説明

アリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性試薬とから製造される共重合体、それを用いる分散剤、およびその製造方法

【課題】アリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから製造される共重合体、それを用いる分散剤、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ある観点では、不飽和酸性反応体と高分子量ポリオレフィンとの共重合体であって、該ポリオレフィンがアリル末端重合生成物である共重合体を提供する。アリル末端重合性生成物は、例えば、適切な準リビング条件下で準リビング3級ハロゲン化末端ポリオレフィンを生成させ、3級ハロゲン化末端ポリオレフィンをアリルシラン化合物およびルイス酸と接触させることにより生成する。ある態様では、アリルシラン化合物は、アリルトリメチルシランを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年7月18日出願の米国特許出願番号第12/176292号の優先権を主張する。その全ての記載は、参照のために本明細書の記載とする。
【0002】
ここに開示される主題は、ポリオレフィンと不飽和酸性試薬とを用いて製造される共重合体、それを用いる分散剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリオレフィンと不飽和酸性試薬との共重合体、およびそれから製造される分散剤は、潤滑油、燃料、その他の用途における有用な成分である。例えば、ポリイソブチレン(PIB)無水コハク酸(SA)共重合体、一般に「ポリPIBSA」と呼ばれているものは、従来からPIBを無水マレイン酸とフリーラジカル開始剤との反応により製造されている。任意にポリPIBSAは、さらにポリアミンと反応させてポリスクシンイミドを生成させるか、あるいは他の誘導体とすることにより、様々な組成物に用いられる。ポリPIBSAの製造方法とその使用方法の例については、特許文献1〜5を参照することができる。それらの全ての記載は、参照のために本明細書の記載とする。
【0004】
しかしながら、従来の方法を用いて製造されるポリPIBSAは、様々な天候において使用できるような適切な特性を必ずしも有していない。例えば、従来のポリPIBSA、および/またはそれから製造される分散剤は、コールドクランキングシミュレーター(CCS)粘度および/または動粘度(kv)が、比較的低温(例えば、0℃よりも低い温度)において高くなりすぎる。そのようなポリPIBSAは、厳冬期を想定している潤滑剤中では使用することができない。
【0005】
そのため、ポリPIBSAのような共重合体およびそれから製造される分散剤については、様々な気候(例えば、0℃よりも低い温度)において、組成物中で使用できる適切な特性を有することが必要とされている。
【0006】
さらに、従来の方法を用いて製造されるポリPIBSAは、一般にオリゴマー化の程度が低く、低分子量である。このような例は、特許文献1の8欄および9欄に開示されている。本発明者は、比較的低温で従来の共重合化反応を実施すると、オリゴマー化の程度と分子量とが増加する結果になることを見出した。しかし、従来の共重合化を低温で実施すると、オリゴマー化の程度が増加するが、同時にパーセントで表わされる活性率が低下する。高分子量の分散剤は一般に、煤による粘度の増加を防止し、スラッジおよびワニスの生成を抑制するのに有用であるため、高いパーセントの活性率を維持しながら、ポリPIBSAおよびポリPIBSAから製造されるポリスクシンイミドのオリゴマー化の程度を増加させる方法を発見することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5112507号明細書
【特許文献2】米国特許第5175225号明細書
【特許文献3】米国特許第5616668号明細書
【特許文献4】米国特許第6451920号明細書
【特許文献5】米国特許第6906011号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここに提供されるのは、アリル末端ポリオレフィンを不飽和酸性試薬と共重合させることにより製造される共重合体、該共重合体を用いて製造される分散剤、およびその製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある観点では、不飽和酸性反応体と高分子量ポリオレフィンとの共重合体であって、該ポリオレフィンがアリル末端重合生成物である共重合体が提供される。
【0010】
ある態様では、アリル末端重合生成物は、
(a)ポリオレフィンをイオン化して炭素カチオン末端ポリオレフィンを生成させ、
(b)工程(a)の炭素カチオン末端ポリオレフィンをルイス酸の存在下でアリルシラン化合物と反応させ、そして
(c)工程(b)を終結させてアリル末端重合生成物を生成させることにより製造される。
【0011】
別の観点では、不飽和酸性反応体と高分子量ポリオレフィンとの共重合体であって、ポリオレフィンがアリル末端準リビング重合生成物を含む共重合体が提供される。
【0012】
ある態様では、アリル末端準リビング重合生成物は、
(a)ルイス酸の存在下かつ適切な準リビング条件下で準リビング3級ハロゲン化末端ポリオレフィンを生成させ、
(b)該準リビング3級ハロゲン化末端ポリオレフィンをアリルシラン化合物と反応させ、そして
(c)工程(b)の反応を終結させてアリル末端準リビング重合生成物を生成させることにより製造される。
共重合体は、過酸化物のようなフリーラジカル開始剤の存在下でポリオレフィンを不飽和酸性反応体と接触させることにより生成する。
【0013】
ある態様では、高分子量ポリオレフィンが約500乃至約10000、例えば約900乃至約5000、例えば約900乃至約2500、あるいは例えば約2000乃至約4000の数平均分子量を有する。ある態様では、共重合体が約1乃至約2、もしくは約1.0乃至約1.5のコハク酸比を有する。ある態様では、ポリオレフィンが少なくとも約75%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくも約91%、もしくは少なくとも約92%、もしくは少なくとも約93%、もしくは少なくも約94%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、もしくは約100%のアリル末端基の含有率を有する。ある態様では、ポリオレフィンが約2.0未満、もしくは約1.4未満、もしくは約1.3未満、もしくは約1.2未満、もしくは約1.1未満、もしくは約1.0の分散指数を有する。
【0014】
ある態様では、高分子量ポリオレフィンはポリイソブチレンである。ある態様では、高分子量ポリオレフィンは、反応生成物に対して潤滑油中の溶解性を付与するために充分な分子量と鎖長とを有する。ある態様では、反応生成物は、潤滑油や燃料のような脂肪族および/または芳香族炭化水素中に、実質的に全ての混合比において溶解できる。
【0015】
不飽和酸性反応体は下記式のものであってもよい:
【0016】
【化1】

【0017】
式中、XおよびX’は、それぞれ独立に−OH、−Cl、および−O−低級アルキルからなる群より選ばれるが、XとX’とは共同して−O−を形成してもよい。例えば、酸性反応体は、無水マレイン酸を含む。
【0018】
ある態様では、共重合体が下記式を有する:
【0019】
【化2】

【0020】
式中、R1、R2、R3、およびR4のうち三つは水素原子であり、他は高分子量のポリアルキルであり;x、y、およびnは、それぞれ独立に1もしくはそれ以上の数であって、x:yの比は約2:1乃至約1:1、もしくは約1.5:1乃至約1:1である。ある態様では、nが1乃至40、もしくは1乃至20、もしくは1乃至10、もしくは2以上である。高分子量のポリアルキルは少なくとも30個の炭素原子、もしくは少なくとも50個の炭素原子を有するポリイソブチル基を含むことができる。
【0021】
本発明のある観点では、本発明の共重合体は、1乃至40、もしくは1乃至20、もしくは1乃至10,もしくは2以上のオリゴマー化度を有する。また、%活性率は、約60%より多く、もしくは約70%より多く、もしくは約75%より多く、もしくは約80%より多く、もしくは約85%より多く、もしくは約90%より多く、もしくは約95%より多い。この「%活性率」との用語は、不飽和酸性反応体と高分子量ポリオレフィンとの反応生成物中における共重合体の量を意味する。
【0022】
本発明の別の観点では、a)不飽和酸性反応体と高分子量ポリオレフィンとの共重合体であって、ポリオレフィンがアリル末端重合生成物を含むものを、b)アミン、少なくとも二つの塩基性窒素原子を有するポリアミン、もしくはそれらの混合物と反応させて製造されるポリポリスクシンイミドを提供する。
【0023】
別の観点では、主要量の潤滑粘度を有するオイル(油)および少量の上記ポリスクシンイミドを含む潤滑油組成物を提供する。
【0024】
別の観点では、共重合体の製造方法が、(a)高分子量アリル末端ポリオレフィンを生成させ;そして(b)フリーラジカル開始剤(例、過酸化物)の存在下で、アリル末端ポリオレフィンを不飽和酸性反応体と接触させて共重合体を生成させる工程を含む。
【0025】
ある態様では、ポリオレフィンの形成が、3級ハロゲン化末端ポリオレフィンの生成、および該3級ハロゲン化末端ポリオレフィンとアリルシラン化合物およびルイス酸との接触を含む。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[定義]
別に定義される場合を除き、ここに使用されている技術用語および化学用語は、当業者に一般に理解されているものと同じ意味を有する。ここで使用される用語に複数の意味が存在している場合、別に述べられている場合を除き、この[定義]のセクションに示される定義が優先される。
【0027】
ここで使用する「アリル」は、下記構造を意味する:
−CH2−CH=CH2
【0028】
ここで使用する「アルキル」は、1乃至20個の炭素原子、もしくは1乃至16個の炭素原子を含む炭素鎖もしくは基を意味する。そのような鎖もしくは基は、直鎖でも、分岐していてもよい。ここに例示するアルキル基は、限定される訳ではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、もしくはイソヘキシルを含む。ここで使用する「低級アルキル」は、1個の炭素原子乃至約6個の炭素原子を有する炭素鎖または基を意味する。
【0029】
ここで使用する「アルケニル」は、2乃至20個の炭素原子、もしくは2乃至16個の炭素原子を含む炭素鎖もしくは基であって、該鎖が1以上の二重結合を含むものを意味する。例としては、限定される訳ではないが、アリル基を含む。アルケニル炭素鎖もしくは基の二重結合は、他の不飽和基と共役していてもよい。アルケニル炭素鎖もしくは基は、1以上のヘテロ原子により置換されていてもよい。アルケニル炭素鎖もしくは基は、1以上の三重結合を含むことができる。
【0030】
ここで使用する「アルキニル」は、2乃至20個の炭素原子、もしくは2乃至16個の炭素原子を含む炭素鎖もしくは基であって、該鎖が1以上の三重結合を含むものを意味する。例としては、限定される訳ではないが、プロパルギル基を含む。アルキニル炭素鎖もしくは基の三重結合は、他の不飽和基と共役していてもよい。アルキニル炭素鎖もしくは基は、1以上のヘテロ原子により置換されていてもよい。アルキニル炭素鎖もしくは基は、1以上の二重結合を含むことができる。
【0031】
ここで使用する「アリール」は、約6乃至約30個の炭素原子を含む単環式または多環式芳香族基を意味する。アリール基は、限定される訳ではないが、フルオレニル、フェニル、もしくはナフチルを含む。
【0032】
ここで使用する「アルカリール」は、少なくとも一つのアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル基で置換されたアリール基を意味する。
【0033】
ここで使用する「アラルキル」は、少なくとも一つのアリール基で置換されたアルキル、アルケニル、もしくはアルキニル基を意味する。
【0034】
ここで使用する「アミド」は、下記式の化合物を意味する:
【0035】
【化3】

