説明

アリール基を有するジスルホニウム塩の製造方法

【課題】スルホキシド化合物から1工程でジスルホニウム塩を得る製造方法を提供する。
【解決手段】特定構造のスルホキシド化合物(A)と、特定構造の芳香族化合物(B)と、特定構造のスルホンイミド(C)とを脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより目的のジスルホニウム塩を形成する、ジスルホニウム塩の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤、光硬化型接着剤、半導体のフォトリソグラフィー等の分野で使用される光酸発生剤に有用なジスルホニウム塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光酸発生剤は、光照射により酸を発生させ、エポキシモノマー、オキセタンモノマー等をカチオン重合させることができるため、塗料、コーティング剤、光硬化型接着剤等の分野に利用されている。また、半導体のフォトリソグラフィー分野では、露光により光酸発生剤から発生した酸の触媒作用により、レジスト樹脂を不溶化させている保護基を脱離させ、アルカリ現像液に可溶となる化学増幅型レジストが使用されている。
【0003】
光酸発生剤の分子構造は、照射光を吸収するカチオン部位と、酸の発生源となるアニオン部位とから構成されている。光酸発生剤の代表例としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。スルホニウム塩はヨードニウム塩と比べて、保存安定性が良く、吸収波長がより長波長側にあり、様々な構造を有するスルホニウム塩が開発されてきた。スルホニウム塩のアニオン部位としては、SbF6-、AsF6-、BF4-、B(C654-、PF6-等が使用されているが、Sbは劇物であり、Asは毒物であるため、これらの金属元素を含有するオニウム塩は安全性に問題があり、その用途は制限される。また、半導体のフォトリソグラフィー分野において、金属元素を含むアニオン部位(例えばSbF6-及びAsF6-)、リン元素を含むアニオン部位(例えばPF6-)、ホウ素元素を含むアニオン部位(例えばBF4-及びB(C654-)等を有する光酸発生剤は化学増幅型レジスト用途に使用することはできない。なぜならば、上記のような元素は不純物となり、トランジスター性能に大きな影響を及ぼすからである(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
上記課題を解決する光酸発生剤として、例えば、カチオン部位がアリールスルホニウムからなり、アニオン部位がフッ素含有スルホンイミデートから成るスルホニウム塩が挙げられる。従来、該スルホニウム塩は、スキーム1に示すように2つの工程から合成される。
第1工程:グリニャール試薬とスルホキシド化合物とからスルホニウムハライドを合成する(例えば、非特許文献2〜3参照)。
第2工程:スルホニウムハライドとスルホンイミド塩とを反応させて、スルホニウム塩を合成する(例えば、特許文献1を参照)。
【化1】

{式中、Xはハロゲン原子を表し、M’はアルカリ金属を表し、そしてRf''はフッ素残基を表す。}
【0005】
しかしながら、上記製造法においては、スルホキシド化合物からスルホニウム塩を得るまで2工程必要であり、さらに各工程において反応終了後の繁雑な処理作業が必要であり、不純物として微量のハロゲンイオンの残存の可能性がある。また、スルホニウム塩の製造法として、スキーム2に示すような工程をとることもできる。
【化2】

{式中、M’はアルカリ金属を表し、Rf及びRf’はフッ素残基を表す。}
上記の方法ではハロゲンイオンの残留はないが、この方法もスルホキシド化合物からスルホニウム塩を得るまで2工程必要である。また、微量のフッ素置換スルホン酸イオンの残存の可能性があり、上記の方法で得られた光酸発生剤を、エポキシ化合物やオキセタン化合物の重合に使用した場合、フッ素置換スルホン酸イオンの求核性によって重合反応が阻害され、重合活性が低下する場合がある。このように、従来のスルホニウム塩の製造方法には繁雑な操作が伴い、不純物残留の可能性があるため、工程数が少なく、且つ簡単な操作で不純物の残存量の少ないスルホニウム塩の製造が可能な方法の開発が強く望まれていた。
【0006】
また、上記のモノスルホニウム塩よりも感度が高い傾向にあるジスルホニウム塩においても、スキーム3に示すような2工程を経る合成方法しか知られておらず(例えば、特許文献3を参照)、工程数が少なく、且つ簡単な操作でジスルホニウム塩の製造が可能な方法の開発が強く望まれていた。
【化3】

