説明

アルカリホスファターゼ

【課題】免疫学的測定法の標識酵素として試薬中に処方するうえで、又、医療用途において、従来の組み換えアルカリホスファターゼの生産で生じる過剰N型糖鎖付加による高分子量化及び分子の不均一性の問題を克服する。
【解決手段】アルカリホスファターゼ遺伝子中の一部、又は全てのN型糖鎖付加部位に変異を導入することでN型糖鎖付加能を消失させた上で、元のALPと同等の比活性を有し、宿主を問わず過剰N型糖鎖付加を生じない新規な組み換えアルカリホスファターゼを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリホスファターゼに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリホスファターゼ(以下、ALPと略称する。)は、大腸菌から哺乳類にいたる全ての生物で見出される2量体、マグネシウム及び亜鉛含有の非特異的モノエステラーゼ(例えば、非特許文献1参照)であり、大腸菌と哺乳動物との間の相同性が25〜30%を示す等一次構造上高度に相同性があることが報告されている(例えば、非特許文献2及び3参照)。
【0003】
ALPは、分子生物学分野において、遺伝子組み換え実験においてDNAの脱リン酸化に用いたり、ウェスタンブロッティングの抗体の標識等に利用されており、産業分野では、臨床検査の免疫学的方法において標識酵素として用いられている。更に、ALPは、生体内において、栄養吸収の役割を果たすほかにグラム陰性菌由来の毒素を脱リン酸化により解毒する働きが報告されており(例えば、非特許文献4及び5参照)、細菌感染症あるいは敗血症等の治療、診断用途への応用も期待(例えば、特許文献1及び2参照)されている。
【0004】
これらの用途、特に標識酵素としてあるいは治療用途に使用する場合に高い触媒活性を有することが、ALPにおいて魅力的な性質であり、大腸菌由来ALPに比較して哺乳動物ALPは、KcatS値が10〜100倍と高く、哺乳動物ALPは、これらの用途に使用する際に魅力的な酵素である。哺乳動物ALPは、種あるいは発現する器官等によって多くの比活性の異なるアイソザイムが存在することが知られており、これらALPの組み換え発現が、CHO細胞(ウシ腸管ALPの低比活性のもの、例えば、特許文献3及び非特許文献6参照)、COS細胞(ヒト胎盤ALP、例えば、非特許文献7参照)又はバキュロウィルス発現系(ヒト胎盤ALP、例えば、非特許文献8参照)等で報告されている。なかでも子ウシ腸管由来のALPには比活性7000U/mg以上の高比活性を有するアイソザイムが知られており、Biozyme社等から市販されており、一次構造が特定されCHO細胞での発現(例えば、非特許文献9参照)が報告されている。
【0005】
哺乳動物由来の発現系では、細胞内の小胞体・ゴルジ体等の分泌経路において付加された糖鎖をトリミングして適切な形に修正する機能を有するために比較的天然型に近い糖鎖構造が得られる利点があるものの、発現量が少ないため経済性に問題がある。これに対して、高比活性のALPにおいて酵母での発現(例えば、特許文献4参照)が報告されており、発現量は優れているものの、酵母・糸状菌においては過剰にN型糖鎖が付加される傾向が強い(例えば、非特許文献10参照)ため分子量が大きくなったり、分子の均一性に欠ける等の問題が生じる。これらは、蛋白質溶液の粘性を増す等ALPハンドリング上の問題点となったり、免疫学的測定において、ALPの標識後のゲル濾過での精製に支障が生じたり、医療用途ではアレルゲン性等の問題を生じることが危惧される。
【0006】
酵母における過剰N型糖鎖付加に対応し、哺乳動物由来の蛋白質を適切な糖鎖構造で生産する方法は、宿主の酵母の育種が進められており、様々な報告がある(例えば、非特許文献11及び12参照)。しかし、これら酵母の育種による過剰N型糖鎖付加防止策は、酵母の外膜の糖鎖構造にも影響を及ぼしうるので、酵母の生育に悪影響を及ぼす可能性があり、又異なる宿主間での付加される糖鎖の違いが存在するため、同一の蛋白質遺伝子を異なる宿主で発現させる場合の発現蛋白質の同一性が担保できないという問題がある。
【0007】
発現させる蛋白質遺伝子に変異を導入して、N型糖鎖付加量を減少させる、若しくは糖鎖付加をなくすことは、N型糖鎖付加モチーフが、Asn-Xaa-Ser/Thrであることが一般に知られており、本モチーフに部位特異的変異を導入して糖鎖付加を生じなくすることは、原理的には可能である。しかし、一般に糖鎖は細胞内の蛋白質輸送及び分泌、高次構造形成あるいは細胞内輸送過程での蛋白質品質管理に重要な役割を果たしていることが知られており、実際にN型糖鎖付加モチーフに部位特異的変異を導入して本来の機能を有する組み換え蛋白質を生産可能であるかどうかは保証されない。
【0008】
【非特許文献1】McComb等,Alkaline Phosphatases Plenum Press,New york(1979)
【非特許文献2】Millan,Anticancer Res.,8,995-1004(1988)
【非特許文献3】Harris,Clin.Chim.Acta,186,133-150(1989)
【非特許文献4】Poelstra等,American J.Pathology,151,No.4,1163-1169(1997)
【非特許文献5】Beumer等,J.Pharmacology and Experimental Therapeutics,307,No.2,737-744(2003)
【非特許文献6】Weissig等,Bioche.J.,260,503-508(1993)
【非特許文献7】Berger等,Biochemistry,84,4885-4889(1987)
【非特許文献8】Davis等,Biotechnology,10,1149-1150(1992)
【非特許文献9】Manes等,J. Biol.Chem.,273 No. 36,23353-23360(1998)