【0036】
式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子もしくは炭化水素基である。
【0037】
ここで使用する「アミン」は、下記式の化合物を意味する:
3−NR12

式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子もしくは炭化水素基である。
【0038】
ここで使用する「炭素カチオン(炭素陽イオン)」および「カルベニウムイオン」は、陽電荷を持つ炭素原子を意味する。
【0039】
ここで使用する「炭素カチオン末端ポリオレフィン」は、少なくとも一つの炭素カチオン末端基を持つポリオレフィンを意味する。例としては、限定される訳ではないが、下記式の化合物を含む:
【0040】
【化4】

【0041】
ここで使用する「連鎖末端濃度」は、オレフィン末端基、3級ハロゲン化末端基、およびカルベニウムイオンの濃度の合計を意味する。単官能開始剤を使用する場合、連鎖末端濃度は、開始剤濃度にほぼ等しい。多官能開始剤については、開始剤の官能数をxとすると、連鎖末端濃度は開始剤濃度のx倍にほぼ等しい。
【0042】
ここで使用する「連鎖移動剤」は、そのハライドイオンをカルベニウムイオンと交換して、新たなカルベニウムイオンを生成させる化合物を意味する。
【0043】
ここで使用する「共通イオン塩」は、成長反応におけるカルベニウムイオンと対イオンとの対の解離を阻害するように、準リビング炭素カチオン重合条件において実施される反応に任意に添加されるイオン性塩を意味する。
【0044】
ここで使用する「共通イオン塩前駆体」は、準リビング炭素カチオン重合条件において実施される反応に任意に添加されるイオン性塩であって、そのままルイス酸と反応することによって、成長連鎖末端のものと同じ対アニオンを生じるものを意味する。
【0045】
ここで使用する「希釈剤」は、液状の希釈用試薬または化合物を意味する。希釈剤は、単一の化合物であっても、二以上の化合物の混合物であってもよい。例としては、限定される訳ではないが、ヘキサン、もしくは塩化メチル、あるいはそれらの混合物を含む。
【0046】
ここで使用する「分散指数」もしくはDIは、ポリマーの数平均分子量に値するポリマーの質量平均分子量の比率を意味し、ポリマーの分子量の分布を反映する。分散指数が1であることは、ポリマーが単分散であることを意味する。1よりも大きな分散指数は、ポリマー中にポリマー鎖の分子量の分布が存在していることを意味する。
【0047】
ここで使用する「電子供与体」は、一対の電子を他の分子に供与できる分子を意味する。例としては、限定される訳ではないが、ルイス酸と組み合わせることができる分子を含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、塩および/または求核剤を含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、プロトンを抜出し、もしくは除去ができる分子を含む。
【0048】
ここで使用する「フリーラジカル開始剤」は、昇温により分解し、不飽和酸性試薬およびポリオレフィンと反応して共重合体を形成するフリーラジカルを形成する物質を意味する。
【0049】
ここで使用する「ハライド」、「ハロ」、もしくは「ハロゲン」は、F、Cl、Br、もしくはIを意味する。
【0050】
ここで使用する「炭化水素基」は、炭素および水素原子のみを含む一価の鎖状、分岐状、もしくは環状の基を意味する。
【0051】
ここで使用する「イニファー」は、開始剤と連鎖移動剤との両方として機能する化合物を意味する。
【0052】
ここで使用する「開始剤」は、準リビングまたはイニファー重合に炭素カチオンを与える化合物を意味する。例としては、限定される訳ではないが、一つ以上の3級末端基を有する化合物もしくはポリオレフィンである。開始剤は、単官能であっても、多官能であってもよい。ここで使用する「単官能開始剤」は、開始剤当たり化学量論的に約1当量の炭素カチオンを与える開始剤を意味する。ここで使用する「多官能開始剤」は、開始剤当たり化学量論的に約x当量の炭素カチオンを与える開始剤を意味する。ここで、xは開始剤の官能数を示す。多官能開始剤については、開始剤の官能数をxとすると、連鎖末端濃度は開始剤濃度のx倍に等しくなる。
【0053】
ここで使用する「イオン化ポリオレフィン」は、少なくとも一つのカルベニウムイオンを含むポリオレフィンを意味する。例としては、限定される訳ではないが、3級ハロゲン化末端ポリオレフィンがイオン化されて炭素カチオン末端ポリオレフィンになったものを含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、準リビング炭素カチオン末端ポリオレフィンを含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、ビニリデン末端ポリオレフィンがイオン化されてイオン化ポリオレフィンまたは準リビング炭素カチオン末端ポリオレフィンになったものを含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、オレフィンを含むポリオレフィンがイオン化されて準リビング炭素カチオン末端ポリオレフィンまたはイオン化ポリオレフィンになったものを含む。さらなる例としては、限定される訳ではないが、イニファーから誘導されるイオン化ポリオレフィンを含む。
【0054】
ここで使用する「ルイス酸」は、電子対を受容できる化学物質を意味する。
【0055】
ここで使用する「モノマー」は、炭素カチオンと結合して他の炭素カチオンを生成させることのできるオレフィンを意味する。
【0056】
ここで使用する「ピリジン誘導体」は、下記式の化合物を意味する:
【0057】
【化5】

【0058】
式中、R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立に水素原子もしくは炭化水素基であるか;あるいはR1およびR2、R2およびR3、R3およびR4、もしくはR4およびR5が独立に、約4乃至約7の炭素原子数の縮合脂肪族環、または約5乃至約7の炭素原子数の縮合芳香族環を形成する。
【0059】
ここで使用する「準リビング炭素カチオン重合条件」は、準リビング炭素カチオンポリオレフィンの生成をもたらす準リビング重合条件を意味する。
【0060】
ここで使用する「準リビング炭素カチオンポリオレフィン」は、準リビング重合条件において形成された炭素カチオンポリオレフィンを意味する。
【0061】
ここで使用する「準リビング重合」は、不可逆的な連鎖中断事象が生じることなく進行する重合を意味する。準リビング重合は開始後、進行し、引き続き成長する。成長において、成長(リビング)種は、非成長(非リビング)ポリマー鎖と平衡状態にある。
【0062】
ここで使用する「準リビング重合条件」は、準リビング重合の発生をもたらす反応条件を意味する。
【0063】
ここで使用する「終結」もしくは「終結させる」は、ルイス酸の破壊により重合の進行を終結させる化学反応を意味する。
【0064】
ここで使用する「3級ハロゲン化末端ポリオレフィン」は、少なくとも一つの3級ハロゲン化末端基を含むポリオレフィンを意味する。例としては、限定される訳ではないが、下記式の化合物を含む:
【0065】
【化6】

【0066】
式中、Xはハロゲンである。
【0067】
ここで使用する「ビニリデン」は、下記式の化合物を意味する:
【0068】
【化7】

【0069】
式中、Rは炭化水素基(例、メチル、もしくはエチル)である。Rがメチルであると、ビニリデンは、メチルビニリデンになる。
【0070】
別に特定しない限り、百分率は全て質量%である。
【0071】
本出願は、下記の出願に関連している。それぞれの全ての記載は、参照のために本明細書の記載とする。
「準リビングポリオレフィンと不飽和酸性反応体とを用いて製造された共重合体、それを用いる分散剤、およびその製造方法」との発明の名称を有する2008年4月14日出願の米国出願番号12/102827号の明細書;および
「モノスルフィドを用いるクエンチングを経るビニリデン末端ポリオレフィンの製造」との発明の名称を有する2008年3月25日出願の米国出願番号12/055281号の明細書
【0072】
[方法]
ある態様では、ここで説明するような共重合体の製造方法が、(1)アリル末端重合生成物である高分子量のポリオレフィンを与える工程、および(2)フリーラジカル開始剤の存在下で、該ポリオレフィンを不飽和酸性試薬と反応させて共重合体を生成させる工程を含む。
【0073】
ある態様では、ポリオレフィンがアリル末端化された鎖末端を有するポリオレフィンであり、フリーラジカル開始剤が過酸化物であり、そして、不飽和酸性試薬が無水マレイン酸である。そのような態様では、下記式の共重合体が生成する:
【0074】
【化8】

【0075】
式中、R1、R2、R3、およびR4のうち三つは水素原子であり、他は高分子量ポリアルキルであり;x、y、およびnは、それぞれ独立に1もしくはそれ以上の数である。ある態様では、x:yの比は約2:1乃至約1:1、もしくは約1.5:1乃至約1:1であり、nは1乃至40、もしくは1乃至20、もしくは1乃至10、もしくは2以上である。
【0076】
ある態様では、R1、R2、およびR3が水素原子であり、R4が高分子量ポリイソブチレン鎖である。そのような共重合体は、無水ポリアリルポリイソブチレンコハク酸、もしくはポリアリルPIBSAと呼ばれる。
【0077】
例えば、ポリアリルPIBSAの製造方法の態様において、ポリオレフィンは、下記式のアリル末端PIBであって、比較的高い割合(%)でアリル末端基を有する:
【0078】
【化9】

