説明

アルコールからの硫黄化合物の除去方法

【課題】 硫黄化合物が飽和吸着した吸着剤の再使用を行うことにより、環境負荷が低減されたアルコールからの硫黄化合物の除去方法を提供する。
【解決手段】 本発明のアルコールからの硫黄化合物の除去方法は、硫黄化合物を含有するアルコールと、銀を担持した吸着剤とを接触させることにより、該アルコール中の硫黄化合物を吸着除去し、その後、溶離液及び/又は気体を流通させながら該吸着剤の温度を上昇させ、吸着剤に吸着した硫黄化合物を脱着させることにより該吸着剤より除去し、該吸着剤を反復使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール中に含まれる硫黄化合物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール類、中でも植物由来の糖類、デンプン、セルロース等の発酵により得られるエタノール、所謂バイオエタノールは、再生可能かつカーボン・ニュートラルな燃料ないし化学原料として汎用性が高く、地球環境保全上、極めて重要な化学物質である。化学原料としての用途の例としては、カルボン酸エチルエステルの製造、アセトアルデヒドの製造、ブタジエンの製造、エチレンの製造、エチルアミンの製造等を挙げることができる。
【0003】
しかしながら、バイオエタノールを、特に化学原料として利用する場合の問題点として、天然発酵物であることから、不可避的に微量不純物、中でもジメチルスルフィド(以下、DMSと略する。)、ジメチルジスルフィド等の有機硫黄化合物を含有するため、反応に使用する触媒の被毒を生起する点がある。中でもDMSは蒸留精製後のバイオエタノールにも微量ながら常に含有されているため、触媒被毒を回避するには何らかの方法により、これを除去してから触媒との反応に供する必要がある。従って、その為の方法として、従来より幾つかの提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1では、アルコールと銀あるいは銅を含有するゼオライト等の吸着剤を接触させる方法が提案されている。また、特許文献2では、アルコールを銀または酸化銀を担持した活性炭、アルミナ、シリカアルミナ等の吸着剤を接触させる方法が提案されている。しかしながら、これらの方法を実用に供する上での障害として、特に銀を有効成分とする吸着剤については、銀が高価な金属である事から、硫黄化合物が飽和吸着した吸着剤を使い捨てとする前提では経済的に成立し難い点がある。この観点から公知技術を見た場合、特許文献1の方法においては、硫黄化合物が飽和吸着した吸着剤の再使用については何等記載が無く、再使用は想定されていない事から実用的とは言い難く、特許文献2では吸着剤を400℃以上の高温で焼成し、吸着硫黄を除去する再生方法が提案されているものの、この方法ではエネルギー及び装置上の負荷が過大なものとなり、バイオエタノール使用の本来の目的である環境負荷低減の趣旨に矛盾する結果をもたらす事となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−515448号公報
【特許文献2】特許第2911961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、硫黄化合物が飽和吸着した吸着剤の再使用を行うことにより、環境負荷が低減されたアルコールからの硫黄化合物の除去方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記アルコールからの硫黄化合物の除去方法による硫黄化合物の除去工程を含む、上記アルコールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題点に鑑み、発明者は鋭意検討を重ねた結果、意外にもDMS等の有機硫黄化合物の銀への吸着は平衡反応であること、即ち硫黄化合物は系の温度変化に対応し、当該吸着剤への吸着、脱着を可逆的に反復し得ることを見出した。この現象を利用すれば、一旦、硫黄化合物が飽和吸着して吸着能力を失った吸着剤を加温することで吸着した硫黄化合物を脱着させた後、再度冷却するのみで硫黄化合物の吸着能力が復活する為、僅かなエネルギーで吸着剤の半永久的な反復使用が可能になる。
【0008】
すなわち、本発明は、硫黄化合物を含有するアルコールと、銀を担持した吸着剤とを接触させることにより、該アルコール中の硫黄化合物を吸着除去し、その後、溶離液及び/又は気体を流通させながら該吸着剤の温度を上昇させ、吸着剤に吸着した硫黄化合物を脱着させることにより該吸着剤より除去し、該吸着剤を反復使用することを特徴とするアルコールからの硫黄化合物の除去方法を提供する。
