説明

アルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの調製方法

本発明は、アルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの調製方法に関し、この方法は、(a)エステル交換反応触媒の存在下でアルキレンカルボナートとアルカノールを反応させて、ジアルキルカルボナート、未転化アルカノール、アルカンジオール、未転化アルキレンカルボナートおよびアルコキシアルカノール不純物を含む反応混合物を得る段階;(b)反応混合物を第一蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナート、アルカノールおよびアルコキシアルカノール不純物を含む塔頂流ならびにアルカンジオールおよびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;(c)第一蒸留塔からの塔底流を第二蒸留塔での蒸留に付して、アルカンジオールを含む塔頂流およびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;(d)第一蒸留塔からの塔頂流を触媒の存在下、第三蒸留塔での蒸留に付して、炭酸エーテル不純物が生成されるアルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応を生じさせて、アルカノールを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および(e)第三蒸留塔からの塔底流を第四蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナートを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および(f)第四蒸留塔からの塔底流を第一蒸留塔に再循環させる段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンカルボナートおよびアルカノールからのアルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなエステル交換反応方法は、例えば、アルキレンカルボナートとアルカノールの反応から得られる反応混合物からジアルキルカルボナートを回収する方法を開示しているWO2008090108に開示されている。WO2008090108に記載されているような方法で生成され、分離されるジアルキルカルボナートにはアルコキシアルカノール不純物が存在し得ることが見出されている。例えば、エチレンカルボナートをエタノールと反応させる方法での生成物は、ジエチルカルボナートおよびモノエチレングリコールである。しかし、このような方法では、2−エトキシエタノールも形成され、最終的にジエチルカルボナート中の不純物になり得る。
【0003】
加えて、JP20033000917およびJP2002371037は、ジメチルカルボナートおよびモノエチレングリコールをエチレンカルボナートおよびメタノールから製造する方法に関し、この方法では2−メトキシエタノールが副生成物として形成され、この2−メトキシエタノールもアルコキシアルカノールである。JP20033000917およびJP2002371037の発明では、前記2−メトキシエタノールを特有の蒸留技術によって除去することができる。
【0004】
アルキレンカルボナートおよびアルカノールからアルカンジオールおよびジアルキルカルボナートを生成する工程の中で、アルコキシアルカノール不純物が様々な様式で形成され得る。例えば、エタノールとエチレンカルボナートを反応させてジエチルカルボナートおよびモノエチレングリコールを生成する反応器の中で、エチレンオキシドおよび二酸化炭素が生成されるエチレンカルボナートの逆反応によって形成されたエチレンオキシドとエタノールの副反応が起こって2−エトキシエタノール(エチルオキシトール)が生成されることがある。さらに、二酸化炭素が放出されてエチレンオキシトールが生成されるようなエタノールとエチレンカルボナートの副反応によって、エチルオキシトールが形成されることがある。さらにまた、エタノールとモノエチレングリコールとの副反応が起こってエチルオキシトールおよび水を生成することがある。なおさらにまた、ヒドロキシエチルエチルカルボナートの脱カルボキシル化によってエチルオキシトールが形成されることがある。
【0005】