【0079】
アリル末端基の割合としては、例えば、少なくとも約75%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくとも約91%、もしくは少なくとも約92%、もしくは少なくとも約93%、もしくは少なくとも約94%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくとも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、もしくは約100%である。また、アリル末端PIBは、約2.0より低い、もしくは約1.4より低い、もしくは約1.3より低い、もしくは約1.2より低い、もしくは約1.1より低い、もしくは約1.0のDIを有する。
【0080】
アリル末端PIBは、フリーラジカル開始剤(例、過酸化ジ−tert−アミルのような過酸化物)と接し、さらに不飽和酸性反応体である無水マレイン酸と接触して、ポリアリルPIBSAを生成させる。
【0081】
ポリPIBSAを得る従来の典型的な方法は、商業的な購入によるか、もしくは通常のPIBを無水マレイン酸およびフリーラジカル開始剤と反応させる工程を含む。これに対して、アリル末端PIBを使用すると、従来のPIBを使用する場合と比較して、複数の利点が得られる。従来のPIBとは、メチルビニリデン末端基の割合(%)が比較的低く(例えば、80%よりも低く)、高い(例えば1.4よりも高い)分散指数(DI)を有するPIBを意味する。そのような従来のPIBは、「高メチルビニリデンPIB」、もしくは「高反応性PIB」と称する場合もある。
【0082】
ポリアリルPIBSAの形成において、アリル末端PIBの使用は、他の場合と比較して、オリゴマー化度が1乃至40、もしくは1乃至20、もしくは1乃至10、もしくは2以上であって、活性率(%)が約60%より大きい、もしくは約70%より大きい、もしくは約75%より大きい、もしくは約80%より大きい、もしくは約85%より大きい、もしくは約90%よりも大きい、もしくは約95%よりも大きい重合生成物を与える。ある態様では、共重合体は、約1乃至約2、もしくは約1.0乃至約1.5のコハク酸比を有する。ある態様では、ポリオレフィンが少なくとも約75%、もしくは少なくとも約90%、もしくは少なくも約91%、もしくは少なくとも約92%、もしくは少なくとも約93%、もしくは少なくも約94%、もしくは少なくとも約95%、もしくは少なくとも約96%、もしくは少なくも約97%、もしくは少なくとも約98%、もしくは少なくとも約99%、もしくは約100%のアリル末端基の含有率を有する。ある態様では、ポリオレフィンが約2.0未満、もしくは約1.4未満、もしくは約1.3未満、もしくは約1.2未満、もしくは約1.1未満、もしくは約1.0の分散指数を有する。
【0083】
特定の理論により拘束するものではないが、ポリアリルPIBSAの相対的に高いオリゴマー化度は、アリル末端PIBが従来のPIBと比較してアリル基のプロトンが少なく、その結果として連鎖移動の低い効率とオリゴマー化の高い程度(高分子量)とが生じているとの事実に基づくと考えることができる。
【0084】
アリル末端オレフィンおよび不飽和酸性反応体と共に共重合体を生成させるため使用することができる様々な反応物および希釈剤の各種態様については、以下に更に詳細に説明する。次に、それらの共重合体を用いる分散剤の代表的な製造方法を説明し、いくつかの具体的な実施例を示す。
【0085】
[(I)アリル末端ポリオレフィン]
上記のように、ある態様では、アリル末端ポリオレフィンを、第1にポリオレフィンをイオン化して炭素カチオン末端ポリオレフィンを形成し、引き続き、該炭素カチオン末端ポリオレフィンをアリルシラン化合物との反応によりアリル末端ポリオレフィンを生成させることにより製造する。
【0086】
A.炭素カチオン末端ポリオレフィン
炭素カチオン末端ポリオレフィンは、当業者に知られている適切な方法で製造できる。例としては、限定される訳ではないが、ルイス酸による3級ハライドのイオン化;プロトン源による予め形成されたポリオレフィンのイオン化;準リビング炭素カチオン重合条件におけるオレフィンモノマーの重合;もしくは「イニファー」法を含む。
【0087】
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、一つ以上の炭素カチオン末端基を含む。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、一つの炭素カチオン末端基を含む。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、二つの炭素カチオン末端基を含む。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、三つの炭素カチオン末端基を含む。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、カチオン性末端基を有するポリイソブチレンである。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、下記式の化合物である:
【0088】
【化10】

【0089】
(a)3級ハライド起源の炭素カチオン末端ポリオレフィン
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級ハライド末端ポリオレフィンから誘導される。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級クロリド末端ポリオレフィン、3級ブロミド末端ポリオレフィン、もしくは3級ヨージド末端ポリオレフィンから誘導される。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級クロリド末端ポリオレフィンもしくは3級ブロミド末端ポリオレフィンから誘導される。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、下記式の3級クロリド末端ポリイソブチレンから誘導される:
【0090】
【化11】

【0091】
3級ハライド末端ポリオレフィンは、当業者に知られている方法によって製造することができる。
【0092】
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸と接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級クロリド末端ポリオレフィン、3級ブロミド末端ポリオレフィン、もしくは3級ヨージド末端ポリオレフィンをルイス酸と接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、3級クロリド末端ポリオレフィンをルイス酸と接触させることにより生成する。
【0093】
ある態様では、3級ハライドをイニファーから誘導する。
【0094】
(b)予め形成したポリオレフィン起源の炭素カチオン末端ポリオレフィン
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、予め形成したポリオレフィンから誘導する。ある態様では、そのような予め形成したポリオレフィンが一つ以上の二重結合を含む。ある態様では、そのような予め形成したポリオレフィンが一つの二重結合を含む。ある態様では、そのような予め形成したポリオレフィンがポリイソブチレン誘導体である。ある態様では、そのような予め形成したポリオレフィンが一つ以上の内部オレフィンを含む。
【0095】
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸の存在下、予め形成したポリオレフィンをプロトン源に接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸の存在下、予め形成した一つ以上の二重結合を含むポリオレフィンをプロトン源に接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸の存在下、予め形成した一つの二重結合を含むポリオレフィンをプロトン源に接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸の存在下、ポリイソブチレン誘導体をプロトン源に接触させることにより生成する。ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸の存在下、予め生成させた一つ以上の内部オレフィンを含むポリオレフィンをプロトン源と接触させることにより生成する。
【0096】
(c)イニファー法による炭素カチオン末端ポリオレフィン
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、当業者に知られている方法を用いてイニファーから誘導する。その方法について、限定されることのない例が、米国特許第4276394号および同第4568732号の各明細書に記載されている。それらは、参照のため本明細書の記載とする。ある態様では、カチオン重合条件において、モノマーを少なくとも二つの3級ハロゲンの運搬体となるイニファーと反応させる。ある態様では、イニファーは、ビニファーもしくはトリニファーである。ある態様では、イニファーは、塩化トリクミル、塩化パラジクミル、もしくは臭化トリクミルである。
【0097】
(d)準リビング炭素カチオン重合条件におけるオレフィン系モノマー起源の炭素カチオン末端ポリオレフィン
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、準リビング炭素カチオン重合条件において、オレフィン系モノマーから誘導する。そのような条件下では、準リビング炭素カチオンポリオレフィンが生成する。そのような条件は、当業者に知られている準リビング法によって達成できる。ある態様では、モノマー、開始剤、およびルイス酸を使用する。そのような方法の限定されない例は、欧州特許第206756B1号明細書および国際公開第2006/110647A1号に記載されている。いずれも、参照のため本明細書の記載とする。
【0098】
ある態様では、炭素カチオン末端ポリオレフィンは、下記式の準リビング炭素カチオン性ポリイソブチレンである:
【0099】
【化12】

