説明

アルカリ金属分散体の製造方法

【課題】ポリ塩化ビフェニル等の難分解性ハロゲン化合物の分解に有用な高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】高濃度アルカリ金属分散体に対して20〜50重量%となる量のアルカリ金属溶融物と、前記アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することを特徴とする高濃度アルカリ金属分散体の製造方法、及びこの製造方法により高濃度アルカリ金属分散体を得たのち、得られた高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することを特徴とするアルカリ金属分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル等の難分解性ハロゲン化合物の分解に有用な、高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属分散体は高い反応性を有し、ポリ塩化ビフェニル類やダイオキシン類等の難分解性ハロゲン化合物の脱ハロゲン化といった有機反応などに広く利用されている。
【0003】
従来、このようなアルカリ金属分散体を製造する方法としては、アルカリ金属の融点以上の沸点をもつ溶媒中で、加熱下溶融状態となったアルカリ金属を高速攪拌装置やホモミキサーなどの単一分散機により分散させる方法が知られている。しかし、この方法により、アルカリ金属微粒子の粒度が均一なアルカリ金属分散体を得るためには、長時間撹拌する必要があった。特に難分解性ハロゲン化合物を効率よく分解するためには、アルカリ金属微粒子が微細で、かつ粒度分布がシャープであるアルカリ金属分散体が好ましいため、アルカリ金属微粒子の粒度が均一なアルカリ金属分散体を効率よく得る方法が要望されていた。
【0004】
このような要望に応えるべく、特許文献1には、不活性溶媒中でアルカリ金属を加熱溶融し、撹拌機を使用して撹拌した後、得られた溶液を渦巻流ホモジナイザー中に通過させる方法が提案されている。また、特許文献2には、アルカリ金属と不活性溶媒を容器に入れて加熱し、撹拌機を使用して撹拌した後、ローター回転剪断機により分散させる方法が提案されている。しかし、これらの方法は一度撹拌機により撹拌した溶液をさらに渦巻流ホモジナイザー又はローター回転剪断機により処理するものであるので、これらの装置を別途設置する必要があった。
【0005】
また従来においては、アルカリ金属分散体のアルカリ金属濃度を高くすると、アルカリ金属微粒子が分散媒中で凝集しやすくなると考えられていたため、難分解性ハロゲン化合物の脱ハロゲン化等に用いるアルカリ金属分散体のアルカリ金属濃度は、5〜20重量%程度のものが一般的であった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−209006号公報
【特許文献2】特開2002−177763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、アルカリ金属微粒子が凝集することなく分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルカリ金属溶融物と、前記アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することにより、アルカリ金属が高濃度に含まれていても、アルカリ金属微粒子が凝集することなく分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体を効率よく得ることができることを見出した。また、得られた高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合することにより、所望のアルカリ金属濃度のアルカリ金属分散体を短時間で効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
かくして本発明の第1によれば、高濃度アルカリ金属分散体に対して20〜50重量%となる量のアルカリ金属溶融物と、前記アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することを特徴とする高濃度アルカリ金属分散体の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法においては、前記アルカリ金属が金属ナトリウムであるのが好ましい。
本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法においては、前記第1の分散媒として電気絶縁油を用いるのが好ましい。
【0011】
本発明の第2によれば、本発明の製造方法により高濃度アルカリ金属分散体を得たのち、得られた高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することを特徴とするアルカリ金属分散体の製造方法が提供される。