従って、エタノールとエチレンカルボナートを反応させてジエチルカルボナートおよびモノエチレングリコールを生成する反応器からの生成物流は、未転化エタノール、未転化エチレンカルボナート、ジエチルカルボナート、モノエチレングリコールおよび上述のエチルオキシトール不純物を含み得る。前記アルコキシアルカノール不純物の存在は、いずれの後続の生成工程においても有害であり得る。前記アルコキシアルカノール不純物は、例えば、最終的にジアルキルカルボナート(該ジアルキルカルボナートおよびフェノールからのジフェニルカルボナートの合成のための出発原料として使用される。)中に存在する場合がある。例えば、ジアルキルカルボナートがジエチルカルボナートであり、およびアルコキシアルカノール不純物がエチルオキシトールである場合、前記エチルオキシトールは、フェノール出発原料および/またはジフェニルカルボナート生成物と反応し得る。
【0006】
フェノールとエチルオキシトールの直接反応は、フェニル2−エトキシエチルエーテルを生成し、従って、価値のあるフェノール反応体を喪失する結果となり得る。さらに、このような反応は、工程に望ましくない化学物質を持ち込み、従って分離の問題をもたらす結果となる。
【0007】
ジフェニルカルボナートとエチルオキシトールの反応は、フェニル2−エトキシエチルカルボナートが生成されるので、生成物を喪失する結果となる。さらに、後者の生成物は、ジフェニルカルボナートのポリカルボナート材料へのいずれの後続の重合においても「毒」として作用する。例えば、ジフェニルカルボナートをビス−フェノールA(BPA)と反応させると、ポリカルボナートおよびフェノールが形成される。フェノールは比較的良好な脱離基であるので、ジフェニルカルボナートは、BPAと反応することができる。しかし、アルカノールは良好な脱離基ではないので、ジアルキルカルボナート(例えば、ジエチルカルボナート)を使用してBPAとの反応によりポリカルボナートを生成することはできない。アルコキシアルカノール(例えば、エチルオキシトール)は、いずれも良好な脱離基ではない。従って、BPAと反応させるジフェニルカルボナート中にフェニル2−エトキシエチルカルボナートが存在する場合、フェノールは、該フェニル2−エトキシエチルカルボナートから容易に遊離されるが、エチルオキシトールは遊離されず、この結果として重合工程を一方の連鎖末端で停止させる。故に、ジフェニルカルボナートをPBAと接触させる前に、ジフェニルカルボナートからフェニル2−エトキシエチルカルボナートを除去すべきである。
【0008】
上で述べたことは、アルコキシアルカノール不純物を含有するジアルキルカルボナート流を形成する場合、ジアルキルカルボナートを価値のある最終生成物に変換する任意の後続の工程を行う前に該アルコキシアルカノール不純物を除去することが望ましい例である。例えば、ジエチルカルボナートとフェノールの反応を行う前に、一切のエチルオキシトール不純物を、該不純物を含有するジエチルカルボナート流から除去することが望ましい。
【0009】
エタノールとエチレンカルボナートを反応させてジエチルカルボナートおよびモノエチレングリコールを生成した上記の例について言えば、未転化エタノールおよびエチレンカルボナートならびにエチルオキシトール副生成物も含有する生成物流を蒸留によって分離することができる。前記生成物流中の様々な成分の沸点を下の表に挙げる。
【0010】
【表1】

【0011】
上で言及した蒸留は、ジエチルカルボナートおよび未転化エタノールを含有する塔頂流ならびにモノエチレングリコールおよび未転化エチレンカルボナートを含有する塔底流を生じさせる結果となり得る。エチルオキシトールは、最終的に前記塔頂流中の不純物になり得る。その後、前記塔頂流を蒸留により、未転化エタノールを含有する塔頂流(該塔頂流を反応器に再循環させることができ、この反応器においてジエチルカルボナートとモノエチレングリコールが生成される。)と、ジエチルカルボナートおよびエチルオキシトール不純物を含有する塔底流とに、さらに分離することができる。
【0012】
上で論じたように、ジアルキルカルボナートを任意の後続の工程で価値のある最終生成物に変換する前に、アルコキシアルカノール不純物をそこから除去しなければならない。この不純物は、前記後続の工程および/または任意のさらなる工程に干渉し得るからである。上の例の場合、この言明は、ジエチルカルボナートおよびエチルオキシトール不純物を含有する塔底流からエチルオキシトール不純物を除去すべきであることを意味する。原則的には、エチルオキシトールおよびジエチルカルボナートをさらなる蒸留段階によって分離することができる。しかし、ジエチルカルボナートとエチルオキシトールの間の沸点の小さな差(上の表を参照のこと。)のため、このような分離は非常に厄介であり、多くの蒸留段階および工程を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2008/090108号
【特許文献2】特開2003−300917号公報