{式中、Xはハロゲン原子を表し、M’はアルカリ金属を表し、そしてRf''及びRf'''はフッ素残基を表す。}
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−89777号公報
【特許文献2】特表2001−512714号公報
【特許文献3】特開2005−275153号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上田充監修、ラドテック研究会編集「UV・EB硬化技術の最新動向」第2章材料開発の動向 3.光重合開始剤 シーエムシー出版(2006年)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society 112巻 6004頁 (1990年)
【非特許文献3】Synthesis 1648頁 (2004年)
【非特許文献4】Journal of The Electrochemical Society 151巻 A1363頁 (2004年)
【非特許文献5】Journal of Fluorine Chemistry 125巻 243頁 (2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、工程数が少なく、且つ簡単な操作でジスルホニウム塩を製造することが可能な、ジスルホニウム塩の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、スルホキシド化合物からジスルホニウム塩を製造する方法について鋭意検討した結果、スルホキシド化合物と芳香族化合物とスルホンイミドとを脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより、1工程でジスルホニウム塩を収率良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 下記一般式(1):
【化4】

{式中、R1及びR2は、各々独立に、炭素数1〜8個のアルキル基、又は下記一般式(2):
【化5】

(式中、R3は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてpは0〜5の整数である。)で表される置換若しくは非置換のアリール基を表す。}で表されるスルホキシド化合物(A)と、
下記一般式(3):
【化6】

{式中、R4は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてqは0〜5の整数である。}又は下記一般式(4):
【化7】

{式中、R5及びR6は、各々独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、又は炭素数1〜8個のアルキルチオ基を表し、そして、r及びsは、各々独立に0〜3の整数である。}で表される芳香族化合物(B)と、
下記一般式(5):
【化8】

{式中、a、b及びa’は、各々独立に1〜8の整数である。}で表されるスルホンイミド(C)とを、
脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより、下記一般式(6):
【化9】

{式中、R1及びR2は、上記一般式(1)で定義したのと同じ意味であり、Arは、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物(B)から水素を1原子除いた芳香族基を表し、そしてa、b及びa’は上記一般式(5)で定義したのと同じ意味である。}
で表されるジスルホニウム塩を形成する、ジスルホニウム塩の製造方法。
[2] 上記脱水剤が五酸化リンである、上記[1]に記載のジスルホニウム塩の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スルホキシド化合物からジスルホニウム塩を1工程で収率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に記述する。
【0013】
本発明は、下記一般式(1):
【化10】

{式中、R1及びR2は、各々独立に、炭素数1〜8個のアルキル基、又は下記一般式(2):
【化11】

(式中、R3は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてpは0〜5の整数である。)で表される置換若しくは非置換のアリール基を表す。}で表されるスルホキシド化合物(A)と、
下記一般式(3):
【化12】

{式中、R4は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてqは0〜5の整数である。}又は下記一般式(4):
【化13】

{式中、R5及びR6は、各々独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、又は炭素数1〜8個のアルキルチオ基を表し、そして、r及びsは、各々独立に0〜3の整数である。}で表される芳香族化合物(B)と、
下記一般式(5):
【化14】

{式中、a、b及びa’は、各々独立に1〜8の整数である。}で表されるスルホンイミド(C)とを、
脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより、下記一般式(6):
【化15】

{式中、R1及びR2は、上記一般式(1)で定義したのと同じ意味であり、Arは、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物(B)から水素を1原子除いた芳香族基を表し、そしてa、b及びa’は上記一般式(5)で定義したのと同じ意味である。}で表されるジスルホニウム塩を形成する、ジスルホニウム塩の製造方法を提供する。本発明の方法によれば、下記スキーム4:
【化16】