【0009】
硫黄化合物は、好ましくはジメチルスルフィドである。
【0010】
また、アルコールは、好ましくはエタノールである。
【0011】
また、吸着剤は銀イオンを担持した陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0012】
さらに、吸着剤に吸着した硫黄化合物を該吸着剤より除去する際の温度は200℃以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記アルコールからの硫黄化合物の除去方法による硫黄化合物の除去工程を含む、硫黄化合物含有量の低減されたアルコールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルコールからの硫黄化合物の除去方法によれば、再生可能かつカーボン・ニュートラルな燃料ないし化学原料として汎用性が高く、地球環境保全上、極めて重要な化学物質であるアルコール類、中でも植物由来の糖類、デンプン、セルロース等の発酵により得られるエタノール、所謂バイオエタノールを、触媒被毒を回避して、カルボン酸エチルエステルの製造、アセトアルデヒドの製造、ブタジエンの製造、エチレンの製造、エチルアミンの製造等の原料などとして使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[アルコールからの硫黄化合物の除去方法]
本発明のアルコールからの硫黄化合物の除去方法は、硫黄化合物を含有するアルコールと、銀を担持した吸着剤とを接触させることにより、該アルコール中の硫黄化合物を吸着除去し、その後、溶離液及び/又は気体を流通させながら該吸着剤の温度を上昇させ、吸着剤に吸着した硫黄化合物を脱着させることにより該吸着剤より除去し、該吸着剤を反復使用することを特徴とする。
【0016】
<アルコール>
本発明のアルコールからの硫黄化合物の除去方法に供されるアルコールとしては、不純物として有機硫黄化合物などの硫黄化合物を含むアルコールであれば特に限定されず、例えば、エタノール、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のモノオール(例えば、炭素数1〜10のモノオール、好ましくは炭素数1〜4のモノオール);エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール(例えば、炭素数1〜10の2〜6価のアルコール、好ましくは炭素数1〜4の2〜3価のアルコール)などを挙げる事が出来る。上記アルコールは、2種以上の混合物でもよい。また、これらは、0%(重量%、以下同)乃至50%程度の水分などの溶媒を含有するものであってもよい。
【0017】
<硫黄化合物>
硫黄化合物としては、特に限定されないが、特に有機硫黄化合物が挙げられる。有機硫黄化合物としては、C−S結合を有するアルキルスルフィド類が挙げられ、ジメチルスルフィド(DMS)、ジエチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド、ジ−n−プロピルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド等のスルフィド類(特に、炭素数2〜10の対称又は非対称ジアルキルスルフィド);ジメチルジスルフィド、ジメチルペルジスルフィド、2,3−ジチアブタン等のジスルフィド類;メタンチオール、エタンチオール等のチオール類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジプロピルスルホキシド、3−メチルチオ−1−プロパノール等のスルホキシド類(特に、C2-10−ジアルキルスルホキシド);又は、メチオニン、S−メチル−メチオニン等のS含有アミノ酸などが例示できる。なかでも、硫黄化合物としては、有機硫黄化合物として、天然発酵アルコールには普遍的に含有されるDMS、ジメチルジスルフィドが代表的なものとして挙げられる。
【0018】
吸着処理に付すアルコール中の硫黄化合物の含有量は、例えば0.1ppm超6000ppm以下、好ましくは0.1ppm超2000ppm以下、より好ましくは0.1ppm超500ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm超200ppm以下である。