【非特許文献10】Dean,Biochim.Biophys.Acta,1426,309-322(1999)
【非特許文献11】新間等,Bio.Industry,20,No.1,33-49(2003)
【非特許文献12】Vervecken等,Appl.Environ.Microbiol.,70,No.5,2639-2646(2004)
【特許文献1】特表平9−502342号公報
【特許文献2】特表2002−533679号公報
【特許文献3】国際公開第93/18139号パンフレット
【特許文献4】特許第3657895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、発現させる蛋白質、即ちALPのN型糖鎖付加能を部分的に、又は完全に消失させたうえで、元のALPと同等の比活性を有する変異型ALPが得られる方法を提供し、宿主を問わず、過剰N型糖鎖付加を生じない組え換えALPを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者等は、前記課題の解決のために鋭意研究を重ねた結果、真核生物由来のALPの持つN型糖鎖付加モチーフの一部、又は全てに変異を導入し、該当モチーフのN型糖鎖付加能を消失させた上で、元の比活性、安定性を保持するALPを開発することに成功し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)真核生物組織由来の組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体であって、N型糖鎖付加部位又はN型糖鎖付加モチーフの一部若しくは全てに変異を有し、該糖鎖付加部位にN型糖鎖が結合しなくなるために、アルカリホスファターゼ全体の糖鎖付加量が減少したことを特徴とするアルカリホスファターゼ。
(2)組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体の比活性が5,000U/mg以上である項目(1)記載のアルカリホスファターゼ。
(3)組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体の比活性が7,000U/mg以上である項目(1)記載のアルカリホスファターゼ。
(4)真核生物組織が哺乳動物組織であり、N型糖鎖付加モチーフのうち、1〜3箇所に変異を有し糖鎖付加能を失ったために、アルカリホスファターゼ全体の糖鎖付加量が減少したことを特徴とする項目(1)、(2)又は(3)記載のアルカリホスファターゼ。
(5)哺乳動物組織がウシ小腸であり、変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフが配列番号1のAsn141Thr142Thr143、Asn268Arg269Thr270及びAsn429Gly430Ser431のうちの1〜3箇所である項目(4)記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
(6)変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフの変異がAsnからGln又はLysへの置換である項目(4)又は(5)記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
(7)配列番号1のAsn268Arg269Thr270の変異がAsn→Asp、Asn→His又はThr→Cysである項目(4)又は(5)記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
(8)変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフが配列番号1のAsn141Thr142Thr143及びAsn429Gly430Ser431の1〜2箇所である項目(4)、(5)又は(6)記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵母・糸状菌等の宿主においてもN型糖鎖付加量が少ないために、免疫学的測定法の標識酵素として試薬中に処方するうえで標識後の分離精製が容易であり、医療用途においても分子の均一性、アレルゲン性のうえで危険性の少ないことが期待できるALPが安価に提供され、産業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のALP(以下、本発明ALPと略称する。)とは、真核生物組織由来の組み換えALPの突然変異体であって、アミノ酸配列中に保持するN型糖鎖付加部位又はN型糖鎖付加モチーフの一部若しくは全てに変異を有し、該糖鎖付加部位にN型糖鎖が結合しなくなるために、ALP全体の糖鎖付加量が減少したALPである。
【0014】
このように本発明ALPは、その理化学的性質において、公知の何れの真核生物由来ALPとも異なっており、新規なALPである。従って、標識処理後の分離性能が優れた標識用酵素として免疫学的測定法キット試薬中に処方することが可能であり、又医療用途においても分子の均一性、アレルゲン性の危険性が少なく、本用途において実用化の期待が大きい。
【0015】
次に、本発明ALP及び本発明ALPをコードする遺伝子の取得方法について説明する。
本発明ALPは、微生物、動物あるいは植物起源の酵素を探索して、自然界より得ることができる。更に、遺伝子工学的技術あるいは変異処理等の方法を用い、本発明酵素と異なる理化学的性質を有するALP(以下、性質を異にするALPと略称する。)を改変することにより、本発明ALPを得ることもできる。本発明でいう性質を異にするALPとしては、先に述べた既知のALP等が挙げられ、新たに探索して得られたALPあるいは遺伝子工学的技術により改変して得られたALP等でもよい。例えば、既知のALPとしては、ヒト、ラット、マウス等の哺乳類あるいはエビ等、広く真核生物の肝臓、胎盤等各種臓器由来のALPが挙げられ、好ましくは、ウシ(Bos taurus)小腸由来の高比活性型ALP〔BIAPII;Manes等,J.Biol.Chem., 273,No.36,23353-23360(1998)記載〕等が挙げられる。上記ALPは、シグナル配列を有する分泌蛋白質であり、本来のシグナル配列を残したまま用いてもよく、宿主ベクター系由来のシグナル配列を利用してもよい。
