説明

アルカリ蓄電池用水素吸蔵合金およびアルカリ蓄電池ならびにその製造方法

【課題】従来の範囲を遥かに越えた高出力特性を有することが可能なアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を提供するとともに、この水素吸蔵合金を負極活物質とした負極を備えた放電特性が向上したアルカリ蓄電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、少なくともCe2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有する。Ce5Co19型構造はAB2型構造とAB5型構造とが3層を周期として積み重なり合った三方晶系の結晶構造(3R)をしており、Ce5Co19型構造におけるNiリッチ部の選択的触媒作用により、放電特性の向上が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(PEV:Pure Electric Vehicle)等の大電流放電を要する用途に適した水素吸蔵合金負極を備えたアルカリ蓄電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(PEV)などの高出力が求められる機器の電源用としてアルカリ蓄電池、特に、ニッケル−水素蓄電池が用いられるようになった。一般的に、ニッケル−水素蓄電池の負極に用いられる水素吸蔵合金は、LaNi5等のAB5型希土類水素吸蔵合金の一部をAl、Mn等の元素で置換したものが用いられている。これらのAB5型希土類水素吸蔵合金は、融点の低いAl、Mn等を含有しているため、結晶粒界や表面にAlリッチ相やMnリッチ相などの偏析相が生成し易いということが知られている。
【0003】
そして、生成した偏析相は充放電サイクルを繰り返すと、水素吸蔵合金の結晶格子の膨張や収縮により、大きな内部応力が発生するようになる。この大きな内部応力により、水素吸蔵合金が微粉化したり、あるいはAlやMn等の溶出による水素吸蔵合金の腐食が生じたりして、耐食性に問題があった。そこで、このような水素吸蔵合金を熱処理することによって、偏析相を生じなくして単一相化する方法が、例えば、特許文献1(特開昭62−31947号公報)等で種々検討されるようになった。
【0004】
ところが、特許文献1等にて提案された手法においては以下のような欠点があった。即ち、水素吸蔵合金を熱処理することによって単一相化した場合、偏析界面がないため、アルカリ電解液との接触面積が減少して、初期の活性化性能が低下するという問題があった。このため、従来の範囲を遥かに越えた高出力が求められているハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)の用途としては満足する充放電特性やサイクル寿命特性が得られないという問題が生じた。
【0005】
通常、一般的な水素吸蔵合金は、上述したようなAB5型構造あるいはAB2型構造であるが、AB2型構造ユニットとAB5型構造ユニットとを組合せることで種々の結晶構造をとることが知られている。これらのうち、AB2型構造とAB5型構造とが2層を周期として重なり合ったCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金が、例えば特許文献2(特開2002−164045号公報)等で種々検討されるようになった。このCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金は六方晶系の結晶構造(2H)を有しており、水素の吸蔵・放出のサイクル寿命特性を向上させることが可能である。
【特許文献1】特開昭62−31947号公報
【特許文献2】特開2002−164045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献2等で提案されたCe2Ni7型構造の水素吸蔵合金は、放電特性(アシスト出力)が不十分で、従来の範囲を遥かに越えた高出力用途としては満足いく性能を有していないという問題があった。
そこで、本発明は上記した問題を解決するためになされたものであって、従来の範囲を遥かに越えた高出力特性を有することが可能なアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を得て、この水素吸蔵合金を負極活物質とした負極を備えて、放電特性が向上したアルカリ蓄電池およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ蓄電池の負極活物資として用いられるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金は、少なくともCe2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有することを特徴とする。ここで、Ce5Co19型構造の水素吸蔵合金はAB2型構造とAB5型構造とが3層を周期として積み重なり合った三方晶系の結晶構造(3R)をしており、Ce2Ni7型構造と比較して、単位格子のa軸、c軸が短くて結晶の格子体積が小さく、Niリッチな構造をとることが可能となる。