【特許文献3】特開2002−371037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、アルコキシアルカノール不純物を、このようなアルコキシアルカノール不純物を含有するジアルキルカルボナート流から除去する簡単な方法を見つけ、および同時に、ジアルキルカルボナートの総合収量の減少をできる限り防止する必要がある。
【0015】
驚くべきことに、ジアルキルカルボナートおよびアルコキシアルカノール不純物を触媒と接触させることにより、ジアルキルカルボナートとアルコキシアルカノール不純物との反応がもたらされ、この結果、アルコキシアルカノール不純物が、ジアルキルカルボナートから容易に分離することができる化合物に転化されることを見い出した。本発明のさらなる段階では、前記化合物をジアルキルカルボナートから分離して、前記化合物とジアルキルカルボナートの一部とを含有する流れを生じさせる。加えて、本発明によると、(i)アルコキシアルカノール不純物から誘導される化合物と(ii)ジアルキルカルボナートの一部とを含有する前記流れを蒸留塔に再循環させ、アルカンジオールをジアルキルカルボナートから分離することにより、有利なことに、ジアルキルカルボナートの総合収量の減少ができる限り防止される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は、アルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの調製方法に関し、この方法は、
(a)エステル交換反応触媒の存在下でアルキレンカルボナートとアルカノールを反応させて、ジアルキルカルボナート、未転化アルカノール、アルカンジオール、未転化アルキレンカルボナートおよびアルコキシアルカノール不純物を含む反応混合物を得る段階;
(b)反応混合物を第一蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナート、アルカノールおよびアルコキシアルカノール不純物を含む塔頂流ならびにアルカンジオールおよびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;
(c)第一蒸留塔からの塔底流を第二蒸留塔での蒸留に付して、アルカンジオールを含む塔頂流およびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;
(d)第一蒸留塔からの塔頂流を触媒の存在下、第三蒸留塔での蒸留に付して、炭酸エーテル不純物が生成されるアルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応を生じさせて、アルカノールを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および
(e)第三蒸留塔からの塔底流を第四蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナートを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および
(f)第四蒸留塔からの塔底流を第一蒸留塔に再循環させる段階
を含む。
【0017】
本発明において生成されるジアルキルカルボナートは、ジ(C−C)アルキルカルボナートであり得、この場合のアルキル基(直線状、分岐および/または環状)は、同じまたは異なっていてもよく、例えばメチル、エチルおよびプロピルであり得る;具体的には、前記ジアルキルカルボナートは、ジエチルカルボナートである。
【0018】
本発明において除去されるアルコキシアルカノール不純物は、上で説明したように、2−エトキシエタノールであり得る。
【0019】
反応混合物中および第一蒸留塔からの塔頂流中にアルコキシアルカノール不純物が0.01から10重量%、具体的には0.02から5重量%、さらに具体的には0.03から1重量%および最も具体的には0.05から0.5重量%の範囲の量で含まれ得る。
【0020】
本発明による触媒の存在下でのアルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応は、ジアルキルカルボナートのエステル交換反応を生じさせる結果となる。従って、本発明の方法においてアルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートを反応させる際に使用することを要する触媒は、エステル交換反応触媒であるべきである。ジアルキルカルボナート、アルカノールおよびアルコキシアルカノール不純物を含む第一蒸留塔からの塔頂流は、触媒を含有しない。さらに詳細には、前記流れは、第三蒸留塔において触媒と接触するまではエステル交換反応触媒を含有しない。
