説明

アルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法

【課題】水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて水和処理を行っても、水和率のばらつきを抑制しながら、電極特性の低下をも抑制できる水和処理方法を提供して電池特性が優れたアルカリ蓄電池用カドミウム負極を提供する。
【解決手段】本発明は、主活物質である酸化カドミウムを主体とする活物質ペーストを電極基板に塗着して形成するアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法であり、活物質ペーストを電極基板に塗着して活物質塗着極板とする活物質塗着工程と、活物質塗着極板を35℃以下の水酸化カリウム水溶液で水和させる低温水和処理工程と、低温水和処理工程後、55℃以上の水酸化カリウム水溶液で水和させる高温水和処理工程とを備えている。これにより、水和率のばらつきを抑制しながら、充電効率(電極特性)の低下も抑制できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主活物質である酸化カドミウムを主体とする活物質ペーストを電極基板に塗着して形成するアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケル−カドミウム蓄電池に用いられるカドミウム負極には焼結式カドミウム負極と非焼結式カドミウム負極とがある。焼結式カドミウム負極はニッケル粉末を焼結して形成したニッケル焼結基板に水酸化カドミウムを主体とするカドミウム活物質を含浸して作製されるものである。一方、非焼結式カドミウム負極は導電性芯体(電極基板)に主活物質である酸化カドミウムを主体とする活物質ペーストを塗着して作製されるものである。このうち、非焼結式カドミウム負極は製造工程が比較的簡単で、かつ製造コストが焼結式カドミウム負極より安価であることから広く用いられるようになった。
【0003】
このような非焼結式カドミウム負極は、まず、主活物質である酸化カドミウムを主体とするカドミウム活物質粉末と補強繊維(合成繊維など)と結着剤などを混合して活物質ペーストを作製する。ついで、得られた活物質ペーストをパンチングメタル等の導電芯体(電極基板)に塗着し、乾燥させて未化成極板とする。そして、この未化成極板は加圧ローラー等を用いて巻き取られることとなる。ところが、未化成極板の巻き取り時において、活物質ペーストが柔らかいということに起因して、巻き始め部に比較して巻き終わりになればなるほど巻き取りの加圧力が増加するようになる。このため、巻き終わりに近づくにしたがって、巻き取りの加圧力に起因して極板厚みが減少することとなる。
【0004】
この場合、極板厚みが減少すると、巻き終わり部に近づくほど極板の多孔度が減少することとなる。この結果、このような未化成極板を用いて作製されたアルカリ蓄電池においては、カドミウム負極に保持されるアルカリ電解液の保持量が化成済みのカドミウム負極を用いた場合に比較して、少なくなるとともに、電池反応も均一に行えなくなるため、電池性能が低下するという問題を生じた。そこで、未化成極板(酸化カドミウムを主活物質とする)をアルカリ水溶液中で水和させるカドミウム負極の製造方法が、例えば、特許文献1(特開平5−217577号公報)にて提案されるようになった。
【0005】
上述した特許文献1にて提案された水和処理によるカドミウム負極(酸化カドミウムを主活物質とする)の製造方法においては、酸化カドミウムの水和処理により結晶粒径が成長した大きな水酸化カドミウムが形成されるようになる。このため、ペースト状活物質内部には比較的大きな空孔が均一に形成されるとともに、極板の機械的強度も向上するようになる。この結果、極板の巻き取り時には、活物質が圧延され難くなり、巻き取り方向に対して多孔度が均一になるとともに、多孔度も高く維持されることになる。
【特許文献1】特開平5−217577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した水和処理は、通常、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液もしくは水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて行うようにしている。この場合、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いて水和処理を行った場合と、水酸化カリウム(KOH)を用いて水和処理を行った場合とでは、生成される水酸化カドミウムの結晶形状が大きく異なることが知られている。このように、水和処理により、反応性、電解液との適合性、放置特性、電池内酸素吸収性などの特性が大きく異なることとなる。このため、電池設計に応じて、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いたり、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたりして、水和処理の使い分けがなされることとなる。
【0007】
