アルコール発酵方法及びアルコール
【課題】酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって、発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールを提供することを目的とする。
【解決手段】アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させるアルコール発酵方法を基本として提供し、この手段によって、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる。そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する。更に、上記したいずれかの方法で発酵させたアルコールを提供する。
【解決手段】アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させるアルコール発酵方法を基本として提供し、この手段によって、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる。そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する。更に、上記したいずれかの方法で発酵させたアルコールを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって、発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能は、温度,pH,糖濃度,塩濃度など諸々の因子によって影響を受けるが、中でも温度はアルコール発酵微生物の発酵能に決定的な影響を与える重要な因子である。一般に、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度は33℃未満、通常28℃〜32℃の範囲である。アルコール発酵は発酵の進行とともに発酵熱によって原材料の液温が上昇していくが、液温が当該アルコール発酵微生物の最適発酵温度を超えると、アルコール発酵微生物は弱化して失活し、やがて死滅することとなり、発酵成績は顕著に低下する。例えば、代表的なアルコール発酵微生物である酵母(サッカロミセス属のセルビシェ/Saccharomyces cerevisiae)の最適発酵温度は28℃〜32℃であり、40℃を超えると生育は極めて困難となり、60℃では10分〜15分で死滅する。
【0003】
アルコール発酵工業において、発酵速度の向上は設備装置の利用効率や労働生産性の向上によるコストダウンをもたらすという点で極めて重要である。そこで、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、発酵速度の向上が強く望まれている。そのために、触媒である酵母などのアルコール発酵微生物の数を増やすことを特徴とする固定化微生物によるバイオリアクターの開発などがなされてきた。
【0004】
一方、本発明者はショウガ根茎,ミョウガ茎葉及びグロリオサ球根などの農作物の搾汁液などを発酵培地に添加すれば酵母の発酵が促進される研究を進めており、ショウガを発酵原料に添加すれば酵母の発酵が促進されることを明らかにし、ショウガを発酵原料の一部に添加して発酵させた酒類や食酢を提供している(特許文献1,特許文献2,非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−166918号公報
【特許文献2】特開2009−131204号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会中四国支部第22回講演会講演要旨集p59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発酵速度を向上させることができれば、直接的に発酵所要時間を短縮することができるため、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。しかしながら、従来開発が進められている固定化微生物によるバイオリアクターは、発酵装置などの多大な変更が必要であるとか、品質が変わるとか、雑菌汚染による被害が甚大になる可能性が高いなどの理由から、その実用化は遅々として進んでいない。また、育種によるアプローチもなされているが、品質が変わる可能性があるなどの理由で殆んど実用化されていないのが実情である。
【0007】
これに対して、本発明者の提供した特許文献1,2によれば、ショウガを発酵原料に添加することによって、酵母の発酵を促進することができ、しかも発酵装置などの大幅な変更を必要としないという利点を有している。そして、本発明者の提供した手段以外には他に農産物と発酵に関する知見情報は報告されていない。
【0008】
そこで、本発明者は農産物と発酵の関係に着目して研究を行い、特定の農産物によって、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などの既存のアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させるアルコール発酵方法を基本として提供し、この手段によって、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる。
【0010】
そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用し、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物のアルコール発酵原料に対する添加量を0.001〜10%(w/v)とする。更に、28℃〜32℃の温度領域で発酵させる。また、上記したアルコール発酵方法で発酵させたアルコールを提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上記載した本発明によれば、アルコール発酵原料に、特定の農産物であるユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0012】
また、本発明で使用される微生物の発酵能力増強作用のある物質は、いずれも食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図2】実施例2における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図3】実施例3における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図4】実施例4における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図5】実施例5における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図6】実施例6における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図7】実施例7における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図8】実施例8における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図9】実施例9における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図10】実施例10における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図11】実施例11における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図12】実施例12における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図13】実施例13における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図14】実施例14における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの最良の実施形態を説明する。本発明の対象とするアルコール発酵方法は、燃料用,食用,工業用その他の用途を問わず、アルコール発酵微生物を用いてアルコールを醸造する方法を対象とし、特には燃料用及び食用のエタノールを醸造する方法を対象としている。
【0015】
本発明はアルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることに特徴を有する。アルコール発酵材料としては、特に制約はなく、既存のアルコール発酵の原料となるものはそのまま全て使用することができる。添加する農産物としては、本発明では、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎を使用するが、今後の研究によってはこれら以外であっても農業によって生産される植物、所謂農作物であれば使用できる可能性を有している。これらの農産物を粉砕した粉砕物をそのままの状態でアルコール発酵原料に添加する。または、農産物の粉砕物を水などで抽出した懸濁液、或いは懸濁液を濾過した濾液などの抽出物をアルコール発酵原料に添加するようにしてもよい。なお、粉砕物や抽出物を120℃以下の温度で10分以上加熱処理してから添加するようにしてもよい。
【0016】
