説明

アラビノース転移酵素、それをコードする遺伝子、およびその利用

【課題】フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する酵素、当該酵素、遺伝子、およびそれらの製造方法の提供。
【解決手段】フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有し、特定のアミノ酸配列を有する、アラビノース転移酵素。該アミノ酸配列をコードする遺伝子を含む組換えベクター。該組換えベクターを有する形質転換体。該形質転換体を培養する、アラビノース転移酵素の製造方法。アラビノース転移酵素の存在下でアラビノースとフラボノイドを反応させることを含む、アラビノースをフラボノイドに結合させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する酵素、それをコードする遺伝子、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは、活性酸素の除去、抗がん作用、高血圧の改善、コレステロール値の低下、抗アレルギー作用、抗菌作用などの健康増進機能をもつポリフェノールの一種である。植物中でフラボノイドが安定に蓄積するためには、配糖化酵素によってフラボノイドの骨格に糖を付加することが必要である。
【0003】
植物において配糖化は様々な代謝産物の安定化、不活性化に関与している反応である。このため配糖化酵素の対象となる代謝物は、植物ホルモンやフラボノイド、アルカロイドといった二次代謝産物から一次代謝産物まで非常に幅広いことが知られている。配糖化酵素遺伝子は、その構造より70以上のファミリーに分類されるが、比較的ゲノムサイズの小さいモデル植物シロイヌナズナのfamily 1 配糖化酵素遺伝子でさえ、107遺伝子存在する多重遺伝子族であることが知られている。
【0004】
フラボノイドの配糖化酵素については、family 1 配糖化酵素遺伝子であり、既にその基本骨格のC−3位、C−5位、C−7位、C−3’位等を配糖化する酵素遺伝子について報告がある(非特許文献1)。付加する糖の種類に関してもグルコース(特許文献1〜3)、ラムノース、ガラクトース、グルクロン酸を転移する酵素遺伝子の報告が存在するが、その他の糖に関する酵素遺伝子についての報告はない。また糖供与体に対する特異性は高い。配糖化酵素の一次構造は保存性が低く、一次構造のみからの基質の識別は困難である。フラボノイド配糖化酵素間でも、糖の付加する基本骨格の位置によってその構造は大きく異なる。糖付加の位置が異なれば、アミノ酸レベルで20〜30%程度の同一性しか認められず、基本骨格の同じ位置に同じ糖を配糖化する酵素でも、アミノ酸レベルで30〜50%の同一性を示すにすぎない。また付加する糖の種類についても、その一次構造からの推定は困難である。吉川らはガラクトース転移酵素、グルコース転移酵素にそれぞれ特徴的なヒスチジン残基、グルタミン残基の役割を提唱している(非特許文献2)。しかし、吉川らの研究によれば、ガラクトース転移酵素のヒスチジン残基をグルタミン残基に変換することでガラクトース転移酵素がグルコース転移酵素活性を示したものの、逆は成立しなかった。またヒスチジン残基は、ガラクトース転移酵素の他にラムノース転移酵素および本発明のアラビノース転移酵素にも保存されている場合もある。
【0005】
以上、フラボノイド・アラビノース転移酵素遺伝子は既知のフラボノイド配糖化酵素の一次構造からの同定は困難であり、UDP糖に対する高い基質特異性により、他のフラボノイド配糖化酵素での代用も不可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−289884号公報
【特許文献2】特開平10−113184号公報
【特許文献3】特開平09−056385号公報
【非特許文献1】Glycosyltransferases of lipophilic small molecules, 2006年3月3日発行, Dianna Bowles, Eng-Kiat Lim, Brigitte Poppenberger, Fabian E. Vaistij, Annu. Rev. Plant Biol. (2006) 57, 567-597
【非特許文献2】Alternation of sugar donor specificities of plant glycosyltransferases by a single point mutation, 2004年6月20日発行, Akiko Kubo, Yuka Arai, Shigeyuki Nagashima, Takafumi Yoshikawa, Archives of Biochemistry and Biophysics (2004) 429, 198-203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する酵素、およびそれをコードする遺伝子を同定し、当該酵素、遺伝子およびそれらの利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シロイヌナズナに存在する107のfamily 1 配糖化酵素遺伝子群から選択され、UGT5と名づけられた遺伝子が、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する酵素をコードすることを見出し、本発明を完成した。なお、これまでフラボノイドの配糖化酵素の報告は多々あるが、アラビノースを転移する配糖化酵素遺伝子が同定されたのは初めてである。
【0009】
本発明は、要約すると以下のとおりである。
〔1〕フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する、アラビノース転移酵素。
〔2〕前記活性が、フラボノイドの3位にアラビノースを転移する活性である、〔1〕に記載の酵素。
