説明

アルキレンオキシド重合触媒の製造方法およびポリ(アルキレンオキシド)の製造方法

【課題】アルキレンオキシド重合触媒の製造方法、および該製造方法によって製造された重合触媒を用いた、分子量の高いポリ(アルキレンオキシド)の製造方法を提供すること。
【解決手段】下アルモキサン化合物と水酸基を含有する化合物とを接触させる工程からなるアルキレンオキシド重合触媒の製造方法。以下の工程からなる予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の製造方法:
(1)アルモキサン化合物と、水酸基を含有する化合物とを接触させて、アルキレンオキシド重合触媒を製造する工程;
(2)該アルキレンオキシド重合触媒の存在下に、該触媒中のアルミニウム原子1モル当たりアルキレンオキシド0.1〜10モルを予備重合させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレンオキシド重合触媒の製造方法および分子量の高いポリ(アルキレンオキシド)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンオキシドの重合方法として、有機アルミニウム化合物を用いる重合方法が知られている。このような重合方法として、例えば、非特許文献1には、ビス(ジエチルアルミニウム)オキシド用いる重合方法が記載されており、非特許文献2には、トリイソブチルアルミニウムで修飾したメチルアルモキサンや固体化したメチルアルモキサンを用いる重合方法が記載されており、特許文献1には、アルキレンオキシドとランタノイド系錯体と有機アルミニウム化合物とを接触させる工程からなるアルキレンオキシドの重合方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−12351号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society / 89:1 / January 4,1967 173-174
【非特許文献2】Macromolecules 2003, 36, 5470-5481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の重合方法はいずれも、分子量の低いポリ(アルキレンオキシド)しか製造できない重合方法であり、分子量の高いポリ(アルキレンオキシド)を製造することができる重合方法が求められていた。
【0006】
かかる状況において本発明の目的は、アルキレンオキシド重合触媒の製造方法、および該製造方法によって製造された重合触媒を用いた、分子量の高いポリ(アルキレンオキシド)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、アルモキサン化合物と、水酸基を含有する化合物とを接触させる工程からなるアルキレンオキシド重合触媒の製造方法である。この製造方法を以下、「触媒製造方法1」と言う。
【0008】
また、本発明は、触媒製造方法1で製造されるアルキレンオキシド重合触媒の存在下に、アルキレンオキシドを重合させる工程からなるポリ(アルキレンオキシド)の製造方法である。この製造方法を以下、「ポリマー製造方法1」と言うことがある。
【0009】
更に、本発明は、以下の工程からなる予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の製造方法である:
(1)アルモキサン化合物と、水酸基を含有する化合物とを接触させて、アルキレンオキシド重合触媒を製造する工程;
(2)該アルキレンオキシド重合触媒の存在下に、該触媒中のアルミニウム原子1モル当たりアルキレンオキシド0.1〜10モルを予備重合させる工程。この製造方法を以下、「触媒製造方法2」と言うことがある。
【0010】
更にまた、本発明は、触媒製造方法2で製造される予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の存在下に、アルキレンオキシドを重合させる工程からなるポリ(アルキレンオキシド)の製造方法である。この製造方法を以下、「ポリマー製造方法2」と言うことがある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明におけるアルモキサン化合物とは、炭素原子とアルミニウム原子との直接結合を有し、且つ酸素原子とアルミニウム原子との直接結合も有する化合物を意味する。該アルモキサン化合物として、下式(1)又は下式(2)で表される化合物を例示することができる。
{−Al(E1)−O−}b (1)
2{−Al(E2)−O−}cAlE22 (2)
式中、E1は炭化水素基を表し、複数個のE1は互いに同じ又は異なる;bは2以上の整数を表す;E2は炭化水素基を表し、複数個のE2は互いに同じ又は異なる;cは1以上の整数を表す。
【0012】
1の炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜20の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。炭素数1〜20のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、およびネオペンチル基を例示することができる。中でも、好ましくはメチル基またはイソブチル基である。bは好ましくは2〜40の整数である。
【0013】
2の炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜20の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。炭素数1〜20のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、およびネオペンチル基を例示することができる。中でも、好ましくはメチル基またはイソブチル基である。cは好ましくは1〜40の整数である。
【0014】
式(1)又は式(2)で表される化合物の製造方法として、〔1〕トリメチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウムの、ベンゼンおよび脂肪族炭化水素のような有機溶剤の溶液と水とを接触させる公知の製造方法や、〔2〕硫酸銅水和物のような結晶水を含む金属塩と、トリメチルアルミニウムのようなトリアルキルアルミニウムとを接触させる公知の製造方法、を例示することができる。
【0015】