【0012】
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法においては、本発明の製造方法により高濃度アルカリ金属分散体を第1の槽内で製造し、得られた高濃度アルカリ金属分散体を第2の槽に移送し、該第2の槽内において、前記高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することが好ましい。
【0013】
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法においては、前記第2の分散媒として電気絶縁油を用いるのが好ましい。
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法においては、前記アルカリ金属分散体が難分解性ハロゲン化合物の分解に用いられるものであるのが好ましく、前記難分解性ハロゲン化合物がポリ塩化ビフェニルであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法によれば、アルカリ金属が高濃度で含まれていても、アルカリ金属微粒子が凝集することなく分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体を効率よく得ることができる。
本発明の高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体の製造方法によれば、粒径が小さく、かつ粒度分布がシャープであるアルカリ金属微粒子が分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体を得ることができる。
【0015】
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法によれば、得られた高濃度アルカリ金属分散体を分散媒を使用して希釈するという簡便な操作により、任意のアルカリ金属濃度のアルカリ金属分散体を、短時間で効率よく製造することができる。
また、高濃度アルカリ金属分散体を分散媒を使用して希釈する操作を高濃度アルカリ金属分散体を製造した槽とは別個の槽内で行うことで、アルカリ金属分散体の生産設備の小型化を図ることができ、かつ、アルカリ金属分散体の生産効率を高めることができる。
さらに、高濃度アルカリ金属分散体を該分散体の温度よりも相対的に低い温度の分散媒を使用して希釈することで、アルカリ金属分散体の冷却時間を短縮でき、結果としてアルカリ金属分散体の生産効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の高濃度アルカリ金属分散体及びアルカリ金属分散体の製造方法を詳細に説明する。
1)高濃度アルカリ金属分散体の製造方法
本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法は、高濃度アルカリ金属分散体に対して20〜50重量%となる量のアルカリ金属溶融物と、アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することを特徴とする。
【0017】
本発明に用いるアルカリ金属は特に制限されず、例えば、金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウム、金属セシウム及びこれらの合金等が挙げられる。なかでも、金属ナトリウムが好ましい。本発明の製造方法は、特に、金属ナトリウムを使用して高濃度金属ナトリウム分散体を製造するのに好適である。
【0018】
本発明においてはアルカリ金属の溶融物(アルカリ金属溶融物)を用いる。アルカリ金属溶融物を得る方法としては、アルカリ金属を融点以上に加熱するものであれば特に制限されないが、槽内にアルカリ金属を収容し、該槽内を熱媒を循環させることにより加熱する方法が、槽内を均一かつ効率よく加熱できることから好ましい。熱媒の温度は、用いるアルカリ金属の融点以上であれば特に制限されないが、効率よくアルカリ金属溶融物を得る上では、用いるアルカリ金属の融点よりも20〜80℃高い温度であるのが好ましく、40〜60℃高い温度であるのがより好ましい。
【0019】
本発明においては、アルカリ金属溶融物と該アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することを特徴とする。アルカリ金属溶融物とアルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することで、高濃度のアルカリ金属の微粒子が、第1の分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体を効率よく製造することができる。
【0020】
