説明

アルコール類の製造方法

【課題】
生産性よく、2級または3級炭素を持つアルコール類を高収率で得るアルコール類の製造方法を提供する。
【解決手段】
下記の化学式
【化1】


(式中、Rは、芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、2または3を表す。)
で表されるグリニャール試薬を、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒存在下中、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと反応させ、次いで生成物を加水分解するアルコール類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明で製造されるアルコール類は、農薬、医薬または電材ケミカル製品の中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
グリニャール試薬とアルデヒド類との反応によりアルコール類を製造する方法は一般的に知られている。例えば、ネオペンチルアルコールの製造方法としては様々な方法が知られている。例として、t−ブチルマグネシウムクロライドとホルムアルデヒドを、テトラヒドロフラン溶媒下、反応させて、ネオペンチルアルコールを製造する方法があるが、42〜50%と収率が低い(例えば、非特許文献1)。また、t−ブチルマグネシウムクロライドとパラポルムアルデヒドを、テトラヒドロフラン溶媒下、反応させてネオペンチルアルコールを製造する方法もあるが、大量の溶媒を用いなければならないという問題があった(例えば、非特許文献2)。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc . 2028,60巻 (1938)
【非特許文献2】Org. Process. Res. Dev. 825 9巻(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、生産性よく、2級または3級炭素を持つアルコール類を高収率で得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
下記の化学式
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Rは、芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、2または3を表す。)
で表されるグリニャール試薬を、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒存在下中、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと反応させ、次いで生成物を加水分解するアルコール類の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、生産性よく、2級または3級炭素を持つアルコール類を高収率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明において、グリニャール試薬とは、有機ハロゲン化物と金属マグネシウムを反応させて得られるもので、下記一般式
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは2または3を表す。)で表される。
【0012】
本発明において、有機ハロゲン化物としては、t−ブチルクロライド、t−ブチルブロマイド、t−ブチルヨーダイド、i−プロピルクロライド、i−プロピルブロマイド、i−プロピルヨーダイド、1,1−ジメチルプロピルクロライド、1,1−ジメチルプロピルブロマイド、1,1−ジメチルプロピルヨーダイド、3−クロロ−3−メチルペンタン、3−ブロモ−3−メチルペンタン、3−ヨード−3−メチルペンタン、3−クロロ−3−メチルヘキサン、3−ブロモ−3−メチルヘキサン、3−ヨード−3−メチルヘキサン、3−クロロ−3−エチルペンタン、3−ブロモ−3−エチルペンタン、3−ヨード−3−エチルペンタン、3−クロロ−3−エチルヘキサン、3−ブロモ−3−エチルヘキサン、3−ヨード−3−エチルヘキサン、4−クロロ−4−プロピルヘプタン、4−ブロモ−4−プロピルヘプタン、4−ヨード−4−プロピルヘプタン、4−クロロ−1−ペンテン、4−ブロモ−1−ペンテン、4‐ヨード−1−ペンテン、5−クロロ−1−ヘキセン、5−ブロモ−1−ヘキセン、5−ヨード−1−ヘキセン、1−クロロエチルベンゼン、1−ブロモエチルベンゼン、1−ヨードエチルベンゼン、2−(1−クロロエチル)ナフタレン、2−(1−ブロモエチル)ナフタレン、2−(1−ヨードエチル)ナフタレンである。
【0013】
本発明において、グリニャール試薬のRは、芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。本発明において、グリニャール試薬のRは、より好ましくは、メチル基である。
【0014】
本発明において、グリニャール試薬のXは、ハロゲン原子を表し、好ましくは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、より好ましくは、臭素原子または塩素原子である。
【0015】
本発明において、グリニャール試薬のnは、2または3を表し、好ましくは、3である。
【0016】
本発明において、グリニャール試薬は、さらに好ましくは、下記一般式
【0017】
【化3】

