説明

アルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法

【課題】 アルカノイルジアリールスルフィド化合物を、環境への負荷が少なく、工業的に有利な方法で製造することができるアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法は、特定の芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、特定のベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカノイルジアリールスルフィド化合物は、医薬品、農薬および機能性材料等の合成中間体として有用である。アルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法としては、たとえば、下式に示すように、ジフェニルスルフィドと塩化アセチルとをFriedel−Crafts反応で反応させてアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造する方法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
【化1】

【0004】
また、下式に示すように、芳香族ハロゲン化アルカノイルとベンゼンチオールとを極性有機溶媒中で、ナトリウムtert−ブトキシドの存在下に反応させてアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 1952, vol.74, 5475−5485
【特許文献1】国際公開第08/136770号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、反応時に過剰の塩化アルミニウムを必要とするので、それら金属を含有した酸廃水が大量に生じる等、工業的規模で実施するのに適当な方法とは言い難い。また、ハロゲン系有機溶媒を用いるので、環境への負荷が比較的高い方法となっている。さらに、2箇所の反応部位があることから、副生成物が生成しやすく、その結果としてアルカノイルジアリールスルフィド化合物の収率が低い等、工業的に有利な方法とはいえない。
【0008】
また、特許文献1に記載のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、溶媒として、水への溶解度が大きい極性有機溶媒(DMF)を用いている。これら極性有機溶媒(DMF)は比較的毒性が高い。また、通常行われる後処理工程において水を使用するため、使用した極性有機溶媒は水を含む。これら極性有機溶媒は水との分離が難しいことから、回収、精製して再利用する工程が煩雑である等、工業的に有利な方法として充分に満足できるものとはいえない。
【0009】
本発明の目的は、環境への負荷が少なく、工業的に有利な方法で製造することができるアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式(1);
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示し、R,R,RおよびRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、
式(2);
【化4】

(式中、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
で表されるベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させ、
式(3);
【化5】

(式中、R,R,R,RおよびRは、それぞれ式(1)におけるR,R,R,RおよびRと同じ基を示し、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ式(2)におけるR,R,R,RおよびR10と同じ基を示す。)
で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得るアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法である。
【0011】
また本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法は、前記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物として、
式(4);
【化6】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物を用い、
前記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物として、
式(5);
【化7】

で表されるベンゼンチオール化合物を用い、
前記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物として、
式(6);
【化8】

(式中、Rは、式(4)におけるRと同じ基を示す。)
で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得る。
【0012】
また本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法は、前記溶媒が水である。
【0013】
また本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法は、前記界面活性剤が非イオン界面活性剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させ、上記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得ることができる。
【0015】
界面活性剤を用いることによって、溶媒が水または無極性溶媒であったとしても、塩基の存在下における芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物とベンゼンチオール化合物との反応が進行する。すなわち、本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、従来技術のように溶媒の回収・再利用が煩雑なDMF等の極性有機溶媒を用いることなくアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得ることができる。したがって、医薬品、農薬、および機能性材料等の合成中間体として有用なアルカノイルジアリールスルフィド化合物を、環境への負荷が少なく、工業的に有利な方法で製造することができる。
【0016】
また本発明によれば、上記式(4)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、上記式(5)で表されるベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させて、上記式(6)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得ることができる。
【0017】
また本発明によれば、溶媒が水である。芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物とベンゼンチオール化合物との反応は、通常、水溶媒中では進行しない。本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、界面活性剤を用いるので、溶媒が水であったとしても、芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物とベンゼンチオール化合物との反応が進行する。したがって、環境への負荷を少なくすることができるとともに、工業的に有利にアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造することができる。
【0018】
また本発明によれば、界面活性剤が非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤は比較的安価であり、さらに毒性も低い。したがって、さらに工業的に有利にアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、下記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、下記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させ、下記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得る。
【0020】
【化9】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示し、R,R,RおよびRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
【0021】
【化10】