【0016】
本発明に用いる、性質を異にするALPをコードする遺伝子を得るには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、性質を異にするALP生産能を有する微生物菌体あるいは種々の細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNA又はmRNAを抽出する。更にmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。
このようにして得られた染色体DNA又はcDNAのライブラリーを作製する。
次いで、上記性質を異にするALPのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNA又はcDNAのライブラリーからスクリーニングする方法あるいは上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法あるいは3’RACE法等の適当なポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)により、目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらを連結させて全長の目的遺伝子を含むDNAを得ることができる。
【0017】
このようにして得られた性質を異にするALPをコードする遺伝子の好ましい一例として、ウシ小腸由来のALP遺伝子〔BIAPI;国際公開第93/18139号パンフレット又はWeissig等,Bioche.J.260,503-508(1993)〕を高比活性型(BIAPII)に部位特異的変異等により改変したもの等が挙げられる。又、ウシ小腸由来ALPを特に高比活性化する要因として配列番号1及び配列番号3において341番目の位置に相当するアミノ酸のアラニン、スレオニン、バリン、セリン特に好ましくはグリシンへの置換が報告されており〔特開平11-332586号公報又はManes等,J.Biol.Chem.,273,No.36, 23353-23360(1998)〕、こうした変異型ALP遺伝子の使用も可能である。又、ウシ小腸由来ALPのアミノ酸配列は公開されていることから、全アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドをDNAシンセサイザーにより合成して、相補鎖を会合させたうえでライゲーションして全長遺伝子を得ることもでき、全遺伝子中の一部分を合成したポリヌクレオチドを用い、部分的に相補鎖を会合させ、相補しあう部分をポリメラーゼで増幅し、全長遺伝子を得ることもできる。更に、これらの方法を部分的に組み合わせて用いることも可能である。これらの遺伝子は、常法通り各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましく、例えば、単離したウシ小腸由来の性質を異にするALPをコードする遺伝子を含む組み換え体プラスミドpNBIAPII DNAから、例えば、QIAGEN(キアゲン社製)を用いることにより、抽出、精製して得られる。なお、本発明において用いることのできるベクターDNAとしては、上記プラスミドベクターDNAに限定されることなくそれ以外の、例えば、プラスミドベクターDNA、バクテリオファージベクターDNA等を用いることができる。具体的には、例えば、pKF19k(タカラバイオ社製)、pBluescriptII SK+ (STRATAGENE社製)等が好ましい。
【0018】
次に、上記の方法で得られた性質を異にするALPをコードする遺伝子を改変することにより、本発明ALPを得ることができる。すなわち、本発明においては、性質を異にするALPをコードする遺伝子が改変されることにより、その遺伝子により翻訳される性質を異にするALPのアミノ酸配列が改変される。その結果、本発明ALPを含む、改変前の性質を異にするALPと種々の性質の異なるALPが得られる。
【0019】
改変に用いる性質を異にするALPをコードする遺伝子は特に限定されず、本発明の一実施態様として、ウシ小腸由来の性質を異にするALPをコードした遺伝子(配列番号4)あるいは合成遺伝子(配列番号2)等を挙げることができる。更に、この遺伝子を宿主生物で発現させるのに適したようにアミノ酸残基を付加、欠失若しくは置換しないように、又は付加、欠失若しくは置換するように塩基配列を改変したものも挙げることができる。又、上記の遺伝子のカルボキシル末端部分に複数のアミノ酸配列が付加したものであってもよく、この場合、本来のALP活性を損なわないことが重要である。
【0020】
上記遺伝子を改変する方法としては、既知の如何なる方法でも用いることができ、例えば、前記の組み換え体プラスミドpNBIAPII DNAに、ハイドロキシルアミン、亜硝酸等の化学変異剤を接触させる方法、又はPCR法を用いてランダム若しくは部位特異的に変換する等の点変異方法、市販のキットを使用する部位特異的な置換又は欠失変異を生じさせるための周知技術である部位特異的変異誘導法、この組み換え体プラスミドDNAを選択的に開裂し、次いで、選択されたオリゴヌクレオチドを除去又は付加し、連結する方法、すなわちオリゴヌクレオチド変異誘導法等が挙げられる。これらの変異導入方法は、Asn-Xaa-Thr/SerのN型糖鎖付加モチーフに変異を導入することで、該糖鎖付加部位での糖鎖付加が起こらなくなるものであれば、どのような方法であってもよい。次いで、上記処理後の組み換え体DNAを脱塩カラム、QIAGEN(キアゲン社製)等を用いて精製し、種々の組換え体DNAを得る。この際、pNBIAPII DNAのアルカリホスファターゼのアミノ末端側のシグナル配列をコードする塩基配列を除去し、代わりに宿主由来あるいは任意のシグナル配列をコードした組み換え体DNAに交換したり、アミノ末端側をコードした塩基配列を酵母・糸状菌等の宿主生物で発現させるのに適した配列に置換した組み換え体DNAを用いてもよい。又、ランダムに変異を導入する場合には、アミノ酸配列のC末端にHis−tag配列等を連結して、精製を容易にすることにより本発明ALP生産株の選抜を容易にすることもできる。
