプローチは、例えば周期的な酸化−還元の連鎖を用いて一方のエナンチオマーを他方に立体反転させることを含む。今日までに、こうした系を、エナンチオ選択的D-アミノ酸オキシダーゼを非選択的還元剤と組み合わせて使用してL-α-アミノ酸の調製に適用できることが示されている。最初の仕事(8)では、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用い、収率は低いがD-アラニンからL-アラニンへの立体反転が報告されている。pH7における水素化ホウ素ナトリウムの不安定性のために、実用的な規模での使用が妨げられており、近年では本発明者等が、シアノボロ水素化ナトリウム(sodium cyanoborohydride)(13)、Pd/Cを含むギ酸アンモニウム、及び水素化ホウ素複合体またはアミン:ボラン類(14)を含むより好適な還元剤を使用して、アミノ酸の脱ラセミ化をより効率的に行い得ることを示した。しかしながら、今日までに脱ラセミ化方法をアミンにうまく応用させた例はない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、アミンの酸化を立体選択的に触媒し得る酵素でアミンエナンチオマーの混合物を処理し、続いて、または同時に還元剤で混合物を処理することによる、キラルアミンの脱ラセミ化またはキラル反転(本明細書において一般にエナンチオマー変換という)のための方法を提供する。本発明の方法は、ラセミ混合物を含む種々の比率のエナンチオマー混合物に、そして一方の単一のエナンチオマーから他方への変換(エピマー化、epimerisation)に適用可能である。例えば、本方法は、1:1、1:2、1:5、1:10、2:1、5:1、10:1、100:1または他の比率のR及びS型のアミンの混合物に適用可能である。エナンチオマー変換の生成物は、出発材料よりも所望のエナンチオマーに富んでいる。すなわち、所望のエナンチオマーがエナンチオマー過剰にある。好ましくは、生成物は実質的に純粋な単一のエナンチオマーを含む。従って、好ましい実施形態において、本発明のエナンチオマー変換法を用いて、アミンエナンチオマーの混合物を本質的に単一のエナンチオマーからなる組成物に変換する。あるいは本発明のエナンチオマー変換法を用いて、一方の実質的に純粋なアミンエナンチオマーを他方に、再びエナンチオマー的に純粋な形態のものに変換する。
【0005】
還元剤は、部分的に立体選択的であっても、または非−立体選択的であっても良く、また化学的還元剤であっても良い。あるいはまた、還元は、酵素によって触媒されるものであっても良い。化学的還元剤を用いるべき場合には、還元剤は水素化ホウ素ナトリウム、シアノボロ水素化ナトリウム、アミン:ボラン複合体またはPd/Cを含むギ酸アンモニウム等の転移水素化(transfer hydrogenation)試薬から選択することが有利であり得る。酸化−還元サイクルにおいて立体選択的酸化及び非−立体選択的(または部分的に選択的な)還元を続けて行う場合には、所望のエナンチオマー過剰率が達成されるまでサイクルを複数回行っても良い。
【0006】
立体選択的にアミンの酸化を触媒し得る酵素は、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、特に微生物のモノアミンオキシダーゼであり得るが、いずれのアミンオキシダーゼ酵素を用いても良い。本発明の方法において有利に用いることができるMAOの一つは、Aspergillus nigerのモノアミンオキシダーゼまたはその変異型、例えば、特にアミノ酸25-265及び334-350の領域に1つ以上の変異を取り込むことによって酵素が野生型A. nigerMAOと異なる変異型、特に好ましくは、アミノ酸259、260、336及び348の1以上に変異を有する酵素、より特定すれば変異N336Sまたは二重変異N336S, M348Kを有する酵素である。
【0007】
本発明はまた、
a)元の(originator)酵素を変異させて少なくとも1種の酵素変異型を作製し、
b)該酵素変異型をホモキラル基質に対する活性についてスクリーニングし、そして
c)元の酵素よりもホモキラル基質に対する活性の増大を示す1以上の酵素を選択する、
ことによって元の酵素の進化を導く方法を提供する。場合によって、段階(工程)c)で選択された酵素変異型を元の酵素として用い、段階a)、b)及びc)を繰り返しても良い。適当な段階で、酵素変異型を基質と逆のエナンチオマーに対して、あるいは基質エナンチオマーの混合物に対してアッセイして、エナンチオ選択性を確認しても良い。特定の実施形態において、元の酵素はアミンに対して活性を示すオキシダーゼ、例えばアミンオキシダーゼ、特にモノアミンオキシダーゼである。基質は、環状第2級アミンを含む、イミンに酸化され得る任意のキラルアミンで良く、例えば式Iのアミンであり得る。
【化1】

【0008】
[式中、
a)RはHまたはC1-4アルキルであり、R1及びR2は独立して置換または非置換のC1-10アルキル、C1-10アルケニル、C1-10シクロアルキル、C1-10へテロサイクル、C1-10アリール、C1-10ヘテロアリール、C1-4アルキル-アリール、C1-4アルキル-ヘテロアリール、C1-4アルキル-C1-6シクロアルキル及びC1-4アルキル-C1-6ヘテロサイクルから選択されるか、あるいは
b)RはHまたはC1-4アルキルであり、R1及びR2は一緒になって1個以上のヘテロ原子を含み得る置換または非置換のC1-10シクロアルキル環系またはC1-10アリール環を形成するか、あるいは
