説明

アラミド繊維材料の無電解銀めっき

【課題】 アラミドの繊維、繊維束や糸などのアラミド繊維材料に無電解銀めっきを均等に付着する。
【解決手段】 アラミド繊維材料に無電解銀めっきを施すめっき方法において、アラミド繊維材料は、巻き芯Bに巻いて巻き体Wにする。巻き芯Bは、開口率が半分位以上の高透液性にする。無電解銀めっき液は、弱還元剤又は析出遅延剤を含み、銀の析出反応が活発な時間が長い低反応性にする。アラミド繊維材料の巻き体Wには、低反応性の無電解銀めっき液を供給し、めっき液の析出反応が活発である間、めっき液が巻き体Wを内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順流工程と、順流の逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミドの繊維、繊維束や糸などに無電解銀めっきを施す技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アラミドは、芳香族ポリアミドとも言われる。アラミド繊維は、引張強さ、弾力性や耐熱性に優れている。銀は、抗菌性、防臭性や導電性に優れている。銀がめっきされたアラミドの繊維、繊維束や糸などのアラミド繊維材料は、金属膜被覆の繊維材料として優れている。
【0003】
[特許文献1(特表平8−504241号公報)]
これは、アラミド繊維の糸に無電解銀めっきを施す技術を開示している。
アラミド繊維の糸は、オープンラック(open rack)上に巻かれた状態で、めっきの前処理と本処理が施される。前処理では、アラミド繊維の糸は、硫酸溶液に浸漬する。その後、水で洗浄し、酸を除去する。次に、増感溶液に浸漬する。増感溶液は、無水塩化第一錫と塩酸からなる。その後、水ですすいて、過剰な第一錫イオンを除去する。めっきの本処理では、アラミド繊維の糸は、めっき水溶液に浸漬する。めっき水溶液は、硝酸銀、水酸化アンモニウム溶液と湿潤剤からなる。その後、めっき水溶液にホルムアルデヒドを加え、間欠的に撹拌する。
【0004】
[特許文献2(特開2001−40578号公報)]
これは、ポリエステル繊維、ナイロン繊維やアクリル繊維の糸に無電解銀めっきを施す技術を開示している。
めっき槽は、中心部に管状軸を縦に設けている。管状軸は、上端を閉鎖し、周壁に多数の液通過孔を貫通している。管状軸の閉鎖上端と液通過孔付きの透液性周壁は、めっき槽の内部に配置している。管状軸の下端は、めっき槽の下に突出している。めっき液の貯蔵槽は、ポンプを経て管状軸の下端に接続している。めっき槽の内部は、周壁を貫通してめっき液の貯蔵槽に接続している。
【0005】
めっき槽内の管状軸には、その外回りに円筒形状の巻糸体を差し込む。巻糸体は、透液性の巻き芯に糸を巻いている。めっき液は、貯蔵槽からポンプで管状軸の下端に供給される。管状軸に流入しためっき液は、管状軸の透液性周壁から巻糸体内側の透液性巻き芯を経て、巻糸体の糸間の隙間を通過し、巻糸体の外側に流出し、めっき槽に流入する。めっき槽に流入しためっき液は、貯蔵槽に戻る。巻糸体の糸は、無電解銀めっきが施される。めっき液は、硝酸銀、ホルマリンとアンモニア水を含む。
【0006】
また、特許文献2は、「めっき液の管状軸への供給を一時停止し、めっき槽に貯留しためっき液を巻糸体に浸透させ、必要に応じ、このめっき液を、管状軸を経て系外に排出し、めっき槽から巻糸体を経て管状軸に向う逆流を一時的に形成し、これによりめっきの均一性を向上させる」ことを提案している。
【0007】
【特許文献1】特表平8−504241号公報
【特許文献2】特開2001−40578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、アラミド繊維と銀などの金属膜被覆との良好な接着性を得ることを課題にしている。アラミド繊維に銀を均一に無電解めっきすることは、開示していない。
【0009】
特許文献2の技術は、白色導電糸を製造することを課題にしている。アラミド繊維の糸に無電解銀めっきを施すことは、開示していない。
【0010】
アラミド繊維材料に無電解銀めっきを均等に付着することが望まれる。
【0011】
[めっきの不均等が発生する原因]
1)特許文献1、2の技術において、無電解銀めっき液は、強還元剤のホルマリンと、析出促進剤のアンモニアを含み、銀の析出速度が早い。高反応性である。換言すると、活性が低下する速度が早く、銀の析出反応が活発な時間が短い。その短い時間の間に、めっき液が被めっき物の各部に同様に均等に接触していないと、めっきが均等に付着し難い。