【0008】
このため、Ce2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有する水素吸蔵合金は、Ce5Co19型構造におけるNiリッチ部の選択的触媒作用により、大きく放電性を向上させることが可能となる。これにより、Ce2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有する水素吸蔵合金をアルカリ蓄電池の負極に用いることにより、放電特性(アシスト出力)が向上したアルカリ蓄電池を得ることが可能となる。
【0009】
このとき、Ce2Ni7型構造の構成比率をX(%)とし、Ce5Co19型構造の構成比率をY(%)とした場合、Ce5Co19型構造の構成比率Y(%)に対するCe2Ni7型構造の構成比率X(%)の構成比X/Yは15以下であるのが望ましい。これは、X/Yが15以下(X/Y≦15)であれば、放電出力が向上することが明らかになったからである。また、上記組成において作製された水素吸蔵合金において、LaNi5型構造の構成比率をZ(%)とした場合、Zは15%以下(Z≦15%)であることが望ましい。これは、LaNi5型構造の構成比率が15%より多い場合、LaNi5型構造の偏析相からAlなどの溶出酸化が生じて、水素吸蔵合金の腐食が大きくなり、耐食性が低下する問題が生じるからである。
【0010】
上記水素吸蔵合金を製造するにあたって、一般式が(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδ(ただし、RはNdを除く希土類元素および4族元素から選ばれた元素、MはNi,Alを除く5族〜13族元素から選ばれた元素)と表される水素吸蔵合金を該水素吸蔵合金の融点温度Tm(℃)よりも30〜60℃低い温度Ta(Tm−60≦Ta≦Tm−30)℃で熱処理する熱処理工程を備えていることが望ましい。
これは、上記水素吸蔵合金を融点温度Tm−60℃より低い温度で熱処理をすると、AlやMgの不均一分散による偏析相を発生し、組織の均質化が妨げられ、耐食性の低下をもたらす原因となるからである。一方、融点温度Tm−30℃より高い温度で熱処理をすると、Mgは沸点が低いため、Mgヒュームが発生し、合金製造時の安全性に問題が生じるからである。
このため、水素吸蔵合金の融点温度Tmよりも30〜60℃低い温度Ta(Tm−60≦Ta≦Tm−30)℃で熱処理するのが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ついで、本発明の実施の形態を以下の図1〜図2に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。なお、図1は本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。図2はCe2Ni7型構造比率X(%)とCe5Co19型構造比率Y(%)との構成比X/Yに対する−10℃アシスト出力(A)との関係を示すグラフである。
【0012】
1.水素吸蔵合金
Ni,Nd,Al,Mg,Co,Mn,La,Ce,Prなどの元素を下記の表1に示すような所定のモル比の割合で混合した後、これらの混合物をアルゴンガス雰囲気の高周波誘導炉に投入して溶解させた後、冷却して、水素吸蔵合金のインゴットを作製した。ついで、得られた水素吸蔵合金の融点(Tm)よりも30℃低い温度(Ta=Tm−30℃)で所定時間(この場合は12時間)の熱処理を行った。この後、これらの各水素吸蔵合金の塊を粗粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末a〜mを作製した。
【0013】
この場合、組成式がLa0.8Ce0.1Pr0.05Nd0.05Ni4.0Al0.3Co0.6Mn0.1で表されるものを水素吸蔵合金aとし、(La0.2Pr0.4Nd0.40.8Mg0.2Ni3.1Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金bとした。また、Nd0.9Mg0.1Ni3.2Al0.2Co0.1で表されるものを水素吸蔵合金cとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.3Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金dとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.4Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金eとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.5Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金fとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.6Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金gとし、Nd0.9Mg0.1Ni3.7Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金hとした。さらに、(La0.2Pr0.3Nd0.50.9Mg0.1Ni3.4Al0.2で表されるものを水素吸蔵合金iとし、(La0.2Pr0.3Nd0.50.8Mg0.2Ni3.3Al0.3で表されるものを水素吸蔵合金jとし、(La0.3Nd0.70.9Mg0.1Ni3.6Al0.1で表されるものを水素吸蔵合金kとし、(La0.3Nd0.70.9Mg0.1Ni3.3Al0.4で表されるものを水素吸蔵合金lとし、(La0.3Nd0.70.7Mg0.3Ni3.6Al0.1で表されるものを水素吸蔵合金mとした。