〔3〕以下の(a)〜(c)に示すいずれかのアミノ酸配列を有する、〔1〕または〔2〕に記載の酵素。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列
〔4〕以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子によりコードされる、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の酵素。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有する遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子
〔5〕以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
〔6〕以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子または〔5〕に記載の組換えベクターを有する形質転換体。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
〔7〕〔6〕に記載の形質転換体を培養することを含む、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のアラビノース転移酵素の製造方法。
〔8〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のアラビノース転移酵素の存在下でアラビノースとフラボノイドを反応させることを含む、アラビノースをフラボノイドに結合させる方法。
〔9〕前記フラボノイドがフラボノールである、〔8〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フラボノイドにアラビノースを転移する酵素、それをコードする遺伝子を提供でき、フラボノイドにアラビノースを付加した配糖体の人為的生産が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に述べる。
(1)本発明のアラビノース転移酵素
本発明のアラビノース転移酵素は、フラボノイドにアラビノースを転移する糖転移酵素活性を有し、好ましくは、フラボノイドの3位にアラビノースを転移する活性を有する。フラボノイドは、例えばフラボノールなどが挙げられる。
【0012】
また、本発明のアラビノース転移酵素は、好ましくは 以下の(a)〜(c)に示すいずれかのアミノ酸配列を有する。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【0013】
本発明において「配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号1に示すアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは配列番号1に示すアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換してもよいことを意味する。
【0014】
また、本発明において「配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列」の「同一性」は、35%以上、好ましくは40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0015】
糖転移酵素のアミノ酸配列は、程度は異なるが、相同性があり、スーパーファミリーを形成している。同じ機能を持つ糖転移酵素のアミノ酸配列は植物種が異なっていても相同性が高くスーパーファミリーの中でファミリーを形成しており、1つのファミリーの中で異なる植物種由来の糖転移酵素のアミノ酸配列の同一性は30〜50%以上である。
【0016】
例えば、フラボノイドの3位にグルコースを転移する酵素の場合、植物間でアミノ酸レベルで約35〜60%程度の同一性がある(シロイヌナズナ−ブドウ59%、シロイヌナズナ−ペチュニア49%、シロイヌナズナ−トウモロコシ41%、シロイヌナズナ−大麦40%、ペチュニア−ブドウ49%、ペチュニア−トウモロコシ36%、ペチュニア−大麦36%)。
【0017】
従って、配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質は、フラボノイドの3位にアラビノースを転移する活性を有する酵素であり得る。
【0018】
本発明のアラビノース転移酵素は、例えばシロイヌナズナ、アボガド、オウソウカ、スピノーサスモモなどから公知の方法を用いて得ることができるが、例えば配列番号1に示すアミノ酸配列の酵素を公知の化学合成法により合成してもよいし、後述の当該酵素をコードする遺伝子を取得して、公知の遺伝子組換え技術により作製してもよい。
【0019】
また、上記配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列、または配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列は、例えば、後述の遺伝子を当該技術分野で公知の手法で改変することによって得ることができる。遺伝子に変異を導入するには、例えばKunkel法又はGapped duplex法などの公知手法またはこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant−K(TAKARA社製)やMutant−G(TAKARA社製))、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(TAKARA社製)などを用いて変異を導入できる。また、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法なども用いることができる。
【0020】
本発明のアラビノース転移酵素は、その存在下でアラビノースとフラボノイドを反応させることにより、アラビノースをフラボノイドに結合させることができる。例えばフラボノールなどの3位にアラビノースを結合させることができる。