【0012】
特許文献2の技術では、高反応性のめっき液が巻糸体を内側から外側に通過する。巻糸体は、内側でめっきが付着し易く、外側でめっきが付着し難い。めっきは、巻糸体の内外で均等になり難い。
【0013】
2)特許文献2は、巻糸体を通過しためっき液を巻糸体に一時的に浸透させる又は逆流させることを提案しているが、巻糸体を通過した高反応性のめっき液は、活性が大きく低下しているので、これを巻糸体に一時的に浸透又は逆流させても、めっきを巻糸体の内外で均等にする効果は、ほとんどない。
【0014】
3)特許文献2の技術において、透液性の巻き芯は、円筒の周壁に多数の液通過孔を軸方向と周方向に配列したものと推察される。巻糸体は、巻き芯の液通過孔の貫通位置ではめっき液が流れ易く、非貫通位置ではめっき液が流れ難い。従来の透液性の巻き芯は、外周面に開口する各液通過孔が小さく、外周面の巻き面積に対する液通過孔の総面積の割合、開口率が四分の一位である。透液性が低い。めっきは、巻糸体の軸方向又は周方向で不均等になり易い。
【0015】
[めっきを均等にするための着想]
1)アラミド繊維材料に付着する無電解銀めっきを均等にするため、高反応性のめっき液に代えて、低反応性のめっき液を用いることにした。低反応性の銀めっき液は、巻き芯に巻いたアラミド繊維材料の巻き体を内側から外側又は逆向きに通過したときに、活性が低下する程度が低い。銀めっきは、巻き体の内外での不均等が小さくなる。
【0016】
低反応性の銀めっき液は、弱還元剤又は析出遅延剤を含む。アラミド繊維材料に銀が低速度で析出する。銀の析出反応が活発な時間が長い。
【0017】
2)低反応性の無電解銀めっき液は、アラミド繊維材料の巻き体に供給し、析出反応が活発である間、順流と逆流を交互に繰り返すことにした。順流工程は、めっき液が巻き体を内側から外側又は外側から内側の一方向に貫流する。逆流工程は、順流の逆方向に貫流する。巻き体に供給するめっき液の析出反応が活発である間、めっき液の順流と逆流を交互に繰り返すと、めっきは、巻き体の内外で均等になり易い。
【0018】
また、順流工程と逆流工程との間には、めっき液の滞留工程を設けることとした。滞留工程は、めっき液が流れずに巻き体がめっき液に浸漬する。滞留工程があると、めっき液の順流と逆流との切り替えが円滑である上、めっき液が巻き体に浸透する。
【0019】
3)アラミド繊維材料を巻く透液性の巻き芯は、開口率を従来の約2倍以上に高め、高透液性にすることにした。巻き芯が高透液性であると、めっきは、巻き体の軸方向又は周方向で均等になり易い。
【課題を解決するための手段】
【0020】
1)アラミドの繊維、繊維束や糸などのアラミド繊維材料に無電解銀めっきを施すめっき方法において、
アラミド繊維材料は、巻き芯に巻いて巻き体にし、巻き芯は、開口率が半分位以上の高透液性にし、
無電解銀めっき液は、弱還元剤又は析出遅延剤を含み、銀の析出反応が活発な時間が長い低反応性にし、
アラミド繊維材料の巻き体には、低反応性の無電解銀めっき液を供給し、めっき液の析出反応が活発である間、めっき液が巻き体を内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順流工程と、順流の逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返す。
【0021】
2)上記のめっき方法において、
順流工程と逆流工程との間、逆流工程と順流工程との間には、めっき液が流れずにアラミド繊維材料の巻き体がめっき液に浸漬している滞留工程を設ける。
【0022】
3)上記のめっき方法において、
アラミド繊維材料に無電解銀めっきを施す前に前処理を施すに当り、めっきの前処理液をアラミド繊維材料の巻き体に供給し、
前処理液が巻き体を内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順流工程と、順流の逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返す。
【0023】
4)上記のめっき方法でアラミド繊維材料に無電解銀めっきを施し、銀めっきが連続して被覆されて導電性がある銀膜被覆のアラミド繊維材料。
【発明の効果】
【0024】
