説明

アルコール発酵方法及びアルコール

【課題】酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって、発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールを提供することを目的とする。
【解決手段】アルコール発酵原料に、エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃〜32℃の温度領域で発酵させるアルコール発酵方法を提供する。より具体的には、エゴマの種子の粉砕物のアルコール発酵原料に対する添加量を乾物重量として、0.0004%(w/v)以上添加し、より好ましくは0.0004%(w/v)〜7.1%(w/v)添加する。そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する。更に、上記したいずれかの方法で発酵させたアルコールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって、発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能は、温度,pH,糖濃度,塩濃度など諸々の因子によって影響を受けるが、中でも温度はアルコール発酵微生物の発酵能に決定的な影響を与える重要な因子である。一般に、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度は33℃未満、通常28℃〜32℃の範囲である。アルコール発酵は発酵の進行とともに発酵熱によって原材料の液温が上昇していくが、液温が当該アルコール発酵微生物の最適発酵温度を超えると、アルコール発酵微生物は弱化して失活し、やがて死滅することとなり、発酵成績は顕著に低下する。例えば、代表的なアルコール発酵微生物である酵母(サッカロミセス属のセルビシェ/Saccharomyces cerevisiae)の最適発酵温度は28℃〜32℃であり、40℃を超えると生育は極めて困難となり、60℃では10分〜15分で死滅する。
【0003】
アルコール発酵工業において、発酵速度の向上は設備装置の利用効率や労働生産性の向上によるコストダウンをもたらすという点で極めて重要である。そこで、実用的規模で使用されているアルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、発酵速度の向上が強く望まれている。そのために、触媒である酵母などのアルコール発酵微生物の数を増やすことを特徴とする固定化微生物によるバイオリアクターの開発などがなされてきた。
【0004】
一方、本発明者らはショウガ根茎,ミョウガ茎葉及びグロリオサ球根などの農作物の搾汁液などを発酵培地に添加すれば酵母の発酵が促進される研究を進めており、ショウガを発酵原料に添加すれば酵母の発酵が促進されることを明らかにし、ショウガを発酵原料の一部に添加して発酵させた酒類や食酢を提供している(特許文献1,特許文献2,非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−166918号公報
【特許文献2】特開2009−131204号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本農芸化学会中四国支部第22回講演会講演要旨集p59
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発酵速度を向上させることができれば、直接的に発酵所要時間を短縮することができるため、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。しかしながら、従来開発が進められている固定化微生物によるバイオリアクターは、発酵装置などの多大な変更が必要であるとか、品質が変わるとか、雑菌汚染による被害が甚大になる可能性が高いなどの理由から、その実用化は遅々として進んでいない。また、育種によるアプローチもなされているが、品質が変わる可能性があるなどの理由で殆んど実用化されていないのが実情である。
【0008】
これに対して、本発明者らの提供した特許文献1,2によれば、ショウガを発酵原料に添加することによって、酵母による発酵を促進することができ、しかも発酵装置などの大幅な変更を必要としないという利点を有している。
【0009】
そこで、本発明者らは農産物と発酵の関係に着目して研究を行い、特定の農産物によって、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などの既存のアルコール発酵微生物の発酵能を増強させることによって発酵速度を向上させる省資源・省エネルギーで効率的なアルコール発酵方法及び該発酵方法で発酵させたアルコールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、アルコール発酵原料に、エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃〜32℃の温度領域で発酵させるアルコール発酵方法を提供する。より具体的には、エゴマの種子の粉砕物のアルコール発酵原料に対する添加量を乾物重量として、0.0004%(w/v)以上添加し、より好ましくは0.0004%(w/v)〜7.1%(w/v)添加する。この手段によってアルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる。
【0011】
そして、アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する。また、上記したアルコール発酵方法で発酵させたアルコールを提供する。
【発明の効果】
【0012】
以上記載した本発明によれば、アルコール発酵原料に、エゴマの種子の粉砕物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0013】