に示すように、一般式(6)で表されるジスルホニウム塩を1工程で収率良く製造でき、ハロゲンイオンやフッ素置換スルホン酸イオン等の不純物の残存量を低く抑えることができる。
【0014】
スルホキシド化合物(A)
本発明で使用されるスルホキシド化合物(A)は、上記一般式(1)で表されるスルホキシド化合物である。上記一般式(1)中のR1及びR2は、光酸発生剤の安定性、光の吸収の長波長化、及び露光時の分解性の観点から、各々独立に、炭素数1〜8個のアルキル基又は上記一般式(2)で表される置換若しくは非置換のアリール基である。
【0015】
上記一般式(2)においてR3は置換基を表している。光酸発生剤の安定性、光の吸収の長波長化、及び露光時の分解性の観点から、一般式(2)において、R3は、各々独立にハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、若しくはフェニルチオ基であり、pは0〜5の整数である。
【0016】
上記一般式(1)で表されるスルホキシド化合物の入手性、及び合成時のハンドリング性等の理由から、上記一般式(1)において、好ましくは、R1及びR2は、各々独立に、炭素数1〜4個のアルキル基、又は上記一般式(2)で表される置換若しくは非置換のアリール基であってR3が各々独立にハロゲン原子、炭素数1〜4個のアルキル基、炭素数1〜4個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜4個のアルキルチオ基、若しくはフェニルチオ基であり、pが0〜5であるものである。
【0017】
より好ましくは、R1及びR2は、各々独立に、炭素数1〜2個のアルキル基、又は上記一般式(2)で表される置換若しくは非置換のアリール基であってR3が各々独立にフッ素原子、塩素原子、炭素数1〜2個のアルキル基、炭素数1〜2個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜2個のアルキルチオ基、若しくはフェニルチオ基であり、pが0〜5であるものである。
【0018】
特に好ましくは、R1及びR2は、各々独立に、メチル基、又は上記一般式(2)で表される置換若しくは非置換のアリール基であってR3が各々独立に塩素原子、メチル基、若しくはメトキシ基であり、pが0〜5であるものである。
【0019】
一般式(2)中のpが0である場合、一般式(2)で表されるアリール基は非置換アリール基であり、pが1〜5である場合、一般式(2)で表されるアリール基は置換アリール基である。pは、光酸発生剤の安定性、光の吸収の長波長化、及び露光時の分解性の観点から、好ましくは0〜3であり、より好ましくは0〜2である。
【0020】
1及びR2の好ましい具体例としては、以下の構造が挙げられる。
【0021】
・炭素数1〜8個のアルキル基
−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH(CH32
−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH(CH32、−C(CH33
−(CH24CH3、 −(CH25CH3、 −(CH26CH3
−(CH27CH3
【0022】
・pが0であるもの
【化17】

【0023】
・R3としてハロゲン原子を有するもの
【化18】

【0024】
・R3として炭素数1〜8個のアルキル基を有するもの
【化19】

【0025】
・R3として炭素数1〜8個のアルコキシ基を有するもの
【化20】

【0026】
・R3としてフェノキシ基を有するもの
【化21】

【0027】
・R3として炭素数1〜8個のアルキルチオ基を有するもの
【化22】

【0028】
・R3としてフェニルチオ基を有するもの
【化23】

【0029】
スルホキシド化合物(A)の好ましい化合物例としては、下記化合物:
【化24】

【化25】

等が挙げられる。
【0030】
芳香族化合物(B)
本発明で使用される芳香族化合物(B)は、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物である。
【0031】
上記一般式(3)においてR4は置換基を表している。光酸発生剤の安定性、光の吸収の長波長化、及び露光時の分解性の観点から、一般式(3)において、R4は、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基であり、qは0〜5の整数である。
【0032】
上記一般式(3)で表される芳香族化合物の入手性、及び合成時のハンドリング性等の理由から、好ましくは、R4がハロゲン原子、炭素数1〜4個のアルキル基、炭素数1〜4個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜4個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基であってqが0〜5の整数であり、より好ましくは、R4がフッ素原子、塩素原子、炭素数1〜2個のアルキル基、炭素数1〜2個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜2個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基のいずれかであってqが0〜5の整数であり、特に好ましくは、R4が塩素原子、メチル基、メトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、又はフェニルチオ基であってqが0〜5の整数である。
【0033】
上記一般式(3)で表される芳香族化合物の具体例としては、以下の構造のものが挙げられる。
【0034】
・qが0であるもの
【化26】