アルモキサン化合物は市販品であってもよい。市販品として、東ソー・ファインケム社製の、トリメチルアルミニウムから製造されたPMAO−SおよびTMAO−211、
トリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムとの混合物から製造されたMMAO−3A、MMAO−4およびTMAO−341、ならびにトリイソブチルアルミニウムから製造されたPBAOを例示することができる。また、Albemarle Corp.製の、トリメチルアルミニウムから製造された30%MAOトルエン溶液および10%MAOトルエン溶液を例示することができる。アルモキサン化合物は、好ましくはメチルアルモキサンである。
【0016】
本発明における水酸基を含有する化合物とは、分子内に1つまたは複数の水酸基を有する化合物であり、例えば、水、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、および糖類が挙げられる。
【0017】
アルコール類として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、およびn−オクタノールのような1価アルコール;ならびにエチレングリコールおよびプロピレングリコールのような2価アルコールを例示することができる。これらのアルコール類は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子のようなハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子で置換されたアルコール類として、フルオロメタノール、クロロメタノール、ブロモメタノール、ヨードメタノール、ジフルオロメタノール、ジクロロメタノール、ジブロモメタノール、ジヨードメタノール、トリフルオロメタノール、トリクロロメタノール、トリブロモメタノール、トリヨードメタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,2−トリクロロエタノール、2,2,2−トリブロモエタノール、2,2,2−トリヨードエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタクロロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタブロモプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタヨードプロパノール、2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエタノール、2,2,2−トリクロロ−1−トリクロロメチルエタノール、2,2,2−トリブロモ−1−トリブロモメチルエタノール、2,2,2−トリヨード−1−トリヨードメチルエタノール、1,1−ビス(トリフルオロメチル)−2,2,2−トリフルオロエタノール、1,1−ビス(トリクロロメチル)−2,2,2−トリクロロエタノール、1,1−ビス(トリブロモメチル)−2,2,2−トリブロモエタノール、および1,1−ビス(トリヨードメチル)−2,2,2−トリヨードエタノールを例示することができる。
【0018】
上記のフェノール類として、フェノールおよび置換基を有するフェノールを例示することができる。該置換基は好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子のようなハロゲン原子、またはハロゲン原子で置換されていても良い、アルキル基、アラルキル基、アリール基、シリル基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、もしくはシリルオキシ基である。具体的なフェノール類として、2−メチルフェノール、2−エチルフェノール、2−n−ブチルフェノール、2−イソブチルフェノール、2−t−ブチルフェノール、2−n−プロピルフェノール、2−イソプロピルフェノール、2−フェニルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2,6−ジ−n−ブチルフェノール、2,6−ジイソブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−n−プロピルフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、3,4,5−トリフルオロフェノール、3,4,5−トリス(トリフルオロメチル)フェノール、3,4,5−トリス(ペンタフルオロフェニル)フェノール、3,5−ジフルオロ−4−ペンタフルオロフェニルフェノール、4,5,6,7,8−ペンタフルオロ−2−ナフトール、3,4,5−トリクロロフェノール、3,4,5−トリス(トリクロロメチル)フェノール、3,4,5−トリス(ペンタクロロフェニル)フェノール、3,5−ジクロロ−4−ペンタクロロフェニルフェノール、4,5,6,7,8−ペンタクロロ−2−ナフトール、3,4,5−トリブロモフェノール、3,4,5−トリス(トリブロモメチル)フェノール、3,4,5−トリス(ペンタブロモフェニル)フェノール、3,5−ジブロモ−4−ペンタブロモフェニルフェノール、4,5,6,7,8−ペンタブロモ−2−ナフトール、3,4,5−トリヨードフェノール、3,4,5−トリス(トリヨードメチル)フェノール、3,4,5−トリス(ペンタヨードフェニル)フェノール、3,5−ジヨード−4−ペンタヨードフェニルフェノール、4,5,6,7,8−ペンタヨード−2−ナフトール、3,5−ジフルオロ−4−ニトロフェノール、3,5−ジクロロ−4−ニトロフェノール、3,5−ジブロモ−4−ニトロフェノール、3,5−ジヨード−4−ニトロフェノール、3,5−ジフルオロ−4−シアノフェノール、3,5−ジクロロ−4−シアノフェノール、3,5−ジブロモ−4−シアノフェノール、3,5−ジヨード−4−シアノフェノール、2,3,5,6−テトラクロロフェノール、2,3,5,6−テトラブロモフェノール、2,3,5,6−テトラヨードフェノール、ペンタフルオロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタブロモフェノールおよびペンタヨードフェノールを例示することができる。
【0019】