【0021】
このようにして得られた種々の組み換え体DNAを用いて、例えば、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、更に好ましくは分裂酵母Schizosaccharomyces pombe等の酵母細胞を形質転換又は形質導入し、種々の改変されたALP遺伝子断片を保有する組み換え体DNAを含む形質転換体又は形質導入体を得ることができる。この際、変異導入方法が、Asn-Xaa-Thr/SerのN型糖鎖付加モチーフに部位特異的変異を導入することにより、N型糖鎖付加を生じなくする変異であるならば、得られた形質転換体のうち、元の宿主と比較してALP活性が顕著に上昇しているものが、目的の本発明の宿主を問わず過剰N型糖鎖付加を生じない形質転換体(本発明ALP生産株)である。得られた形質転換体のALP活性の上昇を調べるには、例えば、次のように行うことができる。マグネシウム及び亜鉛添加YPDG10培地〔1%酵母エキス(オリエンタル酵母社製)、2%トリプトン(OXOID社製)、2%グルコース(和光純薬社製)、10μgG418sulfate(CALBIOCHEM社製)、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛〕10mlに得られた形質転換体を接種し、温度20〜42℃、好ましくは約30℃で10〜80時間振とうしながらインキュベートする。次いで、培養液を回収し、リゾチーム、EDTA等の薬剤、超音波、マルチビーズショッカー等により菌体を破壊し、遠心等により菌体破砕上清を得る。得られた菌体破砕上清を使用して、形質転換体破砕上清の活性を測定し、元の宿主のALP活性との比較により目的とする本発明の宿主を問わず過剰N型糖鎖付加を生じない形質転換体(本発明ALP生産株)を取得することができる。
【0022】
このようにして本発明ALP生産能を有する形質転換体を得ることができる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するウシ小腸由来ALP BIAPIIについて、上記改変方法を用いて得られた、配列番号1の141番目のAsnがGlnに、429番目のAsnがGlnに置換されたアミノ酸配列を含む本発明ALPあるいは配列番号1の141番目のAsnがLysに、429番目のAsnがGlnに置換されたアミノ酸配列を含む本発明ALP等を挙げることができる。すなわち本発明においては、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むALP及び配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列を含むALP等も本発明ALPに含まれる。また、このようにして得られた本発明ALPを生産する形質転換体の一例としては、配列番号1の141番目のAsnがGlnに、429番目のAsnがGlnに置換されたアミノ酸配列を含む本発明ALPをコードする遺伝子を保持するpRI0NBIAPIIΔ13を保持した酵母を挙げることができる。
【0023】
又、本発明遺伝子の一例として、上記した本発明ALP遺伝子を挙げることができる。配列番号1の141番目のAsnがGlnに、429番目のAsnがGlnに置換されたアミノ酸配列はプラスミドpNBIAPIIΔ13上の遺伝子配列にコードされており、本プラスミドpNBIAPIIΔ13は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM ABP−10626として寄託されている。
【0024】
次に、本発明ALP生産能を有する微生物を培地に培養し、培養物より該ALPを採取することにより本発明ALPを製造する。本発明ALP生産能を有する微生物であれば、いかなる微生物も本発明ALPの製造に用いることができる。例えば、上記のようにして得られた本発明ALP生産能を有する形質転換体又は形質導入体等が挙げられる。例えば、本発明ALP生産能を有する酵母、好ましくはSaccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Candida属、Pichia属又はHansenulla属に属する形質転換株を用いて本発明ALPを生産することができる。上記微生物を培養するには、固体培養法で培養してもよく、液体培養法を採用して培養するのがより好ましい。又、上記微生物を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆若しくは小麦麹の浸出液等の1種以上の窒素源に、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化コバルト若しくは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。又、培養は、20〜37℃、好ましくは30℃前後で10〜80時間、通気攪拌深部培養、振とう培養等により実施するのが好ましい。培養終了後、該培養物より本発明ALPを採取するには、通常の酵素採取手段を用いることができる。培養液から、例えば、濾過、遠心分離等の操作により菌体を分離し、洗菌する。この菌体から本発明ALPを採取することが好ましい。この場合、菌体をそのまま用いることもでき、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル等の種々の破壊手段を用いて菌体を破壊する方法、リゾチームの如き細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法、トリトンX−100等の界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出する方法等により、菌体から本発明ALPを採取するのが好ましい。
