アルコールセンサ
【課題】感度が高く、応答性の良好な、光学式高分子薄膜アルコールセンサを提供すること。
【解決手段】例えば、シクロオレフィンポリマーなどの飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、ローダミンBベースなどのアルコールの存在または非存在に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなるアルコールセンサ、およびこのアルコールセンサをセンシング層12とし、これと低屈折率化合物からなる低屈折率層11とを組み合わせて導波モード23を構築したアルコールセンサ素子2。
【解決手段】例えば、シクロオレフィンポリマーなどの飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、ローダミンBベースなどのアルコールの存在または非存在に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなるアルコールセンサ、およびこのアルコールセンサをセンシング層12とし、これと低屈折率化合物からなる低屈折率層11とを組み合わせて導波モード23を構築したアルコールセンサ素子2。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲酒運転や酒気帯運転による重大事故が多発し、社会的な問題となっている。飲酒運転や酒気帯運転の抑止策の1つとして、アルコール検出装置によって運転者の呼気に含まれるアルコールの濃度を測定し、基準値以上のアルコール濃度が検出された運転手を検挙することが行われている。
また、バイオエタノールやメタノール型燃料電池において、アルコールの有無や濃度測定、アルコールの分離がますます重要になっている。
【0003】
これらのアルコールの検出に用いられるアルコールセンサとしては、現在、半導体センサが主流である。
また、近年、高感度の燃料電池センサが実用化されつつあり、このセンサを備えた乗用車等も実用化されはじめている。
さらに、アルコールセンサに、ソルバトクロミズムを利用したり(非特許文献1参照)、化学反応に基づく吸収・蛍光の変化を利用したり(非特許文献2)、光ファイバクラッド層の屈折率の変化を利用したり(非特許文献3)する手法なども提案されている。
【0004】
しかしながら、感度、選択性、応答性、電源の要否、価格および再現性などの種々の特性を考慮すると、いずれも一長一短である。
特に、化学反応に基づく吸収・蛍光の変化を利用するこれまでの光学式のセンサにおいては、吸収強度の変化率がわずかであるため感度が低く、道路交通法の規制値である呼気1L中に0.15mg(73ppm)という微量のアルコールを検出することは難しい。
この問題を解決するためには、膜厚を厚くして色素量を増加する必要があるが、膜厚(感度)と応答速度はトレードオフの関係となるため、膜厚を厚くすると、応答速度が著しく低下してしまうという問題がある。
【0005】
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 432, 2001年, 269-275
【非特許文献2】J. Mater. Chem., 9, 2259, 1999年
【非特許文献3】Meas. Sci. Technol. 12, 877, 2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、感度が高く、応答性の良好な、光学式高分子薄膜アルコールセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、飽和含水率の低いマトリックスポリマー中に、アルコールと反応して発色(発光)する色素を分散させてなる高分子薄膜が、アルコールセンサとして好適に使用可能であることを見出すとともに、この薄膜を低屈折率材料と組み合わせた上で、導波モードを構築することで、高感度かつ高応答性のアルコールセンサ素子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなることを特徴とするアルコールセンサ、
2. 前記色素が、ラクトン骨格、チオラクトン骨格、およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素である1のアルコールセンサ、
3. 前記色素が、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトンまたはフロオレセインクロリドである2のアルコールセンサ、
4. 前記マトリックスポリマーが、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマーまたは非晶性ポリマーである1〜3のいずれかのアルコールセンサ、
5. 前記シクロオレフィンポリマーが、ノルボルネンポリマーまたはトリシクロデカンポリマーである4のアルコールセンサ、
6. 前記色素が、0.5〜50質量%含まれる1〜5のいずれかのアルコールセンサ、
7. 前記薄膜の厚みが、50〜500nmである1〜6のいずれかのアルコールセンサ、
8. 誘電体と、1〜7のいずれかのアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、前記誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成されたことを特徴とするアルコールセンサ素子、
9. 前記低屈折率層の厚みが、200〜2000nmである8のアルコールセンサ素子、
10. 8または9のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、前記低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法、
11. 8または9のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、前記センシング層からの蛍光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源不要で、高感度・高速応答を可能とする可逆式の(繰り返し使用可能な)高分子薄膜アルコールセンサを提供できる。
さらに、このアルコールセンサを、センシング層として用い、低屈折率材料と組み合わせて導波モードを構築することで、数十ppmオーダーの微量のアルコールをも、センシング層中の色素の化学構造変化で引き起こされる導波モード条件変化あるいは蛍光強度変化に基づいて検出し得るアルコールセンサ素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るアルコールセンサは、飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなるものである。
【0011】
本発明において、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素としては、そのような特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、極性環境下で開環し、非極性環境下で閉環する、ラクトン骨格、チオラクトン骨格およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素が挙げられる。その具体例としては、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトン、フロオレセインクロリドなどが挙げられる。
また、ロイコマラカイトグリーン、ロイコクリスタルバイオレット等のトリフェンキルメタン系色素のロイコ体を用いることもできる。
【0012】
これらの色素の中でも、下記式に示されるように、非極性環境下ではラクトン骨格を有し、ほとんど無色であるのに対し、極性環境下ではラクトン環が開裂して分子内両イオン性のローダミン分子となって、可視域に非常に強い吸収と蛍光を示す、具体的には、542nmにおけるモル吸光係数が1700倍増加する、ローダミンBベースを用いることが好ましい。
なお、ローダミンBベースの反応の効率である転化率は水中で81.5%、エタノール中で70.6%と報告されている。
【0013】
【化1】
【0014】
以上で説明した色素は、極性環境で結合変化が生じるものであるため、水が存在する場合にも結合変化が生じる。このため、呼気や、水溶液中に含まれるアルコールを検出するにあたっては、水の影響を極力排除する必要が生じてくる。
本発明においては、この水の影響を排除し、アルコールに対する選択性を高めるべく、上記色素を分散させるマトリックスポリマーに、飽和含水率が2質量%以下、好ましくは0.4質量%以下のポリマーを用いる。なお、飽和含水率がより低いポリマーが好適であるが、0.4質量%以下ではセンシング性能はほとんど変わらない。
本発明における飽和含水率は、ASTM D−570,23℃,24時間による測定値である。
【0015】