本発明に用いる第1の分散媒としては、用いるアルカリ金属に対して不活性なものであれば特に制限されない。例えば、トランスオイル及びコンデンサーオイル等の電気絶縁油(JIS C2320−1993に記載の電気絶縁油等)、重油(JIS K2205に記載の重油等)及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属として金属ナトリウムを使用する場合には、水等に対して安定であり、分散助剤などを添加しなくとも安定した分散体を得ることができること等の理由から、電気絶縁油の使用が特に好ましい。
【0021】
本発明においては、用いるアルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒を用いる。第1の分散媒を加熱する温度は、用いるアルカリ金属の融点以上の温度であれば特に制限されないが、効率よく高濃度アルカリ金属分散体を得る観点から、用いるアルカリ金属の融点よりも5〜40℃高い温度が好ましい。
【0022】
アルカリ金属溶融物と第1の分散媒との混合割合は、得られる高濃度アルカリ金属分散体に対するアルカリ金属の濃度が、通常20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%となる量である。
【0023】
また、本発明においては、アルカリ金属を第1の分散媒により均一に分散させる目的で、公知の分散剤や凝集防止剤等をアルカリ金属と第1の分散媒の混合物に添加することができる。
【0024】
アルカリ金属溶融物と該アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合する方法としては、例えば、(a)第1の槽において、第1の分散媒を、用いるアルカリ金属の融点以上の温度に加熱し、別の槽(アルカリ金属貯槽)において溶融させたアルカリ金属を第1の槽に移送し、第1の槽において両者を混合・撹拌する方法、(b)第1の槽においてアルカリ金属を溶融させ、第2の別の槽(第1の分散媒加熱槽)において、アルカリ金属の融点以上に加熱した第1の分散媒を第1の槽に移送し、第1の槽において両者を混合・撹拌する方法、(c)第1の分散媒加熱槽において、用いるアルカリ金属の融点以上の温度に加熱した第1の分散媒を第1の槽に移送し、アルカリ金属貯槽において溶融させたアルカリ金属を第1の槽に移送し、第1の槽において両者を混合・撹拌する方法、(d)アルカリ金属貯槽において溶融させたアルカリ金属を第1の槽に移送し、第1の分散媒加熱槽においてアルカリ金属の融点以上に加熱した第1の分散媒を第1の槽に移送し、第1の槽において両者を混合・撹拌する方法、等が挙げられる。
【0025】
前記(a)、(c)、(d)の方法において、アルカリ金属貯槽において溶融させたアルカリ金属を第1の槽に移送する方法は特に制限されないが、作業安全性の面から、不活性ガスにより圧送する方法が好ましい。
【0026】
アルカリ金属貯槽において溶融させたアルカリ金属、及び/又は第1の分散媒加熱槽において用いるアルカリ金属の融点以上に加熱した第1の分散媒を、第1の槽に移送する配管は、移送中において、アルカリ金属及び/又は第1の分散媒が冷却されて、アルカリ金属が固化するのを防止するものが好ましい。移送中において、アルカリ金属及び/又は第1の分散媒が冷却されるのを防止する方法としては、例えば、配管全体をヒーターで加熱する方法、及び配管全体を保温材で保温する方法等が挙げられる。
【0027】
アルカリ金属と第1の分散媒とを混合する装置は特に制限されず、従来公知の撹拌装置を使用することができる。例えば、スタティックミキサー、ホモミキサー、高速撹拌装置、ローター回転式剪断方式分散機、加圧式ホモジナイザー、渦巻流ホモジナイザー等が挙げられる。本発明によれば、スタティックミキサー、ホモミキサー、高速撹拌装置等の比較的分散性能に劣る攪拌装置を用いて混合した場合であっても、高濃度のアルカリ金属が分散媒中に均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体を得ることができる。
【0028】
アルカリ金属と第1の分散媒とを混合するときの温度は、用いるアルカリ金属の融点以上の温度であれば特に制限はないが、用いるアルカリ金属の融点より5〜40℃高い温度であるのが好ましく、20〜30℃高い温度であるのがより好ましい。あまりに温度を高くすることは製造装置のランニングコストが高くなるばかりでなく、高濃度アルカリ金属分散体を製造後、冷却する時間が長くなるため好ましくない。
【0029】
アルカリ金属と第1の分散媒との撹拌速度や撹拌時間等の撹拌条件は、アルカリ金属微粒子の平均粒子径や粒子径分布の設定値等によっても異なる。一般的には、撹拌速度を速くし撹拌時間を長くする程、平均粒子径が小さく、粒子径分布がシャープであるアルカリ金属微粒子を得ることができる。例えば、平均粒子径5〜10μm程度の金属ナトリウム金属微粒子を得たい場合には、撹拌速度が3,000〜4,000rpm、撹拌時間が1〜8時間、好ましくは2〜6時間である。