【0025】
このようにして得られた粗酵素液から本発明ALPを単離するには、通常の酵素精製に用いられる方法が使用できる。例えば、硫安塩析法、有機溶媒沈殿法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲル濾過クロマトグラフ法、吸着クロマトグラフ法、電気泳動法等を適宜組み合わせて行うことが好ましい。このようにして、本発明ALPを、SDS−PAGE的にほぼ単一のバンドを示すまでに単離することができる。又、上記精製方法を適宜組み合わせて、用途に応じた精製度合の異なる酵素標品を調整することもできる。
【0026】
本発明ALPの酵素活性の測定方法としては、酵素の反応により変換される基質の発色量の増減を測定する方法等が主な測定方法として挙げられる。以下に、一例として、p-ニトロフェニルリン酸の変換により生じるp-ニトロフェノールの吸光度増加を測定する方法について示す。なお、酵素力価は、p-ニトロフェニルリン酸を基質として測定したとき、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを生成する酵素量を1Uと定義した。
A.試薬の調製
(1)試薬1:1.0M MgCl溶液
2.03gのMgCl・6HOをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
(2)試薬2:ジエタノールアミン(DEA)バッファー(用事調製)
52.2g DEA(Sigma社製)を400mlイオン交換水に溶解し、 0.25ml MgCl溶液(試薬1)を加える。その後、37℃に暖めてから,2N HClでpH9.8に調整し、イオン交換水で500mlに定容する。
(3)試薬3:0.65M p-ニトロフェノールリン酸溶液
247mg p-ニトロフェノールリン酸(Sigma社製)を1mlのイオン交換水に溶解する。
(4)酵素希釈液
活性測定値が、0.10〜0.20U/mlになるようにDEAバッファー(試薬2)で希釈する。
B.測定法
2.90mlのDEAバッファー(試薬2)と0.05mlのp-ニトロフェノールリン酸溶液(試薬3)を混和し、37℃で5分加温する。その後、0.05mlの酵素希釈液を添加し、混合の後、分光光度計(U−3010、日立社製)により、405nmにおける吸光度を測定する。測定値(ΔODtest)は、405nmにおける2分後から4分後の1分間あたりの吸光度変化とする。なお対照液(ΔODblank)は、酵素液の代わりに0.05mlのDEAバッファーを加える以外は前記と同様にしたものである。下記の計算式に従い、算出した値を酵素活性値(U/ml)とした。

ΔOD/min(ΔODtest−ΔODblank)×3(ml)×希釈倍率
U/ml= ――――――――――――――――――――――――――――――
18.2×1.0×0.05(ml)

18.2:上記の測定条件下でのミリモル分子吸光係数(cm2/micromole)
1.0:光路長(cm)
【0027】
以下に、実施例により本発明を詳述する。
【実施例1】
【0028】
(A)ウシ小腸由来ALP遺伝子のクローニング
(1)ウシ小腸からのRNA取得
ウシの小腸〔東京芝浦臓器社より購入〕を5mm幅程度に切り取り、液体窒素中で凍結させた後、凍結状態のまま乳鉢中で破砕した。約100mgの破砕したウシ小腸片を1mlのEASYPrepRNA(タカラバイオ社製)を加え、滅菌済み遠心チューブに移し、ホモジェナイザーにホモジェナイズした後、室温で5分間静置した。その後、クロロホルムを添加し、20秒間強く振った後、室温で10分間静置した。次いで、14000rpm、15分間、4℃にて遠心し、3層に分かれたうちの上層の水層のみを回収し、新しい滅菌済み遠心チューブに移した。そこに1mlのイソプロパノールを加え混合した後、室温で10分間静置した。それから14000rpm、15分間、4℃にて遠心し、沈殿を回収する。この沈殿がRNAであり、これを75%冷エタノールで洗った後、風乾した。これを0.2mlのDEPC処理済みの滅菌イオン交換水に懸濁し、RNA試料とした
【0029】
(2)ウシ小腸由来ALP cDNA取得
RT−PCRは、Ready-to-Go RT−PCR Beadsキット(アマシャム社製)を使用した。反応は、キットの取扱説明書に従い実施し、ALP cDNA増幅にALPNFプライマー(配列番号5)及びALPNRプライマー(配列番号6)を使用し、ALPのcDNAが全長取得できるようにした。その結果、アガロースゲル電気泳動で、1.5kbpに相当する大きさのDNA断片の増幅が確認できた。このようにして得たDNA断片を制限酵素NdeI(第一化学薬品社製)で処理した後、プラスミドpKF19kを同じくNdeIで処理した後、BAP処理(タカラバイオ社製)により脱リン酸化を行ったものと混合し、Ligation Kit ver.2(タカラバイオ社製)を利用しライゲーションし、D.M.Morrisonの方法〔Method in Enzymology,68,326〜331,(1979)〕に従って大腸菌JM109(東洋紡社製)を形質転換した。形質転換株を夫々カナマイシン含有LB培地20mlで37℃で20時間振とう培養し、培養物を7000rpmで5分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体よりQIAGEN tip−100(キアゲン社製)を用いて組み換え体プラスミドDNAを抽出して精製し、組み換え体プラスミドDNAを100μg得た。回収したプラスミドをCEQ2000XL DNA解析システム(ベックマンコールター社製)を用いて塩基配列を決定したところ、プラスミドpKF19k上に組み込まれたcDNAは配列番号4に示される塩基配列を有していることが分かった。それを元に改変されたアミノ酸残基の同定を行ったところ、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有していた。このようにして作製したプラスミドをpALPと命名した。