このような飽和含水率の低いマトリックスポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマー、非晶性ポリマー等が挙げられるが、中でも、シクロオレフィンポリマーが好適である。
シクロオレフィンポリマーの具体例としては、ノルボルネンポリマー、トリシクロデカンポリマーが挙げられ、好適には、極性基を持たないノルボルネンポリマー、極性基を持つトリシクロデカンポリマー等が挙げられる。本発明で好適に用いることができるシクロオレフィンポリマーの市販品としては、極性基を持つトリシクロデカンポリマーであるARTON(登録商標、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)、極性基を持たないノルボルネンポリマーであるZEONEX,ZEONOR(登録商標、日本ゼオン(株)製、飽和含水率0.01質量%))等が挙げられる。
透明ビニルポリマーとしては、ポリスチレン等が挙げられる。
非晶性ポリマーとしては、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0016】
本発明において、アルコールセンサ中の色素量は、実用上十分な感度を有するセンサとすることを考慮すると、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。また、その上限は、特に限定されるものではないが、感度という点からは50質量%程度まで含有していれば好都合であり、マトリックスポリマーの構造が色素の分散性に影響するので製膜性などを考慮すると、極性基を持つポリマーでも33質量%程度までが好適である。
【0017】
本発明のアルコールセンサの製造法は、特に限定されるものではなく、従来公知の薄膜製造法を適宜用いることができる。
例えば、溶媒中で色素をマトリックスポリマーに分散させて試料溶液を調製し、この試料溶液を、ガラス基板等の適宜な基材上に塗布し、乾燥させて薄膜とする手法などが挙げられる。
【0018】
この場合、試料溶液の調製法は任意であり、溶媒、色素およびマトリックスポリマーを適宜な順序で混合すればよい。
溶媒としては、色素の結合変化を生じさせない溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
塗布法としては、バーコート法、リバース法、グラビア印刷法、マイクログラビア印刷法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの従来公知の塗布法の中から適宜選択して用いればよい。
【0019】
以上のような手法により作製したアルコールセンサ(薄膜)の厚みは、特に限定されるものではないが、アルコールの検出感度と、その応答速度とのバランスを考慮すると、50〜1000nmが好ましく、50〜800nmがより好ましく、50〜500nmがより一層好ましい。
【0020】
以上説明した本発明のアルコールセンサは、適宜な手法によりアルコールを含む被検査物と接触させると、その中の色素が結合変化を受けて発色および/または発光するため、特定波長における吸収変化を測定したり、放出された蛍光を測定したりすることで、アルコールの存在を確認することができる。
そして、本発明のアルコールセンサで用いる色素の結合変化は可逆的であり、センサを完全に乾燥させることで結合は元に戻るので、繰り返し使用することが可能である。
【0021】
また、本発明のアルコールセンサで用いる色素は、吸光係数の変動割合が比較的大きいため、比較的低濃度のアルコールでも検出することができる。
しかし、その検出量には限界があり、後述の実施例1(図8)に示されるように、通常の透過法を用いた場合では、アルコール濃度が1%以下程度まで低くなると、膜厚を厚くしなければ、その検出は困難になってくる。
現在の道路交通法の規制値は、呼気1L中に0.15mg(73ppm)という微量なものであるが、本発明のアルコールセンサを用いた場合でも、通常の透過法によってこの量のアルコールを、高感度かつ高応答速度(薄い膜厚で)で検出することは難しい。
【0022】
そこで、本発明では、上記アルコールセンサを、低屈折率材料と組み合わせてアルコールセンサ素子とし、この素子中で導波モードを構築することによって低濃度のアルコールを、高感度かつ高応答速度で検出できるような構成とする。
すなわち、本発明に係るアルコールセンサ素子は、誘電体と、上述したアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成される。
【0023】
ここで、誘電体としては、使用される入射光の波長に対して透明であるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、BK7、石英ガラス、高屈折率ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
特に、入射光の波長に対する屈折率が1.4〜3の範囲にある材質からなるものが好ましい。
誘電体の形状は任意であり、多角柱状、板状、ブロック状などの適宜な形状とすることができるが、三角柱状のプリズムが好適である。
【0024】
また、誘電体の屈折率(n1)と、低屈折率層の屈折率(n2)との差(n1−n2)は、0.05〜0.9が好ましい。
低屈折率層を構成する透明材料としては、誘電体よりも低屈折率のものであれば特に限定されるものではないが、含フッ素樹脂が好ましく、特に、C−H結合を有しない非結晶性の含フッ素樹脂が好適である。
具体的には、特公昭63−18964号公報に記載される含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂や、特開昭63−238111号公報および特開昭63−238115号公報に記載される、少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂などが挙げられる。
【0025】
また、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーとパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとを共重合することによって得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂を用いることもできる。
具体的には、国際公開第2005/024498号パンフレットに記載された含フッ素樹脂が挙げられる。
また、このような含フッ素樹脂は市販品としても入手することができ、例えば、CYTOP(登録商標、旭硝子(株)製)等がある。
【0026】
本発明のアルコールセンサ素子の製造法は特に限定されるものではなく、上述の低屈折材料を、スピンコート法などにより作製した薄膜と、上述したアルコールセンサからなるセンシング層と、誘電体とを適宜な手法により積層して作製すればよい。
この際、誘電体と同一の屈折率を有する基材表面に、スピンコート法などにより、低屈折率層およびセンシング層を順次積層し、この基材の反対面に誘電体を積層することで、製造工程を簡便化することができる。なお、この場合は、誘電体と、低屈折率層との間に基材が介在する構成となる。
【0027】
低屈折率層およびセンシング層の厚みはいずれも任意であるが、導波モードを構築するためには、それらの総厚みが入射光の波長の半分以上の厚みである必要がある。
特に、センシング層の厚みは、低濃度のアルコールに対する検出感度を高めることを考慮すると、50〜500nmが好ましく、50〜300nmがより好ましい。
低屈折率層の厚みは、入射光の波長と、センシング層の厚みとを考慮して適宜設定すればよいが、一般的には、200〜2000nm程度が採用される。
【0028】
本発明に係るアルコール検出方法は、上述したアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であり、具体的には、誘電体に、入射光を、この光が低屈折率層およびセンシング層に留まる角度、すなわち、導波モードが現れる角度、で照射する工程と、センシング層とアルコールとを接触させる工程と、低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を含むものである。
【0029】
ここで、入射光の入射角は、アルコールセンサ素子に光を照射した場合における、光の反射率の入射角依存性を測定し、反射率が最小になる角度を選択すればよい。
また、この反射率は、センシング層の消衰係数にも依存するものであり、後述する参考例に示されるように、消衰係数の増加により最初は低下し、ある特定の値(kcと称す)で殆どゼロとなり、その後、増加するという曲線を描く。
このkc値は、低屈折率層およびセンシング層の膜厚を変化させることで、10-6〜10-1の間で広く制御することができる。
本発明のアルコールセンサ素子においては、センシング層の消衰係数は任意であるが、これをkc値またはそれに近い値になるように色素量および/または各層の膜厚を調整すると、より微量のアルコールを感度良く検出することができるようになる。
【0030】