c)R及びR1が一緒になって、1個以上のヘテロ原子を含み得る置換または非置換のC1-10シクロアルキルまたはC1-10アリール環系を形成し、R2は上記a)と同様に定義されるものである]。
【0009】
本明細書中で用いる用語「ハロ」または「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素をいう。
【0010】
本明細書中で用いる用語「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む直鎖または分岐した炭化水素鎖をいう。例えば、C1-C3アルキルは、少なくとも1個で多くとも3個の炭素原子を含む直鎖または分岐した炭化水素鎖を意味する。本明細書中で用いるアルキルの例としては、限定するものではないが、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピルが挙げられる。
【0011】
本明細書中で用いる用語「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む完全に飽和した炭化水素環をいう。用語「シクロアルキル」は、単環構造及び二環構造を包含する。本明細書中で用いるシクロアルキルの例としては、限定するものではないが、シクロヘキシル、シクロプロピルが挙げられる。
【0012】
本明細書中で用いる用語「アリール」は、特定の数の炭素原子を含む飽和若しくは不飽和の炭化水素環であり得る不飽和化合物をいう。用語「アリール」は、単環構造及び二環構造を包含する。本明細書中で用いるアリールの例としては、限定するものではないが、フェニル、ナフチルが挙げられる。
【0013】
シクロアルキルまたはアリール環系が1個以上のヘテロ原子を含む場合、これらはN、SまたはOから選択され、好ましくはNである。従って、用語「ヘテロサイクリック」及び「ヘテロアリール」はそれぞれ、N、SまたはOから選択され、好ましくはNである3個までのヘテロ原子を含むシクロアルキル基及びアリール基をいう。
【0014】
R、R1及びR2の1以上、またはそれらの間で形成される環が置換されている場合、1〜3個の置換基が存在でき、これらはハロゲン、ヒドロキシ、C1-3アルキル、C1-3アルケニル、C1-3アルコキシ、ニトロ、ニトリル及びCONH2から選択される。
【0015】
便宜的に、標的基質を、その特定の基質に対する活性及びエナンチオ選択性が改善された酵素の進化のために用いることができる。
【0016】
従って本発明は、酵素の変異及びホモキラル基質に対する活性が改善された変異体の選択を含む定方向進化によって、アミンオキシダーゼ、特にモノアミンオキシダーゼの触媒活性、及び場合によってエナンチオ選択性を改善する方法を提供する。こうした方法によって選択される酵素変異型の、アミンの脱ラセミ化またはエピマー化のための方法における使用もまた提供される。
【0017】
A. nigerのMAOの野生型アミノ酸配列を配列番号1に示す。一実施形態において、本発明は、酵素がアミノ酸334-350の領域、特にアミノ酸336及び/またはアミノ酸348において、より具体的には変異N336Sまたは二重変異N336S, M348Kの取り込みによって野生型A. niger MAOと異なるA. niger MAOの変異型を提供する。かくして本発明は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するA. niger MAOの変異型を、更なる実施形態において、配列番号3に示すアミノ酸配列を有するA. niger MAOの変異型を提供する。
【0018】
本明細書及び添付の請求の範囲を通して、文脈上他の意味とならない限り、単語「含む」、及び「含有する」及び「含んでいる」等の変形は、記載された数若しくは段階または数若しくは段階の群を包含するが、他の数若しくは段階または数若しくは段階の群を排除しないことを意味すると理解されるであろう。
【0019】
キラル化合物は、立体化学的に異なる2種以上のエナンチオマーを有する。キラル化合物の2種以上のエナンチオマーを含む組成物は、等量または実質的に等量のエナンチオマーを含有する場合、「ラセミ混合物」と呼ばれる。対照的に、実質的に対応するエナンチオマーのない単一のエナンチオマーを含むか、あるいは他方のエナンチオマーのない本質的に一方のエナンチオマーからなる場合、組成物は「ホモキラル」、「エナンチオマー的に純粋」または「実質的に純粋な単独のエナンチオマー」である。「実質的に純粋」とは、対応するエナンチオマーが約5重量%以下、特に約3重量%以下、更には約1重量%未満で存在することを意味する。「エナンチオ選択的」及び「立体選択的」は、本明細書において互いに交換可能に用いられ、キラル化合物の一方のエナンチオマーが他方よりも好都合である反応の傾向をいう。「部分的に立体選択的」(または「部分的にエナンチオ選択的」)、「非−エナンチオ選択的」等は、それらに応じて理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】脱ラセミ化に到る酸化−還元サイクルの反応スキームを示す。
【図2】所望のエナンチオ選択的アミンオキシダーゼ活性を有する酵素を検出するために用いるアッセイを模式的に示す。
【図3】L-AMBA及びD-AMBAに対してアッセイした図2の検出アッセイで選択された27種の酵素の結果を示す。