【0019】
<吸着剤>
本発明において使用される、銀を担持した吸着剤としては、銀イオンによりイオン交換した陽イオン交換樹脂、銀イオン又は酸化銀をシリカ、アルミナ、ゼオライト、活性炭等の一般的な担体類に担持したものが挙げられる。また、陽イオン交換樹脂としては特に限定されず、市販の陽イオン交換樹脂が使用できる。銀イオンの陽イオン交換樹脂へのイオン交換(本明細書においてイオン交換を担持という場合がある)、及び、銀イオン又は酸化銀の担体への担持は、公知の方法ですることができる。銀イオンの担持量(含有量)としては、担体(イオン交換樹脂を含む)100重量部に対して銀単体の金属重量として、例えば、50重量部以下、好ましくは0.1〜30重量部、更に好ましくは0.1〜20重量部とすることができる。なお、陽イオン交換樹脂における銀イオンの担持量は乾燥重量基準である。
【0020】
吸着剤としては、中でも、銀イオン交換処理した陽イオン交換樹脂が、その調製に乾燥機、焼成炉のような特殊な装置・機器を必要とせず、再現性よく所望量の銀イオンを分散性よく担持できる事、陽イオン交換樹脂自体も安価かつ安定した品質の製品が容易に入手可能であること等から、最も好ましいものと言える。
【0021】
<吸着方法>
本発明の実施形態としては、吸着剤の充填層にアルコールを連続的に通液させる所謂充填塔方式が実用的には最も簡便、効率的であるが、懸濁床あるいは回分法等、一般に吸着操作に用いられる公知方式の何れでも実施可能である。吸着温度は室温が最も簡便であるが、吸着能力を上げる為、室温以下に冷却してもよい。吸着処理後のアルコール中の硫黄化合物の含有量は、例えば0.1ppm以下とすることができる。
【0022】
<吸着剤の再生>
本発明の特徴は、一旦、吸着剤に吸着した硫黄化合物を、溶離液及び/又は気体を流通させながら吸着剤の温度を上げ、脱着させて吸着能力を復活させ、吸着剤の再生反復使用を可能にする点にある。
【0023】
<溶離液又は気体>
吸着剤再生時に通液する溶離液としては、吸着処理に付した当該のアルコールであって硫黄化合物を含まないものをそのまま使用するのが最も簡便であるが、他の有機溶剤や水などの他の溶媒を用いる事も可能である。
【0024】
他の有機溶剤としては、グリコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、炭化水素系溶媒、これらの混合溶媒などが挙げられる。グリコール系溶媒には、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコール系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエチレングリコール系溶媒などが含まれる。エステル系溶媒には、乳酸エチルなどの乳酸エステル系溶媒;3−メトキシプロピオン酸メチルなどのプロピオン酸エステル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒などが挙げられる。ケトン系溶媒には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどが含まれる。エーテル系溶媒には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが含まれる。アミド系溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミドなどが含まれる。スルホキシド系溶媒には、ジメチルスルホキシドなどが含まれる。炭化水素系溶媒には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類などが含まれる。
【0025】
好ましい溶剤には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール;水;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶媒;乳酸エチルなどのエステル系溶媒;メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;及びこれらの混合溶媒が含まれる。
【0026】
吸着剤再生には、必ずしも液体を流通させる事は必須ではなく、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス;水蒸気;及びこれらの混合ガスなどの気体を流通させることでも、同様に目的を達する事ができる。これらのガスは空気などで希釈して用いても良い。吸着剤再生には、溶離液を通液させる処理と気体を流通させる処理の両方を行ってもよい。