【0021】
本方法の段階(d)において使用されるエステル交換反応触媒は、先行技術から公知の多くの適する均一系および不均一系エステル交換反応触媒のうちの1つであり得る。
【0022】
例えば、本方法の段階(d)での使用に適する均一系エステル交換反応触媒は、US5359118に記載されており、アルカリ金属、即ちリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの水和物、酸化物、水酸化物、アルカノラート、アミドまたは塩を含む。好ましい均一系エステル交換反応触媒は、カリウムまたはナトリウムの水酸化物またはアルカノラートである。他の適する均一系エステル交換反応触媒は、アルカリ金属塩、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩または炭酸塩である。適する触媒は、US5359118、ならびにUS5359118に挙げられている参考文献、例えばEP274953A、US3803201、EP1082AおよびEP180387Aに記載されている。
【0023】
上で述べたように、本方法の段階(d)において不均一系エステル交換反応触媒を用いることも可能である。不均一系エステル交換反応触媒の使用は好ましい。適する不均一系触媒としては、官能基を含有するイオン交換樹脂が挙げられる。適する官能基としては、第三級アミン基および第四級アンモニウム基、ならびにまたスルホン酸およびカルボン酸基が挙げられる。さらに適する触媒としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属ケイ酸塩が挙げられる。適する触媒は、US4062884およびUS4691041に開示されている。不均一系触媒を、ポリスチレンマトリックスと第三級アミン官能基とを含むイオン交換樹脂から選択してもよい。一例は、N,N−ジメチルアミン基が付けられたポリスチレンマトリックスを含むAmberlyst A−21(Rohm & Haasから)である。第三級アミンおよび第四級アンモニウム基を有するイオン交換樹脂をはじめとする、エステル交換反応触媒の8クラスがJ F Knifton et al.,J.Mol.Catal,67(1991)389ffに開示されている。
【0024】
本方法の段階(d)において使用することができる不均一系エステル交換反応触媒は、元素周期表の第4族からの元素(例えばチタン)、第5族からの元素(例えばバナジウム)、第6族からの元素(例えばクロムもしくはモリブデン)もしくは第12族からの元素(例えば亜鉛)、または錫もしくは鉛、または前述の元素の組み合わせ、例えば、亜鉛とクロムの組み合わせ(例えば亜クロム酸亜鉛)を含む触媒であり得る。前記元素は、触媒中に酸化物、例えば酸化亜鉛として存在していてもよい。好ましくは、本発明の段階(d)において使用されるエステル交換反応触媒は、亜鉛を含む不均一系触媒である。
【0025】
段階(d)についてのさらなるエステル交換反応条件は、当該技術分野において公知であり、適切には、40から200℃の温度および50から5000kPa(0.5から50bar)の圧力を含む。
【0026】
上で説明したエステル交換反応触媒および他のエステル交換反応条件は、本方法の段階(a)にも同等に適用できる。
【0027】
ジアルキルカルボナートが式ROC(O)OR(この式中のRおよびRは、同じまたは異なるアルキルであり得る。)の化合物であり、およびアルコキシアルカノール不純物が、式ROH(この式中のRはアルコキシアルキル基である。)の化合物である場合、本方法の段階(d)において以下の反応(1)および/または(2)および/または(3)が起こり得る:
(1)ROC(O)OR+ROH→ROC(O)OR+ROH
(2)ROC(O)OR+ROH→ROC(O)OR+ROH
(3)2ROC(O)OR→ROC(O)OR+ROC(O)OR
【0028】
前記ROC(O)ORが、ジエチルカルボナート(またはEtOC(O)OEt)であり、および前記ROHが、2−エトキシエタノール(またはEtOEtOH)である場合、本方法の段階(d)においてエステル交換反応触媒の存在下で以下の反応(1)および/または(2)および/または(3)が起こり得る:
(1)EtOC(O)OEt+EtOEtOH→EtOC(O)OEtOEt+EtOH
(2)EtOC(O)OEtOEt+EtOEtOH→EtOEtOC(O)OEtOEt+EtOH
(3)2EtOC(O)OEtOEt→EtOEtOC(O)OEtOEt+EtOC(O)OEt
【0029】
前記EtOC(O)OEtOEt(OxEC)は、1つのエーテル基を含有する炭酸エーテルである、即ち、混合カルボナートであるエチル2−エトキシエチルカルボナートである。EtOEtOC(O)OEtOEt(DOxC)は、2つのエーテル基を含有する炭酸エーテル、即ちジ(2−エトキシエチル)カルボナートである。
【0030】
本方法の段階(d)において、未転化アルカノールからのジアルキルカルボナートの分離は、第三蒸留塔における蒸留によって果たされる。このような蒸留は、未転化アルカノール(例えば、エタノール)を含有する塔頂流(該塔頂流を本方法の段階(a)に部分的にまたは完全に再循環させることができる。)とジアルキルカルボナート(例えば、ジエチルカルボナート)を含有する塔底流とを生じさせる結果となる。さらに、本方法の段階(d)において、アルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応を生じさせるための触媒を、第三蒸留塔自体に添加することができ、または入口および出口が該第三蒸留塔に接続されている反応器に添加することができる。
【0031】
本方法の段階(d)において第三蒸留塔自体に触媒を添加する場合、好ましくは、前記添加は、ジアルキルカルボナート(例えば、ジエチルカルボナート)とアルコキシアルカノール不純物(例えば、2−エトキシエタノール)の反応が、未転化アルカノールと同じであるアルカノール(例えば、エタノール)を生成させる結果となる場合、この反応に好適であるように、未転化アルカノール(例えば、エタノール)の濃度が比較的低い(例えば、0から0.5重量%)位置で行う。例えば、触媒を第三蒸留塔の回収部におよび/または第三蒸留塔の塔底のリボイラ部に添加することができる。
【0032】
本方法の段階(d)において、入口および出口が前記第三蒸留塔に接続されている反応器に触媒を添加する場合、触媒を第三蒸留塔自体に添加する場合について説明したのと同じ理由のため、好ましくは、前記入口は、前記塔内の未転化アルカノールの濃度が比較的低い位置で前記塔に接続されている。
【0033】
これらの場合のすべてにおいて、ジアルキルカルボナートとアルコキシアルカノール不純物の反応の結果として得られるアルカノールが、未転化アルカノールと同じである場合、新たに形成されるアルカノールは、好適には、第三蒸留塔からの塔頂流の一部として未転化アルカノールと一緒に塔頂に除去される。反応蒸留の問題がある。このアルカノール除去は、ジアルキルカルボナートとアルコキシアルカノール不純物の反応の平衡を望ましい方向にシフトさせる追加の利点を有する。
【0034】
本発明は、有利なことに、ジアルキルカルボナート流中のアルコキシアルカノール不純物を除去する結果となる。このアルコキシアルカノール不純物は、除去されていなければ、前記ジアルキルカルボナートを使用するいずれの後続の工程にも干渉し得る。この除去を行うことにより、前記アルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの一部とが別のカルボナート、即ち炭酸エーテル不純物に転化されることは理解される。
【0035】
しかし、前記炭酸エーテル不純物を、ジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む第三蒸留塔からの塔底流から容易に分離し、この結果、純粋なジアルキルカルボナートを得ることができる。従って、本方法は、第三蒸留塔からの塔底流を第四蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナートを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る、追加の段階(e)を含む。
【0036】
前記炭酸エーテル不純物は、アルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応の結果として直接得られる生成物であることもあり、または上述のさらなる反応(2)および(3)のいずれかの結果として生ずる生成物であることもある。場合により、本方法の段階(e)は、上述の反応(3)を行うことができるように、および/または上述の反応(3)を完了し、この結果、すでにアルコキシアルカノール不純物と反応したジアルキルカルボナートの一部の回収することができるように、第四蒸留塔においてエステル交換反応触媒の存在下で行う。
【0037】
例えば、ジエチルカルボナートおよび2−エトキシエタノール不純物を含有する流れを本方法の段階(d)においてエステル交換反応触媒と接触させた場合、ジエチルカルボナートと結果として得られる炭酸エーテル生成物との沸点の差の故に、本方法の(e)において蒸留により純粋なジエチルカルボナートを容易に得ることができる。この沸点差を下の表に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
