説明

アモルファス非晶質ガラス形態のアジスロマイシンを含む組成物

本発明は、約3500および1727cm−1における特徴的な比較的ブロードなピークならびに約2970および2938cm−1における特徴的なピークを示す赤外線パターンを有するアモルファス非晶質ガラス形態(2R,3S,4R,5R,8R,10R,11R,12S,13S,14R)−2−エチル−3,4,10−トリヒドロキシ−3,5,6,8,10,12,14−ヘプタメチル−15−オキソ−11−{[3,4,6−トリデオキシ−3−(ジメチルアミノ)−β−D−キシロ−ヘキソピラノシル]オキシ}−1−オキサ−6−アザシクロペンタデク−13−イル2,6−ジデオキシ−3−C−メチル−3−O−メチル−α−L−リボ−ヘキソピラノシドまたはアジスロマイシンに関する。本発明はさらに、無水、一水和または二水和アジスロマイシンを選択する工程;前記アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程;および前記溶融物の温度を、比較的増加した溶解度を有するアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンがその構造安定性を減少させることなく固化するように十分に低減させる工程を含む、アジスロマイシンの溶解度を増加させる調製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、新規アモルファス形態の(2R,3S,4R,5R,8R,10R,11R,12S,13S,14R)−2−エチル−3,4,10−トリヒドロキシ−3,5,6,8,10,12,14−ヘプタメチル−15−オキソ−11−{[3,4,6−トリデオキシ−3−(ジメチルアミノ)−β−D−キシロ−ヘキソピラノシル]オキシ}−1−オキサ−6−アザシクロペンタデク−13−イル2,6−ジデオキシ−3−C−メチル−3−O−メチル−α−L−リボ−ヘキソピラノシドまたはアジスロマイシンに関する。本発明はさらに、薬剤の調製方法に関する。さらに詳細には、本発明は、アジスロマイシンの溶解度を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アジスロマイシンは、アザライドであり、抗生物質のマクロライドファミリーのメンバーである。この15員環のマクロライド抗生物質は、組成、化学構造(半合成)および作用機序がエリスロマイシンと極めて類似している。アジスロマイシンの多形は、一般にアジスロマイシン無水物(MM=749.00g/mol)、一水和物(MM=767.02g/mol)または二水和物(MM=785.02g/mol)として存在する。しかしながら、アジスロマイシンは0.1NのHCl中で酸安定であること、および二水和物が現在最も安定な多形形態であることに留意すべきである。
【0003】
アジスロマイシン二水和物の化学式は、C387212.2HOであり、無水アジスロマイシンの化学構造は、ラクトン環中の窒素原子のメチル置換を介してエリスロマイシンとは異なる。
【0004】
一部のアモルファス形態のアジスロマイシンの調製は、米国特許第6245903号明細書および同第6451990号明細書に既に記載されている。
【0005】
米国特許第6245903号明細書は、無水形態のアジスロマイシンを記載し、さらにクロマトグラフィーを使用して、または溶媒蒸発法を使用することによりアモルファス無水アジスロマイシン形態を精製する方法を提供している。
【0006】
米国特許第6451990号明細書は、アジスロマイシンおよび脂肪族アルコールまたは環式エーテルの溶液を形成し、前記溶液を凍結乾燥させる調製方法を含む、非晶質形態のアジスロマイシンを記載している。
【0007】
上記の全ての非晶質形態のアジスロマイシンは、溶媒および/または凍結乾燥を使用して製造される。前記方法は、種々の形態の薬物の調製について、製薬産業において周知であるが、これらの公知の方法についてはいくつかの欠点が存在する。欠点の一部は、これらの方法が時間を要し、製造用試薬を必要とすることである。これらの方法に伴ういっそうさらなる欠点は、非晶質アジスロマイシンの構造中の溶媒がアジスロマイシンの物理化学的特性に影響し得ることである。
【0008】
アジスロマイシンは、エリスロマイシンの抗菌スペクトルと同様の抗菌スペクトルを有する。しかしながら、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)および他のグラム陰性細菌、例としてスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus);ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae);ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae);ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes);ヘモフィルス・デュクレイ(Haemophilus ducreyi);モラキセラ・カタラリス(Moraxella catarrhalis);ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae);クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae);クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis);マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae);ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori);サルモネラ・チフィ(Salmonella typhi);およびマイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ(Mycobacterium avium intracellulare)に対してより効果的である。
【0009】
公知の市販のアジスロマイシン二水和物(原料)に伴う欠点は、水への溶解性が不十分であることである。
【0010】
アジスロマイシンに伴うさらなる欠点は、この不十分な水への溶解度が他の薬物動態特性に影響し、活性薬物の不十分なバイオアベイラビリティ(経口投与用量の38%のみが全身循環に達するにすぎない。)をもたらすことである。