農産物の添加量は、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎から選択された農産物であれば、アルコール発酵原料、具体的には初発のモロミ容量に対して、0.001%〜10%(w/v)の範囲で、農産物の種類によって設定する。
【0017】
上記した農産物の粉砕物又はその抽出物をアルコール発酵開始前の状態のアルコール発酵原料に添加し、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域の発酵温度でアルコール発酵を行う。発酵温度は、発酵上限温度を28℃〜32℃にコントロールすればよいが、発酵の全期間を28℃〜32℃の温度領域にコントロールするようにしてもよい。これにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させることができ、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、アルコール発酵微生物の活性が向上し、発酵速度を向上させることができる。なお、アルコール発酵微生物としては、現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【0018】
得られたアルコールはアルコール発酵原料に応じて、アルコール燃料やアルコール飲料として使用することができ、特にはアルコール燃料として適している。また、アルコール飲料として使用する場合には、添加したニンニクやゴマなどの農産物の独特の風味や生理活性成分を付与することができる。
【0019】
以下に本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの実施例及び従来例を説明する。なお、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
オレンジ果汁培地に、それぞれ初発酵母数1×106cells/ml,1×107cells/ml,1×108cells/mlの酵母と、ユズ種子の粉末を0.2%(w/v)添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例1−1〜3)。
【0021】
[従来例1]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例1−1〜3と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例1−1〜3)。実施例1−1〜3と従来例1−1〜3の24時間後と96時間後の炭酸ガス発生量を表1に示すとともに、図1に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1及び図1から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例1−1と従来例1−1、実施例1−2と従来例1−2、実施例1−3と従来例1−3をそれぞれ対比すると、いずれも実施例1−1〜3の方が従来例1−1〜3よりも発酵速度が向上している。例えば,初発酵母数が1×108cells/mlと最も多い実施例1−3と従来例1−3を比較すると、ユズ種子の粉末を添加していない従来例1−3の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が2.4gと低く、発酵終了には96時間を要しているのに対して、ユズ種子の粉末を添加した実施例1−3の24時間時点での炭酸ガスの発生量は10.9gであって、しかもこの時点でほぼ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/4に短縮されることが判る。
【実施例2】
【0024】
酵母エキス1%,ペプトン2%及びグルコース13%からなる培地(以下、YPD培地という)に、初発酵母数3.5×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.02%(w/v),0.1%(w/v),0.2%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例2−1〜5)。
【0025】
[従来例2]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例2−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例2)。実施例2−1〜5と従来例2の24時間後と42時間後の炭酸ガス発生量を表2に示すとともに、図2に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2及び図2から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例2−1〜5に示すように添加量の多寡にかかわらず発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例2の24時間時点での炭酸ガスの発生量が4.2gに止まるのに対して、添加量が最も少ない実施例2−1の24時間時点での炭酸ガスの発生量は20.1gであって、ユズ種子の粉末を添加することによって増加している。しかも従来例2は42時間を経過して発酵途中であるのに対し、添加量が最も多い実施例2−5では21時間経過時点でほぼ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例3】
【0028】
YPD培地に、初発酵母数3.6×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.1%(w/v)相当のユズ種子の粉末を添加して30℃でアルコール発酵させた(実施例3−1〜3)。
【0029】
[従来例3]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例3−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例3)。実施例3−1〜3と従来例3の24時間後と36時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表3に示すとともに、図3に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0030】
【表3】
【0031】
表3及び図3から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例3−1〜3に示すように発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例3の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が9.1gと低く、48時間でも発酵中であるのに対して、ユズ種子の粉末を0.1%(w/v)添加した実施例3−3は24時間時点で、0.01%(w/v)添加した実施例3−2は36時間で、0.002%(w/v)添加した実施例3−1は48時間でそれぞれ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって30℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例4】
【0032】
YPD培地に、初発酵母数3.6×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.1%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して32℃でアルコール発酵させた(実施例4−1〜3)。
【0033】
[従来例4]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例4−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例4)。実施例4−1〜3と従来例4の24時間後と36時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表4に示すとともに、図4に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0034】
【表4】
【0035】
表4及び図4から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例4−1〜3に示すように発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例4の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が5.9gと低く、48時間でも発酵中であるのに対して、ユズ種子の粉末を0.1%(w/v)添加した実施例4−3は24時間時点で、0.01%(w/v)添加した実施例4−2と、0.002%(w/v)添加した実施例4−1は36時間で発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって32℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例5】
【0036】
YPD培地に、初発酵母数3.3×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.004%(w/v),0.04%(w/v),1.0%(w/v)のビワ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例5−1〜3)。
【0037】