本方法の段階(e)において得られる第四蒸留塔からの塔底流は、ジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む。加えて、前記流れは、多少のアルカンジオールを含み得る。前記流れを工程から除去することにより、実に有利なことに、炭酸エーテル不純物がこの工程から抜き取られる。しかし、この除去を行うことにより、価値のあるジアルキルカルボナートおよび場合により、前記流れに含まれている場合には、価値のあるアルカンジオールも除去され、この結果、前記生成物の総合収量が低減される。従って、本方法は、第四蒸留塔からの塔底流を第一蒸留塔に再循環させる追加の段階(f)を有利なことに含む。このようにして、段階(b)において、段階(a)で得た反応混合物を段階(e)で得た第四蒸留塔からの再循環塔底流と併せて第一蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナート、アルカノールおよびアルコキシアルカノール不純物を含む塔頂流と、アルカンジオール、アルキレンカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流とを得ることによって、追加のジアルキルカルボナート、および場合により追加のアルカンジオールを生じさせる。
【0040】
さらに、アルカンジオール、アルキレンカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む第一の蒸留塔からの前記塔底流を、段階(c)において、第二蒸留塔での蒸留に付して、アルカンジオールおよび炭酸エーテル不純物を含む塔頂流と、アルキレンカルボナートを含む塔底流とを得る。アルキレンカルボナートを含む前記塔底流は、炭酸エーテル不純物、より具体的には、2つのエーテル基を含有する炭酸エーテルも含み得る。アルキレンカルボナートを含む塔底流を、本方法の段階(a)に、部分的にまたは完全に再循環させることができる。さらに、アルカンジオールおよび炭酸エーテル不純物を含む前記塔頂流は、多少のアルキレンカルボナートを含み得る。アルカンジオールをさらに精製するために、本方法は、好ましくは、
(g)第二蒸留塔からの塔頂流を、好ましくは加水分解触媒の存在下での、加水分解に付す段階
をさらに含む。
【0041】
このような加水分解は、炭酸エーテル不純物が、純粋なアルカンジオールを調製するためにアルカンジオールから容易に分離することができる成分に加水分解される点で、有利である。例えば、炭酸エーテル不純物が、エチル2−エトキシエチルカルボナート(EtOC(O)OEtOEt)を含む場合、加水分解は、2−エトキシエタノール、二酸化炭素およびエタノールを形成する結果となり、これらのすべてを、例えば蒸留によって、モノエチレングリコールから容易に分離することができる。第二蒸留塔からの塔頂流が多少のアルキレンカルボナートも含む場合、このようなアルキレンカルボナートも段階(g)において加水分解され、この結果、二酸化炭素および追加のアルカンジオールが得られる。
【0042】
さらにまた、第二蒸留塔からの塔底流の一部を、好ましくは加水分解触媒の存在下でおよび好ましくは第二蒸留塔からの塔頂流と併せて、加水分解に付すことができるが、前記塔底流の残部は、本方法の段階(a)に再循環させる。前記塔底流が炭酸エーテル不純物を含む場合、こうすることで炭酸エーテル不純物の蓄積が確実に起こり得ないようにする。本方法における第二蒸留塔に類似した蒸留塔からの塔頂および/または塔底流を、加水分解に、部分的にまたは完全に付すことに関しては、より詳細には、用いることができる加水分解触媒、加水分解条件および純粋なアルカンジオールを得るためのさらなる処理手順に関しては、上述のWO2008090108を参照する(この内容は参照により本明細書に組み込まれる。)。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明による方法についてのフロースキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明による方法についてのフロースキームを示す。本方法を適するアルコールとしてエタノールおよびアルキレンカルボナートとしてエチレンカルボナートについて説明するが、他のアルカノールおよびアルキレンカルボナートを同様に使用できることは、当業者には理解されよう。
【0045】
エタノールをライン1経由で反応器2に送る。反応器2は、適切には、連続攪拌タンク反応器またはプラグフロー型反応器であり得る。ライン3経由でエチレンカルボナートも反応器2に供給する。エステル交換反応触媒が反応器2に存在し、この触媒を該反応器に継続的に供給することができる。触媒をライン1もしくはライン3において反応体と混合することができ、または別のライン(図示せず)経由で反応器2に供給することができる。