(式中、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
【0022】
【化11】

(式中、R,R,R,RおよびRは、それぞれ式(1)におけるR,R,R,RおよびRと同じ基を示し、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ式(2)におけるR,R,R,RおよびR10と同じ基を示す。)
【0023】
上記式(1)において、Xで示されるハロゲン原子としては、たとえば、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等を挙げることができる。これらの中でも塩素原子が好適に用いられる。
【0024】
また、上記式(1)において、Rで示される炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−ヘプチル基およびイソヘプチル基等が挙げられる。これらの中でも、n−ブチル基およびn−ヘプチル基が好ましい。
【0025】
また、上記式(1)において、R,R,RおよびRで示される炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0026】
上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物の具体例としては、たとえば、4’−クロロアセトフェノン、4’−クロロプロピオフェノン、4’−クロロブチロフェノン、4’−クロロイソブチロフェノン、4’−クロロバレロフェノン、4’−クロロイソバレロフェノン、4’−クロロピバロフェノンおよび4’−クロロフェニルオクタノン等が挙げられる。これらの中でも、下記式(4)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物が好ましく、4’−クロロバレロフェノンおよび4’−クロロフェニルオクタノンがより好ましい。
【0027】
【化12】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示す。)
【0028】
上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物は、一般的には、無極性溶媒に溶けやすい。
【0029】
上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物は、市販のものを使用してもよいし、種々の公知の方法によって得られたものを使用してもよい。
【0030】
上記式(2)において、R,R,R,RおよびR10で示される炭素数1〜4の直鎖または分岐したアルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0031】
上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物の具体例としては、たとえば、ベンゼンチオール、4−メチルベンゼンチオール、4−エチルベンゼンチオール、4−n−プロピルベンゼンチオール、4−イソプロピルベンゼンチオール、4−n−ブチルベンゼンチオールおよび2,3,4,5,6−ペンタメチルベンゼンチオール等が挙げられる。これらの中でも、下記式(5)で表されるベンゼンチオールが好ましい。
【0032】
【化13】

【0033】
上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物は、市販のものを使用してもよいし、種々の公知の方法によって得られたものを使用してもよい。
【0034】
本発明にかかる上記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物の具体例としては、たとえば、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−エタノン、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−ペンタノンおよび1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−オクタノン等が挙げられる。たとえば、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物として、上記式(4)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物を用い、上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物として、上記式(5)で表されるベンゼンチオール化合物を用いた場合、上記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物として、下記式(6)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物が得られる。
【0035】
【化14】