[従来例5]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例5−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例5)。実施例5−1〜3と従来例5の24時間後と48時間後及び96時間後の炭酸ガス発生量を表5に示すとともに、図5に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0038】
【表5】
【0039】
表5及び図5から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例5−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例5の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が3.5gと低く、96時間時点でも発酵中であり、発酵終了にはほぼ120時間を要しているのに対して、ビワ種子の粉末を1.0%(w/v)添加した実施例5−3は24時間時点で、0.004%(w/v)添加した実施例5−1は48時間で発酵がほぼ終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/5〜2/5程度に短縮されることが判る。
【実施例6】
【0040】
YPD培地に、初発酵母数3.8×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.0004%(w/v),0.02%(w/v),0.4%(w/v)のビワ種子の粉末を添加して32℃でアルコール発酵させた(実施例6−1〜3)。
【0041】
[従来例6]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例6−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例6)。実施例6−1〜3と従来例6の24時間後と72時間後の炭酸ガス発生量を表6に示すとともに、図6に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0042】
【表6】
【0043】
表6及び図6から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例6−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例6の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が2.3gと低く、72時間でも発酵中であるのに対して、ビワ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例6−3は24時間時点で発酵がほぼ終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって32℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例7】
【0044】
オレンジ果汁培地に、初発酵母数3.7×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.02%(w/v),0.04%(w/v),0.4%(w/v)相当のビワ種子の粉末を添加して30℃でアルコール発酵させた(実施例7−1〜3)。
【0045】
[従来例7]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例7−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例7)。実施例7−1〜3と従来例7の72時間後と96時間後及び120時間後の炭酸ガス発生量を表7に示すとともに、図7に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0046】
【表7】
【0047】
表7及び図7から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例7−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例7の場合、72時間時点での炭酸ガスの発生量が2.6gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、ビワ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例7−3は96時間時点で発酵が終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって30℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が4/5に短縮されることが判る。
【実施例8】
【0048】
オレンジ果汁培地に、初発酵母数3.4×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.04%(w/v),0.2%(w/v),0.4%(w/v)相当のブドウ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例8−1〜3)。
【0049】
[従来例8]
ブドウ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例8−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例8)。実施例8−1〜3と従来例8の60時間後と72時間後及び120時間後の炭酸ガス発生量を表8に示すとともに、図8に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0050】
【表8】
【0051】
表8及び図8から明らかなように、ブドウ種子の粉末を添加することにより、実施例8−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ブドウ種子の粉末を添加していない従来例8の場合、60時間時点での炭酸ガスの発生量が0.1gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、ブドウ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例8−3は60時間時点で、0.2%(w/v)添加した実施例8−2の場合は72時間で発酵がほぼ終了している。このように、ブドウ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/2〜3/5に短縮されることが判る。
【実施例9】
【0052】
YPD培地に、初発酵母数2.9×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.04%(w/v),0.2%(w/v),2.0%(w/v)のゴマ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例9−1〜3)。
【0053】
[従来例9]
ゴマ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例9−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例9)。実施例9−1〜3と従来例9の12時間後と24時間後の炭酸ガス発生量を表9に示すとともに、図9に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0054】
【表9】
【0055】
表9及び図9から明らかなように、ゴマ種子の粉末を添加することにより、実施例9−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ゴマ種子の粉末を添加していない従来例9の場合、12時間時点での炭酸ガスの発生量が1.3gと低く、発酵終了には48時間を要したのに対して、ゴマ種子の粉末を2.0%(w/v)添加した実施例9−3は20時間時点で、0.2%(w/v)添加した実施例9−2及び0.04%(w/v)添加した実施例9−1の場合は、ほぼ24時間で発酵が終了している。このように、ゴマ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が2/5〜1/2に短縮されることが判る。
【実施例10】
【0056】
YPD培地に、初発酵母数1.0×108cells/mlの酵母と、それぞれ0.2%(w/v),0.4%(w/v),2.0%(w/v),8.0%(w/v)のおろしニンニクを添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例10−1〜4)。
【0057】
[従来例10]
おろしニンニクを添加しなかった以外は、実施例10−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例10)。実施例10−1〜4と従来例10の12時間後と24時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表10に示すとともに、図10に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0058】
【表10】
【0059】