【0100】
準リビングポリオレフィンを製造する重合反応に適した試薬および条件について、限定されることのないいくつかの例を以下に記載する。
【0101】
(i)準リビング炭素カチオン重合に用いる開始剤
ある態様では、開始剤は、カチオン性オレフィン重合を開始することが可能な化合物、もしくは上記が可能な一つもしくは一つ以上の末端基を有するポリオレフィンである。例えば、開始剤は、式(X’−CRabncの化合物である。ここで、RaおよびRbは独立に、水素原子、アルキル、アリール、アルカリール、もしくはアラルキルであり、ただし、少なくともRaもしくはRbの一つは水素原子ではなく;そして、Rcはn価であって、nは1乃至4の整数である。X’はアセテート基、エーテル基、ヒドロキシル基、もしくはハロゲンである。ある態様では、Ra、RbおよびRcは、1個の炭素原子乃至約20個の炭素原子を含む炭化水素基である。好ましい態様では、Ra、RbおよびRcは、1個の炭素原子乃至約8個の炭素原子を含む炭化水素基である。ある態様では、X’はハロゲンである。好ましい態様では、X’は塩素原子である。ある態様では、Ra、RbおよびRcの構造は、成長種もしくはモノマーに類似する。ある態様では、そのような構造とは、ポリスチレンの1−ハロ,1−フェニルエタン開始剤、もしくはポリイソブチレンの2,4,4−トリメチルペンチルハライド開始剤である。好ましい態様では、Ra、RbおよびRcは、それぞれ、1個の炭素原子乃至約8個の炭素原子を含み、イソブチレン重合を開始する炭化水素基である。ある態様では、開始剤は、ハロゲン化クミル、ジクミル、もしくはトリクミルである。
【0102】
いくつかの開示剤の例は、2−クロロ−2−フェニルプロパン(塩化クミル);1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン(ジ(塩化クミル));1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン(トリ(塩化クミル));2,4,4−トリメチル−2−クロロペンタン;2−アセチル−2−フェニルプロパン(酢酸クミル);2−プロピオニル−2−フェニルプロパン(プロピオン酸クミル);2−メトキシ−2−フェニルプロパン(クミルメチルエーテル);1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン(ジ(クミルメチルエーテル));1,3,5−トリ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン(トリ(クミルメチエルエーテル));2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPCl);1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン;および1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)−5−tert−ブチルベンゼン(bDCC)を含む。
【0103】
ある態様では、開始剤は、単官能、二官能、もしくは多官能のいずれでもよい。単官能開始剤の例は、2−クロロ−2−フェニルプロパン、2−アセチル−2−フェニルプロパン、2−プロピオニル−2−フェニルプロパン、2−メトキシ−2−フェニルプロパン、2−エトキシ−2−フェニルプロパン、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン、2−アセチル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−プロピオニル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−メトキシ−2,4,4−トリメチルペンタン、2−エトキシ−2,4,4−トリメチルペンタン、および2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタンを含む。二官能開始剤の例は、1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、および5−tert−ブチル−1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンを含む。多官能開始剤の例は、1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンおよび1,3,5−トリ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼンを含む。
【0104】
(ii)準リビング炭素カチオン重合反応に用いるモノマー
ある態様では、モノマーは、炭化水素モノマーである。すなわち、水素原子および炭素原子のみを含む化合物であり、限定される訳ではないが、オレフィン類およびジオレフィン類を含み、約2乃至約20個の炭素原子、例えば約4乃至約8個の炭素原子を有する。いくつかのモノマーの例は、イソブチレン、スチレン、β−ピネン、イソプレン、ブタジエン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、および4−メチル−1−ペンテンを含む。モノマーの混合物を用いることもできる。
【0105】
ある態様では、モノマーは重合されて様々なポリマーを形成するが、実質的に均一な分子量になる。ある態様では、ポリマーの分子量は約300乃至100万(g/モル)を超える値である。ある態様では、そのようなポリマーは低分子量の液体、もしくは約200乃至10000(g/モル)の分子量を有する粘性のポリマー、もしくは約100000乃至1000000(g/モル)を超える値の分子量を有する弾性物質である。
【0106】
(iii)準リビング炭素カチオン重合反応に用いるルイス酸
ここに提供される方法では、ある態様において、ルイス酸は非プロトン性酸(例、ハロゲン化金属、ハロゲン化非金属)である。
【0107】
ハロゲン化金属ルイス酸の例は、ハロゲン化チタン(IV)、ハロゲン化亜鉛(II)、ハロゲン化スズ(IV)、ハロゲン化アルミニウム(III)を含み、具体例としては、四臭化チタン、四塩化チタン、塩化亜鉛、AlBr3、およびハロゲン化アルキルアルミニウム(例、二塩化エチルアルミニウム、臭化メチルアルミニウム)を含む。ハロゲン化非金属ルイス酸の例は、ハロゲン化アンチモン(VI)、ハロゲン化ガリウム(III)、ハロゲン化ホウ素(III)を含み、具体例としては、三塩化ホウ素、もしくはトリアルキルアルミニウム化合物(例、トリメチルアルミニウム)を含む。
【0108】
二もしくは二以上のルイス酸の混合物を用いてもよい。一例としては、ハロゲン化アルミニウム(III)とトリアルキルアルミニウム化合物との混合物が用いられる。ある態様では、トリアルキルアルミニウムに対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論的な比率が1より大きく、別の態様では、トリアルキルアルミニウムに対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論的な比率が1未満である。例えば、トリアルキルアルミニウム化合物に対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論的な比が1:1;トリアルキルアルミニウム化合物に対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論的な比が2:1;もしくはトリアルキルアルミニウムに対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論的な比が1:2で用いることができる。他の例では、三臭化アルミニウムとトリメチルアルミニウムとの混合物が用いられる。
【0109】
ある態様では、ルイス酸は適切な数のアリコート、例えば、1アリコート、もしくは1以上のアリコート(例、2アリコート)で用いられる。
【0110】
(iv)準リビング炭素カチオン重合反応に用いる電子供与体
当業者により理解されているように、ある種の電子供与体は、伝統的な重合システムを準リビング重合システムに変換することができる。ある態様では、ここに述べる方法を、電子供与体の存在下で実施する。
【0111】
ある態様では、電子供与体はルイス酸と組み合わせることができる。ある態様では、電子供与体は塩基および/または求核剤である。ある態様では、電子供与体はプロトンを抽出もしくは除くことができる。ある態様では、電子供与体は有機塩基である。ある態様では、電子供与体はアミドである。ある態様では、電子供与体はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、もしくはN,N−ジエチルアセトアミドである。ある態様では、電子供与体はスルホキシドである。ある態様では、電子供与体はジメチルスルホキシドである。ある態様では、電子供与体はエステルである。ある態様では、電子供与体は酢酸メチルもしくは酢酸エチルである。ある態様では、電子供与体はリン酸化合物である。ある態様では、電子供与体はリン酸トリメチル、リン酸トリブチル、もしくはトリアミド・リン酸ヘキサメチルである。ある態様では、電子供与体は酸素含有金属化合物である。ある態様では、電子供与体はチタン酸テトライソプロピルである。
【0112】
ある態様では、電子供与体はピリジンまたはピリジン誘導体である。ある態様では、電子供与体は下記式の化合物である:
【0113】
【化13】

【0114】
式中、R1、R2、R3、R4、およびR5は、それぞれ独立に水素原子もしくは炭化水素基であるか;もしくはR1およびR2、R2およびR3、R3およびR4、もしくはR4およびR5が独立に、約3乃至約7個の炭素原子数の縮合脂肪族環、または約5乃至約7個の炭素原子数の縮合芳香族環を形成する。ある態様では、R1およびR5は、それぞれ独立に、炭化水素であり、そして、R2〜R4は水素原子である。
【0115】
ある態様では、電子供与体は2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、2,6−ルチジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2−メチルピリジン、もしくはピリジンである。ある態様では、電子供与体はN,N−ジメチルアニリンもしくはN,N−ジメチルトルイジンである。ある態様では、電子供与体は2,6−ルチジンである。
【0116】
(v)準リビング炭素カチオン重合反応に用いる共通イオン塩およびイオン塩前駆体
ある態様では、電子供与体に加えて、またはその代わりに、共通イオン塩もしくは塩前駆体を任意に反応混合物に加えることができる。ある態様では、そのような塩を、イオン強度を増加させ、遊離イオンを抑制し、そしてリガンド交換と相互作用するために、用いることができる。ある態様では、共通塩前駆体は塩化テトラn−ブチルアンモニウムである。ある態様では、共通塩前駆体はヨウ化テトラn−ブチルアンモニウムである。ある態様では、全反応混合物中における共通塩もしくは塩前駆体の濃度はリットル当たり約0.0005モル乃至リットル当たり約0.05モルの範囲内とすることができる。ある態様では、共通塩もしくは塩前駆体の濃度はリットル当たり約0.0005モル乃至リットル当たり約0.025モルの範囲内である。ある態様では、共通塩もしくは塩前駆体の濃度はリットル当たり約0.001モル乃至リットル当たり約0.007モルの範囲内である。
【0117】
B.炭素カチオン末端ポリオレフィンとアリルシラン化合物との反応
炭素カチオン末端ポリオレフィンが生成すると、次にアリルシラン化合物と反応させてアリル末端ポリオレフィンを生成させることができる。ある態様では、アリル末端ポリオレフィンの製造に使用するアリルシラン化合物は、下記構造を有する:
【0118】
【化14】

【0119】
式中、R5、R6、およびR7は、アルキル、アリール、アルカリール、もしくはアラルキルである。ある態様では、R5、R6、R7は、独立に、メチル、エチル、プロピル、もしくはフェニルであってもよい。好ましい態様では、アリルシラン化合物はアリルトリメチルシランである。
【0120】
本発明のある態様では、以下に示すように、ルイス酸の存在下、炭素カチオン性ポリオレフィン鎖末端はアリルトリメチルシランと反応する:
【0121】
【化15】

【0122】
ルイス酸は、セクションIA(d)(iii)で列挙したルイス酸の一つであってもよく、他の適切なルイス酸であってもよい。一つの例としては、ルイス酸はTiCl4である。
【0123】
他の本発明の態様では、炭素カチオン性ポリオレフィン鎖末端は準リビング重合から誘導され、そのまま準リビング炭素カチオン性鎖末端とアリルシラン化合物との反応を実施する。より詳細な点については、以下の文献を参照することができる。それらの全ての記載は、参照のために本明細書の記載とする。
アリル末端直鎖状かつ3アームスターポリイソブチレン類のワンポット合成およびそれから得られるエポキシ−かつヒドロキシル−両端二官能性ポリマー、アイバン他、ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス、パートA28、1巻、89〜104頁(1990年);および
成長速度定数の新たな決定方法:イソブチレンの炭素陽イオン性オリゴマー化、ロス他、マクロモレキュルズ29、6104〜6109頁(1996年)
【0124】
[(II)アリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性反応体との共重合]
アリル末端ポリオレフィン(例、アリル末端PIB)の形成後、アリル末端ポリオレフィンを不飽和酸性反応体と共重合させる。ある態様では、フリーラジカル開始剤の存在下で共重合を実施する。ある例では、共重合の生成物はポリアリルPIBSAである。
【0125】
限定されることのない試薬および条件を、以下のセクションIIA〜IIDに示す。
【0126】
A.不飽和酸性反応体
「不飽和酸性反応体」との用語は、下記一般式のマレイン酸系もしくはフマル酸系反応物を示す:
【0127】
【化16】