【0014】
ついで、Cu−Kα管をX線源とするX線回折測定装置を用いる粉末X線回折法で結晶構造の同定を行った。この場合、スキャンスピード1°/min、管電圧40kV、管電流300mA、スキャンステップ1°、測定角度(2θ)20〜50°でX線回折測定を行った。得られたXRDプロファイルよりJCPDSカードチャートを用いて、各水素吸蔵合金a〜mの結晶構造を同定した。ここで、結晶構造の構成比は、ピーク強度値と42〜44°の最強強度値をXRDプロファイルに当てはめて算出した。
【0015】
そして、各水素吸蔵合金a〜mの各Ce2Ni7型構造の構成比率をX(%)とし、Ce5Co19型構造の構成比率をY(%)とし、LaNi5型構造の構成比率をZ(%)とするとともに、Ce5Co19型構造に対するCe2Ni7型構造の構成比を(X/Y)を示すと、下記の表1に示すような結果が得られた。なお、下記の表1には、各水素吸蔵合金a〜mを一般式(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδ(ただし、RはNdを除く希土類元素および4族元素から選ばれた元素、MはNi,Alを除く5族〜13族元素から選ばれた元素)で表した場合のα,β,γ,δ,εの値も示している。なお、εは後述するように、(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδをA成分(R,Nd,Mg)とB成分(Ni,Al,M)で表した場合のB成分の全量を表し、A成分は1となるのでAB比を表すこととなる。
【表1】

【0016】
2.水素吸蔵合金負極
この後、得られた各水素吸蔵合金粉末(a〜m)100質量部に対し、非水溶性結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンラテックス)を0.5質量部と水(あるいは純水)を加え、混練して、水素吸蔵合金スラリーを作製した。ついで、ニッケルメッキを施したパンチングメタルからなる負極芯体を用意し、この負極芯体に水素吸蔵合金スラリーを塗着し、乾燥させた後、所定の厚みで、充填密度が5.0g/cm3となるように圧延した。この後、所定の寸法(この場合は、負極表面積(短軸長×長軸長×2)が800cm2)になるように切断して、水素吸蔵合金負極11(a1〜m1)をそれぞれ作製した。
【0017】
ここで、水素吸蔵合金aを用いたものを水素吸蔵合金負極a1とし、水素吸蔵合金bを用いたものを水素吸蔵合金負極b1とした。また、水素吸蔵合金cを用いたものを水素吸蔵合金負極c1とし、水素吸蔵合金dを用いたものを水素吸蔵合金負極d1とし、水素吸蔵合金eを用いたものを水素吸蔵合金負極e1とし、水素吸蔵合金fを用いたものを水素吸蔵合金負極f1とし、水素吸蔵合金gを用いたものを水素吸蔵合金負極g1とし、水素吸蔵合金hを用いたものを水素吸蔵合金負極h1とした。さらに、水素吸蔵合金iを用いたものを水素吸蔵合金負極i1とし、水素吸蔵合金jを用いたものを水素吸蔵合金負極j1とし、水素吸蔵合金kを用いたものを水素吸蔵合金負極k1とし、水素吸蔵合金lを用いたものを水素吸蔵合金負極l1とし、水素吸蔵合金mを用いたものを水素吸蔵合金負極m1とした。
【0018】
3.ニッケル−水素蓄電池
ついで、これらの水素吸蔵合金負極11(a1〜m1)を用いてニッケル−水素蓄電池を作製する例について、以下に説明する。まず、多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
【0019】
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質の充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル正極12を作製した。
【0020】
この後、上述のようにして作製した水素吸蔵合金負極11とニッケル正極12とを用い、これらの間に、ポリプロピレン製不織布からなるセパレータ13を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極板11の芯体露出部11cが露出しており、その上部にはニッケル正極板12の芯体露出部12cが露出している。
【0021】
ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部11cに負極集電体14を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極12の芯体露出部12cの上に正極集電体15を溶接した。この後、正極集電体15の上部に円筒状の正極用リード16を溶接した。この場合、円筒状の正極用リード16には、正極集電体15の溶接電極挿入用の中心開口15bに対応する位置にこの開口15bに連通する開口16aが形成されている。
【0022】
ついで、鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)17内に収納した後、開口16aおよび中心開口15bを通して図示しない溶接電極を挿入し、水素吸蔵合金負極11に溶接された負極集電体14を外装缶17の内底面に溶接した。ついで、外装缶17の上部内周側に防振リング19bを挿入し、外装缶17の上部外周側に溝入れ加工を施して防振リング19bの上端部に環状溝部17aを形成した。この後、外装缶17内に30質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液からなるアルカリ電解液を注入した。なお、アルカリ電解液の注液量は電池容量(Ah)当たり2.5g(2.5g/Ah)とした。
【0023】
さらに、この外装缶17の開口部の上部に、封口板18aの底面が正極用リード16の円筒部分に接触するように配置した。ここで、封口板18aの上部には正極キャップ(正極外部端子)18bが設けられており、この正極キャップ18b内には弁板18cとスプリング18dからなる弁体を備えており、封口板18aの中央にはガス抜き孔が形成されており、封口板18aと正極キャップ18bとで封口体18が形成されている。ついで、正極キャップ(正極外部端子)18bの上面に一方の溶接電極(図示せず)を配置するとともに、外装缶17の底面(負極外部端子)の下面に他方の溶接電極(図示せず)を配置した。
【0024】
この後、これらの一対の溶接電極間に所定の圧力を加えながら、これらの溶接電極間に電池の放電方向に所定の電圧を印加し、所定のパルス電流を流す通電処理を施した。この通電処理により、封口板18aの底面と正極用リード16の周側縁との接触部分が溶接されることとなる。このように、一対の溶接電極間に所定の圧力を加えながら、これらの溶接電極間に電圧を印加して、通電処理を施すことにより、円筒状の正極用リード16の高さ寸法にばらつきがあっても、円筒状の正極用リード16の周側縁と封口板18aの底面との間に接触点を形成することが可能となる。これにより、溶接強度に優れた溶接部を形成することができるようになる。
【0025】
ついで、封口体18の封口板18aの周縁に絶縁ガスケット19aを嵌着させ、プレス機を用いて封口体18に加圧力を加えて、絶縁ガスケット19aの下端が外装缶17の上部外周に設けられた環状溝部17aの位置になるまで封口体18を外装缶17内に押し込む。この後、外装缶17の開口端縁17bを内方にかしめて電池を封口することによりニッケル−水素蓄電池(A〜M)を組み立てた。なお、この封口時の加圧力により、円筒状の正極用リード16は押しつぶされ、その断面形状は円形が押しつぶされた楕円形状となる。
【0026】
ここで、水素吸蔵合金負極a1を用いたものを電池Aとし、水素吸蔵合金負極b1を用いたものを電池Bとした。また、水素吸蔵合金負極c1を用いたものを電池Cとし、水素吸蔵合金負極d1を用いたものを電池Dとし、水素吸蔵合金負極e1を用いたものを電池Eとし、水素吸蔵合金負極f1を用いたものを電池Fとし、水素吸蔵合金負極g1を用いたものを電池Gとし、水素吸蔵合金負極h1を用いたものを電池Hとした。さらに、水素吸蔵合金負極i1を用いたものを電池Iとし、水素吸蔵合金負極j1を用いたものを電池Jとし、水素吸蔵合金負極k1を用いたものを電池Kとし、水素吸蔵合金負極l1を用いたものを電池Lとし、水素吸蔵合金負極m1を用いたものを電池Mとした。
【0027】
4.電池試験
(1)出力特性評価
まず、上述のようにして作製した電池A〜Mを用いて、まず、25℃の温度雰囲で、1Itの充電々流でSOC(State Of Charge:充電深度)の120%まで充電し、1時間休止した。ついで、70℃の温度雰囲で24時間放置した後、45℃の温度雰囲で、1Itの放電々流で電池電圧が0.3Vになるまで放電させるサイクルを2サイクル繰り返して、これらの各電池A〜Mを活性化した。
【0028】
活性化終了後、25℃の温度雰囲で、1Itの充電電流でSOC(State Of Charge :充電深度)の50%まで充電した後、1時間休止した。ついで、−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートで20秒間充電させた後、30分間休止させた。この後、−10℃の温度雰囲で、任意の放電レートで10秒間放電させた後、25℃の温度雰囲で30分間休止させた。このような−10℃の温度雰囲で、任意の充電レートでの20秒間充電、30分の休止、任意の放電レートで10秒間放電、25℃の温度雰囲での30分の休止を繰り返した。
【0029】
