説明

アルカリ蓄電池及びこのアルカリ蓄電池を用いたアルカリ蓄電池システム

【課題】アルカリ蓄電池を充放電せずに長期間放置すると、充電電圧が高電圧側にシフトし、アルカリ蓄電池のSOCが上限に達したと部分充放電制御回路が誤判定しやすくなるという課題を解決する。
【解決手段】水酸化ニッケルを主正極活物質とする焼結式ニッケル正極及び負極を、セパレータを介して積層した電極群をアルカリ電解液と共に容器に収容したアルカリ蓄電池であって、水酸化ニッケルは、イットリウムを6〜10mol%含んでおり水酸化ニッケルのc軸長が常時4.65Å以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)等の車両用途に適したアルカリ蓄電池及びこのアルカリ蓄電池を用いたアルカリ蓄電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
HEV等に用いられるアルカリ蓄電池は、蓄電池システムの電源として使用されるのが一般的である。蓄電池システムは、複数の電池が直列接続されたモジュールとこれに接続される充放電制御回路等で構成されており、電池の充放電が、充放電制御回路によって部分充放電制御(例えば、充電深度(SOC)が所定の範囲においてのみ、充放電が行われる充放電制御方式)される。
【0003】
ところで、アルカリ蓄電池が部分充放電制御される場合、メモリー効果が発生することが確認されている。メモリー効果とは、アルカリ蓄電池の充電電圧が高電圧側にシフトするとともに、放電電圧が低電圧側にシフトする現象のことであり、メモリー効果が発生すると、部分充放電制御回路が、アルカリ蓄電池のSOCが、上下限に達する前に、上下限に達したと誤判定しやすくなるという問題が生じる。これは、部分充放電制御回路が、初期における充放電時の電池電圧でもってSOCを管理しているので、例えば、充電曲線が高電圧側にシフトすると、少ない電気量を充電した時点でSOCの上限に到達したと誤判定するからである。
【0004】
これまでにメモリー効果を抑制する手段として、様々な方法が提案されているが、中でもアルカリ蓄電池の正極合剤中に含有される亜鉛の添加量を低減し、アルカリ電解液の濃度を7mol/Lよりも低濃度にするとともに、このアルカリ電解液中に含有されるリチウム量を増大させるという方法が、メモリー効果を抑制する有効な手段として位置付けられている。(特許文献1)
【0005】
【特許文献1】特開2009-087632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構成のアルカリ蓄電池でもってしても、アルカリ蓄電池を充放電せずに放置すると、後に部分充放電を行う際に充電電圧が高電圧側にシフトするというメモリー効果に似た現象が生じ、部分充放電制御回路がアルカリ蓄電池のSOCが上下限に達したと誤判定しやすくなるという問題が生じることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池は、水酸化ニッケルを主正極活物質とする焼結式ニッケル正極及び負極を、セパレータを介して積層した電極群をアルカリ電解液と共に容器に収容したアルカリ蓄電池であって、水酸化ニッケルは、イットリウムを6〜10mol%含んでおり、水酸化ニッケルのc軸長が常時4.65Å以上であることを特徴とする。
【0008】
また、焼結式ニッケル正極は、タングステンまたはニオブから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいるのが好ましい。
【0009】
さらに、上記本発明のアルカリ蓄電池は、充放電制御手段によって、部分充放電制御されているアルカリ蓄電池システムを構成するのに好適である。
【0010】
この場合、部分充放電制御は、アルカリ蓄電池が、SOCが20〜80%の範囲でのみ、充放電がされるようになされているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成のアルカリ蓄電池であると、放電状態での放置によってアルカリ蓄電池の充電電圧が高電圧側にシフトして、部分充放電制御回路がアルカリ蓄電池のSOCが上限に達したと誤判定しやすくなるという問題が解決される。具体的には、アルカリ蓄電池を充放電せずに放電状態で放置すると、正極活物質である水酸化ニッケルの結晶格子のc軸方向の層間隔が収縮して小さくなることによって、アルカリ蓄電池の充電電圧が高電圧側にシフトするが、上記構成のアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極であると、水酸化ニッケルの結晶格子のc軸方向の層間隔があらかじめ伸張した状態となることで放置による収縮が抑制されるので、アルカリ蓄電池の充電電圧の高電圧側へのシフトが抑制されるからである。
【0012】