【0128】
式中、XおよびX’は、それぞれ独立に、−OH、−Cl、および−O−低級アルキルからなる群より選ばれるが、XおよびX’とは共同して−O−を形成してもよい。
【0129】
ある態様では、XおよびX’は、いずれもカルボン酸としての機能がアシル化反応に関与できる。無水マレイン酸は、有用な不飽和酸性試薬の一例である。ここに記載されるような共重合体における無水マレイン酸の使用は、共重合体の性質をさらに変化させることを目的に、共重合体全体に生成する無水マレイン酸基を引き続き(詳細については後述するように)変性することができるため、特に有用である。
【0130】
B.フリーラジカル開始剤
様々なフリーラジカル開始剤が、アリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性試薬との共重合の開始に使用することに適している。
【0131】
ある態様では、共重合は任意の適切なフリーラジカル開始剤により開始することができる。
【0132】
過酸化物型重合開始剤、アゾ型重合開始剤、および放射線は、ここに記載するような共重合に有用なフリー開始剤の例である。
【0133】
過酸化物型重合開始剤は、有機もしくは無機のいずれでもよく、ある態様では、R3OOR3'の式を有する有機物である。ここで、R3は任意の有機基であり、R3'は水素原子および任意の有機基からなる群より選ばれる。R3およびR3'は、いずれも任意の有機基(例、炭化水素、アリール、アシル基)であってもよく、任意にハロゲンのような置換基を伴ってもよい。有用な過酸化物の限定されない例は、過酸化ジ−tert−アミル、過酸化ジ−tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、その他の過酸化3級ブチル類、過酸化過2,4−ジクロロベンゾイル、3級ブチルヒドロペルオキシド、アセチルヒドロペルオキシド、過炭酸ジエチル、過安息香酸3級ブチル、その他を含む。
【0134】
α,α’−アゾビスイソブチロニトリルに代表されるアゾ型化合物もよく知られているフリーラジカル促進物質である。アゾ型化合物は、−N=N−基が分子内に存在するものとして定義される。上記基の価は有機基で満たされ、少なくとも一つは、好ましくは3級炭素原子に結合する。他の適切なアゾ化合物は、限定される訳ではないが、フルオロホウ酸p−ブロモベンゼンジアゾニウム、p−トピジアゾアミノベンゼン、水酸化p−ブロモベンゼンジアゾニウム、アゾメタン、およびハロゲン化フェニルジアゾニウムを含む。
【0135】
C.希釈剤
共重合反応は簡単な条件で実施できる。すなわち、準リビングアリル末端ポリオレフィン、不飽和酸性反応体、およびフリーラジカル開始剤を適当な割合で組み合わせ、その後、反応温度において攪拌する。不飽和酸性反応体は、時間をかけて添加してもいいし、一度に添加してもよい。
【0136】
あるいは、反応を希釈剤中で実施することもできる。例えば、反応体を溶媒と組み合わせることができる。溶剤は、単一の化合物であっても、2以上の化合物の混合物であってもよい。これらの化合物は、完全に、ほぼ完全に、もしくは部分的に反応成分を溶解する。反応が完了後、揮発成分を除去することができる。
【0137】
D.反応条件
ある態様では、必要な性質を有する共重合体(例、アリルポリPIBSA)が生じるように、様々な反応物の量と反応温度とを選ぶ。
【0138】
放射線を除外して使用するフリーラジカル開始剤の量は、主に選択する特定のフリーラジカル開始剤、使用するオレフィン、および反応条件により決定される。ある態様では、フリーラジカル開始剤は反応媒体中に溶解される。フリーラジカル開始剤の典型的な濃度は、酸性反応物1モルに対してフリーラジカル開始剤が、0.001:1乃至0.20:1(例えば、0.005:1乃至0.10:1)モルである。
【0139】
ある態様では、重合温度は、開始剤を分解し、必要とされるフリーラジカルを生じ、反応圧力(例、大気圧)において反応物を液状に保つために充分に高い温度である。
【0140】
ある態様では、反応時間は、酸性反応物および準リビングアリル末端ポリオレフィンと共重合体との実質的に完全な交換を生じるために充分な時間である。反応時間の例は、1乃至24時間(例、2乃至10時間)である。
【0141】
上記の通り、表題の反応は液相中で起きる。準リビングアリル末端ポリオレフィン、不飽和酸性反応体、およびフリーラジカル開始剤は、適当な方法で一緒にすることができる。例えば、準リビングアリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性反応体とを、フリーラジカル開始剤から生じたフリーラジカルの存在下で緊密に接触させることができる。具体的には、反応をバッチシステムで実施できる。バッチシステムでは、最初に全て準リビングアリル末端ポリオレフィンを不飽和酸性反応体とフリーラジカル開始剤との混合物に加えるか;あるいは、準リビングポリオレフィンを間欠的もしくは連続的に反応ポットに加えることもできる。反応物を他の順序で加えることもできる。例えば、開始剤と不飽和酸性反応体とを準リビングアリル末端ポリオレフィンを含む反応ポットに加えることができる。他の方法では、反応混合物の成分を連続的に攪拌中の反応器に加えると同時に、生成物の一部を連続的に除去して連続した回収装置もしくは他の一連の反応器に移す。反応は、コイル型の反応器中でも適切に実施できる。コイル型の反応器では、成分がコイルに沿った1またはそれ以上の箇所で加えられる。
【0142】
共重合の実質的な完了後、残存する不飽和酸性反応体は任意に従来の方法により除去することができる。例えば、共重合体に対する圧力を低下させ、反応物を実質的にストリップ除去する。
【0143】
[(III)ポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから製造した共重合体を用いる分散剤、およびそれを含む組成物]
アリル末端ポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから製造された共重合体(例、上記方法を用いて形成されたポリアリルPIBSA)は、必要な機能の付与および/または共重合体の他の性質の調整を目的として、様々な反応体と反応させることができる。結果として生じるポリアリルPIBSA誘導体は、その後、潤滑油、燃料、および濃縮物のような様々な組成物中で用いることができる。
【0144】
A.ポリスクシンイミド類
ポリスクシンイミドは、ここに記載したように製造された共重合体(例、アリル末端PIBと無水マレイン酸とから製造されたポリアリルPIBSA)をアミンもしくはポリアミンのいずれかと、反応条件において反応させることにより製造することができる。典型的な例では、アミンもしくはポリアミンを、ポリアリルPIBSA/酸触媒熱アリルPIBSA混合物中で、酸性基の当量当たり、アミンまたはポリアミンが0.1乃至1.5当量となるような量で使用する。ある態様では、使用するポリアミンは少なくとも二つの窒素原子と4乃至20個の炭素原子を有する。
【0145】
不活性な有機溶媒中で反応を実施することが望ましい。有用な溶媒は様々であって、文献の記載や通常の実験により決定することができる。典型的な例では、反応は約60℃乃至180℃(例、150℃乃至170℃)の範囲の温度において、約1乃至10時間(例、約2乃至6時間)実施する。典型的な例において、反応はほぼ大気圧において実施する。ただし、必要とされる反応温度および反応物もしくは溶媒の沸点に応じて、高圧もしくは低圧の条件を採用することもできる。
【0146】
水は、系内に存在するか、もしくはこの反応において生じる。水を、反応の進行中、共沸もしくは蒸留により、反応系から除去することができる。反応完了後、反応系を高温(例えば、100℃乃至250℃)かつ低圧においてストリップし、生成物中に存在している可能性がある揮発物を除去する。
【0147】
アミンもしくはポリアミンを使用する。例えば、ポリアミンは、分子当たり少なくとも一以上のアミン窒素原子(例、分子当たり4乃至12個のアミン窒素原子)を有する。分子当たり約6乃至10個の窒素原子を有するポリアミンも用いることができる。有用なポリアルケンポリアミンは、アルケン単位当たり約4乃至20個の炭素原子(例、2乃至3個の炭素原子)を含み、ある態様では、1:1乃至10:1の炭素原子:窒素原子の比を有する。
【0148】
スクシンイミド共重合体の形成に使用できる適切なポリアミンの限定されない例は:テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ダウE−100重ポリアミン(Mn=303、ダウ・ケミカル社より入手可能)、およびユニオン・カーバイドHPA−X重ポリアミン(Mn=275、ユニオン・カーバイド・コーポレーションより入手可能)を含む。上記ポリアミンは、分岐鎖ポリアミン、置換ポリアミン(炭化水素置換ポリアミンを含む)のような異性体を包含する。HPA−X重ポリアミンは、分子当たり平均約6.5アミン窒素原子を含む。ある態様では、ジェファミン(JeffamineTM)ED−900(ハンツマン・ケミカル社より入手可能)その他のようなポリエーテルジアミンを用いることができる。ある態様では、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(NPPDA)その他のようは芳香族アミンを用いることができる。ある態様では、アミン、ポリアミン、ポリエーテルジアミン、および芳香族アミンの混合物を用いることができる。
【0149】
ポリアミン反応物は、市販のポリアミンに関して、単一の化合物であっても、化合物の混合物であってもよい。例えば、市販のポリアミンは、表示される平均組成において、一つまたは多数の成分が優勢となる混合物である。例えば、アジリジンの重合、もしくはジクロロエチレンとアンモニアとの反応により製造されるテトラエチレンペンタアミンは、より低いアミン数およびより高いアミン数(例えば、トリエチレンテトラアミン、置換ピペラジン類、およびペンタエチレンヘキサアミン)を含むが、組成物は主にテトラエチレンペンタアミンであり、全アミン組成の実験式はテトラエチレンペンタアミンの実験式にほぼ近い内容になる。
【0150】
適切なポリアミンの他の例は、様々な分子量からなるアミンの混合物である。ジエチレントリアミンと重ポリアミンとの混合物が含まれる。ポリアミン混合物の一例は、ジエチレントリアミン20質量%と重ポリアミン80質量%とを含む混合物である。
【0151】
アミン(例、モノアミン)を使用する態様では、アミンは一級アミン、二級アミン、もしくはそれらの混合物であって、少なくとも10個の炭素原子(例、12乃至18個の炭素原子)を有することができる。芳香族性、脂肪族性、飽和、もしくは不飽和アミンを使用することができる。有用なアミンは、脂肪族一級アミンを含む。適切なアミンの例は、限定される訳ではないが、オクタデシルアミンおよびドデシルアミンを含む。アミンの適切な混合物の例は、獣脂アミン(主にC18アミンを含むアミンの部分的飽和混合物)である。
【0152】
モノアミンとポリアミンとの混合物を用いることができる。ポリオキシアルキレンポリアミン類(例えば、ジェファミン(JeffamineTM)の商標で供給される物質)とアミノアルコール類とを適切に使用することもできる。
【0153】
B.ポリエステル
ポリエステルは、反応条件において、ここに記載するように製造した共重合体(例、準リビングアリル末端PIBと無水マレイン酸とから製造したポリアリルPIBSA)を、ポリオールと反応させることにより製造することができる。ポリオールは、R”(OH)xを有する。ここで、R”は炭化水素基であり、xはヒドロキシル基の数を示す整数であって2乃至約10の値を有する。ある態様では、ポリオールは30個の炭素原子よりも少なく、2乃至約10個(例、3乃至6個)ヒドロキシ基を有する。それらを説明のため例示すると、アルキレングリコール類およびポリ(オキシアルキレン)グリコール類であって、エチレングリコール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)および他のポリ(オキシアルキレン)グリコール類である。これらは、2またはそれ以上のモルのエチレングリコール、プロピレングリコール、オクチレングリコール、その他、アルキレン基中に最大12個の炭素原子を有するグリコールを縮合することにより製造される。他の有用な多価アルコールは、グリセロール、ペンタエリスリトール、2,4−ヘキサンジオール、ピナコール、エリスリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、1,2−シクロヘキサンジオール、キシリレングリコール、および1,3,5−シクロヘキサントリオールを含む。他の有用なポリオールは、米国特許第4034038号明細書(1977年7月5日発行、Vogel)に開示されており、その開示の全てを本明細書の記載とする。
【0154】
エステル化は、例えば、約100℃乃至約180℃(例、約150℃乃至約160℃)の温度において実施できる。反応は通常、実質的に大気圧下で実施するが、例えばより揮発性が高い反応体を使用する際には、大気圧よりも高い圧力を採用することもできる。ある態様では、反応体を化学量論的な量で使用できる。反応は触媒なしで進行させることも、鉱酸、スルホン酸、ルイス酸その他の酸型触媒の存在下で進行させることもできる。適切な反応条件と触媒とは、米国特許3155686号明細書(1964年11月3日発行、Prill他)に開示されており、その全てを参照のため本明細書の記載とする。
【0155】
C.ポリスクシンイミドの後処理