【0021】
なお、本発明のアラビノース転移酵素は、後述するようにシロイヌナズナ由来であり、アントシアニジンを基質としない結果が得られている。しかし、同じくシロイヌナズナ由来のフラボノイド3位グルコース転移酵素は、フラボノールに加え、アントシアニジンも基質とすることから、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するアラビノース転移酵素はアントシアニジンを基質としなかったけれども、アントシアニジン3−O−アラビノシドの存在が報告されているヒマワリ、ブラックカラントでは、フラボノールに加えアントシアニジンも基質にできることが考えられる。
【0022】
また、シロイヌナズナ由来フラボノイド3位グルコース転移酵素は、フェニルプロパノイド化合物であるesculetinの7位にもグルコースを転移することから、本発明のアラビノース転移酵素もフェニルプロパノイド化合物へのアラビノース転移活性を有することが十分に期待できる。
【0023】
また、本発明のアラビノース転移酵素は、以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子によりコードされる。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有する遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子
【0024】
本発明において「配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列」とは、例えば、配列番号2に示す塩基配列の1〜10個、好ましくは1〜5個の塩基が欠失してもよく、配列番号2に示す塩基配列に1〜10個、好ましくは1〜5個の塩基が付加してもよく、あるいは配列番号2に示す塩基配列の1〜10個、好ましくは1〜5個の塩基が他の塩基酸に置換してもよいことを意味する。
【0025】
本発明において「配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列」の「同一性」は、35%以上、好ましくは40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0026】
本発明において「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが実質的に形成されない条件をいう。例えば、同一性が高い核酸、すなわち配列番号2で表される塩基配列と35%以上の同一性を有する塩基配列」の「同一性」は、35%以上、好ましくは40%以上、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する塩基性配列からなるDNAの相補鎖がハイブリダイズし、それより同一性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
【0027】
配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子は、以下のようにして同定された。
【0028】
シロイヌナズナにおけるフラボノイド配糖化酵素の網羅的機能同定を目的とし、シロイヌナズナに存在する107のfamily 1 配糖化酵素遺伝子群から、フラボノイド生合成系酵素遺伝子群およびそれらの転写因子をコードする遺伝子群と発現パターンに相関の見られる遺伝子について遺伝子共発現解析を行った。候補遺伝子のうち、UGT5と名づけられた遺伝子の破壊されたT−DNA挿入変異体のフラボノールパターンを分析し野生型と比較したところ、3種のフラボノール化合物が消失していた。このうちの2種類はケンフェロールあるいはケルセチンの3位と7位の配糖体であり、7位にラムノースが付加していることは予想できたが、3位に付加した糖については決定できなかった。そこで、大腸菌を用いてUGT5組換えタンパク質を発現、精製して、酵素活性を測定したところ、UGT5組換えタンパク質はフラボノール3位アラビノース転移酵素活性を示した。UGT5は、UDP糖としてはUDP−アラビノースのみを利用でき、UDP−グルコース、UDP−ラムノース、UDP−グルクロン酸、UDP−ガラクトース、UDP−キシロースは利用できなかった。フラボノイドとしては、フラボノールアグリコンであるケンフェロール、ケルセチン、イソラムネチン、ミリセチンおよびケンフェロール7−O−ラムノシドは基質として認識できたが、フラボノール3−O−グリコシドおよびアントシアニジン、アントシアニンは認識できなかった。ケンフェロール7−O−ラムノシドを基質とした時の反応産物は、UGT5 T−DNA挿入変異体において消失したフラボノールのピークのうちの一つと一致したことから、そのピークはケンフェロール3−O−アラビノシド7−O−ラムノシドに対応することが明らかとなった。これにより、初めてフラボノールの3位にアラビノースを転移する酵素遺伝子を同定した。UGT5のDNA配列は、配列番号2で示される。
【0029】
上記遺伝子は、例えばシロイヌナズナ、アボガド、オウソウカ、スピノーサスモモなどから公知の方法を用いて単離できる。配列番号2の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、cDNAライブラリーまたはゲノムDNAライブラリー等由来の核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、該遺伝子を、上記ライブラリー等由来の核酸を鋳型とし、該遺伝子の一部である断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは該遺伝子を、化学合成法などの公知の核酸配列合成法によって合成してもよい。
【0030】
さらに、配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列、または配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列は、上述の方法で変異を導入するなどして作製することができる。