この場合、任意の充電レートは、0.8It→1.7It→2.5It→3.3It→4.2Itの順で充電電流を増加させ、任意の放電レートは、1.7It→3.3It→5.0It→6.7It→8.3Itの順で放電電流を増加させ、各放電レートで10秒間経過時点での各電池A〜Mの電池電圧(V)を各電流毎にそれぞれ測定して、放電V−Iプロット近似曲線を求めた。ここで、求めたV−Iプロット近似曲線上の電池電圧が0.9V時の電流を放電特性指標としての放電出力(−10℃アシスト出力)として求めると、下記の表2に示すような結果となった。
【0030】
(2)耐食性評価
一般式(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδ(ただし、RはNdを除く希土類元素および4族元素から選ばれた元素、MはNi,Alを除く5族〜13族元素から選ばれた元素)で表した水素吸蔵合金は、A成分(R,Nd,Mg)とB成分(Ni,Al,M)で成り立っている。一般的に耐食性指標として酸素濃度が用いられているが、これはA成分の酸化量を表しており、AB比(ε)が異なる合金を比較する場合、式量が異なるため酸素濃度は耐食性指標として適していない。そこで、A成分の酸化割合を合金失活率とし、耐食性の指標とする。出力特性評価後に各電池を解体して、これらの各電池から水素吸蔵合金を採取する。そして、超音波洗浄機を用い純水にて結着剤を除去し、乾燥後、酸素濃度を測定した。次いで、酸素濃度及びA成分の原子比率からA成分の酸化割合である合金失活率を算出すると下記の表2に示すような結果となった。
【表2】

【0031】
上記表2の結果から明らかなように、LaNi5構造を主相とする水素吸蔵合金aを負極a1に備えた電池Aは−10℃アシスト出力が大きい半面、水素吸蔵合金の失活率が大きいことが分かる。一方、Ce2Ni7構造を主相とする水素吸蔵合金bを負極b1に備えた電池Bは水素吸蔵合金の失活率が小さい半面、−10℃アシスト出力が小さいことが分かる。即ち、放電特性と耐食性はトレードオフの関係を有することが分かる。
これらに対して、Ce2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有する水素吸蔵合金cを負極c1に備えた電池Cは放電出力と耐食性のバランスがとれており、放電特性が優れていることが分かる。これは、Ce5Co19型構造のNiリッチ部位による反応抵抗低減効果によるものと考えられることから、Ce2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合層は積層不整であってもよい。
【0032】
ここで、電池C〜Hを用いて、Ce2Ni7型構造の構成比率X(%)とCe5Co19型構造の構成比率Y(%)との構成比X/Yに対する−10℃アシスト出力(A)との関係を求めると、図2に示すような結果が得られた。図2の結果から明らかなように、Ce2Ni7型構造の構成比率X(%)とCe5Co19型構造の構成比率Y(%)との構成比X/Yが15以下(X/Y≦15)であれば、−10℃アシスト出力(A)、即ち、放電出力が向上することが分かる。
【0033】
また、上記表1,表2の結果を総合勘案すると、(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδ(但し、RはNdを除く希土類元素および4族元素から選ばれた元素、MはNi,Al,Coを除く5族〜13族の元素)と表され、A成分が(R1-αNdα)1-βMgβで、B成分がNiε-γ-δAlγMδとなる水素吸蔵合金において、Ndのモル比(α)は0.5以上、1.0以下(0.5≦α≦1.0)で、Mgのモル比(β)は0.1以上、0.2以下(0.1≦β≦0.2)で、Alのモル比(γ)は0.1以上、0.3以下(0.1≦γ≦0.3)で、B成分全体のモル比(ε)、即ちB/A比は3.5以上、3.9以下(3.5≦ε≦3.9)であるのが望ましいということが分かる。
【0034】
5.水素吸蔵合金の熱処理温度の検討
ついで、水素吸蔵合金の熱処理温度について以下に検討した。そこで、Nd0.9Mg0.1Ni3.6Al0.2で表される組成の水素吸蔵合金のインゴットを上述と同様に、アーク溶解法にて作製した。この組成の水素吸蔵合金インゴットを融点(Tm=1123℃)より60℃低い温度(Tm−60℃)で所定時間(この場合は12時間)熱処理を行った後、粗粉砕し、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末nを作製した。同様に、この組成の水素吸蔵合金インゴットを融点(Tm=1123℃)より90℃低い温度(Tm−90℃)で所定時間(この場合は12時間)熱処理を行った後、粗粉砕し、不活性ガス雰囲気中で平均粒径が25μmになるまで機械的に粉砕して、水素吸蔵合金粉末oを作製した。
【0035】
これらの水素吸蔵合金n,oの結晶構造を上述と同様に同定するとともに、各水素吸蔵合金n,oの各Ce2Ni7型構造の構成比率X(%)、Ce5Co19型構造の構成比率Y(%)、LaNi5型構造の構成比率Z(%)、およびCe5Co19型構造に対するCe2Ni7型構造の構成比(X/Y)を示すと、下記の表3に示すような結果が得られた。なお、表3には上述した水素吸蔵合金g(融点(Tm)より30℃低い温度(Tm−30℃)で熱処理を行ったもの)の結果も併せて示している。
【表3】

【0036】