【0035】
・R4としてハロゲン原子を有するもの
【化27】

【0036】
・R4として炭素数1〜8個のアルキル基を有するもの
【化28】

【0037】
・R4として炭素数1〜8個のアルコキシ基を有するもの
【化29】

【0038】
・R4としてフェノキシ基を有するもの
【化30】

【0039】
・R4として炭素数1〜8個のアルキルチオ基を有するもの
【化31】

【0040】
・R4としてフェニルチオ基を有するもの
【化32】

【0041】
上記一般式(4)において、R5及びR6は、光酸発生剤の安定性、光の吸収の長波長化、及び露光時の分解性の観点から、各々独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、又は炭素数1〜8個のアルキルチオ基であり、r及びsは、各々独立に0〜3の整数である。
【0042】
上記一般式(4)で表される芳香族化合物の入手性、及び合成時のハンドリング性等の理由から、好ましくは、R5及びR6が各々独立にハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4個のアルキル基、炭素数1〜4個のアルコキシ基又は炭素数1〜4個のアルキルチオ基であってr及びsが各々独立に0〜3の整数であり、より好ましくは、R5及びR6が各々独立にフッ素原子、塩素原子、水酸基、炭素数1〜2個のアルキル基、炭素数1〜2個のアルコキシ基又は炭素数1〜2個のアルキルチオ基であってr及びsが各々独立に0〜3の整数であり、特に好ましくは、R5及びR6が、各々独立に塩素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基又はメチルチオ基であってr及びsが各々独立に0〜3の整数である。
【0043】
上記一般式(4)で表される芳香族化合物の具体例としては、以下の構造のもの:
【化33】

等が例示される。
【0044】
スルホンイミド(C)
本発明で使用されるスルホンイミド(C)は上記一般式(5)で表される。上記一般式(5)において、光酸発生剤の酸の強さ及び酸の分子量の観点から、a、b及びa’は、各々独立に1〜8の整数である。
【0045】
また、上記一般式(5)で表されるスルホンイミド塩を合成する際の原材料の入手性、ハンドリング性等の理由から、好ましくは、aは1〜6の整数、bは1〜6の整数、及びa’は1〜6の整数であり、より好ましくは、aは1〜5の整数、bは2〜5の整数、及びa’は1〜5の整数であり、特に好ましくはaは1〜4の整数、bは2〜4の整数、及びa’は1〜4の整数である。
【0046】
上記一般式(5)の具体例としては、以下の構造:
【化34】

【化35】

【化36】

【化37】

【化38】

【化39】

【化40】

等が例示される。
【0047】
なお、上記一般式(5)で表されるスルホンイミドの前駆体であるスルホンイミド塩は、例えば非特許文献4又は特許文献2に記載の方法で製造することができる。得られたスルホンイミド塩を、例えば濃硫酸、陽イオン交換膜等を用いてスルホンイミドに変換した後、蒸留操作等により精製して、高純度のスルホンイミドを得ることができる。
【0048】
上記一般式(1)で表されるスルホキシド化合物(A)と、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物(B)と、上記一般式(5)で表されるスルホンイミド(C)とを、脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより、上記一般式(6)で表されるジスルホニウム塩を得ることができる。
【0049】
上記一般式(6)において、R1及びR2は、上記一般式(1)で定義したのと同じ意味であり、Arは上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物(B)から水素を1原子除いた芳香族基を表し、そしてa、b及びa’は上記一般式(5)で定義したのと同じ意味である。
【0050】
本発明の製造方法により製造される、一般式(6)で表されるジスルホニウム塩の好ましい化合物例としては、下記化合物:
【化41】