上記のように製造したポリスクシンイミド類(例、準リビングアリル末端PIBと無水マレイン酸から製造したポリアリルPIBSAを用いて製造したポリスクシンイミド類)の分散能や他の性質は、環状カーボネートとの反応によりさらに修飾できる。後処理により生じる生成物は、ポリアミノ部分の一つ以上の窒素原子が、ヒドロキシヒドロカルビルオキシカルボニル、ヒドロキシポリ(オキシアルキレン)オキシカルボニル、ヒドロキシアルキレン、ヒドロキシアルキレンポリ(オキシアルキレン)、もしくはそれらの混合により置換された構造を有する。
【0156】
ある態様では、環状カーボネート後処理を、環状カーボネートがポリアミノ置換基の二級アミノ基と反応を起こすために充分な条件で実施する。ある態様では、反応は約0℃乃至250℃(例、100乃至200℃、例えば、約150乃至180℃)の温度で実施する。
【0157】
反応は簡潔な条件で実施でき、任意に触媒(例、酸性、塩基性、もしくはルイス酸触媒)の存在下で実施する。反応物の粘度によっては、不活性有機溶媒もしくは希釈剤(例、トルエンもしくはキシレン)を用いて反応を実施することも有益であるといえる。適切な触媒の例は、リン酸、トリフッ化ホウ素、スルホン酸アルキルもしくはスルホン酸アリール、および炭酸アルカリ金属もしくは炭酸アルカリ土類金属を含む。
【0158】
有用な環状カーボネートの一例は、1,3−ジオキソラン−2−オン(エチレンカーボネート)である。これは好ましい結果を与え、かつ商業的に容易に入手できる。
【0159】
後処理反応に用いる環状カーボネートの添加モルは、ある態様では、スクシンイミドのポリアミノ置換基に含まれる塩基性窒素原子の理論的な数に基づく。理論的な制約を希望しない場合でも、一当量のテトラエチレンペンタアミンを二当量の無水コハク酸と反応させると、生じるビススクシンイミドは理論的に三個の塩基性窒素原子を含むことになる。従って、添加モル比が2であることは、理論的には、2モルの環状カーボネートをそれぞれの塩基性窒素原子に加える必要があるか、もしくは、この場合、6モルの環状カーボネートを各等モルのスクシンイミドに加える必要がある。塩基性アミンの窒素原子に対する環状カーボネートのモル比は、典型的には約1:1乃至約4:1であり、好ましくは約2:1乃至約3:1である。
【0160】
上記のように製造したポリスクシンイミド類(例、準リビングアリル末端PIBと無水マレイン酸から製造したポリアリルPIBSAを用いて製造したポリスクシンイミド類)の分散能や他の性質は、ホウ酸もしくは類似のホウ素化合物との反応によりホウ素化分散剤を形成することにより、さらに修飾できる。ホウ酸に加えて、適切なホウ素化合物の例は、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、およびホウ酸のエステルを含む。ある態様では、本発明の組成物中の塩基性窒素原子もしくはヒドロキシル基の当量当たり、約0.1当量乃至約1当量のホウ素化合物を使用することができる。
【0161】
D.潤滑油組成物および濃縮物
上記のように準リビングアリル末端PIBと無水マレイン酸とから製造したポリアリルPIBSAに基づくポリスクシンイミド類は、潤滑油中の清浄剤および分散剤としての添加剤として有用である。クランクケースオイルとして使用する場合、上記のようなポリスクシンイミド類は、全組成物の約1乃至約10質量%(活性基準)、例えば、約5質量%より少ない(活性量基準)の量で使用することができる。活量基準とは、組成物の他の成分に対する添加剤の量を決定する際に、ポリスクシンイミド類の活性成分のみを考慮することを意味する。希釈剤および未反応であったポリオレフィンのような他の不活性成分は除外する。特に規定しない限り、潤滑油および最終組成物もしくは濃縮物を記述する場合、活性成分含量はポリスクシンイミド類に関しての記述とする。
【0162】
ポリスクシンイミド類と共に使用する潤滑油は、潤滑粘度を有すれば鉱物油であっても合成油であってもよく、内燃機関のクランクケースでの使用に適していることが好ましい。クランクケース潤滑油は、典型的な場合、0°F(−17.8℃)において約1300cSt〜210°F(99℃)において22.7cStの粘度を有する。有用な鉱物油は、パラフィン系、ナフタレン系、および潤滑油組成物中での使用に適した他のオイルを含む。合成油は、炭化水素合成油と合成エステルとの双方を含む。有用な合成炭化水素オイルは、適度の粘度を有するアルファオレフィン類のポリマー(例えば、1−デセントリマーのようなC6乃至C12アルファオレフィン類の水素化液状オリゴマー)を含む。有用な合成エステルは、モノカルボン酸とポリカルボン酸との双方のエステル、同様に、モノヒドロキシアルカノールとポリオールとの双方のエステルを含む。例としては、アジピン酸ジドデシル、テトラカプロン酸ペンタエリスリトール、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、セバシン酸ジラウリルその他である。モノおよびジカルボン酸と、モノおよびジヒドロキシアルカノールとの混合物から製造される複合エステルも用いることができる。
【0163】
炭化水素油と合成油とを配合したものも有用である。例えば、10乃至25質量%の水素化1−デセントリマーを75乃至90質量%の150SUS(100°F)鉱物油と配合すると、優れた潤滑油ベースが得られる。
【0164】
処方中に存在してよい他の成分は、清浄剤(過塩基性もしくは非過塩基性)、錆止め剤、消泡剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、抗酸化剤、摩耗防止剤、ジチオリン酸亜鉛、および様々な他の良く知られている添加剤を含む。
【0165】
さらに検討を加えると、上記のように製造したポリスクシンイミド類は、作動液、船舶用クランクケース潤滑油その他として用いることができる。ある態様では、ポリスクシンイミドを液体に対して(活性ポリスクシンイミドを基準に)0.1乃至5質量%、好ましくは(活性ポリスクシンイミドが基準)0.5乃至5質量%を加える。
【0166】
ポリスクシンイミド類は添加濃縮物中に加えることもできる。ある態様では、添加濃縮物は90乃至10質量%(例、20乃至60質量%)の有機液体希釈剤と(乾燥基準で)10乃至90質量%(例、80乃至40質量%)のポリスクシンイミドを含む。典型的な例では、濃縮物は輸送と貯蔵における取り扱いが容易となる程度に充分な希釈剤を含む。濃縮物に用いる適切な希釈剤は、全ての不活性な希釈剤を含み、好ましくは潤滑粘度を有するオイルであって、潤滑油組成物を製造するため濃縮物を潤滑油と容易に混合できるようにする。希釈剤として使用できる適切な潤滑油は、典型的な例において、0°F(−17.8℃)において約1300cSt〜210°F(99℃)において22.7cStの範囲に粘度を有するが、潤滑粘度を有するオイルも使用できる。
【0167】
E.燃料組成物および濃縮物
燃料中で使用する場合、必要な洗浄力を得るため、上記のように製造したポリスクシンイミド類の有用な濃縮物は、使用する燃料の種類、他の清浄剤もしくは分散剤の存在、もしくは他の添加剤などを含む様々な要素に左右される。ある態様では、ベース燃料中のポリスクシンイミドの濃度範囲は、100万分の10乃至10000質量部(例、100万分の30乃至5000部)である。他の清浄剤が存在する倍、より少ない量のポリスクシンイミドを使用してよい。ポリスクシンイミド類は、約150〜400°F(65.6〜204.4℃)の範囲に沸点を有する不活性な安定親油性溶媒を用いて、燃料濃縮物として処方することができる。有用な溶媒は、ガソリンもしくはディーゼル燃料の範囲に沸点を有する。ある態様では、ベンゼン、トルエン、キシレン、もしくは高沸点芳香族類もしくは芳香族系シンナーのような脂肪族もしくは芳香族炭化水素溶媒を使用する。炭化水素溶媒と組み合わせて、イソプロパノール、イソブチルカルビノール、n−ブタノールその他のような約3乃至8の炭素原子の脂肪族アルコールも、ポリスクシンイミドと共に使用することに適している。燃料濃縮物中で、ポリスクシンイミドの量は、ある態様では、少なくとも5質量%かつ70質量%以下(例、5乃至50、例えば10乃至25質量%)になる。
【0168】
範囲を限定的に意図することのない以下の実施例において、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0169】
[実施例1]
(アリル末端PIBの調製)
オーバーヘッド機械式攪拌機および白金抵抗温度計を3000ミリリットルの四つ口丸底フラスコに取り付けた。この集成装置を、実質的に不活性な雰囲気のグローブボックス中、乾燥窒素ガスの存在下、−70℃のヘプタン浴中に浸漬した。次に、フラスコに以下の反応物を加えた:
−70℃に平衡させたヘキサン809ミリリットル、
−70℃に平衡させた塩化メチル756ミリリットル、
ペンタイソブチレン塩酸塩90.3グラム、
2,6−ジメチルピリジン1.16ミリリットル、
塩化テトラn−ブチルアンモニウム1.39グラム、および
−70℃に平衡させたイソブチレン325.7ミリリットル。
【0170】
丸底フラスコの内容物は完全に混合し、−70℃で平衡にさせた。
【0171】
攪拌を継続しながら、次にTiCl44.7ミリリットルをフラスコに加えた。重合を57分間進行させ、アリルトリメチルシラン49.7ミリリットルを反応容器中に加えた。3分間の混合時間後、TiCl428.0ミリリットルを反応容器に加え、溶液を9分間反応させ、−70℃で平衡にしたメタノール100ミリリットルを加えて反応を終了させた。
【0172】
グローブボックスから溶液を除き、周囲条件で揮発性成分(例、塩化メチル)を蒸発させた。有機相を5%塩酸水溶液で抽出し、引き続き脱イオン水で抽出した。次に、精製した有機相をMgSO4で乾燥し、濾無し、溶媒を真空ストリップし、アリル末端PIB310gを得た。NMRの特性測定では、PIBは98モル%を超えるアリル鎖末端を含むことが示された。多角度レーザー光散乱検出器と屈折率検出器とを備えたゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、1050g/モルの数平均分子量と1.1のDIとを決定した。
【0173】
[実施例2]
(アリルポリPIBSAの調製)
コンデンサー、オーバーヘッド攪拌機、マントルヒーター、隔壁、および二つの注入ポンプを取り付けた250mlの丸底フラスコに、実施例1のアリルPIB100g(0.095モル、Mn=1050)を、窒素下、希釈剤なしで加えた。アリルPIBを150℃に加熱し、これに過酸化ジ−tertアミル1.66g(0.01モル)を一つの注入ポンプを経由して0.017ミリリットル/分の速度で加え、溶融無水マレイン酸16.2g(0.165モル)を加熱した(80℃)注入ポンプを経由して0.104ミリリットル/分の速度で加えた。添加の合計時間は2時間であった。その後、混合物を150℃に加熱し、さらに4時間経過した。さらに混合物を180℃まで加熱し、未反応の無水マレイン酸を真空除去した。
【0174】
生成物は、98.4mgKOH/gのSAP数(ASTM D94で定義されるケン化指数)、86.5質量%の活性含量(無水基を含む生成物の質量%)、および1.2のコハク酸比を有していた。生成物の(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて汎用較正により決定した)数平均分子量は1940、分散指数は2.84であった。コハク酸比は、米国特許第5334321号明細書の5欄と6欄に記載されている操作および計算式に従って計算される値である。同明細書の全ての内容は、参照のため本明細書の記載とする。通常、コハク酸比は、ポリブテン末端当たりのスクシン酸基の数を指す。本出願の内容において、コハク酸比は、ポリアリルPIBSAポリマー中に存在するポリブテン末端に対する無水コハク酸の割合を意味する。
【0175】
[比較例A]
(150℃で高メチルビニリデンPIBから調製したポリPIBSA)
コンデンサー、オーバーヘッド攪拌機、マントルヒーター、および二つの注入ポンプを取り付けた500mlの丸底フラスコに、高メチルビニリデンPIB(100g、0.096モル、Mn=1046、DI=1.71、メチルビニリデン含量:83%)を加えた。温度を150℃まで高めた。過酸化ジ−tertアミル1.74g(0.01モル)および無水マレイン酸15g(0.153モル)を、二つの注入ポンプで別々に、2時間かけて加えた。無水マレイン酸を80℃より高い温度まで加熱し、サンプルが液体にした。注入針は、いずれも液体表面よりも低く位置し、針の先端が互いにぴったり接触するようにした。反応系をさらに2時間加熱した。その後、過剰の無水マレイン酸を、180℃の減圧下の蒸留により2時間かけて除去した。
【0176】
ポリPIBSAは、123.7mgKOH/gのSAP数(ASTM D94で定義されるケン化指数)を有し、81.6質量%の活性率(無水基を含む生成物の質量%)を含んでいた。コハク酸比は1.6であった。生成物の(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて汎用較正により決定した)数平均分子量は1310、分散指数は2.59であった。
【0177】
[比較例B]
(140℃で高メチルビニリデンPIBから調製したポリPIBSA)
無水マレイン酸14.34g(0.146モル)、過酸化ジtert−アミル1.4g(0.0096モル)を使用し、テトラクロロエチレン25gを溶媒として使用し、温度を150℃から140℃に変更した以外は、比較例Aを繰り返した。溶媒を真空除去し、96.4mg/KOH/gのサンプルのSAP数を有し、61.2%活性率を含む生成物を得た。
【0178】