上記のカルボン酸類として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラク酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリル酸およびステアリン酸のような脂式飽和カルボン酸;トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、パーフルオロプロピオン酸、パーフルオロラク酸、パーフルオロ吉草酸、パーフルオロカプロン酸、パーフルオロラウリル酸およびパーフルオロステアリン酸のようなハロゲン原子で置換された脂式飽和カルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、およびエイコサペンタエン酸のような脂式不飽和カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタン酸、およびアジピン酸のような脂式ジカルボン酸;ならびに安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、およびケイ皮酸のような芳香族カルボン酸;パーフルオロ安息香酸、パーフルオロフタル酸、パーフルオロイソフタル酸、パーフルオロテレフタル酸およびパーフルオロサリチル酸のようなハロゲン原子で置換された芳香族カルボン酸を例示することができる。
【0020】
上記の糖類として、以下の(1)〜(6)を例示することができる。
(1)C2mの組成式を有する糖
(2)多価アルコール類
(3)上記の糖の、アルデヒド誘導体やケトン誘導体やカルボン酸誘導体
(4)上記の多価アルコール類の、アルデヒド誘導体やケトン誘導体やカルボン酸誘導体
(5)上記(1)〜(4)のそれぞれの、アセタール保護したもの
(6)上記(1)〜(4)のそれぞれの、ケタール保護したもの
【0021】
糖類の具体例として、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、クルコース、マンノース、グロース、イドース、およびガラクトースのようなアルドース類;ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、リブロース、キシルロース、ブシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、およびコリオースのようなケトース類;トレハロース、イソトレハロース、コージビオース、ソホロース、ニゲロース、ラミナリビオース、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、ラクトース、およびスクロースのような二糖類;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、および乳果オリゴ糖のようなオリゴ糖;デンプン、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、およびグルコマンナンのような多糖類;アスコルビン酸、グルクロノラクトン、グルコノラクトンのようなラクトン類;グリセリン、キシリトールおよびソルビトールのような糖アルコール類;グルコサミンおよびガラクトサミンのようなアミノ酸;グルクロン酸、ガラクツロン酸のようなウロン酸;ならびにデオキシリボース、フコースおよびラムノースのようなデオキシ糖を例示することができる。
【0022】
水酸基を含有する化合物は、好ましくは水、アルコール類、フェノール類またはカルボン酸類であり、より好ましくは水、フェノール類またはカルボン酸類であり、更に好ましくは水、ペンタフルオロフェノールまたはペンタフルオロ安息香酸である。
【0023】
本発明において、水酸基を含有する化合物の使用量は、該化合物の水酸基のモル数換算で(モル−OH)、使用されるアルモキサン化合物のアルミニウム原子1モルあたり(1モル−Al)、好ましくは0.05〜2モル-OH/モル-Al、より好ましくは0.1〜1モル-OH/モル-Alである。
【0024】
アルモキサン化合物と水酸基を含有する化合物とを接触させる温度は、通常−80〜100℃、好ましくは−30〜50℃、より好ましくは、0〜30℃である。
【0025】
該接触は溶媒中で行ってもよい。溶媒として、ベンゼン、トルエンおよびキシレンのような芳香族炭化水素溶媒;n−ヘキサンおよびn−ヘプタンのような脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサンのような脂環式炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼンおよびジクロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素溶媒;ならびにそれらの2以上の組合せを例示することができる。中でも、好ましくは芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒または脂環式炭化水素系溶媒であり、より好ましくはトルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサンまたはn−ヘプタンである。溶媒の使用量は、アルモキサン化合物1重量部に対して、通常10〜2000重量部、好ましくは100〜1000重量部である。
【0026】
本発明におけるアルキレンオキシドとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシド、3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド、メチルグリシジルカーボネート、エチルグリシジルカーボネート、コレステリルグリシジルカーボネート、及びこれらの2以上の組み合わせを例示することができる。中でも、好ましくはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシドまたはシクロヘキセンオキシドであり、より好ましくはプロピレンオキシドである。
【0027】
本発明のポリ(アルキレンオキシド)の製造方法として、連続式または回分式の、溶媒を用いる溶液重合法またはスラリー重合法、およびアルキレンオキシドの沸点以上の条件で行う気相重合法を例示することができる。溶媒として、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンのような脂肪族炭化水素;ベンゼンおよびトルエンのような芳香族炭化水素;ならびにメチレンジクロライドのようなハロゲン化炭化水素を例示することができる。
【0028】
アルキレンオキシドの重合温度は、好ましくは−70〜150℃、より好ましくは0〜50℃である。重合時間は一般に、ポリ(アルキレンオキシド)への転化率や、重合温度および重合液のモノマー濃度を考慮して適宜に決定され、通常1分〜100時間、好ましくは1〜80時間、より好ましくは24〜80時間である。