アラミド繊維材料に無電解銀めっきが均等に付着し易い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
実施形態のアラミド繊維材料の無電解銀めっきは、前処理と本処理とからなる。
【0026】
[無電解銀めっきの本処理(図1〜図3参照)]
本処理装置は、図1又は図2に示すように、処理槽1の中心部に管状軸2を縦に設けている。管状軸2は、上端を閉鎖し、周壁に多数の液通過孔を貫通している。その周壁は、開口率が半分位以上である。高透液性である。管状軸2の上端と周壁は、処理槽1内に配置している。管状軸2の下端は、処理槽1の下に突出している。
【0027】
巻き体Wは、巻き芯Bにアラミド繊維材料をソフトチーズ巻きしている。巻き芯Bは、円筒の周壁に多数の液通過孔を貫通している。その周壁は、開口率が半分位以上である。高透液性である。アラミド繊維材料は、アラミドの繊維、繊維束や糸などである。
【0028】
巻き芯Bは、管状軸2の外回りに差し込まれると、巻き体Wと一緒に処理槽1内に没入する。巻き芯Bの下端が処理槽1の底板上の座板に当り、巻き芯Bの上端から管状軸2の上端が突出する。管状軸2の上端は、外周を螺子部にしている。この螺子部には、ナット3を螺合して緊締する。巻き芯Bと巻き体Wは、管状軸2の外回りに着脱可能に取り付ける。
【0029】
処理槽1の側方には、めっき液の銀塩溶液の貯蔵槽4とめっき液の還元溶液の貯蔵槽5を設けている。処理槽1の下側には、液槽6を設けている。銀塩溶液の貯蔵槽4と還元溶液の貯蔵槽5は、それぞれ、ポンプ付き供給通路7、8で液槽6に接続している。めっき液の銀塩溶液と還元溶液は、供給通路7、8で液槽6に供給され、液槽6で混合する。銀塩溶液の供給量と供給時期を制御する供給制御装置と、還元溶液の供給量と供給時期を制御する供給制御装置を設けている。
【0030】
液槽6は、供給管9で管状軸2の下端に接続している。供給管9には、ポンプ10と逆止弁を介在している。ポンプ10は、液槽6のめっき液を管状軸2内に押し込む。処理槽1は、管状軸2に取り付けた巻き体Wより高い位置に流出口を設け、この流出口を流出管11で液槽6に接続している。液槽6、ポンプ10付き供給管9、管状軸2、処理槽1と流出管11で、めっき液を巻き体Wの内側から外側に流す順流通路を構成している。
【0031】
管状軸2の下端は、逆流管12で処理槽1の外側を経て処理槽1に接続している。逆流管12には、電磁開閉弁13、ポンプ14と逆止弁を介在している。ポンプ14は、管状軸2内からめっき液を吸い出す。管状軸2、ポンプ14付き逆流管12と処理槽1で、めっき液を巻き体Wの外側から内側に流す逆流通路を構成している。
【0032】
順流通路と逆流通路には、順流制御装置と逆流制御装置を接続している。順流制御装置は、タイマーに予め設定した順流時間の間、電磁開閉弁13を閉鎖し、ポンプ10を作動して、順流通路にめっき液を流す。順流時間は、2〜10分位である。逆流制御装置は、タイマーに予め設定した逆流時間の間、電磁開閉弁13を開放し、ポンプ14を作動して、逆流通路にめっき液を流す。逆流時間は、2〜10分位である。
【0033】
順流制御装置と逆流制御装置には、めっき時間制御装置を接続している。めっき時間制御装置は、タイマーに予め設定しためっき時間の間、順流制御装置と逆流制御装置とを交互に繰り返して作動する。めっき時間は、0.5〜2時間位である。
【0034】
また、めっき時間制御装置には、滞留時間制御装置を接続している。滞留時間制御装置は、順流制御装置が停止してから逆流制御装置が作動するまでの時間と、逆流制御装置が停止してから順流制御装置が作動するまでの時間とを、それぞれ、タイマーに予め設定した滞留時間にする。滞留時間は、数秒〜1分位である。
【0035】
処理槽1の底板には、排出口を設け、この排出口を排出通路15で液槽6に接続している。排出通路15には、手動開閉弁を介在している。
【0036】
本処理を行う場合、本処理装置の運転準備を行う。管状軸2には、図1に示すように、アラミド繊維材料の巻き体Wを取り付ける。排出通路15は、手動開閉弁で閉鎖する。貯蔵槽4、5には、それぞれ、めっき液の銀塩溶液と還元溶液を貯蔵する。めっき液は、アラミド繊維材料に銀が低速度で析出する低反応性の無電解銀めっき液である。
【0037】