【0027】
吸着剤再生時の温度は、高温ほど高濃度で硫黄化合物が遊離するので効率的であるが、エネルギー負荷、装置および吸着剤の耐熱性の制約を考慮して、200℃以下、好ましくは室温(例えば、25℃±2℃)から200℃、より好ましくは室温から120℃の範囲が好適である。さらに、溶離液を使用する場合には、吸着剤再生時の温度は室温から100℃の範囲とすることができ、気体を使用する場合には、50〜120℃とすることができる。
【0028】
溶離液の流量は、例えば、吸着剤20mLに対し、1〜10mL/分、好ましくは2〜6mL/分とすることができる。また、再生に必要な溶離液量は処理温度にもよるが、例えば、吸着剤20mLに対し、0.2〜3L程度、好ましくは0.5〜1.5Lである。
【0029】
ガスの流量は、処理温度において、例えば、吸着剤20mLに対し10000mL/分以下、好ましくは5000mL/分以下とすることができる。この量を上回ると、吸着設備に対し、ガス供給設備の負担が大きくなり不利となる。流量の下限は、吸着槽を複数設け切り替え運転する場合や間歇運転の場合は、脱着を長時間かけて低流量のガスで行うこともでき、そのような場合、吸着剤20mLに対し1mL/分以上とすることが、放熱による熱効率悪化を抑制できる。また、ガスによる吸着剤再生に必要な時間は、処理温度にもよるが、例えば0.5時間以上である。これにより脱着不足を抑制できる。上限は、やはり、吸着槽を複数設け切り替え運転する場合や間歇運転の場合は、脱着を長時間かけて低流量のガスで行うこともでき、そのような場合、4ヶ月以下とすることができる。これにより無用の樹脂劣化を抑制できる。
【0030】
上記のようにして再生された吸着剤では、上記と同様の吸着方法により、吸着処理後のアルコール中の硫黄化合物の含有量を、例えば0.1ppm以下とすることができる。
【0031】
[硫黄化合物含有量の低減されたアルコールの製造方法]
本発明の硫黄化合物含有量の低減されたアルコールの製造方法は、上記のアルコールからの硫黄化合物の除去方法による硫黄化合物の除去工程を含んでいる。このため、触媒被毒を回避して、カルボン酸エチルエステルの製造、アセトアルデヒドの製造、ブタジエンの製造、エチレンの製造、エチルアミンの製造等の原料などとして使用できる硫黄化合物含有量の低減されたアルコールを、環境への負荷を低減して製造できる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
(1) 酸型イオン交換樹脂であるアンバーリスト15(オルガノ株式会社製)20mLをジャケット付ガラス管(ガラス管の内径12mm、長さ200mm)に充填し、硝酸銀5gを溶解させた水溶液100mLを室温で管に通液して銀イオンを樹脂に担持した後、樹脂層を純水で洗浄した。この時、樹脂層の銀イオンの含有量は、17.6重量%であった。
(2) 樹脂層を室温(25℃)に保持し、発酵法エタノール(DMSを14ppmの濃度で含有;エタノール含有量 93重量%)を、流量4mL/分で通液し、流出液中のDMS濃度をガスクロマトグラフィーにて分析した。流出液中のDMS濃度は通液開始後62時間の間、検出限界である0.1ppm以下を維持した。DMSが破過するまでの通液量は14.9Lであった。
(3) 引き続き、ジャケットに80℃の温水を通液しながら、DMSを含まないエタノール(エタノール含有量 93重量%)を通液方向を逆にして流量4mL/分で流した。
(4) エタノールの通液量が1Lになった時点で、ジャケットに冷水を流して、樹脂層を室温まで冷却した。
(5) (2)と同条件で発酵法エタノールを樹脂層に通液した。DMSが破過するまでのエタノール通液量は11.9Lであった。
(6) 引き続き、(3)(4)と同様の脱着操作と(5)と同様の吸着操作を更に各3回繰り返した。
結果を第1表に、まとめて示した。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2]
(1) 実施例1と同様に銀イオンを担持した酸型イオン交換樹脂アンバーリスト15 (20mL)をステンレス製パイプ(内径6mm、長さ800mm)に充填した。
(2) 充填した樹脂層に室温で15ppmのDMSをふくむ発酵法エタノール(エタノール含有量 93重量%)を流量4mL/分で、流出液中のDMS濃度が0.1ppmを超えるまで流した。流したエタノールの総量は11.2Lであった。