なお、入射光の波長は適宜設定すればよいが、センシング層の色素がアルコールの存在によって結合変化した場合に吸収を示す波長とすることが好適である。
また、センシング層をアルコールと接触させる手法は任意であり、公知の手法から適宜選択して採用すればよい。また、接触させるアルコールは、水溶液でもガスでもよい。
【0031】
このアルコール検出方法では、まず、反射率の入射角依存性を調べ、導波モードが現れる入射角を決定し、この入射角にて、He−Neレーザ光等の入射光を誘電体に照射する。これにより、低屈折率層およびセンシング層に入射光(の一部)が留まる導波モードが現れる。この状態で、センシング層にアルコールを接触させると、センシング層中の色素が結合変化し、その結果、センシング層の消衰係数が変動する。上述のように、反射率は消衰係数に依存しているため、センシング層の消衰係数の変動に応じて、反射率も変動する。この反射率の変動(反射光の強度変化)を測定することで、アルコールの存在を検出することができる。
【0032】
さらに、本発明では、上述したアルコールセンサ素子を用い、センシング層から放出される蛍光を測定してアルコールを検出することもできる。
すなわち、誘電体に、上述した導波モードが現れる角度で入射光を照射した状態で、センシング層にアルコールを接触させると、センシング層中の色素が結合変化し、その結果、センシング層から蛍光が発生するので、これを測定することで、アルコールの存在を検出することができる。
なお、この検出方法では、入射光の波長を、センシング層の色素がアルコールの存在によって結合変化した場合に蛍光を発する波長とする。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
色素であるローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、マトリックスポリマーであるシクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:10でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて試料溶液を調製した(固形分濃度5質量%)。
この試料溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転させてガラス基板上に製膜(膜厚:345nm)し、アルコールセンサを作製した。
【0034】
[実施例2]
ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:100でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて試料溶液を調製した(固形分濃度10質量%)。
この試料溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで60秒間回転させてガラス基板上に製膜(膜厚:910nm)し、アルコールセンサを作製した。
【0035】
[1]エタノールおよび水への浸漬時の吸収スペクトル
上記実施例1および2で得られたアルコールセンサについて、99.5体積%のエタノールに浸漬して吸収スペクトルを測定した(紫外可視近赤外分光光度計U4100、(株)日立製作所製、以下同様)。エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを図1および2に示す。
また、実施例1および2で得られたアルコールセンサについて、水に浸漬して吸収スペクトルを測定した。水への浸漬前後の吸収スペクトルを図3および4に示す。
【0036】
図1および図2に示されるように、実施例1および2で得られたアルコールセンサは、いずれもエタノールに浸すとローダミンBベースがローダミンBに変化し、550nm付近にピークが現れている。また、この変化は可逆的であるため、センサを乾燥すると元に戻っていることがわかる。
また、図3および図4に示されるように、実施例1および2で得られたアルコールセンサを水に浸漬した場合は、浸漬前後で吸収スペクトルに大きな変化は現れないことがわかる。これは、マトリックスポリマー(ARTON(登録商標))内に水が浸入できない結果、ローダミンBが極性環境下に晒されず、結合変化が生じなかったためであると推測される。
以上の結果から、水溶液や呼気のように水が存在する系でエタノールの選択的な検出ができることが示されているといえる。
【0037】
[2]エタノールへの浸漬時間と吸収スペクトル変化
実施例2で得られたアルコールセンサを、99.5質量%エタノールに浸漬した際の、550nm吸光度の時間変化および吸収スペクトル変化を測定した。吸光度の時間変化を図5に、吸収スペクトルの時間変化を図6に示す。
図5および図6に示されるように、この膜厚のアルコールセンサでは約1分間で平衡に達することがわかる。
【0038】
[3]繰り返し特性
実施例1で得られたアルコールセンサについて、99.5質量%エタノールに浸漬し、乾燥した後、さらに同エタノールに浸漬し、乾燥し、吸収スペクトルの変化を測定した。2回目のエタノール浸漬前後、および乾燥後の吸収スペクトルを図7に示す。
図7に示されるように、得られた吸収スペクトルは図1と同様であり、良好な繰り返し特性を示すことがわかる。
【0039】
[4]吸光度変化のエタノール濃度依存性
実施例1で得られたアルコールセンサについて、550nmの吸光度変化のエタノール濃度依存性を測定した。結果を図8に示す。
図8に示されるように、1〜99.5質量%のエタノールで良好な直線性が観測されたが、1質量%溶液での吸光度変化は0.0002で、通常の吸収測定ではほぼ限界であることがわかる。
道路交通法の規制値である呼気1L中に0.15mgは、73ppmに相当し、通常の透過法による直接測定では検出が困難であるといえる。
【0040】
[参考例]
図9に示される素子1を下記の手順で作製した。
誘電体である光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板10の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の9質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:800nm)し、低屈折率層11(543nmでの屈折率1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層11の上に、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)の3.5質量%シクロヘキサノン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:250nm)し、センシング層12を積層した。
さらに、光学ガラス基板10の反対の面に、三角柱状の光学硝子(BK7)製プリズム13を配置し、素子1を作製した。
【0041】
この素子1について、入射光である543nmのHe−Neレーザ20を、角度を変えて照射した際の反射率(反射光21の強度)の入射角依存性をシミュレーションした。その計算曲線を図10に示す。
ここで、ARTON(登録商標、JSR(株)製)の複素屈折率n*=1.51+kiで、kは消衰係数、iは虚数単位である。図10には、k=0、0.0001、0.0002、0.0004の結果を示してある。
図10に示されるように、特定の入射角(約64.65°)で導波モード23が形成されているとともに、その反射率が消衰係数kに依存して低下していることがわかる。
【0042】
次に、上記素子1において、センシング層12にローダミンBベース添加し、その分散量を変えることでセンシング層の消衰係数を変化させて、543nmでの透過率(T)および導波モード反射率(R)の消衰係数依存性を測定した。その結果を図11に示す。
図11に示されるように、導波モード反射率(R)は消衰係数kの増加により最初は低下し、ある値(kcと称す)で最小値(ほぼゼロ)となり、その後増加していくことがわかる。このkc値は、低屈折率層11およびセンシング層12の膜厚によって広い範囲(10-6〜10-1)で制御できる。
また、k<10-3の範囲では、膜厚を増加させないと透過法(T)では検出が困難になることがわかる。
この結果から、より低濃度検出と応答速度とを両立させるには、導波モードの利用が必要となることがわかる。
この際、製膜時の消衰係数がkc値に(あるいは非常に近く)なるように各膜厚を最適化すると、ppmオーダーのアルコールによる微小な吸光度変化も検出できるようになる。
【0043】
[実施例3]
図12に示されるアルコールセンサ素子2を下記の手順で作製した。