本処理装置は、運転準備の後、作動する。すると、貯蔵槽4の銀塩溶液と貯蔵槽5の還元溶液は、それぞれ、予め設定した量が液槽6に供給される。銀塩溶液と還元溶液は、液槽6で混合して、銀の析出反応が始まる。すると、予め設定しためっき時間、銀の析出反応が活発である時間、例えば1時間の間、図3に示すように、順流工程と逆流工程とが交互に繰り返される。順流工程と逆流工程との間、逆流工程と順流工程との間には、滞留工程が介在する。予め設定した供給時期には、貯蔵槽4の銀塩溶液と貯蔵槽5の還元溶液は、再び、予め設定した量が液槽6に供給される。液槽6には、新しい銀塩溶液と還元溶液が追加される。
【0038】
順流工程では、予め設定した順流時間、例えば5分の間、電磁開閉弁13を閉鎖し、ポンプ10を作動して、順流通路にめっき液を流す。液槽6の銀塩溶液と還元溶液が混合しためっき液は、ポンプ10付き供給管9を経て管状軸2に流入し、巻き体Wを内側から外側に通過し、処理槽1に流入する。処理槽1に流入しためっき液は、液面が上昇し、巻き体Wがめっき液に没入する。処理槽1のめっき液の液面が処理槽1の流出口、流出管11の入口に達すると、処理槽1の流出口を超えるめっき液は、流出管11を経て液槽6に流入する。めっき液は、液槽6、ポンプ10付き供給管9、管状軸2、処理槽1と流出管11からなる順流通路を循環する。
【0039】
逆流工程では、予め設定した逆流時間、例えば5分の間、電磁開閉弁13を開放し、ポンプ14を作動して、逆流通路にめっき液を流す。管状軸2内のめっき液は、ポンプ14付き逆流管12を経て処理槽1に流入し、管状軸2に固定した巻き体Wを外側から内側に通過し、管状軸2内に流入する。めっき液は、管状軸2、ポンプ14付き逆流管12と処理槽1からなる逆流通路を循環する。
【0040】
滞留工程では、予め設定した滞留時間、例えば0.5分の間、ポンプ10もポンプ14も作動せず、順流通路にも逆流通路にもめっき液が流れず、巻き体Wが処理槽1のめっき液に没入して浸漬している。
【0041】
予め設定しためっき時間が経過する頃には、無電解銀めっきが巻き体Wのアラミド繊維材料に均等に付着している。その後、巻き体Wは、水洗し、乾燥する。
【0042】
[無電解銀めっきの前処理(図4と図5参照)]
前処理装置は、本処理装置と少し異なるだけである。本処理装置における銀塩溶液と還元溶液の貯蔵槽4、5、ポンプ付き供給通路7、8、及び、銀塩溶液と還元溶液の両供給制御装置に代えて、図4に示すように、前処理液の貯蔵槽21、ポンプ付き供給通路22と、前処理液の供給制御装置を設けている。また、本処理装置におけるめっき時間制御装置に代えて、前処理時間制御装置を設けている。その他の構成は、本処理装置におけるのと同様である。
【0043】
無電解めっきの前処理を行う場合、管状軸2には、図4に示すように、アラミド繊維材料の巻き体Wを取り付ける。排出通路15は、手動開閉弁で閉鎖する。貯蔵槽21には、前処理液を貯蔵する。その後、前処理装置を運転する。すると、貯蔵槽21の前処理液は、予め設定した量が液槽6に供給される。また、予め設定した前処理時間、前処理液の反応が活発である時間、1〜30分位の間、図5に示すように、順流工程と逆流工程とが交互に繰り返される。順流工程と逆流工程との間、逆流工程と順流工程との間には、滞留工程がある。
【0044】
順流工程では、予め設定した順流時間の間、電磁開閉弁13を閉鎖し、ポンプ10を作動して、順流通路に前処理液を流す。液槽6の前処理液は、ポンプ10付き供給管9を経て管状軸2に流入し、巻き体Wを内側から外側に通過し、処理槽1に流入する。処理槽1に流入した前処理液は、液面が上昇し、巻き体Wが前処理液に没入する。処理槽1の前処理液の液面が処理槽1の流出口、流出管11の入口に達すると、処理槽1の流出口を超える前処理液は、流出管11を経て液槽6に流入する。前処理液は、液槽6、ポンプ10付き供給管9、管状軸2、処理槽1と流出管11からなる順流通路を循環する。
【0045】
逆流工程では、予め設定した逆流時間の間、電磁開閉弁13を開放し、ポンプ14を作動して、逆流通路に前処理液を流す。管状軸2内の前処理液は、ポンプ14付き逆流管12を経て処理槽1に流入し、巻き体Wを外側から内側に通過し、管状軸2内に流入する。前処理液は、管状軸2、ポンプ14付き逆流管12と処理槽1からなる逆流通路を循環する。
【0046】
滞留工程では、予め設定した滞留時間の間、ポンプ10もポンプ14も作動せず、順流通路にも逆流通路にも前処理液が流れず、巻き体Wが処理槽1の前処理液に没入して浸漬している。
【0047】