ところで、上述のような水和処理を行うことにより、カドミウム負極(酸化カドミウムを主活物質とする)の機械的強度を確保することが可能となったが、逆に、水和率のばらつきに起因する新たな問題が生じるようになった。これは、水和処理を行うと、完全には水和されない未水和の部分が生じるためである。ここで、未水和の部分が生じたカドミウム負極を用いて電池の組立を行った場合、電池内のアルカリ電解液中の水が未水和の酸化カドミウムの水和反応に使用されるようになる。このため、電解液に濃度変化が生じるようになって、電解液濃度のばらつきが引き起こされるようになる。そして、このような水和率のばらつきが引き起こされるようになると、電池性能のばらつきが生じるようになる。このため、水和処理での水和率のばらつきが極力生じないように水和処理する必要がある。
【0008】
ところが、特に、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた水和処理においては、水和率のばらつきが大きいことが明らかになった。これは、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いた場合の水和処理においては、水和処理により生じる水酸化カドミウムの結晶は非常に微細であるために水和反応が深く進行し易くなって水和率のばらつきが生じにくくなる。これに対して、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた場合、水和処理で生じる水酸化カドミウムの結晶は比較的大きくて水和反応が進行しにくいため、水和率のばらつきが生じ易くなるためである。
【0009】
そこで、本発明者等は、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いての水和処理の実験を種々試みたところ、55℃以上の高温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて水和処理を行うと、水和率のばらつきが低減されるという知見を得た。しかしながら、55℃以上の高温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて水和処理を行うと、35℃以下の低温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた水和処理に比べて電極特性(特に、充電効率)が低下することが明らかになった。この理由は、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いた水和処理において、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度が高くなるほど水酸化カドミウムの結晶粒子が大きくなるからである。
【0010】
本発明は上記の如き知見に基づいてなされたものであって、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いて水和処理を行っても、水和率のばらつきを抑制しながら、電極特性の低下も抑制できる水和処理方法を提供し、電池特性が優れたアルカリ蓄電池用カドミウム負極を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主活物質である酸化カドミウムを主体とする活物質ペーストを電極基板に塗着して形成するアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法であって、上記の如き目的を達成するため、活物質ペーストを電極基板に塗着して活物質塗着極板とする活物質塗着工程と、活物質塗着極板を35℃以下の水酸化カリウム水溶液で水和させる低温水和処理工程と、低温水和処理工程後、55℃以上の水酸化カリウム水溶液で水和させる高温水和処理工程とを備えるようにしている。
【0012】
このように、低温水和処理工程での水和処理を35℃以下の低温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液にて行うと、電極特性の低下を抑制できるようになる。これは、35℃以下の低温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液にて水和処理を行うと、生成される水酸化カドミウムの結晶は比較的小さいからである。そして、この比較的結晶形状が小さい水酸化カドミウムは、高温水和処理工程での水和処理液を55℃以上の高温度としても、結晶の大きさがほとんど変化しない結果が得られたからである。これにより、水和率のばらつきを抑制しながら、電極特性の低下も抑制できるようになる。
【0013】
なお、低温水和処理工程の温度が低すぎると、水和処理に長時間を要するようになって製造効率が低下する。また、水和処理の際には反応熱により液温度が上昇することから、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度を低温の一定温度に維持するためには冷却設備を用いる必要があるためエネルギー消費量が大きくなる。これらのことを考慮すると、低温水和処理工程での水酸化カリウム(KOH)水溶液の低温度の下限値は15℃とするのが望ましい。一方、高温水和処理工程の温度が高すぎるとエネルギー消費量が大きくなるとともに、蒸発による水酸化カリウム(KOH)水溶液の濃度変化が懸念される。このことから、高温水和処理工程での水酸化カリウム(KOH)水溶液の高温度の上限値は70℃とするのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、まず、35℃以下の低温度にて低温水和処理を行い、続いて、55℃以上の高温度にて高温水和処理を行うことで、水和率のばらつきを抑制しながら、電極特性の低下も抑制できるようになる。これにより、均質で、信頼性に優れたアルカリ蓄電池用カドミウム負極を提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ついで、本発明のアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法の一実施の形態を以下に説明するが、本発明は以下の実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
1.カドミウム負極の作製
主活物質である酸化カドミウム80質量部に、予備充電活物質である金属カドミウム20質量部と有機高分子糊剤1質量部とナイロン繊維1質量部と水30質量部からなるカドミウム糊料を添加、混練して活物質ペーストを調製した。ついで、得られた活物質ペーストをパンチングメタルよりなる導電性基板(電極基板)の両面に塗布した後、乾燥させて活物質層が形成されたペースト塗着極板を作製した。この後、所定の寸法に切断してカドミウム負極を作製した。この場合、このカドミウム負極の電極基板の下端部には活物質が充填されていない活物質の未充填部が形成されるようにしている。
【0017】
2.カドミウム負極の水和処理
ついで、上述のように作製されたカドミウム負極を水和処理する例を以下に説明する。この場合、まず、20質量%となるように調製された水酸化カリウム(KOH)水溶液を用意する。
【0018】
(1)実施例1
ついで、上述のように用意された水酸化カリウム(KOH)水溶液を35℃の温度に加温した後、この35℃の温度に加温された水酸化カリウム(KOH)水溶液中に上述のように作製されたカドミウム負極を20分間浸漬して低温水和処理(低温水和処理工程)を行った。ついで、低温水和処理(低温水和処理工程)後のカドミウム負極を55℃の温度に加温された水酸化カリウム(KOH)水溶液中に10分間浸漬して高温水和処理(高温水和処理工程)を行った。この後、水洗、乾燥を行って、水和処理済みのカドミウム負極とし、これをカドミウム負極aとした。
【0019】
(2)比較例1
一方、上述のように用意された水酸化カリウム(KOH)水溶液を55℃の温度に加温した後、この55℃の温度に加温された水酸化カリウム(KOH)水溶液中に上述のように作製されたカドミウム負極を30分間浸漬して高温水和処理(高温水和処理工程)を行った。この後、水洗、乾燥を行って、水和処理済みのカドミウム負極とし、これをカドミウム負極xとした。
【0020】
(3)比較例2
また、上述のように用意された水酸化カリウム(KOH)水溶液を35℃の温度に加温した後、この35℃の温度に加温された水酸化カリウム(KOH)水溶液中に上述のように作製されたカドミウム負極を30分間浸漬して低温水和処理(低温水和処理工程)を行った。この後、水洗、乾燥を行って、水和処理済みのカドミウム負極とし、これをカドミウム負極yとした。
【0021】
(4)比較例3
さらに、上述のように用意された水酸化カリウム(KOH)水溶液を45℃の温度に加温した後、この45℃の温度に加温された水酸化カリウム(KOH)水溶液中に上述のように作製されたカドミウム負極を30分間浸漬して中間水和処理(中間水和処理工程)を行った。この後、水洗、乾燥を行って、水和処理済みのカドミウム負極とし、これをカドミウム負極zとした。
【0022】
3.カドミウム負極の水和率の測定
上述のような水和処理を施した各カドミウム負極a,x,y,zの水和率を測定するとともに、水和率のばらつきを求めると下記の表1に示すような結果が得られた。この場合、水和率は以下のようにして求めた。即ち、各カドミウム負極a,x,y,zの水和前後の質量増加量を測定し、水和が100%進行した時の理論質量増加量に対する実測質量増加量を水和率(=実測質量増加量/理論質量増加量)として求めた。ついで、各カドミウム負極の水和率測定結果について、標準偏差(N=10)を統計的に計算し、これを水和率のばらつきとした。
【表1】

【0023】
上記表1の結果から明らかなように、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度が35℃であっても、45℃であっても、55℃であっても、水和率については、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度による差は認められないことが分かる。これに対して、高温水和処理を55℃で行ったカドミウム負極aおよびカドミウム負極xは、水和処理を55℃未満、即ち、低温水和処理となる35℃で行ったカドミウム負極yおよび中間水和処理となる45℃で行ったカドミウム負極zより水和率のばらつきが低下していることが分かる。このことは、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度を55℃以上とすることにより、高い水和率を確保しながら、水和率のばらつきが抑制されたカドミウム負極を製造できることを意味しているということができる。
【0024】
4.カドミウム負極の充電効率の測定
ついで、上述のような水和処理を施した各カドミウム負極a,x,y,zの充電効率を求めると、下記の表2に示すような結果が得られた。この場合、充電効率は以下のようにして求めた。即ち、各カドミウム負極a,x,y,zを25質量%となるように調製された水酸化カリウム(KOH)水溶液中にて(1/6)Itの充電電流で144分間充電した後、(1/6)Itの放電電流を極板電圧が0.1V(vs.SHE)になるまで流し、放電時間から放電容量を求めた。ついで、充電容量に対する放電容量を充電効率(=放電容量/充電容量)とした。
【表2】

【0025】
上記表2の結果から明らかなように、高温水和処理を55℃で行ったカドミウム負極xの充電効率は、低温水和処理および中間水和処理となる55℃未満で行ったカドミウム負極y,zの充電効率よりも低下していることが分かる。このことは、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度を55℃以上とすることにより、充電効率(電極特性)が低下することを意味しているということができる。
【0026】
ところが、カドミウム負極aの充電効率(電極特性)はカドミウム負極y,zの充電効率(電極特性)とほぼ等しく、カドミウム負極y,zに比べて低下していないことが分かる。これは、カドミウム負極aにおいては、低温水和処理を35℃で行い、高温水和処理を55℃で行っているからである。そして、このように低温水和処理工程での水和処理を35℃以下の温度の水酸化カリウム(KOH)水溶液にて水和処理を行うと、生成される水酸化カドミウムの結晶は比較的小さくなる。この比較的結晶形状が小さい水酸化カドミウムは、高温水和処理工程での水和処理液の温度を55℃以上としても、結晶の大きさがほとんど変化しなかったためと考えられるからである。
このことは、低温水和処理を35℃で行い、高温水和処理を55℃で行うことにより、水和率のばらつきを抑制しながら、充電効率(電極特性)の低下も抑制できることを意味しているということができる。
【0027】
なお、低温水和処理工程の温度が低すぎると、水和処理に長時間を要するようになって製造効率が低下する。また、水和処理の際には反応熱により液温度が上昇することから、水酸化カリウム(KOH)水溶液の温度を低温の一定温度に維持するためには冷却設備を用いる必要があるためエネルギー消費量が大きくなる。これらのことを考慮すると、低温水和処理工程での水酸化カリウム(KOH)水溶液の低温度の下限値は15℃とするのが望ましいということができる。一方、高温水和処理工程の温度が高すぎるとエネルギー消費量が大きくなるとともに、蒸発による水酸化カリウム(KOH)水溶液の濃度変化が懸念されるようになる。このことから、高温水和処理工程での水酸化カリウム(KOH)水溶液の高温度の上限値は70℃とするのが望ましいということができる。
【0028】
また、低温水和処理工程による水和反応の進行が少ない内に、高温水和処理工程での水和処理を行うと充電効率(電極特性)の低下抑制効果が減少してしまうことが予想される。この場合、どの程度の充電効率(電極特性)の低下抑制を目的にするのかで条件は異なることとなるが、低温水和処理工程による水和処理にて60%以上の水和率を得ておくことが好ましいと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主活物質である酸化カドミウムを主体とする活物質ペーストを電極基板に塗着して形成するアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法であって、
前記活物質ペーストを前記電極基板に塗着して活物質塗着極板とする活物質塗着工程と、
前記活物質塗着極板を35℃以下の水酸化カリウム水溶液で水和させる低温水和処理工程と、
前記低温水和処理工程後、55℃以上の水酸化カリウム水溶液で水和させる高温水和処理工程とを備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法。
【請求項2】
前記低温水和処理工程での水酸化カリウム水溶液の温度の下限値は15℃であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法。
【請求項3】
前記高温水和処理工程での水酸化カリウム水溶液の温度の上限値は70℃であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用カドミウム負極の製造方法。

【公開番号】特開2010−80377(P2010−80377A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249976(P2008−249976)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】