【0030】
本発明により得られる高濃度アルカリ金属分散体中のアルカリ金属の平均粒子径は、通常1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。アルカリ金属微粒子の平均粒子径がこのような範囲にあると、アルカリ金属微粒子が均一に分散し、アルカリ金属の沈降のないアルカリ金属分散体が得られる。
【0031】
なお、高濃度アルカリ金属分散体を製造する場合、及び後述するアルカリ金属分散体を製造する場合には、安全性を考慮して、不活性ガス雰囲気下で操作を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。これらのうち、コストの面から窒素ガスの使用が好ましい。
【0032】
本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法によれば、第1の分散媒中に、高濃度のアルカリ金属が均一に分散してなる高濃度アルカリ金属分散体を効率よく得ることができる。
【0033】
2)アルカリ金属分散体の製造方法
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法は、本発明の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法により高濃度アルカリ金属分散体を得たのち、得られた高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することを特徴とする。
【0034】
本発明に用いる第2の分散媒としては、アルカリ金属に対して不活性なものであれば特に制限されないが、前記第1の分散媒として列記したものと同様なものを例示することができる。また第2の分散媒としては、第1の分散媒と同じものであっても、異なるものであってもよいが、本発明により得られるアルカリ金属分散体を難分解性ハロゲン化合物の分解に使用した後、反応混合物から容易に回収して再利用することができる観点から、第1の分散媒と第2の分散媒は同じものであるのが好ましい。
【0035】
第2の分散媒の使用量は、前記高濃度アルカリ金属分散体と混合することで、アルカリ金属濃度が10〜20重量%であるアルカリ金属分散体が得られる量である。第2の分散媒の使用量は、具体的には、高濃度アルカリ金属分散体のアルカリ金属濃度及び製造するアルカリ金属分散体の設定アルカリ金属濃度に基づいて適宜定めることができる。
【0036】
高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを混合する方法は、特に限定されず、例えば、(i)高濃度アルカリ金属分散体を第1の槽内で製造し、そこへ、第2の分散媒を所定量添加して混合する方法、(ii)高濃度アルカリ金属分散体を第1の槽内で製造し、得られた高濃度アルカリ金属分散体を第2の槽に移送し、該第2の槽内に第2の分散媒を所定量添加して混合する方法、(iii)高濃度アルカリ金属分散体を第1の槽内で製造し、得られた高濃度アルカリ金属分散体を、予め第2の分散媒を所定量添加した第2の槽に移送して混合する方法、等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、高濃度アルカリ金属分散体の製造を小型の製造設備で行うことができ、第1の槽において製造した高濃度アルカリ金属分散体を連続的に第2の槽に移送して、該第2の槽内においてアルカリ金属分散体を効率よく製造することができることから、上記(ii)又は(iii)の方法が好ましい。
【0038】
高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒との混合は、撹拌装置を用いて行うことができる。用いる撹拌装置としては、高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを均一に混合することができるものであれば、特に制限されず、従来公知の攪拌装置を使用できる。
【0039】
高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを撹拌するときの温度は特に制限されない。本発明においては、用いる第2の分散媒は、前記高濃度アルカリ金属分散体の温度に比して低温度のもの、好ましくは常温のもの(加熱、冷却などしていないもの)を使用するのが、得られるアルカリ金属分散体を短時間で冷却できること等から好ましい。
【0040】
高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを撹拌する時間は、特に制限されない。アルカリ金属の微粒子が分散媒中に均一に分散された状態となるまで、高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒との混合物を撹拌すればよい。
【0041】