【実施例2】
【0030】
(B)高比活性型ALP遺伝子(BIAPII)の作製
(1)アミノ末端側塩基配列を改変した組み換え体プラスミドpNALPの調製
配列番号7〜10に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをシグマジェノシス社の受託合成サービスにより入手した。尚、配列番号7〜10では、アミノ末端のコドンユセージを改善すると同時に、配列番号3の21番目をバリンからイソロイシンへ、23番目をバリンからアラニンへ、27番目をアスパラギン酸からアスパラギンへ改変するようにデザインした。配列番号7〜10の夫々をT4 Polynucleotide kinase(タカラバイオ社製)を用いてリン酸化した。一方、配列番号4を有するpALP DNAを鋳型とし、配列番号6及び51をプライマーとしてEx Taq polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR反応を行い、C末端側をコードする遺伝子断片を調製した。更に、本断片をNdeI及びBiamHI(第一化学薬品社製)で処理した。更に、pKF19kDNAをNdeIで処理した後、BAP処理(タカラバイオ社製)により脱リン酸化を行った。このようにして得られたリン酸化オリゴヌクレオチドのうち、4本のリン酸化オリゴヌクレオチド、pALPDNA由来遺伝子断片及びpKF19k断片を適量混合し、Ligation Kit ver.2(タカラバイオ社製)を利用しライゲーションし、得られたプラスミドをpNALPと命名した。次いで、実施例1(A)(2)に記載の方法によりpNALP DNAを100μg調製した。
【0031】
(2)部位特異的変異による高比活性型アミノ酸配列を有したALPをコードする遺伝子の作製
pNALP DNAに配列番号11及び12(配列番号3の141番目をリジンからアスパラギンに置換するようにデザインされている)の配列をプライマーとしてKOD plus polymerase(東洋紡社製)を用いて、PCR反応を行った後、アガロースゲル電気泳動にてプラスミドの全長に相当するDNA断片の増幅を確認し、制限酵素DpnI(メチル化したDNAに作用する;第一化学薬品社製)で処理した後、大腸菌JM109に形質転換し、カナマイシンを添加したLB寒天培地で選択した。生育してきたコロニーをカナマイシン入りの液体培地で培養し、ALP遺伝子を有するプラスミド100μgを回収し、塩基配列を確認し目的どおりの変異が導入されていることを確認した。
【0032】
次いで、得られたプラスミドを鋳型として、配列番号13及び14(配列番号3の152番目をメチオニンからイソロイシンに置換するようにデザインされている)の配列をプライマーとしてKOD plus polymerase(東洋紡社製)を用いて、PCR反応を行った後、アガロースゲル電気泳動にてプラスミドの全長に相当するDNA断片の増幅を確認し、制限酵素DpnI(メチル化したDNAに作用する;第一化学薬品社製)で処理した後、大腸菌JM109に形質転換し、カナマイシンを添加したLB寒天培地で選択した。生育してきたコロニーをカナマイシン入りの液体培地で培養し、ALP遺伝子を保持するプラスミド100μgを回収し、塩基配列を確認し目的通りの変異が導入されていることを確認した。以降、表1に基づいて順次、部位特異的変異を導入することで、高比活性型ALP遺伝子をコードしたプラスミドpNBIAPIIを得た。次いで、実施例1(A)(2)に記載の方法によりpNBIAPII DNAを100μg調製した。なお、pNBIAPIIは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM ABP−10625として寄託されている。
【0033】
【表1】

【実施例3】
【0034】
(C)N型糖鎖付加部位改変型ALP(本発明ALP)遺伝子の作製
単一突然変異体Asn141Glnを生成するために、配列番号2の遺伝子配列を有するpNBIAPIIをテンプレートとし、配列番号52及び配列番号53のオリゴDNAをプライマーとして、KOD−plus−polymerase(東洋紡社製)を用いてPCR反応を行った。PCR反応終了後、アガロースゲル電気泳動によりプラスミドの全長に相当するDNAの増幅を確認し、DpnIで処理して、テンプレートとしたpNBIAPIIを切断して、変異型pNBIAPIIを取得した。ここで取得した変異型pNBIAPIIをpNBIAPIIΔ1と命名した。pNBIAPIIΔ1を用いて、大腸菌JM109株(東洋紡社製)を形質転換し、カナマイシンを添加した液体培地で培養して、pNBIAPIIΔ1を保有する形質転換体を得た。この形質転換体を培養し、プラスミドを抽出して塩基配列を確認し、目的通りの変異が導入されていることを確認した。以降、表2に基づいて順次、部位特異的変異を導入することで、各種のN型糖鎖付加部位改変型ALP遺伝子をコードした変異型pBIAPII及びそれらを保持する形質転換体を得た。このうち、pNBIAPIIΔ13は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにFERM ABP−10626として寄託されている。
【0035】
【表2】


【実施例4】
【0036】
(D)組み換えALP(本発明ALP)生産酵母の作製
(1)pRI0NBIAPIIの構築