(3) 樹脂層にエタノール通液方向とは逆向きに水蒸気を流量1000mL/分で約1時間通気した。この間、樹脂層の温度は約100℃に保持された。
(4) 樹脂層を室温まで冷却後、(2)と同様に15ppmのDMSをふくむ発酵法エタノールを流した。DMSの破過(DMS濃度0.1ppm以上)までに流したエタノール量は10.1Lであった。
(5) 引き続き、(3)と同様の脱着操作と(4)と同様の吸着操作を更に各3回繰り返した。
結果を第2表に、まとめて示した。
【0036】
【表2】

【0037】
[実施例3]
(1) 実施例1と同様に銀イオンを担持した酸型イオン交換樹脂アンバーリスト15 (20mL)をステンレス製パイプ(内径6mm、長さ800mm)に充填した。
(2) 充填した樹脂層に室温で15ppmのDMSをふくむ発酵法エタノール(エタノール含有量 93重量%)を流量4mL/分で流出液中のDMS濃度が0.1ppmを超えるまで流した。流したエタノールの総量は11.1Lであった。
(3) 樹脂層にエタノール通液方向とは逆向きに窒素ガス(100vol%)を流量1000mL/分で約1時間通気した。この間、ステンレス製パイプをテープヒーターで加熱する事により、樹脂層の温度を約110℃に保持した。
(4) 樹脂層を室温まで冷却後、(2)と同様に15ppmのDMSをふくむ発酵法エタノールを流した。DMSの破過(DMS濃度0.1ppm以上)までに流したエタノール量は10.4Lであった。
(5) 引き続き、(3)と同様の脱着操作と(4)と同様の吸着操作を更に各3回繰り返した。
結果を第3表に、まとめて示した。
【0038】
【表3】

【0039】
[実施例4]
(1) 市販の触媒用シリカ担体(富士シリシア製Q10;平均粒径3mm)20mLに硝酸銀水溶液(濃度16重量%、8mL)を含浸させ110℃で乾燥後、500℃で空気中焼成し、銀を10重量%(金属重量として)シリカビーズに担持した吸着剤を調製した。
(2) ジャケット付ガラス管(ガラス管の内径12mm、長さ200mm)に(1)の吸着剤を充填し、吸着剤層に室温で15ppmのDMSをふくむ発酵法エタノール(エタノール含有量 93重量%)を流量4mL/分で流出液中のDMS濃度が0.1ppmを超えるまで流した。流したエタノールの総量は4.4Lであった。
(3) 引き続き、ジャケットに80℃の温水を通液しながら、DMSを含まないエタノール(エタノール含有量 93重量%)を通液方向を逆にして流量4mL/分で流した。
(4) エタノールの通液量が0.5Lになった時点で、ジャケットに冷水を流して、樹脂層を室温まで冷却した。
(5) (2)と同条件で発酵法エタノールを樹脂層に通液した。DMSが破過するまでのエタノール通液量は3.6Lであった。
(6) 引き続き、(3)(4)と同様の脱着操作と(5)と同様の吸着操作を更に各3回繰り返した。
結果を第4表に、まとめて示した。
【0040】
【表4】

【0041】
[実施例5]
(1) 酸型イオン交換樹脂であるアンバーリスト15に銀イオンを乾燥重量基準で17.6重量%担持させた樹脂を、56重量%の水を含有する状態でジャケット付ガラス管(ガラス管の内径18mm)に25g充填した。充填後の樹脂高さは10cmであった。
(2) 温水をジャケットに通液して樹脂層を25℃に保持し、発酵法エタノール(DMSを5ppmの濃度で含有;エタノール含有量 93重量%、水分 7重量%)を、流量1.7mL/分で通液し、流出液中のDMS濃度をガスクロマトグラフィーにて分析した。流出液中のDMS濃度は通液開始後336時間の間、検出限界である0.1ppm以下を維持した。DMSが破過するまでの通液量は34.2Lであった。
(3)(2)の樹脂を脱イオン水で洗い、そのうち10gをステンレス製パイプ(内径8mm)に充填した。充填時の樹脂高さは、20cmであった。パイプに一定の速度(吸着剤20mL当たり、8785mL/分)で水蒸気を通気し、パイプ出口にはジャケットに水を流したガラス製コンデンサーを設け、パイプに吹き込んだ水蒸気を全て凝縮させた。得られた凝縮水の留出速度は155g/時間であった。パイプの出口部の温度は100℃であった。水蒸気通気は4時間継続した。凝縮水を分析し、終了時点ではDMSは検出されなかった。