光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板10の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の7質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:490nm)し、低屈折率層11(543nmでの屈折率:1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層11の上に、ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:100でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて調製した試料溶液(固形分濃度5質量%)を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:100nm)し、センシング層12を積層した。
さらに、光学ガラス基板10の反対の面に、三角柱状の光学ガラス(BK7)製プリズム13を配置し、アルコールセンサ素子2を作製した。
【0044】
このアルコールセンサ素子2に、543nmのHe−Neレーザ20を、導波モード23が生じる角度61.0°で入射した状態で、センシング層12を99.5質量%のエタノールと接触させ、反射率の時間変化(反射光21の強度変化)を測定した。その結果を図13に示す。
図13の結果から、応答時間は約0.4秒であり、透過法を用いた実施例2の結果(図5および6)に比べて著しく速くなっていることがわかる。
【0045】
さらに、上記と同様にして導波モード23が生じた状態で、センシング層12を0質量%(水のみ)、1質量%、5質量%のエタノールにそれぞれ接触させ、反射率の時間変化を測定した。結果を図14に示す。
図14に示されるように、0質量%(水のみ)では応答しないが、1質量%、5質量%のエタノールでは応答が確認され、その応答時間は約2秒であることがわかる。
【0046】
[実施例4]
光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の9質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:830nm)し、低屈折率層(543nmでの屈折率:1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層の上に、ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:10でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて調製した試料溶液(固形分濃度3.5質量%)を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:210nm)し、センシング層を積層した。
さらに、光学ガラス基板の反対の面に、三角柱状の光学硝子(BK7)製プリズムを配置し、図12と同様の構成のアルコールセンサ素子を作製した。
【0047】
このアルコールセンサ素子について、543nmのHe−Neレーザの入射角依存性を測定した。結果を図15に示す。図15から、約63°に導波モードが観測されていることがわかる。
次に、このアルコールセンサ素子を、54ppmのエタノール/窒素ガス(流量100 mL/min)に接触させ、その反射率の時間変化を測定した。その結果を図16に示す。
また、窒素ガスのみを0、50、100、200、500mL/minの流速で流したときの反射率の時間変化を測定した。その結果を図17に示す。
図16に示されるように、約1%の強度変化が観測され、54ppmという極微量のエタノールも検出可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のアルコールセンサにおける、エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例2のアルコールセンサおける、エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1のアルコールセンサにおける、水への浸漬前後の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2のアルコールセンサにおける、水への浸漬前後の吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2のアルコールセンサにおける、550nm吸光度の時間変化を示す図である。
【図6】実施例2のアルコールセンサにおける、アルコール中の吸収スペクトルの時間変化および乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図7】実施例1のアルコールセンサにおける、2回目のエタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例1のアルコールセンサにおける、550nmの吸光度変化のエタノール濃度依存性を示す図である。
【図9】参考例に係る素子の概略断面図である。
【図10】CYTOP(登録商標)およびARTON(登録商標)を組み合わせた素子における、543nmHe−Neレーザの入射角依存性のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】CYTOP(登録商標)およびARTON(登録商標)を組み合わせた素子における543nmでの透過率(T)および導波モード反射率(R)の消衰係数依存性を示す図である。
【図12】実施例3に係るアルコールセンサ素子の概略断面図である。
【図13】実施例3のアルコールセンサ素子を、導波モードで99.5質量%のエタノールに接触させたときの反射率の時間変化を示す図である。
【図14】実施例3のアルコールセンサ素子を、導波モードで0質量%(水)、1質量%、5質量%のエタノールに接触させたときの反射率の時間変化を示す図である。
【図15】実施例4のアルコールセンサ素子における、543nmのHe−Neレーザの入射角依存性を示す図である。
【図16】実施例4のアルコールセンサ素子を、54ppmのエタノール/窒素ガスに接触させときの反射率の時間変化を示す図である。
【図17】実施例4のアルコールセンサ素子を、窒素ガスに接触させときの反射率の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
2 アルコールセンサ素子
11 低屈折率層
12 センシング層(アルコールセンサ)
13 プリズム(誘電体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲酒運転や酒気帯運転による重大事故が多発し、社会的な問題となっている。飲酒運転や酒気帯運転の抑止策の1つとして、アルコール検出装置によって運転者の呼気に含まれるアルコールの濃度を測定し、基準値以上のアルコール濃度が検出された運転手を検挙することが行われている。
また、バイオエタノールやメタノール型燃料電池において、アルコールの有無や濃度測定、アルコールの分離がますます重要になっている。
【0003】
これらのアルコールの検出に用いられるアルコールセンサとしては、現在、半導体センサが主流である。
また、近年、高感度の燃料電池センサが実用化されつつあり、このセンサを備えた乗用車等も実用化されはじめている。
さらに、アルコールセンサに、ソルバトクロミズムを利用したり(非特許文献1参照)、化学反応に基づく吸収・蛍光の変化を利用したり(非特許文献2)、光ファイバクラッド層の屈折率の変化を利用したり(非特許文献3)する手法なども提案されている。
【0004】
しかしながら、感度、選択性、応答性、電源の要否、価格および再現性などの種々の特性を考慮すると、いずれも一長一短である。
特に、化学反応に基づく吸収・蛍光の変化を利用するこれまでの光学式のセンサにおいては、吸収強度の変化率がわずかであるため感度が低く、道路交通法の規制値である呼気1L中に0.15mg(73ppm)という微量のアルコールを検出することは難しい。
この問題を解決するためには、膜厚を厚くして色素量を増加する必要があるが、膜厚(感度)と応答速度はトレードオフの関係となるため、膜厚を厚くすると、応答速度が著しく低下してしまうという問題がある。
【0005】
【非特許文献1】Analytica Chimica Acta 432, 2001年, 269-275
【非特許文献2】J. Mater. Chem., 9, 2259, 1999年
【非特許文献3】Meas. Sci. Technol. 12, 877, 2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、感度が高く、応答性の良好な、光学式高分子薄膜アルコールセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、飽和含水率の低いマトリックスポリマー中に、アルコールと反応して発色(発光)する色素を分散させてなる高分子薄膜が、アルコールセンサとして好適に使用可能であることを見出すとともに、この薄膜を低屈折率材料と組み合わせた上で、導波モードを構築することで、高感度かつ高応答性のアルコールセンサ素子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなることを特徴とするアルコールセンサ、