【0018】
で表されるグリニャール試薬である。
【0019】
本発明では、反応溶媒は、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒を使用する。
【0020】
脂肪族エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジシクロペンチルエーテル、ジシクロヘキシルエーテルなどが挙げられ、なかでも、テトラヒドロフランが好ましい。
【0021】
使用する脂肪族エーテルの量は、グリニャール試薬に対して2.0〜10.0倍量(重量)であり、より好ましくは2.0〜5.0倍量(重量)である。
【0022】
芳香族有機溶媒は、芳香族エーテルまたは芳香族炭化水素であることが好ましい。
【0023】
芳香族エーテルとしては、アニソール、エトキシベンゼン、ジメトキシベンゼンなどが挙げられ、特にアニソールが好ましい。
【0024】
芳香族炭化水素としてはキシレン、エチルベンゼン、クメン、シメン、メシチレンなどが挙げられる。なかでも芳香族炭化水素のメシチレンが好ましい。
【0025】
使用する芳香族有機溶媒の量は、グリニャール試薬に対して0.2〜10.0倍量(重量)であり、より好ましくは、0.2〜4.0倍量(重量)である。
【0026】
脂肪族エーテルと、芳香族有機溶媒の混合割合は、好ましくは脂肪族エーテル/芳香族有機溶媒=15/85〜98/2であり、より好ましくは35/65〜96/4である。
【0027】
本発明では、グリニャール試薬を、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒存在下中、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと反応させる。
【0028】
本反応で使用するパラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド使用量は、グリニャール試薬1モルに対して、好ましくは、1〜5モル倍、より好ましくは1〜1.5モル倍の割合である。
【0029】
グリニャール試薬とパラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドとの反応方法は、グリニャール試薬を滴下しても良いし、パラホルムアルデヒドを滴下しても良い。また、パラホルムアルデヒドを溶媒でスラリー化し滴下してもかまわない。
【0030】
グリニャール試薬とパラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドとの反応温度は、好ましくは、20〜100℃であり、より好ましくは、40〜60℃であり、反応時間は、好ましくは、1〜12時間であり、より好ましくは、5〜10時間である。
【0031】
なお、本反応は、反応系に水分が存在すると、グリニャール試薬と水が反応し、収率低下を招いてしまうので、窒素などの不活性雰囲気で行うことが望ましい。
【0032】
本発明では、グリニャール試薬を、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒存在下中、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと反応させ、次いで生成物を酸性水溶液により加水分解させる。酸性水溶液は塩酸等の鉱酸や塩化アンモニウム等の水溶液が好ましく使用される。生成したアルコールは溶媒抽出等の分離手段により反応液から分離され、必要であれば、蒸留等の手段で精製する。
【0033】
実施例1
以下、実施例と比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
攪拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mlのフラスコ中に金属マグネシウム26.2g(1.08モル)、テトラヒドロフラン233.6gを仕込み、窒素雰囲気下、滴下ロートよりt−ブチルクロライド100.0g(1.08モル)を内温40〜45℃で滴下する。滴下後、内温50〜55℃にてマグネシウムが消失するまで撹拌し、t−ブチルマグネシウムクロライドを得た。
【0035】
次に、攪拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた1000mlのフラスコ中に95%パラホルムアルデヒド(PFA)32.1g(純分1.08モル)とメシチレン32.1gとテトラヒドロフラン64.2gを仕込み、内温45〜50℃で先に得られたt−ブチルマグネシウムクロライドを全量滴下した。滴下後、内温45〜50℃で4時間撹拌させ反応を完結させた。反応終了後、内温が30℃を超えないように15%塩酸を滴下し、加水分解させ、分液ロートに移液し、油層を得た。この油層を分析し、反応収率を算出すると、収率81.4%であった。
【0036】
次にこの油層を減圧蒸留することで、71〜73℃/150Torrの留分として無色透明のネオペンチルアルコール58.6g(純度98%)を得た。
【0037】
この無色透明液体の構造は1H−NMRとIRにて同定した。
【0038】
1H−NMR(CDCl):3.3(2H)、2.1(1H)、0.9(9H)
IR:3350cm-1、2950cm-1、2860cm-1
【0039】
実施例2
実施例1と同様の装置を用い、メシチレンをトルエン32.1gに代えて、表1に示す条件で反応を行った。結果は表1に示す。
【0040】
実施例3
実施例1と同様の装置を用い、メシチレンをアニソール32.1gに代えて、表1に示す条件で反応を行った。結果は表1に示す。
【0041】
比較例1
実施例1と同様の装置を用い、芳香族有機溶媒を使用せず、表1に示す条件で反応を行った。結果は表1に示す。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式
【化1】

(式中、Rは、芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、2または3を表す。)
で表されるグリニャール試薬を、脂肪族エーテルおよび芳香族有機溶媒の混合溶媒存在下中、パラホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドと反応させ、次いで生成物を加水分解するアルコール類の製造方法。
【請求項2】
芳香族有機溶媒が、芳香族エーテルまたは芳香族炭化水素である請求項1に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項3】
アルコール類が、
【化2】

(式中、Rは、芳香族残基または脂肪族残基または不飽和脂肪族基を表し、Xは、ハロゲン原子を表し、nは、2または3を表す。)
請求項1または2に記載のアルコール類の製造方法。

【公開番号】特開2010−1222(P2010−1222A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158864(P2008−158864)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】