コハク酸比は1.7であった。生成物の(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて汎用較正により決定した)数平均分子量は1130、分散指数は2.59であった。
【0179】
[比較例C]
(90℃で高メチルビニリデンPIBから調製したポリPIBSA)
高メチルビニリデンPIB102.5g(0.098モル)、無水マレイン酸14.7g(0.150モル)、過オクタン酸t−ブチル2.25g(0.0098モル)を使用し、温度を140℃から90℃に変更した以外は、比較例Bを繰り返した。溶媒を真空除去し、47.6mg/KOH/gのサンプルのSAP数を有し、52%活性率を含む生成物を得た。コハク酸比は0.9であった。生成物の(ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて汎用較正により決定した)数平均分子量は1560、分散指数は5.34であった。
【0180】
実施例2および比較例A〜Cの共重合体の性質を第1表に示す。
【0181】
第1表
─────────────────────────────────
PIB 温度 % SAP ASR 生成物
例 Mn ℃ 活性率 mgKOH/g Mn
─────────────────────────────────
実施例2 1050 150 86.5 98.4 1.2 1940
比較例A 1046 150 81.6 123.7 1.6 1310
比較例B 1046 140 61.8 96.4 1.7 1130
比較例C 1046 90 52 47.6 0.9 1560
─────────────────────────────────
【0182】
これらの結果は、反応温度が低くなるに伴って、高メチルビニリデンPIBを用いて通常の共重合法を採用して調製したポリPIBSAの%活性率は81.6%から52%まで低下し、同時にMnは約1310から約1560まで上昇することを示した。一方、アリル末端PIBを用いて本発明の共重合体を製造すると、ポリPIBSAのMnは1940で、%活性率は86.5%であった。
【0183】
高分子量分散剤は、煤による粘度増加を防止し、スラッジおよびワニスを抑制するために一般に有用である。上記結果は、実施例1のアリル末端PIBから製造した実施例2の共重合体は、依然として高い活性率パーセントを維持しながらオリゴマー化の程度が高いことを示している。
【0184】
(実施例2および比較例Aについて低温性能試験の結果)
マルチグレードオイル(例えば、10W30オイル)は、低温におけるSAE10W粘度限界と高温におけるSAE30粘度限界とに適合する。必要な粘度目的に適合させる方法の例は、1)粘度が異なる基油(例えば、100中性オイル+600中性オイル)の配合、2)高粘度指数(VI)を有する従来とは異なるベースオイル、3)低コールドクランクシミュレーター(CCS)濃化剤を用いる清浄剤/阻害剤の添加パッケージ、および4)処方したオイルの粘度指数を改善する粘度指数改善剤(VI改善剤)を使用することである。これら4種類の方法を正しく組み合わせて使用すれば、100℃における高い動粘度(kv)と例えば−20℃における低いCCS粘度とを有するように処方されたオイルを製造することができる。
【0185】
ある条件下(例えば、高燃費乗用車のモーターオイル(PCMO)の処方)では、分散剤に対して低いCCS粘度と低いkvとの双方を有することが望まれる可能性がある。これについては、希釈オイル中に溶解した分散剤について、CCSとkvとを測定することにより決定できる。低CCSおよびkvを有する分散剤は、最適性能を有する可能性がある。
【0186】
他の条件下では、分散剤に対して高いkvと低いCCS粘度とを有し、これにより必要とされる粘度グレードに適合するために求められるVI改善剤を少量にすることが望まれる場合もある。これについては、kvに対するCCSをプロットし傾斜を測定することにより決定できる。最も低い傾斜を有する分散剤が最適性能を有する。
【0187】
従来の高メチルビニリデンPIBから誘導されたポリPIBSAとの比較においてアリル末端PIBから誘導されたアリルポリPIBSAについて、以上で述べたような低温における性質の改善を示すため、実施例2および比較例Aの生成物についてコールドクランキングシミュレーター(CCS)粘度および動粘度(kv)を測定した。結果を第2表に示す。この解析のため、実施例2および比較例AのポリPIBSAは、最初に中性希釈オイル(シェブロン100)に4質量%および8質量%の添加量で溶解した。シェブロン100中性希釈オイルは、グループ2に属する希釈オイルである。動粘度(kv@100℃)は、ASTM D445を用いて測定した。コールドクランクシミュレーター(CCS)は、ASTM D5293を用いて測定した。これらの結果を第2表に示す。
【0188】
第2表
─────────────────────────────────
例 添加量(質量%) CCS(cP) kv(cSt)
─────────────────────────────────
実施例2 4 1181 4.837
8 1873 6.010
比較例A 4 1163 4.851
8 1714 5.851
─────────────────────────────────
【0189】
これらの結果は、実施例1のアリル末端PIBから調製された実施例2の共重合体が、従来の高メチルビニリデンPIBから調製した共重合体(比較例A)と比較して、ほぼ同じCCSとkvとを与えることを示す。実施例2の共重合体の分子量が比較例Aの共重合体の分子量よりも大きく、実施例2の共重合体がより高い粘度値を与えることが予想されることからみて、この結果は予想外である。この低い粘度の結果は、寒冷地で使用するための洗浄剤/阻害剤パッケージを処方する場合に望ましい。
【0190】
[実施例3]
(アリルポリPIBSAとポリエーテルアミンおよび芳香族アミンとの反応によるポリスクシンイミドの形成)
ディーン−スターク・トラップ、コンデンサー、オーバーヘッド攪拌機、温度調節器、およびマントルヒーターを取り付けた500mlの四つ口丸底フラスコに、実施例2で調製したアリルポリPIBSA40.22gおよび希釈オイル(シェブロン100N)20gを加えた。混合物を100℃まで加熱し、N−フェニルフェニレンジミン(NPPDA)3.49gを加えた。その後、混合物の温度を140℃まで上昇させ、ジェファミン(JeffamineTM)ED−900(ポリエステルジアミン、〜950MW、ハンツマン・ケミカル社より入手可能)7.06gを加えた。混合物の温度を165℃まで上昇させ、その温度を1時間維持した。残存する水を真空除去し、生成物を放置、冷却した。追加の希釈オイル(シェブロン100N)20gを加えた。生成物は、50質量%の活性含量、0.847%の窒素含量、4.62mgKOH/gのTBN(ASTM D2896で決定された全塩基数)、および4.55mgKOH/gのTAN(ASTM D664で決定された全酸数)を有していた。アリルポリPIBSAから製造されたこのポリスクシンイミドの低温度特性を第3表に示す。
【0191】
[比較例D]
(高メチルビニリデンPIBを用いて製造されたポリPIBSAからビスTEPAポリスクシンイミドの調製)
オーバーヘッド攪拌機、コンデンサー、ディーン−スターク・トラップ、マントルヒーター、温度調節器、および窒素導入チューブを取り付けた500mlの四つ口丸底フラスコに、比較例Aの(高メチルビニリデンPIBから得た)ポリPIBSA43.54g(48.0ミリモル)を加えた。これに、希釈オイル(シェブロン100N)27.52gを加えた。温度を150℃まで上昇させ、ここにテトラメチレンペンタミン(TEPA)4.53g(24.0ミリモル)を加えた。アミン/無水CMR=0.5であった。温度を170℃まで上昇させ、それを一晩保った。色が暗い褐色に変化した。その後、反応系を冷却した。生成したポリスクシンイミド(活性度52%)は、2.5%Nおよび672.1cStのvis@100℃を有していた。
【0192】
(低温度特性の結果)
従来の高メチルビニリデンPIBと対比されるアリル末端PIBから誘導されるポリスクシンイミドについて、上記のように改善された低温特性を示すため、実施例3と比較例Dの生成物についてコールドクランキングシミュレーター(CCS)粘度と動粘度(kv)とを測定した。結果を第3表に示す。この解析において、実施例3と比較例Dのポリスクシンイミドを最初に第3表に示す添加量で中性希釈オイル(シェブロン100)に溶解した。動粘度(kv@100℃)をASTM D445を用いて測定した。コールドクランクシミュレーター(CCS)をASTM D5293を用いて測定した。これらの結果を第3表に示す。
【0193】
第3表
─────────────────────────────────
例 添加量(質量%) CCS(cP) kv(cSt) 傾斜
─────────────────────────────────
3 855 4.432
実施例3 5 964 4.750 281
8 1104 5.225
比較例D 4 1034 4.761
8 1293 5.659 271
─────────────────────────────────
【0194】
第3表に示されるデータは、アリルポリPIBSAから製造した実施例3の重合分散剤は、アリルポリPIBSAが高メチルビニリデンポリPIBSAよりも高いMnを有していても、高メチルビニリデンポリPIBSAから製造した比較例Dの重合分散剤より低いCCSと低いkvとを有することを示している。これは、例えば高燃費乗用車のモーターオイル(PCMO)の処方に使用する場合に望ましいと言える。加えて、実施例3の重合分散剤は比較例Dの重合分散剤よりも高いMnを有しているが、実施例3の重合分散剤は比較例Dの重合分散剤とほぼ同じCCS/kv傾斜を有していた。これは、望ましい粘度グレードに適合するためVI改善剤を削減する必要がある場合に望ましいと言える。
【0195】
(煤の分散能の結果)
煤の分散能の試験も、実施例3のポリスクシンイミドについて、様々な添加量で煤増粘ベンチテストとして実施した。テストの詳細は、米国特許第5716912号明細書に記載されている。そのすべての内容は、参照のため、ここに取り込む。煤増粘ベンチテストでは、オイルの動粘度をカーボンブラックの有り無しで測定した。知られているようにカーボンブラックは凝集するため、通常はこれによりオイルの動粘度が上昇する。従って、カーボンブラックの存在下でより低粘度を与える分散剤が、カー凡愚ラックの存在下でより高粘度を与える分散剤よりも良好な性能であることが予想される。すなわち、より良好な性能を有する分散剤が、カーボンブラックの凝集を防止するからである。煤増粘ベンチテストの結果を第4表に示す。
【0196】
第4表
─────────────────────────────────
例 添加量(質量%) %粘度増加
─────────────────────────────────
実施例3 2 136.1
6 104.0
基準(分散剤なし) 0 280.0
─────────────────────────────────
【0197】
煤増粘ベンチテストの結果は、実施例3のポリスクシンイミドを用いる場合の粘度増加率(%)が、分散剤を含まない処方のオイルにおける粘度増加率(%)よりも低いことを示している。このテストは、実施例3のポリスクシンイミドが有効な分散剤であることを示している。
【0198】
本発明を特定の態様を参照しながら説明したが、本出願は、添付する請求項の精神と範囲から逸脱しない限り、当業者により行うことができる様々な改変および置換をも含むことを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和酸性反応体と高分子量のポリオレフィンとの共重合体であって、該ポリオレフィンがアリル末端重合生成物である共重合体。
【請求項2】
(i)アリル末端重合生成物が、
(a)ポリオレフィンをイオン化して炭素カチオン末端ポリオレフィンを生成させる、
(b)工程(a)の炭素カチオン末端ポリオレフィンをルイス酸の存在下でアリルシラン化合物と反応させ、そして
(c)工程(b)を終結させてアリル末端重合生成物を生成させることにより製造されるアリル末端重合生成物であるか;あるいは、
(ii)アリル末端重合生成物が、
(a)ルイス酸の存在下かつ適切な準リビング条件下で準リビング3級ハロゲン化末端ポリオレフィンを生成させ、
(b)該準リビング3級ハロゲン化末端ポリオレフィンをアリルシラン化合物と反応させ、そして
(c)工程(b)を終結させてアリル末端準リビング重合生成物を生成させることにより製造されるアリル末端準リビング重合生成物である請求項1の共重合体。
【請求項3】
アリルシラン化合物がアリルトリメチルシランを含むか、あるいはフリーラジカル開始剤が過酸化物を含む請求項2の共重合体。
【請求項4】
上記ポリオレフィンをフリーラジカル開始剤の存在下で不飽和酸性反応体と接触させることにより共重合体を生成させる上記請求項のいずれか一つの共重合体。
【請求項5】
(i)ポリオレフィンが約500乃至約10000、もしくは約900乃至約5000の数平均分子量を有するか;
(ii)共重合体が約1乃至約2、もしくは約1.0乃至約1.5のコハク酸比を有するか;
(iii)ポリオレフィンが少なくとも75%、もしくは少なくとも90%のアリル末端基の含有率を有するか;あるいは
(iv)ポリオレフィンが約2未満、もしくは約1.4未満の分散指数を有するかである上記請求項のいずれか一つの共重合体。
【請求項6】
ポリオレフィンがポリイソブチレンであるか、または不飽和酸性反応体が下記式のもの、あるいは無水マレイン酸を含む上記請求項のいずれか一つの共重合体:
【化1】