2. 前記色素が、ラクトン骨格、チオラクトン骨格、およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素である1のアルコールセンサ、
3. 前記色素が、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトンまたはフロオレセインクロリドである2のアルコールセンサ、
4. 前記マトリックスポリマーが、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマーまたは非晶性ポリマーである1〜3のいずれかのアルコールセンサ、
5. 前記シクロオレフィンポリマーが、ノルボルネンポリマーまたはトリシクロデカンポリマーである4のアルコールセンサ、
6. 前記色素が、0.5〜50質量%含まれる1〜5のいずれかのアルコールセンサ、
7. 前記薄膜の厚みが、50〜500nmである1〜6のいずれかのアルコールセンサ、
8. 誘電体と、1〜7のいずれかのアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、前記誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成されたことを特徴とするアルコールセンサ素子、
9. 前記低屈折率層の厚みが、200〜2000nmである8のアルコールセンサ素子、
10. 8または9のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、前記低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法、
11. 8または9のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、前記センシング層からの蛍光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源不要で、高感度・高速応答を可能とする可逆式の(繰り返し使用可能な)高分子薄膜アルコールセンサを提供できる。
さらに、このアルコールセンサを、センシング層として用い、低屈折率材料と組み合わせて導波モードを構築することで、数十ppmオーダーの微量のアルコールをも、センシング層中の色素の化学構造変化で引き起こされる導波モード条件変化あるいは蛍光強度変化に基づいて検出し得るアルコールセンサ素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係るアルコールセンサは、飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなるものである。
【0011】
本発明において、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素としては、そのような特性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、極性環境下で開環し、非極性環境下で閉環する、ラクトン骨格、チオラクトン骨格およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素が挙げられる。その具体例としては、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトン、フロオレセインクロリドなどが挙げられる。
また、ロイコマラカイトグリーン、ロイコクリスタルバイオレット等のトリフェンキルメタン系色素のロイコ体を用いることもできる。
【0012】
これらの色素の中でも、下記式に示されるように、非極性環境下ではラクトン骨格を有し、ほとんど無色であるのに対し、極性環境下ではラクトン環が開裂して分子内両イオン性のローダミン分子となって、可視域に非常に強い吸収と蛍光を示す、具体的には、542nmにおけるモル吸光係数が1700倍増加する、ローダミンBベースを用いることが好ましい。
なお、ローダミンBベースの反応の効率である転化率は水中で81.5%、エタノール中で70.6%と報告されている。
【0013】
【化1】
【0014】
以上で説明した色素は、極性環境で結合変化が生じるものであるため、水が存在する場合にも結合変化が生じる。このため、呼気や、水溶液中に含まれるアルコールを検出するにあたっては、水の影響を極力排除する必要が生じてくる。
本発明においては、この水の影響を排除し、アルコールに対する選択性を高めるべく、上記色素を分散させるマトリックスポリマーに、飽和含水率が2質量%以下、好ましくは0.4質量%以下のポリマーを用いる。なお、飽和含水率がより低いポリマーが好適であるが、0.4質量%以下ではセンシング性能はほとんど変わらない。
本発明における飽和含水率は、ASTM D−570,23℃,24時間による測定値である。
【0015】
このような飽和含水率の低いマトリックスポリマーとしては、例えば、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマー、非晶性ポリマー等が挙げられるが、中でも、シクロオレフィンポリマーが好適である。
シクロオレフィンポリマーの具体例としては、ノルボルネンポリマー、トリシクロデカンポリマーが挙げられ、好適には、極性基を持たないノルボルネンポリマー、極性基を持つトリシクロデカンポリマー等が挙げられる。本発明で好適に用いることができるシクロオレフィンポリマーの市販品としては、極性基を持つトリシクロデカンポリマーであるARTON(登録商標、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)、極性基を持たないノルボルネンポリマーであるZEONEX,ZEONOR(登録商標、日本ゼオン(株)製、飽和含水率0.01質量%))等が挙げられる。
透明ビニルポリマーとしては、ポリスチレン等が挙げられる。
非晶性ポリマーとしては、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0016】
本発明において、アルコールセンサ中の色素量は、実用上十分な感度を有するセンサとすることを考慮すると、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。また、その上限は、特に限定されるものではないが、感度という点からは50質量%程度まで含有していれば好都合であり、マトリックスポリマーの構造が色素の分散性に影響するので製膜性などを考慮すると、極性基を持つポリマーでも33質量%程度までが好適である。
【0017】
本発明のアルコールセンサの製造法は、特に限定されるものではなく、従来公知の薄膜製造法を適宜用いることができる。
例えば、溶媒中で色素をマトリックスポリマーに分散させて試料溶液を調製し、この試料溶液を、ガラス基板等の適宜な基材上に塗布し、乾燥させて薄膜とする手法などが挙げられる。
【0018】
この場合、試料溶液の調製法は任意であり、溶媒、色素およびマトリックスポリマーを適宜な順序で混合すればよい。
溶媒としては、色素の結合変化を生じさせない溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
塗布法としては、バーコート法、リバース法、グラビア印刷法、マイクログラビア印刷法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの従来公知の塗布法の中から適宜選択して用いればよい。
【0019】
以上のような手法により作製したアルコールセンサ(薄膜)の厚みは、特に限定されるものではないが、アルコールの検出感度と、その応答速度とのバランスを考慮すると、50〜1000nmが好ましく、50〜800nmがより好ましく、50〜500nmがより一層好ましい。
【0020】
以上説明した本発明のアルコールセンサは、適宜な手法によりアルコールを含む被検査物と接触させると、その中の色素が結合変化を受けて発色および/または発光するため、特定波長における吸収変化を測定したり、放出された蛍光を測定したりすることで、アルコールの存在を確認することができる。
そして、本発明のアルコールセンサで用いる色素の結合変化は可逆的であり、センサを完全に乾燥させることで結合は元に戻るので、繰り返し使用することが可能である。
【0021】
また、本発明のアルコールセンサで用いる色素は、吸光係数の変動割合が比較的大きいため、比較的低濃度のアルコールでも検出することができる。
しかし、その検出量には限界があり、後述の実施例1(図8)に示されるように、通常の透過法を用いた場合では、アルコール濃度が1%以下程度まで低くなると、膜厚を厚くしなければ、その検出は困難になってくる。
現在の道路交通法の規制値は、呼気1L中に0.15mg(73ppm)という微量なものであるが、本発明のアルコールセンサを用いた場合でも、通常の透過法によってこの量のアルコールを、高感度かつ高応答速度(薄い膜厚で)で検出することは難しい。
【0022】
そこで、本発明では、上記アルコールセンサを、低屈折率材料と組み合わせてアルコールセンサ素子とし、この素子中で導波モードを構築することによって低濃度のアルコールを、高感度かつ高応答速度で検出できるような構成とする。
すなわち、本発明に係るアルコールセンサ素子は、誘電体と、上述したアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成される。
【0023】
ここで、誘電体としては、使用される入射光の波長に対して透明であるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、BK7、石英ガラス、高屈折率ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
特に、入射光の波長に対する屈折率が1.4〜3の範囲にある材質からなるものが好ましい。
誘電体の形状は任意であり、多角柱状、板状、ブロック状などの適宜な形状とすることができるが、三角柱状のプリズムが好適である。
【0024】
また、誘電体の屈折率(n1)と、低屈折率層の屈折率(n2)との差(n1−n2)は、0.05〜0.9が好ましい。
低屈折率層を構成する透明材料としては、誘電体よりも低屈折率のものであれば特に限定されるものではないが、含フッ素樹脂が好ましく、特に、C−H結合を有しない非結晶性の含フッ素樹脂が好適である。
具体的には、特公昭63−18964号公報に記載される含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーを重合して得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂や、特開昭63−238111号公報および特開昭63−238115号公報に記載される、少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合して得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂などが挙げられる。
【0025】
また、パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)等の含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーとパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも2つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーとを共重合することによって得られる、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する樹脂を用いることもできる。
具体的には、国際公開第2005/024498号パンフレットに記載された含フッ素樹脂が挙げられる。
また、このような含フッ素樹脂は市販品としても入手することができ、例えば、CYTOP(登録商標、旭硝子(株)製)等がある。
【0026】
本発明のアルコールセンサ素子の製造法は特に限定されるものではなく、上述の低屈折材料を、スピンコート法などにより作製した薄膜と、上述したアルコールセンサからなるセンシング層と、誘電体とを適宜な手法により積層して作製すればよい。
この際、誘電体と同一の屈折率を有する基材表面に、スピンコート法などにより、低屈折率層およびセンシング層を順次積層し、この基材の反対面に誘電体を積層することで、製造工程を簡便化することができる。なお、この場合は、誘電体と、低屈折率層との間に基材が介在する構成となる。
【0027】
低屈折率層およびセンシング層の厚みはいずれも任意であるが、導波モードを構築するためには、それらの総厚みが入射光の波長の半分以上の厚みである必要がある。
特に、センシング層の厚みは、低濃度のアルコールに対する検出感度を高めることを考慮すると、50〜500nmが好ましく、50〜300nmがより好ましい。
低屈折率層の厚みは、入射光の波長と、センシング層の厚みとを考慮して適宜設定すればよいが、一般的には、200〜2000nm程度が採用される。
【0028】
本発明に係るアルコール検出方法は、上述したアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であり、具体的には、誘電体に、入射光を、この光が低屈折率層およびセンシング層に留まる角度、すなわち、導波モードが現れる角度、で照射する工程と、センシング層とアルコールとを接触させる工程と、低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を含むものである。
【0029】
ここで、入射光の入射角は、アルコールセンサ素子に光を照射した場合における、光の反射率の入射角依存性を測定し、反射率が最小になる角度を選択すればよい。
また、この反射率は、センシング層の消衰係数にも依存するものであり、後述する参考例に示されるように、消衰係数の増加により最初は低下し、ある特定の値(kcと称す)で殆どゼロとなり、その後、増加するという曲線を描く。
このkc値は、低屈折率層およびセンシング層の膜厚を変化させることで、10-6〜10-1の間で広く制御することができる。
本発明のアルコールセンサ素子においては、センシング層の消衰係数は任意であるが、これをkc値またはそれに近い値になるように色素量および/または各層の膜厚を調整すると、より微量のアルコールを感度良く検出することができるようになる。
【0030】
なお、入射光の波長は適宜設定すればよいが、センシング層の色素がアルコールの存在によって結合変化した場合に吸収を示す波長とすることが好適である。
また、センシング層をアルコールと接触させる手法は任意であり、公知の手法から適宜選択して採用すればよい。また、接触させるアルコールは、水溶液でもガスでもよい。
【0031】
このアルコール検出方法では、まず、反射率の入射角依存性を調べ、導波モードが現れる入射角を決定し、この入射角にて、He−Neレーザ光等の入射光を誘電体に照射する。これにより、低屈折率層およびセンシング層に入射光(の一部)が留まる導波モードが現れる。この状態で、センシング層にアルコールを接触させると、センシング層中の色素が結合変化し、その結果、センシング層の消衰係数が変動する。上述のように、反射率は消衰係数に依存しているため、センシング層の消衰係数の変動に応じて、反射率も変動する。この反射率の変動(反射光の強度変化)を測定することで、アルコールの存在を検出することができる。
【0032】
さらに、本発明では、上述したアルコールセンサ素子を用い、センシング層から放出される蛍光を測定してアルコールを検出することもできる。
すなわち、誘電体に、上述した導波モードが現れる角度で入射光を照射した状態で、センシング層にアルコールを接触させると、センシング層中の色素が結合変化し、その結果、センシング層から蛍光が発生するので、これを測定することで、アルコールの存在を検出することができる。
なお、この検出方法では、入射光の波長を、センシング層の色素がアルコールの存在によって結合変化した場合に蛍光を発する波長とする。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
色素であるローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、マトリックスポリマーであるシクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:10でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて試料溶液を調製した(固形分濃度5質量%)。
この試料溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転させてガラス基板上に製膜(膜厚:345nm)し、アルコールセンサを作製した。
【0034】
[実施例2]
ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:100でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて試料溶液を調製した(固形分濃度10質量%)。
この試料溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで60秒間回転させてガラス基板上に製膜(膜厚:910nm)し、アルコールセンサを作製した。
【0035】
[1]エタノールおよび水への浸漬時の吸収スペクトル
上記実施例1および2で得られたアルコールセンサについて、99.5体積%のエタノールに浸漬して吸収スペクトルを測定した(紫外可視近赤外分光光度計U4100、(株)日立製作所製、以下同様)。エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを図1および2に示す。
また、実施例1および2で得られたアルコールセンサについて、水に浸漬して吸収スペクトルを測定した。水への浸漬前後の吸収スペクトルを図3および4に示す。