また、本発明で使用される微生物の発酵能力増強作用のあるエゴマは、食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図2】実施例2における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図3】実施例3における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図4】実施例4における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図5】実施例5における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図6】実施例6における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【図7】実施例7における炭酸ガス発生量と発酵時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの実施形態を説明する。本発明の対象とするアルコール発酵方法は、燃料用,食用,工業用その他の用途を問わず、アルコール発酵微生物を用いてアルコールを醸造する方法を対象とし、特には燃料用及び食用のエタノールを醸造する方法を対象としている。
【0016】
本発明はアルコール発酵原料に、エゴマ(荏胡麻、学名:Perilla frutescens var. frutescens)の種子の粉砕物を添加して28℃〜32℃の温度領域で発酵させることに特徴を有する。エゴマの種子の粉砕物はそのままの状態でアルコール発酵原料に添加すればよく、抽出や加熱処理などの特別な処理をする必要性はない。アルコール発酵原料としては、特に制約はなく、既存のアルコール発酵の原料となるものはそのまま全て使用することができる。
【0017】
エゴマの種子の粉砕物の添加量は、アルコール発酵原料、具体的には初発のモロミ容量に対して0.0004%(w/v)以上、より好ましくは0.0004%(w/v)〜7.1%(w/v)の範囲の添加量に設定する。
【0018】
上記したエゴマの種子の粉砕物をアルコール発酵開始前の状態のアルコール発酵原料に添加し、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域の発酵温度でアルコール発酵を行う。発酵温度は、発酵上限温度を28℃〜32℃にコントロールすればよいが、発酵の全期間を28℃〜32℃の温度領域にコントロールするようにしてもよい。これにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させることができ、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、アルコール発酵微生物の活性が向上し、発酵速度を向上させることができる。なお、アルコール発酵微生物としては、現在、工業規模で使用されている酵母、ザイモモナス属細菌やザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。
【0019】
得られたアルコールはアルコール発酵原料に応じて、アルコール燃料やアルコール飲料として使用することができ、特にはアルコール燃料として適している。また、添加したエゴマの種子の粉砕物の量によってはエゴマの有する独特の風味や生理活性成分が付与されたアルコール飲料を得ることができる。
【0020】
以下に本発明にかかるアルコール発酵方法及びアルコールの実施例及び従来例を説明する。なお、本発明はこれら実施例の記載内容に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
酵母エキス1%、ペプトン2%及びグルコース13%からなる培地(以下、YPD培地という)に、初発菌数2.3×10cells/mlの酵母と、それぞれ乾物重量として、0.0004%(w/v)、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)、0.9%(w/v)、7.1%(w/v)の白エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例1−1〜5)。
【0022】
[従来例1]
白エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例1−1〜5と同一条件でアルコール発酵させた(従来例1)。実施例1−1〜5と従来例1の16時間後と24時間後の炭酸ガス発生量及び120時間後の生成アルコール濃度を表1に示すとともに、図1に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1及び図1から明らかなように、白エゴマの種子の粉砕物を添加すると、添加量が多くなるに従って酵母の発酵能は増強されることが判る。例えば、発酵開始16時間時点の炭酸ガス発生量を見てみると、従来例1が僅か0.9gであるのに対して、添加量が実施例1−1に示す0.0004%(w/v)で2.3g、実施例1−2に示す0.004%(w/v)で3.7g、実施例1−3に示す0.2%(w/v)で8.2g、実施例1−4に示す0.9%(w/v)で9.7g、添加量が最も多い実施例1−5に示す7.1%(w/v)では11.5gであり、白エゴマの種子の粉砕物の添加量が多くなるに従って炭酸ガス発生量が多くなっている。
【0025】
また、従来例1の場合、約120時間でほぼ発酵終了状態になるのに対して、実施例1−3〜5に示すように添加量が0.2%(w/v)、0.9%(w/v)、7.1%(w/v)の場合は約24時間時点で、又実施例1−2に示すように添加量が0.004%(w/v)の場合は約72時間で、更に実施例1−1に示すように添加量が最も少ない0.0004%(w/v)の場合は約96時間で、それぞれ発酵は終了状態にある。このことは、酵母の発酵能増強による発酵速度の向上を期待して白エゴマの種子の粉砕物を添加する場合は0.0004%(w/v)以上添加すれば、酵母の発酵能が増強され、実際的には0.0004%(w/v)〜7.1%(w/v)の範囲で添加すれば、酵母の発酵能の増強に十分な効果が得られることを示している。
【実施例2】
【0026】
YPD培地に、初発菌数2.7×10cells/mlの酵母と、それぞれ乾物重量として、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)の黒エゴマの種子の粉砕物を添加して32℃で発酵させた(実施例2−1〜2)。
【0027】
[従来例2]