【0046】
ライン4経由で、ジエチルカルボナート、未転化エタノール、モノエチレングリコール、未転化エチレンカルボナートおよび2−エトキシエタノール不純物を含む反応器2からの反応混合物を蒸留塔5に供給する。蒸留塔5において、前記混合物を、ライン6経由で取り出されるジエチルカルボナート、エタノールおよび2−エトキシエタノール不純物を含む塔頂留分と、ライン7経由で取り出されるモノエチレングリコールおよびエチレンカルボナートを含む塔底留分とに分ける。
【0047】
蒸留塔5からの塔頂流を蒸留塔8に送り、この蒸留塔8において、エチル2−エトキシエチルカルボナートと、ことによるとジ(2−エトキシエチル)カルボナートとを含む炭酸エーテル不純物が生成される2−エトキシエタノール不純物とジアルキルカルボナートの反応を生じさせるためにエステル交換反応触媒の存在下でエタノールおよびジエチルカルボナートへの分離を行って、アルカノールを含む塔頂流とジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流とを得る。
【0048】
エタノールをライン10経由で蒸留塔8から回収し、ライン1経由で反応器2に再循環させる。蒸留塔8からの塔底流を蒸留塔14での蒸留に付す。ジエチルカルボナートをライン15経由で吐出し、場合によりさらなる精製の後、製品として回収する。
【0049】
ジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む蒸留塔14からの塔底流をライン16経由で蒸留塔5に再循環させる。または、連続的にライン16および4経由で前記再循環を行うことができる(図示せず)。
【0050】
モノエチレングリコールおよびエチレンカルボナートに加えて炭酸エーテル不純物を含む流れである、ライン7における蒸留塔5からの塔底流を、蒸留塔11での蒸留に付す。蒸留塔11において、モノエチレングリコールおよび炭酸エーテル不純物を含む塔頂生成物をライン12経由で取り出す。前記塔頂生成物は、炭酸エーテル不純物およびことによると多少のエチレンカルボナートで汚染されているので、上で論じた加水分解をはじめとするさらなる精製を考慮してもよい(図1には示さない。)。
【0051】
さらに、エチレンカルボナートを含む塔底流をライン13経由で蒸留塔11から取り出し、この流れを、場合によりさらなる精製の後、ライン3経由で反応器2に部分的または完全に再循環させる。
【0052】
要約すると、本発明では、望ましくない不純物、即ち、アルコキシアルカノール不純物を、該アルコキシアルカノール不純物を含有するジアルキルカルボナートから容易に分離することができる化合物に転化させる。このジアルキルカルボナートを新たに形成された汚染物質、即ち炭酸エーテル不純物から分離するための追加の段階が、純粋なジアルキルカルボナートを得るために必要である。このような追加の分離は、多少のジアルキルカルボナートを喪失させる結果となり得る。しかし、ジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含有する流れを工程に再循環させることにより、ジアルキルカルボナートの総合収量の減少をできる限り防止する。
【0053】
さらに、本発明は、ジアリールカルボナートの製造方法に関し、上述の方法に従ってアルコキシアルカノール不純物が除去された流れである、ジアルキルカルボナートを含有する流れと、アリールアルコールを、エステル交換反応触媒の存在下で接触させる段階を含む方法に関する。
【0054】
さらにまた、本発明は、ジアリールカルボナートの製造方法であって、上述の方法の段階(a)から(f)を含み、さらに、
(h)エステル交換反応触媒の存在下で、アリールアルコールと、第四蒸留塔からのジアルキルカルボナートを含む塔頂流とを接触させる段階
を含む方法に関する。
【0055】
好ましくは、前記ジアリールカルボナートは、ジフェニルカルボナートであり、および前記アリールアルコールは、フェノールである。
【0056】
上で説明したエステル交換反応触媒および他のエステル交換反応条件は、ジアリールカルボナートの前記製造方法にも同等に適用できる。
【0057】
本発明を以下の実施例によってさらに例証する。
【実施例】
【0058】
0.8重量%のエチルオキシトール(EtOEtOH;2−エトキシエタノール)を含有する30gのジエチルカルボナート(DEC)と、亜鉛を含む6.08gの不均一系触媒とを、窒素下で丸底フラスコに入れた。得られた懸濁液を、大気圧下、磁器攪拌機で攪拌し、油浴で235分間、100℃で加熱した。触媒は、酸化亜鉛(約65重量%)と亜クロム酸亜鉛(約35重量%)の混合物である、BASFによって供給されたZN−0312 T 1/8(HT)触媒であった。
【0059】