【0036】
図1および図2に示されるように、実施例1および2で得られたアルコールセンサは、いずれもエタノールに浸すとローダミンBベースがローダミンBに変化し、550nm付近にピークが現れている。また、この変化は可逆的であるため、センサを乾燥すると元に戻っていることがわかる。
また、図3および図4に示されるように、実施例1および2で得られたアルコールセンサを水に浸漬した場合は、浸漬前後で吸収スペクトルに大きな変化は現れないことがわかる。これは、マトリックスポリマー(ARTON(登録商標))内に水が浸入できない結果、ローダミンBが極性環境下に晒されず、結合変化が生じなかったためであると推測される。
以上の結果から、水溶液や呼気のように水が存在する系でエタノールの選択的な検出ができることが示されているといえる。
【0037】
[2]エタノールへの浸漬時間と吸収スペクトル変化
実施例2で得られたアルコールセンサを、99.5質量%エタノールに浸漬した際の、550nm吸光度の時間変化および吸収スペクトル変化を測定した。吸光度の時間変化を図5に、吸収スペクトルの時間変化を図6に示す。
図5および図6に示されるように、この膜厚のアルコールセンサでは約1分間で平衡に達することがわかる。
【0038】
[3]繰り返し特性
実施例1で得られたアルコールセンサについて、99.5質量%エタノールに浸漬し、乾燥した後、さらに同エタノールに浸漬し、乾燥し、吸収スペクトルの変化を測定した。2回目のエタノール浸漬前後、および乾燥後の吸収スペクトルを図7に示す。
図7に示されるように、得られた吸収スペクトルは図1と同様であり、良好な繰り返し特性を示すことがわかる。
【0039】
[4]吸光度変化のエタノール濃度依存性
実施例1で得られたアルコールセンサについて、550nmの吸光度変化のエタノール濃度依存性を測定した。結果を図8に示す。
図8に示されるように、1〜99.5質量%のエタノールで良好な直線性が観測されたが、1質量%溶液での吸光度変化は0.0002で、通常の吸収測定ではほぼ限界であることがわかる。
道路交通法の規制値である呼気1L中に0.15mgは、73ppmに相当し、通常の透過法による直接測定では検出が困難であるといえる。
【0040】
[参考例]
図9に示される素子1を下記の手順で作製した。
誘電体である光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板10の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の9質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:800nm)し、低屈折率層11(543nmでの屈折率1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層11の上に、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)の3.5質量%シクロヘキサノン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:250nm)し、センシング層12を積層した。
さらに、光学ガラス基板10の反対の面に、三角柱状の光学硝子(BK7)製プリズム13を配置し、素子1を作製した。
【0041】
この素子1について、入射光である543nmのHe−Neレーザ20を、角度を変えて照射した際の反射率(反射光21の強度)の入射角依存性をシミュレーションした。その計算曲線を図10に示す。
ここで、ARTON(登録商標、JSR(株)製)の複素屈折率n*=1.51+kiで、kは消衰係数、iは虚数単位である。図10には、k=0、0.0001、0.0002、0.0004の結果を示してある。
図10に示されるように、特定の入射角(約64.65°)で導波モード23が形成されているとともに、その反射率が消衰係数kに依存して低下していることがわかる。
【0042】
次に、上記素子1において、センシング層12にローダミンBベース添加し、その分散量を変えることでセンシング層の消衰係数を変化させて、543nmでの透過率(T)および導波モード反射率(R)の消衰係数依存性を測定した。その結果を図11に示す。
図11に示されるように、導波モード反射率(R)は消衰係数kの増加により最初は低下し、ある値(kcと称す)で最小値(ほぼゼロ)となり、その後増加していくことがわかる。このkc値は、低屈折率層11およびセンシング層12の膜厚によって広い範囲(10-6〜10-1)で制御できる。
また、k<10-3の範囲では、膜厚を増加させないと透過法(T)では検出が困難になることがわかる。
この結果から、より低濃度検出と応答速度とを両立させるには、導波モードの利用が必要となることがわかる。
この際、製膜時の消衰係数がkc値に(あるいは非常に近く)なるように各膜厚を最適化すると、ppmオーダーのアルコールによる微小な吸光度変化も検出できるようになる。
【0043】
[実施例3]
図12に示されるアルコールセンサ素子2を下記の手順で作製した。
光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板10の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の7質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:490nm)し、低屈折率層11(543nmでの屈折率:1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層11の上に、ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:100でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて調製した試料溶液(固形分濃度5質量%)を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:100nm)し、センシング層12を積層した。
さらに、光学ガラス基板10の反対の面に、三角柱状の光学ガラス(BK7)製プリズム13を配置し、アルコールセンサ素子2を作製した。
【0044】
このアルコールセンサ素子2に、543nmのHe−Neレーザ20を、導波モード23が生じる角度61.0°で入射した状態で、センシング層12を99.5質量%のエタノールと接触させ、反射率の時間変化(反射光21の強度変化)を測定した。その結果を図13に示す。
図13の結果から、応答時間は約0.4秒であり、透過法を用いた実施例2の結果(図5および6)に比べて著しく速くなっていることがわかる。
【0045】
さらに、上記と同様にして導波モード23が生じた状態で、センシング層12を0質量%(水のみ)、1質量%、5質量%のエタノールにそれぞれ接触させ、反射率の時間変化を測定した。結果を図14に示す。
図14に示されるように、0質量%(水のみ)では応答しないが、1質量%、5質量%のエタノールでは応答が確認され、その応答時間は約2秒であることがわかる。
【0046】
[実施例4]
光学ガラス(BK7、543nmでの屈折率:1.518)基板の一方の面に、低屈折率高分子(CYTOP(登録商標)、旭硝子(株)製)の9質量%フルオロカーボン溶液を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、4000rpmで20秒間回転して製膜(膜厚:830nm)し、低屈折率層(543nmでの屈折率:1.34)を積層した。
続いて、この低屈折率層の上に、ローダミンBベース(ALDRICH(株)製)を、シクロオレフィンポリマー(ARTON(登録商標)、JSR(株)製、飽和含水率0.4質量%)に質量比1:10でシクロヘキサノンを共通溶媒として分散させて調製した試料溶液(固形分濃度3.5質量%)を、スピンコート法によって、500rpm(回転/分)で10秒間予備回転後、2000rpmで60秒間回転して製膜(膜厚:210nm)し、センシング層を積層した。
さらに、光学ガラス基板の反対の面に、三角柱状の光学硝子(BK7)製プリズムを配置し、図12と同様の構成のアルコールセンサ素子を作製した。
【0047】
このアルコールセンサ素子について、543nmのHe−Neレーザの入射角依存性を測定した。結果を図15に示す。図15から、約63°に導波モードが観測されていることがわかる。
次に、このアルコールセンサ素子を、54ppmのエタノール/窒素ガス(流量100 mL/min)に接触させ、その反射率の時間変化を測定した。その結果を図16に示す。
また、窒素ガスのみを0、50、100、200、500mL/minの流速で流したときの反射率の時間変化を測定した。その結果を図17に示す。