組み換えALP(本発明ALP)生産酵母を作製するために、N型糖鎖付加部位改変型ALPをコードする遺伝子を変異型pNBIAPIIから切り出し、酵母中で自律複製可能なベクターであるpRI0M(特開平11−192094号公報)へと導入する操作を行った。pNBIAPIIΔ1をテンプレートとし,配列番号66及び配列番号67に示すオリゴDNAをプライマーとして、KOD−plus−polymerase(東洋紡社製)を用いてPCR反応を行い、本発明ALPをコードする遺伝子及びそのシグナル配列を含むDNA断片を増幅させた。その結果、アガロースゲル電気泳動で、1.5kbpに相当する大きさのDNA断片の増幅が確認できた。このようにして得たDNA断片を制限酵素SmaI及びKpnI(NEW ENGLAND社製)で処理した後、プラスミドpRI0Mを同様にSmaI及びKpnIで処理し、Ligation Kit ver.2(宝酒造社製)を利用しライゲーションし、大腸菌JM109(東洋紡社製)を形質転換した。アンピシリンを添加したLB培地20mlで形質転換株を37℃、20時間振とう培養し、培養物を7000rpmで5分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体より組み換え体プラスミドDNAを抽出して精製し、組み換え体プラスミドDNAを100μg得た。取得した本発明ALP誘導発現プラスミドベクターをpRI0NBIAPIIΔ1と命名した。以降、作製した変異型pNBIAPII全てにおいて同様の操作を行い、本発明ALP誘導発現ベクターを作製した。
【0037】
(2)Schizosaccharomyces pombeの形質転換
作製した本発明ALP誘導発現ベクターpRI0NBIAPIIΔ1及び導入ベクターpAL7を用いて、特開平11−192094号公報記載の方法でSchizosaccharomyces pombeの形質転換体を作製し、そのグリセロールストックを作製した。以降作製した各種の本発明ALP誘導発現ベクターの全てを用いて同様の操作を行い、各種の本発明ALP生産酵母を16種類作製した。
【実施例5】
【0038】
(E)組み換えALP(本発明ALP)生産酵母によるALPの生産
マグネシウム及び亜鉛添加YPDG10培地〔1%酵母エキス(オリエンタル酵母社製)、2%トリプトン(OXOID社製)、2%グルコース(和光純薬社製)、10μgG418sulfate(CALBIOCHEM社製)、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛〕10mlに各種の本発明ALP生産酵母のグリセロールストックを接種し、30℃で70時間振とうしながらインキュベートした。次いで、培養液を回収し、マルチビーズショッカー(安井器械社製)により菌体を破砕した。得られた菌体破砕上清を使用して活性試験を行い、各種の本発明ALP生産酵母菌体破砕上清の活性を評価した。その結果を表3に示した。
【0039】
【表3】


【実施例6】
【0040】
(F)組み換えALP(本発明ALP)の精製
上記のようにして得られた本発明ALPを生産する形質転換体、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を三角フラスコ中の10μg/ml G418 Sulfate(Calbiochem社製)入り0.5%酵母エキス、3.0%グルコース培地100mLに植菌し、攪拌速度140rpmの条件で、30℃、48時間攪拌培養し、得られた培養液を10μg/ml G418 Sulfate(Calbiochem社製)、1.0%酵母エキス、2.0%ポリペプトン、2.0%グルコース、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛の培地20Lに植菌し、ジャーファーメンターを用いて、通気量0.5L/min、攪拌速度400rpmの条件で、30℃、60時間攪拌培養した。3000rpm、5分間遠心分離して集菌し、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛を含有した10mM トリス緩衝液(pH7.0)1Lに懸濁した。
【0041】
次いで、高圧ホモジェナイザーにより菌体を破砕し、5,000rpm、10分間の遠心により上清を回収し、粗酵素液とした。その後、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛を含有した10mM トリス緩衝液(pH7.0)で平衡化した1000mlのQAE−Sephadex A−50(アマシャム社製)に懸濁し、ろ液と1000mlの5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛を含有した10mM トリス緩衝液(pH7.0)で洗いこんだものを活性画分として回収する。これを限外膜AIP−1010(旭化成ファーマ社製)で500mlに濃縮した後、pH8.0にトリスを添加することで調整した。5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH8.0)で平衡化した500mLのQ−Sepharose Fast Flow(アマシャム社製)カラムクロマトグラフィーに試料を吸着させた後、1Lの5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH8.0)で洗浄した。その後、2.5Lの5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH8.0)と2.5Lの100mMの塩化カリウム、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH8.0)のグラジェントにより、ALP活性画分を溶出した。これを限外膜AIP−1010で5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)に透析し、300mLに濃縮した。