【図4】N336S、M348K変異体A. nigerモノアミンオキシダーゼの基質特異性を示す。
【図5】N336S、M348K変異体A. nigerモノアミンオキシダーゼのエナンチオ選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面及び配列表を参照して本発明をより詳細に記載する。
【0022】
配列番号1:野生型Aspergillus nigerモノアミンオキシダーゼ酵素のアミノ酸配列を示す(注記:本発明者等は、配列がSchilling & Lerch(10,11)によって報告されたものと4つのアミノ酸で異なることを見出した。これらの違いは、おそらく元のDNA配列決定時の誤りによるものと思われる。これらのうち2つの違いについてはSablin(12)によっても指摘されている)。
【0023】
配列番号2:実施例における定方向進化によって作製した変異型モノアミンオキシダーゼ酵素のアミノ酸配列を示す。変異N336Sを太字で下線を引いて示す。
【0024】
配列番号3:配列番号2のN336S変異型酵素の部位特異的突然変異誘発によって作製した変異型モノアミンオキシダーゼ酵素のアミノ酸配列を示す。変異N336S及びM348Kを太字で下線を引いて示す。
【0025】
本明細書において、本発明者等は、キラルアミンの脱ラセミ化に初めて適用することによる、脱ラセミ化の著しく新たな拡張を報告する。反応は、図1に示す一般的なスキームに従う。酵素は2つのキラル形態の一方に優先的に反応するため、一方のエナンチオマーを他方に変換し、他方は未反応のままとする。酵素反応によって、窒素に結合した炭素にキラル中心を有さないアキラルなイミンが生成する。イミンの非選択的還元の結果、アミンエナンチオマーの1:1混合物が生成する(部分的に選択的な還元剤を用いた場合には、アミンエナンチオマーの非等量混合物が形成する)。この工程を多数回のサイクルで実施すると、アミンは(十分にエナンチオ選択的なアミンオキシダーゼとなる)エナンチオマー的純粋に近づく。イミンがケトンへの加水分解が起こる前に効率的に還元され得るとすれば、収率は100%に近づき得る。
【0026】
アミンオキシダーゼは、2つの群、すなわちI型(Cu/TOPA依存型)及びII型(フラビン依存型)に分類されている(15)。I型酵素の触媒サイクルにおいて、中間体のイミンはタンパク質に共有結合したままであり、イミンを還元してアミンに戻す反応におけるこの段階での干渉を緩和する。II型酵素はもっぱら哺乳動物起源のもので研究されている(9)が、微生物起源のII型酵素はよく実証されておらず、事実、本発明者等の研究開始時には、エナンチオ選択的形質転換に関しての報告はなかった。Schillingら(10,11)はAspergillus nigerのII型モノアミンオキシダーゼ(MAO-N)のクローニング及び発現を報告し、次いでSablinら(12)は酵素を均一にまで精製し、基質特異性及び速度論的研究を実施した。酵素は単純な脂肪族アミン(例えばアミルアミン、ブチルアミン)に対して高い活性を有するが、ベンジルアミンに対しても、より低いが、活性であることが報告された。
【0027】
本発明者等の研究から、A. niger MAO-N酵素は、L-α-メチルベンジルアミンに対して非常に低いが測定可能な活性を有し、D-エナンチオマーの酸化はずっと遅いことが明らかになった。従ってこの酵素は部分的にエナンチオ選択的である。本発明者等はin vitro進化(16,17)を行い、野生型A. niger MAO-N酵素よりも触媒活性及びエナンチオ選択性が改善した新規なアミンオキシダーゼ酵素を作製した。本発明者等はまた、脱ラセミ化反応における進化した変異体の適用性を示した。
【0028】
酵素変異型の大きなライブラリーを作製するために、本発明者等は、野生型A. nigerアミンオキシダーゼ酵素をコードするインサートを含むプラスミドのランダム変異のための突然変異誘発株を用いた。以前にin vitro進化実験のために大腸菌XL1-Red突然変異誘発株(Stratagene)を用いたが、これはプラスミドの全ての部分が変異の対象になり(参考:error prone PCRでは目的の遺伝子のみが変異される)、結果として酵素産生の改善ができ、並びに酵素活性及び/または特異性が変化するという利点がある。プラスミドライブラリーを大腸菌BL21細胞中に形質転換した後、突然変異誘発株で複数回のサイクルを実施し、約106個の変異型のライブラリーを作製できた。
【0029】
変異体酵素が生成したので、これらをアミンオキシダーゼ活性についてアッセイした。アミンオキシダーゼは副産物として過酸化水素を放出するという点で、オキシダーゼファミリーの全てのメンバーの典型である。オキシダーゼ活性についてのアッセイで報告されているものの多くは、過酸化水素の産生を、特に酸化によってはっきり着色する生成物が得られる基質の存在下でパーオキシダーゼと組み合わせて利用するものである。本発明者等はまず、パーオキシダーゼの基質としてアミノアンチピリン/トリブロモヒドロキシ安息香酸を用い、容易に視覚化できるはっきりしたピンクがかった赤のコロニーを得た。しかしながら、着色した生成物は相対的に可溶性であり、従って活性コロニーからの色が速やかに拡散してバックグラウンド強度が高くなってしまう。この問題は、暗いピンク色の不溶性生成物を産し、その結果活性コロニーの非常に高度な明確度とコントラストが得られる3,3'-ジアミノベンザジン(DAB)に基質を切替えることで克服した。このハイスループットスクリーニングが、アミンオキシダーゼだけでなく他のオキシダーゼ酵素にも一般的に適用可能であることに留意すべきである。
【0030】
このライブラリーを寒天プレート上のニトロセルロースフィルターの上に直接蒔き(プレートあたり約3,000コロニー)、プレートのサブセットを用いてスクリーニングプロトコルに従った(図2参照)。各フィルターをペトリ皿に移し、細胞を部分的に溶解させるために−20℃で24-72時間保存した。その後、各プレートをアッセイ混合物及び2%アガロースの双方を含有するカクテルで60℃で処理した。プレートを37℃で24-48時間インキュベートし、その後、陽性クローンを調べ、次いでそれらを採り、更に希釈してプレートに蒔き、純粋なコロニーを単離した。
【0031】
最初のライブラリーのサブセット(約150,000クローン)のスクリーニングの結果、野生型酵素と比較してL-AMBAに対する活性が改善した35個のクローンが同定された。これらのクローンのそれぞれを小規模で増殖させ、無細胞抽出物としてL-及びD-AMBAの双方に対してアッセイした結果、最良の27個のクローンが得られ、これを次の研究のために選択した。これら27個のそれぞれをL-AMBA及びD-AMBAに対してアッセイし、結果を図3に示す。最後に、L-AMBA対D-AMBAに対するその選択性、及び活性の点で野生型酵素よりも最大の改善を示した変異体酵素のクローンを、より詳細な実験のために選択した。次いで更なる変異を導入して発現を高めた。
【0032】
アミノ酸をコードするためにDNA及びRNAにおいて使用されるコドンは特定の重複(縮重)を示すことが知られている。従って、あるアミノ酸が2種以上の3塩基コドンでコードされる場合がある。しかしながら、ある生物が、特定のアミノ酸に対して選択肢のあるコドンの一方を他方よりもより普通に使用する場合がある。このことは、異種の核酸を発現のために宿主生物中に導入する場合に関係してくる。時には元の生物で使用されるコドンが宿主にとっては「より好ましくない」コドンであり、その結果、発現レベルの低下等、発現が困難になり得る。同様に、ある種のアミノ酸で、ある生物のプロテオームにおいて提示されることが他の生物と比較してより少ないことがあり得る。宿主にとって好ましくないコドン及び/またはアミノ酸をより好ましい代替物に交換するように別の核酸配列を使用することによって、宿主細胞における異種発現のレベルを上げることが可能である場合がある。本発明は、A. nigerのMAOの変異型であり、R259及びR260のコドンが異種宿主細胞における発現のために最適化されたモノアミンオキシダーゼ酵素をコードする単離された核酸を提供する。より具体的には、MAOの発現を大腸菌内で起こすことを意図する場合には、これらの位置におけるアミノ酸のアルギニンを、電荷及び大きさが同様の別のアミノ酸で置き換える。これらの変異を、変異体酵素の触媒活性及び/またはエナンチオ選択性を変更する変異に追加することができる。更なる実施形態において、A. niger MAOの変異型であり、変異N336S、及び変異M348K、R259L及びR260Lの1以上を組み込むことによって野生型A. nigerモノアミンオキシダーゼと異なる、エナンチオ選択的モノアミンオキシダーゼ酵素を提供する。
【0033】
以下で同定した変異体N336Sは、位置336の周囲のアミノ酸に更なる変異を導入する「ホットスポット」変異の基礎とすることができる。変異は部位特異的突然変異誘発によって、制限酵素を用いる「カットアンドペースト」方法論でキメラ組み換え酵素を構築することによって、あるいは当業者に周知の他の手段によって、おこすことができる。この方法を用いて、N336S変異体よりも活性が増大した更なる変異体、例えば本明細書中で同定したN336S, M348K二重変異体を同定する。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
大腸菌XL1-Red突然変異誘発株による変異プラスミドDNAライブラリーの作製
pET3a中にクローニングしたAspergillus nigerのMAO遺伝子を、B. Schilling(11)から入手した。この遺伝子を、大腸菌コドン使用に従って設計されたプライマーを用いてpfu Turbo DNAポリメラーゼによって増幅した。PCR産物をpET16bベクター(Novagen)中にサブクローニングした。この構築物(MAOpET16b)を大腸菌XL1-Red突然変異誘発株による突然変異誘発に用いた。
【0035】
大腸菌XL1-Red突然変異誘発株コンピテント細胞はStratageneから入手した。コンピテント細胞を、Stratageneプロトコルに記載されたようにして形質転換した。形質転換細胞懸濁液(Transformation 1)700μlを、アンピシリン(100μg/ml; LB Amp)を含有するLB培地(トリプトン 10g/L、酵母抽出物 5g/L、NaCl 10g/L、pH7)20ml中に接種し、インキュベーターシェイカーに入れた50mlのFalconチューブ中で37℃で18時間増殖させた。これらの増殖条件を全実験を通して使用した。
【0036】
増殖中の培養物20μlを10mlの新しいLB Amp中に接種し、24時間増殖させた。1mlの培養液からプラスミドを精製し(Qiagen Plasmid DNA Miniprep Kit)(pMAO2)、突然変異誘発株の2回目の形質転換(形質転換II)のために使用した。形質転換させた細胞懸濁液全体を10mlのLB Amp中に接種し、24時間増殖させた。1mlの培養液からプラスミドを精製した(pMAOretr1.1)。形質転換IIの増殖中の培養物100μlを用いて10mlのLB Ampに接種した。培養物を24時間増殖させ、プラスミドを精製し(pMAOretr1.2)、形質転換IIIのために使用した。形質転換させた細胞懸濁液全体(1ml)を10mlのLB Amp中に接種し、24時間増殖させ、プラスミドを精製した(pMAOretr2.1)。形質転換IIIの増殖中の培養物100μl別の10mlのLB Ampに接種し、24時間増殖させ、1mlの培養液からプラスミドを精製し(pMAOretr2.2)、形質転換IVのために使用した。形質転換させた細胞の懸濁液全体(1ml)を用いて10mlのLB Ampに接種し、24時間増殖させ、1mlの培養液からプラスミドを精製した(pMAOretr3.1)。形質転換IVの増殖中の培養物100μlを用いて新しい10mlのLB Ampに接種し、24時間増殖させ、プラスミドを精製した(pMAOretr3.2)。
【0037】
変異したプラスミドDNA(pMAOretr2.2、pMAOretr3.1、pMAOretr3.2)の回収したプールを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換して変異したMAO遺伝子を発現させ、L-α-メチルベンジルアミン(L-AMBA)に対する活性を検出した。
【0038】
〔実施例2〕
MAO変異体のスクリーニング
プレートアッセイ法(図2)を用い、L-AMBAに対して活性を有するMAO変異体を同定した。より具体的には、大腸菌BL21(DE3)形質転換体(プレートあたり2500コロニー)を、LB Amp寒天プレート上に載せたHiBond-C Extra(Amersham Pharmacia)膜上に播き、37℃で24時間インキュベートした。コロニーを含む膜をプレートからとり、−20℃に24時間おき、アッセイ混合液と共に室温で24時間インキュベートした。
【0039】
アッセイ混合液
DAB(3,3'-ジアミノベンジジン、Sigma、D-4418)1錠
リン酸カリウム緩衝液(1M、pH7.6)1ml
L-AMBA(10mM) 30μl
西洋ワサビペルオキシダーゼ(Sigma)1mg/ml 30μl
2%アガロース(Bio-Rad)10ml
水 20mlまで
陽性のクローンを第2ラウンドのスクリーニング(プレートあたり100-200コロニー)に供して活性を確認した。
【0040】
〔実施例3〕
活性研究
a)クローン選択
プレートアッセイにおいて、野生型酵素と比較してL-AMBAに対する活性が改善したと同定された27個の陽性クローンを小規模で増殖させ、L-AMBA及びD-AMBAの双方に対してアッセイした。目的の遺伝子を有するタンパク質発現ベクターpET16bで形質転換した大腸菌BL21(DE3)の一つのコロニーを10mlのLB Ampに接種し、50mlのFalconチューブ中で振とうしながら24時間培養した。インキュベーションの最後に、細胞培養液1mlを遠心分離し、ペレットを25mMのリン酸カリウム緩衝液pH7.6の1ml中に再懸濁し、0.1mlを使用し、L-及びD-AMBAの双方を基質として用いて過酸化水素形成アッセイを行った。
【0041】
アッセイ混合液:(Manfred Braunら、Applied Microbiology and Biotechnology (1992) 37:594-598)
リン酸緩衝液(1M、pH7.6)5ml
2,4,6-トリブロモヒドロ安息香酸(DMSO中2%)500μl
4-アミノアンチプリン(1M)37.5μl
L-またはD-AMBA(最終濃度5mM)32.5μl
水 50mlまで
895μlのアッセイ混合液に以下を添加した:
HRP(Sigma, P6782)(1mg/ml)5μl
サンプル(100μl)を添加し、24時間後に510nmの吸光度をサンプルなしの対照に対して測定した。吸光度の結果を図3に示す。
【0042】
これらの27個のクローンのうちの数個は、ポリアクリルアミドゲル上で可視化するとタンパク質発現の上昇を示しており、発現変異体であることが明らかである(データは示さない)。発現の上昇はないようであるが、L-対D-AMBAに対するその選択性、及び活性の点で野生型酵素よりも大きく改善されたことを示した、同定された最良の変異体のプラスミドをより大きな規模で増殖させ、酵素を精製した。野生型酵素も同じプロトコルで精製し、2つの酵素について基質特異性及びエナンチオ選択性を比較した。
【0043】
変異した遺伝子も配列決定し、その配列を配列番号2に示す。野生型酵素とは、位置336のアスパラギンがセリンに置換され、1個のアミノ酸の変化があった。
【0044】
b)変異型及び野生型酵素の増殖及び比較
大腸菌BL21(DE3)で発現したMAO変異型の増殖及び精製
1Lのバッフル(baffled)フラスコ中のアンピシリン(100μg.ml-1)を含有するLB培地(6×300ml)に、LB寒天プレートからのモノアミンオキシダーゼ変異体の単一のコロニーを接種した。培養液を30℃で22時間インキュベートし(OD600〜3.6)、次いで回収し、リン酸緩衝液(50mM、pH8)で洗浄して黄褐色のペレットを得た(11.2g)。
【0045】