予め設定した前処理時間が経過する頃には、巻き体Wのアラミド繊維材料が均等に前処理されている。その後、巻き体Wは、前処理装置の管状軸2から取り外し、水洗する。一連の前処理が済んだ巻き体Wは、本処理装置の管状軸2に取り付けて、本処理を行う。
【0048】
[無電解銀めっきの例]
アラミド繊維材料は、アラミド繊維のフィラメントの束である。アラミドは、パラ系アラミドであり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドである。巻き芯Bに巻いて巻き体Wにするアラミドフィラメントの束は、質量が300gで、織度が66dTex、フィラメント数が1000本である。
【0049】
巻き芯Bは、合成樹脂製又は金属製の円筒の周壁に多数の液通過孔を貫通している。外周面の巻き面積に対する液通過孔の総面積の割合、開口率が60%又は70%である。高透液性である。
【0050】
無電解銀めっき液は、強還元剤と析出促進剤を含まず、弱還元剤と析出遅延剤を含み、低反応性である。銀がアラミド繊維材料に析出する反応が活発な時間が長い。
【0051】
貯蔵槽4に貯蔵する銀塩溶液は、水溶液の1リットル当り、銀塩の硝酸銀2gと錯化剤のエチレンジアミン10mlを含む。貯蔵槽5に貯蔵する還元溶液は、水溶液の1リットル当り、弱還元剤の蟻酸10gと析出遅延剤兼安定剤のチオリンゴ酸1gを含む。めっき液は、温度が28℃である。めっき時間が60分である。
【0052】
前処理は、エッチング処理、中和処理、表面調整処理、触媒付与処理とキャタライザー処理を順次行う。各前処理の間には、それぞれ、水洗処理を行う。各前処理毎に専用の前処理装置を配置し、各前処理装置の貯蔵槽21に各前処理液を貯蔵する。
【0053】
エッチング液は、水溶液の1リットル当り、無水クロム酸350gと硫酸250mlを含む。液温は、65℃である。エッチングの前処理時間は、5分である。
【0054】
中和液は、亜硫酸水素ナトリウムの水溶液であり、濃度が5%である。液温は、室温である。中和の前処理時間は、5分である。
【0055】
表面調整液は、触媒付着用シランカップリング剤であり、水溶液の1リットル当り、α−アミノエチルトリエトキシシラン50mlを含む。液温は、45℃である。表面調整の前処理時間は、5分である。
【0056】
触媒付与液は、水溶液の1リットル当り、塩化パラジウムと塩化第一錫とのコロイド溶液80mlと塩酸300mlを含む。液温は、45℃である。触媒付与の前処理時間は、5分である。
【0057】
キャタライザー液は、硫酸の水溶液であり、濃度が10%である。液温は、45℃である。キャタライザーの前処理時間は、5分である。
【0058】
また、エッチング液と中和液は、上記とは異なるものにする。エッチング液は、カセイソーダの水溶液である。1リットル当り、カセイソーダ50〜100gを含む。液温は、60〜65℃である。エッチングの前処理時間は、5〜10分である。中和液は、塩酸の水溶液であり、濃度が5%である。液温は、室温である。中和の前処理時間は、5分である。
【0059】
いずれのめっき例でも、アラミドフィラメントの束は、無電解銀めっきが連続して均等に付着した。銀膜被覆のアラミドフィラメント束は、巻き芯Bに巻いたときに巻き体Wの内側であった部分でも、外側であった部分でも、長さ1cm当りの電気抵抗値が0.00Ω以下であった。
【0060】
低反応性の無電解銀めっき液には、次のものも例示される。
1)銀塩溶液は、水溶液の1リットル当り、銀塩の硝酸銀7gと錯化剤のトリエタノールアミン12mlを含む。還元溶液は、水溶液の1リットル当り、弱還元剤のグルコース(ブドウ糖)5gと析出遅延剤兼安定剤の2,2−チオジエタノール12gを含む。めっき液は、温度が室温である。めっき時間が80分である。
2)銀塩溶液は、水溶液の1リットル当り、銀塩の硝酸銀5gと錯化剤のヘキサエチレンペンタアミン35mlを含む。還元溶液は、水溶液の1リットル当り、弱還元剤の次亜燐酸ナトリウム7gと析出遅延剤兼安定剤の3,6−ジチオ−1,8−オクタンジオール4gを含む。めっき液は、温度が室温である。めっき時間が110分である。
【0061】
[変形例]
1)上記の実施形態において、アラミド繊維材料は、多数のアラミド繊維の束であるが、単数のアラミド繊維にする。又は、アラミド繊維の糸にする。
2)上記の実施形態において、繊維材料のアラミドは、パラ系アラミドであり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドであるが、他のパラ系アラミドにする。又は、メタ系アラミドにする。例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドにする。