上記表3の結果から明らかなように、熱処理温度が、融点(Tm=1123℃)より30℃低い温度(Tm−30℃)、融点(Tm=1123℃)より60℃低い温度(Tm−60℃)、融点(Tm=1123℃)より90℃低い温度(Tm−90℃)と低下するほど、結晶構造中のLaNi5の構成比率が大きくなることが分かる。
【0037】
ついで、これらの水素吸蔵合金n,oを用いて、上述と同様に水素吸蔵合金負極n1,o1を作製するとともに、ニッケル−水素蓄電池N,Oを作製し、上述と同様に活性化した後、上述と同様の充放電試験を行って放電特性指標としての放電出力(−10℃アシスト出力)として求めると、下記の表4に示すような結果となった。また、これらの出力特性評価試験後の電池N,Oを解体して、上述と同様に、これらの各電池N,Oから水素吸蔵合金を採取して酸素濃度を測定し、酸素濃度よりA成分の酸化割合である合金失活率を算出すると下記の表4に示すような結果となった。なお、表4には上述した電池G(水素吸蔵合金gを負極に用いた電池)の結果も併せて示している。
【表4】

【0038】
上記表4の結果から明らかなように、熱処理温度が低下して、結晶構造中のLaNi5の構成比率が大きくなるほど、放電特性(−10℃アシスト出力)および耐食性が低下することが分かる。そこで、LaNi5型構造相をEPMAで組織観察したところ、概ね、偏析相はAlリッチ相であることが明らかになった。即ち、放電特性および耐食性が低下は、Alの溶出により水素吸蔵合金の腐食が加速されたことが影響していると考えられる。このことから、結晶構造中のLaNi5の構成比率Z(%)は15%以下であることのが望ましいということが分かる。
【0039】
一方、熱処理温度(Ta)が融点(Tm)より30℃低い温度(Tm−30℃)よりも高温(Ta>Tm−30)になった場合、沸点の低いMgのMgヒュームが発生して、水素吸蔵合金製造時の生産性の低下や組成安定性などの問題が生じるようになる。以上のことから、水素吸蔵合金の熱処理温度(Ta)は、水素吸蔵合金の融点温度(Tm)よりも30〜60℃低い温度((Tm−60)≦Ta≦(Tm−30))とするのが望ましいということが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【図2】Ce2Ni7型構造の構成比率X(%)とCe5Co19型構造の構成比率Y(%)との構成比X/Yに対する−10℃アシスト出力(A)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
11…水素吸蔵合金負極、11c…芯体露出部、12…ニッケル正極、12c…芯体露出部、13…セパレータ、14…負極集電体、15…正極集電体、16…正極用リード、17…外装缶、17a…環状溝部、17b…開口端縁、18…封口体、18a…封口板、18b…正極キャップ、18c…弁板、18d…スプリング、19a…絶縁ガスケット、19b…防振リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池の負極活物質として用いられるアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金であって、
前記水素吸蔵合金は少なくともCe2Ni7型構造とCe5Co19型構造からなる混合相を有することを特徴とするアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項2】
前記Ce2Ni7型構造の構成比率をX(%)とし、前記Ce5Co19型構造の構成比率をY(%)とした場合の前記Ce5Co19型構造の構成比率Y(%)に対する前記Ce2Ni7型構造の構成比率X(%)の構成比X/Yは15以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金はさらにLaNi5型構造を有し、該LaNi5型構造の構成比率をZ(%)をとした場合、Zは15%以下(Z≦15%)であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と、正極と、これらの両極を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項5】
水素吸蔵合金を負極活物質とする水素吸蔵合金負極と、正極と、これらの両極を隔離するセパレータと、アルカリ電解液とを外装缶内に備えたアルカリ蓄電池の製造方法であって、
一般式が(R1-αNdα)1-βMgβNiε-γ-δAlγMδ(ただし、RはNdを除く希土類元素および4族元素から選ばれた元素、MはNi,Alを除く5族〜13族元素から選ばれた元素)と表される水素吸蔵合金を該水素吸蔵合金の融点温度Tmよりも30〜60℃低い温度Ta((Tm−60)≦Ta≦(Tm−30))℃で熱処理する熱処理工程を備えたことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−84649(P2008−84649A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262215(P2006−262215)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】