(4)(3)の樹脂を水蒸気通気した樹脂をパイプから取り出し、DMS4000ppmを含有するエタノール(エタノール 93重量%、水 7重量%)25gと混合、室温(25℃)で震盪させながら10時間保持した。ろ過で樹脂と液を分離し、分離した液相中のDMSは6.5ppmに低下していた。(1)に使用したのと同じ樹脂10gを同様に操作すると、分離した液相中のDMSは6ppmであり、(3)の操作により吸着能力が回復していることが確認された。
【0042】
[実施例6]
(1)実施例5の(1)で用いたのと同じ酸型イオン交換樹脂であるアンバーリスト15に銀イオンを乾燥重量基準で17.6重量%担持させた樹脂10g(水分56重量%含有)を、DMS4000ppmを含有するエタノール(エタノール 93重量%、水 7重量%)25gと混合、室温(25℃)で震盪させながら10時間保持した。ろ過で樹脂と液を分離し、分離した液相中のDMSは6ppmに低下していた。分離した樹脂を水蒸気再生実験原料とした。
(2)(1)の樹脂を脱イオン水で洗い、ステンレス製パイプ(内径8mm)に充填した。充填時の樹脂高さは、20cmであった。パイプに一定の速度(吸着剤20mL当たり、4988mL/分)で水蒸気を通気し、パイプ出口にはジャケットに水を流したガラス製コンデンサーを設け、パイプに吹き込んだ水蒸気を全て凝縮させた。得られた凝縮水の留出速度は88g/時間であった。パイプの出口部の温度は100℃であり、出口には蒸気と凝縮水が混在した。水蒸気通気は5時間継続した。凝縮水を分析し、終了時点ではDMSは検出されなかった。また、3時間目までにDMSの排出が95%以上終了していた。
(3)水蒸気通気した樹脂をパイプから取り出し、DMS4000ppmを含有するエタノール(エタノール 93重量%、水 7重量%)25gと混合、室温(25℃)で震盪させながら10時間保持した。ろ過で樹脂と液を分離し、分離した液相中のDMSは6.5ppmに低下していた。
【0043】
[実施例7]
(1)実施例6の(1)と同じ操作を2度繰り返し、水蒸気再生実験原料とした。
(2)(1)の樹脂を脱イオン水で洗い、そのうち17.5gをステンレス製パイプ(内径8mm)に充填した。充填時の樹脂高さは、35cmであった。パイプに一定の速度(吸着剤20mL当たり、2332mL/分)で水蒸気を通気し、パイプ出口にはジャケットに水を流したガラス製コンデンサーを設け、パイプに吹き込んだ水蒸気を全て凝縮させた。得られた凝縮水の留出速度は72g/時間であった。パイプの出口部の温度は100℃であり、出口には蒸気と凝縮水が混在した。水蒸気通気は6時間継続した。凝縮水を分析し、終了時点ではDMSは検出されなかった。また、3時間目までにDMSの排出が95%以上終了していた。
(3)水蒸気通気したパイプから取り出した樹脂のうち10gをDMS4000ppmを含有するエタノール(エタノール 93重量%、水 7重量%)25gと混合、室温(25℃)で震盪させながら10時間保持した。ろ過で樹脂と液を分離し、分離した液相中のDMSは7ppmに低下していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含有するアルコールと、銀を担持した吸着剤とを接触させることにより、該アルコール中の硫黄化合物を吸着除去し、その後、溶離液及び/又は気体を流通させながら該吸着剤の温度を上昇させ、吸着剤に吸着した硫黄化合物を脱着させることにより該吸着剤より除去し、該吸着剤を反復使用することを特徴とするアルコールからの硫黄化合物の除去方法。
【請求項2】
硫黄化合物がジメチルスルフィドである、請求項1記載のアルコールからの硫黄化合物の除去方法。
【請求項3】
アルコールがエタノールである、請求項1又は2記載のアルコールからの硫黄化合物の除去方法。
【請求項4】
吸着剤が銀イオンを担持した陽イオン交換樹脂である請求項1〜3の何れかに記載のアルコールからの硫黄化合物の除去方法。
【請求項5】
吸着剤に吸着した硫黄化合物を該吸着剤より除去する際の温度が200℃以下である請求項1〜4の何れかに記載のアルコールからの硫黄化合物の除去方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のアルコールからの硫黄化合物の除去方法による硫黄化合物の除去工程を含む、硫黄化合物含有量の低減されたアルコールの製造方法。

【公開番号】特開2012−167087(P2012−167087A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14689(P2012−14689)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】