(式中、Rは、式(4)におけるRと同じ基を示す。)
【0036】
上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物の使用割合は、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物1モルに対して、0.8モル以上5.0モル以下が好ましく、1.0モル以上2.0モル以下がより好ましい。
【0037】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法において用いられる溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に限定されず、たとえば、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサン等のエーテル系溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ならびに水が挙げられる。これらの中でも水を用いることが好ましい。芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物とベンゼンチオール化合物との反応は、通常、水溶媒中での進行が困難で、そのため、水以外の極性溶媒が用いられる。本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法では、界面活性剤を用いるので、溶媒が水または無極性溶媒であったとしても、芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物とベンゼンチオール化合物との反応が進行する。したがって、溶媒として水または無極性溶媒を用いることによって、とりわけ水を用いることによって、さらに環境への負荷を少なくすることができるとともに、工業的に有利にアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造することができる。
【0038】
前記溶媒の使用量は、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物100質量部に対して5質量部以上1000質量部以下が好ましく、10質量部以上200質量部以下がより好ましい。
【0039】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法において用いられる塩基としては、無機塩基が好ましく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ナトリウムtert−ブトキシドおよび水素化ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウムがより好ましい。なお、これら塩基は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法において前述した塩基を用いることによって、上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物を金属塩等として用いることができる。これらベンゼンチオール化合物の金属塩は、水に溶けやすい。
【0041】
前記塩基の使用量としては、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物1モルに対して、0.8モル以上5.0モル以下が好ましく、1.0モル以上2.0モル以下がより好ましい。
【0042】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法において用いられる界面活性剤としては、たとえば、アルキル硫酸塩およびアルキルスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級アミンハロゲン酸塩およびハロゲン化アルキルピリジニウム等の陽イオン界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤、ならびにアミノ酸等の両性界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも比較的安価であり、さらに毒性が低い等の取扱い易さ等の観点から、非イオン界面活性剤が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。なお、これら界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
前述のように、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物は、一般的に、無極性溶媒に溶けやすく、上記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物の金属塩は水に溶けやすい。このことから、溶媒として水または無極性溶媒を用い、界面活性剤を用いない場合、反応はほとんど進行しない。そのため、アルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造において界面活性剤を用いない従来技術では、両化合物が溶解可能なDMF等の極性有機溶媒を用いていた。しかしながら、この方法は、前述のように通常行われる後処理工程において水を使用し、使用した極性有機溶媒と水との分離が難しいことから、溶媒を回収、精製して再利用する工程が煩雑である等、工業的に有利な方法とはいえない。本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法において界面活性剤を用いることによって、溶媒が水または無極性溶媒であっても反応が進行するので、環境への負荷が少なく、工業的に有利にアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造することができる。
【0044】
前記界面活性剤の使用量は、上記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物100質量部に対して5質量部以上200質量部以下が好ましく、10質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0045】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法における反応温度は、特に限定されないが120℃以上200℃以下が好ましく、170℃以上190℃以下がより好ましい。
【0046】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法における圧力は、反応温度により異なるため一概にはいえないが、たとえば、0MPa(ゲージ圧)以上1MPa(ゲージ圧)以下である。
【0047】
本発明のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法における反応時間は、反応温度および圧力により異なるため一概にはいえないが、たとえば、10時間以上50時間以下である。
【0048】
このようにして得られるアルカノイルジアリールスルフィド化合物は、たとえば、水洗、抽出、濃縮等の常法の工程を経ることにより単離することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
内容積1L(リットル)のオートクレーブに、ベンゼンチオール110.2g(1.0モル)、4’−クロロアセトフェノン154.6g(1.0モル)、30質量%水酸化ナトリウム水溶液140.0g(1.05モル)、水50.0gおよびポリエチレングリコール#400(質量平均分子量380〜420)25.0gを加えて昇温し、180℃で30時間攪拌した。なお、反応器内部の圧力は0.80MPa(ゲージ圧)であった。反応終了後、冷却し、トルエン300.0gおよび水200.0gを添加して、攪拌し、分液した。取得した有機相にヘプタン800.0gを滴下して、析出した結晶を濾過することにより、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−エタノン207.8gを得た。得られた1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−エタノンの収率は、4’−クロロアセトフェノンに対して91%であった。
【0051】
(実施例2)
内容積1L(リットル)のオートクレーブに、ベンゼンチオール110.2g(1.0モル)、4’−クロロバレロフェノン196.7g(1.0モル)、30質量%水酸化ナトリウム水溶液140.0g(1.05モル)、水50.0gおよびポリエチレングリコール#400(質量平均分子量380〜420)25.0gを加えて昇温し、180℃で30時間攪拌した。なお、反応器内部の圧力は0.80MPa(ゲージ圧)であった。反応終了後、冷却し、トルエン300.0gおよび水200.0gを添加して、攪拌し、分液した。取得した有機相にヘプタン800.0gを滴下して、析出した結晶を濾過することにより、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−ペンタノン243.0gを得た。得られた1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−ペンタノンの収率は、4’−クロロバレロフェノンに対して90%であった。
【0052】
(実施例3)
内容積1L(リットル)のオートクレーブに、ベンゼンチオール110.2g(1.0モル)、4’−クロロフェニルオクタノン238.8g(1.0モル)、30質量%水酸化ナトリウム水溶液140.0g(1.05モル)、水50.0gおよびポリエチレングリコール#400(質量平均分子量380〜420)25.0gを加えて昇温し、180℃で30時間攪拌した。なお、反応器内部の圧力は0.80MPa(ゲージ圧)であった。反応終了後、冷却し、トルエン300.0g、および水200.0gを添加して、攪拌し、分液した。取得した有機相にヘプタンを800.0g滴下して、析出した結晶を濾過することにより、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−オクタノン271.8gを得た。得られた1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−オクタノンの収率は、4’−クロロフェニルオクタノンに対して87%であった。
【0053】
(比較例1)
非特許文献1の記載に従って、内容積2L(リットル)の四つ口フラスコに乾燥クロロホルム650mL(ミリリットル)および塩化アルミニウム133.3g(1.0モル)を仕込み、0〜10℃に保ちながら、塩化アセチル78.5g(1.0モル)を滴下した。その後、0〜5℃に保ちながら、ジフェニルスルフィド186.3g(1.0モル)を滴下した。滴下後、20℃まで昇温し、同温度で2時間、攪拌した。水を加えて加水分解した後、分液し、取得した有機相にヘプタンを1500.0g滴下し、析出した結晶を濾過することにより、1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−エタノン148.4gを得た。得られた1−(4−フェニルスルファニル−フェニル)−エタノンの収率は、ジフェニルスルフィドに対して65%であった。
【0054】
以上のことから、実施例1〜3は、比較例1よりも高収率でアルカノイルジアリールスルフィド化合物を製造することができることがわかる。また、実施例1〜3は、比較例1のように、塩化アルミニウムを用いなくてもアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得ることができるので、環境への負荷を少なく、工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示し、R,R,RおよびRは、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物と、
式(2);
【化2】

(式中、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ独立し、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐したアルキル基を示す。)
で表されるベンゼンチオール化合物とを、溶媒中、塩基および界面活性剤の存在下に反応させ、
式(3);
【化3】

(式中、R,R,R,RおよびRは、それぞれ式(1)におけるR,R,R,RおよびRと同じ基を示し、R,R,R,RおよびR10は、それぞれ式(2)におけるR,R,R,RおよびR10と同じ基を示す。)
で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得るアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物として、
式(4);
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化アルカノイル化合物を用い、
前記式(2)で表されるベンゼンチオール化合物として、
式(5);
【化5】

で表されるベンゼンチオール化合物を用い、
前記式(3)で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物として、
式(6);
【化6】

(式中、Rは、式(4)におけるRと同じ基を示す。)
で表されるアルカノイルジアリールスルフィド化合物を得る請求項1に記載のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が水である請求項1または2に記載のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が非イオン界面活性剤である請求項1〜3のいずれか1つに記載のアルカノイルジアリールスルフィド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−214401(P2012−214401A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80421(P2011−80421)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】