等が挙げられる。
【0051】
前述のスキーム4に示したように、本発明の製造方法は脱水縮合反応を利用したものである。よって、反応系内に水分が存在すると脱水縮合反応が遅くなり、上記一般式(6)で表されるジスルホニウム塩の収率が低下する。反応により生成する水分を効率よく除去するため、脱水剤が必要である。脱水剤としては、五酸化リン、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機化合物、及び無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水フタル酸等の有機化合物等が挙げられるが、反応時のハンドリング性の良さの観点から、より好ましい脱水剤は、五酸化リン、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、無水酢酸及び無水トリフルオロ酢酸であり、特に好ましくは五酸化リンである。これらの脱水剤は単独でも2種以上を併用しても差し支えない。
【0052】
芳香族化合物(B)及び脱水剤の使用量としては、スルホキシド化合物(A)1モルに対して、それぞれ、0.95モルから10モルが好ましく、0.98モルから5モルがより好ましく、1モルから2モルが特に好ましい。スルホキシド化合物(A)1モルに対する芳香族化合物(B)の使用量は、反応の当量的な進行の観点から0.95モル以上であることが好ましく、大過剰の芳香族化合物が残存することによる単離性の悪化を避ける観点から10モル以下であることが好ましい。スルホキシド化合物(A)1モルに対する脱水剤の使用量は、発生する水を確実に脱水させる観点から0.95モル以上であることが好ましく、大過剰の脱水剤が系中に残存することによるハンドリング性の悪化を避ける観点から10モル以下であることが好ましい。
【0053】
スルホンイミド(C)の使用量は、スルホキシド化合物(A)1モルに対して、好ましくは0.1モルから5モルであり、より好ましくは0.2モルから2モルであり、特に好ましくは0.4モルから1モルである。スルホキシド化合物(A)1モルに対するスルホンイミド(C)の使用量は、大過剰のスルホキシド化合物が残存することによる単離性の悪化を避ける観点から0.1モル以上であることが好ましく、大過剰のスルホンイミドが残存することによるハンドリング性の悪化を避ける観点から5モル以下であることが好ましい。
【0054】
上記脱水縮合反応は、反応溶媒の存在下で行うことができる。使用する反応溶媒は、反応物質に対して不活性な溶媒であれば良い。反応溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒、N,N―ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。これらの溶媒は単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0055】
上記脱水縮合反応において、反応温度は、通常、−20℃から100℃であるが、好ましくは−10℃から80℃であり、より好ましくは0℃から50℃であり、特に好ましくは10℃から30℃である。また反応時間は、通常、0.01時間から60時間であるが、好ましくは0.1時間から48時間、より好ましくは0.2時間から36時間、特に好ましくは0.5時間から24時間である。
【0056】
反応終了後、例えば、反応混合物中の溶媒を減圧留去後、残渣にジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル等の有機溶媒と水とを加えて有機層と水層とに分液し、さらに水層を新しい該有機溶媒で抽出する操作を2〜3回繰り返す。分液された有機層と抽出に用いた有機溶媒とを混合したものから有機溶媒を減圧留去すると、上記一般式(6)で表されるジスルホニウム塩を得ることができる。得られたジスルホニウム塩は、従来公知の精製方法、例えば、晶析、カラムクロマトグラフィー等により精製してもよい。
【0057】
カチオン部位がアリールスルホニウムであり、アニオン部位がフッ素含有ジスルホンイミデートであるジスルホニウム塩を製造する場合、従来の方法では、スルホキシド化合物からジスルホニウム塩を得るために少なくとも2工程必要であった。しかし、以上述べたように、本発明の製造方法によれば、スルホキシド化合物から1工程でジスルホニウム塩を収率良く得ることが可能となり、本発明は工業的に極めて有用であることが分かる。
【0058】
本発明の製造方法によって得られるジスルホニウム塩は、各種重合性モノマーの重合反応を進行させるための光酸発生剤として使用できる。重合性モノマーとしては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。重合性モノマーがエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等である場合、本発明に係るジスルホニウム塩を用いることにより得られる、低露光量で少量の光酸発生剤使用時でもモノマー硬化性が高いという効果が顕著である。
【実施例】
【0059】
以下実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
1H NMR及び19F NMRによる分子構造解析
測定装置:JNM−GSX400G型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
溶媒:重クロロホルム、
基準物質:テトラメチルシラン(1H NMR)、フレオン−11(CFCl3)(19F NMR)
【0061】
[実施例1] (P−1)の合成
【0062】
【化42】