【0029】
また、本発明においては、上記アルキレンオキシド重合触媒の存在下に、該触媒中のアルミニウム原子1モル当たりアルキレンオキシド0.1〜10モルを上記重合条件と同様の条件下で予備重合させて、予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒を得、次いで、該予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の存在下に、アルキレンオキシドを上記重合条件と同様の条件下で重合させてポリ(アルキレンオキシド)を製造することができる。上記の「予備重合」なる用語は、予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒を用いる重合工程(本重合工程)の前に行われる、比較的少量のアルキレンオキシドを重合させる工程であるという観点から用いられる用語である。予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒を使うと、ポリ(アルキレンオキシド)の収率が向上される。
【0030】
本発明の製造方法によって得られるポリ(アルキレンオキシド)は分子量が高く、その数平均分子量(Mn)は、好ましくは100,000以上、より好ましくは500,000以上、更に好ましくは5,000,000以上である。
【0031】
本発明の製造方法によって、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、スチレンオキシド及びシクロヘキセンオキシドのようなアルキレンオキシドを重合させると、立体規則性の制御されたアイソタクチックポリ(アルキレンオキシド)が得られる。立体規則性は、13C−NMRを測定することにより、同定することができる。例えば、ポリ(プロピレンオキシド)の立体規則性に関しては、アメリカ化学会編「マクロモルキュールズ(Macromolecules)」1986年9月、第19巻、第5号、第1337頁〜第1343頁に詳細が記載されており、一般的にはメチン炭素の積分値より算出する。立体規則性が高いほど結晶性が優れており、規則性を示すアイソタクチックトライアッド分率(mm)が81%以上であることが好ましく、フィルムのような用途では90%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更に好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によって得られるポリ(アルキレンオキシド)は、例えばフィルム、特に、高分子量に基づく高い熱分解温度を生かした耐熱性フィルムに好適である。
【0033】
実施例
本発明を以下の実施例によって具体的に説明する。
【0034】
実施例1
窒素置換した50mLフラスコに、東ソー・ファインケム社製PMAO−S(アルモキサン化合物)のトルエン溶液を、PMAO−Sとして10.0mmol量り取り、脱水トルエン20mLで希釈した。室温下で脱気した水(水酸基を含有する化合物)36mg(2.0mmol)をこのトルエン溶液に撹拌しながら添加し、そのまま1時間撹拌を続ける。その後、揮発成分を減圧留去し、更に1時間真空乾燥させ白色粉末(アルキレンオキシド重合触媒)を得た。
窒素置換した100mLのフラスコにこの白色粉末49.8mgを入れ、脱水トルエン51.2mLに溶解し、更にプロピレンオキシド(アルキレンオキシド)6.0mLを加え、重合を開始した。35℃で72時間反応させた後、濃硫酸3.0mLを加え、重合を停止した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、油水分離した後、油相をロータリーエバポレーターにより液体を留去する事でポリ(プロピレンオキシド)を0.45g得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が15,320,000であり、重量平均分子量(Mw)が29,100,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.9であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,200であり、重量平均分子量(Mw)が2,300であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.9であるポリマーとが40.5:59.5のピーク強度比で出来ている事が解った。また、このポリマー混合物をアセトンを用いて高分子量部と低分子量部とに分離し、13C−NMR測定を行った結果、高分子量部は、99%以上のアイソタクチックトライアッドを有するアイソタクチックポリ(プロピレンオキシド)であり、低分子量部はアタクチックポリ(プロピレンオキシド)であることが解った。
【0035】
上記の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記の条件で測定した。また、検量線は標準ポリスチレンを用いて作成した。
測定機 日本分光社製 LC−2000PLUSシリーズ
カラム 東ソー社製 TSK−GELG−6000 1本、G−5000 1本、 G−4000 1本、およびG−3000HXL 1本を直 列に繋いだカラム
測定温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
サンプル濃度 70mg/mL

上記の13C NMRは、下記の条件で測定した。
測定機 日本電子社製 400MHzNMR
測定温度 23℃
溶媒 クロロホルム−d
サンプル量 10mg
【0036】
実施例2
実施例1で用いた水の代わりにペンタフルオロフェノール2.0mmolを用いた以外は実施例1と同様の方法で触媒の調整および重合を行った。その結果、ポリマーを0.43グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が5,890,000であり、重量平均分子量(Mw)が50,100,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が8.5であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,100であり、重量平均分子量(Mw)が1,800であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.6であるポリマーとが43.1:56.9のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0037】