以上のようにして得られるアルカリ金属分散体中のアルカリ金属の平均粒子径は1μm〜10μmが好ましい。この範囲にアルカリ金属の平均粒子径を設定することにより、アルカリ金属の沈降がなく、難分解性ハロゲン化合物との反応性に優れるアルカリ金属分散体を得ることができる。
【0042】
本発明のアルカリ金属分散体の製造方法は、高濃度アルカリ金属分散体を第2の分散媒で希釈するものであるから、アルカリ金属分散体を製造する過程において、高濃度アルカリ金属分散体に含まれるアルカリ金属微粒子の平均粒径はほとんど変化しない。従って、アルカリ金属分散体中のアルカリ金属の平均粒子径は、高濃度アルカリ金属分散体を製造するときに設定することができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られるアルカリ金属分散体は、そのまま使用に供することができるが、熟成槽に移送し、該熟成槽において保存することもできる。熟成槽に保存する場合には、品質を一定に保つため、熟成槽内を定期的に撹拌することが好ましい。また、熟成槽に保存したアルカリ金属分散体を使用する場合には、使用前において、このもののアルカリ金属濃度、アルカリ金属微粒子の平均粒径及びアルカリ金属の純度等を分析することが好ましい。なお、アルカリ金属分散体を保存する場合においては、熟成槽内部を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気としておくのが、品質を一定に保つ上で好ましい。
【0044】
本発明の製造方法により得られるアルカリ金属分散体は、難分解性ハロゲン化合物の分解に好適に用いることができる。
分解の対象となる難分解性ハロゲン化合物は、一般的に脱ハロゲン化反応が困難なハロゲン化合物である。難分解性ハロゲン化合物の具体例としては、ポリ塩化ビフェニル、ダイオキシン類、ポリ塩素化ベンゾフラン類、ポリ塩素化ベンゼン、p,p'−ジクロロジフェニルトリクロロエタン等の芳香族ハロゲン化合物;ベンゼンヘキサクロリド等の脂環族ハロゲン化合物;等が挙げられる。これらのうち、本発明の製造方法により得られるアルカリ金属分散体は、芳香族ハロゲン化合物の分解に用いるものであるのが好ましく、ポリ塩化ビフェニルの分解に用いるものであるのが特に好ましい。
【0045】
また、本発明の製造方法により得られるアルカリ金属分散体は、溶媒に溶解した難分解性ハロゲン化合物を分解処理する場合にも適用することができる。かかる溶媒としては、ケロシン、デカリン、電気絶縁油 (JIS C2320−1993に記載の電気絶縁油 等)、重油(JIS K2205に記載の重油等)、潤滑油及びこれらの混合物等が挙げられる。本発明の製造方法により得られるアルカリ金属分散体(特に、トランスオイル、コンデンサーオイル等の電気絶縁油を分散媒とするもの)は、トランスオイル、コンデンサーオイル等の電気絶縁油に含まれる難分解性ハロゲン化合物を分解処理する場合に好適である。
【0046】
アルカリ金属分散体を難分解性ハロゲン化合物と反応させる方法としては、例えば、アルカリ金属分散体に難分解性ハロゲン化合物を添加する方法、難分解性ハロゲン化合物の溶液にアルカリ金属分散体を滴下する方法等が挙げられる。アルカリ金属分散体の使用量は、難分解性ハロゲン化合物中のハロゲン原子1モルに対して、アルカリ金属分散体に含まれるアルカリ金属が通常1〜200モル、好ましくは1.05〜20モルとなる量である。
【0047】
また、アルカリ金属分散体を用いて難分解性ハロゲン化合物を分解する反応をより円滑に進行させるため、反応系に水、メタノール等の活性水素化合物を添加することも好ましい。活性水素化合物の添加量は、アルカリ金属分散体に含まれるアルカリ金属1モルに対して、通常0.1〜2倍モルである。活性水素化合物は、アルカリ金属分散体と難分解性ハロゲン化合物の混合物に添加するのが好ましい。
【0048】
アルカリ金属分散体と難分解性ハロゲン化合物との反応温度は、通常0〜180℃、好ましくは60〜90℃の範囲である。反応時間は難分解性ハロゲン化合物の種類やその量に依存するが、通常0.5〜3時間である。また、分解反応をより安全に行なう為に、反応系内を窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気とするのが好ましい。
【0049】
反応終了後は、反応系に水を添加し、未反応のアルカリ金属分散体を分解する。反応処理液を分液し、有機層として、難分解性ハロゲン化合物の分解により生成するビフェニル等の重合体とトランスオイル等の有機溶媒との混合物を得たのち、この混合物から通常の分離・精製手段により、トランスオイル等の有機溶媒を単離することができる。単離したトランスオイル等の有機溶媒は、燃料等として再利用することができる。また、ビフェニル等の重合体は、産業廃棄物として処理される。
【実施例】
【0050】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例1、2において、製品分析は以下のようにして行った。