このように、水酸化ニッケルの結晶格子のc軸方向の層間隔の収縮が抑制されるのは、正極活物質である水酸化ニッケルに添加されたイットリウムの静電作用により、水酸化ニッケルの結晶の層間内に活性化工程などで取り込まれた水等が結晶の外に放出されるのが抑制されるからであると考える。
【0013】
また、発明者らが鋭意検討した結果、充電電圧の高電圧側へのシフトを抑制するには、水酸化ニッケルの結晶格子のc軸長が4.65Å以上に常時保持されるにようにする必要があることが分かった。また、水酸化ニッケルの結晶格子のc軸長が4.65Å以上に常時保持されるようにするには、イットリウムの添加量を6mol%以上とする必要があることも分かった。ただし、イットリウムの添加量が10mol%より多くになると、活物質の抵抗が増加して、アルカリ蓄電池の出力特性が低下するので、c軸長が4.65Å以上に保持され、かつイットリウムの添加量は6〜10mol%とする必要がある。前記範囲でイットリウムを含んでいる場合でも、イットリウムが偏析しているような場合には、c軸長が4.65Å以上に保持されず、前記のような効果を発揮しない。
【0014】
また、イットリウムの添加量を6〜10mol%に制限していたとしても、非焼結式ニッケル正極中に6〜10mol%のイットリウムを添加すると、アルカリ蓄電池の出力特性が低下する。これは、非焼結式ニッケル正極の基板である発泡ニッケルの集電性が、焼結式ニッケル正極の基板であるニッケル焼結基板に比べて低いので、非焼結式ニッケル正極に含まれる水酸化ニッケルに6〜10mol%のイットリウムを添加すると、活物質の抵抗増加によるアルカリ蓄電池の出力特性の低下を基板の集電性でもって相殺できなくなるからである。このため、6〜10mol%のイットリウムを添加するニッケル正極は、非焼結式ニッケル正極に比べて基板の集電性の高い、焼結式のニッケル正極とする必要がある。
【0015】
また、焼結式ニッケル正極は、タングステンまたはニオブから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいることが好ましい。この場合、高温環境下での充電効率が向上することで、充電されていない活物質(放電状態で維持される活物質)が少なくなるため、充電時の電圧上昇を一層抑制することが可能となるからである。
【0016】
また、上記本発明のアルカリ蓄電池システムは、アルカリ蓄電池が、充放電制御手段によって部分充放電制御されているアルカリ蓄電池システムであるのが好ましく、特に、SOCが20〜80%の範囲でのみ充放電がなされているのが好ましい。SOCが20〜80%の範囲でのみ充放電がなされているアルカリ蓄電池システムは、アルカリ蓄電池が低SOC又は高SOC状態となるのを効果的に防止し、アルカリ蓄電池の耐久性が向上するメリットがある半面、充電電圧が高電圧側にシフトすると、部分充放電制御回路が誤判定しやすくなるというデメリットが顕著となる。このため、本発明のアルカリ蓄電池は、上記構成のアルカリ蓄電池システムにおいて、SOCが20〜80%の範囲でのみ、充放電がされるようになされている場合に特に好適であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明及び比較例のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明のアルカリ蓄電池システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0019】
1.ニッケル正極
本発明のニッケル正極11は、基板となるニッケル焼結基板の多孔内に活物質が所定の充填量となるように充填されて形成されている。この場合、ニッケル焼結基板は以下のようにして作製されたものを用いている。例えば、ニッケル粉末に、増粘剤となるメチルセルロース(MC)と高分子中空微小球体(例えば、孔径が60μmのもの)と水とを混合、混練してニッケルスラリーを作製する。ついで、ニッケルめっき鋼板からなるパンチングメタルの両面にニッケルスラリーを塗着した後、還元性雰囲気中で1000℃で加熱して、増粘剤や高分子中空微小球体を消失させるとともにニッケル粉末同士を焼結することにより作製される。尚、得られた多孔性ニッケル基板を水銀圧入式ポロシメータ(ファイソンズ インスツルメンツ製 Pascal 140)で測定したところ、多孔度が85%であった。
【0020】
次いで、得られたニッケル焼結基板に以下のような含浸液を含浸する含浸処理と、アルカリ処理液によるアルカリ処理(70〜80℃×30分)とを7回数繰り返すことにより、ニッケル焼結基板の多孔内に水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化亜鉛及び水酸化イットリウムを充填した。次いで、所定の寸法(例えば、80.0cm×5.0cm)に裁断することにより、実施例1〜2及び比較例1〜3のニッケル正極11を作製した。この場合、含浸液としては、比重1.8の硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸亜鉛及び硝酸イットリウム混合水溶液を用い、アルカリ処理液としては、比重が1.3の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。尚、実施例1〜2及び比較例1〜3のニッケル正極11に含まれる水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化亜鉛及び水酸化イットリウムの比率、並びに水酸化ニッケルに対するイットリウムの添加量は、表1に示す通りとした。