冷却器をフラスコに取り付けて、反応混合物中の一切の軽量成分を保持した。実験開始時および終了時に反応混合物を採取し、GCクロマトグラフィーを用いて分析した。分析結果を下の表に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
上の表における結果から、2−エトキシエタノール汚染物質が定量的にエチル2−エトキシエチルカルボナートおよび微量のジ(2−エトキシエチル)カルボナートに転化されたことは明らかである。DECとエチル2−エトキシエチルカルボナートの間のおよびDECとジ(2−エトキシエチル)カルボナートの間の沸点の差は、前述のより高い沸点のカルボナートをDECから容易に除去し、結果として純粋なDECを得ることができる(本実施例の前の説明中の2番目の表を参照のこと。)ような差である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカンジオールおよびジアルキルカルボナートの調製方法であって、
(a)エステル交換反応触媒の存在下でアルキレンカルボナートとアルカノールを反応させて、ジアルキルカルボナート、未転化アルカノール、アルカンジオール、未転化アルキレンカルボナートおよびアルコキシアルカノール不純物を含む反応混合物を得る段階;
(b)反応混合物を第一蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナート、アルカノールおよびアルコキシアルカノール不純物を含む塔頂流ならびにアルカンジオールおよびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;
(c)第一蒸留塔からの塔底流を第二蒸留塔での蒸留に付して、アルカンジオールを含む塔頂流およびアルキレンカルボナートを含む塔底流を得る段階;
(d)第一蒸留塔からの塔頂流を触媒の存在下、第三蒸留塔での蒸留に付して、炭酸エーテル不純物が生成されるアルコキシアルカノール不純物とジアルキルカルボナートの反応を生じさせて、アルカノールを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および
(e)第三蒸留塔からの塔底流を第四蒸留塔での蒸留に付して、ジアルキルカルボナートを含む塔頂流ならびにジアルキルカルボナートおよび炭酸エーテル不純物を含む塔底流を得る段階;および
(f)第四蒸留塔からの塔底流を第一蒸留塔に再循環させる段階
を含む方法。
【請求項2】
ジアルキルカルボナートが、ジ(C−C)アルキルカルボナート、好ましくはジエチルカルボナートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(d)における触媒が、不均一系触媒、好ましくは、亜鉛を含む不均一系触媒である、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
アルキレンカルボナートが、エチレンカルボナートであり、未転化アルカノールが、エタノールであり、ジアルキルカルボナートが、ジエチルカルボナートであり、アルカンジオールが、モノエチレングリコールであり、およびアルコキシアルカノール不純物が、2−エトキシエタノールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ジアリールカルボナートの製造方法であって、請求項1から4のいずれか一項の方法に従ってアルコキシアルカノール不純物が除去された流れである、ジアルキルカルボナートを含有する流れと、アリールアルコールとを、エステル交換反応触媒の存在下で接触させることを含む方法。
【請求項6】
ジアリールカルボナートの製造方法であって、請求項1から4のいずれか一項の方法に従って段階(a)から(f)を含み、ならびに
(h)エステル交換反応触媒の存在下でアリールアルコールと第四蒸留塔からのジアルキルカルボナートを含む塔頂流とを接触させる段階
をさらに含む方法。
【請求項7】
ジアリールカルボナートが、ジフェニルカルボナートであり、およびアリールアルコールが、フェノールである、請求項5または6に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−510830(P2013−510830A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538357(P2012−538357)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067464
【国際公開番号】WO2011/058168
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】