【0031】
(2)本発明の組換えベクター
本発明の組換えベクターは、上記(d)〜(g)のいずれかの遺伝子を適当なベクターに導入することにより構築することができる。ベクターの種類は特に限定されず、pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript、pET系、pKS1、pTriEXTM系(TAKARA社)などのベクターを用いることができる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等のウイルスベクターも用いることができる。また、例えばpBI系などのバイナリーベクターを用いてもよい。
【0032】
ベクターに目的遺伝子を挿入するには、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0033】
また目的遺伝子のほかに、例えばプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、選抜マーカー遺伝子などを連結することができる。さらにフラボノイド合成酵素遺伝子を含めてもよい。
【0034】
植物細胞で作動可能なプロモーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーターなどが挙げられる。また、細菌細胞で作動可能なプロモーターとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子のプロモーター、またはファージ・ラムダのPもしくはPプロモーター、大腸菌のlac、trpもしくはtacプロモーターなどが挙げられる。酵母宿主細胞で作動可能なプロモーターとしては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2−4cプロモーターなどが挙げられる。真菌で作動可能なプロモーターとしては、ADH3プロモーター、tpiAプロモーターなどが挙げられる。昆虫細胞で作動可能なプロモーターとしては、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーターなどが挙げられる。哺乳動物で作動可能なプロモーターとしては、SV40プロモーター、MT−1プロモーター、CMVプロモーターまたはアデノウイルス2主後期プロモーターなどが挙げられる。
【0035】
エンハンサーとしては、CaMV 35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域、SV40エンハンサー、CMVエンハンサーなどが挙げられる。
【0036】
ターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーター、大腸菌リポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、ADH1遺伝子のターミネーター、などが挙げられる。
【0037】
選抜マーカー遺伝子としては、薬剤耐性遺伝子(テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子など)、蛍光または発光レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニターゼ(GUS)、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)など)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどの酵素遺伝子が挙げられる。
【0038】
(3)本発明の形質転換体
本発明の形質転換体は、上記(d)〜(g)のいずれかの遺伝子または上記組換えベクターを適当な宿主に導入することによって作製することができる。
【0039】
宿主は、導入された遺伝子が発現可能であれば限定されず、大腸菌や枯草菌などの細菌、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・ポンベ、ピヒア・パストリスなどの酵母、アスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、トリコデルマなどの真菌、または単子葉または双子葉植物、例えばアブラナ科、クスノキ科、バンレイシ科、バラ科などに属する植物細胞、sf9、sf21などの昆虫細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞などの哺乳動物細胞でもよい。
【0040】
遺伝子または組換えベクターの導入は、公知の方法、例えばアグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。導入された遺伝子は、宿主のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、外来ベクターに含有されたままで存在していてもよい。
【0041】
(4)本発明のアラビノース転移酵素の製造方法
本発明のアラビノース転移酵素は、宿主に応じて、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な培地中で培養されることによって、産生することができる。
【0042】
培地は、例えばLB培地、M9培地、YPD培地、YPG培地、YPM培地、YPDM培地、SMM培地などが挙げられ、炭素源(例えばグルコース、グリセリン、マンニトール、フルクトース、ラクトースなど)、窒素源(例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機窒素、カゼイン分解物、酵母抽出物、ポリペプトン、バクトトリプトン、ビーフ抽出物などの有機窒素源)、無機塩(例えば二リン酸ナトリウム、二リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなど)、ビタミン(ビタミンB1など)、薬剤(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシンなどの抗生物質)などを適宜含有する。
