説明

アルカンジスルホニルハライドの製造方法

【課題】アルカンジスルホニルハライドを工業的に容易に製造する方法を提供すること。
【解決手段】アルカンジスルホン酸とハロゲン化りん(V)とを、反応溶媒としてハロゲン化ホスホリルを用いて反応させることによる式(2):


(式中、RおよびRは、水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは、1〜4の整数を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)で表されるアルカンジスルホニルハライドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカンジスルホニルハライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカンジスルホニルハライドは、白血病動物治療薬等の医薬品として有用な環式ジスルホン酸エステルの製造原料として有用な化合物である。
【0003】
アルカンジスルホニルハライドの製造方法としては、種々の方法が知られている。例えば、酢酸とクロロ硫酸と塩化ホスホリルとを反応させる方法(非特許文献1参照)、メチレンジスルホン酸と五塩化りんとを反応させる方法(非特許文献2参照)等が知られている。
【0004】
しかしながらこれらの製造方法には種々の不具合な点がある。例えば、非特許文献1に記載の製造方法によると、高粘性物であるメタリン酸が副生し、反応時に撹拌が困難となるため、反応収率が不十分であり、また目的生成物の単離が困難であるという問題がある。また、非特許文献2に記載の製造方法によると、固体同士の反応であるため、反応制御が困難であり、また反応収率を高めるためには長時間を要するという問題がある。
【0005】
【非特許文献1】V.M.Fild und H.P.Rieck, Chem.-Ztg.,100,391(1976)
【非特許文献2】J.Am.Pham.Assoc.,26,485-493(1937)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルカンジスルホニルハライドを工業的に容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1〜4の整数を示し、nが2〜4の整数を示すとき、n個のRおよびn個のRは、それぞれ互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)で表されるアルカンジスルホン酸とハロゲン化りん(V)とを、反応溶媒としてハロゲン化ホスホリルを用いて反応させることを特徴とする、式(2):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、RおよびRは、それぞれ前記式(1)におけるRおよびRと同じ基を示し、nは、前記式(1)におけるnと同じ整数を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。)で表されるアルカンジスルホニルハライドの製造方法に関する。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いられるアルカンジスルホン酸は、下記式(1)で表される化合物である。
【0014】
【化3】

【0015】
式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示し、nは1〜4の整数を示す。
【0016】
なお、式(1)において、nが2〜4の整数を示すとき、n個のRおよびn個のRは、それぞれ互いに同一でもよく、または異なっていてもよい。
【0017】
およびRで示される、水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基及びトリフルオロメチル基等が挙げられる。これらの中で、RおよびRの好ましい例としては、水素原子、メチル基、エチル基およびn−プロピル基が挙げられる。
【0018】
本発明において、前記アルカンジスルホン酸は、市販のものを用いることができる。
【0019】
本発明に用いられるハロゲン化りん(V)としては、例えば、五塩化りんおよび五臭化りん等を挙げることができる。
【0020】
ハロゲン化りん(V)の使用割合は、特に限定されるものではないが、反応を円滑に進行させる観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、アルカンジスルホン酸1モルに対して1〜5モルの割合であることが好ましく、1.5〜3モルの割合であることがより好ましい。
【0021】
本発明において反応溶媒として用いられるハロゲン化ホスホリルとしては、例えば、塩化ホスホリルおよび臭化ホスホリル等を挙げることができる。これらの中でも、下記に説明するように反応溶媒として再利用が容易であることから、そのハロゲン原子が、反応に用いる前記ハロゲン化りん(V)のハロゲン原子と同一種であるハロゲン化ホスホリルが好適に用いられる。例えば、ハロゲン化りん(V)として五塩化りんが使用された場合、ハロゲン化ホスホリルとして塩化ホスホリルが好適に用いられる。
【0022】
本発明に係る前記アルカンジスルホン酸とハロゲン化りん(V)との反応では、本発明の目的生成物であるアルカンジスルホニルハライドと共にハロゲン化ホスホリルおよびハロゲン化水素が生成される。そこで、反応溶媒としてハロゲン化ホスホリルを用いる本発明において、反応物質としてのハロゲン化りん(V)におけるハロゲン原子と、反応溶媒としてのハロゲン化ホスホリルにおけるハロゲン原子とが同一種である場合、反応により生成されるハロゲン化ホスホリルは反応溶媒として用いたハロゲン化ホスホリルと同一の化合物となる。また、当該反応により生成されるハロゲン化水素は、通常、ハロゲン化ホスホリルから容易に除去することができる。したがって、当該両ハロゲン原子が同一種である場合、反応終了後の反応溶液に含まれるハロゲン化ホスホリルは容易に再利用することができる。
【0023】
前記ハロゲン化ホスホリルの使用量は、特に限定されるものではないが、反応を円滑に進行させる観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、アルカンジスルホン酸100重量部に対して50〜3000重量部であることが好ましく、100〜1000重量部であることがより好ましい。なお反応初期において、前記アルカンジスルホン酸またはハロゲン化りん(V)は、その全量が必ずしもハロゲン化ホスホリルに溶解しなくてもよい。たとえ反応系内に未溶解のアルカンジスルホン酸またはハロゲン化りん(V)が存在していたとしても、当該固形物は反応の進行と共に溶解するため、通常、反応は円滑に進行する。
【0024】
本発明において前記ハロゲン化ホスホリルは反応溶媒として用いられるが、必要に応じて、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒等の反応不活性な有機溶媒をハロゲン化ホスホリルに混合して用いてもよい。
【0025】
反応温度は、通常、0℃〜200℃であり、好ましくは30℃〜120℃である。また、反応時間は反応温度により異なるが、通常、0.5〜10時間である。
【0026】
かくして得られるアルカンジスルホニルハライドは、下記式(2)で表される化合物である。
【0027】
【化4】

【0028】
式(2)において、RおよびRは、それぞれ前記式(1)におけるRおよびRと同じ基を示し、nは、前記式(1)におけるnと同じ整数を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。
【0029】
式(2)において、Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子等が挙げられる。
【0030】
本発明で得られるアルカンジスルホニルハライドは、分別蒸留等の常法により単離、精製することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、アルカンジスルホニルハライドを工業的に容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
撹拌機、冷却管および温度計を備え付けた500ml容の四つ口フラスコにメタンジスルホン酸140.9g(0.8モル)および塩化ホスホリル150ml(246.8g)を仕込み、撹拌下、50℃で五塩化りん366.5g(1.76モル)を4時間かけて添加した。添加終了後、反応液を50℃に維持して30分間撹拌した。その後、115℃まで昇温して減圧下で未反応の塩化ホスホリルを留去し、引き続き同温度にてさらに減圧蒸留することにより、前記式(2)におけるRおよびRが共に水素原子であり、nが1であり、Xが塩素原子である、微黄色透明オイル状のメタンジスルホニルクロリド160.7gを得た。得られたメタンジスルホニルクロリドの収率は、メタンジスルホン酸に対して94.3モル%であった。
【0034】
なお、前記微黄色透明オイル状化合物が下記の物性を有することから、当該化合物はメタンジスルホニルクロリドであると同定した。
沸点:180℃/2Torr
H−NMR(400MHz、CDCl)δ(ppm):5.56(s,2H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1〜4の整数を示し、nが2〜4の整数を示すとき、n個のRおよびn個のRは、それぞれ互いに同一でもよく、異なっていてもよい。)で表されるアルカンジスルホン酸とハロゲン化りん(V)とを、反応溶媒としてハロゲン化ホスホリルを用いて反応させることを特徴とする、式(2):
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ前記式(1)におけるRおよびRと同じ基を示し、nは、前記式(1)におけるnと同じ整数を示す。Xは、ハロゲン原子を示す。)で表されるアルカンジスルホニルハライドの製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化ホスホリルが塩化ホスホリルである、請求項1に記載のアルカンジスルホニルハライドの製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化りん(V)が五塩化りんであり、式(2)におけるXが塩素原子である、請求項1または2に記載のアルカンジスルホニルハライドの製造方法。