その後、終濃度20%になるように硫酸アンモニウムを添加し、20%硫酸アンモニウム、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)で平衡化した300mLのTOYOPEARL Butyl650Cカラムクロマトグラフィー(東ソー社製)に吸着させ、1.5Lの20%硫酸アンモニウム、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)1.5Lの20%硫酸アンモニウム、5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)と1.5Lの5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)のグラジェントによりALP活性画分を溶出した。その後、ALP活性画分を限外膜AIP−1010で5mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛含有10mM トリス緩衝液(pH7.0)に透析し、300mLに濃縮し、CentriprepYM−10(ミリポア社製)により10ml程度まで濃縮した。精製した本発明ALPを常法により、マルチゲル10/20(第一化学薬品社製)を用いたSDS−PAGE法に供し、クマシーブルー染色を行ったところ、図1に示す結果となった。
【実施例7】
【0042】
(G)組み換えALP(本発明ALP)の比活性の測定
本発明ALP試料の活性を測定し、蛋白質量をOD280の吸光度及びDC protein assay(Bio−Rad社製)により求めた。その活性及び蛋白質量から比活性を算出したところ、表4に示す結果となった。
【0043】
【表4】

【実施例8】
【0044】
(H)組み換えALP(本発明ALP)の分子量測定
本発明ALP試料をゲルろ過に供し、分子量を測定した。TSL−GEL G3000SWXL(東ソー社製)をHPLC8020システム(東ソー社製)に装着し、100mM NaCl含有100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で測定したところ、表5に示した通りであった。又、本発明ALPのゲルろ過のパターンは、図2から図7に示すとおりであった。
【0045】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明ALPのSDS−PAGE分析を示す図。
【図2】組み換え体ALP(BIAPII,分泌)のゲルろ過分析を示す図。
【図3】組換え体ALP(BIAPII,菌体内残留)のゲルろ過分析を示す図。
【図4】本発明ALP(BIAPIIにN141K変異を生じたもの)のゲルろ過分析を示す図。
【図5】本発明ALP(BIAPIIにN141Q、N429Q変異を生じたもの)のゲルろ過分析を示す図。
【図6】本発明ALP(BIAPIIにN141K、N429Q変異を生じたもの)のゲルろ過を示す図。
【図7】ウシ由来ALPのゲルろ過分析を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物組織由来の組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体であって、N型糖鎖付加部位又はN型糖鎖付加モチーフの一部若しくは全てに変異を有し、該糖鎖付加部位にN型糖鎖が結合しなくなるために、アルカリホスファターゼ全体の糖鎖付加量が減少したことを特徴とするアルカリホスファターゼ。
【請求項2】
組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体の比活性が5,000U/mg以上である請求項1記載のアルカリホスファターゼ。
【請求項3】
組み換えアルカリホスファターゼの突然変異体の比活性が7,000U/mg以上である請求項1記載のアルカリホスファターゼ。
【請求項4】
真核生物組織が哺乳動物組織であり、N型糖鎖付加モチーフのうち、1〜3箇所に変異を有し糖鎖付加能を失ったために、アルカリホスファターゼ全体の糖鎖付加量が減少したことを特徴とする請求項1、2又は3記載のアルカリホスファターゼ。
【請求項5】
哺乳動物組織がウシ小腸であり、変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフが配列番号1のAsn141Thr142Thr143、Asn268Arg269Thr270及びAsn429Gly430Ser431のうちの1〜3箇所である請求項4記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
【請求項6】
変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフの変異がAsnからGln又はLysへの置換である請求項4又は5記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
【請求項7】
配列番号1のAsn268Arg269Thr270の変異がAsn→Asp、Asn→His又はThr→Cysである請求項4又は5記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。
【請求項8】
変異を有することでN型糖鎖付加能を失ったN型糖鎖付加モチーフが配列番号1のAsn141Thr142Thr143及びAsn429Gly430Ser431の1〜2箇所である請求項4、5又は6記載のアルカリホスファターゼ、又は上述のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むアルカリホスファターゼ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−5734(P2008−5734A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177820(P2006−177820)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】