【0043】
培養条件は、遺伝子の発現に適切であれば特に限定されないが、通常10〜45℃で、必要に応じて通気、攪拌しながら、数時間〜数百時間、培養する。
【0044】
培養物(培養上清または培養された形質転換体を含む)から本発明の酵素を採取するには、培養物に蓄積されたタンパク質を公知の方法で抽出し、必要に応じて精製すればよい。例えば溶媒抽出法、塩析法、溶媒沈殿法、透析法、限外濾過法、ゲル電気泳動法、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどを単独で、あるいは適宜組み合わせて、本発明の酵素を得ることができる。
【0045】
なお、本発明のアラビノース転移酵素の基質となるフラボノイド、好ましくはフラボノールなどを培地に添加し、形質転換体を培養すれば、フラボノイドの3位にアラビノースが転移された配糖体を製造することができる。
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
分子生物学的手法は特に断らない限り、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに拠った。また実験の参照文献としてThe Journal of Biological Chemistry (2007) vol.282, pp14932-14941 が挙げられる。
【0048】
〔実施例1〕植物体の育成
シロイヌナズナの種子(エコタイプColumbia−0)(Lehel Seeds, Round Rock, TX, アメリカ)を野生型植物として用いた。シロイヌナズナは植物育成室にて22℃で16時間明所/8時間暗所のサイクルで生育させた。葉と花を採取し、直ちに液体窒素で冷凍し、使用するまで−30℃で保存した。
【0049】
〔実施例2〕共発現解析による候補遺伝子の絞り込み
フラボノイドの修飾に関係する候補遺伝子の数を絞り込むため、RIKEN−PRIMeウェブサイト(http://prime.psc.riken.jp/)の共発現遺伝子検索プログラムを用いて、共発現解析を行った。共発現遺伝子検索プログラムは、幾つかの遺伝子発現のデータから相関する遺伝子を検索するためのウェブベースアプリケーションである。相関データは、ATTED−II (Arabidopsis thaliana trans-factor and cis-element prediction database, http://www.atted.bio.titech.ac.jp/)に公開されている。ATTED−IIは、公開され入手可能なAtGenExpressの1,388個のマイクロアレイデータに基づいている。フラボノイドの生産に関与すると実験的に特徴づけられた20個の遺伝子(At5g13930, TT4; At3g55120, TT5; At3g51240, TT6; At5g07990, TT7; At5g17050, UGT78D2; At5g08640, FLS1; At1g30530, UGT78D1; At1g06000, UGT89C1; At5g42800, TT3; At4g22880, TT18; At4g14090, UGT75C1; At5g54060, UGT79B1; At3g29590, A5G6’’’MaT; At1g03495, A3G6”p-CouT; At5g17220, TT19; At5g54160, AtOMT1; At2g47460, AtMYB12; At5g49330, AtMYB111; At1g56650, PAP1; At1g66390, PAP2)を、共発現解析のcore query遺伝子として使用した。AtGenExpressデータセットにある全データセットver.3(1,388個のアレイデータ)を用いて、フラボノイド経路の遺伝子20個に対して正の相関(r>0.5で上位20個の遺伝子)を示した遺伝子を抽出した。これら候補遺伝子のうちの1つがUGT5遺伝子であった。
【0050】
〔実施例3〕シロイヌナズナUGT5変異体の解析
シロイヌナズナUGT5のT−DNA挿入変異体(SALK_114099)をSalk Institute(アメリカ)から入手し、UGT5変異体とした。該UGT5変異体について、T−DNAに特異的なプライマーとして、LBa1プライマー(5’-GTGATGGTTCACGTAGTGGGCCATC-3’、配列番号3)およびRB−300プライマー(5’-AATGGTTTCTGACGTATGTGCTTAG-3’、配列番号4)を、UGT5に特異的なプライマーとして、UGT5fプライマー (5’-CATATCTAAACAAATTGTATGTCGGTAG-3’、配列番号5)およびUGT5rプライマー (5’-GCGTTGGCTGCGAGGGTTTGGCCAT-3’、配列番号6)を用い、PCRでスクリーニングを行った。正確な挿入部位を決定するためPCR産物の配列を決定した。UGT5変異体は、開始メチオニンコドンから100bp上流にT−DNAが挿入されていた。5g17030cDNA-RT183fプライマー(5’-CTCCTCCGATATCCCCACAAA-3’、配列番号7)および5g17030cDNA-RT253Rプライマー(5’-TCAACACGAATCCCTCAGGAA-3’、配列番号8)を用いてリアルタイムPCR法によりUGT5遺伝子の発現を調べたところ、野生型に比べ、UGT5変異体ではUGT5 mRNAの蓄積量が減少していた(図1)。
【0051】
〔実施例4〕UPLC/PDA/ESI−Q−TOF/MSによるUGT5変異体のフラボノイド分析
実施例3で得られたUGT5変異体のフラボノイド分析を行った。
【0052】