【0021】
【表1】

【0022】
2.水素吸蔵合金負極
水素吸蔵合金負極12はパンチングメタルからなる負極芯体に水素吸蔵合金スラリーを塗着・形成している。この場合、水素吸蔵合金は、ネオジム(Nd)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)を所定のモル比の割合で混合し、この混合物を高周波誘導炉で溶解させ、これを溶湯急冷して組成式がNd0.9Mg0.1Na3.3Al0.2と表される水素吸蔵合金のインゴットを作製した。ついで、得られた水素吸蔵合金のインゴットについて、DSC(示差走査熱量計)を用いて融点(Tm)を測定した。その後、水素吸蔵合金のインゴットの融点(Tm)よりも30℃だけ低い温度(Ta=Tm−30℃)のアルゴンガス雰囲気で所定時間(この場合は10時間)の熱処理を行うことで均質化を行った。
【0023】
ついで、熱処理した水素吸蔵合金インゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕し、篩分けにより400メッシュ〜200メッシュの間に残る合金粉末を選別した。なお、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により粒度分布を測定すると、質量積分50%にあたる平均粒径は25μmであった。これを水素吸蔵合金粉末とした。この後、得られた水素吸蔵合金粒子100質量部に対し、非水溶性高分子結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と、増粘剤としてCMC(カルボキシメチルセルロース)を0.3質量部と、適量の純水を加えて混練して、水素吸蔵合金スラリーを調製した。そして、得られた水素吸蔵合金スラリーをパンチングメタル(ニッケルメッキ鋼板製)からなる負極芯体の両面に塗着した後、100℃で乾燥させ、所定の充填密度になるように圧延した後、所定の寸法に裁断して水素吸蔵合金負極12を作製した。
【0024】
3.ニッケル−水素蓄電池
上述のようにして作製されたニッケル正極11と、水素吸蔵合金負極12とを用い、これらの間に、目付が55g/m2のポリオレフィン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の上部にはニッケル正極11の芯体露出部11cが露出しており、その下部には水素吸蔵合金電極12の芯体露出部12cが露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部12cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル電極11の芯体露出部11cの上に正極集電体15を溶接して、電極体とした。
【0025】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。一方、正極集電体15より延出する集電リード部15aを封口体18の底部に溶接した。なお、封口体18には正極キャップ18aが設けられていて、この正極キャップ18a内に所定の圧力になると変形する弁体18bとスプリング18cよりなる圧力弁(図示せず)が配置されている。
【0026】
ついで、外装缶17の上部外周部に環状溝部17aを形成した後、アルカリ電解液を注液し、外装缶17の上部に形成された環状溝部17aの上に封口体18の外周部に装着された絶縁ガスケット19を載置した。この後、外装缶17の開口端縁17bをかしめることにより、公称容量は6AhでDサイズ(直径が32mmで、高さが60mm)のニッケル−水素蓄電池10を作製した。この場合、アルカリ電解液としては、水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)と水酸化リチウム(LiOH)との混合水溶液(K:Na:Li=8.75:1.00:0.25)とし、濃度が7.0mol/Lのものを電池容量(Ah)当り2.5g(2.5g/Ah)となるように注入した。
【0027】
ついで、上述のニッケル−水素蓄電池10に対し、電池容量の160%の電気量を充電した後、所定時間放置(熟成処理)した後、電池電圧が0.9Vとなるまで放電するというサイクルを2回繰り返して、活性化処理を行った。
【0028】
4.電池試験
(1)放置試験