【0011】
さらに別のアジスロマイシンの欠点は、前記の不十分なバイオアベイラビリティにより、所望の治療効果を達成するために比較的大量のアジスロマイシンの投与を余儀なくされることである。
【0012】
比較的大量のアジスロマイシンの使用に伴う欠点は、この活性成分に伴う副作用が潜在的に増加し、不十分な患者コンプライアンスにつながり、細菌薬物耐性を潜在的にもたらすことである。
【0013】
比較的大量のアジスロマイシンの使用に伴ういっそうさらなる欠点は、生成物の生成および製造コストが増加し、この増加により治療のコストが増加することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、安定な新規形態のアジスロマイシンを提供することである。本発明の別の目的は、アジスロマイシンの溶解度を増加させる方法を提供することである。本発明のさらに別の目的は、上記欠点を克服または少なくとも最小限に抑えることができるこのような方法により調製された薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、安定なアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを含む組成物が提供される。
【0016】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、約3500および1727cm−1における比較的ブロードなピークならびに約2970および2938cm−1における少なくとも1つの特徴的なピークを有する赤外線パターンを示すことができる。赤外線パターンは、実質的に図2のように示すことができる。
【0017】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、実質的に図12に示される示差走査熱量測定サーモグラムを示すことができ、100〜115摂氏度の間でガラス転移を示す。
【0018】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、無水、一水和または二水和アジスロマイシンに対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも150%増加した水への溶解度を有することができる。
【0019】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、無水、一水和または二水和アジスロマイシンに対して少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%増加した0.1Nの塩酸(pH1)への溶解度を有することができる。
【0020】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、無水、一水和または二水和アジスロマイシンに対して少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%増加したリン酸塩緩衝液(pH6.8)への溶解度を有することができる。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、
無水、一水和または二水和アジスロマイシンからなる群から選択されるアジスロマイシンを提供する工程と;
前記アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程と;および
前記溶融物の温度を、比較的増加した溶解度を有するアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンがその構造安定性を減少させることなく固化するように十分に低減させる工程と
を含む、アジスロマイシンの溶解度を増加させる方法が提供される。
【0022】
アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程は、溶媒の不存在下でその温度を100〜140摂氏度の間、好ましくは130摂氏度に上昇させる工程を含む。
【0023】
選択されたアジスロマイシンの温度は、溶媒の不存在下でその融点を超えるように上昇させる。
【0024】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様の方法により無水、一水和または二水和アジスロマイシンから調製された薬剤が提供される。
【0025】
本発明の第4の態様によれば、細菌感染に罹患する患者を治療する方法における、本発明の第1の態様による、および本発明の第2の態様の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの使用が提供される。
【0026】
本発明の第5の態様によれば、細菌感染に罹患する患者の治療において使用される薬剤を調製する方法における、本発明の第1の態様による、および本発明の第2の態様の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態の使用が提供される。
【0027】
本発明の第6の態様によれば、本発明の第1の態様による、および本発明の第2の態様の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを、細菌感染に罹患する患者に投与する工程を含む、細菌感染に罹患する患者を治療する方法が提供される。
【0028】
本発明のさらに別の態様によれば、錠剤;カプセル剤;散剤;液剤;シロップ剤;懸濁剤;ボーラス注射剤;連続点滴剤;再構成用粉末;浣腸剤;膣洗浄剤;ペッサリー剤;経皮貼付剤;皮膚貼付剤;軟膏剤;クリーム剤;ゲル剤;ローション剤;噴霧剤およびトローチ剤からなる群から選択される剤形の、本発明の第2の態様の方法によるアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンから、少なくとも1種の不活性な医薬的に許容される担体または希釈剤と共に調製された薬剤が提供される。
【0029】