黒エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例2−1〜2と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例2)。実施例2−1〜2と従来例2の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量及び72時間後の生成アルコール濃度を表2に示すとともに、図2に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例2−1〜2は、実施例1−2,3における発酵温度28℃を32℃に変更するとともに、白エゴマを黒エゴマに変更したものである。表2及び図2から明らかなように、黒エゴマの種子の粉砕物を添加することにより、実施例2−1〜2に示すように添加量の多寡にかかわらず、従来例2に比べて、発酵速度が顕著に向上している。例えば、従来例2の場合、24時間時点での炭酸ガスの発生量が2.9gに留まるのに対して、実施例2−1に示す添加量が0.004%(w/v)の場合は同時点で11.6g、又実施例2−2に示す添加量が0.2%(w/v)の場合は同時点で14.5gの大量の炭酸ガスの発生が認められる。しかも、従来例2は72時間経過時点では未だ発酵途中であるのに対して、黒エゴマの種子を添加した場合は、実施例2−2では24時間経過時点で、実施例2−1では48時間経過時点で、それぞれ発酵がほぼ終了している。よって、黒エゴマの種子の粉末の添加によって32℃の温度域での酵母の発酵能が増強され、発酵所要時間が短縮されることが判る。
【実施例3】
【0030】
酵母エキス1%、KHPO0.2%、及びグルコース13%からなる培地(以下、RM培地という)に、初発菌数1.1×10cells/mlのザイモモナス属細菌(Zymomonas mobilis)と、それぞれ乾物重量として、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)、0.9%(w/v)の白エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例3−1〜3)。
【0031】
[従来例3]
白エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例3−1〜3と同一条件でアルコール発酵させた(従来例3)。実施例3−1〜3と従来例3の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量及び72時間後の生成アルコール濃度を表3に示すとともに、図3に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例3−1〜3は、アルコール発酵微生物を実施例1−2〜4における酵母からザイモモナス属細菌に変更するとともに、その培地をYPD培地からRM培地に変更したものである。表3及び図3から明らかなように、白エゴマの種子の粉砕物を添加すると、添加量が多くなるに従って、ザイモモナス属細菌の発酵能は増強される。一方、実施例3−2に示す添加量が0.2%(w/v)と、実施例3−3に示す添加量が0.9%(w/v)の間における炭酸ガス発生量はほぼ同一である。また、従来例3の場合、72時間で発酵はほぼ終了するのに対して、白エゴマの種子の粉砕物を添加した実施例3−1〜3は、従来例3の約半分の36〜40時間で発酵はほぼ終了している。
【実施例4】
【0034】
グルコース濃度8.7%のYPD培地に、初発菌数4.0×106cells/mlのザイモバクター属細菌(Zymobacter palmae)と、それぞれ乾物重量として、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)の黒エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例4−1〜2)。
【0035】
[従来例4]
黒エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例4−1〜2と同一条件でアルコール発酵させた(従来例4)。実施例4−1〜2と従来例4の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量及び96時間後の生成アルコール濃度を表4に示すとともに、図4に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0036】
【表4】

【0037】
実施例4−1〜2は、実施例1−2,3におけるYPD培地のグルコース濃度を13%から8.7%に、アルコール発酵微生物を酵母からザイモバクター属細菌に、白エゴマを黒エゴマにそれぞれ変更したものである。表4及び図4から明らかなように、黒エゴマの種子の粉砕物を実施例4−1に示すように0.004%(w/v)、又実施例4−2に示すように0.2%(w/v)添加するとザイモバクター属細菌の発酵能が顕著に増強されることが判る。特に、実施例4−2に示す添加量が0.2%(w/v)の場合、発酵開始24時間時点における炭酸ガス発生量は3.7gであり、同時点における従来例4の炭酸ガス発生量0.8gを4.6倍以上も上回る炭酸ガスを発生している。また、従来例4が96時間を経過した時点で未だ発酵途中であるのに対して、実施例4−2に示すように添加量が0.2%(w/v)の場合は、48時間を経過した時点でほぼ発酵終了状態にあり、96時間時点の生成アルコール濃度も従来例4の2.2%(v/v)に対して、5.2%(v/v)という高い値が得られている。
【実施例5】
【0038】
オレンジ果汁培地に、初発菌数3.7×10cells/mlの酵母と、それぞれ乾物重量として、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)、0.9%(w/v)の白エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例5−1〜3)。
【0039】
[従来例5]
白エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例5−1〜3と同一条件でアルコール発酵させた(従来例5)。実施例5−1〜3と従来例5の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量及び144時間後の生成アルコール濃度を表5に示すとともに、図5に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0040】
【表5】

【0041】
