説明

アルカリ蓄電池用極板の製造方法

【課題】 アルカリ液槽や焼結極板の芯体にクロムなどを含むステンレスを用いても、アルカリ処理を行った極板の充放電特性が低下しないような製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアルカリ蓄電池の製造方法は、多孔性焼結基板を硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬する浸漬工程と、この硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬された多孔性焼結基板を加熱して乾燥する中間乾燥工程と、中間乾燥された多孔性焼結基板をアルカリ溶液中に浸漬するアルカリ浸漬工程と、アルカリ分を除去する水洗工程とからなる充填サイクルを備えている。そして、アルカリ浸漬工程におけるアルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・水素蓄電池などのアルカリ蓄電池に係り、特に、多孔性焼結基板に高密度に活物質が充填された焼結式極板を備えたアルカリ蓄電池用極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ蓄電池に使用されるニッケル極板やカドミウム極板としては、活物質の利用率が高く、極板の導電性がよくて放電性能やサイクル特性に優れるなどの特徴を有する焼結式極板が広く使用されている。このような焼結式極板はニッケル焼結基板に、所謂、化学含浸法により活物質を充填して製造される。具体的には、まず、ニッケル粉末とカルボキシメチルセルロースなどの増粘剤を水で混練したスラリーを導電性芯体に塗着した後、還元性雰囲気で焼結して多孔性ニッケル焼結基板を作製する。この後、得られた多孔性ニッケル焼結基板を硝酸塩(例えば、硝酸ニッケルや硝酸カドミウムなど)を主体とする溶液に浸漬して、硝酸塩を多孔性ニッケル焼結基板の細孔中に含浸させる。
【0003】
ついで、乾燥した後、アルカリ溶液中に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔中に含浸された硝酸塩を水酸化物に活物質化し、最後に水洗し、乾燥して焼結式ニッケル極板や焼結式カドミウム極板を製造するようにしている。このような化学含浸法にあっては、硝酸塩含浸工程→中間乾燥工程→活物質化するアルカリ処理工程→水洗工程の一連の処理工程が1サイクルとなるが、1サイクルだけでは必要な活物質量を多孔性ニッケル焼結基板中に充填することができず、通常、必要な充填量が得られるまで充填サイクルを繰り返して行い、最後工程として乾燥を行って製造するようにしている。
【0004】
ところで、上述したアルカリ処理工程において、多孔性ニッケル焼結基板の浸漬処理を繰り返す毎に、当該多孔性ニッケル焼結基板に含浸された硝酸塩によりアルカリ液中に硝酸イオンが蓄積されるようになる。この場合、アルカリ液中の硝酸イオンが多くなると、硝酸ナトリウムなどの形で浸漬された焼結基板に残存するようになり、特性が低下した極板が得られるようになる。そこで、アルカリ液中に硝酸イオンが蓄積されないような措置を講じることが、特許文献1(米国特許第3647586号明細書)にて提案されるようになった。
【0005】
ここで、特許文献1において開示されたものにおいては、アルカリ処理工程において用いられるアルカリ液を硝酸イオン除去装置に循環させて、アルカリ液中の硝酸イオンを除去し、アルカリ液中に硝酸イオンが蓄積されないようにしている。
【特許文献1】米国特許第3647586号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1において提案された硝酸イオン除去装置を用いて硝酸イオンを除去するようにしても、得られた極板の充放電特性が低下するという現象が生じた。そこで、本発明者等が、充放電特性が低下する原因を種々検討した結果、アルカリ液中のクロムイオンが影響しているのではないかという知見を得た。ここで、アルカリ液中に所定量以上のクロムイオンが存在するようになると、アルカリ処理においてクロムイオンが極板に付着するようになる。そして、クロムイオンが付着した極板を用いると活物質利用率が低下して、充放電特性が低下するという問題を生じた。これは、極板表面にクロムイオンが存在することにより、極板の反応が阻害されて充放電特性が低下するためと考えられる。
【0007】
そこで、アルカリ液中にクロムイオンが存在する原因を追及したところ、アルカリ処理工程において用いられるアルカリ液槽の材質や焼結極板の芯体の材質がステンレスであることに起因することが明らかになった。すなわち、ステンレス中に含まれるクロムがアルカリ液中にわずかに溶出したものが徐々に蓄積されたものである。この場合、アルカリ液槽の材質や焼結極板の芯体の材質をステンレスなどのクロムを含む材料からクロムを含まない材料に変更すれば、アルカリ液中にクロムイオンが存在することは防止できる。ところが、アルカリ液槽や焼結極板の芯体をステンレスで形成することは長年にわたって広く行われていることであるため、これらの材質をステンレスから多の材質に変更することは、この種の極板のコストが上昇するという経済上の理由で不可能である。
【0008】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、アルカリ液槽や焼結極板の芯体にクロムなどを含むステンレスを用いても、アルカリ処理を行った極板の充放電特性が低下しないような製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池の製造方法は、多孔性焼結基板を硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬する浸漬工程と、この硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬された多孔性焼結基板を加熱して乾燥する中間乾燥工程と、中間乾燥された多孔性焼結基板をアルカリ溶液中に浸漬するアルカリ浸漬工程と、アルカリ分を除去する水洗工程とからなる充填サイクルを備え、アルカリ浸漬工程におけるアルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制するようにしている。
【0010】
このように、アルカリ浸漬工程におけるアルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制すると、アルカリ処理においてクロムイオンが極板に付着したとしても、その不着量は極少量のため、活物質利用率が低下するのが防止できて、充放電特性を向上させることが可能となる。
この場合、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制するためには、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が50ppmを越える濃度になると、当該アルカリ溶液の一部を廃棄し、新たなアルカリ溶液を追加するようにすれば、簡単にアルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制することが可能となるので望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ついで、本発明のアルカリ蓄電池の製造方法の好適な実施の形態を以下に説明するが、本発明は以下の実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。なお、図1は本発明の一実施形態に係るニッケル−カドミウム蓄電池を模式的に示す断面図である。
【0012】
1.ニッケル焼結基板
メチルセルロース溶液と、造孔剤としてのメチルメタアクリレート−アクリロニトリル共重合体を主成分とする完全発泡有機中空球体と、ニッケル粉末とを真空引きしながら混練することによりスラリーを作製した。得られたスラリーをステンレスにニッケルメッキをほどして形成した導電性芯体11a(12a)の両面に塗布して乾燥させた後、還元性雰囲気下で1000℃で10分間焼結して、多孔度が84%で、厚みが0.60mmのニッケル焼結基板11b(12b)を作製した。
【0013】
2.ニッケル正極板
上述のように作製されたニッケル焼結基板11bを金属質量換算でNi:Co=1:1の組成比を有する硝酸塩溶液(25℃で、比重が1.30のもの)に浸漬(第1浸漬工程)した。この後、50℃で30分間乾燥(中間乾燥工程)させた。ついで、濃度が8.0mol/lで温度が80℃の水酸化ナトリウム水溶液中に30分間浸漬してアルカリ処理(アルカリ処理工程)を行い、ニッケル焼結基板11bの細孔内に析出させた硝酸塩を水酸化物に置換させた。その後、雰囲気温度が100〜150℃になるように調整して、60分間アルカリ熱処理を行った。
【0014】
ついで、金属質量換算でNi:Co:Cd=97:1:2の組成比を有する硝酸塩溶液(80℃で、比重が1.70のもの)に浸漬(第2浸漬工程)した。この後、50℃で30分間乾燥(中間乾燥工程)させた。ついで、濃度が8.0mol/lで温度が80℃の水酸化ナトリウム水溶液中に30分間浸漬してアルカリ処理(アルカリ処理工程)を行った後、イオン交換水中で水洗してアルカリ分を除去(水洗工程)した。この後、50℃で30分間乾燥(乾燥工程)させて、水分を除去した。その後、再び上記の第2浸漬工程に戻り、上記と同様な浸漬工程、中間乾燥工程、アルカリ処理工程、水洗工程および乾燥工程を7回繰り返して行うことにより、所定の活物質量が充填されたニッケル正極板11を作製した。
【0015】
ここで、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が0ppmのアルカリ溶液を用いてアルカリ処理を行って作製したものをニッケル正極板a1とした。また、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が9ppmのアルカリ溶液を用いてアルカリ処理を行って作製したものをニッケル正極板a2とし、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が25ppmのアルカリ溶液を用いてアルカリ処理を行って作製したものをニッケル正極板a3とした。また、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が50ppmのアルカリ溶液を用いてアルカリ処理を行って作製したものをニッケル正極板a4とし、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が60ppmのアルカリ溶液を用いてアルカリ処理を行って作製したものをニッケル正極板a5とした。
【0016】
3.カドミウム負極板
一方、上述のように作製されたニッケル焼結基板12bを硝酸カドミウム溶液(80℃で、比重が1.70のもの)に浸漬(浸漬工程)した。この後、50℃で30分間乾燥(中間乾燥工程)させた。ついで、濃度が8.0mol/lで温度が80℃の水酸化ナトリウム水溶液(クロムイオン濃度は0ppm)中に30分間浸漬してアルカリ処理(アルカリ処理工程)を行い、ニッケル焼結基板12bの細孔内に析出させた硝酸カドミウムを水酸化カドミウムに置換させた。ついで、イオン交換水中で水洗してアルカリ分を除去(水洗工程)した。この後、50℃で30分間乾燥(乾燥工程)させて、水分を除去した。その後、再び上記の浸漬工程に戻り、上記と同様な浸漬工程、中間乾燥工程、アルカリ処理工程、水洗工程および乾燥工程を5回繰り返して行うことにより、所定の活物質量が充填されたカドミウム負極板12を作製した。
【0017】
4.ニッケル−カドミウム蓄電池
ついで、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を用意した。この後、上述のようにして作製したニッケル正極板11(a1,a2,a3,a4,a5)とカドミウム負極板12とを用いて、これらの間にセパレータ13を介在させて、これらを渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。この後、得られた渦巻状電極群の下部に負極集電体12cを抵抗溶接するとともに、渦巻状電極群の上部に正極集電体11cを抵抗溶接して渦巻状電極体をそれぞれ作製した。ついで、鉄にニッケルメッキを施した有底円筒形の金属外装缶14内に渦巻状電極体を挿入した後、負極集電体12cと金属外装缶14の底部をスポット溶接した。
【0018】
一方、正極キャップ15aと蓋体15bとからなる封口体15を用意し、正極集電体11cに設けられたリード部11dを蓋体15bの底部に接触させて、蓋体15bの底部とリード部11dとを溶接した。なお、正極キャップ15aと蓋体15bとからなる封口体15において、蓋体15bの中央部にはガス抜き孔15cが形成されてあり、このガス抜き孔15cを塞ぐように円盤状の弁体15dが配置されている。そして、円盤状の弁体15dの上に配置されたばね座15eと正極キャップ15aとの間にコイルスプリング15fが配置されている。
【0019】
この後、金属製外装缶14の上部外周面に溝入れ加工を施して、外装缶14の上部に環状溝部14aを形成した。この後、外装缶14内に電解液(水酸化リチウム(LiOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)を含有した7Nの水酸化カリウム(KOH)水溶液でリチウム濃度が0.05mol/lのもの)を注液し、封口体15に装着された封口ガスケット16を外装缶14の環状溝部14aに載置するとともに、外装缶14の先端部14bを封口体15側にカシメて封口して、ニッケル−カドミウム蓄電池10(A1,A2,A3,A4およびA5)をそれぞれ組み立てた。
【0020】
ここで、ニッケル正極板a1を用いたものを電池A1とし、ニッケル正極板a2を用いたものを電池A2とし、ニッケル正極板a3を用いたものを電池A3とし、ニッケル正極板a4を用いたものを電池A4とし、ニッケル正極板a5を用いたものを電池A5とした。この場合、各電池A1,A2,A3,A4およびA5は、公称容量が1900mAhで、SCサイズの電池とした。
【0021】
ついで、これらの各電池A1,A2,A3,A4およびA5に対して、190mA(0.1It)の充電々流で16時間充電した後、所定時間休止した。ついで、380mA(0.2It)の放電々流で電池電圧が0.8Vになるまで放電させ、放電時間から放電容量を求めた。ついで、これらの各電池A1,A2,A3,A4およびA5をそれぞれ解体して、ニッケル正極板a1,a2,a3,a4,a5をそれぞれ取り出した。この後、各ニッケル正極板の活物質質量を測定し、下記の(1)式に基づいて正極活物質利用率を算出すると下記の表1に示すような結果が得られた。
【0022】
正極活物質利用率(%)
=[電池放電容量(mAh)/〈正極板の活物質質量(g)/289.1(mAh/g)〉]×100・・・(1)
なお、上記(1)式において、289.1とは、水酸化ニッケル1gから計算上取り出せる容量(mAh)を意味する。
【表1】

【0023】
上記表1の結果から明らかなように、アルカリ処理液(水酸化ナトリウム溶液)中のクロムイオンの濃度が50ppmまでは活物質利用率は90%程度であるのに対して、クロムイオンの濃度が50ppmを越えるようになると活物質利用率が低下することが分かる。このことから、アルカリ処理液(水酸化ナトリウム溶液)中のクロムイオンの濃度を50ppmを越えないにようにその濃度を維持できれば、アルカリ処理においてクロムイオンが極板に付着したとしても、その不着量は極めて少量となって、活物質利用率が低下するのが防止できて、充放電特性を向上させることが可能となる。
【0024】
この場合、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制するためには、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が50ppmを越える濃度になると、当該アルカリ溶液の一部を廃棄し、新たなアルカリ溶液を追加するようにすれば、簡単にアルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制することが可能となるので望ましい。なお、アルカリ溶液中のクロムイオン濃度は、原子吸光分析法により測定できる。
【0025】
なお、上述した実施の形態においては、ニッケル焼結基板に水酸化ニッケルを充填する充填サイクルを7回繰り返す例について説明したが、この充填サイクルは7回に限らず、用いる焼結基板の多孔度、用いる硝酸塩溶液などにより適宜選択すればよい。同様に、述した実施の形態においては、ニッケル焼結基板に水酸化カドミウムを充填する充填サイクルを5回繰り返す例について説明したが、この充填サイクルは5回に限らず、用いる焼結基板の多孔度、用いる硝酸カドミウム溶液などにより適宜選択すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るニッケル−カドミウム蓄電池を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10…カドミウム蓄電池、11…ニッケル正極板、11a…導電性芯体、11b…ニッケル焼結基板、11c…正極集電体、11d…リード部、12…カドミウム負極板、12b…ニッケル焼結基板、12c…負極集電体、13…セパレータ、14…外装缶、14a…環状溝部、14b…先端部、15…封口体、15a…正極キャップ、15b…蓋体、15c…ガス抜き孔、15d…弁体、15e…ばね座、15f…コイルスプリング、16…封口ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性焼結基板を硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記硝酸塩を主体とする水溶液に浸漬された多孔性焼結基板を加熱して乾燥する中間乾燥工程と、前記中間乾燥された多孔性焼結基板をアルカリ溶液中に浸漬するアルカリ浸漬工程と、アルカリ分を除去する水洗工程とからなる充填サイクルを備えたアルカリ蓄電池用極板の製造方法であって、
前記アルカリ浸漬工程における前記アルカリ溶液中のクロムイオン濃度を50ppm以下に規制するようにしたことを特徴とするアルカリ蓄電池用極板の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液中のクロムイオン濃度が50ppmを越える濃度になると、当該アルカリ溶液の一部を廃棄し、新たなアルカリ溶液を追加してクロムイオン濃度を50ppm以下に低下させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用極板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−95602(P2007−95602A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286359(P2005−286359)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000177081)三洋エナジー鳥取株式会社 (28)
【Fターム(参考)】