以下、本発明をさらに、単に例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来技術のアジスロマイシン二水和物の赤外線(IR)パターンである(縦軸:透過率(百分率);横軸:波数(cm−1));(赤外線パターンは、Shimadzu IRPrestige−21(Japan)により、Shimadzu IRsolutionバージョン1.40ソフトウエアを用いてPike Multi−Reflectance ATRアクセサリを使用して得た。パターンを、400−4000cm−1の範囲にわたり記録した。バックグラウンドとしてKBrを使用した。試料を粉末化臭化カリウムのマトリックス中に分散させ、拡散反射フーリエ変換赤外分光法(DRIFTS)を介してIRスペクトルを反射セル中で計測した。)。
【図2】本発明によるアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンのIRパターンである(縦軸:透過率(百分率);横軸:波数(cm−1))。
【図3】従来技術のアジスロマイシン二水和物原料の特徴的なXRPD(X線粉末回折パターン)である(縦軸:強度(リニア(カウント数));横軸:2シータ(度数));(PANalytical Xpert−Pro、ゴニオメータ=PW3050/60(シータ/シータ)により得た。);最小ステップサイズ2シータ:0.001;計測温度[℃]:25.00、アノード材料:Cu、K−アルファ1[Å]:1.54060、K−アルファ2[Å]:1.54443、K−ベータ[Å]:1.39225、K−A2/K−A1比:0.50000、発生器設定:45mA、40kV、回折計タイプ:0000000011018023、ゴニオメータ半径[mm]:240.00、焦点−発散スリット間の距離[mm]:91.00、入射ビームモノクロメータ:無し、回転:有り)。
【図4】アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの特徴的なXRPD(X線粉末回折パターン)である(縦軸:強度(リニア(カウント数));横軸:2シータ(度))。
【図5】一定期間にわたり得られたアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの特徴的なXRPD(X線粉末回折パターン)であり、0が調製時、1が1週目、2が2週目、3が3週目、4が4週目である(縦軸:強度(リニア(カウント数));横軸:2シータ(度数))。
【図6】従来技術のアジスロマイシン二水和物原料およびアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの水への溶解度を比較する溶解度プロファイルである(縦軸:濃度(mg/mL);横軸:アジスロマイシン形態)。
【図7】従来技術のアジスロマイシン二水和物原料およびアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの0.1NのHClへの溶解度を比較する溶解度プロファイルである(縦軸:濃度(mg/mL);横軸:アジスロマイシン形態)。
【図8】従来技術のアジスロマイシン二水和物原料およびアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンのリン酸塩緩衝液への溶解度を比較する溶解度プロファイルである(縦軸:濃度(mg/mL);横軸:アジスロマイシン形態)。
【図9】従来技術のアジスロマイシン二水和物原料の異なる媒体への溶解度を比較する溶解度プロファイルである(縦軸:濃度(mg/mL);横軸:媒体)。
【図10】アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの異なる媒体への溶解度を比較する溶解度プロファイルである(縦軸:濃度(mg/mL);横軸:媒体)。
【図11】一定期間にわたり得られた従来技術のアジスロマイシン二水和物原料のDSC(示差走査熱量測定)トレースであり、1が0週目、2が2週目、3が4週目である(縦軸:熱流量(mW);横軸:温度(摂氏度));(DSCトレースは、Shimadzu DSC−60A(Japan)により、TA60バージョン2.11ソフトウエアを用いて得た。各試料の約2から4mgを秤量し、開放アルミニウムるつぼ中で加熱した。試料を不活性窒素雰囲気中で2℃/分において加熱した。)。
【図12】一定期間にわたり得られた、本発明の一実施形態によるアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンのDSC(示差走査熱量測定)トレースであり、0が調製時、1が1週目、2が2週目、3が3週目、4が4週目である(縦軸:熱流量(mW);横軸:温度(摂氏度))。
【図13】本発明の一実施形態による調製後4週目に撮影されたアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの熱顕微鏡写真(25摂氏度)である。
【図14】安定性試験の間のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの熱重量分析(TGA)トレースオーバーレイである(縦軸:重量(mg);横軸:温度(摂氏度));(Shimadzu DTG−60(Japan)により、TA60バージョン2.11ソフトウエアを用いて得た。試料を開放アルミニウムるつぼ中で2℃/分において25摂氏度から150摂氏度に加熱した。不活性雰囲気として窒素ガスを使用した。)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好ましい実施形態によれば、安定なアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを提供することによりアジスロマイシンの溶解度を増加させる方法が提供される。
【0032】
本方法は、無水、一水和または二水和アジスロマイシンからなる群からアジスロマイシンを選択する工程と;前記アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程と;および前記溶融物の温度を、比較的増加した溶解度を有するアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンが固化するように十分に低減させる工程とを含む。
【0033】
本発明による方法の各工程のさらなる詳細:
本発明の好ましい実施形態による本方法の第1の工程は、公知の市販の無水、一水和または二水和形態からアジスロマイシン原料を選択することである。
【0034】
本方法の後続の工程は、アジスロマイシン原料を好適な容器中にあらゆる溶媒の不存在下で装入し、該原料を乾燥加熱オーブン内で約130摂氏度に加熱し、次いで溶融物を室温(25摂氏度)に冷却することである。
【0035】
または、アジスロマイシン原料を、好適な容器中に装入し、任意の好適な環境内で約130摂氏度に加熱することができる。次いで、溶融物を室温(25摂氏度)に冷却する。
【0036】
さらなる分析および知見
驚くべきことに、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、構造的に安定であり、従来技術の方法により調製された慣用の無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比較して水、リン酸塩緩衝液および0.1Nの塩酸中で顕著な溶解性を示すことが見出された。
【0037】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンのさらなる分析において、5個の反復試験チューブのそれぞれに過剰のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンおよび10mlの溶解媒体を充填した。この工程は、以下の媒体のそれぞれを用いて実施した:0.1Nの塩酸(pH1)、酢酸塩緩衝液(pH4.5)、リン酸塩緩衝液(pH6.8)および蒸留水。本方法は、従来技術のアジスロマイシン二水和物の試験にも使用した。
【0038】
次いで、試験管を回転軸(54rpm)に固定し、37摂氏度±2摂氏度において水浴中に24時間沈めた。試験管の内容物を0.45μmのフィルターに通して濾過し、続いて各濾液を希釈した。
【0039】
濾液の濃度をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)アッセイにより測定した。HPLCアッセイは、8.7g/Lのリン酸二水素カリウム緩衝液(pH4.5)およびアセトニトリルからなる移動相(600:400)を利用して実施した。Luna C18 250mm×4.6mmカラムを0.5mL/分の流速および210nmの波長を用いて使用した。本方法のバリデーションは、0.9999の線形回帰rを提供した。
【0040】
図6から10を参照すると、アジスロマイシン原料(二水和物)の溶解度は、酢酸塩緩衝液(pH4.5)中で17.966±0.113mg/mLであり、リン酸塩緩衝液(pH6.8)中で8.442±0.069mg/mLであり、0.1NのHCl中で40.814±0.368mg/mLであり、蒸留水中で0.148±0.028mg/mLであることが測定された。リン酸塩緩衝液は、リン酸二水素カリウム、水酸化ナトリウムおよび水からなり、酢酸塩緩衝液は、酢酸ナトリウム三水和物、氷酢酸および水からなる。さらに、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの溶解度は、酢酸塩緩衝液(pH4.5)中で18.045±0.485mg/mLであり、リン酸塩緩衝液(pH6.8)中で10.968±0.182mg/mLであり、0.1NのHCl中で45.703±0.917mg/mLであり、蒸留水中で1.357±0.233mg/mLであることが測定された。実際、原料と比較すると、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、媒体としての水への溶解度の9.16倍(816%)の改善(図6)、pH6.8リン酸塩緩衝液への溶解度の1.3倍(30%)の改善および0.1NのHClへの溶解度の1.12倍(12%)の改善(図7)を有する。アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、無水、一水和または二水和アジスロマイシンよりも少なくとも50%だけ、さらに詳細には少なくとも150%だけ水中においてより溶解性であることが見出された。さらに、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、二水和アジスロマイシンよりも少なくとも5%、さらに詳細には少なくとも10%だけ0.1NのHCl媒体中においてより溶解性であることが見出された。アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、二水和アジスロマイシンよりも少なくとも10%、さらに詳細には少なくとも20%だけリン酸塩緩衝液媒体中においてより溶解性であることがいっそうさらに見出された。
【0041】
図3は、原料アジスロマイシンの特徴的なXRPDパターンを示し、アジスロマイシンが結晶形態であることを裏付ける。このことは、一般にアモルファス形態を用いて得られる特徴的なアモルファスハロー(amorphous halo)を示すアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシン(図4)とは対照的である。
【0042】
図1および2を参照すると、原料(図1)およびアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシン(図2)の両方についてのピークに関連する赤外線(IR)パターン波数は、以下のとおりまとめることができる:
【0043】
【表1】

【0044】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンについて得られたIRパターン(図2)と比較して原料(図1)のIRパターンの最も特徴的な差異は、波数3580から1727cm−1の間に存在する。
【0045】
アジスロマイシン二水和物のIRパターン(図1)は、波数3600から3000cm−1における興味深いピークを示す。これらのピークは、アジスロマイシン二水和物の構造中に見出される水和物(2個の水分子)を表す。対照的に、図2は、波数3500cm−1において1つのブロードなピークのみを示し、3251cm−1においてはピークを示さず、このことは、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシン中の水和分子の欠如を示す。
【0046】
原料のIRパターン(図1)は、3567、3496、3251、2971および1720cm−1において5個の別個の明確に区別可能なピークを示す。このことは、3500(ブロードなピーク)、2970、2938および1727(ブロードなピーク)cm−1においてピークを示すアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンとは対照的である。