表10及び図10から明らかなように、おろしニンニクを添加することによって発酵速度が向上している(実施例10−1〜4)。例えば、おろしニンニクを添加していない従来例10の場合、12時間時点での炭酸ガスの発生量が4.0gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、おろしニンニクを0.4%(w/v)添加した実施例10−2と、2.0%(w/v)添加した実施例10−3はそれぞれ24時間で、0.2%(w/v)添加した実施例10−1と8.0%(w/v)添加した実施例10−4の場合はほぼ48時間で発酵が終了している。このように、おろしニンニクの添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/5〜2/5に短縮されることが判る。また、発酵終了液を官能検査した結果、添加量によって異なるがニンニク独特の香りを呈していた。
【0060】
なお、発酵温度が高くなるとニンニクの抗菌作用が強くなると考えられ、添加量が多すぎるとかえって発酵が抑制される効果を知見している。本発明が対象とするアルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域では、実施例10−4のデータからも10%(w/v)程度の添加量まではアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることができることが判った。
【実施例11】
【0061】
YPD培地に、初発酵母数3.3×106cells/mlの酵母と、ユズ種子の粉末0.2%(w/v)に相当する量のユズ種子の抽出処理液(28℃,60℃,120℃で抽出)を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例11−1〜3)。なお、ユズ種子の抽出処理液の調製方法は28℃と60℃の場合は、攪拌しながら24時間抽出し、120℃の場合は10分間抽出した。その後、それらの抽出懸濁液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過して抽出処理液とした。
【0062】
[従来例11]
ユズ種子の抽出処理液を添加しなかった以外は、実施例11−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例11)。実施例11−1〜3と従来例11の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量を表11に示すとともに、図11に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0063】
【表11】
【0064】
表11及び図11から明らかなように、ユズ種子の抽出処理液を添加することにより、実施例11−1〜3に示すように発酵速度が向上している。ただ、ユズ種子の抽出処理液の抽出温度が高い方がより効果的である。例えば、48時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例11の場合、約6.6gで、120℃で抽出した実施例11−3の場合は約13.6gと従来例11の約2.1倍量の炭酸ガスが発生し、発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【実施例12】
【0065】
グレープ果汁培地に、初発細菌数1.4×107cells/mlのアルコール発酵細菌(Zymomonas mobilis)と、0.002%(w/v),0.02%(w/v),1.0%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例12−1〜3)。
【0066】
[従来例12]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例12−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例12)。実施例12−1〜3と従来例12の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量を表12に示すとともに、図12に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0067】
【表12】
【0068】
表12及び図12から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例12−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵24時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると,従来例12の場合は約1.1gで、添加量1.0%(w/v)の実施例12−3の場合は9.5gと従来例12の約8.6倍量の炭酸ガスが発生し,発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【実施例13】
【0069】
生コーングリッツ28%と市販グルコアミラーゼ剤0.1%の水懸濁培地(以下、NCS培地という)に、初発細菌数1.5×107cells/mlのアルコール発酵細菌(Zymomonas mobilis)と、0.02%(w/v),0.2%(w/v),1.0%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例13−1〜3)。
【0070】
[従来例13]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例13−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例13)。実施例13−1〜3と従来例13の72時間後と96時間後の炭酸ガス発生量を表13に示すとともに、図13に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0071】
【表13】
【0072】
表13及び図13から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例13−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵72時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例13の場合は32.0gで、添加量1.0%(w/v)の実施例13−3の場合は40.2gと従来例13の約1.3倍量の炭酸ガスが発生している。また、従来例13が120時間時点で得られた炭酸ガス発生量が、実施例13−3では約90時間で得られており、ユズ種子の粉末の添加によって発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【0073】
実施例12及び実施例13では、アルコール発酵細菌として、ザイモモナス属細菌を使用したが、同様にザイモバクター属細菌を使用することもできる。
【実施例14】
【0074】
NCS培地に、初発酵母数3.4×106cells/mlの酵母と、1.0%(w/v),2.0%(w/v)のゴマ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例14−1〜2)。
【0075】
[従来例14]
ゴマ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例14−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例14)。実施例14−1〜2と従来例14の48時間後と96時間後及び168時間後の炭酸ガス発生量を表14に示すとともに、図14に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0076】
【表14】
【0077】
表14及び図14から明らかなように、ゴマ種子の粉末を添加することにより、実施例14−1〜2に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵48時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例14の場合は約17.8gで、添加量2.0%(w/v)の実施例14−2の場合は約20.5gと従来例14の約1.2倍量の炭酸ガスが発生している。また、従来例14が168時間時点で得られた炭酸ガス発生量が、実施例14−2では96時間で得られており、ゴマ種子の粉末の添加によって発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
上記に詳細に説明したように、本発明にかかるアルコール発酵方法によれば、特定の農産物であるユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は省資源・省エネルギー化やコストダウンの必要性が叫ばれている燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0079】
また、本発明で使用される微生物の発酵能力増強作用のある物質は、いずれも食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって、発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能は、温度,pH,糖濃度,塩濃度など諸々の因子によって影響を受けるが、中でも温度はアルコール発酵微生物の発酵能に決定的な影響を与える重要な因子である。一般に、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度は33℃未満、通常28℃〜32℃の範囲である。アルコール発酵は発酵の進行とともに発酵熱によって原材料の液温が上昇していくが、液温が当該アルコール発酵微生物の最適発酵温度を超えると、アルコール発酵微生物は弱化して失活し、やがて死滅することとなり、発酵成績は顕著に低下する。例えば、代表的なアルコール発酵微生物である酵母(サッカロミセス属のセルビシェ/Saccharomyces cerevisiae)の最適発酵温度は28℃〜32℃であり、40℃を超えると生育は極めて困難となり、60℃では10分〜15分で死滅する。
【0003】
アルコール発酵工業において、発酵速度の向上は設備装置の利用効率や労働生産性の向上によるコストダウンをもたらすという点で極めて重要である。そこで、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、発酵速度の向上が強く望まれている。そのために、触媒である酵母などのアルコール発酵微生物の数を増やすことを特徴とする固定化微生物によるバイオリアクターの開発などがなされてきた。
【0004】
一方、本発明者はショウガ根茎,ミョウガ茎葉及びグロリオサ球根などの農作物の搾汁液などを発酵培地に添加すれば酵母の発酵が促進される研究を進めており、ショウガを発酵原料に添加すれば酵母の発酵が促進されることを明らかにし、ショウガを発酵原料の一部に添加して発酵させた酒類や食酢を提供している(特許文献1,特許文献2,非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−166918号公報
【特許文献2】特開2009−131204号公報
【非特許文献1】日本農芸化学会中四国支部第22回講演会講演要旨集p59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発酵速度を向上させることができれば、直接的に発酵所要時間を短縮することができるため、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。しかしながら、従来開発が進められている固定化微生物によるバイオリアクターは、発酵装置などの多大な変更が必要であるとか、品質が変わるとか、雑菌汚染による被害が甚大になる可能性が高いなどの理由から、その実用化は遅々として進んでいない。また、育種によるアプローチもなされているが、品質が変わる可能性があるなどの理由で殆んど実用化されていないのが実情である。
【0007】
これに対して、本発明者の提供した特許文献1,2によれば、ショウガを発酵原料に添加することによって、酵母の発酵を促進することができ、しかも発酵装置などの大幅な変更を必要としないという利点を有している。そして、本発明者の提供した手段以外には他に農産物と発酵に関する知見情報は報告されていない。
【0008】
そこで、本発明者は農産物と発酵の関係に着目して研究を行い、特定の農産物によって、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などの既存のアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させるアルコール発酵方法を基本として提供し、この手段によって、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる。
【0010】
そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用し、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物のアルコール発酵原料に対する添加量を0.001〜10%(w/v)とする。更に、28℃〜32℃の温度領域で発酵させる。また、上記したアルコール発酵方法で発酵させたアルコールを提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上記載した本発明によれば、アルコール発酵原料に、特定の農産物であるユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0012】
また、本発明で使用される微生物の発酵能力増強作用のある物質は、いずれも食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図2】実施例2における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図3】実施例3における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図4】実施例4における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図5】実施例5における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図6】実施例6における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図7】実施例7における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図8】実施例8における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図9】実施例9における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図10】実施例10における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図11】実施例11における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図12】実施例12における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図13】実施例13における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図14】実施例14における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの最良の実施形態を説明する。本発明の対象とするアルコール発酵方法は、燃料用,食用,工業用その他の用途を問わず、アルコール発酵微生物を用いてアルコールを醸造する方法を対象とし、特には燃料用及び食用のエタノールを醸造する方法を対象としている。
【0015】
本発明はアルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることに特徴を有する。アルコール発酵材料としては、特に制約はなく、既存のアルコール発酵の原料となるものはそのまま全て使用することができる。添加する農産物としては、本発明では、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎を使用するが、今後の研究によってはこれら以外であっても農業によって生産される植物、所謂農作物であれば使用できる可能性を有している。これらの農産物を粉砕した粉砕物をそのままの状態でアルコール発酵原料に添加する。または、農産物の粉砕物を水などで抽出した懸濁液、或いは懸濁液を濾過した濾液などの抽出物をアルコール発酵原料に添加するようにしてもよい。なお、粉砕物や抽出物を120℃以下の温度で10分以上加熱処理してから添加するようにしてもよい。
【0016】
農産物の添加量は、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎から選択された農産物であれば、アルコール発酵原料、具体的には初発のモロミ容量に対して、0.001%〜10%(w/v)の範囲で、農産物の種類によって設定する。
【0017】
上記した農産物の粉砕物又はその抽出物をアルコール発酵開始前の状態のアルコール発酵原料に添加し、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域の発酵温度でアルコール発酵を行う。発酵温度は、発酵上限温度を28℃〜32℃にコントロールすればよいが、発酵の全期間を28℃〜32℃の温度領域にコントロールするようにしてもよい。これにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させることができ、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、アルコール発酵微生物の活性が向上し、発酵速度を向上させることができる。なお、アルコール発酵微生物としては、現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【0018】
得られたアルコールはアルコール発酵原料に応じて、アルコール燃料やアルコール飲料として使用することができ、特にはアルコール燃料として適している。また、アルコール飲料として使用する場合には、添加したニンニクやゴマなどの農産物の独特の風味や生理活性成分を付与することができる。
【0019】
以下に本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの実施例及び従来例を説明する。なお、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
オレンジ果汁培地に、それぞれ初発酵母数1×106cells/ml,1×107cells/ml,1×108cells/mlの酵母と、ユズ種子の粉末を0.2%(w/v)添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例1−1〜3)。
【0021】
[従来例1]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例1−1〜3と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例1−1〜3)。実施例1−1〜3と従来例1−1〜3の24時間後と96時間後の炭酸ガス発生量を表1に示すとともに、図1に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1及び図1から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例1−1と従来例1−1、実施例1−2と従来例1−2、実施例1−3と従来例1−3をそれぞれ対比すると、いずれも実施例1−1〜3の方が従来例1−1〜3よりも発酵速度が向上している。例えば,初発酵母数が1×108cells/mlと最も多い実施例1−3と従来例1−3を比較すると、ユズ種子の粉末を添加していない従来例1−3の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が2.4gと低く、発酵終了には96時間を要しているのに対して、ユズ種子の粉末を添加した実施例1−3の24時間時点での炭酸ガスの発生量は10.9gであって、しかもこの時点でほぼ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/4に短縮されることが判る。
【実施例2】
【0024】
酵母エキス1%,ペプトン2%及びグルコース13%からなる培地(以下、YPD培地という)に、初発酵母数3.5×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.02%(w/v),0.1%(w/v),0.2%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例2−1〜5)。
【0025】
[従来例2]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例2−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例2)。実施例2−1〜5と従来例2の24時間後と42時間後の炭酸ガス発生量を表2に示すとともに、図2に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2及び図2から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例2−1〜5に示すように添加量の多寡にかかわらず発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例2の24時間時点での炭酸ガスの発生量が4.2gに止まるのに対して、添加量が最も少ない実施例2−1の24時間時点での炭酸ガスの発生量は20.1gであって、ユズ種子の粉末を添加することによって増加している。しかも従来例2は42時間を経過して発酵途中であるのに対し、添加量が最も多い実施例2−5では21時間経過時点でほぼ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例3】
【0028】
YPD培地に、初発酵母数3.6×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.1%(w/v)相当のユズ種子の粉末を添加して30℃でアルコール発酵させた(実施例3−1〜3)。
【0029】
[従来例3]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例3−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例3)。実施例3−1〜3と従来例3の24時間後と36時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表3に示すとともに、図3に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0030】
【表3】
【0031】
表3及び図3から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例3−1〜3に示すように発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例3の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が9.1gと低く、48時間でも発酵中であるのに対して、ユズ種子の粉末を0.1%(w/v)添加した実施例3−3は24時間時点で、0.01%(w/v)添加した実施例3−2は36時間で、0.002%(w/v)添加した実施例3−1は48時間でそれぞれ発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって30℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例4】
【0032】
YPD培地に、初発酵母数3.6×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.002%(w/v),0.01%(w/v),0.1%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して32℃でアルコール発酵させた(実施例4−1〜3)。
【0033】
[従来例4]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例4−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例4)。実施例4−1〜3と従来例4の24時間後と36時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表4に示すとともに、図4に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0034】
【表4】
【0035】
表4及び図4から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例4−1〜3に示すように発酵速度が向上している。例えば、ユズ種子の粉末を添加していない従来例4の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が5.9gと低く、48時間でも発酵中であるのに対して、ユズ種子の粉末を0.1%(w/v)添加した実施例4−3は24時間時点で、0.01%(w/v)添加した実施例4−2と、0.002%(w/v)添加した実施例4−1は36時間で発酵が終了している。このように、ユズ種子の粉末の添加によって32℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例5】
【0036】
YPD培地に、初発酵母数3.3×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.004%(w/v),0.04%(w/v),1.0%(w/v)のビワ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例5−1〜3)。
【0037】
[従来例5]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例5−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例5)。実施例5−1〜3と従来例5の24時間後と48時間後及び96時間後の炭酸ガス発生量を表5に示すとともに、図5に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0038】
【表5】
【0039】
表5及び図5から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例5−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例5の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が3.5gと低く、96時間時点でも発酵中であり、発酵終了にはほぼ120時間を要しているのに対して、ビワ種子の粉末を1.0%(w/v)添加した実施例5−3は24時間時点で、0.004%(w/v)添加した実施例5−1は48時間で発酵がほぼ終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/5〜2/5程度に短縮されることが判る。
【実施例6】
【0040】
YPD培地に、初発酵母数3.8×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.0004%(w/v),0.02%(w/v),0.4%(w/v)のビワ種子の粉末を添加して32℃でアルコール発酵させた(実施例6−1〜3)。
【0041】
[従来例6]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例6−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例6)。実施例6−1〜3と従来例6の24時間後と72時間後の炭酸ガス発生量を表6に示すとともに、図6に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0042】
【表6】
【0043】
表6及び図6から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例6−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例6の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が2.3gと低く、72時間でも発酵中であるのに対して、ビワ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例6−3は24時間時点で発酵がほぼ終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって32℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例7】
【0044】
オレンジ果汁培地に、初発酵母数3.7×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.02%(w/v),0.04%(w/v),0.4%(w/v)相当のビワ種子の粉末を添加して30℃でアルコール発酵させた(実施例7−1〜3)。
【0045】
[従来例7]
ビワ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例7−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例7)。実施例7−1〜3と従来例7の72時間後と96時間後及び120時間後の炭酸ガス発生量を表7に示すとともに、図7に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0046】
【表7】
【0047】
表7及び図7から明らかなように、ビワ種子の粉末を添加することにより、実施例7−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ビワ種子の粉末を添加していない従来例7の場合、72時間時点での炭酸ガスの発生量が2.6gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、ビワ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例7−3は96時間時点で発酵が終了している。このように、ビワ種子の粉末の添加によって30℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が4/5に短縮されることが判る。
【実施例8】
【0048】
オレンジ果汁培地に、初発酵母数3.4×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.04%(w/v),0.2%(w/v),0.4%(w/v)相当のブドウ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例8−1〜3)。
【0049】
[従来例8]
ブドウ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例8−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例8)。実施例8−1〜3と従来例8の60時間後と72時間後及び120時間後の炭酸ガス発生量を表8に示すとともに、図8に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0050】
【表8】
【0051】
表8及び図8から明らかなように、ブドウ種子の粉末を添加することにより、実施例8−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ブドウ種子の粉末を添加していない従来例8の場合、60時間時点での炭酸ガスの発生量が0.1gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、ブドウ種子の粉末を0.4%(w/v)添加した実施例8−3は60時間時点で、0.2%(w/v)添加した実施例8−2の場合は72時間で発酵がほぼ終了している。このように、ブドウ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/2〜3/5に短縮されることが判る。
【実施例9】
【0052】
YPD培地に、初発酵母数2.9×106cells/mlの酵母と、それぞれ0.04%(w/v),0.2%(w/v),2.0%(w/v)のゴマ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例9−1〜3)。
【0053】
[従来例9]
ゴマ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例9−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例9)。実施例9−1〜3と従来例9の12時間後と24時間後の炭酸ガス発生量を表9に示すとともに、図9に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0054】
【表9】
【0055】
表9及び図9から明らかなように、ゴマ種子の粉末を添加することにより、実施例9−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、ゴマ種子の粉末を添加していない従来例9の場合、12時間時点での炭酸ガスの発生量が1.3gと低く、発酵終了には48時間を要したのに対して、ゴマ種子の粉末を2.0%(w/v)添加した実施例9−3は20時間時点で、0.2%(w/v)添加した実施例9−2及び0.04%(w/v)添加した実施例9−1の場合は、ほぼ24時間で発酵が終了している。このように、ゴマ種子の粉末の添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が2/5〜1/2に短縮されることが判る。
【実施例10】
【0056】
YPD培地に、初発酵母数1.0×108cells/mlの酵母と、それぞれ0.2%(w/v),0.4%(w/v),2.0%(w/v),8.0%(w/v)のおろしニンニクを添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例10−1〜4)。
【0057】
[従来例10]
おろしニンニクを添加しなかった以外は、実施例10−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例10)。実施例10−1〜4と従来例10の12時間後と24時間後及び48時間後の炭酸ガス発生量を表10に示すとともに、図10に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0058】
【表10】
【0059】
表10及び図10から明らかなように、おろしニンニクを添加することによって発酵速度が向上している(実施例10−1〜4)。例えば、おろしニンニクを添加していない従来例10の場合、12時間時点での炭酸ガスの発生量が4.0gと低く、発酵終了には120時間を要したのに対して、おろしニンニクを0.4%(w/v)添加した実施例10−2と、2.0%(w/v)添加した実施例10−3はそれぞれ24時間で、0.2%(w/v)添加した実施例10−1と8.0%(w/v)添加した実施例10−4の場合はほぼ48時間で発酵が終了している。このように、おろしニンニクの添加によって28℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が1/5〜2/5に短縮されることが判る。また、発酵終了液を官能検査した結果、添加量によって異なるがニンニク独特の香りを呈していた。
【0060】
なお、発酵温度が高くなるとニンニクの抗菌作用が強くなると考えられ、添加量が多すぎるとかえって発酵が抑制される効果を知見している。本発明が対象とするアルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域では、実施例10−4のデータからも10%(w/v)程度の添加量まではアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることができることが判った。
【実施例11】
【0061】
YPD培地に、初発酵母数3.3×106cells/mlの酵母と、ユズ種子の粉末0.2%(w/v)に相当する量のユズ種子の抽出処理液(28℃,60℃,120℃で抽出)を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例11−1〜3)。なお、ユズ種子の抽出処理液の調製方法は28℃と60℃の場合は、攪拌しながら24時間抽出し、120℃の場合は10分間抽出した。その後、それらの抽出懸濁液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過して抽出処理液とした。
【0062】
[従来例11]
ユズ種子の抽出処理液を添加しなかった以外は、実施例11−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例11)。実施例11−1〜3と従来例11の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量を表11に示すとともに、図11に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0063】
【表11】
【0064】
表11及び図11から明らかなように、ユズ種子の抽出処理液を添加することにより、実施例11−1〜3に示すように発酵速度が向上している。ただ、ユズ種子の抽出処理液の抽出温度が高い方がより効果的である。例えば、48時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例11の場合、約6.6gで、120℃で抽出した実施例11−3の場合は約13.6gと従来例11の約2.1倍量の炭酸ガスが発生し、発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【実施例12】
【0065】
グレープ果汁培地に、初発細菌数1.4×107cells/mlのアルコール発酵細菌(Zymomonas mobilis)と、0.002%(w/v),0.02%(w/v),1.0%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例12−1〜3)。
【0066】
[従来例12]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例12−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例12)。実施例12−1〜3と従来例12の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量を表12に示すとともに、図12に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0067】
【表12】
【0068】
表12及び図12から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例12−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵24時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると,従来例12の場合は約1.1gで、添加量1.0%(w/v)の実施例12−3の場合は9.5gと従来例12の約8.6倍量の炭酸ガスが発生し,発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【実施例13】
【0069】
生コーングリッツ28%と市販グルコアミラーゼ剤0.1%の水懸濁培地(以下、NCS培地という)に、初発細菌数1.5×107cells/mlのアルコール発酵細菌(Zymomonas mobilis)と、0.02%(w/v),0.2%(w/v),1.0%(w/v)のユズ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例13−1〜3)。
【0070】
[従来例13]
ユズ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例13−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例13)。実施例13−1〜3と従来例13の72時間後と96時間後の炭酸ガス発生量を表13に示すとともに、図13に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0071】
【表13】
【0072】
表13及び図13から明らかなように、ユズ種子の粉末を添加することにより、実施例13−1〜3に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵72時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例13の場合は32.0gで、添加量1.0%(w/v)の実施例13−3の場合は40.2gと従来例13の約1.3倍量の炭酸ガスが発生している。また、従来例13が120時間時点で得られた炭酸ガス発生量が、実施例13−3では約90時間で得られており、ユズ種子の粉末の添加によって発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【0073】
実施例12及び実施例13では、アルコール発酵細菌として、ザイモモナス属細菌を使用したが、同様にザイモバクター属細菌を使用することもできる。
【実施例14】
【0074】
NCS培地に、初発酵母数3.4×106cells/mlの酵母と、1.0%(w/v),2.0%(w/v)のゴマ種子の粉末を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例14−1〜2)。
【0075】
[従来例14]
ゴマ種子の粉末を添加しなかった以外は、実施例14−1と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例14)。実施例14−1〜2と従来例14の48時間後と96時間後及び168時間後の炭酸ガス発生量を表14に示すとともに、図14に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0076】
【表14】
【0077】
表14及び図14から明らかなように、ゴマ種子の粉末を添加することにより、実施例14−1〜2に示すように添加量が増すにつれ発酵速度が向上している。例えば、発酵48時間時点の炭酸ガス発生量をみてみると、従来例14の場合は約17.8gで、添加量2.0%(w/v)の実施例14−2の場合は約20.5gと従来例14の約1.2倍量の炭酸ガスが発生している。また、従来例14が168時間時点で得られた炭酸ガス発生量が、実施例14−2では96時間で得られており、ゴマ種子の粉末の添加によって発酵所要時間が大幅に短縮されることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
上記に詳細に説明したように、本発明にかかるアルコール発酵方法によれば、特定の農産物であるユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は省資源・省エネルギー化やコストダウンの必要性が叫ばれている燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0079】
また、本発明で使用される微生物の発酵能力増強作用のある物質は、いずれも食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項2】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項3】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項4】
アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する請求項2又は3記載のアルコール発酵方法。
【請求項5】
ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又は抽出物のアルコール発酵原料に対する添加量を0.001〜10%(w/v)とした請求項1,2,3又は4記載のアルコール発酵方法。
【請求項6】
28℃〜32℃の温度領域で発酵させる請求項1,2,3,4又は5記載のアルコール発酵方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載されたいずれかの方法で発酵させたことを特徴とするアルコール。
【請求項1】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項2】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項3】
アルコール発酵原料に、ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又はその抽出物を添加して発酵させることにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項4】
アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する請求項2又は3記載のアルコール発酵方法。
【請求項5】
ユズ種子,ビワ種子,ブドウ種子,ゴマ種子又はニンニク塊茎の粉砕物又は抽出物のアルコール発酵原料に対する添加量を0.001〜10%(w/v)とした請求項1,2,3又は4記載のアルコール発酵方法。
【請求項6】
28℃〜32℃の温度領域で発酵させる請求項1,2,3,4又は5記載のアルコール発酵方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6に記載されたいずれかの方法で発酵させたことを特徴とするアルコール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−125229(P2011−125229A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284271(P2009−284271)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】
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