上述のようにして作製したニッケル−水素蓄電池10に対し、0.5It(1It=6Ah)の充電電流で電池容量の100%の電気量を室温下で充電した。この際、SOC80%時点の電池電圧を測定した。ついで、充電終了後1時間休止した後、1Itの放電電流で電池電圧が0.9Vになるまで放電した。ついで、放電したニッケル−水素蓄電池10を45℃の環境下で1日間放置した後、再度、0.5Itの充電電流で電池容量の100%の電気量を室温下で充電して1時間休止した後、1Itの放電電流で電池電圧が0.9Vになるまで放電した。この際、充電過程におけるSOC80%時点の電池電圧を測定した。また、上述のようにして測定した充電過程におけるSOC80%時点の電池電圧について、放置後及び放置前の値の差(放置後の電池電圧−放置前の電池電圧)を求めた。結果を表2に示す。
【0029】
(2)出力特性試験
上述のようにして作製されたニッケル−水素蓄電池10に対し、25℃の温度雰囲気で、1Itの充電レートで電池容量の50%まで充電を行った。この後、20A充電→40A放電→休止→40A充電→80A放電→休止→60A充電→120A放電→休止→80A充電→160A放電→休止→100A充電→200A放電の順に、20秒間の充電、10秒間の放電、10分間の休止を繰り返し行った。
【0030】
ついで、各10秒間の放電を行った時点での電池電圧(V)を放電電流(A)に対してプロットし、最小二乗法により求めた直線が0.9Vに達するときの電流値(A)と0.9Vとの積を最大出力(W)として求めた。また、比較例1のニッケル−水素蓄電池10について求めた最大出力(W)を100とし、求めた他の電池の最大出力(W)をこれとの相対値(出力比)(%)で表すと、下記の表2に示すような結果となった。
【0031】
(3)X線結晶構造解析
上述のようにして作製した放置特性試験前のニッケル−水素蓄電池10及び放置特性試験後のニッケル−水素蓄電池10の双方から正極を取り出して所定寸法に切断し、X線回折測定装置により水酸化ニッケルの結晶格子のc軸長を測定した。X線回折測定装置による測定は、Cu-Kα管をX線源とし、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)3〜80°の条件の下測定を行った。ついで、測定によって得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて正極活物質の結晶構造をβ-Ni(OH)2相のピークを同定し、(001)面のピーク角からc軸長を算出した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように、水酸化ニッケルにイットリウムが含まれていない、又はイットリウムの添加量が少ないと(比較例1〜2)、長期間放置後に水酸化ニッケルの結晶格子のc軸方向の層間隔が収縮するとともに、充電電圧が高電圧側へシフトするのが分かる。これは、活性化過程等で水酸化ニッケルの結晶の層間内に取り込まれた水等が放置によって結晶の外に放出されたため、結晶格子のc軸方向の層間隔が収縮し、充電電圧が高電圧側へシフトしたためであると考える。
【0034】
これに対し、水酸化ニッケルにイットリウムが6mol%以上含まれていると(実施例1〜2)、放置後の充電電圧の高電圧側へのシフトが抑制されているのが分かる。これは、水酸化ニッケルの結晶格子のc軸方向の層間隔の収縮が抑制されて4.65Å以上に常時保持されていることから、水酸化ニッケルに添加されたイットリウムの静電作用により、水酸化ニッケルの結晶の層間内に水等が引き留められるので、結晶の層間の収縮が抑制され、充電電圧の高電圧側へのシフトが抑制されたものと考える。このことから、水酸化ニッケルに添加するイットリウムは、6mol%以上添加する必要があることが分かる。
【0035】
ただし、イットリウムの添加量が10mol%より多くなると(比較例3)、結晶の層間の収縮及び長期間放置後の充電電圧の高電圧側へのシフトは抑制されるものの、アルカリ蓄電池の出力特性が低下することが分かる。これはイットリウムの添加量が10mol%より多くなると活物質の抵抗が増加し、アルカリ蓄電池の出力特性が低下したものと考える。このことからすると、イットリウムの添加量は6〜10mol%とする必要があることが分かる。
【0036】
また、上述の例において示していないが、イットリウムの添加量を10mol%以下に制限していたとしても、非焼結式ニッケル正極に含まれる水酸化ニッケルに対して6〜10mol%のイットリウムを添加すると、アルカリ蓄電池の出力特性が低下することが確認されている。これは、非焼結式ニッケル正極の基板である発泡ニッケルの集電性が、焼結式ニッケル正極の基板であるニッケル焼結基板に比べて低いので、非焼結式ニッケル正極に含まれる水酸化ニッケルに6〜10mol%のイットリウムを添加すると、活物質の抵抗増加によるアルカリ蓄電池の出力特性の低下を基板の集電性でもって相殺し切れなくなるからである。このため、6〜10mol%のイットリウムを添加するニッケル正極は、非焼結式ニッケル正極に比べて集電性の高い、焼結式のニッケル正極とする必要がある。