実施例3
実施例1で用いた水の代わりにペンタフルオロ安息香酸2.0mmolを用いた以外は実施例1と同様の方法で触媒の調整および重合を行った。その結果、ポリマーを0.55グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が10,600,000であり、重量平均分子量(Mw)が21,200,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.0であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,300であり、重量平均分子量(Mw)が1,800であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.4であるポリマーとが36.5:63.5のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0038】
実施例4
実施例1で用いた水の代わりに、水2.0mmolを加え1時間攪拌した後にペンタフルオロフェノール2.0mmolを加えたこと以外は実施例1と同様の方法で触媒の調整および重合を行った。その結果、ポリマーを0.48グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が12,500,000であり、重量平均分子量(Mw)が161,000,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が12.9であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,200であり、重量平均分子量(Mw)が1,700であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.4であるポリマーとが41.4:58.6のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0039】
実施例5
実施例1で用いたPMAO−Sの代わりに東ソーファインケム社製MMAO−3Aを10.0mmolを用いた以外は実施例1と同様の方法で触媒の調整および重合を行った。その結果、ポリマーを0.93グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が7,990,000であり、重量平均分子量(Mw)が17,600,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.2であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,300であり、重量平均分子量(Mw)が1,800であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.4であるポリマーとが61.1:38.9のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0040】
実施例6
PMAO−Sを東ソーファインケム社製MMAO−3A10.0mmolに変更したこと、および水2.0mmolを水4.0mmolに変更したこと以外は実施例1と同様に行い、ポリマーを0.62グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が10,000,000であり、重量平均分子量(Mw)が24,100,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,300であり、重量平均分子量(Mw)が1,800であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.4であるポリマーとが69.7:30.3のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0041】
実施例7
PMAO−Sを東ソーファインケム社製MMAO−3A10.0mmolに変更したこと、および水2.0mmolを水5.0mmolに変更したこと以外は実施例1と同様に行い、ポリマーを0.45グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が7,310,000であり、重量平均分子量(Mw)が18,300,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.5であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,400であり、重量平均分子量(Mw)が2,100であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.5であるポリマーとが60.2:39.8のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0042】
実施例8
PMAO−Sを東ソーファインケム社製MMAO−3A10.0mmolに変更したこと、および水2.0mmolを水10.0mmolに変更したこと以外は実施例1と同様に行い、ポリマーを0.62グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が19,700,000であり、重量平均分子量(Mw)が39,400,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.0であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,500であり、重量平均分子量(Mw)が2,300であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.5であるポリマーとが40.9:59.1のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0043】
実施例1〜8の結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

触媒調製条件:アルモキサン使用量 = 10.0 mmol-Al, トルエン溶媒中、室温下、1時間攪拌後、真空乾燥
重合条件:使用触媒量 = 49.8 mg, 溶媒 トルエン = 51.2 mL, [PO]0 = 6.0 mL, 重合温度 = 35℃, 重合時間 = 72 hr.