ペレットをTris/HCl緩衝液(25mM、pH7.8、30ml)中に再懸濁し、氷上で音波処理した(30秒間オン、30秒間オフを10分間)。次いで、透明な上清が得られるまで懸濁液を遠心分離し(20,000rpm、4℃)、上清をTris/HCl緩衝液(25mM、pH7.8)に対して透析した。無細胞抽出液を0.45μmの無菌メンブレンを通して濾過し、QSepharoseアニオン交換カラムでクロマトグラフィーにかけた。過酸化水素に基づく比色法を用いて画分をアッセイし、活性画分を−80℃で保存した。活性画分は1mg.ml-1のタンパク質含量、アミルアミンに対する比活性0.193U.mg-1を有していた。
【0046】
クロマトグラフィー条件:
カラム=HiFlow QSepharose 26/10
緩衝液A=Tris/HCl(25mM, pH7.8)
緩衝液B=Tris/HCl(25mM, pH7.8)+1M NaCl
流速=4ml.min-1
画分回収=10ml
カラム洗浄=2CV 100% 緩衝液A
溶出=10CV 100% 緩衝液A から 100% 緩衝液B
カラム洗浄=4CV 100% 緩衝液B
アッセイ混合液
リン酸緩衝液(1M、pH7.6)5ml
2,4,6-トリブロモ-3-ヒドロキシ安息香酸(DMSO中2%)500μl
4-アミノアンチピリン(1.5 M)37.5μl
アミン基質(最終濃度0.015-5mM)30μl
水 44.4ml
アッセイ条件
アッセイ混合液990μl
西洋ワサビペルオキシダーゼ(1mg.ml-1)5μl
酵素10μl
分光光度計はアッセイ混合液及びHRPに対してブランクとなるようにした。酵素を添加し、500nmの吸光度を3秒の間隔をおいて10分間測定した。
【0047】
結果:
【表1】

【0048】
Km値は、「KaleidaGraph for Windows」(Synergy Software)を用いて計算した。Kcatの計算のために、11mM-1cm-1の減衰係数を用い、458nmにおける吸光度からFAD含量を推定することによって活性酵素濃度を決定した(ref 12を参照)。
【0049】
データから、L-AMBAに対する変異型アミンオキシダーゼの活性(kcat=8.0min-1)が野生型(kcat=0.17min-1)よりも47倍高いことがわかる。更に、L-エナンチオマー対D-AMBAに対する変異型の選択性(約100:1)もまた、野生型酵素(約17:1)と比較して上昇した。従って、in vitroの進化実験の結果、酵素のエナンチオ選択性及び触媒活性の双方が同時に改善された。比較のために、野生型酵素での最良の基質、すなわちアミルアミン及びベンジルアミンに対する活性を挙げる。キラルHPLC(Chiralcel CrownPak CR+)において、24時間後にL-エナンチオマーの完全な酸化が明らかであったのに対し、D-エナンチオマーの変換は検出できなかったことで、変異型の活性及び選択性における実質的な改善が確認された。
【0050】
〔実施例4〕
脱ラセミ化反応
DL-AMBAを基質として用い、変異型MAO-Nの存在下、種々の還元剤をスクリーニングした(ホウ化水素ナトリウム、触媒的転移水素化、アミン:ボラン類)。このスクリーニングにより、D-AMBAの収率77%、エナンチオマー過剰率93%の最適な試薬としてアンモニア:ボランが同定された。生成物のより高い光学純度(99%e.e.まで)が達成できたが、その場合収率が低くなった。
【0051】
より具体的には、MAO変異体N336S(0.193U.ml-1を100μl=0.02U)をDL-AMBA(0.13μl、最終濃度=0.8mM)及びアンモニア-ボラン複合体(4M溶液を10μl、最終濃度=80mM、100eq)のリン酸緩衝液(400μl、20mM、pH8)溶液に添加した。10μlのアリコートを990μlの過塩素酸、pH1.5で希釈し、HPLCで分析した。反応混合液を30℃でインキュベートし、更なる反応が観察されなくなるまで、通常の間隔でHPLCによって反応をモニターした。
【0052】
D-AMBA収率=77%、e.e.=93%:
分析条件:カラム=Chiralcel CrownPak CR+
移動相=100%過塩素酸、pH1.5
流速=0.8ml.min-1
検出=200nm
温度=25℃
r.t.(L-AMBA)=12.8分
r.t.(D-AMBA)=16.5分
【0053】
〔実施例5〕
立体反転(stereoinversion)反応
本発明者等はまたL-AMBAからD-AMBAへの立体反転を行い(収率18%、99%e.e.)、同一の条件下でD-AMBAからL-AMBAへの変換が起こらないことを示した。
【0054】
より具体的には、MAO変異体N336S(0.193U.ml-1を100μl=0.02U)をL-AMBA(0.13μl、最終濃度=0.4mM)及びアンモニア-ボラン複合体(4M溶液を10μl、最終濃度=80mM、200eq)のリン酸緩衝液(400μl、20mM、pH8)溶液に添加した。10μlのアリコートを990μlの過塩素酸、pH1.5で希釈し、HPLCで分析した。反応混合液を30℃でインキュベートし、更なる反応が観察されなくなるまで、通常の間隔でHPLCによって反応をモニターした。
【0055】
D-AMBA収率=18%、e.e.>99%:
NB:同一の反応条件下でD-AMBAを基質として用いた場合、24時間後に反応は観察されなかった。
【0056】
分析条件:カラム=Chiralcel CrownPak CR+
移動相=100%過塩素酸、pH1.5
流速=0.8ml.min-1
検出=200nm