式中、XおよびX’は、それぞれ独立に、−OH、−Cl、および−O−低級アルキルからなる群より選ばれるか、あるいはXとX’とが共同して−O−となる。
【請求項7】
共重合体が下記式を有する上記請求項のいずれか一つの共重合体:
【化2】

式中、R1、R2、R3、およびR4のうち三つは水素原子であり、他は高分子量ポリアルキルであり;x、y、およびnは、それぞれ独立に1もしくはそれ以上の数であって、x:yの比は2:1乃至1:1である。
【請求項8】
nが1乃至20であるか、あるいは高分子量ポリアルキルが少なくとも30の炭素原子を有するポリイソブチル基を含む請求項7の共重合体。
【請求項9】
上記請求項のいずれか一つの共重合体を、アミン、少なくとも二つの塩基性窒素原子を有するポリアミン、もしくはそれらの混合物と反応させることにより製造されたポリスクシンイミド。
【請求項10】
主要量の潤滑粘度を有する油および少量の請求項9のポリスクシンイミドを含む潤滑油組成物。
【請求項11】
下記を含む共重合体の製造方法:
(a)高分子量のアリル末端ポリオレフィンを生成させる;そして
(b)該アリル末端ポリオレフィンを、フリーラジカル開始剤の存在下で不飽和酸性反応体と接触させて共重合体を生成させる。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法であって、該アリル末端ポリオレフィンが下記の工程により生成される方法:
(a)ポリオレフィンをイオン化して炭素カチオン末端ポリオレフィンを生成させ、
(b)工程(a)の炭素カチオン末端ポリオレフィンをルイス酸の存在下でアリルシラン化合物と反応させ、そして
(c)工程(b)を終結させてアリル末端ポリオレフィンを生成させる。
【請求項13】
アリルシラン化合物がアリルトリメチルシランを含む、もしくはフリーラジカル開始剤が過酸化物を含む請求項12の方法。
【請求項14】
(i)ポリオレフィンが約500乃至約10000、もしくは約900乃至約5000の数平均分子量を有する:あるいは
(ii)ポリオレフィンが少なくとも75%、もしくは少なくとも90%のアリル末端基の含有率を有する
上記請求項11乃至13のいずれか一つの方法。
【請求項15】
不飽和酸性反応体が下記式のもの、あるいは無水マレイン酸を含む請求項11乃至14のいずれか一つの方法:
【化3】

式中、XおよびX’は、それぞれ独立に、−OH、−Cl、および−O−低級アルキルからなる群より選ばれるか、あるいはXとX’とが共同して−O−となる。

【公表番号】特表2011−528730(P2011−528730A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518929(P2011−518929)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/050965
【国際公開番号】WO2010/009379
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】