ナトリウム純度及び金属ナトリウム分散体濃度は、金属ナトリウム分散体の所定量にアルコール又は水を添加した後、中和滴定を行うことにより求めた。
【0051】
金属ナトリウム分散体平均粒径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(型式:HELOS−KF、SYMPATEC Gmb社製)を使用して測定した。
【0052】
(実施例1)
電気絶縁油加熱槽において電気絶縁油(商品名:トランスフォーマーオイルG、出光興産(株)製)207kgを120℃から130℃に加熱した後、ポンプで金属ナトリウム分散体製造槽へ移送した。一方、金属ナトリウム貯槽において、熱媒を用いて常時150℃に加熱された状態の金属ナトリウム93kgを、窒素加圧により金属ナトリウム分散体製造槽内に圧送した。次いで、金属ナトリウム分散体製造槽の内容物の撹拌を開始し、120〜130℃を維持しながら、3,600rpmの攪拌速度で4時間攪拌を継続することにより、金属ナトリウム濃度が30重量%の高濃度金属ナトリウム分散体を得た。得られた高濃度金属ナトリウム分散体のナトリウム純度、金属ナトリウム分散体濃度、金属ナトリウム分散体平均粒径の測定を行った。
【0053】
分析結果は以下の通りであった。
ナトリウム純度 :99.6%以上
金属ナトリウム分散体濃度 :31.0重量%
金属ナトリウム分散体平均粒径 :8μm以下
【0054】
(実施例2)
実施例1で得た高濃度金属ナトリウム分散体(温度90〜95℃)を希釈・冷却槽へ移送し、そこへ常温(20〜25℃)の電気絶縁油300kgをさらに移送した。高濃度金属ナトリウム分散体と常温の電気絶縁油とを混合することで、70℃以下まで冷却された混合物が得られた。その後、該混合物を15分間撹拌することにより金属ナトリウム分散体を得た。得られた金属ナトリウム分散体のナトリウム純度、金属ナトリウム分散体濃度、金属ナトリウム分散体平均粒径の測定を行った。
【0055】
分析結果は以下の通りであった。
ナトリウム純度 :99.6%以上
金属ナトリウム分散体濃度 :15.5重量%
金属ナトリウム分散体平均粒径 :8μm以下
【0056】
次いで、上記で得られた金属ナトリウム分散体を貯蔵槽へ移送した。一週間保存後の、金属ナトリウム分散体のナトリウム純度、金属ナトリウム分散体濃度、及び金属ナトリウム分散体平均粒径を測定した。
【0057】
分析結果は以下の通りであった。
ナトリウム純度 :99.6%以上
金属ナトリウム分散体濃度 :15.5重量%
金属ナトリウム分散体平均粒径 :8μm以下

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度アルカリ金属分散体に対して20〜50重量%となる量のアルカリ金属溶融物と、該アルカリ金属の融点以上に加熱された第1の分散媒とを混合することを特徴とする高濃度アルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属が金属ナトリウムである請求項1に記載の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の分散媒として電気絶縁油を用いる請求項1または2に記載の高濃度アルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により高濃度アルカリ金属分散体を得たのち、得られた高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することを特徴とするアルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により高濃度アルカリ金属分散体を第1の槽内で製造し、得られた高濃度アルカリ金属分散体を第2の槽に移送し、該第2の槽内において、前記高濃度アルカリ金属分散体と第2の分散媒とを所定割合で混合して、アルカリ金属濃度が10〜20重量%のアルカリ金属分散体を製造することを特徴とするアルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項6】
前記第2の分散媒として電気絶縁油を用いる請求項4または5に記載のアルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属分散体が、難分解性ハロゲン化合物の分解に用いられるものである請求項4〜6のいずれかに記載のアルカリ金属分散体の製造方法。
【請求項8】
前記難分解性ハロゲン化合物がポリ塩化ビフェニルである請求項7記載のアルカリ金属分散体の製造方法。

【公開番号】特開2006−218398(P2006−218398A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34258(P2005−34258)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】