【0063】
100mLの3口フラスコに、ジフェニルスルホキシド(0.606g、3mmol)、ジフェニルスルフィド(0.838g、4.5mmol)、クロロホルム(10mL)、及び五酸化リン(0.426g、3mmol)を加え、0℃に冷却した。CF3SO2NHSO2(CF24SO2NHSO2CF3(0.936g、1.5mmol)をクロロホルム(10mL)に溶解させ、この溶液を3口フラスコの中へ滴下した。滴下終了後、さらに室温で23時間攪拌した。反応混合物に水を加えてクロロホルム層を分液し、水層はクロロホルムで2回抽出操作を行った。上記クロロホルム層と、該抽出操作に用いたクロロホルムとを混合し、硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に、ヘキサンと酢酸エチルとの混合液(ヘキサン:酢酸エチル=20:1(体積比))を加え、0℃で2時間放置するとフラスコの底にペースト状物が析出した。上澄み液を取り去り、残ったペースト状物からさらに真空ポンプで溶媒を減圧留去すると、P−1(1.781g)が得られた(収率87%)。P−1の分子構造解析結果は以下の通りである。
1H NMR 7.87−8.35ppm(m,38H)
19F NMR −78.67ppm(s,6F)、−112.95ppm(m,4F)、−119.99ppm(m,4F)
【0064】
[実施例2] (P−2)の合成
【0065】
【化43】

【0066】
実施例1において、CF3SO2NHSO2(CF24SO2NHSO2CF3に代えて、C49SO2NHSO2(CF24SO2NHSO249(1.387g、1.5mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、P−2(1.998g)が得られた(収率80%)。P−2の分子構造解析結果は以下の通りである。
1H NMR 7.86−8.35ppm(m,38H)
19F NMR −80.35ppm(m,6F)、−112.91ppm(m,4F)、−113.31ppm(m,4F)、−119.92ppm(m,4F)、−121.02ppm(m,4F)、−125.70ppm(m,4F)
【0067】
[実施例3] (P−3)の合成
【0068】
【化44】

【0069】
実施例1において、CF3SO2NHSO2(CF24SO2NHSO2CF3に代えて、C25SO2NHSO2(CF24SO2NHSO225(1.087g、1.5mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、P−3(1.824g)が得られた(収率83%)。P−3の分子構造解析結果は以下の通りである。
1H NMR 7.84−8.34ppm(m,38H)
19F NMR −78.53ppm(s,6F)、−112.98ppm(m,4F)、−117.36ppm(s,4F)、−120.01ppm(m,4F)
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の製造方法により得られるジスルホニウム塩は、塗料、コーティング剤、光硬化型接着剤、半導体のフォトリソグラフィー分野等の様々な用途において光酸発生剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

{式中、R1及びR2は、各々独立に、炭素数1〜8個のアルキル基、又は下記一般式(2):
【化2】

(式中、R3は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてpは0〜5の整数である。)で表される置換若しくは非置換のアリール基を表す。}で表されるスルホキシド化合物(A)と、
下記一般式(3):
【化3】

{式中、R4は、各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、フェノキシ基、炭素数1〜8個のアルキルチオ基、又はフェニルチオ基を表し、そしてqは0〜5の整数である。}又は下記一般式(4):
【化4】

{式中、R5及びR6は、各々独立に、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜8個のアルキル基、炭素数1〜8個のアルコキシ基、又は炭素数1〜8個のアルキルチオ基を表し、そして、r及びsは、各々独立に0〜3の整数である。}で表される芳香族化合物(B)と、
下記一般式(5):
【化5】

{式中、a、b及びa’は、各々独立に1〜8の整数である。}で表されるスルホンイミド(C)とを、
脱水剤の存在下で接触させ及び混合することにより、下記一般式(6):
【化6】

{式中、R1及びR2は、上記一般式(1)で定義したのと同じ意味であり、Arは、上記一般式(3)又は上記一般式(4)で表される芳香族化合物(B)から水素を1原子除いた芳香族基を表し、そしてa、b及びa’は上記一般式(5)で定義したのと同じ意味である。}で表されるジスルホニウム塩を形成する、ジスルホニウム塩の製造方法。
【請求項2】
前記脱水剤が五酸化リンである、請求項1に記載のジスルホニウム塩の製造方法。