3)上記の実施形態において、巻き芯Bは、開口率が60%又は70%であるが、50%又は75%位にする。
4)上記の実施形態において、本処理装置、前処理装置の順流通路は、めっき液、前処理液が巻き体Wを内側から外側への一方向に流れ、逆流通路は、めっき液、前処理液が巻き体Wを外側から内側への逆方向に流れるが、順流通路と逆流通路の流れの向きを反対にする。順流通路は、めっき液、前処理液が巻き体Wを外側から内側への一方向に流れる構成にする。逆流通路は、めっき液、前処理液が巻き体Wを内側から外側への逆方向に流れる構成にする。
5)上記の実施形態において、本処理装置、前処理装置の管状軸2に取り付ける巻き体Wは、単数であるが、複数にする。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電磁波シールド、電線、抗菌性物品や濾過体の素材や、複合材料の強化材の製造に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態における無電解めっき装置の本処理装置に巻き体を取り付けた状態の概略縦断面図。
【図2】同本処理装置において巻き体を上方に取り外した状態の概略縦断面図。
【図3】同本処理装置の工程図。
【図4】同無電解めっき装置の前処理装置に巻き体を取り付けた状態の概略縦断面図。
【図5】同前処理装置の工程図。
【符号の説明】
【0064】
B 巻き芯
W アラミド繊維材料の巻き体
1 処理槽
2 管状軸
3 ナット
4 めっき液の銀塩溶液の貯蔵槽
5 めっき液の還元溶液の貯蔵槽
6 液槽
7、8 ポンプ付き供給通路
9 供給管
10 ポンプ
11 流出管
12 逆流管
13 電磁開閉弁
14 ポンプ
15 排出通路
21 前処理液の貯蔵槽
22 ポンプ付き供給通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドの繊維、繊維束や糸などのアラミド繊維材料に無電解銀めっきを施すめっき方法において、
アラミド繊維材料は、巻き芯に巻いて巻き体にし、巻き芯は、開口率が半分位以上の高透液性にし、
無電解銀めっき液は、弱還元剤又は析出遅延剤を含み、銀の析出反応が活発な時間が長い低反応性にし、
アラミド繊維材料の巻き体には、低反応性の無電解銀めっき液を供給し、めっき液の析出反応が活発である間、めっき液が巻き体を内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順流工程と、順流の逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返すことを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
順流工程と逆流工程との間、逆流工程と順流工程との間には、めっき液が流れずにアラミド繊維材料の巻き体がめっき液に浸漬している滞留工程を設けることを特徴とする請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
アラミド繊維材料に無電解銀めっきを施す前に前処理を施すに当り、めっきの前処理液をアラミド繊維材料の巻き体に供給し、
前処理液が巻き体を内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順流工程と、順流の逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載のめっき方法でアラミド繊維材料に無電解銀めっきを施し、銀めっきが連続して被覆されて導電性がある銀膜被覆のアラミド繊維材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−2213(P2006−2213A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179629(P2004−179629)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(395010794)名古屋メッキ工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】