【0045】
実施例9
窒素置換した50mLフラスコに東ソー・ファインケム社製PMAO−Sのトルエン溶液を10.0mmol量り取り、脱水トルエン20mLで希釈する。室温下で脱気した水36mg(2.0mmol)をこのトルエン溶液に撹拌しながら添加し、そのまま1時間撹拌を続ける。その後、この溶液を−70℃に冷却し、プロピレンオキシド1.4mL(20.0mmol)を添加する。その後、この溶液を室温4時間撹拌した後、揮発成分を減圧留去し、得られた固体を脱水ヘキサン20mLで2回洗浄し、更に1時間真空乾燥させることで、白色粉末(予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒)を得た。
窒素置換した100mLのフラスコにこの白色粉末177mgを入れ、脱水トルエン51.2mLに溶解し、更にプロピレンオキシド6.0mLを加え、重合を開始した。35℃で72時間反応させた後、濃硫酸3.0mLを加え、重合を停止した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、油水分離した後、油相をロータリーエバポレーターにより液体を留去する事でポリマーを0.59g得た。
得られたポリマーは、GPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が9,570,000であり、重量平均分子量(Mw)が23,000,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,300であり、重量平均分子量(Mw)が1,800であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.4であるポリマーとの67.3:32.7のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0046】
実施例10
実施例9で用いたPMAO−Sの代わりにMMAO−3Aを10.0mmolを用いた以外は実施例9と同様の方法で触媒の調整および重合を行った。その結果、ポリマーを0.99グラム得た。
得られたポリマーのGPC測定の結果、数平均分子量(Mn)が5,480,000であり、重量平均分子量(Mw)が12,100,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.2であるポリマーと、数平均分子量(Mn)が1,600であり、重量平均分子量(Mw)が2,100であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.3であるポリマーが74.2:25.8のピーク強度比で出来ている事が解った。
【0047】
実施例9、10の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

触媒調製条件:アルモキサン使用量 = 10.0 mmol-Al, 水酸基含有化合物 = 水, 2.0mmol,
トルエン溶媒中、室温下、1時間攪拌後、−76℃でPO = 20.0 mmolと4時間接触。
真空乾燥の後、脱水ヘキサンにて洗浄し、真空乾燥
重合条件:使用触媒量 = 177 mg, 溶媒 トルエン = 51.2 mL, [PO]0 = 6.0 mL, 重合温度 = 35℃,
重合時間 = 72 hr.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルモキサン化合物と水酸基を含有する化合物とを接触させる工程からなるアルキレンオキシド重合触媒の製造方法。
【請求項2】
水酸基を含有する化合物が水、ペンタフルオロフェノールまたはペンタフルオロ安息香酸である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法で製造されるアルキレンオキシド重合触媒の存在下に、アルキレンオキシドを重合させる工程からなるポリ(アルキレンオキシド)の製造方法。
【請求項4】
アルキレンオキシドがプロピレンオキシドである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
以下の工程からなる予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の製造方法:
(1)アルモキサン化合物と、水酸基を含有する化合物とを接触させて、アルキレンオキシド重合触媒を製造する工程;
(2)該アルキレンオキシド重合触媒の存在下に、該触媒中のアルミニウム原子1モル当たりアルキレンオキシド0.1〜10モルを予備重合させる工程。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法で製造される予備重合されたアルキレンオキシド重合触媒の存在下に、アルキレンオキシドを重合させるポリ(アルキレンオキシド)の製造方法。
【請求項7】
水酸基を含有する化合物が水、ペンタフルオロフェノールまたはペンタフルオロ安息香酸である請求項5または6記載の製造方法。
【請求項8】
アルキレンオキシドがプロピレンオキシドである請求項6記載の製造方法。