図16に示されるように、約1%の強度変化が観測され、54ppmという極微量のエタノールも検出可能であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のアルコールセンサにおける、エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例2のアルコールセンサおける、エタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例1のアルコールセンサにおける、水への浸漬前後の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2のアルコールセンサにおける、水への浸漬前後の吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2のアルコールセンサにおける、550nm吸光度の時間変化を示す図である。
【図6】実施例2のアルコールセンサにおける、アルコール中の吸収スペクトルの時間変化および乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図7】実施例1のアルコールセンサにおける、2回目のエタノールへの浸漬前後と、乾燥後の吸収スペクトルを示す図である。
【図8】実施例1のアルコールセンサにおける、550nmの吸光度変化のエタノール濃度依存性を示す図である。
【図9】参考例に係る素子の概略断面図である。
【図10】CYTOP(登録商標)およびARTON(登録商標)を組み合わせた素子における、543nmHe−Neレーザの入射角依存性のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】CYTOP(登録商標)およびARTON(登録商標)を組み合わせた素子における543nmでの透過率(T)および導波モード反射率(R)の消衰係数依存性を示す図である。
【図12】実施例3に係るアルコールセンサ素子の概略断面図である。
【図13】実施例3のアルコールセンサ素子を、導波モードで99.5質量%のエタノールに接触させたときの反射率の時間変化を示す図である。
【図14】実施例3のアルコールセンサ素子を、導波モードで0質量%(水)、1質量%、5質量%のエタノールに接触させたときの反射率の時間変化を示す図である。
【図15】実施例4のアルコールセンサ素子における、543nmのHe−Neレーザの入射角依存性を示す図である。
【図16】実施例4のアルコールセンサ素子を、54ppmのエタノール/窒素ガスに接触させときの反射率の時間変化を示す図である。
【図17】実施例4のアルコールセンサ素子を、窒素ガスに接触させときの反射率の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
2 アルコールセンサ素子
11 低屈折率層
12 センシング層(アルコールセンサ)
13 プリズム(誘電体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなることを特徴とするアルコールセンサ。
【請求項2】
前記色素が、ラクトン骨格、チオラクトン骨格、およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素である請求項1記載のアルコールセンサ。
【請求項3】
前記色素が、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトンまたはフロオレセインクロリドである請求項2記載のアルコールセンサ。
【請求項4】
前記マトリックスポリマーが、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマーまたは非晶性ポリマーである請求項1〜3のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項5】
前記シクロオレフィンポリマーが、ノルボルネンポリマーまたはトリシクロデカンポリマーである請求項4記載のアルコールセンサ。
【請求項6】
前記色素が、0.5〜50質量%含まれる請求項1〜5のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項7】
前記薄膜の厚みが、50〜500nmである請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項8】
誘電体と、請求項1〜7のいずれか1項記載のアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、前記誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成されたことを特徴とするアルコールセンサ素子。
【請求項9】
前記低屈折率層の厚みが、200〜2000nmである請求項8記載のアルコールセンサ素子。
【請求項10】
請求項8または9記載のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、
前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、
前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、
前記低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法。
【請求項11】
請求項8または9記載のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、
前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、
前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、
前記センシング層からの蛍光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法。
【請求項1】
飽和含水率2質量%以下のマトリックスポリマー中に、アルコールの有無に応じて可逆的結合変化し、アルコール存在下で発色および/または発光する色素が分散している薄膜からなることを特徴とするアルコールセンサ。
【請求項2】
前記色素が、ラクトン骨格、チオラクトン骨格、およびスルホラクトン骨格の少なくとも1つを有する色素である請求項1記載のアルコールセンサ。
【請求項3】
前記色素が、ローダミンBベース、クリスタルバイオレットラクトンまたはフロオレセインクロリドである請求項2記載のアルコールセンサ。
【請求項4】
前記マトリックスポリマーが、シクロオレフィンポリマー、透明ビニルポリマーまたは非晶性ポリマーである請求項1〜3のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項5】
前記シクロオレフィンポリマーが、ノルボルネンポリマーまたはトリシクロデカンポリマーである請求項4記載のアルコールセンサ。
【請求項6】
前記色素が、0.5〜50質量%含まれる請求項1〜5のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項7】
前記薄膜の厚みが、50〜500nmである請求項1〜6のいずれか1項記載のアルコールセンサ。
【請求項8】
誘電体と、請求項1〜7のいずれか1項記載のアルコールセンサからなるセンシング層と、これら誘電体およびセンシング層との間に介在された、前記誘電体よりも低屈折率の透明材料からなる低屈折率層と、を備えて構成されたことを特徴とするアルコールセンサ素子。
【請求項9】
前記低屈折率層の厚みが、200〜2000nmである請求項8記載のアルコールセンサ素子。
【請求項10】
請求項8または9記載のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、
前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、
前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、
前記低屈折率層で反射した反射光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法。
【請求項11】
請求項8または9記載のアルコールセンサ素子を用いたアルコール検出方法であって、
前記誘電体に、入射光を、この光が前記低屈折率層およびセンシング層に留まる角度で照射する工程と、
前記センシング層とアルコールとを接触させる工程と、
前記センシング層からの蛍光を測定する工程と、を備えることを特徴とするアルコール検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−128160(P2009−128160A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302936(P2007−302936)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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