冷凍した花を、生体重1mgの組織に対し5μlの抽出用溶媒(メタノール:CHCOOH:HO=9:1:10)で、ミキサーミル(MM300: Retsch GmbH & Co. KG, Haan, ドイツ)を用いて30Hzで5分間ホモジナイズした。12,000×gで遠心分離した後、上澄みを直ちにフラボノイド分析に使用した。
【0053】
フラボノイドのプロファイリングに、Q-Tof Premier質量分析計(Micromass MS Technologies, Manchester, イギリス)を備えた Waters Acquity UPLCTMシステム(Waters Co., Massachusetts, アメリカ)を使用した。UPLCTM phenyl C18カラム (φ2.1mm×100mm, Waters)で、流速0.5ml/分、35℃でUPLCを行った。溶媒A(0.1%ギ酸水溶液)と溶媒B(0.1%ギ酸アセトニトリル溶液)を用いて、0分,100% A;10分,40% Bの直線的グラジエント勾配により溶出を行った。210〜500nmの紫外可視吸収の検出にPDA(Photo Diode Array)を用いた。フラボノイド配糖体[M+H]の検出、および以下のようにセットした陽イオンスキャニングモードでのフラグメントイオンのピークについて、飛行時間型(TOF)質量分析計を用いた:desolvation temperature, 400℃, nitrogen gas flow, 600l/h;capillary spray, 3.0kV;source temperature, 150℃;cone voltage, 10V。
【0054】
タンデム質量分析による保持時間、紫外可視吸収分光およびマスフラグメンテーションに基づく植物抽出物のピークの同定に、標準フラボノール配糖体を用いた。フラボノール3−O−α−L−アラビノシドの標品はEXTRASYNTHESE (Genay, フランス)およびAnalyticon Discovery (Potsdam, ドイツ)から購入し、ケンフェロール3,7−O−ジラムノシドとケルセチンは千葉大学(高山廣光教授)から入手した。報告データと、紫外可視吸収分光、溶出時間、m/z値およびMSフラグメンテーションパターンを比較することにより他のフラボノイドピークをアノテートした。
【0055】
分析の結果、UGT5変異体では、野生型に比べフラボノール3−O−グリコシド−7−O−ラムノシドと推定される3つの化合物のピークが検出できなかった(図2のP1、P2、P3)。ピークP1はm/z値およびMSフラグメンテーションパターンよりケルセチン3−O−グリコシド−7−O−ラムノシドであることが推定できた。未同定の3位の糖は、その分子量より、キシロースあるいはアラビノースあるいはアピオースであると考えられた。
【0056】
〔実施例5〕組換えUGT5タンパク質を用いた酵素機能の同定
UGT5の機能同定のために大腸菌を用いてUGT5組換えタンパク質の発現および精製を行った。
【0057】
シロイヌナズナの花のcDNAを鋳型として用い、プライマーUGT5−F (5’-AGCATTGCCTGCATCATGGCCAAACCCTCG-3’、配列番号9)とプライマーUGT5−R (5’-ACGTCAATAATTTATTATTCCCGCCCACAA-3’、配列番号10)で、全長UGT5 cDNAをPCRで増幅した。増幅した断片をpCR8/GW/TOPOベクター(Invitrogen社)にクローニングした。タンパク質発現ベクターを構築するため、得られたプラスミドを、プライマー5g17030pET41bF (5’- AAGGCCTTGATGGCCAAACCCTCG-3’、配列番号11)とプライマー5g17030pET41Bf (5’-CCGCTCGAGTTATCCAAAGTTCAC-3’、配列番号12)を用いてPCRで増幅し、PCR産物をStuIとXhoIで消化し、StuI−XhoI消化したpET−41b(+)ベクター(Novagen, San Diego, CA, アメリカ)に連結した。得られたプラスミドpKYS342の配列を確認した。大腸菌株BL21star(DE3)を発現宿主として用いた。形質転換した細胞をA600が0.5になるまで37℃で培養した。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドを最終濃度1mMになるよう添加後、細胞を25℃で4時間培養した。細胞を回収し、タンパク質を従来法に従ってグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)融合物として精製した。
【0058】
UGT5タンパク質の活性測定は以下の条件で行った。
【0059】
50mM HEPES−KOH、pH7.5、150μM フラボノイド基質および500μM UDP糖からなる標準エンザイムアッセイ反応混合物(最終量50μl)を、30℃で2分間プレインキュベーションし、酵素を添加することにより反応を開始した。30℃で0,4,8,12または30分間インキュベーションしたのち、フラボノールには氷冷0.5% (v/v)トリフルオロ酢酸/MeOHを50μl、アントシアニジンとアントシアニンには氷冷1.0%(v/v)HCl/MeOHを50μl添加することによって反応を停止した。12,000×gで3分間遠心分離し、上澄みを回収した。上澄み液のフラボノイドを実施例4と同様にして分析した。
【0060】
ケンフェロールおよびUDP−アラビノースを基質とした時の反応産物の分析結果を図3に示した。UGT5組換え蛋白質を用いたときにのみ検出されるピーク(図3、矢印)は、ケルセチン3−O−アラビノシドと溶出時間、m/z値およびMSフラグメンテーションパターンが一致した。UGT5は、糖受容体としては、フラボノールアグリコン(ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン)およびケンフェロール7−O−ラムノシドを基質として認識できたが、フラボノール配糖体(ケンフェロール3−O−グルコシド、ケンフェロール3−O−ラムノシド、ケルセチン3−O−グルコシド、ケルセチン3−O−ラムノシド)やシアニジン、シアニジン配糖体(シアニジン3−O−グルコシド、シアニジン5−O−グルコシド、)には反応しなかった。糖供与体としては、UDP−アラビノースのみを利用でき、他のUDP糖(UDP−グルコース、UDP−ガラクトース、UDP−グルクロン酸、UDP−キシロース)は利用できなかった。以上の結果からUGT5はフラボノール3位アラビノース転移酵素をコードしていることが明らかにできた。ケンフェロール7−O−ラムノシドを基質とした時の反応産物は、UGT5 T−DNA挿入変異体において消失したフラボノールのピークのうちの一つ(図2、P2)と一致し、ケンフェロール3−O−アラビノシド7−O−ラムノシドに対応することが明らかとなった。