温度=25℃
r.t.(L-AMBA)=12.8分
r.t.(D-AMBA)=16.5分
HPLCクロマトグラムの分析から、脱ラセミ化反応における収率は、反応が進行するにつれて保持時間がより長い副産物が生成するために、100%に到達するのを妨げられることが示唆される。本発明者等は現在、α-アミノ酸の脱ラセミ化において以前に報告した高レベルの収率及び選択性を達成するために、脱ラセミ化プロトコルを最適化している。
【0057】
略号:
MAO−モノアミンオキシダーゼ
AMBA−α-メチルベンジルアミン
TBHBA−2,4,6-トリブロモ-3-ヒドロキシ安息香酸
AAP−4-アミノアンチピリン
HRP−ウシ肝臓由来の西洋ワサビペルオキシダーゼVI型
LB−Lubria Bertani
r.t.−保持時間
【0058】
〔実施例6〕
N336S変異型酵素の基質特異性
上記の変異型酵素の活性を、種々のアミン基質について調べた。アッセイ条件は本質的に実施例3に示したものとした。試験した基質は以下の通りであった。
【化2】

【0059】
結果:
【表2】

【0060】
〔実施例7〕
更なる変異体クローンの作製
野生型A. nigerのモノアミンオキシダーゼの最初に公表された配列では、位置348にリシンが示された。上記で作製し、実施例3(a)で最初に試験した変異型酵素のいくつかは、この位置にメチオニンを有することから二重変異体と考えられた。しかしながら、野生型の配列を確認した(再度配列決定した)ところ、野生型の位置348のアミノ酸は(配列番号1に示すように)メチオニンであることが示された。この部位における変異の影響(あるとすれば)を明らかにするために、野生型の酵素に対して部位特異的突然変異誘発を行い、M348K変異を導入した。この位置のアミノ酸の同一性は発現効率に影響し、リシンの場合に酵素の触媒活性を変えることなく発現が上昇する(絶対活性U/mlは野生型よりも高いが、タンパク質量について補正すると、野生型酵素と同じKcat値が得られる)ことが確認された。次いで上記のN336S変異体に対して部位特異的突然変異誘発を行って第二の変異(M348K)を生成させると、N336S変異の触媒能増大が発現の上昇と組み合わされる。この二重変異体のアミノ酸配列を配列番号3に示す。
【0061】
〔実施例8〕
N336S、M348K変異型酵素の基質特異性
上記の二重変異型酵素の活性を、種々のアミン基質について調べた。アッセイ条件は、本質的に実施例3で示したものであった。試験した基質及び相対変換率(L-AMBAを100とした比較)を図4に示す。いくつかの基質については、両方のエナンチオマーを基質として試験した。全ての場合において、酵素は明らかにエナンチオ選択性を示し、いくつかの場合では反対のエナンチオマーに対する活性は検出できなかった(エナンチオ選択性のデータを図5に示す)。
【0062】
〔実施例9〕
変異体R260Kの発現の適用
変異R260Kはアルギニンに対して出現率の低いコドン内にあることが見出された。配列決定の結果、全ての「発現した」変異体が、アルギニンがリシンで置換された位置260における同じ変異を有していることが明らかになった。
【0063】
野生型MAO-Nアミノ酸配列は、大腸菌遺伝子において出現率の低い(4%)コドン(AGG)によってコードされた2個のアルギニンを位置259及び260に有する。リシン及びアルギニンは共に塩基性アミノ酸であり、このためその一方が他方に置換されたことでタンパク質の電荷は影響されないが、Argの低頻度コドンAGG(4%)がLysの高頻度コドンAAG(22%)で置換されると、大腸菌におけるタンパク質発現が改善される。従って本発明者等は、Arg259及びArg260の双方のコドンを部位特異的突然変異誘発によってコドンCGT(38%)で置換してMAO-Nの発現レベルに対する効果を評価することにした。別のアプローチは、AGGコドンを、これもアルギニンをコードする異なるコドン(AGA、CGT、CGC、CGA、CGG)に変えることによって「サイレント」変異を作製することであろう。
【0064】
MAO WT及びMAOArg259/260を、対応するmao-n遺伝子を保持するpET16bを有する組み換え大腸菌BL21(DE3)から部分精製した。音波処理によって無細胞抽出物を調製し、AAに対するMAO WT及びMAOArg259/260の比活性を、可溶性及び不溶性画分の双方について測定した(表3)。
【表3】

表3 部分精製MAO WT及びMAOArg259/260におけるアミルアミン(AA)に対する比活性
【0065】
R260K変異体発現レベルの増大を確認するために、MAO WT、変異体4(R260K)及びMAOArg259/260の無細胞抽出物を得、L-AMBAに対してアッセイした。これは、各サンプル50μlを240分間インキュベートすることで行い、比活性を測定した(表4)。
【表4】

【0066】
結論として、本発明者等は、キラルアミンの脱ラセミ化に初めて適用することによって、脱ラセミ化戦略を著しく広げた。そうすることによって、本発明者等は、新規な生体変換の特殊な要件を満たすために酵素の「定方向進化」を首尾良く達成した。本発明の別の興味深い態様は、スクリーニングにおいて単一のエナンチオマー基質(L-AMBA)を用いることによる、高度にエナンチオ選択的な変異体の同定である。ラセミ化合物を用い、それによって酵素に対して2つのエナンチオマーが競合する速度論的光学分割で見られる現実の状況を模倣する、真にエナンチオ選択的なスクリーニングの必要性に関しては多くの議論があった。種々の遺伝子(例えば106個)の実に大きく多様なライブラリーをスクリーニングすることが可能であれば、本質的により簡単なスクリーニングを用いて、本明細書に記載の方法でエナンチオ選択性を選択することが可能であるだろう。