【0047】
本出願人は、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンが一定期間にわたり構造的に安定であり(40℃および75%の相対湿度において)、XRPDパターン(図5)に示されるとおりアモルファスのままであることを立証した。図5において、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、4週間の試験期間にわたり一般にアモルファス形態を用いて得られる特徴的なアモルファスハローを示した。図13において、II型はアジスロマイシンの結晶固体形態に変形することなく、非晶質のままであったことがアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの顕微鏡写真からさらに明らかである。
【0048】
図11を参照すると、従来技術のアジスロマイシン二水和物のDSC(示差走査熱量測定)トレースは、80摂氏度から100摂氏度の間の二水和物の2つの脱溶媒和ピークを説明し、119摂氏度から121摂氏度における融点をさらに説明する。図11とは対照的に、図12は、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンのサーモグラムを示し、80摂氏度から100摂氏度の間の2つの脱溶媒和ピークの不存在を示し、100摂氏度から115摂氏度の間でガラス転移をさらに示す。
【0049】
安定性試験は、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンがアモルファス非晶質形態として構造的に安定のままであったことを示す。
【0050】
図14の熱重量分析(TGA)トレースは、一定期間にわたるアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの重量損失を説明する。カール・フィッシャー滴定を一緒に用いたTGA結果(平均3から4%)は、アモルファスアジスロマイシン中の水の存在を示す。しかしながら、水の存在はアモルファスアジスロマイシンの溶解度または構造安定性にまったく影響しなかったことが提示される。
【0051】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、任意の慣用の手法において投与のために配合され、本発明は、この範囲内に、ヒトまたは獣医薬における使用に適合されたアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを含む医薬組成物を含む。
【0052】
医薬組成物は、医薬的に許容される担体または賦形剤を用いて慣用の様式における使用のために提供され、必要であれば、他の活性成分を含有することもできる。アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、典型的には、経口、バッカル、局所または非経口投与のために配合される。
【0053】
経口投与は、特に錠剤およびカプセル剤の形態の好ましい剤形である。経口投与のための医薬組成物は、慣例的に、許容される賦形剤を用いて慣用の手段により調製された錠剤、カプセル剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤の形態を取る。バッカル投与組成物は、慣用の様式において配合された錠剤またはトローチ剤の形態を取る。
【0054】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、さらに、ボーラス注射剤または連続点滴剤による非経口投与のために配合される。注射用配合物は、保存剤が添加されたアンプル中または複数回用量容器中の単位剤形で提供される。組成物はさらに、油性または水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤または乳剤のような形態を取り、配合剤、例えば懸濁化剤、安定剤および/または分散剤を含有する。または、活性成分は、好適なビヒクルを用いる再構成用粉末形態である。
【0055】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、慣用の様式において調製された軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、散剤;経皮貼付剤、皮膚貼付剤または噴霧剤を含む局所用途においていっそうさらに配合される。
【0056】
粒子状非溶媒和無水形態のネビラピン(I型)は、経直腸および経膣組成物、例えば、慣用の坐剤基剤、例えばココアバターまたは他のグリセリドを含有する坐剤または停留浣腸剤にいっそうさらに配合される。
【0057】
経口投与のため、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの有用な1日投与レジーム(regime)は、患者の年齢および病態に応じて3日間、1日当たり合計200mgから500mgである。
【0058】
本発明の方法により調製されたアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンは、薬剤に配合され、細菌感染に罹患する患者の年齢および病態に応じて3日間、1日当たり合計200mgから500mgのこの医薬的有効量を細菌感染に罹患する患者に投与することにより、細菌感染に罹患する患者を治療する方法において使用される。
【0059】
従来技術の形態のアジスロマイシン、すなわち、無水、一水和または二水和形態に伴う欠点を本発明による方法を用いて軽減することが理解される。特に、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの溶解度の増加の結果としてアジスロマイシンのバイオアベイラビリティを増加させることができる。さらに、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの量の低減が細菌感染に罹患する患者の治療における使用において要求され、副作用へのリスクの低減だけでなく、治療コストの低減ももたらされる。いっそうさらに、II型の調製に伴う利点は、あらゆる溶媒の不存在下でなされ、このことは、公知の従来技術の方法よりもコスト効率が高く、時間を要しない。
【0060】
したがって、本出願人は、アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンが慣用の生成および製造方法に対する比較的安価な代替物を提供するだけでなく、慣用の無水、一水和物または二水和物形態のアジスロマイシンよりも溶解度が優れた生成物も提供することを予見する。
【0061】
本発明によれば、本開示の範囲から逸脱することなく、薬剤を調製する方法およびこのような方法を用いて調製された薬剤について細部にわたる変更が可能であることがさらに理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを含む組成物。
【請求項2】
前記アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンが、約3500および1727cm−1における特徴的な比較的ブロードなピークならびに2970および2938cm−1における特徴的なピークを有する赤外線パターンを示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンが、実質的に図2に示される赤外線パターンを示す、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
実質的に図12に示される示差走査熱量測定サーモグラムを示し、100〜115摂氏度の間でガラス転移を示す、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも50%増加した水への溶解度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも150%増加した水への溶解度を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも5%増加した0.1NのHClへの溶解度を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも10%増加した0.1NのHClへの溶解度を有する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも10%増加したリン酸塩媒体への溶解度を有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンと比べて少なくとも20%増加したリン酸塩媒体への溶解度を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
無水、一水和または二水和アジスロマイシンからなる群から選択されるアジスロマイシンを提供する工程と;前記アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程と;および前記溶融物の温度を、比較的増加した溶解度を有するアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンがその構造安定性を減少させることなく固化するように十分に低減させる工程とを含む、アジスロマイシンの溶解度を増加させる方法。
【請求項12】
前記アジスロマイシンの温度を、その融点を超えるように上昇させる工程が、その温度を100〜140摂氏度の間、好ましくは130摂氏度に上昇させる工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記選択されたアジスロマイシンの温度を、溶媒の不存在下でその融点を超えるように上昇させる、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法により、無水、一水和または二水和アジスロマイシンから調製された薬剤。
【請求項15】
錠剤;カプセル剤;散剤;液剤;シロップ剤;懸濁剤;ボーラス注射剤;連続点滴液;再構成用粉末;軟膏剤;クリーム剤;ゲル剤;ローション剤;噴霧剤、浣腸剤;膣洗浄剤;ペッサリー剤;経皮貼付剤;皮膚貼付剤およびトローチ剤からなる群から選択される剤形の、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法によりアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンから、少なくとも1種の不活性な医薬的に許容される担体または希釈剤と共に調製された薬剤。
【請求項16】
細菌感染に罹患する患者を治療する方法における、請求項1〜10のいずれか一項に記載の、ならびに請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンの使用。
【請求項17】
細菌感染に罹患する患者の治療において使用される薬剤を調製する方法における、請求項1〜10のいずれか一項に記載の、ならびに請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態の使用。
【請求項18】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法により調製された、医薬的有効量のアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを、細菌感染に罹患する患者に投与する工程を含む、細菌感染に罹患する患者を治療する方法。
【請求項19】
実質的に本明細書に記載され、および添付の図面を参照して例示されたアモルファス非晶質ガラス形態(II型)のアジスロマイシンを含む組成物。
【請求項20】
実質的に本明細書に記載され、および添付の図面を参照して例示されたアジスロマイシンの溶解度を増加させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−514346(P2013−514346A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543978(P2012−543978)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055842
【国際公開番号】WO2011/073927
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(506061794)ノース−ウエスト ユニヴァーシティ (9)
【Fターム(参考)】