【0061】
また、UDP−アラビノースを用いて、フラボノールアグリコン(ケンフェロール、ケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン)およびケンフェロール7−O−ラムノシドに対する基質特異性を調べた(表1、表中のNDはNot Detectedの略)。アグリコン換算で、ケンフェロールに対する反応性を100%とするとケルセチン、ミリセチン、イソラムネチン、ケンフェロール7−O−ラムノシドに対する反応性は、それぞれ282、148、165、140%であり、他のアグリコンに比べケルセチンを好むことを明らかにした。
【0062】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、フラボノイド3−O−アラビノシドの人為的合成を可能にし、植物フラボノイドによる健康増進機能向上の可能性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】シロイヌナズナ野生型とUGT5変異体のUGT5 mRNA蓄積量を示す。シロイヌナズナ野生型およびUGT5変異体におけるUGT5遺伝子転写産物の蓄積パターン。野生型での蓄積量を100%として表した。
【図2】UPLC/PDA/ESI−Q−TOF/MSによるシロイヌナズナ野生型とUGT5変異体のフラボノイド分析結果を示す(横軸:分、縦軸:任意単位)。シロイヌナズナ野生型およびUGT5変異体の花を用いたUPLC/PDA/ESI−Q−TOF/MSによるフラボノール分析。ピークP1,P2,P3はUGT5変異体において検出できなかったピークを示している。ピークP1についてはマススペクトルもあわせて示した。
【図3】組換えUGT5タンパク質を用いた酵素機能の分析結果を示す(横軸:分、縦軸:任意単位)。UGT5組換え蛋白質を用いた酵素反応産物の分析とUGT5の基質特異性。ケルセチンおよびUDP−アラビノースを基質としてGSTとUGT5の融合蛋白質(GST−UGT5)とGST蛋白質のみ(GST)を用いて酵素反応を行った。矢印で示したピークはケルセチン3−O−アラビノシドと一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有する、アラビノース転移酵素。
【請求項2】
前記活性が、フラボノイドの3位にアラビノースを転移する活性である、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
以下の(a)〜(c)に示すいずれかのアミノ酸配列を有する、請求項1または2に記載の酵素。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して35%以上の同一性を有するアミノ酸配列
【請求項4】
以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子によりコードされる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵素。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有する遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有する遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子
【請求項5】
以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子を含む組換えベクター。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項6】
以下の(d)〜(g)に示すいずれかの遺伝子または請求項5に記載の組換えベクターを有する形質転換体。
(d)配列番号2に示す塩基配列を有する遺伝子
(e)配列番号2に示す塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(f)配列番号2に示す塩基配列に対して35%以上の同一性を有する塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
(g)配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し、フラボノイドにアラビノースを転移する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアラビノース転移酵素の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアラビノース転移酵素の存在下でアラビノースとフラボノイドを反応させることを含む、アラビノースをフラボノイドに結合させる方法。
【請求項9】
前記フラボノイドがフラボノールである、請求項8に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−34068(P2009−34068A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203325(P2007−203325)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】