【0037】
また、本発明のアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極は、タングステンまたはニオブから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいると、高温環境下での充電効率が向上する。充電効率を向上させることで、充電されていない活物質(放電状態で維持される活物質)が少なくなるため、充電時の電圧上昇を一層抑制することが可能となる。
【0038】
5.アルカリ蓄電池システム
ついで、上述のようにして作製したニッケル−水素蓄電池10を複数個組み合わせて構成されるアルカリ蓄電池システム100を、図2に基づいて以下に説明する。ここで、図2に示すように、本発明のアルカリ蓄電池システム100は、電源101と、上述したニッケル−水素蓄電池10からなる単電池が8個直列接続された電池モジュールを30個直列接続して形成された組電池102とを備えている。
【0039】
電源101と組電池102との間には、この電源101からの電流および電圧を所定の定電流および定電圧に変換して組電池102に供給する充電制御部103と、組電池102に流れる電流を検出する電流検出回路104と、組電池102の電池電圧を検出する電圧検出回路105と、組電池102の強制放電を制御する放電制御部106と、電流検出回路104および電圧検出回路105からの検出値に基づいて、充電制御部103および放電制御部106の動作を制御するCPUなどからなるマイクロコンピュータ107とが接続されている。なお、放電制御部106には組電池102を放電するための放電抵抗が接続されており、マイクロコンピュータ107には所定の時間を計測するタイマー108が接続されている。マイクロコンピュータ107は、部分充放電制御回路を含んでおり、ニッケル−水素蓄電池10が部分充放電されるように制御される。
【0040】
また、上記構成のアルカリ蓄電池システム100における部分充放電制御は、アルカリ蓄電池が、SOCが20〜80%の範囲でのみ、充放電がされるようになされているので、ニッケル−水素蓄電池10が低SOC又は高SOC状態となるのを効果的に防止できニッケル−水素蓄電池10の耐久性が向上するというメリットがある。SOCが20〜80%の範囲でのみ、充放電がされるようになされているアルカリ蓄電池システムは、充電電圧が高電圧側にシフトすると、部分充放電制御回路が誤判定しやすくなるというデメリットも顕著となる。このため、本発明のアルカリ蓄電池は、上記構成のアルカリ蓄電池システムに好適であるといえる。
【符号の説明】
【0041】
11…ニッケル電極、11c…芯体露出部、12…水素吸蔵合金電極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、15a…集電リード部、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…正極キャップ、18b…弁板、18c…スプリング、19…絶縁ガスケット、100…アルカリ蓄電池システム、101…電源、102…組電池、103…充電制御部、104…電流検出部、105…電圧検出部、106…放電制御部、107…マイクロコンピュータ、108…タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを主正極活物質とする焼結式ニッケル正極及び負極を、セパレータを介して積層した電極群をアルカリ電解液と共に容器に収容したアルカリ蓄電池であって、
前記水酸化ニッケルは、イットリウムを6〜10mol%含んでおり前記水酸化ニッケルのc軸長が常時4.65Å以上であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記焼結式ニッケル正極はタングステンまたはニオブから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のアルカリ蓄電池について、充放電制御手段によって、部分充放電制御がなされていることを特徴とするアルカリ蓄電池システム。
【請求項4】
前記部分充放電制御は、前記アルカリ蓄電池を充電深度(SOC)が20〜80%の範囲で、部分充放電制御されていることを特徴とする請求項3に記載のアルカリ蓄電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−51107(P2013−51107A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188166(P2011−188166)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】