【0067】
本明細書及び請求の範囲が一部を構成する本出願は、後続の出願において優先権の基礎として用いられ得る。このような後続の出願の請求の範囲は、本明細書に記載した任意の特徴または特徴の組み合わせに対するものであっても良い。それらは生成物クレーム、組成物クレーム、方法クレーム、または使用クレームの形態をとることがあり、非制限的な例として、添付の請求の範囲の1以上を含むことがある。
【0068】
参考文献
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(17) FH Arnold (1998) Acc. Chem. Res. 31, 125.
【0069】










【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

[式中、
a)RはH又はC1-4アルキルであり、R1及びR2は独立して置換又は非置換のC1-10アルキル、C1-10アルケニル、C1-10シクロアルキル、C1-10へテロサイクル、C1-10アリール、C1-10ヘテロアリール、C1-4アルキル-アリール、C1-4アルキル-ヘテロアリール、C1-4アルキル-C1-6シクロアルキル及びC1-4アルキル-C1-6ヘテロサイクルから選択されるか、あるいは
b)RはH又はC1-4アルキルであり、R1及びR2は一緒になって1個以上のヘテロ原子を含む置換又は非置換のC1-10シクロアルキル環系又はC1-10アリール環を形成するか、あるいは
c)R及びR1が一緒になって、1個以上のヘテロ原子を含み得る置換又は非置換のC1-10シクロアルキル又はC1-10アリール環系を形成し、R2は上記a)と同様に定義されるものである]
のキラルアミン又は該式Iのアミンエナンチオマーの混合物を、アミンの立体選択的な方法での酸化を触媒できるII型アミンオキシダーゼ酵素で処理し、続いて又は同時に還元剤で処理することを含む、アミンのエナンチオマー変換方法。
【請求項2】
一方のアミンエナンチオマーの他方へのエピマー化方法(epimerisation)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アミンエナンチオマー混合物がラセミ混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
還元剤が部分的にエナンチオ選択的である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
還元剤が化学的還元剤であり、エナンチオ選択的でない、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
還元剤が、水素化ホウ素ナトリウム、シアノボロ水素化ナトリウム(sodium cyanoborohydride)、アミン:ボラン複合体又は転移水素化(transfer hydrogenation)試薬から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
転移水素化試薬がPd/Cを含むギ酸アンモニウムである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アミン:ボラン複合体がアンモニア:ボラン複合体である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
アミンの酸化を触媒できる酵素で処理する工程及び還元剤で処理する工程を連続して複数回実施する酸化−還元サイクルを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
酵素が、アミノ酸334-350の領域における突然変異によって野生型A. nigerのII型モノアミンオキシダーゼと異なるA. niger II型モノアミンオキシダーゼの変異型である、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
酵素が、アミノ酸番号336の突然変異によって野生型A. nigerのII型モノアミンオキシダーゼと異なるA. niger II型モノアミンオキシダーゼの変異型である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
酵素が、突然変異N336Sの組み込みによって野生型A. nigerのII型モノアミンオキシダーゼと異なるA. niger II型モノアミンオキシダーゼの変異型である、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−178747(P2010−178747A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60975(P2010−60975)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2003−578579(P2003−578579)の分割
【原出願日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】