実施例5−1〜3は、アルコール発酵を行う培地を実施例1−2〜4におけるYPD培地からオレンジ果汁培地に変更したものである。表5及び図5から明らかなように、白エゴマの種子の粉砕物を添加すると、添加量が多くなるに従って酵母の発酵能は顕著に増強されることが判る。即ち、添加量が0.004%(w/v)の場合は約72時間後から増強効果が現れるのに対して、実施例5−2に示す添加量が0.2%(w/v)の場合は約36時間後から、実施例5−3に示す添加量が0.9%(w/v)の場合は約24時間後から発酵能増強効果が現れている。また、添加量が0.2%(w/v)と0.9%(w/v)の場合は、従来例5の約半分の約72時間で発酵はほぼ終了している。
【実施例6】
【0042】
pHを5.5に調整したオレンジ果汁培地に、初発菌数1.1×10cells/mlのザイモモナス属細菌と、それぞれ乾物重量として、0.004%(w/v)、0.2%(w/v)、0.9%(w/v)の白エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃でアルコール発酵させた(実施例6−1〜3)。
【0043】
[従来例6]
白エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例6−1〜3と同一条件でアルコール発酵させた(従来例6)。実施例6−1〜3と従来例6の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量及び72時間後の生成アルコール濃度を表6に示すとともに、図6に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0044】
【表6】

【0045】
実施例6−1〜3は、実施例1−2〜4におけるアルコール発酵微生物を酵母からザイモモナス属細菌に変更するとともに、その培地をYPD培地からオレンジ果汁培地に変更したものである。表6及び図6から明らかなように、白エゴマの種子の粉砕物を添加すると、添加量が多くなるに従ってザイモモナス属細菌の発酵能は顕著に増強されることが判る。即ち、添加量が実施例6−1に示す0.004%(w/v)の場合は約24時間後から増強効果が現れるのに対して、実施例6−2に示す0.2%(w/v)の場合は約16時間後から、実施例6−3に示す0.9%(w/v)の場合は約12時間後から発酵能増強効果が現れている。しかも、実施例6−2に示す添加量が0.2%(w/v)の場合と、実施例6−3に示す添加量が0.9%(w/v)の場合は、ともに従来例6の約半分の36時間で発酵がほぼ終了している。
【実施例7】
【0046】
生コーングリッツ30%と市販のリゾプス起源のグルコアミラーゼ剤0.1%の水懸濁培地に、初発菌数3.5×10cells/mlの酵母と、乾物重量として、0.9%(w/v)の白エゴマの種子の粉砕物を添加して、加熱することなくそのまま発酵させるNCS培地で、28℃でアルコール発酵させた(実施例7)。
【0047】
[従来例7]
白エゴマの種子の粉砕物を添加しなかった以外は、実施例7と同一の原料を同一条件でアルコール発酵させた(従来例7)。実施例7と従来例7の24時間後と48時間後の炭酸ガス発生量、及び120時間後の生成アルコール濃度を表7に示すとともに、図7に炭酸ガス発生量と発酵時間の関係をグラフで示す。
【0048】
【表7】

【0049】
実施例7は、アルコール発酵を行う培地を実施例1−4におけるYPD培地から生コーングリッツを原料とするNCS培地に変更したものである。表7及び図7から明らかなように、白エゴマの種子の粉砕物を添加すると、酵母の発酵能は増強されることが判る。即ち、実施例7に示す添加量が0.9%(w/v)の場合は、24時間後の炭酸ガス発生量が11.1gと、従来例7の9.0gより約23%多く、120時間時点の生成アルコール濃度も13.5%(v/v)と従来例7の12.8%(v/v)を約5%上回っている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記に詳細に説明したように、本発明にかかるアルコール発酵方法によれば、エゴマの種子の粉砕物を添加してアルコール発酵を行うことにより、アルコール発酵微生物の最適発酵温度である28℃〜32℃の温度領域において、酵母などのアルコール発酵微生物の発酵能が増強されて活性が高まり、発酵速度を向上させることができる。そのため、発酵期間を短縮させることができ、設備利用効率や労働生産性が向上し、コストダウンを図ることができる。また、固定化微生物によるバイオリアクターの場合と異なり、特別な設備投資の必要性がないというメリットがあるとともに、設備利用の効率向上や地球温暖化対策として重要な炭酸ガスの削減にも寄与し得る。よって、本発明は省資源・省エネルギー化やコストダウンの必要性が叫ばれている燃料用アルコールの発酵に適用して特に有用である。
【0051】
また、本発明において微生物の発酵能力増強作用のある物質として使用されるエゴマの種子の粉砕物は、食品素材などとしても用いられている農産物であり、本発明によって得られたアルコールは、燃料用としてはもちろん飲料用としても利用可能である。また現在、工業規模で使用されている酵母,ザイモモナス属細菌,ザイモバクター属細菌などのアルコール発酵微生物をそのまま使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール発酵原料に、エゴマの種子の粉砕物を添加して28℃〜32℃の温度領域で発酵させることを特徴とするアルコール発酵方法。
【請求項2】
エゴマの種子の粉砕物のアルコール発酵原料に対する添加量を乾物重量として、0.0004%(w/v)以上添加する請求項1記載のアルコール発酵方法。
【請求項3】
エゴマの種子の粉砕物のアルコール発酵原料に対する添加量を乾物重量として、0.0004%(w/v)〜7.1%(w/v)添加する請求項1記載のアルコール発酵方法。
【請求項4】
エゴマの種子の粉砕物を添加して発酵させることにより、アルコール発酵微生物の発酵能を増強させて発酵速度を向上させる請求項1,2又は3記載のアルコール発酵方法。
【請求項5】
アルコール発酵微生物として、酵母,ザイモモナス属細菌、又はザイモバクター属細菌を使用する請求項1,2,3又は4記載のアルコール発酵方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に記載されたいずれかの方法で発酵させたことを特徴とするアルコール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate